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深紅の鎌.弐

/深紅の鎌.弐

前回:深紅の鎌
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・深紅の鎌.弐



―1― 準備

「お呼びですか?女王様」
俺は王を墓に埋葬した次の日の夕方、王と女王の部屋に呼ばれていた。
いつも通り女王は椅子に座っていた。その隣の席が空いているのは王が死んだんだと改めて感じた。
「ライ、其方と話がしたい連いてきてくれ」
「分かりました」
女王は椅子から立ち上がって扉に向かう、俺はその女王の後に続いて一緒に部屋を出た。
扉の前にいる兵士は女王が出ると深く頭を下げた。その後も擦れ違う人は女王に深く頭を下げた……女王はその度に軽く頭を下げたりして返答をした。
そして気が付くと城の庭園の奥に着いていた。
様々な花や植物が植えてあり空気が澄んでいる……橋が掛かっている大きな池もあり、池の中を金魚や鯉が泳いでいる。
池は夕焼けの光を反射してオレンジ色に輝いていた。
「ライ……」
「はい、何でしょうか?」
「頼みがあるのです」
「どうぞ何なりと」
女王は大きな池に掛かっている橋の真ん中で立ち止まった。俺も立ち止まる……
「フラッガド国の者達が帰ってから国の境目に強力なバリアが出来てしまったのです」
「な、なんだって!?」
「あのフラッドガ国のあの二人とその兵士達の仕業ですが……そのバリアは普段は透明なのです。
しかし、攻撃を仕掛けたり人が通ろうとすると突然黒色の分厚いバリアが現れて国の外へ出さないようにしてしまうのです……
他国も同じ様な事になっています……こんな事をするフラッドガ国の狙いはきっとただ一つ……
国と国を孤立させて一つ一つ攻め落とすつもりです……そして全ての国を支配しようという計画でしょう」
「なんてこった……」
女王は俺の方に向き直った。
「しかし、そうはさせません……ユリがテレパシーで他国と交信しました。他国も兵士を準備しています……フラッドガ国を協力して攻め落とす為に」
「フラッドガ国の周りの国は惨敗と聞いていますが?」
「彼らは一つの国、つまり単身で攻めているからです。国と国、協力して攻めれば必ず落とせる筈です!」
「国の周りにはバリアがある筈では?」
「私の娘、ソラならバリアを消せるみたいなのです……さっき、ソラにバリアを触らせた所……ソルベ国を包んでいたバリアが消えました
私の部屋にある一冊の古い本……これを読んで分かったのですが深紅の鎌の能力を持っているものはあのバリアを消せるらしいのです」
「つまり、他国と協力してフラッドガ国を攻めるが、女王は城に居なくてはならない……だからソラを使いバリアを消して
他国の兵士をフラッガド国の周りの国以外ではフラッドガ国に一番近い此処、ソルベ国に呼び……出撃する……
そしてその為には俺とユリはソラのお供をするという訳ですか?」
「そうです」
予想通りか……
「良いですよ」
「頼みましたライ……」
「分かっています」
俺は羽ばたき、空を飛んで城へ戻った。そして階段の所にある窓から中に入った。
階段を上り、歩いていく……すぐにソラの部屋に着いた。
「ソラ、ライだ入るぞ?」
「うむ」
扉を開けて俺は中に入る。
ユリとソラは荷支度をしている。
「さっき俺が何の荷支度をしているんだと聞いたがソラとユリは答えなかったがそういう事だったのか……」
「母上に自分の口から言うと言われておったからな」
「そうか……」
「さて……ソラ様、ライさん……荷支度が済みました。出発しましょう……?」
「分かった」
ソラとユリは立ち上がり扉の方へ向かう……俺もその後に続く……
長い階段を降り、正面出入り口へ向かう。
城のあちこちからは工事の音が聞こえる……フラッドガ国の攻撃で城の3分の1は壊れてしまったからだ……兵士は半分近くが戦死した。
戦死した兵士の殆どが歩兵だ……それに比べると対空兵はあまり戦死していない……フラッドガ国は先日攻めて来た時に
空兵が多かったのに空兵の方が歩兵より壊滅的な被害を受けた。
歩兵は俺が不意打ちしたボスコドラ達だけらしい……それなのにソルベ国の歩兵がかなりの数、戦死したという事は……
フラッドガ国は空で戦う空兵より陸で戦う歩兵の方が強いというわけか……
つまりフラッドガ国は歩兵が強いのなら、こっちは兵の大半を空兵にして地上からの攻撃が届きにくい空からの攻撃を仕掛ければ……
そう考えている内に俺達は正面出入り口の外に出ていた。そこには女王とその護衛が立っていた。
「女王様、フラッドガ国は空兵より歩兵の方が強いのでは?」
「貴方も同じ事を考えたのですねライ……他国には空兵をなるべく多く出すように指示しましたよ」
「そうですか……」
「母上、行ってまいるぞ」
「行ってらっしゃいソラ、そしてユリ、ライ……」
『行ってきます。女王様』
俺達は女王とその護衛が見送る中、出発した。
「まずは何所から行くんだユリ?」
「はい……此処から東に数キロ先にある炎の国、プロミネンス国が一番近いですね……他にも地の国、氷の国や竜の国、……がありますね」
「間に合うのか?」
「先ほど私が他国と連絡をしたのと同じ方法でフラッドガ国の王がソラ様の母上と私に言ってきたのです。
『''お前達の計画はお見通しだ。どう足掻こうと俺達はお前らを永遠に支配してやる……しかし、今殺るのも面白くない……
他国と合流してお前達が攻めてくるのを待とうじゃないか?その方が殺戮を待った分だけ楽しめるからな!''』
……との事です」
ユリの腕には自然に力が入っていた。いつも落ち着いた様子のユリの姿を見たことしかない俺は少し驚いた。
「という事はあっちからは攻めてこないと?」
「はい……その様です」
「それは本当か?」
「本当です。実際、フラッドガ国の王の心を覗いてやりました。その心は血と闇……殺気に満ちていましたが何とか
思考に入り込めました……そして分かりました。本当に自分達からは攻めないようです。」
「そうか……なら安心できるな」
「はい……」
そして俺達は炎の国、プロミネンス国に向けて歩き始めた。
「なぁライ殿?」
「何だソラ?」
「妾達を背中に乗せて飛んで行かぬのか?」
「お前一人なら良いとしてユリはどうする?俺にも限界があるぞ」
「やってみないと分からぬではないか!」
「分かってないな……だから俺にもげn……」


眼下には森と草原が広がり、見渡す限りは白い雲と透き通った蒼色の空……
そして俺の首にはユリ、俺の胸にはソラの……
「なぁ……やっぱりおかしいだろ……」
「何がだライ殿?」
「幾らなんでも密着させすぎなんだよ……せめて俺に背を向けるようにして……」
「良いではないか?こうした方がライ殿と抱き合う様になるであろう?」
さすがにこれはまずい……二人を乗せたまま飛べたはいいがちょっとこれは……ユリで首にソラが乗れないからと言って
ソラの下半身は俺の下半身にロープで巻きつけられて固定され、ソラが俺に抱きついて俺も抱き返して落ちないように支えるとなると……
かなり危険だぞこれ……だからといって腕の力を強くしすぎるとソラの胸が俺の胸にその分強く当たるし……
視界にちょっとだけ常にソラの顔が映るし……離陸は良いとして着陸はどうなるのか不安に襲われる。
「危険すぎるこれは……」
「だったらライ殿がしっかり妾を抱きしめれば良いのだ。下半身はロープで其方の下半身に固定されているからな」
「そうしたらお前の……」
さすがにストレートに胸と言う訳にはいかない……
「妾の……?」
「いや、何でもない……」
「なら、大人しく妾を強く抱くのだ♪」
そう言ってソラは強く抱きついてくる。
「ちょ……」
ソラの柔らかい胸が俺に押し付けられる。
きっと俺の頬は赤く染まっているのだろう……
「あらソラ様……それなら落ちたりししませんね……」
「うむ」
「ところでさ……」
『?』
「着陸はどうするんだ?」
『……?』
「だから、首にはユリ、俺とソラは抱きつくようにして俺の胸にしがみ付いているだろう?着地が出来ないんだが……」
「あっ……」
「そうでしたね……」
「考えてなかったんかい!」
俺は溜息をつく……
「でもライ殿だったら何とかしてくれるであろう」
「そうですね……ソラ様」
「勝手に押し付けるな~……」
俺はそう言い返すがソラとユリは笑顔を返すだけだった。
どうすりゃ良いんだ……
そう考えている内にいつの間にか眼下の景色が変わった。
一面森や草原の緑が広がっていたが今は火山から降り注ぐ火山灰が木の葉を覆い、一面茶色だ。
「火山灰で下の景色が一面緑から茶色に変わったな」
「ええ、プロミネンス国の近くには活火山が2つか3つありますからね……」
「そんなにあるのか……」
どうりで一面茶色に染まってるし、上から火山灰が降ってきてるし……
「さて、着地はどうするかな……」
俺はそう呟きながら活火山を一つ越えた。火山からは火の粉や黒煙、火山灰が出ていた。
火山を越えると3つの活火山の中心に大きな城があり、その周りに街が広がっていた。
「ライさん……あそこがプロミネンス国です」
「そうか……」
何処か安全に着地できる所は……無いな……
首に乗っている分は良いとして……街中何所でも着地は出来るから……
しかし俺にソラが抱きついているとなると……そらに足はソラの足とロープで固定されているとなると……
俺は足が木のてっぺんに触るくらい高度を下げた。
「不時着するぞ」
「何所にだライ殿?」
「此処だ」
「!?」
俺は思いっきり羽ばたいてスピードを下げて火山灰が積もっている森の中に飛び込んだ!
ガサガサという体が葉に叩きつけられる音がして自分の体が下に落ちてゆくの感じる。視界は葉に遮られて目の前の葉しか見えない。
葉が視界を遮らなくなると突然、木の幹が目の前に姿を現した!俺はとっさにドラゴンクローで破壊した!
技を繰り出した事により、バランスを崩して体が何回か回り、視界がごちゃごちゃになる。
ゴッという音がして背中に衝撃と痛みが走った。

「ライ殿、大丈夫か!?」
ソラの声が聞こえるが視界がぼやけている……しばらくすると視界がはっきりしてきた。
俺の眼をソラとユリが覗き込んでいた。仰向けに俺はなっていた。だから背中に痛みが……まだ痛いし……ソラは俺の体から離れていた。
「あれ?ロープでソラの下半身と俺の下半身は固定されてたんじゃなかったのか?」
「着地でロープが切れたのだ」
「そうか……」
俺は上半身を起こす。
「痛たたた……」
背中が少し痛い……
「ちょっと……失礼しますね」
ユリは俺の背中に手の平を当てる。
「骨折はしてませんね……この痛みは……背中を強く打っただけの痛みのようです……」
「そうか、良かった」
「良かったってさ……お前が原因だろう……」
ソラを俺は睨む。
「危なく死ぬ所だったぞ……俺が木の幹をとっさに破壊してなかったら……」
「ま、まぁ良いではないか!早く着けたのだし」
「はぁ……」
俺は溜息をつく……
「さて、ソラ様、ライさん……急ぎましょう?」
ユリに言われて俺は立ち上がり歩き始めた。
しばらく歩いてプロミネンス国が近くなってきた頃、俺はある事に気が付いた。
「なぁソラ?」
「どうしたライ殿?」
「頭の上、毛虫がいるぞ」
「ひわあああぁぁぁぁぁ!!?」
ソラはパニックを起こして頭の上にいる毛虫を振り落とそうとして頭を振るが毛虫は落ちない。
「落ち着けって」
「だったら妾の頭に乗る此奴を早く取るのだぁ!」
そう言われてもな……そんなにソラが頭をブンブン振ってるとな……取ろうにも取れないと思うが……
ソラが頭を振ることで狙いが定まらずしばらくそのままだった。
これではきりが無い……
「取るから動くな」
俺はソラの頭を掴んで固定し、頭の上に乗っている毛虫を指で弾いた。毛虫は草むらの中に姿を消した……
「ほら、これで大丈夫だ」
「ぅ……」
「!」
突然、ソラが抱きついてきた。ソラは肩を少し震わせている……そして俺の胸に何か冷たいものが垂れた。
「お、お前……」
「ソラ様は……虫が大嫌いでありまして……」
「そうなのか……」
俺は俺の胸で泣くソラの頭をそっと撫でてやる。
「俺が悪かったよ、ソラ……早く取ってやれば良かったんだな」

……しばらくして、
「落ち着いたか?」
ソラは頷く……
「じゃ、プロミネンス国は目の前だ。行こう」
また、俺達は歩き始める。
「ソラ?」
「何だライ殿?」
「何でお前は虫がそんなに怖いんだ?」
「妾が小さかった頃……城の庭園で母上と父上が傍に居て幼かった妾が遊んでいたのだ」
「……ほぉ」
「そこまでは良いのだ……そして妾が……ゴン!」
突然ソラの顔に何かぶつかった。その直後に俺とユリも何かにぶつかった。
「……っ!?」
ソラは顔面をぶつけた為、痛そうに顔を擦る。
「……バリアだ」
俺は目の前の黒色の壁を指差す。
プロミネンス国を不気味な球体型の黒色のバリアが覆っていた……
「ソラ」
「分かっておる」
ソラは右前足でバリアに触れる。するとソラの頭の鎌状の物が紅い光を発した。
バリアにひびが入りガラスが割れるような音がしてバリアは破片と化して崩れた。バリアの破片は地面に落ちきる前に塵と化して消えた。
「ライ殿、ユリ、参ろうぞ?」
ソラは歩き始める。俺とユリもその後に続く……
プロミネンス国の王と女王が待つ城へ向かう途中……プロミネンス国の民、数人と擦れ違った以外は人の姿は街にあらず、街は静かだ……
「何だか不気味だな……ライ殿」
「皆、バリアの事を恐れているんだろう……バリアが壊れた今、もうすぐ民は家から出てくるだろう」
そう話しながらしばらく歩いていると城が近くなって来た。
城の正面出入り口に一人のバシャーモが立っていた。
「私はプロミネンス国軍総司令官チャバと申します。ソルベ国王女、ソラ様、そして世話役のユリ様、側近護衛のライ様、国王と女王がお待ちです。連いて来てください」
チャバはそう言い、城の方へ歩いていく……俺達もその後に続く。
城の中に入ると兵士達が防具や装備を持って慌しく行ったり来たりしていた。出撃の準備を整えているのだろう……
チャバの後に連いていき、やがて王と女王の部屋に着いた。
「少々お待ちを」
そう言いチャバは部屋の中に入って行った。
数十秒経つとすぐにチャバは出てきた。
「どうぞお入り下さい」
チャバは扉を開けた。俺達は中へ入った。
「よく来た。王女ソラ、世話役ユリ、側近護衛ライ……」
王のバクフーンと女王のキュウコンの前で俺とユリは跪く。
「軍はもうじき出せる。準備が出来次第、すぐにソルベ国に送る」
「うむ、よろしく頼む」
「さ、君たちは早く次の国へ急ぐのだ」
王に促されて俺達は部屋から出て、プロミネンス国を出た。
「意外とすぐに終わったな……」
「バリアを壊したのを報告するのと、軍の状態を聞くだけだからな当然すぐに終わるのだ」
「さて……次は地の国、グランド国……ですね」
「よし、ライ殿!飛んでいこうぞ!」
「だからどうやって!首に乗れるのは一人だぞ……また抱くようにして一人が俺の胸の所……っていうのは無しにしろよな」
「こうすれば良いではないか」


「……」
「どうだ!これぞ妾の考え付いた二人乗りが可能な乗り方!」
「強引過ぎる……」
ユリが俺の首に乗り、そこは良いのだが……背中にソラが固定されている。ソラの下半身は俺の腹にロープで巻きつけられてソラの腕は俺の翼の付け根を掴んでいる。
「これなら着地に影響は無かろう♪」
「確かに……」
「では、いざ出発!」
「お忙しいですね……ライさん」
「はいはい……」
俺は地面を蹴り上げて翼を広げて羽ばたき空へと舞った。
ソラが翼の付け根を握っているため若干の違和感があるが着地や飛ぶのには影響は無いので気にしないでおく……
火山灰は相変わらず降り続いている。
早く新鮮な空気が吸いたい……そう思い俺は全力で羽ばたき始める。
「ユリ、グラント国までどの位の距離がある?」
「飛んでいるので……そう、時間は取らないと思いますよ……」
「そうか……」
目の前の山を越えて羽ばたき続けるとやがて火山灰が積もって茶色に見える森がだんだん緑色になり同時に空から降ってくる火山灰が少なくなってきた。
そして眼下の森が遂に一面緑色の森になり、俺は深呼吸をする……新鮮な酸素が肺を満たす。
「ユリ、ソラ、グランド国に行くのが少し遅くなりそうだ」
俺はグランド国へ向かう方向の上空にある真っ黒い雲を見ながら言った。
雲の上に行くと俺だけなら体のつくり上は大丈夫だがソラとユリは空を飛ぶためにつくられた体ではないので酸素が薄い雲の上は危険だ。
となると……雨の中を突っ切る。しかしそれだと寒い上に飛ぶ事により風が当たる。つまりソラ、ユリが風邪を引いてしまう可能性が出てくる。
そう考えている内に雲が近くなり雨が降ってきた。
何処か雨宿りが出来る所は……ん?
木がある所を境にグランド国側の木の高さと幹が3、4倍ほどに大きくなっていた。
「ユリ……あれは?」
「グランド国付近の地面は木の成長に必要な物が豊富らしいのです……だからあのように普通の木よりたくましく大きく育つのです……」
「なるほどな……」
グランド国を中心に数km周りに普通より高い木があるのを見ると何だか自然が造りだしたの要塞に見える気がした。
あそこが良いな……一本の木の根元が少し浮いて空洞が出来ているのを見つけた俺は雨がだんだん強くなる中、高度を落とした。
俺は羽ばたいて速度を落として着地した。ユリは俺の首から下りた。
そして木の根元が浮いて出来た小さな空洞の中に入る。その時雨が本格的に降ってきた……
「ソラのロープを外してやってくれ」
ユリに俺は背を向ける。ユリはソラの下半身を固定するロープの結び目を解いた。
ソラは俺の背中から降りた。そして俺は壁に寄りかかった。
空洞の中は小さいながらも5、6人は入る位の余裕がある。
「危なかったなライ殿」
ソラは空洞の外で物凄い音を立てて降る雨を見ながら言った
「ああ、危なかったな……」
俺は返事を返す。
それにしてもすごい雨の量だな……そして何時間か経った。
雨もだんだん強くなる一方だった。
その時、空に眩ゆい光が走り、空気を切り裂くような轟音がした!音の大きさからして近くに落ちたらしい……
「わっ!?」
ソラは雷が突然鳴り、驚いて跳びあがった。
「雷も苦手か王女さんは?」
「ち、違う!妾は驚いただけで、べ、別に怖くなんk……」
また雷が落ちて、物凄い轟音をたてた。
「ひゃっ!!」
ソラは俺の背中に隠れる。ソラは少し震えていた。
「やっぱし……」
「べ、別に妾は……」
「あんまりお喋りな王女は嫌われると思うぞ?」
「なっ……!?」
あの時の事を思い出したのかソラは空洞の暗闇の中でも分かる位頬を赤くする……
「馬鹿……」
ソラはそう呟き、俺の背中に抱きつく。
「私がいない間に……何かあったのでしょうか……ライさん……?」
「ああ、実はな俺がs……」
「そ、その事は申すでない!!」
必死に大声を上げてソラは隠そうとする。
可愛い所あるんだなソラも……そう内心思った。
「疲れたんじゃないかソラ?城の外にこんなに長く出かけた事、無いんだろう?」
「うむ……実は眠かったのだ……」
そりゃそうだな……もう夜10時は超えているだろう……
城を出たのが夕方じゃあな……空はプロミネンス国に着いた時点で真っ暗だし……雨は降ってるし……
「ライ殿、少し寒くて……」
「寒いのなら……」
俺は背中に抱きついているソラの腕を解いて俺の胸にソラを抱き寄せた。
「ライ殿!?」
ソラを抱いたまま俺は翼でソラの体を包んだ。
「こうすれば寒くは無いだろう?」
「う、うむ……」
頬を真っ赤にしながら俺を抱き返してソラは返事をした。
ソラの頭を俺はゆっくり撫でてやる……ソラは抵抗もせず大人しく撫でられていた。それどころか少し微笑んでいた。
「まぁ……ライさん……ソラ様がそんなにリラックスしているのは初めて見ました……」
ユリはクスクス笑う。
「私もお近くへ行っても……よろしいでしょうか?」
俺が頷くとユリは俺の左腕に寄りかかる。
「あら……ソラ様、もうお眠りになられたのですね……」
「えっ?」
ソラは俺の胸で静かな寝息を立てていた。
「見た目以上に疲れていたんだな……」
雨の音を聞きながら俺はそう呟いた。
「ええ……そうですね……」
……しばらくするとユリも眠りにつき、俺は一人、雨が降る空洞の外を見ていた。
俺は思った。ユリが眠りについて良かった……何故かというと……
「ひ……ぃ……やぁ……」
「またかよ……」
あの時と同じくソラは俺に抱きつきながら身を捩る。俺が体を少し動かした拍子に俺の口とソラの唇が重なった。
「!」
俺はソラの頭を退けた。
仕方ない……あの方法で起こさないとこの先どうなるか見える。
ソラの頬を掴む、そして捻る。
「痛いぃぃぃぃぃ!!?」
やっぱり、効果は抜群だ!……▼
「二度目だぞ!何をするのだ!!」
ソラは頬を擦りながら言う。
「またあの時と同じ夢を見てただろ?」
「い、い、いや見てなどいないっ!!」
「明らか見ていたんじゃないか……大変な事を呟いていたし……」
俺がそう言うとソラの体がビクッと跳ねたのが分かった。
「お前にとって良い夢を見てたんだろうな?」
「ぅぅ……」
ソラの頬がみるみるうちに赤くなっていく……
「うわああぁぁ!!」
いきなり俺の腕を振り解き、ソラは雨が降っている外に向かって走って行った!
「お、おい!ソラ!」
俺は立ち上がりソラの後を追い、空洞の外に飛び出した!
雨はまだ強く降っていて視界が少し悪いが森の中へ消えてゆくソラの姿が眼に入り、俺は走り出す。
強く降っている雨のせいですぐに全身びしょ濡れになる。
濡れた草木を掻き分けて俺はソラを追いかける。
そしてソラとの距離が縮まってきて俺はソラに跳びついた。
「ひゃわ!?」
というソラの声と共に俺とソラは地面に叩きつけられた。
「馬鹿野郎!土砂降りの中を飛び出していくなんて!」
「……」
ソラは頬を赤くしたまま黙り込んでいた。
「風邪を引いちまうから今度からはどしゃぶりの中、飛び出すなよ?」
「……コクッ」
そして空洞まで一緒に戻った。
ソラは寒さで震えていた。何か無いかと見渡すと……所々、木の根が砕けて木の破片が散らばっていた。
俺はそれをかき集めて空洞の真ん中に集めて積んだ。
「火はどうするのだライ……殿?」
ソラは丸くなって体を震わせていた。声も震えていた。
「こうするんだ」
俺も自分の濡れた体を見て、少し寒いなと思いながら集めた木の破片に向かって。軽く火の粉を吹いた。
たちまち集めた木は燃え始めて空洞の中を明るくした。と、同時に空洞内に暖かい火の熱が広がった。
「どうだ?これで暖かくなるだろう?」
「あ、ありがとうライ殿……」
ソラと俺は焚き火の近くへ行って座った。空洞の天井はそれなりに高さがある為、燃え移ったりはしない……煙は上手い具合に外に流れていくし……
「さっきも言ったけど今度からは気を付けろよ?」
「うむ……」
「ところで何で飛び出して行ったんだ?」
「は、恥ずかしかったのだ……」
俺はソラに後ろから抱きついた。
「っ!?」
「少しは自分の身分を考えたらどうだ?……ソラ、お前が風邪を引いたら俺とユリに責任が来るんだぞ?」
「すまなかった……」
「分かれば良いんだ」
俺は腕を解こうとしたがソラが止めた。
「ソラ?」
「ライ殿は女性のむ、胸を触った事はあるのか……?」
「はぁ!!?」
何を……ソラは自分が何を聞いているのか分かってるのか!?
「無いけど、お前は俺に何を言っているか理解しているんだろうな?」
「う、うむ……」
「……」
そして、俺が黙っているとソラは頬を赤くしながらこう言い放った。
「妾の胸を……触ってみないか……?」
「!?」
「へぇ……そこまで行っちゃってるんだ」
『!』
俺とソラは空洞の外を見る。しかし雨で視界が悪くて誰かがそこに居るのは分かるがよく見えない……
「そこいるのは誰だ!」
「失礼ね……貴方のライバルであり、恋人
「!」
俺の心臓がドクンと跳ねたのが分かった。まさかあいつが此処に居る訳……
「そうよ、私はルチ!」
「ライ殿、知り合いなのか?」
「なんで……お前が……」
「何よその態度~」
雨の中から一人の首に赤い布を巻きつけたチルタリスが姿を現して空洞の中に入ってくる。
俺はそいつから目を逸らす。
「お前をライバルとは思っているが何度も言っただろ!俺はお前を恋人とは思ってない」
「何よそれ~ひっどーい!」
「うるせー!」
「ラ……イ殿?」
ソラは不安そうな視線を向ける。
「大丈夫だ俺は恋人なんて作った事ない」
「そうか」
ソラは安心したようだ。
「ルチ、何故此処に居る?」
恋人でありライバルであるあんたが竜の国に戻ってこないから私がソルベ国へわざわざ行って……」
「来る必要はねーのによ……それに恋人は余計だ」
「冷たいわね~……」
確かにこいつと竜の国でどっちが一番強いかを争ったりどっちが竜の国で一番早く飛べるかって争ったけど……
「お前の恋人になるのは断じて断る」
「む~」
ルチは頬を膨らませる。
「それに俺はもうソラ王女の側近護衛だ。竜の国には戻らん」
「だったら私と最後の勝負をして」
「良いだろう……」


続き:深紅の鎌.参


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Last-modified: 2016-08-09 (火) 06:56:14
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