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幼なじみは花嫁に

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~~~注意~~~
こちらはR-18作品です。
深刻ではありませんが、特殊な官能描写も複数含まれます。
寛容な方のみご覧ください。
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「では、指輪の交換を」
 よく通る声で促したピクシーの神父から、新郎のフシギバナが(つた)でそれを受け取った。きらりと輝く大粒の光の石がはめられた、結婚指輪。丁重にそれを握った蔦の先が、ゆっくりと花嫁に差し出される。目の高さに吊るされたリングをしずしずと受け取ったロゼリアが、丸い光に包まれた。
 光の中で、ロゼリア――スカーレットの姿が変わってゆく。みずみずしい両腕のバラは3本ずつの花束へ、頭のつぼみは純白の一輪咲きに。首元から背中に伸びる葉のドレープは、まるで騎士のマントがひるがえるよう。聖堂の白いステンドグラスの輝きを浴びて、彼女はより美しく佇んでいた。ロズレイドに進化を遂げぐっと高くなった朱の瞳は、相手のフシギバナを柔らかく見つめていて。
 視線の合ったふたりは、吸い寄せられるように誓いのキスを済ませていた。割れんばかりの拍手喝采の中、参列者のベンチに座っていたマリルリのアズマは、うわの空でその光景を眺めていた。

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幼なじみは花嫁に


水のミドリ

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 きっかけはちょうど1年前、アズマの住む島に大嵐が直撃したことだった。沖に出ていた漁船は壊滅、角材を筋交いに補強していた家々も吹き倒されてしまった。収穫前のオリーブもたわわに実ったブドウ畑も、すべて根こそぎさらわれていった。
 島が悲嘆に暮れるなか、被害を聞きつけた領主のドクダミが慰問に訪れてくることになった。大陸の港町から半日をかけて駆けつけたフシギバナに、島民はどれだけ救われた思いだったか。その晩、酒の席で酌を任されたのが、スカーレットだった。領主から見初められ、それから婚約までとんとん拍子で話が進んでいった。
 そうして1年かけて島も復興を果たした今夜、スカーレットの披露宴がめでたく催されている。ドクダミとの馴れ初めと同じ村の集会所、そこでアズマはしきりに料理を運んでいた。すっかり領主と打ち解けた海の漢たちはみな大酒食らいで、豪快に笑っては次々とワインを酌み交わす。前年の活気を取り戻すような馬鹿騒ぎだった。フシギバナと席を同じくするマリルリの両親に「あんたもスカーレットちゃんみたいな良い娘を早く見つけなさい」と耳打ちされて、アズマは無い首を引っ込めた。思わず彼女の姿を探したが、相手方の親族へ挨拶に回っているのかどこにも見当たらなかった。
 あれこれ雑用を任されて、ようやく解放された時にはすでに陽が沈み始めていた。宴会は日付が変わる頃まで続けられるらしい。せめてもの、と引き出物の余りから山盛りのモモンの籠を拝借して、アズマはひとり喧騒から遠ざかっていく。両親と暮らす彼の家は、集落の中心から東にすこし外れた入り江の近くにあった。バスケットを左脇に抱えて、アズマはくさくさしながら木の実を口に運ぶ。
 手押し車が交差できるほどの小路(こみち)、ひとり進む丸い背中を、西陽が慰めるように撫でていた。澄んだ赤紫に染まるブドウ棚も麦ひきの水車小屋も、スカーレットの縁談がまとまってから設えられたものだ。この島に領主が良くしてくれるのも、島民が災害から立ち直れたのも、すべて彼女のおかげだった。
「……なんだよ」
 アズマはつまらなそうに呟いて、もうひとつモモンに手を付ける。やるせなさを飲み込むようにかぶりついた。家に着くまでの30分で、籠の中身がすべて消えてしまうペースだった。
 3つ目を胃袋へ収めようとしたところで、その腕が止まる。落とした視線の先に留まったのは、ぽよっと飛び出したアズマの腹まわり。柔軟性を主張する泡模様と右手のモモンを見比べて、小さな溜め息をひとつ。バスケットへ木の実をそっと戻した。
 小走りで到着したアズマの家は、小屋と呼んでも差し支えないほどの小さな平屋だった。修繕の跡が残る木のドアをそっと開け、後ろ手に閉める。闇のはびこる両親の寝台を横目に、アズマは玄関わきのはしごに手を掛けた。耳で籠を頭に押さえつけて、屋根裏へと上っていく。壁をくりぬいて蝶番で窓を取り付けただけの狭いスペースが、彼の寝室だった。
 斜めにかかる屋根板でモモンを潰さないよう気を付けながら、慎重に天井へ這いあがる。サイドテーブルに籠を置こうと窓辺に目をやって、アズマは固まった。
 木組みの大箱に藁を敷き詰め、上からリネンのシーツを敷いただけの簡素なベッド。そこに腰かけて、ロズレイドが暗がりから窓の外を眺めていた。
 どさ、と、バスケットが滑り落ちた。気づいたスカーレットが振り返って、意外そうな顔をする。
「……どーしてあんたがここに来るのよ」
「声もかけずに入っちゃってごめん――じゃないよ、ここ僕の家! 勝手にあがらないでって何回も言ってるじゃないかっ!」
 いつもの調子で、彼女がそこにいた。聖堂に立つ花嫁姿からは想像もつかないような棘ついた目線で、アズマを見据えていた。
 先の大嵐でスカーレットが両親を失ってから、近くに住むアズマの部屋へ忍び込んでくることが多くなった。半壊した彼女の家でひとり眠るのは寂しいだろうとアズマも拒まなかったが、彼女は(つる)を伸ばして*1ベランダもない窓へよじ登り、いきなり屋根裏へ飛び込んでくるのだ。ずかずかとベッドに根を下ろすせいで、アズマはおちおち眠れもしない。寝台の硬いふちにもたれながらまどろむ毎日だった。
 それでも前日までは小さなロゼリアだったからまだ広かった。進化してアズマほどの背丈に成長したスカーレットと狭い屋根裏に押し込められると、どうも落ち着かない。同時に花嫁のいない島の集会場を想像して、アズマは青い顔をさらに青くした。
「……そうだよ、なんでスゥちゃんがこんなとこでくつろいでいるのさ。披露宴はどうしちゃったの!? 今ごろ大騒ぎになってるはずだよ、早く戻ったほうがいいって!」
 慌てふためく彼に呆れた様子のスカーレットが、少し疲れたように吐息した。左手の青い花束を縛る銀色のリングを、もう片方の手でそっとなぞる。光の石の輝きがなくなってもなお優雅さを湛える、植物の複雑な意匠が凝らされた一級品だ。
「いいのよ。どうせドクダミさん、私のことなんてどうとも思っていないんだもの。私を娶ったのだって、島の大人たちと仲良くなるため。ここで取れる質の高いブドウやオリーブを、できるだけ多く徴取するように取り付けるのが、領主である彼のねらいなの。新婚夫婦のための披露宴なのにあのひと、あんたの両親と話してばっかりでぜんぜん私に構ってくれないんだから。自分の家で休んでるねって当てつけたって、引き留めもしなかったのよ?」
「だからって本当に帰ってこなくても……。領主さんも気が回らなかっただけだよ、きっと」
 花嫁が抜け出してきたことを当の彼女よりも気に揉んで、アズマは長い耳を垂れさせた。部屋の中央に吊るされたカンテラに火をともし、端材を組んだだけのミニテーブルにバスケットを乗せる。
 スカーレットとはいつも顔を突き合わせている仲だから沈黙には慣れていたが、さすがに声をかけるべきな気がして、アズマは口ごもった。……どう言えばいいんだろう。はなむけの挨拶はいくつも思いつくのに、喉に引っかかって言葉にならない。ぽんぽんとベッドを叩いて招く彼女の背中が、どこか遠のいて見えた。ぎしり、と天井板が軋む音さえ、いやに頭へ響いてくる。
 耳先をこすらないよう前かがみになり進み、アズマは黙って彼女の隣へ腰かけた。まだ柔らかさを残すシーツの下の藁が、ふたりの間へ山を作るようにへこむ。だしぬけに、窓の外に目を向けたままスカーレットがぼやいた。
「ここから眺める景色も、もう見納めなんだなぁ、って」
「……」
 促されるようにして、アズマも目を細めた。
 東向きの小窓からは、平屋の裏手に広がる入り江が一望できた。アズマもお気に入りの風景だ。三日月型の砂浜には、杉を削りだして造られた小さな舟が、薄闇に浮かぶ白い帆を海風に揺らしている。ささん、ささん、と静かに繰り返す潮騒のさざめき。陽の沈んだばかりの入り江は、浸したパンにミルクが吸い取られるようにどんどん暗くなっていく。
 アズマがまだ幼いルリリだった頃は、砂浜に流れ着いた貝殻をスボミーのスカーレットと集めているだけで、1日が終わっていたものだった。彼女の母親は自宅で花屋を営んでいて、一面に咲く野イバラの花畑を発見したときは、抱えきれないほど摘んで届け逆に叱られたこともあった。冷たい時雨(しぐれ)の降る冬は、大陸からやってくる商船をどちらが早く水平線に見つけられるか、肩を並べて屋根裏に陣取りいつの間にか寝てしまっていた。
 明日の朝にはもう、スカーレットはその水平線の向こう側に行ってしまうのだ。そう思うだけで、ばねのようなアズマの尻尾も短く縮こまってしまう。
 露骨にしょげる友だちの丸い背中に、スカーレットがつまらなそうに口を尖らせた。
「こんな時もあんたは辛気臭い顔するのね。どんくさいアズマは、進化して見た目の変わった女の子を褒めることもできないのかしら」
「ぅ……、ごめん。えっと、その……。式場でのスゥちゃん、とてもきっ、綺麗だった――」
「無理しないでいいわよ。あんたこういうの……苦手なんだから」
「言わせたのスゥちゃんでしょ……」
 アズマは小声で不満がりながら、まともにスカーレットを直視できなかった。彼女がからかってくるのはいつものことだが、その声には明らかに覇気がなくて。お互いを探るような距離感が、ひどくぎこちなかった。
 恰幅のいい腹の前で居心地悪く組んでいた手を、アズマはバスケットのモモンに伸ばした。気まずくなったときに彼が食べ物で口を膨らませるクセは、とうの昔に彼女に看破されているのに。
 案の定スカーレットはムスっと頬を曲げたが、意地悪を思いついたように葉のマスクの奥で朱い目を細める。アズマが木の実を口に含んだタイミングを見計らい、ねぇ、と呼びかけた。
「アズマ聞いて。私ね、多分……妊娠してる」
「――ブふっ!」
 盛大に噴き出して、アズマはむせながら振り返った。眉をしかめるスカーレットの体を眺め直すと、温かな灯りに照らされた下腹部は、言われてみれば少しふっくらとしている気がする。ロズレイドに進化した今は、小さなロゼリアだった頃とは比べようもないが。
「けほっえほ……っ、冗談、じゃないよね。そのお腹、太っただけかと思ってた……」
「失礼ね。いつもモゴモゴしてるアンタと一緒にしないで欲しいんだけど」
「ごっごめんっ! ……いやマリルリはこれで標準体型なんだってば。でもあれだね、その……なんだ、おめでとう。領主さんといつまでも、お幸せにね」
「…………」
 差し障りのない彼の返事に、納得していないようなスカーレットの沈黙。なにかまずいことを口走ったか、とたじろぐアズマに、スカーレットは露骨に嫌な顔をした。低気圧の朝の電気タイプのようにささくれ立って、ブーケの片腕を突きつける。
「……ああもう! 今夜でお別れだから言うけど、きっとあんた、これからもずっとヘタレな草食系のままよ。謝ってばかりいないで、少しは言い返してきたらどうなの? 来月で成年でしょ、頼れる男にならないと、未来の奥さんがいたたまれないわ! ……お嫁が貰えるとも思えないけど。だってウジウジして自分からは何も言わないし、女の子の気持ちには鈍感で――」
 転がり出した鬱憤を、スカーレットはどうにかそこで飲み込んだ。代わりに口の端から漏れだしたのは、落胆めいた深いため息。小さくかぶりを振って、少し疲れたような笑顔に戻る。
 怯え半分で鼻をヒクヒクさせながらきょとんとするアズマへ、棘の抜けた真剣な声でスカーレットが言った。
「あのさ、最後だしアズマに頼みたいことがあるんだけど」
「……なにさ、改まって」
「私の処女、奪ってくれる?」
「――――っ」
 かじり差しのモモンが、としゃ、と天井板へ落ちる。拾うことも忘れて、アズマは目を見開いていた。垂れがちな長い耳も根元から立ち上がり、たしっ、耳先が屋根板をかすめる。塞がらない口の端から垂れたよだれに、「……汚い」とジト目のスカーレットが身を引いた。
「なによそのバカみたいな顔は。私は真面目な話をしているのよ」
「冗談じゃなさそうだからビックリしてるんだよ!? 僕なんかに言うのは間違ってるよ、そういうのは好き同士のパートナーに相談することで……って、そもそもお嫁さんがだれかの家に忍び込んでいること自体おかしいんだよっ。え、というかスゥちゃん、もうお腹に赤ちゃんいるんでしょ……。えっえっ、待ってごめん混乱してる、経験してないのに妊婦さん……? …………! 分かった、結婚式のキスでタマゴができたんだね」
「そんな訳ないじゃない、童貞こじらせすぎ」
 スカーレットの話はこうだった。ドレディアやキレイハナをはじめ体に花を咲かせているポケモンは、好意を抱いている植物グループの雄の花粉をそこに受けるだけでも身籠ることがあるのだ。けれど子供はタマゴで生まれるから、処女でも妊娠・出産することになる。スカーレットも婚約を結んでからドクダミと同棲していた春先の2カ月の間で、身重になったそうだ。ロゼリアとフシギバナでは体格差がありすぎて、体を重ねることはできなかったらしい。
「は、はぁ……」
「破瓜の痛みと陣痛を同時に経験しなくちゃいけないの。アズマは耐えられると思う? 私は無理。出産予定日はまだ先だけど、それまでに処女を捨てておけば、お産も楽になるかなって」
「理屈は分かったけど……なんで僕なんだよっ。海の向こうには腕のいいお医者だっているでしょ? そのポケモンに頼めば、上手くやってくれるはずだよ」
「好きでもない奴に私の大事なところを見せろって言うの? あんたバカじゃないの、冗談じゃないわ!」
 花嫁になっても変わらない辛辣な悪口に、アズマは耳を垂らし首をすっこめる。しかし彼女の罵倒に言外の意味を拾って、今度は素早く耳を跳ね上げた。
「え、僕になら見せるって、スゥちゃんそれ――」
「今さら勘違いしないでよね。こんなことに付き合わせられるのが、アズマしかいなかったってことだから」
「あ、うん……」
「ほら、早くしなさい。このままだとあんた一生童貞よ」
 あえなく耳を折り直したアズマを邪険に促して、何がそんなに気に入らないのか、スカーレットは不機嫌そうにベッドへ横たわる。左腕の青いブーケ、それを縛る結婚指輪を見せつけるように、右半身を下にして横向きになった。カンテラのおぼろげな灯りが、シーツに柔らかく沈みこんだ彼女の丸い下腹を妖しく映し出している。
 領主の妻に手を出したと知れれば、アズマはおろか彼の両親ともども村八分にされるだろう。ドクダミの顔に泥を塗ることになるし、もしかしたらこの島への援助も打ち切られるかもしれない。頭では十分に理解していても、心は抵抗できなかった。いつも渋々聞いているスゥちゃんのわがままじゃないか、と自分の理性に屁理屈を押し付け、そろえて曲げられた彼女の脚のつけ根へとおそるおそる腕を伸ばす。ぽてっとしたお腹の中央に走る縦筋、それが尻のあいだでわずかに肉色を覗かせ、アズマを誘っていた。
 思い切って表面に触れた途端、「ん……」とスカーレットがか細い声を漏らす。びくりと尻尾の先まで硬直して、アズマはすぐに手を引っ込めた。
「ごっごめんっ! 痛くした?」
「……いいから、そのまま続けて」
「っ、うん」
 熟れたトマトの薄皮を剥くように、薄い肉唇をそっと上へ寄せる。くち、微かな摩擦音を立てて、植物の緑に映える鮮やかな粘膜が広がった。すぼまった膣口の奥で、レタスの葉のように重なり合った花ヒダが、ひくひくと小さく律動している。どっと押し寄せる甘ったるい香り、生唾がアズマの丸い喉を垂れ落ちてゆく。
「う、ぁ……これが女の子の……」
「言い方が気持ち悪い。変態じみてるわよ」
「ご、ごめん……」
「見てるだけじゃなくて、ちゃんと濡らしなさいよね。童貞が焦って本番しようとすると、すっごく痛いらしいから」
「き、気を付けるよ」
 丸い手で上から包みこむようにして、視線をそらしつつ割れ目を優しくなでまわす。ぎくしゃくと弄っているうちに弾力が増し、蜜腺から粘液が染み出るようになってきた。
 手のひらを広げると、彼女の愛液が糸を引いていた。思わず口に運んだものの、妄想していたほど甘くない、けれど無性に昂った。横目で盗み見たスカーレットの秘所は、触れずとも肉びらのすき間からこんこんと汁気を溢れさせていて。
 樹液へ誘われる虫ポケモンのように、アズマは色の濃くなる尻のあたりへむしゃぶりついていた。不器用な手先では届かない膣穴の裏を分厚いベロでこね回す。こんなことをすればまたスゥちゃんに罵られるだろうけど、それも今夜限りだと思えば、かえって舌づかいが熾烈になった。舌の先に肉蕾を引っかけて、蜜を絞るように舌腹でザラリと押し潰す。タマゴを身籠っているせいなのか、濃縮された雌のにおいがアズマの理性を一瞬でとろめかし、舌先以外の感覚がもうほとんど抜け落ちている。ぷちゅ、じゅる、わざとらしい粘着音を立てながら、一心不乱に舐めすすった。
 ぷは、息が続かなくなったところで顔を上げると、頭のバラまで真っ赤になったスカーレットが鋭く睨みつけていた。何か訴えられている気がして、アズマはハッと我に返る。
「ずっと舐めていたら、だんだん美味しくなってきた……よ?」
「感想なんて聞いてないっ。……っ、へ、変態っ」
「うぅ、否定はできないかもだけど……。ちゃんと濡らしてって言ったの、スゥちゃんでしょ」
「くっ、口答えしない!」
「……ごめん」
 口周りに飛び散ったよだれを拭って、アズマはいちど体を起こす。熱帯夜のようにまとわりつく陶酔感を振り払おうと、無い首をぶんぶん振った。マリルリは発情のスイッチが入りやすい種族*2だと両親から聞かされていたが、まさかここまでだったとは。一瞬だけ意識が飛んでいた。気を強く保たなければ、本能のままスカーレットをめちゃくちゃにしかねない。
 アズマの心構えとは裏腹に、しかし体はもうすっかりその気になったようで。棘のようなスカーレットの目線が彼の腰へ釘づけにされて、あんぐりと丸くなった。
「あ……あんたの、しばらく見ないうちに、ずいぶん大きくなってたのね」
「――うわっ!? あ、あんまし眺めないで……。というかルリリだった頃と比べないで……っ」
 まじまじと熱視線が注がれて、内股になったアズマは手で隠そうとする。よく肥えた紅いものように中膨れした肉棒が、脚の間から丸い腹へと沿うようにいきり勃っていた。覆い隠す両手のすき間からのぞく肉色が、下半身の白い産毛に映える。腹の波線まで届きそうな尖った先端が、びくっ、と彼の鼓動に合わせて粘液の玉を噴き出した。
「私のを舐めてただけで、もうそんなになっちゃったの?」
「う……ごめん、さっきのすごい興奮した……」
「草食系のくせに変態すぎ……。でもそれなら、あんたの準備はいらなそうね」
 揺れる先っぽを隠すように、アズマは彼女へとにじり寄った。強張る雄しべを片手でしっかりと支え、スカーレットの蜜穴にそっとあてがう。ぐに、穂先をなすりつけただけで、彼の喉からかすれ声が漏れた。
 これだけで果ててしまいそうだった。スカーレットが不意に泊まりに来るようになってから、ろくに自慰もできていない。いつも側にいてくれた雌の胎に子種を放ちたいと叫ぶ本能を、アズマは無理やり押さえつける。そもそもこれは恋びとたちの愛し合いではない。スカーレットの出産を楽にするための、ただの前準備。彼女の左腕には、見慣れない銀のリングが鈍く光っている。
「いっぱい濡らしたと思うけど、痛かったら言って、すぐやめるから」
「だ、大丈夫だから……来て」
 シーツに頬を沈ませ、声を震わせるスカーレット。横向きのままの彼女の左脚を、アズマはそっと持ち上げた。引っかけただけの先端をさらに奥へと押し込めるよう、彼女の股の間へ腰を割り入れる。これはスゥちゃんのためだから、そう何度も心の中で唱えながら、快感をかみ殺した。緊張して思うように動かない両腕で彼女の左脚を抱え直して――
 ずちッ、ひと息で突き込んだ。
「いっ!? っ、痛あ……! もっと上手に、やりなさいよねぇ……っ」
「ご、ごめんっ! 僕だって初めてで、どうやればいいかいまいち分からなくてっ」
「知ってるわよ、バカぁ……! 擦れると痛いから、抜くんじゃないわよぉ……」
 初めて味わう花ヒダの、途方もない気持ちよさ。薄れかけたアズマの意識を、スカーレットの悲鳴がかろうじて引きとめる。乱れた心音が粘膜越しに伝わる結合感のまま、アズマは彼女のマントを丁寧に避け、寄り添うように寝そべった。華奢な背中へ密着しながら、こわばる彼女の痛みを紛らわせようと背後から手を回す。尖る腕の茨をなだめるように、肩から青いブーケへと何度もさすった。脚のつけ根から手を滑らせ、張りのある下腹部を優しく撫でる。がく片のような首筋の葉飾りにつっ……と舌を這わせると、彼女はこそばゆそうに吐息した。
 右の肘をシーツに立てて、スカーレットの機嫌をちらりと窺う。さざめく生殖欲求を落ち着かせるよう、アズマは彼女へ抱きついたまま深呼吸を繰り返した。
「こんなに近くでくっつくの、すごい久しぶりだ……。なんだかスゥちゃん、いいにおいする」
「あ、アンタは童貞臭いこと言うわね。ん……ぅ」
「ついさっきまでそうだったし……ごめん」
 相変わらずスカーレットの憎まれ口は刺々しいけれど、その口調から痛がるようなうめきは次第に消えていって。たまらなくなったアズマは、短い脚を彼女の太腿へと絡ませる。むにむにの花ヒダに揉みしだかれた雄しべが、窮屈そうにむずついた。愛液を染み出す膣粘膜がこすれて、にゅち、と淫靡な音が耳に届く。
「スゥちゃん……っ、やっぱり僕、このままじゃ我慢できそうにない……」
「こっこれだから童貞は……。ま、まぁ痛みも引いてきたから、少しなら動いてもいいっ、けど……。ここまで来て私の顔色を気にするなんて、どこまでも草食系なのね」
「ごめん、ありがとう……。できるだけ、痛くないようにするから」
 アズマは体をすこし下へずらすと、腕を伸ばしてスカーレットの左腿をそっと持ち上げる。ゆるんだ密着感を取り戻すように、つるりと空いた彼女の股下へと腰を押し付けた。ガチガチの肉棒がなじんだ膣壁に包み直されるだけで、経験のないアズマにとっては強烈な性感で。口許から震える湯気を吹き上げながら、ゆっくりとしたペースでスカーレットの蜜壺をかき回していく。
 背面側位だと挿入は深くならないが、どこまでも優しく歯がゆいアズマの攻めに、スカーレットの口からも甘い喘ぎが漏れ始めた。膣口からすぐのザラリとしたしこりに、たぎる先端がすりすりと縋るように押し付けられる。
「うぅん……なに、そこ……っ」
「はあ、はぁっ、――スゥちゃんごめんね、痛くない?」
「だ、大丈夫……。ぎこちないけど、続けて、いいよっ」
 鼻にかかった声を聞かれたくないのだろう、スカーレットはベッドに顔を伏せて嬌声を押し殺す。普段は見せない彼女の痴態、不意に込み上げてきた強烈な衝動に、アズマはグッと奥歯をかみしめた。がむしゃらに膣を突き下ろしてしまえば、お腹にタマゴを宿す彼女へ負担をかける。紛らわせるように、無防備なスカーレットの腋を舐めあげた。普段はマントに隠れた緑の濃いそこは、刺激にかなり敏感らしい。アズマが吸い付くと、んうぅっ、とシーツに押し付けたくぐもり声が漏れ聞こえる。きゅう、切ないように花壺がすぼまって、アズマの雄しべをきつく締め付ける。
「ごめんっ、ぅあ、僕っ、そろそろ限界っ、かも……っ」
「あ、んぅ……あ、あのさアズマっ」
「な、なにっ?」
「今日までさ、その……ぁ、ありがとう。本当はね、あんたのこと、ずっと好きだったんだよ。んぁ、せっかくだからっ、中にキて……いいよ、アズマっ!」
「――っ、スゥちゃんっ!!」
 甘えきった声で中出しの許可を囁かれた途端、ぐっとアズマは腰を突き出していた。たん、たぬっ、厚い脂肪が彼女の尻にぶつかり湿った音を立てる。産卵を控え下りてきていた子宮口が、むにむにとアズマの先端で小突かれていた。柔軟な最奥でも受け止めきれない衝撃が、胎内のタマゴをこつん、こつんと揺り動かす。
「すごいっこれ……んぁぁ、私の中で、硬いのが暴れてっ」
「スゥちゃん、ぅうう、もう出る、出ちゃうぅっ……! 受け止め、てぇ……っ!」
「ほ、ホントに情けない、わねえっ……! ぃ、いいよ、タマゴの上から――――、っぅぐ!?」
「――えっ?」
 不意にスカーレットが悲鳴を上げて固まった。それは快感による喘ぎではなく、驚きと苦しさに満ちたもので。我に返ったアズマが慌てて肉棒を引き抜くと、ぶしゃあ、異常なまでの愛液が彼女の股穴から吹きこぼれた。シーツがくぼむほど溢れ返った粘液は灯りの中で淡く赤味を帯びていて、それを見たスカーレットがさっと青ざめる。
「破水した……タマゴ、産まれるかも」
「え――えええっ!?」
 快感に痺れていた頭が一気に冴えて、アズマは飛び起きた。へたりこむスカーレットと目が合って、アズマにもそら恐ろしさが伝播する。出産に立ち会うなんて初めてだ。どうすればいいかなんて、分かりっこない。
「とっとととりあえず何を用意したらいい? 産湯(うぶゆ)っていうのが要るんだっけ、産まれたら熱湯をかければいいのかなっ!?」
「ちょっと落ち着きなさいよ、茹でタマゴにでもするつもり!? ――うっ、陣痛きた……!」
「うわーーーっどうしようどうしよう、どうすればいい!? ごめんスゥちゃん、こんなときなのに僕、頼りにならないよね本当ごめんっ!!」
「ま、まずはあるだけタオル、濡らして持ってきて……あとは側にいてくれるだけで、良いから――っぐ、ふ……っ、ふぐううぅッ!!」
「うわゎわ、分かったっ!」
 どんどん萎えていく肉棒を抱えながら、アズマは無様にはしごを飛び降りていった。

~~~~~~~~

 絹のタオルケットにくるまれたタマゴがひとつ、ベッドサイドの籠の中にそっと置かれている。あれだけスカーレットが恐れていたわりに、彼女の初産は破水から1時間もかからなかった。予定より出産が早まったのは、タマゴがロゼリアではなくスボミーの状態で孵るからかもしれない。スボミーの体高はさして高くなく、それを覆うタマゴもアズマの握りこぶし程度の大きさで、産卵がスムーズだったことは幸いだった。
 それでも陣痛はひどく、スカーレットが縋るような荒い呼吸を繰り返すあいだ、アズマはこわばる肩へずっと寄り添っていた。彼女がいきんだ拍子に飛び出した毒の棘を何度受けても、出産の痛みを肩代わりするかのように耐えた。破瓜と比べるまでもない激痛に闘う彼女を安心させるべく、モモンの実をかじりつつ優しい言葉をかけ続けた。
 誕生したタマゴを取り上げたアズマは、実の父親のように喜んでいて。ひと心地ついて気を失っていた彼女が目を覚ましたときには、後片付けはすべて済まされていた。体は綺麗に拭かれていたし、汚れた藁とシーツも取り替えてあった。「本当に、がんばったね」と蜂蜜入りの白湯をアズマから手渡されたときは、スカーレットは貶すのも忘れて「……ありがと」とこぼしていた。胸に抱いたタマゴは、彼女の心拍に共振して弾んでいるような気がした。
 カンテラの油はもう焼き切れていて、小窓から月明かりが差しこむだけ。ベッドに腰かけたスカーレットが水平線を眺めていると、タオルを洗い終えたアズマが彼女に肩を寄せてくる。棘で刺してしまわないようスカーレットが間をとると、アズマはちょっと寂しそうな顔をする。
「……もう体は大丈夫なの?」
「自然回復が早い体質だから、体力も回復してきたみたい。おかげさまでお腹もすっかり元通りね。……でも、勝手にタマゴを産んだことが知れたら、ドクダミさん怒るだろうなぁ。いや、そうでもないか。春先に同棲してから知ったんだけどさ、私って4番目の奥さんなんだって。農作物のついでに妻にしたような女に、いちいち構っていられるはずないもんね。そんなひとに明日から一生ついていくわけだけど……ぜんぜん想像つかないや」
「…………」
 しおらしく肩を落とす彼女に、アズマは黙ったままだった。不意に流れ込んできた潮風が頬をなぞり、窓の外を向く。スカーレットもつられて彼の視線を追った。
 満月が昇りはじめていた。
 薄もやのかかる群青の夜空は、地上を見守る星々に目を背けさせているようだった。海は透き通るように凪いでいて、潮騒はひっそりと息をひそめていた。波しぶきを立てずにうねる水面(みなも)は、にじんだ月明かりを眩しいくらいに照り返していた。ほの暗い入り江の砂浜からずっと遠い水平線へと、ミルクをこぼしたような光の帯がゆらゆらと伸びていた。月が敷いてくれた光のカーペットが、窓枠を飛び出してどこまでも続いているようだった。
「逃げよう」
 広い世界を眺めながら、アズマは口をついて言っていた。え、と聞き返すスカーレットに向き直って、自分の覚悟を確かめるように屈強な口調で繰り返す。
「逃げよう。僕とふたりで、タマゴ持って、海の向こうへ」
「ちょ……ちょっと待ちなさいよっ!」
 いたって真剣な彼の雰囲気に呑まれそうになって、スカーレットは声を震わせた。いきなり出産に立ち会わされたアズマのように動転して、両手の花束を振り乱す。
「だって見てたでしょ、私、昼に挙式したばかりなんだよ? 進化までさせてもらって、もう私はドクダミさんのものになっちゃったんだよっ!? 今さら遅すぎだよ、それに島のみんなに迷惑かけるかもしれない! お世話になったあんたの両親だってタダじゃ済まされないだろうし――」
「僕の親なんてどうでもいい! スゥちゃんがどうしたいかだよっ!」
「っ!」
 荒い語気でアズマはスカーレットを睨みつける。前のめりになって、怯えたように落ち着かない彼女の両手をまとめて握った。赤と青の花束越しに、婚約を迫っているようだった。マスクの裏で朱色の瞳がふるりと揺らいで、アズマがたたみかける。
「お金が心配なら僕ががむしゃらに働く、スゥちゃんだってお花屋さんを再開すればいい。大陸の港町には助けてくれる友だちもいるし、もし海に投げ出されても僕がスゥちゃんを抱えて泳いでみせるッ! だから、だから……!!」
「あ、アズマ……っ、どうしてそんな、いつもヘタレで草食系のアズマがどうして――」
「僕だって、諦めきれないんだ。いくら草食系の僕でも、スゥちゃん相手なら肉食系になるんだよ」
 華奢な肩に置いたアズマの両手が、驚いた彼女の棘にちくりとする。気張っていた全身の力が抜けるように、吊り下がったスカーレットの目じりから、ぷくぷくと涙が溢れてゆく。
「ずるい……ずるいよぉ。今日であんたのこと綺麗さっぱり忘れようって心に決めてたのに、こんなときだけ頼もしいなんて……っ。アズマ……好き。やっぱり私、アズマと離れたくない。これからもあんたと遊んで、ご飯食べて、働いて、寝て……っ、一緒に暮らしたい。――アズマのこと、どうしようもなく好きになっちゃってたのよぉ……!」
 ブーケで両目を拭うスカーレットを、アズマはひしと胸に抱いた。小鳥のように震える体が温かい。どうにかひきつけが収まってから、アズマは再び彼女の肩を掴んで、そっと離した。満月だけが、ふたりを見守っていた。
「スカーレット、愛しています。僕の花嫁に、なってください」
「――っ! は、はいっ!」
 目をつむって顎をあげた彼女の唇へ、アズマはそっと口づける。知らない雄のぬくもりを上から塗りつぶすように、じっくりと熱を送っていく。重ねるだけの誓いのキス。スカーレットの抱えてきた諦めも不安も後ろめたさも、すべて飲み込んでしまおうと優しく吸った。
 ステンドグラスにも負けない月白のきらめきが、祝福するようにふたりを照らしていた。静かに打ち寄せるさざ波の大喝采。感極まって再び頬を湿らせる新婦を、アズマはきつく抱擁して――そのまま押し倒した。
「ごめんっ、もう1回最後までやらせてくれ。素直なスゥちゃん、可愛いすぎ……!」
「え、え、え……っ、ちょ――ちょっと!?」
 あたふたする彼女の腰を引き寄せて浮かせると、アズマは空いた下腹へ肉棒を乗り上げた。どれほどスカーレットを求めているか分からせるように、自身の欲望をなすりつける。山脈のように浮き出た尿道で肉びらを引っかき回し、沸き立つほどの熱を帯びた鈴口で肉蕾をほじくり返す。むくむくと大きくなっていくそれは、間近に突きつけられたスカーレットを絶句させるには十分で。ぬちゅ、にちゅ、染み出た蜜をからめた肉色が、いっそう強まった月明かりにてらりと光る。
「な――なんでそうなるのよっ、信じられない! せっかくいい雰囲気だったのに、ぜんぶ台無しじゃないの! このバカ、変態ッ! 誓いのキスで欲情するなんて――」
「……ダメ?」
「だぁっ…………っ、だめ……じゃない、けど」
 真剣なまなざしで訴える彼のひと言が、スカーレットをあっさりと沈黙させてしまう。紅潮しながらそっぽを向く彼女に、アズマの腹の底でうだる熱がぶり返してきた。さらけ出された肉びらを両手でぐっと広げれば、くぱ……とひとりでに疼く膣穴が丸見えになる。濁った先走りでぬるつく先端を軽く咥えさせただけで、ずにゅり、わずかな摩擦もなく飲み込まれてしまった。スカーレットのあだ花を散らせた感覚とはまるで違う。
 全身を暴れまわる疼きで陶然としたアズマの頭でも、その訳をはっきりと理解できた。これは出産のための前準備などではない、恋びとたちの愛し合いだ。スカーレットが他でもない自分を求めてくれていると思うと、もう止まれない。
 中膨れで引っ掛かっていた肉棒を、根元までむんずと押し込んだ。ずっと待ち望んでいた快感、心からひとつになれたと喜ぶように、粘膜どうしがみっちりと抱きつき合っている。
「うぁ……、スゥちゃんのなか……さっきより柔くなってて、にちゅにちゅ絡みついてきて……くぅっ!」
「ふぁ、あ、アズマのも……っ、全然ちがう、ぁ……ずっと硬くておっきぃ……っあ、も、軽くイきそ――んうっ、ふぁああっぁぁ……!」
 甘くさえずるスカーレットが、身をよじり全身をこわばらせた。きゅっと縮み上がる蜜壺をいたわるように、アズマはゆっくりと肉棒を引き、また押し入れる。激しくはないが、貪欲に求めるような深々とした抽挿。ぐちゅ……ぢゅぽ、ひっきりなしに湧きあがる愛液は、スカーレットも気持ちよくなっていることの裏付けで。不規則に締め付けてくる花ヒダを押しのけて、アズマはさらに深くつながろうと彼女の腰を掻き抱いた。出産を終えて引っ込んでしまった子宮口へ、じれったく穂先がぶつけられる。両手のブーケで顔を隠そうとするスカーレット、絶頂の快楽に歪んだその口許が、燃えしきるアズマの欲望に油を注ぐ。
「さっきは後ろからで、よかった……。そんな表情を見せられちゃ僕っ、気づかいなんて、はぁっ、できない、からっ!」
「っああぁっ!? あっ待って、いまイったばかりで激し――ぃアあぁっ! す、少しはいたわり――あッ、なさいよバカっ、この童貞ッ!」
「もう童貞じゃ、ないしっ……!」
「んゃあああァ!! あぁうんッ、アズマのくせにぁ……ああああァっ、なに生意気言って――ンぅ!?」
 ごめんねの代わりに、うわずったスカーレットの口にキス。タマゴに気を配る必要のなくなったアズマは、もう遠慮はしないとばかりに彼女へのしかかる。薄くなった腹につま先立ちで乗り上げ、顔から覆いかぶさった。体重を支えるよう両脇についた大きな手で、スカーレットをシーツへ貼り付ける。寸胴なアズマの腰に絡みつくむちっとした脚、密着してじわりと迸る汗が、朝露のように植物の体へとまとわりつく。
 押し出されたスカーレットの吐息さえもったいないと、激しく口先を吸い上げる。肉厚の舌で薄い唇を割り裂き、彼女のものを探り出した。絡ませて、ほどいて、また絡ませて。にゅふ、ねぷ、切羽詰まった粘着音が、息継ぎの合間に漏れ響く。熱帯林のようなむせ返るにおい、スカーレットのちいさな口の中を舐め回しながら、それでももっと気持ちよくなろうと腰を打ち付ける。
 相手を好きになってしまわないように、なんて自己抑制は、もうお互いに必要なかった。長年抑えてきた愛おしい気持ちを、幼なじみの体へ刻みつけていく。いつのまにか遠のいていたふたりの距離を埋めるよう、想いのたけをぶつけ合っていく。
「小さかったスゥちゃんも、進化したスゥちゃんもずっと可愛いよっ。ぅう、夢みたいだ。ずっと、ずっとこうしたかったっ……! これ、痛くないよね、スゥちゃんも気持ちいいよねっ?」
「あっ、んあぁ、そっそんなの、決まってるでしょっ! わざわざ聞いてくるなんて……んゃ、やっぱり頼りがいが、ないんだか、らぁっ! っこ、このヘタレ! 草食デブ!」
「……草食でも厚い脂肪でもない、僕の特性はっ、〝ちからもち〟だってばッ!!」
「ぇ――」
 アズマは叫ぶと、意地のように突っ張る彼女の膝裏から腕を通す。細やかに震えはじめたスカーレットの腰を両手でがっしりとつかみ直すと、引き寄せるような力技で、彼女を体ごと、持ち上げた。
「――ひぁ!? アズマ何して――ッ! な、なにこ、れ、ふ、深ぁっ――――!?」
「いつもそう言ってバカにしてっ! 僕だってもう、こうしてスゥちゃんを……っく、支えられるんだぞ!」
 全身を浮かされて思わずしがみついてきた彼女を、アズマは抱きかかえたまま突き上げる。首のうしろで交差する花束の腕、あおぐように揺れるロゼット葉のマントを視界の端に、余裕のないスカーレットを再度睨みつけた。ぎらついた彼の瞳の奥には、ゆるぎない覚悟がしたたかに灯っていて。
「僕がスカーレットを、ぜったい幸せに、するから! もっと……甘えてくれ!!」
「だからぁっそれ、あッ、ずるいってぇっ! でも、じゃあっ……んぁああぁ! ぉ、お願いッ」
「な、なにっ?」
 自分がいかに頼りがいのある雄であるかを教え込むように、猛々しく彼女を上下させる。同時に無我夢中で腰を叩きつけ、重力を跳ねのけるように最奥をぐにっと押し返す。射精をおあずけされていた雄しべが、スカーレットは僕だけのものだっ! と叫ぶように花ヒダを掻きむしる。じゅぼ、どちゅっ、取り換えたばかりのシーツに、汗と愛液を飛び散らせる。
 胸の中で、スカーレットが囁いた。
「お願い……、アズマとの子も……ぃ、いっしょに、育てさせて……ね?」
「ッ!! 次は僕のタマゴを、産んでくれぇっ!!」
「ぅ、うんっ! アズマの子、ほしいよぉ、がんばって産む、からぁ……っ!!」
 とろ顔のスカーレットをこれまでになく深く突き上げて、アズマは細やかに痙攣する彼女の腰をぐっと抱え込んだ。子袋の口へ密着した射精口をぐりぐりと沈み込ませると、きゅうぅ、肉棒を最奥まで受け入れた蜜壺がせがむように引き締まる。
「で、ぇ、出るぅ……っ、うく、ぅ、ふううぅッ!!」
「ぁああ、あた、私もイっひゃ――っア、ああぁーっ、ッ、――――ッ!!」
 ぞくぞくぞくっ、脊髄を駆けあがる至高の快感。おでことおでこをくっつけて、視線まで愛おしく絡ませながら。スカーレットのために蓄えてきたどろどろの精液を、彼女のいちばん奥へ直注ぎする。妊婦のふくらみを取り戻すように、ありったけの愛情でちいさな子宮をパンパンに満たしていく。
「ああああ、ぁ、すぅ、すごいぃぃ……っ。私のなかにアズマの想い、ぜんぶ伝わってきてるよぉ……」
「ぅあぁ……、っぁあ、きもちいぃ……、こし、抜ける……っ」
 彼女を抱きかかえたまま、アズマは後ろへ倒れ込んだ。衰え知らずの拍動を続ける肉棒がずる、と抜けかけ、隙間を縫ってこぼれた濃粘度の精液が、彼の内股をねっとりと伝う。腹の上で汁まみれになったスカーレットと、まどろみながら再び視線をむつみ合わせる。つぷ、彼女からしてくれた淡いキスに、搾りかすのような精子塊まで吐き出していく。
 そのまま寝入ってしまいそうな倦怠感を跳ねのけて、アズマはベッドをのろのろと這い出した。まだ恍惚に浸る彼女を抱きかかえ、ぬめりを落とそうと水場へ向かう。
 腕の中でスカーレットが小さく抗議の声を上げた。お姫様だっこをされながら、背中へ当たるまだ硬いものを左の花束でやわやわと包みこむ。
「ね、ねぇ……アズマはもう満足しちゃった?」
「僕だってもっと続けたいけど、急いだほうがいい。逃げよう、スカーレット。落ち着いたら好きなだけできる。3人でも4人でも、僕が支えられるだけ」
「う……うんっ。でもアズマが頼もしいなんて、なんだかむず痒いんだけど」
「甘えてくるスゥちゃんは、とても魅力的だったけどなぁ」
「……なによそれ、調子に乗らないでよね」
 青いバラで挟んでいた肉棒に、スカーレットは小さな棘を引っかけた。「んグぅ!?」と珍妙な悲鳴をあげて彼は悶絶したけれど、決して彼女を振り落としたりはしなかった。
 絡みつく茨を払いのけようとしたアズマが、スカーレットの腕を縛っているものに気付く。
「そうだ、これはもういらないな」
「あ……」
 左腕で彼女を抱え直すと、アズマは青いブーケからリングをするりと抜き取った。もう戻ってくることのないベッドサイドへ、タマゴを揺らすバスケットと交換して置いておく。
「スカーレットの指輪は、いつか必ず僕がプレゼントするから」
「……絶対よ? 私に似合うの選びなさいよね」
 情熱的なアズマの豪腕に抱き直されて、見つめあいながら笑った。どっしりとした彼の体が頼もしく、スカーレットはその胸に頬を沈ませた。

~~~~~~~~

 夜更け、沖のむこうへ小舟がひとつ、月の道を進んでいた。熱を孕んだ順風を帆に受け、波を荒立てぬよう滑る舟には、月明かりの逆光に浮かぶ影がふたつ。
 船頭に立つのは、長い耳をそばだてる者。静寂のなかに追っ手の気配を探りながら、オールを力強く漕いでいる。船尾に座るのは、少しかがんだ花束の者。揺りかごに収まったタマゴを側に見守りながら、いとおしそうに腹を撫でている。ふと上げた朱い目には、もう迷いの色は残っていなかった。ふたりはそろって前を向いていた。

 小舟の行く先には、蜜月を揺らす明るい水面が、どこまでも自由に広がっていた。

――NEXT




 


あとがき

官能小説の実用性を追究したら「幼なじみとイチャラブ」に行きつきました。しかし完成したものは特殊性癖だらけ、冒頭ではネタバレを嫌い書きませんでしたが、妊婦、出産、NTRあたりですかね。こんな絶対ハッピーエンドにならなそうなタグで私が書いて死人を出さなかったのだから不思議なものです。あとそうだ、駆け落ちってジャンルはもっと流行ってもいいと思うのですよ。若いカップルが好きってだけで覚悟決めて困難を乗り越えようと懸命にもがく姿、ときめいちゃいますよね。通信技術とかが発展途上なポケモンの世界観にマッチしていますし。
 フシギバナのような身体に花を咲かせるポケモンは、そこから生殖できちゃうんじゃないかってところがこの作品の出発点でした。その条件で植物以外のグループを併せ持つのはロズレイドくらいで、見た目が妊婦っぽいのでヒロインは決定。妖精グループからは個人的に好きなマリルリくんをチョイスしました。ブラフにしましたが特性の草食と草タイプって組み合わせもナイスですよね。このCPが好きすぎてちょっとした後日談『幼なじみは鬼嫁に』を書きましたので併せてどうぞ。



大会時にいただいたコメントに返信を。


・卵生のポケモンではネタにしにくい妊婦姦を設定を工夫して成立させたアイデアに脱帽。草食系と厚い脂肪を強調しておいて力持ちでビシッと決めるマリルリの扱いといい、ポケモン小説としての完成度が非常に高く感じられました。 (2018/01/27(土) 08:23)

頼りない草食系男子が実は彼女をひとりで支えられるくらい力持ちで覚悟もあるんだぞってところが書きたかったのです。そういうメリハリを特性で裏付けられるのはありがたいですね。草食も厚い脂肪も印象があまりよろしくないワードなのでしっかりとロズレイドに罵倒してもらいました。卵生で妊婦は私も勝手がイマイチつかめなかったのでぼかしていますが、ポケモンで処女懐胎を書いたのは私が初めてじゃないですかね。


・本当の気持ちに気がついて幼馴染と……という王道的な流れではありましたがそれゆえにとても愛あふれる物語でした。アズマとスカーレットの行先が明るくなることを願うばかりです。 (2018/01/27(土) 21:49)

風景描写が好きなのでそれで彼らの逃避行を全力で明るいものにしようとバックアップしておりました。拙作『波間を跳ぶ』でも似たラストカットですがきらめく海って美しい。なんだかんだいちばん面白いのってハッピーエンドの王道モノですよ。ああー私もふたりがしあわせになれるよう願うばかりです(


・面白かったです。出奔したアズマ君達に幸あれ。 (2018/01/27(土) 23:03)

彼らが幸せな未来を掴めたかどうかは、ぜひ後日談で確認してみてくださいネ。




最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 種族のチョイスやシチュエーションから何となくミドリさんかなあとは思っておりました。以前の青いとげ、の件があったので序盤からはらはらしていまいたが。いわゆる政略結婚的な流れで遠くに行ってしまう幼馴染と駆け落ちエンド、だったようでとりあえず安心しました(
    普段はヘタレ気味で奥手なアズマくんがここぞという時に見せる男気溢れる姿はそのギャップが素晴らしいですね。どうもウサギポケモンというとミミロップばかりが先行してしまいがちでしたがマリルリもみずうさぎぽけもんでしたね。性欲旺盛なのは健康的で良いことです。
    続編の方も間で目を通させていただきますね! -- カゲフミ
  • >>カゲフミさん
    やですよー私だってハッピーエンドくらい書けるんですから! そして種族とシチュから作者バレするとはなんとも……。みなさんもっとこういう作品を書けばいいんだと思います!(
     アズマくんのギャップはスカーレットちゃんが惚れるほど。ふだん草食でヘタレな彼でも彼女のためなら本気を出すのです。読み返してみればそんなエピソードをひとつくらい入れておいてもよかったかもしれません。
     念願の夫婦生活でもヘタレなアズマくんからは夜を誘えないんでしょうねぇ。ウサギモチーフゆえ抱え込んだ性欲をどうともできずに悶々としていることも彼女には筒抜け。ごめんねありがとう囁きながらウサギ特有の速い腰振りを我慢しつつ愛を紡いでほしいです。これがヘタレ攻めってやつか……。 -- 水のミドリ
お名前:

*1 USUMでタマゴ技としてパワーウィップが追加された。それまでロゼリア系統は蔓を使用する技を覚えなかった。ポケモンカードでは蔓で戦う姿が描かれることも多い。
*2 モデルであるウサギが年中発情期であることに由来する。

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Last-modified: 2018-01-28 (日) 23:56:32
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