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深紅の鎌.参

/深紅の鎌.参

前回:深紅の鎌.弐
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・深紅の鎌.参



―1― 幼馴染

俺とルチはどしゃぶりの中、睨みあっている。
ソラは空洞の中から不安そうに此方を見つめている。
「こうして睨みあうのも久しぶりね!」
「ああ」
「さて、勝負を始めましょう!」
ルチはそう言い、羽ばたく……俺も羽ばたいて互いの体が地面から浮く。
「この緊張も久しぶりだわ!貴方が居なくなってから感じなかったこの緊張感!」
そう言ってルチはエネルギーを口に集めて放つ!
俺はそれを避けたがまたルチが攻撃を放ち、攻撃が直撃してそれなりのダメージを受けたが俺は雷を放つ。
雨の中での雷は100%当たる……
上空の雲から空気を切り裂く音と共に一筋の光がルチ目掛けて落ち、ルチは雷に当たった。
ルチは雷に当たり、体の所々が黒くなった。多分……焦げた?
「待ってよ!どしゃぶりの降ってる中で雷を使わないでよ!絶対避けられないじゃないの!」
俺は咳き込むルチを見て少しニヤリとした。
「何よその笑み!」
ルチがそう言った後、ルチの体が蒼く光った後……空から沢山の流星が高速で俺目掛けて降ってくるのが分かった。
「流星群か……」
俺は流星群に向けて雷を連発したが数発は破壊するのが間に合わず俺に直撃する。
「くっ!」
衝撃でバランスを失いかけたが何とか体勢を立て直した。
「お前、いつの間に流星群を!?」
「覚えていて悪いかしら?」
「成長したな、随分と!」
そう言い俺はルチに急接近してルチの下からドラゴンクローを決めた!
「うっ!?」
そして怯んだルチに竜の波動を放つ!
小爆発が起きてルチの体は宙に浮いて後、地面に叩きつけられた。
「痛っ……いわね……」
ルチはそう呟きながら立ち上がった。
「どうした?お前の実力はそんなもんだったか?」
「違うわ!」
ルチは羽ばたいて空中に舞い、竜の息吹を放つ!
攻撃を俺が避けている隙をつき、ルチは急接近してきて突くを発動して技は俺の腹に当たった。
さらにルチは口を丸めた。俺はとっさに耳を塞いだ!
「♪~」
歌う攻撃だ。俺は耳を両手で塞ぎながらルチを思いっ切り蹴った。ルチの歌う攻撃は中断され、ルチは俺の蹴りを避けた。
「そんな攻撃が当たると思っているの!?」
「いいや、こうする為にやったんだ!」
「!」
俺は攻撃を避けて隙が出来たルチの後ろに回りこんでルチの腕目掛けてドラゴンクローを決めた!
「きゃあ!」
腕をやられたルチはバランスを崩し落下して地面に仰向けに叩きつけられた。
俺は急降下して着地してルチの首にドラゴンクローを付きつける。
「勝負有りだな」
「負けちゃったか~」
ルチはそう呟いて軽い笑みを見せた。
俺はルチの体から退いた。
「見事な戦いでしたね……ライさん、ルチさん……」
「すごいぞライ殿!」
空洞からソラといつの間にか目を覚ましたユリがそう言った。
「じゃ、私はこれで……」
「ああ、じゃあなルチ」
ルチはまだどしゃぶりの雨の中、空へ舞い、姿を消した。
俺は空洞の中へ戻る。
真っ先に焚き火の近くに俺は座った。
「失礼しますね……」
ユリは俺の右手を両手で握った。
俺はユリの体からエネルギーが流れてくるのを感じた。
体の彼方此方に出来た傷や怪我が治った。
「ところで……ライ殿?」
「ん?何だ?」
「またの機会に……どうだ?」
「お前本気か?!」
「冗談だ」
ソラはそう言い笑う。
「引っかかったなライ殿!」
「やったな~」
俺はソラの後ろに回りこみ脇腹を擽る。
「ははは、くすぐったい!ひはぁ……はは!」
「ふふ……」
ユリは俺とソラを見て静かに笑っていた。

「雨が止んだようだな……」
俺はさっきまでどしゃぶりだった空洞の外を見ながら言った。
「ところでライ殿?」
「何だ?」
「あれは……?」
「?」
俺がソラの指差す方向を見ると……まだ灰色の雲が空を覆っているが雲の中から何かが出てきて此方に向かってきているのが見えた。
「も、もしかしたらだがあれは……?」
「ああ、そうだな……なんで戻ってくるんだ」
俺達は空洞から出た。その瞬間に俺の体に何かがぶつかって俺は地面に叩きつけられた。
「戻ってきちゃった~」
「何だよルチ!ぶつかる事は無いだろうが……」
立ち上がりながら俺はルチにそう言った。
「良いじゃない~私が戻ってきてやったのよ」
「とか言って国の周りにあるバリアのせいで竜の国に入れないという事を思い出したんだろ?」
「さ、さすがねライ!やっぱり私と貴方は気が合うのかもs……「それは無いな」
何よそれ~という顔をルチはした。
「でも、私が居るおかげで移動は早くなるんじゃないの?」
「確かにな……じゃ、地の国へ向かおう」
「そういう事だからよろしくね、ソルベ国王女ソラさん、世話役ユリさん♪」
「う、うむ……」
「人が多ければその分楽しくなりますからね……私は良いですよ……」
笑顔のユリとは反対にソラは少し残念そうな顔をした。
「さ、行こうかソラ、ユリ」
ルチの首にユリが乗り、俺の首にソラが乗った。
そして俺とルチは飛び立った。

―2― 地の国

しばらく飛んでいると巨大な木が生える森が終わり、代わりに街が広がった。
俺とルチはスピードを下げた。
「ルチ、着地だ」
「えっ……何で?」
俺が少し先を飛ぶルチにそう言った途端に……
ゴンッ
「痛っ」
「だから言っただろ……バリアは街の少し外に広がってんだよ」
「それを先に言ってよ」
ルチと俺は高度を下げて地面に着地した。
「ソラ、頼む」
「うむ」
ソラが俺の首に乗ったままバリアに触れるとあの時と同じく、ソラの頭の鎌状の物が紅く光った。そしてグランド国覆うバリアが崩れて消えた。
「よし、行こう」
また俺とルチは羽ばたいて飛び立った……

・・
・・・
・・・・
・・・・・
グランド国王とその女王に会い、今、俺達は地の国を後にしようとしていた。
「じゃあなライ、頑張れよ!お前と共に戦うのが楽しみだ」
「俺もだスラー」
俺とグランド国軍総司令官……バンギラスのスラーは互いに別れの挨拶を交わした。何だかスラーと俺は気が合うみたいで話がスムーズに進むのだ。
この国は地上戦が強い、同じく地上戦が強いフラッドガ国と戦う時には良い戦力になるだろう。
そう思っているうちにも俺とルチは首にソラとユリを乗せてグランド国を出た。
「ユリ、次は竜の国、氷の国……先に行くのは?」
「氷の国、レイヲン国です……」
「レイヲン国……場所が分からん……な」
「とりあえず今日は……もう寝ましょう?」
ユリの視線の先はソラに向けられていた。俺は飛びながらもソラを見ると……
「ソラ、眠いか?」
「うむ……」
ソラは半分瞼が閉じている目を擦って眠るまいとしていた。
今、何時だろう……太陽はとっくの前に沈んだ。見渡す限り闇だ……
「ルチ、着地だ」
「分かったわ」
俺とルチは共に速度を下げ始める。
ソラはよく寝なかったなと内心思いつつ地面に着地した。グランド国を出たがまだ地の国の周りに生えるこの大きな木の生える森を抜けた訳ではない……
見渡す限り大きな幹が目に入る。俺はソラを首から下ろした。
俺は大樹の幹に寄りかかった。ソラは俺に抱きついた。
「ルチの方が暖かいと思うが?」
ルチのふわふわした翼を見ながら俺は呟いた。
「ライ殿が良いのだ」
「分かったよ王女さん」
俺は両翼でソラの体を覆う、ソラの瞼がゆっくり閉じた。
「おやすみ……ライ殿」
「ああ、おやすみソラ」
ルチは俺の傍で丸まってユリはルチのふわふわな翼に頭を乗せて共に眠っていた。
「俺も寝るか……」
そして俺も瞼を閉じた。この先どうなるんだ……?
見事、フラッドガ国に勝てるのか?それだけが思考に残るが何時しか俺は眠っていた……


―3― 導く者

此処は何所だ……?
俺が目を覚ますと一面真っ白……な森の中に居た。立ち上がるとシャリという音がした。
「雪……だ」
そう、俺はいつの間にか一面雪が積もる森の中に居た。天気は曇りだ……
「ソラ……?」
ソラとユリ、ルチが居ない……
「ユリ、ルチ?」
ソラ達の名前を口に出すが返事は来ない……
息は白いし、少し寒い……
とりあえず俺は歩き始めた。


……何だか少し寒い、何で寒いのだ?
妾が体を起こすと妾は何処かの森の中に居る事が分かった。真っ白、真っ白な雪、大好きな雪!大好きな雪が地面にも木にも積もっていた。
「ライ殿、ライ殿起きるのだ!雪だ。雪が積もっ……て」
ライ殿とユリが居ない……
返事が返ってこない……急に妾は一人という孤独感と不安に襲われた。
「ライ殿!ユリ!何所へ行ったのだ?!」
大声でライ殿とユリを呼ぶが何も聞こえない……聞こえるのは妾の呼吸だけ……
「ライ殿……ユリ……」
涙で視界がぼやけてきた。妾は涙を拭いもう一回ライ殿とユリの名を叫んだ。
しかし何も返ってこなかった……
ガサッ
「!!?」
妾はその音に驚き、一目散に走り始めた……

全く……何でこんな雪が積もってるんだ……寒くてしょうがない……
寒いのは嫌いだ。夢なら早く覚めて欲しい……
「飛んでみるか……」
俺が翼を広げて飛び立とうとしたその瞬間だった。
ガンッという音がしたかと思うと背中に衝撃が走り、俺は雪が積もる地面に叩きつけられた。
「冷たっ!!」
雪の冷たさに俺はすぐに立ち上がった。
「一体誰だ。妾にぶつかったもn……」
「ソラ!」
「ライ殿!」
俺にぶつかってきたのはソラだった。
「ライ殿、何故妾を置いていったのだ!」
「それは俺が聞きたいし、それに此処は何所だ?」
『……』
どうやらソラも俺と同じ様に目を覚ましたらこの雪が積もる森に居たらしい……
「とりあえず俺の首に乗れ」
ソラは俺の指示に従った。
そして雪を蹴り空に舞い上がった。
見渡す限り雪が積もる森しか見えない……
「ライ殿、あれ……」
「?」
ソラの指差す方向を見ると一匹のユキメノコが宙に浮いて、こちらを見ていた。
そのユキメノコはよく見ると手招きをしている……
「あいつに此処は何処か聞いてみよう、何か分かるかもしれない」
俺はそいつの所へ行く為方向転換した。
「ライ殿、何かおかしくないか?」
「何がだ?」
「いや、気のせいだ……」
そのユキメノコはさっきと同じく、宙に浮いたまま俺達に向かって手招きをしている……
近づいて分かったがそのユキメノコの右手首には水色の小さなリボンが付いていた。
「聞きたい事があるんだ。此処はどk……」
俺が質問を最後まで発音する前に視界が真っ黒になり、気が付くと全身汗だくで夜がまだ明けず、暗いグランド国周辺の森の中に居た。
ユリ、ルチは眠っている。ソラは俺の胸の中で俺と同じく汗だくだ……
「ソラ、お前も同じ夢を?」
ソラは頷いた。
「ライ殿、何か聞こえないか?」
「……静かに」
確かに聞こえた。それなりにまだ距離があるが何者かの足音だ……しかも最低でも10匹は居る……
「こちらに何者かが忍び寄ってきてるな……」
俺は小声でソラに言った。
「どうするのだライ殿……?」
「とりあえず……」
暗闇に目を凝らし、警戒しながらユリとルチを静かに揺すった。
ルチとユリはそっと眼を開けた。
「何だか囲まれているみたいだ……殺気を感じる」
「確かにね、これはすごい殺気ね……」
「ライさん、ソラ様は……?」
「此処に居るぞユリ」
暗闇に目を凝らしながら俺達は立ち上がり、身構える。
「さて、この暗闇でどう戦うかだな……」
「そうね……」
ソラを後ろに下がらせてユリがソラのすぐ傍で身構える。俺とルチはソラとユリの少し前で身構える。
そして足音が止んで何十秒かすると地面を蹴り、飛び掛ってくる音がした!
俺は身を捩り、暗闇から現れた敵の飛び掛りを避けた。
と、突然後ろから光が発生して辺りを明るく照らした。後ろを向くとユリが右腕を高く掲げ、指から光を発していた。
「これで敵が見えますね……」
「有難うユリ」
そう言って俺が前を向くとそこには……
『お前らは……!』
相手を見て俺とソラはそう声を上げた。
何故かというと目の前に立っていた敵は俺とソラが初めて会った時、ソラを追っていた奴らの中のグラエナ5匹だった。
「そうさ、俺等はそこの王女を追っていたグラエナさ」
「何故お前らが此処に……」
「親分にそこの王女を連れてくるように言われててな、そういう訳だ。王女を渡せ」
「誰がお前らにソラを渡すか!」
グラエナ達は俺達と同じく身構える。
「なら、戦ってやるしかねぇな……」
「望む所だ。ルチ、行くぞ!」
「分かったわライ」
俺は竜の波動を放ち、ルチは流星群を発動した。
グラエナ達は竜の波動を避け、流星群に向けて破壊光線を放つがルチの放った流星群に当たり、3匹が倒れた。
残る2匹は一度地面に叩きつけられて立ち上がったが一匹に俺はドラゴンクローを決め、そいつは倒れた。
「……残り一匹」
だが残りの一匹はさっき俺達と話した奴だが前と比べて強くなっているようだ。
「それなりに強くなったようだな……」
「……あの時の俺とは違う」
そう言い、そのグラエナは牙を剥き出しにして此方を睨む、その睨みが怖いのかソラはユリの後ろにサッと隠れた。
ソラが隠れた直後、グラエナはシャドーボールを俺に向けて放つ、その直後にルチに向け破壊光線を放つ!
俺とルチは飛び、攻撃を避けたがグラエナの破壊光線で巻き上がった土ぼこりで視界が悪くなった。
「ごほっ、ごほっ……どうするのライ?ただでさえ闇で視界が悪いのに……」
「おまけに土ぼこりか……」
そう言葉を交わしていると……
「きゃっ!?」
「ルチ!」
突然、グラエナが視界に現れてルチに飛び掛った。そして俺はルチとグラエナの姿を見失った。
「ルチ!おい、ルチ!!」
視界が悪すぎる……
「痛いわね!やってくれるじゃない、喰らいなさいよっ!」
何所からともなくルチの声が聞こえるが場所が分からない……
その時、たて続きに爆発音が辺りに響いた。
「痛っ……」
「おい!ルチ!大丈夫か!?」
「大丈b……」
その直後ドサッという音がした。
「ルチ!!」
「さて、次はお前だ……」
俺は今だ土ぼこりが舞う中、目を凝らしてグラエナの位置を知ろうとする。
「そこだ!」
「!!」
突然、グラエナが背後から現れて俺の背中に突進し、さらに俺の右翼に噛み付き翼に激痛が走る。
「クソッ!」
翼を噛み付かれた事で羽ばたけなくなり、体がグラエナと共に落ちて行くのが分かる。
グラエナはさらに背中や左翼に噛み付いてくる!
「離せ!」
俺はドラゴンクローをグラエナに決めようとするが技は空振りしてグラエナは消えた!
「影分身か!?」
「そうだ!俺は此処だ!!」
「!?」
突然、下から破壊光線が飛んできて俺に当たり、俺はそのまま地面にうつ伏せに叩きつけられた。
「ごほっ……」
背中からは血が出てきて、口の中は血の味がする。
俺は痛みに耐えながらゆっくりと体を起こした。
「何が『それなりに強くなったようだな……』だ……」
グラエナが土ぼこりの中から現れてそう言った。
「ごほっごほっ……」
「聞いてるのか、よッ!!」
そう言いグラエナは俺の背中を思いっきり前足で叩きつける。
「ぐふっ!!」
辺りには所々、俺の血が飛び散っていた。
ダメージが大きく、もう気を失いそうだ……その時、土ぼこりがやっと消えた。
そして俺の視界に俺の姿を見て大きく目を見開いたソラとユリが映った。
「ライ殿ッ!!?」
「ライさん!!」
視界が霞んできた……
「王女の目の前で殺してやるよ」
グラエナはニヤリとして鋭い爪を出した右前足を上げる。
「死ね!」
「ライ殿っ!!」
その瞬間、一瞬力が戻った。俺はとっさに右腕に力を込めてグラエナの頭を目掛けて振りかざした!
「くそっ、死ぬかよ!」
俺はそう呟き意識を失った……。

・・
・・・
・・・・

……俺はどうなったんだろう、死んだのか?生きているのか?
体の感覚はないし、視界も真っ暗……というよりも瞼が重く、閉まっていて見ることが出来ない……
でも、死にたくない……ソラが待っているはずだ。俺はあいつを守らなくてはいけない……!
俺は無理やり瞼を開けようとするが瞼は重く、開かない……
でも、あきらめるわけにはいけない……早くソラの所へ……俺はそう思い再び瞼を開けようとする。
すると少しだけ瞼が開き、光が差し込んできた。
あと、もう少し……!
その時、誰かの温もりを俺は感じた。その温もりは温かく、優しく俺を包む。
俺はさらに力を入れて重い瞼を開こうとする。
突然!瞼が軽くなり、視界が真っ白になったかと思うとぼやけた光景が目に映り、だんだんその光景がハッキリしてきて……
『!?』
うつ伏せになっていた俺は目の前にソラの顔があり驚き、ソラは俺が急に目を覚ました事に驚いた。
「ライ殿……め、目を覚ましたのだな?!」
「そうだ」
「良かった!」
ソラは突然俺に抱きつく。
「心配したんだからな……」
「すまん……」
「じ、じゃあ……妾にキスをしてくれるか?」
「は!?」
「冗談だ」
ソラは俺の顔に頬擦りしながらそう言う。
「またそれか!やったな~」
俺はソラの脇を擽る。
「や、やめてくれ!脇は弱いのだぁ!」
「すっかり良くなったようですねライさん……」
ユリが微笑みながら近づいてきた。
「ああ、大丈夫だ」
「正直に言いますと……ライさんは危なかったですよ……死んでしまうかもしれませんでした……」
「そうなのか」
「ソラ様は貴方の傍から離れませんでしたよ……」
「だ、だから!その事は申すでないユリ!」
ソラは慌ててユリにそう言う。
「ら、ライ殿!妾は其方のことが心配だっただけで……べ、別にすk「分かった、分かった」
「分かったよソラ、心配してくれて有難うな」
頬を真っ赤にしながら俺に抱きつくソラを抱き返しながら俺はそう言った。
「……」
俺はソラが少し笑った気がした。
「なぁ、ユリ……ルチは?」
「ルチさんならライさんよりは怪我は軽いですよ……ほら、あそこに居ますよ……」
ユリの指した先を見ると数m先にルチが眠っていた。
「ソラ、良いか?」
ソラは頷き、俺から離れた。
俺は立ち上がり、ルチの所まで歩いていった。
ルチは丸くなりゆっくり眠っていた。
体がゆっくり上下に動き、息をしていた。
「ルチ、起きろ」
俺がルチの頬を指で突くとルチの体が横に二回揺れるとルチの瞼が開いた。
「ふぁ~……おはよ、ライ……」
「眠そうだな」
「だってしょうがないでしょ~貴方ほど私はタフじゃないもん」
「確かに俺は睡眠時間が短いのには慣れてるからな……あと、タフっていう表現は間違ってると思うぞ?」
「別に良いじゃない~……ふぁ~あ……」
ルチの困った所は俺を勝手に恋人扱いするだけではなく、この通り寝起きが少し悪い。
「早く起きないと置いていくぞ……」
「分かりました!分かりました!起きるから置いてかないで!」
ルチはビシッと立ち上がる。
「やれば出来るじゃないか……」
「う、うるさいわねぇ……」
ルチは頬を少し赤くしながら言う。
「では、レイヲン国に行くのに必要な防寒着を取ってきますね……」
シュン……
ユリはそう言い、テレポートをした。
「ねぇ、王女さん……何でユリはレイヲン国へ行くのにテレポートを使わないの?楽ができるじゃない……」
「テレポートは一度行った事のある所じゃないと行けないらしいのだ」
「なるほどね」
「そうだったのか……」
シュン……
「持って来ました……」
「有難うユリ」
俺達はユリから防寒着を貰い、着替えた。
「よし、レイヲン国へ向かおう」
ソラを背中に乗せ、ルチはユリを背中に乗せて空へと俺達は飛び立った。

―4― 氷雪

雪が降ってきたな……
俺達はレイヲン国目指して飛んでいたがレイヲン国に近づけば近づくほど雪がだんだん強くなっていくのが嫌でも分かった。
眼下には雪が木にも地面にも積もっていて一面真っ白だ。
ソラは雪に興味津々だ。
「ソラはもしかして雪を見るのは初めてか?」
「うむ、本物を見るのは初めてだ。地形からしてソルベ国は雪が降らないからな」
「そうか、俺の国では冬は結構降るぞ」
「へぇ~……」
そう話している内に雪だけではなく強風も吹いてきた。
「まずいな……吹雪になりそうだ」
「どうするのライ?私は寒いのは嫌だからね?」
「そういわれても吹雪は自然が起こしてるんだから俺にはどうにも出来ない、何処か洞窟は無いか?」
「レイヲン国付近ではよく激しい吹雪が起こるそうです……」
俺とルチは辺りを見回すが洞窟など、吹雪から身を隠せる場所は見つからない。
「このままじゃ皆、一緒に……」
「ど、どうするのライ?!」
「しょうがない、引き返そう!」
その時、突風が俺達に吹きつけ俺とルチはバランスを失いかけた。
「すぐに引き返さないと間に合わなくなる!行くぞルチ!」
「ライ……もう方向が分からないわ……」
「!」
吹雪は激しくなり視界が悪く数m先もあまり見えない……その上、この強風、すぐに俺達は着地をするしかなかった。
視界が悪いせいで方向感覚を失う。
「どうするのだライ殿……?」
「とにかく歩くしかないだろ……?俺達が倒れる前にレイヲン国へ行くんだ」
「そうですねライさん……」
「選択肢はそれしか無いようだしね……」
俺達は吹雪の中を身を寄せ合いながら歩き始めた。
しばらく歩き続けているとソラがこんな事を言った。
「……ライ殿」
「何だ?」
「も、もし……レイヲン国へ無事にたどり着けたら……」
少し間を置いてからソラは言葉を続けた。
「ライ殿にい、言いたいことがある……」
「何言ってんだ……!」
「えっ?」
「俺達はきっとレイヲン国に無事にたどり着ける……!希望を捨てるなソラ……」
「ら、ライ殿……」
ソラの頬が少し赤みを帯びた気がした。
「そ、そうだな……ぶ、無事にたどり着けるのだな……!」
「ああ……約束だ」
俺は軽く笑顔をソラに見せた。
ソラも笑顔を返した。
ルチは頬をムスッと膨らませた気がしたが多分、気のせいだ。
ここまでは良かった。

しかし、その後……俺達はずっと歩き続けた。向かっている方向が合っているのかも分からずひたすら、ひたすら歩き続けた。
だんだん疲れが溜まり、体感的に数時間位経った頃……
ソラが疲れを訴え始め、その次にユリ、ルチと疲れを訴えた。
方向が合っているのかも分からず不安を抱き、同時に吹雪による体温の低下やその吹雪の中で長い間歩いている事から疲れが来たのだ。
俺もそろそろ体力的に限界だ。一番最初に疲れを訴えたソラはやっと俺達に連いてこられる位だ。
「ソラ、俺の背中に乗れ」
疲れたソラを俺は背中に乗せてまた歩き始める。
「キリが無いな……」
いくら歩いても同じ光景を見ている気がする。視界に映ると言っても俺達に吹き付けてくる吹雪と雪が積もった地面。
そして、たまに雪を被った木が視界に映るだけだ……
ふとソラを見るとソラは目を閉じかけていた。
「おい、ソラ寝るじゃないぞ?!」
「うむ……」
ソラは頭を振って眠気を振り払った。
「眠らないようにしろよ?吹雪の中で寝たら最後……だからな?」
「……心得ておる」
しかし、歩き続けていると俺もだんだん疲れが出て来て視界がだんだんぼやけてきた。
その時だった。
ドサドサッという何かが地面に落ちた音が後ろから聞こえてきた。
俺が振り返るとルチとユリが地面にうつ伏せに倒れていた!
「おい!ルチ!ユリ!」
「ライ……私、駄目かも……」
「私も……です。ライさん……」
まだ生きてはいるようだがルチとユリの体は弱々しく上下に動いていた。
俺はとりあえず吹雪が吹いてくるほうに背を向けてルチとユリを抱いて温めようとする。
「どうしたのよ……ライ……貴方が此処まで私を大切に扱ってくれるのは……初めてじゃない……」
「何言ってんだ!ルチ、眠るじゃないぞ!ユリ、お前もだ!」
二人とも瞼が僅かしか開いていない……
「そうは言いましても……」
ユリの視線の先は俺の目へ向いていた。
「私に何かありましたら……ソラ様をよろしくお願いします……」
「ユリ!嫌じゃ!妾はユリを置いていったりはしない!!」
「そうだユリ、俺もソラと同じ意見だ。ルチ、ユリ、お前達を置いていくわけにはいかん……」
「何言ってんのよ……ライと王女まで死んだら駄目でしょ……」
「だからルチとユリも一緒に行くんだレイヲン国に……!」
ルチとユリからは返事が来ない……もう喋る気力も無いらしい……
「くそ……どうすりゃ良いんだ……」
俺は視界がぼやける中、辺りを見回す。すると吹雪が吹いてくる方に誰かが見えた。
はっきりとは見えないがそいつは手招きをしている様に俺は見えた。
「ソラ、お前も見えるか?」
「うむ……妾も見える……」
「幻かは分からんが行ってみよう……ソラ、ユリを背中に乗せて歩けるか?」
「ユリは軽いから出来ると思う……」
「よし」
ソラは俺の背中から降りた。俺はユリをソラの背中に乗せた。そしてルチを俺は背負った……二人ともまだ意識はある。
「さぁ、行くぞソラ」
ソラと共に俺は吹雪の中、手招きをする奴の方に歩き始める。
するとそいつも動き始める。まるで案内でもしてるようだ……

―5― 氷王女

しばらくソラと共に手招きをする奴を追いかけているとやがて幾つかの建物が見えた。
さらに歩くと左右に吹雪でよく見えないが家が建っている道が続いているのが分かった。
「ライ殿……もしかして」
「ああ、レイヲン国のようだ……」
俺は『此処は雪の国・レイヲン国』と書かれた看板を見ながらソラに返答した。
あいかわらず前を歩く奴は俺達を手招きしながら導いてくれる。
「あいつが案内してくれてる所に着いたら、命の恩人に礼を言わなきゃな……」
俺は僅かに意識が残っているルチとユリを見ながら言った。
「うむ」
ソラはバリアに触れてバリアを破壊した。
俺はそのユキメノコがバリアを破壊する前に中に入れた事に疑問を抱いたが今は気にしない事にした。
そして、何時しか大きな建物が見えてきた。多分、レイヲン国の城だろう……
そのまま歩き続けて分かったがやはり、城だ。
俺達を導いてくれて奴は城の正面出入り口前で止まった。
「礼を言おうかソラ……」
ソラと共にそいつに近づいた。そして吹雪でよく見えなかったそいつの顔が見える直前……
「あれ……」
俺の体がよろけたかと思うと地面が突然、目の前に映りそのまま俺は意識を失った。

・・
・・・
……気が付くと俺は何処かの部屋のベットに寝かされていた。
部屋をざっと見渡すと高そうな本やイスなどがまず目に入った。天井には大きなシャンデリアまでぶら下がっている……
体を起こそうとした時、俺は自分の胸に誰かが乗っかっている事が分かった。
自分の胸に目をやるとソラが眠っていt……って、あれ?
確かにソラは俺に抱きついて眠っていたがソラだけではなく見知らぬユキメノコも俺にくっついて眠っていた……
誰だ?このユキメノコは……と俺は内心思った。ソラとユキメノコは静かに寝息を立てていた。
まいったな……起き上がれないな……出来れば起こしたくないし……
部屋を見渡すとソラの部屋と同じくガラス張りの壁が一面だけあった。そこから外が見えた……今だに吹雪は続いているようだ……
「ん……」
「?」
ユキメノコから小さく声が聞こえたかと思うとユキメノコの瞼が開いた。
『……』
そして、互いの目が合う。
そのまま沈黙が始まる。
まいったなぁ……こういう気まずい雰囲気苦手なんだよな……ソラが起きてくれれば……
しかし、ソラは俺の願っている傍で眠っていた。とりあえずこのまま目が合うのもな……
「こ、こんにちは……」
「……」
返事が返ってこない……
「えっと……此処は何所だい?」
「……」
「ルチとユリはどうなったんだい?」
「……」
心臓がドクドクしてる……何なんだこのユキメノコは……返事が返ってこなし、じっと見つめてくるし……
言葉使いは良いつもりなんだけどな……
「雪は好きかい?」
「……コクッ」
ユキメノコは頷いた。
「俺はライ……君は?」
ユメ……
ユメというユキメノコの声は静かで澄んでいた。俺はその声に何だか惹きつけられた……
目を覗くと透き通っていて純粋そうなイメージを俺に与えた。
「ユメというのか……良い名前だと思うぞ」
俺がそう言うとユメは頬を赤らめた。
「で、答えてくれないかユメ……?此処はレイヲン国か?」
「……コクッ」
「ルチとユリは無事か?」
「……?」
ユメは首を傾げる。
「俺とソラが抱えてきたチルタリスとサーナイトだ……」
無事……
「そうか……良かった……」
俺は安心した。ソラとの約束が果たせた……
「ところで……此処はレイヲン国の城内なのか?」
「……コクッ」
「で、城内の何所d「ふぁ~……ぁ」
俺の言葉はソラが目を覚ます声で掻き消された。
「ライ殿……!」
「おはようソラ」
「心配したのだぞ!城の前でライ殿が倒れたときは駄目かと思ったのだぞ……!」
「すまん、すまん……」
「何度同じ様な事を言わせるのだ……」
ソラの頭を優しく俺は撫でてやる。
「そうだ、ライ殿……紹介しよう!妾の親友、ユメじゃ!」
「ソラのし、親友なのか!?」
「……コクッ」
「それだけでは無いぞ」
「まだ何かあるのか?」
「ユメは妾の親友だけではなく、レイヲン国の王女でもあるのじゃー!!」
「本当か!?」
「……コクッ」
ほぉ~ソルベ国王女とレイヲン国王女は親友の仲か……
「妾が雪という物を知ったのはユメのおかげなのだぞ?」
「そうなのか……」
「……」
「話は変わるがルチとユリの様子が見たいんだ。案内してくれないかユメ?」
「……コクッ」
ソラとユメは俺の体から退いた。俺はベットから立ち上がり、ソラとユメと共に部屋から出た。

・・
・・・
・・・・
「あ~あ、退屈だなぁ……」
私は病室の中を見渡しながら言った。
窓から外を見るとあいかわらず吹雪が続いている……何で明日まで安静にしてなきゃいけないのよ~
時計に目をやると午後10時43分……暇だし寝ようかと思って電気を消したけど眠気がしない……
私は仰向けの状態から上半身を起こした。そして溜息をつく……
どうするのかなぁ……今の所、吹雪は止みそうにないし……
此処から出られるのか不安だなぁ……
「ライ、どうしてるのかな……」
昔からライには助けられっぱなしだな……私がまだ幼くて弱かった頃、よく近所の男の子にいじめられてた時、真っ先にライが助けてくれたのよね……
それに私が飛べるようになったのもライがコツを教えてくれたおかげだし、此処まで強くなったのはライが鍛えてくれたからだし……
その上、また助けられちゃったな……ライが自分が弱っているのにも関わらず吹雪の中、私を運んでくれたから私は今、生きている訳だし……
ライ無事だと良いな……まぁあいつの事だから逝くわけ無いけど……やっぱり、不安だな……
「はぁ……」
と二度目の溜息をつく……
そういえば、何時ライの存在が私にとって特別な存在になったんだろう……考えた事が無かったわね~……
…………思い出せないなぁ……でも、あの時何でライは私の告白を断ったのだろう……
その時、ガチャという音がして私の居る病室の扉が開いた。
「ようルチ!起きてたか?」
「ライ……!」
私はライの姿を見た途端、心の中でもやもやしていた不安が消えた。
「急にすまんな……お前の事が心配だったんでな」
その言葉を聞いて私は嬉しかった。ライが私の事を心配してくれてる……!
「別に良いのよ、丁度退屈だったし……♪」
ライは部屋の扉を閉めて中に入ってきて私のベットに腰掛けた。
「そうか、なら良いが……ところで、お前の言葉の最後の♪は何だ?」
「いやいや、何でもないよっ!!あはは……」
ライは首を傾げたがうまくごまかせたようだ……
暗い部屋の中でライと二人きり……そう考えると何だか心臓が高鳴ってきた。
頬が赤くなるのを感じたが部屋が暗いおかげでライには見えてないみたい……
「ね、ねぇライ……」
「何だ?」
「こうして二人きりで暗い部屋に居るとさ……」
「?」
「心臓が高鳴ってこない……?」
「どうしてだ?」
「ど、どうしてって……ライの事が前も言ったけど好k……(!)」
ライは私の口を自らの口で塞いでいた……!
そしてライの口は離れていった……。
「ライ……どうして私の告白を断ったの……?」
「何となく」
「えーっ!何よそれ!?」
「冗談だ」
「……じゃあ、告白を断った理由は……?」
「お前にあの頃の俺は気が無かった事かな」
「じゃあ今は?」
「実はちょっと気になり始めてた所だ」
「本当なの?!」
「まぁな……」
ライは頭を軽く掻く……信じられない……ライの今の発言は私の事が好きと言っているのと同じ意味だ……
「じ、じゃあ私と付き合ってくれる……?」
「答えはノーだ……」
「えっ!どうしてなの!?」
「実はな側近護衛の決まりごとの一つに『仕える王女の許可無くして結婚や付き合うことは禁ずる』と書かれているんだ」
その事実に私は落胆した。ライと今度こそ付き合えるかと思ったのに……
「決まりごとならしょうがないわね……」
「すまないなルチ……」
ライは私を慰めるように頭を撫でてくれた。
「俺はソラとレイヲン国の王と女王に話をしてくるよ」
「うん」
「じゃあなルチ……おやすみ」
「おやすみライ」
扉が閉まると僅かに吹雪の音が聞こえる以外は静かになった。暗い部屋に一人……何だか眠くなってきちゃった。
ライとは側近護衛の決まりで付き合えないのは残念だったけどライが私に気があるのを思い出すと何だか嬉しくなった。
今日は良く眠れそうだなぁ……私は瞼をゆっくり閉じた。

レイヲン国に着いてから2日目の朝、俺は体を揺すられて起こされた。
「ライ殿、朝じゃ、起きて」
「もう、朝か……」
俺は上半身を起こした。そして最近よく目にする顔が現れる。
「おはようライ殿♪!」
「ああ、おはよう……ソラ」
俺とソラは今、客室に居る。
何かまだ眠いのは多分、昨日レイヲン国王と女王の話に付き合わされて眠るのが遅くなったんだなそういえば……
「まぁ楽しかったし、良いか……」
「何の話だライ殿?」
「昨日のこの国の王の話だ」
「うむ、気が付いたら深夜2時を行っていたものな♪」
「何だかやけにごぎげんじゃないか……今日のソルベ国王女は?何か良い事があったのか?」
「何でもないぞ♪」
「そうか……」
今は何時だ?時計に目をやると午前8時19分を指していた。
もうこんな時間か……と考えた時部屋の扉が開いた。
「ライ、起きてる?」
「おはようルチ、すっかり元気だな」
「うん♪」
「お早う御座いますライさん……」
「おはようユリ」
ルチに続きユリも部屋に入った来た。
「何時にこの国を出て竜の国へ行けるのかな~」
「さぁな……今だに続いているしな……」
俺は吹雪が今も続く外を見ながらルチに返事をした。
「ライさん……レイヲン国女王様から聞いた話ですが……レイヲン国周辺は一週間吹雪が起こり、次の一週間は降らないらしいですが
その次の一週間は、また吹雪が起こる……の繰り返しらしいんです……」
「じゃあ、昨日吹雪が始まったという事は今日を抜いて後5日間は吹雪が続くって事か!?」
「そうです……」
「え~……5日間も此処で吹雪が止むのを待つの~?」
「そうなるな……ルチ」
その時、また扉が開いた。そして、そこに立っていたのはユメだった。
「ユメ、どうかしたのか?」
「……」
ユメは何かもじもじしている。
それを見たソラはベットから飛び降りてユメの近くに行った。
「ユメ、妾が言ってやるぞ?」
「……コクッ」
ユメはソラの耳元で喋った。その声はかなり小さく、途中で何度か話が止まったがソラに言いたい事を言い終えたようだ。
ソラは一度ユメと目を合わせて頷いた。
大丈夫じゃ、ライ殿は必ず良いと言ってくれる
「……コクッ」
ソラが何か言ったが俺にはよく聞こえなかった。
「ライ殿」
「何だ?ソラ」
「ユメが妾達に連いて行きたいそうじゃ」
『えっ!?』
俺とルチは同時に驚いた。ユリは静かに微笑んでいた。
「駄目かの……?」
「だってさ、ソラ、良く考えてみろ……ユメはレイヲン国の王女だぞ?!」
「王と女王には許可を貰ったそうだぞ?」
「……なら別に良いが?」
「良かったなユメ!」
ソラはその場で飛び跳ねてユメに抱きついた。ユメは頬を赤く染めた。
「だけど吹雪が続いてるから5日後になるぞ出発は……」
ユメはまたソラにまた何か囁いた。ソラはユメを抱くのを止めてこう言った。
「今すぐ出発出来るそうじゃ」
「でも、吹雪は……」
「ユメが入れば問題ない!」
ルチの言葉にソラは即答した。
「んじゃ、行くか……」
俺は立ち上がり、部屋から出た。
そしてレイヲン国の王と女王に出発するという事を知らせるとユメをよろしくと言われた。
どうやら本当だったようだ……これで不安は取れた。
その後、俺達はユメに連いて行くとレイヲン国城正面出入り口に着いた。
「本当にこの吹雪の中を行くのか?ユメは良いとして俺達は氷タイプという訳でもないし……」
「大丈夫だライ殿」
半信半疑ながらも俺達は防寒着を着た。出入り口の見張り兵が扉を開いた。
「行ってらっしゃいませ」
「……コクッ」
俺達は城の外に出た。途端に吹雪が体に吹きつける。
「ユメ、早く」
「……コクッ」
ソラにそう言われるとユメは右腕を上に上げた。
それから左腕を上げて、しばらく間を空けてからユメは地面に手を置いて何か一言呟いた。
すると急に吹雪が俺達を避けて吹きつけるようになった。
「さぁライ殿、これで飛んで移動が出来るぞ?」
「あ、ああ……」
ソラに言われて俺は首を低くしてソラを乗せる……ルチも俺と同じ様に少し驚いているようだがユリを首に乗せた。
「ライ殿、ユメに連いて行くのだ。案内してくれる」
ユメの体が宙に浮いた。それに合わせ俺とルチも地面を蹴り、飛び立つ。
吹雪が俺達を避けて吹き付けるため、飛ぶのは問題は無いが視界が悪い……が、ユメの姿はハッキリと見える。
ユメは高度を上げる。俺達も高度を上げる……そしてユメは真っ直ぐ進み始めた。俺達も後に続く……
「ねぇ、ライ」
「何だルチ?」
「吹雪の中を飛ぶのって何だか不思議な感じがする……」
「ああ、周りがあまり見えないからな……景色が流れていくのが見えないと自分がちゃんと飛んでいるのか分からなくなるからな……」
俺は少し先を飛ぶユメの後姿を見ながらルチに返事を返した。

―6― 故郷

その後、しばらくすると俺達は吹雪を抜け防寒着を脱ぎ、眼下に広がる森を見ながら飛び続けた。
竜の国、ゼネラ国まであと少しという所で俺はふと、思い出した事がありユメに質問した。
「ユメ、一つ聞きたい事があるんだが?」
ユメは飛びながらこちらに振り返った。
「レイヲン国の軍の総司令官を見なかったんだが何故姿を現さなかったんだ?他の国では必ず見たんだが?」
私がレイヲン国軍の総司令官です……
『ええ!?』
その言葉に俺とルチは驚きの声しか上げられなかった。王女だけでなく総司令官でもあったのかユメは……
「因みに妾もソルベ国軍総司令官じゃぞ?」
「ソラもか!?」
初めて知った……ソラとユメが王女だけでなく軍の総司令官でもあるんだと……
「だったら軍にどうやって指示を出してるの?」
「それは俺も思った……」
「母上が直接指示を出しておる……許可はちゃんと取っておるし、ユメもそうであろう?」
「……コクッ」
「そうなの……でもね、実を言うとこの私、ルチも総司令官なの」
「ルチもそうなのか!?」
ソラは驚きの声を上げる。
「ああ、こいつが俺の前に姿を現した瞬間、俺はその事は悟ったよ」
少し間を置いてからソラが質問してきた。
「確かライ殿とルチは実力が互角だったのではないのか?」
「ああ、最初に俺が総司令官にならないかと王に呼ばれて言われたよ……だけど俺は堅苦しいのが嫌だから断った。
そして結果的にルチが同意してお前が総司令官になったんだよな」
「うん……」
「でも、そのおかげで……ライさんとソラ様は会えたのですね……」
「ユリの言う通りじゃ、そしてユメもライ殿と会えた」
「……コクッ」
「だからってさ、俺以外の此処に居る四人中三人が国軍の総司令官なのに本当に良いのかよ?」
「大丈夫だと思うけど?」
「うむ」
「……コクッ」
お気楽なもんだな……と俺は内心思った。
……ゼネラ国
ユメの言葉に俺達は前を向く……そして視界には久しぶりに見る国が目に入る。
「久しぶりだな……」
そして俺達はスピードを下げて高度を下げ、地面に着地した。
「ソラ……」
ソラはバリアに触れる。いつものようにゼネラ国を覆っていたバリアが粉々に割れて地面に落ちる前に塵と化して消えた。
「よし、行こう」
また俺達は飛び立ち、城へと向かった。

久しぶりに見る街並みを見ながら飛んでいるといつの間にかゼネラ国城出入り口に着き、俺達は着地して中に入った。
そして兵に案内され階段を上って。
やがてゼネラ国王と女王の部屋に着いて兵が中に入り、しばらくしてから兵が出てきて中に入って良いと俺達に伝えた。俺達は中に入った。
「おお、久しぶりだなライ……」
王であるカイリューが席から立ち上がった。その隣の席、女王の席は何故か空いていた……。
「女王はどうしたのですか王?」
「庭園を散歩している」
「そうですか……」
「此処に来たという事はどういう事かは分かっている。軍はもう出発した。
だから君達がソルベ国へ帰るときにきっと会うであろう……それとルチ、軍の指揮は任せたぞ」
「はい、分かっています」
「ライ、ルチが詰まっていたりしている時は助けてやってくれ」
王は軽く俺の肩を叩いた。
「分かっています……」
「さぁライ、ルチ、早く軍に追いつくんだ」
『了解です』
俺とルチは王と敬礼を交わしてソラ達と部屋を退室した。
「ユリ、ソルベ国女王に伝えたか?」
「はい……」
「他の国の軍はどうだ?」
「プロミネンス国軍は既にソルベ国に到着しています……グランド国、レイヲン国軍はあともう少しで到着です……」
「よし、早く行こう!」
そして俺達は城の外へと急いだ……。


続き:深紅の鎌.四


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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