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深紅の鎌.九

/深紅の鎌.九

前回:深紅の鎌.八
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・深紅の鎌.九



―1― 竜と竜の再会

「さて、行きましょライ」
時刻は午後8時半過ぎ。ソラを背中に乗せ、俺は地面を蹴り、両翼を動かしてルチと城の正面出入り口から空へと舞った。
手紙の通り北西に向けて進む、雪はまだ降っていて眼下には真っ白な景色が広がっている。
「真っ白だなライ殿」
「そうだな」
先程まで俺達はユリの病室に居た。そして色んな事を話題にして喋っていた。
それぞれの過去の暮らしを話したり、改めて自己紹介をしたり、フラッドガ国との戦いでのそれぞれの活躍を話したりした。
そして時はあっという間に過ぎ、現在に至る。
ソルベ国を抜け、雪が積もった森の木々が眼下に広がる。
「こんなに積もったのは初めてだ。ライ殿」
雪は見た感じ俺の膝辺りまでの厚さがありそうだ。
「結構積もってるな……」
「そうねぇ……」

俺達はその後、20分ほど北西へ飛び続けた。
やがて森の中にそそり立つ様な崖を見つけ崖下と崖上の真ん中辺りの壁に大きな穴が空いているのに気が付いた。
これが恐らく手紙に書いてあった洞窟だろう。ルチと俺は速度を緩めて洞窟内に着地した。
少し奥まで洞窟は続いているみたいだ。辺りを見回すがどうやら手紙の差出人はまだ居ないようだ……
「まだ来ていないようだな……」
「こんな所で待ち合わせかぁ……一体誰なのかしら?」
俺はソラを降ろす。ソラは洞窟の縁に立ち、周りを見渡して崖下を見る。
「高いなソラ」
「うむ……」
辺り一面……地平線まで真っ白だ……。
数分時が過ぎた頃……
「ライ殿、あれは……?」
ソラが急にそう言い、洞窟の外を指差す。
「何所だ?」
俺は洞窟の外を見るが雪が降っていてよく見えない……
「ほら、あれだライ殿」
ルチと目を凝らして見ると雪が降っていてよく見えないが上空に何者かの影がぼんやり見えた。
その陰は此方に近づいてくる……
「……ライ殿」
「分かってる。あれがきっと手紙の差出人だ……」
すぐにバサッバサッという羽ばたく音が聞こえてきた。
その陰はスピードを下げ、俺達がいる洞窟内に入ってきた……。
誰かと確認しようとするが防寒具のフードで顔が見えない……ただ姿勢からして俺の様な竜ポケモンだと分かる。
よく見ると後ろにも一人いる。着地するなり、そいつはこう喋りかけてきた。
「ライさんにルチさんですか……?」
「ああ」
「そうよ」
確認を取るとそいつはフードを脱いだ……
目の前の奴がフードを脱ぐと後ろに居た奴も同じ様にフードを脱ぎ、俺達の視界には二匹のボーマンダが映った……。
「お久しぶりです……ライさん、ルチさん……」
その声を聞き、俺の思考が揺れた。この声……聞いたことがある……昔、何処かで……
ルチも同じ事を思ったらしく表情に現れている。ソラは目の前の二人のボーマンダを見つめている。
「私も貴方も昔とは随分と変わってしまいましたね……」
目の前のボーマンダは俺とルチが自分の事を何者かと分かっていない事を見抜いたのかそう言ってきた。
「昔は私達二人はまだタツベイでライさんはナックラー、ルチさんはチルットでしたよね……」
『まさか……』
俺とルチは揃ってそう呟いた。目の前のボーマンダの顔をじっくりと見つめるとその疑いは確かなものになってきた……
「でも……そんな……」
ルチは動揺している。動揺しても無理は無い……もうこの世に居ないはずの存在なのだから……
風が洞窟内に一瞬吹きつけ、少量の雪が洞窟内に舞う。
「フュイにフュン……なのか……?」
俺がその名を口にすると二匹のボーマンダは微笑んだ……
「良かった……覚えてくれていたのですね……」
「貴女達は確か……」
「確かにそうですね……両親は殺されてしまいました……」
フュイとフュンは少し悲しそうな表情を浮かべる。
「じゃあ……」
「親は本物ですが子の方は従姉妹だったんです……私達二人は王の命によって来たフラッドガ国兵にさらわれたのです……」
「そうだったのか……」
少し間を空けてから再びフュイは喋り始めた。
「でもユスカ様のおかげでこうしてまた会えました……」
「ユスカが……?!」
「はい、色々と裏でやってくれました……」
「そうか……」
ルチの方にチラッと目をやるとルチは涙目になっていた。きっとフュイとフュンと再会できて感動しているのだろう。
本当の事を言うと俺もこの再会に感動している。
フュイはソラに視線を移す。ソラはフュイに向かって微笑んだ……
「実は私達はソルベ国女王の護衛の一員としてこれからやっていきます……」
『えっ……!?』
「ソラ様と女王様の許可は頂いております……」
ソラの方に視線を向けるとソラはニッコリと笑みを見せた。
「フュイとフュンの事を知っていたのか……?」
「うむ、ユリが手紙を受け取る前日に護衛にしてくれと頼みに来たから」
「どうして早く知らせてくれなかったんだ……?」
「そう頼まれたからだ……ライ殿」
「まぁ結果的に会えたから良いじゃない!ライ」
ルチはそう言いながらフュイとフュンを抱き寄せる。フュイとフュンも抱き返して再会の喜びを分かち合う……
「本当に貴女達が生きていて良かった……!」
その後に俺もフュイとフュンを抱き寄せた。二人共少し恥ずかしそうにしていたが強く抱き返してくれた。
「そういえば手紙には送り主はウイングと書かれていたが……?」
「実は私とフュンの名前はウイング・フュイとウイング・フュンなんです……ライさんとルチさんには話していませんでしたね……」
「そうだったのか……」
「はい……」
「さて、だんだん雪と風が強くなってきているし、そろそろ城に戻ろう」
俺は洞窟の外で少しずつ強くなってきている雪と風を見てそう言った。
「そうね、戻りましょ」
こうして城に戻る事になり、俺は背中にソラを乗せて洞窟内で少し助走をつけてルチとフュイ、フュンとソルベ国城に向けて翼を広げて飛び立った……

―2― 日常

「紹介する。フュイとフュンだ。二人共俺とルチの幼い頃からの親友だ」
「初めまして……」
フュイとフュンが頭を下げるとユリとユメも頭を下げた。
俺達は今、ソラの部屋に居る。そして聞いて分かるようにユリとユメにフュイとフュンを紹介している所だ。
一応ユリは体力回復中ながらも短時間であれば普通に歩いても大丈夫という医師の許可を貰った。
「私はユリです。ソラ様のお世話役を任されています……城の事で何か分からない事があれば私に言って下さいね……?」
ユリは二人に微笑みかける。フュイとフュンは頷いた。
私はレイヲン国の王女、ユメです……。どうぞよろしくお願いします……
ユメはフュイとフュンに手を差し出してフュイ達はその手を握ってユメと握手を交わした。
「因みに妹のフュンは声が生まれつき出せない……覚えておいてくれ」
「はい……」
「……コクッ」
「これからどうするんだフュイ、フュン?」
「私達はこれから女王様の所へ行きます……。私達は女王様の護衛になったのですから……」
「護衛のお仕事頑張ってねフュイ、フュン」
「女王の護衛として頑張れよ二人共」
俺はフュイとフュンの肩に両手を乗せた。
「はい、ライさんっ……ルチさん。……では、私達はこれで……」
そう言ってフュイとフュンはソラ達の励ましの声を聞きながら部屋から出て行った。
フュイ達が出て行って扉が閉まるとソラが口を開いた。
「母上は優しい人だ。仲良くできると思うぞライ殿」
俺の表情に心の内が表れていたのかソラはそう俺に話しかけてきた。
「分かってるさソラ」
ソラの頭を撫でてやる。ソラは気持ち良さそうに目を瞑って俺に撫でられている。
「する事はもう無いし、そろそろ眠りましょ……」
ルチが小さな欠伸をしながらそう言った。
「そうですね……」
「……うむ」
「……コクッ」
ルチ、ユリ、ユメは部屋の扉へ向かって歩き始めた。
「おやすみ……ルチ、ユリ、ユメ」
「また明日~、ライ」
『おやすみなさい……ライさん』
三人は挨拶を俺に返し、扉を開けて部屋から出てそれぞれの寝室へと向かっていった。
「ライ殿、妾達も眠ろう……」
ソラはベットへ歩いて行って布団の中に潜り込んだ。
俺は扉の所まで歩いて行き、部屋の電気を消した。部屋の中が薄暗くなる……
窓に目をやると雪が強い風に吹かれて白い雨のように雪は降っていた。
ベットに近づくとソラが俺が入り易いように布団の一部を持ち上げてくれた。
そこから俺は布団の中に入り込んだ。
「手は……大丈夫なのかライ殿?」
「ちょっとヒリヒリするが大丈夫だ」
両手の平に巻かれた包帯を見ながら俺は返事をした。
「早く治ると良いな」
「そうだな……」
しばらく沈黙が続き、ふとソラが口を開いた。
「少し寒いな……ライ殿」
その言葉を聞き俺は布団の中でソラの背中に腕を廻して抱き寄せた。
「ふぁっ!?ライ殿っ?!」
ソラは頬を赤く染め、互いの肌と肌が触れ、ソラの温もりを感じる。
「前もやった気がするがこうした方が暖かいだろう?」
「そ、そうだが……、これは……!」
「まぁ、落ち着けって」
と言いつつ俺はソラを抱き寄せたままソラの頭を撫でる。
「もぅ……っ」
俺はソラの唇にキスをした。
「おやすみ、ソラ」
「……おやすみ…ラ、ライ殿……」
ソラが恥ずかしさで俺に抱かれながらもぞもぞしているのを感じながら俺は瞼を閉じた。
瞼を閉じるとソラは俺の背中に腕を廻し、抱き返してくれた。
しばらくすると俺の意識は溶け始め、やがて夢の中へと意識は消えていった……

夜が深くなってきた頃、俺は誰かの気配を感じ、目を覚ました。
ベットに入ったまま眼を動かし、部屋中を見回すが暗くてよく分からない……
分かるのは俺の傍で静かな寝息を立ててソラが眠っている事と
夜の闇の中、外ではかなり強い吹雪が起こっていて強風の音が聞こえてくる事だけだ。
闇に目を凝らし、音が聞こえてこないか耳を立てる……
と、その時。部屋の何所からか微かな足音が聞こえた……!
足音はゆっくり、静かに此方へ近づいてくる……まるで俺とソラに聞こえては不味いと言うかの様に……
やがて闇の中からー人のマニューラが姿を現した……。そのマニューラはソラをじっ……と見つめる。
その様子を俺は薄目を開け、見ている。
「この娘がソラ王女か……」
マニューラがそう呟く……そして俺に視線を移し
「側近護衛、ライ……」
と言って何かぶつぶつと独り言をマニューラは言う。
「二つの目標が揃っている……手間が省けたな」
マニューラは右手の鋭い爪を舐め始める……。目標だと……!?まさか……!
そう俺が考えた直後、マニューラは右手を高く上げた!
「王女、貴様からだッ!」
マニューラは鋭い爪をソラの首目掛けて振り下ろした!
しかし、その爪はソラの首まであと数cmという所で止まり、マニューラの体は吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。
何故なら俺がとっさにマニューラを蹴り飛ばしたからだ。
俺は素早くべットから出て身構える。眼が暗闇になれてきて、それなりに見える。
マニューラが立ちがる前に俺はソラを起こした。
「どうしたのだ……ライ殿……?」
ソラは眠そうにして居るが今の状況を伝えるとサッと身構えた。
「まさか起きていたとはな……」
マニューラはそう言って立ち上がった……。そして突然シャドーボールを放つ!
「ソラ、危ない!」
素早くソラを抱き、攻撃を避ける!
攻撃を避けると俺はソラを降ろす。直後、マニューラは電光石火で俺に急接近し、連続で鋭い両手の爪を突き出してくる!
何とか爪を避けるが2、3回爪が右腕にかすり、傷を作った。
マニューラは後ろに下がり、再びシャドーボールを放つ!
俺は竜の波動を放ち、互いの攻撃がぶつかり爆発を起こす……。
煙が部屋中に広がる……。爆発音がしている筈なのに応援は来る気配は無い……
何故だ?!爆発音が扉の外に居る兵には聞こえないのか?
その疑問に答えるかのように煙の中から
「俺の仲間が音が漏れないようにしてくれているのさ」
マニューラがそう喋った。
その隙に爆煙に紛れ、俺はマニューラに急接近して間近で大文字を放つ!
マニューラは悲鳴を上げながら倒れた。
ドラゴンクローを決めようとするがマニューラは素早く立ち上がり俺の攻撃を避けて冷凍ビームを放ち
避け切れなかった俺は攻撃を喰らってしまう。
「大丈夫かライ殿!」
ソラが駆け寄ってくるが大丈夫だと言ってソラを下がらせる。
そして俺はドラゴンクローを発動し、マニューラに突進する!
マニューラは辻斬りを発動する!
ドラゴンクローと辻斬りがぶつかり火花を散らす。
押したり押されたりを繰り返し、やがて俺がマニューラを押し倒し、大文字を放って決着が着いた……
俺はマニューラが着ていた防具を見て背中に寒気が走るのを感じた。
マニューラはフラッドガ国の防具を着ていたのだ……
「ライ殿……」
「ああ、恐らくフラッドガ国軍の残党の一人だったのだろう……それにさっき仲間が居るって言ってたな……」
「という事は……!」
『女王が危ない……!』
俺とソラは部屋の扉を開けて女王の部屋目指し、全力で走り始めた……間に合う事を祈って……

―3― 歯車

「……開け、て……くれ!」
女王の部屋の前に着き俺は息を切らしながら扉の前に居る二人の護衛にそう叫んだ。
ソラも俺の隣で荒い息をしながらも同じ事を言う。
「どうかされたのですか王女様、ライ様?!」
「良いか…ら扉を……!」
「しかし……女王様の許可g「母上の命に係わるのだ!!」
その一言を聞き二人の護衛は鍵を急いで取り出し、鍵穴に射し込んでガチャガチャ音を立てて鍵を開けた。
俺は扉を勢いよく押してソラと共に部屋の中に飛び込む!二人の護衛も続いて中に入ってきた。
中に入った俺達が見た光景……それは
鋭利な刃物で斬られた様な大きな傷や大きな穴が部屋中の壁や天井……
いたるところに出来ていて部屋の中央に女王が倒れていた……!
そして少し離れた所には4、5人のユンゲラーが倒れていて女王の傍には一人の傷だらけのユンゲラーが立っていて
女王は懸命にもがいているがサイコキネシスで床に押さえつけられていて動けない!
今まさにユンゲラーはサイコカッターを女王の咽喉に振り下ろそうとしていた!!
「止めろ!!」
俺はとっさにユンゲラーに突進し、ユンゲラーの体を突き飛ばした!
ユンゲラーはそのまま壁に叩きつけられサイコカッターは女王の首から数cmの所に突き刺さった。
「母上!」
ソラはすぐに女王の元に駆けつける。
俺と二人の護衛はユンゲラーと女王の間に立ち塞がった。
ユンゲラーは体力が残り少ないのか辛うじて立ち上がり、俺達にののしりの言葉を投げつける。
「クソッ!せっかく追い詰めたのに……!失敗か!」
そう言い残し、素早くユンゲラーはテレポートで姿を消した……
すぐに俺は女王の元へ駆けつける。
「女王様、ご無事ですか?!」
「ええ、何とか……」
「すぐに応援を呼んできます!」
二人の護衛は部屋を飛び出した。
女王の左わき腹と両肩、額からは血が流れていて額からは玉の汗を流している。
「傷を抑えるんだソラ!」
「う、うむ!」
俺とソラは女王の傷口を抑え、出血をなるべく抑える。
「すまないわね……ライ、ソラ……」
「女王様、体力を使い果たしてしまいます!どうか喋らないで下さい!」
「母上!」
「…フュイとフュンを下がらせた後……ベットに入ってからまもなくして突然現れたあの者達に襲われて……ゴホッゴホッ……」
女王は口から少量の血を出した……!
「女王様!」
「私はもう……駄目…だわ……」
「母上!?」
「しっかりして下さい女王様!」
「……っ……。ソラ…ライ……・・ ・」
女王の首の力が抜けた……
「母上?!」
俺はすぐに女王の首に指を当てる……
「ライ殿……!」
「気絶しただけだ……でも随分衰弱している……!」
その時、バンッ!
という大きな音が後ろから聞こえ俺とソラが振り返ると病院の看護師が数人立っていた。
「かなり衰弱している!早く運んでくれ!」
看護師は素早く、慎重に布の上に女王を乗せてテレポートで病院へ移動した。
「母上……っ」
「大丈夫だ……きっと助かる」
「うむ……」
俺はそっとソラを抱いてやった……
俺とソラは不安でその後、一睡も出来ず翌日を向かえて俺達はユリの病室に集まり俺は昨日の事を皆に話した。
「嘘!?昨日そんな事があったの……?!」
「ああ……」
今、女王様は……?
「病院の医師全員で治療中なのだ……」
「女王の無事を祈るしか無いな……」
ソラ、ルチ、ユリ、ユメ、フュイ、フュン。皆、不安が表情に表れている……
皆を不安にさせたく無かったが昨日の事は早くも街に広がり始めているため、どの道ユリ達の耳に入っていただろう……
「皆で祈りましょう……女王様の治療が上手くいく事を……」
「そうね……」
吹雪はまだ続いていた……
……その日のタ方頃看護師がユリの病室に来て女王の治療が終わり、医師が来て欲しいと言っていると伝えに来た。
ルチとユメ、フュイ、フュンは用事のため部屋に居なかったため俺とソラ、ユリで行くことにした。
治療室に着くと疲れ切った様子の医師が出てきた。
「母上は……?!」
ソラがそう聞くと
医師は額の汗をハンカチで拭き取ってこう言った。
「王女様、非常に難しい治療になりましたが……」
2、3回医師は咳き込んだ後にまた続けた。
「無事女王様の治療は成功です!ご安心ください」
その報告を聞き、ソラは安心したらしくその場にへたり込みそうになり俺とユリが素早くソラの体を支えてやった。
「良かったな、ソラ」
「良かったですねソラ様……」
「うむ……っ」
ソラは頷く。
「しばらく安静にしてればじきに良くなります」
『有難う御座います』
医師は部屋の奥に入って行った。
「とりあえず部屋に戻るか……その内ルチとユメ、フュイ、フュンも戻ってくるだろうし……女王のことを伝えよう」
ソラとユリが頷くのを確認して俺達はユリの病室に向け進み始めた。

(良いか?最後のチャンスだ。今度こそ絶対にしくじるなよ……?)
(はい、分かっています……)
そこで俺はテレパシーを止める。
ったく……ボスを怒らせちまった……
ソルベ国女王暗殺に失敗するし……女王にやられた怪我の治療で一日経っちまったし、そのせいでボスに報告が遅れてこの有様だ……
動けないほどのダメージを喰らったがソルベ国城の裏に雨水を溜めた樽が置いてあって良かった。
樽の山の中に紛れて、治療をする間樽が俺の姿を隠してくれたからな
夜が深くなってきたな……
ソルベ国城の最上階近くのある部屋のガラス張りの窓を俺は見上げる。
電気は消えている。それもその筈、時刻は午前1時45分。
その部屋から二つの意識を感じる。片方は随分前に眠り、もう片方は神経を張りつめ警戒している。
昨日の事があったから警戒していてもおかしくはない。
「始めるか……」
俺はサイコキネシスを発動し、樽の山を静かに退ける。そして樽の山の中から出てきて辺りを見渡す。
兵士の姿を探すが近くには見当たらない……自分の姿を見られていないのを確認するとサイコキネシスを再び発動し
自らの体を浮かす。ソルベ国の兵士に見つからないために城の壁ギリギリの所を上昇していく……
降り続いている雪が俺の体をカモフラージュしてくれる。
やがてガラス張りの壁の前に着き、そっと中を覗く……
感じていた通り王女は眠り、傍の側近護衛ライは眠っているふりをし、常に暗い部屋の中に気を配っている……
眠りそうに無いな……
俺は意識を部屋の中に集中し、テレポートを発動させる。
一瞬、視界が真っ白になった後、俺は灯りが消えた暗いソルベ国王女の部屋の中に立っていた。
王女と側近護衛が居るベットまで少し距離がある。しかしそれでも側近護衛ライの感覚は鋭く
俺に眠っているように見せるためか体を動かさずにサッと眼だけを動かして此方を見つめる。
姿は見えていないみたいだが気配を感じているらしい……
昨日の女王よりは簡単に行くかと思ったがルサ様を倒したあの側近護衛が居るとなると……

「そこに居るのは分かっている。姿を現せ……」
と言うのと同時に俺はソラを起こしてベットから出て身構える。
「さすがだな……」
暗闇の中から一人のユンゲラーが姿を現した……
ソラは俺の後ろに隠れる。
「お前は昨日の……」
「ああ、フラッドガ国軍生き残りの一人」
ユンゲラーはニヤッとする。
「狙いはソラか?」
「王女ソラに女王だ。そしてライ、お前もだ」
「ライ殿も……?!」
「俺も……」
「そうだ。ルサ様の仇だからな……さて、戦いたい所だが今回の目標はあくまで王女ソラ……
それにすぐに終わらせないと行けないからな、つまらなくなるが……!」
と、ユンゲラーの眼が紫色に輝き……!
「しまっ……た……」
瞼を閉じる前に催眠術を喰らい俺の意識は砕け散った……。
ソラが俺の名を叫ぶのを聞いて……

ドサッと音を立てて目の前でライ殿が倒れた……!
「ライ殿!」
妾はライ殿の体を揺する。
「無駄だ。催眠術の効果が消えるまでお前の側近護衛は目を覚まさん」
そう言いながらユンゲラーは妾とライ殿の方へじりじりと近づいてくる。
妾は深紅の鎌を発動させ立ち上がり身構える。
頭の鎌から発せられる紅い光で暗い部屋の中がぼんやりと照らされる。
「近寄るな!ライ殿には指一本触れさせぬぞっ!」
「やれやれ……これじゃ側近護衛の意味が全く無いな……」
「何の話だ!」
「側近護衛ってのは王女とかお偉い人を護る者、それなのに逆に王女に護られてるじゃないか」
「黙れ!!お前なんかにライ殿の何が分かる!」
妾は鎌を思いっ切り振り上げ衝撃波を放つ!
しかし、攻撃をユンゲラーはギリギリの所でサッと避ける。
続いて妾は連続で衝撃波を放つが全て避けられた。
「何故だ……何故当たらぬ……!」
「目標が深紅の鎌の能力を使える王女なのにボスが弱い奴を向かわせるはずが無かろう……!」
ユンゲラーが喋り終えた途端に妾の体に衝撃が走り、妾の体は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。
妾はすぐに立ち上がり衝撃波を飛ばすが再び避けられてしまう……。
「深紅の鎌を使えても所詮は戦闘経験が無に等しいただの娘だ!」
「!」
いつの間にかユンゲラーに背後を取られ、妾はサイコカッターを至近距離で喰らって床に叩きつけられる。
立ち上がろうとするが体に力が入らなくなり、動けない上に深紅の鎌も解けてしまった……
ユンゲラーはゆっくりと妾に近づいてきた。
「このっ!」
妾は爪を立て、近づいて来たユンゲラーの顔を思いっ切り引っ掻く……!
ユンゲラーの右頬から血が流れ出る……が、ユンゲラーは表情を変えず無言で自己再生で傷口を治す……。
そして妾にサイコキネシスを掛けて完全に動けなくしてからこう言った。
「終わりだ王女、此処で死んでもらおうか……安心しろ側近護衛の方もすぐに同じ所に行かせてやる……」
その言葉を聞いて妾は凍りついた。ライ殿が殺される……!
「お願いだ!ライ殿……ライ殿だけは……!妾はどうなっても良いから……」
「無理だ。どっちも死んでもらう……女王の方は警備が厳重だから後日になるだろうがな……。
とは言ってもこの部屋の扉の向こうには10人近くの兵士が居るみたいだがな。さて、終わりにするか……じゃあな……」
ユンゲラーはサイコキネシスで妾の咽喉を締め上げる……!
妾は本能的にどうにか呼吸をしようとするが咽喉はどんどん絞まり酸素が入ってこない……
痛いほど咽喉が締め付けられ妾は抵抗をするがサイコキネシスは強力で逃れられない……
その間にも咽喉は絞まり続ける。
「ラ…イ、……殿」
視界がぼやけ、体の感覚が無くなってきて死ぬのかと思ったときだった……
急に咽喉の締め付けが解けた。同時に妾の体は必死に酸素を吸い込む……
「ごほっごほっ……」
何度か咳き込み、しばらくして何とか意識が回復する。
サイコキネシスで床に押さえられたまま妾はユンゲラーの方に目をやる。
何かぶつぶつ言ってる所からしてどうやら誰かと話しているみたいだ……
やがてユンゲラーは妾の方に視線を移した。
「助かったな王女ソラ、ボスが作戦変更でお前を生け捕りにして来いだと……側近護衛は今、殺していくけどな」
「!」
妾は背中に悪寒が走るのを感じた。
が、しかし……すぐにその悪寒は希望に変わった。部屋の中に爆発音が響いた後
『王女様!ご無事ですか?!』
部屋の扉が破壊され部屋の前に待機していた12人の護衛が部屋の中に入ってきた。
「くそっ!俺のバリアが破られただと!?」
すぐに12人の護衛がユンゲラーと妾の周りを取り囲む。
「王女様を放せ!」
「チッ!、これじゃ側近護衛を始末できない……!」
と、突然ユンゲラーが妾の右前足を掴んだ!
「せめて王女の生け捕りは成功させてやる!」
「止めろっ!」
12人の護衛が一斉に襲い掛かったまさにその瞬間、ユンゲラーはテレポートを発動させ
右前足を掴まれていた妾はユンゲラーのテレポートに巻き込まれた……

―4― 危機

「…っ……」
目が覚め、意識がぼんやりしていてよく頭が働かないが……俺は辺りを見回す。
病室です。ライさん……
「ユメ……?」
視界が徐々にハッキリしてきてユメが俺の顔を覗きこんでいるのが認識できた。
俺は上半身を起こす。何か重大な問題が発生した気がする……しかし頭はぼんやりしたままで何も思い出せない
「まるで催眠術に掛かったみたいだ……」
ライさん……
「何だ……?」
お、覚えてないのですか……?昨日ソラが……
「!」
ユメのその一言で俺の頭のぼんやりした物は消え去り、意識を失う前の事をハッキリ思い出した……!
そうだ。テレポートで表れたユンゲラーに催眠術で眠らされて……!
「ソラは!?」
あのユンゲラーにさらわれてしまいました……
「!!」
その言葉を聞き、俺の体中に衝撃が走る。
「あぁ……!側近護衛失格だ!こんな事になるなんて……」
ショックのあまり、体から力が抜けていくのを感じる。
「そんな……」
ライさん、落ち着いてください……!ソラは死んでいません
「…死んで、ない……?」
はい、実はソラがさらわれてすぐにこれが……
ユメが差し出した紙を俺は受け取る。紙には何か文章が書かれていて俺はそれを読む……

 王女は頂いた。生きたまま返して欲しければ王女の側近護衛ライが明日の23時59分までに指定の場所に来なければならない
   それもライ、一人でだ。そうすればその場で王女は自由にしてやる。
         万が一、側近護衛一人ではなく他の関係の無い者まで来た場合は
                                 ……王女を始末する。

「今日の23時59分までにか……」
紙を裏返すとその指定の場所が書かれていた。
指定の場所はフラッドガ国から北に数kmという所だ。あの辺りは特に山が沢山あり
地形の凹凸が激しいところだ。山の中には活火山もある……そんな所にソラが居ると考えると恐ろしくなってきた。
ソラがあんな危ない所に居るとなると不安で仕方が無い。
俺は時計に目をやる。
「くそっ!間に合わないじゃないか」
時計の針は午後7時を指している……
大丈夫ですライさん……、ユリさんのテレポートを使えばまだ間に合います……
「でもユリは体力が……」
その時、病室の扉が開いた。
「ユリ……!」
扉を開いて中に入ってきたのはユリだった。
「退院したのか……」
「はい、退院しました。でも、今はソラ様の事を考えてすぐにでも行かなくては……」
「そうだな」
俺はベットから立ち上がる。
「では行きましょう……」
ユリは俺とユメと手を繋ぎテレポートを発動した。
視界が真っ白になり、浮遊感を一瞬感じた後、俺達はフラッドガ国への出入り口となる大きな門の前に居た。
ユスカがフラッドガ国を治めている今、ルサを倒しに来たときとは違う雰囲気を門の外からでも感じる。
「此処から北に数kmか……急がないとな……」
「私達が力になれるのは此処までです……」
「ああ、分かってる」
ライさん一人行かせるなんて罠かもしれませんね……
「罠にしても行かなきゃならない……何故なら俺にとってあいつは……大切な人だ」
ユメが何かを取り出した。
ライさん、今日はまだ何も食べていないでしょうから……
ユメは俺にお握りを三つ渡してくれた。
ユリさんとルチさんと私で作ったんです……移動中にどうぞ食べてください……
「有難うな、……さて、そろそろ行くよ」
『お気をつけて……ライさん』
俺は両翼を広げ、思いっきり羽ばたき辺りに風を起こしながら
空へと飛び立ち北へ進路を取り、全速力で指定の場所目指し進み始めた……ソラの事を心配しながら……

―5― 雷雨

「離すのだ!妾に触れるな!」
妾はそう言って全力でもがくがヨノワールは妾の首を後ろから掴んで妾の体ごと持ち上げたまま通路を進み続ける。
ときどき他のフラッドガ国軍残党の兵と擦れ違い妾に嫌悪の視線をぶつけてくる。
中には妾に殴りかかってくる者も居る。そのせいで右脇腹と左頬が痛い……
ヨノワールはやがて階段を下り始めた。ユンゲラーがテレポートで直接この要塞か基地と思われる場所に来たため
今、妾は何処に居るか分からない……
そう考えている内にヨノワールは階段を降り終えた。そして目の前に妾が入ると思われる独房が視界に入った……
「これから妾をどうするのだ……?」
「……」
ヨノワールは妾の問いを無言で返し、妾を独房の中に入れ、鍵を閉めた。
これから妾はどうなるのだろう……擦れ違った敵兵達の態度からして殺されてしまうかもしれない……
そうなるとしたらライ殿に……もう一度だけライ殿に会いたい……
妾は冷たい独房の床に腹這いになった。その時、妾は自分が涙を流しているのに気が付いた。
「さっきのお前の質問だが……」
ヨノワールが階段の手前で止まり、背を向けたままでそう言った。
しばらく間を開け言葉を続けた。
「頭はお前を殺しはしない……お前の側近護衛が此処に来ればな……ただ、無事にお前が居るこの独房まで来れる保証は無い……」
そう言ってヨノワールは階段を上っていった……

「風が強くなってきたな……」
見渡せる限り山や谷が視界に広がる。山の頂上辺りから煙が出ているのも数ヵ所見える……
夜の闇が包む上に空は黒い雲が覆っている。眼下の谷には森があるが所々枯れ木が目立つ……
目的地のこの辺りで一番大きな山に近づいて来た時、頬に水滴が落ちてきた……
俺が空を見上げると水滴が幾つか落ちて来ていた。落ちてくる水滴は徐々に増えてくる……
「雨が降り始めたか……」
雲の近くを飛んでいた俺は目の前のこの辺りで一番大きな山のふもとに向けて両翼を畳んで急降下する。
そろそろ本格的に雨が降るはずだし風が強くなり始めてくるから早い内に地上に着地しないと……
物凄い風が体に吹きつけ、地面がどんどん近くなってくる。
やがて両翼を広げ減速し始める。山の中へと続く洞窟が見えたが手前の森の木々が邪魔で着地できず
少し離れた所に木々の隙間が広い所を見つけ、そこに俺は着地した。
着地した途端俺はその場でサッと腹這いになった。何故なら少し先に見張りと思われる森の木々の間を歩いている残党の兵が居たからだ。
しかも兵が居るのは洞窟に行く進路方向だ。
敵兵の種族は見た所、ガバイトだ。
でも出来るだけ体力は残しておきたい……そう思った俺は敵兵に向け腹這いのまま接近する。
敵兵は俺が近づいてきている事に気付くはずも無く、辺りを見渡している。
そうしている間にも俺は敵兵の背後に近づく……
地面には落ち葉が少し落ちていて本当は腹這いでも進むとある程度は音が出るのだが雨と風がその音を掻き消してくれる。
十分に近づいたと思った俺は狙いを定め、サッと立ち上がってガバイトの首に右腕を廻す!
ガバイトが俺の存在に気が付いたときには既に遅く、右腕でガバイトの首を締め上げて左腕でガバイトの両腕を拘束する!
当然、ガバイトはもがいて必死に俺から逃れようとするが……やがてガバイトは動かなくなった……。
俺は右腕の力を緩める。ガバイトの体はドサッという音を立てて力なく倒れる。
雨と強い風が上空で吹いているの音だけが聞こえてくる……再び俺は辺りを警戒しながら山に向け中腰で進み始めた。

「今、何時なのだ……?」
「午後10時29分だ」
妾の独房の前で待機している見張りの兵であるサンダースはそう答えた。
時の流れが遅く感じる……不安で胸がいっぱいだからだろうか……
ライ殿……
妾はそう自然に小さく呟いていた……
「側近護衛の事が気になるみたいだな……?」
声のした方に目をやると、見張りのサンダースが座って背中を壁に寄りかかせて此方を見つめていた。
妾が腹這いで無言のままでいるとサンダースは言葉を続けた。
「俺は好きで軍に入ったんじゃない……今、此処に居るのも嫌さ……」
「え?」
「王は民の意識を奪ったが軍の兵の意識は自由にした。それは何故か?理由はほとんどが王に連いていくからだ
でも中には表面だけそう見せて、実は嫌々という奴も居た。その内の一人が俺さ」
「……」
なら逃げ出せば良いのではないのかと妾は内心思った……。
「勿論、逃げ出そうとした奴は沢山居た。でも皆、捕まって拷問を受けたり殺されたりした。
俺も何回か逃げ出そうとしたがこの有様だ」
サンダースはそう言って背中を見せる。
妾はその背中を見た途端に口の中に何か苦いものを感じた。
何故ならサンダースの背中には幾つもの鞭で打った傷跡が残っていた……
「すまないな……嫌なものを見せちゃって……でも、フラッドガ国の軍兵にもこういう奴が居るって事を知って欲しかったんだ……
昨日だって残党の中から逃げ出そうとした奴が頭に運悪く見つかって死んだんだ……」
「其方の名は……?」
サンダースはその言葉を聞き、耳をピクッと動かした後に口を開いた。
「ダス……だ。俺に何か出来る事があれば言ってくれ……力になれるかもしれん」
「うむ、早速なのだがこの残党はどの位居るのだ?」
「200人程だ……」
「此処は何所なのだ……?」
「フラッドガ国から北に数kmの所だ。山が沢山あってこの辺りの地形は凹凸が激しく、活火山も何個かある
この辺りで一番大きな山のふもとに洞窟があって……その洞窟からこの隠れ基地に入れる」
妾は思っていたより随分危ない所に拘束されているのを認識した。
「答えてくれて有難うなのだ……」
「また、聞きたいことがあったら言ってくれ」
「うむ……」

ドサッという音を立てて目の前の残党の兵が倒れる。
そしてどしゃぶりの雨の中、再び歩を進める……
数分すると俺は火山のふもとに見えたあの洞窟の前に着いた。
洞窟前は木が生えていなく少しだけ空間が出来ている……
目の前に広がる洞窟に歩を進めようとしたが俺の足はピタリと止まった。
おかしい……少し距離があるが周りの木が俺を取り囲むように生えている……何故か殺気まで感じる……
そして前に目をやると先程まで何も無かったはずの洞窟前に
いつの間にか沢山の木がまるで俺を洞窟に通すまいと言わんばかりに立っていた!
どういう事だ……!?さっきまでこんな所に木なんて……!
俺は素早く身構える!その途端に何所からとも無く攻撃が俺に向けて飛んできて、俺は何とかその攻撃を避けた。
攻撃を避けると信じられない事に俺を取り囲むように生えていた木が自ら一斉に俺から離れていく……!
そして洞窟前に木が集まった。その事によって洞窟前には大きな広場が出来た……!
「どうなってる……!?」
「幻さ」
「!?」
洞窟の入り口に立ちふさがる沢山の木の一本がそう言葉を発した途端に洞窟の入り口には木ではなく……
物凄い数の残党兵が立っていた……!
「どういう事だ……?!」
「お前は俺の作った幻を見ていたのさ」
一人のヨノワールはそう喋り俺を指差す。
「俺達が木に見えるようにしていたのさ……でも、見破られたらしょうがない……中に入りたければ俺達を倒せ……195対1だ!」
そうヨノワールが叫ぶと夜の闇と、どしゃぶりの雨の中、立ち塞がる残党兵から俺に向けて一斉に攻撃が飛んできた……!!

眠気に襲われ、うとうとしていた妾は地震の様な揺れで意識がハッキリと戻った。
「な、何なのだっ!?」
「始まったか……」
鉄柵越しにダスがそう呟く……
「何が始まったのだ……?」
連続的に続く揺れを感じながらダスに聞く。
「戦いが始まった……お前の"大切な人"が戦っている……」
「ラ、ライ殿……!?」
ダスは無言で頷く……
そしてダスは鍵を取り出して妾の独房の鍵穴に差し込む……
「な、何をやっているのだ!?其方は自分のやっている事が分かっているのか……?!」
「ああ、勿論さ」
ガチャという音を立てて独房の錠が開き、ダスは鉄柵の扉を開ける……
妾は独房から出る……
「何を……?」
「そのまんまだ。お前を逃がす……」
「何故?」
「さっきも言ったろ?俺は好きでこんな事やってるんじゃない……」
「ライ殿は……」
「心配するな、この残党の集まりは運良く逃れただけで弱いのばっかだ……あいつ(ライ)ならやれるさ」
ダスは連いてくるように妾に合図して独房室の階段を上り始める。
「どうして今逃げるのだ?さっきでも良かったのではないのか……?」
「今は此処のほとんどが側近護衛迎撃に行ってるからだ。皆、側近護衛がやってくれるだろうけどな」
妾達は通路を警戒しながら歩き始める……
辺りは静まりかえっている……時々、揺れが来る……
「待て……」
十字型の通路に差し掛かった時、ダスの命令的な口調に妾はドキッとし、ダスの後ろに隠れる。
「誰か来る……」
足音が聞こえてくる……誰かが走って此方に向かってきている……
妾の心臓の鼓動がだんだん早くなってくる……同時に右の通路から聞こえてくる足音がどんどん近づいてくる……!
そして足音がすぐそこに接近してきた瞬間にダスは飛び出し、目の前に現れた何者かに襲い掛かった!
相手を押し倒し、ダスはその者の息の根を止めようとしたが
「私よ!」
という声にダスの体が硬直した。
「お前だったのか!ごめん!」
ダスはすぐに退いた。
襲われた者は妾と同じアブソルだった……
「もう、もっとよく見てよ……」
「悪かった……!許してくれ」
「その者は……?」
「あ、俺の彼女のルアだ。大丈夫、味方だ」
「妾はソラだ」
妾はルアに手を差し伸べる。
ルアは妾の手を握り、妾はルアを引っ張って起こしてあげた……
「有難う、ソラ王女……」
「妾の事、知っているのか……」
「はい……!でも、今は早く脱出しないと……皆、迎撃に行ったから此処は私達以外居ないわ」
「分かった。さて、行くぞ!」
ダスの掛け声で妾達は出口に向け走り始めた……


続き:深紅の鎌.十


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Last-modified: 2010-05-12 (水) 00:00:00
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