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漆黒の双頭“TGS”第2話:KillとFeelの申し子・後編

/漆黒の双頭“TGS”第2話:KillとFeelの申し子・後編

作者……リング
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 目が覚めた……のはいいが、頭痛がする。昨日の無茶が祟ったのか、サイコパワーで体を動かすフーディンやユンゲラーにとってこの頭痛は筋肉痛の代わりのようなものだろう。
 今日も昨日と同じく、アサの頭は完全に目覚めておらず、サイコパワーが上手く錬ることが出来ないため。寝ぼけていると足元がおぼつかず、そんな寝ぼけを解消するために外を求めて太陽を見る。

 外は真夏だ。照りつける太陽は質量を持つが如く重くのしかかり、体力を根こそぎ奪おうとしてくる。ただし、空気は乾燥しているが、はるか西の水源より運ばれた豊富な水があるから、風の流れが出来てくれる。それが毛皮にまとわりつく熱を帯びた空気を取り去っていくのが嬉しかった。
 太陽と風の二重の助けのおかげで、寝ぼけていた数秒前の自分はどこへやらとばかりに、自分の体はつつがなく脳の命令を受け入れてくれる。
 アサは夜の魔法にはだいぶ深くはまったらしく、睡魔が満足するまで身を任せて落ちていた夢の世界は、今や入国資格がないとばかりに締め出されたようだ。
 それもそのはず、いくら就寝時間が遅かったとはいえ、時間帯はすでに昼だ。しかし、傍らではキールがまだ寝ている所を見ると、体が慣れていないから眠れないと言う事か、それともキールが寝ぼすけなのか。
 呑気な奴だと、軽く笑いながら、寝ている時間が長かったせいか腹も減っているのを自覚して、昨夜に言っていたジュカインシードの塩漬けでも食べるかな――と、瓶の蓋を開ける。
 とたん、その物音と匂いに反応したのかキールが起きた。狙ったように出来過ぎたタイミングじゃないか。
「ふわぁ~~あ……んあ? おはようアサ」
 キールは眠たそうに目をこすると、焦点の合わない視線で俺へ挨拶する。
「そっか、朝食まだだったのさ……顔洗ってくるからさ……ちょっと待っててね」
 伸びをして、外にある水路へと向かっていった。朝食って、すでに昼食の時間なんだが――と思いながら待っているとキールは早業で顔を洗って戻ってきた。この速さは恐らく念力を使っての洗顔だろう。昨日の水浴びの件でもわかることだが、生活と技が一体化しているためキール自身の技に対しての器用さがうかがえる。
 俺のぎこちないそれとはまるで違う。まだ今の俺では、液体まで操る技術は得ていない。慣れればできるだろうか?
「よっし。それじゃあ、今日は外へ食べに行こうよ」
 そんな俺の思案の時間など与えるつもりはないのか、キールの大声で俺の思考は中断された。みれば、タオルで顔を拭く作業も手早く終え、寝ぼけ顔を可愛らしい童顔に変える。
「外?」
 唐突にそんなこと言われても、あまり外へ行って怪しまれるのも具合が悪いのだけれど……と、俺が突っ込みを入れる間もあればこそ。キールは昨日の探検のときに持っていたポーチを腰に巻き、微笑んでいうのだ。
「気が進まないって感情しているね。大丈夫、この街に君をどうにかするような悪い子はいないのさ。早くこの世界になれるためにも、行こうよ」
 キールは説明になっていない説明とともに、アサの手を引っ張っていく。体重はもちろん俺のが重く、種族柄念力の力は俺の方がはるかに強いはずである。で、ありながら、キールの力の強さは異常で、俺は逆らおうとしてもなすすべもなく連れて行かれる。
 俺も数秒後には諦めて、踏んばることをやめ素直に引き摺られて行くことを選んだ。

「で、おいしい店って言うけど具体的にどんな……」
 引っ張られたまま歩くのは恥ずかしいので、並んで歩きながら問いただすと、何がそんなに嬉しいのかと思うくらいに笑顔で考え始める。
「キモリのテイルステーキに、ジュカインジュースでしょ、ジュプトルロースの刺身にスイクンタウン名物の香辛料を和えたものや、ジュプトルモモ肉のフライに」
「分かった分かった……キモリ系統が美味しいのはわかったから……他」
 アサはこの質問だけで、キールがずいぶんと好みの偏ったやつだということもわかった。
「……他。シチューとか、あと、ラザニアとかクリームスパゲティが美味しいって所長は言っていたよ……この街じゃめったに食べられない食材もたくさん集まって来るからね。
 その分値段が馬鹿みたいに高いけれど……」
 こいつと話していると頭痛がひどくなりそうだ――と、嫌気がさした表情でアサは頭を押さえる。
「所長ってのが誰だか知らんけど、そいつはホワイトソースが好きなだけじゃないのか? てか、お前はキモリ系統以外好きな食材が無いのか?」
「カゴの実サラダとかウイの実シャーベットとか……」
 この時点でキールがあげる好みの傾向は大体分かった。
「渋いものが好きなのね……変わった味覚だね……」
「うんうん、えっと……他には~~」
 全く参考にならないお話を延々と聞かされる。そもそも種族が違えば好みが違うのは当たり前だ。どうやら俺は自分で頼んで見た方が早いという事に気がつくのが遅かったようだ。


 そうこう話している内にギルドの食堂についた。付近に高い建物が一つだけしかないのもあるのであろうが、建物自体が目に見える範囲にあったそれは石垣と漆喰で作られた立派な建物で、ほかの家と比べれば明らかに異質な雰囲気を誇っている。ただ、中に入ってみれば何のことはなく一階は普通の料理店と、便利屋ギルド(と言っても口入れ屋と言った方が正しいが)という建物の名称を証明する所狭しと並べられた様々な掲示板に様々な仕事の発注書がこれまた所狭しと掛けられている一室があるくらいか。
 普通の、とはいっても人間のそれとは勝手が大きく違うのであろう、イスと机の種類の多さや皿の種類も人間のものとは大きく異なる。体型の違う多くのポケモンが共同生活をするためには必然的にこういう配慮が必要なのだろうと思うと、感心する。
 人間以上に複雑な身分が生まれそうなこの世界にあって、ここまで社会が平和そうに出来ているのはすごい事なんじゃないだろうか。

 さて、二人はどちらも直立二足歩行型であるため、案内された机のイスの形は、以前人間だったはずの俺にとって違和感のないものだった。
 ただし、キールの椅子には背もたれがあるが、俺の物にはない。背もたれの有無は大きな尻尾の有無が関係しているのだろう、確かにキールと同じ椅子ではアサは浅く座ることしかできない。店員の配慮も重要だ。
 椅子についての考察もそこそこに、俺はメニューを覗いてみるが……読めない。原因は不明だが言葉は通じても文字は読めないようだ。こればかりは仕方がないのかもしれないな。

「ゴメン、読んでくれないか?」
「あら、スプーンを使う意味はよく分かっている割には文字はダメなの? ずいぶん偏った知識だね。勉強するなら、普通文字からやるものだよ」
 ダンジョンに居たときから思っていた事だが、このメニューを聞いて確信する。ここの世界では『ヤセイ』のポケモンとやらには人権がないと言う事。ハヤシガメのフルーツシャーベット(これは取っても死にはしないからいいとして……)、ケンタロスのヒレ肉ステーキ、海鮮サラダ(オクタン・メノクラゲ・ヘイガニ・モンジャラ……etc)
 キールにとってこれらのメニューはいったいどう映るのだろう? などとも考えるが、長い年月をかけて培われてきた文化だし、俺が口出しすることではないか。咎めることも食ってかかることもするべきではない。
 実際、人間界にも一部地方で人肉食はあった気はする……ただし、同族を食べたかどうかは不明だが。だが、プラスに考えれば、だからこそ肉食ポケモンと草食ポケモンが共同生活できるのだともいえる。『ヤセイ』のポケモンが犠牲になってくれればこそ、捕食者の隣に合わせて座ることもできるのだと考えれば納得もいく。
 まぁ、要は考えようによる……という事か。キールと何のことはない会話をしつつ、社会に対する考察に腐心している間に、マスキッパのウェイターがやって来た。

「ご注文はお決まりでしょうか?」
 ここは普通に、違和感を感じさせることもない。何処の世界でも、こういうやり取りは一緒という事であろうか? 細かい所作に違いはあれど、共通点があればある程安心できる。
「それじゃあ、『夏野菜とジュプトルの辛味噌炒め』と『ジュカインジュース』お願いするのさ。アサは決まった?」
「同じので頼む……」
 もう、良く分からない。実の所は何を頼むかはまだ決まっていなかったが、待たせるのも悪いし渋い味は嫌いではないからと、特に深いことを考えることもなくそう頼む。選択が吉と出るか凶と出るかなんて知った事ではない。
「んじゃ、それでお願いなのさ、ウェイターさん」
 そうして料理を待っている間に質問するべきことがある。
「なあ、俺に食事のマナーってやつを教えてくれないか? この世界の事ほんとに何も知らなくって」
「いいよ。まず、料理を頼む時のマナーから」
「おう」
「店員さんや相席している人と同じ種族が材料に使われているものは頼まない。僕と一緒に居る時は、サーナイトやエルレイドなどが材料に使われている料理は頼んじゃダメってこと」
 そんなものもあるのかと、料理の外見が全く想像できない名前に、アサは思いっきり腰が引ける。
「そんなわけで僕はキモリと相席するのはできなそうなのさ。もう、癖になっちゃって……」
 おいおいそこまでキモリ系統が好きなのかと、俺は心の中で突っ込みを入れたい衝動に駆られるが、話の腰を折るのもどうかと思い踏みとどまる。
「あらら……突っ込みたいなら突っ込んでもいいのに」
 しかし、キールには突っ込みたいことなどお見通しである。相も変わらず、ものすごい角の力で、こっちが話を折られてしまった。叶わないな……
 これでは、突っ込まなかった意味がないと俺は大きくため息をついた。

「そして、食べる前のマナー。こうやって、手をを開いて左肩から右肩にかけて動かして、こう言うのさ。
『闇の恵みに感謝し、光にの守護に感謝します』てね。そしたら手を合わせてだいたい2秒目をつぶる。
 ま、普段の場ではこんなとこだね。厳正な場や……ホウオウに関する祭りの時はもっとアクションが増えるけれど。ともかく、これがホウオウ教の食事前のあいさつなのさ」
 覚え易くどんな体系のポケモンでも可能なその方法はこの世界ならではと言えるだろう。サナギ系のポケモンにはさすがに酷な動作ではあるが、サナギになっている間はほとんどが食料を食べることなどないから、これでよいのだろう。
 と、それよりもという疑問が俺には浮かんできた。

「ホウオウ教? って……なんだ?」
 この世界に来てから、初めて聞いた単語である。
「よろしい、説明してあげるのさ。この世界は虹から生まれたとされていて、その虹の正体がホウオウであるとするのが『ホウオウ教』。アルセウスであるとするのがアルセウス教さ。
 大陸を縦断する山脈の西側がホウオウ教で東側がアルセウス教を信仰しているのさ……けれど、探検隊による土地の開拓の関係で、僕たちの住むスイクンタウンは西側から来た探検隊チーム『カマイタチ』の影響により東側なのにホウオウ教が主流さ。
 でもね……アルセウス教は自分たちのほかに国があることすら知らない。不思議のダンジョンは神の住まう聖地とされ立ち入りを禁じているし、海は端っこが崖になっていると信じているから自分の国を出られないのさ。
 だからまぁ……これはちょっと関係のない脱線した話だけれど、ダンジョンを隔てた国境のすぐそこの向こうでは差別的で閉鎖的な思考がいまだに支配している……僕たちラルトスの仲間なんて酷い扱いだよ……それにブイズばっかり得してさ、嫌になっちゃうのさ……本当にもう」
 後半を語るときのキールはひどくさびしそうな面持ちで、暗い顔をしていた。これ以上突っ込んで質問したい衝動に駆られるが、良心の呵責とでもいうべきか、それをし難くさせるナニかが、それを許しはしなかった。

「わかった……詳しい事は、追々自分で調べるよ」
「ふふ、湿っぽい話になっちゃったね、ごめんごめん。君の感情まで湿っぽくなっちゃったみたい」
キールは笑顔で取り繕う。話題を変えようとしたアサだが、今回もまた湿っぽい話しになりそうなので、少し顔をしかめて話し始める。
「なぁキール……」
「どうしたのさ? その『俺は何もできないのにここまでしてもらっていいのか』って顔は?」
 こいつは……俺の言いたい事を先取りするか、普通?
「ああ、その通りだよ。ていうか、顔よりも角から伝わる感情でそれを判断したんじゃないのか?
 まぁいい。今の今まで忘れていたんだが……俺は全く金を持っていないのに、救助してもらった挙句に食事までごちそうになって……金の事は……どうするんだ?
 何を請求されても俺はお前に何も出来ないぜ? まさかとは思うが……本当に売るつもりじゃないだろうなぁ?」
 昨日からキール親切だとは思っていたが、ここまで無償でやってもらっていいものか。アサはそんな風に罪悪感に近いものを感じていた。
「あははは、売るって……そりゃお金は欲しいし、そのために子供の一人や二人売りたいくらいだけど、そんなことしたら僕の良心が痛むからダメなのさ。
 それでも、お金の問題ならば大丈夫なのさ。お金は手に入るところから簡単に手に入るのさ」
 いたたまれない思いで聞いた俺とは裏腹にキールは面白そうに笑う。『売りたいくらいとは正直者め』と、心の中で俗物根性を馬鹿にしながらも、完全な善意という訳じゃないことを知って、逆に安心した。
「ふぅん……昨日はタダ働きと言っていたけど……どこからどうやって金を手に入れるんだ?」
 そうして、当然のように湧いてくる疑問をキールにぶつけた。
「救助すると探検隊連盟及び保安隊の方から金を貰えるのさ」
「へぇ~……探検隊連盟って言うのは大体想像出来るけど何故に保安隊?」
「えっとねぇ……具体的な年代は忘れちゃったんだけど、これは結構昔に整備されたシステムなのさ。
 昔から救助を呼ぶ装置くらいなら貧乏な人でも意外と持ってるから、たくさん救助依頼は来てたのさ。けれど、当時は助けてもらいたいがために、報酬を自身の支払い能力を超えた額に設定したりする問題が多かったのさ。それに対し悪質な取り立てを行ったり、逆に踏み倒して逃げられたり、連盟への苦情が双方から絶えなかったのさ。まあ、客の方は自業自得だけどね」
「そりゃ、高い報酬を期待して救助した奴には迷惑だな……」
 これを聞く限りでは、救助される側のマナーも問題だが、それに対し補助金は出ないのかとも思えてくる。
「そう、迷惑なのさ。その対策のために救助を呼ぶ装置にグレードが付くようになっちゃってね……高い装置を買える奴ならちゃんと報酬も払えるだろうって値踏みされるようになっちゃったのさ。
 そのせいで、安い装置しか買えないような人や、君みたいに装置すら持っていない人は、放っておかれることが多くなっちゃったのさ」
「まぁ、報酬が高い奴を助けるに越したことはないからな」
 だとしたら、キールが俺を助けたのは親切と言う他ない。バッジすら持っていない素寒貧を拾ったのだから……とはいえ親切というのもここから先の話次第である。

「でも、それでも救助依頼者を放っておかない親切な人種が二つ居るのさ。一つはほとんど無償で助けるモノ好きな変人。さて、ここで問題。もう一つの親切な人種とはどんな方々でしょう? ヒントはね……ダンジョンは人目につかないこと。救助地点に依頼主がいなくっなっても『ヤセイ』になったものだと思われるってところかな?」
 キールはかろうじて笑顔を崩してはいなかったがそこに浮かぶのは寂しそうな笑顔だった。つまり、ロクでもない人種と言うことだろう。
「そうだな……奴隷商……人身売買やっている奴だろう? あの時俺はお前を少々疑いながらも仕方なく付いていったし……もしお前が悪人だったら……って今考えるとむちゃくちゃ恐ろしいや……」
 昨日キールが言っていたことそのものだがら、これで間違ってはいないはずだ。
「正解……そう言うことさ。だから、救助すれば『人身売買と、そこから派生する盗賊への従事や麻薬の売買等』を未然に防いだと言うことで、依頼人とは別に連盟と保安隊の方から金が回ってくるのさ。
 そんなわけで昨日はタダ働きって言ったけど、一応金は入るってわけさ」
 そういってため息をつくことで一拍ほど()をおいて話を再開する。

「とはいえ、その金はオニスズメの涙だけどね。贅沢言えば今の倍は欲しいところだよ。僕も他の仕事やればいいんだけど……角のせいで、生活苦しいことより助けた人の感情が優先しちゃう……僕の悩みだね」
「そっか……いくらお前が親切でもさすがに完全なタダ働きは出来ねえもんなぁ」
 そのシステムがなければ……自分を襲ってきた今頃奴らの仲間入り……それは死とほとんど同義である。
「そう、僕がいくら親切君でもタダ働きは出来ないのさ。だから、お金のことなんて心配しないで食べちゃってよ。
 食事代は経費として保安隊から落とせるからさ。むしろ、報酬が安すぎて悔しいから一番高いこれを後で追加で頼んじゃおう?」
 だから『今日は外で食べよう』なのか、俺は納得し、ここはお言葉に甘えておくことにした。
 しかし、ここで新たな疑問が受けん出来た、キールは俺と同じものを頼んでいるが、すなわち量も同じということだろう。俺が少ないのか、それともキールが多いのかは不明だが、キールはどれだけ喰う気なのだろうか?


「お待たせしました。『春野菜とジュプトルの辛味噌炒め』と『ジュカインジュース』でございます」
 他愛もない会話を進めていくうち、先ほどののマスキッパが料理を届けてきた。
「来た来た。おなかすいていたからいっぱい食べるよ~~」
「それじゃあ、早速、『闇の恵みに感謝し、光にの守護に感謝します』」
 アサが声をかける間もなく、ホウオウ教式のお祈りを済ませたキールは、舌なめずりをしながら笑みを浮かべかぶりついた。
「『闇の恵みに感謝し、光にの守護に感謝します』」
 本当に子供のようだなと思いつつ、アサも目をつぶり、手を合わせてから食べ始める。その味は……渋い、渋すぎる。よくこんなものを食べられるなというのが率直な感想だった。
 対してキールは恍惚とした表情を浮かべて夢中で料理をほおばっている。よく考えればキールは体の大きさが全く違うというのに同じものを頼んだのだ……その量は、俺にはちょうど良く……つまり俺が腹が減っている状態で自分が食べると仮定したときでちょうど良く見える。
 キールと俺の体格差を考慮すれば、相対的に見て異常であることはだれの目にも明らかである。半分以下の量でも足りるのではないかと思わせる異様な大喰らいっぷりは探検隊として過酷な環境に耐えるためのサガなのであろうか?
「ハムハムハム……やっぱりここの料理は美味しいねぇ」
 俺の心配をよそに、キールはすべてを喰ってしまいそうな勢いで食している。両手のほかにも念力の手を使って食べる手は忙しく、自在に食器を操ることのできるほどPSI(サイ)の技術力のレベルの高さをうかがわせる
 しかし、逆にいえば技術の無駄遣いともいえる気がする。ただ、機能の戦闘では見せなかっただけで、戦闘中でもこれだけの技術を発揮出来たりするとすれば、役に立つと言いきってよかろう。


 とにかく、食事風景は慌ただしかった。でも食事が終ろうとも慌ただしさが終わることはないようで、支払いを済ませたかと思えば、キールは俺の手をつないで。
「付いてきて」
 と、手を引いた。
「次は……どこへ行くんだ?」
 昨日からずっとこの調子でキールに振り回されっぱなしである。キールはそう言う疑問にはちゃんと答えてくれるものの、始めるまではなにも言わないから唐突に始めるキールの行動にはいつも不安を煽られる。
「さっき言った報酬金の件……君の姿を見せて……お金をもらいに行くのさ僕にタダ働きさせる気じゃないよね?」
 あぁ、なるほど。どうやらさっき言っていた報酬の件らしい。ただ働き云々のくだりがなくとも、元より恩を受けてばかりいるのは気が引ける。
「わかった。ついていくよ。ところで、ダンジョンとやらで遭難した者を助けた――という証明はどうやってするんだ?」
「そんなの、簡単なことなのさ。そういう事が分かるポケモン……まぁ、僕みたいなポケモンだね。そういうポケモンを配置して常に疑う癖をつけるのはもちろんの事……救助依頼をした人物との繋がりがないかとか、自作自演に対する警戒は怠っていないよ。
 詳しくは、秘匿義務があるそうなので何も聞いていないけれど……まあまあまじめに仕事をしているようではあるみたい。救助によってお金を得る権利をはく奪されているギルドメンバーも少なくないみたいよ」
「へぇ」
 秘匿義務というのが賞ショウ引っかかる言い方ではあるが、きちんと不正をただすシステムはある……と。と、言う事は警察はあるのだろうか? もしくは、警察と軍隊の分離離されているのか……気になるが、この平和な町ではお世話になることもなさそうだ。

 キールに連れて行かれた、報酬清算を受ける一室は、机と数種類の椅子という本当に最低限の調度品しか置かれていない簡素なものであった。連れていかれたそこで数種類の質問を受け、返答と依頼書とを見比べて紙に記入するのは探検隊連盟の職員らしい男だ。
 ルカリオ……他人の感情をある程度察知する力があると聞いている。なるほど、キールの言うとおり嘘を見破るにはもってこいというわけか。
 その質問の後、キールは報酬のさしだされ、その値を数えるとお辞儀をして報酬清算室を出て行った。

「ちぇ……やっぱり少ないさ。結局……収穫らしい収穫もなし……」
 声が寂しげなのはサイフが寂しげな影響だろうか、税金で賄われる保安隊やら探検隊連盟やらの報酬は少ない。先ほど払った料理店(と言っても、それなりに高額な店らしいのだが)の倍くらいと言ったところだ。
 それだけの量を食ったキールはとんでもない鬼畜だが……もし2mを超すような大きな奴を救助したら報酬と同じ量だけ食ったんじゃないだろうか。
 食費は経費で落とせるというのはありがたいシステムではあるものの、早急に対策を練った方がよろしいと思えるシステムであることが伺える。
「ねぇ、ところでアサ……」
「なんだ唐突に? キール……」
 唐突に話しかけたキールの面持ちは見るからに心配そうである。
「これからさ……どうするの? 行く当てないんでしょ」
 あまりにほのぼのとした雰囲気に押されて忘れていた。キールが手をつないで引っ張ってくれる時間は永遠ではないし、俺は養ってもらう年齢ではない……はず。
「ん? ……そうだな、どうしようか」
 唐突に現実に戻されたアサは一瞬血の気が引いたような気がしたが、すぐに思い直す。おれの強さを生かせれば勤め先なんていくらでもあるだろうと、気楽に考えてもいたが、その職業につくまで何をすればいいのかなんてまったく思い浮かばない。
 それに対してキールはうつむき気味にため息をつき、沈んだ声色でつぶやいた。
「だよね……どうする? 僕お金ないけど……餞別としてスプーン一本くらいなら買ってあげてもいいよ」
 そのうつむき気味の表情は一転してなりを潜めたかと思うと、今度は何だか意地悪そうな表情で笑っている。エースランクが云々と言っていたキールのことだ。きっとギルドにもある程度は顔が利いているのだろう。
「探検隊はダメか? おれの昨日の動きを見て……どう思った?」

「あぁ、忘れてたよ。君にピッタリな職業が合ったじゃないのさ」
 そんな言葉を白々しくキールは言って、俺の手を引いた。まだ、俺を連れまわすつもりのようだ。


「で、今度はどこにつれて行くつもりだ?」
 この世界を案内してくれるのはありがたくもあったが、この世界を色々見回っているだけでこっちは疲れるのだ。まだ起きてからそれほど長い時間がたっているわけでもないと言うのに、覚える事が多くて頭が破裂しそうだ。キールはそれも感じ取ってくれているのであろうか?
 まぁ、いい。明日からは楽になってくれるさ……きっと。そんな風に祈りながら手を引かれて螺旋階段を昇る。この螺旋階段は大型の4足ポケモンは登れそうにないが、それでよいのだろうか? 料理店の椅子のような配慮を見せるべきだと思うが……まぁ、建築家の頭が悪かったのだと考えよう。
「何処へ行くって……所長室なのさ。君をこれから所長に紹介して探検隊連盟への申請を……後は入隊試験さ。適当な相手と戦って……実力を示す。そしたら初めて申請してもらえるからさ」
「いまさら何だが……どこの馬の骨とも知れない俺をいきなり入隊させていいのか?」
「大丈夫♪ 問題はないし、問題があるならあるでその手のプロに偽造してもらうから。……いや、話が前後したね。その手のプロに色々顔を聞かせてもらうから問題ないのさ。所長はそういう裏の人ともたくさん知り合いがいるんだよ」
 どうやら、ギルドというのも、いろいろ必死らしい。使えるものは誰でも使えと言うことかと、このままギルド入りしてもいいのだろうかと頭が痛くなる。
「……ダメかな?」
 童顔であることを利用し母性本能に訴えかけようという計画がありそうな上目遣いで俺を見るキール。
「それは、俺がとやかく言うことじゃない……そうだろ?」
 俺は照れで思わず目を逸らしながら、呆れで溜め息をついた。
「ふふ、呑み込みが早いことで。僕そういうの好きだよ」
 そう言って可愛らしい笑顔を見せるキールは意気揚々と階段を上っていく。螺旋階段を上った先は、所長室だけがそのドアを構えている。
 キールの家と違い掃除の行き届いた廊下は光沢を放っていて、簡素な扉には足形文字で何かを書かれている。恐らく、『所長室』とかそういった類のものだろう。そのドアの前に立ったキールはノックをする。乾いた木が音を立てる。
「キール=キルリアです。所長、お時間よろしいですか?」
「ちょ、ちょっと待っていろ……今ちょっと処理を……」
 声が中から聞こえた。
「む、またか……ヒューイさんも大変だなぁ」
 中から聞こえた声にキールはそんなことをいった。
 所長のOKの声を確認するとキールはドアに手を掛ける。押しても引いても開けることのできる、4つ足に親切な設計の扉(その割には、階段は不親切だった)を開けてみると、中に居たのはストライクの男性。
 机の上には書類が散らばっていて、壁にもコルクボードが四つ立てかけられ、そのすべてに所狭しと紙切れが並んでいる。また壁の左上にはカマの便利屋ギルドの偉かった方らしいストライク・サンドパン・ザングースの肖像画がある。あれがギルドの創設者であろうか?

「……キールよぉ。その隣の奴はなんだ?」
 隣の奴、というのは当然俺のことだろう。睨まれる……と言うほど鋭い目つきというわけではないが、真っ直ぐに見られるとなんだか威圧された気分だ。あのストライクは一目見ただけで強いと分かる体格をしていて、カマを構えられれば対峙した者はを萎縮をさせられそうだ。恐らく俺にとって相手が苦手なタイプであることだけではないだろう……例え俺が岩タイプだったとして勝てるのかどうか怪しい。
「ああ、この子はね……昨日見つけてきた遭難者なのさ」
 キールから、俺がここにいる経緯を聞いた所長とやらは、そうしたことが肩の動きで分かるくらい大きくため息をつく。

「おいおい……俺のギルドは遭難者の就職先じゃねぇぞ……そんな若い奴連れてきてどうしろって言うんだ?」
 至極当然のことを言って、レイザー所長は俺に嫌そうな顔を向けるが、キールは極めて落ち着いた様子で笑顔を見せている。
「それはもちろん、レイザー所長の連れてきた子に負けないくらいにね。ヒューイさんには……少しわかりづらいかな? 確かにまだ少し探検隊をやるにはまだ若い年齢だけど……その実力は超一流だから。
 なんせ手を使わずにカブトプスのカマを自分に突き刺させちゃったり、モンスターハウスを無傷で抜けちゃったりしちゃったのさ。そんなことができる探検隊今迄に居た?」
「実力が超一流? キール……お前さん本気で言ってるのか? んまぁ、お前が言うくらいなんだから相当な手練(てだれ)なんだろうけれど……悪かったな。ヒューイで」
「ヒューイだとかレイザだとかー、そのストライクも、キールも、訳の分からない事を言っているけれど……結局名前は何なの? どっちが正しいわけ?」
「レイザーだよ。アサ……ヒューイってのはまぁ……話す時が来たら教えてあげる。とりあえず、レイザー所長の黒歴史みたいなものだと思えばいいのさ」
「ふむ……」
 良く分からないが、納得しておくべきなのだろうか。
「えっと、アサって言ったか?」
 所長とやらがキールの顔を見て俺の顔を見て、もう一度キールの顔を見ると机を飛び越えてくる。
「まあ、キールが嘘を付いているようには見えないが……ユンゲラーってな筋肉がないからパッと見じゃ基礎体力がわからんのが困る。どれ……、口開けろ……」

「口を……こう?」
言われるがままに口を開けた俺の歯を見て所長は唸る。
「年齢は……4歳半くらいかな? 確かにまだ5歳にも達していないが……歯並びもかなりイイ。歯並びは体だけでなく脳にも影響を与えるから……ケーシィ系統にも重要パラメーターだ……。ふむ、体の素質はよしと……
 んで、眼の方には年齢の割には強い念の波導がうねっている。どうでもいいことだがヒゲは……スベスベだな。さわり心地はいいと思うぞ」
 所長は顎にカマを当てて少しばかり考えるしぐさをすると、やがて口を開いた。
「よし、確かにお譲さんはかなりの上玉だな」
「上玉って……俺を売る気か?」
 女としての価値を値踏みされているような気分になったアサは思わず笑いそうになりながら呟いた。

「買わねぇよ。俺には妻もいるもんでな。そういう事じゃなくってイイ逸材だって事さ。キールがお前を高く買っていたが、間違いない。『心技体』の『体』なら、イイ探検隊の素質はある……はず」
「う~ん……やっぱりヒューイじゃそれくらいしか分からないかぁ」
「キール……お前な。そういう発言は慎め……俺も苦労しているんだ」
 キールの発言に、レイザーは不満を押し殺すような口調で文句を言う。ヒューイという言葉の意味が気になる所だが……仲良くなれば教えてくれるのであろうか? だとしたら、ちょっと時間がかかりそうだ。

「とりあえず、まだしていなかった自己紹介をしようじゃないか。俺の名前はレイザーと名乗っている。お前さんの名前は?」
 そう言ってレイザーと名乗っているストライクは腕を組んだ。
「……アサ。アサ=ユンゲラーだ」
 レイザー所長は優しく微笑んでうなずくと、組んでいた腕を解いてカマを差し出し、握手を求めてきた。キールに対して目配せをすると、顎で促してきたのでその握手に応じればよいのだろう。おっかなびっくりだけれど、レイザーに応じて握手をした。
「さて、キール推薦ってことで入隊試験を免除したいくらいだが、そうしてしまうのは流石に俺の一存じゃ出来ない。
 試験は11日後の共通試験でやらせてもらう、こちらから適当な相手を選んで、健闘出来れば合格だ。まぁ、キールが推薦するくらいの奴なら……健闘出来ない姿の方が想像できないがな。キールの眼が間違っていることも視野に入れて、平等に行わせてもらうよ
 が、その前に……お前をギルドメンバーとして登録しておいてやろう」
「登録するとか、出来ないとか……どっちなんだ?」
 言葉が矛盾していたような気がして尋ねると、答えは簡単なことだった。
「あぁ。ギルドメンバーには今から登録する……うちは便利屋ギルドだ。探検隊としての仕事は出来ないが、普通の日雇いの仕事ならさせてやるって話だ。
 で、探検隊には共通の試験を受けてもらってから登録する。これで説明になるだろう?」
 と、言うわけで何ら矛盾などしていない。業やら俺の早合点だったらしい。
「なるほど。それで……登録ってのは何かするのかな?」
「何か……ねぇ。手を出せ」
 言われるがままに手を出したアサの手を……所長は表面だけを巧みに切り裂き、自身のカマも表面だけ切り裂いて青い血を少量流す。

「その血で、この契約書にサインだ……お前、字の読み書きは出来るか?」
 差し出された羊皮紙の契約書には、四角い枠が書かれている。そこに名前を書けということだ。

「普通の文字は無理だけど、アンノーン文字なら……ほら、【ASA】」
 アンノーン文字が意味するところや、その発音は同じであることが昨日の道中、形見のスプーンを見せた時のキールの反応で分かっている。

「お前さん、ずいぶん偏った知識だな……まず、足型文字を学んでからアンノーン文字を学べ。ほら、お前さんの名前の綴りは……こうだ」
 おそらくは安値のザラザラの紙に、その綴りを自分の緑色の血で書き記す。俺はその紙に書かれた文書をそっくりそのまま契約書に写す……危険な契約をさせられていなければいいが。
「さて、次は俺だな」
 レイザー所長も、続いてその名を契約書に記載する。書き終わったら、カマについた青い血をペロリとなめて、契約書を拾い上げた。
「さて、契約完了だ。明日から、このギルドに寄せられた仕事……探検隊掲示板の仕事以外なら何を受けても大丈夫だ。つっても、まずはお前……アンノーン文字を読めるくらいならば文字の読み書きをおぼえた方がいい。
 ユンゲラーは記憶力の高いポケモンだ、それくらい余裕だろう?」
 所長は俺の両肩にカマを置き、微笑む。

「その妙に偏った知識……事情はわからないし、聞かないが、これだけは覚えておけ。この世界では、頭の面でも体の面でも弱い奴は……搾り取られる。お前は、搾り取る側にも、とられる側にもならないように……頑張れよ」
 お前がそうじゃないのかと、言いたくもなったが、言うまい。俺には失うものは何もないのだから、いざとなったら裸一貫で逃げだしてやればいいさ。
「アサ。僕たち……そろそろ帰るよ。それとも所長の仕事でも手伝いたいとか? ここに長く居ると仕事手伝わされるよ~~」
 おどけて言って見せたキールを、これでもかとばかりにレイザーは不敵に笑う。
「そうだな。忙しくはないが、妻とデートする時間を取りたいところだ。手伝えお前ら!」
 俺はカマで肩を掴まれた(?)が、キールに手をつながれて引っ張られることで何とか難を逃れ得ることができた。


「んもう……所長がああなったら相手にしちゃダメなのさ。それと、ギルドをやめるなんてくれぐれも考えないでね? 街の一つや二つ追っていくなんて事もあるとかないとか、やっぱりないとか」
 最後の一言は、今までのキールからはおよそ及びもつかないドスの利いた声。さっきのこもった彼の声はいかにも恐ろしい。
「やめないやめない……ところで、そんなに忙しいのか? 所長は……」
「いいや、そんなことはないのさ。お金もあるんだから経理や会計の一人でも雇えばいいのにさ……ただ、探検隊としての仕事をすると家を空けなきゃならないから……
 娘に稽古つけたり妻とデートを毎日したいそうで……毎日無理やりにでも仕事を作る。愛妻家なのさ」
「愛妻家……だな、うん」
 家族を大切にするのはいいことだと思うそれを毎日……気持ちは分かるが……普通、サボる口実にそれを公言するのだろうか?
「うん。それでさ、ギルドに仲間入りするっていうなら、今日は……君の武器を買いに行かない?」
 つまりスプーンだ。昨日言ったことをちゃんと覚えていて、形見のスプーンのことを考えてくれるキールの心遣いは正直ありがたい。
「嬉しそうだね……僕の角から君の気持ちがどんどん伝わってくるのさ。まだ漠然とした不安や恐れが取り去られていないようだけど……。
 一応、所長が雇ってくれるって言うんだから……居候くらいなら居ても構わないのさ……家事やってくれる人が欲しかったし」
 何やら雑念が感じられる居候の理由を感じたが、雨風を凌がせてくれるのだ。家事くらいに文句を言ってはいられない

「掃除と料理?」
「そう言う事。でもね……もう一つ、僕は頼みたいことがあるのさ」
「それはなんだ?」
「キルリアって種族はね……明るい感情を持った人の周りで育つと美しく成長すると言われているのさ。だから……僕が帰ってきたら何をおいても明るい感情で迎えてほしいのさ。明るく、楽しくさ」
 ……新婚夫婦じゃあるまいし。なんて、思ってしまうけれど、助けてもらっておいてそうでもしなければ罰あたりっていうものか。
「あぁ、努力するよ」
「ありがとう」
 上目遣いで見上げて、キールが抱きつく。ゾゾゾゾと悪寒がこみ上げ、肩が強張ってしまう。気持ち悪いのではなく、嬉しいと言うか可愛らしすぎて。
「そう、その感じ」
 その嬉しい感情が余程気持ちいいのか、キールは気分よさそうに角を撫でている。
「ところで、みてごらんよ。今歩いている通りは、商店がごった返しているでしょ? 木の棒の骨組に革を張っただけの簡素なものに、これまた通りを箱庭にしたように商品がごった返していでしょ?」
「ああ……けれど、それが何か?」
「うん、あの果物を売っている店なんだけれどね……あそこのお店の仕入れ先の果物は種が多いことで有名で、店を箱庭にしたように中身に種がごった返しているの。もう買いたくないってね。
 で、あっちの店は、店を箱庭にしたように虫がごった返し。だけど、あそこの店は違うよ。あそこのトウモロコシは実がこの商店通りに負けないくらいにぎわっているのさ。同じごった返しでも、天と地ほどの差っていうわけ、ああいう店こそ繁盛して欲しいものなのさ」
「くだらねぇ」
 と、言いつつも、俺の顔は不覚にも綻んだ。そのキールの話す、ものすごく下らないお話は、いままで散々不安で縮こまっていたアサの心をほぐし、アサの口から思わず笑いが漏れる。

「ほら、その感じさ。僕の近くに居る時は、嬉しい・楽しい・面白い。そんな気分でいて欲しいな。誰だって生きていれば、いい匂いの中で暮らしていたいと思うのは当然の事。
 キルリアにとって、感情は匂いのように日常には欠かせない重要な感覚。臭いと同じように、いい感情の中で僕は暮らしたいからさ、協力してよね」
 キールは不意に、アサのほうをじっと見て微笑んだ。
「それでね……もっと明るい気分になってほしいから君に朗報を与えるよ。前々から僕は、レイザー所長のようになりたいと思っていたのさ。レイザー所長はね……よく、浮浪児を引き取っては育てている偉人なのさ……それで、僕もこの機にレイザー所長のまねごとをしてみようと思うのさ。だから、住むところも世話するし、不安なら僕が取り除くのさ……ちょうど、家の散らかりも気になってきたしね」
 自分のだらしなさのフォローを押し付けさせる形で同居を薦められて、思わず俺は苦笑した。ただ、素寒貧の俺をほぼ無条件で受け入れてくれるキールの両手の暖かさは掛け値なしの嬉しさがこみ上げる。
「ありがとう」
 キールの手を握り返して、そう言うと、キールは微笑みながら頷いて左手を離した。握られた感触の余韻もまた気持ちよかった。

第三節 

 そのあと、武器を買い終わった二人は、商店街を抜ける道を歩んでいる。俺は買ったばかりのスプーンを眺めて、物思いにふけっていた。スプーンの素材は、安物ではあるが銅で十分だった。波導の伝導率は、普通に使われる金属の中では銀に次ぐ2位、錆び難さも高い位置に属している。
 でも贅沢を言えば……やっぱり銀で、銀ならば直接攻撃すればゴーストや悪タイプにも多少のダメージが望めるようになるようになる……などと不満もあるが、他人の金でそれを言うのは贅沢過ぎる。
 自分で稼げるようになってからだな。
 なんにせよこうして、俺が大事そうに持っていた名前入りのスプーンを使う必要はなくなったわけだ。あれを振るうのは正直気が引けたが、これより心おきなく存分にスプーンを振えると言うのは大きな助けとなってくれるだろう。
 そんな事を思いながら、光沢を放つスプーンに見入っていた俺はまともに前が見えていないとでも思われていたのだろうか。如何にも因縁を吹っかけようと言う気満々で前から歩いて来る者にぶつかられる……などと言う事はなく、きっちり避ける。
 むしろ、わざとぶつかって因縁を吹っかけようとしてかわされたとあって、あっけに取られた表情でおれを見ていた。ひらりとかわした俺は、気にせず物思いにふけることを続けている。
「ふふ、考え事をすると止まらないのは相当重症さ。これがユンゲラーの血なのかね? でも、ちゃんと前は見えているんみたいだし、良しとしますか」
 キールが微笑ましく俺のことを見ていた時、後ろから強烈な負の感情を感じたのか、キールは角を押さえて顔をしかめた。何があったのかと思ってふと、後ろに目をやればさきほど俺に絡もうとしていた()のある者が、新たな標的に絡んでいる。飽きないな。
 恐らく俺を狙った理由は、隣を歩いているキールが持っているお金で膨らんだ麻袋と、いかにも不注意そうな俺の挙動だろう。
 因縁を吹っ掛けて、金をふんだくろうとでも考えていたのだろうが、それが出来なかったのは、相手が相手(キール)なためにある意味運がよかったのかもしれない。
 さて、そのある意味運が良い男の今度の標的は、顔が見れるような女性……いや、見れるなんてものではなく、最高の級美しさを誇るポケモン……ミロカロスの女性だ。見た目で判断するならば、傷一つついていないキールや俺が舐められているのも頷ける。
 このスイクンタウンは、名前から連想される予想にたがわず、水タイプが最も多く、次いで草タイプも多い。その草タイプこそ、絡んでいるポケモン……フシギバナの名も無き男だ。
 女性の首に蔓を絡ませて値踏みをするように因縁を付けているそいつは小さな傷がところどころに有って、それが喧嘩慣れしている奴だという事は容易に分かった。
 その体格もたくましくていかにも屈強そうだ。そんなフシギバナを見ても誰も止めようとしないのは皆が一重(ひとえ)に力が無いからだろう。
 この世界では、力こそが『真』であり、力が無いことが『偽』なのだ。だからこそ、運が悪い……ここにいる誰よりも『真』である者の一角であるキールが、臭いものでもいやがるように角を押さえてフシギバナを睨んでいる。
「キール……やっぱり助けるの?」
「いや、臭いものには……『フタ』なのさ……ただそれだけのことなのさ」
 そう言ったキールの表情はいつもの穏やかなものとはまるで違い、嫌悪感の塊だった。かろうじて笑顔は崩していないが、ひくひくと顔が引きつっている様に、いつもの魅力は感じない。
 キールはずんずんと進んでいくと、首に蔓を絡ませたままフシギバナに引きずられて行く女性にひきつった笑顔で微笑みかけ、指先でフシギバナの体を突っついた。俺に話しかける時とまるで同じように。
「お姉さんは嫌がっているようさ。だから、代わりに僕が付いていこうかい?」
 これも、俺に話しかける時と同じように、口調だけは嫌に穏やかだ。

「なんだ? ガキは黙ってろ!」
 蔓の鞭が飛ぶ。だが、キールはフシギバナが動く前に敵の懐に入ってそれを避けた。
「おやおや、こうやって近寄って欲しいなら鞭なんて使わずに頼めばいいのさ……きみって素直じゃないのさ」
 フシギバナキールは脇腹辺りに寄りかかりながら、太ももに差していたアブソルのカマを引き抜き、トンファーのように持って体を貫く。
 激痛に奇声を上げたフシギバナはミロカロスを縛った蔓を離してキールと一旦距離をとり、葉を(やいば)と為して打ち出す。キールは斜めの体勢で横っ飛び回避のあと、受け身を取りつつ正対しながら立ち上がりウエストポーチから瓶を取り出した。
「おじさんはお酒好きかな? 安酒で悪いけど……少量で酔える庶民の味方でこの場は引き取ってはくれないかな?」
「この餓鬼……こんな傷負わせといて舐めてるんじゃねぇ!!」
 今日はよく晴れていた……草タイプにとってよいコンディションだ。だからこそ、ソーラービームをチャージなしで放てるという最高の天気だ。フシギバナがソーラービームで足を狙ったその一撃を、キールはフシギバナが動く前に大きく跳躍して避け、空中で取り出したビンの中身を敵にの顔にぶちまける。

「今のうちに命乞いしなよ。ただし僕じゃなくって、あの女性の方にさ」
 冷たく笑ってキールが言うと。フシギバナはようやく状況を理解して何をされるのか察しがついたらしい。火のつく酒をぶっ掛けられたという事は、すなわち燃やされるという事。
 自分にとって弱点な炎であることを考えれば、その被害は大きいはずだ。キールはバチバチ音を鳴らしてと、拳に電撃を纏い始めいつでも火をつけられると威嚇する。
「や、やめてくれ」
 危機を感じてフシギバナは後ずさる。
「僕じゃなくってあのお譲さんにって言ったでしょ? 僕はどんな風に謝っても止める気はないから。せめて顔が燃えた時に少しでも早く水をかけてもらえるようにさ、あのお譲さんに『みずをかけてくれ』って頼まなきゃ? ホラ……」
「か、勘弁してくれ……」
 フシギバナはキールから生じる殺気を感じ取って急に恐怖が湧きあがり、誰にともなく助けを求める。

「不思議だなぁ……君に因縁をつけられている美しい女性を誰も助けようとしなかったのに、君より強い僕に絡まれている美しさのかけらもない君を誰が助けるんだろうね? そんな風に助けを求めるなんて理解に苦しむのさ。
 大体……恐怖なんて感じているんじゃないのさ。それも僕の嫌いな感情だってのにさ……それ!」
 キールのバチバチと音をたてたその手から発射されたのは、命中率に定評のある必中と称される電気の一撃……『電撃波』だ。だが、その威力は弱い、と言うより火花を散らす程度の威力しか持たせていないというのが正しそうだ。その分スピードが速く、溜めの予備動作はきわめて短い。
 しかし、そんな技と呼べないほど弱められた電撃波でも、ひとたび酒に燃え移ればそれは一瞬で燃え広がって顔を炎が覆う。

(後になって知ることだが)本当に『庶民の味方』という意味の名前を持ったその酒は、庶民の顔の上でごきげんそうに炎を躍らせていた。
 恐らく探検隊として怪我をした時のために消毒用として持ち歩いているのだろうその酒は、少量で酔えるというキールの言葉通り度数はかなり高い。
 燃え始めた炎はなかなか消えることはなく、顔面に灯った炎にもがき苦しんでいる。そんな中キールはミロカロスの胴体をポンと叩いた。

「今の彼を助けてあげるかどうかは皆次第だよ? 僕は助けても怒ったりしないから。でも、君達は『少しかわいそう』と思いながらも『許そう』とかそういう殊勝な心がけよりも『いい気味だ』という、僕の好きな楽しい感情の方が強い……。
 ふふふ……ありがとう、あいつのせいで君達と一緒に気分が悪くなったけど、君たちのおかげで吐き気も大分収まったさ」
 キールが女性に話しかけている間も、フシギバナのことを誰も助けはしなかった。キールはフシギバナの意識を角で感知し続ける。
 フシギバナが意識を手放そうとする直前に顔に土をかぶせて炎を消した。かぶった土の下から覘く焦げるまで焼けた皮膚があまりにも痛々しい。

「キルリアは明るい感情が好きなのに……君のせいでこのまわり全体が、負の感情に包まれたじゃないのさ?
 僕たちキルリアが歩く界隈で……そういう不届きなことをすると、周りのキルリアがどれほど不快か君は考えたことあるの?
 僕は、吐き気がするんだよ……」
 キールは火傷したフシギバナの顔面を蹴り飛ばす。
「そういう不快な真似して……許されると思ってるのかい? みんながこう思っているよ……クズだなって。
 それなのに何もできない自分の無力さを呪いながら、君のやることをただ黙認するしかない。その不快な感情は僕に伝わり、吐き気を呼び起こす。全く、君はキルリアに優しくない人だよ」
 追い打ちをかけるようにキールは何度もフシギバナを踏みつけながら言葉を続ける。

「出しゃばって人を不快にして、許されると思ったら大間違いなのさ! それから、弱いひよっこ(アチャモ)の癖に一丁前に恐怖なんぞ感じてるんじゃないのさ。『恐怖』って感情もキルリアには不快なのさ。さっさと意識飛ばして、楽になってなよ。僕は臭いものには『フタ』するまで止めるつもりはないからね……」
 キールはサイコキネシスを使ってフシギバナの顔を何度も地面にたたきつける。そのうち、何かに気がついたように角に手を当てると攻撃をピタリと止める。
「おっと……みなさんは『いい気味だ』よりも『かわいそう』の気持ちが強くなったみたいだね……少し角の気分が悪いのさ」
 キールは急に冷静になると、フシギバナの顔面に唾を吐きかけた。
「そういうわけだから、今日は止めにしておいてあげる。みんなの感情に……感謝しなよ?」
 一部始終をしっかり見ていた俺は少しばかり恐怖を感じていた。キールの行動は……集団の感情そのものを代表して動いていたようだったことに。

「……行こう、アサ。もう、ここにいても明るい感情は感じられそうにないのさ。」
 キールは振り返ってアサの表情を見て、感情の発信源が彼女であることを突き止めると、さびしそうな顔を呈する。
「ごめん、ちょっとびっくりしたよね? 僕って生れつき感情を感じる力が……通常の120倍ほど強くって……すぐに我を失っちゃうのさ……」
 思えばキールは異常である。キルリアは相手の感情を敏感に感じるとはいうものの、俺の感情をずばりで当て続けていた。
 普通のキルリアではそこまで出来ない。
「昔から、ああいうやつを見ては向こう見ずに襲いかかって……僕もそんな昔のことがあってよく生きていると思うよ……」
 キール自身から話される事実も含め、ともすればキールは善人ではないのかもしれない。いわばキールは普通のキルリアをはるかに越えた相手の感情を食べる魔物……それが、よい気分であるからこそ善人であっただけで、もし憎しみや悲しみを糧とするものであれば……行き着く先は殺人狂であろう。
「いや、あの……不安がらないで。えっと、でも君の感情はいい匂いさ。だから、一緒に居て悪い気がしないからさ……えっと、とにかく君には牙を剥かないって事が言いたいわけで……その」
 動揺したキールは弁解しようと必死になって俺に話しかける。しばらくは困った顔で聞いていた俺だけれど、ちゃんと考えることは考える。
 考えてみればキールは女性を助けようとしただけだし。やり過ぎ以外は全く悪いところはない。何より、集団の感情に左右されるというのならば、キールの行動は何よりも誰よりも皆の総意だ。
「分かった。今すぐは無理でも、怖がらないように努力するよ。お前は、感情に良い影響を与える奴には何もしないんだろ?」
「うん、その通り……これからも迷惑かけることになるだろうけど……」
 とどのつまり、周囲を無暗に不快にするものでもなければ『こう』はされないと考えれば悪いことではなかろう。
 だが、もし集団の正義が間違っていたら? 自分の考えを持たず、集団の感情の思うままに暴れまわる、ただの操り人形になってしまう可能性もある。大体、キールはアルセウス教とやらでは差別の対象だと言っていたじゃないか。

 そう考えると、キールのことを急に怖く思えて仕方がない。……こいつが、アルセウス教とやらが深紅されている場所に行ったら、自我を保つことすら難しいのではないだろうか。まぁ、その時が来ない限りは無用の心配だ……考えるのはよそう。
「それでも……怖いかな? なにか、僕に対して良く思っていない感情を感じるよ」
 やはり、アサの感情を敏感に感じ取るキールは、目に僅かばかりの悲しみの色をたたえて尋ねる。
「そうだな。集団が間違った正義を叫んだとき、お前はお前でいられるのかって……な。たとえば、差別が日常化した地域で差別されているやつに石を投げられているとき……お前はどう動く?」
「僕が一人でいたら、周りの石を投げている全員を皆殺しにしているだろうけど……側に僕の感情を正常に保ってくれる仲間がいれば……何とかなると思う。母さん……とか。
 だから、信頼できるパートナーがいないと僕はこの町を出れないだろうね。この街なら自分の正義とみんなの思いは大分一致するけど、アルセウス教の町では……未だにひどい差別がおこなわれている……あんなところにいったら、僕は結構つらいかもしれない」
「そっか……」
 俺がキールの頭に手を置くと、その時伝わる感情を感知して、キールはこみ上げるモノを抑えることが出来なかった。
『出会って二日目だってのになんだかこいつには惹かれる。キールさえよければ、俺がパートナーに』
 キールはアサの手から直接伝わってくる感情が、確かにそう言っているように感じた。
「君はこうまで僕のことを心配に思ってくれるものなんだね。もしかしたら……そのパートナーは君かもしれないね……君の草タイプの目覚める力……それも合わせて」
アサに聞こえないほど小さい声でつぶやいたその言葉は風に凪ぐ草の音にかき消されていった。


 家へと帰る途中、キールは虫を見つけては引っ掴み、雑草を見つけては引っこ抜いていた。雑草の名前はエノコログサ。別名エネコジャラシと呼ばれる先端がもさもさした雑草である。虫の方は……セミとかバッタとか。
 これを喰うのか?とは、思いつつも好き嫌いは言っていられない。

「さぁ、夕食は僕が腕を振るって作るからね。その間君は掃除でもしていてよ」
 キールが意気込んでいた料理は、香ばしいバターの匂いも手伝って食欲をそそる香りをあげている。軽く火で炙られたエノコログサはポップコーンに似た味がして、食べていて悪い気はしない。
 見た目はグロテスクな虫料理だが、虫というのは、大抵が一年とたたないうちに何度も食べる事が出来る質量になることもある便利な動物性の食材だ。
 植物ならともかく、そんな動物性タンパク質は虫だけだ。料理に使うのはむしろ自然の摂理として当然とすら言えるようなものだ。見た目など……飾りと考えて食せばそう悪いものではないのだ。ただ、キールの好みなのだろう、渋い味のする調味料が少々うるさかった。
「これは……渋いな……」
 苦笑いしていると、舌を出して頭を掻く様子がアサには憎めない姿に映った。
「でも、匂いだけはいいでしょ? それは僕の料理の特徴だから」
 湯気とともにあふれ出る匂いは、確かにキールが言うだけの価値はある。そして渋みも少量ならばほかの味を引き締める要因となるだろう。だが、その味は許容範囲を超えていて渋すぎる……とにかく渋いのだ。

「そりゃ、匂いはよだれが出るほどだけどさ……味は涙が出るほど渋いから……これ。お前はどういう食生活していたんだ」
 とアサは苦笑する。
「幼いころ父さんや母さんとの修行で傷を負った時は……ウイの実を食わされていたし、父さんに催眠術で眠らされてはカゴの実でたたき起こされたから。
 修行だったり、僕の癇癪を宥める為だから怪我したり眠らされたりすることは文句は言わないけれど、あの味は幼い頃の僕には頂けなかったさ……」
 どちらも渋い味の実である。それを、毎日の(おそらく)厳しい(おそらく)修行で使われていたのではたまったものではない。
 と思いきやそれが癖になってしまったようである。迷惑な父親である。
「で、癖になったと」
「うん。渋いものってなんだかお通じも良くなるし、もうこれがなきゃ一日が始まらない……みたいな。目も醒めるしね」
 その味の好みをアサに押し付けることはどうかとも思うが、そこはやはり居候というコンプレックスがあるのだから強くは言えない。
 それに、渋くてもキールの料理が美味い事には変わりがないのだ、渋味でよく引き締まった(引き締まりすぎ)な味は素材そのものの味をうまく出すのに一味かっている。
 香り立つバターの匂いは焼きあげられた虫の肉の匂いと相まって非常に濃厚な味を与えてくれる。全体的な評価としてはうまいといえるだろう。


 そうして食事を食べ終わり、食休みのカードゲームも程々にキールが話を切り出した。
「さて、と……今日も行かなきゃね~」
「何に?」
「頼りにならない給料泥棒な保安隊様の代わりに……僕の妹のシリア=グラエナがリーダーを務める自警団にね。っていうか、君もついてきてよ、どうせ暇でしょ?」
 キールは冷たい声で淡々としゃべる。とくに、最後の一言はドスが効いていた
「僕達が、人の心を明るくさせる……もちろん、無償でね。その代わり……安全は狩る方も狩られる方も命は保証されないけど~~♪」
どうやらキールは明るい感情を求めるキルリアという種族柄……明るい世界を求めてやまないようだ。というか、狩るという言葉が不穏すぎて怖い。
「一緒にやらない? っていうか……やるよね?」
 有無を言わせない口調は、とても怖かったのが印象的だ。

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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