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六幕「水草騎士団」

/六幕「水草騎士団」

Writer:赤猫もよよ
まとめはこちら→花葬の街、憂悶の海


「成獣一匹と幼獣一匹ですね。アキレア銅貨3枚になります」
「はいよ」
「確かに。良い滞在を」

 晴天。
 どこまでも広がる青い空に、街を取り囲むように立ち並ぶ石造りの白い外壁は良く映える。どんなに巨体の獣でもすんなり通してしまいそうな大門は辛うじて荷車が通れる程度に開かれ、その先、大通りに面して立ち並ぶ建物もまた全て白い石で出来ていた。整然と敷き詰められた白い石畳、この街の中枢とも言える道のはるか向こうには、空の色よりも少しだけ薄い青が水平線の彼方まで広がっているのが見えた。歩き通しで疲れていなければ今にも走り出したいぐらいの開放感に、ぼくは思わず大口を開けてしまった。
 青い空と白い岩肌のコントラストが、ぼくの目の奥をひりひりと刺激する。それだけじゃない、行き交う人々の熱気や建物から溢れる色彩も、街の賑やかしに一役買っていた。この良い意味での喧騒や活気、何かが始まりそうなワクワク感は、土葬の街なんかとは全然比べ物にならないだろう。もうすぐ終末が迫っているのに、ここまで街の雰囲気が明るいのは不思議なぐらいだった。
「眩しい街だな」
 ヒヨスさんがぽつりと漏らした言葉の、まさにその通りだった。しかし、眩しいといっても、歓楽街に掲げられる看板のような不健全な色彩のことじゃない。むしろその逆、極限にまで磨き上げられた清潔さが活気になって街全体に広がっているのだった。
 そんな小奇麗な街の奥に位置する海浜公園は、まるで大きな日時計のようだった。無数の円を描くように石畳が敷き詰められ、広場の中央にはこの街の守り神――水君(スイクン)というらしい――の見上げる程の大きさの石像が置かれていた。粛々と伸びる四足の体躯に、今にも動き出しそうに深い英知を湛えたその表情がよく映えている。視線の先には緩い階段があり、その奥には海に続く砂浜があった。
「スイクン。水月の君とも呼ばれてるな」
「詳しいんですか、ヒヨスさん」
「知り合いに神話に詳しい奴が居てな。子守唄代わりに良く聞かされたもんだ」
「へえ……」
 それはさぞかしよく眠れたんじゃないか、と冗談めかして言うとヒヨスさんは小さく笑った。知り合いとの思い出は良いものだったのだろう、像を見つめる目はいつもより少しだけ穏やかだった。
「その知り合いさんは、今どこに?」
「さあな。無駄にしぶとい奴だから、どっかでひょっこり生きてるだろうさ」
 これ以上何かを言う意思はないらしく、ヒヨスさんは像からそっと視線を外す。砂粒ほどの哀しさの残り滓は、眼差しが向けられた海の中に溶け込んですぐに消えてしまった。何となく居心地が悪くなって、ぼくもヒヨスさんに習うように海に目を向ける。
 遥か遠くまで伸びる水は青い布を渡したように平らだった。太陽が雲間から顔を出す度に、青布に織り込まれた銀糸がきらきらと目を灼く。視線を落とした砂浜にはいくつかのヒト影が固まっていた。
「ありゃ難民だな。街に入るのに金を使い果たしたもんだから、あそこで寝泊まりしてるんだ」
 暖を取る為か、それとも単純に不安なのか、身を寄せ合ったまま動かない彼らもまた、ぼくと同じように“海”から逃げてきたのだろう。どこへ行くでもなく、ただ途方に暮れるその姿は見ていて悲しいものがあった。
「見知った顔はあるか」
 ヒヨスさんの問いに、ぼくは即座に首を横に振った。
 元々友好関係は広い方じゃないし、仮に知っている顔があったとしても声を掛けるのは躊躇われた。ぼくにはまだ、微かにだけど希望が残っている。お父さんがこの街のどこかで待っていてくれるなら、ぼくは近い内に再会することが出来るだろう。しかし彼らには何も無いのだ。残っていた希望も、全て忌々しい海が上からなぞって消してしまったのだから。
 そこまで思い至って、ふと心の中に黒い光が射し込むのを感じた。そんな筈はない、と真っ先に否定したい気持ちが湧きあがって来たけど、どうしても拭えない可能性が存在しているという事実は、覆せるものではない。
「もしこの街にお父さんが居なくて、それどころかどの街にも居なかったとしたら。……ぼくも、あそこに行くことになるんでしょうか」
 指差した先には、身を寄せ合うヒト影があった。八方ふさがりの現実に押し潰され、身じろぎひとつすることが出来ない彼らの姿に、未来のぼくの姿が重なることはないなどと誰が言いきれるだろう。万が一お父さんが死んでいたりしたならば、ぼくは。
「なるだろうな」
 問いかけに対する答えは、思ったよりも早く彼の口から飛び出した。ここまで遠慮の節が見えない言葉は、返って清々しいぐらいに感じる。無意識にぼくは目を伏せた。一刻も早く彼らから目を背けたかった。
「そういう世界なんだ、ここは。掴まってなきゃ振り落とされるし、掴まってたって振り落とされることもある。ついでに言えば、捨てられた奴が拾われる事はねえ」
 腹に鉛をぶちこまれたように、彼の言葉は重く響く。何かを言う気力はとっくに失せていた。ぼくは余り多くの物事を知らないけれど、彼が言うならそうなんだろうと感じつつあった。彼は多くの物を見たうえでその結論を下したのだから、ぼくに反論の余地など存在しないのだろう。
「いいえ、そんなことはないわ」
 そう感じていたからこそ、ぼくらの背中側から降りかかった声の印象は強いものになった。酸味の強い木の実の果肉を思わせる、はきはきとした爽やかな女性の声だった。
「難民保護の政策はきちんと考えられてるし、あそこに座ってる彼等も三日後にはいなくなる予定よ」
 引かれるように振り返ると、綺麗な濃紺の瞳と目が合った。次いで、首回りに巻かれた薄水色の襟飾りと流線形の尾が目を引く。空の青にそのまま染められたような身体には光を滑らせて輝く鱗がびっちりと張り巡っていて、それはまるで魚のようだけど、前でちょこんと揃えられた四つの足は明らかに獣たちのそれだった。魚と獣の合いの子――そう表現するのが、一番すとんと腑に落ちる。
「見たところ旅人さんね。グラスタンクへようこそ、歓迎するわ」
 人懐こい笑みを見せて、その女性――シャワーズはゆらりと尻尾を揺らめかせた。身体と似たような色で分かりにくいけれど、良く見たら尾の枝分かれする直前の部分に、濃い緑色のスカーフが巻きつけられている。
「騎士団か」
「ご明察。水草騎士団ガルキーバ隊所属、二等騎士のメルン。よろしくー」
「……ヒヨスだ」
「あ、えと、ぼくリコです」
 ヒヨスさんが簡潔に名前だけ告げたので、ぼくもそれに習う事にした。軽く会釈をする。
「よろしく。ふたりはどういう関係?」
 ぼくら二匹を舐めまわすように見つめた後、メルンと名乗るシャワーズはさくりと言葉を切り出した。それはぼくとしては余り聞かれたくない事柄なので、ついつい言葉に詰まってしまう。ヒヨスさんもおおむね同じようだったけど、表情を全く崩さない辺りぼくより幾分かは質問慣れしている風だった。
「兄弟だ」
 ……嘘でしょヒヨスさん。
 質問慣れしていても、返答に慣れているという訳ではないみたいだ。精々旅仲間や友達ではぐらかすのだと思ったけど、まさか兄弟ってくるとは思わなかった。無理がある。兄弟って、そもそも全然似てないし。
「……いやいや、血ィ繋がってないでしょ君ら。ワケアリなら探ることはしないけどさ、変に疑われないようにしなよ。只でさえ今治安悪いのに」
 当然ながら胡散臭げな目で見られたけど、それ以上突っ込まれることはなかったので助かった。別にやましい関係じゃないけど、説明するのは少々面倒くさい。
「悪いのか、治安」
「そりゃ、アタシらが巡回してるぐらいだからね。ついさっきもホトケサマが見つかったばっかで――あーしまった、今の内緒ね。捜査情報は厳重機密だから」
「とんだ生臭騎士だな」
「うるさいなあ。ま、とにかく気を付けなよ、特にザングースって疑われやすい見た目だし」
「ああ」
「そ、ならいいけど。最近騎士団ピリピリしてるし、因縁吹っかけられないようにね」
 そう言って、メルンさんは申し訳なさそうな面持ちをした。騎士団と聞くとかっちりとしたお堅いイメージを覚えるけれど、彼女は例外のようだ。堅いどころか、むしろ柔らかい寄りに傾いている気がする。主に口が。
「ところで、お二人さんはどこから来たのさ。わざわざ滅亡寸前の街に来るだなんて、もしかして心中希望?」
「それはない」
「いや、冗談だから。そんなぶっすりとした顔で言わないでよ」
「怒ってるつもりはないんだが」
「え、いっつもそんなに無愛想な訳? うわあ、うちのリンドウといい勝負。あー、あっちとは違うタイプの無愛想だけど」
 よく喋る上に、物凄く失礼なヒトだった。ぼくが今まで必死に避けていた地雷を全力で踏みにいく姿勢は、一周回って尊敬に値するんじゃないだろうか。値するってだけで、尊敬は絶対にしないけど。
「あ、そのリンドウってヒト、ぼく知ってるかもしれないです」
 恐る恐る横目で見たヒヨスさんの顔が微妙に曇っていたので、ぼくは話を変えることにした。我ながらナイスアシストだ。
「え、マジで? ……つーことは、キミたち土葬の街から来た?」
「え、まあ」
「うわあラッキー! やった、ねえ君達、ゴハンおごるから詳しく話聞かせてよ。いやね、アタシ海に呑まれた土葬の街の損傷具合とか街に残ったヒトたちの数とかの調査頼まれてんの。ね、お願い! 時間取らせないからさぁ!」
 ぼくの両前足を握りしめてぶんぶんと上下に振る姿は、騎士というよりただのワガママな女の子という印象を覚える。他人事ながら、水草の街の治安事情が少し心配になった。
 もちろん、水草の街の騎士たちのみんながみんなこんな風に破天荒な訳じゃないだろう。たぶん彼女は、騎士団という堅いイメージを市民から取り去るために採用された、いわば看板的な存在じゃないだろうか。そう考えれば、この異様なほどの人懐っこさと明るさ、そして拭えない残念な感じも納得がいく。自然とヒトを自分の陣地に引き込むような、そんな強い魅力が彼女にはあった。
「……ちょっと待て。色々と話が読めない。まずリンドウとは誰だ。おれたちが土葬の街から来たって断定するのとどう関係がある」
 割って入ったのはヒヨスさんだった。当然だろう、ヒヨスさんはぼくとリンドウさんの関係を知らないのだから。
「リンドウは土葬の街との情報伝達役。土葬の街の町長さんとは接点がある筈だし、街の皆も知ってるだろうねー」
「……ああ、そうか。お前、確か町長の息子だったな」
 ヒヨスさんに視線を向けられ、ぼくは小さく頷いた。町長であるお父さんとの会合の後に、ちょくちょくリンドウさんが遊んでくれたことは強く覚えている。街の外に出ることを許されてなかったぼくにとって、ほとんど唯一といってもいい外の事を知る機会だったからだ。少し硬いヒトだったけど、今も変わっていないんだろうか。
「んで、どうする? 引き受けてくれるんならとびっきり美味しい店に連れてくけど」
 ぼくとヒヨスさんは一瞬顔を見合わせて、即座に頷いた。ぼくらはもうお腹が空きすぎて、胃を掻き毟りたいぐらいの気持ちなんだ。当然、断る義理なんてどこにもない。
「決まりね。んじゃ、リンドウのお金でたっかいもの頼んじゃおーっと!」
「ほう、誰のお金で頼むというのだ」
 静かな声が聞こえた。メルンさんを動とするならば、今メルンさんの首根っこを掴んでいるこの女性は、さしずめ静といったところになるだろうか。
 メルンさんとは対照的に縦にすらりと伸びた身体は、秋初めの稲穂のように煌びやかな黄色に輝いていた。丸みを帯びた耳やほっそりと伸びた首には輪のような黒い線が走り、緩やかに反った尻尾の先にはつやつやと光を湛える赤い光球がくっついている。
「あ、リンドウさん!」
「……おや、リコ坊じゃないか。無事だったのか」
 メルンさんの首を容赦なく締め落としながらこちらに向かって静かに微笑みかけるのは、デンリュウのリンドウさんだ。
「まっで……リンドウ……くび、ぐびしまっでるぅ……」
「君が今まで私にツケた金額分締めているだけだ。よかったな、後一万二千十五秒で解放されるぞ」
「ぞのまえにじぬがらあ……ごめん、ほんと、ゆるじて……」
 静かに澄ました顔で常軌を逸脱したことをやるその性格、相変わらず全く変わっていない。思わず引きつりそうになった頬をどうにか抑えていると、ふとリンドウさんの耳に視線が行った。
「……あれ、そのスカーフ」
 リンドウさんの紡錘形の耳に巻きつけられていたのは、濃紺に染められたスカーフだった。メルンさんの緑スカーフは無地なのに対して、リンドウさんのスカーフには白糸の刺繍が刻み込まれている。
「なんか、ちょっと豪華ですね」
「そりゃあ、リンドウちゃんは一等騎士だからねー。上にいけばいくほど豪華になるって基本じゃん?」
 ようやく首絞めから解放されたらしいメルンさんが、まだ青白い顔でご丁寧に説明をしてくれた。確かに、昇進すればするほど身に着けるものが豪華になっていくというのは合理的だ。パッと見ただけでどちらの階級が上なのか、お互い認知しやすいだろうし。
「あーあー羨ましい。リコくん知ってる? 一等騎士って自分の家貰えるのよ。私より若い癖に……かーっ、憎いねェこの!」
「小突くな。実力はあるんだから、お前だって真面目に仕事すればよかろうに」
「アタシがそんなクソ真面目にやるとでも?」
「……それは思わんな。それこそ、天地が裂けようとも」
 メルンさんとは会って間もないけど、それに関しては全面的にリンドウさんに賛成だった。メルンさんが仕事をこなしている光景というのは、正直天地が裂ける光景の想像より難しそうだ。
「……おい。なんでもいいが、約束を忘れてはないだろうな」
 そろそろ苛立ちを隠しきれない様子で、ヒヨスさんが重く切り込んだ。メルンさん達の何処までも自由なやり取りに呑まれてすっかり忘れていたけど、そういえばまだ本来の約束には一歩も踏み込んでいなかった。思い出したように、ぼくのお腹がぐうと鳴る。
「約束? ふむ、メルンはどのような約束をしたのだ」
「あ、や、それはね、えっと」
「土葬の街の被害状況を報告する代わりに、おれたちに飯と寝床を提供してくれるという話だ。……お前さんのおごりで」
「む、私か? ……メルン、説明しろ。これは命令だ」
「ちょっ、待って! 確かにアタシご飯はリンドウのお金でおごるって約束したけど! 寝床なんて言って――」
「ほう」
 急激に冷たい殺気を感じて、ぼくとヒヨスさんは思わず一歩下がってしまった。慌てた様子で自ら墓穴を掘りにいくメルンさんの首元に、リンドウさんの手刀がいつの間にか添えられている。良く見ると、リンドウさんの手には薄らと輝きを放つ物体が纏わりついていた。
「……留め技か。初めて見たな」
「とめわざ?……なんですか、それ」
 ヒヨスさんはちらりとこちらを見て、また視線を戻した。
「パワージェム、という技は知っているか?」
「知らないです」
「少し珍しい技だからな。本来パワージェムという技は、エネルギー体の鉱石から光を放って攻撃する技なんだ」
 ぼくらの放つことのできる技には、まだまだ解明されていない部分が多い。放つことは簡単にできるが、未だに原理の分かっていない技なんていくらでもある。何故エネルギー体の鉱石が出来るのか、というか何故光を放って相手を攻撃することが出来るのか、考えるだけナンセンスというものだろう。エスパー技なんてそのいい例だ。
「……でも、リンドウさんあんまり光ってないですよ」
「恐らく彼女は、エネルギー体の鉱石を具象化するところで技を留めている。手に這っているのはその鉱石だろう」
 徐々にメルンさんの喉元に近づいていく手刃は、確かに透過性の高い金色の鉱石を纏っているようだった。鈍く光るその切っ先は、金属の刃物と比べても遜色のない切れ味のように見える。
「光を出し切った後、宝石は自然消滅してしまう。だが、そもそも光を放つという過程がなかった場合」
「……宝石はずっと残る、って事ですか」
「ああ。無論、宝石の維持にも多少のエネルギーは使うがな。それでも普通に技を繰り出すよりは消費が抑えられる筈だ」
 とめわざ。発音上では意外と軽いその言葉を何度か舌の上で転がしてみる。戦闘はおろか本来炎タイプが当然のように出来るだろう火吹きすらあまり得意ではないぼくに、生涯縁のある言葉ではなさそうだった。
「だが、普通ならそんな面倒なことはしない。そういう奴は大体、余程卓越した技術を持っているか、或いは普通に戦えないかのどちらかに割れる」
「それって、つまり……」
 達人級の能力の果てに生まれた技術。或いは、足りない能力を補うために捻り出された技術。どちらにせよ、そんなのを考え付いて実行に移せるってだけで十分にすごい事じゃないだろうか。ぼくにはとても出来そうにない。
「……事情は大体分かった。済まなかったな、余計な魚を釣らせてしまったお詫びに、貴公らの寝床と食事は私が保障しよう」
 完全に伸びてしまったメルンさんを片手で引っさげながら、リンドウさんは礼儀正しく礼を向けた。きちっと揃えられた全身を正しい角度で折り曲げたその姿はどこまでも研ぎ澄まされていて美しいけど、右手に携えるその獲物のせいで全てが台無しになっている。以前遊んでもらった時はもう少し常識的なヒトだと思っていたけれど、その認識は改めるべきかもしれない。
「……いや、保障して貰うのは有難いんだがよ。それ引っさげてると目立つからやめてほしい」
 流石のヒヨスさんでも処理能力がおっつかなくなったのか、鍛え抜かれたはずの鉄仮面も剥がれ落ちつつあった。ここまで焦るヒヨスさんも珍しい。
 騎士が騎士に締め落とされている――という異様過ぎる光景に惹かれたのか、どんどん人目が増えてきていた。特にやましい事はないけれども、沢山の視線に射抜かれているという状況はそれだけで気分が悪くなる。
「……おい、お前」
「リンドウだ」
「じゃあリンドウ。どこか落ち着いて飯を食える場所に案内してくれ。話すならそこだ」
「うむ、心得た。……おいメルン、起きろ。何故寝ている」
 どう考えても貴方のせいです――などと言える勇気はぼくには無く、ヒヨスさんにも無いようだった。お互いに顔を見合わせて、小さく溜息を吐く。街に着いて早々、こんなに気疲れすることになるとは思わなかった。
「おい、リコデムス。お前アレと知り合いなのか」
「……ええ、一応」
「じゃあ、任せたからな」
 え、何を? ――なんて聞く暇もなく、ヒヨスさん達は歩き出した。どうにも、面倒くさい仕事を押し付けられてしまった感が否めない。
 空は清々しいほどの晴天だというのに、ぼくの心は徐々に灰暗い雲が立ち込めていくようだった。


あとがき
新年明けましておめでとう御座います。超お久しぶりです、もよよです。
今回登場した新キャラ、羊年にちなんで種族はデンリュウです。デンリュウって可愛いですよね、あのへにょっとしたおみ足で踏まれたいです。餌に輪切りのゴーヤを混ぜて露骨に嫌な顔とかされたいです。あとすれ違いざまに舌打ちされたりして越えられない深い拒絶の壁を味わいたいです。ぐへへ。
個人的にザングースと同じぐらい好きなので、いい感じの役割で動かせたら嬉しいですね。


七幕「水草騎士団―②」


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • はじめまして。第1幕から拝読させていただきました。個人的に無愛想男と少年の組み合わせは好物なので、ヒヨスとリコが今後どう変化していくか楽しみです。キャラクターと世界観の造形がお上手ですね。参考にさせていただきます。
    ――macaroni 2015-01-08 (木) 22:49:44
  • コメント有難うございます。もよよです。
    自分も無愛想と少年の絡みが好きで力を入れている点なので、気に入って頂けたようで嬉しいです。
    彼らや彼らを取り巻く世界がどう変化していくのか、今後もお楽しみにお待ち下さい。
    ――赤猫もよよ 2015-01-09 (金) 00:01:00
  • こんばんは。初めまして。最新話楽しみにしてました。登場ポケモンが増えて賑やかになりましたね! リンドウさん面白いです。執筆頑張って下さい。
    ――もの ? 2015-01-09 (金) 00:39:41
  • 冒頭でインパクトのある設定を見せて、その後イベルタル教の行動など、リアルな細かい設定を加えていくのはまさにリアルファンタジーだと感じました。やっぱもよよさんの小説は面白いですね。
    個人的にはメルンが好きです。シャワーズに似合わずテンションが高くて笑ってしまいました。
    これからの展開を楽しみにしています。
    ――逆行 2015-01-11 (日) 00:45:59
  • メルンの明るさ前向きさで好みを突かれたり、リンドウの暴走ぶりに笑わされたり、ヒヨスがイケメンだったりリコの表現が緻密で繊細だったり。
    そんな素晴らしさをも凌駕するのは、あとがきの赤猫もよよさんのドMぶりでした。大好きです。
    ―― 2015-03-04 (水) 21:07:31
  • お返事遅くなりました、申し訳ありません。
    >ものさん
    コメント有難うございます。不定期更新ですが、上がった際には楽しんでいただければと思います。

    >逆行さん
    リアル系のファンタジーが好きなのでそんな感じを目指しました。いい感じに伝わって下さったように何よりです。
    メルンのような賑やかしキャラは書いてて楽しいです。陰鬱な話の中の一服の清涼剤みたいになればいいかなあと思ってます。

    >名無しさん
    お褒めの言葉有難うございます。デンリュウの件でやや暴走気味だったので引かれないか心配してましたが、どうやら大丈夫のようですね。これ以上語りすぎるとくどくなるので、作品の中で愛を表現できたらいいかなあ、と考えております。
    ――赤猫もよよ 2015-03-12 (木) 00:36:20
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Last-modified: 2015-01-02 (金) 01:46:35
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