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時渡りの英雄第6話:一つ目の歯車、コリンの旅路・前編

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時渡りの英雄
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61:一つ目の歯車 



 本能的な欲求という物は様々ある。ポケモンの種によっても、それは色々と違うものだ。
 サライの欲求は、食べる事であった。美味しいものを、たくさん食べたい。だから、金を得て、その金で豪遊する。
 また豪遊できるような場所で見られる夢は、悪夢も多いが良い夢も多い。それを食べるのも、スリープである彼には乙なものであった。
 同じく、シャロットも本能的な欲求に支配されつつある。彼女の欲求は恐怖からの逃避であった。
 同じく、トキ=ディアルガも本能的な欲求に支配されていた。彼の欲求は、歴史を守る事であった。

十一月一日

 寒流に乗って、金で雇った水タイプの船頭にロープを引かせながら粗末なイカダを進ませ、巨大な海岸砂漠を迂回し、香辛料の交易路を抜けて山越えルートからキザキの森へ。
 ここ、キザキの森はコリンが最初にたどりついたトロの森とは比べ物にならないほどに手強い敵が立ちはだかっている。だが、火山帯のダンジョンほどではない。
 時には立ち向かい、時にはそれを無視しながら奥へ奥へと突き進む。そうして、夜分に奥地へたどり着いた時、辺りには大雨が降っていた。
 一ヶ月近い道のりの末にたどり着いたキザキの森では、トロの森でそうしたとき以上に心臓を高鳴らせている。
 しかし、その心臓の高鳴りは、とてもじゃないがトロの森でそうしたように心地よいものではない。その高鳴りを無理やり押さえ込むようにして、時の歯車に触れる。手が震えるのは、恐らく寒さのためだけでは無い。
 エリック曰く、時の歯車を抜き取れば、最も時が不安定な(そのため歯車で安定させている)これらの地域の時が止まり、周囲は未来世界と同じような状態になるという。

 まるで、自身が招かれざる客とでも言いたげなその雨に体温を奪われて、コリンは大いに身震いする。
 未来世界を旅立つ前は、時の歯車を奪うことなど大したことがないと思っていた。だが、過去に来てから色々な物を見聞きした。美しい朝日や夕焼け、星空。穏やかだったり荒々しかったり、日々顔を変える海。そして、今も振っている雨に動く雲。砂埃が舞う光景に、青々とした木々や草花。見下ろす雲海、立ち込める濃霧、そして道行く人々。
 美味しいも色々と食べて来た。甘酸っぱい果実と塩を贅沢に盛った白身魚の刺身に塩コンブを添えた料理。
 巨大な赤身魚に粒の大きい粗塩と挽きたての胡椒を贅沢にかけた魚肉ステーキ。腐った木の中に巣食う真っ白な幼虫も、舌を伸ばして食べるとクリームのまったりとした味と香りが口いっぱいに広がり、それだけで涙が出るほど美味しかった。
 それらを一つ一つ思い出しながらコリンはダンジョンを突き進む。時が止まってしまうことが、どれほど恐ろしいことかをコリンは理解し始めたせいで、足取りが泥を吸ったように思い。
 この世界に訪れた最初こそ、やけくそで『未来世界なんて消え去ってしまえばいい』と思っていたコリンだが、今は時間を止めてしまう事が何よりも恐ろしい。
「だからこそ……止めなきゃならないんだ。星の停止を……」
 コリンは歯を食いしばって、一時的な時間の停止くらい甘んじて受け入れてもらわねばならないと思いなおす。この光ある世界を、あんな暗黒の未来世界になど、絶対にしてはならないのだ。

「ついに見つけたぞ……」
 目的の物を見て、コリンは息を飲んだ。
「初めて見たが……これが……過去の世界の時の歯車なのか。未来の物とは段違いに輝いていて……美しいな」
 それは、奪ってしまう事が恐ろしくなるほどの美しい輝きで、誰にも渡してはいけないものだと直感するほどだ。そしてその『誰にも』は、無論自分も含まれている。
「ここに住む者にはすまないが……これも、明るい未来のため――と。それにあんな世界は必要ない……そうだよな」
 だから、その大事な大事な――かけがえのない時の歯車を取ってしまう罪悪感から、誰にでもなく言い訳しようとして、コリンはその先が出なかった。
 それでも、何度も……自問自答をしてきたことじゃないか――考えて、コリンは無性に耳も目も塞ぎたくなった。

「まずは……一つ目」
 目の前で起きる出来事から眼を背けるなど、そんなことは自分の罪から逃避しているだけだ――と、深呼吸で全ての雑念を振り払うようにして歯車を握る手に力を込め、一思いに引き抜いた。ゴッと、岩を引きずるような鈍い音とともに歯車は抜け、それをはめ込んでいた祭壇が輝きを失う。
 数歩下がって、目に焼き付けるほどその様子を見送っていたコリンは、祭壇の周りの地面の色が灰色を呈している事に気がついた。そして、雨粒は空中で滴ることをやめ、地面を跳ねる音が急に遠くなっていく。
「これが……時間を失う現象……くっ、ここにいたら巻き込まれるか……」
 それが徐々に広がる事に恐怖を感じ鼓動を高鳴らせながら、コリンは巻き込まれないように逃げる。しかし、その足はただ逃げるだけにはあまりにも十分すぎるほどの速足。
 スタミナを無視したその走りは、どちらかと言うと"周囲が時間を失って行く現象"よりも罪悪感から逃げているように見えた。
 コリンは心の内で『すまない』と、いつまでも繰り返しながら走り続け、ダンジョンを脱出した。その頃には、降りしきる雨も激しいにわか雨だったために、降るだけ降ってすでに止んでいた。
 ダンジョンから脱出したコリンは、一仕事終えたのだから休もうと、安全な場所を見つけて無理やり目を瞑ってみたが、寒さではない原因による震えが止まらずに、目がさえて眠れなかった。
 その日、恐ろしい罪悪感にさいなまれたコリンは一晩中眠れずに夜を明かした。疲れが取れずに朝を迎えた彼だが、憔悴しながらもその足を止めることなく歩き続ける。後手に回れば、それだけ失敗する可能性が増えるから……と、動きが鈍る体に鞭を打つしか、彼には出来ない。

62:客人になってみて 


 大陸縦断山脈の山越えルートの帰り路にて、コリンは宿をとる。宿といっても、帰りはなるべく人のいない場所を選んだコリンの旅路は交易路を外れており、農夫の部屋を間借りする形でコリンは屋根のある場所で腰を落ち着ける。
 一宿一飯の条件としては、なにか外の食事を食べたいとのことで、コリンは消毒用に持っている強い果実酒を譲る事となった。
 ともかく、その日は暖かい食事と寝床にありつける事となってコリンは久々に過去の世界らしい暖かい食事が出来ると小躍りしていたものだ。
 しかし、どんな食事が出てくるのかとわくわくしてみれば、過去の世界の中では今までで一番粗末なものだった。堅い山菜をくたくたになるまで煮詰めた物に、随分ぼそぼそとした味の粉を使って作られた麺のスープは塩なんて入っていない、非常に素っ気ない味。串焼きにされた虫が唯一塩分を感じられる食事であった。
 未来世界では、ある意味じゃ全く貧富の差はなかったが、なるほど過去の世界の貧富の差というのはこういう事かと分からせてくれる、非常によい例だ。
「こう言っては何ですが……粗末な食事なんですね、ここは」
 文句を言うわけではないが、貧相な食事を見てコリンは正直な感想を口にする。
「あー、仕方ねえよ。この村はみんなそんなもんさ」
 メガニウムの男性は自嘲気味にそう言って笑う。
「ここの水は、急流で澄んでいる。すぐに飲めて、洗い物が簡単だってのはいいことだがなぁ……農作物を育てるなら、やっぱり濁った水の方がいいものさ」
「ま、こんなに貧しい村だから子供も出稼ぎとかに出ちゃってねぇ。去年は特に不作だったから、冬を越すために息子だけじゃなく娘まで出て行っちまったんだよ」
 所々鱗の禿げたオノノクスの女性はそう言ってため息をついた。
「冬を越すためってことは、そろそろ帰ってきてもおかしくない時期……を、過ぎておりますよね?」
 不思議になってコリンは尋ねる。
「まぁな。でも、子供ってのは気まぐれなもんさ。最悪のケースもあるだろうし、もしかしたらあっちで卵でも作って困っているのかもしれないし……帰れない、のっぴきならぬ事情があるってこともあるもんさ。何があったとしても、帰ってくれば親として歓迎してやるってのになぁ」
「うんうん。あいつら、小さい頃からやんちゃというか、親の言う事は聞かない奴らだったからなぁ……」
 昔の事を思い出しながら、二人はしみじみと語る。どうやら、この両親は子供がとても大切らしい。
 未来世界では幼いころは大事にされるが、一人で狩りをする時期になったらもう無関係というのが大体の関係のはずなのだが。コリンとシデンのような関係は、非常に稀なものである。
 一体、この世界はいつまで親子の絆なんてモノがあるのだろうか、コリンは疑問に思った。
「あんたは、私達の子供と大体おんなじくらいかねぇ。ウチの子達は、酒に強いんだけれど……あんたはどうなんだい?」
「俺は……いや、生憎酒を飲んだ事が無い」
 今まで、消毒と言えば火で傷口を熱する事であった未来世界では、生命体以外の活動が軒並み止まっている。生命体が長いこと触れていることで、ようやく木の葉も水も時間を取り戻すのだが……それでは果実や穀物も育たないので酒を作ることも難しく、過去の世界では酒で消毒なんてモノが出来ると聞いた時はもし深い傷を負った時には役立つとしか思わなかった。
 不思議のダンジョンのように、『生きた土地』であれば酒も発酵させることくらい出来ようが、生憎そのためには酒の詰まった樽を背負ってダンジョンを旅する羽目になる。やっぱり酒なんて作れるものではない。
 シデンの話では、酒を飲むと気持ちがよくなるというが、酒よりもお手軽に楽しめる木の葉を炙るタイプの麻薬の方が流行っていた未来世界では、麻薬の事を楽しい気分になれる薬と説明されたものだ。
 しかしながら、麻薬の副作用で幻覚を見たり情緒不安定になっている物を何度も見たおかげで、酒に対して恐怖感を抱いていたのもある。
 それだけでなく、何とも言えない酒の匂いは少々飲むのに勇気が居るので、コリンはこの世界に来て一ヶ月以上経った今でも飲酒に対してしり込みをしていた。

 なんて……上記のような込み入った事情はもちろん告げられないが、酒を飲んだ事が無いという事を伝えると、夫婦は奇異な物でも見るようにコリンを見る。
「へぇ、じゃあなんでこんな酒なんて持ち歩いているんだい」
 メガニウムが素っ頓狂な顔で尋ねる。
「消毒の……ために……」
「あらあら、こんな村に住んでいる私達が言うのもなんだけれど、ちょっとは贅沢しなきゃだめよ……よっぽど節制して生きて来たのねぇ」
 なんて言われて、コリンは自分が変人である事を改めて自覚する。シデンが先にお手本とばかりに飲んでくれたなら、きっと恐れをなすこと無く飲めたのだろうが、一人で飲めとなるとどこか不安な気分だった。
「まぁ、いいや。ちょうど子供が居なくって寂しかったところだからな……今日は俺の息子になって気分で一緒に飲もうや」
 首筋から伸ばした蔓で器用に酒を注いで、カップに入れた酒をコリンに渡す。どうにも好きになれないアルコールの香りがツン、とコリンの鼻に届き、コリンの鼻にむずむずと違和感が走る。
「じゃ、みんなで一斉に飲みましょう」
「我らの客人にカンパーイ」
 そう言って、夫婦はカップを軽くぶつけて音を鳴らしあう。コリンは戸惑いながら真似をして、一気に飲み干す二人の真似をして始めて酒を口にした。やっぱり、喉を通る際に体中に感じる匂いや喉ごしといったものは酷いものだ。それもコリンの予想を大きく越えていて、食道が焼けつくような感覚、鼻も酷く痛む。
 そうしてしかめっ面をするものだから、主人にもその妻にも笑われてしまった。

 結局、その後も色々話したのだが、途中から酒の影響かコリンの記憶はかなり怪しくなってしまった。コリンは自分の事をあまり話せず、またそんなコリンの事情をなんとなく察してくれたのか、夫婦は自分の家族の事をやたら多く話してくれた事だけは、なんとか印象に残っていた。
 そうして、目が覚めた時には毛布にくるまれていて、頭痛の伴う嫌な朝である。それでも、湯気の立つ朝の食事をきちんと出してくれた心遣いに、コリンは暖かい気分にならずにはいられなかった。
 酒の強さを侮っていたコリンは、まさか酒というモノがああまで強い力を持つものだとはつゆとも知らず、コミュニティの仲間でも何でもない者の前で無防備に眠ってしまっていたことになる。
 なのに、縄で縛られることもなければ身ぐるみを剥がれているわけでもない。これは一体どういう事か? 答えは一応知っている。エリックが語ってくれた、『過去の美しい世界では助け合いの精神というモノがある』のだという話はこういう事なのだろう。

 『仲間が死んだら困るから助ける』のであれば、コミュニティでも助けあいはあった。とは言え、身ぐるみをすべて剥ぐことのできるチャンスという状況で生かされるなんて、考えもしなかった。コリンの持ちものには、金貨や宝石など非常に価値の高い物が満載されている。匂いを嗅いでみたが、バッグにはオノノクスの匂いもメガニウムの匂いも付いていない。荷物には一切手をつけておらず、中を調べもせず奪いもせずこの夫婦はそれをさも当たり前のように。
 なんだ、貧しい村だとか言いながら、とても豊かじゃないかとコリンは思う。豊かなら、奪い合いは起こらないと……シデンが言っていた意味を言葉で無く実感で理解して、コリンはここがいい世界なのだと感じるのだ。
 貧しいと自称する場所でさえこうなのだから、過去の世界はことごとく魅力的であった。

63:百年単位のジェネレーションギャップ 


「それでは、行ってきます。一晩世話して下さりありがとうございました」
「おうよ。シエルタウンに行くんだろ? 途中にあるルメアタウンに出稼ぎに行ったはずだから、もし娘がいたらもう村は大丈夫だって一声掛けてくれよな!!」
「分かった、ハノさんもキノさんもお元気で」
 力強く微笑んで、コリンは二人に手を振り別れる。キザキの森の時間を止めてしまった嫌悪感にはまだ苛まれていたものの、これから先、様々な困難があってもこういった人たちとの出会いがあれば乗り越えられる気がした。
 振り向くことなく恥り出したコリンは、爽やかな気分でシエルタウンへの旅路を急いだ。


 一個目の歯車を手に入れるために大陸縦断山脈を越えてきたコリンは、再びシエルタウンまで向かう。その道中、出稼ぎに出ていたルメアタウンという村で、さびれた村で出会った夫婦から言伝を頼まれたベイリーフを探してみるのだが、案外見つからないものである。
 クレア――と名乗っているはずのシデンを探すための情報収集も兼ねているというか、むしろベイリーフの方はついでではあったが、ようやく以って情報を得られたのは、期待していたクレアではなく案の定ベイリーフのミオ。
 クレアの情報はなかなか見つからなかった。
「はぁ……両親たちが?」
「もう村の食料は十分育ち始めたから、帰ってこいとのお達しだよ。街の居心地が気に入ったのだとしても、ご両親……心配しているから帰ってやりなよ」
 コリンは力なく笑って、ミオに諭す。
「はいな、かしこまりました。いやぁ、もうちょっと待った方がいいと思っていたんだけれどね、でも……もうそんなに食料の方に余裕が出来ているんですか?」
「ああ、少なくとも、俺みたいな客人に食事を出す事が出来るくらいにはな。で、一宿一飯の恩に……持って来たお酒を渡して来たんだけれど、ついでに言伝も頼まれちゃったわけ」
 そう言ってコリンは肩をすくめて苦笑して見せる。
「そうなんですか……それは迷惑をかけました」
「いいのいいの。代わりに俺は一晩ほどお世話になったわけだし、差し引きすれば気にすることじゃないから……ところで、出稼ぎに行って来たそうだけれど、どんな職業してたんだ?」
「えーと……それは……その、働き口も無いので体を売ってました」
 恥ずかしそうに眼を逸らしながら。過去の世界の住人の価値観で考えればある程度は当然の反応でミオは告げる。
「あぁ、なるほど。木の実とかもらってセックスするってわけな……俺も買っていいか?」
  そう言えば未来世界でもしばらくしていなかったし、こちらの世界に来てからも御無沙汰だったな……などと思いながら、コリンがにこやかに頼む。
「え、」
 ミオの反応を見て、しまったとコリンは口を噤む。しかし、そのしまったという感情も『木の実とかもらって』ではなく『お金とかもらって』と言うべきだったなぁ――なんて、的外れな勘違いである。確かに、貨幣経済の発達しているかこの世界ではお金をもらう方が普通だが、そんな事よりもそのデリカシーの無さがミオには鼻についている。
「え、あ……まぁ。少し親へのお土産が心もとないと思ってましたので、いい……ですよ」
 そんなコリンの非常識なデリカシーに戸惑いながらも、たどたどしくミオは応対する。お土産と言うのが何をさすのかは分からないが、どうやらもう少し金を稼ぎたいのだという事はコリンにも伝わった。
「あ、うん、いくらだ?」
 何だかおかしな雰囲気になってしまって、コリンは気まずい気分になりながら尋ねてみる。
「輪銀貨*1一枚です……」
「ええ!? ……オレンの実が十個も買えるじゃないか」
 有り得ない!! と言った風にコリンは驚く。
「え……? 相場の値段ですが……」
 有り得ないのはこっちですよ、とばかりにミオは反論した。当たり前だ、木の実一個分なんてはした金では家賃を稼ぐのにいくらかかると言うのか。当然、家を持たない(というか、雨も日差しも風もないので持つ必要がない)未来世界に家賃なんて概念は無いので、コリンにはその計算など頭に入っていない。
「え……そうなの、はぁ……」
 コリンは絶妙なジェネレーションギャップに戸惑いつつ、どう取り繕おうか思案する。
「あの、ヴァイスさんって……どんな所に住んでいたんですか?」
「……貧しい所。自慢するわけじゃないけれど、君の故郷の今の状況よりもずっと」
 コリンはミオからの質問を適当にはぐらかし、笑ってごまかす。
「そう、ですか……そこでは、木の実十個買える値段で体を売るのは普通じゃないんですか……?」
 使い道の分からない小物でも見るかのような目で、首をかしげてミオは訪ねる。
「……一個」
 ポツリとコリンは口にした。
「へ?」
 コリンの声は非常に小声で思わずミオは聞き返す。
「一個が、適正値段と言うか……相場……だから」
「それはまた……随分と貧しい所に暮らしていたのね」
「まあ、ね……」
 同情しているのかしていないのか。ただの感想とも言えるミオの言葉に、コリンも味気ない答えで返す。
「そこがどんなところかは分からないけれど、どっちにしろやる事やるんだったらそれなりの値段を払ってもらわなくちゃ……」
「あ、あぁ……分かった」
 持ち歩く金こそほどほどだが、未来世界で金庫破りして手に入れた金貨を大量に隠し持っているコリンは金に困っていない。相場の高さに驚きこそしたものの。別にこの程度の金を払う事自体は何でもないのだ。
 コリンは財布の中から指輪状の銀貨を取り出し、ミオに手渡した。ミオはそれを蔓で受け取ってネックポーチへしまいこんで挑発的な笑みと共にコリンの腕に蔓を絡めた。

64:軽蔑される? 


「ヴァイスさんでしたっけ……貴方、不思議な人ね?」
「そ、そうか?」
 コリンは肩をすくめて平静を装うが、変だというのは自覚するべき事だというのは重々承知している。
「なんだか、違う世界からきたみたい……だって、いくら貧しいところだって、木の実一個だなんて……」
「俺は……それが当たり前だと思ってたな……」
「そう、本当に大変なところから来たのね……でもまぁ、なんて言うの? それって逆に言えば、どんなところでも貴方の生まれた所に比べればいい所ってわけよね? なんだか、勇気がでちゃったわ……あんな村の出身でも、まだまだ頑張らなくっちゃ」
 ミオは微笑み、コリンの顔を首筋から出した蔓で撫でる。ベイリーフ特有のスパイシーな香辛料の香りが届いた。
「さあ、宿に行きましょう。私が冬の間に間借りしている家はあっちにあるの」
 コリンの顔は悪くないせいか、コリンの言動に色々戸惑い気味ではあるもののミオはわりと乗り気のようである。あるいは、商売のついでにコリンともっと話をしてみたいとも思ったのか、どこか楽しそうなミオの顔はコリンの気分も高揚させた。
「そうか、ここじゃその辺の茂みの影とかではやらないんだな」
 しかし、繰り返されるコリンの失言。雨も日差しも風もない未来世界では家どころか屋根を持つ必要すらも無く、そのためちょっとした茂みを見つけてはその陰で――と言うのが主流であったが、当然この過去の世界ではそんなことも無く。
「え、」
「え?」
 またもや、ミオに聞き返される事となってしまうのであった。
「茂みの中って……それ、恥ずかしくないんですか?」
「いや、普通だと思っていた……」
「もうつっこむのに疲れるわ。行為の最中に変なことしないでよね……そういうお客さんはいくらなんでもお断りしたいから」
 この様子だと、変な要求でもされるのではないかと、ミオの心配も御尤もだ。
「いや、多分普通だと思うけれど……」
「その普通が大きくずれているんでしょうに……」
 ミオにこう返されると、その通り過ぎてコリンも何も言えない。
「……分かった、ちょっと話しあおう」
 なんだかコリンは面倒になってきたが、それでもこうまで気持ちが高ぶった後ではこのままやめるのはどうにも収まりが付かず。小さな溜め息をつきつつ、従う事にした。とりあえず、宿まで移動する時間はどんな要求をするつもりか、話しあわねばなるまい。


「……ふぅん、一応やる事は普通なのね」
 いわゆる、前戯として体を撫でてもらう事と、フェラと本番。それだけしか頼まないコリンは普通、というよりは未来世界のそれは随分とあっさりしている。未来世界にも鞭などを使って服従させるのが好きという性癖の持ち主も少なからずいるには居るが、年月を重ねるうちにそういう文化も殆ど失われてしまっている。
 コリンが重視するのは、あくまで肉体的に気持ちいいか否か? これに尽きるのであった。
「ま、まぁ……相手から乞われてやったこともあるからな……女性の方の価値感はそんなに変わってはいないんじゃないのか?」
「そう……貴方は変わり者だから、それでも油断できない気がするけれど……まぁその時はその時ね。卵グループが一緒なのは気になるけれど……今日は月のものから考えて安全そうだし、良いわ。本番もやってあげられる」
「卵グループか……」
 ミオの呟きを聞いて、コリンは何かを考える。
「どうしたのかしら?」
「いや、子供は産んだ事あるのかなって……」
「ないわよ。一応、気を付けているから」
 コリンの呟きに、また何か変な子おでも口走られるかと身構えていたミオは、コリンの質問が案外普通なので安心して微笑みすら見せてそう答える。
「金が、高いと驚いてしまっておいてなんなんだが、もし不快なら金を倍払っても良い。少しだけ聞かせてはくれないかな……この国の事」
「この、国……ヴァイスさんは外国から来たのですか?」
「まあな。ほら、言葉も随分と訛っているだろう?」
 と、コリンはロアに言われた言葉を自分から言ってみる。
「ふむ……構いませんが……」
「子供ってさ、大事にするもんだよな?」
 ミオは今までの発言の中で一番言っている意味が分からなかった。
「するものですよ……?」
 それがどうかしましたか? と、ミオは首をかしげる。
「いつまで?」
「いつまでって言うと……年齢の事なら一生なんじゃないでしょうかね?」
「そうか……一生。なぁ、不快にならないでどうか質問に答えて欲しいんだが……もし、自分が子供を産んだとして、その子供が殺された時……『また次を産めばいいか』って開き直れるか?」
「……出来ませんよ!! そんな事が出来るとしたら、相当な鬼ですよ……病気で死んだならまだしも、殺されたなんて事になってもそんな風に開き直ったりなんかしたら、私はその人を軽蔑します」

「軽蔑……か」
 コリンは、未来世界で子供が殺された時に『また産ませればいい』なんて発言をした自分の行いを酷く恥じた。しかし、それを察したミオは、今までの問答のせいか、先程の言葉通りにコリンを軽蔑する事が出来なかった。
「いや、本当に軽蔑できるかどうかは分からないですけれどね。その……分からないって言うのは……自分がそういう状況になったわけでもないし、貴方の国の事も良く知らないから……この国で、私の住んでた村でそんな事を言ったら軽蔑するけれど……ねぇ、貴方の生まれた国って、何処なの? 貴方、どこで暮らしていたの……?」
「それを答えるには……俺は、お前を信用しきれていない」
 軽蔑される事が初めて恐ろしくなって目をそむけようとしたコリンだが、意外にも自分の事を考えてくれるミオの発言は嬉しかった。嬉しいけれど、本当の事を話すのは無理であった。
「そう……もしかしたら、あなたの国には貴方の帰りを待っている人がいるかもしれないけれど……貴方はもう帰らない方がいいと思うわ」
「そうだな……俺は帰らないよ……それに帰れない」
 なんてったって、知り合いのセレビィいが一匹もこの世界に居ない以上、帰る手段がコリンには無い
「そうなの……なんかちょっと悲しいけれど、それが良いわ……自分の子供が死んでもまた産めばいいかなんて……哀しすぎます」
 お互い、重い気分になってしまって沈黙が続いた。商売をする以上、こんなことではいけないとは分かりきっているのだが、ミオにかけられる言葉は無かった。
「……すまんな、変な気分にさせてしまって。もう、聞きたい事は済んだから今日は楽しませてくれないかな?」
「あぁ、はい」
 耐えかねたコリンの声掛けでミオは我を取り戻して営業スマイルを見せる。僅かに肩をすくめながら、お客様を愛撫するような声での『はい』。たった一言のそれで、二人の肩の力は抜ける。
 シデンと離れ離れになって以降、初めて抱いた女性の香りは、むせかえるような香辛料の香り。胸一杯に、久々の女性の香りを満喫したコリンは、商売で行う未来世界とは違う女性との性交を、香辛料の強い料理の香りを嗅ぐ度に蘇ることになる。

 刻まれたのは快感だけじゃない。自分の貧しい状況にも負けずにコリンのことを心配し、行為の最中でさえ気遣う心遣いを肌越しに感じた思い出は、胸の内にいつまでも留まっていた。

65:シャロット地獄 

 コリンがミオと甘い夜を過ごし、ルメアタウンを経ってシエルタウンへと旅を続けている間もシャロットはもちろん頑張っていた。

「報告します……鋼タイプと毒タイプ以外の患者……食事をした者は全員死亡しました」
「そうか……くそ、シャロットの奴め……!!」
 シャロットは食料を盗むだけでなく、備蓄してあった食料の中に猛毒を仕込んでいた。むしろ、食料を盗むよりはそっちの方が主な目的だったというべきか。食事は全員が同時に取るわけではないし、例え同時に食事をしても食性が全員同じというわけもなく、タイプ相性の関係も合わせてき残った者は多い。
 しかし、これで食料に対する疑心暗鬼を抱えてしまった時の守人のメンバーは、食料庫に備蓄された食料をすべて廃棄せざるを得なくなってしまった。
 こうして、メンバーはしばらくの間頻繁に食料の採集のために不思議のダンジョンへ赴かねばならなくなったわけだが、ダンジョンへの出張では必然的に少人数での行動を余儀なくされる。そこを、あのシャロットが狙わないわけも――ないじゃない。

 ノコノコ来ちゃって馬鹿みたい……あぁ、貴方達は幸福ね……苦しみも痛みの無く死ねるのよ? 毒で苦しんだ人たちには悪い事をしたわ……あんなふうに苦しませちゃってごめんなさい。
 償うために、私は貴方達をきっと安らかに殺して……一瞬で殺して見せる。そして、生き残った皆に気がつかせるの……『こんな世界、もう生きていても仕方が無い』ってさ。そうすれば、コリンのやろうとしていること、理解してくれるよね?
 こんな殺し合いの世界、嫌だって気づいて未来を変えるのを協力してくれるよね……絶対そうだ。そうだ、そうに違いない……私だって、今でも怖いんだもん。父さんが、寝ても覚めても私に早く死ねって言ってくる、嫌……早く死にたい。もうこんな殺し合いなんてやめて父さんの胸に抱かれたい、死にたい、怖い……敵が全員敵じゃなくなるか、敵が全員死んじゃえばもう殺す必要は無くなるんだ……それまで、殺さなきゃ……殺さなきゃ、怖くて眠れない

 がたがたと震えながら、シャロットは狂気の念を募らせる。
「そんな風に思うのも、全部お前らのせいだ……」
 鼻水と涙をはしたなく垂れ流しながら、シャロットは小さな声で呟いた。敵は5人、限界まで研ぎ澄まされた悪だくみの精神で放ったスピードスターと、計三十七のクロスボウ。そのすべてが襲いかかると、あっさりと敵を貫き絶命させた。ただ一人、緑色の障壁で以ってシャロットの攻撃を防ぐ者もいる。
 『守る』、という殆どのポケモンが潜在的に覚えている技で、大型のポケモンが小さなポケモンを守ったり、全力を投じた攻撃さえも弾き返す有用な技だが、一人で使って生き残るというのは皮肉なものだ。
「ねぇ、貴方達の名前はなんていうのかしら?」
 そのレントラー、物影を見とおす目のおかげで他より素早く反応できたようだが、生きていて待っていたのは死んだ方がましだったと思えるような恐怖であった。
「シャ、シャロット……ひ、勘弁してくれ……」
 しかし、攻撃を放った者の正体が分かると、がたがたと震えて縮こまる。
「ふふ、この人たちの名前を教えてくれたら、楽に殺して差し上げますわ。でも、抵抗するなら延々と苦痛を与えて殺しますが……いかがいたします?」
 まるで社交界でもするかのように自然な笑顔を浮かべて、シャロットは問いただす。笑顔の下に在る真意が理解出来ず、ただ恐怖するしか出来ないレントラーはその場に座り込んでしまった。
「お、教える。教えるから許して、見逃して……こいつはアクト、こいつはトニー、こいつはロバート、こいつはシルクだ……」
「ありがとうございます。では、貴方のお名前は?」
「俺は……ルシア」
 震える声でレントラーは呟いた。
「ありがとう。さようなら」
 ルシアと名乗ったレントラーは、次のシャロットの攻撃を防ぐ事は叶わず、あっさりと生命活動を停止。死んだのだ 
「さて、この死体を箱に詰めなきゃ。ふふふ……血だらけだぁ……赤くって、とっても綺麗なのに、時間が経つと黒くなっちゃうのが惜しいなぁ……うふふふ……ふふふ……」
 独り言を呟きながら、シャロットはこの前奪った食料の箱に死体を詰め始めた。前まで生物の形をしていた者が、形を変えてゆく様は見ていると面白い。ドミノ倒しよりも遥かに長い期間積み重ねられた完璧な形を、崩して台無しにする。
 その高揚感は、ドミノ倒しの何倍か? 積み木崩しの何十倍か? ただ楽しくて、シャロットは笑った。そして気が付いた。
 この世界を滅ぼすのは、きっともっと楽しいんじゃないかと。コリンがこの闇に満ちた世界を壊してくれる様を観察するのはきっと楽しいと。そう考えてシャロットは敵を(みなごろし)にして生きてみようと思った。
 手始めにトキが作った時の守人を壊滅させるのもきっと楽しいはずだと、時の守人の詰め所付近に膨大な数の罠を張る発想まで行きつくのにもそう時間はかからない。

 ◇

「シャロットから……食料の箱を返されただと?」
「え、えぇ……なんですけれど、誰も怖がって開けられないので、エスパータイプで鋼タイプののクワン様に開けてもらおうかと……」
 確かにクワンはエスパータイプのドータクンなので遠くから箱を開けられるし、毒ガスなども効かない。だが、そんな事を言われたって彼もシャロットは怖い。強力な卵爆弾のようなものでも入っていたらたまったものではない。
「く、分かった……」
 しかし、だからといって部下に任せるわけにもいかず、クワンは頑丈な物陰から頭だけを出して恐る恐るそれを開ける。爆発したり、変な煙が漏れ出るという事も無かったが、箱の中身からは血なまぐさい匂いが立ちのぼっている。とても嫌な予感。
「なんだあれは……? 何か箱の裏に書いてあるが……」
 とりあえず危険性が無い事が分かると、クワンは箱の裏に書かれていた文字を見る。『盗んでしまった分を返しに来ました。アクト、トニー、ロバート、シルク、ルシアの挽き肉です、どうぞお食べください』。
 先日食料を取りに行ったまま、戻ってこなかった者達であった。ご丁寧に味付け用の岩塩と、スプーンやフォークまで添えられて、すぐにでも食べられるようになっている。無論、食べる気など起こらないが。
 クワンは、シャロットがなぜこのような事に及んだのかまるで理解できず、その意味不明で残虐で残酷な行動に吐き気を催し、思い切り床にぶちまけた。
「食料を取りに行ったっきり帰ってこないと思ったら……なんてことだ」
 吐いた拍子に出た涙を瞬きではじき出し、クワンは咳こんだ
「な、なんだよこれ……意味がわかんねぇ……もうやだ、俺は時の守人やめる!! こんな奴と戦うなんて御免だ!!」
「お、おい……何を言っているんだお前!?」
 シャロットに恐れをなしたクワンの部下はそう言って、上司の制止も聞かずに時の守人の詰め所から逃げ出す。

 シャロットは遠くからそれをきちんと確認していた
「あら、逃亡者かしら? ああいう組織って敵前逃亡は死罪よね……代わりに殺してあげなくっちゃ……ふふ、私ってば上司の人たちに感謝されちゃう……一石二鳥……だよね? いや、楽しいから一石三鳥かぁ……」
 幸い、一番最初に逃げ出した者は無事逃げおおせたが、その行動に釣られて逃げた者の命は、ある者は罠に掛かり、ある者は運悪くシャロットに発見され、三十八のクロスボウで花を摘むように刈り取られる。

66:探検隊・フレイム 


 ミオの両親からの言伝を伝え終えて、コリンは再びシエルタウンへと向かって行った近道をするためにトロの森を越える旅路を選んだ。ここは簡単なダンジョン、あまり手こずる事もないと思ってはいたのだが、どうやら忘れた頃に災難はやってくるらしい。
 森を歩いていると、変わったリズムを刻む口笛の音。『ピィピ ピィピィピィピピィ ピィピピィピィ ピピィピピィピィ』、『ピィピ ピィピィピィピピィ ピィピピィピィ ピピィピピィピィ 』と、耳障りな音。この音は、誘っているというより呼んでいる音だ。コリンが興味を持って近寄って見ると――
「わ、わぁぁぁぁ!!」
 泡を食って駆けだしてくるのは、マダツボミの男性。バッジを付けているようで、どうやら探検隊連盟に所属する探検隊の一員らしい。
「ちょ、ちょ、危ないですよそこの人。早い所逃げましょう、逃げましょう!! いや、もしかして助けですか? ならば助けてくださいぃぃぃぃ!! お礼はしますからぁぁぁぁ!!」
 何が助けなものかと、コリンは首を傾げる。そうこうしているうちに、後ろには遅れてやってきたバクーダ。彼女は長さが四、五メートルほどはあろう大きな丸太を二つも引き摺っており、それのせいで酷く機動力が奪われている。最後尾は、しんがりを引き受けているポニータ。草タイプと虫タイプが多いこのダンジョンでなら、彼女の攻撃も頼りになりそうだが、『ヤセイ』の物量の前に四苦八苦しているようだ。
になりそうなものだが、どうやら敵の数は一匹や二匹ではないらしい。
 俗に言うモンスターハウスだ。ダンジョンの中でも得に闇が濃い場所か。もしくは心ある『ナカマ』が何らかの理由でダンジョン内で倒れ、『ヤセイ』達がナカマの心を食おうと集まってくる状態で発生する現象だ。
 とりあえず、『ナカマ』の周りに『ヤセイ』が大量に集まり、そのおかげで並大抵の探検隊では対処が出来なくなる事も多い。コリンはそれから逃げる途中の探検隊らしき小隊と、『ヤセイ』の群れに運悪く巻き込まれたというわけだ。
「仕方がないな……加勢してやるかな」
 お礼がもらえるのなら――と、画材道具の入ったリュックサックを下ろし、腕の葉を構えたコリンは、まずバッグから取り出したクラボの葉を手に握る。自然の恵みを体内で活性化させて炎を纏い、燃え上がるその手でポニータの後頭部をおもむろにはたく。
「あだ!!」
 びっくりして振り返ったポニータに対して謝りも励ましもせずに、コリンは一言。
「加勢するぞ、前を向け!!」
「え、あ、はい」
 気が付けば、ポニータのタテガミの炎は勢いを増し、代わりにコリンが握っていた炎の塊は消失していた。コリンは、自然の恵みという木の実から力を借りる技を使え、クラボの実はその技によって炎の力を発揮する。
 そして、ポニータは誰かから炎の技を受けることで、自身の燃え盛る鬣の炎の勢いを増させる特性、『貰い火』を持っている。その事を失念していたポニータだが、コリンの自然の恵みのよってその事を思い出し、これなら勝てると自信たっぷりに炎を放つ。
 火炎が踊るように敵に向かって行く。まず、先陣を切っていたキャタピーが火炎に包まれ焼け焦げる。
「ありがとうございます、これでもっと戦えますよ!!」
「礼は良いから前をよく見て戦え!!」
 コリンはポニータの前に躍り出て、構えた腕の葉で地面を抉るような軌跡。
「お前が次の炎をチャージする間、俺が前にでる!!」
 コリンは上体を大きく逸らしながら、地面すれすれのケムッソを切り裂き、体を起こしざま、空中を飛ぶムックルを切り上げる。空中に飛び上がって生まれた隙は、落ちながらエナジーボールを放ってアリアドスの放つ蜘蛛の糸を弾き返して凌いだ。
「俺が合図したらでかいのをぶっ放せ!!」
 コリンが地面に降り立つと、逞しいふとももに力を込めて、地面を抉りながら走る。風の如き速さですれ違いざまにチェリムを踏みつぶし、モンジャラを切り裂き、駆け抜ける。致命傷ではないだろうが、どちらも隙を作るには上場だ。
「さぁ、やれポニータ!! 最高の炎を放つんだ」
 振り向くことなくコリンは命令して、自身はその姿を地面の中に隠した。そうすることでようやく誤射の心配がなくなったのを確信したら、ポニータは言われたとおりに、強力な炎を吐き出した。
 先程まで逃げる事ばかりを考えていたバクーダも、引き摺っていた荷物を外して身軽になり、自前の炎をポニータへの誤射を恐れず、彼女ごと巻き込んで援護する。バクーダの炎を吸収してさらに威力を増した彼女の炎は、ダンジョンの通路状となった空間で直線状に並んだ敵を容赦なく焼きつくした。
 見ておればマダツボミも意を決して快晴の技を発動している。コリンは穴を掘って敵の後ろに回ると、周囲が快晴状態になっているのを感じて、最強の必殺技、ソーラービームで応戦する。このダンジョンの敵は草の効果が今一つになる敵が多すぎるが、威力の高さゆえかゴリ押しの利く技だ。
 そのソーラービームは、挟み撃ちにされてなすすべない『ヤセイ』の群れを全滅させる一助となった。出遅れていた『ヤセイ』のナゾノクサが最後にコリンの後ろから彼に噛みつこうと迫ってきたが、コリンはちらりと後ろに目をやると、後ろ回し蹴りで難なく仕留めて見せる。敵の群れを全滅させた事に安堵のため息をつく。
「……災難だったな。大丈夫か?」
「えぇ、貴方のおかげでなんとか……というか、強いですねお兄さん」
 ポニータにきらきらと澄んだ目で見つめられ、コリンは肩をすくめながら照れ笑う。
「鍛えているからな。それに、お前らだって連携はよく出来ているじゃないか。荷物を運搬中じゃなかったらあいつらくらい簡単に返り討ち出来たんじゃないか?」
「あー……重いんですよね、アレ。全く、私みたいな可憐な女性に持たせるべきじゃないわね」
 荷物の運搬を任されていたバクーダは、闘いに際して外しておいた大木を見て苦笑する。
「あのマダツボミがきちんと快晴を呼んで味方をサポートする所なんかも、なんだかんだで連携の良さを感じるし、マダツボミが最初から戦うつもりじゃなかったのが残念だったな。もらい火の特性はきちんと活用しているのか?」
「それは……ときどき忘れちゃうのよね。そう言う時はリーダーが指示してくれるんだけれど……今回は逃げるのに夢中だったみたいで」
「面目ないです……」
 リーダーらしいマダツボミは、ポニータの言葉にしょげて溜め息をつく。
「今回は仕方ないですし、結局みんな無傷だったので良いじゃないですか、リーダー。リーダーはドンと構えて自信満々で居てくださいよ」
 ポニータはそう言ってマダツボミに微笑んだ。
「は、ハイな!! 次からは上手くやりますので!!」
「レディを守って頂戴よ。頼りにしているんだからね」
 バクーダは優しい声で励ます。お姉さん気質な彼女の口調から察するに、実質的なリーダーは彼女なのかもしれない。

「しかし、助けを呼んでみたら本当に助けが来るとは思いませんでしたよ……」
「助け?」
 マダツボミの言葉に、コリンは首を傾げる。
「え、えぇ……私たちと出会う前に口笛の音を聞きませんでしたか? あれは、探検隊の間で使われる口笛言語で……遠く離れた相手と言葉のやり取りをするのに、声で話すよりもよっぽど役に立つのです。
 声が出ない病気や、声が出にくい声帯の構造をしているポケモンの間でも使われる由緒正しい言語なんですよ。あの時は口笛で必死に『助けて!!』って連呼していましたねー」
「なるほど。だから俺が助けだと思ったわけか。結局はそうなったわけだが……」
「ええ、まぁ。渡りに船といったところでしょうか……口笛言語を覚えていて得しましたよ。と、ところで自己紹介がまだでしたね。私、北の大陸から引っ越してまいりました、潮音(シオネ)=佐々木=マダツボミと申します。しがない探検隊、フレイムのリーダーをやっておりまして……主に交易ルートの開拓と、交易の実践を食いぶちとしております。
 此度は、我らフレイムを救ってくださりありがとうございました」
 シオネは深々と頭を下げる。
「同じく、シエルタウン出身のソーダ=シエル=ポニータと申します」
「海岸砂漠出身のソルト=バクーダです。よろしくお願いね」
 三者三様に自己紹介を交わして、二人も恩人であるコリンへと深々と頭を下げた。
「ヴァイス=ジュプトルだ。よろしくな」
 いつものように偽名を名乗って、コリンはその礼に答えた。その後、コリンはフレイムに待ってもらうように頼んでから、地面に置きっぱなしのリュックサックを拾ってフレイムの元に戻る。

67:旅は道連れ 


「ところで……階段*2はどこにあるのやら。早い所シエルタウンに着きたいんだが、ここに来るまでに階段は……あったら、ここで鉢合わせはしないよな」
「ま、まぁ……そう言うわけですが……でもヴァイスさん。そんなに急がないでゆっくり行きましょうよ。街に着いたら食事でも奢りますし、それに……」
「それに?」
 思わせぶりなシオネの言い方に、コリンは首をかしげて尋ね返す。
「お祭りに一緒に参加しましょうよ。実は、シエルタウンの夏祭りがもうすぐなのですよ。僕ら、そのために必要な神木を運んでいる最中でして」
「祭り……か」
「ですです。ソーダさんの里帰りついでに、祭りに必須の依頼を受けたわけですからね。そりゃもう祭りでは特等席にフリーパスなんですよ」
 興味ない、とコリンは言いたかったが彼らは心の底からコリンに祭りに参加してもらいたそうだ。この世界では親切も娯楽の一種なのかと思って、コリンは不思議な気分を抱えて祭りの情景を思い浮かべる。
 『祭りでは人がごった返す』とは記憶しているが、シエルタウンには普段から人でごった返していたではないか、と思わずにはいられない。あれ以上人がいたら、息がつまりそうではないか。だが、怖いもの見たさと言うものだろうか、それがどんな雰囲気なのか、なにを求めて人が集まるのか? 
 そんな事を考えていると、コリンは少し興味が浮かんだ。この世界に溶け込むためにも祭りの一つや二つ慣れることも必要だからと、コリンはシオネの提案に身を委ねる事にする。
「わかった、一緒に行こう。どんな祭りだか知らないが、楽しませてくれよな」
「良し来た!! 逞しい草タイプのお兄さんが一緒ってのも良いもんだねぇ。ウチの火よっこリーダーを焦らせてくれよ」
「リーダーはお役御免にならないように頑張ってくださいよ!!」
 コリンが同行すると聞いて、ソルトとソーダは共に喜びをあらわにする。彼女ら二人の物言いは、下ごころとかそういうモノよりもやっぱり、恩返しを『娯楽の一種』と捉えているようで。過去の世界は変わったところだと呆れもすれば尊敬もする。
「つまりそれは俺に敵を倒せってことか? なんで俺がお前らに付き合わなきゃ……まぁ、付き合っても良いけど、高い物奢れよ?」
「任せといてよ!! リーダーの奢りで」
 ソルトは白い歯を見せて微笑んだ。
「え……」
 戸惑うのはリーダーことシオネ。
「そうね、リーダーの奢りで」
 ソーダも一緒になって笑い、リーダーをからかう始末。どうやらこのリーダー、威厳と呼べるものは持ち合わせていないようである。
「えぇぇぇ……」
 情けない声を上げて、シオネは溜め息をつく。
「おぅおぅ、こういう時男は大変だな、シオネ……ホウオウ信仰じゃ女の子の方が偉いからな。こう言う気の強い女と付き合うのは大変じゃないか?」
 コリンは気の毒なものだと笑う。
「っていうか、私ラティアス・ラティオス信仰だから……むしろ男女に上下関係ないんですけれどね」
 それなのにいいようにあしらわれている自分が悔しくて、シオネは溜め息をついた。
「私はグラードン信仰よ。だから、こんな風に男が従ってくれるとついつい意地悪しちゃうのよねー」
 そう言って、ソルトは自身の右腕に巻かれたスカーフを指し示す。グラードン信仰の大人は異教徒の異性と口を聞いてはいけない戒律がある。昔女性からの誘いに乗って、その隙に殺された指揮官がいるためだそうで、それからと言うもの、初潮もしくは精通を迎えたポケモンは腕や肩にマグマを象徴する『M』の入れ墨を彫って大人の証とし、以後は家族以外の子供に触れることも原則禁じられる。
 それは、砂漠ではみんなが皆が皆そうなので困る事は無いが、ホウオウ信仰の土地に来た時は困りもの。そのため、『戒律を破ります』という意思表明のために巻くのが入れ墨隠しの布である。
「ははぁ……ってことはあれか。お前、砂漠じゃ女の発言権なんて皆無だから……」
「そ、このスカーフ巻いている間は男を弄るのを楽しんでいるの」
 コリンが途中で言葉を切ると、鬼の首を取ったような得意げな口調でソルトが言ってしまった。
「私はまぁ……リーダーにしゃんとしてもらうためについつい厳しくしちゃうけれど……苛めるつもりは無いんですけれどね。でも、やりすぎちゃいます」
 どうやら少々悪ノリしがちのソーダはたずらっ子のように舌を出して笑う。
「いい女に恵まれたな……愛されているぞ、シオネ。羨ましいこった」
 気の毒だとは思いながらも、シオネが二人の女性に愛されているのだと思うと、今そうしてくれる相手が居ない自分の寂しさが身にしみる。過去の世界に来る前は、少なくともシャロットとシデンに愛されていた……のかもしれない。過去の世界に来て、アレが愛なんじゃないかと、ときどき思う。
 その思い出と今の光景が重なって、コリンはシオネが少し羨ましくて少しだけ目が潤んだ。
(シデン、お前今どこにいるんだ? シャロット……お前は一人でさびしい思いをしていないか?)
 そんな思いを少しでも紛らわせたくて、コリンは手の甲に爪を立てる。少し痛くて、しかし少しも気は粉れなかった。

「ところで、ヴァイスさんは何をやっておられるのですか? 見たところ行商にも楽師にも見えませんが……もしかして画商?」
 そんな風に心の平静を保とうと努力しているコリンに、助け船を出すようにシオネが話しかけてきてくれた。手の甲の痛みはまだジンジンと疼いているが、それを悟らせまいとコリンは平静を装ってシオネの方へ向き直る。
「俺は……画商じゃなくって……、画家かな。食料と路銀はダンジョンで得た物で稼いで、気ままに絵を描いているんだよ……絵を売ることは考えていない」
「へぇ、それはそれは……絵と言うのは、今持っているもので全てですか? それともどこかに持っておられるでしょうか?」
「あぁ、このダンジョンの奥地の空間……台風の目に、今まで描いた絵は埋めて隠しておいている。お前ら、シエルタウンへ向かう途中なんだろ? それなら一緒に、絵を見ないか? 結構、絵には自信はあるんだ……いつ敵が襲ってくるかわからない台風の目じゃどうにもできないけれど……さ」
 久しく自分の絵を褒められていないコリンは、この機会だし見てもらうのも良いかもしれないとそんな事を言う。三人組の答えは、『見る』で即答であった。どんな絵を描くのが好きなのかとか、そんな他愛のない事を話しながら歩いた道中、コリンは寂しさでささくれた心から毛羽立ちが消えてゆくのを感じた。
 これが過去の世界、なんてすばらしい所なのだろうと。そう実感するうちに、知らず知らずのうちにコリンは大人が子供を想うように自然な形で、この世界を想う。この世界を守らなくちゃなんて、まるで馬鹿な英雄のような思考を。
 まだ、この世界を救いたいなんて、御大層な自分の気持ちに気づけないコリンだけれど、この世界の空気と雰囲気は、日光を浴びて芽生えた双葉のように。その想いをじっくりゆっくりと育ててゆく事になる。
 探検隊フレイムは、コリンとの世間話にいつまでも笑顔を絶やさない。度に置いて苦労した話もまた、ずっと絶えない。そうして、いつしか話もひと段落ついた所で、コリンはお礼の内容を決めた。
「ところで、お礼の件なんだが、俺にさっきの口笛言語ってのを教えてくれないか? なんだか面白そうだから……やってみたいんだ」

68:趣味はお絵かき 


 東の森のダンジョンの奥地、台風の目にたどり着いたコリンは、火山のダンジョンから逃げ帰った際、この場所に保管して置いた絵を見せる。背負っていた絵も、ダンジョンの中では何があるか分からないため見せられなかったが、安心できる台風の目で包みを開いて見ると、フレイムの面々の眼の色が変わった。
「これは何の絵なの?」
「……俺の住んでいた国の絵。を、少しオーバーに描いてみた」
 流石に自分が住んでいた所だと断言する事は憚られた。荒廃した大地に鉱物食のポケモン達が食い残した岩が不自然に浮かぶ光景。どこまで言っても不毛な大地に、闇、闇、闇。こんな場所、過去の世界のどこにだってない。
 個人的に、コリンは自分の絵の中では最もよく出来たと思っている絵だ。無論、モデルを見ながら描いたからという分かりやすい理由があるからなのだが、絵が上手い分だけ大分印象も強かったようだ。
「……どこですか、ここ? 行ってみたいような……みたくないような」
 シオネに尋ねられて、コリンはふっと溜め息をついた。
「興味を持つのは良いことだが、行かない方が良いぞ……きっと心を病む」
「そうですか……しかし、なんと言いますか。こういう貴方の故郷の絵はともかくとして、貴方の描く絵って本当に素晴らしいですね……この絵なんてほら、桜でしょう? こっちの大陸には無い花なのですが……故郷を思い出します。これは実物を見てお描きになられたのですか?」
「いや、知り合いの女が語ってくれた情報を元に……想像で描いた。色味がちょっと違うって言われたが……まぁ、あまり違和感はないそうだ」
 とはいっても、この絵は過去の世界に来てから、無駄足だった火山の歯車の帰りに休憩がてら一日で描き直したものである。
「……違和感が無いっていうかこれ、本物そっくりですよ」
 感嘆のため息を吐くシオネは、故郷を懐かしみながらその絵に顔を寄せる。
「懐かしくて、何だか故郷に帰りたくなっちゃいますよ……」
「そ、そんなにか……?」
 予想外の高評価に、コリンは戸惑った。
「そうですよ。無茶苦茶上手いです……っというか、他の人に見せたことないんですか?」
「この大陸に来てからは……お前らに初めて見せた」
「もったいないですよそれ」
 シオネは驚愕しながら、本音以外の何物でもない言葉を率直に口にする
「そ、そうか……」
 率直な言葉がそれでは、正直なところコリンは驚く事しか出来なかった。ただ趣味で描いているだけだと言うのに、あらゆる娯楽に満ちあふれた(少なくともコリンにはそう感じた)過去の世界においても自分の絵が評価されるなんて思ってもみないことだ。
 コリンが過去の世界の料理に比べれば未来世界の料理は喰えたもんじゃないのが多すぎると思ったように、絵も見れたもんじゃないと一笑にふされるのがオチだと半ば諦めていた彼には、目から鱗が落ちた気分と言う言葉が似つかわしい。
 自分は、才能があるのだ、と。

「これがリーダーの言っていた桜かぁ……すごいわね……輸入したら一気にシエルタウンの名物になるんじゃないかしら? シードハンターのレイダーズなら、上手い事栽培してくれるかもよ」
「いやいや、この大陸の気候で桜が育つかどうか……」
 適当な褒め言葉とは違う、経済のある過去の世界ならではの褒め言葉をソーダは口にして見るが、それは無理なんじゃないかとシオネは否定する。
「描いている貴方もすごいけれど、口でこの風景を説明したその知り合いの女性とやらも中々……すごいわね。きっと貴方達、以心伝心なのね」
 ソルトは経済なんてモノはどうでもよくて、まだ名前も顔も知らないシデンを褒めた。
 皆、言葉こそ違えどコリンの絵を評価している事に変わりは無く、久しぶりに褒められたコリンは、これまた随分と久しぶりに照れて見せる。
「私、この石畳に咲く花の絵。これが好きですね……草タイプとしてこれは共感せざるを得ないというかなんと言いますか」
 人・人・人と大量の人が往来し、しかも牛車や馬車が通る行商のために作られた石畳の道路。普段は途切れる事の無い『人』という邪魔者を取っ払った、現実にはあり得ない光景がその絵には描かれ、コリンの頭の中での処理した映像の描画能力を伺わせる。
「あ、あぁ……それは……」
 コリンは『未来では石畳を割って育つ草なんて思いもよらなかったから衝動的に描いた』なんて言えるわけもない。植物にはそれだけ強い力があるのだから、自分もきっとどんな困難でも打ち砕いていけるはずだと、希望を持ちたかった。
「その絵は……あまりにも綺麗だから、衝動的に描いたんだ。別に、特別意味があるわけじゃない」
 しかし、その困難と言うのも、未来世界では想像がつかなかったという件も、本当のことは話せない。コリンが答えたこれが無難な答えで、色々秘密にしたい事が多すぎるコリンには、それしか言えなかった。

69:絵を飾ろう 


「とにかくなんだ……褒めるなんてよせよせ、俺の絵にそれほどの価値は無いだろ?」
 照れ隠しをするコリンは、冗談めかして謙遜する。
「ありますよ。自信持ってくださいなコリンさん。リーダーもそうだけれど、自信のない男よりも自信に満ちた男の方が格好いいものよ」
「そうよねソルト。ヴァイスさんも自信持ってください」
 しかし、女性二人はコリンが謙遜する事を許さず、ついでにリーダーを軽く罵って二人は笑い合った。
「自信持ってください……か」
 コリンは肩をすくめて苦笑する。
「しっかし、随分と部下二人に信頼されているようだが……どうしてお前がリーダーなんだよ?」
 威厳がまるで感じられないリーダーを見ながらコリンは苦笑して尋ねる。
「え、それは……その……」
 答えに詰まってしまう。自分に自信が無いのか、このリーダーは。
「炎を操るチーム、フレイムって名前にはふさわしくないですし……むしろリーダーは炎に弱いですがね。日本晴れで私達をサポートしてくれますし……何より、頑張り屋なんです。今は小さな火ヨコですけれど、いつかは逞しい軍鶏(シャモ)となってくれたら……このフレイムって名前も名前負けしないなぁって……そう思ったんです」
 真っ先にフォローしたのはソーダ。なんだかんだでしたっている事を伺わせるくらいきっぱりとした物言いで彼女は言う。
「頑張って自分を良くしようとして……でも、嘘は付けないから自分を自分以上によく見せようとはしない。そして堅実に強くなっていくの……商才もあるのよ」
 と、言うのはソルト。こちらも、頼りないリーダーにしっかりして欲しい感情こそあるものの、大方の意見はソーダと一致しているようだ。
「ふぅん……まぁ、強くなくたって探検は出来るさ。指揮官として大成するってのもありだもんな」
「で、でも……炎に弱いのだけは何ともならないんですよね……微妙なところで目覚めるパワーも炎タイプなんですが、どうにもうまく使えないし……やっぱりフレイムってチーム名には不適かなぁって
「おいおい、羨ましいな……俺なんて目覚めるパワーは毒タイプだぜ? 威力だけは無駄に高いのが、本当にもったいないんだこりゃ」
「えー、意外!! コリンさんって強いから孤高の覇者を象徴するドラゴンタイプだと思ってた」
 ソルトがその巨体をすくませるように大げさな反応をするので、コリンは肩をすくめて笑う。
「ないない……ってか、シオネは俺の草タイプの友人と同じタイプかぁ……炎タイプ……いいよなぁ」
「でも、毒タイプもいいじゃないですか」
 顔の前で手を振って否定してから、コリンは目覚めるパワーが炎タイプのシャロットを思い浮かべる。なんだか卑屈な態度になったに対してソーダがフォローする。
「毒タイプは、人を苦しめる毒。人を依存させる麻薬。しかしながら、その反面で人を引き付けるお酒、そして薄めれば薬になる……そういう力を持っているのですよ」
 言い終えて、ソーダはコリンを見つめる。
「コリンさんは……お酒、ですかね貴方の書く絵には皆を引きつける力あります……そんなら、目覚めるパワーの威力が強いのも納得です」
「へぇ、そうなると炎タイプはどうなんだ?」
「全てを焼きつくすまで止まらない狂気、あらゆる命を温め育む太陽、生まれ変わりの切っ掛けとなる焼畑……そんな所ですね。リーダーは炎タイプなんだけれどなぁ……目覚めるパワーが弱いから、どれに当てはまるのやら……」
 そう言ってソーダは苦笑する。
「分からないのよねー」
「あうぅぅぅ……」
 ソーダの言葉に合わせてソルトが相槌を打つと、心の弱いリーダーは再び落ち込んだ。
「そっか……俺の友達は……」
 そんな情けないシオネの醜態はさておき。コリンはシャロットの事を思い浮かべ、言葉にする。
(あいつは……そうか。生まれ変わりのきっかけになる焼畑……なんだな)
 本当は全然そんな事は無いのだが、そう思うとコリンはなんだか誇らしい気分になった。
「心当たりがおありですか? いいですねー……私には誇れるような目覚めるパワーの特徴なんて無いですよー……」
 シオネは自己嫌悪して溜め息を吐くが、そんな事は気にしないとばかりにソルトは微笑む。

「いいじゃない。私達の仕事は未知の場所の開拓や探索でもなく、交易路の開拓でしょ? 探検家として強くなくたっていいし、目覚めるパワーなんてどうだっていいじゃない……味方の炎さえ怖がらなければ。炎からなら私が守ってあげるから」
 ソーダはそう言ってシオネに笑いかける。貰い火の特性を持つ彼女なら、白き神以外の全ての炎から仲間を守ることが出来るのだろう。そう考えると案外バランスの取れたチームである。
「ほぅ……交易路の開拓……というと、どういう仕事なんだ?」
 そうね、とソルトは言葉を整理する。
「まず、商人って言うのはなるべく難しいダンジョンを通りたくないものよ……そのためにダンジョンを通らずに済む抜け道を探したり、場合によっては抜け道を作ったりするのが私達の仕事。他にも、近道になる、ごくごく簡単なダンジョンを探したり……要するに、皆が楽をするために苦労するのが私達の仕事ですよ。
 そして、私達の開拓の情報を探検隊連盟に売り渡したり、自分自身で交易をする事でお金を稼いでいるんです。商人と探検隊の間にいるのが私達ですね」
「正直、リーダーがいらないと思える作業はいくらでもありますが……リーダーが居ないと出来ない作業もいくらでもあるんですよ。だから、彼はかけがえのない大切な仲間なんです」
 ソルトの言葉に付け加えるように、悪口交じりのソーダの褒め言葉。ふとコリンがシオネを見てみると、その顔は少し照れて赤く染まっていた。
「やっぱり、良いチームじゃないか」
 そんな三人を見て、コリンは微笑んだ。掛け値なしのコリンの褒め言葉を耳にして三人もまた上機嫌に。先程疑問に思えてならなかった『人への親切は娯楽』という事が、コリンは言葉じゃなくて実感で理解できるようになった瞬間である。シデンと違って、コリンは自然にこの世界へとなじむ道を進んでいく。
 まだ過去に渡ってから一ヶ月とちょっと。今のコリンにはかつてのコリンの面影はなかった。

「ところで……なんですが、この絵をこんなところに埋めておくのはもったいない気がしますが……」
「なら、私のじいちゃんちに飾っておくといいんじゃないかしら?」
 保存状態の悪いコリンの絵を見て、このまま絵が劣化したらもったいないと思うのは当然のことで。シオネがそれを口にすると、ソーダはすかさず提案する。
「良いんじゃないか? ここで腐らせるよりかはずっと。地面に埋めておいてもおいても絵はすぐに劣化するからな……大事にしてくれるなら」
「大事にするよ……ウチのじいちゃんの家は無駄にでかいんだ。絵を飾るにもふさわしい部屋だってあるんだよ」
 胸を張ってソーダはウインクをする。
「ってか、お前のじいちゃん何者なんだ?」
「シエルタウンの町長やってます。私が移民じゃないのに『シエル』って姓を持っているのは、そう言うわけなんですよ……まぁ、私は分家なので『シエル』の姓の継承権は従兄弟にありますし……私の子供は順調にいけば姓を名乗る事も許されないでしょうが……ま、そんなことどうでもいいじゃないですか。
 私も早い所帰って家でゆっくりしたいですし、祭りに使う神木を届けなきゃいけませんし……そろそろダンジョンを出ませんか?」
 そう言ってソルトは微笑んだ。ここはダンジョンの中心にある台風の目と呼ばれる場所。ダンジョンの最深部に在りながら、空間も時間も心も平穏に流れ、むしろ心が落ち着く場所とも言われている。しかし、やっぱり殺風景で、屋根のある家の安心感とは勝手が違う為くつろぎにくい。
 コリンも久しぶりに宿を取りたいと思っていたところなので、ソルトの提案に対する答えなどもう殆ど決まっている。
「だな……俺は適当に宿をとって休もうと思うけれど、その祭りっていつ行われるんだ?」
「三日後です。祭りを行える最低限の神木はすでに集まっているのですが、最終日まではあと一回くらい神木を取りに行けそうですね」
「ってことは毎日神木を取りに行っているのか?」
「ええ、十日ほど前から……これは三往復目よ!? 全く、足がパンパンよ」
 後ろ足で地面を蹴りながらソルトは肩をすくめて笑う。
「ともかく、シエルタウンのお祭りはね……あの街にとって重要なお祭りなんです。だから、是非参加してくださいね……私達が特等席に案内してあげるからさ」
 祭りを自慢するように興奮してソーダはコリンに笑顔を振りまく。丁寧なですます口調の中に、所々飾らない素の喋り方がでてしまっているのが妙に可愛らしく、コリンは顔の筋肉がふやける感覚を感じる。

「分かった。いい席を期待しているよ」
 コリンが笑顔になれば、そうこなくっちゃとフレイム三人の声が重なった。

70:シデンはいずこ? 


「あら、お兄さん旅の人かしら? 旅で疲れているみたいだしウチで一杯やっていかないかしら? たっぷりサービスしてあげますよ」
 街にたどり着いたコリンは、祭りまでの暇な三日間を情報収集して過ごす。その過程で、いつのまにやら、酒場や如何わしいお店が集まる歓楽街に紛れ込んでいた。賭けごとが盛んなところやら、男性が女性と閨の相手をしているところやら、金と欲望渦巻く場所に着てしまってどうしようかと反応に困る。
 こちらは、女性が単独で個人営業している売春という物も特になく、きちんとした店でサービスの充実した様子が見て取れる。思えば、いままでこの街をくまなく散策したこともなく、初めて音ず得る場所の雰囲気にコリンは少々戸惑っていた。
 こんな危ない雰囲気の場所にて、ガバイトの女性が旅装束のコリンに目をつけ言い寄ってきた。化粧をしたその女性の顔つき体つきは悪くなく、今まで多くの男性を魅了させてきたであろうことが伺える。
 ただし、彼女とコリンは身長差が1.5倍以上あるために、見上げるコリンにとって魅力的と思うかといわれれば微妙である。一応、木製の格子の張られた窓からのぞく限り、サイコロの賭けごとが行われていることがせいぜいの健全な店であり、性的なサービスは行われないのだろう。
 今のコリンは盗賊に襲われ身包みを剥がされていた振りをしていた時とは違い、大きな荷物を持って旅する姿は如何にも探検隊か商人のような雰囲気を醸し出していた。
 それは即ち、コリンが金の匂いを醸し出している事に他ならず、ガバイトのお姉さんがカモネギろうとしているのも間違いない。同じ楽しむにしたって、最初から値段が決まっている店でないとぼったくられると図書館で見た事がある。

「悪いな、そんなことに使う金はない」
 それに、コリンは動体視力に自信があったので、カードを当てる競技で賭けをした事があるのだが、その賭けごとでいかさまを使われ思いっきりカモネギられた経験がある。賭けごとで苦い経験を持つコリンは、もうあんなに負けるのは嫌だと、店内で負けっぱなしの男を見て苦笑した。
 更に言えば、コリンが持っている金は未来から持ち出してきた金品を売って得た金であり、無駄遣いは出来ない。輪銀貨一枚ならともかく、こういう店は危ないという気がしてならないし、それにミオのおかげで今はそこまでたまっておらず、要は休止期間というものだ。今は祭りの季節だけに客なんて無限に訪れる事だろうから店も困るまい。
 女性と遊ぶ金も時間もない事は無いのだが、あまり無用なトラブルを起こしたくないコリンはそのお店を無視して通り過ぎようとも思ったが、こういうお店は人が集まるものだ。それなら何か情報の一つでもあるかもしれないと、一応コリンは尋ねてみる事にする。
「そうだ、お前こんなやつを知っているか? クレアという名前なんだ」
 その理由とは、未来から過去へと旅立つ際に足跡で決めたクレアと言う名の人間――シデンを探すためだ。コリンはシデンの似顔絵を差し出して問う。時の歯車の場所は知っている。しかし、その入手法の段階で行き詰るであろうことを、コリンは予想していたというか、すでに行き詰り気味である。
 シデンの時空の叫びの能力があれば、ある程度光明も見えてくるだろうが今のように単独でなんとかするのは辛すぎるのだ。

 また、シデンが必要な理由はもう一つある。時の止まった世界ではエリックのテレポートで行き来をしていた幻の大地が、現在ではどうやって行けばいいのか分からないということ。セレビィが居れば橋渡しも出来るのだが、セレビィは本来幻のポケモンで、おいそれと会える存在ではない。シデンと協力して探さなければ、そう簡単に見つかりそうにない。
 別の方法を探すにしても、やっぱりシデンが居ないと情報収集のスピードは話にならないのも痛いところだ。要するに何をするにしても仲間が欲しい。人海戦術と言うにはあまりに貧層だが、シデン無しでは成立しないことなどいくらでもある。

 更に、戦力的な問題もある。もしディアルガと戦わなければならないとなった時には、ディアルガに勝ちうるだけの強い仲間も必要だし、ドゥーンやその他の刺客が送られてくることだって十分に考えられる。もし一人で居る所を襲われれば一溜まりもない。
 そう思うと、ジュプトルであるコリンよりも遥かに目立つシデンが一人どこにいるのか、コリンは不安でならなかった。
 もしかしたら自分より未来に飛ばされているからまだ居ないだけかもしれないが、行方が分からないというのは不安になる。
「なにこれ? 外の大陸に住むポケモンかしら? 肌が白いルージュラというか……金髪のサーナイトというか……」
 そんな心配を抱きながら似顔絵を渡してみても、どこのどいつも渋い反応を返すばかりだ。
「悪いわね、この見た目ならかなり目立つとは思うけど見たこと無いわ」
「まぁ……そんなもんだ。早々見つかるものではないだろう」
予想通りの反応なので、コリンは落胆することもなく続ける。
「そうか……もしそいつをみつけたら教えてくれ。酒なんていくらだって飲んでやるさ」
 どうせ見つかることもないだろうなと心の中で付け加え、コリンは歓楽街を練り歩く。結局、シデンの情報は何も得られないまま、彼が描いた似顔絵は風に揺れてくしゃくしゃになって行った。

71:帰還報告 


 シエルタウンは大きな街である。そういった歓楽街もあれば、粗末な屋台が立ち並ぶ商店街、ごみが積まれた山、開墾された田畑まで、尋ねて回ればそれにかかる時間は1日を下るまい。なんだかんだで、そうやって人を訪ねて回る時間を得られたのは幸運なことだったのかもしれない。
 さらに、この東西南北様々なところから祭りには多くの人が集まる。それだけにシデンの情報も入る事かと思ってみたが、三日間歩きまわって見ても情報は手に入らなかった。
「ロアさん……そうか、クレアは見つからなかったか」
 それでも、収穫はなかった。予想していたとはいえ残念な結果の翌日に、一日がかりの疲れをぶちまけた相手はロアであった。
 残念そうに俯くコリンに、ロアは笑いかける。
「まぁ、そう気を落とすなよ。そう簡単に見つかるものじゃねぇって」
 当然、以前出合った携行食屋のロアの元にも、クレアの行方に関する続報を聞いていた。
 ただ、要件が済めばさっさと買い物をして立ち去ればいいのに、コリンはなぜかここの店主――ロアとお話をするのが気に入ってしまい、なかなか立ち去れない。
 他にも気のいい店主や、遭難したと言う自分に対し、サービスをしてくれた者もはいるのだが、以前ロアがいまだに進化しないでいる理由をコリンが推察通り、本当に人相を気にして進化しないで居るのだというこの店主には頭が下がる思いであることも関係しているのだろう。
 確かにズガイドスから進化すると一見しただけでは人相の悪いラムパルドになってしまう。それを避けるためのこの姿……商売人としてのプライドは偉大である。
「しかし……どこの町も、こうして平和なのかね? 最近は、時が壊れた影響だとかで悪いポケモンが増えてくるって言うけれどさ……いい街じゃないか……キザキの森では、大変なことになっているようだが」
「暖かくて、食料があれば悪いことを考える奴なんていねぇよ。物が豊かっていうのはな、ある程度までなら心も豊かになれるんだよ。……その点、キザキの森の場合は……まぁ、仕方がないさ。時間が止まるなんて言うわけのわからない現象が起きちまって、心が豊かでいる方が無理な話さ」
 ロアは溜め息をつく。
「俺は、まぁ……心が豊かな内に入るんじゃないかな? こうして携行食を売ってその日の稼ぎを持ち帰り……何日かそれを繰り返したら上手い魚と酒を楽しむ。
 そうやって生きていれば不満なんてな無いのさ。燃え盛るような幸福は無いけれど、春の日差しのように穏やかな幸福って言うのも悪くねぇ。
 それが嫌なら……いい方に転べば探検隊でも、実業家でもいい。でも、悪いほうに転べば犯罪者……気楽に穏やかな幸せの中で生きるか、激しく燃え盛れる業火を目指して火のつかない薪に苦労するか……ヴァイスさんは後者の口かい?」
「あぁ……もし、これを実現できたら死んでもいいって思えるほどにな……壮大な夢を見ているのかもしれない。そのために俺とクレアは行動しているんだが……きっと、達成感は一塩だろうなぁ。今はまだ火をつける、つけないじゃなくって薪を探している段階だよ」
 ウソを交えない言葉を言って、どこかすっきりしたようにコリンは笑う。

「何をやるんだい? それとも、男と女のやる事にあんまり口を出しちゃいけないかな?」
「女とやるったって、セックスなんてするわけじゃない。卵グループも違うしね。ま、なんというか世界の救済みたいなもんさ……」
 正直に答えては見たが、信用してはくれないだろうと、コリンは直前の言葉を失言と解釈する。
「なんてね。例えロアさんといえども、俺らがやることは秘密だよ」
 自分のする事を誰かの心に刻み込みたい。そんな思いから、本当のことを誰かに言っておきたかったコリンだが、時の歯車を盗んでいることをみだりに話すわけにもいかないし、そうと悟られることすらあってはならない。
 結局、コリンは自分の言葉を嘘という事にした。
「そうか……」
 ロアはコリンの態度に言い知れない何かを感じたが、詮索はしなかった。コリンは自分の事を少しでも話せた事に満足げでありながらも、真実を嘘として語る悲しさに少なからず心が痛んで、言いようのないさびしい気分になっていた。
「なぁ、ヴァイス。……また、すぐに旅にでるんだよな?」
 気分がそのまま表に現れたコリンの表情に、ロアは何かを感じたらしく気遣うようにコリンへ問いかけた。
「……まぁな、祭が終わったらな。そのために……こうして食糧を買っている訳だからな」
「そうかい……常連って言うにはまだ三回しか来てもらっていないから、ちと微妙な線だが……俺は、こうして買い物してもらっているあんたが好きになってきたな」
「おいおい、そう言う趣味か? 俺は男にどうこうって趣味はないぞ?」
 コリンは、おどけた様子で生娘が乱暴な男の前でそうするように身を縮めて怖がる身振りをして見せる。

「はは、違うよ。なんというか、すごく悲しそうなのに優しい眼をしているお前さんの表情が気に入っただけさ。
 俺がいい年してまだ進化していないせいもあるんだろうかね……こうして商売していると、みんなが話しかけてくるから、黙って話を聞くことも、悩みに答えてやることも慣れちまってさぁ……いろんな顔を見たよ。お前は、本当に優しい眼をしている……」
「はぁ……」
 いまいち実感の湧かないコリンは曖昧に答えた。
「それと、これはお前の人格は関係ない事なんだが……何かいい事あったんじゃないか? そういう顔は好きだぞ」
 図星を突かれたコリンは僅かに肩をすくめる。
「祭りに招待されたんだ……ソーダって女に……町長だか族長だかの孫なんだとさ」
 コリンは照れ臭そうに微笑んでロアに告げた。
「なるほど、ソーダか……あいつは確か、今年も舞姫じゃないか」
「ま、舞姫? あのポニータが?」
「おう、祭りの花形を務める重要な役よ。なるほどー……こりゃ、相当いい席に案内されるな。羨ましい」
「でも、重要な役だろ? 普段この街にいない奴がやって出来るもんなのか?」
「あの女は九歳の時から六年間やっているから大丈夫だ。ベテランだよ」
「へぇ……」
「惚れんなよ!?」
「まさか、まだ子供じゃないか」
 そう言ってコリンは笑い飛ばした。可愛い子だとは思うけれど、ソーダに惚れる事は無いだろうと。

 その後も、世間話は終わりどころが見つからない。話せば話すほど温かい気持ちになっていく不思議な男、ロアと共に笑い合いながら、日も暮れかけになってようやくコリンは買い物をした。
 食糧をダンジョンで調達するだけの実力があるコリンにとっては、別に保存食は必要不可欠なものではない。
 それでも、買わずには居られなかった。この、心のこもった携行食を。この世界に来て初めて食べた『世界にこんなに美味い物があったのか』という衝撃が彼の胸の内に留まっている限りは、衝動的に買わざるを得ないのだ。


 やがて、祭りの日が訪れる。探検隊、フレイムに特等席を案内すると約束された祭りの日が。
 お祭り――それはとても魅力的な響きであった。季節を祝い、収穫を祝い、記念を祝い。暦の概念なんて放り捨てられてしまう未来世界では有り得る事の無いイベントだ。最初は興味が無いと言って突っぱねようとも思っていたが、コリンは考えれば考えるほど心が躍った。
 暗記するほど読んだサニーの日記の中にもトレジャータウンのお祭りについての記述が乗っており、光合成の影に隠れがちではあったが知らず知らずのうちにコリンの憧れの一つとなっていたのである。
 思いがけず祭りに誘われた事で、コリンの隠れていた祭りへの憧れも少しずつ姿を現し、期待に胸を躍らせていた。






サツキ「ひえぇ……ぶるぶる」
パク「ひえぇ……ぶるぶる」
シャロット「何を怖がっているのかしら…………?」
サツキ&パク「お前だよ!!」
後編へ


コメント 

お名前:
  • >2013-11-03 (日) 02:46:36
    大体はお察しの通りなのです。ダークライの件がなかったら、アグニを成長させるためにも消えたままにするのが神としての役割だったかと思います。
    シデンを復活させたのも、おそらくは苦渋の決断だったのでしょう。ソーダは……私ももうすこし救ってあげたい気持ちですw

    テオナナカトルは、その通りコリンたちの世界の未来ですね。すでにコリンたちの戦いは神話になっているようです
    ――リング 2013-11-22 (金) 00:37:02
  • ふむふむ、こうして読むともし原作のストーリーにダークライの話が無かったら、リングさんバージョンはシデンが復活しないまま終わってたのかなって思いますね。

    ソーダがちょっと可哀想でした。

    テオナナカトルって多分、コリンたちの世界の未来の話ですよね?
    ―― 2013-11-03 (日) 02:46:36
  • >狼さん
    どうも、お読みいただきありがとうございました。
    『共に歩む未来』のお話では、もう一つの結末というか、私としてはこちらのほうがよかったという結末を書いて見ました。
    ディアルガのセリフから察するに、本当の未来はシデンが生き返らない方であったという推測が自分の中でありましたので……。
    こんな長い話ですが、読んでいただきありがとうございました
    ――リング 2013-06-26 (水) 09:49:35
  • 時渡りの英雄読ませていただきました。私は探検隊(時)をプレイしたのでだいたいのことはわかるのですが時渡りの英雄ではゲームとは違ったおもしろさがありゲームではいまいちでていないところまで実際そんなストーリーがありそうな気がしたり(当たり前か)してとてもおもしろかったです。
    『ともに歩む未来』では[シデン]が蘇らないのかと思ったら[アグニ]の夢というおち、少しほっとしたり…。
    これからも頑張ってください。
    ―― ? 2013-06-17 (月) 21:31:32
  • 時渡りの英雄これから読んでいきたいと思っています。
    時渡りの英雄は10日ぐらいかかると思われます。
    読むのが楽しみです
    ―― ? 2013-05-25 (土) 02:02:01
  • >カナヘビさん

    呼び方については……お恥ずかしいところを。作者本人でさえ、もうごっちゃになってしまって、気付いておりませんでした。修正させていただきます。

    ストーリーは知っての通り、元になるものがあるので、それ以外の部分を評価していただけたことを嬉しく思います。ボリュームについては……多分、このwikiでも間違いなくトップなので、これが読めるなら他のお話も読めますねw 面白ければの話になってしまいますが。

    パラレルワールドとなっている未来世界の方は、構想はあるのですが……今立てをつけられない状況です。もしかしたら一生書かないかもしれないので、期待しないでいてください。

    2月からの連載は、すでに開始させてもらいました。どうか楽しんでいただけると幸いです
    ――リング 2013-02-01 (金) 21:54:15
  • 時渡りの英雄、読ませてもらいました。
    実を言うと、僕は探検隊をプレイしてません。なので、比較しての感想を書けないことをどうかご容赦ください。
    凄まじいまでの心理・風景・戦闘描写。張り巡らされた伏線。生き生きとしたキャラクター。何をとっても素晴らしいの一言につきます。読んでいると思わず溜め息がでたり、にやりと頬が緩んだり。ボリュームたっぷりでした。
    パラレルワールドを進んでいる未来世界も気になります。神話になってるってことは最低1000年は経ってると思われますが、シデンが投獄された後の未来世界のその先や、シデンが過去にいる際の神話体系が気になります。
    シデンと言えば。アグニが「ミツヤ→シデン」と呼び方を変える前も、極稀に「シデン」と呼んでいる部分がありました。特に193節と276節は、「シデン」と呼ぶと色々と疑問がでてきてしまう場面だったので、修正したほうがいいと思います。
    2月からの連載も頑張ってください。
    ――カナヘビ 2013-01-31 (木) 14:07:58
  • >ナナシさん
    最後まで校正にお付き合いいただき本当にありがとうございました。貴方のおかげでこの作品がよりよいものになれたことを誇らしく思います。

    さて、未来世界のエンディングは、これからの三人が具体的にどんな道を歩むのかを示そうと頑張った結果でした。このお話はテオナナカトルに続いているので、この三人のお話が今後オースランド神話として伝えられてゆくのですが……この神話が途絶えることなく、完全な形で続いたあたり、立派な国を築いたということは間違いないのかもしれません。
    その影に、きっとコリンは常に寄り添っていたことでしょう。二人が互いの幸せを願いつつも、自分が幸せになることを選んだ結果はきっと明るいはずです。

    そして、現世組は、まさかの夢オチですが……本当に夢オチだったのかどうかは、ディアルガの台詞を鑑みればおのずと分かると思います。ただし、空気が読めないことは反論が出来ませんがw
    リアラで締めるのは、実はリメイク前から同じ展開だったりします。主人公達が物語から離れ、これからは別の誰かに物語が移ってゆく。その『誰か』はリアラではありませんが、二人の暮らしにようやく平穏が戻ったことを理解できればと。

    物語完結まで付き合っていただき改めてありがとうございます。今連載中の作品も、楽しんでいただければと思います。それではまた、次の作品でお会いしましょう
    ――リング 2012-08-20 (月) 22:37:51
  • 411:グラシデアの高原 より
    「白峰の山並みを“超”えてみると」「貴方“たち”は付き合うと言ってくれたんですよ」「その言葉が偽りでないことを示す表情を見せて“見”せる」「私“たち”普通のポケモンの色恋沙汰には」「やはり神もまた私“たち”と同じ生物として」「状況はコリンの言った通りの“事”になる」

    412:感謝の気持ち より
    「そんな“事”考える余裕がなかっただけだ。俺だって、こういうことを考えたい」「愛するってのは具体的にどういう“事”なんだろうな?」「それも大事な“事”なんじゃないかって、今になって思ったんだ」「確証を得られないという“事”でコリンは曖昧にしか口にしない」

    413:未来に光あれ より
    「シャロット“はは”、ちらちらと横目で互いの体を見ていた」「伝説のポケモンとは滅多な“事”じゃ子を宿すことは出来ない」「誰かに自分の子を孕ませる“事”になるだろう。お前は、俺以外の誰かの子供を宿す“事”になるだろう」「お前の“事”は嫌いじゃないし。愛することも出来るだろうが」「こっちこそ、過去の“背化”の常識を持ち込んで済まないな」「コリンが謝るが、シャロットは何も言うこと“をでき”ず」「私“たち”いつまでも上手くやっていけるかしら?」「被写体になりたがるシャロットをコリンは拒む“事”をしなかった」「これではコリンだと“わ”からない」「自分“たち”が救い、そしてアグニが守ったその世界を」「あいつらがこの世界を救ってくれたという“事”はいつだって感じられる」「まだこの世界を立て直すために自分“たち”がやるべき“事”は果てしない」「二人は何となく空を見上げてやるべき“事”を探した」「消えるまでに三回願いを言う“事”が出来れば願いが“かな”うって」

    414“:”悲しみを乗り越えて より
    「アグニに泣き疲れたままの状況で考える“事”ではないのだが」「アッシ、あれだけじゃ何も“わ”からなくって」「だからアッシは、アグニの“事”、責める“事”なんて出来ないでゲス」「シデンの“事”を胸の内に留めたままでも幸福であれるように。アグニはそれを目指して、日々を精一杯に生きる“事”だろう」「アグニが聞く体“制”になったところで」「もしも願いが“かな”うならば、アグニ……」

    415:間に合わせでも より
    「コリンさんに、貴方の“事”を頼まれたんです」「なんなのかは“わ”かりませんでしたけれど、とりあえず、頼まれて……何をすればいいのかも“わ”かりませんでしたが」「私“たち”が一つのきっかけになればと思ったんです……」「こうやって普通に恋人みたいにしていることからも結構“わ”かるけれど」「君はコリン“を”抜けた穴を埋めようとしている」「何も考えずに楽しんでいられれば……幸せな“ふり”ぐらい出来ますし」「と言うのは“わ”かるんだけれどね。オイラも、こうしていると……幸せなのか、悲しいのか“わ”からなくなるよ」「コリンは君の“事”をいい女だって紹介していたし、君だってコリンにオイラの“事”を」「コリンさんも、貴方の“事”は非常に評価しておりましたし」「異性を捕まえてしまった自分“たち”の浅ましさ」「二人で道を“分”かれる時には互いに離れたくないと確かに感じていた」

    最終節:ともに歩む未来 より
    「卒業試験を突破したアグニ達は、初めて顔を合わせた者“たち”と」「シデンが最近見ている悪夢のような状況だったのかは“わ”からないけれど」「シデンはオイラとの再会を望んでいたという“事”は」「自分が悪いことしている“わけ”ではないと“わ”かっていてもソーダに対して申し訳ない」「ソーダが立ち直れたかどうかは“わ”からないが」「会話の内容までは“わ”からないものの」「に“、”しても私“たち”盗賊の被害が海にまで及ぶことがないから」「もうシデンさんの“事”は吹っ切れたのでしょうか?」」「シデンのお墓“まい”りは行く必要なくなっちゃったけれど」「コリンから預かった絵の“事”を思い出した」

    間違いなどがありました。こちらの間違いもあるかもしれませんが…

    未来世界に平穏が戻り、高原で三人が話しているシーンでは、とてもほのぼのした雰囲気で、本当に未来は平和になったのだと感じられました。すぐにドゥーンがログアウトし、二人きりの甘い感じな会話が始まりましたが。
    お互い話したくても話せなかった、内に秘めた想いを吐露し合い、コリンがシャロットを支えて行こうと言うのが伝わってきました。愛について語るシーンでは、叶わない感じがしつつも二人の考え方の違いが分かり、すれ違いそうでもそうならない、そんな感じがしました。
    最期のシーンでは、二人の未来世界に対する想いを願った、ふんわりとした輝かしい感じと、ドゥーンの悲哀を誘うシーンがまざったほのぼの(?)な感じとで幕を閉じ、これから未来世界は平和だろうなと思いました(笑)
    場面が移り変わり、以前の浜辺のシーンへ。その後、フレイムの仲間となり、ソーダとパートナーとなり、成績を上げ独立、やがて二人は交わり幸せな家庭を築き………と思いきやまさかの寝オチwww  まさかアグニの夢の内容だったとは騙されました。
    トキがKYだったのでソーダとは気まずい雰囲気なようですが、シデンとは概ね良い感じな様子。サイモンとリアラにシデンのことを言いに行き、暫く談話。最後はリアラの茶化しと共に、リアラとタバコで〆ると言う… こちらも驚きでした。
    しかし、この描写で新たな春と一緒に新たな物語が始まって行くのが感じられました。


    遅れること1か月以上…orz
    しかしながら、改めて完結お疲れ様でした!
    ――ナナシ ? 2012-08-17 (金) 22:21:33
  • >ナナシさん
    こんばんは、いつもいつもありがとうございます。
    元女性というネタは……まぁ、エンディング後のとあるイベントがらみの事ですw

    さて、ラスボスを強くしたいと思い、シャロットが本気で殺しにかかったりしたときもありましたが、セレビィゴーレムの無い状態で戦いを挑むということは思えばあまりに無謀でしたね。
    そのため、攻略法もたった一つとなってしまい、最後の最後では捨て身の技でコリンをサポートするなど、これしかないと言える状況でした。無茶しすぎですね。
    最後の最後では、皆自分を偽ることよりもみんな素直になれたようです。最後にいいところを持っていくトキ様は……仕様でした。
    楽しんでいただけたようで何よりです。これからもよろしくお願いします。
    ――リング 2012-07-11 (水) 22:12:17
  • 403:幸福を より
    「生焼けの肉をかじりながら、コリン<は>逸る思いを口にする」「なんだ、そんな“事”。“始”めから平等などありはしない」「季節が流れると言えば、私“たち”には魅力的なことだが」「私“たち”が、こんなにも渇望する時の流れを」「そんな風に思う“もの”がいるのだと言う事実を」「私“たち”と、そういった立場にいる者」「私“たち”は平等を求めるんじゃない。私“たち”は幸福を求めるべきなのだ」「まぁ、愚痴を言いたい気持ちになるのも“わ”かる」

    404:頂上へ より
    「そもそも、俺“たち”と言う存在そのものが消えてしまえば」「もし、その時私“たち”という存在が互いに認識“でき”たらですね」「こうやって話すのももうどれだけ“でき”るのかは分からないのだからな」「“わ”かっています。植物が生えないここでは」「有益なこと“をを”考えるでもなく、過去の世界の“事”をぼんやり想い続け、そんな“事”で時間を潰していると」

    405:決戦 より
    「こんな“い”い景色だなんて、良い死に場所じゃない」「ああ、未来のためにな。俺“たち”の戦いも……これが最後だな」「短時間で“ジュプトル”の二本指が悴かじかみ」

    406:滅びの歌 より
    『どうあっても一人で注意をひかなきゃいけないの“「”」』「あの攻撃を、耳をふさいだまま“交”わせるというのか?」「滅びの歌に耐性が“でき”る……それを利用すれば」「“わ”かった、お前の知識に賭けるぞ」

    407:カウントダウン より
    「サポートが期待“でき”ず、コリンは伏せたついでに素早く雪をかぶって隠れたせいで、こちらにも助けは期待“でき”ない」「威力の低下を無かったことにするトキには関係のない“事”らしい」「私“たち”やトキの頭の上」「“わ”かっている。カウントダウンが始まったんだな」「“わ”かってる!!」

    408:命の限り より
    「でまだ立ち上がることすら“でき”ない状態のトキに一撃、ニ撃」「それに気“づ”くか気付かないかのタイミングでコリンは」「コリンを攻撃するべく足を上げたところで“脚”をもつれさせて転んでしまう」「気が“つ”けばこの戦いは、明確な線引きもないままに静かに終わっていた」「自分の体に何が起こっているのかすら“わ”からなくなる中」

    409:傍に より
    「普段ならば何か思う“事”はいくらでもあったのだろう」「取るに足らないような無視“でき”る現象のようにしか映ってはくれない」「どうせすぐ死ぬのだと“わ”かっていても、コリンは二人が生きていたのが“わ”かって目が潤む」「最後の最後で、迷わず、まっすぐに“行”きぬくことが“でき”た」「それが“でき”たのもコリン……お前のおかげだ」「“わ”かっていたことだと言うのもあるかもしれないが」「そうね。地面も燃えてるわ……まるで私“たち”みたい」「コリンが態勢を変える。どうあれ、自分の体も長くないことは“わ”かった」「シャロットが失禁しているのだという“事”が嫌でも“わ”かった」「お前の“事”は余り構ってもやれなかったし、絵を描いてもやれなかった」

    410:奇跡ではない より
    「“わ”からなくったって構わないよ、生きているから生きているの」「今度は仲間“たち”が確かに存在する“事”も確認する」「なんとなく、厳かになる理由も“わ”かる気がする」「再び新たな歴史を歩み始めるには、苦労も多い“事”だろう」「強引に感じさせられている景色は目を逸らす“事”も目を瞑る“事”が出来ない」「便利なので気にしない“事に”する」「お前“たち”にも……また、過去の世界で星の停止を食い止めたお前“たち”の仲間にもな」「もっとも喜びを分かち合いたい者“たち”の名前も顔も」「その腕を拒絶されない“事”を、心の片隅で嬉しく思う」「コリンはシャロットの“事”なんてどうでもよくて」「住人の“事”で頭がいっぱいなだけである“。。”」「もし俺“たち”に礼をするつもりがあるのならば」「極夜の“彼は誰は”すでに黄昏へと移り変わり始めている」

    間違いと、変換忘れだと思われます。

    時の回廊へ向かう一行での転生の話は、ドゥーンの物は悲しいと思いながらもまた現実であるのがグッと来ました。ついでにドゥーンが元女性であったことも… 以前何か言ってましたねそういうこと。
    トキが回廊へと攻撃している所へ奇襲して始めは掴んだものの、時の回帰による再生はやっかい極まりないですね。攻撃し続けても立ち上がり反撃して来、その手も緩むことはないわけで。三人の焦燥感が伝わってきました。
    滅びの歌での攻略も本当にギリギリで、三人が助け合ったからこそ掴めた勝利だったと思いました。ドゥーンもシャロットも無茶しやがって…(
    戦いの後に訪れる消滅の時。ドゥーンのセリフに本当に感動しました; ホント良い人でした…。根っこは変えられないね
    コリンとシャロットの会話も実に感動で、特にシャロットが朝日が昇るのを見れたのが来ましたね…… 最後の最後に世界の素晴らしさを知ることが出来て良かった…そう思いました。
    安らかに眠れ…って本当に思って、三人はこの世界に再び復活することが出来、過去世界の皆に自分たちのことを伝えるシーンはこれまた感動です。原作のこのあたりは目からハイドロポンプ出せそうですね。トキさん良いとこ持っていきおったよまたしても…

    いよいよ終盤で、新しい方にもそのうち伸ばすと思います。それから、三人が消えてしまうシーンでは最後よりも最期の方が良い気もしないでもないのですがどうでしょう?
    ――ナナシ ? 2012-07-10 (火) 15:53:48
  • >ナナシさん
    こんばんは、誤字報告ありがとうございました。398節のアレはただの表現です、はい。

    ドゥーンもついにデレました。色々と思うところはあるのでしょうが、迷った末に答えを出すことが出来ました。その後は互いに照れ隠しで演技がかったセリフの応酬ですが、二人もいろいろ恥ずかしいので勘弁してあげてください。強がりなんです。
    その強がりも、本音で語れるコリンと二人きりだとそれほどないのですがね。

    お察しの通り、7月から小説の更新も再開です。頑張ります!
    グサッ>(推敲も)
    ――リング 2012-07-02 (月) 20:31:48

最新の12件を表示しています。 コメントページを参照


*1 輪っか状になっている銀貨。体積の少ない輪っかである上に不純物が多いので、銀貨の中ではかなり価値が低い
*2 ダンジョンの階層を移動する穴。探検隊の間で便宜上そう呼ばれているが、一方通行のワープゾーンと言った方が正しい

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Last-modified: 2011-06-26 (日) 00:00:00
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