writer:レギュラス
この小説には人×ポケが含まれます。
僕のお嬢はエリートトレーナー。目指すはチャンピオン。今日も僕はもっと強くなるため、バトルを繰り広げるのだ。
「さあマニューラ! “ねこだまし”よ!」
僕は指示通りガルーラに先手を取って攻撃を仕掛ける。“ねこだまし”で視界を封じ、怯んだすきをついて攻撃を入れる。
ガルーラは体は大きいけど、小回りは利かない。ちょっとひっかいてはすぐに離れ、また接近してひっかく、この繰り返しで消耗させよう。
怒ったガルーラの振り回す爪を避け、しっぽをかわし、着実に攻撃を決めていく。お嬢と一緒に考えた戦術も、一緒に鍛えた技術も完璧だ。そんじょそこらのトレーナーになんか負けやしない。
絶対に勝つ。
苛立つガルーラをあざけるように、爪の一撃を決め、すぐに離脱する。背後に回ってもう一撃。ガルーラが怒って振り回す腕をかいくぐる。
「相手は脆い、一撃で決めるんだガルーラ! “げきりん”!」
ガルーラは怒りを力に変えて暴れまわる。だがそれも、当たらなければ意味はない。ガルーラでは動きが遅すぎる。自ら体力を消耗したガルーラは疲れ果て、ふらふらになって“こんらん”する。
「これで終わりよ! “おんがえし”!」
僕が渾身の“おんがえし”を決めると、ガルーラの巨体はあっさりと崩れ落ちた。
「今日もお疲れ様、マニューラ」
お嬢はグラス片手に僕をねぎらう。頬を上気させて上機嫌だ。
「あなたも飲まない?」
僕はいつものようにふるふると首を振って断る。人間の飲み物はどうも合わない。今お嬢の飲んでいる赤い液体は正直匂いがきつい。
ところで、どうしてお嬢はあの飲み物を口にすると服を脱ぎ始めるんだろう。体温も上がってるみたいだし、暑いのかな?
「ねえマニュ、こっちにいらっしゃいよ」
きた。ここのところ毎晩、これが続いている。僕を手招きして、お嬢は明かりを少し暗くする。僕が行くのをためらっていると、お嬢は立ち上がり、僕のもとへとやってくる。
「ほら、何を遠慮してるの」
頬を両手で挟まれ、見透かすような瞳に射抜かれた僕は身動き一つとれない。
「なにも一緒に戦うだけがトレーナーとポケモンってわけじゃないでしょう? それに、ポケモンとトレーナーの絆が強いほど、バトルの時の連携も強いってものよ。そうでしょ?」
そう言ってお嬢はにこやかに笑って僕を抱き寄せる。そのままわしゃわしゃと頭の飾りをかきまぜると、一の字に結んでいた僕の口元が思わず緩む。
お嬢は微笑みながら、その口元をひとさし指でなぞる。たったそれだけの動作に、心の奥がぞわりとする。このまま全部投げだしてしまいたいような、そんな気分。
ぎゅうっと、肺の空気を押し出すくらい強い抱擁。そうだ、この胸が苦しいのは息ができないからだ。突き出した丘が二つ、僕のおなかのあたりに押し当てられているのを感じる。
そのままうりうりとお嬢の柔らかな頬が僕の頬にこすりあわされる。こども扱いされているみたいで癪だけど、もちもちとして気持ちがいい。顔にかかったお嬢の黒髪が香る。
不意に、ざらざらとしめったものが頬を撫でた。お嬢の長い舌が、僕のほっぺたを舐めまわしている。ねえお嬢、これも強くなるために必要なことなの?
熱い吐息が耳にかかる。僕は身をよじるけど、お嬢はしっかりと僕を抱きしめて離してくれない。僕はぎゅっと目をつむって、終わるのをただ待っている。
ようやく長い抱擁から解放され、僕は大きく息をつく。呼吸が乱れている。抱きしめられて息ができなかったせいだ。じゃあ胸がどくどくしているのはどうしてだろう?
ぜいぜいと息をついていると、僕の唇が急に塞がれた。目を見開く僕。自然と、お嬢と見つめあう形になる。大きな黒目に魅入られたように、僕は目をそらすことができない。
僕の唇を割って、お嬢の舌が口腔に侵入する。長い舌が僕の舌に絡みつき、ぼくとお嬢の唾液が混ざり合う。舌をねぶるのが止んだかと思えば、次は牙をべろべろと舌で擦る。
新鮮な刺激に体が反り返る。時が止まるかのような口づけは、お嬢がすっと口を離したことで、始まった時と同じく唐突に終わる。
息も絶え絶えの僕を床に押し倒すと、お嬢はおもむろに細い指で僕の首を撫でる。なぜかしらん、お嬢は僕の首筋をやけに気に入っているらしいのだ。
くふふ、と妖艶な声を漏らしながら僕の首を守る、ただ一枚の薄っぺらな飾りをめくり上げる。お嬢の唇が、容赦なく喉元を吸い上げる。
「にゃっ!」
こらえきれず声が出る。僕はこれをやられると頭が真っ白になってしまう。
「みゃ、ああ、ゃうううぅ」
「ここが弱いの? じゃあ鍛えなくちゃね。バトルの時に狙われたらどうするの?」
お嬢は貪欲に僕の首筋をしゃぶりつくす。白い視界が点滅する。
「にゅ、にゃあ、ぁあ」
下から上へ舐めあげていく。真っ白な世界がぐちゃぐちゃにかき乱される。
「ひゅ、ん、」
「にゃあ」
舌を一度休めて、お嬢が僕の鳴きまねをする。それがぞっとするほど似ていて。同族の雌かと錯覚してしまう。違う、これはお嬢なんだ。だから、だから――。
またしても強く喉を吸われる。
「ま、にゅうう、ぅっ」
首に軽く歯が立てられる。その感触が言いようのない感覚をもたらす。眼前の白に赤が混じる。
「にゃ……あ」
首筋はとうにべとべとになっていた。それでも止まらない。真っ白な頭の中をじわじわと赤が染めてゆく。
その間もお嬢の手が、頭飾りを、耳を、頬を、えりまきを、わきを、二の腕を、わき腹を、しっぽをやさしくつまみ、なぜる。
そして、お嬢の手がゆっくりと伸びて――そこはだめ! 僕は思い切りお嬢を突き飛ばした。我に返る。お嬢の二の腕からたらり、と血が垂れた。
ああ、そんな。お嬢にけがをさせてしまったなんて。ごめんなさいごめんなさい。
「いいのよ、マニューラ」
そういってお嬢は流れ出た赤いしずくを舐めとった。
「あなたも舐めたい? 私の血」
ぶるぶると首を振る。考える前に体が動いていた。お嬢はふふ、と含み笑いすると、最後にもう一度僕の頭を撫でて、
「おやすみなさい」
と言った。
僕はにゃあ、と返事をして丸くなる。首がじんじんしてまだ熱い。ぶるっと体を震わせても、まだ生々しい感触が残っていた。
今夜はなかなか寝られそうにない。
翌朝。お嬢があんまりにも首を強く吸うものだから、吸われた場所はあざになっていた。
お嬢はそれを見てその綺麗なえりまきで隠してしまえばいいのよ、と笑う。
もしもバトル中に相手のポケモンに見えたらどうするんだ。とても恥ずかしいじゃないか。
「今日は大事な試合なんだからね。期待してるわよ、マニューラ」
それなら前の晩はもう少し休ませてほしいものだ。あのあと結局動悸が治まらなくて、今日は寝不足なのだ。
大きな建物の中で、ピンクの髪の女の子が待ち構えていた。
「負けへんで! かかってきいや!」
「頼んだわよ、マニューラ! “ねこだまし”!」
今日も僕はお嬢とともに戦う。
「ミルタンク、メロメロや!」
「マニューラ、そんなのに構わず行って!」
「そんな! なんでメロメロが効かんねん!」
僕が攻撃を食らわすとミルタンクは怯んだ。
「今よ、マニューラ!」
決め技はいつも通り“おんがえし”。なんだか、ガルーラと戦った時よりも威力が増したような気がした。
「わーん!! わーん!! ……ぐっすん、ひっぐ……ひどいわー!!」
「はあ……ほら、勝ったんだから早くバッジを頂戴」
「ああバッジ? ごめん、忘れてたわ。はい。これが欲しいんやろ!」
女の子は渋々ながらにバッジをくれる。きらめくバッジを手にしたお嬢がとびきりの笑顔をぼくに向ける。僕も笑顔になる。
ちん、とボトルとグラスの触れ合う音。注がれる血のように赤い液体。今日も勝ったからお嬢はさっそく賞金であれを買っていた。飲み過ぎだよ、ほんとうにもう。
明かりが落とされる。
ほんとうのことを言うと、他のトレーナーは僕とお嬢みたいな、こういう関係じゃないんだって知ってる。
でもこれはこれで、僕とお嬢の、一つの正しい行方なのかなって、そんな気がしている。ほら、お嬢の声がする。
「マニューラ、こっちにおいで」
そんなこんなで今夜もいつも通りに、僕はお嬢のなすがままになっている。
END☆
あとがき
マニューラ可愛いよマニューラ。
行方と書いて「なめかた」という読みが存在するそうです。
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