ポケモン小説wiki
深紅の鎌.伍

/深紅の鎌.伍

前回:深紅の鎌.四
mini



・深紅の鎌.伍



―1― 恐怖の狂薬

「谷を抜けるぞ!皆、気を引き締めろ!」
岩の雨を避けつつ俺とルチ、ゼネラ国軍は谷の上へと出た。
「やっぱり!」
思ったとおり敵は岩を谷の上、崖から落としていた。
『!』
こちらに気が付いた岩を落とすフラッドガ国軍兵は岩を落とすのを止め、此方へ向かって攻撃を一斉に仕掛けてくる。
「散開して!」
ルチの指示で兵達は散開した。
岩を落としていたフラッドガ国兵はざっと見て1500程、昨日の戦いでは30000近く居たのに妙だな……少なすぎる……
俺は向かってきた攻撃を避ける。岩を落としている連中は皆、ドラピオン・デンリュウ・ミカルゲ、それぞれ一匹ずつで集まって三匹のペアを組んでいる。
(ライさん、聞こえますか?)
ユリのテレパシーだ。
(どうした?)
(何だかおかしいのです。戦況報告の兵の話によると今攻撃を仕掛けてきている敵兵が3000程しかいないとの事なのです……)
(何だって!?それって岩を落としてる連中も合わせてか?)
再び飛んできた攻撃を避け、俺は敵兵目掛けて急降下し、ドラピオンにドラゴンクローを決め、近くに居たデンリュウに竜の波動を放つ!
(いいえ。谷で戦っている方だけです……)
って事は今、攻めて来ている敵軍は合計4500程度という事か!?こんな少数の軍を40000超えの俺達の軍に立ち向かわせているのか!?
(分かった。ユリ、また後で会おう。それと味方軍に相手が少数でも油断するなと伝えてくれ)
(分かりました……)
そしてユリとのテレパシーが途絶えた。
絶対おかしい……何か策があるのかもしれない……
「ルチ、油断するな。何か策があるに違いない」
「分かった」
雨は激しさを増し、霧もさらに濃くなってきた。戦うには最悪の状態だ。
「もう!敵が全く見えないじゃない……」
こちらが見えないだけではなくあちらも俺達の事が見えないらしくあまり攻撃が飛んでこない……
時々、霧の中から爆発音が聞こえる。味方と敵兵がこの雨と霧の中で戦っている……。
「一掃してやるんだから!」
ルチはそう言って流星群を発動しようとする。
「待てルチ!」
「えっ?!」
「此処で発動したら敵を攻撃できるのは良いがその爆発で岩の破片が飛び散って落ちる。つまり、下で戦っている仲間にも被害が出る」
「!」
「分かったか?」
「うん……ごめん」
「行くぞ!」
俺達はそれなりにスピードを出さず、進み始める。視界が悪い中、スピードを出して地面に激突……それだけは避けたい。
「ライ、危ない!」
霧の中から突如、悪の波動が飛び出してくる!俺は何とか攻撃をかわした。
俺は翼で霧を扇ぐ。周りの霧が少しだけ消え、地面にミカルゲの姿を見つけた。
ミカルゲはシャドーボールを放つ!俺は大文字を放つ、互いの攻撃がぶつかり小爆発が起こる。
その煙に紛れてルチはミカルゲに接近し、ゴットバートを発動してミカルゲを吹っ飛ばす!
叫び声を上げながらミカルゲは地面に叩きつけられて動かなくなった。
「この敵軍は三人で組んでいるはず。あとドラピオンとデンリュウが傍に居るはず……!」
俺とルチは背中を合わせ辺りを警戒する。
さっき羽ばたいて掃った霧はまた立ち込めていた。
「こいつのペアは何所だ……?」
今、倒したミカルゲを見ながら俺はそう呟いた。
「そうねぇ、近くに居るはずなんだけど……」
辺りに気配は無い、時々爆発音や攻撃しあう音、羽ばたいている音が聞こえるだけ……
その時だった!ヴゥンという音がしたかと思うと急に体が地面に叩きつけられた!
「!」
「きゃっ!?」
地面に叩きつけられたがあまりダメージは無く、俺とルチはすぐに立ち上がり背中を合わせ警戒する。
飛ぼうと羽ばたくがやけに体が重い……中々、体が上がらず羽ばたくのを止めた。きっと敵の仕業だろう……
「どうするライ?飛べないんじゃ結構きついんじゃない?」
「そうだな……飛べないのは俺達には致命的な事だ」
そのまま数十秒間、何も起こらなかった……が。
「ライ!!」
ルチの言葉に俺は地面を思いっきり蹴り右へ転がり回避した。そして振り返るとさっきまで俺とルチが立っていた所にドラピオンが居た。
「ほぉ……避けるとはな……だが」
「!」
突然、目の前で爆発が起こり俺は吹っ飛ばされた!そのまま数m飛ばされたがすぐに立ち上がった。
さらにドラピオンが破壊光線を放つがさっと横にジャンプし、攻撃を避けた。
そして俺はドラピオンに雷を放つが何者かが雷に向けて攻撃をして空中で爆発が起こる。
「おっと、俺の事を忘れてないか?」
ドラピオンの隣にデンリュウが立っていた。
「貴方達だって誰かさんを忘れてる、わよ!」
霧の中からルチが現れ、ドラピオンとデンリュウに突進を喰らわせ、さらに竜の波動をルチは放ち爆発が起こる。
攻撃は直撃し、ドラピオンとデンリュウは吹っ飛ばされて地面に叩きつけられる。
敵はボロボロだが敵はすぐに立ち上がる。
「やるなお前ら」
ドラピオンとデンリュウはまた攻撃を仕掛けてくる。
「ルチ、デンリュウを頼む。俺はドラピオンをやる!」
「無理はしないでね!」
「お前こそな、雨で体が濡れてるから気をつけろ」
短い会話を終え、俺とルチは互いに反対方向に体をさっと動かし、攻撃を避ける。
そして俺はドラピオンにルチはデンリュウに向かって走り始めた。
俺は雷をドラピオンに喰らわせる。ドラピオンが怯んだ隙にドラピオンの下に潜り込み、ドラゴンクローを決める!
ドラピオンの体は衝撃で空中に放り出される。俺は竜の波動を放つ、爆発が起こりドラピオンは爆煙に飲み込まれる。
その時、近くで爆発音が聞こえたかと思うと霧の中からさっきのデンリュウが吹っ飛ばされてきて俺の目の前に落ちてきた。
どうやらルチの方も片付けたようだ。同時に体が重く感じるのが消え、元に戻った。
「ふぅ、これでやっと飛べるわね」
「ああ」
そして俺とルチが飛び立とうとしたときだった。何かが俺の右足を逃がすまいと掴んだ。
「何所へ……行こうって、んだ?」
「!」
俺の足を掴んだ手、それは今、ルチが倒したはずのデンリュウだった。
体中から血が出ているのにも関わらずデンリュウは立ち上がった。よく見ると両腕の骨が折れているのか腕が垂れ下がっている。
「何なのこいつ……!」
「最、高な気分だ……ぜ!」
デンリュウは突然!雷パンチを繰り出し、俺は後ろへ吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられる!
「ぐっ!!?」
「ライ!!」
ルチは竜の波動を連続でデンリュウに放つ。たちまちデンリュウは爆煙に飲み込まれる。
俺は地面に仰向けになりながらその様子を見ていた。いつの間にか雨はザーザーと降り、雷が鳴り霧も濃い……
立ち上がろうとした時、俺は我が目を疑った。煙が消えると霧の中にデンリュウのシルエットが不気味に浮かび上がったのだ!!
「えっ……ど、どうして……」
ルチは動揺しているようだ。俺もこれには動揺を隠せない……俺は立ち上がった。
「どうだ?……驚いてるん……だろ、う?」
よく見るとデンリュウの体には所々、赤紫色の斑点があった。
デンリュウは一回ふらつくと膝からガックリと倒れるがうつ伏せに倒れた後も狂喜に満ちた笑い声を上げる……。
「その笑い声、絶ち切ってやる!」
俺はデンリュウに急接近し、ドラゴンクローをデンリュウに振り下ろす。
ズシャッ……という音がして俺には一瞬、時がゆっくり進むように見えた。俺がその時、目にしたもの……
それは、デンリュウの頭が狂喜の表情を浮かべながら体から離れていく光景、それを俺は見た……。
デンリュウの体は動かなくなり、少し離れた所でドサッというデンリュウの頭が落ちた音がした。
そして、そこからは不気味なほど静かになった……聞こえるのは雨がザーザーと降る音だけ……
俺はしばらく霧の中で呆然と立ち竦んでいた……あの感触、間違いない……これで本当に倒したのだ。
振り返るとデンリュウは確かに死んでいる。でも本当に倒したのか信じられない自分が居ることが俺は分かった。
しゃがみこんで確認するがやはり息は無い……このデンリュ…いや、怪物を倒したのだ。
「ラ、ライ……?」
「大丈夫だ。今度こそ、こいつは死んだ……」
「やっと……動かなくなったのね」
「ああ……」
疲れが出始めたのかルチはデンリュウから少し離れ、大きく息を吹いた。
「大丈夫かルチ?」
「ええ、大丈夫よ……ほんの少し疲れたけど」
俺もデンリュウの屍から離れ、ルチの隣に立った。
「ねぇ、ライ……」
「何だ?」
「何だったのかしら、あのデンリュウ……」
「さぁな……でも、正気では無さそうだったな……」
「……」
いつの間にか少し前まで聞こえていた爆発音や兵士達の声が今は全く聞こえなくなっていた。
「不気味なほど静かね……」
「そうだな、でも仲間の声をすぐに聞けるぞ?」
俺は谷から響き渡ってきた勝利を伝える味方の角笛の音色を聞きながらそう言った。
「さぁ、行こうルチ」
「うん……」
俺はルチと共に羽を広げ、飛び立った。

―2― 要請

その後、全軍でテントを張り、陣営を建てた。谷の上にはゼネラ国軍の兵士を交代で立たせて見張らせている。
霧は薄くなったが雨はまだザーザーと降っていた。
俺達は今、会議用テントに居た。前回と同じく、チャバが各国の被害報告をする所だ。
ルチとスラーと俺はびしょびしょに濡れた体をタオルで拭きながら話を聞いていた。
「各軍の被害報告をする。プロミネンス国軍死者2330、グランド国軍死者2250、レイヲン国軍死者2380、ソルベ国軍死者2650、ゼネラ国軍死者1750だ。
この敵の待ち伏せは我が軍に11360人の死者という大きなダメージを与えた。4500の敵軍でこの被害……
その原因、それは此処に居る皆、見たと思うがあの敵兵士の恐ろしい生命力。これこそがこの我が軍の被害の大きさの真実だ」
「えっ!?私とライが戦ったデンリュウだけじゃなかったの?!」
「残念ながらそうだ」
自分の体をタオルで拭いていた俺とルチの腕の動きが止まった。
あの途轍もない生命力を持っていたのは体に赤い斑点が出来ていたあのデンリュウだけじゃなかったのか!?
「その事についてフィカが話してくれるそうだ」
チャバがそう言うとテントにフィカが入ってきた。そしてフィカは話し始めた。
「私達が先程、戦ったあの4500人程のフラッドガ国軍の兵士達の並外れた生命力……あれは、ある薬によるものなのだ」
「ある薬?」
「そう、狂怖薬という恐ろしい薬だ」
「狂怖薬……?」
「実は昔、私の祖国で作られた薬なのだ」
『ええっ!?』
「元々は強動薬と言って、フラッドガ国軍に勝利する為、服用した兵士の運動能力や攻撃力を上げる為に作った物だった……
しかし、完成して間もなくに薬が突然変異したんだ。そして変異した薬を調べた所、非常に危ない薬になってしまった事が分かった。
服用者は攻撃力・運動能力・生命力が異常な程上がるがそれと同時に一生理性を失う……」
「その薬が何故、フラッドガ国軍の兵士に?」
「強動薬は9000個、作られたのだ。それが間もなく変異して狂怖薬に……国はその薬を破棄する事にした……
しかし、狂怖薬が置かれていた倉庫が薬を破棄する当日に何者かに襲撃されて9000個全て盗まれたんだ」
「という事はフラッドガ国は後4500程、狂怖薬を持ってるって訳!?」
「そういう事になる……」
「どうしてその事を皆に言わなかったのだ?」
「倉庫の見張り達は警報を鳴らす間もなく素早く殺られた。生存した目撃者は居ない……つまり、誰が薬を盗んだのか掴もうと思っても掴めなかったのだ……
だが、今分かった。あれはフラッドガ国軍だったんだ……」
「狂怖薬を服用した奴を簡単に倒せる方法は何か無いのか?」
「狂怖薬は攻撃力・運動能力・生命力を異常に上げる薬……だが、脳を破壊……あるいは首を切断すれば一発で殺れる」
「ユリ、全軍に弱点を伝えてくれ」
「はい、分かりました……」
「では私はこれで……」
フィカは深々と一礼し、テントから出て行った。
その後ろ姿を見届け、またチャバが話し始める。
「さて、話は元に戻るが各国の兵は残り、プロミネンス国・5200、グランド国・5320、レイヲン国・7210、ソルベ国・6490、ゼネラ国・5910だ。
我が軍の合計は30130人……偵察兵の報告によると正確には分からないが最低でも敵は我々の今の戦力を上回っている事が分かった。
敵の本陣はもう手が届く範囲にある……が、このまま戦いに行っても勝敗は見えている……そこで君達の意見を聞きたい」
「これが各国の全軍……なんだからさ、フラッドガ国周辺の国に援軍を要請するのはどうだ?」
「確かにその案は良いかもしれない……だがどうやってその事を伝える?この周辺には平地や森、山しかない……
一番近い国も此処からフラッドガ国を超えて行くしかない……大回りで超えるとしてもフラッドガ国周辺は地形の凹凸が激しく、かなりの時間を取られてしまうぞ?」
「……だったらフーディン20人兄弟が居るじゃないか?」
「どうやって援軍要請を出すんだ?」
「あの兄弟はここら辺の事に詳しい、何たって母国がフラッドガ国の周辺の国の一つだからな」
「つまり?」
「テレポートだ」
「なるほどな、そういう手があったな……」
「ユリ、フーディン兄弟に伝えてくれ」
「はい」
ユリは数十秒間目を閉じていた。やがてユリは瞼を開いた。
「了解したとの事です……すぐに行ってくるそうです……」
「よし、会議は此処までだ。皆、解散してくれ」
こうして今回の会議は終わり、俺達は会議用テントを後にした。
時刻は午後6時前だ。辺りはもう暗くなっている……霧は消えたが雨はまだ止んでいない。
雨がずっと降っていて辺りはひんやりとしていた……傘を差しながら俺達は歩き始めた。
「寒いなライ殿……」
「そうだな、ルチのふわふわな翼に包んでもらったらどうだ?」
「えっ、私?」
「そうだ……そういえば小さい頃は寒い時、ルチの羽に包んでもらったな」
「あっ、確かにね」
「うぅ……」
ソラは少し不満そうな顔をする。
「きっと……ソラ様はライさんにお嬢様抱っこをして欲しいのですね……」
「そうなのかソラ?お前が望むならそれ位、別に構わないが?」
「なっ!?」
ソラの顔が一瞬で赤くなる。ユリ達はそのソラの顔を見てクスクスと笑う。
「わ、笑うで無いっ!!」
これ以上に無い位ソラの顔が赤くなる。
「ソラは分かりやすいな」
「そうね」
昔からソラはそうでした
俺達はニヤニヤする……ソラは後退りし始める。
「もしや、此処でお嬢様抱っこをする訳ではなかろうな……!」
「ライ、やっちゃって!」
「ひゃわっ!!?」
俺はソラの体を抱きかかえる。ソラは思ったであろう……周りに俺たち以外にたまたま人が居なくて良かったと。
ソラは俺の腕の中で恥ずかしそうに身を縮める。
「馬鹿……」
そう言いながらもソラは嬉しそうな顔をする。
嬉しそうですね、ソラ……
「ユメさんの言う通りですね……」
「そうね、ちょっと悔しい気もするけどやっぱ、お似合いね!」

―3― 想い

その後、俺達は食堂で夕食を取った。食堂を出ると雨はいつの間にか止んでいた……
そして寝るまではまだ時間があるという事で散歩をする事になったがユメ、ルチは自軍の事で用があるらしく別れた。
ユリはフィカに話があると言い、ユメとルチと同じく俺と別れた。残ったのは俺とソラだ。
二人で陣営の中を数時間散歩をした。ソラは何だかずっと落ち着かなかった。時刻はいつの間にか9時を超えていた……
「ライ殿……」
「ん?どうした?」
散歩をしていると不意にソラが話しかけてきた。
「その……妾と……ライ殿が……そ、その……」
「何だって?」
「ど、何処か静かな所に連れて行ってくれぬか……?」
「ん?別に良いけど……」
俺は身をかがめる。ソラはさっと俺の首に乗った。
ソラが乗ったのを確認し、俺は地面を蹴って羽ばたき、飛び立った。
どんどん上へ上へと上昇する。ソラは寒いのか腕の力を強めて俺の体に自分の体を密着させる。
「寒いか?ソラ?」
「うむ、少しだけ……」
確かに俺も少し寒いと思った。俺はソラが寒くないように少しスピードを俺は下げた。
「ライ殿、スピードは下げなくて良い……」
「どうしてだ?」
「ほぼ垂直に飛んでいるこの状態から早く開放されたいのだ!」
「分かったよソラ……」
ソラの訴えに俺は全力で羽ばたき始める。……数十秒して俺は谷を抜けた。
谷の上に出て俺は辺りを見渡す。すると少し先の崖が突き出していた……あそこに行く事にするか……
俺はその突き出した所に向かって飛び、着地した。そしてソラを下ろした。
「ほら、急上昇は終わったぞ」
「……」
ソラはその場に座る。
崖のこの出っ張りから下を覗くと陣営を見渡せた。味方兵が歩いたり走ったりしているのが見える。
「ちょっと寒いだろ?枝取ってくるよ、焚き火をすれば温かいだろうし。すぐに戻るから待っててくれ、それとも一緒に来るか?」
「有難うライ殿、でも今はちょっと……ひ、一人になりたいのだ」
ソラは何だかモジモジしている。
「どうした?さっきは俺と二人っきりになりたいってような事を言ってたけど?今は……」
「妾の事は良いから……」
「分かったよ」
俺は目の前の森に向かって羽ばたき、飛び立ち、そのまま森の中に入った。
何だか妙にソラは緊張しているようだな……まぁ、とりあえず早いとこ枝を集めてこようっと……
俺は木の枝をドラゴンクローで切断していき、丁度良い位の大きさに切断して集めた。
やがて木の枝が集まり、俺は腕いっぱいに枝を抱きかかえてソラの元へ戻った。
「よいしょっと……」
腕いっぱいに集めた木の枝を地面に下ろし、俺はソラの横に座った。
「早かったなライ殿」
「まぁな」
ソラの言葉に返事をしつつ俺は集めてきた枝を丸く集めて火の粉を吹いて火を点けた。風が少し吹いてきたが焚き火の熱でそんなに寒くは感じない……
「火を吹けるって便利なのだな」
「どうした?改まって?」
「いや……別に、何でもない……あはは……」
どうも様子がおかしいなソラ……。
「どうかしたのかソラ?何かさっきから様子がおかしいけど?」
「えっ!あ、何でもない!大丈夫だライ殿」
「そうか……なら良いが」
しばらく間を空けて何だかもじもじしながらソラはまた喋り始めた。
「そ……空が綺麗だなライ殿」
「ああ、確かにな」
さっきまで雨が降っていたなんて嘘みたいだ。空は雲一つ無く、透き通った空で星が沢山輝いていた。月光が辺りを薄明るく照らしている。
俺はソラの様子を見た。空を見上げるソラの瞳は月や星が映っていて輝いていた。ソラの白い体毛が月光の光を反射し、ソラの体が少し輝いて見えた。
弱い風が吹きつけ焚き火の炎が揺らめく、同じ様にソラの体毛も静かに揺れる。
「……ライ殿」
「何だ?」
ソラが先程までそわそわしていたのに急に落ち着いた様子になったのを俺は不思議に思いながら返事をした。
「その……だな……ライ殿に寄り添って良いか?」
「え?まぁ……良いけど?」
ソラは立ち上がり、俺の隣に歩いてきて腰を下ろした。そして俺の左肩に寄りかかった。
風が静かに吹いている。そしてその風が焚き火とソラの体毛をそよそよと揺らす。風に乗って間近に居るソラの雌独特の匂いが漂ってくる……
その良い匂いで一瞬クラッと来たがほっぺたを軽くたたき、気を紛らわす。
「どうかしたのかライ殿……?」
「いや、何でもない……」
「?」
ソラは首を傾げる。辺りには風が静かに吹く音しか聞こえない……
本当に俺とソラは二人っきりの状態だ。
「ライ殿……」
「どうした?」
「その……だな……ライ殿は色々と世話をしてくれた。妾はライ殿を初対面で無理やり側近護衛にしたりした……」
「ああ、確かに強引だった。けど俺は別に構わないな……正直言うとこっちの方が楽しいと思う事が多い」
「そう……なのか?」
「ああ」
「そうか、なら良かった……妾を許してくれるのだな?」
「そいつはちょっと違うな」
「えっ?な、何がだ……?」
ソラは不安そうな視線を俺に向ける。
「そんな不安そうにしなくて良いよ」
ソラの頭にポンッと手を乗せる。
「どういう事なのだ?」
「そもそもお前を責めてないという事だ」
俺はソラの頭を撫でてやる。
「ら……ライ殿……!」
ソラはいきなり俺に抱きついてきた!
「ちょ……ソラ、いきなりどうした?」
「有難うライ殿……有難う……」
ソラは思いっきり俺に抱きつく。
「ソラ……」

やがてソラは腕を放した。俺とソラは顔と顔が間近の状態でしばらく見つめ合っていた……
「ライ殿、妾の言葉……聞いてくれるか?」
「ああ」
その時、俺はソラ越しに夜空に3つの流星が流れるのを見た。
「その……妾……ら、ライ殿の……こ……とが……」
「俺の事が……?」
「す、すす…好きなのだっ!!!」
ソラはそう言い切ると両目を閉じて下を向く……僅かに瞼を開き、俺の様子をうかg……って、
「ええぇぇぇ!!!?」
ちょっと待った。ソラが俺に告白だって!?何、この展開!?
「じ、冗談じゃないよな?」
「うむ……ほ、本気だ……」
心臓が高鳴っているのが分かる……ソラは俺の事が好きで告白してきた。俺は……ソラの事、どう思ってるんだろう……
ソラに対してもやもやしたものがある……けど告白されて嬉しいと正直思った……それで今、このもやもやが何なのか分かった。
「王女の告白、受け取るよ」
「ソルベ国王女としてではない……お、女としてのわ、妾の告白だ……!」
「ああ、分かってるよ……ソラ」
「じ、じゃあ……」
「俺も大好きだよソラ……」
互いに頬が熱くなるのを感じた。
「ライ殿……」
ソラは笑顔で俺に抱きつく。俺はソラを静かに抱き返し、優しく頭を撫でてやる……
夜空は俺とソラを祝福するかのようにいっそう輝いて見えた。
そういえば側近護衛の規則の一つ、『仕える王女の許可無くして他人と結婚や付き合うことは禁ずる』はあるのに
仕える王女と結婚や付き合うことについての規則が無いのだろう……?覚えている限りでは規則が書かれた書物には載っていなかった。
「ライ殿?」
「ん?何だ……?」
「わ、妾とこういう関係になったからには戦いで無茶はするでないぞ……?」
「分かってるよ。なるべくそうする……」
「ら、ライ殿がもしも……その……戦いで……」
「大丈夫だ。俺は死なない、約束するよ」
「ライ殿………!」
ソラと俺の目と目が合う。
「良いか?ライ殿……」
「ソラが望むなら構わんぞ?」
「じゃあ……」
ソラはゆっくりと瞼を閉じる。ソラの腕に力が入る……きっと心の奥底で照れているのだろう。
「行くぞ?」
「うむ……」
ゆっくりと俺はソラの顔に自らの顔を近づける。その間が少し長く感じた。
やがて俺とソラ、互いの唇が重なる。俺は舌をソラの口内に侵入させる……ソラの腕にさらに力が入る……。
互いの体が密着し、ソラの心臓の音が伝わってくる……俺は舌をソラの舌に絡ませる。ソラも積極的に舌を絡ませてくる。
ソラと俺の体中に快感が広がる。
「ら…ぃ……殿……」
時々、ソラの口から荒い息遣いと俺の名が出てくる。
そのまま俺達はしばらく唇を重ねていたが俺はやがて口を離した。
俺とソラの唇の間に唾液の橋が架かる……透明な橋は月光と揺らめく焚き火の光を反射し、黄金に輝いて見えた。
「ライ殿……」
「どうした?」
「わ、妾の告白を受け取ってくれて有難うライ殿……」
「礼なんて必要ないさ、正直な気持ちを返しただけさ」
その時、後ろから誰かが着地する音が聞こえた。
「ヒューヒュー、お二人さんお熱いね~」
『!』
後ろから聞きなれた声が聞こえ俺とソラは振り返った。
するとそこにはルチが立っていた……
『ルチ!?』
「そうよ、隠れて貴方達の事見ていたわ」
「い、一体何時から見ていたのだ?!」
「う~ん……全部かな、貴方達と別れてからずっと見てたわ」
「じゃあ、自軍の事で用があるっていうのは……?」
「あれは嘘、実はユメとユリと私で決めた事でね、ライとソラを二人きりにしちゃおう!ってね」
「じゃあ……」
俺は辺りを見渡す。
此処です……
ルチの後ろからユメが出てきた。
「ユ、ユリは……?」
「えっとー……ユリは本当に呼び出しされたみたい……えへへ……それにしても長いオ・ト・ナのキスだったわね」
その言葉を聞いたソラの頬がカッーと赤くなる。
「作戦は大成功!」
「どうして止めなかったんだ?」
「実はライとソラがテントで眠りについた後、私達で話し合ったのよ。
誰がライに一番合うかってね、話し合った結果、貴方とソラって事になってね」
「どうして妾とライ殿が合うと思ったのだ?」
「ライとソラが一緒に居る時、二人とも一番楽しそうだったからね」
「お前等……」
「だけどね、私達もライのことが好き。だからせめてライの近くに居させて?」
「妾は構わないぞ」
「俺も良いよルチ、ユメ」
「じゃ、これで終わり。今日の所はもう寝ましょ?」
「ああ」
ソラを俺は背中に乗せる。ソラの表情は幸せそうな顔をしていた……
「ライ、行きましょ」
「分かった」
俺達は自分達のテントに向かう為、崖から飛び立った……
そしてテントの方へ方向転換し、両翼を広げて進み始める。一回羽ばたき、スピードを上げてまた両翼を広げる。
そっとソラの様子を見るとさっきと同じく幸せそうな顔をしていた。
首を傾け、後ろを飛ぶルチとユメの様子を見るが、特に不機嫌そうではなく俺は安心した。
実は昔、ソラと出会う前に居たゼネラ国で迷惑な事によく女の子達に追い回されたものだ。良い事によくルチが追い払ってくれたものだ。
だが俺を追い回す女の子達を追い払った後、ルチは毎回不機嫌だった……その度にルチは色々と俺に無茶を言うのだった。
どんな無茶かって、キスしろとか変装して外では正体を出すなとか私の傍にずっと居なさいとか……色々と大変だったのを覚えている。
でも後ろを飛んでいるルチは不機嫌ではなく良かった。じゃなきゃ辺り構わず何か言うはずだ……
そう考えている内にテントが見えた。俺は前に風を送るようにして羽ばたき、速度を下げる。
徐々に高度を下げて着地態勢に入る……そしてテントの前で羽ばたき、着地した。ルチとユメもすぐに着地する。
俺は首を下げてソラを下ろす。そして俺達はテントに入る……
「お帰りなさいませソラ様、ライさん、ルチさん、ユメさん……」
ユリは既にテントの中に居て、自分のベットで読書をしていた。俺達はユリの言葉に返事を返しつつ、自分のベットに就く。
時刻は11時過ぎだ。俺の右のベットに寝転ぶソラは俺を見つめてくる。
「どうかしたのかソラ?」
「い、いや何でもない……!」
ソラは慌てて布団を被る。
「おやすみなさい皆様……」
ユリは本に栞を挟み、寝転んで布団を肩まで被りながらそう言った。
皆、返答を返して瞼を閉じる。俺もユリに返事をし、瞼を閉じた……目の前が真っ暗になり、聞こえてくるのはテントの傍を通る兵士達の足音だけになった。

……しばらくして。
中々、寝付けないな……
瞼を閉じてから大分経った気がするが未だに寝付けない……兵士達の足音も今は聞こえなくなり、テントの外から感じていた灯りも今は全く感じない……
瞼を開くがテントの中も外も真っ暗だ。静かだな……聞こえてくるのはユリ達の静かな寝息だけだ。俺は上半身を起こす……皆、すやすやと寝ている。
ちょっと散歩でもしようかなと思い、立ち上がろうとした時、ソラの布団が動いた。
「ライ殿?」
「ん?ソラか、どうした……?」
「ライ殿は中々寝付けないのか?」
「ああ」
「実は妾もだ」
「……お前もか」
「うむ、それに少し寒いのだ」
ソラは何か期待するような目線を向けてくる。
「確かに少し寒いな……」
俺はベットに寝転びながらそう言った。
「ライ殿もそう思うだろ?だから……その、一緒に……寝、て良いかの?」
「そんな緊張する事無いだろソラ……お前は俺に告白したじゃないか?」
「うむ……」
ソラは布団の中でもじもじする。
「照れる必要は無いぞ、ほら……入るか?」
俺はそう言い、ベットの左側に体を動かしてソラが入り易いように布団を持ち上げる。
ソラは立ち上がり、俺のベットに入ってきた。俺は布団を掛けてやった。向かい合って寝転んでいる為、ソラの顔が目の前に映る。
「良いのかライ殿?」
「今頃なんだ?前、俺が良いとも言ってないのにこのテントに居る皆、俺のベットに潜り込んでただろ?」
「あれは……そ、その……」
「とにかくそんな緊張しなくて良い。俺とお前は恋人同士だしな」
ソラの頬が赤く染まる。
「うむ、有難う……ライ殿」
「で、何が言いたいんだ?」
「えっ?」
「まだ、何か言いたそうじゃないか?」
「うむ……実はこうして妾とライ殿は恋人同士になった事だし、恋人同士らしい事がしたくて……」
「それって……」
「ち、ちち違うのだライ殿!そういう意味じゃなくて……まだそういう行為をする心の準備が出来てないのだ……
最後の方は何を喋っているのか俺には聞こえなかった。
「つまり?」
「えっと……挨拶代わりのキスとか……」
「別に構わんが?」
「良いのか?!」
「良いけど、もうちょっと音量下げろ。ユリ達が起きるぞ?」
「ごめんなさい、ライ殿……」
そういえば最近、ソラの喋り方や俺への態度が初めて会った時と変わってきた気がするな……良い事だと思うけど。
何だか眠くなってきたな……俺はソラの背中に腕を廻して抱きしめる。
「ら、ライ殿……!!?」
ソラの頬がさらに赤く染まる。
「そろそろ眠ろう……ソラ」
「う、うむ……丁度眠くなってきた所なのだ……」
「おやすみ、ソラ」
そう言い、俺はソラの唇にキスをする。
「!!」
「お望み通り、おやすみのキスだよソラ」
「ライ殿……」
俺はもう一度ソラの唇にキスをし、瞼を閉じた。
すぐに眠気が俺の意識を包み込み、俺は夢の世界へと引き込まれていった……
「ライ殿、おやすみ……」
夢の世界に引き込まれる直前、俺はソラのこの言葉を耳にした。
直後に俺の口にソラの唇が重なるのを感じ、その瞬間、俺の意識は消えた……

―4― 迫る者

「んはぁ~は、っ……」
大きな欠伸と共に布団の中で背伸びをして俺は目覚めた。
俺のすぐ横でソラが俺に抱きつきながら嬉しそうな表情を浮かべ、すやすやと眠っていた。
ソラのその顔を見て、改めて王女と側近護衛よりも上の仲になったのを感じた……
「ぅ……」
突然ソラは小さくそう唸った。寝言らしいが……
「ぅ?」
「んぁ……!」
「!」
ちょっと待て!また変な夢を見てるのかソラは!!?
いや、そうとしか言えないな……どうする俺?起こすか?放っておくか?でも、放っておいたら近くを通りかかった兵士に聞かれるかもしれん
「おい!ソラ起きろ」
いつもの様にソラの体を揺するがやはり起きない……ユメの力を借りると言ってもユメ達は眠っているし……
起こすのも悪いし、しょうがないか……
「ソラ、起きろ。キスしてやるよ」
ソラの耳元でそう囁く。特に最後の方は力を込めて言った。
効果はすぐに現れた。ソラの腕に一瞬力が入り、ソラの体がビクッと反応した。
「うぅ……もう朝なのか」
「そうだソラ。昨日の夜はあんなに()綺麗(●●)だったのに今日の天気は曇りみたいだぞ」
俺は一部分を強調して言い、テントの閉まった入り口の僅かな隙間から入ってくる灰色の光を見ながら俺は言った。
すぐにソラは俺が天気の事意外に言った事に気が付き、目の前のソラの顔がカッーとすぐに赤く染まる。
「ば、馬鹿……」
ソラはそう言いながらもやはり嬉しそうだった。
「おはようソラ」
「お、おはようライ殿……」
言葉の挨拶の後は唇と唇の挨拶を俺はしてあげた。ソラはちょっぴり照れくさそうにしていたが……
「なぁ……ライ殿?」
「何だ?」
「昨日の約束だけはちゃんと守って……な?」
「ああ、分かってるよ。俺が死ぬ事になってもお前を守るためなら何だってするよ」
「それは嬉しいのだがライ殿も生きてなきゃ妾は嫌じゃ……」
「……分かった」
俺がそう返事をするとソラは笑顔を見せる。
「じゃ、こっちも条件を出すよ」
「じょ、条件?」
「ああ」
「どんなのだ?」
「ソラと約束したから俺は死なないようにする。そう約束させたんだからお前も絶対死ぬな」
「ライ殿……!」
ソラの瞳がキラキラと輝いて見えた。
「約束できるか?」
「うむ……!」
その言葉を聞き、俺はソラの頭を撫でてやる。
「さて、そろそろ皆を起こそうか」
俺とソラは上半身を起こし、布団から出た。
「妾はユリとルチを」
「分かった」
ユメの元へ俺は向かった。ユメは静かな寝息をたてて眠っていた。
「起きてくれユメ、朝だ」
……はい…
俺の言葉にユメは目覚めた。そしてユメの顔を覗きこんでいる俺の顔に気が付き頬を赤く染めた。
「ライ殿、どうにかルチを起こせたぞ」
「う~ん……」
ルチの元へ俺は向かう、ルチは背伸びをして眠そうな顔をしながら布団から出てきた。
「相変わらずだな」
「うるさいわねぇ~」
ルチはそう言って大きな欠伸をする。
ユリとかユメはちゃんと起きれるのに何故ルチだけはこうなのかと俺はつくづく思う。
「とりあえず朝食食べに行こう」
時計が8時ちょっとを指しているのを見ながら俺はそう言った。
俺達は食堂で朝食を取るため、テントから出た。思ったとおり空は灰色の雲で一面覆われていた……
「よう、ライ」
不意に声を掛けられ、俺は声の聞こえた方向を向く……そこにはスラーが立っていた。
「スラーか、どうした?」
「ライ達はこれから朝飯を食べに行く様だな」
「そうだ」
「俺も混ぜてくれないか?」
「まぁ、俺は構わないけど……良いか皆?」
ソラ達に確認を取ると皆、頷いた。
「じゃ、食堂へ向かおうか」
ユリのテレポートを使い、俺達は食堂テントの前に来た。食堂の席の3分の2が既に埋まっていた。
じきにいっぱいになるだろう……カウンターへ向かい、俺達は朝食を受け取った。
そして適当に席を見つけて座った。隣にソラとスラーが座り、向かい側にルチとユメ、ユリが座った。
朝食はトースト2枚と玉子焼きやソーセージ、キャベツ、スープだ。
昨日の夜、ソラが俺の彼女になったのだが俺はふと思った。そういえばスラーに彼女は居るのか……?
「なぁ、スラーって彼女って居るのか?」
俺はトーストにジャムを塗りながらスラーにそう聞いた。
「ああ、居るぞ」
スラーは嬉しそうな声で返答した。
「何時からだ?」
ジャムを塗り終え、トーストを頬張りながらそう聞く。
「そうだなー……7、8年前かな」
思った以上に長い付き合いしてるんだな……
「因みにどっちが告白したんだ?」
「あいつの方からだな」
「ほぉ……」
相槌を打ち、スープを飲む。しばらく間を置いてからスラーはこう聞いてきた。
「逆にさ、ライは彼女って居るのか?」
「ごほっ、ごほッ!」
まさか聞かれるとは思わず驚いた俺は飲んでいたスープを危うく吹き出しそうになった。ソラが背中を優しく擦ってくれた。
「大丈夫かライ?もしかして、この質問は不味かったのか?」
これって正直に言うべきか……?
ルチ達はちょっと不安そうな顔を浮かべている……にも関わらずソラは笑顔だ。
「えっと、どう言えば良いのかな……」
規則では付き合っては駄目とは書いていないが王女が彼女だと言ったらスラーはどんな反応をするのかが不安な所だ。
やっぱり、此処は居ないって言って誤魔化そう……
「スラー、俺に彼女は居n「妾がライの彼女だぞ?」
(ソラ……お前……)
小声で俺はそう呟いた。
ルチ達は緊張した面持ちでスラーを見る。
「そうなのかライ!ハハハ」
スラーは俺の肩を軽くポンポン叩く。この反応にソラを除く皆が驚いた。
「で、どっちが告白したんだ?」
「えっ……、ソラの方だけど……?」
「やっぱり俺達気が合うかもな!俺の彼女も実はある国の王女なんだ」
『えええぇぇぇ!!!?』
ルチ達と俺は思わず驚きの声を上げる。その騒ぎに周りの兵士がどうしたものかと一斉に此方を向く。
「さすがに驚きすぎだ」
スラーは苦笑いする。
「そ、その貴方の彼女って今、何所に居るの?」
ルチがそうスラーに質問する。
「危険だから俺が自国で待つように言ってきたんだ。無事に帰ってくるって言ってあるから俺はまだ死ねない」
「そうなのか」
「ああ、お前もソラという大切な人が居る。死ぬんじゃないぞ?」
「分かってるよ」
「ライ殿はきっとこの約束を守ると妾は信じておる」
そう話している内に皆、朝食を食べ終わった。
「よし……皆食べ終わった事だし食堂を出よう」
食器をカウンターに返却して俺達はテントを出た。
「ところでソラはライに何時告白したんだ?」
「昨日の夜だ」
「どおりで……」
「どうかしたのかスラー?」
「いや、何でもない」
『?』
ソラと俺は首を傾げる。
「さて、俺はこれで失礼させてもらう」
スラーはそう言って、自分のテントの方向へ向かって行った。
「私はソラ様の母上様と話す事がありますので……これで失礼させてもらいますね……」
ユリは瞼を閉じ、テレポートを使って俺達の前から消えた。
「で、これからどうするの?」
援軍が来るまでは各自、陣営の近くであれば自由行動という事になっている。
「どうするって言われてもな……」
「妾はライ殿の近くに居られれば何でも良いぞ!」
そう言ってソラは俺にピタリとくっ付く。その頬は少しだけ赤く染まっていた。
「とりあえず、この辺りを飛んでみるか?」
「空の散歩って訳ね」
「賛成!ユメも賛成だろ?」
「……コクッ」
こうしてこの辺りを飛んで散歩する事になった。いつもの様に俺は首を下げてソラを首に乗せた。
そして、俺とルチは羽ばたき、ユメは浮び、俺達は谷の上を目指して飛び始めた。

……しばらく上へと飛んでいると谷の上に出た。
谷を出るなりルチは辺りを探るように見渡す……
「ライ、あそこなんてどうかな?」
ルチはそう言って指差す。俺はルチの指差した方向を見る……俺の視界に映ったのは森の中に川が静かに流れている光景だった。
川は近く、この距離だと数十秒で行けると思う。
「どうだソラ、ユメ?川遊びするか?」
「でも、この曇りの中なのだぞ?」
「……コクッ」
「……だと、ルチ」
「違うわよ、川のすぐ傍のアレ!」
『?』
ルチに言われるまま川をよく見ると川の近くに黒色の大きな岩が視界に映った。
「あの岩がどうかしたのか?」
「何か、感じるのよ……」
「……妾もだ」
私もです……
「俺は何も感じないが?」
「ライは感じてないけど私達は感じるの、暇だし行ってみましょうよ」
確かに暇だし付き合うか……
「分かったよ」
俺達は森の中を流れる川の傍にある大きな黒い岩に向けて進み始めた。
「で、何かを感じるって言ってたけど何を感じたんだ?」
「分からないわ……でも、何だか不思議な感じがするの」
「ソラとユメもか?」
「うむ」
「……コクッ」
ソラ達が感じているものは一体何なのか?俺はそれが気になって少しスピードを上げる。
岩はさっきは離れた所で見ていたから分からなかったが結構大きい事が近づくにつれて分かった。
すぐに川の流れる音が聞こえてきた。静かな水の音を聞きながら羽ばたき、スピードを緩める。
そして大きな黒色の岩の目の前に俺達は着地してソラを下ろす。改めて岩を見て俺は驚いた。岩は2階建ての家と同じ位の大きさがあるのだ!
その黒色のとても大きな岩には苔や蔦が覆いかぶさるようになっていた。
よく見ると岩の所々が銀色に輝いている。気になって近づくいてよく見ると金属である事が分かった。
「ソラ、ルチ、ユメ、よく見ろ……!これ金属が所々混ざってる!」
『えっ!?』
ソラ達も岩を近くで見る。
「本当だ……金属が所々混ざってる……」
「うむ……確かに」
どうしてこのとても大きな岩に金属が所々混ざっているのか俺達は気になった。
「……ライさん、見て下さい!
「どうした?」
俺はユメの方を向く、ユメは苔で殆ど覆われたこの岩の地面と接している所に小さな紅い六角形の宝石が落ちているのを見つけた。
その宝石を俺は拾う……
「ライ殿、これは?」
「わからない……」
俺はその小さな紅い宝石を見つめる。
「ね、ライ!これってその宝石と形とサイズが同じじゃない?」
ルチが指した場所を見ると大きな岩に小さな六角形の穴が開いていた。
「はめてみるのだライ殿!」
「ああ」
俺は小さなその石を岩の穴にはめた。
するとその小さな宝石が輝き、岩の一部分が一瞬で消えて、地下への階段が現れた!
階段の先は暗くてよく見えないがさっき岩にはめた宝石が独りでに抜けて光を放ちながら中へと入って行った。
「怪しい匂いがプンプンするわね」
「ライ殿、行ってみようぞ!」
「はぁ?!」
「良いから、良いから」
ソラ達は岩の中に現れた階段を下っていった……
「ちょ、ルチ、ソラ、ユメ?!」
ソラ達は俺の止める言葉も気にせず階段を下っていった。
俺はソラを守る身だ。それにこの先に何があるのかも分からない……此処に突っ立って居るわけにもいかず俺も階段を下って行った……
「ソラー!ルチー!ユメー!」
ソラ達の名前を呼びつつ俺は階段を下る。一歩ずつ階段を下る度にどんどん視界が暗くなっていく……
その為、俺は手で壁に触れて足元に気をつけながら慎重に下っていく……
階段を下るのにこんなに不安を感じた事は今まで無い……前が全く見えないよりもソラ達の事で頭がいっぱいだ。
後ろを振り返ると入り口がかなり遠ざかっているのが分かった。
俺は出来る限り階段を下る速度を上げる……やがて階段を下る俺の足にコツッという音がして何かがぶつかった。
地面を手探りすると何かが落ちている事が分かった。俺はその何かを手探りで探り、危険な物でない事を確かめた。
俺が拾った物は細長くてそれなりに固いものだ。俺は肉眼で確認するため火の粉を噴くと一瞬だけ目の前が明るくなった。
その一瞬で俺は自分が今、何を持っているか分かった。俺は木の枝を拾っていたのだ。
「丁度良いな」
そう俺は呟き、火を軽く噴く……目の前が一瞬明るくなり、木の枝が燃えはじめて足元がハッキリ見える様になった。
「これは……」
目の前に映った光景に俺は驚いた。壁一面に不思議な模様や文字、絵が描かれていたのだ。
「ん?」
俺はしゃがんで地面に落ちていたものを拾った。それはふかふかで真っ白な羽だった。
「ルチの羽だ……」
炎が揺らめく木の枝を掲げて走り始めた……

「はぁ……はぁ……やっと奥まで来たみたいね」
「うむ……」
息を切らしながらも妾はルチに返事をする
ライさんは……
『えっ!?』
妾とルチは振り返るがライ殿は居なかった。
「ライ殿……」
「大丈夫よライならすぐに来るわ」
ルチがそう言う。
「どうしてそんな簡単に言えるのだ?」
「幼馴染だからよ」
「うむ……ルチがそう言うならライ殿はきっと来る」
ルチは妾のその言葉を聞くと微笑んだ。
目の前の壁には中心に小さな六角形の穴が空いている……その穴を中心に色々な色の模様が広がっている……雲の様な模様や雷の様にジグザグで鋭い模様……
「不思議な絵ね……」
「うむ……」
「……コクッ」
妾達が追いかけてきた光を放つ小さな紅い宝石は壁の中心に空いている穴に自らはまった。
ガチャという音がして目の前の壁が地面に沈んでいった……と、同時に灯りが消えて目の前が真っ暗になったのだ!
「わっ!?」
「えっ!?」
「……」
妾とルチは急に目の前が暗くなった事に驚いた。手探りで互いの位置を知る。
その時、妾の手の平に何か柔らかいものが触れた。
「ひぅ!!?」
ルチが飛び上がる。どうやら妾はルチの胸を触ってしまったようだ。
「ルチ、ごめんなのだ……!」
「びっくりした~……」
ソラ、ルチさん落ち着いてください……私が灯りを……
そうユメの声が聞こえると辺りが明るくなった。ユメの右手の平が光っていた。
私が先頭を行きますね……
ユメは光を放ちながら進み始めた。妾とルチもそれに続いた……

一体、何所まで階段は続いてるんだ……
俺はずっと走っていた。木の枝も半分が炭と化した。
聞こえるのは俺の足音だけだ……ソラ達の安否を早く確かめたい……
「ひぅ!!?」
「!!」
階段の先から声が突然聞こえてきた!この声はルチだ。何かあったのか?!俺は全力で階段を下る。
灯りが見えた!あそこにソラ達が居るはず……!灯りはゆっくり進んでいき、扉を開けて、先へと進んでいった。
俺もすぐに階段を下り終えて扉を開けて中へと入った。
すると3つの光が映った。俺は今、少し大きな部屋に立っていた。
奥にはまた扉があった。扉の傍には光を放つ宝石が壁に収まっていた。その扉の前にソラ達が立っていた!
「ソラ、ルチ、ユメ!!」
「ライ殿!」
「ライ!」
ライさん!
俺はソラ達の元へ走ってやっと追いついた。
「勝手に行くなよ……」
「妾はライ殿が連いて来てると思って……」
「今回は確かに連いてきたが今度からはちゃんと確認しろ」
「うむ……」
ソラは下を向く。
「なにより無事そうで良かった……」
「ライ殿……!」
途端にソラの顔がパッーと明るくなる。
「いつも言われてきたがお前こそ心配掛けるなよな」
「うむ……!」
互いに俺とソラは笑顔を交わした。
「……悪いけど扉を開けるのを手伝ってライ、ソラ」
そう言われて正面に向き直るとユメとルチが扉を開けようとしていた。扉はギシギシと音をたてる……
俺とソラはユメ達を手伝うが鉄製の扉は錆び付いていて中々開かない……
「しょうがない、皆下がれ」
皆、さっと俺から離れる。俺も少し扉から離れる……そして口にエネルギーを溜めて放つ……
扉は爆煙に飲み込まれた……煙はしばらく漂うが、やがて消えた。数十秒前まで扉があった所にはポッカリ穴が開いていた。
「行こう、皆」
俺達はまた進み始めた。少し大きな部屋を抜けると壁に光を放つ宝石が納まっている通路が姿を現した。
この通路の壁も不思議な模様が描かれていた。やけにでかい大きな岩、さっきの階段、少し大きな部屋、この通路……誰が何の目的の為に作ったものなんだ……
「ライ殿、何か聞こえないか?」
「?」
ソラにそう言われ俺は耳を澄ます……ザッーという水の音が僅かに聞こえる……
「水の音だな……」
「うむ」
「地下水かしら?」
「さぁな……」
俺達は尚も進む、それに伴い水の音もどんどん強くなる。
……やがて目の前にまた扉が姿を現した。さっきの扉と同じく鉄製の扉で、錆びていて苔が所々付着していた。
扉の向こうからは水が落ちる様な音が聞こえてくる。
俺は扉を押した。……さっきの扉とは違い、錆びついていながらも扉は開いた。
扉の向こうに進み、俺達の視界に映ったもの……それは洞窟内とは思えない大きな空間が広がり、地面や壁、あらゆる所から蒼色に輝く水晶や宝石が生えていて
その空間の壁の彼方此方から水が滝のように流れ落ちていて大きな音をたてている……
今、俺達が立っている所から少し奥にある階段までは道が真っ直ぐあるがその道以外は壁から流れ落ちてくる水で満たされていた。
蒼い水晶や宝石の光がこの大きな空間を明るく照らす。
この空間の殆どを満たす水も蒼色に輝いている……こんなに透き通るような色の水を俺は見た事が無い……
よく見ると水面に所々、丸くて細長い紫色の宝石が沢山浮かんでいる……何だか神秘的だ……
「ライ殿……不思議な所だな……」
「ああ……」
「こんなに綺麗な宝石がいっぱい……」
すごいですねぇ……
少し奥に見える階段に向けて進み始める。階段に向かうための道にも蒼い光を放つ水晶や宝石が生えている……
「?」
ソラが首を傾げて急に止まった。
「どうしたソラ?」
「……今、向こうの階段に誰かが居たような気がしたのだ」
「他に誰か居るって言うの?」
ソラは奥の階段に目を凝らす……
「……多分、見間違いなのだ」
「そうか」
そしてまた俺達は歩き始める。
ソラは興味津々そうに洞窟内の壁に生える水晶や宝石を眺めつつ歩く……
ルチはソラと同じく目を輝かせ宝石を見つめる。ユメは宝石や綺麗な水をじっくり見つめている。
男の俺より女の子のソラ達の瞳には水晶や宝石はかなり美しく映っているのだろう……
「ライ殿……」
「何だ?」
「細長い紫色の宝石はどうして水面に浮かんでいるのだろうな……?不思議だな……」
岩や壁の中にあるはずの宝石があの細長い宝石だけ水面に浮かんでいる……
「確かに不思議だな」
「私もそう思うわ」
「……コクッ」
俺達が考えた所で何も分からなかった。
……そして気が付くといつの間にか下へと続く階段の前に着いていた。
壁に空いた穴から続く階段は岩で出来ており、元々壁だったのを削って階段を作ったのだろう。
その階段を俺達は下る。階段の壁にはまたしても不思議な模様が描かれていて壁の所々に蒼い小さな水晶が生えている。
階段は所々、少し濡れていて滑りやすくなっていた。
「少し階段が濡れてるから注意しろよ皆」
「うむ」
「分かったわ」
「……コクッ」
足元に気を付けながら俺達は尚も進む……すると通路を大きな紅い水晶が塞いでいた。
「行き止まりのようだな」
「どうするの?」
「此処まで来たが引き返すしかないな」
この階段は岩で出来ているし天井も岩だ。下手に攻撃すれば爆発などで通路ごと埋まってしまうだろう……
「でも、ライ殿、妾は何かこの水晶から感じるのだ……」
「なんだって?!」
「言葉には言い表せないのだが、こう……妾のこの鎌状のもの辺りがムズムズするのだ」
ソラはそう言って自分の頭に生えている鎌状のものを触る。
ライさん、これ……
「どうしたユメ?」
いつの間にか紅い水晶のすぐ傍に居るユメは紅い水晶の一部分を指差す。
俺はユメの指差す所を見る。すると紅いこのでかい水晶の一部分に金色で刻まれている文を見つけた……俺は声を出して読み始めた。

深紅に輝く鎌持つ者よ

その鎌は時に禍を齎し多くの破壊と悲しみを生むであろう

その鎌は時に己の信じる仲間に勝利と喜びを齎すであろう

深紅に輝く鎌持つ者よ

その鎌持って立ち向かえ

愛する人のため

己の信じる仲間達のため

悪しき心を持たぬ鎌を持つ者に

真の深紅に輝く鎌の力を……

「これって……」
「深紅の鎌の力を自在に操れるようになる水晶なのだ……」
「えっ!?でもソラ、お前は深紅の鎌は操れるようになるには一つしか手段が無いって前……」
「実は最近、もう一つだけ手段がある事が分かったのだ」
「この水晶か?」
「うむ、この水晶は深紅の鎌の能力を持つ妾一族の力が溜められているのだ」
「えっ?!」
って事はソラの先祖の力が……
「妾もよく詳しい事は分からないのだがこの水晶は紅鎌器と言ってな、深紅の鎌の能力を持つ者の血を受け継いでいる者が死ぬと
その力がこの水晶に自動的に送られて溜まるのだ。しかし、血を受け継いだ子の能力の力は親と変わらないようなのだ
そしてこの紅鎌器に深紅の鎌の能力を持つ者が触れると深紅の鎌の力を操れると聞いた」
「ほぉ……」
「でも、能力発動中は体力消耗が激しいから妾にはキツイのだ」
ソラは少し暗い顔になる。
「まぁ、何故紅鎌器が此処に在るかは置いといて、体力に問題があったとしても能力を一応操れるようにしておいた方が後できっと役立つと思うぞ」
「うむ、分かった」
俺の言葉にソラは元気付けられたのか笑顔を見せた。
「深紅の鎌って、何なの?」
「ルチには確か話してなかったな、後で教えるよ。ユメは深紅の鎌について知ってるのか?」
知っています……
「じゃ、ソラ」
「うむ」
ソラは紅鎌器に近づいた。そしてそっと大きな水晶に触れる……その瞬間、水晶に刻まれていた文が輝き、次に水晶が紅く輝く。
その光に階段の壁に生える蒼い水晶が同じく輝く。紅い水晶は眩い光を放ちながらソラの頭の鎌状のものに吸い込まれた。
光が収まり、紅鎌器が消えた事で扉が目の前に姿を現した。扉の向こうからは何か怪しい雰囲気を感じる。
「ソラ、紅鎌器は?」
「この中じゃ」
ソラは頭の鎌状のものを触る。
「先の事になるだろうが妾が死んだらこの紅鎌器は何処かに移動する」
「何処かって?」
「うむ、実は紅鎌器はどんな方法を使っても傷一つ、つかない上に一族の誰かが生涯を終えると何処かにランダムで瞬間移動するのだ。理由は分からないが」
「不思議な水晶なんだな」
「うむ」
本当に不思議な水晶だな……信じられないがソラが真面目な顔で言っているのできっと本当の事だな……
「さて、この扉を開けようか」
「何か向こうから感じるし、いよいよって感じだねっ!」
ルチがそう言い、少し楽しそうな顔をする。
「よし、開けるぞ」
扉の向こうに何かを感じながらも俺は扉をゆっくり開いた……
「ライ殿、これは……」
扉を開き、俺達が目にしたもの……それは少し大きな部屋の中に沢山ガラス張りの棚があり、その棚の中には薬品や実験用器具が入っている。
部屋の隅には上り階段があってこの部屋からは薬品の匂いが少し漂ってくる。
「この薬や実験器具は一体……」
ソラ達は興味津々そうに棚の中の薬を見て回る。
俺はある棚の前で立ち止まった。その棚の中には試験管に入った液体状の薬が沢山あったが俺の視線は一つの試験管に注がれた。
その試験管は紫と黒が混ざった液体が入っており、その試験管の名札にはこう書かれていた。
「狂怖薬……」
「そうだ。それがあの薬の一つ」
『!!』
俺達の誰でもない声が聞こえ、その場の空気に緊張が走る。
部屋の隅にある上り階段の所にフラッドガ国女王、ユスカが立っていた……!
俺達はさっと身構える。ソラは走ってきて俺の後ろに隠れた。
「何故、お前が此処に……」
「何故って聞くなよ、そもそも此処は俺の地下実験室の薬品保管室だ」
「……何だと!?」
「まぁ、そう身構えるな。俺はお前達を此処に誘ったのだからな」
「どういう事なの?!」
ユスカは背中に手を廻す。俺達はユスカの動きに注意する。
「今、争っても意味は無いぞ?俺が死んでもルサが居る」
ユスカはそう言って小さな黄色い宝石を取り出す。
「この感じ……」
「そうだ。この宝石からライ以外が感じていたものが発せられていたのだ」
「俺達をどうするつもりだ」
「どうもしないさ、ただ用があるだけだ」
「私達を殺るって事?!」
ユスカはクククと笑う。
「違う、殺すなら最初からお前達が此処に来るための道に用心のため俺が仕掛けておいた罠を解除するはずなかろう」
「なら何故妾達を此処に入れたのだ!」
「まぁ、来い……」
ユスカは階段を上がっていった。何故かユスカからはいつもの殺気を感じない事に俺達は不思議に思いながらも俺達は階段を上る。
数十段階段を上るとまた部屋が現れた。薬品保管室よりは少し大きい部屋だ。
中央にテーブルがあり、その上に実験器具が沢山置かれていて中には起動中の物もある……部屋は沢山の本や資料が納まっている棚に囲まれている。
「座れ」
テーブルの傍に4つ椅子が置かれていた。俺達は危険が無いか確かめて座った……向かい側にユスカが座る。
「で、何の用だ?」
「俺もあまり時間が無い、単刀直入に言わせて貰う。ルサは残りの狂怖薬を軍に使った。でもそれじゃ俺の僅かにある良心が許さん、という事でこれをやろう……」
ユスカはそう言って大きな木箱を俺に手渡す。その木箱は重たかった。木箱の中には試験管が沢山有り、その試験管の中には蒼色の液体が入っている。
その木箱をもう一個ユスカは俺達に手渡した。その木箱を俺とルチは持つ。
「これは何なんだ?」
「お前達にとっては良い薬品になるだろう、お前達の軍で薬に詳しい奴に聞いてみろ。すぐに何かは分かる」
「毒物かもしれないじゃない」
「きっとお前達に役立つ薬だ。2箱で3000程入っている」
「何の薬かは言えないのか?」
「俺は敵国の女王、でも良心からそれを手渡した。持って帰るか帰らないかはお前達の好きにしろ」
ユスカはそう言うと席から立ち上がった。
「あの本棚を退けると通路がある。そこからお前達の軍の元へすぐに帰れる」
「何だか薬はよく分からないが有難うなのだ……ユスカ」
ユスカは部屋の隅の本棚を指差し、薬品保管室に下りていった。
「礼なんて敵国の女王にするものじゃないぞソラ王女」
ユスカは俺達の視界から消える直前にそう返事をした。その顔は何だか少しだけ微笑んで見えた。
「でも、この薬はどうする?」
「きっと大丈夫だ。持って行こうぞ」
俺とルチは木箱を持った。ソラとユメがユスカが指差した棚を退ける。するとユスカの言う通り通路が姿を現した。
その通路の中に俺達は入る。俺達が通路に入るとソラとユメが通路側から棚を元に戻した。
「よし、行こうライ殿」
ソラに言われ、俺達は通路を進み始める。
「良心ね……ユスカにも本当にあるのかしらね」
「妾は信じる」
「……コクッ」
「まぁ、それは薬に詳しい奴に聞けば分かるさ」
そう言い、俺は木箱を見る。
「ライ殿、あれ!」
「どうしたソラ?」
ソラに言われて前を向くと通路に線路があり、大きなトロッコが線路に乗っている光景が俺の視界に映った。
「トロッコに乗るというわけか」
俺達はその大きなトロッコに乗る。制御装置はちゃんと働いている……
「じゃ、出発しようか」
トロッコ内にあるレバーを俺は引く、するとガチャンと言う金属音がしてトロッコが進み始めた。


続き:深紅の鎌.六


コメント何かあればどうぞ
(コメントは旧wikiと共有しています。返答に困るコメントは返事が無い場合がありますが、ご了解して頂きたいです…)


トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2012-08-05 (日) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.