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深紅の鎌.七

/深紅の鎌.七

前回:深紅の鎌.六
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・深紅の鎌.七



―1― 嵐の直前

「あと2、3時間後に敵の本拠地を叩く、かぁ……早いものね……」
「ああ、そうだなルチ……」
俺達の軍は今、フラッドガ国まで1、2km程の所に陣営を張っている。時刻は3時過ぎ……俺達はテントの中に居る。
外からは兵士達の足音や装備の揺れる音……そして雨の降る音だけが聞こえてくる。
岩石砲部隊は予定通り谷の上で待機している。
「これが最後の戦いか……」
俺はそう呟く……敵国を攻めるのだから油断は出来ない。あっちも自分達の国が掛かっているのだから本気で抵抗してくるだろう……
「どうしたのよライ、何だか貴方らしくないじゃない」
「最後の戦いだし何が起こるか分からないからな……」
「きっと無事に勝てますよライさん……」
「そうだぞライ殿」
「……コクッ」
「有難うな、皆」
俺がそう返事をすると皆、にっこりとしてくれた。
そうだ俺は共に戦ってくれている仲間達の為に……戦いで死んでいってしまった仲間達の為に……ソラ達の為に……
この戦いを終え、無事に帰ってこなきゃならない。仲間達と共に戦って……

「ほぉ……我が軍の別部隊が敵の援軍と交戦を開始したと?」
「ああ、そうだ。兵の報告によればな」
ルサはそう言って頭を軽く掻く。
後ろを振り返ると地下実験室に居るフュイとフュンが不安そうな表情を浮かべている。
「戦況はどうなってる?」
「まだそこまで報告は入ってない……それにしても敵の軍を後ろから攻めるための別部隊が
敵の援軍と鉢合わせ……交戦開始とはな……」
「世の中、何が起こってもおかしくないからな。特に戦争は何時、何が起こってもおかしくない……」
「そうだな……俺はもう戻る」
俺はルサが去っていったのを確認して地下実験室の扉を閉めた。
「ユスカ様……」
「心配する必要は無い」
「えっ、どうしてですか……?」
「別部隊に狂怖薬を服用した兵が1000人居るが神・治毒薬を薬の中にこっそり混ぜておいた」
「という事はユスカ様……?」
「そうだ。ライ達の軍の援軍が戦う事になるこの国の別部隊は皆、何の薬も服用していない兵士という事になる」
その言葉を聞き、双子の肩の力が抜けた。ほっとしたようだ……
「いつも有難う御座いますユスカ様……」
双子はそう言って頭を下げる。
「当然の事をしたまでさ、一睡もせずに急いで作った薬が役に立って嬉しい」
俺は笑顔を見せる。
ライ達、頑張ってくれよ……これ以上戦いで犠牲が増え続けないためにも……絶対に……

「……という事なんだ」
フィカは俺達に援軍の状況を伝え終えた。
「援軍が敵の別部隊と交戦か……」
俺は防具を身に付けながら、そう呟く。
「でも助けに行けないではないか……妾達は10分後にはフラッドガ国を攻めるのだろう?」
「大丈夫だ。私の弟の報告によれば此方が押しているとの事だ」
「そうなのか……良かった……」
「では私はこれで」
フィカはそう一言呟きテントから出て行った。
「いよいよだな……」
「うむ……」
「ふぅ~何だか緊張してきたわね……」
そうですね……
テントから俺達は出る。いつもの事のように雨が降っている……
「ライ殿、分かっておる……よな?」
「ああ、もちろんだ。無茶はしない……」
「また後でなライ殿……」
ソラは俺の口にキスをした。俺は笑顔をソラに返した。
「皆様、お気を付けて下さいね……」
ユリとソラに見送られて俺とルチとユメは陣営の前に集まっている軍の方へ向けて雨が降る中、飛び立った……

―2― 幕開け

黒い雲が空を覆い雨が降る中、角笛の音色が辺りに鳴り響き、今最後の戦いが始まった……!
ルチと共に地面から飛び上がりゼネラ国軍とフラッドガ国へ向けて進む。陸の仲間達も雄叫びを上げ、一斉に進軍を始める。
フラッドガ国軍も此方へ向けて進んでいる。
「ルチ、敵が射程に入り次第流星群を頼む!」
「OーK!一掃してやるんだから!」
俺達はスピードをどんどん上げる。真・神境薬のおかげで普段より早く飛べる。
そして敵の空軍との距離が迫ってきたという所でルチが流星群を放ち、敵の空軍の群れの彼方此方で爆発が起こる!
ゼネラ国の兵士達も流星群や竜の波動や破壊光線、雷を放って交戦を開始する!
敵の兵達も攻撃を仕掛けてくる!
俺は擦れ違った敵兵何人かにドラゴンクローを決めつつ、敵空軍の後ろへ回り込む。
そしてルチと共に次々と敵空兵を背後から攻撃し倒す。
敵空兵はゼネラ国軍を攻める事に気を取られ背後が、がら空きだ。
俺達の存在に気付いた敵数人が攻撃を仕掛けてくるが全て俺とルチはかわしてルチが流星群で一掃する。
下の方に目をやると敵陸軍と味方の陸軍が衝突した所だった。200人のゼネラ国の兵士が神・治毒薬を一斉に撒き始めた。
と、同時にゴローニャ達が岩石砲隊に飛ばされてきて敵軍にラムパルド部隊と共に突撃を仕掛ける!
そして大きな岩も敵目掛けて飛んでくる。雨が降っているが岩は硬度を保っているようだ。
敵も黙っているわけにも行かないらしくフラッドガ国の方からも炎を纏った大きな岩や遠距離攻撃が飛んでくる!
お互いに多大な被害が出そうだな……俺はそう思った。
「ルチ、敵の遠距離攻撃をしている連中を叩きに行くぞ!」
「分かったわ!」
そしてフラッドガ国へ向けて飛ぼうと振り返った時だった。何者かが雷を発動し、俺に当たった!一瞬、バランスを失ったがすぐに立て直す。
「ライ!大丈夫?!」
「ああ、何とか……」
俺は辺りを見渡すが雷を発動したと思われる敵は見当たらない……
その時、突然破壊光線が飛んできて俺はとっさに身を捩って避ける!そして何者かが此方へ急速で接近するのを感じ
急速で接近してきた奴が近くなってきた時俺は翼を閉じてそいつの突進を回避する。と、同時にドラゴンクローをお見舞いする!
手応えがあった。すぐに俺は体勢を立て直す。
「噂通りの強さだ……」
『!』
俺とルチが声が聞こえた方を見ると少し先にフラッドガ国の防具を着たガブリアスが左肩を右手で押さえていた。
敵ガブリアスの防具が他の兵と少し違うように見えた……
そのガブリアスの左目には引っかき傷があり、どうやら左目は見えていないようだ……
どうやら先程の雷や破壊光線、急接近してきた敵はこいつの仕業らしい……
「お前はライだろ……?」
「何故俺の名を……」
「我が軍の間で有名だからなお前は……」
「あんた……何者……?」
「フラッドガ国の空軍の将軍とでも言っとこう……噂は聞いている。ライ、俺と戦え!」
そう言ってそいつは胸の勲章を指差した後、俺を指差して自分の胸を叩く。
「ルチ、残りの敵空兵の相手をしててくれ……俺はこいつとやる……」
「ライ……」
「大丈夫だ」
「……分かったわ」
ルチは敵空兵の方へ向かって行った。
「これで一対一だな」
ガブリアスは右手で左肩を抑えるのを止めた。
「そうだ。で、お前の名は?」
「ジェトー空軍将軍だ」
そう言うとジェトーの目つきが一瞬で変わり、殺気が一気に沸いてきた……!
「さぁ、ライ行くぞ!」
ジェドーは風を切り、猛スピードで突っ込んできた!
俺は何とかとっさにジェドーの突進を避けたがジェドーは俺と擦れ違った瞬間に破壊光線を放ち、俺の体が吹っ飛ばされる。
体勢を立て直すと既にジェドーは俺に向けて猛スピードで突進してきている所だった。
俺は竜の波動を複数放つ……攻撃は何発か避けられたが殆ど当たり、爆煙の中にジェドーの姿が消える……
が、すぐに爆煙は切り裂かれたように分裂し、煙の中から現れたジェドーは破壊光線を放ってきた!
避けきれないと判断した俺は竜の波動を放つ……互いの攻撃が当たり、大爆発が起こり俺とジェドーは互いに爆風に少し巻き込まれる。
爆煙が辺りに漂う……聞こえてくるのは雨の降る音や爆発音、羽ばたく音……時々、色々な声が聞こえてくる……
突然、再び煙の中から現れたジェドーが突進してくる!
しかも先程からの突進と違い、大きなエネルギーを纏い物凄い速さで突っ込んでくる。これは……ドラゴンダイブだ……!
ほぼ一瞬で距離が縮まったが何とか身を捩って避けつつドラゴンクローをお見舞いする!
しかし、攻撃は当たったものの、すぐに反転しジェドーは再びドラゴンダイブを発動し突進してきた!
避けきれない……!俺は身構える。その直後ジェドーがぶつかり、体中に物凄い衝撃が走り、俺の体が吹き飛ばされる!
視界がグルグルと回り、地面に引き寄せられるのを感じる。羽ばたいて体勢を立て直そうとするが無駄らしく状況は変わらない……
心臓が高鳴っている。本能が危ないと感じているのだろう必死に翼を羽ばたき少しでも衝撃を和らげようと俺は頑張る。
やがて地面が間近に迫りそして……
ドゴッ!という鈍い音がして背中に激痛が走る。
「くそっ……」
落下の際にグルグル回っていたから目が回っているし背中はかなり痛いし……気分が悪い。でも意識はハッキリとしている。
少し高度が高かった気がするが生きている……激痛が背中に走っているが……
目が回るのが治まると分かった。土が雨を吸収しかなり軟らかくなっている……この土が助けてくれたらしい……
「まさか土に助けられるとはな……」
そう俺は呟く。
「ほう、生きていたとはな……」
上を見上げるとジェドーが左肩を抑えていた。ジェドーの左肩と顔からは血が少し流れていた。
互いに息は荒い……俺は何とか激痛を堪えて立ち上がった……
ジェドーは地面に着地した。
「俺の体から血が流れるのはそういえばかなり久しぶりだな……」
自分の頭と左肩から流れる血を見てジェドーはそう呟いた。
背中の痛みが徐々に治まってきた……きっと薬のおかげだ……
俺が羽ばたき飛び上がるとジェドーも同じ様に飛び上がった。
高度を上げながら互いに相手を睨む。
俺は竜の波動を放つ!ジェドーも破壊光線を放ち、再び互いの攻撃がぶつかり大爆発を起こす。
爆煙が立ち込めるがすぐに爆煙の中からドラゴンダイブを発動したジェドーが飛び出してくる!俺は翼をたたんでさっとかわす。
しかし、爆煙の中から流星群が突然姿を現して俺に襲い掛かる!爆発が彼方此方で起こり、俺にダメージを与える。
「くっ……!」
流星群が止むと途端にジェドーの破壊光線が飛んでくる!何とか避けてジェドーに向けて急降下する。
俺が接近してくるとドラゴンダイブを再び発動しジェドーは突っ込んでくる。
ジェドーのドラゴンダイブを軸をずらして避け、擦れ違い際にドラゴンクローを決める!
そして竜の波動を複数放ち背後から追撃を加える!
ジェドーは攻撃を全て喰らい、バランスを失うがすぐに立て直す。
でも攻撃が効いているらしく呼吸は荒く、先程よりフラフラしている……
「さすがだな……でも、これはどうだ?」
そうジェドーが言うと突然、俺の体に大きな音と共に衝撃が走った!俺が怯んだ隙にジェドーは俺に破壊光線を当てる。
「どうなってんだ……!」
俺は体勢を立て直しそう呟く。
「もう一発……喰らいな」
再び俺の体に衝撃が走り大きな音がする!その衝撃に俺は怯む。ジェドーはドラゴンダイブを発動し俺に突進する!
物凄い衝撃が体中に走るがどうにか少し高度が下がった所で体勢を立て直した。
俺が怯んだ瞬間のあの大きな音……何処かで聞いたような音だ……
「どうしたライ、来ないのか?なら此方から行かせてもらう!」
ジェドーの腕に電気が纏い始めたとき俺は素早く雷を発動する。空気を切り裂くような音と共に一筋の閃光がジェドーに当たる!
タイプがタイプでダメージは無いが雷の衝撃でジェドーは怯む。
その隙に俺はジェドーに急接近しドラゴンクローを決め、至近距離で大文字と竜の波動を打ち込む!
爆発が起こり、ジェドーが煙を纏いながら落ちて行く……
「つまり、雷でダメージは無いが怯むのを狙っていたんだろジェドー……」
ジェドーの体は十数秒後地面に叩きつけられた。
なんとかジェドーは、まだ生きているようだが戦闘を続けられる状態では無いのが遠くからでも分かる。
「勝負有りだジェドー」
俺はフラッドガ国へ行く為、フラッドガ国の方に向き直る……と、目の前にルチの顔が映った!
「ルチ!?」
「カッコ良い!ライ、さすがね!」
ルチが抱きついてくるが俺はその腕を何とか振り解いた。
「此処はあくまでも戦場だ。そういうのは後にしてくれ!てか、いつの間に……」
「今来たのよ。本当よ」
ジェドーとの戦いで幾つか傷が出来たが痛みは薬が抑えてくれているしまだまだ戦える。
「行くぞルチ、フラッドガ国の遠距離攻撃をしている連中の所へ」
そして俺とルチはフラッドガ国目指し飛び始めた……

「あそこ、ライ!」
しばらく飛び、フラッドガ国が近くなってくるとルチがある所を指差した。高い防壁がフラッドガ国を囲っている。
空を飛べる者には防壁を超えるのには容易いが陸で戦っている味方はこれではそう簡単に突破できない……
防壁には大きい門が4つあり、その4つの門の何れかからフラッドガ国に入れる。
フラッドガ国は中心の城に近づけば近づくほど地表が高くなっている。これは俺達空を飛べる者が内側から門を開けないといけなさそうだ。
しかし正面の門は敵の遠距離攻撃をしている連中が守りを固めている……俺とルチだけでは突破は不可能だ。
「ライどうするの?」
「ゼネラ国軍を呼ぼう」
「でもどうやって呼ぶの……?」
「ユリ」
(お呼びですかライさん……?)
頭の中にユリの声が響く。
(敵国に進入する為に門の守りを固めている敵兵達を倒すのを手伝って欲しいとゼネラ国軍の兵士に伝えてくれ)
(分かりました……)
テレパシーはそこで途切れる。
「ライ?」
「実はさっきユリが『テレパシーで話したい時は私の名を呼んでください……』って言ったから……」
「なるほどね、それで味方に知らせたわけね」
ルチは早くも此方へ向けて飛んできているゼネラ国軍の兵士達の方を向きながらそう言った。

―3― 狂、再び…

「行くわよ皆!」
ルチの合図で角笛が鳴り、先程合流したゼネラ国軍の全兵士達が一斉に急降下を始める!
勿論、目標は門の守りを固める敵兵士だ。雨の中、風を切りゼネラ国軍の兵士達と共に一気に降下していく。
此方に気が付いた敵遠距離攻撃兵は陸への攻撃を止め、一斉に此方へ向け攻撃を集中してくる!
空中の彼方此方で爆発が起こる!しかし、俺達は怯まず急降下を続ける。
敵の攻撃が当たり、何人か味方の兵士が煙を纏い、落ちて行く……
目の前に来た攻撃を俺は何とか回避する!そして敵遠距離攻撃兵達が射程に入った!
一斉にゼネラ国軍の兵士達は竜の波動や破壊光線を放つ!中にはルチと同じく流星群を発動する者もいる。
俺は仲間達の中を進みながらも竜の波動を敵遠距離攻撃兵達に向け連射する!
俺達の攻撃が地上で迎撃しようと必死になる敵遠距離攻撃兵達に一斉に襲い掛かり爆発が連続で起こる!
特にルチと少数の味方が放った流星群が大爆発を起こし、敵に多大な被害を与える!!
尚も俺達は攻撃を続ける。敵遠距離攻撃兵達の攻撃もだんだんと無くなって来ている。
そして仕上げだと言わんばかりに大きな雄叫びと共に突撃の合図の角笛が辺りに鳴り響き
味方の陸軍が此方に夢中になっている敵遠距離攻撃兵達に突進していく!
俺達は空中で静止する。先程の俺達の攻撃で黒煙が立ち上っている……
敵遠距離攻撃兵達の辺りに立ち上った黒煙が消えると敵遠距離攻撃兵達は全て地面に倒れていた。
ワッー!!という歓声が地上の味方兵士達と空の味方兵士達から響く。
味方陸軍が此処に居るという事はフラッドガ国の防壁外に居る敵は全滅したという事だ。
残りはこの防壁の向こう……フラッドガ国で守りを固める敵兵達だけだ。此処からが本番の筈だ……気を引き締めなければ……
「門を開きに行くわよ!」
ルチの合図で再び角笛が鳴り響きゼネラ国軍の兵士達と共に防壁の向こうへ進む。
無論、防壁の内側に入ると門の所に敵が待ち構えていた。ゼネラ国軍兵士達は交戦を開始する!
「ルチ、俺とお前は門を開きに行くぞ!」
「分かった!」
門のすぐ横に扉があり、そこの中に門を開けるための装置がある筈だ。装置を使い、外側で待つ味方陸軍を中に入れなければならない。
味方空軍を手伝いたいのだが今は陸軍を……俺とルチは真っ先に門のすぐ横にある扉目指し急降下する!
扉に向かう間、敵の攻撃が数回飛んできたが何とか回避した。
やがて扉の前に着き、俺とルチは着地する。そして駆け足で扉の元に行き、扉を開けようとした時だった。
急に扉が独りでに開き、一筋の閃光が飛び出してくる!俺とルチはとっさに横に飛び出し回避した。
「……通…さ、ん…」
その声に俺とルチが扉の方を向くとそこには……
薄い赤紫の斑点が体の所々に浮き出た敵レントラーが立っていた……
「気をつけろルチ!狂怖薬服用者だ!!」
「こんな時に!」
「……交、…戦」
敵レントラーはそう言うと体中に電気を纏い放つ!放電だ!
俺とルチは何とか回避するが敵レントラーの放った攻撃が背後のフラッドガ国の民家に当たり、一撃で民家が破壊される……
何だこの威力は……雨は相変わらず降っているし雷を使われないと良いが……
「何所を、……見て、いる…」
「!」
一瞬の内に敵レントラーは俺の背後に回りこんでいた!レントラーはチャージビームを放つが俺はとっさに避けて当たらなかった。
が、避けた先に敵レントラーが待ち伏せしておりチャージビームを放つ!
「うっ!」
俺の体が少しの間、浮き地面に叩きつけられた。
「ライ!……きゃっ!?」
敵レントラーがルチに突進を喰らわせる!
くそっ……どうしてだ。地面タイプも持つ俺が電気タイプの技を喰らった……ちゃんとダメージも有る……
再び敵レントラーのチャージビームが飛んでくるが俺は飛び立ち回避する。
下を見ると俺が数秒前までいた所の地面が攻撃で抉られていた!
「なんて威力だ……」
「ライ、後ろ!」
ルチに言われ振り返ると敵レントラーが地面を蹴り、俺に向けて跳ねてきた!その牙には電気が帯びている。
俺はアッパーをする様に下からドラゴンクローで敵レントラーの顎を砕く!
しかしその姿は消えた!
「陰分身か!?」
「ライ!後ろ!」
振り返ったときにはすでに遅く、敵レントラーの電気を纏った牙が俺の左肩に噛み付く!
「ぐッ!」
すぐにレントラーは俺の肩を噛んだまま俺をそのまま地面に叩きつける!
「がはっ!」
「ライを傷つけるなッ!」
ルチはゴットバードで敵レントラーに突進を喰らわす!敵レントラーの体はルチの攻撃で吹き飛び防壁に叩きつけられる。
その衝撃でレントラーの左後ろ足の骨が折れた様だが何事も無かったかのように立ち上がる。
「相変わらず嫌な立ち上がり方ね……」
ルチが俺を起こしてくれる。
左肩の痛みを耐えながら俺はルチと共に飛び立つ。
「ん?」
「どうしたルチ?」
「よく見てライ、あいつの体…常に電気を纏ってるわ……」
本当だ……敵レントラーの体は電気を常に帯びている。電気タイプとはいえ見るからに異常な量の電気を常に帯びている……
充電を発動しない限りこの電気の量は無理だ。
「ルチ、敵レントラーは陰分身を使える。もしかしたら充電をしている。奴の分身が居るのかもしれない」
「確かにそうかもね」
しかし辺りを見渡しても目の前の本体以外は見当たらない……
「何所を…見、ている……」
レントラーは放電を発動する!その攻撃を回避し、俺は敵レントラーに急接近し何とかドラゴンクローを決める!
俺の攻撃に敵レントラーが怯んだ隙にルチが流星群を発動し、流星群がレントラーを襲い爆発が起こる。
爆煙はすぐに消え、レントラーの姿が現れる。レントラーの体は彼方此方傷や打撲が出来ていたがまだ立ち上がっている……
敵レントラーは陰分身を発動し分身が10体出てきた。本体も合わせ11体……
レントラーは本体、分身、共に一斉に放電を放つ!さすがに一斉に撃たれ避けきれず俺とルチは共に放電を喰らう!
くそっ!奴の充電をしている分身は何所に!
それに地面タイプの俺が電気技を何故喰らってしまうのか……不思議でしょうがない。
「ごほっごほっ……」
「はぁはぁ……」
ルチは辛そうにしている……このままではルチが倒れてしまう……
「こっのーッ!!」
ルチは流星群を発動する!
流星群が敵レントラーを襲い、分身は全て消え去った。
本体はさらに傷つき、血が出始めた……
「……!」
俺はルチの流星群の爆煙が消えるとある事に気が付いた!
ルチの流星群の一つが防壁に当たり壁を少し崩していて門を開ける装置が丸見えになり
その隣に充電をしている敵レントラーの分身が居る!
「吹き飛べ!」
俺はエネルギーを集め竜の波動を放つ!
その攻撃は敵レントラー本体の顔のすぐ横を通り、門を開ける装置の横に居るレントラーの分身に当たる!
そして大爆発が起こり、敵レントラーは分身の方に振り返る……爆煙が消えると分身の姿は消え爆発の弾みで装置が動き始めた。
結果的に敵レントラー本体の体中に纏っていた電気は消え、門は開き始め。俺達の味方陸軍が一斉に中に入ってきた!
そしてゼネラ国軍と味方陸軍が先程まで門を挟んで内側に居た敵軍を挟み撃ちにする!
「終わりよッ!」
敵レントラーが此方に振り返ったときにはルチが渾身の力を込めて両拳を敵レントラーの頭に振り下ろした!
頭蓋骨が砕ける音がして敵レントラーの頭が地面に叩きつけられる!
と、同時に敵レントラーの放電が発動しルチがその攻撃をまともに喰らってしまった!
敵レントラーは地面に叩きつけられピクリとも動かなくなった……
ドサッ……という音を立てルチも倒れた!
「ルチ!」
俺はすぐにルチの元へ駆け寄る。
「おい、ルチ!ルチ!」
返事が無い……俺は急いでルチの胸に耳を当てる。心臓が僅かにしか動いていない!!
「ユリ!」
俺がそう叫ぶとすぐにユリの声が聞こえてくる。
(どうしたのですかライさん……!)
(ルチが倒れたんだ。ルチ容態を見れるか?!)
(直接其方へ行きます!)
(でも、どうやって?!)
(ライさん、少し貴方の記憶を覗きますが宜しいですか……?)
(すきにしてくれ、ルチが助かるなら!)
(分かりました……!)
そうユリが言うと頭の中がスッーと冷たくなる。数秒経つと元に戻った……
(其方へ行きますね……!)
(ああ、早く来てくれ!)
シュンという音がして目の前にユリが現れた。
すぐにユリはルチの胸に耳を当てる。そしてルチの体を調べる……
「どうなんだユリ?!」
胸の内が不安でいっぱいだ。
「これは酷いですね……すぐに治療をしなければ命は……」
「何だって!?」
「ルチさんの治療は私に任せてライさんはこれを飲んで戦闘を……!」
ユリは翡翠色の液体の入った小さな瓶を俺に渡しテレポートで意識の無いルチと共に陣営に戻っていった……
頼んだぞ……ユリ。ルチの奴を……
俺はユリに貰った小さな瓶を握り締め立ち上がった……
ライさん……
俺が振り返るとそこにはユメが立っていた。
「ユメ……何故此処に?」
周囲に敵影が見えませんので後方から攻撃していた私達も進んできたんです……
ユメの後方に目をやると味方の軍は全員既に門から防壁の中へと入ってきていて敵と交戦しつつフラッドガ国中心の城を目指している。
門の目の前でユメ率いる遠距離攻撃兵達は攻撃を続けている。
俺はユリに先程貰った瓶に入った翡翠色の液体を飲んだ。
すると体の奥から何かが湧き上がるような感覚がした後に左肩にすごい痒みを感じたが我慢するとすぐに敵レントラーにつけられた噛み傷が治った。
これで左肩の痛みを気にせず戦える……次に体中の傷や怪我がムズムズし始めた。
たまらなく掻きそうになったがユメが俺の両手を握ってくれ、何とか掻かずに済んだ……体に出来た怪我は殆ど治った。
まだ少し残っているが……
「有難う……ユメ」
ど、どうしたんですか…きゅ、急に……
ユメはオロオロし始める。何だかその様子が俺には可愛く思えた。ソラの親友だけに反応が似てる気がする……
「俺が体を掻くのを止めてくれただろう?」
は、はい……ユリさんが掻かないように見ていてくださいって……
「そうか……。気を付けるんだぞユメ、じゃ、戦いの後にまた会おう」
はい……!ライさんも……
「ああ」
そして、俺は行こうとするが……
「ユメ?」
は、はい…何でしょう……?
「手……」
ユメは俺の手の方に目をゆっくり向ける……
(!)すみません……!
俺の両手を掴んでいたユメは頬を赤らめサッと手を引っ込める。
ごめんなさい……!
ユメは頭を深く深く下げる。
「いや、そんなに謝るなって……」
で、でも……ライさん……
「気にするな。じゃ、今度こそ戦いの後にまた会おうな」
俺はユメの肩に手を乗せる。
は、はい……!
ユメはそっと笑顔を見せた。翼を広げ、羽ばたく……すぐに俺の体が浮き俺はフラッドガ国中心に建つ城に向け飛び立った。

―4― 犠牲と始まり

「突撃っ!!!」
俺の合図でフラッドガ国の中心に建てられた聳え立つような大きな城の正面出入り口の硬い鉄の大きな扉が爆風と共に破壊された。
そして城の中へと味方達が流れ込む。
此処まで来るのに味方の犠牲がかなり出てしまった。原因は敵の民家の陰からの攻撃や奇襲、罠などだ……
此処の民家の並びや地形を熟知しているからこそ出来る巧みな攻撃だ。
この攻撃に応戦する為に灼熱翼部隊が役に立った。炎の海で隠れている敵も隠れている物ごと焼き払ってくれた。
此処にたどり着けたのは全軍の一部……今の所500人程だ。殆ど味方は皆、城下でまだ戦っている。
そう考えながらも俺も500人ほどの味方達の流れに入り、城の中へと入る。
入ると広間が広がっており、少し先で階段が幾つかの方向に分かれており、別々の通路に繋がっている。通路は9つ。
その通路ごとに敵兵達が家具などで守りを固めている……
ルサの所へ行かなければならないがどの通路がルサの元へ行くのか分からない……
仲間達はそれぞれの通路に進んでいく。
「あの通路だ」
その声に振り向くとそこにはフィカが居た。フィカの背後にはフーディン兄弟が立っている。
「行くぞライ!俺について来い!」
フィカとフーディン兄弟の一人はある通路を進み始める。
俺はその後に連いて行く。残りのフーディン兄弟は一つの通路に2人ずつに別れ進んで行く。
「ゼネラ国の兵士達、連いてきてくれ!」
フィカはそう叫びつつ走る。フィカの後に連いて行くとすぐにその通路を固めている敵の数が他の通路より少し多いことが分かった。
あまり広くない通路の中で通路を守る敵が攻撃を仕掛けてくる!しかしフィカとフーディン兄弟の一人がバリアを張り、攻撃を全て防ぐ。
フィカとその弟が盾となっている……俺はフィカ達のバリアとバリアの隙間から竜の波動を放ち応戦する。
後ろから来た味方達も同じようにして攻撃を開始する。
「攻撃の手を休めるな!」
そう広くない通路の中で沢山の攻撃が行き交う。きっと他の通路でも同じ事が起こっている。
フィカ達はバリアを張りつつ徐々に前へ前へ進んで行く……
「伏せろライ!」
後ろから急に大きな声が聞こえ俺はとっさに地面に伏せる!
すぐに俺の上をオレンジ色の光線が一直線に通り通路の守りを固める敵兵達の元へ行き、そして……
通路が壊れるかと思う位の揺れと爆発が起こり爆煙で辺りが見えなくなる。俺は羽ばたいて爆煙を掻き消す。
するとこの通路を守っていた敵兵達が倒れている。俺が振り返るとそこにはスラーが立っていた。
「スラー、お前だったのか!」
「それよりも早く突き進もうぜライ!」
スラーはフィカ達と通路を走って進んでいく。俺もその後に連いて行く、後ろからはゼネラ国の仲間達が連いてくる。
しばらく走り続けていると通路は終わり、少し広い空間に出た。
今居る空間を見渡すとこの空間は円柱の様に縦に長く、壁の彼方此方に大きな穴が空いている。
「この上にルサが居る」
俺は羽ばたき宙に浮く。フィカとその弟も宙に浮く。
俺達の後から来た数十人のゼネラ国の兵士達も同じ様に羽ばたいて宙に浮く。
「ライ、俺はこっちから行くぞ」
スラーは少し先に扉があるのを見つけ連いてきた味方の陸軍を率いて扉の先へと進んでいった。
フィカとその弟、俺、ゼネラ国軍兵士数十人でルサを目指し上昇を始める。
その時、この空間の壁中に空いた穴から敵兵達の姿が見え、穴の中から攻撃を仕掛けてくる!
「止まるな!上昇を続けろ!」
俺は連いて来る十数人のゼネラ国軍兵士にそう言った。
『了解!』
敵の攻撃を交わし、敵が隠れている穴を攻撃しつつ上昇を続ける。
天井まではかなりの距離がある。敵の攻撃が絶え間なく飛んでくる。
少し先を飛ぶフィカとその弟がバリアを張っているため上からの攻撃は大体は防いでくれる。
しかし味方の兵士の何人かが攻撃に当たってしまい命を落としていく。
俺達は尚も上昇を続ける。その時、ガチャッという音がして天井付近から鉄骨が沢山落ちてくる!
周りからの攻撃が来ているのに鉄骨は徐々に加速し俺達に迫ってくる!
竜の波動などの攻撃を鉄骨に仕掛けるが量が多すぎて破壊しきれず落ちてくる沢山の鉄骨の中へと入ってしまう。
敵兵達の攻撃の中、鉄骨を何とか俺は避けていくが一瞬時が止まったかのように俺の視界がスローモーションになり……
フィカの弟が鉄骨を避けた瞬間別の鉄骨がフィカの弟の頭に鉄骨が当たり頭蓋骨が割れる音がし、フィカの弟が落ちていく……
同時に後ろに連いてきている四人の兵士にも鉄骨が当たりフィカの弟と同じく落ちてゆく……
フィカが振り返り、弟の名前を叫ぶがその隙に鉄骨がフィカの後頭部に当たりそうになり
俺はフィカの体を突き飛ばし、鉄骨に当たらないようにした。
沢山の鉄骨の隙間を通り、何とか鉄骨の中を俺達は抜け出した。
鉄骨の中を抜け出すと天井が近くなっていた。スピードを下げ、天井近くにある扉の中に俺達は入る。
これで敵の攻撃は来ない……今や後ろに連いてきたゼネラ国の兵士は4人に減っていた。
その場に居る皆息が荒かった。俺達は息を整えると再び進み始める。
フィカの表情は暗くなっていた。言葉を掛けてやりたかったが言葉が見つからない……
俺も同じ様な経験をしているからフィカの気持ちはよく分かる……
昔、俺がまだ幼く、ゼネラ国で今はソルベ国に引っ越した両親と暮らしてた時
ルチと俺と一緒によく遊んでいた双子が居たのを覚えている。
その双子は妹の方が生まれつき喋れなかったが双子と俺とルチは仲良く毎日遊んだ。
しかし、ある日双子は自宅で両親と一緒に血まみれで死んでいるのが見つかり、俺とルチは泣きじゃくったのを覚えている……
だから大切な友や人を失った時の気持ちはよく分かる……他にも同じ様な経験をしたし……
俺はフィカの肩に手を置く。
「分かっている。ライ、行くぞ……!私の弟の為にも…仲間のためにも!」
フィカはそう言い目を擦り、走り始めた。俺と4人のゼネラ国軍兵士もその後に続き走る。
通路をしばらく走っていると通路が2つに分かれていた。
「フィカ……分かるか?」
「ああ、右だ」
そして右の通路へ走ろうとした時だった!
ガタンという音がして俺の体が落ちていくような感覚がしたかと思うと俺の視界に手を差し伸べるフィカが映った。
俺はその手を掴もうとするが俺の手はスカッ…と空振り……
フィカの姿が見えなくなり辺りが闇に包まれ頭に衝撃を感じて俺の意識は消えた……

……どの位意識を失っていたのか分からないが後頭部に痛みを感じ、俺は瞼を開いた。
冷たい床でしばらく倒れていたため背中がひんやりしている……
後頭部の痛みはだんだんと消えてきたが立ち上がるとフラフラし、またその場に座り込んでしまう。状況を確認したいのに……!
壁に寄りかかり何とか立ち上がる。
そして俺は歩き始めた。時々、爆発音や声、地響きが聞こえてくる事からそんなに時間は経っていないようだ。
歩いている内に後頭部の痛みは消え、フラフラとした感覚も消えた。
やがて俺は通路が十字型になっている所へ来た。十字型になっている通路の中心に俺は立っている。
今来た通路を抜いて3つ通路が残っている……どの通路を行くべきか……
……そう俺が考えている時だった!
防具の揺れる音がし、同時に沢山の走る足音が聞こえ通路の先に数十人の敵兵達が現れた!
さらに右の通路、左の通路にも敵兵達の姿が現れた!
…さすがにこれだけの敵を相手にするのは不味いと思った俺は今来た通路を引き返そうとするが
その通路にも数十人の敵兵達の姿が現れた!
「くそっ……!」
囲まれた!その事実に俺は焦る。何かこの状況を抜け出す方法が無いのか!?
そう考えている内にも敵兵達はじりじりと近づいてくる。
必死に考えてみるがいい案は思いつかない……敵の量が多すぎる……!
でも、やってみるだけやってみるさ……。ソラ、お前との約束守れないかもしれない……すまない……
そして、俺は敵兵達に向け突進しようとした。
その時だった。
ザシュッという鋭い刃物が何かを切り裂いた音が突如として通路に響き渡った!
すると直進の通路にいた敵兵達が一斉に倒れた。再びザシュッという音が響き、今度は左の通路に居た敵兵達が一斉に倒れる。
同じ事がさらに二回起こり、気が付くと周りに敵の姿は無くなっていた……
…かと言って安心は出来ない……周りの敵を数秒で片付けた者が潜んでいるはずだ……
敵か味方かまだ分かっていない。俺は身構え、警戒する……
「誰だ……!」
一瞬、何かが横切った気がして俺はそう言うが返事は返ってこない……
その時!俺の背後から走って接近してくる足音が聞こえ、俺は振り返る。
が、振り返る前に接近してきた何者かが俺に体当たりし、その衝撃で俺は床に倒される!
俺に体当たりした奴は体に感じる重みから俺の体に乗っかっている事が分かる。
倒された衝撃で思考と視界がぼやけている……
やがて視界と思考がハッキリしてきて俺の視界に映った顔は……
「ライ殿!」
「ソ…ラ!?」
そう、俺に覆いかぶさっていたのは涙目になっているソラだった。そしてソラの頭の鎌は深紅に輝いている……
「お前、どうして此処に……」
「ライ殿のことが心配だったのだ!」
「だからって危険じゃないか!」
「でも、妾が……今、来ていなかったら…ライ殿は……!」
ソラは不安と心配の気持ちがこもった視線を向けてくる。
「……」
確かにそうだ……今、ソラが助けてくれていなかったら俺は……
「有難うなソラ……」
「もぅ……」
小さくそうソラは呟くと立ち上がった。
「行こう、ライ殿」
ソラは俺に手を差し伸べる。
「ああ」
俺はソラの手を掴み、立ち上がった。
「もう……離れないから…な……」
ソラは俺に寄りかかってくる。ソラの瞳からは少し涙が出ていた……
俺はソラの涙を拭ってやる……頬をソラは赤らめた。
「行こうかソラ……」
「うむ……」
こうして俺とソラは通路を進み始めた……

―5― 最後の…

バサッバサッという規則正しい羽音が続いている。たまに翼が壁に擦るが俺は気にしない……
俺は今、ソラを背中に乗せて城の中を飛んで上へ向け移動中だ。
と、前方に敵兵士達が走っているのが見えた。此方に背を向けて走っているため敵兵達は俺の存在に気付いていない……
このまま進んでいくのには邪魔だ。
俺は後ろからドラゴンクローを決め、何人か倒した。生き残った奴らは後ろの方から攻撃を仕掛けてくるが体をずらして攻撃を避ける。
後ろに残った敵兵達の相手になっている暇はない。そのまま俺は通路内を飛び、突き進む。
「ライ殿、だ、大丈夫なのか……?」
狭い通路内を飛んでいるのが怖いらしくソラはそう呟く。俺だって本音をいうと少し怖い……
「大丈夫だ。それより『深紅の鎌』はちゃんと制御できているのか?」
「うむ、ちゃんと制御できる。ただ体力消費がすごくて……、攻撃をする時のみ能力を発動しておる」
「それで此処まで一人で来れたと?」
「うむ……」
「そうか……とにかく無事でよかったよソラ」
「ライ殿……」
ソラは頬を赤く染める。
その時、通路が終わり円柱型の空間が姿を現した。上を覗くと結構上まで続いている。下を覗くと床がかなり遠くに見えた。
壁には一つの梯子が固定されている。梯子は床から天井まで続いている……
円柱型のこの空間はそれなりに広いため俺は飛んでいく事にした。
上へ向け羽ばたき、上昇を始める。
「ルチの奴は?」
「まだハッキリとは分からないってユリが言っておったぞ……」
「そうか……」
「ラ、ライ殿……?大丈夫だ。きっとルチは助かる!」
ソラは俺の右肩を励ますように軽く叩く。
「有難うなソラ、そうだよなルチの奴が死ぬはずないもんな」
「うむ」
上昇を続けているとやがて円柱型の空間の天井付近に着き、梯子の先に扉があり開けようとしたが開かず
竜の波動で扉を攻撃し、破壊して先に進む。
窓が一定の間隔であり、窓から城下で今も味方と敵が戦っているのが確認できた。
「ライ殿」
「分かってる」
俺は少し先に扉があるのを見つけ速度を落とす。扉の前に着くと俺は着地した。
扉は大きく、鉄製で所々にダイヤやサファイヤなどの宝石類が埋め込まれている……
この先にルサが居るに違いない……ソラは俺の背中から降り扉の正面に立つ……
振り返ると長い階段が下へと続いているのが目に入った。
「ライ殿、行こう……」
「ああ……でも先に入るのは俺だ。罠でもあったらまずいからな」
俺は重たい扉を力いっぱい押す。ギィ……という音を立てて大きな扉はゆっくり開き、俺とソラは扉の向こうへ歩を進めた……
「ようやく来たようだなライ……王女まで居るのか……」
部屋の中に入るとルサの声が聞こえた。声の聞こえた方を向くとルサはガラス張りの壁から城下の様子を見ていた。
「丁度今、こいつとは決着がついた所だったんだ」
ルサは何かを放り投げた……そして俺とソラの前にそれは落ちた。ルサが放り投げたものが何なのかはすぐに分かった。
「ぐ…っ……」
『フィカ!!』
そう、ルサに放り投げられたものはフィカだった!フィカは体中、傷だらけで俺とソラの前で横たわっている。
部屋の中を見渡すと先程フィカと一緒に居た数人のゼネラ国の兵士が息絶え部屋の中に倒れていた。
「フィカ、大丈夫か?!」
俺とソラはフィカの傍に駆け寄る。
「…ああ、何…とか……」
フィカの声は弱々しくなっていた……
「大した奴だ。俺を負傷させたのはそいつが初めてだ」
ルサは自分の左肩と左脇腹、背中の大きな切り傷を指差す……ルサの傷からは血が流れている……
「ライ……すまないが…俺は陣営に……戻る……幸いテレポートを…するだけの体力は残っている……」
「ああ、分かった。だからそれ以上喋るな……!余計な体力は消費しない方がいい」
「そう…させてもらう……すまないな」
フィカはテレポートを使い、陣営に戻って行った……俺は立ち上がる。
「ソラ、部屋から出るんだ……」
「ライ殿?!」
「ルサの息の根を止める……!だからソラ……」
「で、でも……」
「……ソラ」
俺はソラの瞳を見つめる。
「やだっ……、ライ殿……妾も一緒に……」
「出来ればそうしたい……でもお前を失うわけにはいかないよ、ソラ……」
「妾だってライ殿を失うのは嫌じゃ!」
ソラは涙声で訴える。ソラの瞳が潤んできた……
「俺が死ぬって決まったわけじゃないだろ?大丈夫だ……」
俺はソラをサッと抱きかかる。
「ふぇっ……!?」
戸惑うソラを無視してそのまま俺は扉の所まで走りソラを降ろし扉を素早く閉めて閂を掛ける。
「ラ、ライ殿!?ライ殿!!」
ソラが扉をドンドン叩くが開けるわけには行かない。この部屋にはフラッドガ国王が居る……
ソルベ国王女であるソラがこの部屋に居るのは危険だ。ソラの側近護衛である俺はソラの身を守らなければならない……
命を落とすことになっても絶対に……!
俺はルサの方へ振り返り歩み寄る。
「待たせたなルサ……」
ルサはニヤリとする。
「言い残す事は何かあるか……?」
「ソラ王女はこの俺が守るッ!」
「では……、行くぞッ!!」
ルサは右腕に電流を纏い突進してくる!俺はサッと回避する。ルサの右腕はそのまま壁にぶち当たり壁に大きな罅が出来る!
竜の波動を俺は放つ!ルサは背中に攻撃を喰らうが構わず放電を放つ!
放電を回避し、大文字を放つ!しかしルサは守るを発動し俺の攻撃を防ぐ。
ルサは守るを解除すると破壊光線を放つ!避けきれず俺は吹っ飛ばされるが羽ばたいて体勢を立て直す。
「簡単には終わらせないぞライ、俺を楽しませてくれ」
そうルサが言った直後にルサは電光石火を発動し俺に急接近する!
竜の波動を放つが放った瞬間ルサは目の前に来ており大きなエネルギーを纏った右腕で俺の腹に思いっきりパンチを決めた!
「うぐっ……!」
俺の体は吹き飛ばされガラス張りの壁に叩きつけられ粉々にガラスが割れる!
一度、外に体が放り出されたが、羽ばたいて何とか部屋の中へと戻り着地する。
外は雨が降っていてガラスが割れたせいで冷気が部屋の中に入ってくる……
今のパンチで俺の防具は変形してしまった……
「ごほっごほっ……」
口の中で僅かに血の味がした。俺は防具を脱ぎ捨てる……
「ライ殿……!」
ソラが今の物凄い音を聞いたらしく心配そうな声で俺の名を呼ぶ。
「大丈夫だソラ」
俺は返事をする。自分の無事を知らせつつ俺はルサと睨みあう……
「さて続けようか……」
ルサは破壊光線を放つ!俺は竜の波動を放つ!爆風と爆煙を起こして互いの攻撃は消滅した。煙に紛れ俺はルサに急接近する!
「ふんッ!」
俺の接近に気が付いたルサは先程の様に右腕に電流を纏い、パンチを繰り出してくる!
ドラゴンクローでその攻撃を止める。そして互いの腕に衝撃が返り俺とルサは後退りする……
「ほぉ……さすがだなライ……俺の雷パンチを止めるとは……!」
ルサは電光石火を発動する!距離が近すぎる!俺はルサの体当たりを避けれず後ろへ吹き飛ばされる!
背中に少し衝撃が走り、ガラスが割れる物凄い音がして部屋の外に放り出される!
しかし俺はやられているだけではない……攻撃を喰らった瞬間に何とかルサの腕を掴み俺と一緒に城の外に引っ張り出した。
ソラの声が聞こえた気がするが今は……!
そして俺とルサは城の最上階から落下しながら互いに命を掛け殴りあう!
視界はグルグルと回り、目の前のルサしか見えないが地面がだんだんと近づいてくるのが分かる。
左頬にルサのパンチが当たったが気にせず俺はアッパーを決める!ルサの歯が1、2本吹き飛ぶのが見えた。
しかしその直後俺の右頬に衝撃が走り、一瞬意識を失いかけた。
尚も殴り合いをしながら俺達は落下していく……。
ルサが俺の顔面にパンチを決めようとするがその直前に俺は思いっきりルサの右肩を殴る!
骨の折れる音がした……直後、ルサの角笛のような悲鳴が聞こえた……
その瞬間だった!俺の体に大きな衝撃が走り、俺は意識を失った……

「ライ殿!」
二回目のガラスが割れる音……何回ライ殿の名を呼んでも返事は返ってこない……
ライ殿は開けるなって言ったけど……!
妾は少し目の前の扉と距離を取り、深紅の鎌の力を引き出し鎌を振り上げる!深紅に輝く衝撃波が扉にぶつかり爆発を起こす!
爆煙が立ち昇る中妾は部屋の中へと進む。
「ライ殿!?」
部屋の中を見渡すがライ殿の姿は無い……ルサも居ない……
ガラス張りで出来た壁が破壊され部屋中ガラスが飛び散っているのが目に入った。
急いで破壊されたガラス張りの壁の所に行ってみると地面に吸い込まれる様に落下しながら殴りあうライ殿とルサの姿が……!
妾は急いで部屋の外に出て階段を下り始めた。長い階段には味方兵士やフラッドガ国兵士の死体や瓦礫が散らばっている……
だが妾は気にせず急いで階段を下る事に集中した。
やがて階段が終わると通路が姿を表したが此方へ向かってきている敵兵達が目に入った!
「敵だ!」
気付かれた……!
深紅の鎌を使いたい所だが無駄使いはしたくない……!丁度良い所に窓があった。
窓を壊し縁に立つ。た、高い……城下の家々と気を失いそうになる位遠くに見える地面が視界に映る。
しかし敵兵達の攻撃が妾目掛けて飛んできている!胸の内はライ殿のことでいっぱいだ……
「他に手は無いのだな……」
妾は軽くジャンプし飛び降りる!直後、先程妾が居た窓は爆風に飲み込まれた……
落下しているという事実が妾を襲い、体中にひやりとした緊張が襲うがもがいて何とか壁に近づく……。
風が強く瞼を薄く開くのが精一杯。
それでも何とか爪に深紅の鎌の力を送り、壁に爪を立てる!
バリバリバリと音を立てながら壁が抉れる。それに合わせ徐々に落下のスピードが下がっていく……
爪は深紅の鎌の力を送っているのだから割れたりはしない筈……!
こんな事をやった自分自身に驚きを感じながらもしばらくそうやって壁に爪を立てて落下して行く……
しかしどんどん地面が近づいてくる……!スピードが中々下がらない、このままじゃ!
「止まるのだぁ……!」
爪を思いっきり壁に食い込ませる。深紅の鎌の力を送っていなければ今頃どうなっている事か……と余計な事をつい考えてしまう。
気が付くとスピードがどんどん落ちてきているのが分かった。
ほっと胸を撫で下ろした直後背中に軽い衝撃が走る。
「痛っ……い……」
思わずそう呟き背中を押さえる。どうやら無事に着地した……
でもライ殿は戦いでこの衝撃の数倍、もしかしたら数十倍の攻撃だって耐えてきたのだ。妾も頑張らないと!
そう自分に言い聞かせ立ち上がる。壁には妾の爪あとが一直線に城の上の方まで引かれていた……
改めて自分のやった事に驚く……
「妾って……」
ああ、もう……!余計な事を考えている場合ではない!
頭を振ってライ殿のことを再び考え、走り始める……
ソラ……!
走り始めてすぐ後ろから声が聞こえた。振り返るとユメが立っていた。
「ユメ……!」
あんな無茶して……!
ユメは城の壁についた妾の爪あとを見てそう言った。
「あはは……」
ソラが落ちているのを見て心臓が止まるかと思ったのよ……急いで駆けつけたんだけど……
「す、すまぬユメ……ライ殿が心配で……」
ラ、ライさんに何かあったの……!?
「ルサと城の頂上から落ちて……」
ユメの顔から血の気がサッと引いた。
本当……!?
「うむ、だからユメ!」
「……コクッ」
妾はユメと共に走り、やがて城の角を曲がった。
そして妾とユメが見た光景……それは……!!


続き:深紅の鎌.八


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Last-modified: 2010-01-24 (日) 00:00:00
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