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漆黒の双頭“TGS”第5話:魅惑の療法士・後編

/漆黒の双頭“TGS”第5話:魅惑の療法士・後編

作者……リング
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第4節 

「……男に口づけする趣味は無いんだがなぁ。いや、ダンジョンで救助隊の仕事やっていた頃は日常茶飯事だったか。あの頃が懐かしい……
 あぁ、レアスさえいなければ……今頃バリバリ働いていたし、ヒューイにギルドを預けることなく毎日妻とイチャイチャ出来たのに……全く」
 俺は愚痴を呟きながら倒れたフライを抱き起こして、口に含んだオレンの実をフライの口に含ませる。体力を回復させる木の実として汎用性の高いこの木の実を口にすれば、とりあえずは衰弱した体にも活力は戻るだろう。
 嗜好性の高いグミと呼ばれる食料品に手をつけるのは、味を楽しむ面から考えても起きてからの方がいいとも考えたのだ。
 ぐったりとしたフライを抱えたまま、レイザーは宿を訪ね、その身を落ち着けた。
「……起きたか。気分はイイかい?」
 今まで木で出来た粗末な床に固いベッドを置いただけのベッドで行為を行い、眠る時は土の床だったフライにとっては、これが初めて柔らかすぎるほど柔らかいベッドの上での目覚めだ。

「僕に……何をする気ですか……また、今度はここで貴方の相手をすればいいのですか?」
 フライ明らかに恐怖は感じている。だが、覚悟を決めるのは早い様で、フライは俺との性交を行うことを拒もうとしなかった。……性交をするとは一度も言っていないのだが……まぁ、いいか
 そんな癖が染みついているというか、染みつかされたというのは非常に悲しいことだ
「ふん……もうそんな事を考える必要なんてないさ。何をする気かどうか、あえて言うなら……まずは、お前にこれを食べて欲しい……かな」
 レイザーはそっと荷物の中に忍ばせておいたグミを差し出した。グミとは自身のタイプごとに好みが違い、タイプに象徴された色のグミを食べると、なんとも幸福な気分になれるほど優れた味をかもし出す効果がある。
 たとえば、シリアは黒が好物であったようにフライは白である。
 俺はご丁寧に、どんな者でも接待出来るように全種類のグミを持ち歩いている。ノーマルタイプである彼が好むの白いグミと、他の数種類のグミを油紙に包んで差し出した。
「さ、お返しなんぞ考えなくってもいいから、とにかく召し上がれ」
 なるべく安心させるように、笑顔になって俺はフライを見る。
「……騙されないぞ」
 フライは、その包まれた油紙から、そうされたと分からないほど鮮やかにグミだけをすりぬき、耳を振り上げレイザーの顎先を殴りつける。そして、踵を掲げるようにしてから振り下ろす攻撃。つまりはネリ・チョギ(かかとおとし)だ。
 耳による一撃――ピヨピヨパンチで眼前に星が散っていたレイザーは見事に脳天をたたき割られ、景色は一瞬の暗転。
 ベッドにうずまった顔を上げる頃には、フライの姿を路地裏へと消える所を見送るしかできなかった。枷という戒めを外されたフライは、殊の外強かった。
 油断していたとはいえ、大したもんだ。
「いたたたた……さぁて、どうするべきかあのミミロップ? まだ自己紹介もしてないって言うのに……盗んで逃げるとは手荒いお礼だよ」
 さて、諦めが悪いのはお前だけじゃない。街へ出て、何処かへ消えていったフライを探そう。。


 そうして、何日も追跡しては話しかけ、逃げられては監視する。そう言ったことを繰り返していく内に、お互いがお互いの行動を段々と好きになっていく。
 フライは俺から何回も盗みを働いたが、それを独り占めすることなく、一人でグミなどを食べていては、物欲しそうな目で見られては渋々ながらも分け与える。
 土地を持っているとかで草を独占している者をとび蹴りで伸して草を盗んだり、スリや強盗、売春など、とにかく逞しい。行っている犯罪行為は……どれも褒められた事じゃないけれど、そう言う事しか知らないのだから仕方ない。
 それに、どうせモモン毒のポケモンなんて雇ってくれる店は無い。俺が、モモン毒になるように仕掛けたとはいえ、普通だったら辛い状況だろう。だが、あいつは性病に侵された体でも、その美貌ゆえか客を取り、日銭を得ては、食糧を購入して食んでいる。今となっては、メロメロボディも手加減をしているらしく、きちんと女性の客も取っている。

 普通だったらは三日もたたずに死ぬと思うような少年が、予想の範疇を大きく超えて生きる力にあふれていた。なんせ、俺が覗いている限りでは、フライが目覚めている力は少なくとも4つあった。どんなものにもへこたれない根性。スリや強盗の仕方を真似する技量。これらはまぎれもなく目覚めているからこそなせる技であった。
 しかし、生き残ることが出来た功績は俺が強引にフライを羽交い絞めにして聞かせた生き残る方法を、忠実に実行したものでもあり、フライだけの功績では無い。だからなのか、対するフライも俺のことを気にかけていた。俺は何度蹴り飛ばされようとも、フライへ多くの食料を運んできてくれたりとか、行動が不可解な事も原因の一端を担っているのだろう。

 腰を据えて話す切っ掛けが出来たのはフライがとび蹴りで黙らせたつもりのポケモンが起き上がってきて、後ろから襲われて殺されかけた場面だった。そこで、俺が身を呈してかばったおかげで、ついにフライは折れてくれた。
「お前……何のために俺に付きまとうんだよ……」
 疑問に耐え切れなくなって、フライは訪ねる。最近になってからは、俺に付きまとわれて悪い気はせず、むしろ突っぱねるよりかはずっと話す機会をうかがっていたようで、怪訝な顔をしながらもどこか嬉しそうにしている。
「ん~~……それを話す前にさ、まずはお前って呼び合うの止めないか? 俺は、レイザーって言うんだ。お前の名前は?」
 この頃には、貧民街の子供と交わっていくうちにフライの口調も少しづつ変わっていた。一人称が『俺』のフライの方が、俺としては男らしくて気に入っている。
「フライ……」
 フライが名乗った時の素直になれない表情を見て俺は、幼さの残る表情に笑顔をこぼす。まだ、あどけない少年じゃないか。
「そうかい……じゃあ、フライの質問に答えようか。俺が付きまとう理由は……お前に才能を感じたからだ。分かるかい? 『才能』だ……誰に対しても容赦なく攻撃できるし、根性あるし、何より思い切りがいい。……イイ逸材だ」
「分からないよ……それがなんだって言うんだよ……それで俺をどうしたいって言うんだ?」
 レイザーはゆっくりと右カマを地面に置き、左カマは胸に当て片膝を付いて跪く。
「お前を、仲間にしたい」
 慇懃無礼と言えばそうかもしれない、わざとらしいほどの礼儀正しさで俺は頭を下げる。それこそ、フライが客を取るときよりも礼儀正しい。フライは明らかにそうと分かるほど戸惑っていた。

「なんだって言うんだよ……お前らの仲間になって、俺が何を得するって言うんだよ……」
 レイザーは顔を上げ、濁りのない瞳でフライを眺める。
「何でも……さ。神様の仲間入り……とかな」
「神……? ブイズでもカクレオンでもない俺に神の仲間入りだなんて……」
「出来るわけ無いってか? 出来るんだよ」
 いぶかしげに反論するフライの言葉を、俺は無表情な声で遮り、詰め寄った。

「……世界を作るのが神様ならば……この世界の誰しもが神である……俺も、お前も神だってな。そう言う考え方があるんだよ、世界にはね」
「そんなの……嘘だ」
 言葉とは裏腹に、フライは心から否定することが出来ない。まぁ、後ひと押しだろうな。
「どうかな? 例えば、その病気は神に見放された者の病気……そうだろう?」
 ここでは、モモン毒はそう言う風に呼ばれている。まぁ、不治の病とされている段階ではそう呼ばれるのも無理はない。醜いミミズ腫れが浮き上がって、それが治る見込みがないとなれば、天を恨む理由には十分だ。
「だが、その病気を治せるものがいたら、それは神様ってことになる考えは……あまりにも簡単過ぎるかな? 治せる奴がいるんだよ……一人な」
「治せるの……?」
「あぁ、でも今は信用しなくてもイイ……俺の仲間になるかどうかについても、その病気が治った後になって断ってくれようともかまわない。お前をこっち側に誘うことそのものに意義があるものでな……」

 ◇

 もう神に愛されたいだなんて、自分は願っちゃいけない。そんな風に思っていた俺にこの言葉。レイザーに誘惑される……が、それは過去に体験した最も嫌な記憶ともリンクする。
「どうする? あまりお前に構ってばかりもいられない。ダメなら他をあたる……」
 キュウコンの……エリーの記憶が憎かった。伸ばされたカマを取りたいのに、とれないなんて何なんだよ。くそう、世の中の俺を騙す奴なんて、みんな消えちまえ――などと、俺の心の中での恨み節は際限がない。
 迷いは、募る。
「でも、その前にいろいろ考えてくれるかな……? お前にとって都合がイイのは、どっちの選択肢か……」
 俺の決心が揺らいでいる内に、レイザーは俺を抱きしめる。
「お前が今生きている価値はなんだ? お前は今、何が楽しくて生きている? 自分自身に尋ねてみろ。誰に付いて行けば、お前の満足する答えが得られるか……それは、少なくとも一人で歩いて手に入るものじゃない。なればこそ……俺に付いてこい。今みたいにただ生きているだけじゃない……考えて生きるって言うのは楽しいぞ、イイ気分だ」
 すごく、暖かかった。寒い日に体を寄せ合って寒さをしのいだ記憶が読みがえる。
「う……だま……され……ない…ぞ」
 俺の中の、エリーに騙された苦い記憶がやっとの事で、レイザーに反発した。反対にそれでも信じたいんだ――と、言う声は心の中で五月蠅い。
「仕方ない……」
 レイザーは腕を離す。
「もう、話すことはないんだ。これで信じてもらえないならば、もう無理だ。じゃあな、元気に生きろよ?」
 そして、背を向け歩き出す姿を見せてレイザーはゆっくりと去ろうとした。……俺は、どうすれば。

 ◇

「いや、待ってください……」
 如何にも上手い話を並べ立て、答えを渋れば突き放すことで考える時間を与えない。そうして誘いに乗らせる。
 それに、抱き締められた時の心地よさは今までにないものだった。だから、もう一度抱きしめられたい――と言う衝動だけでも、フライを動かすには十分だ。そしてそれ以上にその先にある、不治の病が治癒するという誘惑。
 あまりに単純だが、今まで何かを交渉した経験のないフライには十分すぎる揺さぶりだったのだろう。俺は、フライの心を動かすことに成功した。
「イイだろう……こっちに来い。まずは、うまいもの食わせてやる……何がいい?」
「お腹いっぱい……最初にもらった変なプヨプヨした食べ物の……白い奴を食べたい」
 フライの言葉が意味するのは、白いグミという食糧だ。盗んで食べた物でもきちんと気に入っていたんだな――なんて考えるとたまらなく可愛らしくて、思わず俺はくすくすと笑ってしまった。
「……店に行く必要ないじゃないか」
 白いグミ。体の宿るノーマルの波導が欲する味のするグミを、俺は差し出した。
 これが、4つの力に目覚めながら、ゆっくりとだが確実に訪れる死を前にした少年が、命を長らえる経緯。

第5節 

「あ~…………アサ~、生きてる~~?」
 俺は死んでいる訳ではない。ものすごい匂いを出しながら血を流していた。そろそろ、こちらの世界へ訪れて1ヶ月にさしかかろうという時に、女の子の日がやってきたという所だ。
「生きてるに決まっているだろうに……」
 キールの問いかけに、うんざりとした陰鬱な気分を崩すことなく俺は答える。
「で、でも……それ大丈夫なの? 僕としては……その……なんというかやばい病気に……」
「お前はシリアっていう妹がいるんだろうに……俺のこれは、ただの月経痛だ、それくらいわかれよ」
 繰り返す。俺は死んでいる訳ではない。ものすごい雌の匂いを出しながら、下半身から血を流していた。
「いや、その……うん。母さんも月経っていうか年経だけれど普通にあったし、シリアももちろん君みたいに雌の匂いを振りまいて月経を迎えることはあったよ……あったけれどね……君のは何?
 頭痛及び、吐き気に眩暈、倦怠感にイライラ……見た目からして手足がむくんでいるし、さっきから自分の胸を気にして……胸ってかその……おっぱいが痛いんでしょ?
 まぁ、なんというか……結論から言うと、僕の角が感じるに、無茶苦茶不快だよね? シリアは……悪タイプだから感情が分からなかったけれど……君のは母さんの不快感と比べた限りでは酷過ぎるんだけれど……同じ部屋に居たくないくらい」
 感情があるわけだから、生きているのは当たり前だという、冒頭の『生きてる?』と言う問いかけへの突っ込みはさておき、俺の月経痛はキールが言う通りでかなり強い。
 それこそ、見ていて哀れなほどに。
「ケーシィみたいに……男女で出生比に差がある種族は、少数派に性的な不調の症状がでやすいんだよ……たとえばイーブイとか、アチャモとか……」
 微かに、キールの口から舌うちの音が聞こえた。そこまで角に負担がかかっているのかと思うと、俺は急にキールへの自分の印象が不安になる。後になって分かったことで、実際のところキールは『イーブイ』という種族名を聞いて不快な気分になったのだが、そのタイミングまで計れるほど、俺の意識は鮮明では無かった。

「わかった……悪かった。とりあえず、医者に行ってくる……薬飲むだけでも少しは変わるだろ……」 
「あぁ、それなら……いつも仕事一緒なんだから、今日はフリックも休みなんでしょ? フリックならただで薬作ってくれると思うよ」
「フリック……?」
 あの、エロ兎のことか――と、俺は考える。最近いつも仕事に同行させてもらっているあのエロ兎は、確かに傷を縫ったり包帯を巻いたりするのは上手いが、治療の最中に何かとアサのことを抱いてきてメロメロボディの匂いをこれ見よがしに嗅がせてくるのだ。
 しかも、それは(あくまで俺の見える範囲だが)恋人に対してより遥かに回数が多い。リムルとフリックの二人きりの時間は知らないとはいえ、あんまりである。
「フリック……いい奴だけれど、あいつと二人きりになったら俺襲われないか? なんというか……俺の理性を破壊させようと必死になっている気がするんだが……フリックは……いい男だけれど……処女はまだ……やれない」
 キールは笑いを必死にこらえていた。口に手を当てているが、そもそも髪の毛に隠れた口を隠す必要はない気がする。
「だ~いじょ~うぶ。フリックは恋人に対して一途で、君に対してそうやって誘惑するのはからかっているだけなのさ。
 だいたい、フリックにはね……君とは肉体関係を持てない理由があるんだ……。まあ、それはフリックが話したい気分になったら聞いてみなよ。
 多分、フリックなら笑って答えてくれるだろうからさ……」
 何やら、キールは神妙な表情をいしていた。肉体関係を持てない理由とは恋人が死んだとか、そう言う哀しい理由でもあるのだろうか? しかしそう言う理由なら、笑って答えるというのはおかしい。……実際に聞いた方が早いか。

「ん、わかった……」
「とりあえず……僕がフリックの家まで送っていってあげようか?」
 キールは俺に近づくと、自身の角をさすり始める。
「いや……角に負担がかかっているみたいだし……いいよ。その気持ちだけでもうれしいから……一人で行く」
 俺は、キールのそんな仕草を見ても好意に甘えられるほどアサも無神経では無い。と、言う訳で流石に下半身から血を流している姿をられるのも何なので、それとなく服を着て隠しつつ、アサはフリックの家まで向かっていった。

 ◇

 俺様はその大きな耳の裏側に仕込んでいた馬櫛を駆使して耳の体毛を繕いつつ、枯れたアサガオの花を見る。
「美しい花もいつかは枯れて散るってやつか……俺様もそんなもんなのかねぇ」
 暗に自分を美しい花と喩えている時点で少々ナルシスト気味かと疑われるセリフを感慨深くつぶやいた。まぁ、俺様ナルシストかどうかと尋ねられれば否定は出来ないって奴だが。
 俺様の使う馬櫛には剃刀が仕込まれており櫛を二つに切り離すと刃が出てくる構造になっている。ただけ並の手入れをするだけでは飽き足らない時、その刃を使って眉毛の手入れを行うためにある。やはり、身だしなみには常に注意を払うべきって奴だ。

 さて、身だしなみもそこそこにアサガオだ。枯れてすっかり茶色掛り、乾燥した子房を摘み取るとその中に包み込まれている次世代への遺産――種を手のひらに乗せる。命が封じ込められているとは言うが、たいした重みも温かみもない半月型の真っ黒なその種からかすかに感じるのは、ざらざらとした感触だけで、いかにも頼りない。
 俺様はその中でも生きる力に満ち溢れていそうな種と、そうでない種を、極めていい加減な基準ではあるが、勘で選んで淘汰する。

 淘汰されたその種を、放物線上の磁器の上に、取っ手の付いた円盤がのっけられた器具――薬研(やげん)の上にねかせ、そしてゴリゴリと鈍い音をたてながらその種を挽いていった。
「フリック、今日は暇か?」
 そんなとき不意に玄関口から聞こえたのは、女性が無理やり男の声を出そうとしているような少年の演技をするときには役立ちそうな声。
「その声はアサ様か。いいぜ、入れよ」
 運び屋として俺様たちの仲間になったアサ……か。今日は何の用だろうな?

 ◇

「ん、ありがとう」
 相も変わらず香りが魔性のもので部屋に入ると同時に頭がくらくらしているのだろうか、俺は頭に手を当ててプルプルと水気を振り払うように頭を振るわせ意識を保つ。頭痛がだというのにそんな動作をしたので、頭ががんがんと響いて軽く後悔する。
 フリックがいつも醸し出しているこの香りは、技としてのメロメロには一歩及ばない程度の香りだが、やはり密閉されている室内での効果は大きい。
 しかも、性質が悪いことにこの香りは、特性として意識して出しているようなメロメロボディではなく、意識しないでも出してしまう、喰いカスのようなものであるというのが本人の弁。
 それでも、現に効果のある香り強さだから、本当に性質が悪い。それだけに、リムル以外でこうして普通に接する事ができるのは、種族柄なのか精神力の強い俺だけかもしれない。
 いくら精神力が高いとは言え、チームを組んでしばらく経つのに相変わらず匂いに慣れない自分に苦笑しながら俺、はフリックが先ほど行っていたであろう作業を見る。どうやら薬を作っているようだ。

「ところでアサ様、今日はどうした? やはり俺様の匂いが恋しく……」
 フリックは性懲りもなく、耳元に近づいてからのこのセリフ。俺がそんな事が目的で来るわけ無いだろうにこん畜生と、乱暴な言葉遣いが出そうになるが、余計に頭痛が酷くなりそうなのでやめておこう。
「違うってば……」
 あまりにもおどけた態度のフリックの質問のおかげで、俺はきっぱりと否定できる。もし、フリックが俺に対して真剣に目を合わせて言ったとすれば、きっぱりと否定するのは難しかったかもしれないが。
 おふざけ好きなフリックとはいえ、そこまでのおふざけは自重しているのか、キールの言っているから買っているだけという言葉はあながち間違いではないのだろう。
「なるほど……恋しいのはこっちか。目を閉じて」
 と、思った矢先に何か嫌な予感のする要求を突き付けられた。眼を閉じるとは、いわゆるキスをするという事であろうか。
「なんだ、目を開けているとは悪い子だ……」
 触手のように自在に動く耳で目を塞がれる。抵抗しようと思えばできたのに、突然強くなったメロメロボディの香りがそれを許さず……抱きしめられたフリックに、俺の体は口から下半身に至るまでくまなく匂いを嗅がれて……って!!
「何やっているんだぁ!!」
 正気に戻って思わずぶん殴って見たはいいものの、岩をぶん殴ったような硬い感触がして拳を痛めてしまった。殴られたはずのフリックが何故かヘラヘラとしていて、それが何とも言えない不快感を生み出す。このイライラは生理中だから……と言う事にしておこう、ガマンガマン。
「ああ、なるほど……このむせ返るような雌の香……うん、月経痛って奴だな? それでお前、普段着ないスカートなんてはいているのか」
「いや、まぁそういう事……」
 少しニヤつくフリックを見て、俺はやはりここに来たのは間違いだったか?――などと考え出してしまう。とはいえ、さっきの匂いを嗅いだのは診断のためのようだったし、一応治療する気はあるのかもしれない。
 ただし、まともに治療する気があるかと聞けば微妙な所かもしれないが。診察に至るまでが色々と間違っている気がするし、臭いを嗅ぐにしたってもう少しやり方があるだろうに。

「……ってぇことは、アサ様の発情期はすでに終わっていたのか……残念だな」
 しれっとフリックが言う様に、俺は頭痛が酷くなるのを感じた。と、言うよりは別の種類の頭痛が加わったと言うべきか。
「俺は、終わっていて、とても、嬉しいぞ、フリック!」
 先程のようなやんわりとした否定ではなく、今度は力強い否定をする。こう言った動作がフリックに笑われる原因となっているのが分かっていても無視できないのは、俺の精神が未熟なのか。
「はは、慌てちゃって……ツンデレってやつか? 俺様はアサ様を誘惑して、そのまま骨抜きにしてやってもいいんだぜ?」
「骨抜き!? あり得ないから」
 俺が否定してみるも、フリックはニヤニヤ笑うだけで否定も肯定もしない。信じようが信じまいが勝手だと言っているようだ。
「そっか。アサ様にはキール様がいるから……な。骨抜きになんてなってられないと。お前ら仲いいもんな?」
 そうして、俺のセリフに付け加えるようにフリックは言った。言い終わった後の笑みは何ともいやらしく、俺はヒゲどころか尻尾が逆立つくらいの気恥かしさを覚えた。高ぶった感情は手元に握られているスプーンにも表れ、金属のスプーンは紐のようにねじれている。

「うぐぐ……」
 と何も言い返せずにいるのは極まりが悪い。とにかく話題を変えなければ、この場にいられる気がしない。
「時にフリック……お前、何をやっていたんだ? 薬を作っていたようだけれど」
 薬研を見てフリックへ尋ねた。種を潰していたのは分かるのだが、明かりをつけていないのもあってなんの種だか分からない。
「ああ、あれか……あれはアサガオの種ってやつだ。粉末にして飲めば薬になるから……」
「なるほど、そういうこと……」
 納得したように俺は頷いて、スプーンを元の形に戻して指の上でくるりと回した。
「しかし……フリックはどうしてこのアサガオを育てているんだ。やっぱり好きな花なのか?」
 そんな質問が来る事はフリックにとっては予想外だったのか、フリックは指を下顎に当てて考え始めた。いつも何も考えていないような性格だと思ったが、こういう動作も出来るらしい。
「確かに、今は好きな花だからって理由がほとんどだな。でも、昔は違かったって奴だ。アサガオには下剤や利尿剤としての効果があってね、昔暮らしていたところでは、悪いものを出せば病気は治るっていう迷信があったって奴だ。
 ……それで、病気になるとこの粉末を飲まされたって奴だ。あっちじゃわざわざ栽培しなくても雑草として普通に生えているからなぁ……だから、貧乏な奴でも普通に呑めるって奴でね」
 俺は詳しく分からないフリックの過去だが、当の本人はそれを懐かしそうに語る。
「ふぅん……」
「でも、普通に薬としても使えるし……乾燥させた葉っぱもお茶にして飲めるんだぜ? だから、こうやって育てている……俺様の医者を開業出来るくらいの知識も……『病気になったらこれをひたすら飲む』ってのが間違いだって教えられたところから始まるんだ。
 だからこれは、俺様の原点って奴でね、そう言う意味でもアサガオは好きな花って奴さ……さて、と」
 フリックは床に手をついて立ち上がる。
「月経痛だったな? とりあえず……ちょっくら薬を調合しているから、そこで眠っているといいってやつだ。俺様、寝る時には座ったまま寝るから寝具は使っていないけれど……あそこら辺ならば俺様の香もたっぷりしみ込んでいることだし、お勧めって奴だぞ」
「ん……いや、今さっき起きて来たばかりで、全然眠くないんだが……」
 とりあえず俺様の香り云々という件は無視して、俺は答えた。
「ふむぅ……眠くないか。しょうがない……アサ様……閉鎖空間×(かける)俺様の最大限の香り(プラス)女性(イコール)……な~んだ?」
 フリックは俺の腕につかみ掛かり、その手に握られてスプーンを耳で弾き飛ばして抵抗の手段を封じる。
「ちょ、離せこのエロウサギ!!」
 そういって食って掛かるものの、スプーン無しでは攻撃も防御も如何ともしがたいアサは、結局なすすべなく床に押し付けられた。
「答えは、人形が一体って奴でな……。俺様、ちょっとばかし普通のミミロップよりもメロメロボディが強力だから……本気を出すと異性を気絶させられるって奴だ。よく眠れるぞ?」
 意地悪そうな笑みを浮かべて、フリックは言う。この男、貞操を奪おうと言う気はキール曰くないそうだが、そんなことは信用できない。
 それに人形にされると言うのがなんとも恐ろしい。

「ふっざけるなぁぁ!! 離せ……離せこのっ……はうぅぅ……」
 恐ろしいから、なんとか抵抗しようともがきながらアサは叫ぶうちに呼吸をしてしまった。『閉鎖空間×(かける)俺様の最大限の香り×長時間(プラス)女性(イコール)』攻撃をまともにその身に受けたわけである。
 その後の俺は人形と見まがうばかりのメロメロ状態となって、その後3分どんな問いかけにも反応出来なかった。

第6節(やおい注意) 

 はぅ……頭がくらくらする――と、アサが重い体を起こしてみると、そこには完成した薬を傍らに置いて、お茶を入れているフリック……がいれば、どんなに嬉しかったことか。
「あ、ようアサ様……お目覚めの気分はどうだい?」
「最悪……っておい?」
 フリックの声がした方向を振り返ってみるとキールがフリックの体を背もたれ代わりに座っており、その耳を弄られている。
「あ、アサァ……フリックが言うにはね。これが朝用の薬を作る方法なんだって……いやぁ、知らなかったなぁ」
 キールはそう言ってフリックの左耳を口に含み、唇で愛撫する。
「いいぜ、キール様。これでもっともっと……質のいい薬が出来るって奴だ」
 俺はあいた口をふさぐこともなく、目の前で繰り広げられるやまなしおちなしいみなし。通称やおいな光景に思わずスプーンが捩じ切れるほど意識を集中する。
 カチャンと落ちたスプーンの音も気にならず、生まれてから体験したすべてのことを記憶するとい会われるその驚異的な記憶力を毛の一本一本や唾液の泡、濡れた耳を伝う唾液の筋に至るまで、すべて記憶せんと意識を集中した。
「ふふ、俺様特性の薬だからなぁ……」
 『いや、それはないだろ』などと、普段の俺ならば言っていた可能性もあるが、この状況にいたっては突っ込みを入れる気力もない。
「さぁ、製薬を続けようって奴だな……キール様」
 甘いセリフがアサの脳を貫くと同時に、ようやくフリックの匂いが届き、鼻腔からまるまる大脳新皮質を貫いて恥も外聞も麻痺させる。
 キールの雄らしい匂いも混じり始めてはさらにそれが顕著になって、思わず四つん這いになりながら息遣いが聞こえる位置まで無意識のうちに近寄ってしまった。
「ふふ、アサ様もこれから同じ症状になった時のためによぉく覚えておけよな?」
 耳をキールに愛撫させたまま、フリックはキールの右手に正座の姿勢になり、股間の昂ぶったそれを抑えようとすることもなくキールの体を倒し膝枕をする。

「そうだよ、アサァ……今度は君と一緒に薬を作りたいのさ。あぅ……フリックゥ……ちょっと変なのが当たっているのさ」
 俺はヒゲと尻尾が完璧に立ちあがり、思わず鼻血を滴らせるが、それに気づいても拭うことなく二人を見る。

「それで問題ないって奴だぜキール様。首のツボを刺激するのにちょうどいいから」
 鼻血は勢いを増すばかりで、止まる気配を見せてはくれない。精神力を強く保て……よく分からないが、見逃したら一生損する――と、何やらすでに腐女子的思考に染まっている俺に、二人の追いうちは止まらない。
「ああ、ほんとだ。首のマッサージになるのさ……気持ちいいのさ」
 ボススゴドラがルカリオの気合玉を急所に当てられたかのような衝撃。鼻を通って口に到達した血が、キールのセリフを引き金として俺の口から咳と一緒に放たれた。
 その見た目はさながら吐血だが、それが原因で二人の行為を中断させるにはあまりに惜しい。
「き、気にするな」
 中断させないためにも俺が言うが早いか、フリックはキールの首を左腕で起こして、キールの口に中指をつっこんでしゃぶらせる。自分の上半身はわずかに後ろ側に傾けて、遊んでいる舌はキルリア特有の扇形の角に這わせた。
「ん……フリックってば、さっきの御返し? 律儀なのさぁ」
「ふふ……キール様のためならば、律儀以上のことだってやってやるって奴だぜ? 例えばこんな風に……」
 指を舌で押し出して、甘えるような口調でキールが問えば、フリックはそれ以上もやるといって、抱きあげた後に、口元を隠す髪を払いのけて口付けした。
 突然口をふさがれたキールはウッ……と唸り、鼻息で前髪がなびく。フリックが口づけしたその時のキールの表情は、子供みたいに驚いていてたまらなく可愛らしい。
「どうだ? いい薬も出来そうな気がしてきたって奴だろう?」
 むしろ薬どころかいけない病気になりそうという気がするが、そんなことは気にしてはいられない。
 フリックがキールの首を持ち上げている間中、存在を自己主張していたそれに、再びキールの首が置かれた。
「ああ、やっぱり首が気持ちいいのさ。勃つ力がちょうどいい刺激になるんだね……アサも後でやってもらいなよ……」
「え、遠慮して置く……」
 アサの鼻腔からは鼻血が再びあふれ出て、貧血なのかのぼせたのか頭がくらくらする。とりあえず、二人ともうらやましい――という気分はここにきてさらに増すばかりだ。
 自分が素直になれるのならば、どっちか代われ!!――と大声で言いたい気分である。
「素直じゃないのさ……この角の前に、嘘は無用の長物なのさ。それとも、フリックとじゃなくて僕がやってあげよっかぁ? アサなら大歓迎なのさ……」
 素直になればよかったのだろうか――と、もう俺は何が何だか分からなくなってきている。
「いや、それは……」
 俺が断ると、キールはイタズラっぽく笑ってアサを性的に挑発した。
「キール様、意地悪はいけないって奴だぜ? 自分から求めてくるまで……見せつけてやったらいいって奴だ」
 クスクスと笑いながら、フリックはキールの胸にある角の周りを中指でくすぐり始める。
「そうだね……ってや、くすぐったいのさ」
 クスリ、クスリと腹筋を痙攣させながらキールはフリックの耳をぎゅっと握って股を縮こまらせる。
 フリックの指は角の周りから徐々に腹、そしてスカート状の保温膜へと移り、フリックはキールの下半身の保温膜を自分の耳にそうされたように指と手のひらで揉むように弄って行く。
 保温膜の付け根の、快感を感じるには遠く性的興奮を喚起させるには十分な辺りから手の届く範囲までを軽く指で挟んで、それはまるで毛繕いをするように丁寧だ。
 なめした革のような……腐りさえしなければそのまま切り取って絨毯にしたくなる様なキールの保温膜は、耳たぶと同じように神経があるらしく、僅かにだが確実に反応している。下半身に近いだけあってより性感帯に近いのかもしれない。
 それをつまんで引っ張ってみたり揉んでみたりと緩急をつけていると、いつの間にかフリックの耳から離れたキールの左腕がそっと自身の股間に伸びようとしていた。
「あぁん……ちょっとフリック、もう我慢できないよ」
 そう言って自分で処理でもしようとしているのであろうか、甘えた声を出すキールにの左腕にフリックの右手が伸びた。キールの手は掻っ攫われて、フリックの口の方へ引き寄せられる。
「いけない子だなキール様ってば。アサ様のための薬を作るには焦らして焦らしていいものを出さなくっちゃいけないって奴だぜ? 俺様が良いって言うまでは……せっかちな御手々は仕舞っちゃうって奴だ……」
「もう、……フリックってば意地悪」
 キールの手はフリックの口に含まれて、さっきと立場が逆転しているような感じだ。
 フリックはキールの髪を耳の裏に仕込んでいた馬櫛で解かしながら、股間でいきり立っているソレに触れることをせず息をふぅふぅと吹きかけて焦らし続ける。そのたびごとにキールのモノはぴくりとものほしそうに反応しては、小さく反り返る。
 純白の肌と若葉色の体毛、美しい深紅の角が彩るキルリアの体の股間にあるモノは、口の中と同じ粘膜の色……赤黒いと言えば大げさだ。
 とはいえ、桜色とかピンクでは優しすぎるが、その中間色とでもいうべき色は、キールのキルリアとしての魅力を大きく損なうような醜悪なものではないことにアサは少し安心する。
 むしろ、ギャップに見惚れるとでも言いたげに、ソレに魅入ってしまっている。

「さぁ、もうそろそろ準備完了って奴かなぁ……? おまたせ、キール様。頭……下ろすぞ?」
 そう言うなり、フリックは左腕でキールの頭を掬いあげ、ゆっくり地面に下ろす。

「さて……キール様にお待ちかねの……と言いたいところだが、アサ様はいいのかい? まだ親と自分以外、誰にも触れられたことのないキール様のここを俺様が触れちゃって……」
 フリックはキールの膝あたりに腰を置いて俺を見る。
「いや、あの……俺様、じゃなくて……移っちゃったじゃねぇか……俺にどうしろと?」
「キールのコレを……手でも口でも優しく包んであげればいいって奴だぜ。口なら直接お薬も摂取できるし。
 それとも、俺様の手が最初に触れるか……ああ、俺様のモノ同士が触れ合うのが最初って言うのも趣があるって奴だな」
 薬ってそれかい!!――などとは言っていられない。なんだか、改めてそう言われると、フリックごときの手がキールのモノに触れるのは我慢できない。
「僕は、どれでも大歓迎なのさ~♪」
 キールは俺を性的に挑発するような上目遣いでそう言った。
「ちょ、ダメ……」
 正座していた俺はここにきてようやく立ち上がり、キールのソレを握るようにしてフリックから伸びる魔の手を防ぐ。
「やっと素直になれたみたいね……ア・サ♪」 
 ああ、俺は今キールの……を握って……あったかい上に……ああ、絶対に忘れないように記憶にとどめなくちゃ――などと俺は意気込んでみた。
 しかし、その意気込みに対して空しく意識は段々と薄れていった。


 ……
「あ、やっと起きた……おはようアサ様」
 そこには完成した薬を傍らにおいて、アサガオのお茶を入れているフリックがいた。
「ひどい夢見た……頭痛がする」
 アサは頭を押さえて項垂れる。ふと、フリックの周りに血の付いた布が転がっているのを見て、自分の鼻の辺りを拭ってみる。まだ、少し血のカスと湿り気が残っている。
「その夢ってのは……俺様とキール様の情事ってやつか?」
 俺はいつの間にか手元に戻していたスプーンを完璧に使用不可能になるほど折り曲げ、挙句の果てに先端が捩じ切れて落ちた。
「ちょ、なぜ知っている?」
「アサ様が俺様の香りで人形になってしまった時に、ものすごく心地よさそうだったから……3分くらいたって、呼びかけに反応するようになったら耳元でそう言う夢になるように囁き続けたって奴でな。
 あぁ、そうそう……知り合いの超一流の術師から聞いたんだが……夢を操作するにはまず匂いかららしくってなぁ……匂いはメロメロボディで何とかして、夢の内容は声で微妙に操作……
 それだけで本当に思い通りの夢を見るなんて……俺様ダークライに生まれればよかったかもって奴だな」
「この、ミミレイプ野郎……どんだけ俺をからかえば気が済むんだ」
 もう突っ込む気力も起きずに俺はうなだれる。頭痛が酷い……

「おや、アサ様ってば上手いこと言うなぁ。ミミレイプだなんて……まるで俺様が耳で強姦したみたいじゃないか。うん、的を射ているって奴だな」
 耳レイプという、言った俺本人でさえ訳の分からない言葉に対して本気で褒めているようではある。ただし、俺の怒りは全く伝わっておらず(と言うよりも分かっていて無視している)まるで風車のように受け流されているようだ。

「でもなぁ、キールのに初めて触れる云々って俺様が言ったら、俺様の指をキールのだと思って握ってしまうあたり……満更でもないって奴だし」
 俺の態度に怖気づくようなフリックではない事は知っていたが、こうまでノラリクラリとあしらわれてしまうと、月経中であることも相まって俺もついつい声を荒げたくなる。
「黙れ、ミ・ミ・レ・イ・プ!!」
「大丈夫、続きはもう一度俺様の前でお人形様になった時にやってあげるって奴だ。乞うご期待♪ いや、俺様としては今すぐやってもいいって奴だぜ」
 そして、余計に頭痛に悩まされる。頭痛の最中に大声を出すものではない。
「フラグ立てるな馬鹿!! そう言うこと言うと本当になっちまうだろうが」
 一瞬心の内に沸いた期待を全面否定するように、俺は語気を荒げた。もう、図y通については諦めた方がいいのかもしれない……あぁ、頭が痛い。
「なんだよ……若い生娘が眠っていても手を出さない紳士な俺様に対する評価はなしってやつか?」
「どうせ、俺が趣味じゃないってだけだろうが……」
「そうでもないって奴だぜ? 俺様リムル様に会うまでは趣味が広かったって奴でなぁ……実際に手を出したのは……ベトベトンだろ、フワライドだろ、ミロカロスだろ、メガニウム、ゴルダック、フォレトス、ウツボット、デンリュウ、ドクロッグ、サマヨール、ゴウカザル……特にゴウカザルは何度も……」
「うわぁ~……たくさん……っていうか、ケダモノじゃねぇか。冗談だろう?」
 俺は呆れ気味に、はぁ――とため息をついて呟く。
「まぁ、こんなところか。もちろん、全員和姦で……本当はクレセリアも相手にしてみたかったんだけれど……出来なかった。あと、とあるバクフーンだけは受け付けられなかった……今ではもう、リムル様一筋さ」
「そんなに女を……でも、今ではリムル一筋だって……リムルってそんなにすごい魅力だったのか?」
「あぁ、とてもね。リムル様に魅入ったら……ふふ、お前さんも魅入っているのかも知れんって奴だぞ」
 フリックは意味深に言って、無言で立ちあがる。まさか、催眠術で何かされた訳ではあるまいな?――と、勘繰ってはみるが、答えを聞くのは憚られた。
「さて、と……この薬はお前の症状に効くから……飲んでおけ。お前さんが寝ている間にきちんと作っておいたよ。これ、水な」
「やっと、本来の目的を果たせたか……疲れた」
「俺様に身を任せていれば疲れやしなかったのに……」
「はいはい、そーですね」
 俺は、溜め息をつきつつ差し出された薬飲み下す。薬は苦かったが、この症状に聞くというのならば受け入れよう。
「よし……苦いけれどまぁ、お前くらいの年齢なら飲めるよな。だが、症状を抑える前に、月経痛そのものを防げた方がいいって奴だろう?」
「まぁ、そりゃ出来るなら。で、俺を男にでもしてくれるってかい?」
 唐突に話を振られたアサは、生返事で肯定した。
「はは、そりゃ面白そうではあるがな。……月経痛そのものを抑えるには、別の薬が必要だ……それはな、雄の匂いだ」
「はぁ……雄の……匂い?」
 突飛なフリックの発言に、俺は首を傾げるしかなかった。
「あぁ、俺様に医療を教えてくれた女性が言うには……兄が性を意識して離れて眠ったり離れて歩いたりすることが多くなってから、少し月経痛……って言っても年に皆既月食の後日の年2回くらいだそうだが……月経痛が酷くなったようだ。
 その経験から、対象実験を繰り返してみたところ、雄と一緒にいると良いんだとさ。
 しかも、出来ればメロメロみたいな強烈な匂いほどいい……アサ様は、ユンゲラーだから……出生比がアンバランスなポケモンだし、今まで結構マメに匂いを嗅がせていたんだけれどな。
 あの程度じゃ効果なしというか……俺様がいなかったらお前大変なことになっていたって奴だぞ? 今より症状がひどかったら、死んでたんじゃないのか?
 まぁ、もうこんな月経痛になりたくなかったら、毎日俺様の匂いを嗅ぎに来いよ……アサ様なら、毎日毛づくろいを頼んできても拒絶しないって奴だぜ?」
 まさか仲間になると持ちかけた時から誘惑するような動作をしていたのは、このようになることを予期していたのだろうか――と、俺は不覚にも関心してしまった。とはいえ、やり過ぎ感があるせいでいまいち尊敬の念は覚えられないが。
「それと、キール様と添い寝してみるといい……出来れば脇とか股のように匂いのきつい場所をまくら代わりにするといいな」
 フリックはさらりととんでもないことを言ってのけ、想像してしまったアサの髭が逆立った。
「お前なぁ……それを俺にやれというのか?」
「それが嫌なら、キールと卵作るのが一番早い。月経なんて妊娠さえすれば絶対におこらないからなぁ」
「……卵グループが違うからできねぇよっていうか……丁重にお断りします」
 卵を作るという治療法を拒絶されたフリックは、ただ笑い続けていた。
 それを見ているだけでアサは頭痛の痛みが加わった気がして、とりあえずサイコキネシスで熱ーいお茶をぶっかけてやった。


次回へ


このお話はリメイク前とほとんど同じなため高速UP
でも、ひそかにサーナイト×ミミロップがキルリア×ミミロップになっている罠


感想・コメント 


コメントなどは大歓迎でございます。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • とあるバクフーン・・・・・・・まさか・・ね・・・
    ―― 2010-06-20 (日) 23:40:13
  • >名無し様
    クリストのような何かかどうかは不明ということでお願いしますw
    ――リング 2010-06-27 (日) 21:17:22
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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