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崩れゆく日常

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崩れゆく日常 chapter1
by705


−20XX年8月12日−
 日本は国土全体を揺るがすような事件が度々発生している。
1997年、ヤマブキのシルフカンパニー占領事件。
同年、ナナシマでのポケモン乱獲事件。
2001年、コガネのラジオ塔占領事件。
2004年、ホウエンの広範囲にわたる人身的な異常気象。
2006年、槍の柱で起きた空間の異常。
 しかし、これらの事件にも共通点がある。死者や身体的な負傷者がいないこと。そして、何れの事件もたった1人のトレーナーによって解決したこと。
 だが今回の事件は、それなど足元にも及ばなかった。現時点で死傷者が大多数出ている上、1人は愚か全国のエリートトレーナーをかき集め、更には各地方の四天王とチャンピオンを投入しても、大海に石を投げるばかりか火に死ぬほど油を注ぐ事態になりかねないくらい深刻な事件。
 街自体が死んだ今、湿原があった街を中心に被害は留まることを知らずに、その地方全体を蝕んでいく。


chapter1-1
 7月28日。暑さが一層厳しくなる季節。
水・草・虫・氷属性のポケモンは弱り、炎属性のポケモンですら熱いと漏らす。岩・鋼属性のポケモンの表皮は目玉焼きが作れる程に暑くなる。
 しかし、その灼熱の如き夏の気候も、夕暮れ時になれば幾分収まる。
 カントー地方最大の街タマムシ。日本の首都でもあるその街は高層ビルが立ち並ぶ。雲さえなければ例外なく太陽光が差し込み、その無機質な建物は熱を吸収し、ヒートアイランド現象を引き起こす。
 しかし、日が沈めばその現象も収まる。そして、その涼しくなる時を狙って外出する人も少なからずいる。大半が昼夜逆転型の生活を送っている人だが。

 列車に乗る為にホームへのエスカレーターを上っている女性がいる。ショルダーバッグをかけてキャリーバッグを引きずっているあたり、会社帰りではないだろう。これから旅行、若しくは出張の為に列車に乗るといったところか。
 エスカレーターを上り終え、ホームの端に歩いていく。彼女が乗る列車はまだ来ていない。
 にも関わらず、ホームには既に乗客がいる。更にホームの端にはカメラを持った人も伺える。

 18時50分。電源車の機関の轟音と共に、青い客車が後部から推進運転で入ってきた。
 寝台特急北斗星――
 元祖豪華列車の名を持つそれは、1988年にデビューして以来、今日も尚運行している。新幹線やリニアが発達した中で、カントーとシンオウを結ぶ、唯一の定期寝台列車として、毎日1往復運行されている。
 その列車が停止した瞬間、シャッターを切る音が炸裂する。
 そんな中、シャッターを切っていた、唯一の女性がモンスターボールを2つ投げた。
 その中からは似たような容姿をした2匹のポケモンが出てきた。
「あれ? 飛行機じゃないの?」
「まあまあ。たまにはこういう列車でのんびりと行くのもいいじゃない。
で、早速だけど、これを部屋迄持っていって頂戴。部屋番号はこの切符に書いてあるから」
「イキナリカヨ。
はいはい、持ってけばいいんだろ。乗り遅れんなよ?」
 レイナと呼ばれた女性はサンダースとリーフィアに「大丈夫」とでも言うかのように微笑むと、再びレンズを牽引機関車に向けた。
 2匹はそれを確認し、1匹は軽く溜息を吐いて客車に乗り込んだ。
「部屋は9号車で、ここは……1号車かよ! 遠いな……ったく」
「ところで、こう言っちゃ失礼かもしれませんが、レイナさんは何をしているのでしょうか?」
「話せば長くなるけどさ、列車の写真を撮るのがレイナの趣味の1つなんだってさ。
ああいう列車好きの人を『鉄道オタク』と言うんだ。一般的には『鉄道ファン』と呼ばれてるけどな。
若い女の人の鉄オタってあまり多くないらしいんだわ。しかも現地で本格的なカメラを使って電車を撮るとなると、30代以上のおじさんが殆どなんだって」
「詳しいですね。電車に何の魅力を感じるのでしょうかね? 人やポケモンを運ぶ輸送手段でしかないのに……」
「まあ、俺達には分からない『ときめくもの』があるんだろうなあ。多分」
「詳しい割に興味は無いんですね」
「人もとい、ポケそれぞれだろうよ。
で、あれはEF81という交流直流両用電気機関車で……」
「本当に興味無いんですか?」
 サンダースの言っていることの半分も理解出来ないリーフィアはそう言いかけ、なんとか飲み込んだ。
 数分後、彼らの目的となる部屋に辿り着いた。ドアには鍵穴が付いているが、まだ鍵はかかっておらず、また、4足歩行型ポケモンでも開けやすいように改良がなされていた為、サンダースがドアを押したらすぐに開いた。
「狭っ」
「狭いですね……」
 2匹は殆ど同時に声を上げた。それもそのはず。その部屋はベットが2つあり、その間には幅が僅か40cm程の通路。これだけなのだから。
 2匹はそれぞれのベットに向かい合うように座った。窓からは都内の環状線を走る電車がちょうど発車していった所が見えた。

 10分後。
「レイナさん来ませんね……」
「何やってんだか本当に……ちょっくら見てくる」
 サンダースはドアを押し開け、デッキへと向かった。

 サンダースがデッキに着いたとほぼ同時に、ホームにアナウンスが響いた。
『お待たせ致しました。まもなく13番線から 寝台特急 北斗星 コトブキ 行きが 発車します。お見送りの方は 黄色い線の内側にお下がり下さい』
ここまで流れ、今度はホームに発車ベルが鳴り響く。
「はーん、これは北斗星かい。よりによって定期列車の中で1番古い列車じゃん。
にしても、レイナまだかよ」

『13番線 ドアが閉まります。ご注意下さい』
「13番線、北斗星コトブキ行き発車します。
閉まる扉にご注意ください」
「ちょっと……レイナがまだ乗ってな」
 19時03分。客車の扉が閉まり、古い車両独特の連結部の幌と渡り板が擦れる音を出し、列車はゆっくりと走り始めた。


chapter1-2
 列車はゆっくりと加速を続けている。「ゆっくりしていってね!」とでも言われそうなくらいに緩やかに。
 さて、先程のサンダースはどこか落ち着かない様子で部屋に戻った。
「あれ……レイナさんは……」
「今は居ない。
大丈夫だ。多分先頭車から既に乗ってるだろ」
 そうは言ったものの、やはり動揺は隠せないようだ。
 オルゴールの音が流れた後に車内放送が流れた。
『大変、長らくお待たせいたしました。
只今エノ駅を時間通りに発車いたしました、寝台特急北斗星3号 コトブキ行きでございます。これから先の停車駅と到着時刻をご案内いたします』
 彼らは特に話題もないので、車内放送に耳を傾けた。ルート的には彼の生まれ故郷の駅を通るが、この列車は止まらない模様。
『……10時41分。
終点コトブキには11時15分に到着いたします。
尚……』
「11時って今夜のですか?」
「いや、明日の11時だろ。
寝台列車なんだから今日中に着いちゃ意味ないじゃん」
「あ、そか……」
 寝ながら目的地に向かうことが出来る。それが寝台列車登場時のフレーズだった。しかも急行列車と違い、ベッドまでしっかりと完備してある。まさに走る豪華ホテルだった。あくまでも過去形である。
 その時、ドアがノックされた。サンダースがドアを開けると、そこに立っていたのはレイナだった。
「やー、ごめんごめん。
撮影に夢中になって、気付いたら『発車します』とか言ってるんだもの。慌てて駆け乗ったわよ」
 レイナ笑いながら言っているが、サンダースはまた溜息をついた。
「ほらほら。溜息ついた数だけ幸せが逃げるよ?」
「その幸せから棒を1本取ったものが逃げるんだよ」
「……屁理屈」
 突如リーフィアが呟いた。
「あ゙?」
「いえ、何もありませんが?」
「全く女ってやつは……」
 サンダースは1人と1匹がニヤニヤしている中で呟いた。
 と同時に、再びドアがノックされた。
「失礼いたします。こちらウェルカムドリンクでございます」
 女性アテンダントがそう言い、ウィスキー、美味しい水、ミックスオレ、お茶が乗ったトレーを差し出した。
 かつてはワインが出されていたが、最近はポケモンと一緒に旅行をする人が多く、それに応える為に、ワインの代わりにミックスオレを出すようになった。
 朝食の時間その他諸々の説明をし、「後程車掌が参ります。乗車券を用意してお待ち下さい」と言って隣の個室へ移動していった。
 数分後、車掌が部屋へ来た。レイナ達は検札と部屋の鍵の使い方や室内装備品に関する細かい説明を受け、最後に鍵を受け取った。
「何か感じ良かったな」
「……え? サルドそっちの趣味あったの?」
「ちげーよ! 愛想良いっつー意味だ!
作り笑いじゃなくて、自然な笑顔でさ」
「作り笑いって……
でも、それはありますね。店員に有りがちな笑顔でなく、フレンドリーというか庶民的というか……見ててこっちまで笑顔になりそうな感じでしたね」
「さて……あんた達、こんな狭い場所にずっといるのもアレでしょ?
暴れないのであれば車内探索してきてもいいよ?」
「……行くか?」
「そうですね。こういうのに乗る機会なんて殆どありませんし、ここは堪能しましょうか!」
 レイナだけでなくリーフィアも興奮している。それもそうだろう。滅多に乗れない上に割高な寝台列車に、しかも無料みたいな値段で乗れているのだから。
「んじゃ、ちょっと出てくる」
「あー待て待て待て!
食堂車に行って夕食食べてからにしてよ」
「それ先に言えよ!」
 祭が始まった神輿のように賑やかな1人と2匹はその後、同様に賑やかに夕食を食べ、賑やかに車内散策をした。


chapter1-3
 列車は概ね一定のリズムでジョイント音を鳴らし、時折カーブによる制限を受けながら確実に北へ向かっていた。
 0時。タマムシのような都心部ではまだ活気があり、電車も走っているが、田舎であるこの辺は数時間前に最終列車の運行が終わっており、対向列車とは全くすれ違わない。30分前に本州最後の停車駅を発車し、通路には人影が殆ど見られなくなった。
「ふあ……そろそろ……寝るかな……」
 サンダース達は普段は23時には床に付くという、この年齢にしては健康的な生活を送っている。
「ベッドが1つしかありませんね」
「どっちかが床で寝るかレイナと添い寝か……だな。どうする?」
「何してるのよ? 貴方達2人で1つのベッドよ?」
 2匹は固まった。まるでかつての吹雪を喰らったかのように。*1
「……あのぉ、レイナさん?
一応我々はお年頃なのですよ。
それでー……そんな我々が添い寝などするようでは……あの……都合が悪い……みたいな……」
「私は構いませんが……」
「!」
「貴方となら別に……そ、添い寝くらい……」
 さて困った。かのサンダースは雌と添い寝はしたことがない。手を繋いだこともない。キスはしたことがあるが、本人はキスした回数には含まないと言い張っている。デートはしたことがないし、抱き合ったことも勿論ない。更にはあんなことやこんなことも……
閑話休題。
 とにかく雌との身体的な係わり合いが皆無な彼は、添い寝など未知の行為。しかし、座席車も増結されていないこの列車で他に寝られる場所は開放型B寝台車しかないが、そのB寝台車は殆どカーテンが閉まっていた。
 結局異性と一緒のベッドで寝る羽目になってしまった。
「私も早いところ寝るね。おやすみっ」
 言うが早いか、レイナはいつの間にか寝間着に着替えており、さっさと毛布を被った。
「ふぁ……それじゃおやすみなさい……」
 それにつられるかのように、リーフィアも眠りに入った。
「……おやすみ」
 たった今出来た法則に従い、サンダースも瞼を閉じた。


 真夜中。列車は本州とシンオウを結ぶ海底トンネルを通過中である。
 新幹線も通過出来るように設計されたトンネルである。肝心の新幹線の方は着工のめどすらついていないが。とにかくこのトンネルは揺れが殆ど無い。他の路線走行中は列車の旅にありがちな揺れに加えて古い車体が煩く音を出すのが仇となり、まず寝られないのだ。
「寝るなら海底トンネルがチャンスだ」と言われているくらいである。
 そして、その寝るチャンスと言われている中で尚寝ないどころか、何かの呪文を唱えているポケモンがいた。
「メリープが2843匹……メリープが2844匹……」
 リーフィアと添い寝中のサンダースである。
 彼はあの後から一応瞼を閉じてはいるのだが、背中向こうにいる異性の事を思うと、意識が遠退くどころかどんどん冴えてしまうようだ。
 しかし、それでも数えるのを止めないあたりに執念を感じる。
「おっぱいが7つ、おっぱいが8つ、おっぱいが……」
 そして、いつの間にか卑猥な言葉を口走り始めた。

 30分後。約54kmの長大トンネルを列車はまだ抜けていない。しかし、サンダースは相変わらずカウントを続けている。
「おっぱいが789……おっぱいが790……
ずっとおっぱいのターン!!
……はあ……もう止めよ。
トイレでも行ってこよっかな……」
 無意味だと悟ったか、ようやく寝ることを諦めたようだ。
「……ふにゅ……」
「うおっ」
 刹那、サンダースの背中にまなら温かいものが触れた。ついでに抱き着かれた。
「……あの、リーフィアさん……胸が当たっているのですが……」
 洗濯板、とまでは言わないが、貧乳と大差ない胸がサンダースの背中に当たっている。
 悲しいことに、雄は「異性の胸」というだけでも興奮してしまうものだ。富であろうが貧しかろうが。
「『貧乳はステータスで希少価値』……か。
……暫くこのままでいるか」
 彼女が何の夢を見ているのかは分からないが、悪い夢を見ていない以上、起こす理由もない。本音は、暫くこの感触を味わっていたいだけだろうが。
 彼女のその前足は徐々にサンダースの首にかかっていった。
「おい……ちょ……ぐえ!」
 先程も言ったが、彼女が何の夢を見ているのかは分からない。自分が殺人鬼に成り切っているのか、はたまた夢中での恨み晴らしか。
「殺す気……か! ……電気ショッ……うぐっ!」
 確実に首を絞める力が強くなっている最中、サンダースは微弱の電流を流す。電流さえ強くすれば、例え1ボルトを流しても間違いなく死ぬ。電気属性のポケモンの間では常識である。
「ふみゃ! ……んうー……」
 彼女は草属性故に、ダメージは殆ど無いと思われる。起こしてしまう可能性があったが、それも奇遇に終わった。
「はあ……やべ、可愛い……」
 首を絞められながらもそんな言葉を吐く当たり、彼はマゾヒストかもしれない。
「ふう……ちょっと外出るか……」
 部屋に居てもたいした暇潰しが出来ないと判断したか、サンダースは1匹で部屋を出た。
「サンダースさん……」
 サンダースが出て行った部屋にそんな声が残った。これが寝言か否か、判断出来る者は居ない。


chapter1-4
「……すげえ」
 意識せずとも言葉が漏れた。列車は海底トンネルを抜けていた。シンオウ最南の広大な湾に、顔を出したばかりの太陽が反射し、見事な景色を作り出していた。
 サンダースが廊下の折り畳み椅子に座って暫く見とれていると、ドアの開く音が聞こえた。
「あら、こんな所に居たの」
「あ、おはよう。随分早いな」
「いや、次の駅で機関車付け替えがあるからね。定期列車唯一の重連DD51、これを撮らない訳にはいかないわ」
「あ……そう」
 この先の路線は非電化である。また、一部区間の勾配が大きい為、定期列車としては唯一の常時重連運転をしている。サンダースにはどうでもいい話だが。
「ふあー……眠い……フエン煎餅はあるかな……」
 ドアを開けながら、大きな欠伸をした。彼はとにかく、この眠気をどうにかしたいようだ。
 尚、フエン煎餅等のような状態異常を回復する道具は、技によって発生した状態異常に効くもので、睡眠不足などの生理的現象には全く効果は無い。
「……無いな……少し寝るか……」
 先程までレイナが寝ていたベットに潜り込んだ。それを待っていたかのように車内放送が入った。
「おはようございます。
まもなく、コダに到着いたします。お出口は左側です」
 シンオウ地方最初の停車駅。「イカの街」として有名だが、実際に盛んなのは食品加工業であり、漁獲高はそれほど高くない。それでも日本国内漁獲高5位以内に入るが。
「もうコダ駅か。どうでもいいや。ちょいっと寝るか」
 しかし、先程の海峡トンネルのような静かさはとっくに消えており、寝るのは困難になっていた。それでもなんとか寝ようと躍起になって瞼を閉じていたが、コダ駅を発車した直後にドアが開けられた。
「朝ごはん食べにいくわよ!」
「〜〜〜〜〜」
結局、サンダースは一睡も出来なかった。

 その後はもう微塵も寝られなかった。約30分置きに列車が停車する為、加速が収まってやっと寝られるかと目を閉じると、間もなく制動によるGがかかる。
 さらにシンジ駅を過ぎたら10、20分の間隔で停車する頻度。こんな中で寝られるのはカビゴンくらいだろう。
 サンダースがうとうとし、脇でリーフィアがそれを見守っていると、放送が流れた。
「大変長らくのご乗車、お疲れ様でした。
間もなく終点 コトブキ コトブキです。お出口は左側です。
本日は、JRシンオウをご利用いただきまして、ありがとうございました。
またのご利用をお待ちしております」
「サンダースさん。そろそろ終点ですよ。
……もしもし?」
「んあ……ああ……いや、本当眠いわ。
つーか、リーフィアはあんな中でよく眠れたな」
「気が付いたら朝になってました」
「暢気なもんだぜ……ふあ」
 無神経と違うか、とサンダースが言おうとした時にドアが開いた。
「どこ行ってたのさ」
「食堂車。10時まで営業していたから、モーニングコーヒー飲みながらゆったりとね。」
「10時……じゃあ残りの1時間は何してたんだ?」
「ロビーカーにちょっとね」
「何をしていたんだか……」
「まーまー。細かい事を気にしたら負けよ」
「じゃあ負けでいいよ」
「否定しなさいよ」
「生憎、細かい事は解決するまで気にする性格なんでね」
「とにかく荷物纏めなさい。……まあ、あんたらは殆ど手ぶらで済むだろうけど」
 サンダース達も荷物はあるが、殆ど……というか、全部レイナに預けている。
「んしょ! ……サルド。あんたも持ちなさいよ」
「へーへー」
 リーフィアにも持たせたかったが、部外者の、しかも雌に持たせる程彼も常識知らずではない。サンダースは黙って2匹分の荷物を持った。
 彼はこのあたりが紳士なのだが、いかせん顔がアレなのでモテた試しが無い。私も人のことは言えないが。
 そうこうしているうちに、小さな衝撃があった直後に列車は完全に停車した。

「暑ッ!」
 ホームに降りるなり、サンダースがいきなりそう言った。いくらシンオウといえど、夏は暑い。カントーに比べれば大分涼しいが、それでも20℃越えはザラにある。
「後35分……ね。あんた達その辺適当に回ってなよ」
「35分? 何が?」
「あら、教えなかったっけ?
私達が行くのはノモセよ。ここはコトブキじゃない。
30分後くらいにはノモセまで行く特急が来るから、それに乗るのよ」
「あるぇ〜?」
「旅行内容くらい覚えておきましょうよ……」
「人間に倣い、ポケモンも忘れることが特技なんだよ。その辺でもぶらついていようぜ」
 とは言っても、30分弱では殆ど何も出来ない。2匹と1人は人が斑になっているホームのベンチに座った。

 暫く後、特急スーパーおおぞらが入線してきた。シンオウの中心コトブキと、湿原やグランドレイクで有名なノモセとを、最速3時間35分で結ぶ気動車特急である。
「最速130km/h運転。設計上の最高速度は145km/hだけどね。ただ、やっぱり電車特急のはくたかには敵わないわよね。681系を使って160km/h。狭軌最速伝説樹立してさ」
「……レイナ。誰に向かって説明してんのさ」
「そこの画面の向こうにいる、あまり多くない読者の皆様に」
「誰でも鉄道好きだと思うなよ……。つーか、そこって何処だ。画面の向こうって何だ」
 リーフィアを完全においてきぼりで話を突き進める1人と1匹。リーフィアの顔は正に「こっち見るな」と言われそうな顔文字*2が似合うだろう。
「あの〜……そろそろ乗りませんか?」
「急がなくても列車は逃げないから大丈夫よ」
「いや、逃げようと思えば逃げられるだろうかと」
 多分この面子では唯一寝不足なサンダースが言った。
「あんた眠そうね。昨夜ちゃんと寝た?」
 寝ていない。微塵も。そして抑の原因はレイナ。
「いや、殆ど。やっぱ列車が煩くてな」
 それでもサンダースは他人のせいにする事を好まないので適当にごまかす。
「ま、寝るなら寝ればいいわ。3時間以上かかるし、なにより北斗星よりは揺れないだろうし」
「そうか。寝るなと言われても寝るだろうけどな」
 11時51分に特急おおぞらはコトブキ駅を発車したが、サンダースの記憶はノモセ駅に到着する15時41分まで完全に飛んでいた。


chapter1の後書きみたいなもの

これでも大分削りました。
本当は夕食と車内探索その他諸々の描写も書きたかったのですが、流石にそこまで本編と関係無いことを書くのも気が引けますし。
カントーからシンオウに行くのに飛行機を使わずにわざわざ寝台列車を使った理由。それはなにより、自分がそれを書きたかったから。
実際北斗星の事を調べている時が一番楽しかったりしたり。
尚、乗車経験はありません。

世界観について
崩れゆく日常 世界観概要
chapter2
崩れゆく日常 chapter2


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  • 北斗星!鉄オタなら誰でも?知ってますね
    カシオペアでもいいと思いますが高いですからね…料金
    ED79・DD51も出てくるのかな?
    とにかく期待しています 頑張って下さい -- Fighter ? 2008-12-07 (日) 12:33:41
  • よっしゃきたー!こういう会話見てると0系がなくなったのを思い出すなぁ・・・。とにかく期待してます! -- 2008-12-14 (日) 12:09:12
  • リニアが通ったのって…ヤマブキシティじゃないすか?続編出ましたね。思っていたものと違いますが、とにかく期待しています。 -- 疑問中の名無し ? 2008-12-14 (日) 19:54:09
  • 北斗星!よく知ってるくせに未だに乗ったことが無い・・・。
    いつ、乗れる日が来るのやら・・・。 -- bun8 ? 2009-01-11 (日) 11:32:05
  • ちょwwおいwwサンダース何を数えているwww以外とえちぃな
    ――Squall ? 2010-08-13 (金) 01:34:04
お名前:

*1 今の吹雪は威力120 命中率70、10%の確率で凍らせるが、初代は威力120 命中率90、加えて30%の確率で凍らせるという反則級の技だった
*2 (゚д゚)

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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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