writer:レギュラス
この小説を読むことで、ゲーム「ポケットモンスター」の登場人物のイメージを損なう恐れがあります。
この小説には人×ポケが含まれます。
シリーズになっています。先にこちらとこちらをお読みください。
「う……ん、あっ」
室内に淫靡な水音が響く。
「ふ、んくっ、マニューラ……はあ、ぅんっ」
今夜も私とマニューラは交わっていた。
以前は戸惑いを見せていたマニューラもすっかり甘い蜜の味を覚え、この頃はむしろ積極的に私を誘うまでになっていた。その味を教え込んだのは紛れもなく私なのだが。
私の胸元に顔を埋めたマニューラがべろり、と舌を這わせる。
「やっ……!」
そんなのどこで覚えたの。と思ったがそれも私だ。散々いいようにマニューラを舐めまわしたのだ、今その仕返しをされているのだ。
突起のある舌の先で先端を転がすようになぶられると、するどい性感が走った。
マニューラの目はポケモンバトルの時の目に似ていた。ぎらぎらとあふれる生の力、狩りの本能。私という獲物はもう、逃れられない。
「ちょっと、ひっ……」
マニューラは私を狂おしく突き上げ、蹂躙してゆく。マニューラのものが私の中をかき混ぜ、かき乱すたびに甘い蜜がとろとろと溢れて布団にしみを作る。
まぶたの裏に火花が散る。こすれあう体は摩擦で発火しそうなほど熱く、それでいて激しさを増す行為にさらに熱を高めていく。これはマニューラの熱なのか、私の熱なのか。
ふたりの体温が混ざり合い、ぶつかり合って燃え上がる。それは情熱のように。
「んっ……ぁああああ!」
ひときわ強い突き上げに、私は絶頂に達する。今夜も同時だった。
私の体にも、脳裏にも、真っ白なものが飛び散る。飛び散った液体までも沸騰するかのように熱い。
「ふぅ、はぁ、はぁ……」
荒い息をつく私とマニューラ。全身を包むけだるい疲れさえも心地良い。私はマニューラを両腕でかき抱き、毛並みを撫で、ひたいの宝石に口づける。
「にゅっ」
八重歯の間からちろちろとのぞく舌と、物欲しそうな目。
「えっ……もう一回、するの……?」
黙ってうなずくマニューラ。
「…………いいよ」
そう言うと嬉しそうに口角を上げるマニューラの顔を見ていると、もっと応えてあげようと思わずにはいられないのだ。
そして私とマニューラは終わりなく堕ちていく。どこにも辿りつくこともなく。ひたすら快楽に溺れ、身も心もずぶずぶと音を立てて淫楽の沼に沈んでゆくのだ。
麻薬かアルコールにでも中毒したら、こういう気持ちになるのだろうか。なるほど、やめられないはずだ。だって私はもう、マニューラ無しではいられないのだから。
これでいいのだろうか。マニューラに攻めたてられ、はしたない声を上げながら、頭の片隅でかすかに思う。それでもいいか、と思う自分と、どうでもいいか、と思う自分がいる。
きっとマニューラもそう思っているのだろう。言葉を交わすことはできずとも情を交わす私たちは、十分すぎるくらいお互いの隅々までよくわかりあっていた。
そしてまた、水音と喘ぎ声が部屋中を満たした。
四つの部屋の向こう側。チャンピオンと、挑戦者のみが立ち入ることを許される聖域。私はついに、ここまでたどり着いた。恐れはない。マニューラがいるから。
「カイリュー、“ドラゴンダイブ”!」
「ヘルガー!」
カイリューの一撃でヘルガーはノックアウトされてしまった。これで互いに残るポケモンは一匹。イーブンだ。チャンピオンのカイリューはおそらく、ベストパートナーだろう。やはり最後に残すのは最も信頼するポケモンだ。
「お願い、マニューラ!」
しかし、チャンピオンはなぜか私のマニューラに眉をひそめた。
「……おいおい、そのマニューラ大丈夫か? 目の下にクマができてるし、ちょっと痩せすぎだぞ。本当に大切にしているのか?」
「……っ、当たり前じゃない! あなたに私と彼の何がわかるっていうの!?」
「見ればわかるさ。君とマニューラは……」
「いいえ、なにもわかってなんかいない! マニューラ、あなたの力を見せて! “おんがえし”!」
「カイリュー、“はかいこうせん”」
マニューラの繰り出す“おんがえし”の威力によって空気が打ち震え、衝撃波さえ発生している。カイリューの放った眩しい光にバトル場が包まれ、目を開けることさえできない。
それでもわかる。マニューラの“おんがえし”の威力はまさに一撃必殺。チャンピオンのポケモンであろうと、耐えることなんてできるはずがない。
光がおさまれば、倒れたカイリューの姿が……………………なかった。
代わりに倒れていたのは――
「マニューラっ! そんな!」
彼のもとへ駆け寄り、抱き起こす。ぐったりとしたマニューラの体はやけに軽かった。
「ねえお願い! 目を開けてよ! 嫌、独りにしないでよ!」
「加減はした。酷いことにはならないはずだよ。ほら」
チャンピオンは私に“げんきのかたまり”を差し出す。ひったくるように受け取ったが、こんな大きいもの、マニューラの細い首に詰まってしまったらどうするのだ。
私はそれを即座に噛み砕き、細かくしてからマニューラに口づける。マニューラの顔を両手で支え、少しずつ“げんきのかたまり”を流し込む。
そして、はたしてマニューラは目を覚ました。
「良かった……本当に良かった……ごめんね、マニューラ……」
「にゅー」
ぽたぽたとマニューラの顔にしずくが垂れる。もう泣かないって、遠い昔決めたはずなのに。少しこけてしまった頬で、それでもマニューラは笑顔を作る。
私を心配させまいとして。その笑顔が痛々しくて胸が痛む。おなかを撫でると、か細い体にごつごつとしたあばらが浮いていた。
私のせいだ。連日のバトルに、連夜の行為。私はマニューラに負担ばかりかけていた。マニューラはただ一途に私の悦ぶことをするのに一生懸命だったのに。
いつのまにか快楽を優先して、愛がエゴにすり替わっていた。だから負けたんだ。
「そのマニューラと一緒にしばらく養生するといい。知り合いの医者を紹介してあげよう」
「医者……? いえ、私は」
「マニューラは体の方、君は精神の方の医者が必要だよ。依存症だよ、やめられないんだろう?」
チャンピオンは何もかも知っていると言わんばかりの顔をしていた。まるであられもない行為を見られたかのような心地がして、私は赤面する。
チャンピオンはそんな洞察力をも備えているというの。だめだ、今の私では勝ち目は無い。
チャンピオンは名刺を二枚取り出し、差し出すと、そのまま私に背を向ける。マントが華麗に翻る。
「待って!」
思わず呼び止める。
「何か用かい?」
「あの……どうしたら、そんなに強くなれるの……? どうしたらそんなに、ポケモンと通じあえるの?」
「そのうち、君にだってできるさ。ただ、溺れすぎないように注意すれば、ね」
「私にも……?」
「ほらカイリュー、寝床に行こうか」
「リュー!」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ!」
「まだなにか?」
チャンピオンはカイリューの肩に手をかけて言う。当のカイリューは頬を染めている。もしかして、そういうこと?
「いえ、なんでも……」
私はこんな奴に負けたのか。折れかけた心に、燃え上がるものがまだ残っていた。必ずリベンジする。私は、マニューラとともにここへ戻ってくる。そして次こそは、勝つ。
私はその日、名刺に書かれた病院を訪れた。
三か月後のこと。私はリーグ四番目の部屋で挑戦者とバトルしていた。今頃他の三人がどうしているのか、容易に想像がつく。
エスパー使いの男の子はネイティオと戯れているだろうし、毒使いのおじ様はアリアドスの糸で縛られているだろう。格闘使いのむさいおっさんは……しらない、私は何も知らない。
マニューラはバトルフィールドを駆け回り、相手のポケモンを翻弄していた。これが私たち本来の戦い方。ヒット&アウェイを繰り返し、相手を疲労させる。だけどとどめはやっぱり、
「“おんがえし”!」
「うわあああ! ハッサム! マニューラには強いはずなのに!」
「強いポケモン、弱いポケモン、そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき、そうでしょう?」
少年とネイティオのように。紳士とアリアドスのように。格闘家とカイリキーのように。私と、マニューラのように。
私はあの日からマニューラとともに療養し、再びポケモンリーグに舞い戻った。それでもチャンピオンにはかなわなかったけど、
勝負のあとでチャンピオンは私に空席になっていた四天王に就任しないか、と要請した。いわく、マニューラに“げんきのかたまり”を口移しする気遣いが気に入ったんだとか。
私は散々迷った末にこの地位を引き受けた。迷う私の背中を、マニューラの強い目が押してくれた。
そして、私は今日もマニューラとともにこのバトルフィールドに立っている。一時に比べれば、行為の頻度は減った。
それでも私たちの愛情が変化したわけではなく、むしろ深くなったくらいだ。時折の交わりは一層深く、慈しむように愛を確かめ合う。相変わらず人とポケモンの垣根は越えたままだけど。
「まにゅ」
マニューラは牙を見せて、誇らしげな顔で微笑む。その顔はもう、痩せて小さくなってはいない。この笑顔があれば、もう他に何も望むものはない。心からそう思う。
私たちはこれからもともに進んでいくだろう。正しくもなく、正しくなくもない行方に向かって。
END!
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