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廃墟の洋館

/廃墟の洋館

駄文執筆者 文書き初心者
※獣姦の描写があります。苦手な方はご注意下さい。


 本を買った。

 唯なんとなく、取留めもなく、本が並べられた陳列棚を眺めながら周囲を徘徊する。
 今日は友人と共に、久し振りに騒ぐ予定なのだが、当初の集合時間よりかも早く約束した場所に着いてしまったので、退屈凌ぎと言う訳でこの本屋へと入店した。
 その為、本を買う目的なんかはありやしない。そこはかとなく本を手に取ってはパラパラとページを捲るだけで直ぐに元の場所へと戻す。
 その行為を繰り返す中、そろそろ集合場所に戻ろうと思った頃合に、とある一冊の本が目に入った。


 それの所為で俺の運命は大きく変わってしまった。



 廃墟。その言葉の響きには物寂しげな印象を露としている。多くの人はそれを思想させていく。
 人々から壊されることなく、ただ見捨てられた建築物は時を経て風化等で朽ち果てていき、やがて自然へと還っていく。その過程にあるのがこの廃墟である。
 ついこの間までは人が生活していた。しかし今はもうそれが無い。その事はいかにも静かで淋しいが、そんな中でもそこにまで達した歴史と言う趣がある。長い年月をかけて自然と崩れていく建造物、しかし内部は時間が止まったままなのだ。例えば、きっとまた着るであろう部屋に干された洗濯物、中途半端に何かが書かれたノート、針が静止し時を刻めなくなったアナログ時計。食事をしようとしたのかテーブルに羅列された食器――――
 廃墟の魅力を、俺は先日買った本によって叩き込まれた。ページを捲る度々に神秘的な光景が目に広がってくる。少し触っただけで今にも崩れてしまいそうな建物、誰からにも見捨てられて、人だけがもぬけの殻となってしまった島。嘗ては研究所で栄えていたと言うカントーのポケモン屋敷。幻のポケモンがいると伝えられているジョウトの焼けた塔。不法投棄されて誰も顧みないホウエンの捨てられ船――――

 本の解説を読みながら、写真越しにそれらの光景を傍観するのはいつしか日課となっていた。解説を通して筆者の伝えたい見解をふつふつと頭で解くのではなく心で感じる。
 友人からは廃墟が好きだなんて変人だと言われたが、別に俺はそれでも構わない。この廃墟の魅力さえ感じればそれだけでいい。それに人間なんて多種多様なのだから、何かしらのズレが生じても仕方がない。
 今日もいよいよ佳境へと突入する。カントーのポケモン屋敷の頁へとたどり着いたのだ。外見は至って普通な屋敷、しかし時と伴に老朽化を見せている。内部にはあちこちに放置された帳簿には、幻のポケモンに関するものが記されている。塗装の剥げた銅像には何かしらの細工が施されており、機密な部屋のドアを施錠するのに使われたのであろう。また割れた窓やその破片の多さには危険な実験を行使したのを物語っている。
 それらを眺めながら廃墟への思いを馳せていく。いつの日かこれらの廃墟を訪れてみたいとも思う。
 そして、頁を捲る。
 すると、ただ外から見ただけの廃墟が現れる。建物の内部に関しての写真は一切無く、また解説も記されてはいない。鬱蒼とそびえるその廃墟の写真だけで頁を占めている。
 シンオウのとある洋館。
 その頁の見出しには“森の洋館”とそれだけ書かれていた。


 廃墟を単なる心霊スポットと見做してはいけない。そして興味半分に迂闊に立ち入ってはいけないのである。誰にも手入れをされていない廃墟は未知なる危険で一杯なのである。
 例えば、腐ったフローリングの上を歩くのは脚を踏み外しても構わないと認めている事と同義だ。


 俺が生まれる前に、この“森の洋館”に関する特集がテレビと言うメディアを通して全国的に放送され、空前絶後の話題となったらしい。だが、そのテレビ局は単なる嘘に嘘を重ねただけの物を放映したらしく、騙された人々にとっては熱を冷ますきっかけとなったようだ。廃墟好きの集まる電子掲示板で得た貴重な情報である。
 しかしながら、それで終わりと言う訳では無い。なんとこの洋館に近年、ひとりの人間がひっそりと住んでいたと言う説があるのだ。この情報は心霊スポットに関するホームページから得た情報だ。
 廃墟=心霊スポットではない。しかし知識を得るためにはそれの方が反って都合が良いのだ。
 未だ嘗て誰もが足を踏み入れた事の無い未開の地“森の洋館”危険な匂いを漂わせている。
 だけど、それを証明してみようではないか。未知の領域と言う事で俄然と燃えてくるし、そろそろ廃墟に足を運びたいと思っていた時期だ。自分が住んでいるシンオウと言う事もあって、その地を訪れるのは容易である。
 俺は早速インターネット上で廃墟探検家が集まるサイトで一緒に来てくれる方を募る事にする。一人で行くよりかは、二人から四人いる方が安全だし、何より生存率が高くなる。また、ポケモンを所持している方なら尚更良い。
 そのサイトに募集をかけた後、俺は身仕度を調える為に家を後にした。


 それから一週間後、俺は噂の洋館があると言う、ハクタイの森をひとりで訪れていた。
 揃いに揃えた服装は俺あたかも山にでも来ているかの様で、長袖の服、長ズボンは勿論の事、工場で勤務する様な人が使うワーク用手袋、言い換えれば合革手袋を手に身に着けて、山登りに行く人が履くトレッキングブーツを履いている。更には荷物を最小限に抑えたリュックサックを背負っている。
 やはり初心者の俺に同行してくれる程、現実はそんなに甘くはないらしい。それに行く場所があの洋館だから尚更気乗りしないのかも知れない。
 とにかくそれは別として、太陽が出て間もない朝に森を歩くのは涼しくて清々しい。また誰もいないと言うのが、この森を独り占めしたようで気持ちが良い。その為、今度から森林浴も日課にしてみようかなと考えてしまう。
 そしてそんな他愛も無い考えをしている内に右手側に例の洋館が現れた。壮大な森と同化するかの様に鬱蒼とそびえ立つ洋館は、朝だと言うにも関わらず写真で見た通りの不気味さを漂わせていた。

 遂に来てしまった。
 洋館の真正面に立つと改めてそう感じる。
 先程から自分でも感じるくらいに心臓を打つ音が忙しくなっている。水を少し含んだとしても喉がカラカラに渇いてしまう。それほど俺はこの洋館に怯えていた。
 俺は心の何処かで廃墟を甘くみていたのに違いない。だからこんな状態に陥っているのだ。
 もう帰ろう。ここまで来ただけでも充分だ。
 そんな弱音が心の中で自然と零れた。
 俺はその弱音に従うかの様に、一歩後退りする。更にはもう一歩。まるでこの洋館から逃げるかの様に。
 そして遂には洋館に対して背中を見せようとした瞬間、
 折角、ここまで来たのに何してるんだ俺は。
 突如、前の弱音と対になる言葉が心の底から込み上げてきた。今まで逃げようとしていた俺にはそぐわないものである。
 そして俺は後退させていた足を一歩一歩前進させていく。以前の気持ちとは嘘みたいに軽い足取りで進んでいく。あたかも誰かに導かれるかの如く。
 遂に洋館のドアノブへと手を掛ける。ゆっくりと慎重にノブを回す。ドアを開く時もまるで割れ物みたいな扱いをしながら、軽率には開いたりはしない。
 人間一人が入れるくらいまでドアを開けたら、ズボンからドアストッパーを取り出して、それでドアが閉まらないように固定する。こんな事をするのは帰る際にドアが開かなくなったら、出る事が出来ずシャレにならないからだ。
 そして、俺は問題の内部へと足を一歩踏み込んだ。

 入った途端、俺の嗅覚に異変が起きた。
 予測の範疇を越えた細かい塵の匂いに俺は思わず鼻を手で覆った。
 流石は廃墟、と言った所か。床を見る限り、埃が溜まっていて掃除なんかろくにされてはいない。それも一歩踏んだだけで足跡がつく程酷い有様である。
 生憎、マスクは持ってきてはいない。この匂いに鼻が適応するくらいしか術はない。まあ、馬鹿みたいに深呼吸でもしない限りどうにかなるだろう。
 取り敢えず、辺りを見回して建物の内部を把握してみる。状態はなかなか良い方で窓や壁の破損は特に見当たらない。建物に日光が充分差し込んでくるので懐中電灯を使わなくても良さそうだ。
 問題はやはり所々剥げている床であろう。踏み外して大怪我の道を辿らないように、足元には慎重にならなければいけない。
 二つある階段はお互いを睨み合っているように対となっている。そこから二階へと行けるようだ。今はまだ二階へは行かずに目の前の部屋に入れることにしよう。二階はそれからだ。
 目の前にある部屋の入口の脇にはぽつんと一つだけ置かれている銅像がある。何のポケモンを象ったのかは分からない。だが銅像から妙な視線を感じる限り、不法侵入者の俺を良く思ってはいないだろう。
 俺は足元に細心の注意を払いながら、一歩ずつ床の状態を確かめながら進んでいく。俺の脇に銅像が睨んできたとしても構わず、足取りを慎重に運んでいく。そして俺は吸い込まれるかのように、部屋へと入室した。

 部屋に入って先ず目に入ったのは薄汚くなって黒ずんでしまった白いテーブルクロスが敷かれた豪勢なローテーブルであった。よく映画とかで貴族の人達がずらりと並んで食事をしたりする奴である。庶民の俺とは無縁なものだ。
 テーブルクロスには所々に黒い染みみたいなのがある。しかし、料理を零した染みかと言うとそうではなさそうな気がする。……あまり考えたくはない。
 ローテーブルの上には等間隔に三つの燭台が置かれている。現役時代は柔らかな灯で食事の雰囲気を盛り上げたのであろう。
 椅子はローテーブルと比べて見劣りする背もたれが無い形である。
 ふと俺は、ローテーブルを周り、椅子の数を数えてみる。すると、十四もの椅子が置いてある事に気付いた。結構大家族であったのか、はたまた椅子を綺麗に並べて見栄えをよくする為なのか。
 部屋の隅に飾られた二つの観葉植物は枯れる事なく鮮やかな新緑を保っている。こんな悪環境の中で自然の凄さを垣間見た。
 次に俺は厨房へと足を運ぶ。キッチンは勿論の事、ゴミ箱が無駄に三つ、冷蔵庫が二つに、テーブルクロスの敷かれたテーブルが三つ置いてある。更には未開封の段ボールが二つ。
 三つあるテーブルのうち二つは埃が乗った皿が三枚ずつ置かれている。その内一つのテーブルに敷かれたテーブルクロスには先程のローテーブルクロス同様の染みが目立つ。
 三つあったゴミ箱の一つには無造作に捨てられた毒消しがあった。――毒消しか。こんな所に捨ててどうするつもりであったのか。それとも此処に隠したのか。考えれば考えるほど謎めいていく。
 冷蔵庫は流石に開けるのに気が引ける。冷蔵庫の中身にある食べ物が腐っていたら、更に嗅覚が終わりそうだ。
 段ボールは未開封だからそのままにしておこう。器物破損になってしまう。――とはいってももしも警察にばれたら、不法侵入で罰せられるのは決定だが。
 その後、俺は厨房の反対側にある食器棚に疑問を持ちながらも、食堂であったろう部屋から退室した。

 部屋から退室した途端に右手の方から何か得体の知れないものが目に入った。それに対して俺は思わず、悲鳴を上げて反応してしまう。
「うわあああっっ!」
 洋館の静寂を破る。
 心臓の鼓動が加速していく。鼓動は早い間隔で刻み、平常心なんか保っていられなかった。
 しかしその得体の知れないものを改めて確認すると、
「――ってさっきの銅像か。驚かせんなよ」
 銅像だったのだ。
 数十分前に一度目にした筈であったのに、すっかり頭から飛んでいた。お陰でこんなのに驚いた俺は馬鹿だろと頭を抱えたくなる。
 なかなか心臓の打つ音が平常に戻らない。しかし、この緊張感は持っておいた方が良いだろう。そうで無いと、またこの様な局面に陥ってしまう。
 銅像の前を通り過ぎて、俺は銅像の近くにある階段の前に立つ。ちゃんと安全に上がる事が出来るか見渡して確認し、神経を尖られながらも足を置いてゆっくりと上がる。床の感覚を噛み締め、踏み外す事の無いよう努める。命有ってこその廃墟探索だ。
 遂に階段を上がりきる。
 手摺に一部破損が見受けられたが、階段自体の強度には何ら問題は無かった。しかし、帰るときもこれ位慎重にならなければならないと考えると、精神的に参る。
 まあ、新たな階層だ。これからの散策に自然と期待が込み上げてくる。

 二階にあった階段付近に設けられた二つの部屋は一つは物置と化した場所、もう一つは書斎であったろう場所だった。
 それらの場所には決まって、ポケモンに関する本が置いてあり、嘗ての主人は余程ポケモンが好きであったように思われる。今や廃刊になってしまった「ポケモンの友」を始め、「ポケモン手帳」、「可愛いポケモン」等が本棚に並べられていた。
 ――そういえばポケモン好きと言えば、ここの洋館よりも勝るヨスガシティの外れにある屋敷の主であるウラ、ウラヤ……駄目だ、思い出せない。とにかく、その主人もポケモン好きであったような気がする。何か関係でもあるのだろうか。今度、その人にこの洋館について尋ねてみても悪くはないだろう。

 やはりこの洋館はシンメトリー、即ち左右対称になっている。
 二つの階段の丁度間、二階の真ん中に設けられた入口に入った途端、改めて実感した。
 この廊下は五つの部屋を繋いでいる。しかしただそうしている訳では無い。それらを均等な間隔で結びつけているのだ。となると一番真ん中の部屋が中心であり、この洋館の秘密を握っているに違いないのだ。
 俺は迷う事なく目の前の部屋、つまり中央の部屋へと入室する。
 この選択が過ちだとは気付かずに。

 入った途端に猛烈な違和感を覚えた。
 この洋館の部屋とは思えない程のとても奇妙な感じ。それが何なのかは明白には表せない。唯、俺の直感がそう感じ取っていた。
 しかし、それとは打って変わって、この部屋はベッドが二つ並んで置かれた至って普通の寝室だ。窓際の隅に置かれた本棚も二つ対称となっている。
 相変わらず心に何かが引っ掛かるのだが、取り敢えずは本棚に並べてあるものを確認する。背表紙が薄い本がずらり並べており、その内一冊に手を掛ける。凄く痛んでいるから、慎重に取り出して、手に取ってみる。
 絵本だ。
 表紙の方はよく分からない。マジックか何かでぐちゃぐちゃに書きなぐられて題名すら読めなくなっている。恐らく、嘗て住んでいた此処の子供が落書きしたのだろう。
 俺はその絵本を広げてみた。
 ひとと けっこんした ポケモンがいた。
 ポケモンと けっこんした ひとがいた。
 むかしは ひとも ポケモンも おなじだったから ふつうのことだった。
 そこには何処かで読んだ事のある文章が並べられていて、陳腐な人と四足歩行のポケモンの影が描かれている。
 それで終わりかと、次のページを捲ると、
 いまもなお ひととポケモンが けっこんしている。
 何とも拙い字、まるで子供が書いたような字面だけが並べられていた。
 ――いやそんな筈はないだろう。何を語っているんだ、この絵本は。
 ポケモンと人間なんか話せる訳が無いから結婚とは程遠いし、人間がポケモンをモンスターボールに入れてる時点で主従関係が成立している。……まあ世の中には人語を話すニャースとかいたり、ポケモンをボールに入れない人達もいるけどさ。
 そう思いながら絵本を静かに閉じ、元あった場所に戻す。結局目新しいものは見つからなかったなと、違う部屋を探索しようと振り返った瞬間に、
「初めまして、侵入者さん」
 出口付近に一匹のポケモンがいた――――
 俺は度肝を抜かれた。
 今まで背後に気配なんか感じなかったし、そもそも根本的に洋館に来てからは、誰かがいる気配なんか皆無と言ってよかった。しかも普通なら喋る筈がないポケモンが俺に向かって、言葉を発したのだ。
 そいつは薄紫の体毛に、先が分かれた二股の尻尾。少し大きめの耳に、額には赤い宝石みたいなものがあり、四足を地面に着けている。
 またもや心臓を叩く音が乱れていく。今の俺は心に緩みなんてものは無かった。
 ――どうする、この状況。逃げると言っても出口は塞がれてしまっている。かと言って、窓から飛び降りて脱出を試みたいが、此処は二階だから命の保障は無い。
 俺は張り詰めた緊迫感の中、必死に思考回路を張り巡らせるがこれといった最善策が浮かばない。そんな最中に、
「そんな恐い顔しないでよ。別に私は貴方を取って食べるつもりは無いから」とポケモンは訝りたくなる言葉を発する。
 ――冗談だろ。こんな廃墟の洋館に佇むポケモンなんかただ者とは思えない。
 俺はズボンの両方のポケットから収縮しといたハイパーボールを両手の掌中に納め、両方の人差し指でボールを膨張させる。そして、それらをあのポケモンに向かって投げつける。
 俺が取った最後の手段。
 ポケモントレーナーでない俺はポケモンを持ち歩いていないから、対ポケモンに関しては、捕まえるぐらいしか出来ないのだ。
 順調に放たれた二つのボールがそいつに近付いていく。そして当たるかと思えば、
 突如、ボールが空中で静止した。
「……え?」
 俺は思わず、頓狂な声を上げてしまった。
 自分の目を疑いたかった。確かにボールは運動をしていた。それなのに今やびくともしない。
 静止したボールはやがて自由落下をする。床に叩きつかれ、幾度かバウンドをすると、今度は床で静止する。
「私にやっても無駄なのに……。下手な労力は使わない方が良いよ」
 そう言った後、そのポケモンは、はあと溜息を一つ零し、呆れた様子で俺の事を見ていた。
「何なんだ……お前は……」
 怖じ気つきながら、俺は窓際に後退りする。少しでも、こいつから距離を置いて離れたかった。
「お前じゃなくて、エーフィ。ひとに名前を訊くときは普通自分から名乗るものでしょ、――さん」
「――! どうして俺の名前をっ!」
「私はエスパータイプなんだよ? それくらいの事は容易いの。このボール同様にね」
 エーフィは足元に落ちたボールを前脚で俺の方に向けて転がす。対する俺はエーフィに警戒はしながら運動しているボールを横目で眺める。
 ――そうか、だからボールがあんな事になったのか。物理法則を無視したのは、それなら合致がいく。……いや、待てよ。運動を止める事が出来るのならば、行動の束縛だって容易に――――
「はい、ご明察有難う御座いました。……でも、今更気付いても遅いけどね」
 そう言って、エーフィは舌をペロっと出しながら、悪戯っぽく妖しい笑みを浮かべる。
 ――おい、まさか。
 予想的中した。身体が全く動かない。
 これが自分の身体とは思えない。だって、指一本すら動かないのだ。まるで、四肢なんかついていないんじゃないかと思いたくなるくらいに。俺の自由は奪われてしまった。そして俺の命でさえも天秤にかけられてしまった。
 見えない何か、恐らく念力によって、俺の身体がひょいと軽々に持ち上げられる。先程のボール同様に空中を静止する。肩にかけていたリュックや手袋、ブーツをするすると脱がされて、素足、素手となる。そして最後に俺の身体はベッドに目掛けて、放物線を描く斜方投射される。
「うわぁっ……」
 ドスンと鈍い音を響かせて、仰向けに倒れた。ベッドと言えども、背中を打ったために少し痛む。
「……ちょっと手荒だったかしら」
 やった本人はそんな事を言いながら、のんびりとベッドに登ってきては、前脚を俺の胸に置いてくる。エーフィにのしかかられて、顔色を覗きこまれる様な形となる。
「エーフィ、俺をどうするつもりだ……」
 どうやら口は動かす事が出来るらしい。先程に漏らした喘ぎ声でその事態に気付いた。
 俺の言葉にエーフィは、先程と同様に妖しく微笑みながら、
「このベッドを鮮やかな真紅で染めようか? 貴方の生血で」と俺の首筋をゆっくりと舐める。
 その言葉を聞いた瞬間、俺は肝を潰した。
 ――嫌だ。まだ死にたくはない。
 命を落とすかも知れない、それを覚悟してこの廃墟に入ったのだが、この後に及んで、自分の命が惜しくなる。
 俺は最後の抵抗として、ひたすら手や足を動かそうとする。が、ぶれることすら無く、身体が言う事を利かない。
 エーフィは顔を強張らせた俺の表情を見るなり、
「いくらなんでも冗談よ。私に殺しの趣味なんか無いんだから」と俺の事を嘲笑う。更にその言葉に付け加えて、
「まあ、こういう所がお母さんに似てるのかな。お父さんとした時は強引にやったって言うし……」とそれを俺に言うと、エーフィは顔を俺に近付けてきてくる。
 俺はエーフィが何をするつもりなのかと考える。目を瞬きした束の間には、口と口が重なりあっていた。
 訳が分からなかった。
 どうして俺は初対面の奴と、キスをしているのだろうか。それも相手は人間ではなくポケモンだ。
 先程までエーフィは俺の事を嘲笑っていたのに、今はもう違う。頬をほんのりと赤く染めて、とろんとうっとりした目差しで俺を見つめてくる。
「ぁむ……っはぁ」
 遂には舌まで絡ませてくる。最早幼稚的なものではなく、本格的なものへと変わった。
 拒むことが出来ない俺はひたすらエーフィに弄ばれる。まるで玩具のように。
 暫くして、エーフィが口を離し、漸く口が解放される。その際に混じりあった唾液が俺の口元に垂れた。
 何だか頭がボーっとする。思考回路なんて働かないくらいに。理性なんて何処かに飛んでしまいそうなくらいに。
「理性なんかどうでもいいのよ。……本能に従えばね」
 今の俺を見透かしているかの様にエーフィは答える。そして手を緩めること無く、ズボンのファスナーを念力で動かして俺の肉棒を外気に触れさせる。
「やめろ……」
「やめろって本当は望んでいるんじゃないの? こんなに大きくしちゃってさぁ」
 エーフィは躊躇することなく前脚で肉棒に触れる。ぐりぐりと押しつけてくるものだから、肉棒は硬くなるをするしかない。
「結構敏感なんだねぇ……。これなら苛めがいがありそう」
 何か目論みでもあるかの様ににやりと妖しく笑いながら、エーフィの特徴である二股の尻尾を俺に見せびらかせるようにゆらゆら揺らす。
「この尻尾、色々と便利なんだ。こうして自分を慰めたりとか……」
 二股の尻尾がエーフィの秘部へと近付いていく。そしてぴったりとくっついたと思ったら、秘部を擦るように尻尾が動く。するとエーフィは甘ったるい声を上げて善がる。まるで俺に見せびらかすかの様に。
「あっ……ぁあ」
 その淫らな光景に、性別上牡である俺にとっては、どうしても視線が尻尾が蠢いているところに移ってしまう。恥部から溢れてくる愛液は、エーフィの尻尾を湿らせていく。でも数分も経たない内に止めてしまった。
「こうやって、扱いてあげることだって出来るんだよ」
 俺の肉棒にエーフィの尻尾が近付いていく。そして二つに分かれている股の部分に肉棒が挟まれる。そして器用に尻尾で肉棒を扱き始める。
「うぁ……っく……」
 全く味わったことの無い新鮮な感覚に、俺は喘ぎ声を上げることしか出来なかった。自分でやるのとは違うものだから、気持ちが良い。それによって益々理性は欠け落ちていく。
 肉棒の先端から透明でぬるぬるとした液体が溢れ始めていく。止まることは無く、絶えず絶えず液体は湧いてくる。
「さっきまで拒んでいたのに、もうお手上げなのかな? 意志が弱いねぇ」
 エーフィの挑発的な言葉に、俺は反論出来なかった。その事に悔しいとかの感情なんてものは無く、背徳であろうと何だろうと、最早この快感さえあればそれだけで良かった。
 エーフィは何も言わない俺に対して、
「まぁ貴方だけ気持ち良いのも不公平だから、私にも味わせてよね」
 そう言って、今度は扱くのを止めてしまう。名残惜しいと思った矢先に、尻尾で肉棒を根元からしっかりと動かないように固定する。そして、肉棒の真上には恥部が来るように、エーフィは身体の位置をずらす。
 キスの時同様に、胸に前脚を置かれて、エーフィに俺の身体を跨がれる体勢となる。
 そしてエーフィはゆっくりと腰を下ろして、恥部と肉棒との距離を縮めていく。やがては恥部と肉棒が触れ合う。
 ――早く入れてくれ。
 肉棒が恥部に飲み込まれる寸前の所で、中断されて気が気じゃなくなる。あのエーフィ相手に懇願の目差しで見つめてしまう。いまの俺に冷静と言う言葉は無かった。
「少し我慢しなさいよ。……私だって初めてだから怖いんだから」
 エーフィはすぅはぁ、と一旦、深呼吸をして気持ちを切り替える。そして、再び腰を下ろし始めた。
 少しずつ肉棒が熱い何か、壁とでも言うべきものに包まれていく。愛液という潤滑油によって、円滑に肉棒が恥部の中へと入っていく。
 それの際に、エーフィは時々苦しそうに喘ぐ。決して楽ではない苦い表情を浮かべながら。
 その光景を見ていると、エーフィがどうして俺と交尾をしたいのか分からなかった。初対面である筈の俺なんかと。
 そんな事を考えていると、もう肉棒の姿は見当たらない。エーフィの肉と俺の肉とが触れ合っていた。
 はぁはぁ、と息を切らしながら、全身を汗でびっしょりと濡らすエーフィ。余程、辛かったのに違いない。
「……じゃあ、動くから」
 そう俺に一言告げて、エーフィはガクガクと不安定な脚取りで、腰を上下に動かし始める。エンジンのピストンみたいな動きで。だけど、エーフィの苦しげな顔色は相変わらずだった。
 反対にエーフィが動く度に、俺は肉棒から快感が伝わってくる。肉壁にきゅうきゅうと締め付けられ、膣奥を幾度となく突く。その際にエーフィは置いて、俺は独りで善がってしまう。
「ぃっ……っつぅ……」
「っぁあ……うぁっ……」
 両極となる二つの声が入り交じる。更には営んでいる事を表しているベッドが鈍く軋む音も定期的に刻まれる。この部屋は不協和音で満ち溢れる。
 窓から差し込む太陽の光は、身体を重ね合う俺達の影を描いている。それは俺達の営みと呼応して動いている。その影は絵本にあった影絵を想起させる。
「ひゃあっ……ぁあん」
 漸く肉棒を拒む苦しみから逃れたのか、嬌声を上げるエーフィ。心無しか表情も緩んで、峠は通り過ぎたようだ。
 そうすると、交尾は激しさを増していく。決まって慎重に動いていたピストン運動が、力加減なんて無視をして乱雑なものへとなっていく。俺達は快感に飢えていた。自らが絶える事の無い快感の渦に飲み込まれようとしている。
 真夏の昼の部屋。
 まるで其処にいるのではないかと思いたくなる。身体全身から汗が滲みでる程に熱くて熱くて堪らなく、唯一喉の渇きを潤すのは口付けの際に交換する互いの唾液のみ。それを求めていつまでも口を重ね続ける。

 俺は飢えた太陽の虜であった。

 遂に営みも佳境へと向かっていた。
 度重なる快感の所為で肉棒は欲望を吐き出そうとしている。対する俺もその際に訪れるであろう刺激が欲しかった。
「たっぷり中へと出してぇっ……」
 そう言って彼女は、それを促すかの様に肉棒を蠢く肉壁で締め付けてくる。
 それの所為で俺はもう耐えきれなかった。熱くてどろどろした液体を彼女の中へとぶちまけた。また、彼女も同時に気でも狂ったかの様に突然身体を大きく揺らした。
「「ぁあああっっ……」」
 二重に重なる音声、悦楽に満ちた喘ぎ声。それは部屋にきんと響き渡るまるで耳鳴りの如く。
 彼女は身体を前に倒して、身を俺に委ねる。俺もいつの間にか自由になっていた腕を、彼女の背中に回して抱いてやる。
 何故そうしたのかは分からない。
 でも確かに俺の心は彼女が好きだ、愛していると訴えていた。この気持ちに嘘はない。
 彼女が孕むのはほぼ確実だろう。何故ならば結合部からは収まりきらなくなった俺の精液が溢れ出るくらいだからだ。おまけにそいつらはベッドのシーツに特有の卑猥な染みと匂いをつける。
「これからいつまでも一緒だね。旦那さん」
 彼女はそう言って、俺に向かって、太陽みたいに眩しげに微笑む。俺はそれを見ただけで、彼女の事が愛しくなり、先程よりも力強くぎゅっと抱く。
 そして、契りを交わした所為か、疲れて段々瞼が重たくなっていく。
「疲れたでしょう? 今はゆっくり休もうね」
 そう言って前脚で俺の頭を撫でて、睡眠を促す彼女。彼女に言われるがままに、俺は瞼をゆっくりと閉じる。そして徐々に意識は夢へと落ちていく――――

「本当に、これからずっと宜しくね。――メロメロにかかった私だけのお人形さん」

 何処かでそんな言葉が聞こえた気がした。



後書き
駄文の御愛読有難う御座いました。
序盤の描写はいらないのではないかと執筆完了後に気付きましたw 折角書いたので削除はしませんでしたが。
この駄文を読んだからって廃墟に訪れるようなことはしないようにお願いします。命の保証は絶対出来ないです。ちなみに廃墟に関する本は真面目に店頭で購入可能です。
今回の駄文は森の洋館の続編的な位置付けとなっています。
類似作である永久の夢に関しては森の洋館の平行世界となっています。人間が暴走するかポケモンが暴走するか、あとはバッド、ハッピーエンドかの違いだけですw
草とかエスパーは束縛できる技を持っているので怒らせると酷い目に遭うのではないかと思う今日この頃w
メロメロも用法、要領を守らないと感情の抑圧となりますね。好きでもない筈なのに、好きになっているとかある意味怖いです。


感想、コメントご自由にどうぞ


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Last-modified: 2014-04-01 (火) 09:31:00
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