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深紅の鎌.八

/深紅の鎌.八

前回:深紅の鎌.七
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・深紅の鎌.八



―1― 毒鉱石と決着

「ライ殿!」
少し先にライ殿とルサが倒れているのが目に入った。
そしてその周りには敵兵達十数名が両者の様子を伺っていた!
「敵だ!」
此方に気が付いた敵兵がそう叫び、他の奴らも攻撃を一斉に仕掛けてくる!
大丈夫……
ユメが妾の前に立つ、攻撃が近づいてきた所でユメの目の前に水晶のような形の氷が現れ、攻撃を防いだ。
ソラ、攻撃……!
「う、うむ……!」
深紅の鎌の力を引き出し鎌を振り上げる!深紅に輝く衝撃波が飛び、ザシュッという音がして敵兵達はばったりと倒れる。
妾とユメは急いでライ殿の元へ向かう。
ユメがライ殿の胸に耳を当てる……
「ユ、ユメ……ライ殿は……?!」
ユメの顔色が変わった……
し、心臓が……
「心臓が……?!」
僅かにしか動いてない……!
「!!」
そ、それってライ殿は危険な状態って事なのだな……!?
「ユ、ユメ!」
私達にはどうする事も出来ない……ユリさんはルチさんの治療中でテレパシーは通じないだろうし今から陣営に戻るのは間に合わない……!
「そ、そんな……!」
ラ、ライ殿が目の前で弱っているのに妾達は何も出来ないという事なのか……?!
「いや……そんな……ライ殿……!」
視界が涙でぼやけ始める……妾の…妾の……
「…ライ殿っ……!」

「…ラ……、……っ…」
何所からか声が聞こえる……
「…イ…っ…」
聞きなれた声の気がする……何だか胸が冷たい……だけど温もりも同時に感じる……
真っ暗な空間でただ一人……落下している感じがする……俺は死んだのか?
無理も無い……ルサと共に城の最上階から落ちたのだから……
ソラとの約束……守れなかったな……
やがて下の方に灯りが見えてきた。落下している感覚は続いている……
羽ばたいていないが落下しているスピードが自然に落ち、俺は着地した。
道が続いている……灯りは壁に掛けてあるオレンジ色のぼんやりとした光を放つ何かだけだ。
足元がよく見えないが歩き始める……
灯りは一定の間隔で続いている。
よく考えてみれば体中に出来ていたはずの傷が無くなっている……
それに何だか懐かしい感じがする……
しばらくそのまま歩くと隙間から光が漏れている大きな扉を見つけた……扉の向こうから何だか懐かしい匂いがする。
扉には何か文字が書かれているが読めない……見た事の無い文字だ……
「魂の帰路、天国とも言うな……」
「!」
後ろから声が聞こえ、振り向くとそこには死んだ筈のフィカの弟が居た。
「お、お前……」
「ああ、死んでいる」
「そうか……じゃあ……俺も……」
「いや、死にかけているという所だ……」
「それって……」
「あくまで死にかけだ。死んではいない……」
「変わらない気がするが……?」
「それが違うんだな……再び元の世界に戻るかそれともこの扉の向こうへ行くのか無条件で選択出来る」
という事は……
「俺は元の世界に戻りたい……ソラや仲間のためにも……」
「そう言うと思っていた。フィカ兄さんは……?」
「重体だけど生きている」
「そうか……。話は元に戻ってライ、元の世界に戻す……だけどその前に伝言、引き受けてくれるかい?」
「構わないが誰にだ……?」
「フィカ兄さんに……」
そう言って俺に手紙を渡す……
「分かった。届けよう」
「有難う……伝言というよりは手紙だけど……。まぁ、余計なおしゃべりは此処までにして……ライ、君を元の世界へ送るぞ?」
「やってくれ」
俺がそう呟いた瞬間、何かに引っ張られる感じがして今来た道を俺は物凄い勢いで遡る!
「兄さんによろしく……」
最後にフィカの弟の声が聞こえた……
「ライ殿!!」
「!」
一瞬で真っ暗な空間が消え視界がぼやけ、灰色の空が映る……
雨が冷たい……
視線を下げるとソラが俺の胸で泣いていた。右手をぎゅっと握りユメは泣いていた。
「ん……?二人共泣くなよ……俺は生きているぞ……」
この感じ……間違いなく俺は生きている……
「ライ殿……!?」
ライさん……!!
ソラとユメは揃って驚きの声を上げた。
「良かった……!」
ソラは力いっぱい抱きついてくる。ユメは両手で俺の手を握りながら安心したのか微笑んでくる。
俺はソラとユメの涙を拭ってやる……
「すまない二人共、下がっていてくれ……」
「ライ殿……?」
ライさん……?
「決着はまだついていない……」
振り返るとルサが上半身を起こす所だった……
「また後でな……。これ、預かっていてくれ」
俺はソラの額にキスをし、ソラにフィカの弟から貰った手紙を渡した。
ソラとユメは不安と心配が混ざった視線で俺の事を見ながら離れた。
俺が死なず、死に掛けていたのはきっと……
気を失う前のことをよく覚えていないが俺は殴り合いを止め、必死に羽ばたいてスピードを下げた気がする……
ルサの足元の地面が抉れている所から見てルサは反動の強い破壊光線を連続で撃ってその反動でスピードを下げたらしい……
しかし、ルサの背中は血だらけで落下の衝撃を物語る。
「まさか、此処までとはな……」
ルサは右腕を押さえ立ち上がった。ルサは少しフラフラしている……
「そろそろ互いに限界だな……」
「ああ、ルサ……」
と、空気を振動させ角笛の音色が辺りに響き渡った。
角笛の聞こえた方を向くとフラッドガ国の門から味方の援軍が雪崩のように進軍してきているのが見えた!
「これで俺の軍は終わったな……」
ルサはそう呟く。
「そうだな、でも俺とお前の戦いは終わっていない」
「決着をつけよう……残る全ての力を互いに出そうじゃないか……」
「望む所だ」
俺は身構える。ルサも同じ様に身構える……
竜の波動を俺は放つ!ルサは守るで攻撃を防ぎ爆煙が立ち込める。
その隙に俺はルサに急接近する。
「ふんッ!」
接近に気付いたルサは雷パンチを発動する!俺はドラゴンクローを発動する!
互いの攻撃が当たり、互いに衝撃が自分に返って後退りする。
ルサは放電を放つ!攻撃は俺に当たった。ルサはエネルギーを左腕に纏い拳を振り下ろしてくる!
地面を蹴り、サッと攻撃を避ける。ルサの拳は地面に当たり地面にひび割れを起こす……
俺は背後からドラゴンクローを決める!ルサは俺の攻撃で怯むがすぐに放電を放つ!
放電を喰らい、衝撃で俺はよろめきルサの雷パンチを喰らった!
俺の体が地面に叩きつけられ仰向けになる。ルサは電光石火で急接近してきてエネルギーを纏った拳を俺目掛けて振り下ろす!
体を転がして俺は攻撃を回避し大文字を放つ!大文字はルサの背中に当たり、ルサの背中が燃える。
「クソッ!」
ルサは俺の足元目掛け破壊光線を放つ、俺は羽ばたき空へ舞う。
そして竜の波動を放つ!爆風がルサを飲み込むがすぐにルサは破壊光線を連続で放つ!
回避しようとするが数発当たり、地面に叩きつけられる!
ルサは電光石火で再び接近してくる!
俺はすぐに立ち上がり竜の波動を地面に放つ!狙い通り土ぼこりと爆煙が辺りに立ち込めてルサの攻撃は大きく外れた。
その隙に俺はルサに向け連続で竜の波動を放つ!
ルサを沢山の爆風が包み、ダメージを与える!
そしてルサが怯んだ隙に急接近しドラゴンクローを決める!ルサは放電を放つが俺は回避した。爆煙が消えた。
しかし、ルサの姿が見えない……
「ライ殿、後ろ!」
ソラに言われ、俺は振り向きながらドラゴンクローを発動する!
攻撃はルサの腹に当たり、ルサの雷パンチは空振った。
そして俺はそのままルサの腹を蹴りとばす。ルサの体は飛ばされ地面に叩きつけられる!
「がはっ……」
ルサは立ち上がったが血を吐いた。
血を吐いたのを気にしていないらしくすぐにルサは放電を放つ!
何とか回避するがルサは俺が回避した先に待ち伏せており、俺の脇腹に衝撃が走る!
あまりの痛みに膝をつき、その隙にルサのギガインパクトが当たり腹に物凄い痛みと衝撃が走った!
俺の体は吹き飛ばされ城の壁に叩きつけられ壁に罅を作った。体に力が入らない……
「ライ殿……!」
ライさん……!
電光石火を発動したルサは急接近してきて俺の顔面目掛けエネルギーを纏った拳を繰り出す!
反射的に体に力が入り俺は攻撃をギリギリかわした。壁は大きく罅割れた……
再び力が戻ってきてすぐに俺は立ち上がる。
視界が少しぼやけている……体力的にもう限界だ。ルサも同じらしく腕が震えている。
ルサの左腕が赤く輝き始めた……!残った力を全て使おうとしているらしい……
俺も残った体力を右腕に集め始める……。俺の右腕が蒼く輝き始める……
「じゃあなライ、あの世で何時か会おう……!」
「俺があの世に行くのはもっと後だ!」
そして残った体力を腕に集めて互いに相手に向け走る!
ルサのギガインパクトと俺のドラゴンクローがぶつかり合う!
互いの全力と全力がぶつかり合い火花を散らす!その火花の量はだんだんと増えていく……
「ふんッ!!」
ルサの拳がじりじりと近づいてくる……!
その時、脳裏に今までの記憶が次々と蘇る。
まるで一枚一枚写真を見ているかのように鮮明に……
ソラとの出会い、ユリとの出会い、ソラの父親の仇討ちを約束した日、国々を回る事になった日、ルチとの思いがけない出会い
ユメとの出会い、ユスカの協力に驚いた時など……
そして最後にソラの笑顔が目の前に映った。
『ライ殿、絶対帰ってくるのだぞ……』
「!」
ソラの言葉が聞こえ体の奥底から力がドッと溢れてくる……!
そうだ。俺は帰らなければならない……!俺の事を愛してくれる人のため……!絶対に!!
右腕の輝きが強くなりルサの左腕を徐々に押し始める!火花の量も増えていく……
「くっ……!?」
ルサがだんだんと後退りする!
さらに俺の右腕は突き進み、ルサの左腕からは骨が折れる音が聞こえる。
そしてルサの腕の先からは血が出始める。
「終わりだッ!!」
視界が蒼い光に包まれ俺は意識が崩れていくのを感じた……
意識を失う直前、ルサの左腕が俺のドラゴンクローで引き裂かれるのを見て……

「…っ……」
薬のような匂いが鼻から入ってきて自然に意識が戻ってくる。
感覚的には意識を失ってからそんなに経っていないと思う……
自然に瞼がゆっくりと開く……そして俺の視界には薬を手にしたユスカと心配そうな表情をしたソラ、ユメの顔が映る……
「ライ殿!」
ライさん……!
「うぅ……俺は……」
「大丈夫、ちゃんと生きておる」
「そうか……、ルサは……?」
「見事なドラゴンクローだったぞライ、ルサは死んだ……。これでこのフラッドガ国は一からやり直しだ」
ユスカはそう言い、俺に手を差し伸べる。
俺はその手を掴み立ち上がった。
「ルサが死んだという事は……」
「ああ、そうだ。この国の民は正気に戻っている頃だろう……残念ながらこの国の兵だけは正気でルサに従っていたようだが……
その兵士達も全滅するのは時間の問題だ」
「ユスカ、お前はどうするんだ?」
「投降する。そしてソルベ国へお前達の軍に連れて行かれるだろう」
「ソルベ国に着いたら妾が母上に真実を話す。そうすれば母上は信用してくれる」
「しばらく監視がつくだろうが俺はフラッドガ国へ返され、ルサが王位に就く前のほかの国と変わらない平和な国に戻してみせるさ」
そう言うユスカの目と声は穏やかだった。
まるでもう実現したかのようにゆっくりと……。
「頑張れよユスカ、この国の民の為に」
俺の口からそう自然に言葉が出た。
「ああ」
ユスカは笑顔で返す。
「ところでユスカ、ルサの過去の事で何か無いか?戦っていてあいつの瞳が憎しみで染まっていた気がするんだ。
俺に対してじゃなく、まるで見えないところにいる奴らを憎むかのように……」
「俺が知っている限りの話では生まれつき体毛が黒かったルサは幼い頃から
その地方の言い伝えや迷信で不吉の象徴だと思われ周りの人々から苛めや迫害を受けていたらしい……
そうしたことはほぼ毎日続いたらしい……それに耐えられなかった両親は病死した。
残ったのはルサ一人、親戚や知人からは冷たい目で見られ見捨てられた。それでも数人だけ手を差し伸べてくれた人は居たらしいが
その人達は皆、すぐに色々な理由で死んでしまった。事故や病などでな……
自分の人生を滅茶苦茶にした連中をルサは心の底から憎んだ。
やがてルサは苛めを受けながらも成長した……。そしてとうとうルサは人の道を踏み外してしまったんだ。
そう、殺してしまったんだ。人を……、心の底から憎んだ人を……ルサは次々に自分を苛めたり迫害してきた人々を殺った。
何人かはルサの手を逃れ、逃げた。ルサはそれが気に入らなかった……
そしてある日、ルサとこの国の王女であった頃の俺は出会った。当時の俺はルサの過去など知らず、恋をした。
相手が偽りの仮面、つまり嘘の愛を持って俺に接していた事も知らず……
その後、俺達は結婚し王と女王になった。しばらくは何事も無かった……しかし俺の両親が亡くなるとルサの偽りの仮面が剥がれた。
そこからだ。この国がこうなってしまったのは……ルサは反乱する民を催眠術の様なもので抑えた。
俺は止めようとしたが力ずくで押さえられた……。そうしてルサは好き勝手にやり始めた……」
「そんな事があったのだな……」
「しかし、それも今日で終わった……」
ユスカは所々破壊された城と城下の家々を見てこう言った。
そして俺達が味方の軍と合流しようと歩を進めようとした時だった……!
「ソラ王女様!大変です!」
一人の兵士が息を切らし、俺達の前に走ってきた。
「どうしたのだ?!」
「城の最上階辺りから物凄い勢いで毒ガスが噴出しています!」
「何だって!?」
俺達が城を見上げると確かに城の最上階からは深緑色の煙が噴出し、その煙はだんだんと落ちてきていた!
「こんな物を用意していたのか!なんて事だ!」
ユスカは城の最上階から噴出している毒ガスを見てそう叫んだ。
「避難してください!もうすぐ毒ガスが此処に……!」
「ソラ、乗れ!」
俺がそう言うとソラはすぐに俺の首に乗る。
「俺とお前は走るぞ」
ユスカは兵士に向かってそう言った。兵士はどうしていいのか分からないといった顔だ。
「大丈夫だ。もう敵じゃない、訳は後で説明する。今はとにかくユスカと行ってくれ」
俺がそう言うと兵士は軽く頭を下げ、ユスカとフラッドガ国出入り口、つまりあの大きな門に向け走り始めた。
「ユメ、行くぞ!」
はい……!
俺は背中にソラを乗せ、ユメと共に飛び上がった……

―2― 毒の悪夢(ポイズン・ナイトメア)

「着地するぞユメ」
速度を落とし、高度を下げる。ユメと共に俺はフラッドガ国の門前に着地した。
後ろを振り返ると門を通り兵士達が次々と出てくる。その中からユスカが姿を現し、此方へ走ってきて俺達の前で止まった。
俺はソラを下ろす。
「ユスカ、あの毒ガスは一体誰が……」
「きっとルサだ……先日、俺は一週間程この国から出かけていた時があったんだ。
帰ってきて地下実験室に繋がる洞窟に誰かが洞窟の壁を掘り進めた形跡があってな……
その先には少し広い空間が広がっていてそこには沢山のパープルナイトメアと呼ばれる水晶の様な宝石があり
中央に大きなパープルナイトメアがあったらしいがそれが切り取られていた。
この宝石はな、大変価値が高くそのままだと無害で綺麗な宝石なのだがある高熱の鉱石が触れている間
毒ガスを出す事が最近分かったんだ。
ある高熱の鉱石の名は俺は聞いたことは無いがパープルナイトメアから出るその毒ガスは深緑色でゆっくりと広がる……」
俺が城の方を見ると毒ガスはまだ城の周辺に漂っている。
「という事は……」
「そうだ。城の頂上の部屋、俺とルサの部屋の所に切り取られていた
パープルナイトメアが恐らくある……高熱の鉱石が付いた状態で……」
「その高熱の鉱石を剥がしたらどうなるのだ……?」
「パープルナイトメアは毒ガス噴出を止め、毒ガスになった所は不思議な事なんだがパープルナイトメアに戻る」
「要するに高熱の鉱石を剥がせば良いんだな?」
「ああ、だが毒ガスが漂っていて近づけない……生物があのガスを30秒吸い続けると死ぬ……」
ではどうやってあの毒ガスを……?
「俺の地下実験室に一つだけガスマスクがある……」
要するにガスマスクを装着し、パープルナイトメアに付いた鉱石を取ると言う事か……
ユスカは走り始める。俺達がその後を追うとユスカは門の傍に生えている草むらの所で立ち止まった。
そして地面に生えている草の一本を引っ張ると草むらの一部分が開き、下へ垂直に続く梯子が姿を現した。
「待っていてくれ、ガスマスクを取ってくる」
ユスカは階段を降り始めた……

しばらくして梯子を上ってくる音が聞こえてきた。
俺達は中を覗き込むが暗くてあまり奥が見えない……
「ライ、受け取れ!」
ユスカの声が聞こえ、奥から2つの何かが飛び出してきた。
俺は飛び出してきたものを掴んだ。手に握っていたものはガスマスクと小さな瓶に入った液体状の薬。
「薬を飲んでくれ、少しは傷が良くなるだろう」
ユスカは梯子を上りながらそう言った。
瓶の蓋を開けて薬を飲む……一瞬、寒気が走ったが体中の小さな傷が治った。他の傷も少し治ったようだ。
ユスカが梯子を昇り終えた。
「まだ傷はあるが飲む前と比べると少し楽になったろ?」
俺は頷く。
「さてとパープルナイトメアの毒ガス噴出を止める事についてだが……ガスマスクはライが持っている一つだけ……
此処は万が一を考えて俺が行こうこの戦争が起こったのは俺がルサを王位に就かせてしまったからだし……」
ユスカは俺に手を差し伸べる。俺はガスマスクを持ったままユスカを見つめる……
「どうしたライ?早くガスマスクを……「俺が行く」
「えっ?!」
ライさん……!?
「ユスカが行ってしまったらこの国はだれが継ぐんだ?
『ルサが王位に就く前のほかの国と変わらない平和な国に戻してみせるさ』って言ったのは誰だ?」
「ライ……」
「それに、ソラはソルベ国の王女だしユメはレイヲン国の王女。俺は王子でも司令官でも無い」
「ラ…イ殿……」
ライ…さん……
ソラの瞳が潤んでくる。ユメは不安そうな表情になる。自然にガスマスクを持つ手に力が入るのを俺は感じた。
「ライ、でも高熱の鉱石はどうやって剥がすんだ?俺はタイプの関係上問題は無いがお前は……」
「何とかなるさ……」
俺はソラとユメを両腕で抱いた。
『!』
「お前達が望めば帰ってきたらもう一回抱いてやるよ……」
「本当…なのだな……?」
約束ですよ……?
「ああ、約束する」
俺は腕を緩め、翼を動かす。やがて足が地面から離れ、俺は飛び立った……
高度を上げ、城に向けて進む。ふと眼下に目をやるとフラッドガ国の民が俺達の軍の兵の指示に従い避難していた。
所々にフーディン兄弟の姿が見えた。
「確かあいつらは心が読めたな……」
フラッドガ国民の心から邪気が消えるのをきっと感じてそれを軍の兵士達に知らせたのだろう……
街の所々からは煙が立ち昇り、岩石砲部隊の岩が地面を抉っていた。
そして再び前を向くと毒ガスは城を中心に街の3分の1を飲み込んでいた。ガスは重いらしく地面近くを漂っている。
そのまま飛んでいるとすぐに眼下は街から深緑色の煙になった。
城の頂上……ルサとユスカの部屋からは今も毒ガスが出ている。
「そろそろだな……」
俺はガスマスクを装着した。
そしてガラス張りの壁の方に廻りこんだ。先程、俺とルサが突き破って出来た割れたガラスの間から俺は部屋の中へと侵入した。
直後に視界が深緑色の煙で覆われ前がほぼ見えなくなった。
手探りで壁を見つけ、壁に沿って歩いていく……聞こえるのはガスマスク内に響く俺の呼吸と自分自身の足音、何かを焼く音……
何かを焼いている音は部屋の中央辺りから聞こえてくる……煙の中でも火花が散っているのが少しだけ見えた。
「あそこか……」
俺はパープルナイトメアに向け障害物が無いか手探りをしながら歩き始めた。
一歩一歩、手探りをしながら歩く……やがて俺は毒ガスの発生源に着いた。
「こいつがパープルナイトメア……」
俺が立っている場所の真上に大きなパープルナイトメアが沢山鏤められたシャンデリアが吊らされていた。
パープルナイトメアは透き通った紫色で宝石の中心辺りが白く輝いていた……
よく見るとシャンデリアの上に紅い鉱石が釘で固定されている。
「!」
俺は何者かの気配を感じとっさに右に転がった。直後、俺が2、3秒前まで居た所に拳が振り下ろされて床が罅割れた!
「チッ……」
床に当たった拳を見て俺の目の前に居るドグロッグは舌打ちする……
素早く俺は身構える。
「お前が此処に居るという事はルサ様はお亡くなりになってしまった様だな……そうだろう?ライ」
「……何者だ」
「ルサ様にこの鉱石を守れと命令を受けた者だッ!」
ドグロッグは口から毒の塊を吐き出してきた!俺は羽ばたいて後ろへ回避した。毒の塊は地面に当たり飛び散る。
すぐにドグロッグは破壊光線を放ち、その攻撃は一直線に俺目掛けて飛んでくる!
身を捩って回避すると背後で爆発が起きて家具が吹き飛ぶ!
ドグロッグは急接近してきて毒突きを決めようとするが俺はドラゴンクローを繰り出し
互いの攻撃が当たり火花が散る。互いに後ろにサッと下がる。
すぐに俺は竜の波動を放とうとするがガスマスクをしているため撃てない!ドグロッグはすぐに無数の毒針を発射する!
何とか回避したが急接近してきたドグロッグが毒突きをし、俺の腹に衝撃が走る!
「ぐっ……」
ドラゴンクローを決めようとするが俺に二発目の毒突きが当たりよろめいているうちにドグロッグは破壊光線を放ち俺に当たる!
攻撃を喰らい、数m吹き飛ばされるがすぐに俺は立ち上がる。
「ガスマスクがあるせいであまり攻撃が出来ないようだな……なら壊してやる!」
「!」
ドグロッグは毒針を俺のガスマスク目掛けて連射してくる!
羽ばたいて攻撃を回避する。ドグロッグは接近してきて毒突きを発動する!
俺はドラゴンクローを発動し、再び互いの攻撃がぶつかり合い火花を散らす!
俺は左手もドラゴンクローを発動し素早くドグロッグの顔面に決める!
ドグロッグは攻撃を顔面に喰らい、怯む。その隙に俺はドラゴンクローを決めまくる!
最後に思いっきり力を込めてドラゴンクローをドグロッグの腹に決める!
「んぐっ!?」
ドグロッグは腹を押さえながら後退りする。
しかし、ドグロッグは膝をつく直前に体勢を立て直し素早く破壊光線を放ってきた!
攻撃を避けきれず破壊光線をまともに喰らい、衝撃でガスマスクが粉々になり俺の体ごと吹き飛ばされた!!
何度か体が床に叩きつけられようやく止まった。
俺は立ち上がった……途端に体中にドクンという心臓の音が響き目眩がし始めた……
「ククッ……これ…で、お前は終わりだ……30秒もすれ…ばお前は死ぬ……!」
ドグロッグが腹や肩から血を流しながら立ち上がったのがぼんやりした視界に映る……
口に炎を溜め、大の字に放つ!ドグロッグの体はあっという間に炎に包まれドグロッグは地面に倒れ動かなくなった……
『生物があのガスを30秒吸い続けると死ぬ……』
ユスカの言葉が脳裏に蘇る……
頭が少しずつ痛くなってくるのが分かる……
それでも俺は何とかシャンデリアの前まで何とか歩いてきた……
そして天井とシャンデリアの接合部分を竜の波動で破壊し、シャンデリアを床に落とす。
シャンデリアの上には熱を放つ鉱石が釘付けされている……
釘は鉱石から発せられる熱で少し溶けている……引っ張れば何とか取れそうだ……
毒ガスの影響で頭は割れるような痛みが襲い、体中の感覚は無くなり手が震え、視界はぼやけていて息が荒い……
でもやるしかない……!他に道は残されてはいない……
俺は感覚が無く、震える両手を高熱の鉱石の前に持ってくる……
これを外せば毒ガスは収まりソラ達は……
思い切って俺は震える手で熱を発する目の前の鉱石を掴む!
現実のものとは思えないほどの激痛が両手の平に広がり声にならない悲鳴が俺の口から漏れ、俺の手からは煙があがる。
涙は溢ふれ、肌が焼ける臭いが広がる。それでも俺は一生懸命鉱石を引っ張る……!
毒ガスが体から力を奪っていき足に力が入らなくなり膝をつく……でも此処で死ぬわけにはいかないっ!!
脳裏にソラ達が浮かび、力が戻ってくる……!
腕に力を込めて引っ張る!視界がだんだんと暗くなってきた……瞼が重く、腕も石のように重くなってきた……
そして体から力がフッと抜け、俺の両腕が上がって体が後ろに傾き、背中から地面に吸い込まれるようにして俺の体が倒れ
背中に衝撃を感じ、俺の意識は砕け散った……


「……っ、…此処は……?」
瞼が開いて俺の視界には天井が映った。
状況を確認しようと見渡すとどうやら俺は何処かの病室に居て、病室のベットに寝かされていた……
壁に掛けてある時計は午前1時43分を指している……
ベットの中にはソラが居て、俺に寄り添って静かな寝息を立てている……
「生きてる……」
俺は上半身を起こす……
窓からは月光が射し込んで部屋の中をうっすら照らしている……
窓は少し開いていてカーテンをゆっくりと揺らし静かな風が入ってきている……その風が何とも心地良い……
聞こえてくるのは窓から入ってくる静かな風の音だけ……
俺は両手の平からピリピリと痛みを感じて両手を顔の前に持ってきた。
手には包帯が巻かれていた……
そうだ……!そういえば俺は毒ガスの発生を止めるために高熱の鉱石を無理やり剥ごうとして両手で……
しかし今、こうして生きている……という事は……
そうですよライさん……剥がせたんです……
声の聞こえた方に向くと部屋の扉を開けてユメが入ってくるところだった。
「……ユメ」
気が付いたようですね……ライさん、お帰りなさい……
ユメはニッコリと微笑む……
「ただいま、ユメ……」
ふふっ……ライさん、朝になったらソラにも言って下さいね……?
「ああ、分かった。……ところで俺はどの位眠っていた?」
6日です……。その間に各国の軍はそれぞれの国に戻りました……ユスカさんは一昨日、フラッドガ国へ戻りました……
「そうか……、ところでルチは……?」
ユリさんのおかげで何とか助かって、昨日意識が回復しました……
「良かった……!」
俺は安心して息を大きく吐く……
ルチさんは明日には自由に動けるようになるそうです……ユリさんは体力回復の為、しばらく安静にしているそうです……
「ユメはどうするんだ……?」
戦争は終わり、母や父へ報告は済んだので後はライさんが許してくれれば此処に居るつもりです……
「断る理由は無いよ、ユメ」
有難う御座いますライさん……
ユメの頬が赤く染まる。
「ソラは俺の事、心配してたか……?」
はい、物凄く不安そうでした……
「朝になったらソラに謝らないとな……」
駄目ですよライさん……
「えっ?」
ソラは『ただいま』。ただその一言で良いと言っていました……だから……
ユメの両手が俺の右手を握る。
「分かったユメ、そうするよ……」
俺がそう返事をするとユメはニッコリとした。
そろそろ眠りましょうライさん……
「そうだな……、ほら」
ユメが入りやすいようにと布団を少し持ち上げる。
ライさん……?!
ユメは頬を赤く染める。
「ソラには許可を取ってあるんだろう?」
は、はい……
「なら大丈夫だろ?」
「……コクッ」
ユメが布団に入ったのを確認して俺はベットに寝転がった。
「おやすみユメ」
お、おやすみなさい……ライさん……
挨拶を交わし、ユメは瞼を閉じた……
「おやすみソラ」
俺は傍で眠るソラの額にキスをし、瞼を閉じた……

「……っ~」
太陽の温もりを感じ、欠伸をして体を伸ばす。
窓からは太陽の光が射し込んできて部屋の中を明るく照らしている。時刻は朝7時13分。
昨日の夜、俺に寄り添い眠っていたユメとソラの姿が無い……
部屋の中を見渡すがソラとユメの姿は見えない……
その時、部屋の扉が開いて……
「…ライ殿……!」
俺は上半身を起こす。
「意識を取り戻したのだな……」
「ああ」
ソラはベットに飛び乗り、俺に優しく抱きついてきた。
「……ソラ」
「どうしたのだライ殿……?」
「ただいま……」
「っ……、お帰りなさい……ライ殿……」
ソラの俺に抱きつく腕の力が強くなった気がした。
「ライ殿、ルチの病室に行こう」
抱きつくのを止め、ソラはベットから飛び降りてそう言った。
「分かった」
俺はベットから出て立ち上がり、扉を開けて俺とソラは病室から出た。
病室を出ると病院の廊下に出てソラはすぐ隣の病室の扉前に立った。
「此処がルチの病室だ。ライ殿、妾は此処で待っておる」
俺は扉を開けて中に入った。
「ライ……!」
扉を開けて中に入ると昔からの聞きなれた声が聞こえた。
「元気そうだなルチ」
ルチはベットで横になっていた。
「貴方はどうなのライ?」
「この通り大丈夫だ」
俺は笑顔を見せる。
「悔しいけどやっぱりライは強いわね……一人でルサを倒しちゃうだなんて……」
「ちょっと危なかったけどな」
「役に立てなくてごめんライ、あんな所で倒れちゃって……」
「良いって、気にするなよルチ」
俺はそうルチを励ます。
「あの時、私本当に死ぬかと思ったわ……今こうして私が此処に居るのはユリのおかげね」
「そうだな……」
「ユリに会いに行ってやって、貴方の事きっと心配してるから」
「分かったよ」
「お見舞い有難うライ、とりあえず今日は安静にしてなきゃいけないから明日また会いましょ」
「ああ、分かった。ルチ……」
こうして俺はルチの病室を出て扉を閉めた。
「ソラ、ユリの所まで案内してくれるか?」
「うむ」
ソラと共に俺はユリの病室を目指して歩き始めた。

―3― 双子の竜

「そういえばさっきからユメの姿が無いが……?」
階段を上りながら俺はソラにそう聞いた。
「ユメはこのソルベ国の街中を散歩をしておるぞ」
「そうか……」
その時、ふと俺の脳裏にフィカの弟の姿が思い浮かんだ。
「あっ……!ソラ、俺がルサと決着をつける前に渡した手紙はどうした?」
「手紙?……そういえばライ殿から手紙を預かっておったな……手紙にフィカ兄さんへと書いてあったから
フィカに渡しておいたのだが……?何か不味かったかの……?」
「なら良いんだ。フィカに渡すつもりだったから……」
階段を上り終えて通路に当たった。ソラは右へ進み、俺も後に続く。
「フーディン兄弟は国に帰ったそうじゃ。兄弟の中で3人命を落としたらしい……」
「3人……。スラーや、チャバは?」
「二人共、生還したぞ。もう国に帰ってしまったけどな……スラーから手紙を預かっておるぞ」
ソラが一枚の手紙を俺に差し出す。俺は歩きながらソラからスラーの手紙を受け取って手紙を広げた。

ライ、ルサを倒したみたいだな。やっぱりお前は凄い奴だ!
  残念ながら俺はもうグランド国に戻らなきゃいけないが……近いうちにまたソルベ国に来る予定だ。
    その時はぜひとも俺と手合せ願うぞライ!最後に余計なお世話だがソラ王女をしっかり愛してやるんだぞ?
          ではまた近いうちに……      スラー

急いでいたらしく走り書きだが綺麗な字で短く、そう書かれていた。
「フィカは『手紙を届けてくれて有難う、確かに手紙は受け取った。また今度会えた時は礼を言わせてくれ……』と申しておった」
「そうか……」
「此処じゃ、ライ殿」
ソラはある扉の前で止まった。そしてソラは扉をノックした。
「何方ですか……?」
ユリの声だ。
「妾だ。入って良いかの?」
「どうぞ、ソラ様……」
ソラと俺は中に入った。
部屋の中に入ると風が俺とソラに優しく吹きついてきた……
窓が開いていてカーテンがゆっくり揺れている……ユリはベットで上半身を起こし壁に寄りかかって本を読んでいた。
ユリは本を閉じて此方を見た。
「ソラ様、何の御用でs……、ライさん……!」
「この通りライ殿が目覚めたのを知らせに来たのだ。お見舞いでもあるのだがな」
「良かった……」
ユリはそう言って微笑む……
「有難うなユリ、ルチの命を救ってくれて……」
「いえいえ……当然の事をしたまでです……」
「その上、この俺の体中にあったはずの傷や怪我はユリが治してくれたんだろう?」
「はい、そうなのですが……手の平の火傷も治したかったのですが体力を使い果たしてしまって……すみません……」
ユリは軽く頭を下げる。
「謝る必要は無いって」
「でも、ルチさんの治療に夢中でソラ様が飛び出していくのにも気が付かなくて……私、私……」
「そんなに自分を責めるなよ、ユリ。ソラが来たおかげで俺は今、此処に居るって言っても良いんだぞ?」
「ライ殿……」
「ルチを救ったり俺の怪我を治してくれたんだし、だから謝るなって」
「分かりました……有難う御座います……ライさん……」
ふとユリの右腕に包帯が巻かれているのが目に入った。
「その包帯は……?」
「これは、ルチさんの治療中に陣営の後方から忍び寄ってきた十数名の敵兵士達を倒すときに出来た傷です……」
「お前……」
「大丈夫ですよライさん、少し苦戦しましたが私一人で何とか倒せましたし……傷は浅いですし……」
「そうか……」
「ライさん、今思い出したのですが……ライさんとルチさんに会いたがっている人が二人
4日前の夜に散歩をしていた私を尋ねて来ました……」
「俺とルチに……?」
「昔、ライさんとルチさんと小さい頃親友と言っても良いほどの仲だったそうですが……?」
俺とルチの小さい頃の親友の様な仲の奴……(!)、確かに二人、というよりも女の子の双子が居た。
でもあの双子はある日、一家纏めて殺されているのが見つかったはず……
「そんなはず……」
「私はよく分かりませんが……これを渡してほしいと……」
ユリは一枚の封筒を俺に渡した。俺は封筒を開けて中に入っていた二枚の手紙を広げた。
一枚目の紙にはこう短い文が書いてあった。

お久しぶりですライさん……最後に会った日から十数年経ってしまいましたね……でも、もうすぐまた会えると思います……
  5日後の午後9時頃にソルベ国城正面出入り口から北西に向かって飛んで二十数分の所に洞窟があります。
    そこでお会いしましょう……     ウイング

二枚目にはその洞窟への行き方が絵で詳しく描かれていた。
ウイング……全く聞いたことの無い名前だ……筆跡からして女性である事が分かるが……
とりあえず俺の脳裏に浮かんだ双子とは名前が全然違う……
ユリは4日前にこの手紙を貰ったのだから5日後というと明日の事だ……
「この名前に見覚えはあるのかライ殿?」
「いや、全く無い……。ユリ、この手紙を渡してきた二人の種族名や特徴は?」
「すみません……二人共女性だったという事は覚えておりますが暗闇の中だったのでよく見えませんでした……」
「仕方が無いな……明日ルチと行ってみるか……」
「でもライ殿、名前に見覚えが無いのだろう?」
「ああ」
「何かの罠だったら……」
「大丈夫ですよソラ様……悪い人ならあのような優しく透き通った声はしておりません……」
ユリはニッコリと微笑みそう言った。
「じゃあ、決定だな」
「わ、妾も行って良いかの……?」
「構わないぞソラ」
俺はソラの頭にポンッと軽く手を乗せて撫でる。
「あまり長居するのもユリに悪いだろうし、ルチにこの事を伝えなきゃな。そろそろ行こうソラ」
「うむ」
「さようならライさん、ソラ様、お見舞い有難う御座いました……」
「じゃあなユリ」
ユリに挨拶をして俺とソラはユリの病室から出て通路を歩き始める。
「ウイングか……」
自然に俺はそう呟いていた。
「本当に聞き覚えが無いのかライ殿……?」
「ああ、一応幼い頃俺とルチと仲が良くて親友みたいな関係だった同じ歳の双子が居たんだが
手紙の名前は違うし、あいつらは何者かの手で殺された」
「過去のライ殿とルチの身近にそんな事が……」
階段前に着き、ソラと階段を下り始める。
「まぁ、今はとにかくルチに手紙の事を伝えよう」
「うむ」
俺とソラは階段を下って通路に出た。そしてルチの部屋の前に着き、扉を開く。
「ルチちょっと良いか?」
「(?)、構わないけど……」
ルチは上半身を起こした。
「これを読んでみてくれ……」
ユリに貰った先程の手紙をルチに俺は手渡した。
「……」
手紙に書かれた文をルチは集中して見ている……しばらくするとルチは視線を上げた。
「これは……?」
「ユリが4日前に俺とルチに……と渡された手紙だ」
「もしかして……!」
「俺もそう思ったんだがあの双子は死んだはずだろう……?」
「確かにね……」
ルチは手紙を畳んで俺に返した。
「手紙に書かれている5日後は明日なんだ。明日の午後9時に城の正面出入り口から北西に向かった所の洞窟……
俺は明日行こうと思うんだ。ルチも来るか?」
「行かないわけ無いでしょ気になるもの……!」
「そう言うと思ったよルチ」
「明日の午後8時35分頃に城の出入り口に集合……ってのは、どう?」
「分かった……」

翌日の朝。
「ん~……ライ殿、お早う」
ソラは布団の中で体を伸ばしながら挨拶をしてきた。
「お早うソラ」
俺はソラの唇にキスをする。そして上半身を起こす。
「何だか寒いなライ殿……」
キスをされて頬を赤くしながらもソラは上半身を起こす。時刻は午前8時過ぎだ……
「そりゃそうだな。ほら、見てみろよ」
そう言って俺はソラのベットから出てガラス張りの壁の所まで歩いて行き、城下を眺める。
すぐにソラも連いてくる。
「真っ白だな……ライ殿……」
俺とソラの視界に映ったもの……それは、城下の家々の屋根や道……
ソルベ国近くの森など見渡す限り真っ白な雪が積もっている光景だ。
雪はまだ沢山降っていて、よく見ると城下の所々で子供達が雪で遊んでいるのが見える。
「ルチとユリの所に行くか」
「うむ」
扉を開き俺とソラは防寒着を着て部屋の外に出る。
いつもの様に階段をしばらく下り、城の正面出入り口に着いた。
兵が俺とソラに挨拶し、門を開けた。
門から外に出ると雪が積った真っ白な地面や家々が姿を現す。
「ユメ、お早う」
少し先にユメが歩いているのを見つけて俺は声を掛ける。
ライさん、ソラ……
俺の声に気付き、ユメは俺とソラの前へとやって来た。
「何をしていたんだ?」
散歩です……
「散歩か、ユメは散歩が好きなんだな」
はい、落ち着くというか何というか……リフレッシュ出来るんです……
「そうか、今度俺もやってみようかな……」
ぜひともやってみて下さい……
ユメは微笑む。
「呼び止めて悪かったなユメ、そろそろ俺とソラは行くよ」
はい……
再び俺とソラは病院に向けてしばらく歩いた。……やがて病院に着いた。
ソラと病院に入ろうとした時、病院の扉が開いてルチが姿を現した。
「ルチ……!」
「ライ、退院できたわ」
「そうか良かったな、これからユリに会いに行くがルチも来るか?」
「そうね、ユリにお礼を言わないと」
俺達は病院の中に入り、受付をして階段を上りユリの病室へとやって来た。
「ユリ、入って良いか?」
扉をノックし、俺はそう言う。
「はい、構いませんよライさん……」
ユリの許可を貰い、部屋の中に俺達は入る。
「あら、ルチさん……退院できたみたいですね……」
昨日と同じ様にユリはベットの上で上半身を起こして本を読んでいた。
「これもユリの御蔭よ、私の命を救ってくれて有難うユリ」
ルチはユリにお礼を言って軽く頭を下げる。
「どういたしまして……」
ユリはいつもの微笑みを見せる。
「真っ白ですね……ライさん」
窓から雪が降っている外の様子を見ながらユリはそう言った。
「そうだな」
少し間を空けてからユリはこう再び話しかけてきた。
「昨日の手紙の事はルチさんに伝えたのですか……?」
「ああ、伝えたぞ」
「今夜8時35頃にソルベ国城正面出入り口に集合して私とライ、ソラ王女の三人で行くつもりよ」
「ウイングさんという方はやはり知らないのでしょうか……?」
俺とルチは頷く。
「そうですか……」
「まぁ……行って、会ってみればすぐに分かるわ。ね?ライ」
「そうだな」
「でも、夜まで時間があるがどうするのだ……?」
「皆で何かお喋りするのはどう?」
「私、丁度誰かと話して過ごしたいと思っていたんです……」
ユリがニッコリとする。
「そうだな、皆で何か喋って時間を潰すか……」
こうして俺達はユリの病室でお喋りをして夜まで過ごす事になった……


続き:深紅の鎌.九


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Last-modified: 2016-08-09 (火) 03:53:10
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