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妹の鍵言葉

/妹の鍵言葉

執筆者文書き初心者

この作品は熱と冷の姉妹熱帯夜の姉のもう一つのお話となっています。
これらの作品を読んでいなくても充分楽しめるとは思いますが、読んでいない方々には分かりにくい描写があります。ご了承下さい。

獣姦描写があります。ご注意下さい。


 鍵は掛ければ安心で安全です。ですからこの世界の人々は扉に錠を備えつけています。
 ある人は複雑な構造をしている鍵を作り、またある人は二つも錠を備えつけて自分の身を守ろうとします。余所者から侵入されないように念を入れます。
 とある地域にとある人がいました。その人は良く言えば慎重者、悪く言えば臆病者でした。ですから複雑な鍵を持っているのは勿論の事、扉の備えつけている錠も二つでした。そうして我が身を大事に大事にして過ごしていました。
 ある日、そのとある人の隣家が空巣に入られてしまいました。その家の人は出掛けていたので身体は大丈夫でしたが、大切な物を取られてしまいました。
 その話を聞いて、とある人は恐怖を覚え、絶対に入られないようにもっと強固にしようと決めました。錠を増やすのは言うまでもなく、南京錠から鎖まで施します。更には窓を強化硝子にして割られないように、加えて多くの錠を備えつけました。家の鍵もキーホルダーにはつけられないくらいに数が増えました。
 当然、防犯面では以前よりも強化されました。どんなに泥棒が家に入ろうとしても、こんなに多くの施錠を解除するのは流石に困難です。ですから泥棒達はこの家では無く他の家を当てにします。その位にこの家は安全でした。
 でも、その安全さが故に大きな欠陥が一つありました。なんとそのとある人は閉じ込められてしまったのです。
 どれがどの錠の鍵なのか忘れてしまい、手元に残るのはただの重たい鉄くずです。
 とある人は外に出れず、困り果ててしまいました。



「熱いなあ……。でもグレイシアのお陰で涼しいよ」
「ふんっ、ちゃんと有り難いと思いなさいね。本当だったらこんな事させないんだから」
「ふふっ、有難うグレイシア」
「ちょっと、気安く触らないでよ!」


 あたしはあいつに対していつも素直になれない。お姉ちゃんや他のポケモン達に対しては普通に振る舞えるのに。
 それに比べて自分のお姉ちゃんであるブースターは素直で優しい。あたしなんかと段違いだ。それは炎タイプが故なのか。
 そう考えると、自分が持つ力の所為なのだろうか。こんな刺々しい氷を操れるから言葉もそんな風になってしまうのか。いやそんな筈はないだろう、きっと。じゃあ、何であたしはあいつに本当の気持ちを伝えられないのか。撫でられた時は嬉しい、役に立てた時はどういたしまして、としっかり言葉にすればいいのに。どうしてもそのあべこべな言葉を口にしてしまう。そこに自分の気持ちなんかは無いのに!
 自分が捻くれてなかったらどれだけ楽なのだろうか。お姉ちゃんみたいに自分の気持ちを包み隠さず伝えられたら、こんなに悩んだりする事は無かったのに。それにもしかしたら、あいつはこんなあたしが大嫌いなんじゃないかと思ってしまう。嫌々ながらあたしに付き合っているんじゃないかと。それで、あたしに構うよりお姉ちゃんと仲良くしていた方があいつは楽しいんじゃないかと考えてしまうのだ。それはそれで良いのかもしれない、お姉ちゃんとあいつがくっつけばお姉ちゃんも幸せだし、あたしも心から祝福するだろう。でも、
「――しあ。グレイシア?」
 誰かがあたしを呼ぶ。その声に導かれ、意識は思考から現実へと戻された。
「……何よ、いきなり呼んで」
 悶々としてたからか、余計ぶっきらぼうにあたしは返事をしてしまった。あいつにへと。
 誰かと言っても、今この場にはあたしとあいつしかいないのである。お姉ちゃんはあのエロ狐の所へ遊びに行っているから、一つ屋根の下に一匹と一人。別にこの状況に期待しているって訳ではない、断じて。
「なんか、悩み事でもあるの? 顔が強張っていたけど……」
 そう言って、あいつは心配そうにあたしを見つめてくる。僕に相談しても良いんだよ、と表情から読み取れたけどあたしは、
「っ、あんたには関係無いんだからっ」
 やはり、冷たく言い放ってしまう。
 嘘だ。
 関係あるに決まっている。あたしが現在進行形で悩んでいるのは紛れもなく――。
 もう条件反射だった。あたしが素っ気無い態度をとるのも、こんなにも口が悪いのも。
 だけども、あいつはあたしの反応を伺うとにこっと笑うのだ。嫌な顔を一つせずに。
「そっか。じゃあ、僕に話したいときに話してよ。何時でもいいから」
 そう言うなり、あいつはテーブルに広げられた課題へと再び目を移した。そして得意気に指先でペンを綺麗にくるっと一回転した後、かりかりとノートに書いていく。
 そうしてあたしはぽつんと独り取り残される。また黙々と思考回路を働かせても良かったけど、この時のあたしは何処となく可笑しかった。
「ねえ、あんたはあたしの何処が良いの?」
 無意識に言葉がぽろりと零れ落ちていた。零れ落ちた後にはどんどん流れていく。それに相反するかにあいつのペンは止まった。
「あたしはお姉ちゃんみたいに素直じゃないし、その上捻くれているし、そんなあたしと付き合っててあんたは楽しいの?」
 本当はいつまでも姉と一緒にいたいんじゃないの、とまでは流石に言えなかった。言ってしまったらあたしはきっと後悔するから。
「楽しいから一緒にいるんじゃない」
 思いの外、あいつの答えは直ぐに返ってきた。さも当然でしょ、と言うかの様に即答であった。
「もしもグレイシアがブースターみたいだったら、それはそれで気持ちが悪いよ。だってグレイシアの個性が無くなっちゃうじゃない。グレイシアはグレイシア、ブースターはブースターなんだからさ」
 聞いた途端にがちゃりと錠が外れた音がした。次々と錠は外されていき、あたしの中の閉ざされた重たい扉が開かれる。 あたしは自分で自分を閉じ込めていたのだ。お姉ちゃんと比較して、劣等感と言う幾つもの鍵を掛けて。
 間違っていたんだ。あたしはあたしで良いんだ。
「……ありがと。お陰で目が覚めた」
「どういたしまして」
 まさかあんな言葉だけであたしを救ってくれるとは思ってもなかった。閉じ込められたあたしをいとも簡単に助けてくれた。
 あたしはあたしでいいと言ってくれた。だけど、いくらあたしが素直じゃなくても、これだけは信じてる振りで受け止めて。
 あたしだって真直ぐに伝えたいから。
「……一度だけでいいからちゃんと聞いて欲しいの。あたしはあんたが――だから」
 彼の目が点になっていた。唐突であったから余計かもしれない。口をぽかんと開き、浮ついた調子で、
「……グレイシアが僕を――」
 ガタッガタッ。
 あたしはテーブル越えて、無我夢中で彼に飛び掛かる。押し倒して彼の自由を奪っていく。体重を掛けて手や足の自由は勿論、物を言う事すらも。
 彼は何が起きたか分からないらしく、素頓狂な顔色であたしを見つめる。
 声には出さないで。あたしの気持ちを確かめて。
 お互い喋る事は無く、無言のまま。あたかも時間が止まっているかも思えた。
 しかし、あたしが動くと時は流れているのを思い知らされるのだ。だけど依然として彼の時間は止まったまま。あたしが彼の時間を奪っている。
 くぐもった声、熱気に満ちた吐息を漏らし、更には粘液が口元からだらしなく垂れていく。
 溶けるのを通り越して、火傷してしまいそうだった。それくらいに彼としていた。
 言葉を自由に操れるようになっている頃には、あたしの纏う冷気なんてものは無かった。この暖気で心の奥底からあたしは渇いていた。
 後に引く気なんて更々無い。
 それどころか彼を捉えるので頭が一杯だった。
「ちょっとグレイシアっ!」
 彼のズボンを下着と一緒くたにして口で噛んで強引に引きずり下ろす。そうすると彼が牡であるのを象徴する物が現れた。その時に牡特有の臭いが鼻をつんとくすぐった。
 あたしは彼の雄々しい物を見て、思わずごくりと唾を飲んだ。久し振りに見たそれは、人間の言葉を借りるならば、喉から手が出る程にそれが欲しかった。あたしの心は奪われていた。
 彼はあたしにまじまじと見られて、顔からは蒸気が出ているように思えた。それ故、あたしと視線を合わせようとはしない。
 誰も彼もあたしに歯止めをかけない。彼は格好の遊具みたいに黙りこくり、あの彼女は蜃気楼みたいにこの場には存在していない。
「……借り、返して貰うから」
 誰に言う訳でも無く小声で呟き、そしてあたしは、
「っはむ」
 美味しく頂くのだ。このアイスキャンデーを。本来だったら冷たい筈だけどこれは熱かった。加えて、舐めれば舐める程小さくなっていくのに対して、段々と大きくなっていく。正しく矛盾している。
「っあ、グレイシア、駄目だよっ」
 彼に注意を喚起されたとしてもあたしは食べるのを止めない。だって食べ物を粗末にしちゃいけないって教わったのだから。
 食べていく内に自分の身体の異変に気付く。身体のあちこちから液体が滲み出ているという事に。特に陰に潜む果実が熟れている。
 それを自らの尻尾で平らげるってのもまた良いのだろう。独りで楽しみながら頂くのも有りと言えば有りである。現にいつもならその方法で食べている。でも今日はどうするの、と訊かれたら勿論、
 彼と一緒に味わう、だ。
 アイスキャンデーを食べるのをやめて、あたしは彼に身を任せた。べたべたにくっついて彼の音を感じ取る。どくっ、どくっ、と規則的に叩いてるのが分かった。
 このまま一緒に凍ってしまいたい。そうすればずっとこのままこうしてられるよね。
 だけどそんな事をしたら全力で陽光みたいな彼女は溶かしに来るだろう。だからそれは決して叶わぬ願い事。
 一秒も無駄に出来ないから、あたしは名残惜しいけれども前脚を胸に乗せて彼から離れた。鳥瞰図、とまでにはいかないが彼を上から見下ろす。
 まるであの時みたい。
 まあ、彼は覚えていないんだろうけど。
「グレイシア、こういうのは大好きな人とするものだよ」
 僕なんかじゃなくてちゃんと君に相応しい人と、そう彼は口を紡いだ。
 どうやら彼は本当に覚えていなかった。それはそれで、ある意味都合が良い。
「ふふっ、今更遅いのよ。だってあんたがあたしの初めてを――」
 奪ったんじゃない。
 それを聞いた途端に、彼は酷く驚いていた。何の事だがさっぱり分からないよ、とでも言いたげである。
「待って、僕がグレイシアとした訳無い――」
 ずぶり。
 百聞は一見に如かず、だっけ? そんな諺があったとは思うけど、それと正に同じ様なもの。百回説明するくらいだったら、一度身体で覚えた方が良いって事。ま、彼の場合はこれが初めてじゃないから、ね――。
「っう、え?」
 今度はあたしが彼の門扉を開ける番。たとえどんなに安全性に優れている鍵があっても、何処かに欠陥があれば脆い。一つでも欠落してしまえば、後はいとも簡単に突破されてしまうのだ。
 くちゅ。
 あたしは彼に侵入していく。一歩、また一歩と着々に隙間から割り込んで犯していく。そうしていく内にあたしは彼の元へと辿り着いた。
「そんな、こんなのって」
 彼は例の跡がある首筋に手を添えた。それは丁度あたしがつけた印に違いなかった。お姉ちゃんがつけたのではなく、ちゃんとあたしの奴を。
 当惑している彼を見るのは面白い。そんな風に感じてしまうから、あたしは性格が悪いんだろうな、きっと。
「ほら、あたしをちゃんと見てよ、ね?」
 ぶつくさ呟いている彼を手玉に取ろうと、前脚で彼の温かい頬に触れる。優しく、そして愛しく、思いを込めて丹念に触れた。
 間も無く、彼と視線が交叉する。彼の透き通った瞳の奥までも覗きこむように、あたしはひたすら彼を見つめる。彼の瞳は深過ぎて吸い込まれそう、そんな気がした。
 彼もあたしに負けじと見てくれる。目も逸らさずに真剣になりながら。だけどもしかしたら、彼は私を愛してる振りで受け止めているだけかもしれない。
 それでもいい。あたしは構わないよ。
 こんなあたしに似つかわない甘い甘い夢を見れるならそれだけで幸せだから。
 彼の手があたしの前脚を捉えた。そのまま払い除ける、そう覚悟していたあたしにとって、彼がこの後にした行為がよく掴めなかった。
 ぎゅっ。
 あたしは途端に身動きが取れなくなってしまった。前脚、後ろ脚は僅かだが動かせるものの、胴体が全然びくともしない。そして先程に感じた鼓動が身体へと直に伝わってくる。
 柔らかな温もり反して、彼の口は石の様に硬く閉ざされていた。あたしに彼の声が届くことは決して無い。
 彼は分かっていたんだと思う。今ここで自分が口を開いたらこの先どうなるかって。だから言葉を殺して、こうしてあたしの身体に直接刻んで――。
 言葉だけが鍵じゃない。
 貴方はあたしにくれた。こうやって身体に染み込ませておけば、きっと忘れないから。
 そうして、あたし達は身体と身体をぶつけたり触れ合ったりしたりして、確かめていく。あたしは彼を、彼はあたしを、お互いが身体の隅々まで隈無く覚えるように。
 くちゅ、ぐちゅ。
 びりびりとあたしの中で駆け巡る。彼から与えられるこの刺激が。とてもとても気持ちが良くて、何よりもあたしを溶かすくらいに熱い。この波が何度も何度も押し寄せては引いて、また押し寄せては引いて。いずれをあたしを飲み込んでいくだろう。彼もあたしとこの刺激を分かち合っているから、きっと溺れてしまう。
 あたしや彼が動けば何度もあたし達に襲いかかってきて、幾度となく陥れようとしてくる。そのまま何もかも全て棄てて、身を投げ出したら楽なのに、そんな虫が良い事は――。
 出来ない。
 これは罪なんだ。あたしが彼の心を盗んでしまった罰だ。
 どんなにあたしの許容範囲を超えようが、どんなに理性が爆ぜる思いをしても、ただ単に快感を受け入れていくしかない。五感全てを使って覚えなくてはならないのだから。
「ぅっ、あ」
 段々と苦しくなってきて喘ぐ。喘がないと胸が締め付けられて息が持たない。
 それなのに彼はあたしの平らに等しい乳房に触れて、その中でも隆起して部分を、
 きゅっ、と。
 今度は声にもならず、口をあんぐりと開けたままの状態になる。くらくらと目眩までしてくる。このまま瀕死になってしまうのではないだろうか。
 執拗にあたしを弄る彼の指が恨めしくもあり、またそれは彼があたしを、
 あたしは仕返しとして彼に首筋にある古傷へがぶりついた。そうすると彼もまた顔色を曇らせて痛みを感じとる。だけども彼は古傷をえぐられたとしてもあたしを止めようとはしない。寧ろ彼は傷を拡げられて――。
 行為は終盤へと差し掛かる。あたしの中では彼の物が悲鳴を上げていると過言では無かった。対するあたしも崩れ落ちるのはもう時間の問題であった。
「あああっっ……」
 そして彼があたしの中に再び収まると、何かが勢い良く弾ける。
 今まで感じた刺激が一度になってあたしへと襲撃してきた。それに耐えられなかったあたしは前につんのめり、彼へ全体重をかけてしまう。
 あたしのお腹はとても熱く、内側から溶かしにくるような勢いだ。いやもう既に溶かされているのかもしれない。
 その証拠に前脚、後ろ脚はぴくりとも動かせなくなって、物を言う事すらままならない。その上、時間と共にあたしの身体はどんどん蝕まれていく。そうして、あたしの身体は彼の身体を、擦り抜けてしまった。
 あたしは溶けて、消えていく。


「――しあ。グレイシア?」
 誰かがあたしを呼ぶ。その声に導かれ、意識は現実へと戻されていく。
「……ふはあ。何よ、もう」
 あたしはあいつに起こされて、顔をむっとしかめた。
 もう少し寝かせてくれたって良いじゃない。折角、夢を見ていたのに台無しだ。
 だって今回の夢は――。
「って、あれ?」
 ちっとも思い出せない。起きる直前は覚えていた筈なのに、今となっては全然情景を浮かべられない。
 あたしは彼に八つ当たる。
「ちょっと、あんたの所為で何の夢を見てたか忘れちゃったじゃない」
「それは……御免。僕だって悪気があって起こしたんじゃないよ。グレイシアがうなされてたから……」
 あたしがうなされていた?
 それを聞くと、本当に夢がどのような物であったか気になってしまう。だけども、断片でさえも思い出せないのではどうしようもない。
 思い出さない方が身の為なのかな。
 あいつもあたしがうなされていたって言ってるし、ろくな夢じゃなかったのだろう、多分。
 そんな風にあたしが仏頂面で考えていたら、
「大丈夫、僕も夢が思い出せないって事はあるからさ」
 ははっ、と照れ隠しにあいつは笑う。
 別にあんたと一緒にしなくても良いよ、とあたしは冷ややかな目差しで見つめていたら違和感に気付いた。
 あいつの首筋には以前あたしが付けた跡が、
 濃くなって刻まれていた。


後書き
今回は婉曲表現に力を入れたのですが、難しすぎるorz
前作の複線を消化していなかったので、それをするために書いたのですが自分でもこういった作品が出来るとは予想していなかったり。
もうちょっと、いい夢を見させてあげた方が良かったのかなあ。


作品タイトル 妹の鍵言葉
章タイトル
原稿用紙(20×20) 20.6 枚
総文字数 6745 文字
行数 159 行
台詞:地の文 779文字:5966文字


作品への感想等色々どうぞ。


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Last-modified: 2010-12-02 (木) 00:00:00
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