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そんな学生生活 another story

/そんな学生生活 another story

そんな学生生活のリーフィア視点。
因みに官能表現はございません。
by705


1
「シアちゃん! お昼食べよ!」
新学年になり、前学年からの親友だったシアちゃんことグレイシアと今日も一緒にお弁当を食べる。
「リーちゃんのお弁当今日もまた一段と美味しそうだねー
本当にリーちゃんが作ってるの?」
「うん。
毎朝6時くらいに起きてね。
今度作り方教えてあげよっか?」
「アタシ不器用だよ? 多分作っても見た目が最悪になるかも」
「餃子を作るわけじゃないんだから不器用とか関係ないよww」
「頭いい癖に料理まで完璧なんて……ズルイなあ!」
「運動に関してはシアちゃんの方が上じゃない」
「だからリーちゃんはチビなのかな?
栄養が全部頭と指先にいっちゃって」
「なんでよwww」
昼休みにお弁当食べながらの雑談。
この時が学校にいる間の一番楽しい時間。

「ごちそうさま〜」
「あ、そうだ。
私生徒会の打ち合わせとかあるからちょっと行ってくるね」
「いってら〜」

−生徒会室−
「委員会新聞作成マンドクセ。
会長〜こんな需要ないもの作って何になるんだよ〜」
「気持ちは分かるけど……とりあえずは作らないと後々面倒でしょ?」
「あ゛〜マンドクセマンドクセ……」
ワンリキーがだれている。
確かに需要はない。見てる人も殆どいない。
というより、作って張り出した次の日にはたいてい破かれている。
でも、作らないと先生が煩いしなあ。
「そーいや会長ー
一組の転入生知ってる?」
「あー、詳しくは知らないけど」
「なんか、東北から来たサンダース……だっけ。
とwwwwwwwうwwwwwwwほwwwwwwぐwwwwwwwwww
テラ田舎wwwwwwwwwwww
んだwwwwwwwwだすwwwwwwwww」
私は笑えなかった。
この辺りに住んでいる人は、地方外から来ただけで田舎者扱いをする。
出身地云々で差別するのはいけないことだとは思う。
しかし、その諭旨を伝えようとしても、まず無駄だろう。下手すれば吊し上げにされかねない。
何しろ、私もかなり小さい頃、まだイーブイだった時は北東北に住んでいたし。

「おk、出来た」
「……うん、こんなもんね」
「本当に先公は生徒会新聞を作りたいのかと問いたい。問い詰めたい。小1時間問い詰めたい」
「?」
「いや、なんでもない」
「とりあえず出してくるから教室戻っていいよ」
その時、ちょうど昼休みを終えるチャイムが鳴った。


2
今日も授業が終わった。
幸いにも、今日は不良による授業妨害はなかった。授業が毎日こんなに穏やかだったらな……
さて、来月の生徒総会の為に色々やらなきゃね。
と、その前にやらなきゃいけないことが。

−2-1教室前−
「アンケートの集計できた?」
「ホイ、こいつだ」
一組の室長、ヘルガー。
なんかチョイ悪?みたいな雰囲気出してるけど、なんだかんだで優秀なのよね。
ただ、仮にヘルガーが苛めやっていたという事実が発覚しても疑いはしない。
「どうした?」
「……いえ、何も」
お願いだからその表情で見つめないで……怖いから。
「ところでさ、先日ヘルガーのクラスに転入生来たよね?
そのことについてちょっと教えてくれない?」
正直言うと本題はこれ。アンケートなんか半ばどうでもよかった。
「何でそんなことを聞くんだ……まあいっか。
転入してきた奴はサンダースだ。東北地方のA県H市から来たと言ってた。
んで、訛ってるんだよななんか。自己紹介の時もどこか浮いてたし。あれじゃいつ苛められてもおかしくないな。
…俺? この立場じゃなけりゃとっくに苛めていたかもなww」
「ありがと。
もういいわよ」
一番最後の発言にイラっときた。
でも、タイプ的に考えると怒りを顕にしないのが妥当だろう。
歯向かえば多分負けるし、下手すればレイプされかねない。

−夕方−
「会長乙っしたー」
「お疲れ様でしたー」
議案書作成は疲れるなー……

ところで生徒総会って何の為にやるんだろ?
生徒だけで「今年の予算は〇〇ですが異義はありますか〜?」とか決めてもね。
予算とか生徒に聞いても「異義あり!」と言うのもまずいないだろうし……
会長が考えることじゃないわねw

ふと、体育館の方に目を向けるとそこには不良の固まりがあった。何やら苛めをやっているのか。
ちらりと、黄色いポケモンっぽいのが横たわっているのが見える。
……語ってる場合じゃないわね。
助けなきゃいけないんだけど……
不良を怯ませるくらいの実力もあるかもしれないけど……
Mってわけではないが、物理的な耐久力もあるけど……
やっぱり自分の身の安全が最優先よ。
下手に関わらない方が吉。程度の悪い学校での鉄則だわ。うん。

ところで、私の学年に黄色のポケモンっていたっけ?


「ただいまー」
「よ、毎日ご苦労」
私のトレーナー、ユウトが出迎える。
ユウトは結構カッコイイ。
男の割には料理が上手いし、優しいし、自宅でも決して乱れたりはしない。最高のご主人。
ただ、仕事が安定しないのが玉に瑕かな。

疲れたし眠いし……夕食までちょっと寝ようかな。


「きみのごしゅじんとやらほんとにへんなしゅみだねwww」

「『おたくもえー』だっけ?」

「このへんなにんぎょうこわしちゃえwwwとりゃwww」

「お前の……お前のせいで……俺のルイズちゃんが……
お前なんざどこぞにでも逝って野垂れ死ね!!」
なんで? わたしはなにもしてないよ?
まって! どこにいくの!?
わたしだけおいていかないで!!
「……㌔……リーフィア……ぉい」
聞き慣れた声が聞こえる。
目を開けてみると、そこにはユウトの顔が。
「随分うなされてたが大丈夫か? 汗までかいて……」
タオルで汗を拭ってくれた。
よかった。いつもの優しい姿だ。
「ユウトは……私を捨てたりは……しないよね?」
「大丈夫だ。
唯一無二のパートナーであるお前を捨てるわけがないさ。
どんなことがあってもな」

目頭が熱い。
あれ? 私って何時からこんなに涙脆くなったっけ? たかが過去の事実が夢に出て、それを慰められただけなのに…


3
−月日はいきなり飛んで6月−
世間一般では梅雨、はたまたジューンブライドと呼ばれる月。だが、私達中学生にとっては中総体の時期だ。
シアちゃんは陸上部の選抜選手に選ばれたらしい。それで、最近は公認欠席で全然教室に来ない。
こうなると、昼休みに気軽に話しかけるポケモンがいなくなる。
他にも親しい仲のポケモンはいるけど、何れも昼休みに戯れる程の仲ではない。
今日は晴れているし、屋上に行こうかな。
シアちゃんがいない時は、大概昼休みに屋上で本を読む。でも、シアちゃんは今年度に入ってからまだ一度も休んでなかったから、暫く屋上には行ってなかった。
4ヶ月ぶりだなあ。

−屋上−
一応は梅雨だけど、今日はそんなことを忘れさせてくれるくらいのいい天気。湿度もさほど高くないし、微小に吹く風が気持ちいい。草タイプにとって最高の天気。おまけに、ここには殆ど誰も来ない。
緩やかな風が鳴らす木葉の掠れる音に、校庭から聞こえる笑い声と、割と近くから聞こえる規則的な寝息がバックミュージック。心地良い。
……って、あれ? 誰かいるのかな。
こっちの方から寝息が……誰か寝てる。
自慢じゃないけど、私は聴力にはかなり自信がある。ある程度の雑音の中で寝息を聞き分けるのは容易いこと。
流石に某妖精みたいに、1km先で落とした針の音を聞き分ける自信はないけど。
寝息はこの物影からね……屋上なんだから、何も物影で寝なくてもいいのに。

あ、こいつは確か……隣のクラスに転入してきたサンダース……だっけ?
この間見た体育館裏の黄色いポケモンは…こいつかしら。
となると……ひょっとして、苛められている?
そのせいでクラスに未だに馴染めずにこんな場所に?
……転入早々に苛めに遭うとは不幸ね。この学校は部活が盛んで強い反面、生徒の質は良くないのが多いのよね。そうでなきゃ、私なんかが生徒会長になれるわけないもの。

それにしてもこのサンダース、中々イケメンね。
街中で10人とすれ違ったら15人は振り返るといったところね。

「ん……」モゾッ
「ひぃ!」
……なんだ、寝返り打っただけか。
驚かさないでよまったく……数歩後退したじゃないの。
いや、ここは敢えて下がって様子見した方がいいのかも。
よし、暫く離れて様子を見よう。

本の内容がまるで頭に入らないわ……


4
−20分後−
時間的にそろそろ起きるかな。
って、もう起きてる。……えーと、ここは微笑んでっと……
「こんにちは」
第一印象は重要よ。
ここで愛想悪く接して「糸色 望 し た!」とか言われたら困るし。
「あ……やあ……」
あれ?ちょっと予想外の返答。
……あ、そっか。女の子とロクに話したことがない男の子は必然的に動揺するって何かで読んだ。これはチャンスかも。
「あ、あのさ……なんでここにいるの?」
「い……いけませんか!?」
ちょっと待って。まさかいきなり嫌われた?
「いや、駄目とは言ってないよ。
ただ、いつもは君の友達と仲良く喋ってるんじゃなかった?」
何で知ってるのよ。覗き?
「今日は友達休みなんです。
こういう日の昼休みは一人で本を読む方が好きなんです」
「へー…何読んでるの?」
「星新一という人間が書いた本ですが、中々面白いですよ?」
「星新一かあ……この人のショートショート面白いよね」
趣味合うじゃない。
「そういえば、あなた転校生ですよね?
どこから来たんですか?」
正直、もう知ってるけどね。
「ああ、東北地方のA県H市の第二中からだけど……」
北東北だっけ。田舎ですねえ。
さぞかし自然が豊富なのか。
「でも、田舎の生活には憧れますねー
大自然の中で様々なポケモン達と触れ合ったり、森林浴を楽しんだり……」
田舎を美化し過ぎかもしれない。記憶が風化してる証拠だわ。
「ところで……都会はやっぱり大変ですか?」
「え?」
「ほら、ビルとか立ち並んで迷子にならないか、とか」
恥ずかしながら、私が初めてここに来た時はおもいっきり迷ったわ。
500m先のコンビニに行くのに1時間かかったし。
「……おめ、田舎者舐め過ぎだじゃ。
何で町で迷子さならなきゃならねーんだっきゃ。」
「……おせっかいでした?w」
訛ったよね? 今訛ったよね?
「『だじゃ』って、その地方の方言か何かですか?」
「んー……
一応方言……だね。多分」
やっぱり意識してないのね。自然と出てしまう感じ?
「今度、その方言教えてくれませんか?
なんかおもしろそうw」
「んー……」
聞いた感じ、私の住んでいた所とは少し違う方言みたい。
県が一つ違うだけで言葉はかなり変わるのね。そのあたり興味あるわ。
「……っと、そろそろ時間なので戻りますね。
サンダースさんも早いところ戻った方が良いですよ」
「あ……ああ」

「フー……」
緊張したー……
事務的なこと以外で男子に話しかけたのは久々だわ。
おまけに少しイケメンだもの。緊張感倍増よ。
フラグ……立っちゃったかな?

……ていうか、何で私敬語だったの?
同学年なのに!?


5
サンダースと初めて会話してからまもなく1週間。
私は毎日昼休みに屋上に行っている。
シアちゃんの陸上部が順調に勝ち進んでいるため、ここ1週間は顔を合わせていない。
そして、私はこの1週間の昼休みはずっと屋上に行っている。そして今日も。彼に会うために。

今日もいるかな。

いや、いない……
あれ? 今日は休み?
そういえば、今日は一度も彼を見てない。
風邪かな。彼の性格からして、学校をサボるとは思えないし。
……まあいっか。

−放課後・生徒会室−
「何で生徒会新聞が月刊なんだぜ?
テラマンドクセ」
相変わらずワンリキーがだれて……いつものことか。
「出来たー?」
「いや、こんな短時間には出来ないってw」
正直、サンダースと話せなかった今日は何か物足りなかった。風邪なら早く治してほしいわね。
ただ、今日は不良のテンションがむやみやたらと高かった。
……まさか……何か関係ある?
……いや、関係ない。そう信じよう。
「……ぃちょー……会長ー?」
「……はい?」
「ぼーっとしてどうしました?」
「あ、ゴメン。
ちょっと考え事してた」

私の中の何かが満たされないまま淡々と「会長」という権限で生徒会活動をした。

−夕方−
「お疲れ様でしたー」
月刊の生徒会新聞を作るためだけに活動してるようなもんね。この生徒会。それなりに楽しいからいいけど。

いつもと変わらない風景。
校庭で部活を大分遅くまでやっている野球部。体育館のドアから見えるバスケットボールを追いかけるバスケ部。そして、体育館裏にいる……サンダース!?
何であんな場所にへたっているの?
少し間が抜けたような表情で……ちょっとあっち行ってみようか。

「会長さん?どこに行くのかな?」
「!」
こいつは確か……1組の……ヨーギラスだっけ?
私の学年の不良を代表する奴。
そしてその隣にいるのは、同じく1組のキルリア。
はっきり言ってとんでもない悪女。
「ああ、あれをボコりたいのか?」
「今なら脱力してるしやりたい放題よ」
「『ヤりたい』放題?」
「ひゃはははははwwwwwwwww」
「ま、そーゆーこった。
あれの扱いはお好きにどんぞ」
「貴女はまじめちゃんだからそんなことしないでしょうけどね」
「真面目にお勉強か。
人生損してんな」
「損得なんて人それぞれよ。
自分が得と思い込んでるならそれでいいじゃない。
本人が気付いてないなら尚のこと。
逝きましょ」

腹が煮え返った。あんたらみたいな落ちこぼれの方がよっぽど人生を損してるに決まってる。
ヨーギラス単体だったら絶対リーフブレードを見舞っていた。
でも、私が特殊攻撃に滅法弱いのは自分で把握している。
キルリアさえいなければ……

「ところで、今日はどうする?」
「縛って……くれないかしら……」
「おkwww
久々にSMプレイか
キルリアも物好きだなwww」
「//////////」


6
−翌日−
今日もサンダースの姿を見なかった。
まさか不登校になったの?出来たらそうなる前に相談なりしてくれればよかったのに……まあ、苛めのことほど話しづらいのは分かるけど。
考えてもどうにもならないわ。今は塾に早く行かなくちゃね。

夕日を浴びて赤く染まる校舎。今日も部活動の威勢のいい声がこだまする。そして校内も、4階の空き教室を利用して吹奏楽部が演奏練習をしている。更には屋上でも……え!?
屋上の隅に何かがいる。よく見ると黄色の身体に四足歩行型のポケモン。
「……サンダースさん!?」
部活動をやってない彼が何故こんな時間に学校にいるの? しかも屋上に?
何か嫌な予感がする。屋上に行ってみよう。

ドアを蹴破り、確かにサンダースがいた。そしてそれを確認した直後、サンダースが真っ逆さまに飛び降りた。
「サンダース!!!!!!!!!!!」
間に合わなかった。急いで1階に…

サンダースは頭から血を流し、何か紙を持って倒れていた。脈は……ある。まだ死んではない。
片足が変な方向に曲がり、額や身体には数々の痣が。
「これは……」
飛び降りただけで痣が出来るだろうか。よしんば、この痣は飛び降りが原因だとしても、何かに叩かれたような痣は出来る筈がない。
「あいつらね……」
例の奴らが気の済むまで暴力を振るい、サンダースは精神的に追い詰められてしまい、結果として自殺にまで追い込んでしまったのか。
「そうだ! 救急車! 救急車呼ばないと!」
言うが早いか私は職員室へ走った。

この時間、部活動の監修に行っている教師が多く、職員室にはサンダースのクラス担任であるエレキブルしか居なかった。
「失礼! 電話借ります!」
「え……ちょ……おい!」
「もしもし! こちら中央中学です!
つい先程屋上から落ちたポケモンがいます!
直ちに救急車を!」

「どういうことだ? 屋上から落ちたって……」
先程の出来事を簡潔に話した。

「サンダースが自殺ぅ?
君さ、自殺って意味分かるよね?
自ら自分の命を絶つことだよ?
つまり彼は、彼の意思で死ぬことを望んだから自殺した、そうでしょ?
サンダースが死にたいと望んだから死んだんだ。ならほっとけばいいのに」
「違います!」
何言ってんのこの人。彼が書いた遺書を見せないと。


−中央中学校教員・及び中央中生徒全員宛−
俺、サンダースは自殺を決意した。
訳も分からず殴りかかってくる不良。見てみぬフリをする一般生徒。いじめを黙認するかのような教師。その全てにおいてやりきれなくなった。
一般生徒が巻き込まれたくなかったから見て見ぬフリをしたのはまだ許せる。不良が許せないのはもちろんだが、それ以上に俺は教師を許せない。
いじめの事実を知りながら全くもって無関心、むしろいじめを承諾するかのような態度。
かつて俺がいじめで悩んでいた時にある教師に相談した。しかし、一応話は聞いてくれたが、肝心の対策等は殆ど何もしてなかったそうだ。それどころか、相談した翌日の授業で、教科書のある問題を俺が当てられ、答えたら
「はい、間違ってます。
連帯責任として全員放課後に補習です」
とか言い、クラス全体からフルボッコにされ兼ねない発言をしたこともあった。事実、その授業が終わったら多種多様な罵声を浴びたが。
また、昨日不良共にボコられて気絶し、その日の授業に一切出席出来なかったこと、今日の掲示板に貼られたハレンチな写真についても一切何も聞いてこなかった。全く疑問を持たないのはおかしいだろう。
あえてその某教師の名前は挙げない。だが俺は、この学校は生徒の質も悪いが、教師も底辺以下の輩が多いことを再確認した。

無駄なことかもしれない、何も処罰しないかもしれないが、俺を自殺に追い込んだ不良共の名前を以下に挙げておく。
2-1 ヨーギラス
2-1 オコリザル云々……


「Wow」
「サンダースが苛めに遭ってること……知ってたんですか……」
「なんやこいつ。
これが教育委員会の耳にでも入ったらかなり面倒臭いことになるやんけ……」
「あの、聞いてるんですか?」
「あれを苛め呼ばわりするのか……
クラスメートのコミュニケーションをあいつは苛めと勘違いしたんだろう。
ったく、自意識過剰も甚だしい……」
「貴方それでも教師ですか?」
「は?」
「生徒の悩みもロクに聞かない、聞いても杜撰な対応しかしない。
貴方に少しでも人情があるならそんな見放した態度は取れる筈がありません!
冷酷、尚且つ残忍ですね貴方は!」
「ちょい待て! お前は何故俺が原因だと決め付けてるんだ!
黙って聞いてりゃしゃあしゃあと言って!
お前は一体何s」
遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
「貴方と議論しても埒が明きません。
救急車を案内してきます。」
「ちょま……
『はい論破^^』てことで良いのか?これ」


7
「……足が折れ、意識不明か……
多分、頭蓋も陥没してるかな。
うーむ……」
「治りますか?」
「事と場合によっては……手遅れかもしれんな。
まずは急いで搬送しなきゃな」
手遅れ。その言葉を聞いた瞬間、身体中から血の気が引いた気がした。
いや、本当に引いたかもしれない。
救急車は再びサイレンを鳴らして病院へ走っていった。

私のせいだ。もしも彼が死んだら私のせいだ。
苛めに薄々感づいていながらも、あくまで自己の安全を再優先にし、苛めには一切関わろうとしなかった。あの時から何も変わってない。小学生の躊躇っていたあの頃から全然変われてない……
病院へ行ってみよう。
このあたりで出た怪我人は、大概は中央ポケモンセンターに搬送される。学校からそんなに離れてはない。

「ハー……ハー……ゲホッ……ッハ……ハー」
遠くはない。理論的には走って行ける距離だったけど…それに対する体力が無かった。何しろこんなに走ったのは小学生の時、アニメを見る為に全力疾走して以来だったから。
完全に息が上がっていたが、それでも受付に話しかけた。
「あの、ゼー……さ、さっき搬送さrゲホゲホッ……搬送された……んぁっ……さ、サンダースの、ハアハア……容態は……ゴホッ」
「あの、まず落ち着いてください……」

「えー、貴女はサンダースさんとどういった関係で?」
「知り合いです。
サンダースさんの病室を教えて欲しいのですが……」
「えーっと、今から手術ですね。
第一手術室で手術です」
「ありがとうございます!」

私はかつて事故に合い、このポケモンセンターに入院したことがある。その為センターの構造は概ね把握している。原則はセンター内の廊下を走ってはいけないので、ゆっくり急いで第一手術室の前に行った。その時ちょうど医師がやってきた。
「あの、先生。
サンダースはどうですか?」
「すまないがまだ患者の詳しい容態は聞いてないのでね。
とにかく出来る限りのことはやります」
医師はそう言い手術室へと姿を消した。扉が閉まり「手術中」のランプが点灯した。
今私に出来る事。それは手術室の前でひたすら祈る他ない。

扉が閉まって20分は経っただろうか。1人の人間が息を切らして走ってきた。見た感じ20代と思われる女性だ。割と美人に見える。
「フーッ……第一手術室ってのはここかしら?」
「そうですよ
もしかして、サンダースさんのトレーナーさんで?」
少々面食らっている。私が話しかけたのが予想外だったのかしら。
「そうよ。
君はサンダースの知り合い?」
「はい」
「少し……話いいかな?」
彼女、レイナさんはサンダースの実の親らしい。人間がポケモンを産んだわけではなく、別のトレーナーに捨てられたのを引き取って育てたとのこと。

話はサンダースの学校でのことだった。
何故今手術を受けてるのか。最近の学校での状況。その他諸々。私は自分が知ってる限りの事を全て話す。
「まさかとは思ったけど、苛め……ポケモンの間でもあるんだ。
何で私に相談しなかったのよ……」
返す言葉が見つからない。
「そうよね……
自分のパートナーの異変に気付かない時点でトレーナー失格よね……」
「元はといえば……全てあいつらのせいです。
あいつらがいなければ……こんなことには……」
どう話し合ってもこの状況は変わらない。数分くらい話し合ったが、私とレイナさんは再び黙ってひたすら祈った。
最悪の結果にだけはならないように、と。


8
気が付けば半ば寝ていた。
何時間経っただろうか。外は既に真っ暗。
「手術中」のランプが消え、手術室から複数の医師が出て来た。
漫画なら間違いなく、この医師の回りに青い縦線が書かれているだろうというくらい思わしくない表情の医師を見た瞬間、レイナさんから血の気が引いた。
私は聞いた。
「せ、先生……どうだったんですか?
まさか……」
「安心なさい
手術自体は成功しましたよ
ただ脈が弱いんですよ……」
「え……」
「生きようという意欲が全然なくてですね、手術中も何回か危篤状態になりました」
「そんな……」
「それに手術中にも思いましたが、頭から落ちたなら肋骨は普通折れません
しかも、身体の内臓も損傷してましたし……
何があったんですか?」
「実はかくかくしかじか」
「なるほど、苛めが……
とにかく、身体的な傷で死ぬ可能性は殆どなくなりましたが、精神的にやられる可能性があります。
流石に精神的な治療は私達の専門外でして……
出来る限りのことはしますが、完治するかどうかは分かり兼ねます」
「そうですか……」
「後、今日はもう病室に運びます。
トレーナーの方は出来ればセンターの方に泊まっていただければ色々助かるのですが……」
危篤になっても直ぐに呼び出せるから?

いやいやいやいやいやいやいやいやいやそんな縁起悪いことはないないないないないにあいにないんあい。
「勿論です。
リーフィアちゃん? 私はここに泊まるけど、貴女はどうする?」
「明日も普通に学校あるので一旦家に帰ります」
「そう
……まあ仕方ないかな」
私だって本当は付き添いたい。だが、部外者の私に容易く付き添いを許可するわけがないだろう。
「送ってあげようか? もうこんな時間だし」
レイナさんの携帯電話のサブディスプレイ画面には「PM10:35」と表示されていた。
ここはお言葉に甘えた方が良いだろう。
「……お願いします」

ようやく帰宅。11時をとっくに過ぎていた。
レイナさんにお礼をして家に入……
しまった!! ユウトに連絡するの忘れてた!
怒ってるかな……

「……ただいまー……」
……返事がない。ただの屍のy
「どうしたんだ?
流石に遅すぎやしないか?」
あれ? 怒らない? ひっぱたかれるのを覚悟してたんだけど。
「…実はかくかくしかじかまるまるくまぐまで……」
「そうか」
怖いよ……その無言の表情……殴るなら殴ってよ……
「震えるなって
別に夜遊びしてたわけじゃないなら怒る理由なんかどこにもないさ
それより、晩飯食ってないんだろ? 一応残してあるが、食うか?
それともこんな時間に食ったら太るから止めとくか?w」
「太るってwww」
やっぱり私のトレーナーだ。
無駄には怒らず、出来る限り優しく接する。それがユウトのポリシー。
甘やかしと勘違いされるかもしれないけどね。
明日から暫く生徒会は無いし、学校から帰ったら病院直行ね。


9
眠い……
結局昨日はあの後1時くらいまで宿題してて、寝るの遅くなったな。おかげで今日の授業はいまひとつ理解出来なかった。
今日が土曜だったのがまだ幸いしたけど。
さて、センターには行かなくちゃ。

−ポケモンセンター−
意識が戻っている可能性は皆無かな。昨日の今日だし。
「こんにちは……」
サンダースは……やっぱり寝てる。雰囲気的に目覚めた様子もない。
「本当に来てくれたのね。
別に無理に時間を欠いてまで来なくてもいいのよ?」
「いえ、こちらは好きで来てますし……
後、手ぶらで来てごめんなさい」
「気にしなくていいわよ」
時折他愛ない話を挟み、たまにサンダースの脈を無意味に見てみたりする。でもやはり目覚める気配は無い。
ここは白雪姫と同じようなことをすれば……いや、それはない。

暫く無言の時間が過ぎる。
病院に響くのは、サンダースが生きている証拠を示す心電図だけ。しかしその心電図も、アニメの手術シーンとかで見るような高低差のある山ではなく、丘みたいに小さな山。命の神秘とはこんな感じかしら?
「脈弱すぎませんか?」
「最近はいつもこんな感じよ。
弱っては回復してのパターン。
もう少し待ってみて、回復しないようなら先生呼ぶわ」
「最近はって……」
やっぱり素直にお医師呼んだ方がいいんじゃないかしら?

−数分後−
「マズイね」
「ですよねー……」
少し遠くから見れば殆ど平坦な線にしか見えない心電図のグラフ。素人目に見ても衰弱しているのが分かる。ボケッと見てる暇があるなら早急にナースコールを呼ばねば。

「どうしました!?」
「あの……サンダースが、その」
「う……
す、すぐ先生呼んできます!」
ラッキーの看護婦さん。イメージ的にはこのポケモンのナースが一番似合う。というか、ラッキーのお腹の卵でサンダースを治してくれないかしら。
「どうしたね!」
あれこれ考えている内に先生が来た。速い。予想より遥かに速い。
先生達がいる場所は一階でここは四階。急患の場合はすぐに駆け付けるのが医師の癖らしいけど、本当だわ。
「う……強心剤とカンフル投与!」
全く聞き慣れない薬の名前。それが更に不安を掻き立てる。心電図は先程よりも弱々しい。
……寒気がする。
恐ろしい? 彼が死ぬのが? 初対面からまだ数日しか経ってないのに?
違う。数日しか経過していないからこそだ。
過去の自分と共感できる部分が多すぎる。
どういう事情であれ、辛い事を受けたのには違いないのだから。
「……大丈夫?」
レイナさんが背中に手を乗せてきた。
そんなに震えてたかしら。
「サルドが簡単にくたばる訳がないわ。
小さい頃からそうだったもの……」
そんなに幼少時代から怪我をしてたたのかしら。
……でも、今回のは精神的な傷。己の治癒力は関係ない。
サンダースがいかに生きる努力をするかが問題。
……なんか物凄くエラソーな事言っちゃってるわ私。

突如、ドアが開く。
「先生! 急患です!」
「mjd?
今はこっちも手が離せないんだ! マツバサ君に任せる!」
「マツバサ先生は今自爆したマルマインの治療中です!」
「……えーと……じゃあタカギ君に頼んだ!」
「タカギ先生も大文字を喰らったキャタピーのオペ中です!」
「んなもんほっとけよ! ……じゃあカトウ君はどうだ!」
「カトウ先生は昨日からコガネに出張中です!」
「だー! これだけの大病院なのに何で誰ひとり手が開いてないんだ!」
「シムラ? 後ろ後ろ」
「え?
……誰もいないじゃん」
「いや、後ろ後ろ」
「……?」
「私が引き受けますが?」
「……あ、ああアライ君! そういや君が居たね! いやはや忘れてたわ! あっはっはっは……っとまあ、急患を見てくれや」
楽しそうね。
プロになるとこんなにも余裕が出来るもんなのね。


10
――数分後。
「……ふう。
とりあえずこれで大丈夫でしょう。
危なくなったらまた呼んで下さいね」
先程のカオスはどこへ行ったやら。いつの間にか厳粛な空気に戻っている。
「大体数時間ごとにこんな状態になるのよ。
おちおち寝ることも出来ないわ……」
「……疲れた、と顔に書いてありますよ。
私が見てますから、少し休んではどうですか?
トレーナーである貴女が身体壊してしまったら元も子も無いですよ」
「……そう……ね。
人間はポケモンより弱いから、体力も貴女達程持たないのよね。
ホント、ポケモンを羨ましく思うわ。
ちょっとセンターの宿で休ませてもらうわ」
それは、一種の、皮肉、でしょう、か。

今この三途の川には私とサンダースだけ。他は誰もいない。
しかし哀しきかな。我が愛しきサンダースは川を練り泳いでいる最中。
出来ることなら手を差し延べてこちらに引き戻したい。
手を差し延べて……
手を差し延べ……
……だが、彼は微動だにしない。木造船の如く、沈没しているが完全には沈まずに一部が浮いている。
差し延べたこの手を掴もうともせず、没しないように泳ぐ努力もせず。しかし沈まない。
何度も川の向こう側に流れそうになるが、結局その場に留まる。
嗚呼、手出し出来ないのが非常にもどかしい。
掴めないのならせめて撫でるくらい。撫でるくらいなら良いだろう。

……痛い。
雄の割には整った体毛。それ故に随所で体毛が尖っている。
……ちょっ……体毛刺さった! 痛い痛い!

……ふぅ。やっと取れた。ほお擦りしなくてよかった。
撫でることすらも出来ないなら……手を重ねるくらいなら……

……冷たい。
というより、いつもの温かみが無い感じ。
……ねぇ、あの温かさはどこに行ったの?
何時もの明るい笑顔は?
……目を開けてよ……
……何で?
出身地が理由で苛められ、あげくの果てに自殺にまで追いやられて……
何なの? 彼は全く悪くない。
出身地で苛めるって何? 田舎臭いから? 訛りがムカつくから? それとも単なるからかい?
どうして?
どうして……
「……うっ……グスッ……」
何故彼だけが……
この扱いの差は何?皆同じポケモンでしょ?
変えようのない事実が原因の苛め。理不尽以外の何物でもない。
一度あいつらもサンダースの立場になりなさいよ。どれだけ辛いことなのか、身体に教え込んでやりたいわ。
……身を持って知りなさいよ……
「……うぐっ」
抑あの日にサンダースを止めなかった私は何なの。
あの日にサンダースに話しかけなかった私は何なの。
何故苛めに我関せずだったの。
「……っく……ごめん……」
何故私が謝る必要があるか。
元凶は奴らだ。でも、それを見てみぬフリをした生徒も全員悪い。出来るならサンダースのクラス全員が謝罪すべきだ。
だが、多分誰1人謝ることはしないだろう。生徒会長である私が呼びかけても。
「……ごめんね……こんな無能な……会長で……」
せめてもの罪の償い。犯した罪の1割も償えないだろうし、こんな方法は単なる自己満足に過ぎない。
……でもこうせざるを得ない。
というか、今こうしないでどの口が彼を好きだの言えるか。

彼に手を重ねながら声を殺して泣いた。


「もしもし? 起きてください?
もしも〜し 起きてください!
お き て く だ さ い !
……Hey! Wake up!!」
煩いわよ寝てないわよ塚ナースラッキー空気嫁。
「そろそろ面会時間が終了しますので、退室準備願います」
「あ、はい」
レイナさんは結局戻って来てないのね。熟睡中かしら。
別に構わないけどね。

…さて、宿題がまた腐る程出たからさっさと片付けなきゃ。


10
日曜日。学校は休みだから、今日は1日中サンダースの元に居ることが出来る。
ただ、あれだ……眠い。
最近の無理が祟ったかな……
あれ……レイナさんまた寝てる。本当に疲れが取れてないようね。

なんかサンダースの手を握っていると容態が安定しているというジンクスが生まれてる。
でもいくらジンクスがあっても、3人共寝るのは流石にちょっと……
私は頑張らなきゃ。
わたしは頑ばらなきゃ。
……わたし……わ……がん……ばら……な……


「はあ!?」
…またいつの間にか寝てた。
でも、この懐かしい声は…
「……ぁ……あ……
……さ……サンダースさん!!!!!」
よかった……意識が戻った……
思わず抱きついちゃったけど、いいよね?
「……ん」
ちょうどよくレイナさんも起きた。
「……サルド」
サルド? サンダースさんのミドルネームかしら。
「……ごめんね……辛かったよね。
…あんたのトレーナーなのに、自分のポケモンの事情すら……グスッ……ロクに、知らなくて……」
やっぱりレイナさんも辛かったみたい。
自分のパートナーが重傷なのだから当然かな。
「……なあ、あのさ……無理に俺の面倒見なくてもいいんだぜ……」
…え?
「二人共結構窶れてるぜ?
察するに、俺の看病をしてたのか?
意識が戻るまで? わざわざご苦労様。
でもさ、誰に頼まれた訳でも無いのにそんな無理すんなよ。たかが俺なんかの為にさ。
そもそもさ、無理に病人の看病をして、自分がその病人より酷い病気になったらどうすんだよwww
笑い者だぜ?www
まあ、俺は病人じゃないけどよ」
……何が言いたいのかしら。
「俺さ、最近思ったんだ。
『俺が生きてる意味はなんだ?』ってね。
生き甲斐も特にないし、ずば抜けて頭が良い訳でも、運動神経が良い訳でもないしさ。
ヨーギラスは言ったさ。
『お前は生きる価値などない』と。
そりゃそうだ。なんの取り柄もないし、会話しても何も楽しくない。
本当、こんな俺が生きててなんの意味があるんだろ?
レイナだってさ、結局は俺がいるだけ邪魔なんだ。
食事だって俺の分を余分に用意するからそれだけ食費も圧迫される。最近家に全然帰ってこなかったのもそのせいだよな。
こう言っちゃなんだけど、レイナ……あんまり給料良くないんだってな。だから毎日徹夜、会社に泊まり込みでなんとか稼いでるんだ。
……ごめんな。
俺なんかの為にそんな大変な思いさせてさ。
……もうさ、疲れたよ……
俺さえ消えればレイナは楽になるし、奴らも喜ぶさ。生き甲斐もないしね。
もう、この世に思い残す事もないしね……」
……サンダース……さん……自暴自棄?
悲観的になりすぎで……


11
「馬鹿!!!!!」
うわっ! びっくりした……
「何あいつらの言ったこと真に受けてるの!?
まず、私はアンタを邪魔だと感じたことはこれっぽちもないわよ!
確かに給料はそこまで良くはないけど、私はアンタがいるから頑張ってるのよ!
アンタと私の付き合いは長い筈でしょ!?
…ふざけないで!」
「……」
文字通り口をあんぐり開けて茫然としてる。
「レイナさん……落ち着いてください」
私も何か言ってあげなきゃいけないけど……適当な言葉が見つからないわ……
「……サンダースさん……
貴方は自分を責めすぎです……
世の中誰だって不条理な条件を持ち合わせてます。
貴方はたまたまその条件が重なってしまっただけです。
それと、貴方が生きている意味はあります。
レイナさんも私も……貴方が生き甲斐なのです」
「……俺が生き甲斐ねぇ……そりゃ、台詞を読み上げることくらい誰でも出来るわな」
やっぱり……そう聞こえましたか。ある程度言葉を選んだつもりだったけど……
だとしたら、行動に移すしか……ない。
「例えそれが本心でなくtモゴッ」
……頭真っ白……

「……本当に……生き甲斐じゃなかったら……キスなんかしませんよね……」
「……ぁ」
「レイナさんだって……多分同じ気持ちです。
貴方は一人じゃない。本当の一人ぼっちなんて、どこにもいないということ。
貴方はもう知っている筈……」
「………ぅ……」
……自分で言っておきながら……泣きそう……
「我慢しないで……泣いても良いんですよ……全てを吐き出して……」
「…う…うわああああああああああああああ!!!!!」
…私も号泣したい。
「……ヒグッ……ご……ごめん……グスッ……ごめんよ……ウグッ……」
泣きたいのを抑えてサンダースの背中を摩る。
ちょっと尖った体毛が痛いけど。
「うわ……うわああ……」
「好きなだけ泣いて……いいんです……好きなだけ……グスッ……」
泣くのを抑えても自然と涙が溢れてくる。
……泣いてもいいかしら……


12
「ふぅ……」
10分程鳴咽を上げ、15分は泣きじゃくっていた。なんでカウントしていたのか分からないけど。
サンダースに今までの状況を簡単に教える。
二日程意識不明だったこと。
外傷は半ば治っているのに、何故か意識だけが戻らなかったこと。
後……不良が停学処分にされたこと。
不良の話を聞いた瞬間、サンダースの顔が綻んだ気がした。
「サルド落ち着いた?
さっきはごめんね?あんな言葉かけて」
「うん、大丈夫。
寧ろ自棄になってあんな変な事言ったこっちも悪かったよ……ゴメン」
……一瞬、本当に一瞬だけレイナさんが羨ましく見えた。
肉親も同然なんだからレイナさんが頭を撫でるくらいどうってことはないのに。
嫉妬……かしら?
「レイナさん、先生呼ばなきゃ!」
「あ、そうだったね」
医者呼ぶのを忘れてたのもあるけど、ちょっと見るに耐えない。
私も同じように接したい。

「サンダースさん……よかった……思い止まってくれて……」
「もう自殺という馬鹿なことはしないさ。
ちょっと前の自分を殴ってやりたいくらいだよ」

ドクン
……何? 今の……
回りに聞こえるんじゃないかと思うくらい心臓がバクバクいってる……
「どした? 俺の顔に何か付いてる?」
「いえ……付いてはない、けど……」
「……気のせいかな? 顔赤いよ?
風邪か?」
わー! 顔赤いて! 何でこんな程度で!
「ふえ!? か、風邪、かな……あはは……」
適当にごまかすと同時にドアが開いた。
「おまたせしました。
意識が戻りましたね」
……空気嫁よ。
「フム……」
「どうですか?」
「手術創の治りも良いし……後1週間もあれば退院出来るかな」
1週間!? ちょっと早過ぎないかしら?
私の時は3週間はかかったような記憶があるんだけど。
「それって、早いんですか?」
「うん、あの怪我の具合から考えたらかなり早いね。
しかし君の回復力は恐れ入ったよ。
4階から、しかも頭から落ちた場合は大概手遅れになって、そのまま死んじゃうか、助かっても再起不能か何かしらの障害が残る場合が殆どなんだ。
落ちてすぐに運ばれてきたのもあるけど、やっぱり君の生命力が強かったから助かったんだね。
意識は中々戻らなかったけど…」
「そうなんです。
この子は小さい頃からよく怪我したのですが、すぐにけろりと治ってしまうんです。
切っても死なない身体とはこのことなんでしょうかね……」
へぇ。初耳。
「ははは……
とりあえず、死ぬ可能性はないですから安心してください。
では、毎日この時間に回診に来ますからね」
怪我の度合いから考えたら短いんだろうけど、やっぱり長いなあ。
「じゃ、後少しで面会時間が終了だから……そろそろ帰るね」
「あ、うん」
まだ話したいことがあるのに……

「……何かした?」
「はい!?」
何かって何が?
「いや、つい先日まであんなに容態が不安定だったのに、今日になってからいきなり良くなったどころか意識まで取り戻したもの。
昨日先生は何かしたかしら?」
確かに言えているけど……全く思い当たる節がない。
「いえ、特に」
「それじゃ、何か精神的に楽になったということか」
昨日は面会終了時間ギリギリまで手繋いでたけど……関係無いよね。
……いや、微塵も関係無いってことはなさそうね。
……いや、やっぱり関係あるか。
……いや、やっぱり関係ないか。
……いや、やっぱり関係あるか。
……いや、やっぱり関係ないか。
……いや、やっぱり関係あるか。
……いや、やっぱり関係ないか。
……いや、やっぱり関係あ
「ちょっと」
「はいな」
「貴女昨日一日中看病してたってね?」
「ええ」
「じゃ、それのおかげだわ」
「……は?」
「昨日一日中祈ってたわけでしょ?
多分その思いが伝わったんだわ」
走召 非現実的ね。というより、ありえない。
……でも、他に説明はつかないし、あんな酷い容体が半日強で回復するとも思えないし……やっぱりそうなる……かな。
「そう……ですよね」
「……ありがとう」
「ふえ!?」
そんなお礼を言われるいわれなどない。私は私のしたいようにしただけ。
「何度も言わせないで頂戴。
自分のポケモンの看病をしてくれだんだから、お礼を言うのは当たり前じゃない」
ああ、成る程。彼女は俗に言うツンデレってやつだわ。
……ツンは感じられなかったけどね。


13
「今年はシンオウに行くんだ」
学校から不良が居なくなり、すっかり全快したサンダースと下校している途中で言われた。
「へえ……」
こう返すしかない。別に自慢話に聞こえた訳ではないから不快ではないが。
シンオウ地方――
日本最北の地方で、冬は極寒である。イメージとしては夏は涼しそうだけど。
どうやら私「リーフィア」も、シンオウ地方のとある場所に行かないとイーブイから進化出来ないらしいが、シンオウ地方に行った記憶は無い。
イーブイという幼少時代の記憶は薄々あるが、その後気が付いたらリーフィアになっていた。なんとも不思議である。
「で、シンオウ地方に旅行ですか?」
「んにゃ、レイナの仕事でだよ。
長期出張とも言えるね」
……素直に移住した方が早くないかしら。そんなことされたら泣いちゃうけど。
「……行きたいか?」
「そりゃまー行けるなら行きたいけどー」
「じゃあ一緒に行くか?」
「……え?」
聞こえてた。つーか、それってついていっていいものなの?
「出張費用は全部会社持ちらしいから、どうせなら多数連れていってもいいんだと。
ホテル泊らしいから、俺からしたら長期旅行と変わらないんだがな」
出張費用全部会社持ち……そんなお金が何処にあるのかしら。賄賂?
「見当しておきます」
「ちょまwww冗談だったんだがwww
……まあいっか」

後日。ユウトから許可を得た。
こうなにもかも許可してくれると何か悪い気がしちゃうけど、まあせっかくだしね。
これで今年の夏の予定は悩むことが無くなったわ。
シンオウでは何をしようかしらね。
西の夕焼け空にはヤミカラスが群をなして飛んでいったのが見えた。

崩れゆく日常に続く


ここで本編と合流して次回へと続きます。
後半gdgd感が漂っております。非常に読み苦しいですよね……
小説の基本(段落頭一マス開け・漢数字か算用数字かに統一する等)が全然守れてませんが、もう割り切ってこのままで完結いたします。

続編ではしっかりと小説のルールを守って執筆します。


最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 何だがやけにリアルですね…。やっぱこの話は少し考えさせられますね…。(なに言ってんだろ…。) -- 瀞竜 2008-10-28 (火) 23:34:29
  • ヨーギラス、キルリア、オコリザル云々、お前ら後でボコボコのズタズタのグチャグチャのいかにも不味そうでもちろん不味いミンチにしてやる。 -- 2008-11-01 (土) 18:28:11
  • ちょwwwまるまるくまぐまってwwwwwダメだこの学校wwwwwww -- ブッ,`;:.;(ε ゜) 2008-11-03 (月) 21:54:56
  • フハハハ!!ハーッハッハッハッ!!先公も不良も全員死ねー!! -- ギアス 2008-11-04 (火) 01:51:56
  • 死ねはいけないでしょ^^:どうせなら永遠と死ぬ直前の痛みを味わってもらわないと^^ -- Fロッド ? 2008-11-11 (火) 15:47:59
  • アンタの方がよっぽど酷いぞ… -- ギアス 2008-11-23 (日) 02:52:22
  • 考えさせられますね

    私が察するに、この物語で一番悪いのは不良ども(ヨーギラス、キルリア、etc)ではなく、彼等のしつけを怠ってたトレーナーだと思います(登場してないorz)。

    リーフィア視点も面白いと思うのですが、自分的にはヨーギラス視点を見てみたかったですね。

    何故サンダースをイジメの標的にしたのか(本編やASではサンダースやリーフィアの推測でしかない)。どういった過程(キッカケ)で彼は不良になってしまったのか。その他色々彼のことについて知りたk……

    ってこれだと面白くないですし、中編位の長さでgdgdになってしまいますね。すみませんorz

    頑張れサンダース!負けるなサンダース!そして可愛いよリーフィア。 -- 青葉 ? 2008-11-23 (日) 03:27:25
  • なるほど!シンオウのホテルグランドレイクでリーたんと -- おお!(∀゜) ? 2008-11-26 (水) 15:14:11
  • 読みにくい。いい意味で読みにくい。こころがうたれすぎて・・・ -- 短冊 ? 2009-03-10 (火) 00:50:21
  • ••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••••殺すなら、頭を叩き割る。 -- ハカセ ? 2009-03-14 (土) 19:08:26
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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