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亀の万年堂
レポートNo.3「料理の達人?」←前回のお話
更新履歴
2009年3月8日
本来ならば完成してからの投稿なのですが、諸事情により、今回に限って途中まで載せました。よって、次回の投稿時には内容に大幅な変更が生じる可能性があります。
コメント云々については完成してから作成します。
3月19日
ひとまずの修正終了につき再投稿
緑豊かな木々から零れる穏やかな日差し。汚れなく穏やかに流れる川のせせらぎ。そして穏やかに目覚めの歌を奏でる鳥ポケモン。それらは朝という時がいかに穏やかなものであるかを表すモノ。自然という恵みの中に在ればこそ得られ、人工の中では決して得られないモノ。
そう、それらは都会の中では味わうことのできない喜び。街から離れて旅に出なければ決して巡り合うことのできない、
「うっわー! まぶしーっ! こりゃ今日も暑くなりそうだなぁー。あーやだやだ」
・・・朝の日差しは闇に潜む者達を除けば、いかなる者にとっても恵みとなるべきモノ。一日の始まりにその恵みを受けることによって、多くの者は明日へと繋ぐ今日のための活力を得る。例え一日の内にどんな苦難が待ち受けていようとも、朝の日差しの恵みさえあれば、
「う、うーん、うーん・・・わひゃっ!? つつつつ冷たい!」
「あーあーあーもう、何をやっているのさ。水汲みもできないのかい?ほら、貸して貸して」
「す、す、す、すいません」
「ただでさえ苦労しているっていうのに、これ以上面倒が増えるのはごめんだよっとっとととと!?」
「あっ!?」
バシャーン!!!
・・・静かに、そして穏やかに流れているはずの川はその音を聴く者の心を癒し、それを口にする者の喉を潤し、触れる者の身を清める。そして時には様々なわだかまりをもその流れに取り込んで、綺麗に流してくれる。およそ全ての者にとって不可欠な水をたゆたわせている川もまた自然の恵みであり、朝の日差しと同じく、多くの者に活力を与えてくれる。いくつもの道に迷う者であっても、川の恵みさえあれば、
スバーッ!スバババババーッ!スバーッ!!
「まったく、うるさいなぁ。お腹が空いているのはわかるけどさ、こうもうるさいんじゃ」
スババババババババババ!
「で、でも、この鳴き声のおかげで、色々と助かることもあ」
スバーッ!スバーッ!スバッスバッスバババーッ!
「どう考えても、うるさいことのデメリットの方が大きいような気がするんだけどね。――ああでも、これだけ声が大きいんだったら、目覚ましとしてはうってつけなのかも。今度“スバメの目覚まし時計”とでも名前をつけて、博士のパトロンのメーカーに」
スババババーッ!
・・・疲れを癒すために眠っている者達を穏やかに起こすはずの鳥ポケモンの歌声。それはやはり一日の始めにおいてはとても大事なもので、決して耳障りなモノなどではなくて、聞きさえすれば誰もがうっとりとするはずで、
「もうすぐ朝ご飯できるわよー」
「やっとか。もうお腹が空いて死んじゃうかと思ったよ」
「そ、そんなにお腹が空いていたんですか?」
「そりゃ空いているよ。――いいかい? 生き物にとって朝ご飯っていうのはすんごい大事なんだよ。それはもう一日を乗り切るためには一番大事だって言ってもいいくらいにね。だから、朝にお腹が空くっていうのはとてもいいことなのさ。つまり、おいらは健康そのものってわけ」
「た、確かにご飯は大事だと思いますけど、そこまでのものだったんですか」
「間違いないよ。もうこれはどこであろうと決まっていることさ。一日の始まりはご飯!それなしでは一日を乗り切れやしない!他はどうでもいい!」
・・・つまるところ、一日の始まりにおいては穏やかな朝の日差しも、穏やかな川の流れも、穏やか鳥ポケモンの歌声も必要ではなくて、朝ご飯さえあれば、朝ご飯さえあればそれで何もかも良くて
「何泣いているの?」
「ん? 誰が泣いているのさ?」
「ぼ、ぼ、ボクは泣いていませんよ?」
「うーん、確かに誰かが泣いているような気がしたんだけど・・・。気のせいかしら?」
・・・こうしてプラムタウン近郊の森の中で旅の二日目を迎えたキョウカ達は、長い一日の始まりである朝食をとることになったのでした。
「あのさ、昨日の今日で言うのもなんだけど、もうちょっとその・・・なんとかならない?」
「もうちょっとって、何が?」
「いや、味は良いんだろうけど、この見た目がちょっとさ・・・」
料理において大事なのは味。味さえよければ問題ない。そう言われることも多いのですが、料理というのは味が全てと言ってしまうほど浅いものではありません。そもそもその味についてだって、厳選された食材や研究に研究を重ねた調理法などが合わさって、初めて素晴らしいものとなり得るのです。そしてそこに“食べる者のことを考える心構えや気遣い”が合わさることで、“食欲をそそる見た目”や“食べやすさ”などが生まれ、より一層素晴らしい料理ができるわけですが、
「うーん、そんなに見た目が悪い?」
「どう見たって悪いよ! 昨日は昨日でひどかったけどさ! 何でこのスープはこんなに黄色いんだよ!」
今日も口が絶好調そうなゼニガメのリードは、底の深いお皿を手に持ちながら怒鳴りました。それを受けて人間の少女であるキョウカは、細長く少し硬そうなパン*1を切り分けて平たく丸いお皿に盛る作業を中断し、リードに向かってキョトンとした顔を向けました。そしてそのまま、たっぷりと謎の液体が注がれたお皿とリードとを何度か見比べていましたが、やがて何かに気づいた様子で二度ほど頷くと、再びパンを盛る作業を開始し、にこやかに笑いながらリードに向かって口を開きました。
「あ、もしかしてリードって辛いのが苦手なの? だったら大丈夫よ。これは別に辛くて黄色いわけじゃないしね。それと、もしも味が薄かったら、ここにお塩があるから、」
「そういうことを言っているんじゃないの! 大体辛いのは普通黄色じゃなくて赤だろ!?」
「あら、黄色くても辛い料理はいっぱいあるわよ? 例えば、」
「あーもう! 今はそんなことはどうでもいいんだって。とにかく、おいらは何をどうやったらスープがこんなに黄色くなるのかって聞いているんだよ。ちょっと黄色いくらいならわかるけどさ、この黄色さは尋常じゃないって!しかも妙にドロドロしているし、これじゃペンキみたいじゃないか!」
それは最早料理に対するコメントとはとても思えないようなものでしたが、リードが言っているように、今彼の手の中にあるお皿には、そう言われてもおかしくないような液体が入っているのですから仕方ありません。その液体は限りなく原色に近い黄色をしている上に、どう見てもサラサラとはしておらず、スプーンがズブズブと埋まっていきそうなくらいにドロドロとしていました。しかも中には、――やはりというべきでしょうか、昨晩の“謎の紫色の鍋”を
「ペンキみたいだなんて言うことはないでしょ? 黄色いのはこの草を入れているからよ。前に本で読んだんだけど、この草ってすごく体に良いらしいの。特にこうやってスープに入れると良いって書いてあったのよ」
「そ、そうなんですか? ぼ、ボクもその草は何度か見ていましたけれど、その・・・その・・・た、食べられたんですね」
自信ありげに謎の液体の中に漂っている草を提示するキョウカの横で、ポチエナのグレイが何やら気まずそうに洩らしました。それもそのはず、その草は奇抜な形をしているだけではなく、その全身を“食べたらヒドイことになるから口に入れてはダメだよ”と言っているかのようなキツイ色と“怪しげな黒い斑点”で覆っていたからです。
この世界においては自然の産物、――例えば、キノコや木の実、そして様々な草、果ては生き物に至るまで、その外見によって己の存在を示すというのは往々にして良くあることでした。よって、今キョウカが提示している草などは、自己を危ないモノだと示しているに違いないはずなのですが。
「だからグレイも無理しなくていいって。今度は絶対に良くないって」
「そんなことないわよ。ね? グレイちゃん」
「え、えっと、えっと、その・・・」
いつでも選択を迫られる者の立場は苦しいものです。しかし、この場合はどう頑張っても逃げ道は見つからなさそうでした。そしてまた、彼には彼女を裏切ることはとてもできそうもありませんでした。
「だ、大丈夫ですよ。き、き、昨日だってあんなに美味しかったんですから、きょ、今日のも美味しいはずででです」
「思いっきりどもっているじゃないか」
「だから大丈夫だってば。ほら、パンも切り終わったし、食べて食べて」
「うー・・・」
グレイと同じく、いよいよ逃げ道が無くなったリードは、小さな手で器用に持っているスプーンを震わせながらスープ(?)を口に運びました。本来ならば2秒とかからないはずのその動作に、たっぷりと10秒近くかけていたところから、リードがそれに対していかに恐れをなしていたのかが窺えます。
「・・・・・・」
「どう?」
スプーンを口に入れたまま固まっているリードに向かってキョウカがおずおずとして訊ねました。それを習ってか、グレイも何やら真剣な・・・というよりも、不安げな眼差しをリードに向けています。そしてそれらの対象となっているリードはというと、
「んぐっ。――はぁ・・・・・・何ていうかさ、何でというか」
「何でというか?」
「どうして見た目がこうなのに、――うーん」
リードの答えは今一つ煮え切らないものでしたが、その表情がほんの少しだけほころんでいること、そして口から抜いたスプーンを自然と皿に向かって動かし、躊躇うことなく中身をすくったところからして答えは明らかでした。これで二度目だというのに、どうやらリードはまだ完全に認めることができずにいるようです。
一方で、そんなにもわかりやすい態度を示されているにも関わらず、キョウカの方は
「ねぇ、おいしいの? それともまずいの?」
「い、いや、だからさ、言わなくてもわかるだろ?」
「わかんないわよ。うーん、ってしか言わないし」
すでに二度目だというのに、未だに認められないのかハッキリと示すことができないリード。そして口で示されなければ気づくことすらできないキョウカ。どちらかが一歩譲らなければ、それはもう永遠に平行線が引かれ続けることになりそうでした。しかし、
「お、おいしいです!き、昨日のと同じくらいに」
「本当?良かったー。リードが言ってくれないから不安だったのよ。ありがとう、グレイちゃん」
「い、い、いえ、ほ、本当においしいですから」
「ふふふ、昨日の誰かさんの食べっぷりを見越して、たくさん作ってあるからね。いっぱいおかわりしてね」
「は、はい」
「じゃあ遠慮なく」
「えっ!?も、もう食べちゃったの?」
「あんなので足りるわけないだろ?」
「リードって本当によく食べるのね。――はい、お皿出して。よそってあげるから」
「大盛りね。大盛り」
昨日、新しく仲間に加わったグレイの声をきっかけに、キョウカとリードは、先の問答などまるで無かったかのようにやりとりを交わしていました。そのことに二人が気付いているかどうかはわかりませんが、グレイの存在によって、平行線が平行線のままで在り続けるということが防がれているのは間違いなさそうでした。
それから少しして、平たく丸いお皿の上からパンがほとんど無くなった頃、――リードが一人で大半を平らげていた――キョウカがふと何かに気づいたかのように食事の手を止めました。そしてそのまま何もないところを見ていると、それに気づいたのか、口にパンとスープとを大量に含んだリードもまたスプーンを置きました。それはそこはかとなく真面目な雰囲気を生み出しそうな動作でしたが、
「ふぉうふふぁふぃふぁんふぁ?」
「え?」
翻訳機でもなければ解読できそうもない謎の言語が発端では、真面目な雰囲気も何も生まれるはずがありませんでした。
「ふぁふぁら、ひゅうにふぁおふぉうふぁふぃふぁふぁら」
「何言っているのかわからないってば。まずは口の中の物を飲み込んでから、」
「ふぉうふぁふぃっふぁふぁ、ぶほおっ!」
「わぁーっ!?」
「ちょ、ちょっと!」
無理をして喋り続けることにより、強力な“みずでっぽう”を撃てるほどに鍛えられている(?)口内の許容範囲を超過した混合物が、今、リードから正面に向かって拡散して放たれました。幸いにも、というべきかどうかはわかりませんが、真正面にいたキョウカには届くことなく飛散しましたが、リードのすぐ脇にいたグレイは
「あぅ・・・。り、リードさん」
「もががが! ――はぁ、ごめんごめん」
「何やっているのよリード! ――大丈夫?グレイちゃん。今拭くから、ちょっと待っていてね」
「は、はい。す、す、すいません」
グレイのピンと立った耳から鼻先、そして首周りにかけて、リードの口内でごちゃまぜになった液体だか物体だかよくわからないものが、びっちゃりとかかってしまっていました。元の毛色が灰色なだけに、黄色いそれは大変によく目立ちました。その不快感は想像を絶するものであるに違いありませんでしたが、グレイはそれを抑えて、ただ目を閉じて、ジッとキョウカに拭かれるがままになっていました。
「――それで、一体何を考えていたのさ? どうせまた何か疑問に思っていたんだろ?」
「うん、食べていたらちょっと気になることがあって」
「き、気になること、ですか?」
リードに問われ、グレイに確認されて、キョウカは少し口ごもりました。その顔は先ほどまでとは違い、少々複雑そうでした。
「ねぇ、グレイちゃん。昨日から思っていたんだけど、グレイちゃんは・・・その、前のご主人様の時には、どんなものを食べていたの?」
「えっ? ま、前のご主人様の時・・・ですか?」
「答えたくなかったらいいんだけど、ちょっと気になっちゃって」
「・・・」
どこか申し訳なさそうなキョウカと戸惑いを隠せずにいるグレイに対し、話の中心からは外れているリードは、特に何か言うわけでもなく、一人で黙って食事を再開していました。もっとも、中断する前に比べて、幾分か勢いをおさえているところからして、二人の話に全く興味がないというわけではなさそうでしたが。
「え、えっと、ボクは前のご主人様の時は小さくて固い食べ物をいつも食べさせてもらっていました」
「小さくて固い食べ物? うーん、それってクッキーみたいな物なのかな。――ほら、グレイちゃんと初めて会った時に一緒に食べたでしょ? ああいう感じだったの?」
「い、いえ、その、前のご主人様が食べさせてくれたものはあんなに甘くなくて、もうちょっと苦くて、それにボロボロとしていました」
「そっか。――でも、いつもそれだったの? 何か違う物を食べさせてもらうことはなかったの?」
「は、はい。す、少なくとも、きょ、キョウカさんみたいに、料理をしたものをた、食べさせてもらうということはなかったです」
「そうなんだ・・・」
グレイが食べていた物を想像しているのか、キョウカは中身が空になったお皿を地面に置いて、口元に手を当てながら神妙そうな顔をしていました。そしてグレイもまた昔のことを思い出しているのか、決して明るいとは言えない表情で、自分、――中身がほんの少しだけ残っているお皿の上を見ていました。そんな少し気まずい雰囲気の中、リードが相も変わらず口をもごもごとさせながら、――先のようにそれが放出されることはなさそうでしたが、二人に向かって手に持ったスプーンを振り始めました。その先からスープが飛び散っていることには気づいていないようです。
「んぐんぐ、――んー、グレイが言っているそれはいわゆるポケモンフーズだね」
「ポケモンフーズ?」
「そ、ポケモンフーズ。――色んなポケモン用に、栄養バランスや食べやすさ、味なんかを調整して作られて、市販されている固形食糧さ。むぐむぐ」
「普通に売られているの? お店に?」
「売られているよ。っていうか、曲がりなりにもキョウカの家はその手の製品メーカーのパトロンなんだろ? だったら、その辺の所も知っていて当然・・・って、無理か。おいらのことを“ただの大きい亀”とか言っちゃうくらいだし」
「うっ・・・」
どうやらリードは未だに昨日のこと、――キョウカと初めて会った時にゼニガメと認識されず、“ただの大きい亀”と言われたことを根に持っているようです。それだけを見ればリードが粘着質であるかのように思われてしまうかもしれませんが、この場合どちらが正しいことを言っているのかは明らかでした。
「まぁそれはさておき、キョウカがどう思っているのかは知らないけど、こうやって人間が料理して、それをポケモンに食べさせるって言うのは珍しいことなんだよ。だからグレイがそうされていたっていうのは、ごく当たり前のことなんだよね。――あ、もう無いや」
「そ、そうなの?」
「もちろん、そうなる理由には色々あるけど。――っと、おかわりおかわり」
「理由・・・。うーん」
リードが言っている理由とはすなわち、固形食糧――保存性に優れた容器に入っている――ということによる持ち運びの楽さ。調理の手間がかからない。品質によるが、比較的安価である上に、誰にでも簡単に扱うことができる。などということだったのですが、「うーん」と唸っているキョウカに、そこまで考えつけるかどうかは疑問でした。
「あ、あの、きょ、キョウカさん」
「え? あ、何? グレイちゃん」
いつのまにかグレイがキョウカのすぐ傍まで来ていました。ポケモンフーズが使われる理由を考え込んでいたであろうキョウカは、今初めてその存在に気づいたかのように驚いていましたが、すぐにいつも通りの顔に戻って、グレイに向かって微笑みかけました。それを受けてグレイは、少しの間だけ口をパクパクとさせていましたが、やがて言いたいことがまとまったのか、顔をいつものように俯かせて、少しずつ口を開き始めました。
「ぼ、ボクは・・・その、きょ、キョウカさんの作ってくれる料理をおいしいと思いますし、そ、それに、う、ううう嬉しいとも、お、思っています。こここんなにおいしいご飯は初めてですし、そ、それに、とても温かくて・・・」
「・・・」
「ででででも、その、前のご主人様が食べさせてくれた物も、や、やっぱりボクには嬉しくて、だ、だ、だから、どっちがとはい、言えないんです。だけど、い、今はきょ、キョウカさんがボクのご主人様です。だから、ぼ、ボクはきょ、キョウカさんの料理がも、も、もっと、た、食べたい・・・です」
「グレイちゃん・・・」
その言葉の意味は、発言したグレイ本人にしかわからないことです。ですが、それはグレイなりに、キョウカが悩んでいることを予測しての発言だったのかもしれません。そしてまたキョウカもそうとったのでしょうか。彼女は俯きっぱなしのグレイの頭にそっと手を乗せて、落ち着いた声で、ゆっくりと「ありがとう」と言いました。
気がつけば餌を求めて喚き続けるスバメ達の喧騒は止み、朝の日ざしも川のせせらぎもいつも通りになっており、辺りはとても穏やかな空気に包まれていまし、
「ねぇキョウカ。おかわりはもう無いのかい?」
「えっ?あ、おかわり?おかわりだったら、そこのお鍋にあるでしょ?」
「いや、もう無いよ。だから聞いているんだけど」
「うそ!?だってあれだけたくさん作って・・・って、あーっ!? 信じらんない! 全部無くなっているじゃない!」
「さっきから何度も言っているだろ? 空になっているから、他には無いのかなって」
「あるわけないでしょ! 大体いつのまに食べたのよ?」
「二人が話している間に。暇だったし、お腹も空いていたしね。それに、もう二人とも食べないのかなーって思ってさ。だったら残飯は残しちゃいけないなーと」
「どうして話が済んでから食べるっていう考えが出てこないのよ! まだ途中だったのに!」
「ぼ、ボクも、もう少しだけ食べようと・・・」
「ほら! グレイちゃんだってまだ途中だったじゃない! なのに、どうしてリードだけで食べちゃうのよ!?」
「そんなこと言っても、お腹が空いていたんだから仕方ないだろ? 話の途中で割り込んで聞くのもどうかと思ったしさー」
「だ、だからって、だからって・・・もーっ! この大食らいのバカ亀!」
「なっ!? い、今なんて言ったんだよ!」
「大食らいで生意気なバカ亀って言ったの!」
「なんだとーっ!? 箱入りお嬢様のくせに、どこでそんな言葉を覚えたんだよ!? いらんことばっかり知っていて、肝心なことを知らないくせに!」
「信じらんない! それが自分のトレーナーに言う言葉!?」
「トレーナーにはならないんでしょー?」
「むぐぐぐ・・・」
「あ、あの、きょ、キョウカさんも、リードさんも、お、おち、落ち着い」
「あれー? それとも、もう忘れちゃったのかなぁ? 自分で言ったのにぃ? 何度も言わせないでほしいなぁ。まったく、そんなに記憶力がないんじゃ、この先どうなっちゃうのかなぁ?」
「ど、どうもこうもないわよ! そんなこと言うのならもうリードの分は作らないわよ!?」
「うっ・・・い、いや、でも、あんなグロテスクな見た目の料理はねー。もうちょっとこう、普通の見た目の料理じゃないとさー」
「あっそう。じゃあリードはいらないのね。いいわよ? 私とグレイちゃんの二人で食べるから」
「ああそっか。普通の見た目の料理は作れないのか。それだったら仕方ないなぁ」
「そ、そんなわけないでしょ!? ちゃんと作れるわよ! ふわふわのオムレツとか、」
「お、オムレツ? オムレツってなんですか?きょ、キョウカさん」
「オムレツっていうのはね、ってリード!何勝手におやつの・・・」
朝の喧騒はどこまでもどこまでも止みそうになく、気がつけば日は大分と高くなっていました。
朝食を無事に(?)終えた一向はキャンプの後片付けをし、再びミシロタウンへの道へと歩みを戻しました。空には雲一つ無くて、ポカポカと良い陽気です。この分ですと、突然雨が降って大変なことになり、またしてもミシロタウンへと着くのが遅れる、などという事態にはならなそうでした。
「ただでさえ遅れているしね」
「そうよね」
「そ、そうですね」
な、何はともあれ、キョウカ達は道中で色々と会話をしつつ、ようやくミシロタウンの入口へと辿り着きました。随分と長くかかってしまったものです。
「ここがミシロタウンね。一回か二回くらい来たことはあるけど、あんまり印象ないのよね」
「まぁ“家が少ない・人とポケモンが少ない・建物が低い”と田舎の三拍子がそろっているし、プラムタウンと雰囲気が似ているから無理もないかもね」
「そ、そうなんですか。じゃあ、きょ、キョウカさんの街も、こ、ここと同じような感じなんですね」
リードが言っているように、ミシロタウンはプラムタウンと同じく、とても都会的な雰囲気を持っているとは言えないような街でした。人口こそプラムタウンよりかは若干多いものの、大きなお店や施設があるわけでもなく、車もろくに通らないため、道路もあまり整備されていません。また、日が昇っているうちは明るくていいですが、夜になってしまえば、街灯が全く無いために完全に真っ暗になってしまいます。さらに、プラムタウンと比べると、やや山間部に近いために、気候についても少しだけ厳しかったりします。
もっとも、ミシロタウンが田舎であろうとなかろうと、今のキョウカ達は長々と滞在するわけでもなければ、特別必要な物を探さなければならないというわけでもないので、それらのことはあまり関係はなさそうでした。
「それはそうと、まだ日か高い内にドーナツ博士からの頼まれごとを済ませ」
「あ! 牛さんがいる! 見てみてグレイちゃん。牛さんよ」
「え? う、牛ですか?」
「うん。ほら、あそこ」
キョウカが何やら楽しそうに指をさしている先、――街の入口から少し離れた、畑らしき場所には、彼女が言っているように、この世界でいう“牛*2のような生き物”がいて、畑を耕すための農具を、「ぶもー、ぶもー」と唸りながら一生懸命に引っ張っていました。しかし、何故かその周りには人がいませんでした。また、何を警戒してのことかはわかりませんが、畑の周りの柵は異常なまでに頑強そうで、ちょっとやそっとの衝撃では壊れそうもありません。
ちなみに、その“牛のような生き物”は全身が茶色い毛皮で覆われており、頭には立派すぎる程の二本の角が生えています。そして足腰は、どれだけ重い荷物であろうと容易に引っ張っていけそうなほどにがっしりとしていました。と、そこまでなら確かに“牛”なのですが、そのお尻からは、――通常の牛は一本しか尻尾が生えていないのに対し、何故か三本も尻尾が生えていました。
「すごいわねー。あんなに重そうなものを簡単に引っ張っていけるなんて。――がんばってー!」
キョウカが感心しながら“牛のような生き物”に向かって手を振りながら応援の声をかけると、“牛のような生き物”は一瞬動きを止めてキョウカの方に顔を向け「ぶもももー!」と返事を返すようにして唸りました。そして三本の尻尾を自分のお尻に叩きつけ、勢いよく農具を引っ張っていきました。良い畑ができそうです。
「ふふふ、頑張りやさんね。――ん?どうしたの?グレイちゃん」
「え、えっと・・・」
キョウカが訪ねると、グレイはどう答えていいのかわからないのか、ひたすらに困った表情を浮かべてリードの方を見やりました。それを受けて、リードは露骨に嫌そうな、というよりも、面倒くさそうな顔をしましたが、すぐに両手を顔の横で水平に揃えて「やれやれ」と呟き、グレイに助け舟を出しました。
「グレイはただ単にビックリしていたんだろ。“牛さん”があんまりにもパワフルなんでさ」
「えっ!? で、でも、その、」
「そうなの? グレイちゃん」
「うぇっ!? あ・・・。――は、はい、そうです。す、すいません」
「そんな、謝らなくていいのに」
「あう・・・」
どうやらリードの出した助け舟は、船は船でも少し泥の混じった船だったようです。
――それはさておき、
「それより、早く行こうよ。ドーナツ博士から頼まれていただろ?この街にある、オダマキ博士の研究所に行ってくれって」
「あ、そういえばそうだったわね」
「って忘れていたのかい? 研究所から出る時に、博士が慌てて頼んできただろ?」
そうなのです。実はキョウカとリードがプラムタウンのドーナツ博士の研究所から出ようとした際に、ドーナツ博士は慌てて二人に頼みごとをしていたのです。それはあまりの慌てっぷりだった上に、一瞬の出来事だったので、今の今まで一行の話題には出てこなかったのです。*3
「お、オダマキ博士?きょ、キョウカさんの知り合いですか?」
「ううん。私は知らないの。だけど、」
「オダマキ博士はドーナツ博士の知り合いなんだ。互いの研究について意見を交わしていてね、その中で、“優秀な研究者”であるおいらのことも話題にでていたらしいんだよ。それでオダマキ博士が“極めて優秀な”おいらに興味を持ち、是非とも会ってみたいっていうことで、ドーナツ博士から頼まれたというわけ」
「そ、そうなんですか」
リードが“優秀な”の部分を無意味に強調しながら説明しましたが、質問をしたグレイからしてみれば、どう返していいのかさっぱりわからないようでした。――つまるところ、「何だか面白そうなゼニガメがいるって聞いたから、ちょっと見てみたいんだ」という話だったりするのですが。
「そうなんだよ。だからおいらとしては、色々と面倒くさいんだけどさー、でもまぁしょうがないかなーって思って」
「得意げなところ悪いけど、オダマキ博士の所は後回しだからね」
「!?!? な、なんでだよ!?」
「まず最初に、今日泊まる所を決めなきゃだめでしょ?昨日、リードだって言っていたじゃない」
「な、なるほど。た、確かにそうですね」
「くっ・・・。こ、こういう時だけ」
“行動する時は拠点を確保してから”。火を焚いたり、テントの張り方だったりを教えている時に、リードはそういったこともまたキョウカに教えていたのでした。自分が教えたことなのですから、仮にも大学*4において教鞭をとる資格があるリード*5としては、それを
「あーあ。でも仕方ないか。――それで、どこに泊まるの? 普通ならポケモンセンターだけど」
「ぽけもんせんたー? それってホテルか何か?」
「・・・」
――ポケモンセンター。それはこの世界の各地に点在している、ポケモンとそのトレーナー達のための施設。規模は施設によって異なるものの、基本的な設備は大体同じで、治療や食事、宿所の提供やその他の施設への仲介、はては様々な行事への参加登録なども受けつけている*6。それらのサービスの多くは無料で提供されており、トレーナーとして登録を受けた者ならば、食事や宿所に関してさえも無料となっている。もちろん、だからといってサービスに不備があるということはほとんどなく、いずれの施設においても、スタッフや機材は高い水準をもって構成されている。そしてそれらの根幹である出資元や意見者として、キョウカの家が、――正確には彼女の両親が
「いや、もう、なんて言うか今更なんだよね。きっと」
「? 何が?」
「ど、どうしたんですか?リードさん」
結局、リードはその“優秀な頭脳”と“よく回る口”をもって、これ以上ない程にわかりやすく、キョウカにポケモンセンターのなんたるかを説明することになったのでした。
「――というわけなのさ。わかった?」
「うん、ありがとう。とてもわかりやすかったわ」
「あ、ありがとうございます。リードさん」
「さりげなくグレイも知らなかったんだね・・・」
「えっ? あ、あの・・・」
「いや、でもわかりやすいのは当たり前だよ。なんたって“天才と言われるおいら”が説明しているんだからさ。それにね、これくらいは知っていて当然なんだからね?もうこの世界で生きているなら誰もが知っていることなの。ましてや、キョウカの家はそういう家なんだからさ」
「そう言われても、私はポケモンには興味がないし・・・」
何度も言われているように、キョウカは小さい時から、普通の人よりもポケモンについて学ばなければならない立場にあったにも関わらず、彼女自身がポケモンに全く興味が無かったということで、――もちろん、彼女の両親が彼女にそうさせることができなかったからというのもありますが、誰よりもポケモンについての知識に欠けていたのでした。この旅に出ることがなければ、もしかしたら一生その存在を覚えることは無かったかもしれません。
「まぁいいか。面倒くさいし。――んじゃ、ポケモンセンターに行こうよ。田舎町だから規模は小さいだろうけど、今はどこのセンターも整備されているはずだから」
「ちょっと待って。実はセリナから各街にある道場に連絡がいっているみたいでね、宿泊所として道場を使っていいよって言われていたのよ。あんまり迷惑かけるのもあれだけど、せっかく勧められたんだし、一回くらいはいいかなって思っているんだけど」
「ふーん、そっか。そういえばセリナの家もそういう家*7だったね。――なら、それでもいいんじゃないかな。今夜はその道場に泊まるってことでしょ?」
「うん、そのつもり。私はミシロタウンの道場にはお邪魔したことないんだけど、師範代*8とは、出稽古の関係で面識はあるの。その時に話も聞いたことがあるから、道場がどこにあるのかは大体わかるわ」
「これだけ小さい街なら迷いようがないような気もするけどね。――あ、ちなみに聞かれる前に言っておくけど、道場っていうのは戦うのを練習したり、そのためのやり方を教わったりする場所のことだよ」
「な、なるほど」
リードに先回りをされたグレイの顔には「どうしてわかったの?」という色が浮かんでいましたが、グレイはそれを言葉には出さず、リードもまたそれをわかっていながら、それ以上は何も言おうとはしませんでした。
「それじゃ、道場に行きましょうか。着いたらまずは師範代に挨拶して、それから少し道場の様子を見させてもらって・・・」
「ちょっと待った。何で道場の様子まで見る必要があるんだい?荷物を置く位でいいじゃないか」
「だって、せっかく道場に行くんだもの。――それに、昨日は夕方に稽古をさせてもらうはずだったし、もしできるなら参加させてもらっても」
「だから、どうしてそうなるのさ!?そんなのはキョウカの勝手な都合じゃないか。大体、稽古に参加なんかしたら、博士の用事が間に合わなくなっちゃうだろ!?」
「ほんの少しだけだから大丈夫だってば。ちょっと覗いて、セリナの所とどう違うのかなーっていうのを確認して、それで体を軽く動かして」
「そういうのが一番信用ならないんだよ。ほんの少しとかいって、どうせ日が暮れるまでやるつもりなんだろ?それで結局、昨日見たいに予定通りに進まなくなってさあ」
「ま、まぁリードさん。きょ、キョウカさんがほんの少しだけだって言っていることですし、こ、ここはとりあえず道場の方に・・・」
「むぅ・・・」
キョウカが果たして言っているように“ほんの少し”で済ませるのかどうか、そしてグレイの言葉を鵜呑みにしていいかどうかは別としても、一応の宿として決めてある道場には行かなくてはなりません。無論、今晩は道場を宿とせずにポケモンセンターに泊まるという選択肢も無くはなさそうでしたが、そうなるとせっかく勧めてくれたセリナに対して少し気まずくなりそうです。その影響は誰にいくのかというと、もちろんキョウカになるのですが、それはつまり“キョウカのパートナー”であるリードにも間接的にではあるものの影響が及ぶことになります。要するに、ここでリードが意地を張れば、まず間違いなく誰かしらに少なからず角が立ち、素直に認めれば、角が立たない“可能性が”あることになるわけです。
というようなことをリードが思い描いたかどうかはわかりません。――が、リードは最終的には二対一の不利な状況に負け、しぶしぶ道場へと行くことを承諾したのでした。そして道場への道すがら、キョウカはどこか浮き浮きとしながら街中を物色し、グレイはふて腐れているリードに気を遣って声をかけ、リードはそれをわかった上で適当にグレイのことをあしらっていました。それは極めて平凡で、何の問題も無さそうに見えた・・・かどうかはわかりませんが、順調にことが運んでいるのだけは確かなようでした。
――――――――しかし、
「・・・」
「あ、あのー。り、リードさん?」
「だからおいらは言ったじゃないか。絶対にこうなるって。あれ程言ったのに、言ったのに、言ったのに!」
「で、でも、きっときょ、キョウカさんはちゃんと博士さんの用事のこともわ、わかっていますよ。だ、だから、何も問題は」
「問題アリアリだよ!見てみなよ!あの格好を!」
「あう・・・」
やたらとふかふかとしていそうな座布団*9の上で、鼻息を荒げていきり立つリードの指が示す先には、これまでの普段着ではなく、白く、そしてぶ厚そうな生地で縫われた服、――道着を身にまとうキョウカの姿がありました。
襟元は大きく開いてはいましたが、胸元までは見えていません。袖は大分長く、手を少し返せばつまめそうなくらいでした。その服にはボタンもジッパーもついておらず、ややもすればすぐにはだけてしまいそうでしたが、腰の少し上のあたりで、やはり白い色をした帯が結ばれており、そうなることを防いでいました。下半身のズボンにあたるものについては、上半身の部分に比べると色こそ同じものの、生地は大分薄手のようでした。
なんにせよ、その見た目はとても“女の子らしい”とは言えず、“普通の場所”ならば相当に浮いて見えること間違いなしでしたが、
ズオリャアアアアア!!!
ドッセーイ!!
グオオオオオッ!!!
ここは荒々しい声と音が鳴り響き、キョウカと格好を同じくする剛の者達がひしめき合う道場です。セリナの道場と比べると、道場そのものの規模は小さいですが、その中で行われていることと者達の気合いの入りっぷりは負けず劣らずで、絶えず道場の中は揺れていました。
そんなわけですから、ここではキョウカの格好は決して浮いてはおらず、むしろ馴染んでいるとすら言えました。もちろん、彼女と比べると、その中心にいる者達の体格は大分大きく、力もまた大変に強そうだったので、存在という意味では、やはり浮いてしまっていると言わざるを得ないようでした。もっとも、ここにいる者のほとんどが自分に、そして相手にのみ集中しているため、彼女の存在に気づいているかどうかは疑問です。
「だから、そんなのはどうでもいいんだって! 今問題なのは、明らかに軽く済みそうもないってことなの!」
「り、リードさん、誰に話しているんですか?」
「あーもう!」
同じく座布団の上に座って、――ただし、どこかだらしなく座っているリードに比べて、きちんと座っているグレイの言葉もむなしく、リードは頭を抱えて唸っていました。
何故、彼らが騒々しい道場の中で座布団の上に座り、唸ったり叫んだりしているのかというと、
「やっぱりポケモンセンターにするべきだったんだよ。道場に着いたらこうなるのはわかっていたのにさ。くそー、あの師範代のせいで・・・」
案の定、とでもいうべきでしょうか、リードを多勢に無勢で押し切ったキョウカは迷うことなく道場に着くと、まずは熱烈な挨拶をもって師範代から歓迎されました。その際、プラムタウンに赴いての出稽古のこと、相も変わらず圧倒的な強さを誇っているセリナのこと、そしてキョウカの旅についてと、早くも一匹目のポケモン、――つまりグレイをゲットしていることなどを玄関口で話しました。
と、ここまでならリードにとっても十分に許容できる範囲だったのでしょうが、キョウカが一言「ちょっと体を動かしたいんですけど」と言った瞬間、それはあっという間に破られてしまいました。
キョウカの言葉を受けた師範代はそれを快諾するのみならず、一体いつのまに用意していたのか、キョウカのサイズにピッタリと合った道着を一着を即座に手渡し、リードが口を挟む間もなく、彼女達を自身の道場へと連れ出したのです。そしてまた、キョウカもそのような展開に慣れていたのか、全く慌てる様子もなく、少しだけ席を外して普段着から道着に着替えると、いかにもやる気満々に、そしてどこか楽しそうに、準備運動をし始めたのでした。その二人の素早さたるや、グレイはもちろんのこと、リードですら反応できないほどのものでした。それも相まって、リードはより不機嫌になり、グレイは申し訳なさそうな顔をしているわけですが、
「ふぅ・・・。――ん? どうしたのリード。そんな不機嫌そうな顔しちゃって」
「これが不機嫌にならずにいられるかっ!」
「ま、まぁまぁリードさん。お、落ち着いて」
キョウカはそのことをあまり良くわかっていないようでした。そしてわかっていないだけに、リードにとっては始末に負えず、余計に厄介な訳です。
「うーん。――そうだ、ねぇリード、この格好どう思う?」
「は? ――ああ、まぁ似合っているんじゃないの? 性格とさ」
「性格? それってどういう意味よ?」
「そのまんまの意味さ。単純で、ガサツで、荒っぽくてー・・・」
ズバアアアアアアアアアアン!
「え? 今何て言ったの? もう一度、」
「ぼぼぼぼぼボクは似合っていると思いますよ!きょ、キョウカさん」
「ありがとう。グレイちゃん。でも、リードが何て言ったのか・・・」
誰かが床に凄まじい勢いで叩きつけられた音のおかげで、どうやらキョウカの耳にはリードの危険な言葉は入らなかったようでしたが、もしもそれが入っていたら、もう一つ大きな音が道場を揺るがしていたかもしれません。
「体は温まったかね? キョウカ君」
「あ、はい。カズユキ師範代」
野太い声を発しながら、道場にいる者達と同じ道着を身にまとった人間の男がキョウカ達の傍へとやってきました。その顔から判断するに、年齢がキョウカの二倍以上なのは明らかで、背丈もキョウカよりも大分高く、太ってはいないものの、幅は彼女の軽く二倍はありそうでした。その風格はまさに指導者たる厳格なものと言えましたが、今、キョウカ達に見せているように、少年のように朗らかな笑みを浮かべていると、普通に人当たりのいいおじさんのようにしか見えませんでした。
このカズユキ師範代と呼ばれている人こそ、リードがある種恨んでいる人物なのですが、流石に体裁を考えているのか、リードは最早何を言おうとはせず、二人の様子を黙って見ていました。そしてグレイはというと、カズユキ師範代のことが怖いのか、きちんとした姿勢こそ崩しはしないものの、少しビクビクとしていました。
「うむ、そうか。では、自由にしてくれたまえ。相手が欲しかったら、適当にその辺の空いていそうな者をつかまえて構わないからな」
「ありがとうございます。それじゃあ・・・」
カズユキ師範代にお礼を言うと、キョウカは早速道場の中を見渡し、空いてそうな「人」 を探し始めました。
しかし、道場の中はとても混み合っており、キョウカの位置から全てを把握するのはとても困難でした。しかも、大抵の者はだれかしらと組み合ってしまっています。これでは仮に相手を見つけたとしても、組み手をとるスペースなど微塵もなさそうでしたが、
「うーん、なかなか空いている人がいないわね」
「じゃあもうやめようよ。それで、とっとと研究所に行って」
「あ! 壁際のあの人だったら」
「きょ、キョウカさん!あああ危ないですよっ!」
「大丈夫!」
そっぽを向いて気だるげに洩らすリードを無視し、心配するグレイに声をかけ、キョウカは壁際で一人チューブを使って稽古をしている「道着をきている一人の大きな男の人」を目指して、激しく動き回っている者達の間をくぐっていきました。それはややもすれば、転んでしまうどころか大事故になりかねない危険な行動でしたが、やはりキョウカはこういったことに手慣れているようで、特に問題なくその「男の人」の所へとたどり着くことができました。そして、早速相手になってもらうべく声をかけ始めましたが、
「あのー」
「ふんっ! はっ!」
「あのー、すいません」
「むんっ!」
「うーん」
どうやら「男の人」はチューブを引っ張るのに夢中で、キョウカの存在には全く気がついていないようでした。しかし、下手に体に触れようものなら、キョウカの小さな体など簡単に吹き飛ばされてしまいそうです。なんといったって、壁に固定され、相当な力をもってしても引きちぎれないはずのチューブが、引っ張られるたびに、まさに張り裂けんばかりの悲鳴を上げているのですから。
どれだけ大きな声を出しても、所詮は一般的な――そうでない部分はたくさんあるものの――女の子ですしたかが知れています。なにより今、この道場の中の喧騒に打ち勝つというのは並大抵のことではありません。さらに、体に触れることも敵わないとなれば、いよいよキョウカにはこの「男の人」に自身の存在を気付かせる手段は無さそうでした。
――が、
「でも、せっかくなんだし・・・。――あのー!」
「うおっ!? な、なんだ!?」
「良かった。やっと気づいてもらえた」
キョウカは誰にも予想できない手段で、――仮に考えだすことができたとしても、とても実践する気にはならないやり方でゴーリキーに自身の存在を気づかせることに成功しました。そしてそれは一体どんなものだったかというと、
「良かっただと? 正気か? オレが体を戻すギリギリの所に突っ立っているなんて! 一歩間違えばどうなっていたか」
そうなのです。キョウカは「男の人」が体を戻すギリギリの場所、つまりはチューブが限界まで引っ張られる位置の少し前に立って、動きが止まった瞬間を見計らって声をかけたのです。それは「男の人」が言うように、一歩間違えれば大惨事になっていたのは間違いありませんでした。
「打ち込みをしているところをお邪魔してしまったのはお詫びします。でも、よろしかったら私の稽古相手になっていただけないかと思いまして」
「な・・・。け、稽古相手だと? オレが、あんたの?」
「はい」
突然目の前に現れ、危険な行動を省みることなく、自分に稽古の相手を頼んでくる人間の少女を前にして、「男の人」はとても戸惑っているようでした。
しかし、その二人から少し離れた所にはそれ以上に戸惑っている者がいました。それは言うまでもなく、
「りりりりりりりりりりリードさん! ちょ、ちょ、ちょちょちょっと!」
「んー? なんだいグレイ。道着が性格的な意味でよく似合う箱入り娘が戻って来たのかい?」
「ちちち、ちが、ちがががが」
「もう何だって言うのさ」
「みみ見て! 見てください! ほほほほら! きょきょきょキョウカさんのまま前に!ああああの、壁際の!」
「ああ、稽古相手が見つかったのか。まぁ仮にも相手は“人間”なんだろうからさ、キョウカ相手だったら手を抜くなりなんなりするから大丈夫でしょ。――まったく、これでますます研究所に行くのが遅れ・・・!!!!」
慌て慌てまくるグレイに対し、最初は気の無い返事をしながらぼんやりと道場の中を見ていたリードでしたが、グレイに言われる通りに壁際の方を見やると、その表情は一変しました。
「あ・・・あ・・・」
少し離れた所の光景に何も言えず、呻くことしかできないその様子は、まさに開いた口が塞がらないという言葉がふさわしそうでした。そしてそれからすぐにリードは立ち上がると、これまでよりも一層頭が痛いといった具合に頭を抱え始めました。
確かに、キョウカは小さな女の子ですし、この道場の中では特に浮いて見える存在です。リードとグレイの座っていた所から見渡しても、キョウカよりも「小さい人」はいませんでした。ですから、キョウカがどのような「人」に相手を頼むにしても、彼女のことを心配してならないグレイが慌てるのは必然であると言えましたが、リードについてはそこまで慌てることは無さそうでした。もちろん、リードの立場から言えば、それは本来ならグレイ以上に彼女のことを案じなければならないはずなのですが、今のリードの不機嫌さはそうすることを無視するほどのものでした。
にもかかわらず、リードがここまで驚いて、というよりも飽きれているのは、その「男の人」が「普通の人」ではなかったからなのです。では、いったいそれはどんな者なのかというと、
「あれって“ゴーリキー”じゃないか! なにを考えているんだキョウカは!」
ゴーリキー。それは「普通の人」と比べると、大分白い、――というよりも、灰色に近い肌を持ち、毛はないものの、全身の至る所に鋼のような筋肉を備えている。また、頭部には何らかの役割を果たしているであろう、頭の形にそった3つの薄い金属板のようなものがついている。眼光は鋭く、黙って立っているだけで相当な威圧感があるものの、その気性は実は穏やかで、力仕事を手伝ってもらうには持ってこいの「かいりき“ポケモン”」である。つまり、「男の人」でもなければ「普通の人」でもない。
「呑気に解説している場合かっ! ――ああもう! そりゃ確かにゴーリキーは人型だし、道着を着ているから“色が悪い肌”にも気づきにくいだろうけどさ。だからって、だからって・・・いくらなんでも間違わないだろ!?」
「あうう! きょ、キョウカさん・・・」
いくらリードとグレイが不安と怒りと諦めなどが散々に入り混じった声をあげていても、それは道場の喧騒に打ち消されてキョウカの耳には届きませんでした。もっとも、例え届いたところで、キョウカがそれを理解できるのかどうかはまた別ですが。
「きょ、キョウカさんはだだだだ大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫も何も、相手はポケモンの中でも特に力のある、しかも“かくとうタイプ”のゴーリキーだよ?――そりゃキョウカだってプラムタウンの道場に通っていたんだろうけど、だからってそれでどうこうなる相手じゃないよ。もしもゴーリキーが手加減をしなかったら、」
「わああああっ!? きょ、キョウカさあああん! 戻ってくださいいいいいい!」
「ちょっ!? ま、待ちなって!下手に突っ込んだら、グレイまで大怪我しちゃうよっ!」
「だ、だって! きょ、キョウカさんがあああ!」
キョウカが危ないと知って錯乱し、慌てて彼女の元へと向かおうとするグレイの体をリードがもっと慌てて押さえる。――そんな二人の状況に気づくこともなく、キョウカは「男の人(ゴーリキー)」に引き続き稽古を申し込んでいます。どうやら冗談でも何でもなく、完全に目の前のゴーリキーを「普通の男の人」だと思っているようです。
しかしながら慌てているのは二人だけではありません。稽古を申し込まれたゴーリキーもまたどう対応していいか困っています。
この道場の中には人間もポケモンも入り混じって稽古に励んでいます。そしてまた、人間がポケモンと稽古を、――例えば、試合をしたりするようなことも珍しくありません。それはポケモンの方はともかくとして、人間にとっては大変に危険なことでしたが、一定の制限を設けているこの道場においては、“暴発”でもしない限り、基本的には問題なく行われていました。むしろ、その“暴発”を抑えることこそ、ポケモンがここで人間を相手に稽古をする意味そのものだったりするのですが、今はそれを考えに入れても異常な事態であると言えます。
繰り返すように、確かに人間とポケモンが共に稽古をするのは珍しくありません。しかし、今ポケモンである「ゴーリキー」に相手を頼んでいるのは「人間の子ども」であり、女の子です。この世界にはいくらでも強い子どもはいますし、その中に女の子もいるかもしれませんが、それは本当にごく少数であり、大抵の場合は非力で未熟です。
そして、――幸いにもというべきでしょうか、このゴーリキーはそのことを良くわかっているらしく、安易には引き受けずに、とても悩んでいるようでした。本人ではない以上、詳しいことはわかりませんが、想像するにその頭の中では、
(どうしたものだろうか?いくらここが人間とポケモンが入り混じっている道場であるとはいえ、こんな子どもを、――それも少女を相手にしていいものだろうか?下手をすれば大怪我じゃ済まなくなるかもしれない)
などということが渦巻いているのかもしれません。
「あの、ダメでしょうか?」
「むぅ・・・」
そんなゴーリキーの悩める姿も
「な、何かあのゴーリキーも困っているみたいだぞ。まぁ無理もないけどさ・・・」
「だ、だだだだったら止めてもらいましょう! そ、そうすれば、きょ、キョウカさんも無事に!」
「うん、その方が良さそうだね。――というわけで師範代さん。ここは一つ、ゴーリキーに向かって中止の合図か何かを」
「うむ」
ところが、師範代はリード達の意思に反し、誰がどう見ても肯定の合図としか取れない動作、――つまり、その場で
当然、それに対してリード達は大きく慌てましたが、その声はやはりキョウカの元へと届くはずもありませんでした。そしてゴーリキーはというと、師範代からの肯定の合図をもらってはということで、いよいよ目の前の少女を相手にする覚悟を決めてしまったようでした。
「・・・・わかった、稽古相手を引き受けよう」
「本当ですか?ありがとうございます」
自分が見ていないところで大変なやりとりがあったことを知らずに、キョウカは稽古を引き受けてもらったことに感謝し、ゴーリキーに向かって深々と礼をしました。そのキョウカの礼に対して、ゴーリキーも礼で返します。
そうして挨拶が終わったところで二人は壁際から離れ、まるで見計らったかのようにスペースができた道場の中心の方へと共に歩いていき、互いに距離をとって向かい合いました。そこから察するに、どうやら二人は軽く組み合うつもりのようですが・・・
「それじゃ・・・あ。――私はキョウカと言います。すいません、お名前は・・・」
一時であるとはいえ、相手の稽古の時間を拝借しているわけだから、名乗らないのは失礼にあたる。――と、考えたのかどうかはわかりませんが、キョウカはゴーリキーに向かって大きな声で名乗りました。そしてそれを受けてゴーリキーも、
「うん? 名前を言えばいいのか? ――俺はカズユキ師範代のゴーリキー。呼び名の無い、ただのゴーリキーだ」
というように、キョウカと同様に簡潔でわかりやすく名乗りました。――が、何度も何度も繰り返しているように、ここは喧騒の絶えない道場の中です。ましてや二人が立っているのはその中心であり、今はそれに加えて距離もあります。そのような状況下で、このようなやり取りをするとどうなるのかというと、
「えっ? ただのご・・・りき? “只野 後力”さんっていうのかしら?変わった名前ねー・・・。――でも、前に本で読んだかも。どこかの地方では、“ミョウジ”*10っていうのがあるって。ということは・・・ええっと、後力さんって呼べばいいのかな?」
普通に考えれば、ポケモンにミョウジがつけられることなどまずない、よってその名前は間違っている、などというようになるはずなのですが、残念ながらキョウカは普通ではありませんでした。そしてそんな彼女をフォローし、正しい知識と言葉を教える立場にある自称天才のゼニガメは、今は彼女から色々な意味で遠い場所にいました。
「キョウカの奴、完全にゴーリキーと組み合う気だな・・・。面倒くさいけど、ここはやっぱり直接止めにいくべきかな?」
「とととと止めましょう!いいいいまいまいま今なら間に合います!」
「じゃあ、おいらが行ってくるから、グレイはここでジッとしていて、」
「まぁ待ちなさい」
リードとグレイがそんなことを話していると、この事態を招いた張本人とも言うべきカズユキ師範代が二人のことをたしなめました。今は相当に危険な状況にあるにもかかわらず、その顔には全く危機感や焦燥感はなく、むしろ何かを楽しんでいるようにも見えました。
「あのゴーリキーはこの道場の中でも相当の実力を誇ってはいる。だが、安心したまえ。今心配すべきはキョウカ君ではなく、ゴーリキーの方だからな」
「は? え? 何でゴーリキーが? 危ないのはキョウカの方でしょ?」
「ど、どういう意味でしょうか?」
「はっはっはっ! 見ていればわかるさ。すぐにね」
師範代からそうは言われたものの、当然のごとく二人は落ち着きません。そもそも、ろくに根拠を示されずに「安心しろ」と言われても無理があるというものです。
しかし、そんな二人の思いに気づくこともなく、キョウカとゴーリキーは再び礼をして構え始めてしまいました。
「・・・」
すぐにでもどちらかが、――この場合でいえば、キョウカがゴーリキーに倒されてしまうかと思われましたが、意外にも互いに一気には詰め寄らず、じりじりと慎重に間合いを詰めていきました。そして一定の間合いまで近づいたところで両者共に止まりました。
「・・・」
元より真剣な顔つきのゴーリキーは言うまでもなく、キョウカもまた、普段の彼女からは想像もできない程に気の張り詰めた、真剣な顔をしていました。しかし、そこには焦りや恐れの色は見当たらず、さもそれが自然であるかのように落ち着いて見えました。
周りは依然として騒がしく、ややもすれば体がぶつかってしまうくらいに近くで激しい力が渦巻いていましたが、二人の空間だけ、まるで切り離されたかのようにしーんと静まり返っていました。
――そしてそんな静寂の中、ゴーリキーの額に、誰にも気づかれないような、それこそ本人ですらきづかないくらいに薄らと汗がにじみ出ていました。
キョウカと比べると、ゴーリキーは明らかに体が大きく、力も遥かに強いでしょう。このゴーリキーならば、片手でキョウカのことを押さえつけるなどわけもないはずです。
にも関わらず、何故かゴーリキーは中々踏み込めないどころか、これまでの稽古とは違った冷たそうな汗をにじませています。
今ゴーリキーの目の前にいるのは屈強なポケモンでもなく、自分の師であるカズユキ師範代でもないのに。ほんの12歳の小柄な少女なのに。ゴーリキーは明らかにその少女相手に圧倒されていました。
「・・・」
お互いに向き合ってから数分が経ってもなお、二人に動きは見られませんでした。それはまるで、時が止まっているかのようでしたが、
「っ!!!」
しかし、いよいよその忍耐も限界に達したのか、ゴーリキーは少し深く息を吸うと、その巨体からは信じられないほどの速さで踏み込みました。――が、すでにその時には、ほんの数瞬前までゴーリキーの目の前にいたはずのキョウカが姿を消していました。
「なっ!?」
キョウカを見失ったことで面喰ったゴーリキーは踏み込んだままの姿勢で立ち止まり、慌てて周りを見回しました。しかし、そのほんのわずかの間にゴーリキーの道着の袖は不意に伸びてきた小さな手にとられてしまいました。そしてゴーリキーがそれに反応した瞬間に、その大きな体は宙に浮き、 ズダァァァァンッ! と豪快な音をたてて床に叩きつけられました。
その、床板が砕け散ったのではないかと思うほどの凄まじい音に、一瞬、周りで稽古をしていた他の者たちの動きも止まりました。そして叩きつけられた当の本人であるゴーリキーは、余りの速さに何が起きたのかわからないようで、床に寝たままただ呆然としていました。
「な、なにが・・・?」
「大丈夫ですか?後力さん」
呆然としているゴーリキーにキョウカが屈みこみながら手を差し伸べると、ゴーリキーはようやく何が起きたのか理解した様子でキョウカの手をとります。
「ご、後力・・・? ――いや!そうじゃなくて、今何をしたんだ?」
そう言ってゴーリキーはガバッと起き上がり、キョウカの手をとったまま詰め寄りました。急に迫ってこられたので、キョウカは危うく後ろにひっくり返りそうになりましたが、ゴーリキーがしっかりと手を握っていたのでどうにか倒れずにすみました。しかし、やはりその剣幕に戸惑いは隠せないようでした。
「な、何って、普通に投げ飛ばしただけですけど・・・」
「普通に投げ飛ばした!? そんな馬鹿な! ――いや、しかし、睨み合っていたと思ったら一瞬あんたが消えたように見えて、それで気がついたらこうなって・・・」
「えっと、えっと、さ、最初は返し技*11を試そうと思ったんです。でも、後力さんが中々こっちへこなかったので、それで、私からいったんですけど」
「返し技だと? ということは、オレが踏み込めなかったのは・・・」
ただ立って構えているだけで感じていた、自分が押しつぶされそうになった得体の知れないプレッシャーの正体に気づくと、ゴーリキーは目と口を大きく開けたまま何も言うことができず、投げられた時と同様にまた呆然としていました。
それもそのはずです。誰だって自分が簡単にひねり潰せそうな相手と対峙し、返り討ちに遭う恐怖を本能的に感じていたのだと気づいたら、今の彼のようにならざるを得ないでしょう。しかも、今回はゴーリキーからすれば、赤子も同然の少女にそうさせられたのですから、そのショックたるや筆舌に尽くし難いものでしょう。
――が、しかし、ゴーリキーはそのまま呆然としている自分を振り払うように激しく首を振ると、さらにキョウカに詰め寄って言いました。今やゴーリキーの顔の距離とキョウカの顔の距離は、ほんの少ししか空いておらず、これ以上近づこうものなら、色々と間違いが起きてしまいそうでした。
「もう一度、もう一度お願いできないか? 今度は俺からいかせてくれ!」
「え? わ、私のほうは全然かまわないですけど」
「そうか! では、さっきと同じ位置から」
そういってゴーリキーは立ち上がり、ようやく解放されたキョウカもそれにならって立ち上がって、再び互いに距離をとります。そして少しだけ間をおくと、今度は
――と、その一方で、二人のことを見ていたリードとグレイはというと、
「・・・一体なんなんだ?あのお嬢さまは」
「あ、あんなに大きいのに、あんなに簡単そうに投げ飛ばしちゃうなんて・・・」
「別に不可能ってわけじゃないんだろうけどさ、なんて言うか、もう・・・」
目の前の光景がおよそ信じられないものだったからなのか、二人はゴーリキーとはまた少し異なる意味で呆然としていました。そして二人がそうなるのも無理はありません。仮に、これがゴーリキー相手ではなく、「普通の男の人」相手のものだったとしても、それは十分に凄いことなのに、キョウカはそれ以上のことをやってのけたのですから。
人間の12歳の女の子がゴーリキーを投げ飛ばす。――それは最早、凄いというよりも異常であるともいうべきことでした。
「はっはっは! だから言っただろう? 君たちのトレーナーなら大丈夫だってね」
「いや、大丈夫って・・・。確かに大丈夫だったけど、色々と大丈夫じゃないような気も・・・」
まるで自分のことであるかのように誇らしげに言っているカズユキ師範代の傍で、リードは頬をポリポリと掻きつつ、ため息交じりに洩らしました。その目の前では、再びゴーリキーが宙を舞って床に叩きつけられていました。
「うっ・・・」
「あの、大丈夫ですか?」
「も、もう一度! もう一度だ! もっと攻めてきてくれ!」
投げ飛ばすたびにキョウカが心配して声をかける。それによってさらにゴーリキーは意気込んで勝負を挑んでくる。仕方なしにキョウカはそれを受ける。一瞬で投げ飛ばされる。心配してキョウカが・・・
――というような無限の連鎖が20回程続いた後、いよいよゴーリキーは諦めたのか、もしくは心が折れてしまったのか、床に仰向けで寝そべったままになってしまいました。
それを見て、稽古終了の機会ととったのか、汗だくになったキョウカは息を少しだけ切らしながら、――しかし、とても満足そうな笑みを浮かべて、ゴーリキーに向かってお辞儀をしました。
「後力さん。稽古の相手をしてくださってありがとうございました。おかげでいい汗をかけました」
「・・・」
キョウカがゴーリキーにお礼を言うと、ゴーリキーは無言で立ち上がり、そして無言で礼を返して、彼女を振り返ることもなく、のそのそとチューブが繋がっている壁の所へと戻っていきました。心なしかその背中は最初に見たよりも小さく、力無く見えました。
――そして、キョウカが師範代達のところへと戻ると、そこには尊敬のまなざしでキョウカを見つめているグレイと、不機嫌極まりない顔で座っているリードの姿がありました。
「ただいま。あー楽しかった!」
「きょ、キョウカさん! す、すごかったです! ぼ、ぼぼぼボク、改めてきょ、キョウカさんのこと・・・あの・・・うわぁっ!?」
「キョウカっ! 今何時だと思っているんだ!!!」
グレイがキョウカの元へ駆け寄って声を掛けようとするのを、リードが荒っぽく押しのけてキョウカに詰め寄りました。その際、あんまりにも急に押しのけられたので、グレイはその場に横倒しになってひっくり返ってしまいました。
「あうー」
「大丈夫? グレイちゃん。――もう、グレイちゃんに何するのよ!」
「ああ、ああ、それは悪かったよ! でも、今はとにかく外を見てみなよ!」
「え? ・・・あ」
キョウカはグレイのことを介抱しつつ、リードが言うように道場の窓から外を見てみました。すると、稽古を始める前までは明るく、青かった空が茜色に染まっていました。――つまり、日が暮れかけていました。また、よく見てみれば、――いえ、よく見てみなくても、道場の中にはすでに人もポケモンも余り残っていません。
それは要するに、キョウカが大変に長時間ゴーリキーと組み合っていたということであり、今となってはもう“誰かの家を訪ねるのは失礼にあたる時間にさしかかっている”ということでした。
――まぁでも、ほんのちょっとが大分長くなるなんてことはよくあることです。
「よくあることじゃすまないの!」
「稽古に熱中しすぎて遅くなっちゃったのは悪かったけど、私、よくあることだなんて言ってないわよ?」
「そっ、それはいいから! ――んで、どうするのさ!? 今日中にオダマキ博士の所にいく予定だったのに!」
「う、うーん・・・」
頭にヤカンでも置けば、一瞬にしてお湯が沸きそうなほどのリードの激昂っぷりに、さしものキョウカもおされぎみです。ほんの少し前までは、自分よりも遥かに屈強な者を圧倒していたにも関わらず、です。
と、そんな折に、おもむろに師範代が近づいてきてキョウカの肩に手を置きました。
「何やらオダマキ博士に用事があったようだが、特別急いでいるのでなければ、別に今日じゃ無くてもいいじゃないか。彼もそれほど几帳面な男ではないからね」
「いや、でも・・・」
「なんだったら、オダマキ博士の方には私の方から連絡しておこう。博士とはよく知り合っているからね。私が事情を説明すれば、特に問題は起きないだろう」
「うー・・・」
自分の意見が否定されているのが面白くないからか、今更引き下がるのが格好悪いと思っているからなのか、もしくはその両方によるものなのか、リードの機嫌はどうにも良くなりませんでした。
「ほら、カズユキ師範代もこう言っていることだし、きっとオダマキ博士のことは大丈夫だって。だから機嫌直してよリード」
キョウカは両手を合わせてリードに謝りましたが、リードは「ふんっ!」と言いながらキョウカに背を向けてしまいました。もうカンカンです。
――が、しかし、そんな状況にもかかわらず、困った表情を浮かべてはいませんでした。それどころか、むしろこの状態を楽しんでいるかのように、どこか挑戦的な笑みを浮かべていました。当然、その姿は背を向けているリードには見えていません。
「うーん、困ったわね・・・。――あ、そうだ。カズユキ師範代、今日の夕ご飯、私が作ってもいいですか?」
その言葉にリードの体がピクリと動きます。それはもうわかりやすいほどに。
「おお、キョウカ君の料理は出稽古の時以来だな。是非ともお願いするよ」
「うわぁー! 今日もきょ、キョウカさんがご飯を作ってくれるんですか? ボク楽しみです」
「ふふふ、おいしいものをたくさん作ってあげるからね」
“おいしいもの“という言葉に、リードの体がさらに揺れ動きました。さっきのが震度2の揺れだったとしたら、今度のは震度4くらいありました。グラグラです。
「あ、あの、きょ、キョウカさん。ボク・・・今朝きょ、キョウカさんが言っていた“オムレツ”を食べてみたいです」
「わかったわ、オムレツね。うーんとおっきいの作ってあげるね」
「あ、ありがとうございます!」
嬉しそうな声と笑顔。丁度お腹が空いてきそうな時間と料理の話。何もかもがうまくいったと言わんばかりの円満な空気。
そんな、どこかほのぼの(?)とした雰囲気の中、一人リードは揺れていました。今やその揺れは地震どころか、壊れたメトロノームのようでした。右へ左へ大きく揺れています。正直言って、傍から見たら相当に危ないです。
「リードは何か食べたいものある?」
「!!!」
そんな不安定極まりないところに、キョウカの“おいうち”がリードに直撃しました。
しかし、リードも簡単には引き下がりません。相手を窺うかのように、チラッとキョウカの方を見ると、再び目をそらしてしまいました。そしてキョウカはそんなリードを見て、一層面白くて仕方ないといった様子で、いたずらっぽい笑みを浮かべて口を開きました。
「そう。リードは食べたいものが無いのね。残念ね。――それじゃ、買い物に行っ」
「わ、わかめスープ・・・」
道場から出て行きかけたキョウカに対して、リードがボソッと言いました。その言葉は聞き取れないほど小さくはありませんでしたし、キョウカの耳に入っていたのは間違いありません。しかし、キョウカはあたかも聞き取れなかったかのようにして、リードのすぐ傍まで近づき、再び質問を繰り返しました。
「ん? ねぇリード、今、なんて言ったの?」
「だ、だから、わかめスープって」
「わかめスープ? わかめスープが飲みたいの?」
キョウカがそう聞くと、依然としてそっぽを向き続けているリードは、小さく頷きました。そしてそんな様子にいよいよ我慢できなくなったのか、キョウカはたまらず噴出して、「あははははは!」と立ったままお腹を抱えて笑い始めました。
「わ、笑うことないだろ!」
そんなキョウカに対して、リードは顔を赤くしながら正面を向いて弁解します。するとキョウカはそれによってさらに笑いのツボを刺激されたのか、呼吸困難になるのではないかと言う位により激しく笑い始めました。
「お、おい! いい加減笑いすぎだろ!?」
「あはははははっ! だ、だって、ふふふ。あ、あんまりにもリードの様子が面白くって・・・」
「ほ、本当に怒るぞ!」
「大丈夫、大丈夫、ちゃんとおいしいわかめスープ作るから。――もちろん、グレイちゃんのオムレツもね」
「は、はい! 楽しみにしています」
声を荒げ、手をぶんぶんと振りながら猛抗議しているリードでしたが、一方でまた一つの感情を隠せずにはいられないようでした。もっとも、それを追及されたところで、どこまでも本人は否定しそうですが。
「ふ、ふん! おいらはまだ、今日のことを許したわけじゃないからな。わかめスープの一杯や二杯なんかで・・・」
「はいはい、メニューも決まったことだし、とりあえず私は着替えてきちゃうね。それが済んだら、みんなで一緒に買い物に行きましょ。――それではカズユキ師範代、お先に失礼しますね」
「うむ、夕ご飯楽しみにしているよ」
リードとグレイに指示を出し、師範代に礼をするとキョウカは足取りも軽く道場から出て行きました。
その後には未だ見ぬオムレツを楽しみに待つグレイと、怒っているのか喜んでいるのかよくわからない表情をしたリードが残されました。そして終始満面の笑顔で三人の傍にいたカズユキ師範代が、キョウカが完全にいなくなったのを見計らって、またしても大きく笑いながら言いました。
「はっはっはっ! いやいや、君達は良いトレーナーと出会えたみたいだな」
「は、はい! きょ、キョウカさんはとても素敵なご主人様です!」
「ま、まぁ料理はうまいかな・・・。で、でもそれだけさ!」
二人はどこまでも素直で、そして素直ではありませんでした。
道場の喧騒にも負けないくらいの笑い声が鎮まる頃には、もうすっかりと外が暗くなっていました。それにともなって暗く、人気の無くなった道場には、ゴーリキーがひたすらに打ち込みを続ける音だけが大きく響いていました。
「お待たせー!」
稽古を終えた後、キョウカはリードとグレイを伴い、颯爽と食材の買い出しに出かけました。ミシロタウンは日の落ちるのが早く、お店も閉まるのもまた早いがために、買い出しは大慌てのものとなってしまいましたが、どうにか目的のものは購入することができたようです。
そして今、道着姿から普段着にエプロンを着た格好になったキョウカが、料理が山盛りにされたお皿を持って、道場の中にある茶の間へとやってきました。すでに席にはリードとグレイ、そして師範代がついており、みんながみんな大量に用意された料理に目を輝かせていました。
「おお、これはうまそうだ」
「こ、こんなにご飯がたくさん・・・」
「待ちくたびれたよ。買い出しの時はいっぱい荷物を持たされて疲れたしさー。あー、もうはやく食べようよー!」
先ほどまでの怒りはどこへいったのか、リードは次々と料理を配膳していくキョウカに対して、どこまでも遠慮をせずに洩らしました。両手を頭の後ろにあて、足を思いっきり投げ出して気だるげに喋っているその姿は、――もっとも、ゼニガメという生き物の体の構造上、それはいたしかたないことなのですが――他所の家でのものとしてふさわしいとはとても言えませんでした。
「リード! 外じゃないんだから、少しは遠慮しなさいよ。――本当にすいません師範代・・・」
「はっはっは! いやいや構わんよ。お腹が空いてたくさん食べる。――うんうん、実に健康的でいいじゃないか。男はいっぱい食べなくっちゃなぁ?」
「ほーら、師範代もこう言ってくれているだろ? おいらは何も間違っちゃいないのさ」
“発言が可能な唯一の良識”である師範代にこう言われてしまっては、キョウカはもう何も言えずに、ただただ顔を赤くすることしかできませんでした。ちなみに、“発言が難しい良識”であるグレイは、申し訳なさそうな表情をしながらも、キョウカが運んでいる料理から目を離せずにいるようでした。
「本当にもう、恥ずかしいなー・・・。――はい、これがリードがリクエストしたわかめスープよ」
「おおおお! これを待っていたんだ!」
どこか悔しげな表情を浮かべながら、キョウカはわかめスープのお椀をリードの前に置きました。
リードから見ても、キョウカから見ても、果てはこの中では一番体の大きなカズユキ師範代から見ても大きなお椀には、透明とは言えないまでも、大分に澄んだスープが、なみなみと
「こっちはグレイちゃんのリクエストしてたオムレツね」
「うわぁー! こ、これがオムレツですかー。あ、ありがとうございます! きょ、キョウカさん!」
わかめスープのお椀をリードの前に置いたキョウカは、今度は大きなオムレツの乗ったお皿をグレイの前に置きました。
その他にも、食卓には様々な料理が乗せられていましたが、そのいずれも出来は素晴らしく、得体のしれない料理を作って来たキョウカにとっては、まさに汚名返上とも言うべき成果でした。
――もっとも、それを確約すべき存在は今、
「オムレツの中には色々な具が入っているから・・・って、ちょっとリード! 口拭いて!口!」
目の前の財宝に全ての目を奪われ、口からは食欲の象徴を垂らしてしまっていました。ここまで来ると失礼を通り越しています。
「もー汚いなぁ! よだれなんかこぼさないでよ!」
「だって、目の前に料理があるのに食べられないなんて拷問だよ!」
「はっはっは! まぁそろそろ食べるとしようか。これ以上我慢していると、リード君だけではなくて、私までもよだれをこぼしてしまいそうだからな」
それは笑う所だったのかどうかはともかくとして、どこまでもカズユキ師範代は大きい人でした。ですが、必ずしも道場の偉い人がこういう人ばかりではないことを、プラムタウンの12歳の女の子のために否定しておくことにします。
「はぁ・・・。でも、そうですね。これで料理も全部運んだし・・・ってあれ? 1人分多かったのかな? 5人分でしたよね?」
キョウカは疑問を顔に浮かべながら、茶の間にいる自分を含めた人数と食卓に並んでいる料理の量を照らし合わせてみました。ですが、それは聞いていたものとは、――大量に用意されたリードの分は別として、どうにも数があいませんでした。今現在、茶の間には4人しかいないのに、ここには明らかに5人分の料理が置かれているのです。
「ふむ、多分それはゴーリキーの分のことだろう」
「ゴーリキー?ゴーリキーって・・・うーん。――あ、そっか、後力さんのことですか」
「ご、後力?」
聞いたことの無いであろう名前を聞いて、カズユキ師範代は思わず首を傾げました。どうやらキョウカは、未だに昼間から夕方にかけて、自分の稽古の相手をしてくれた「男の人」のことを“只野 後力さん”だと勘違いしているようです。
「ええ、先ほど私の稽古相手をしてくれた方ですよね?名前を聞いたときに後力、とおっしゃっていたので・・・」
「ふむん・・・。まぁ、それはともかくとして、ここにいるべきもう一人は、まだ道場の方にいるのかもしれないな」
「そうですか。――じゃあ、私ちょっと知らせてきます」
「ああ、すまないね」
口ではそう言っておきながらも、師範代は未だに“後力”という名前に疑問を抱いているようでしたが、そんなことに気づくこともなく、キョウカは茶の間を後にして、道場の方へと行ってしまいました。そしてその後には、お預け状態で限界を迎えているリードと、目の前の巨大なオムレツに目を奪われているグレイが残されました。
「くっそー! 一体いつになったら食べられるんだ!」
「うーむ、確かにこの場合はキョウカ君とゴーリキーを待つべきだが・・・。――しかし、せっかくの料理が冷めてしまってはもったいないし、先にいただいていようか」
「そうしよう! そうしよう!」
「あう・・・で、でも、それは」
“発言が難しい良識”こと、グレイは今にも目の前の料理を平らげようとしている二人に対して、おずおずと待ったをかけました。――が、それを受けてリードは、小さく息を吐くと、グレイに向かって静かな眼差しを向け、ゆっくりと喋り始めました。
「いいかいグレイ? 料理を作るっていうのはね、とても大変なことなんだ。しかもこれだけの量を作るっていうのは、そりゃあもう凄い労力だよ。わかるかい?」
「は、はい、そ、それはきっとそ、そうなんでしょうね。ぼ、ボクは作れないのでわからな」
「そうなんだよ! おいら達は料理を作れないんだ。そしてだからこそ、食べるのに一生懸命にならないといけない。わかるかい?」
「そ、そうなんでしょうか? で、でも、それが一体どういう」
「今! おいら達の前には大量の料理がある。それはどれもこれも箱入り・・・じゃなくて、キョウカが一生懸命作ったものだ。そしてこれは“おいらのため”に作られたものなんだ。わかるかい?」
「あ、あの、ぼ、ボクや師範代さんの分は・・・」
「つまり! おいらは“一生懸命”この“出来たての料理”を“平らげる”必要があるんだ! だから、キョウカとゴーリキーが帰ってくる前に、思う存分食べるのは何にも間違っていないんだよ! わかるかい!? お腹減った!」
「あ、あう・・・」
目を
リード達が自分を差し置いて先に食べているとはつゆ知らず、キョウカは後力さん(ゴーリキー)を探すべく、再び道場へとやってきていました。
道場の中は昼間とは打って変わって大変静かなだけではなく、明かり一つついていないために真っ暗でした。少なくとも、キョウカが立っている入口からは中に誰もいないように見えました。
「うーん、とりあえず明かりをつけないとだめね。スイッチはどこかしら?」
真っ暗やみの中、キョウカは手探りで入口付近の壁をまさぐり始めました。最初はなかなか見つからなかったようでしたが、ほどなくして天井の明かりがつき、道場の中を照らし始めました。
「ふう、これで中の様子も・・・!!!」
口元に手を当てながら、明るくなった道場を見渡していたキョウカでしたが、入口から少し離れた所、――壁際に置かれている大きな人形のような物体の傍に、誰かがうずくまっているのに気づくと、大変に慌てた様子でそちらに走って行きました。
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ったキョウカが話しかけると、うずくまっていた“誰か”は眩しそうに眼を細めながら、彼女の存在に気づきました。
「あ、あんたは」
「あ、やっぱり後力さんだったんですね。良かった、無事で」
うずくまっていた“誰か”は、先ほどキョウカと対峙していたゴーリキーでした。未だに道着姿でいることからして、キョウカとの稽古の後もずっと道場で稽古を続けていたようです。
「あれからずっと稽古をしていたんですか? もう夕ご飯ができていますよ」
「・・・」
屈みこんだままの姿勢で、キョウカが心配そうにゴーリキーに声を掛けましたが、ゴーリキーはそれに対して返事をせずにジッとしています。その表情から察するに、何かに苦しんでいるというわけではなさそうでしたが、
「あ、あの、どうかしましたか? もし、どこか怪我しているようだったら、師範代を呼んで・・・わっ!?」
声をかけてもジッとしたまま動かなかったため、もしかしたらどこかを痛めているのかもしれない。そう思ったのでしょうか、キョウカはそっとゴーリキーの体に触れようとしましたが、その手は恐ろしく素早く出た太くごつい手によってとられてしまいました。
「ど、どうしたんですか? やっぱり、どこか怪我して」
「・・・んだ?」
「えっ? い、今なんて?」
急に手を、――というよりも、腕を捕まれてキョウカが慌てていると、ゴーリキーが何かを呟きました。それは大変に小さかったために、キョウカの耳にはどうやら届いていないようでした。
「どうして・・・。どうして、あんたはそんなに強いんだ?」
「つ、強い? わ、私が、ですか?」
突然の行動に突然の問い。――キョウカは訳がわからないと言った様子で、屈んでいるとも立っているとも言えないような不安定な姿勢のまま、ゴーリキーの顔を見ながらしどろもどろに返事を返していました。それに対して、ゴーリキーの顔は真剣そのものです。
「そうだ、あんたはオレから見ると途方もないくらい強い。正直、師範代よりも強く感じられるくらいにだ」
「そ、そんな! そんなことはないですよ! 私、そんなに強くありません」
キョウカは自分に向かって、どんどん迫ってくるゴーリキーに否定の言葉をかけましたが、それでもゴーリキーはキョウカの腕を掴む力を緩めようとしませんでした。
「いや、オレにはわかる。あんたは強い。だから知りたいんだ。一体どんなことをしたらそこまで強くなれるんだ? どうしたらあんなに速く動ける? どうしたらあんなに!」
「ちょ、ちょっと待ってください! わ、私は、ただ小さい時からずっと稽古をしていただけなんです。本当に、ただそれだけで・・・」
「嘘をつくな! あれは稽古だけでどうこうできるもんじゃない!!!」
「んっ!」
一層語気を強め、ゴーリキーがさらに力を込めると、キョウカは顔を歪ませて小さく悲鳴をあげました。
「っ!! す、すまない・・・」
慌ててゴーリキーはキョウカの腕から手を離すと、バツが悪そうにして、床を見詰めたまま黙り込んでしまいました。そしてキョウカもまた、掴まれた腕の部分をさすりながら黙りこんでしまい、辺りには気まずい空気が流れ始めました。
ゴーリキーも悪気があったわけではないでしょうし、キョウカもまた、それほど今のことを気にしてはいなさそうですが、それにしても気まずいものは気まずいものです。
――得てしてこういう場合、どちらかが口火を切らなければならないのですが、
「あの、ご、後力さん?」
「・・・」
キョウカが口火を切ったにもかかわらず、ゴーリキーは返事をしようとはしませんでした。ただ
せっかく気まずい空気をどうにかするチャンスだったのに、ゴーリキーの反応がこれでは、キョウカとしてもどうしていいのかわからないようで、結局、彼女もまた、ゴーリキーと同じように黙っていることしかできなくなってしまいました。
――そして、そんな状態が数分続いた後、
「・・・オレは強くなりたくて、この道場に、カズユキ師範代に教えを乞いにきたんだ」
「え?」
重い沈黙を破るようにして、ゴーリキーがゆっくりと口を開きました。その声は先ほどのように荒ぶったものではなく、静かで、そして落ち着いたものでした。
「純粋に強くなるために、もっと強くなるために、オレは道場に来ている他のどの人間やポケモンよりも真面目に稽古を続けてきた。そのおかげで、カズユキ師範代からも、オレの強さを認めてくれるような言葉をもらった。――だが、」
そこまで言うと、ゴーリキーは下に向けていた顔を上げ、ちらりとキョウカの方を見ましたが、すぐにまた顔を下げてしまいました。キョウカはそのゴーリキーの意図がつかめなかったようで、結局何も言いだすことはできませんでした。
「――オレはあんたに負けてしまった。師と仰ぐ者でもなく、自分よりも強大な者でもなく、小さく、力の弱い者に負けてしまった。――最初は確かに油断があった。だが・・・だがしかし、その後は本気だった! オレは本気であんたを倒そうとした! にもかかわらずオレは! オレは・・・」
「ご、後力さん・・・」
「だというのに、あんたは自分は強くないと言う。じゃあ・・・じゃあオレはなんなんだ?強くないと自分で言う者に負けるオレは? それはオレが弱いということなのか? それともオレの目指している強さが間違っているということなのか? 教えてくれ!」
それは明らかにキョウカに向けられた言葉でしたが、まるでゴーリキーは自分自身に問いかけるかのように呟いていました。そしてまた、それはキョウカが答えるにはあまりにも難しい問いでもありました。
「・・・」
キョウカがゴーリキーの質問を自分に対してのものとはとれなかったのか。そもそも答えることがかなわなかったのか。どちらにせよ、結果的にゴーリキーの問いに答えられるものも、応えられるものもおらず、辺りには再び重い空気がたちこめ始めました。
しかし、ゴーリキーの抱えている悩みの重さはどうあれ、今のキョウカとしてはずっとこのままというわけにはいきません。どう声をかけていいのかわからないのは相変わらずのようでしたが、それでもどうにかして声をかけようと、キョウカはおずおずと口を開きました。
「あ、あの、とりあえず、夕ご飯を食べに行きませんか? ご飯を食べたら元気になるかもしれませんし、悩んでいることにも答えがでるかもしれません」
「・・・・・・わかった」
その悩みの根本が自分にあると知っての言葉かどうかはともかく、キョウカの発したそれによって、今までずっと黙っていたゴーリキーは、意外にもあっさりと立ち上がりました。
そしてその姿を確認すると、キョウカはホッと一息つきながら胸を撫で下ろし、安心した様子でゴーリキーにならって立ち上がり、道場の入口に向かって歩き始めました。その背中を追うようにして、ゴーリキーもまた歩き始めましたが、
「ハッ!」
「えっ?」
ゴーリキーはキョウカが完全に自分に対して背を向けたのを確認すると、突然 バッ とキョウカに向かって飛び掛りました。それは
ズバァァァァァン!
と、静まり返っているだけに、昼間の時よりも一層大きな音をたてて、ゴーリキーは床に向かって叩きつけられてしまいました。
「ああ、ごめんなさい後力さん! 急に飛び掛られたから、勝手に体が動いちゃって・・・」
反射的にゴーリキーを投げ飛ばしてしまったキョウカは、仰向けになっているゴーリキーに屈みこみながら、慌てて謝りました。一方でゴーリキーの方は、初めてキョウカに投げ飛ばされた時と同じように呆然としていましたが、少しすると一回頷いて、むくりと無造作に起き上がりました。
「大丈夫ですか? 本当にすいません。後力さ・・・」
頭を何度も下げながら謝るキョウカの言葉を遮り、ゴーリキーは彼女の手をとりました。今度は強く握りすぎることもなく、どちらかというと優しく包み込むような感じでした。
「あ、あの・・・」
手を掴まれたまま真剣な顔で、しかも何も言わずにゴーリキーに迫られて、キョウカはまたしても慌ててしまっているようでした。そしてゴーリキーはそんなことなど知らないといった具合に、キョウカのことをジッと見つめたまま口を開きました。
「あんた、キョウカと言ったな?」
「えっ? あ、た、確かに私の名前はキョウカですけど、そ、それが何か?」
「そうか・・・キョウカか。うむ・・・」
「???」
何やらゴーリキーはキョウカの名前を呟きながら、しきりに頷いています。しかも手をしっかりと掴んで離さないままです。
ひたすらにごつい大男とほっそりとした少女が、人気の無い道場で手を取り合って、――正確には少女が無理やり大男に手を取られて、見つめ合っている。
それはややもすれば、ひどくよろしくない誤解をされそうな光景でしたが、事態は次のゴーリキーの言葉により、もっと深刻なものとなりました。
「ではキョウカ。一つ頼みがあるんだが」
「は、はい。何でしょうか?
「オレを・・・キョウカの弟子にしてくれないか?」
「は? あ、あの、え?」
弟子。それは特定の師につき、その教えを受け、学ぶ者のことをいいます。
つまりこの場合、この筋肉むきむきのゴーリキーさんは、傍から見たらただの可愛い人間のお嬢さんを師として仰ぎ、教えを乞いたい。そう言っているのです。一体何がどうなっているというのでしょうか。
「やっぱりオレにはあんたがとても強いように思えてならない。いや、そう確信しているといってもいい。――だが、その強さというのが一体どういうものなのか、今のオレにはさっぱりわからない。果たしてオレが目指していた強さというのはなんだったのか・・・」
キョウカの顔を真剣な目でじっと見つめながら語り続けていたゴーリキーでしたが、最後の部分を言うときだけ、少し目を逸らしました。しかし、それからほんの数瞬の間をおくと、再び力強い目をキョウカに向けて語り始めました。
「だから、オレはあんたについていって、強さとは一体なんなのか、強いとはどういうことなのかを知りたい。あんたについていけば、それがわかる気がするんだ」
「で、でもでも、私は人に教えることなんてできないし、その資格もないし・・・」
「それでも、きっとついていけば何かがわかるはずなんだ! オレは強くなりたい! だから頼む!」
そこまで言い切ると、ゴーリキーはキョウカの手を離し、彼女から少し距離をとると、一体どこで覚えたのかはわかりませんが、両膝と両手を床につけ、そのまま彼女に向かって頭を下げるようにして床に叩きつけました。つまりは土下座*12をしました。
「こ、困ったわね・・・。――うーん、と、とりあえず、今の後力さんの指導者はカズユキ師範代だし、まずは師範代に相談しましょう。ね?」
「む・・・それもそうか。仕方がない。そうするとしよう」
「ほっ・・・。それじゃあ、――あら?」
ゴーリキーが土下座を止めてくれたのに安心したのもつかの間、キョウカが何かに気づいたようにして後ろを振り返ると、そこには大きな人間とそれなりの大きさの、――どこか満ち足りた表情をしたゼニガメが立っていました。
「あ、カズユキ師範代。それにリードまで」
「し、師範代!」
「やあ、キョウカ君にゴーリキー。君達が遅いから、せっかくの夕ご飯が冷めてしまったぞ」
「そーだよ、早く来ないと本当に全部食べちゃうぞ」
言うまでもなく、入り口に立っていたのはカズユキ師範代とリードでした。どうやらキョウカがあまりにも戻ってくるのが遅いため、二人して様子を見に来たようです。
「ゴーリキー、話は聞いていたぞ。お前は私のことが気がかりなようだが、もしお前がそう望むのなら、私は反対しないよ」
「師範代・・・」
やにわに近づいてきた師範代はゴーリキーの肩に手を置き、うんうんと頷きながら言いました。その発言の内容から察するに、相当前から二人の話を聞いていたようです。
「そういうわけでゴーリキーのことを頼めないかね?キョウカ君」
「ええ!? そ、そ、そういうわけでと言われましても・・・」
「何、単なる旅のお供としてでいいんだ。それでも十分ゴーリキーにとっては勉強になるだろう」
「た、旅のお供として、ですか? うーん・・・」
ゼニガメとポチエナ。この二匹だけだったら、まぁ女の子の道中のパートナーとしては、――主に見た目的な意味で、可もなく不可もないでしょう。街中を歩いていても、それ程目を引かないでしょうし、おかしいとも思われないはずです。
が、そこに“筋肉むきむきでいかつい面構えをしたほとんど半裸の人型ポケモン”が加わるとなると・・・。
「ど、どうしよう? リード」
「どうって・・・。そりゃまぁ、見た目的には何ていうか、暑苦しいというか、不自然な感じになっちゃうだろうけどさ。でも、荷物を持ってもらったりしたら楽になるんじゃないの?」
「荷物・・・そうね。確かにそれは嬉しいかも」
本人の前で「暑苦しい」だの「不自然」だのと豪快にぶちまけていますが、それを言っている本人も、それを聞いているキョウカも、その当人と主人も余りそのことを気にしていないようでした。もしもこれでゴーリキーがナイーブ*13なポケモンだったら、その場で泣き崩れていたかもしれません。
「うーん、わかりました。引き受けます。その・・・荷物を持ってもらうということで」
「そうか! はっはっは!よかったよかった!」
「で、でも、本当にいいんですか? 後力さんも、荷物持ちなんかでいいの?」
「ああ。オレは全然構わないぞ」
「そう・・・。ん?」
師範代とゴーリキーの了解の直後、リードは何か言いたげな様子で、キョウカの足をクイックイッと引っ張りました。それを受けて、キョウカはリードに向かって屈みこみました。
「どうしたの?」
「キョウカさ、ひょっとしてゴーリキーのこと・・・」
「ゴーリキー? ゴーリキーじゃなくて後力さんでしょ? 師範代もゴーリキーって言っているけど、どうしてみんな後力さんの名前を勘違いしているのかしら」
その言葉を聞いて、リードは「やっぱりか・・・」と大きくため息をつきました。そしてそのまま、屈みこんでいるキョウカに何やらゴニョゴニョと耳打ちをしました。
キョウカは最初の内はふんふんと頷いていましたが、ある事実を聞かされると同時に「えーっ!?」と大きな声をあげました。
「どうかしたかね? キョウカ君」
「人間がポケモンでえーっとえーっと・・・」
「落ち着け!」
未だに混乱しているキョウカに対してリードは注意を呼びかけました。そのおかげでキョウカはハッと我にかえり、師範代の存在にようやく気がついたようです。
「え? あ、ああ、な、何でもないです! あはははは!」
ただならぬ様子のキョウカに、師範代は若干たじろいでいるようでしたが、特に何か言おうとしませんでした。そしてコホン、と一つ咳払いをすると腰元から一つのモンスターボールを取り出しました。
「ふむ・・・何やら色々あったようだが、これがゴーリキーのモンスターボールだ。受け取ってくれ」
「わ、わかりました。お預かりします」
キョウカは師範代からモンスターボールを受け取ると、師範代の脇に立っているゴーリキーの目の前まで歩いていき、手を差し伸べました。
「私に何が教えられるかはわからないけれど、これからよろしくね」
「俺の方こそ、よろしく頼む」
ゴーリキーはそう言って、再び自分に差し伸べられた小さな手をとり、大きく一つ頷きました。そしてそれはリードとグレイに引き続き、新たな仲間が増えた瞬間でもありました。
これにて事態は一件落着*14。後はみんなで茶の間に戻り、たくさん用意された夕ご飯を楽しく食べるだけ。――のように思われましたが。
「ところでキョウカ君。ゴーリキーの呼び方なんだが・・・」
その言葉に、ゴーリキーと握手を交わしていたキョウカはビクッと身を震わせます。同じくリードも何やら気まずそうな感じでキョウカからジリジリと離れていきました。傍から見るに、キョウカもそうしたいと言わんばかりの表情をしていましたが、まことに残念なことに、今彼女の手は、新たな仲間によってガッチリとホールドされていました。
「よ、呼び方がどうかしましたか?」
「いや、ゴーリキーは私のポケモンだが、これからはキョウカ君のポケモンになるだろう?だから、呼び方はキョウカ君の方で好きに考えてやってくれ」
「え? あ、そ、そうですか。で、でも、いいんですか?」
「ああ、キョウカ君がリード君と話している間に、ゴーリキーと話し合ったことだから心配しなくていい。――ただ・・・」
「ただ・・・?」
師範代は一瞬言いよどんで、ゴーリキーの方を見やります。そしてゴーリキーと一緒に一度頷いて、再びキョウカの方に顔を戻します。そしてゴーリキーと口を合わせて、
「後力と呼ぶのだけはやめてくれ」
と、言いました。
その言葉の意味を、ついさっきリードからの話で知ったキョウカは、ただただ二人にひたすら謝るのでした。名前を間違って覚えてしまうというのは、とてもとても恐ろしいことなのです。
レポートNo.5 「燃え上がる二つの炎?」 へ続く
少女が来たりて剛動く←別の視点からのお話
おそすぎたあとがき
※ 以下の文章には本編に関するネタバレが含まれます。まずは本編を読んでいただいた上で、こちらの方にお越しいただければ幸いです ※
こんにちは。こんばんは。初めまして。おはようございます。生存しているのか本人もよくわからないものの、何とか生きているらしい亀の万年堂です。あまりにも投稿が遅れたことにより、これまでの話の流れが忘れられてしまったのではないかと危惧しておりますが、もとよりそこまで流れらしいものはありませんでした。こちらの世界においてはまだ2日しか経っていないわけですからね。せいぜい自称天才のゼニガメと出会い、妙に読者受けしているポチエナを拾っただけです。そして今回は只野 後力(ゴーリキー)さんを打ち負かし、果ては弟子にしてしまったというだけです。こうして書いてみると、仮にもここまでに10万字以上書いているにも関わらず、随分と簡単にまとめられるものです。何だかむなしいやら悲しいやら複雑です。
ちなみに、只野 後力 というネーミングですが、これは本当にもう単純な打ち間違いです。ただのゴーリキーと打とうとしたのが、何故かただのごりきとなってしまい、結果、「只野後力」さんが生まれてしまったわけです。この世界のどこかには、このように苗字をつけて名前を呼ぶところがあるようですが、それがどこなのかは不明です。考えていないとかそういうわけではなくて(言い訳がましいですね)。しかし、一番の謎は、妙にこの「只野 後力」という名前の受けがいいところです。そんなに面白いんでしょうか?これ。私は正直言って微妙だったかなーと思っているんですが・・・どうでしょう?
さて、今回の話でようやく先んじて投稿させていただいた短編に追いついたことになります。これに伴い、今後、少女が来たりて~シリーズは、キョウカ一向に仲間が加わる度に増えていくことになります。
今現在、レポートNo.は仮の段階で書き上がっているもので30くらい、構想でいえば50くらい――番外編を含めれば60くらいでしょうか――ですが、やはりwikiに投稿する際には修正が大分必要となるため、今のペースで考えると完結までに軽く10年近くかかってしまいそうです。この作品にだけ没頭できるのならその半分くらいで済むかもしれませんが。
私が10年間も在れるかどうかは極めて怪しいですが、ドレスアップしたxxxxxとかタキシードに身を包むxxxxxとか、危険な愛を説くxxxxxとか魅力的な子(?)がこれからもたくさん出てくるので、どうかその全てをお披露目したいところです。というよりも、完結させないといつまでたってもxxx君が(ry なので、そのためにも頑張りたいです。
最後に、次回のNo.5は、いよいよとも言うべきでしょうか、官能要素が入った作品になります。タイトルからしてもう一体誰と誰の話なのかというのは丸わかりですが、それでも楽しんでいただければ幸いです。もっとも、実用的(?)なモノになるかというとやっぱり怪しいですが・・・どうも私は官能的なものをうまく書けないようなので。
ただ、個人的にはこの子達のお話は、――作者である私が言うのもどうかと思いますが、とても気に入っているので、じっくりと見ていただけたらなと思います。特に一人称の視点で話が進んでいる所は、ですね。
またしてもあとがきが長めになってしまいました。本当は後5000字くらい続いていたんですが、カットカットカットでこうなりました。残念です。というわけで締めます。
今回はテンテンテテテンのレポート No.4「ゴーリキーの後力さん?」 を読んでいただき、まことにありがとうございました。何か感想等がございましたら、下のコメントフォームにて記入の方をお願いします。次回はまた少し期間が空いてしまうとは思いますが、再び私の世界と子ども達にお付き合いして下されば幸いです。
以上 亀の万年堂でした
何かあったら投下どうぞ。
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