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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです(6)

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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです 

(6)恋路 


 一方その頃、ウインディは。
 「勃たない……」
 ウインディは全身ぬめぬめにされていた。コジョンドは体格差を利用して、ウインディに全身でマッサージを施した。仰向けのウインディにコジョンドが馬乗りになっていた。彼女は自分の体躯を使ってウインディに「ぬるぬる」を塗り込んだが、それでも彼の興奮を誘うことはできなかった。
 コジョンドにも焦燥の色が見えていた。全身で全身のどこを愛撫しても駄目なのだ。打つ手は全て打った。コジョンドがウインディに対して刺激を与えられる場所はもうなかった。
 ただ「一箇所」を除いて。
 「……こうなったら『アレ』しかないかもしれませんね」
 コジョンドはウインディから降りた。どろどろのねとねとであるにも関わらず器用に物入れまで移動すると、その中身を物色し始めた。
 「安牌はケンタロスだけど……いや、ここは……」
 言って、何かずんぐりとした棒状のものを取り出した。コジョンドが取り出したそれは、鈍器か何かのように見えた。が、その輪郭を見てウインディは考えを改めた。
 ――あれは「張形(ディルド)」だ。平たく言えば、穴に突っ込んで楽しむためのアレのことである。ウインディは猛烈に嫌な予感がした。
 「なんだ、それは」
 「うふふ。これは『悪い伝説たち』シリーズの一つ。『エンテイ(炎帝)』ですよ」
 コジョンドはそれをうっとりと眺めていた。コジョンドの拳以上あるのが見ただけでわかる狂気じみた太さの張形(ディルド)だった。それの先端にコジョンドが口づけをする。それを支える台座はコジョンドの腹部あたりまで続いている。およそコジョンドの身長の三分の一ぐらいの長さがある計算になる。「大は小を兼ねる」の意味を履き違えるのにも限度がある。
 「それを、どうする、つもりだ」
 ウインディは「自分に使うわけではない」という一縷(いちる)の望みに縋った。
 「これで極楽へいざなおうかと」
 ウインディの願いはあっけなく打ち砕かれた。
 「あなたの体格であればこれも受け入れられるんじゃないでしょうか」
 コジョンドは張形(ディルド)を撫でていた。制作者のサディズムを詰め込んだような凶悪なフォルムだった。ただでさえ長く太い竿に、細かい突起が縦方向に規則正しく六つの列を作っていた。それぞれの突起は丸みこそ帯びてはいるが、孔を破壊するには十分な鋭さを持っているであろう。根元には亀頭球――ウインディにも備わっているそれ――が続いているが、ただでさえ太い竿と比べても更に二回りほどの直径があった。その大きさのあまり、製作ミスで台座が二つ連なってしまったかのような不格好な形になってしまっていた。
 「すごいでしょ。尿道口までバッチリですよ」
 コジョンドが示す先端を見てみると、なるほど確かに尿道口の微細な窪みまで完璧に再現されている。単にバカでかいものを雑に作っているというのではないようだ。つまりこれは、至って真剣に先から根元までこだわり抜いた意匠であるということだ。ウインディは狂人がこれだけの心を砕いてこれだけの物を作り上げた事実に戦慄した。
 「『我の他に雄はいらない』」
 コジョンドが声を低くして言った。ウインディはまぶたを引きつらせた。
 「コレの売り文句です」
 知ったことではない。
 「さあ」
 コジョンドは、いにしえの勇者よろしく、太くて立派な「伝説」を諸手でかかげた。誰かを殴り殺そうとしているようにしか見えない。その「誰か」が誰なのか、考えるまでもなかった。
 「メスになってもらいますよ」
 「冗談じゃない!」
 付き合いきれないとばかりに遁走を試みたウインディだったが、脚を取られてぐるりと転倒するだけだった。床に撒かれたヌメルゴンの「ぬるぬる」のせいだ。ウインディはここにきて初めて、彼女がこの事態まで想定に入れてこれを使ったのではないかと思い至った。
 「わざわざお尻を向けるなんて、やっぱり使ってみたいんですね?」
 コジョンドの言う通り、転んだウインディは、彼女に向けて尻を向けながら仰向けになっていた。「この下等なメスを犯してください」と言わんばかりである。
 「『ぬるぬる』は十分塗りましたから」
 コジョンドは無防備なウィンディの菊門にエンテイ(の一部)(の模造品)をあてがった。ウインディの肛門括約筋が恐々として縮こまる。
 「やめ――」
 コジョンドは「はっけい」と同じ要領で筋肉を使って、ウインディの万物を拒む門をこじ開けた。
 どすん。
 「あグゥっっ」
 ウインディの禁じられた薔薇園はエンテイ(唯一の雄を自称)の不法侵入を許してしまった。肛門から脳天まで稲妻に貫かれたかのような衝撃がウインディを襲う。そのあまりの威力にウインディの見当識は崩壊してしまった。走馬灯のような光景が彼の視界に広がる。
 初めて依頼をこなした日。ロコンが卵から孵化した日。強敵との戦闘。敗北。自分が進化した日。ロコンの戦闘訓練。リザードンと祝ったロコンの誕生日。そして――ロコンがキュウコンに進化した時にかけてくれた「ありがとう」――。
 キュウコン。
 ウインディは非現実の中にいるような、しかし臀部に広がる痛覚だけははっきり認識される不思議な心地の中で、同じ青空の下の何処かにいる娘に語りかけた。
 父さんの方が先に処女を喪うとは思わなかったぞ――。
 「あっ、もう勃ってきてる」
 「嘘だろ!?」
 「その調子です! 動きますよ!」
 「動く!? あっ、アガぁぁァ!! あ、はガァあァああアアあ!!!」
 土足で内部にずかずか立ち入ったエンテイ(悪い伝説シリーズ)は、なんの恨みがあるわけもないのに、ウインディの腸の中でピストン運動を始めて暴れだした。純真無垢で穢れを知らないウインディのお尻がエンテイ(竿部直径十二cm)に蹂躙されていく。本来なら終生刺激されなかったであろう、前立腺が、精嚢が、雄の槌を叩きつけられて誤作動を起こし、またぐらの海綿体に血液を送る。それに加えて、命の危機を感じたウインディの体は、死を前にして子孫を残す使命を果たすべく、ウインディ自身(竿部直径八cm)の発射体制を整えた。
 彼が、子を作ることのない子種の徒花を散らすまで、そう時間はかからなかった。



 カタン。
 キュウコンは泥酔していた。彼女が吻口で薙ぎ払った杯が割れたのだった。座卓から飛んだそれは、炎の石のような赤橙色のビードロで作られていた。美しくも儚いそれは、中身にしていたミルクベースのカクテルをぶちまけつつ、床を転がった。白濁した酒が、だらだらとこぼれ出ていた。
 「あーあー」
 ブーピッグが白濁液を手でせき止めようとするが無駄だった。彼もキュウコンと同程度に飲んではいたが、ブーピッグだけが全く素面と変わらなかった。酒をこぼしたキュウコン本人は机に頭を横たえながらケタケタ笑っていた。
 「あはは、おかし〜」
 彼女は笑い上戸だった。酒を追加し始めてからの彼女は、これまでの救助依頼の逸話やブーピッグの探検譚のどうでもいいところにいちいちけらけら笑う面倒くさい性格に変わっていた。父の話は、一切出なかった。
 「あんたらもうそのへんにしておきな」
 キュウコンの粗相に気がついたミミロップが布巾を手にこちらにやってきた。キュウコンがこの調子では、店としても面倒な客になってしまう。飲み食いも十分した。ちょうどいい頃合いだった。
 「まだのむ〜」
 キュウコンの主張は当然聞き入れられない。
 「そうですね……お勘定お願いします」
 ミミロップは準備が良く、その場で伝票をブーピッグに渡した。伝票を一瞥(いちべつ)したブーピッグの瞳孔がきゅっと小さくなった。
 「……今って私たちいくらツケてましたっけ」
 「一万三千ととんで二十ポケ」
 「増えてませんか?」
 「ワルビアル」
 ブーピッグは口をつぐんだ。
 「ツケといてやるよ」
 ミミロップは困り果てているブーピッグに助け船を出した。
 「それよりそのキツネ帰しな」
 「キツネじゃない〜キュウコンです〜」
 ミミロップは露骨に舌打ちした。
 「五日以内に払えよ」
 「すみません」
 ブーピッグは席を立ってキュウコンに寄った。酒にやられたキツネは下顎が上になるように首をひねった。空虚に開かれた口からだらんと舌が垂れ下がり、紅の眼球が虚空を見つめていた。野狐の剥製のようだった。
 「歩けますか」
 ブーピッグがキュウコンの首に腕を回して持ち上げようとする。
 「やだ〜」
 キュウコンが振り払おうとして、打ち上げられた魚のようにもがいた。ブーピッグはサイコウェーブを使ってそれを保定する力を強くした。キュウコンは弱い力で首を絞められるので、下手な喇叭(らっぱ)のようにしわがれた声を出した。
 「一生乳繰(ちちく)り合ってな」
 ミミロップが吐き捨てるように言って調理場に戻った。ブーピッグは腕の中で寝息を立て始めたキュウコンを一人でなんとかしなくてはならなくなった。



 キュウコンが醜態を晒している頃、一方のウインディは窮していた。
 エンテイ(張形(ディルド))はウインディの中で落ち着いたようだった。ウインディは前脚を縛られた上に木の棒(張形(ディルド)でない)を咥えさせられて、それを固定されて、言葉を奪われていた。革でできた目隠しを装着させられていたために視界まで奪われていた。今彼が自由にできるのは、聴覚と触覚と嗅覚ぐらいのものだった。
 「うっ……ふっ、ぐぅっ……!」
 ウインディが射精した。これで三度目の射精だった。コジョンドの手でさすられるだけでみっともなく体液をばらまく体にさせられていた。エンテイ(伝説のポケモン)の伝説じみた伝説はウインディ(でんせつポケモン)の伝説を伝説的なほど伝説にしていた。
 「どれだけお強い殿方でも、こうなってしまえばコラッタも同然ですね」
 何気なく全てのコラッタを侮辱しながらコジョンドは嘲り笑っていた。ウインディは手も口も目もまともに動かせないなか、意に反する射精の苦しみで後脚を痙攣させていた。開け放たれた口腔の奥から垂れ流されている苦吟(くぎん)の声を静める手段は、彼にはなかった。コジョンドだけが彼の快不快苦楽その他を左右することができた。
 「三回目なのにこんなに出せるなら空っぽには程遠いですよ」
 コジョンドはウインディの震える陰茎の先を、彼の出したものを塗り込むように撫でていた。それでも手にまとわりつくそれを、うまそうに舐め取った。
 「後一発ぐらい、頑張ってみましょうか」
 「ぐーっ! うーっ!」
 ウインディがその大きいだけの体をばたばたさせて何かを訴える。前脚を縛る蔓は頑丈だった。コジョンドは駄々をこねる子供のような彼に、悪魔の微笑を向けた。
 「何を言っているかわかりません」
 ウインディは今や彼女の玩具に過ぎなかった。



 キュウコンは体高に比べると軽いポケモンだ。ブーピッグは体高に比べると重いポケモンだ。これが幸いしてか、キュウコンが酔い潰れて眠りこけてしまっても、ブーピッグはなんとか彼女を担いで運ぶ事ができた。
 ブーピッグは街を流れる川の上流まで彼女を運んだ。最初のうちこそ街中の川辺で彼女を休ませていたが、それを見かけた通行人の視線に耐えかねたのだ。眠りこけるキュウコンと、その傍にいるだけのブーピッグのペアだ。不審に思われても仕方のないことだった。
 少しずつ上流へ場所を移して行くと人の目は減り、街を構成する建築物もまばらになった。最終的には人の気配もなく人の手の入っていない河原に腰を下ろすことにしたのだった。ちょうどそこは下草が繁茂していて、昼寝するにはちょうどよかった。春の折というのも、睡魔に親しい陽気だった。
 「……ふあ」
 キュウコンは酒に弱いが代謝するのは早かった。正午ごろ酒場を出て、まだ日の高いうちに目が覚めた。ギリギリと締め付けるような頭痛に顔をしかめつつ首をもたげて、どこか知らぬ川のほとりにいることを知る。彼女の記憶は、マトマの丸焼きを一口でいったあと、「ディープスロート」のショットを咥えて上を向き一気に飲みほしたあたりでぷっつりと途絶えていた。
 酩酊すると記憶を失うことがあるということを彼女は知らなかった。キュウコンは状況が飲み込めないながらも、背中に触れる何かに気がついた。見てみると、ブーピッグがキュウコンを背もたれにして眠りこけていた。その膝下には何かの本が置かれていた。「探検記録」と読める。キュウコンが眠っている間、ブーピッグは暇つぶしに手記を読み返したものの、眠気に負けて寝入ったようだ。
 キュウコンがそっと立ち上がると、背もたれを失ったブーピッグが倒れる。重力の方向が大幅に変わったためか、大の字になったブーピッグがぱちりと目を開いた。キュウコンは彼を覗き込んだ。
 「おはよう」
 ブーピッグが寝ぼけた様子で返した。
 「寝てたんですね、ぼく」
 「私も寝てたわ」
 キュウコンが鼻先をブーピッグの鼻に触れさせる。ブーピッグはほとんど口づけのようなその行為に慣れていなかった。ひらひらする大きな耳をぎゅっと引き絞り、目を丸くしている。キュウコンははにかみながら()いた。
 「嫌だった?」
 「そうではないですけど」
 ブーピッグは上体を起こした。気恥ずかしさからか、キュウコンと目を合わせようとしなかった。
 「そんなことしてもらうことなんて、そうあることじゃなくて」
 「ないことはないのね?」
 「……いいえ」
 からかったキュウコンは短く笑って、何があったかを改めた。
 「私、どうしてこんなところにいるの? 途中ぐらいから全然覚えてない」
 「ああ……覚えてないんですね」
 あれだけ酔っ払えば仕方ないか、とブーピッグはひとりごちた。彼はこう言った。
 「……あなたが川辺で寝たいって言うので、ここまで来たんですよ」
 嘘だ。「酔っ払いの見苦しさのあまり追い出された上に運搬してきた」と言わないための嘘だった。キュウコンはあまり自分らしくないその言葉に首を傾げた。
 「そんなこと言ったのね」
 「この後、どこ行きましょうか」
 ブーピッグが言った。まだ日没までは時間がある。かりそめとは言え恋人として過ごしているのだ。最後に特別な何かをして綺麗に一日を終えるがよいと、ブーピッグはそう考えているようだ。
 「特には」
 キュウコンは特段したいことがなかった。ブーピッグの顔がわずかにかげる。
 「そうですか……なら、どうしましょうか」
 「もう少しここでお話に付き合ってくれたら嬉しい」
 キュウコンはそう言って、ブーピッグと背中合わせになるように伏せた。ちょうど二人が目覚める前の体勢に戻った格好になる。さっきまで同じ体勢で寝ていたはずなのに、どこかブーピッグはそわそわしていた。
 「やっぱり、まだ気がかりなことがあるんですか?」
 「一つだけね」
 キュウコンは何でもないかのように言葉を続けた。
 「私たちって今発情期じゃない?」
 ブーピッグが大袈裟に咳き込んだ。
 「そう、ですね」
 彼は自分の胸をさすりながら返した。
 「私のこの気持ちが、それのせいかもって、ちょっと心配なの」
 発情期。言葉にすると生々しい響きがあるが、つまるところ雄と雌が頃合いの時期にねんごろとなるために組み込まれた機構である。愛だの恋だのと呼ばれるものとその本質は変わらない。それらの気持ちに変化をもたらすのが、発情期であるというのに過ぎない。
 お前はコントロールを失っている――父に言われた言葉が、キュウコンを自己不信に陥らせていた。「発情期のせいで近くにいる、信用できる雄に情を見出してしまった」というのは、ありえないことではなかった。
 「夏になればはっきりしますけど待てないですよね」
 ブーピッグは努めて「発情期」という単語を避けた。例えばこれがワルビアルであれば、「一発俺とヤって発散すれば分かるだろ」というようなデリカシーの欠片もないことを言うだろう。そしてキュウコンに焼かれるであろう。
 「この時期ですから、ただでさえ素敵なお父さんが、もっと素敵に見えてしまうということもあるとは思います」
 一方のブーピッグはあくまで彼女の懊悩に寄り添って、デリケートに道を示すのだった。
 「それで、めでたく結ばれる。それで、いいんじゃないですか」
 「え?」
 ブーピッグの話の展開は、キュウコンの予想していたものと異なった。
 「春が終わってもその関係が続けば、それでいいんじゃないですか」
 ブーピッグはキュウコンの追及が来る前に言った。
 「夏になっても秋になっても、冬になってまた次の春が巡ってきても、ずーっと結ばれたままでいられるなら、それでいいんです」
 ブーピッグは言い切った。例え切っ掛けが発情期だったとしても、それが永く続く関係になるのならば、発情期は些細な問題じゃないか。それがブーピッグの主張だった。
 「キュウコンさん」
 ブーピッグが(たず)ねる。
 「この前の冬や、秋や、夏のあなたは、お父さんのことが好きでしたか」
 キュウコンは、こくりと頷いた。声に出して言わないのは、決して、自信のないことの表れではない。
 「だったら、いいんですよ」
 ブーピッグはしつこくキュウコンの気持ちが正しいと唱えていた。
 「夏になっても、あなたはお父さんを慕い続けるでしょう。何かまずいことがありますか?」
 キュウコンは、あまりにも単純明快な理屈で全面的に認められたので、その問いにすぐ回答するのに慎重になった。過去に思いを馳せる。赤の他人にすぎない父と過ごした数々の日々を思い出した。その中に、自分の今の気持ちが単に畜生の欲求であることを示すようなものがないか、何度も確認した。
 「ない」
 しかし、どれだけ考えても彼女は否定で答えることしかできなかった。
 「じゃあ、簡単な話ですよ」
 ブーピッグはつい数時間前のセリフを繰り返した。
 「春が訪れてお父さんへの気持ちが『閾値(いきち)』を超えただけの話ですよ」
 「『生き血(いきち)』を超える……?」
 キュウコンの語彙とブーピッグの語彙は重なる部分が少なかった。
 「ええ。それまでも好いていたのが、いよいよ抑えられなくなったってことです」
 キュウコンが何か怪訝そうな顔をしていたので、ブーピッグはそう付け加えた。結局キュウコンは「いきち」が何を意味するのかは分からずじまいだったが、慣用句か何かと解釈したようだった。
 「それに、例えばワルビアルとかには、全然惹かれてないじゃないですか」
 「あいつはないわね」
 キュウコンは切って捨てた。キュウコンでなくてもまともな女性であればワルビアルのようなオスを好くことはないだろう。少なくともあの態度を見せ続けるうちは。
 「ワルビアルはともかく、リングマもいまひとつだったんですよね」
 「そうといえばそうって感じ」
 リングマは性状穏やかにして剛健な男だ。彼ならワルビアルよりもメスに言い寄られることもあろう。しかしキュウコンにはあまり響いていなかった。
 「じゃあ、キュウコンさんの気持ちは、お父さんにだけ向けられてる特別なものなんですよ」
 だから大丈夫ですよ、とブーピッグが付け加えた。キュウコンは黙り込んだ。ブーピッグが彼なりの理論でキュウコンを諭したところで、それを自分の中に落とし込むかは彼女自身に委ねられている。
 無我夢中の内にほとんど痴女に成り果てた昨晩の一幕。ブーピッグの整然としたシンプルな論理。両方を見つめてみると、そのどちらが正しくて、どちらが正しくないのか、わからなくなってくる。
 「ちょっと自信ないかも」
 それが彼女の結論だった。説得に失敗したブーピッグは次の手を打つべく彼女の考えを聞き出した。
 「実はお父さんのことをあんまり好きじゃないかも、ってことですか」
 「それは違う」
 彼女は断言した。
 「じゃあ、何か、他に心配なことが」
 「その、『生き血を超える』って言ってたやつなんだけどね」
 彼女はいいながら、背後にいるブーピッグの方に向けて、覗き込むように顔を向けた。
 「もうひとり超えてる人がいるみたい」
 覗き込まれたブーピッグは、その「もうひとり」が誰なのかわからないようで、キュウコンの次の言葉を待った。待って、彼女が真っ直ぐ自分に見据えたまま動かないのを見て、気まずそうに目を()らして、何かに気がついたように口を手で抑えて、信じられないという様子で口をわななかせた。
 「ぼぼ、ぼくで、自分、わた、わたしですか」
 ブーピッグの一人称が迷子になっていた。ブーピッグは彼女の目どころか金に輝く体毛を見ることすら恥ずかしく思われるようで、何もない場所から意地でも目を離そうとしなかった。
 「消去法なんて言ったけど」
 広場への道すがら、「何故自分なのか」と問われた時に出された答えのことをキュウコンは引き合いに出した。
 「きっとあの時も消去法じゃなかった気がする」
 「本当に……?」
 ブーピッグはまだ自分の置かれている状況を受け入れられていないようだった。自分がキュウコンのような女性に言い寄られることが現実に起こるとは思っていないようだった。彼は女性との関わりを強いて持とうとする人物ではなかった。彼が遊郭を拒んだのは、気心の知れぬ女性と欲だけの関係を持つことを良しとしないためだった。その上、万が一にも睦ぶような女性が現れることなど、一生ないことだと思っていた。
 「とっても、とっても傲慢なのを承知の上で言いますけど」
 ブーピッグは最大限の留保付きで発言した。
 「あなたが一番好きなのは僕ではなくお父さんのはずです」
 「いいオスを見つけろって言われたの」
 「は、」
 この文脈では「いいオス」がブーピッグであるという解釈しかできないだろう。ブーピッグは何か言い返そうとしていたようだが、声が出ていなかった。
 「だから、今日だけは誰か他の人と過ごさなくちゃいけないの」
 キュウコンはそう言って、ブーピッグにかける体重を増やした。硬直していたブーピッグはそれでたやすく倒されて、二人は少しだけ体を重ねたまま草のベッドに横たわった。
 「まだちょっと眠いことない?」
 ブーピッグは亢進する交感神経をなんとか鎮静化させようと無理に深呼吸をしていた。とても眠れるようには見えなかった。
 「そんな気が、してきました」
 にも関わらず、ブーピッグはキュウコンに話をあわせた。キュウコンはブーピッグのプヨプヨした腹を枕代わりにして、そっと瞳を閉じた。
 ブーピッグは高まる心音を聞き取られまいと尽力しようとしたが、すぐに諦めたようだった。彼は、生まれたての嬰児(えいじ)を触れるかのように怖々と手を伸ばし、キュウコンの頬に手を置いた。キュウコンの耳が満足げにびりりと動いた。
 「……そういえば」
 ブーピッグがキュウコンを撫でながら言った。
 「キュウコンさんの本当のお父さんって、どうなってるんでしょう」
 キュウコンは目を開いた。全く考えの埒外(らちがい)であったという様子だ。
 「そういえばそうだわ」
 彼女がそうまで言えるのは、育ての親であるウインディに全幅の信頼を寄せていたからだった。彼女にとって、ウインディは本物の父親と同じかそれ以上の存在で、それだからこそ今の彼女の悩みが存在しているのだ。
 「うーん……」
 キュウコンは喉を鳴らして、寝返りを打った。
 「母さんはともかく、父親はそんなに興味ないかも」
 キュウコンは父という存在の恩恵を十分受けていた。彼女にとって、最早真の父は彼女の心のどこかを埋めるようなパーツにはならなかった。
 「そうですか」
 ブーピッグはその返事を聞いて、鼻を鳴らした。彼はキュウコンと一緒にこの暖かい気候の中で眠ろうと、まぶたを閉じた。
 ブーピッグの耳と、萌黄に広がる緑草の景色とが、そよ風に揺られていた。



 ウインディは大観の中に佇立(ちょりつ)していた。
 春の暖かく乾いた風が優雅に大気を泳いでいた。街外れの草原に敷き詰められた下草は海底で揺らぐ海藻のように気ままにうねっていた。曇り一つない空から差し込んでくる日光が降り注ぎ草原に住む生きとし生けるものに陽光のうららかさを教えていた。厳しく侘しい冬を乗り越えた先にある、解放の季節だ。穏やかさの中にも落ち着かない感じがある。生命が躍動し、過去が脱皮して未来へ変わる時節だ。
 ウインディはその風を受けて獣毛をなびかせていた。澄んだ青空の先にある何かを見つめて空間に溶け込んでいた。
 ウインディ。一日の間に山々を超えながら三千里を往くとされるポケモンである。勇壮に疾駆し壮美な鬣をなびかせる姿から、いつからかこう呼ぶべきとされるようになった。
 伝承に残すべき美しさをもつポケモン――「でんせつポケモン」であると。
 彼は今日、真の「伝説」を知った。真に伝説と呼ばれるポケモンは別格だった。伝説は伝説と言われるに相応しい尊大さをもってウインディに狂宴をもたらした。真の伝説を前にしたウインディは赤子同然だった。抗う気力すらもがれるほどの偉大さと、伝説の享楽と喜悦の極致を、嫌と言うほど、その身に刻まれた。
 ――お代は結構です。楽しませていただきました。
 全てが終わった後、コジョンドはそう告げた。ウインディはその声を思い出して、じわりと脂汗を噴出させた。
 ――夜、またお迎えにあがります。それまで休息なさってください。
 ウインディは、寒さとは無縁の春の陽気の中で、冷水をかけられたようにぶるぶる震え始めた。彼は六発放出していた。肛門から睾丸から鈴口へ至るまでの性に関わりうるあらゆる場所が、過労と酷使で痛みを発していた。
 コジョンドの拷問から生き延びてもうしばらく立つにも関わらず、彼女に対する恐れと畏れがウインディの下半身を支配していた。凄惨な痛苦に見舞われたウインディだったが、彼の心は強靭だった。しかしその不屈の精神をもってしても、雄としての自我は、首の皮一枚で辛うじて保たれている有様であった。ウインディほどの偉丈夫でさえ、メスなってしまうには、後一押しあれば十分だった。
 日が暮れるまでに、逃げなくては。
 彼は、慄然としてすくんでいる自身の心をなだめつつ、キュウコンが戻ったらすぐ拠点のねぐらへ帰れるよう、天幕を片すことにしたのだった。


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Last-modified: 2019-07-10 (水) 23:34:41
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