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深紅の鎌.十弐

/深紅の鎌.十弐

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前回:深紅の鎌.十壱



・深紅の鎌.十弐


ー1ー  装飾

「ふぅ〜、温まったわね……」
そう呟きながら歩くルチの後ろを俺達は連いて行く。
「因みにベットは4つ、私達は5人。一人ベットg「妾がライ殿と寝る!」
そうソラがルチの話に割り込むとソラは誇らしげな表情を浮かべる。
対象的にルチは悔しそうな表情をして小さく舌打ちする。
コラ!ルチ、そんな攻撃的な感情を丸出しにするな。
見てみろフュイとフュンを!
まぁまぁ……と間に入ってなだめるなんて何処まで優しいんだ。
「ライ殿は妾の夫なのだからのっ?!」
「そうだな、ソラ」
ソラに賛同を求められたので即答する。
ルチが歯ぎしりならぬ、嘴ぎしりしている内に部屋に到着したらしくルチがしぶしぶと扉を開く……
部屋は落ち着いた雰囲気で壁や天井は薄い黄緑色。
奥は大きな窓ガラス、ゼネラ国の城下町が一望出来る。
天井にはあまり大き過ぎても邪魔なのだろう……程々の大きさのシャンデリアが設置されている。
部屋の左右に2つずつベットが置かれていて、布団はふかふかそうだな……
枕は皆、壁側にある。布団は整えられていてキチンと手入れが施されていると分かる。
「布団にダイブッ!」
ドサッと左奥の布団にダイブするルチ。気楽だな
俺とソラは右手前の布団に入る事にした。
フュイとフュンがそうしてくれると助かると言ったからだ。
「何でだ?」
と不意に聞いてみると
「都合が良いからです。窓から来ても、扉から侵入して来ても
ライ様とソラ様を護れる位置ですので……」
「其処までしなくても……」
「一応です……ソルベ国では無いので」
「分かった」
俺とソラの許可を確認したフュイとフュンは右奥にフュイ、左手前にフュンが布団に入った。
既にルチが寝息を立てているのにはスルーして、と……
俺はベットに横たわり、布団を掛ける。
ソラが布団の隙間からサッと中に入って来た。
そんなソラを真正面で背中に腕を廻して抱いてやる……
「ライ殿、温かい……」
ソラは頬擦りしてくる……俺は頭を撫でてやる。
「おやすみなさい……ライ殿」
「ああ、おやすみ……ソラ」
軽くキスを交わしてソラが瞼を閉じる。
「フュイとフュンもおやすみ……あまり無理するなよ?」
「分かりました……。ライ様、おやすみなさいませ……」
そして、俺は瞼を閉じて意識を遮断するのであった。

天気は快晴、気温は20度前半、風はレイヲン国向き。
まさに俺達がレイヲン国に向けて行くには持って来いな天候だ。
狙っているかとも思える程、好環境だが……
どの道、レイヲン国はほぼ毎日吹雪に包まれている国だ。意味が無い……
「ライ殿?飛び立たないのか……?」
「悪い、考え事をしていた……」
両翼を広げて羽ばたくのと同時に地面を蹴り上げて空へと飛び立つ……
フュイとフュンも同じ様に連いて来る。
「ダブルバトル大会楽しみにしてるわよ〜!」
「おう」
後ろから聞こえて来たルチの声に返事を返して高度を上げて行く……
会議がある為にゼネラ国王の許可が貰えなかった為、ルチは連いて来れない。
大会当日まで一度さよならだ。
「?、フュイ、フュン……そのアクセサリーは何だ?」
ふと、俺はフュイの右耳やや上に一輪の白く綺麗な花が咲いているのに気が付いた……
フュンは左耳だ。
「白幸花です。ソラ様の花束に使われていた花です」
と、嬉しそうに右耳の花を弄る……
「綺麗なのだ、二人共似合っているぞ。ライ殿もそう思うじゃろ?」
「そうだな、似合っていて可愛いな」
「有り難うございます……」
フュイとフュンは照れくさそうに頭を掻く。
「ソラ様も似合うと思うのですが……」
フュイがそう言い、白幸花を二輪取り出す……
ソラが首を傾げているとフュイは二輪の花を交差する様に絡めさせて髪留めが出来上がった。
「どうぞ、ソラ様……」
「すまぬ、有り難うなのだ」
フュイが差し出した髪留めをソラは嬉しそうに受け取る。
ソラは右耳のやや上に二輪の白幸花で出来た髪留めを留めた。
「ふふっ……やはりソラ様は似合っていますよ」
「確かに、ソラ可愛いぞ」
「そ、そうか……何だか恥ずかしいのぅ」
笑顔になる俺達は雪が振り始めたのに気が付いた。
防寒具は着ているが気温が下がり始めている。レイヲン国の領域に入った様だ。
「本格的になる前に飛ばして行くか……」
「そうですね、行きましょう」
両翼を大きく広げて羽ばたき、俺達はレイヲン国に向けて加速した……

ー2ー  吹雪の姫

雪は降り注ぎ、やがて白銀の世界を創り出す……
吹雪と化した雪は飛行中の俺達の視界を悪くし、寒風を齎す……
方向感覚を失わない様に白銀の木々の上のスレスレを飛んでいる。
間もなくレイヲン国に入る筈だ……
吹雪が更に強くなる中、俺達は更にスピードを上げて行く……
「そろそろだ、気をしっかり持てよ?」
俺とソラは一度来た事がある為、ある程度この吹雪に慣れているが
フュイとフュンは初めてレイヲン国に来た訳で結構身心に来ている様だ……
「城が見えたぞライ殿」
背中のソラの言葉に視線を上げると俺達はレイヲン国の城下町に入った様だ。
「フュイ、フュン減速だ」
あっという間に街の家々が過ぎて行く程のスピードを出していた俺達は両翼を広げる。
そして、丁度良くレイヲン国城前に着地した。
門番と思われるツンベアーとマニューラが歩み寄って来る。
「ソルベ国王陛下にソルベ国女王陛下では無いですか!」
「お寒いでしょう、とりあえず中へお入り下さい……」
門番が門を開けて、俺達が中に入ると門が閉まる。
「ユメに会いに来たんだが居るか?」
少し震える声で尋ねるとマニューラが
「すぐに呼んで参ります……」
と、風の様にササッと走り出した。素早く階段を登って行くマニューラを見て、
「自分は毛布を取って参ります」
俺達が頷くとツンベアーは走って去って行った。
寒そうにしているソラ、フュイとフュンを抱き寄せる……
「ライ殿っ!?」
「あぅ、ライさん!?」
「毛布が来るまで温め合おう……」
俺は両翼を広げて左右のフュイとフュンの背中を覆い、その間にソラを挟み込む。
フュイとフュンも両翼を広げて温め合う……
濡れた体が触れ合って最初はビクッと反応するソラ達だったが今は慣れて抱き合っている。
「ライさん顔が近いです……」
フュイ、フュンと顔の高さが一緒でこの体勢だと三人の顔がお互いに近くなってしまう事に気が付いた。
「我慢してくれ、下手に動いても事故が起こるぞ」
「事故ですか?どういうじk……(!)」
俺の言葉の意味を理解したフュイとフュンは顔を真っ赤に染め上げる。
「ライさん、そんな事想像させないで下さいよっ!」
もじもじするフュイとフュンは中々、可愛いと感じた。
ソラは俺のお腹に抱きつきながら今の会話を楽しそうに聞いている。
「楽しそうじゃの、フュイ達なら妾の幸せを分けてやっても()いぞ」
そう言ってソラはウインクする。
フュイとフュンは口をパクパク動かして更に顔を赤らめる。
「冗談抜きじゃ、今はさすがに……じゃ。後々頑張ると()いぞ」
「有り難うございますソラ様!」
フュイとフュンはペコリと丁寧にお辞儀する。
待て待て、俺は状況が飲めていない。ソラ、どういう意味だ?幸せのお裾分けって……?
ソラに疑問の視線を向けるが悪戯な微笑みを返されるだけだ……
「訳が分からん……」
「いずれ分かる、気にする必要は無いのだっ」
ソラに頬をキスをされる。
「正直、他の皆も()いのだ。ライ殿が妾を愛する事を忘れなければ……」
「?」
俺はただ、首を傾げるしか無かった。
「お待たせしました!毛布をお持ちしました」
「おう、有り難う」
ツンベアーから毛布を4枚受け取りソラ達に手渡す。
その際、フュイとフュンの手が俺の手に触れて慌ててフュイ達は手を引っ込めた。
「ご、ごめんなさい……!」
「?」
頬を赤らめるフュイとフュン。
とりあえず、俺は毛布を背中に掛けてやる……
「すみません……ライさん」
ツンベアーは先程から俺達の様子を伺っていて話し掛けずらそうだ。
「どうした?」
「いえ、何か他にご用は有りますか?何でもお申し付け下さい」
「特に……大丈夫だな、配置に戻って良いぞ」
「了解です」
ツンベアーは一礼して門を開けて外に出て行った。
ライさん、お久しぶりです……
不意に振り替えると階段を一人のユキメノコが下って来た……
そう、彼女がユメ。ソラの親友と同時にレイヲン国の王女でもある……
「ユメ、(ひさ)しいのぉ!」
「ソラっ!」
階段を下って来たユメとソラが互いに走り寄り、抱き合った。
ふふ、相変わらず元気ですねソラは……
「ユメも元気そうで何よりじゃ……」
さ、ソラもライさん、フュイさんとフュンさんも此方へ……
私の部屋でゆっくりしましょう……
「うむ、そうしようぞ。温かい物でも飲みたい……」
ええ……お身体が冷えている事でしょうし
こうして俺達はユメに連いて、部屋でゆっくりする事になった……

「温まるな……」
「うむ、中々丁度良いコクなのだ……しつこく無く、スッキリしておる」
「有り難うございますユメ様」
いえいえ……こんな吹雪の中、会いに来て下さったので当然の対応ですよ……
優しく微笑むユメ。
俺達は今、ユメの部屋でココアを頂いている所だ。
吹雪の中を突っ切って来た後だけに物凄く有り難い……
「今日は何か用があって来られたのですか?」
「久しぶりに会いたいなって……
軽い気持ちで来ただけだ堅苦しい事で来た訳じゃない」
そう俺がさらっと返事をするとユメは微笑んだ。
有り難うございます
「礼を述べる程の事では無いのだ」
いえ、一人は寂しいですから……話相手が居ると嬉しくて……
ユメも寂しいと感じる事が有るんだな……
まぁ、一人で暮らすのは何かと寂しいのはよく分かる気がする……
「ユメ、もう一杯頼むのだ」
了解です
ソラのコップにユメがココアを入れて上げているのを見て、ふと疑問に思った。
「そういえばユメはココア飲まないのか……?」
先程から自分は飲まずに俺やソラ、フュイとフュンのココアの量が減ると
ココアを足すだけで自分は飲まない……
体が体ですので……冷えたココアは飲みますが今別に良いので……
「そ、そうか……」
お気遣い有り難うございます
「あ、ああ……」
俺は照れ隠しに自然に頭を掻く……
「ところで……」
フュイが口を開く。
「ユメ様はダブルバトル大会にご出場なさると仰ってましたが何方とペアを組んだのですか?」
私の側近護衛の一人とです。彼女とは気が合うみたいで……
女性側近護衛と……組んだのか。
そういえば俺も元は側近護衛だったな……
昔が懐かしく思えて来る……とは言っても数年前の話だが。
「俺は少し強引に任命されたんだよな?」
ソラに振ってみると
「ご、強引で悪かったのだ……」
「まぁ……良いけどさ」
額を撫でてやる。
彼女は側近護衛に任命される程の実力を持っている事をお忘れなく……
「分かってるさ、大会で当たったらよろしくな」
はい……楽しみにしています
久しぶりの大会出場がこうも強敵揃い……
鍛えてやったとはいえ、ソラは大丈夫だろうか?
「ユメも大会に出るとなると……妾、大会が更に楽しみになったのだっ」
ニコッと微笑むソラ、ヤル気は十分だな。これなら心配無いかもな……
俺達は夜まで雑談を続けるのであった……

ー3ー  雷空の……

吹雪が止んだ夜のレイヲン国城前に俺達は居た。
吹雪が収まった様です。今の内にお帰りなさると良いかと……
「そうだな、そろそろ戻るか……」
「また、吹雪が起こったら数日間は降るからのっ」
「ユメ様、有り難うございます。お話出来て楽しかったです……」
ペコリとお辞儀をするフュイとフュン。
いえいえ、私の方こそ皆さんと話せて楽しかったですよ
「では、そろそろ参ろうか……ユメ、大会当日にまた会おうぞ!」
姿勢を低くした俺の首に乗ったソラはそう別れの言葉を述べる。
俺とフュイ、フュンも別れの言葉を掛けながら飛び立つ。
ユメは笑顔で見送ってくれた。両翼で羽ばたき、どんどん進む……
レイヲン国の城下町が通り過ぎて森の木々が眼下に広がる。
ユメは俺達の姿が見えなくなるまで城の前で手を振っていた……

「お帰りなさいませソラ様、ライ様、フュイさん、フュンさん」
「ただいまなのだっ♪」
夜の闇の中、飛んで来てソルベ国城前に着地した俺達をユリが迎える。
相変わらずのメイド服だが似合っている……
「アイツは?」
「そろそろだと思いますが……」
「とりあえず中に入るか」
門番が頭を下げ、門を開く……
俺達はソラと俺の部屋へ向けて歩を進める……
「大会の準備の方は?」
「順調に進んでいますよ……明日完成予定です。明後日の本番には間に合うかと」
「ライ殿、楽しみじゃの!」
「まぁな」
俺はソラの頭を撫でてやる……
と、俺達の部屋に着いた。扉を開けて中に入ろうとした瞬間だった!
バタッと扉が勝手に開いたかと思えば何かが俺の胸に飛び込んで来た。
あまりに急な事で俺は体勢を崩して後ろへ倒される……
押し倒された俺はしばらく視界がぼやけていたが見覚えのある顔の輪郭でハッと我に帰る。
蘭雨(ランウ)!?」
俺は目の前の、ソラと比べると小柄なアブソルにそう言葉を掛ける。
「そうぢゃ、父上(・・)蘭雨(ランウ)が学校の合宿から戻って来たのだっ♪」
と言ってランウは抱き付いてくる。
「父上、ただいま!」
「お帰り、ランウ」
頬擦りしてくるランウの頭を撫でてやる。
「早く着いた様じゃな、ランウ」
「うむっ、母上(・・)!」
そう、この小柄なアブソル……蘭雨(ランウ)が俺とソラの間に生まれた()だ。
「それにしても驚いたな……まだ帰ってないと聞いていたが?」
「ランウ様が驚かせたいから内緒に……と頼まれましたので……」
ユリが少し申し訳なさそうに頭を下げた。
「別に頭を下げなくて良い、悪戯好きのランウらしいからな」
そうユリに声を掛けつつ、軽くランウの頭を叩くと舌を少し出して、てへっとランウは笑った。
一ヶ月振りだな、この無邪気な笑みを見るのは……
とりあえず、部屋に入ろうとしたがランウは俺に覆い被さったままだ。
押し倒されている俺は
「ランウ、部屋に入るから退いてくれ」
と、声を掛けるがランウは抱き付いたままだ。上目遣いで何かを訴える。
甘えん坊なこの娘の事だ……一ヶ月振りに父上に会えたから、このままで居たいのぢゃ!
とでも言うつもりだろう……
しょうがないな……母親に似て、寂しがりだからな。
俺はランウが抱き付いたまま立ち上がった。
「ランウ、あまりライ殿を困らせるで無いぞ?」
「分かっておる、母上」
左腕をランウの腰当たりに廻して支えてやる。
ユリが扉を開き、俺達は中に入る。
時刻は午後11時過ぎだ。
「そろそろ寝るか……少し疲れた……」
「妾もだ、ライ殿」
「母上、一緒に眠って良いかの……?」
「うむ、構わぬ」
「それでは、私とフュンは部屋の外で待機していますね」
ユリは既に他の仕事で居ないので部屋には俺とソラにランウ、フュイとフュンが残っていた。
フュイとフュンは見張りに就こうとするが、俺はフュイとフュンを呼び止める。
「今日はもう疲れたろ?今夜は休んで良いぞ」
「しかし、ライさん……私達は側近護衛なn」
「あまり無茶はするなと言ったよな?疲れを溜めるのは良く無いぞ
良いから、今日は体を休めろ……、な?」
「ライさんが仰るのなら……有り難うございます。ライさん」
フュイとフュンはペコリと頭を下げて部屋を退出した。
直後に俺とソラは同時に欠伸をした。
「父上と母上ったら、寝る時だけでは無く、欠伸まで一緒なのだなっ!」
ランウの言葉に俺とソラの視線が交わり、互いに頬を赤らめる。
「い、良いから寝るぞ、もう遅い時刻だならな」
「う、うむっ……そうじゃな」
誤魔化すように布団に潜り込む俺とソラを見て、ランウはクスクス笑うのであった……

「もう、朝か……」
「そうですよライさん……朝です」
目を擦り、瞼を開くと起こしてくれたフュイとフュンが視界に映る。
『あっ……』
間近でお互いに視線が合って、頬を赤くする。
視線を逸らすと左隣にはランウを間に挟んでソラが寝息を立てていた……
こうして見ていると当たり前の事ながら親子だなと感じた……
すやすやと静かな寝息を立てるアブソルと小さなアブソル。
二人共、幸せそうな表情を浮かべて俺に寄り添っている……
ソラはフュイとフュンに貰った髪留めをしっかりと付けていた……
「昨日はちゃんと休めたか?」
再びフュイとフュンに視線を映すとハッと我に帰る二匹のボーマンダ。
「はい、おかげ様ですっかり疲れが取れました……」
フュンも頷いた。
「そうか、良かった」
窓ガラスに目をやると天気は晴れ、ぽかぽかとした温かい気温で、時刻は午前7時過ぎだ。
「本番は明日か……ソラと練習でもしてみるか」
「そうですね、いよいよ明日開催予定ですからね……」
強敵揃いになるであろう今年のダブルバトル大会。
ソルベ国王として少しでも鍛えなければ……そう考えて居ると……
扉を軽く叩く音がして
「……失礼します」
小さな声が聞こえて俺とフュイ達が振り替えると先日会った新米のイーブイのメイドが扉から顔を出した。
「あの……、お食事の準備が出来ました……」
前に会った時よりは緊張は和らいでいる様だが何処となくドキマキしている様だ。
「分かった、ソラを起こして向かう。下がって良いぞ」
「そ、それでは、失礼しました……」
ペコリと頭を下げてイーブイは部屋を退出した。
さてと、ソラを起こそう……かな……
ん~……ライ殿っ……ら…ぇ
やれやれ、相変わらずだな……現実(リアル)だけで無く(ドリーム)の中でも俺の事を愛しているんだな、こいつ。
別に愛してくれるのは良いのだが人前ではさすがに……
ほら、やっぱり……振り替えると頬を赤らめたフュイとフュンと視線が合う。
「あっ……」
サッと恥ずかしそうに視線を逸らすフュイとフュン。
いや、俺が一番恥ずかしいのだが?!妻がこんな事を呟いているだなんて、どんな公開処刑だよ!?
互いに黙り込んでしまう嫌な空気が出来てしまった。
だが、すぐにその空気は楽しそうな元気な声で破り捨てられる……
「さすが、父上と母上ぢゃな!ラブラブぢゃの……!」
「なっ!?」
いつの間にか目を覚ましていたランウがクスクスと笑う。
「ランウ、父親をそんな風にからかうんじゃない……」
気まずい空気を潰してくれたのは助かったが、からかうのは親として注意しなければ……
俺が軽く睨むとランウは口を閉じた。
「ごめんなさい、父上……」
素直でよろしい。
「おい、ソラ起きろ」
「ふみゅぅ……?」
体を大きく揺するとソラは聞いた事の無い声を漏らして目を覚ます。
「おみゃ……よう?ラぁイ殿」
「意識をしっかりと持てソラ、寝ぼけてるってレベルじゃないぞ……」
娘よりだらしないぞ……
そんなソラの頬を2、3回軽く叩くとハッと我に帰るソラ。
「ら、ライ殿!?これはその、寝ぼけてて……」
ソラは寝癖で頭のてっぺんに3本の毛が立っている……
「分かってるよソラ」
頭を撫でてやり、わたふたとするソラを落ち着かせる。同時に寝癖を直してやる……
「朝食だ。行くぞ?ソラ」
「うむ……」
クスクスと微笑むフュイとフュンを連れて、俺とソラ、ランウは部屋を後にした……

ー4ー  大祭前の一騒ぎ

風が吹き付け、辺りの森の木々や原っぱの草むらがざわめく……
それなりに広い原っぱの丁度中央には互いに戦闘体勢に入った2人が見つめ合う。
「思えばライ殿と戦うのは始めてじゃの」
「そうだな、常に俺はお前を護る側だったからな」
風に靡いているソラのサラサラとした白毛が陽によって輝きを放つ……
まるでソラ自身が輝いているかの様だ……
「父上も母上も負けるな~!」
「ランウ様、お二人が戦う訳ですから何方かは負けますよ」
フュイに指摘されてランウは頷く。
「うむ、そうぢゃな……何方を応援するか迷うのぉ……」
ランウがそうこう言っている内に戦闘は既に始まっていた。
ソラは鎌を振り下ろし、サイコカッターを発動して俺は回避に移る。
回廊行動を狙っていたらしいソラは分身を作り出してサッと素早く間合いを一気に詰めてくる!
2人のソラは交互に鋭い爪を振り上げ、下ろしてくる!
切り裂くの連続攻撃を交わしながら俺はエネルギーを集束させて
竜の波動を発動するタイミングを伺う……
と、同時に回避しながらも竜の舞を積み、自らを強化していく。
いつの間にか現れた3人目のソラは俺が気が付いた時には既に遠距離から冷凍ビームを放っていた!
攻撃を守るで防ぐとシャドークロー、シャドーボール、火炎放射の連続攻撃が続け様に放たれるが
当たらなければ意味は無い。
俺は既に上空に飛び立ち、攻撃を避わす。
そして、予め溜めていた竜の波動を3人のソラへ向けて薙ぎ払う様に放つ!
分身しているとはいえ、纏めて攻撃されれば意味は無い。
「あぅっ!?」
攻撃は見事に当たり、分身が消えると同時にソラは爆煙に包まれる……
数秒間ソラの姿が見えなくなり、一瞬辺りに静けさが広がるが
続け様に発生した爆発音で掻き消される。
恐らく分身したと思われるソラはシャドーボールを巻き込まれない程度に
地面に向けて連射して土埃を上げている……
黒煙の様に視界を奪う土埃はだんだんと広がっていく……
成る程、これなら土埃の何処からでも攻撃を仕掛けられる。
土埃には軽い土も混ざっているのと範囲が広く、両翼で強風を送ってみても効果は無かった……
辺りに警戒し、身構える……元々、フライゴンという種族は砂嵐が吹き荒れる砂漠に生息している為
土埃の中でもある程度は視界が確保出来るが戦闘には大きな影響を及ぼしていた。
「!」
突然、360°彼方此方から仕掛けられるサイコカッターや冷凍ビームを俺は辛うじて避けていく……
と、2人のソラが前と後ろから現れた。
大抵、この場合後ろの奴が本物という事がよく有るパターンだが……俺は別のパターンを予想した。
きっとこれで来る!
前の分身がシャドーボールを放ち、後ろのソラがギガインパクトを発動する。
俺はわざと(・・・)、本当に避けれなかった様にシャドーボールを喰らうと狙い通り爆煙で俺の姿が隠れる。
後ろのソラがギガインパクトで急接近してくるのを竜の波動で潰す!
やはり、本物に見せかけた分身(ダミー)だった。
ソラは今の攻撃で爆煙の中の俺の大体の位置が分かった筈だ。
その場に俺は分身を置いてサッと後ろへ下がると入れ替わりに爪とぎを積んでいたと思われる
本物のソラが飛び込んで来て分身の俺にシャドークローを振り下ろすと地面に鋭い爪痕が刻まれた!
そう、俺は分身を囮にするのには分身を出す瞬間を見られては駄目だと判断し、
わざとシャドーボールを喰らって爆煙でソラの視界を奪ったのである。
「しまっ……」
俺の考えた通りに動いてしまったソラは隙だらけ……
「動きは上達したな、ソラ」
ソラの背後から腕を廻して組み込み、ソラの体を拘束して毒毒を発動した爪を首元に突きつけた……
「あぅ……やっぱりライ殿には敵わぬ……」
頬を赤らめるソラ。
同時に土埃が消えて勝負がついた事がフュイとフュン、ランウに伝わる。
「どうやらライさんが勝ったみたいですね」
「母上、昔より強くなっていたの!」
ランウ流の励ましを受けてソラは笑顔を返す。
俺は毒毒を止めて拘束を解く……
「大丈夫かソラ?怪我は……無いか?」
「ライ殿が手加減していたから怪我はする筈無かろう……?」
ニヤリと笑うソラ。
「分かってたのか?」
「ライ殿にしては直撃させて来ないからなっ!もぅ……ライ殿の馬鹿っ」
笑顔で俺の頬を指で軽く突っつくソラ。
「まぁ、そりゃあソラ相手に本気は出せないさ……」
無意識に頭を掻く俺を見てソラは抱き付いて来た。
「妾の事が好きだからかのっ?」
悪戯に笑顔を浮かべるソラを見て否定は出来なかった……
無意識に赤面になった俺を、ソラは嬉しそうに見つめてくるのであった……


ユリ「十弐話終了です……」
ソラ「ライ殿、妾は緊張して来たのだ」
ライ「遂に明日だな……」
ユリ「ライ様とソラ様ならきっと大丈夫ですよ、ですよねフュイさん?」
フュイ、フュン「そうですね、お二人なら行けますよ」
ランウ「父上も母上も頑張るのぢゃ!」

次話、いよいよダブルバトル大会です。
続き:深紅の鎌.十参


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Last-modified: 2011-07-10 (日) 00:00:00
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