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深紅の鎌.十壱

/深紅の鎌.十壱

前回:深紅の鎌.十
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・深紅の鎌.十壱


ー1ー  愛妻

「良い?ライ。運命の相手はどんな障害が立ちはだかっても
愛して、護ってやりなさい……分かったわね……?」

そんな母親の言葉が脳裏に横切る。
俺はその言葉を守り、これまでもこれからもそのつもりだ。
と、眼下に視線をやると……
風で穏やかに揺れ動く木々の中に野原を見つける……
見覚えのある野原だ。何故なら此処は彼女と出会った場所……
そして、見つけた……
「な、言ったろ?此処に居るって……」
大空を飛ぶ俺の両脇を同じ様に大きい翼を広げて飛んでいるボーマンダ、フュイとフュンに話し掛ける。
「さすがですね、ライさん」
フュンも首を縦に振って同意する。
「まぁな」
俺達は両翼を閉じて急降下し始める。
一瞬景色がぼやけるが直ぐに元に戻り風を全身に浴びながら降下する。
そして十分に地面が近付いて来た所で両翼を広げて何回か羽ばたき減速してサッと地面に着地する。
野原の端に降り立った俺達が視線を上げると大きな桜の木が目に入る……
あの日は気が付かなかったが野原の中央にはそびえ立つ様に大きな桜の木が一本。
幹は太く、俺の両腕を伸ばしても幹を一周するには数十人必要だろうか……
とにかく大きく、太いのだ。
確かソルベ国の古本「地理とその歴史」という埃を被った分厚い本によるとこれは……

大恋木
樹齢1000年余りの木で、ソルベ国の女王を運命の人と結びつける力があるのだという……
また、恋が上手く行くという言い伝えもあって、週末にはカップルで賑わうらしい。

実際、俺と彼女も此処で会った訳だし……
因みに彼女の母親、元女王も若い頃此処で夫となったウィンディに会ったらしい……
と、まぁ話が逸れてしまったな……
現実に意識を戻すと大恋木が風で桜の花びらを散して花びらの舞ならぬ花びらの雨を降らしていた……
その綺麗なピンク色の花吹雪の中、白い毛をなびかせているのが……
ソルベ国・現女王「(ソラ)
俺の良き妻だ。相変わらずドキッと来るのがあるな……
いつもにも増して美しく見える我が妻の背を見て思わず赤面になっているのが分かる。
「私達は控えていますね……」
「ああ……助かるよフュイ、フュン」
俺はソラに向け、歩を進め始める。
一歩、また一歩と近づく度にソラの綺麗な毛の一本一本が鮮明に見える。
サラサラと綺麗に輝く……
風でサッーと再び髪が揺れた時、俺の手がその美しいアブソルの肩に触れる……
「ライ殿……!」
ソラは振り返り、微笑んだ。
「そういえば今日で結婚1周年だったな」
「そ、そう……なのだ。覚えていてくれたのかライ殿」
嬉しそうに笑顔を向けてくれる
そんなソラが可愛くて俺は頭を撫でてやる。
「忘れる訳が無いだろう?今日は特別な日だからな」
「うむ……」
ソラは心地良いらしく俺に身を任せて撫でられている。 
「……でも」
ポコッとソラの頭を叩く。
「勝手に城を出て散歩するのは駄目だ。
何かあったら大変だからな?現、女王なんだからな?」
「ふぁい……」
「さ、城へ帰るぞソラ」
「うむっ」
俺が合図を送ると素早くフュイとフュンがやって来る。
「お話は済ませましたか?ライさん」
「大丈夫だ」
「それでは戻りましょう……」
俺は身を屈めてソラを背中に乗せた。
バサッと両翼を広げて大きく羽ばたく……
同時に地面を蹴り上げ、俺達は飛び立った。

両翼を広げて高度を取り、時々羽ばたく……
風に乗り、桜の花びらが大空を飛ぶ俺達の周りをふわふわと飛んでいる。
それは見渡す限り彼方此方で同じ事が起こっている。
綺麗だ……
今日はソラが妻になって丁度一年。
とは言っても国中お祭り騒ぎという事はしない……
その資金は国民の為に使うのだ。其処がソルベ国の評判が良い理由の一つ……
「……ライ殿」
「何だ?」
「ど、どうしてこうなったのだ?……」
ふと視線を胸元に向けると俺にお嬢様抱っこされているソラが赤面になっているのが分かった。
「飛びたった時は妾はライ殿の背中に乗っていた筈なのに……こ、ここれはどういう事なのだ!?」
「俺達は愛しあっている者同士、何か問題か?」
「そ、それはそうだが……」
と、もぞもぞするソラに追加攻撃してみる。
「嫌なのか?」
「嫌では無い……!」
ソラは急に力を入れた口調になって顔を近づけてくる。
だが、すぐに我に戻り顔が近い事に気がついてボッと頬を赤くする……
忙しい奴だな、まぁ其処が可愛くて良いのだが。
「はいはい、ソルベ国城まで少しだから大人しくな?ソラ」
「うむ……」
何だか物欲しそうな声でソラは返事をする。
その傍でフュイとフュンがクスクスと笑う。
既にソルベ国の上空に入っていた俺達は城の最上階近くに
位置するソラと俺の部屋に向けて進路を取る。
そして速度を下げて窓から中に入って着地した。
「お帰りなさいませライ国王様にソラ女王様……」
入って早々に声が聞こえて、ソラを下ろしつつ視線を上げると……
声で既に分っていた。
「その呼び方は辞めてくれユリ」
「そうでしたねライ様」
そう返事をしながらメイド服を着たユリが45°に上半身を倒してキチッとお辞儀する……
ユリはソルベ国城に勤めるメイドの纏め役(リーダー)だ。
新米のメイドにも丁寧に優しく礼儀や作法を教えている。
元々はソラの世話役だったのだがソラが女王になった今、その仕事は必要無くなり……という訳だ。
「新米の指導は順調か?」
俺はソラとソファに腰掛けながらそう尋ねると
「はい、上手くいっております……皆、良い子ばかりです」
「そうか、良かった」
「ユリは今の仕事に満足しておるのかの?」
「勿論です。特に新米さん達を育て上げるのが我が子を育てる様な感じで……
話も結構合いますし、毎日賑やかですよ」
そう言ってユリは微笑んだ。
確かにユリの様な優しい雰囲気を放つ上司なら接しやすいのだろう……
「ところで例の大会は準備の方は進んでいるのかの?」
「はい、今は材料確認等が終わった所ですね
今日の内に組み立てに入るそうです」
例の大会というのは我がソルベ国主催の参加条件無しのダブルバトル大会の事だ。
毎年1回、春の終わり頃に開催される。
参加人数無制限、参加者は二人一組で組んで抽選で選ばれた他のペアと戦う。
負ければ即リタイア、勝ち続けて優勝を目指すのだ。
参加条件が無い為、あらゆる国から参加者が集まる。因みに国王等でも参加出来る。
また参加人数も無制限なので毎年、数日掛けて行われる。
因みに俺は過去に一度、ソラと出会う前にルチと参加した事がある。
その時は激闘の末、決勝戦で惜しくも負けて2位だった……
そして今年、2回目の出場をしようと思うのだ「我が妻」と!
俺が側近護衛だった頃のソラと今のソラは違う。
日々、特訓したからな……今のソラなら俺とほぼ同等の力を持っているだろう。
「大会当日はあの二人も来るのだろうな……ライ殿」
「恐らくな」
あの二人、ルチとユメは軍の総司令官
ユメにかぎっては王女という事情が有って二人共、国に戻っている……
それでも時々顔を出しに来る。
この前はルチとまた戦った。まぁ俺が勝ったけど……
ユメとはソラも混ぜて雑談した。レイヲン国は上手くいっているか?等を聞いた。
今の所は特に問題無いらしい……その他の話題でも盛り上がった。
「そういえば彼奴らも来るのか……?」
「?、誰の事だライ殿……?」
「フィカ達だ」
「ああ、フーディン20人兄弟か……来るのではないのかの?
毎年参加しておるし……」
「だよな……強敵揃いだな」
難しい顔になる俺を見てソラも唸る。
「うむむ……確かにそうなのだが妾とライ殿のペアなら大丈夫!」
ニコッと無邪気に微笑むソラにドキッと来てしまった。
「そうですねライ様とソラ様なら少なくとも上位は確実ですね……」
ユリの言葉にフュイとフュンも頷いた。
「ライさんは昔から強かったですからね」
そうフュイに言われて俺は軽く照れる。
と、部屋の扉をノックする音がして
「し、失礼します国王陛下、女王陛下……」
扉を開けて入って来たのはメイド服を着たイーブイだ。
「お食事の準備が整いましたっ、ご案内致します……」
緊張しているのか少し落ち着かない様子でイーブイは報告する。
どうやら新米メイドの様だ…… 
「そんなに緊張しなくて良いですよ、もっと落ち着いて冷静に……
ソフトな笑顔を忘れずに……」
ユリは優しく微笑んで見せる。
その包容力のある優しい雰囲気に幾らか緊張が溶けたのか
今度は自然な笑顔を浮かべてイーブイは「此方です。」と先導し始める。
俺達は食事を取る為、部屋を後にするのであった……

ー2ー  仲間達

俺は両翼を広げ、風を捉える。天気は曇り、気温は丁度良い位だな……
時折、涼しい風が吹く……
その度に大恋木とその周りの木々から桜の花びらが大空へ舞っている。
今は丁度、その上を通っていて桜の花びらが俺達を包むように周りをふわふわと浮いている……
「やっぱりそういう力が有るのでしょうか……?あの大木には…… 
花びらが御二人の周りに特に舞っていますね」
フュイの言葉にフュンが頷いて同意する。
確かに俺の左右に並んで飛んでいるフュイとフュンの言う通りかもしれない。
やけに俺とソラの周りに花びらが舞っている……まるで護る様に……
因みに何処へ向かっているかというとゼネラ国、次にレイヲン国だ。
昼食時に久々にルチとユメに会いに行こうと話になったのだ。
前回会ってから結構経ってるしな……
此方から会いに行ったら驚く事だろう……
順番はゼネラ国の方がレイヲン国より近いので……といった理由だ。
「ところでだ……ライ殿」
不意にソラが口を開く……
「何だ?」
「正直、恥ずかしいのだがライ殿……」
と、本日二度目のお嬢様抱っこ飛行を実行されているソラが頬を赤らめる。
「そんなに人目が気になるのか……?」
左右に並んで飛行中のフュイとフュンの事である。
「べ、別にそういう訳では無いのだが……」
「無いのだが……?」
とうとう我慢出来なくなったという様子でソラは大声で
「か、かか顔が近いのだ……!緊張で心臓が裂けそうなのだ!」
と顔を真っ赤にしてそう訴えた。
そんなソラがあまりに可愛くて悪戯してみる。
「ひゃあっ!?」
手をソラの胸に当ててみると確かに心臓が張り裂けそうな程、高鳴っていた。
今の行動で更に早くなった気がする。
「ライ殿のバカぁ……」
ソラは俺の腕の中で頬を赤くして俯き、小さく呟く。
傍でクスクスとフュイとフュンが小さく笑う。
午前と同じ様な展開だな。

対して時間も掛からず俺達はゼネラ国の上空を飛んでいた……
ソルベ国とゼネラ国は飛べば差程距離は無いからな……
曇り空が広がっていて今にも雨が降って来そうな感じだ。
「あれじゃないか……?」
「うむ……寝ておるな」
様々なドラゴンポケモンの石像や装飾が施されたゼネラ国城。
その裏側に広がる庭園の花や木々の中、少し大きめの池近く……
大きな桜の木の根本で白い綿が風で揺れていたのだ。
間違い無いだろう……綿の真ん中からは三本の蒼い羽が飛び出す様に覗いていた。
俺達はそっと近付き、着地する。
よく見ると綿の傍にALBUMと書かれたアルバムが開いた状態で落ちていた。
これは……開いているページにはチルットとビブラーバ……
俺とルチが写っていた。
ページを廻ると懐かしい写真が沢山出て来て昔の事を思い出す。
だが、例の事件の直後の写真に写る俺は何処か寂しそうな顔をしているのを感じた……ルチも同様だ。
しかし、今こうしてその二人の娘は傍に居る……
フュイとフュンは居るのだ、思い出す事は無いだろう。
今はそういう時では無い、そう考えると俺は自然にフュイとフュンの頭を撫でていた。
「嬉しいですライさんっ……」
フュンも頷いた。
ソラはというと熱心にアルバムを眺めていた。
時折、俺の写真を見て微笑むソラの横顔が無邪気で妙に可愛らしかった。
と、目的をすっかり忘れていたな……
白い綿、ルチ……アルバムを見ている内に眠ってしまったのであろう彼女には……
定番(いつも通り)の起こし方がある。
「ライ殿、またやるのか……?」
「勿論……だ」
ソラはアルバムを見ながら話し掛けて来る。
因みに俺は即答した。フュイ、フュンと昔に約束したやり方だからな……面白いし
早くもフュイとフュンがクスクス笑っている。
「じゃ、早速」
俺は両手で池から水をすくい上げて眠っているルチの元に戻って来た。
「因みにライ殿、何処に掛けるのだ……?」
「首筋だ」
フュイとフュンが綿を掻き分けて首筋を無防備な状態にする。
直後に庭園中に情けない声が響いたのは言うまでも無い……

「ち、ちょっと何するのよ!」
バッと立ち上がったルチは怒っていた。
当然それを狙っていた訳で……
「誰がこんな……こ…と」
振り返ったルチと俺の目が合う……
ルチはニコニコと笑顔を浮かべる俺とソラ……
次にその後ろでクスクスと静かに笑っているフュイとフュンの順番で視線を移す。
……それから口を大きく開けt
「何でアンタ達が此処に!?」
文字通り、目を丸くして見つめて来る。
ルチはふと、思い出した様にオロオロと木の根元で何かを探し始めた。
「探し物はこれじゃろ?」
ソラがアルバムをほれほれと、からかう様にチラつかせる。
「あっ!?返しなさいよ!」
アルバムを取り返そうとジュワッとダイブしたルチは地面に顔から突っ込んだ。
何故ならソラがアルバムを掴まれる寸前に引っ込めたからだ。
「うむ、前の貸しはこれでチャラじゃ」
ソラが指でアルバムを指す。
てか、貸しって……何やったんだルチは?
「それだけは御勘弁を!ソラ女王陛下っ」
いきなり改まった口調だな、おい……何かの漫才を見てるみたいだな。
「ならばゴニョゴニョ……
ソラがルチの耳元で何か囁くとルチは仕方なくという顔で頷いた。
という流れでアルバムはルチの手元に戻って来た。
「ところで此処に何の用で来たの?」
「いや、ただ単に来ただけかな……特に用は無いからな」
「なら……ライ、勝負よっ!」
ビシッと俺を指差してルチはニヤリと笑う。
相変わらず唐突だな。其処がルチらしいのだが……
「分かったよ、受けて立つ」
断る理由も無いからな、大会前の実戦練習と思えば良いだろう……
と、お互いに構えて戦闘体勢に入る。
ソラとフュイ、フュンが安全圏まで下がったのを合図にルチが流星群を発動する!
両翼を広げてサッと飛び上がった俺は流星群の中を突き進み、ルチに急接近する。
そして間近で発動されたルチの冷凍ビームを守るで凌いで
ドラゴンクローを発動するが同じドラゴンクローで相殺される。
火花を散らして両者のドラゴンクローがぶつかり合う。
「懐ががら空きだぞルチ」
「なっ……!?」
腹でルチの体を押して両者の体を離す。
ルチが距離を取ろうとするが、既に遅い。素早く俺は毒毒を発動してルチに攻撃を当てる!
辛うじてルチは後退するが毒は浴びている。
更に追い討ちを掛ける様に俺は砂嵐を発動した。
あっという間に強風が吹き始めて砂嵐が俺とルチの周りを囲う。
「ライの意地悪っ……」
ルチがそう言い放つ。ルチが戦えるのはそう長く無いだろう……
毒毒を浴びた上に砂嵐というじわじわ削られる組み合わせだ。
自分の不利を悟ったルチは短期決着に持ち込もうと冷凍ビームを放つ……が、既に俺の姿は無い。
何故なら元々、フライゴンは砂漠に住む竜。
この砂嵐の中でも平気で動ける……逆に砂嵐を発動した今、砂嵐の中に姿を隠す事も出来るのだ。
羽音も強風で掻き消される。
まさに今、ルチは鳥籠の中の鳥という訳だ。
「うぅ……」
ルチは目がやられない様に翼の綿で顔を覆っている。
表情は毒と砂嵐で外側も内側からもダメージでかなり苦しそうだ。
砂嵐の強風で聴覚は無効、ルチは目視で俺の姿を探している……
対して俺は聴覚も目視もいつも通り、何の問題も無いのだ。
このままジッとしていても勝負は着くがルチにもプライドがある。
影分身を発動して俺は攻撃を仕掛ける事にした。
まず分身を一体、ルチの背後を横切らせてみると破壊光線で爆破。
次に分身で上空から連続的に竜の波動、ルチは何発か攻撃を喰らいながらも冷凍ビームを放つが
分身には当たらず急接近して来た分身がドラゴンクローを発動して
ルチが今だ!と再び冷凍ビームを放つと分身は消えた。
本物の俺が出てこない事に焦りを見せ始めるルチ。
「これはどうかしら、ライっ!」
と、叫んだルチ。流星群が上空から降り注ぐ……
見えないなら流星群で砂嵐ごと攻撃して俺を炙り出そうという考えらしい……
だが、対策済み(予測範囲内)だ。
守るで攻撃を無効化。辺りに流星群が降り注ぎ、地面に穴を開けて行くが俺は無傷だ。
「しぶといわね!」
吹雪を発動するルチ、砂嵐の強風の前では無意味だ。
地震攻撃を発動するルチ、俺は両翼を広げて砂嵐の風に乗って地面から浮く……
ソーラービームを発動するルチ、一瞬砂嵐の壁に穴が開いたがすぐに塞がれる。
無駄な抵抗である。
「はぁ……はぁっ……」
息切れしながらもルチは歌うを発動するが俺は耳を塞げば良い。
大文字、強風で大の字にもならず砂で掻き消される。
とうとう限界を迎えたらしいルチはその場にへたり込む。
「分かったわよ……私の負け……降参よ」
砂嵐を止めて汗だくのルチに歩み寄る。
「もっと広い視野で自分を磨くんだな」
「はい……」
さすがのルチも素直に返事を返した。
決着が着き、離れて見ていたソラとフュイ、フュンが傍にやって来た。
「相変わらずお強いですね、ライさん」
「見事だったぞライ殿!」
「技の組み合わせのおかげさ、俺の強さじゃない」
フュンがモモンの実をルチに手渡す。
「有り難う……」
ルチにしては珍しい感謝の言葉を聞いた。
モモンを口にしたルチは幾らか楽になった様だ。そのまま平らげた……
「お前、変わったな……」
「何がよ?」
「心から気遣いが出来る様になったな……」
頬を赤らめるルチの頭に俺はそっと手を載せる。
「フン……昔からそうよ」
ルチは小さく胸を張って見せるのだった……

「やっぱり一汗かいた後は風呂に限るわね……」
「そうですね……」
ど、どうしてこうなった……
ライ殿、顔が真っ赤じゃぞ
こら!ソラ、人が冗談抜きで困っているのにクスクス笑うな。
ルチとの戦闘の後、風呂に入ろうという話になったのだが……
ゼネラ国城の大浴場を貸して貰えるまでは良かった……
だがルチとソラ、フュイ、フュンが一緒に入るだなんて聞いてないぞ!
普通、時間をズラして入るだろ……
そう考えた俺は大浴場前で案内された客室へ戻ろうとしたのだがソラとルチに首を掴まれて……
今、こうして彼女達と大浴場の湯に浸かっている。
現状を冷静に纏めるとこうだ
俺は後ろからソラに抱き付く様な配置と姿勢になっており、湯は肩辺りまで浸かっている。
ルチは俺の背後でシャワーを浴びていて鼻歌を歌っている。
本人曰く、綿状の羽は手入れが大変らしい……俺には関係無いのだが。
で、フュイとフュンなのだが……その…だな……
左傍にフュイ、右傍にフュンが座って俺とソラと同じ様に湯に浸かっている。
これまたソラと同じ位、近くて…だな……
ソラは密着している訳だがフュイとフュンは数センチ、手が触れるか触れないかという距離だ。
二人共、もじもじしている……
特にフュンはチラッ、チラッとたまに此方の様子を上目遣いで伺っていて……
俺と目が合うと頬を赤らめてビクッと反応して俯く……
と、まぁ……現状確認を済ませた俺だから、この気まずい状況が分かる。
彼女達は俺が一応、ソルベ国の王である事を分かってやっているのだろうか?
同国の女王、つまり俺の妻「ソラ」なら分かるが
側近護衛になったフュイとフュン、
更にはゼネラ国の将軍とも言える存在であるルチが同じ湯に浸かっているのだ。
誰かに目撃されたら代々続くソルベ国王の名に泥を塗る事になり兼ねない……
一応、その事を言ってみたが反応は薄かった。
「大丈夫じゃ、大丈夫じゃ……」 
「♪~」
異性として認識してくれるのは嬉しいです……
駄目だ……もう、どうにでもなれ…orz
「……ところでさ」
『?』
急に口を開くルチ。
「一年前のブーケトス、誰の手に渡ったのかしら?
私が居た角度からは受け取った娘が見えなくて……」
一年前、俺とソラの載冠式(結婚式)でソラが投げた花束の事だろう……
花束を受け取った者は次に幸せを手に出来るという言い伝えがある。
「確かフュイとフュンだったよな?」
俺が両脇のフュイとフュンに話し掛けると
「はい、私達です……」
と返事をした。
あの日投げた花束は風に乗って沢山の民衆が居る中
不思議な事に導かれる様にふわふわとフュイとフュンの手元にやって来たのだ。
「フュイ達が受け取ったの!?通りであの時、貴女達上機嫌だったのね」
「まぁ、そうですね」
ニコッと微笑むフュイとフュン。
「その花束はどうした?」
「私達の部屋に飾ってありますよ」
俺の質問にフュイとフュンは嬉しそうに答えるのであった……


ソラ「十壱話、終了じゃ……!」
ルチ「無事に終わったわね」
ライ「えっと、次はレイヲン国だよな」
フュイ、フュン「しっかり防寒服を着ないといけませんね」
ライ「ユリ、そういえばアイツ……元気にしてるか?」
ユリ「はい、元気ですよ……そろそろ合宿から帰って来ますよ」

次話、ライとソラと関係がある新キャラ登場です。
続き:深紅の鎌.十弐


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Last-modified: 2011-05-28 (土) 00:00:00
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