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ライト式戦闘指南教室開設!

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writer is 双牙連刃

新・光の日々も第三話にございます。ぼちぼちリィとライトの過去にも触れていきますよ~。
かなりストーリーが変化している気もしますが…リメイクと呼んで良いのか怪しくなってまいりました。



 本来は三人座りのソファーを寝床として使うというのは贅沢だろうか。いや、これしかこのリビングには寝床に出来そうな物がなかったのだよ。
テーブルの上に寝るという選択肢もありはしたが、食卓も兼用してるとなると寝るのは気が引けるよな。
さて、覚醒はしたんだからいい加減目を開くか。太陽光を感じないって事はまだ日は出てないだろうがな。
薄暗いリビングには俺しか居ない。時間は五時半、この家の奴らは大体七時まで起きてこない。それはこの二日日間で大体理解した。
ただし、一匹だけこの時間に起きてくる奴がいる。今日も例外ではなく、階段を下りてくる音が聞こえてきて、リビングの扉が開く。

「よぉ、お早うさん」
「あ、お早うライト。今日は私より早起きだったんだぁ」
「そりゃ、頭の先に座られて飛び起きるのには昨日で懲りたって」

 この家の絶対的な家事係、ルカリオのレン。こいつは誰よりも早く起きてきて、朝飯の準備なんかを始めるのだ。あ、呼び方は俺のほうから呼び捨てにしてくれって言った。
初日にここで寝た俺はその事を知らず、先ほど言ったサプライズを見事にレンに仕掛けられたのだ。
っていうかなんでちょっと残念そうなんですか? まさか今日もサプライズを仕掛けようとしてたのか? 勘弁してくれよ……。
挨拶を済ませたレンはそのままキッチンへ行っちまった。……折角起きてんだ、なんか手伝うかね?

「ん? あ、ご飯ならまだ待ってねライト。先に皆の分準備しちゃわないとならないから」
「あ、いやいや、なんか手伝えねぇかと思ってさ。まぁ、やれる事は限られちまうけど」
「うーん……手伝いはいいんだけどぉ、折角だからお話相手になってくれる?」
「おぉ、それならお安い御用だぜ」

 リズム良く食材を切る音を聞きながら、邪魔にならない程度にレンに近付く。ほぉ、昨日は寝てる間に済ませちまってたようだから見れなかったが、かなり手際は良いようだ。
軽く尻尾が揺れてる辺り、結構楽しんでやってるみたいだな。うーむ、こういう光景は初めてだから不思議な感じだ。

「なんか、作ってるところ見てるだけで美味そうだな」
「えへへ、皆に美味しい物食べてほしいからね、自然と上手くなったんだ」
「そいつは凄ぇ。だが、自分だけこんな時間から頑張ってるのって不公平だとか思ったことないのか?」
「んー……思ったこと無くはないけど、やっぱり楽しいから」
「なるほどなぁ、俺も世話になるんだし、感謝しねぇとなぁ」
「ふふ、ありがとぉ」

 そうして話してる間にも、調理の過程は炒め物に移行したみたいだ。ホントに手際良いなぁ。
邪魔にならない程度に話をしながら調理の様子を見守ってると、レンの手が止まった。どうやら調理は終わったようだ。
時間は一時間くらい経ったか、あと三十分は他の奴は起きてこないかな。
付けていたエプロンを外したレンの手には、二個のマグカップが握られてる。湯気が上がってるからなんか入ってるんだろう。

「ライト、コーヒーって飲める? 分からないから、私と同じブレンドで淹れてみたんだけど」
「コーヒーか……聞いた事はあるけど飲んだ事はねぇや」
「そうなんだ。じゃ、飲んでみて。目も覚めるし、多分美味しいと思うよ」

 コトリと音を立ててカップは俺の前に置かれる。これくらいなら俺も持てるし、なんとかなりそうだ。
ふむ、中には白みを帯びた茶色の液体が入ってる。これがコーヒーか……聞いたのは黒い筈だったが、同じもんなのかね?
飲んでみりゃどんなもんかは分かるよな。どれ、飲んでみるか。

「……おっ、ちょい苦いが美味いな」
「ホント! よかったぁ、私以外のコーヒー飲む皆って、砂糖とかミルク入れないんだぁ。こっちの方が美味しいと思うんだけどね~」
「ほう、そっちはどんな味なんだ?」
「んー、とにかく苦いんだよねぇ。そっちのほうが目は覚めるんだけど、どうせ飲むなら美味しいほうが良いと思うんだ」
「あ、なら俺はレン派だ。苦いだけのもんよりこっちのほうがいいや」

 ふぉぉ、笑顔が眩しい。俺、あんまり異性と二匹っきりになった事ねぇから、こういうのには慣れてねぇんだよ。
なんとなく目を泳がせて、照れを誤魔化そうとはしてみたが……バレてるかな? 笑いながらこっちを見てやがる。

「あ、あんまり見たってなんにも出てこねぇよ」
「ご飯作ってる時に私の事見てたんだから、これでおあいこでしょ?」
「ぬぅ……それを言われると言い返せねぇな」

 実際、尻尾の動きを目で追うって傍から見られたらあれだしな……。レンにそこを突かれたら、俺の立つ瀬はねぇよ。
カップを傾けながら、レンの話し相手をするのがこれからの日課になりそうだなぁ。どの道俺はここで寝起きするんだから。
お、また足音が聞こえてきた。階段下りるのが遅くないし、多分男だな。
やっぱりか。寝癖もそのままで寝惚け眼で入ってきやがった。だらしねぇなぁ。

「ご主人様、おはよー」
「おはようさん。……起きてんのか?」
「んあー……お早う……顔洗ってくる」

 ならなんでリビングに入ってきたし。頭、起きてねぇだろあれ。
レンがそろそろ朝食の仕上げするっつったから俺は運び手になる事にした。俺はあの男の命令は聞く気無いが、同居者の手伝いくらいは率先してやらせてもらうさね。
皿運んで、並べて……ま、こんなもんだな。勝手が分からんから適当になっちまったが、レンが直してくれるの見て覚えるか。
おっと、レンがフライパン持ってこっち来た。これ以上は邪魔になるから、大人しくテーブルに居るとするかね。



「うーんと、今日は……レオ、プラス、リーフで行くか」
「はーい」
「分かりました!」
「承知しました」

 食事も終えて、俺が片付けを手伝ってると後ろからそんな声が聞こえてきた。何の事かは分かってる、奴が学校に行く際のメンバーを発表したんだ。
呼ばれたのは、パチリスのプラス、ベイリーフのリーフ、そして俺を敵にしてるレオだな。なんでも学校の決まりで、校内に連れて入れるポケモンの数は三匹と決められているらしく、この朝の抽選が行われるってわけだ。
因みにレオは学校引率の固定枠、レンは留守番の固定枠らしい。ま、レンはこれから掃除や洗濯を任される事になるから、学校について行く訳にいかんのだと。
つまり男が学校に行ってる間、この家はポケモン五匹で留守番をする事になる。ま、警備的には磐石だろう。

「ほい、皿運び終わりだぜ」
「ありがと、ライト。ここはもう大丈夫だよー」
「あいよ。んー、リィの相手でもやってやるかね」

 見送り? してやる義理は無い。なんか寂しそうにこっちを見てるのを発見したが、気付かなかった事にしておこう。
さてリィは……お、居た居た。リビングの窓際でなんか話してる。あれは……。

「フロストと一緒だったか、リィ」
「あ、ライト。手伝い終わった?」
「へぇ、野生のポケモンなのに真面目なのね」

 そりゃ誰も手伝わないからレンが不憫だったんだよ! っていうか本来は今までずっと一緒に暮らしてきたお前達がやるべきだろうが!
今話しかけてきたのはグレイシアのフロスト。あの男は、俺とリィ以外にもイーブイ系列のポケモンを持ってたんだ。
こいつが曲者でな、どーも俺とは相性が悪い。

「この家の奴等が手伝うような素振りを見せないから俺がやったんだ」
「あら失礼しちゃうわね、これでも私はちゃんと手伝ってるわよ。今日はあんたがやってたからやらなかっただけ」
「別に俺がやってたからやらないって事にはならんだろうによ?」
「いいじゃない。なぁに? 折角のリィとの団欒の時間を奪いたかったの? リィはあなたのものじゃないのよー」
「誰もそんな事言っとらんだろうが!」

 こんな感じに、会話のペースを絶対に掴ませねぇ。俺こういうタイプ超苦手だ……。

「フロストさんもライトも、ケンカしちゃダメだよ?」
「うっ」
「あらら、怒られちゃったわ」

 いかんいかん、完全にフロストにのせられて熱くなるところだった。リィが仲裁に入ってよかったぜ。
って、諌めながら俺の背中に乗ってくるのかよ。ホントに気に入ってるみたいだな……別に重くないから乗っかられても問題は無いがな。

「……今リィにも聞いてたんだけど、あんたって本当に野生のポケモンなの?」
「あん? そうだが? っていうか、そんなのリィに聞いても分からんだろ」
「ライトと会ったのは町の外だし、それ以外は分かんないよ」

 なんかめっちゃ見られてる。いや、この反応が正しいのか。素性の怪しいサンダースが家に転がり込んできたら、そりゃ色々調べたいよな。

「率直に聞くけど、あんた、別のトレーナーのところに居た事ある?」
「あぁあるぜ。じゃなきゃ人間の物とかに詳しいのもおかしいだろ」
「え? そうだったの?」
「まぁな。ま、そっから逃げ出して、野良でプラプラしてたんだけどよ」

 俺は確かに、別の人間の手持ち……って呼んでいいか分からんが、とにかく人間の主従状態にあった事がある。
だが、俺はそこに居られなかった。いや、居ちゃいけなかったんだ。あそこに居続けてたら俺は……誰かを不幸にしかしない存在でしかなかった。
だから俺は誓った。俺のこの力は、二度と一定の誰かの為には使わないと。あ、普段使ってる身体能力は別だぜ? あれは隠しようが無いからジャンジャン使う。
俺の中には、あれが霞んで見える程の危険が眠ってるんだ。それこそ、全てを消し去る事も出来るくらいの、な。

「……ライト、大丈夫?」
「ン? あぁ、悪い悪い。ちょっとぼーっとしちまった」
「……ふぅ、まぁいいわ。あんたにも色々あるみたいだし、わざわざ聞き出そうとはしないでおいてあげる」
「そうしてもらうとありがたいぜ。ま、今は若干おかしなサンダース、ぐらいに思っておいてくれや」
「いやそれダメじゃない」

 心配してくれてんのか、乗っかってるリィの抱きつく力が少し強くなった。……大丈夫、俺はもう二度と間違わないし、この力を使わない。
それが……本来存在しちゃいけない者である俺が、今ここに居る為に自身に科した枷、だからな。
……んあ? なんか、玄関が開いた音がしたぞ? 男の奴、忘れ物でもしたか?

「朝のランニング終了ッス~!」
「あの声は……」
「ソウね。姿が見えないと思ったら、あの子あんな事始めてたのね」

 ソウ……いやいや覚えてるぞ。この家のザングース。覚えてる事といえば……なんか熱血してること。
ランニングねぇ? 別にやるなとは言わないが、普段からバトルなりなんなりしてるのにやる必要はあるんかね?
おっと入ってきた。うおぉ、めっちゃ爽やかな汗かいとる。健康的だのぅ。

「ただいま~ッス!」
「あなた、こっち入ってくる前にシャワー浴びてきなさいよ。そのままウロウロしてたら気になるでしょ」
「そうっすね。ちょっと行ってくるッス!」
「元気な奴だなぁ」
「元気さだけなら、この家でソウに敵うのは居ないわね」

 だろうな。っと、そろそろ姿を消しておくか? いや、ちょこっと事情があるのだよ。
リィを乗っけたままだが、散歩にでも行くかね。

「あら、何処行くのよ?」
「散歩でもしてくるか~と思ってよ。リィも行くだろ?」
「お散歩? ライトと一緒なら行く」
「……怪しい」

 なん、だと? な、何故怪しまれた? ごく自然に出掛けようとしただけなんだから、怪しまれる要素は無かったはずだ!
うっわぁにじり寄って来たし。めっさ怪しまれてるよこれ、さっきの比じゃねぇよ。

「なーんでソウが帰ってきて早々に出掛けようとするのかしら? 何かあるの?」
「い、いや!? なんもねぇよ!? ただ、ランニングなんてするぐらいなんだから散歩するのにも良さそうだなーと思っただけでな!?」
「なんできょどってるのかしらぁ? ますます怪しいわねぇ~」

 くのぉ~、くっつくなっての! 早くしないとソウが戻ってくるじゃねぇか!

「完璧ッス! って、あー! 師匠!」
「は? 師匠?」

 戻ってきやがったー! ちょっ、早いっつうの!

「だから俺はお前に戦い方なんか教えないって昨日言っただろうが!」
「そんなー、そんな事言わないで師匠になってほしいッスよ~。レオの兄貴と互角以上に戦った師匠に教われば、絶対強くなれそうじゃないッスかー!」
「ぷっ、あはははは! そ、それで逃げようとしてたのね! くふふふふ」
「逃げようと!? 酷いッスよ師匠~」
「だーもうその師匠って呼ぶの止めろっつの!」
「じゃあ、先生と呼ぶッス!」
「余計止めろ!」

 どうすんのこの状況!? と、とにかくソウの奴を説得せねばなるまいて。



「分かったか? 俺とお前達とでは戦い方の基本が違うんだ。俺から戦い方を教わっても意味無いんだって」

 とにかくソファーに座らせて、野生とトレーナー付きのポケモンの戦い方の違いを細かく説明してみた。
第一に、トレーナー付きのポケモンは基本的にトレーナーの指示を聞いて戦う。俺が変な癖みたいの付けちまったら、男との食い違いが発生しちまう可能性が大いにあり得るのだよ。

「でも、レオの兄貴はご主人の命令無しでも強いッス! つー事は、そういう戦い方を知ってた方がいいって事じゃないっすか!?」
「確かにね。指示を聞いてから動くのはそうだけど、自分で考えて動けたほうが良いときもあるわね」
「うぉぉぉい! 引っかき回すんじゃねぇよフロスト!」
「でも、ライトが強いのは確かだし、私も教わりたいかなぁ」
「レンまで!?」

 くっ、レンには直接レオとの戦闘見られちまってるからな……俺は大した事無いとか言って誤魔化す事が出来ん。
あ、レンは洗い物が終わったから合流してきた。本来は俺の味方に付ける気でいたんだが、完全に裏目に出たぜ……。

「ライトの戦ってるのカッコいいし、あんな風に戦えるようになってみたい」
「り、リィ? あれはち~っと無理があるからな? それに、戦い方ってのにはそれぞれのスタンスがあるだろ? リィはこれからそれを見つけていこうな?」
「え~?」
「それなら、基礎的な事を教えなさいよ。それなら大体同じでしょ?」
「この野郎、だから引っかき回すなって言ってるだろうが!」
「だって面白そうだもの。それに、あたしは野郎じゃないわよ?」
「んな事分かっとるわい!」

 ぐぅ、八つの瞳が(二つを除いて)期待を込めてこっちを見ている。どーすっかなぁ……。

「んぉー仕方ねぇな! 基礎だけは俺が教えてやる! ただし、強くなるかは個々の考え方次第だからな!」
「いよっしゃあ! 師匠、お願いするッス!」
「あんまりバトル得意じゃないから助かるよぉ、無理言ってごめんね、ライト」
「折れたわね。それじゃ、ついでだしあたしも聞こうかしら」
「うん、頑張る!」

 これでなんか起こって男がぐずぐず言っても俺は知らん! 開き直ってやる!
それじゃ早速お願いするッス! と言うことなんで、全くなんの準備も無いが、初めてみるか。

「えーっとそうだな……まず、そもそもバトルってのがどう言う事かは当然分かるよな?」
「相手のポケモンと戦って、勝敗を競うってところかしらね?」
「まぁ、概ねそうだな。トレーナー同士なら、相手のポケモンを戦闘不能にする事で勝敗が決定する」
「野生ならどうなるッスか?」
「ケースバイケースだな。基本的には動けなくなるまでや相手が降参するまでだが、それだけじゃ済まない事もある程度に覚えとけ」

 おぉ、今のでどういう事かは全員に伝わったようだ。ま、こいつ等には関係無い事だからさらっとでいいだろう。

「で、今の本題としては、どうすればバトルに勝てるか、それを教えるって事でいいよな?」
「えと、相手にこっちの技を当てて、やっつければいいんだよね?」
「そうだが……俺の場合、攻撃を当てるのは重要さとしては二番手だな」
「え、どうして? 攻撃しないと勝てないよねぇ?」
「もちろん。だがな、勝つ事よりも重要なのは『負けない』事じゃないか?」
「? どういう事ッスか?」
「そうだなぁ、よし、実践して見せてやるとするか。ソウ、ちょいと庭に出るぞ」

 疑問符が全員の頭にはっきり見えるぜ。これは口で説明するより見せたほうが早そうだと判断した。
この前レオと対峙した時のように庭に出た。さて、俺がソウを攻撃しても意味が無いから、ソウから仕掛けさせるか。

「よし、そんじゃソウは俺を倒す気で攻撃してこい。じゃなきゃ説明にならんからな」
「うぇ、いいんスか?」
「おう。手ぇ抜いたら意味が無いから本気で来いよ? んで、残りのリィ達は俺達の様子を見ててくれ」
「はーい」
「フロストちゃん、さっきの負けない事ってどう言う事か分かった?」
「まぁ、これから見せてくれるようだし、大人しく見てましょう」

 さて、そんじゃトライアル戦闘開始ー。今回は条件として、俺は絶対に攻撃はしない。
ザングースの一番の武器はその手の爪、だからこそこのトライアルでは分かりやすくなるんでね。
ほぉ、結構良い面するじゃないか。気迫も乗ってるし、悪くない。それに、思ったとおりの接近戦タイプだな、距離を詰めてきた。
初撃は爪での横薙ぎか……これは屈んで回避、そんで縦振りの攻撃を誘導して横にちょこっとステップするっと。
なるべく小さい動作での回避を心掛けて、より多くの手数を誘導する。そうするとどうなるかは火を見るより明らかだろ。

「ぜ、全然当たんないッス~」
「ほれほれ頑張れ~」
「んに~、腕がだるくなってきたッス~」
「……あ、そっか」

 おっと、リィにはどう言う事か分かったみたいだな。フロストとレンはじーっと見てるが、どうもまだ分かってないようだ。
バテバテになったソウに終了を伝えると同時に、力の入らなくなった腕を止めてやる。まぁ、よくやったでしょうってところだな。

「リィ、分かった事を言ってみ」
「相手の攻撃を受けなきゃ、自分は痛くない。痛くないなら『負けない』よね?」
「あ」
「えっ、そんな簡単な事なの?」
「それに、ライトは全然疲れてないけどソウさんはすっごく疲れてる。それって、ソウさんには凄く不利だと思う」
「うむ、100点だぜリィ。それが『負けない』って事さね」

 相手の一撃を受けなければ、こちらが負ける事は無い。どれだけ力量に差があろうとも、相手が動けなくなれば勝ち目は発生する。絶対的有利な状況を作り出すのは、どんな戦闘でも必要な事さね。
これが俺の戦いの基本理念。ま、遊んだり力量を見たりするためにあえて無視する事もあるがな。

「つ、つまり攻撃するよりも、相手の攻撃を、避けるのに、集中、げほっ」
「おっと、一先ず休憩だな。乗っけてやるから家ん中入るぜ」
「うぎぃ~、ラジャーッス~」

 本当に全力で攻撃してきてたんだな。技としては切り裂くを延々と繰り返させられたんだからそりゃ疲れるわ。
ソウを乗せて、リビングの窓からそのまま家の中に入る。下が芝生だから足が汚れなくていいぜ。
んで、ソウをソファーに下ろしてと。おっと、レン達もすぐに座ったか。そんなに熱心に聞くようなもんでもないと思うがなぁ?

「さっきは簡単って言ったけど、思えば回避って難しいわよね」
「あぁ、相手はこっちを倒す為に攻撃してきてる訳だからな。こっちは相手の動きを予測するか、反射神経が良くないと回避出来ねぇ。状況予測と行動把握能力が必要になるな」
「行動把握能力? それってなんなんすか?」
「相手の動きを見逃さない能力、だな。簡単に言えば観察力だが、ただ見てるだけって訳でもねぇ」
「うーん、難しい……」
「まぁ、一気に詰め込んでもしかたねぇ。今日はこんくらいでいいだろ」

 なんにも考えてないノンプランでの開始だったから、最初はこんなもんだろ。っていうかこれ以上はちっと説明すんのがたるい。

「今日はってことは、これからもやってくれるっすよね!?」
「ま、気が向いたらな。どうやら、一応皆興味はあるようだし」
「そうねー、ハヤトは基本攻めの一辺倒しかしないし、回避や立ち回りは覚えておいて損は無さそうね」
「うん、凄くためになった気がする。バトルって技を出し合うだけじゃないんだね」
「頑張って覚えてたら、強くなれるかな?」
「ま、邪魔にはならんと思うぜ。トレーナー戦も、指示を実行するまでは各自の意志で行動する事になるからな」
「よーっし! 師匠に教わってガンガン強くなるっすよー!」

 そんな即効性のあるもんじゃないと思うが、やる気があれば力にはなるだろ。っていうかもう呼ばれ方は師匠になりそうだな、やれやれ……。



 戦闘指南も終わり、お役御免となった俺はゆったりタイムに入る。筈だったんだが……何故かフロストのベッドと成り果てる事になった。いや、どういうことだってばよ?
最初はリィとソウが遊んでるのを眺めてるだけだったんだが、そこにフロストが勝手に乗っかってきた。俺には事情を聞く権利あるよな? よし聞こうか。

「おいフロスト、なんで俺に乗っている?」
「特に意味は無いわよ。ただ、ソファーより乗り心地が良さそうだから乗っただけ」
「そうか、下りれ」
「嫌」

 ……もういいや、めんどくせぇ。
庭へ続く窓の近くで伏せて、外で遊んでる二匹を眺めてるだけだし動くのも億劫だ。
リィもソウと仲良くなったようだし、じゃれて遊んでるのは微笑ましいねぇ。

「……まさか、あんなにも様子が変わるとはね」
「リィの事か? なんか、俺が来るまでは一言も喋らない奴だったんだって?」
「そうね。あたしもハヤトから聞いただけだけど、リィは訳有りの子みたいなのよね」
「訳有り、ねぇ」
「その分だと、予想はしてたのかしら?」
「まぁな」

 ぽつりぽつりと、フロストは知ってる限りのリィの事を喋りだした。
どうしてリィが色々なトレーナーの手を渡り歩くことになったのか……それは、リィの最初のトレーナーが最悪だったことから始まる。
そいつがポケモンに求めていたのは、強さと従順さ。機械の様に命令を聞いて戦う存在だったそうな。そんな奴のところでリィは生まれた。
生まれたばかりのポケモンなら、自分の望むポケモンとして育てられると考えたそいつは、リィに無理な育成を施そうとし、そして……それをリィは拒んだ。当然だ、幾ら生まれたばかりのポケモンと言えど、意思はある。
無論歪んだ思想を持つそいつにとって、反骨するような意思は邪魔になる。そいつは、リィに逆らわせないようにやっちゃいけねぇ方法を取ったらしい。
何をしたか、そいつはフロストも聞いてないそうだ。が、その事を喋っている時の男の表情を見て、何をされたかは察したようだ。
それが周りの人間に知られたのは、リィが人間に対して恐怖心を深く刻まれた後だった。……やるせない話だぜ。

「もちろんリィは保護されて、そのトレーナーはライセンス剥奪、の筈だったの」
「筈だった?」
「……姿を消したんですって、そのトレーナー。今でも見つかってないそうよ」
「マジかよ……それで戻し先を失ったリィは、渡り歩く事になったんだな?」
「えぇ、ハヤトのところに来たのは本当に偶然だったようよ。学校の友達から任されたんですって」

 そしてその一週間後、俺と出会うって訳か。あいつも、辛い目にあってきたんだな。

「あんたに出会ったのは、リィにとっては幸運だったみたいね。初めてだったんじゃないかしら? 本当に自分が助けてほしい時に助けてもらったの」
「かも、な。その辺はリィのみぞ知るだから分からんけど」
「人も、ポケモンも救えなかったリィをあっさり助けたのがあんたみたいな変なポケモンとはねぇ」
「変は余計だ変は。まぁ、普通のポケモンとは言えねぇけどよ」
「自分で言っちゃうの? ふふっ、本当に変なサンダースね」
「どーせ人間の家に転がり込むおかしな野生のサンダースですよーだ」

 ふーん……リィの事、こいつも結構気にしてたんだな。今のリィの様子を見て微笑んでるのがその証拠だ。
なかなか取っ付きにくい奴だが……上でくつろぐぐらいでがたがた言うのは止めてやろうか。
おっと、ソウとリィが呼んでる。ま、いつまでも二匹だけで遊んでたら飽きるわな。

「よぉ、どうする?」
「んー、ま、たまにはソウも構ってあげましょうか。はい、ライト行きなさい」

 自分で歩け! って言うだけ言っといて、そのまま窓からまた外へ出る。
日差しも気持ち良いし、いやぁ平和だねぇ……。


第二話へはこちら そして第四話
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  • 執筆頑張ってください
    ――ポケモン小説 ? 2012-05-08 (火) 07:38:55
  • >>ポケモン小説さん
    毎回コメントして頂けるとは、本当にありがたいです! ありがとうございます!
    ぼちぼちキーボードを叩いて、読んで下さる皆さんが少しでも楽しめるよう頑張りますよー!
    ――双牙連刃 2012-05-08 (火) 20:39:53
  • >>ヒロトさん
    どんどん周りを巻き込んで熱血するキャラ、この物語の笑いはソウに掛かっていますw
    フロスト、ソウの二匹はリメイク前とあまり変更が無いんで、やっぱりフロストは自己満足の為に周りを操作するキャラなのです。(リメイク前そうだったのだろうか…)
    ライトはバクフーンが乗っても大丈夫、グレイシア程度では大した事無いようですw
    応援感謝です! ありがとうございます!
    ――双牙連刃 2012-05-09 (水) 20:08:11
  • ライトに乗っている体制ってどんなものなんですか?馬乗りですか?
    ―― 2013-08-04 (日) 15:00:22
  • >>08-04の名無しさん
    乗り手によって変わりますが、基本的にライトの背にうつ伏せるような形で乗るのが基本形です。体を浮かすと安定しませんからね。
    レンだけは跨ぐのに抵抗があるので座るという形を取っておりますそれ以外の皆は基本形で乗っているか、そこから上体を起こして跨る形で乗っているとお思いくださいませ!
    ――双牙連刃 2013-08-06 (火) 15:18:25
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Last-modified: 2012-05-07 (月) 00:00:00
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