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時渡りの英雄第6話:一つ目の歯車、コリンの旅路・後編

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時渡りの英雄
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72:シャロット地獄のとばっちり 


 十一月九日
 深夜、エッサは宿の外でタバコの葉の粉を鼻から吸い込んでは、クシャナを待ち侘びていた。美しい月が頭上にある光景を見ながら、彼は漠然と過去の世界に来てよかったと思う。月を見ていれば飽きない。
 月に刻まれた美しい模様は、飛行タイプの視力の良さ故にはっきりと見える。月の模様は本を読むサーナイト模様とは聞かされていたが、初めて輝く月を見た時はどこをどう見ればそうなるのかを理解出来ずに道行く人に話しかけては恥をかいたものだ。
 今では恥ずかしいその思い出だが、旅の恥はかき捨てだから気にしてはいない。
「あー……気持ちいい。ちょっとひとっ飛びしてくるかなぁ」
 ボーマンダという種族がらゆえか、彼は空を飛ぶのが好きである。仲間を待っている間夜風に当たりながら空を飛ぶのも悪くはないと、彼は翼をはためかせ、空を飛ぶ。仲間のクシャナは鳥ポケモンの姿で訪れるのだから、このまま飛んでいても見つけることは難しくなかろう。
 
 涼しい夜風に当たりながら思い出に浸っていると、時間を忘れられる。時間の感覚がまるでない未来世界と違って、空を飛びながら星を眺めているだけでも暇つぶしになるこの世界は本当に居心地がよかった。
「すまない、約束の時間に遅れたか?」
 もてあましていた暇を悠々と潰していたエッサの元に、ピジョットの姿でクシャナが訪れる。月明かりの下で、悠々と空を楽しんでいたエッサを見て、自分は遅れてしまったのだとクシャナは素直に謝った。
「いや、大丈夫だ。最近すっかり夜空を見ているのが好きになってね」
 そう言ってエッサは笑って地面に降り立ち、クシャナもそれに続いた。ドゥーンからは、『この世界になじむためにも、この世界を楽しめ。変な使命感を前面に押し出す事で、過去の世界の住人に違和感を悟られるなよ』といわれたとおり、過去の世界の暮らしを満喫している彼は、酒もタバコも祭りも美食も一通り体験して、今は特に美しい景色に息を飲む事を何よりの楽しみとしている。
 のんびりスローライフからは、使命感のかけらも感じられないように見えた。その理由は、そう。仲間に実の娘を殺されても、『また適当な女に生ませればいい』としか思うことが出来なかったコリンと同じだ。数少ない例外を除けば、未来世界において、損得を超えた友情なんてものは育まれにくいのだ。
 シノ達との絆なんて、いったいなんだったのか? そう思うほど、穏やかな日々と感情で、エッサはクシャナを見つめる。
 彼はジュプトルに変身し直していた。ジュプトルに化けている状態が板についているメタモンは、普段は顔に包帯のようなのを巻いて、メタモンが変身した際顔に出やすい違和感を隠している。体のほうは他のジュプトルの個体を真似る事で何とかなったものの、コリンの精悍な顔立ちはジュプトルに進化した彼を見たことのないクシャナには完全な再現はどうやっても無理であったが、なんとかキモリの頃の顔を元に成型することである程度は似せることもできた。
 最大の特徴であるたくましい肉付きや鋭い目つきは、並べさえしなければ本人と見間違えても無理のないレベルだ。コリンはおおっぴらに時の歯車を持ち歩くような馬鹿はしないだろうが、クシャナにレプリカの歯車を持たせたり、エッサがそれらしい証言をしておけば、時の歯車(の、レプリカ)を持った強盗殺人犯のジュプトルと、時の歯車を持ったコリンを同一人物として結びつけるはず。
 荷物を調べるくらい積極的な探検隊が、コリンを抹殺とまでは行かなくとも、手傷を負わせてくれればいい。それが積み重なれば相手は追いつめられるはずだ。

 そんな計画を頭の中で反芻してみるが、エッサはなんだか集中できない。かつては、クシャナが変身した姿を見ているだけでふつふつと憎しみがわきあがって来たが、今では憎しみも下火になっていて、コリンを殺す計画よりも明日の商売はどうしようだなんて、商売人気質が板についてきている。
「しかし、どうしたんだ? 今日はずいぶん夜空を見上げる顔がアホ面だぞ?」
 上の空になっていたエッサに対し、からかい混じりにクシャナが冗談を飛ばせば、エッサの表情は一気に笑顔の色が濃くなった。
「それなんだがな、聞いてくれよ。今日な、ちょっとトイレにって兄貴が出かけた数分の間に、葉巻の箱十五ダースも買 い占めていったお客さんがいてな」
 進化してボーマンダとなり、初めて暗い大空を跳びまわったときのような笑顔でエッサは言う。クシャナの顔が曇った。
「まぁ、たまーにそういう風に買い占めるお客さんはいるから、めずらしいことじゃないんだけれどさ。何がすごい事か って、ほとんど値切られないで売れてしまったってことなんだ。兄貴から値切っていい額は決められていたからさー。最初は高めの額を提示して、それになりに値段を譲歩して売るつもりだったんだけれど……
 そいつは値切る額が最初っからふっかけない奴でさ。俺が悩んだ振りしていたら、最初に提示した額よりももう少し上の値段で買ってくれたってわけだ」
「つまり、予想外に高い値段で大量の商品を買ってもらったってことか?」
「おう、商売上手だなって兄貴に褒められちまった。お客さんが馬鹿だっただけなのによー、世の中思いがけない幸運もあるもんだな。なんだか、俺が何をしたわけでもないのに兄貴に褒められちまって……いやぁ、貨幣経済ってのは面白いな。
 やっていてここまで充実するもんだとは正直思わなかったよ」
 嬉しそうとしか言いようのないエッサの表情を見ていると、つられて笑顔が伝染しそうなものだが、クシャナの表情は対照的に浮かない顔。今のエッサの様子を見ていると、クシャナは報告をするのが憚られて、さびしげな笑顔でしか自分を取り繕うことは出来ない。
「そうか……充実しているようで何よりだよ、エッサ」
 クシャナはごくりとつばを飲んで、前振りを置く。
「……悪いニュースがある。」
 エッサにそれを告げるのは、酷な気がした。四月ごろ、過去の世界にたどり着いたばかりのエッサはコリンへの憎しみと、未来世界を守りたいという正義感に燃えていた。だから、彼にとっては過去の世界の住人の一人や二人、道具として見る事が出来ていた。
 だが今は、その熱意も見るからに消えている。
「なんだ?」
 ドゥーンは、初志貫徹できると確信して 『過去の世界を楽しめ』と言ったのであろう。しかし、現実はこの世界に情が移ってしまうばかりである。嫉妬よりも、先に情ばっかりが湧いてくるほどこの世界は暖かいのだ。
「コリンが、キザキの森の歯車を奪った」
 と、クシャナが告げる。それが意味するのは、そろそろ兄貴(アーカード)が犠牲にならなければならないという事だ。コリンを連続強盗殺人犯のジュプトルの濡れ衣を着せる計画のため。
「付近の住人に根気よく尋ねたところ、ジュプトルが民家に泊まった形跡があるようだ。田舎の……寂れすぎて行商人もめったに訪れないような村でな。シデンの動向は不明だ……目撃情報らしきものは何も無い」
「あ、あぁ……ってことはアレか。そろそろ殺すんだな……兄貴(アーカード)を……」
 味方を過去の世界へ大量に送れない以上、過去の世界の住人を味方に使うと言うドゥーンの作戦は悪くない。しかしそれは、時の守人のメンバーの誰もが初志貫徹出来るという前提で組まれた作戦だ。つまり、過去の住人が死んでも心を痛めない前提で。
「なぁ、出来ればで良いんだけれどさ……殺さない手段ってのは無いのか?」
 エッサが兄貴の名前を呟いて……――何も考える事が出来なくなった。そんなエッサに、件の前提条件など欠片も残っていなかった。
「多分だが、ない……」
 抑揚をつけずに言った後、クシャナは溜め息を挟む。
「しかもな、ドゥーン様に聞いた所、未来世界では……」
 それ以上に悪いニュースを伝えなければならない事に、あまりの気まずさでクシャナは思わず目を逸らした。
「シャロット……あのセレビィが大暴れしている、上司も部下も殆ど全滅。壊滅状態だそうだ……スカウトに向かった奴らは結構生き残っていると思われるが……それもどうなる事か分からない。
 シャロットは隠れ潜みながら、俺達の仲間を各個撃破して、たった一人で……戦力差を無視して互角以上に戦っている。時の守人の詰め所も、警備が手薄……もう、あとがない状況だそうだよ」
 え……と、エッサはおもちゃを取りあげられた子供のように理不尽を嘆く声を上げる。
「それって……つまるところ……過去(こっち)に大量に時の守人の人員を送って、道中でコリンとシデンを襲う作戦が出来なくなったってことだよな?」
 質問の答えが間違っていて欲しいと心底思うエッサの質問。しかし、答えは非常にも正解で、クシャナはおずおずと頷いた。
「あぁ、そうだ。だから、この過去の世界で仲間を現地調達することをドゥーン様は決定なされた。そうでもしないと、とても戦力が補いきれないだろうって……くっそ」
 クシャナが毒づいてエナジーボールを地面にぶっ放す。
「シャロット……あいつは、エリック以上の化け物だ!! もはやポケモンですらない悪魔だよ!!」
 泣きだしそうな目でクシャナはそう吐き捨てた。いよいよアーカードを殺さなければならないとなって、エッサは青ざめていた。

73:ホウオウ感謝祭 


 十一月十日
「ヴァイスさん、今日はよくぞ来てくれました」
 にこやかにほほ笑むソーダを見て、コリンはハッと息を飲む。彼女はタテガミから燃え盛る炎と、その熱で発生する上昇気流で常にたなびく極薄の布をかぶっており、その純白の布が動きを失わずはためいて、それでいて海を漂う藻の如く静かな動き。
 それがなんだか、信じられないくらいに美しく見える。
「すごいな……綺麗じゃないか」
 そう言えば、未来世界で服なんて物を着ているのはシデンしかおらず、他もモモンスカーフや防御スカーフなどといった実用性重視のものしか身につけない。祭りだか何だか知らないが、まさしく海のように群がる衆目観衆の中でああいった格好をする以上、何か意味のある事なのだろう。
「馬子にも衣装って言うじゃない? バクーダの私だって、アレくらい着飾れば……」
 そんな美しいソーダを見て、ソルトは悔しそうに鼻息を漏らす。彼女の服は、深緑とワインカラーの二色の服。砂漠に適応するため寒さにも熱さにも日差しにも強い彼女が着るためか、体を保護するようとは期待できないヒラヒラとした薄布でしかないし、ソルトが来ている者と違って鮮やかさも明るさにも乏しい。
 一応、女性として大切なところから流れ出る血を隠すための腰布は分厚く出来ているがそれは目に映らないし映ってもいけないものだから関係ない。どこをどうみようと、如何にも『生理中に血が垂れるのを防ぐためだけの物です』といった無骨な見た目で、こういった祭りの時のようなハレの日に着るには華が足りないのだ。
 彼女が愚痴を垂れるのも仕方のない話である。
「それには、まずお前の体型に会う華やかな服を考えなきゃな」
 コリンはそんなモノは無いだろうなと考えながら心にもないことをソルトに告げる。
「どーせ、私用の服を儀式に使う事なんて在りませんよ―だ。あーあ……私もこんな服じゃなくって、もっといい服を着たいものね。知ってる? ソーダが身につけているあれ、メラルバ絹って言って、炎に強い布の中では最高級品なのよ……贅沢よねー」
 コリンが茶化してやると、ソルトはそう言って拗ねてしまった。
「祭りの時くらい高い服着たっていいじゃないか。それに、俺はふとましい女性の方が好みだな」
 ソルトのあの大きな体格、乙女としてはあまり好ましい所ではないらしい。かといって、バクーダの進化前はドンメル。あの貧相なアホ面を思えば、ふくよかな体格のバクーダと言うのも悪くないんじゃないかとコリンは思う。
 実際、美の価値基準なんて人や文化によって違うものだが、未来世界では痩せていると弱いという事が殆どイコールで結ばれる。それゆえだろう、未来世界では無意識のうちにふくよかな女性を美しいと思う性癖が付いている。
「ふーん、ありがと」
 あどけなさの残るつぶらな瞳のソーダもアレはあれで可愛いのだが、コリンにとってはソルトの方がソーダと比べて何かと魅力的に映っている事なんて、ソルトは本気にしようとしない。コリンが本心からそう言っている事なんて、彼女には知る由もなかった。

「で、ソーダのその格好……何をやるつもりなんだ?」
「開会の儀式にして、このお祭りの肝です。まずは酒宴を始める前に、神木を炎で焼き、煙を焚く儀式があるのですが……今年の里帰りの祭で私その大役を任せられまして」
「へぇ……神木とやらはそのために使うのか」
「えぇ。我らホウオウ信仰、焼畑と移住の民であった偉大なる先祖の皆様、定住を始める以前より神の木と崇めていた神木です……その煙を浴びれば、無病息災を約束されると言われます。
 煙を焚いたら、その上にかけられた橋をみんなで渡るんです……あの端につりさげられたお肉なんかも、その煙を浴びさせて作った燻製は美味しく長持ちすると言われ、本当にあらゆる事に役立つ木が、あの神木なのですよ……ヴァイスさんがこれからどこへ行き、何をするのかは分かりませんが……我らフレイム一同、応援のために心から、無病息災の煙を焚かせていただきますね」
「それは……まぁ、ありがとう」
 命の恩人と言うわけでもないのに、おおげさだなとコリンは笑う。しかし、こういうふうに旅の道連れを大事にしてくれるのがこの過去の特色だ。この世界は嫌いじゃない、むしろ好きだ。これを表現するために、コリンは心が温まると言うしか言葉を知らない。語彙力の無さには絶望するばかりだ。
 それがなんだかひどくむずがゆくて、どうしても口元がゆるんでしまう。もっと格好良い事が言えれば良いのにとコリンは自分の文才の無さが恥ずかしくなった。
「そう言えばさ、神木だっけか……それってさ、どういうものなんだ? 名前は如何にも大事そうな木だけれど……」
「ああ、それはですね……」
 純白のヴェールをゆすりながらソーダは微笑んで応対する。
「この街、シエルタウンは……元々、焼畑と移住を繰り返す民族だったのですが……焼畑と言うのは、一年か二年その土地で作物を栽培したら、その土地を放棄して別の土地へ移らなければなりません。そうして土地を休ませるのですが……土地を休ませるのにも指標が必要なのですよ。『この土地はもう十分休みました……』と、分かりやすく示してくれる指標が。
 それが、神木なのです。あの木は、フッカツノキと言いまして……その種を食せば死人すら生き返ると言われている程、薬効の強い木の実でして……二十年に一度、花を咲かせて枯れる性質を持っています。その、二十年という年月は、丁度土地を休ませるのにちょうどいい年月。
 神木の枯れる年は、その土地の復活を表す指標とされ、また焼き畑を終えてその土地を放棄する時、ご先祖様はその土地に復活の種を植え、次の焼き畑のための指標にしたと言います。
 そのフッカツノキの薬効、そして土地の復活の指標となる様……それは、いつしかフッカツノキがホウオウの写し身として崇められるようになったのです……あのフッカツノキは我らが神そのものなのですよ。このお祭りは焼き畑をしていた時代から行われていたのです……フッカツノキを称えるために。まぁ、人が少ない分お祭りは今よりもずっと小規模ですけれどね」
「ほぅ……」
 ソーダの長い話を聞いて、コリンは感嘆のため息をつく。
「ダンジョンにより道が遮られたりするうちに、先祖の皆様は移住の邪魔になるダンジョンを疎ましく思って、ダンジョンの中に乗り込んではダンジョンを作った悪魔を殺してやろうと意気込んでおりました。
 しかし、もちろん悪魔などいるはずもなく……代わりに与えられたのは、空間や時間の乱れによって生まれた恵みの数々。木の実や果実、穀物といった食料は農作業に時間を費やさなくともある程度手に入り……そして、襲いかかる『ヤセイ』は有用な食料となりました。
 そのため、ご先祖様は焼き畑を繰り返して移動する必要もないと考え、ダンジョンの周りに居を構える事を提案したのです……定住により焼き畑は出来なくなりましたが、そうなった今でもホウオウに対する敬意を失わないため……この街の住人はこうして神木の枯れ木を集めて火を焚くんです。
 その灰を畑にまいて、また新たな芽吹きを願うべく……一年に一回、無くてはならない祭りですよ」
 そこまで語り終えて、ソーダは満足げに溜め息をついた。対するコリンの方は首を傾げるしか出来なかったが。

74:歴史は大事 


「随分とまぁ、大切な祭りなんだな」
 祭りと言うのは楽しいものだとは分かっていた。しかし、無くてはならないなんて甘えも良い所じゃないかと、コリンは皮肉った口調で言ってのける。むっとしてソーダは額に縦ジワを寄せる。
 だが、皮肉に屈するのも癪だ。なんとか言い返してやりたいソーダは真っ向から皮肉めいた言葉に立ち向かう。
「ええ……この街を語る上では外せないお祭りですし……この祭りと共に、街の歴史は紡がれてゆくのだと信じております」
 誇らしげに頷いた彼女の眼差しは、どこに逝ったとも知れない先祖の魂を想って輝いている。歴史の重みを全く知らないコリンには、黒曜石のように黒光りするその瞳を向けられると、何だか自分が酷く愚かな人間に見えてくる。
 コリンには、あんな眼差しで見つめられるものなんて無い。
「歴史か……歴史……そんなの考えた事もなかったな」
 言いながら、コリンは荒廃した未来世界で口走った自身の失言を思い出す。『歴史を変えて何が悪い!?』と、自分は確かにドゥーンへ向かって言ってしまった。今になって、このソーダが語る歴史と言う言葉を思えば、アレは失言だったのではないかと。
 ただ漠然とそんな気がして、コリンは言葉を詰まらせる。でも、難しい言葉なんて考える必要はないと気付いて、コリンは意を決して口を開いた。
「歴史って、そんなに大切か?」
 率直な質問をコリンはぶつけてみる。何も飾らない言葉で、子供のように単純な質問を。磨き抜かれた黒曜石のような双眸(そうぼう)が僅かに揺れ動く。
「……えぇ、大切です。ヴァイスさんは、こういう話には興味がありませんか?」
 ソーダの表面を覆っていた、むっとする表情はもはや過ぎ去った。いまソーダにあるのは黒曜石色の瞳を、海のように深く澄ませてコリンの本音を引き出すのみ。
「恥ずかしながら……興味はなかったな」
 その瞳、濁った眼でしか物事を見れなくなったコリンは狼狽した。更なる皮肉を言う事も出来ずにコリンが包み隠せず返せば、ソーダは寂しさを湛えた笑みを浮かべた。
「そうですか……それは寂しいですが……いや、でもですね」
「ん、なんだ?」
 傾げたコリンの首を見て、ソーダは顎を上下させる。
「ホウオウ信仰の歴史が始まったのも、そもそも定住という文化が根付いてからです……それまでは、語り部が頭の中に覚えられるだけの歴史しかありませんでした……それと同じです。
 貴方の絵、貴方が言うには自分の住んでいた場所をオーバーに描いていたそうですが……貴方の住んでいた場所と言うのはその……」
 なるほど、とコリンは頷く。
「多分お察しの通りだよ。歴史を語れるような環境ではなかったんじゃ? と、ききたいんだろ? なら、その通りだ……定住している奴なんて一人もいない、厳しい環境だったさ」
「そうですか……いえ、それなら仕方ないと思いますよ……私達、とても商売にならないような悲惨な村なんかにも訪れた事がありますので……そういう人たちは、今を生きるのに精いっぱいでしたから……歴史を気にする暇なんてありませんもの。ですよね、リーダー?」
 そう言って、ソーダはシオネの方へ振り向く。
「え、えーと……とりあえずソーダの言う通りですか……ね」
 突然話を振られたシオネは、戸惑いながら答える。シオネの返答に満足したソーダは、笑顔でコリンに向き直った。
「……ヴァイスさん。貴方が絵を描くのは何故ですか?」
「いや、何を突然……」
「突然なのはお互い様。貴方だって、突然私に質問したじゃないですか?」
「た、確かに」
 ソーダの言い分に苦笑してコリンは考える。
「……昔から、美しい景色と言うものに憧れていた。でも、お前らに見せたような光景の場所だ。知り合いの女が聞かせてくれる、美しい場所の話が、昔住んでいた場所では俺の唯一の癒しだったんだ。だから、少しでもその景色を想像したくって描いているうちに……趣味になってしまったんだ。
 でも、今は……なんでだろうな? 実物を見られるんだから、描く意味なんて無いはずなんだけれど……」

 コリンが言い終えると、長いまつげを揺らしながら、ソーダの流し目がコリンの瞳へ流れる。
「貴方、自分自身で言ったじゃないですか。ここで腐らせるよりも、誰かに取っておいて貰った方が良いって……そうやって、何かを残したいと思う気持ち。それが歴史を形作って行くんですよ……絵を描いている貴方なら……きっと、歴史の大切さが分かりますよ」
 ゆっくりと瞬きをして、ソーダは口元を緩ませる。
「絵を描いている俺なら……か?」
 うん、とソーダは頷く。
「ただ生きているだけじゃ……この世界に何にも残せませんからね。ただ生きているだけでは物足りないって思えるのなら……何かを残してみるのも良いと思いますよ。私にとってはそれがこの街、この祭りであり……私達が発見、開通させる交易ルートです。そして、舞い手や探検隊と言うのがそのための手段でした」
「……そうか」
「と……なんだか、長く話過ぎましたね。私、そろそろお化粧して火を焚きに行かなくてはいけないので……」
「あ、あぁ……済まなかったな、ソーダ」
「いえいえ、貴方とお話するのも楽しいですよ。それでは」
 コリンに軽く頭を下げると、ソーダはタテガミの火力を上げた。はためく薄布は火の明りによって鬼灯(ほおずき)色に染まりより一層強い上昇気流を引き起こして彼女を彩っていた。長いこと話している間に喉がからからに乾いてしまったコリンは、それを見送って軽く咳払いをする。

75:歴史を残す意味 


「ふぅ……すまんな、お前らのソーダを貸し切りで話こんでしまった」
「いや、構いませんよ。ソーダが嫌そうにしている様子もありませんでしたし……」
 苦笑して謝るコリンに対してシオネは首を横に振る。
「でも、私はちょっと嫉妬しちゃったなぁ……こうやって旅をしていると普段、格好いい男の子とあんまり話す機会ないんだもん」
「だとよ、リーダー。格好良くないお前の責任だ」
 ちらりとシオネを見やるソルトの視線。もっと頼りがいのある男になりなさいよと、彼女の眼は口ほどに物を言う。
「えぇぇぇ!?」
「いいじゃないか。進化しなくたって強くなれるやつはいる。水、岩、地面タイプが出たらきっちり守ってやれよな」
 遠まわしに格好良くないと振られて、その理不尽さにシオネは声を上げる。そんなシオネの仕草がおかしくて、コリンは笑いながらフォローした。そう、炎タイプが苦手なポケモンは草タイプが相手してやればいい。
「あうぅぅぅぅ……」
 しかし、コリンから励まされても格好悪いと言われたショックで言葉も出ないのか、言葉ではなくうめき声をあげてシオネは項垂れる。
「なぁ、このお祭り……ソーダはあぁ言ったが、お前らはどうなんだ? この祭りはいつまでも続けて行くべきだと思うのか? 歴史ってのは、そんなに大事な物なのか?」
「そうですね。私もそう思いますよ。だって、自分が苦労して生きたのに……それが誰にも理解されないって辛いじゃないですか。その苦労の末に得られたモノを誰かに分かって欲しいんですよ。言ってしまえば、探検隊なんてやっているのはそう言う事なんです……名声が欲しくって……地図に残る仕事がしたいなぁって」
 シオネは少し間をおいて、考えを纏めながらそう言った。
「有り体に行ってしまえばそういう事なのよね。だから、私は……女が何もすることを許されない砂漠を出たし……それにさ、ヴァイスは絵を描く時、自分が満足するためだけに描いている? ヴァイスは褒められて嬉しくないの?」
「いや、そりゃ嬉しいさ……嬉しいし、またやろうって気分になる」
 コリンがいたって普通の返答を述べると、うんとソルトは頷く。
「褒められたい、評価されたい……そういう気持ちも歴史を形作る。そしてね、歴史って言うのは良い歴史ばっかりじゃないけれど、悪い歴史は同じ失敗を二度と繰り返さないようにって……戒めのために刻まれていくものなの。
 だから歴史って大事……私の故郷は昔から今でも、そして未来でも……いつ争いが起こってもおかしくない。だから、それがいつか完全に終結した時は……同じ過ちが二度と起こらないように、歴史はきちんと保存しておかなきゃならないと思うの。
 いいことも、悪いことも教訓として歴史はとっておくべきだわ。だから……なんていうの? 貴方は風来坊みたいだし、風のようにきままに生きている以上、歴史なんて無頓着でも構わないのかもしれないけれど……歴史の重みを感じることで、同じ物でも違って見えると思うわ。」
「違って見える……か」
「うん、そう。例えばあの石積みの祭壇……作るのに何年かかったと思う?」
「さ、さぁ……?」
 何年? なんて言われても、そもそもコリンには年月と言うものが全く分からない。
「九年よ。貴方は見た感じ十八歳くらいだから……そうね、貴方の人生のちょうど半分くらいかしら?」
「……まぁ、そんなところか」
「見て御覧、まずは高い!!」
 言いながら、コリンは祭壇を見る。特等席は、祭壇の目の前でそれを見上げる位置に在り、ここからならば石の模様まで難なく見える。祭壇の高さは背丈の二十から三十倍程であろうか。六十度はあろうかという、急な上り坂の四角錘には、錘の周りを取り巻くように螺旋状の階段がかけられている。
「でも、そんな事は凄さの内に入らない。本当にすごいのはね……あの岩。一つ一つの継ぎ目を見て御覧。何か気付かないかしら?」
 言われて、コリンは継ぎ目を見る双子の祭壇には土を使わず岩だけで組上げられておきながら、滑らかなその岩には全く隙間が無い。
「まるで、巨大な岩に切れ込みを入れたみたいにぴったりくっついている……」
「そう、アレのためにこの祭壇は時間をかけて作られたの。あの岩を切りだすのに……一体どれだけの労力を必要としたんでしょうね? すごいと思わないかしら?」
 顎で指し示された祭壇を見て、コリンは考える。あんなものを作るには相当熟練した石切りの技術が必要なはずだが、それをこの祭壇はやってのけたのだろう。ただ石を積み上げるだけならばそんなに時間はかからないのだろうが。
「適当に日干しレンガで作るだけじゃ……ダメだったのか? ここら辺の家には、裕福な者ならともかく貧しい者の家には日干しレンガが使われているぞ? それがダメでも、石と土を合わせて石垣を作るなんて普通の事じゃないか」
「うん、普通の事。でもね、普通の事をしていないからこそ特別になるの。そして、その特別のために歳月を費やした苦労の結晶があれ……なんて、格好付けた言い方になっちゃうけれど。
 あの祭壇の建設者たちもね……こうやって、語り継がれる事を望んだのだと思うわ……私達も、開拓した通商ルートが探検隊連盟の案内記事に乗り、それが永久に名を残せるのならば……こんなに素敵なことってないと思うの。
 私達が生まれ、生きた証……それを残すのって、ただ生きる事よりもずっと大事なことだと思うから。人のため、誰かのために行動するのも悪くないけれどね……結局……一生懸命生きるっていうのはね、誰のためでもなく自分のためなの。
 残す事は、ただ生きる事よりも、ずっとずっと大事なことよ?」
「ただ生きる事よりもずっと大事……」
 コリンはソルトの言葉を輪唱する。
「ま、要は量より質ってこと。何も残せない人生なんてつまらないわよ? 貴方の絵も、もしかしたら歴史に刻まれる大作になるかもしれないのだから……歴史を残す意味。歴史を刻む意味について考えてみたらどうかしら?
 そうすれば、見栄えない人生も、輝ける一瞬が必ず来るわよ」
「輝ける一瞬……」
 コリンは再びソルトの言葉を輪唱する。
「あ、あの……難しく考える必要はないと思いますよ、ヴァイスさん。ただ、楽しく生きるってことは、その……美味しい物を食べるとか、綺麗なものを見るとか、好きな異性と交際するとか、そう言う事だけじゃないってだけですよ」
 なんだか、コリンは沈んだ顔をしている。それが心配になったのか、シオネは簡単に考えろという。

「ヴァイスさん、この大陸に来て絵を見せたのは私達が初めてなんでしょう? もっと、見せるべきですよ……だれか、人目の触れる所に飾れる人に頼んで……ソーダのお爺さんでも良いですし、誰でも良いですから……貴方の生きた証です」
「その才能、埋もれさせちゃうのはもったいないわよ、ヴァイスさん。当てがないなら、ソーダのお爺さんが適任だわ」
 二人は異口同音する。
「……ありがとう」
 その親切で心が疼いて、コリンは自然に言葉が零れ出た。
「アドバイスは出来るけれど、決めるのは貴方よ?」
「分かった。考えてみる……」
 不意に涙が出て、コリンはそれを拭う。
「あんた、こんなこと言われたくらいで泣きなさんな。それじゃヴァイスさんリーダー以下よ?」
「ま、またそんな」
 ソルトが泣いたコリンを茶化す時も、ついでとばかりにシオネは茶化され、被害に遭ったシオネはまたかとばかりに意気消沈した。
「全く、大変なリーダーだな」
 暖かい気分を感じながらひとしきり笑って、コリンは改まって質問しようと息を整えた。

76:親切は娯楽? 


「なぁ、お前ら……聞きたい事があるんだが、良いか?」
「あら、何かしら?」
「構いませんよ」
 快い返事を受けて、コリンは深呼吸をする。
「このオースランド大陸では、親切って、娯楽の一種なのか?」
「は、はぁ……」
「え……」
 コリンの質問は、話の流れも何もかも無視した唐突なもの。唐突過ぎて、二人に答えようなどあるはずもない。
「質問が漠然としすぎたな……要はな、なんでお前らが俺に親切にするのか……俺には分からないんだ。だからな、ここじゃ……親切する事も娯楽の一種なのかなって」
 コリンは躊躇いがちに言葉を切る。
「え、えーと……難しい質問ですね、そうですね……えと、でもその……娯楽の一種なのだと思います」
「ああ、それは何故?」
 シオネの言葉にコリンは相槌を打ちながら突っ込んで質問を続ける。
「目の前にいる人が喜んでくれると、嬉しいじゃないですか。ただ、貧しい村に行くとその余裕もないので……目の前の人を押しのけてでも食料を手に入れようとするのが常ですが……要は、兼ね合いですよ。
 お腹が空いている時に食べるものは美味しく感じるように……疲れている時は一歩足を出すのもおっくうなように。恵まれている時は、親切に伴う苦痛が快感を凌駕するのですよ。だから、状況によっては娯楽として成立しうる……のだと思います。……いや、もちろん兼ね合いですよ兼ね合い?
 こういうと、言い方は悪いですけれど……世の中には助けたい人もいれば、助けたくない人もいますし……娯楽だと思って人助けをする以上、無理しようなんて気はないですけれどね。あんまり、使命感を持って善行をしようとすると……自分が可哀想な人になっちゃいますし。
 可哀想な人を人助けをする自分が可哀想な人じゃあ、本末転倒ですよね?」
「なるほど……」
「でも、最も理由らしい理由があるとすればですね……良い事って言うのは気持ち良いものなんです」
「と、言うと?」
「みんなで親切し合った方が、世界は上手く纏まりますし……みんなが平穏に生きる事が出来ます」
「なるほど……みんなが助け合えば、皆が平穏に暮らせる……」
「そうです。葦は、一本一本じゃ弱いですが、支え合い集まる事で強くなります……と、こういう教えはその……私達の教えなんかよりも、きっとこの界隈で信仰されているホウオウ信仰の信者さんに語ってもらった方がよっぽど上手く語ってくれると思うんですけれどね。
 私、恥ずかしながら守護神ラティアス、ラティオスを信仰しているものでして……」
「生憎、私達フレイムの中でホウオウを信仰しているのってソーダだけなのよね……だからごめんね」
 ソルトがウインクし、舌を出しつつそう笑った。

「ここの人たちはみんな親切な気がしたからどうなのかなって思っていたが……親切は娯楽……そういう事なのかな?」
 面白い仮説を聞かされ、更に自分でも考えてみようとコリンは首を傾げる。
「まぁ、支え合った方が結果的に得するっていうのは真理だと思うわ。葦は支え合う事で風に強くなる……でもね、もしその土地が酷く痩せているのならば、葦は互いを蹴飛ばしあってでも自分の栄養や日光を確保しなければならない。
 要はね。足りない時は盗み合って、強い物が生き残るのが真理。満ちている時は皆で分け合って、皆で生きるのが真理なの……だから、貴方の住んでいた土地はその栄養に乏しい土壌だったんじゃないのかしら? ……まぁ、分からないけれどね。ともかく、私達の言葉を聞いて参考にするのは良いけれど、全部鵜呑みにしちゃダメよ?」
「ああ、問題ない。きちんと自分でも考えるさ……」
 考えながら、コリンは溜め息をつく。
「でも……俺に、出来るのかな? 親切を娯楽にする事は」
「出来る出来る! ヴァイスさんだって私たちを助けてくれたじゃないの。貴方足は速いんだから、私たち放ってさっさと自分だけ逃げてしまえばよかったのに……そうしなかったってことは、貴方にとっても親切は娯楽。そういうことだと思うの……あのね、ヴァイス。
 私達はね……基本的にそう言う風に考えるように出来ていると思うの。貧しい時は奪い合いになるように出来ているけれど、貴方みたいに恵まれた才能や強さを持ち得ている人は、そうやって人助けも娯楽に出来るんだって。
 ヴァイスさん、貴方は変わり者だけれど私は好きよ。貴方は自分を変えようと……頑張っているって、そんな感じがするの。リーダーがリーダーたりえる理由も……そこだって言うのは前に言ったわよね? 今の自分に納得がいかないなら……妥協せずに良い方へと変化していってよね」
「……あぁ」
 この世界に来て、色んな人と話すうちにコリンの中にどうしようもない恥ずかしさが芽生えていた。未来世界での自分の行動があさましくて、さもしくて、醜く感じた。過去から続く今の自分を鑑みれば鑑みるほど恥ずかしさはこみ上げる。
 なんとかこの世界に適応したい。過去の世界の良さを存分に味わいたいと思ってした『親切は娯楽か否か?』と言う質問の後。コリンは予想外な事に、自分にも親切を娯楽に変える事はすでに出来ていると言われ、その一言で大きく元気づけられる。

 そうか、俺はこの過去の世界にいても恥ずかしくないように振る舞えるんだな……
「よし、それなら頑張ってみる。親切を娯楽に出来るように……さ」
 元気づけられたコリンが、自分の意思を確認するように頷いて微笑む。
「そうですか、頑張ってくださいね」
 まるで自分の事のように嬉しそうにシオネは笑い、コリンに頷いた。
「さて、無駄話をしていたら、そろそろ開幕みたいね」
 ソルトが祭壇の方を見ながら、長い話が終わった事に対する安堵の溜め息をつく。穏やかな気分で眺めた祭壇には、化粧を施したソーダが静かにたたずんでいた。

77:ホウオウ感謝祭 


追従して、コリンとシオネも化粧を施されたソーダを眺める。
 所々が薄紅色に染められた彼女の姿は、夕日に染められているような、淡い恋心に顔を赤らめているような。凛とした花のようなその姿は本当に美しい。そう言えば、未来世界ではああまで美しく着飾ろうとする者は皆無で、皆が皆不健康な見た目をしていたと、ふと思う。
 出会った当初は美しかったシデンも、今や見る影の無いおばさんになり果ててしまったが(その代わりセックスだけはどんどん上手くなっていった気がする)、この世界でなら彼女もきっと美しくなれたのではないか? 着飾り、風に揺れる一輪花となったソーダを見ていると、コリンの左腕はうずうずと絵を描きたい衝動にかられる。
 シデンの語る言葉から得た想像だけで絵を描く事の出来るコリンには、化粧し、着飾ったシデンの幻影が脳裏に浮かぶ――たったそれだけでコリンには絵を書くに事足りるのだ。
「あ、アレ町長よ」
 ソルトが指さす先は、二つの祭壇の間までゆったりとした歩調で歩くバクフーン。ソーダの祭壇から反対側、同時にたどり着けるよう五月蠅くない程度の打楽器の音が二人の歩調のペースを作る。やがて中心にたどり着いた二人、観衆の方を全体的に見渡し、そこでバクフーンの手が掲げられる。
「ホウオウのともし火の元に集いし我らが祭典、いざ始まらん」
 バクフーンの手が掲げられた瞬間から虫の声以外聞こえなくなったこの場所で。高らかなる開祭の宣言。
「全てを包み込み、焼き払い、そして生まれ変わらせる眩き炎。ホウオウの暖かき御心は神木の炎によって再現されよう。今ここに、子を為し燃え尽きた命が一つ。焼き払われ、その跡形が消滅しようとも悲しむには及ばない。
 例え死してもその命は永遠に、形を変えて巡り続けるのだ。汝ら、ホウオウの羽根よ、骨よ、爪よ、体の一部らよ。灰から立ち直る強き命となって、永久(とこしえ)にこの(うつつ)を照らせ!!」
 太くよく通る声でバクフーンは宣言する。その宣言に答えるソーダは、自分の顔や体に施された化粧や、薄布ごと炎の渦に巻き込んで神木を燃やす。本人自身はもらい火の特性のおかげで全く熱さを感じていないようだ。
 燃えた化粧は当然真っくろに染まる。煤けたいぶし銀の如きソーダの化粧は、また違った意味で美しい。白い毛に隠された白の化粧も黒く煤け、表に出た黒の模様は薄紅のときとはまるで別物となっている。
 眼もとから首、肩へと伸びた一本の曲線模様は、肩のあたりで渦巻きのようにうねる螺旋模様に変わる。その螺旋は中心付近で折り返し、二重螺旋を描いて尻尾の方へと流れてゆく。
 揺らめく炎によって出来た陽炎のおかげで、その螺旋模様を見ていると吸い込まれそうで、まるで異界への扉のように感じられる。傍らでは、町長だというバクフーンがいまだに開祭の言葉を吐き続けている。その言葉と、ソーダの美しさ。その二つに酔いしれるように、枯れた神木は火力を上げる。
 全身が炎に包まれても、もらい火の特性のおかげなのだろう、ソーダは涼しい顔どころか、むしろ恍惚とした表情をしながら炎に身を任せている。
 まるで、全身にマッサージを受けているかのようにうっとりとした表情、あまりに気持ちよさそうなので、なんだか炎の中に飛び込んでしまいたくなるような。
 光合成をしている時、自分もあんな表情なのかと思うと少しだけ恥ずかしかった。

「う~ん……やっぱり神木の炎は火力が違うわねー。ソーダも気持ちよさそう」
 ソルトの独り言を聞きながら、ふとコリンの中に一つのアイデアが浮かぶ。この探検隊ならば、もしかしたら火山のダンジョンの歯車も取ってこれるのではないかと。
 だが、そこまで考えてコリンは無理だと気が付いた。時の歯車を盗むなんて事を言って、協力してくれるこいつらではないだろう。きちんと事情を説明すればどうかとも考えたが、どこまで情報が出回っているかも不明だ。
 何せ、コリンがこれまで情報収集の傍ら聞いてきた時の歯車の情報は、時の歯車は外してはいけないという事ばかり。もちろん、その場所の時間が止まるという問題を考えれば、時の歯車を奪ってはいけない理由は全力で同意できる。
 しかし、時の歯車は『非常時には持ち出せるようにしておく理由』が全く語られておらず、何が何でも持ち出してはいけないのだという意識が強い。
 フレイムとコリンは会って数日だ。今の所、彼らはコリンの振る舞いが演技だと思ってはいないだろうし、嘘は幾つかついてこそいるが演技など一度もしていない。だが、時の歯車を盗むという事を言ってしまえば、これまでの振る舞いを信用させるための演技だとか、勘繰られる事もあるだろう。
 もちろん、演技だと思われる事自体コリンにはごめんこうむりたい。心情的な面だけであればともかく、それが今後の計画に支障が出るという事になれば、計画失敗も良い所だ。結局、一人でやるしかないのだ。フレイムに迷惑をかけないためにも、自分のためにも。

78:ホウオウの火浴びの舞い 


 考え事をしている間に開会宣言が終わり、それと時を同じくしてドラムの音色が鳴り響いた。せわしない動きでバックダンサーたちが入場すると、会場に鳴り響いているのはヒードランの祈りが込められたと言われる炎のドラム。
 その音色は炎タイプの心を熱く揺さぶると言われているが、なるほど隣に居るソルトの眼の色も、正面で舞い手を務めるソーダや町長の眼の色も、ついでにバックダンサーたちも眼が爛々と輝いて見える。
 町長とソルトは、ドラムの音色に合わせて向かい合い、天を仰いでドラムの音色の機が熟すのをひたすら待つ。

 しばらくそのままたたずんでいれば、炎タイプではないはずのコリンの心まで焦燥感を掻き立てるようなリズムが闘争心を掻き立てる勇猛なリズムにとって変わる。それまで向かい合って天を仰いで深呼吸していた町長とソーダが、爆ぜるようにバックステップで距離をとった。
 同時にバックダンサーたちの赤青緑の炎が、星をばら撒くように会場へちりばめられ、周囲を彩った。
 しかし、ホウオウ感謝祭の開幕を彩るソーダの舞いは、ダンスというものを初めて見たコリンには開いた口が塞がらないほど優雅に見えて、もう心は完全に別世界。彼には二人の舞い手、ソーダと町長であるバクフーンしか見えておらず、バックダンサーなんて二の次だ。
 ソーダは神木に灯された炎が踊るに合わせて自分も舞い、首を振るようにして鬣の炎を靡かせては、小刻みなステップで鬣、尻尾、四肢の全てで炎の帯を描く。大人であるギャロップと比べ、ポニータである彼女は小柄である分、身軽に跳ねまわることが出来る。前脚を軸に回転しながら跳び回る、足が痛みそうな無茶なステップを難なくこなすのは進化前の専売特許か。
 メラルバ絹で作られた、額から垂れ下がる薄布のヴェールはポニータの炎に炙られようと無論燃えることない。布は炎によって生み出された上昇気流に舞いあげられて、それは天へと昇った魂に戻ってくるよう合図する道標のよう。若い彼女が象徴する炎は再生の炎で、それゆえ穏やかな炎の揺らぎは、種子を芽吹かせ草を萌やす柔らかな陽光を思わせる。

 すぐそばで炎をばら撒くバクフーンの踊りも勝らずとも劣らないのものだ。火炎車の回転と火の粉を合わせ、空中に花を描くよう縦横無尽に飛び上がる老いた彼のダンスは死を象徴する破壊の炎。
 ソーダとバクフーンは入れ替わり立ち替わり立ち位置を変えることで、死と再生が混じり合う。ソーダのゆったりとしたダンスとバクフーンの激しいダンスは、合わさることで時間の流れが違う世界が同居しているかのようで、まさしくそれは輪廻転生の再生と死の象徴。
 バックダンサーたちの色とりどりの炎より、単純な橙色の炎が描く軌跡の方が鮮やかで、目が冴える。
 最後の締めに、バクフーンの火炎車をソーダの炎の渦が包み込んだ。二つの回転が合わさって、徐々に膨れ上がった炎の渦は、落した卵が割れるが如く拡散してかき消える。バックダンサーたちの炎は、間欠泉のように上へと打ち上げられ、それを最後にドラムの音色が止んだ。

「ふー……」
 特等席に座る観客の一人となっていたコリンは興奮のあまり息すら忘れていた。それが終わると、拍手と地団駄*1の余韻を味わいながら、歯車の取得方法の続きを考える。
 やはり、あれだけ炎を自在に扱えるのだ。仲間になってくれたらどれほど心強いものか。
「ヴァイスさん」
「ん?」
 物思いにふけっていると、不意にコリンはシオネに話しかけられる。
「開祭式は終わりましたよ。ボーっとしていないで煙を浴びてみたらどうですか?」
 見てみれば、ソーダは炎の中で静かにたたずんでいる。まるで水浴びをしているかのように澄ました表情を浮かべている事が、草タイプであるコリンには信じられない。
(俺には到底真似できないな……あの炎のダンジョンも、ソーダなら楽勝だろうに……もったいない)
 そんな事を想いながらコリンは溜め息をついた。
「ソーダさんは火守(ひも)りの役があるからすぐには抜けられませんが、私達はもう祭壇に上って良いみたいですよ。ヴァイスさん……ほら、登ってみましょう」
「あ、あぁ……」
 促されるがままにコリンは立ち上がり、煙を浴びに祭壇を登る。もうもうと煙が立ち昇る祭壇の真ん中は、所々に隙間があいていてまるで焼き網のようであり、上に立てば耐えがたいほどの熱を帯びた空気が立ちこめている。
 この上を渡るのかと尻ごみしていると、シオネはそっとオッカの実を渡してくれた。北国*2の高地で主に生産される、ここでは珍しい木の実。
 炎の弱点を緩和する事が出来るとされている代物だ。線の細い、マダツボミである彼はそれを食べないとやっていけないのだろう。オッカの実を食べ、シオネは守りの水と呼ばれる大きな水槽の中に飛び込んでから、祭壇の橋に挑みかかる。熱くて声も出ないのか、口と目をギュッと食い結んで祭壇の橋を渡る。祭壇の中心にある踊り場では本当に踊る必要があって、中心ではくるっと一回転しなければならない。
 恐らくは、前がまともに見えるかどうか怪しいくらいの薄目を開けていたのだろう。熱さで浮足立ちながらも、一回転して対岸の祭壇へと渡り、労い水と呼ばれる水槽に飛び込んだ。
「次、俺の番か……」
 オッカの実のおかげだろう、シオネは特に目立った火傷を負っている様子もなかった。前では二番手のソルトが涼しい顔で渡り終え、次はコリンの番と言う所になる。自分もここまで来たからにはやらなければいけないのだろうと思いながら、コリンは守りの水を浴びて祭壇を渡る。
 その時に感じられる熱気の酷い事。息を吸ったら肺が焼かれそうで、口を結んでいなければとても耐えられそうにない。目を開いていると一瞬で目が乾燥してしまいそうで、とてもじゃないが目を見開く事は不可能だ。
 それでもコリンは踊り場でなんとかくるりと一回転。時間にしても大したことのないその行為だけで、なんだかコリンは酷く疲れてしまう。
 対岸の祭壇にたどり着いて、労い水の水槽の中に飛び込めた時は、思わず膝をついてしまいそうな気分で溜め息をついた。しかし、ようやく呼吸が出来るようになって感じたのは、水に飛び込んでいないソルトにこびりついた煙の匂いが、思わず深呼吸をしたくなるほどに香ばしい事。
 燻製にするため、橋に大量につりさげられている肉の味が良くなるというのも納得できるような。
「どうです、いい匂いでしょう? 神木の煙は無病息災の祈りが込められたお香です……ホウオウは自身を信仰していない者にも祝福を分け与えると聞きますから……ヴァイスさん。どうか貴方の旅も無病息災であられるよう」
 微笑みながらソーダは言う。
「あぁ、お前らフレイムもな。ホウオウの祝福があられるよう」
 炎に弱い二人は、互いに笑顔を見せあってねぎらい合う。こうやって誰かと笑い合っているだけで、なんだかどんなに辛い旅でも続けられそうな気がした。

79;誰かのために絵を描こう 


「ところで……祭りのメインイベントは、これの他には?」
「そうですねぇ……あとはみんなで集まって躍るような事もしますが、踊りは苦手ですか?」
「あぁ……まぁな。得意ではないな」
「ソーダは、今日いっぱい火守りの仕事に付くわ。踊りだったらみんなが皆下手だから気にしないで一緒に踊ってみないかしら?」
 ソルトが鼻でコリンの肩を小突く。
「いや、俺は踊りは興味ないから……でな、俺はこの光景を絵に描いてみたいと思うんだ」
 コリンは少し照れながら提案する。
「本当ですか!?」
 案の定、シオネが喰いついてコリンは嬉しさで顔をほころばせながら頷いた。
「うん……ソーダを主役にね。描いてみたくなったんだ……この街の歴史をさ」
「いいじゃない、きっとソーダ喜ぶわよ」
「ですです!!」
 二人の後押しを背中に受けて、コリンは一ヶ月ちょっと前の自分を思い出す。
 あの時、見てもらえるはずのない絵を見てもらおうと、思わずシデンに話しかけた自分の姿。きっと滑稽だったことだろう。
「ありがとう。それじゃあ、描いてくる」
 爽やかな笑顔を浮かべて、コリンは手を振った。

 今、コリンは民家の屋根の上で絵を描いている。ここからでは、高い木々に阻まれ祭壇の近くで火守りをしているソーダの姿は見えないが、祭りの喧騒はやかましく姦しい。音と熱気でその雰囲気を感じながら、コリンは網膜に焼き付けたソーダの姿を瞼の裏に思い浮かべる。
 ぴょんぴょん跳ねまわりながら笑顔と炎を振りまいたソーダと、激しい炎で死の恐ろしさを体現した町長。二人をメインに描く以上はどうせ記憶を頼りに描くしかないのだから、それなら落ち着いて描ける場所を確保した方がいい。
 これを見せてあげたら、三人はどんな反応をするだろうか? シデンはなんというだろうか? それを想像するだけで、筆が進む。絵を書くことがこんなにも楽しい。磨き抜かれた黒曜石の瞳で笑顔を彩るソーダと、鋭い目に鋭い炎で破壊を司る町長と、それを引きたてるバックダンサー。死を象徴する登りの祭壇と再生を象徴する下り祭壇を背景に、舞い手の輝かしい一瞬を一心不乱に描きあげる。

「喜んでくれるかな……みんな」
 美しく描きあげた絵を片手に、コリンはすっかり日の暮れたシエルタウンを散策する。絵を描いているうちに、ソルトとシオネは特等席から去ってしまったらしく、仕方なくコリンは口笛を鳴らした。
ピィピピィ ピィピ ピィピィピピィピ ピィピピピ      ピィピィピピ ピィピィピィ ピピィ ピィ ピピピィピィ ピピピィピピィ ピピィピ ピィピピィピピィ ピピィピピィピ  ピピピィピピ ピピ ピィピィピィピィ ピィピピィピ ピピィ ピィピピピィ ピィピィピィピピィ ピピィピピ (わたしはヴァイス ふれいむのみなさん どこにいますか)
 吹きならした口笛の音は、覚えたての口笛言語。覚えてみたものは使ってみたくなるのが人の常というもので、コリンもそれは例外ではないらしい。殆どの者が口で話している中、口笛言語はよく目立った。二回吹いた所で応答があって『こっちだ』と口笛で呼ぶ音。
「もう口笛言語を覚えたんですか? 物覚えが良いですね……」
「いいわねー。私もそれくらい記憶力が良くなりたいわ」
 コリンが会いに行くと、甲虫の串焼き盛り合わせを片手に携えたシオネと、草の匂いを漂わせるソルトがコリンを出迎える。基本的に口笛言語はこの大陸で広く用いられている足型文字に対応しているので、基本さえ覚えれば難しくは無いのだが、それにしたってコリンは確かに記憶力が良いのかもしれない。
 褒められた事については、『あぁ』と曖昧に返事をしてコリンはまず要件を伝える。
「ソーダの絵、完成したぞ」
 得意げに笑って、コリンは言う。
「あ、本当ですか?」
「腋に抱えている物を見てくれ。これで完成していないって言えるかよ」
 そう言ってコリンは小脇に抱えた絵を差し出す。布に包まれたキャンバスをを受け取って、シオネはコリンを見上げた。
「これ、開けちゃっていいですか?」
「ソーダに――」
「ダメよぉ、リーダー!! ソーダに一番最初に見せてあげなきゃ……って、言おうとしたのよね、コリンさん?」
 コリンの言葉をさえぎってソルトがシオネを諌める。
「まぁな」
 と、コリンが苦笑して肯定した。
「さて……明日にはもう……ここを旅立とうって思っているんだが……夜は何かイベントはあるかな?」
「もう、大衆舞踊も終わってしまいましたからねー……朝日と同時にこの祭りの終了を告げられるまでは、この後も酒宴が行われて酒があるだけ無料で振る舞われますが……そういうのに興味は無いですか?」
「あるにはあるがな……俺は酒は苦手でね。うん、大人しく飯食うだけにしておく」
「そうですか。コリンさんもごゆっくり」
「あぁ、美味いもんたくさん食べてくるよ」
 と、言っても陽光が照りつける日中をずっと座って過ごしたコリンは、あまり腹が減っていない。なので、大好物の甘い菓子だけを買い食いした後は、神木の篝火の周りでいつまでも続くどんちゃん騒ぎを肴に、酒の匂いだけで少し酔っていた。

 ◇

「それじゃあ、行って来る」
 正午から翌日の夜明けまで火守りをやっていたソーダは就寝中、フレイムのメンバーは二人でコリンを見送る。
「まだゆっくりしていかないのですか?」
「祭りも終わったしな……いい街だけれど、ずっといると永住したくなる。俺は風に吹かれて旅をしたいんだ」
 まだ居て欲しいといった風にシオネは尋ねるが、コリンはコリンで一応ゆったりしすぎる時間は無い。
 行商のようにも見えないし、探検隊でもなければ用心棒でもなく、当ての無い旅をしているようなコリンが、どうしてこんなに時間を気にしているのか? それがシオネには興味深かったが、それを聞くのはなんだか憚られた。今までのコリンの言動は明らかに何かが変で、その何かは説明できないけれど違和感に満ちていた。
 きっとコリンには何か事情があるに違いない。だが、それを上手く聞く術が、シオネは思い浮かばなかった。
「そうですか……私達は、このお祭りが終わったらトレジャータウンへ行こうと思います。手繋ぎ祭りと言いましてね……かつて迷子と神隠しが異常なほどに多かったその街で、その怪奇現象で被害に遭った子供たちを忘れないための……大切な人を手放さないための大事なお祭りなんですよ。
「私達みたいに手を繋げないポケモンは肩を寄せ合って互いを離さないように気をつけるの。こーやってね」
 ソルトはコリンに肩を寄せて微笑んだ。
「恋人同士じゃあるまいし」
 まんざらでもないコリンだが、てれ臭いのでそそくさとその場から一歩動く。あら残念とばかりにソルトは舌を出して笑うのであった。

「ヴァイスさんには、大切な人とか居ないのですか?」
「大切な人……手繋ぎ祭りで、手を繋ぐ相手か……」
 自嘲気味にコリンは笑う。
「手を離してしまった俺に、そんな祭りに行く資格なんて無いじゃないか……」
 コリンは俯いてシデンの面影を思い浮かべる。
「す、すみません……嫌な事を思い出させてしまったようですね」
「仕方ないさ……お前らのせいじゃない……そうだな。大切な人が出来たなら、行ってみるのも悪くないかもな」
 コリンは儚げに笑った。シデンの事だから、何処かで強く生きている。全く根拠は無いのだが。そんな気がするから、その予感を信じてなんとなくコリンは口にする。
「そうですよ。代わりにはならないかもしれませんが……埋め合わせくらいにはなると思います。ですので、いつか手繋ぎ祭り……参加しましょうよ」
「手繋ぎ祭りは見ていて楽しいお祭りだし、絵にすると面白いと思うわ。ヴァイスも大切な人を見つけたら是非行きましょうね」
 コリンがポジティブな事を言えば、フレイムの二人はここぞとばかりにコリンを奮い立てる。
「分かった。そうするよ……」
 なんだか心が救われた気がして、コリンはシデンのことを思い浮かべながら力強くそれを口にした。そして、コリンはおもむろに掌と拳を合わせて気合いを入れる。
「そのためにも、俺は行動しなきゃならないからな。今は寝ているソーダにはよろしく言っといてくれ……お前らの事は大好きだとでもさ」
「……お元気で」
「元気でね」
 シオネとソルトが寂しそうに声を絞る。
「あぁ、またどこかで会おう」
 すまないと、言葉にこそしなかったが、その表情は口ほどに物を言って謝っている顔。そのコリンの表情を見て、言える事なんてただの一つだ。
「行ってらっしゃい!!」
 真っ先にソルトがそう言って、続いてシオネも同じ言葉を口にする。
「行って来る!!」
 コリンは最後にソーダに向けて口笛言語で言葉を伝える。短い音と、長い音を組み合わせて伝えられる、ピィピィと五月蠅い言語で呟いたのは――
『ありがとう』
 口笛でそれを伝えると、街の喧騒の中でもその音はよく聞こえたようだ。その口笛に応えるよう二人は、口笛で『こちらこそ』と返す。
 振り返らずに前へとひた進むコリンは自然と笑顔になった、
 そうして、コリンは振り返ることなく祭りでにぎわう街を歩きながら、サニーの日記の内容を想い起こす。近々行われるという手繋ぎ祭りでは、元は北の大陸で優秀な救助隊であった唐美月薫という名のオクタンと共に探検隊として弟子入りしたアグニをさんざん連れまわして疲れさせたと彼女の日記には書かれていた。
 シエルタウンの祭りとはずいぶん様子の違うトレジャータウンのお祭りに想いを馳せながら、コリンは下手な鼻歌を歌いながら街を出る。

 二つ目の歯車は、海峡横断ホエルオー便で南へ行き、暗夜の森を迂回し南のジャングルを抜けた所にある。コリンは大鍾乳洞を目指して進む最中、一度だけシエルタウンへ振り返る。
 大切なことを幾つも教えてくれたシエルタウンに、コリンは最大限のお礼を込めて頭を下げるのであった。

80:素数ゼミを見に行こう 


「ふむ……ここがサニーが呆然としたという素数ゼミの発生する街……」
 ドゥーンは、チャームズなる女性三人からなる探検隊が約一ヶ月後に探し当てるべき宝を、当時の記述を元に探索、難なく発見し、付近の住民に無料で提供して。次の目的地に向かう。
 この過去の世界の住人から尊敬され人望を得るためにも、ドゥーンは手柄と名声を求めなければならない。短期間でそれを行うためには、分かりやすい手柄を立てる必要がある。
 ただ、その『分かりやすい』というのは難しいもので、ただ宝を取得するだけでは、分かりやすくてもインパクトが少ない。インパクトがなければ、実力に見合った評価か、もしくはそれ以下の評価しか貰えないであろう。
 悩んだとき、インパクトを与えられる良い例として見つかったのが、ミステリージャングル出身のチャームズという女性探検隊であった。ホウオウ信仰における女性の社会進出の多さを幼いころ見聞きした彼女らは、故郷の街で気が合う仲間同士チームを作ったのが始まりだという。

 女性三人のチームでありながら、物音に敏感なミミロップのセセリ。周囲の感情を機微に感じ取るサーナイトのエヴァッカ。そして、自己を自然と一体化させることにより周囲の違和感を探るチャーレムのアキ。それぞれの優れた感覚器官と、女性とは思えないほど見事な戦闘能力で彼女らは次々とお宝を発見してはその手柄を世間に知らしめているのだ。
 しかし、そこまでならば彼女らもただの優秀な探検隊である。
 何よりも重要な彼女らのブランドの特徴は『女性三人組』というもの珍しいものだ。ドゥーンは残念ながら女性ではなくなった(ヽヽヽヽヽ)ためにそのブランドは使えないが、それ以上のブランドを彼は振りかざしている。
 そのブランドというのも『単独で全ての仕事をやってしまう』事。探検隊は『隊』という言葉通り、普通は単独で行うものではないため、ドゥーンのそのブランドの価値は絶大であった。彼が、部下を連れることもなく単独で探検を行っているのもそのためである。
 十三人からなる盗賊をたった一人で壊滅させた時には、気の早い吟遊詩人が彼のことを歌にするほどの称えぶり。そのほかの探検においても、チャームズや、その他マスターランクの称号を与えられた探検隊の手柄を、書物から得た事前情報で横取りする形で多くの成果を上げているがために、ドゥーンの偽名であるグレイル=ヨノワールの名声は今やうなぎのぼりであった。
 それでもまだまだ知らないものは多いが、吟遊詩人などに話しかければ 『噂のグレイルさんですか?』と尋ねられる程度には。

 今以上の人望を得るべく新たな遺跡へと向かうその途中、信じられない数の(セミ)が大発生する街があると聞いて、興味深々のドゥーンはサニーも観察したという素数ゼミの発生する地方へと訪れた。コリンも大概だが、ドゥーンもまた観光気分が抜けていない節がある。
 テッカニンにもよく似た蝉という名の虫。その中でもとりわけこの素数ゼミという種は、なんと十七年もの間地中で木の根から栄養を吸い続け、羽化の時を待つのだという。共通しているのは、別々の地方ごとに十七年に一度しか大発生せず、同じ蝉は違う地方で大発生するのだとか。
 その、地方というのが今ドゥーンが訪れたこの街であった。その大発生の風景と言えばそれはもう壮観であるという噂で、エリート探検家であるサニーの書いた著書にはこう書かれている。

『さて、セミというのは皆もよく知っている、あらゆるポケモンの中でも最速と誉れ高き不可視の動作を持つポケモン、テッカニンによく似た体の構造をしておりますわー!! テッカニンは腕が4本ですが、このセミという虫はその他の昆虫と同じく6本。どうしてポケモンと違いがあるのかちょっとばかし興味深い所ですわねー!!
 ―中略―
 さてさて、羽化のが始まりましたわー。地中から可愛らしい蝉の幼虫が……って、多すぎませんか? い、いや……少しなら可愛いのですが、この量は流石に……キモい!! キモすぎますわー!! わらわらわらわら……っ幼虫が、木登りをして次々と……ひえぇぇ!!
 何これ、キモいですわ!! 木に登らないと羽化出来ないらしく、それはもう必死に登って行く蝉の幼虫たち……下では登れなかったり落ちたりで、まさしく虫の息の幼虫達がピクピク……ぎゃぁぁぁ!! 私は、草タイプだけれど木じゃないですわー!! 足にまとわりつかれて物凄く気持ち悪いですわー!! 登らないで欲しいですわー、マジで!!
 しばらくは、木の凸凹や葉っぱの裏に掴まって顔をこすったりしながら、羽化のタイミングを待って、それ自体は愛らしいのですけれど、一歩下がるとウジャウジャウジャウジャ……あー、気持ち悪いですわ。背中が割れるのをずっと見守っているその間にも私に登ろうとするのはマジでなんとかして欲しいですわー。キャーッ!!
 ―中略―
 あぁ、そしてしばらく時間が立って、羽化した羽根が固まった蝉達ががまるでスピードスターのように飛び交って……
 とにかく、凄い光景ですわ!! 羽化する前からお祭り状態ですから今さらではありますが鳥たちは大喜び!! 今回ここに招待してくれたタベラレルのパクさんも、お供のサツキ君が『ひぇぇ……ぶるぶる』と怯えるのも構わずにバクバクバクバク!! 素晴らしい食いっぷりなんですが……なんというかこれは言っちゃっていいのでしょうかね? うるせぇ!! 蝉達は鳴いていないのに羽音だけで五月蠅いですわー!!』
 まだまだ続く実況文はカオスであった。彼女の著書の中でも異質である作品、『素数ゼミのキャー!!』の目玉となる項。このお話が本のタイトルを冠しているあたり、彼女にとって素数ゼミがどれだけ印象的だったかが伺えよう。
 解説やショートストーリーこそいつも通りの彼女であったが、日記を抜粋した記述の中でこうまで取り乱した彼女を見る事が出来るのは、彼女の十を超える探検記のうちでこれ一つのみ。

 何でも、サニーは羽化を見守った翌朝に食べた蝉料理が大層気にいったらしく、五月蠅い日中に耐えられるならば行ってみても損ではないとの記述を残していた。実際、素数ゼミの料理を極めんと、セミを凍らせ一年中蝉料理を提供しながら地方を転々とするモノ好きな探検家もいるらしい。
 旅の行きがけに寄った街だが、過去の世界の料理は軒並み美味しいので、ドゥーンはその味に期待を寄せながら羽化の瞬間を待ち望んだ。

81:タベラレルに食べられる? 


 そして、訪れた羽化当日の光景は、まさしく壮観であった。視界を埋め尽くさんばかりの素数ゼミ。木の表面のあちらこちらをセミが覆い、虫に耐性の無い者が見れば卒倒するような光景だ。体の周りを舞い、騒音をまき散らすその光景はうざったいことこの上ない。
 卵をうみつけられた木は所々がボロボロになるし、赤ん坊はあまりの光景に泣きわめいている。ここで役立つのは毒タイプの技を得意とするポケモン達であった。
 ご多分にもれず熱を加えることで変質する毒を捲き、周囲のセミ達を処理している者はその毒攻撃を得意とする者。
 それは、ブラッキーであった。体の中で常に新しい毒を作り出しているという彼らブラッキーという種族は、新たに現れたこのセミ達にも、毒が効かずに生き残ったセミに対しても、新しい毒で対抗できる。
 真っ赤な目をした黒衣の蝉は、地面に転がり死屍累々。そして、それを回収しているのが、この素数ゼミが現れる場所に毎年足を運んでいるというベロベルト。冷凍ビームで死骸を保存し、火炎放射で蝉を料理するという
 サニーの日記と冒険誌に記述されていたそのベロベルトは、巨大な籠を背負いながら、一つ一つ丁寧にその死骸を拾って行く。彼はただいまお取り込み中だ。料理を始めるのはかなり後になる事だろうとドゥーンはこの光景を見ただけでとりあえず満足して、街の他の場所を見回りに行く。

 すると、この盛大な羽化の宴に毎回来る物好きとして、サニーがもう一つ名前を列記していた人物を見つける。
「大量ですね」
 山ほど積み上げられた蝉のから揚げを前に、もう食えないとばかりにげっぷをしながら項垂れている燕尾色の鳥型ポケモン。オオスバメに対してドゥーンは話しかける。
「おおーう……ちょっと食い過ぎちまったなぁ。お前もどうだい? この虫は最高の味だぞ?」
 満腹のオオスバメは、少々間延びした口調でそう言った。地面には酒瓶が転がっており、朝から少し酔っている。漂う油の匂いは香ばしく、この料理を作るためにわざわざ新しい油を買ったのだろう。あの翼でカモネギのように物を握って調理したのだとすれば器用なものだ。
「しかし、好物のみずみずしい葉っぱを大量に買ってやったってのに、相棒が少々乗りが悪いんだよなぁ……」
「ふぇぇ……」
 と、指さされた相棒はケムッソ。
「失礼ながら……貴方達はもしや、探検隊チームのタベラレルでは?」
「おや、もしかしてお前、サニーさんの本を読んだとか? 俺、サニーに比べりゃまだそんなに有名じゃないもんなぁ」
 項垂れていた顔を上げて、オオスバメは反応する。
「えぇ、まぁ……確か名前は……パク=サンハ=オオスバメさん……」
「おうよ。こっちは相棒のサツキだ。あんた、見たところ物凄くいい体をしているようだけれど、探検隊でもやっているのか?」
「ええ、まぁ。新参ですがね……グレイル=ヨノワールと申します。よろしくお願いします」
 しかし、すでにそれなりの有名人になっている事を自覚して、偽名を名乗りながらドゥーンは笑う。
「そっかー。この街に来たってことは、蝉料理でも食べに来たか、それともサニーの奴が訪れた場所を聖地巡礼とかか? 結構、サニーの本に触発されて目的地を決めたっていう詩人や行商も多いんだよな」
 朗らかにパクは語るが、やっぱりサツキは浮かない顔。
「しかしなぁ、去年も蝉の大発生の起こる所に行ってみたはいい物の……なんだか去年もこんな感じでさぁ。俺だけ贅沢しても気分良くないから、こうやってみずみずしい葉っぱを大量に用意しているんだけれど……サツキの奴食欲が無くなるらしくって」
「ま、まぁ……この五月蠅さでは……食欲が無くなるのも……ねぇ」
 ドゥーンは苦笑する。虫ポケモンにとって、隣で虫を食べられるというのは気分の良い事ではないのだろう。すっかりおびえて縮こまった彼は、今にも泣きそうな表情をしている。少なくとも。うるささが原因で泣いているわけではないだろうという事はドゥーンにも分かりきっていることだが、敢えて彼は触れない事にした。

「ここ、というかこのセミの大発生には毎年居合わせているそうですが……」
「ああ、一年に一度のご褒美だ。マトマ収穫の季節になるとマトマを投げる祭りなんてのもあるらしいが……ここも十分祭りだな。もっと盛大に祝ってみたら街の雰囲気も良くなると思うんだけれどね。
 ところで、どうだい? こんなに山積みなんだから一匹や二匹食っても構わないんだぜ。油が悪くなっちまう前によ、お互い美味いうちに食おうぜ」
「いえ、私は……」
 ドゥーンは微笑んでそれを断ろうとするが、やめる。
「いえ、食べます。あの、蝉料理で有名なベロベルトのグレン……あの人が料理を作り始めるのは夜になりそうですから」
 よく考えれば、今言った通りのことだ。今は朝、夜になるころにはお腹もすいている。
「あぁ、なるほど。あいつの料理待ちか。確かにそりゃ、腹を減らしておくべきかもしれないな。だがまぁ、なんにせよ食っておけ。新鮮なのを食うのも悪くないだろ」
 ドゥーンが食べたがらない理由を納得したところで、パクはセミを差し出した。軽く揚げて塩を振ってあるそれを口に含むと、複雑な旨みの絡み合ったセミは、味は良いのだが殻がやけに口の中で突っかかる。よく咀嚼しないと口の中の粘膜を傷めてしまいそうなのだが、ドゥーンの場合は腹にある巨大な口から捕食するので、広い口内はあまり傷つかない。
「なるほど、美味しいですね。肉の味と香りが、海辺で食べた海老とどこか似ています。しかし、こちらの方が癖もなくあっさりとして食べやすいですね」
「だろ、美味いものさ……草しか食べない相棒には少々残念だがな」
「確かに美味いが、毎年こうやって来るには少々きついな……私は行きがけに寄ってみただけなのだが」
「まあ、普通はそうだろうな」
 そう言ってパクはクスクスと笑った。
「でもさぁ、グレイルさん。俺には他の楽しみはあるとはいえ、この素数ゼミの大発生ってな一年に一度のイベントなわけだ……自分へのご褒美って言うと、なんだかナルシストのようにも聞こえてしまうけれどさ。
 たった一年に一回なんだこそって感じかな。まぁ、一年が長いか短いかっていう議論にもなるし、そもそも蝉料理にかける情熱というか……こだわりがアンタとは違うと思うから。そのこだわりについて、語るのは日が暮れるちゃうから置いておくとして……こうやって一緒に食卓を囲む事で季節の訪れを感じたいわけよ、こいつと一緒に」
 言うなり、パクはその大きな翼でサツキを包み込んだ。
「は、はいぃぃ!! ありがとうございます」
 ビクンと体を震わせたサツキは震える声で礼を言う。なんだか妙な関係である。信頼し合っているのだかいないのだか。
「季節が廻る毎に、こいつと一緒にいたという実感が持てる。春、故郷の南に戻って木の芽や草花の芽吹きにはしゃぐこいつ。虫の季節の到来にはしゃぐ俺……紅葉の季節を満喫する俺達。そして、北に渡って悠々と過ごす俺達。
 年月をただ過ごすだけじゃ絆が増えるわけではないけれど……でも、こうやってイベントがあれば、そのたびに何かが起こる。絆を深めるためには変化がなきゃダメなんだ。非日常がね」
「ほう、しかしこんなイベントも毎年行っていたら変わり映えしないのでは?」
 興味深い話に、ドゥーンは首を傾げた。
「いやいや、素数ゼミは毎回大発生する場所も違うからな。そのたびに、変化があるから面白い……ほら、ホウオウ信仰ってのは主神こそホウオウだけれど、農耕神や豊穣神。安産の神や建築の神と、中々神の種類は多いだろう? いや、俺はラティアス・ラティオスを信仰する立場だから大きな声じゃ言えないんだけれどさぁ……」
 苦笑してパクは続ける。
「例えば、ここは主神ホウオウの他に、林業の神として岩の部分が大理石のように真っ白で、鋼部分が銀で出来ているボスゴドラを崇めているだろ? そんな風に、その土地ごとのお話を聞くだけでも……結構面白いんだ。だから、蝉料理はそのついでに食べているだけだぜ。
 なんて、それは建前で本当は本を書くのがついでなんだけれどな。サニー程じゃないが俺達も本を書いているからな……もっと売れたいもんさ」
「なるほど、貴方も作家なのですか……サニーさんが友達と紹介するわけですね」
 ドゥーンは微笑んで、カラリと揚げられた蝉をもう一匹口にする。

82:文化は無限 


「まあな、探検隊稼業ってのは苦行にしちゃいけない……って、サニーの座右の銘があるからな。俺等も見習って楽しんでいるわけよ」
 サニーが友達と紹介する探検隊、タベラレル。彼らの話を聞いているうちに、ドゥーンは興味がわく。過去の世界の者は、時間の止まった世界というものがあるとしたら、一体どのようなことを想像するのであろうと。
「そう言えば先程、季節の移り変わりを感じたいとおっしゃっておりましたが、貴方はもし季節といった概念などが無くなったらどう思います?」
 ドゥーンは少し突飛だがそんな質問をする。
「ん~……いきなり難しいことを言うじゃないか……」
「で、ですねぇ……」
 流石に唐突過ぎた質問にパクもサツキも考え込む。胃袋に余裕が出来たのか、パクが一匹蝉を食むと、息をついて喋り始める。
「季節とい言う概念がないと言えば、一生熱帯暮らしかぁ……それはそれで悪くないとは思うな。食料も豊富だろうし、生きて行くには不都合もなさそうだ……けれど、根なし草の俺達には、少しばかり辛い生活かもな……本を読んで満足できるならそれも良いかもしれないがな」
「なるほど」
 と、ドゥーンは相槌を打つ。
「退屈、というわけですね」
「それもあるが……俺はオオスバメ、渡り鳥だ。なぁ、サツキ……俺達が出会えたのは何があったおかげだ?」
「え、えっと……」
 今までずっと口を出せずにいた所に突然話しかけられ、全身をすくませてサツキは反応する。
「冬に……パクさんが南へ渡ってくれたおかげです……あ、失礼。私達北半球出身なもので、北半球の南って言うのは……その……」
「あ、いえ。分かりますよサツキさん。名前はどう聞いても北の大陸の名前ですので、暖かい熱帯で越冬していた時にサツキさんと出会ったわけですね」
 ドゥーンはその説明に時間を割かないように、理解したと意思表示。すると、今度はパクに変わってサツキが言葉を継いだ。
「変化があると、何か別な事をしなければいけません。別の方法、別の時間、別の食べ物、別の場所……そうやって、別の何かに挑戦すれば、今まで決して出会うことのなかった者と出会えるようになると思うんです……
 もしも世界中が熱帯になったら……そりゃ、嬉しい事もありますけれど、変化が……その……変化がないと成長もありません」
「変化、ですか……」
 ドゥーンは考える。変化がない未来世界では、確かに何か斬新なものが生まれるような話を聞いた事がなく、確かにそうだとドゥーンは頷いた。
 それにしても、我ながら無茶だと思っていた質問に二人は意外にもすらすらと答えた。その様子を見てドゥーンは更に興味がわいて、より意地悪な質問を投げかける。
「もし、季節がないどころか天候の変化や昼夜の変化が無くなったらどうなりますかね? 雨が降らないから水分不足で死ぬ……って言うようなぶち壊しな話はひとまず考えない事にして」
 冗談めかして。しかし、心の中では至極真面目にドゥーンは尋ねる。
「う~ん……変化がないと、現状維持で構わないんだ。現状維持で構わないから、成長する必要がない。子供だって子供のままでいいし、大人だってそう……それじゃ、今のような世界は有り得ないよな?  多分、生きている生物もきっと変わり映えしない物になる」
 最後にパクが言った言葉は事実で、ドゥーンはそれに酷く驚愕する。実際の所は、例えば蝉ならば、蝉は樹液を吸わないと生きてゆけずmテッカニンのようにダンジョンの木にありつく事が出来ないため絶滅した。という原因があり、季節や昼夜がない事とは関係がないのだが、しかし、多くの生物が星の停止に適応できず死んだのは事実である。パクの予言が当たっている事に興味を持ったドゥーンは、さらに深く彼に突っ込みを入れる。
「と、言いますと?」
「そうだな」
 ドゥーンが首を傾げると、パクは翼の先で素数ゼミを指さす。

「素数ゼミ……こいつは現れるのが十七年に一度だから十七年ゼミって呼ばれているんだ。こいつに関して研究している物好きがいるんだが、そいつに依れば……素数ゼミ見ってのは『十七年に一度しか現れないことで身を守っている』生き物なんだとさ。
 時代ってのは変化する……虫が世界を支配していた時代もあったのだろう。でも、鳥が現れた……いつしかポケモンが現れ、力を持たない動物は小動物を除いて絶滅した。
 その変化に適応した素数ゼミはね……餌を非常に少量ずつ食べて成長していくんだ。だから、成長に十七年かかるけれど地中に居る蝉を食う相手がいないから、それでも成長できる。それに、皆が皆、十七で羽化するなら……嫁を探すのにも効率がいいのだとか」
 そこまで語って、パクは溜め息をついて微笑む。
「詳しい事はよく覚えていないし、ただの受け売りけれどね」
「なるほど……」
 話の半分ほどしか理解できなかったが、ドゥーンはとりあえず頷いた。
「環境が変わったせいで、生き残るために戦略を練らなければ無くなった。けれど、永遠に環境が変わらない世界なら……数種類の種族が、暮らしてりゃ何の問題も無い。数種類の種が統一された感情で以ってその環境に適応出来ればいい。
 環境が変わらない……流行病もないし、飢饉も洪水も火山の噴火も隕石の衝突もないなら、それだけで世界から永遠に生物が消える事は無いんだ。そんな世界じゃ、平和でもつまらない。やっぱり、何かしら変化のある世界じゃないとやっていけないね」
 そこまで語ると、パクは付け加える。

「でも、な……この世の変革ってのは放っておけば非常に緩やかだ。だから、俺は……自分の作品を通じて変化を促したいなんて思っているんだよ。サニーのように売れる程いい作品はかけないけれど……世界には多種多様な環境、多種多様な考えがあって、多種多様な意見を持っている……そんな世界を子供たちに理解してほしいし、皆が理解してくれる方が俺は嬉しい。
 こいつと一緒に、そういう世界を作りたいんだ……俺らが書く本で出来る事なんて僅かだけれどね」
 パクの翼に包まれて、サツキは体を震わせ驚いたが、それよりも嬉しい事を言われたおかげか、彼は驚いた顔よりも嬉しそうな顔をしていた。
「探検隊のお仕事。僕も誇りを持っていますよ……パクさんと仕事が出来る事は、こういう人だから……とても嬉しいのです」
 虫を目の前で食べられる事と、仕事の腕は無関係とでも言いたいのか、サツキは力強く答えた。
「なるほど……貴方達は実に探検隊らしい志を持っているのですね」
 ドゥーンは微笑んで、今までの話を反芻する。変わり映えしない未来世界では、彼らの言う通り皆が皆同じような考えを持っていた。『仲間は使い捨てで、役に立たなければ切り捨てる』とか、『力の無い者は性奴隷として生きるべき』だとか。
 そんな、世界のあり方に誰も疑問を覚えない世界に(もちろん、意見が同じとかそういう事以前に、道徳観念が低すぎるという問題もあるが)ならないために、二人は本を書いているのだという。
 不覚にも、ドゥーンはなんてすばらしい二人なんだと感じてしまった。そんな事を思えば、未来世界を消滅させようとするコリンを肯定してしまうのと同義だというのに。星の調査団と同じ穴のむじなだと言うのに。
「ところで、グレイルさんはどのような仕事をしておられるのですか?」
 サツキに尋ねられて、ドゥーンは我に帰ると慌てて微笑み、答える。
「トレジャーハンターと……たまに、シードハンターなどをやっております。発掘した物を、人の目に触れさせるのが大好きでしてね」
 そこからまた話は発展していった。グレンの蝉料理屋が開店するまでの間、三人は探検談議に華を咲かせた。









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コメント 

お名前:
  • >2013-11-03 (日) 02:46:36
    大体はお察しの通りなのです。ダークライの件がなかったら、アグニを成長させるためにも消えたままにするのが神としての役割だったかと思います。
    シデンを復活させたのも、おそらくは苦渋の決断だったのでしょう。ソーダは……私ももうすこし救ってあげたい気持ちですw

    テオナナカトルは、その通りコリンたちの世界の未来ですね。すでにコリンたちの戦いは神話になっているようです
    ――リング 2013-11-22 (金) 00:37:02
  • ふむふむ、こうして読むともし原作のストーリーにダークライの話が無かったら、リングさんバージョンはシデンが復活しないまま終わってたのかなって思いますね。

    ソーダがちょっと可哀想でした。

    テオナナカトルって多分、コリンたちの世界の未来の話ですよね?
    ―― 2013-11-03 (日) 02:46:36
  • >狼さん
    どうも、お読みいただきありがとうございました。
    『共に歩む未来』のお話では、もう一つの結末というか、私としてはこちらのほうがよかったという結末を書いて見ました。
    ディアルガのセリフから察するに、本当の未来はシデンが生き返らない方であったという推測が自分の中でありましたので……。
    こんな長い話ですが、読んでいただきありがとうございました
    ――リング 2013-06-26 (水) 09:49:35
  • 時渡りの英雄読ませていただきました。私は探検隊(時)をプレイしたのでだいたいのことはわかるのですが時渡りの英雄ではゲームとは違ったおもしろさがありゲームではいまいちでていないところまで実際そんなストーリーがありそうな気がしたり(当たり前か)してとてもおもしろかったです。
    『ともに歩む未来』では[シデン]が蘇らないのかと思ったら[アグニ]の夢というおち、少しほっとしたり…。
    これからも頑張ってください。
    ―― ? 2013-06-17 (月) 21:31:32
  • 時渡りの英雄これから読んでいきたいと思っています。
    時渡りの英雄は10日ぐらいかかると思われます。
    読むのが楽しみです
    ―― ? 2013-05-25 (土) 02:02:01
  • >カナヘビさん

    呼び方については……お恥ずかしいところを。作者本人でさえ、もうごっちゃになってしまって、気付いておりませんでした。修正させていただきます。

    ストーリーは知っての通り、元になるものがあるので、それ以外の部分を評価していただけたことを嬉しく思います。ボリュームについては……多分、このwikiでも間違いなくトップなので、これが読めるなら他のお話も読めますねw 面白ければの話になってしまいますが。

    パラレルワールドとなっている未来世界の方は、構想はあるのですが……今立てをつけられない状況です。もしかしたら一生書かないかもしれないので、期待しないでいてください。

    2月からの連載は、すでに開始させてもらいました。どうか楽しんでいただけると幸いです
    ――リング 2013-02-01 (金) 21:54:15
  • 時渡りの英雄、読ませてもらいました。
    実を言うと、僕は探検隊をプレイしてません。なので、比較しての感想を書けないことをどうかご容赦ください。
    凄まじいまでの心理・風景・戦闘描写。張り巡らされた伏線。生き生きとしたキャラクター。何をとっても素晴らしいの一言につきます。読んでいると思わず溜め息がでたり、にやりと頬が緩んだり。ボリュームたっぷりでした。
    パラレルワールドを進んでいる未来世界も気になります。神話になってるってことは最低1000年は経ってると思われますが、シデンが投獄された後の未来世界のその先や、シデンが過去にいる際の神話体系が気になります。
    シデンと言えば。アグニが「ミツヤ→シデン」と呼び方を変える前も、極稀に「シデン」と呼んでいる部分がありました。特に193節と276節は、「シデン」と呼ぶと色々と疑問がでてきてしまう場面だったので、修正したほうがいいと思います。
    2月からの連載も頑張ってください。
    ――カナヘビ 2013-01-31 (木) 14:07:58
  • >ナナシさん
    最後まで校正にお付き合いいただき本当にありがとうございました。貴方のおかげでこの作品がよりよいものになれたことを誇らしく思います。

    さて、未来世界のエンディングは、これからの三人が具体的にどんな道を歩むのかを示そうと頑張った結果でした。このお話はテオナナカトルに続いているので、この三人のお話が今後オースランド神話として伝えられてゆくのですが……この神話が途絶えることなく、完全な形で続いたあたり、立派な国を築いたということは間違いないのかもしれません。
    その影に、きっとコリンは常に寄り添っていたことでしょう。二人が互いの幸せを願いつつも、自分が幸せになることを選んだ結果はきっと明るいはずです。

    そして、現世組は、まさかの夢オチですが……本当に夢オチだったのかどうかは、ディアルガの台詞を鑑みればおのずと分かると思います。ただし、空気が読めないことは反論が出来ませんがw
    リアラで締めるのは、実はリメイク前から同じ展開だったりします。主人公達が物語から離れ、これからは別の誰かに物語が移ってゆく。その『誰か』はリアラではありませんが、二人の暮らしにようやく平穏が戻ったことを理解できればと。

    物語完結まで付き合っていただき改めてありがとうございます。今連載中の作品も、楽しんでいただければと思います。それではまた、次の作品でお会いしましょう
    ――リング 2012-08-20 (月) 22:37:51
  • 411:グラシデアの高原 より
    「白峰の山並みを“超”えてみると」「貴方“たち”は付き合うと言ってくれたんですよ」「その言葉が偽りでないことを示す表情を見せて“見”せる」「私“たち”普通のポケモンの色恋沙汰には」「やはり神もまた私“たち”と同じ生物として」「状況はコリンの言った通りの“事”になる」

    412:感謝の気持ち より
    「そんな“事”考える余裕がなかっただけだ。俺だって、こういうことを考えたい」「愛するってのは具体的にどういう“事”なんだろうな?」「それも大事な“事”なんじゃないかって、今になって思ったんだ」「確証を得られないという“事”でコリンは曖昧にしか口にしない」

    413:未来に光あれ より
    「シャロット“はは”、ちらちらと横目で互いの体を見ていた」「伝説のポケモンとは滅多な“事”じゃ子を宿すことは出来ない」「誰かに自分の子を孕ませる“事”になるだろう。お前は、俺以外の誰かの子供を宿す“事”になるだろう」「お前の“事”は嫌いじゃないし。愛することも出来るだろうが」「こっちこそ、過去の“背化”の常識を持ち込んで済まないな」「コリンが謝るが、シャロットは何も言うこと“をでき”ず」「私“たち”いつまでも上手くやっていけるかしら?」「被写体になりたがるシャロットをコリンは拒む“事”をしなかった」「これではコリンだと“わ”からない」「自分“たち”が救い、そしてアグニが守ったその世界を」「あいつらがこの世界を救ってくれたという“事”はいつだって感じられる」「まだこの世界を立て直すために自分“たち”がやるべき“事”は果てしない」「二人は何となく空を見上げてやるべき“事”を探した」「消えるまでに三回願いを言う“事”が出来れば願いが“かな”うって」

    414“:”悲しみを乗り越えて より
    「アグニに泣き疲れたままの状況で考える“事”ではないのだが」「アッシ、あれだけじゃ何も“わ”からなくって」「だからアッシは、アグニの“事”、責める“事”なんて出来ないでゲス」「シデンの“事”を胸の内に留めたままでも幸福であれるように。アグニはそれを目指して、日々を精一杯に生きる“事”だろう」「アグニが聞く体“制”になったところで」「もしも願いが“かな”うならば、アグニ……」

    415:間に合わせでも より
    「コリンさんに、貴方の“事”を頼まれたんです」「なんなのかは“わ”かりませんでしたけれど、とりあえず、頼まれて……何をすればいいのかも“わ”かりませんでしたが」「私“たち”が一つのきっかけになればと思ったんです……」「こうやって普通に恋人みたいにしていることからも結構“わ”かるけれど」「君はコリン“を”抜けた穴を埋めようとしている」「何も考えずに楽しんでいられれば……幸せな“ふり”ぐらい出来ますし」「と言うのは“わ”かるんだけれどね。オイラも、こうしていると……幸せなのか、悲しいのか“わ”からなくなるよ」「コリンは君の“事”をいい女だって紹介していたし、君だってコリンにオイラの“事”を」「コリンさんも、貴方の“事”は非常に評価しておりましたし」「異性を捕まえてしまった自分“たち”の浅ましさ」「二人で道を“分”かれる時には互いに離れたくないと確かに感じていた」

    最終節:ともに歩む未来 より
    「卒業試験を突破したアグニ達は、初めて顔を合わせた者“たち”と」「シデンが最近見ている悪夢のような状況だったのかは“わ”からないけれど」「シデンはオイラとの再会を望んでいたという“事”は」「自分が悪いことしている“わけ”ではないと“わ”かっていてもソーダに対して申し訳ない」「ソーダが立ち直れたかどうかは“わ”からないが」「会話の内容までは“わ”からないものの」「に“、”しても私“たち”盗賊の被害が海にまで及ぶことがないから」「もうシデンさんの“事”は吹っ切れたのでしょうか?」」「シデンのお墓“まい”りは行く必要なくなっちゃったけれど」「コリンから預かった絵の“事”を思い出した」

    間違いなどがありました。こちらの間違いもあるかもしれませんが…

    未来世界に平穏が戻り、高原で三人が話しているシーンでは、とてもほのぼのした雰囲気で、本当に未来は平和になったのだと感じられました。すぐにドゥーンがログアウトし、二人きりの甘い感じな会話が始まりましたが。
    お互い話したくても話せなかった、内に秘めた想いを吐露し合い、コリンがシャロットを支えて行こうと言うのが伝わってきました。愛について語るシーンでは、叶わない感じがしつつも二人の考え方の違いが分かり、すれ違いそうでもそうならない、そんな感じがしました。
    最期のシーンでは、二人の未来世界に対する想いを願った、ふんわりとした輝かしい感じと、ドゥーンの悲哀を誘うシーンがまざったほのぼの(?)な感じとで幕を閉じ、これから未来世界は平和だろうなと思いました(笑)
    場面が移り変わり、以前の浜辺のシーンへ。その後、フレイムの仲間となり、ソーダとパートナーとなり、成績を上げ独立、やがて二人は交わり幸せな家庭を築き………と思いきやまさかの寝オチwww  まさかアグニの夢の内容だったとは騙されました。
    トキがKYだったのでソーダとは気まずい雰囲気なようですが、シデンとは概ね良い感じな様子。サイモンとリアラにシデンのことを言いに行き、暫く談話。最後はリアラの茶化しと共に、リアラとタバコで〆ると言う… こちらも驚きでした。
    しかし、この描写で新たな春と一緒に新たな物語が始まって行くのが感じられました。


    遅れること1か月以上…orz
    しかしながら、改めて完結お疲れ様でした!
    ――ナナシ ? 2012-08-17 (金) 22:21:33
  • >ナナシさん
    こんばんは、いつもいつもありがとうございます。
    元女性というネタは……まぁ、エンディング後のとあるイベントがらみの事ですw

    さて、ラスボスを強くしたいと思い、シャロットが本気で殺しにかかったりしたときもありましたが、セレビィゴーレムの無い状態で戦いを挑むということは思えばあまりに無謀でしたね。
    そのため、攻略法もたった一つとなってしまい、最後の最後では捨て身の技でコリンをサポートするなど、これしかないと言える状況でした。無茶しすぎですね。
    最後の最後では、皆自分を偽ることよりもみんな素直になれたようです。最後にいいところを持っていくトキ様は……仕様でした。
    楽しんでいただけたようで何よりです。これからもよろしくお願いします。
    ――リング 2012-07-11 (水) 22:12:17
  • 403:幸福を より
    「生焼けの肉をかじりながら、コリン<は>逸る思いを口にする」「なんだ、そんな“事”。“始”めから平等などありはしない」「季節が流れると言えば、私“たち”には魅力的なことだが」「私“たち”が、こんなにも渇望する時の流れを」「そんな風に思う“もの”がいるのだと言う事実を」「私“たち”と、そういった立場にいる者」「私“たち”は平等を求めるんじゃない。私“たち”は幸福を求めるべきなのだ」「まぁ、愚痴を言いたい気持ちになるのも“わ”かる」

    404:頂上へ より
    「そもそも、俺“たち”と言う存在そのものが消えてしまえば」「もし、その時私“たち”という存在が互いに認識“でき”たらですね」「こうやって話すのももうどれだけ“でき”るのかは分からないのだからな」「“わ”かっています。植物が生えないここでは」「有益なこと“をを”考えるでもなく、過去の世界の“事”をぼんやり想い続け、そんな“事”で時間を潰していると」

    405:決戦 より
    「こんな“い”い景色だなんて、良い死に場所じゃない」「ああ、未来のためにな。俺“たち”の戦いも……これが最後だな」「短時間で“ジュプトル”の二本指が悴かじかみ」

    406:滅びの歌 より
    『どうあっても一人で注意をひかなきゃいけないの“「”」』「あの攻撃を、耳をふさいだまま“交”わせるというのか?」「滅びの歌に耐性が“でき”る……それを利用すれば」「“わ”かった、お前の知識に賭けるぞ」

    407:カウントダウン より
    「サポートが期待“でき”ず、コリンは伏せたついでに素早く雪をかぶって隠れたせいで、こちらにも助けは期待“でき”ない」「威力の低下を無かったことにするトキには関係のない“事”らしい」「私“たち”やトキの頭の上」「“わ”かっている。カウントダウンが始まったんだな」「“わ”かってる!!」

    408:命の限り より
    「でまだ立ち上がることすら“でき”ない状態のトキに一撃、ニ撃」「それに気“づ”くか気付かないかのタイミングでコリンは」「コリンを攻撃するべく足を上げたところで“脚”をもつれさせて転んでしまう」「気が“つ”けばこの戦いは、明確な線引きもないままに静かに終わっていた」「自分の体に何が起こっているのかすら“わ”からなくなる中」

    409:傍に より
    「普段ならば何か思う“事”はいくらでもあったのだろう」「取るに足らないような無視“でき”る現象のようにしか映ってはくれない」「どうせすぐ死ぬのだと“わ”かっていても、コリンは二人が生きていたのが“わ”かって目が潤む」「最後の最後で、迷わず、まっすぐに“行”きぬくことが“でき”た」「それが“でき”たのもコリン……お前のおかげだ」「“わ”かっていたことだと言うのもあるかもしれないが」「そうね。地面も燃えてるわ……まるで私“たち”みたい」「コリンが態勢を変える。どうあれ、自分の体も長くないことは“わ”かった」「シャロットが失禁しているのだという“事”が嫌でも“わ”かった」「お前の“事”は余り構ってもやれなかったし、絵を描いてもやれなかった」

    410:奇跡ではない より
    「“わ”からなくったって構わないよ、生きているから生きているの」「今度は仲間“たち”が確かに存在する“事”も確認する」「なんとなく、厳かになる理由も“わ”かる気がする」「再び新たな歴史を歩み始めるには、苦労も多い“事”だろう」「強引に感じさせられている景色は目を逸らす“事”も目を瞑る“事”が出来ない」「便利なので気にしない“事に”する」「お前“たち”にも……また、過去の世界で星の停止を食い止めたお前“たち”の仲間にもな」「もっとも喜びを分かち合いたい者“たち”の名前も顔も」「その腕を拒絶されない“事”を、心の片隅で嬉しく思う」「コリンはシャロットの“事”なんてどうでもよくて」「住人の“事”で頭がいっぱいなだけである“。。”」「もし俺“たち”に礼をするつもりがあるのならば」「極夜の“彼は誰は”すでに黄昏へと移り変わり始めている」

    間違いと、変換忘れだと思われます。

    時の回廊へ向かう一行での転生の話は、ドゥーンの物は悲しいと思いながらもまた現実であるのがグッと来ました。ついでにドゥーンが元女性であったことも… 以前何か言ってましたねそういうこと。
    トキが回廊へと攻撃している所へ奇襲して始めは掴んだものの、時の回帰による再生はやっかい極まりないですね。攻撃し続けても立ち上がり反撃して来、その手も緩むことはないわけで。三人の焦燥感が伝わってきました。
    滅びの歌での攻略も本当にギリギリで、三人が助け合ったからこそ掴めた勝利だったと思いました。ドゥーンもシャロットも無茶しやがって…(
    戦いの後に訪れる消滅の時。ドゥーンのセリフに本当に感動しました; ホント良い人でした…。根っこは変えられないね
    コリンとシャロットの会話も実に感動で、特にシャロットが朝日が昇るのを見れたのが来ましたね…… 最後の最後に世界の素晴らしさを知ることが出来て良かった…そう思いました。
    安らかに眠れ…って本当に思って、三人はこの世界に再び復活することが出来、過去世界の皆に自分たちのことを伝えるシーンはこれまた感動です。原作のこのあたりは目からハイドロポンプ出せそうですね。トキさん良いとこ持っていきおったよまたしても…

    いよいよ終盤で、新しい方にもそのうち伸ばすと思います。それから、三人が消えてしまうシーンでは最後よりも最期の方が良い気もしないでもないのですがどうでしょう?
    ――ナナシ ? 2012-07-10 (火) 15:53:48
  • >ナナシさん
    こんばんは、誤字報告ありがとうございました。398節のアレはただの表現です、はい。

    ドゥーンもついにデレました。色々と思うところはあるのでしょうが、迷った末に答えを出すことが出来ました。その後は互いに照れ隠しで演技がかったセリフの応酬ですが、二人もいろいろ恥ずかしいので勘弁してあげてください。強がりなんです。
    その強がりも、本音で語れるコリンと二人きりだとそれほどないのですがね。

    お察しの通り、7月から小説の更新も再開です。頑張ります!
    グサッ>(推敲も)
    ――リング 2012-07-02 (月) 20:31:48

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*1 四足のポケモンが行う拍手に変わる行為。会場の盛り上がりとポケモンの種類によっては床を簡単に破壊されてしまう
*2 南半球のお話なので、北国は赤道近くの熱帯を差す

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Last-modified: 2011-07-07 (木) 00:00:00
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