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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです(3)

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【目次】
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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです 

(3)固辞 

 
 キュウコンは入り組んだ遊郭の構造に迷っていた。それぞれの建屋は整理されて立っているわけではなく、ただただ雑然と場当たり的に建てられただけだった。発情期か否かによって、遊郭を訪ねるポケモンの数は大きく変わる。弾力的な需要の波を吸収しようとすると、労力をかけずに簡易な作りにして撤去や新設を容易にするのは妥当な戦略だった。
 ワルビアルたちを尾行していた時には気が付かなかったが、周囲からは時折喘ぎやくぐもった咆哮が聞こえた。キュウコンとて無知ではない。ワルビアルの態度と周囲の状況から、ここがどのような場所なのかは検討がついた。壁の向こうで繰り広げられる男女のやりとりについては、友人の初体験を聞かされたことがある。その時には友人が開けっぴろげに語るものだから、それほど特別なものでもないのかと思ったものだった。
 無闇に逃げても仕方がないかもしれない。キュウコンはふと脚を止めて周囲の音や臭いに感じ取ろうとしてみた。脚を止めて集中してみると、それぞれの場所で何が行われるかを仔細に伺うことができた。毛皮のすれる音。何か湿ったものの音。鋭く哭く声。甘く囁く(つや)のある声。
 ――金もらってイキ狂えるんだ。悪い話じゃないだろ。
 キュウコンは身震いした。ワルビアルのその時の表情を思い出すだけで悪寒を覚える。しかしキュウコンは、それがただ嫌悪だけによる悪寒ではないことを薄々感じ取っていた。キュウコンは、自身の陰部が紅潮して呼吸の頻度も増えていることに気がついていなかった。
 「なに、この気持ち……」
 キュウコンは前触れなくニオイを嗅ぎたい気持ちになって、鼻を動かした。淫靡(いんび)な香りはどこか切ない気持ちを起こさせる。息を吐いて、もう一度よく嗅いでみると、よく知るニオイが混じっているのに気がついた。
 「父さん?」
 「見つけた!」
 キュウコンは振り返った。そこには肩で息をしているワルビアルがいた。呼吸がどうしても落ち着かないらしくゼイゼイと荒く息をしているのが分かった。脚の疲労も溜まっているようで、立ち姿はつらそうだった。
 キュウコンは捕まることを危惧するよりも、彼の体力がないことに対する心配の方が先にたった。
 「か……覚悟しろ!」
 と、息も絶え絶えに言われて、ようやくキュウコンは逃げる気が起こった。父のニオイがしてきたのは、都合のよいことにワルビアルの来た方とは反対だ。キュウコンは後ろの様子を伺いながらまた走り始めた。すぐそこは曲がり角だった。左へ旋回する。
 「あっ」
 父がいたのはちょうど曲がり角の先だった。大きな体は路地の間で狭苦しそうに見えた。ウインディは何かを――つまりキュウコンを――探すために地面に鼻をこすりつけんばかりに臭いを探っていた。
 「父さんごめん!」
 キュウコンは父に駆け寄った。気づいたウインディはキュウコンに目を向ける。
 「キュウコン!」
 彼は説教を垂れようとして口を開いた。
 「どこに――」
 しかしそれ以上言葉が続くことはなかった。キュウコンが飛びつくようにその口を、自らの口で塞いだのだ。
 ウインディは突然の接吻に完全に不意を取られた。氷漬けになったかのように動かなくなった。ウインディが何もできないでいるうちに、キュウコンは舌まで滑り込ませていた。父の厚ぼったい舌を引きづりこもうとして、舌を巻き付かせた。娘の奇行にウインディは後ずさった。
 「やめ――」
 「いいから!」
 小さく囁いてウインディを制するとキュウコンは再び強引に口づけをした。ただ唇と唇とを重ねるそれではなく、唾液を求めて何度も吸い付くような濃厚なキスだった。ウインディは娘の狙いがわからないが、その行為を拒否しようとはしなかった。それどころか、娘のそれに応えるかのように彼女を抱き寄せ、舌を娘の中に入れたのだった。二人の唾液が絡まり合い、口の中で捏ねられ、粘液はその粘性を更に増した。
 その光景は、娼婦とその客――あるいは夫婦の営みのように見えたことだろう。
 「うおッ!?」
 追いついたワルビアルが驚くのが聞こえた。ウインディは彼を見て怪訝そうな顔を浮かべた。キュウコンは振り返って、ワルビアルに挑戦的な視線を向けた。
 「見たでしょ? 彼が『お客さん』よ」
 ウインディは当然何のことだかわからない。
 「キュウコン……?」
 キュウコンは自身の前脚をウインディの前脚に重ね、体をこすりつけた。ウインディは沈黙した。
 「はン?」
 ワルビアルは腕を組んだ。これで肩がしんどそうに上下していなければ、ウインディをナメているのだというのが二人にも伝わっただろう。実際には小休止のために姿勢を崩しているようにしか見えなかった。
 「コイツが例のションベン垂れかよ」
 「ションベン垂れ?」
 ウインディの戦闘モードのスイッチが入るのが、キュウコンには分かった。
 「キュウコンに何をした? 答えによっては痛い目を見てもらうぞ」
 「その尻軽女を買ってやろうとしたのさ」
 「尻軽女」
 ウインディはキュウコンを傍に押しのけて、彼女を背に、ズイと一歩前に歩み出た。余裕綽々(しゃくしゃく)だったワルビアルも、その威風に気圧される所であったが、あくまで腕を組んだ姿勢は崩さなかった。
 ウインディはワルビアルの眼前まで進みでて、彼を見下ろした。一触即発の空気が周囲に流れる。
 「文句あるかよ。こんなところにいる女、売女(ばいた)でなければなんだって言うんだよ」
 「アレは俺の娘だ」
 「はァ?」
 「ちょっと何言ってるの!」
 あっさり嘘をばらされたキュウコンが文句を言ったが、ウインディは構わなかった。
 「どんな教育してんだよ。てメーはビッチにするためにガキ作ったのか?」
 言葉こそ悪いが、ワルビアルの言うことは(もっと)もである。ウインディは筋の通らないことが嫌いな男だった。この正論を受けて、ウインディは一旦怒りの矛に収めた。
 「……言葉もない」
 「父さん!?」
 「お前は反省しなさい! 勝手に抜け出して!」
 ウインディはキュウコンを叱りつけるため、ワルビアルに背を向けた。ワルビアルには、それが決定的な隙に見えたらしい。
 ワルビアルはすかさず大口を開いて、自身の牙を鋭利に光らせてウインディを食いちぎろうとした。ウインディには振り返る時間もなかった。直撃は免れないように思われた。
 しかし、彼は虚空に食らいついた。バグン、と顎が閉じられると同時に、ウインディの後ろ足がワルビアルの脳天を蹴り抜いた。クリーンヒットだった。ワルビアルの平衡器官が強い衝撃を受けて機能不全に陥る。ワルビアルは立ち方を忘れたかのようにバランスを失って無様に倒れ込んだ。
 「あ、あが、あ……」
 ワルビアルは辛うじてウインディの方を見ていたがその目は虚ろだった。他愛もない、とばかりにウインディは鼻を鳴らした。
 「まだやるか?」
 勝負は一発で完全についていた。ワルビアルはなんとか立ち上がろうとしたものの、一時的にも脚で立つことはできなかった。
 ワルビアルのものではない、間の抜けた声がした。
 「うわぁ」
 リングマが小走りで姿を現したのだった。ウインディは再び気を引き締めた。
 彼はウインディやキュウコンには目もくれず、だらんとぶら下がって揺れるブーピッグを担ぎながらワルビアルの(かたわ)らで膝をついた。
 「だいじょうぶかい?」
 リングマの声を聞いたワルビアルは、七転八倒の様子だったのが嘘であったかのように、立ち上がることに成功した。ウインディが驚いて身構える。だが、ワルビアルは一秒も保っていられず、すぐにまた倒れ込んでしまった。
 「ま、まま、まだ、やややれ、れれれれれ」
 「ああ」
 リングマはかぶりを振った。
 「こりゃーだめだね」
 「まだ、ままだだ、」
 「むりしなくていいよ」
 リングマがそっとワルビアルを撫でた。まるでぐずる子をあやす母親のような手付きだった。ワルビアルは、それ以上足掻かなくなった。ワルビアルは力尽きて、地面に横たわった。
 リングマは力の抜けたワルビアルを軽々と持ち上げて担ぎ上げた。ワルビアルの体重はポケモンの中でもトップクラスの重量になる。リングマも怪力で知られるポケモンではあるが、それでもワルビアルを担ぐのは苦労するはずだった。これにブーピッグも担いでいるのだ。ウインディは悠々と動くリングマに対して臨戦態勢を解けなかった。
 「これさ」
 リングマはウインディに目を向けずに言ったが、ウインディはそれが自分に向けた言葉であることがわかった。
 「お前がやったのか?」
 リングマが、それまでの柔和な彼とは思えない、棘のような視線をウインディに向けた。ウインディは姿勢を低くした。リングマは一切戦闘に備えた構えをしていなかったが、ウインディはその胴体に一発攻撃を入れることも難しいことのように思われた。 
 しかし、リングマは張り詰めた空気を溶かすかのような笑顔を見せ、ウインディを称えるのだった。
 「きみ、つよいね」
 彼は、二体のポケモンを背負っているとは思えないほど軽々とした歩様でウインディに近づいた。殺気こそ感じられなかったが、ウインディは身構えていた。
 「ぼくたちはしばらくここにいるつもりだから、きみたちさえ良ければ一緒に探検しよう」
 リングマはそれだけ言い残して、ウインディに背を向けてその場を去った。のそ、のそ、とユーモラスに感じられる歩き方だった。
 ウインディとキュウコンはリングマの姿が消えるまで、身じろぎもできなかった。
 「なんなの、あの人……」
 先に口を開いたのはキュウコンの方だった。その声を聞いてようやくウインディは警戒を解いたのだった。
 「アイツに戦いを挑まれたら、わからなかったな――そんなことよりだ」
 ウインディは(たず)ねた。
 「何で持ち場を離れた?」
 ウインディは怒鳴ることもなく淡々と(たず)ねた。ここまで騒ぎを大きくしたキュウコンが、この()に及んで正直に言わぬわけにはいかなかった。
 「……私父さんを疑っちゃった」
 「疑った?」
 「ここが……奴隷を売り買いするような場所だと思って、でもそんなこと信じたくなかったの」
 「何でそんな勘違いを」
 「さっきのリングマとワルビアルがブーピッグをむりやり連れ込んでたの」
 「あの、肩にぶら下がってた」
 「そう」
 「……ブーピッグがメスならともかく、あいつオスだったろ」
 なんの問題もないのでは、と言う父に、キュウコンは弁解した。
 「でも、様子が変だったし、それに父さんが何かを『買う』とか――」
 キュウコンはそこまで言いかけて、ようやく父が買おうとしたものに気がついて言葉を切った。ウインディが気まずそうに瞼を細めた。
 「聞いてたのか」
 「何かを買うってところだけ」
 「それで、『奴隷を買う』って意味だと思ったと」
 合点が言ったというような調子のウインディに対して、キュウコンは怒って前足で地面を叩いた。
 「何で父さんが買ったりなんかするの!」
 責められたウインディはキュウコンから目を()らした。キュウコンがエロいだの、俺は最低だのの相談を、リザードンに持ちかけていたことを暴露できるはずもなかった。
 「私がいるのよ」
 忘れたのかと言うようにキュウコンは父をなじった。娘がいるにも関わらずふしだらな行為をしてくれるな――ウインディは彼女の言葉をそう解釈していた。
 「お、お前の言うとおりだよ。すまん」
 ウインディはうなだれた。自分の娘に劣情を催した上に、それを(しず)めようとして女を漁ろうとしたことを、当の娘本人に問い質される居心地の悪さは如何ほどのものだろうか。返す言葉がないのも無理からぬことだった。
 「顔をあげてよ」
 キュウコンの指示に、ウインディは従った。
 キュウコンは潤んだ瞳で父を見つめていた。どこか悲しそうな、しかししっかりした意思のある瞳だった。不徳な行為に立腹しているような表情には見えなかった。
 「私ね」
 キュウコンは静かに語り始めた。
 「ワルビアルに買われそうになったの」
 ウインディの瞳に燃え盛る物がよぎった。
 「だから、他にお客さんがいることにしてやり過ごそうとしたの」
 「……それであんなことを」
 ウインディはそうとしか返せなかった。今更あの猿芝居の真意を伝えようとする理由が、ウインディにはわからない。
 キュウコンはウインディのマズルに、自身のマズルを触れさせた。愛おしむように、ゆっくりマズルをこすった。
 「キュウコン――」
 ウインディは口を開いた。その開かれた口はまたしてもキュウコンによって塞がれてしまった。不意を突かれて逃れようとするウインディの口に執拗に口を重ね続ける。ウインディが上へ上へと逃げようとしたがために、下を向いたウインディをキュウコンが鼻先で突き上げるような形になった。ウインディが空を仰げば、彼女の攻めから逃れることはできようが、ウインディはそうせず、キュウコンの求愛を甘んじて受け止めた。
 ほんの数瞬の出来事だが、時が止まったかのように長い時間に思われた。キュウコンは、そっと唇の重なりをほどいて、囁いた。
 「まだお客さんのフリしてて欲しいな」
 「お前……」
 ウインディの父親としての品格は崩されつつあった。
 「娘を襲う父親があってたまるか」
 「それは襲いたくないって意味なの?」
 キュウコンは答えの明らかな質問を投げかけた。ウインディの(たてがみ)が総毛立った。理性と背徳と矜持と羞恥を全て一度に処理する思考力は、彼には備わっていなかった。結果最後まで残ったのは、最も原始的な本能によって呼び起こされる感情だった。
 「お前ってやつは……」
 悔しそうに呟くと、ウインディはキュウコンを押さえつけた。ウインディとキュウコンの体重は何倍もの差があった。キュウコンは成すすべもなく地面に押し倒された。
 「父さん――」
 上から押さえ込まれたキュウコンは不安そうに言ったが、ウインディにそれを聞き入れる余裕はなかった。彼は捕食行動のような接吻を仕掛けた。顎骨と顎骨が、がっぷり噛み合わさって、牙すらも絡まりあった。ウインディの舌はキュウコンの喉の奥、軟口蓋にまで達するほどキュウコンを求め、彼女の粘膜を舐め尽くそうとしていた。キュウコンはあまりに情熱的な愛撫にたじろいだが、父の体は重く彼女にのしかかっていた。
 息継ぎのために少しばかり二人は離れた。
 「あ――」
 (あわ)れな声だった。ウインディはキュウコンの言葉ごと呑み込むように、彼女に食らいついてキスをする。極度の興奮状態で唾液はとめどなく分泌され、キュウコンの肌を汚していた。キュウコンは父に口腔を蹂躙されるのに対して、せめてもの抵抗とばかりに舌を絡め返していた。二人は普段の関係の全てを忘れて、ただただ雌雄としての関係に落ちぶれていた。ウインディの陰茎は、先がキュウコンに触れるほど固く熱く膨張していた。
 「ウインディ!」
 二人は突如として水を差された。リザードンの声だった。二人は四肢をばたつかせてすぐさま正立の姿勢に戻った。一秒にも満たない瞬時の出来事だ。二人とも息を荒げていた。無論それは、寝転がった状態から素早く姿勢を正したからではない。
 その様子を見ていたリザードンは、引きつった顔でこわごわとウインディに言った。
 「お、落ち着けよ……な……?」
 キュウコンから誘ったことを知らないリザードンから見れば、その光景はまったくもって強姦のそれだった。まして彼は、ウインディがキュウコンのせいで性欲を持て余していることを知っていた。
 遊郭の非日常感に我を失ったウインディが、力で勝るのを良いことに娘を手篭めにしていたと推測するのは至極当然のことだった。
 「猛省する」
 ウインディはそれを態度で示すつもりなのか、キュウコンから離れるように移動した。キュウコンが父に悲壮な目を向け、次いでリザードンに般若のような表情を向けた。ウインディの動向ばかりが気になるリザードンはキュウコンの感情の動きに気が付かなかった。
 「最低だ。俺は。俺は最低だ」
 ウインディは頭を垂れて呪詛を唱え始めた。彼の股間では、まだ下賤な槍が情のやりどころを失って揺れていた。ウインディはそれによって一層自分自身に嫌気が差しているようだった。
 リザードンは彼がどこまで「過った」のか知るため、そして彼を励ますために聞いた。
 「あ、アレだ。キスまでだろ? じゃあセーフセーフ! 突っ込んでなきゃ親子の微笑ましいコミュニケーションだって……」
 リザードンはそこまで言ってキュウコンが激烈な視線をこちらに向けていることに気がついた。わなわなと脚を震わせて、涙を一杯に溜めている。リザードンはそれを見て、最悪の事態を想像したようだった。
 「挿れたのか……お前……」
 ウインディは濡れ衣を着せられても何も返さなかった。
 「嘘だろ……」
 リザードンは腰を抜かして座り込んでしまった。リザードンも、キュウコンとは卵だった時期からの付き合いだ。リザードンにとってもキュウコンは娘に近い存在だった。それが、ウインディという信頼のおける人物に陵辱されるというのは、彼にとっても信じたくないことだった。
 「リザードンさん」
 キュウコンが呼んだ。リザードンは憐憫の視線を彼女に向けた。処女を父に奪われた乙女の気持ちなど知る由もないが、それを(おもんぱか)るだけの心はあった。
 「……ロコン、つらかったな」
 それに呼応するかのようにキュウコンがリザードンに寄ってきた。彼はキュウコンに腕を差し出す。抱き締めてやることぐらいしかリザードンにはできなかった。
 彼がキュウコンの様子がおかしいことに気がついたのは、リザードンの目前で爪を光らせた時だった。
 「サイッテー!」
 キュウコンの爪が空を切った。この時リザードンが頬に付けられた三筋の傷は、いつまでも瘢痕(はんこん)が残り続けるのだった。



 二人の睦事(むつごと)を邪魔したリザードンは、しかしそうしたことを理解しないままキュウコンに平謝りした。それを受けてもキュウコンはリザードンを冷たく見下すばかりであった。ウインディはその二人を仲裁もせずに最低だ最低だと呟くだけだった。誰も幸せにならない異様な光景だった。
 何をきっかけにして三匹が別れたのか、当事者たちですらよくわかっていなかった。とにかくリザードンとキュウコンとウインディはそれぞれの寝床に戻ったのだった。
 ウインディとキュウコンがいつも使っている天幕は、リザードンの荷物がなくなっていつもの広さを取り戻していた。
 カンテラの火が二人の毛皮を照らしている。いつもなら、その火を中心にして、救助の反省会をしたり、耳にした噂話をしたり、会話に花を咲かせるものだった。今日は、そうならなかった。夜もすっかり更け、いつもなら就寝している時間になっていた。
 「キュウコン」
 ウインディはキュウコンに話しかけた。今の今まで二人は口をきかなかった。ウインディの方が先に沈黙に耐えられなくなったのだった。キュウコンは体を丸くして天幕の隅で寝転がっていた。ウインディの呼びかけに何も反応を返さなかった。
 「明日は朝から酒を飲もうな」
 ウインディは帰路の途上でのロコンとの会話を思い返していた。どちらにしても彼は明日、キュウコンに酒を飲ませてみるつもりだった。街に良い酒場があることを彼は知っていた。
 「ハブネークはどうするの」
 キュウコンが(たず)ねる。二人が捕まえるはずだったハブネークは、まだ野放しになっている。酒を飲んでる暇があったら引き続き消息を追うべきではないだろうか。
 「アレは放っておいても大した問題にはならないさ」
 ウインディは本心を欺いた。一日も早く捕らえるのが良いに決まっている。ウインディは実直な男だ。それでもこんな怠慢を口にするのは、キュウコンとの関係を修復するのをどうしても優先したかったからだろう。
 「そうね」
 キュウコンは素っ気なかった。ヘソを曲げた娘の扱いについては、ウインディはまだコツをつかめていなかった。潮時だろうか。ウインディはカンテラの火を指先で握り潰した。深海のような静寂と暗黒が天幕に訪れる。ウインディは、キュウコンの息遣いがする方向に向けて言った。
 「おやすみ」
 ウインディはその場で寝そべった。昨日までは、ウインディの四肢の間に守られるようにして、ロコンが眠ったものだった。ロコンがキュウコンになった今日、二人は背中合わせに眠っていた。二人が一切触れずに眠れるだけのスペースを、この天幕は備えていた。ウインディがぐーっと体を伸ばし、嘆くように息を吐いた。
 「父さん」
 暗くなったあとでキュウコンはやっと自分から父に話しかけた。ウインディの尻尾がぱたぱた振られたが、暗いためにキュウコンには見えなかった。
 「なんだ」
 キュウコンは暗がりの中、手探りでウインディに身を寄せた。
 「嫌いになった? 私のこと」
 「まさか」
 ウインディは即答した。キュウコンがウインディに体を密着させる。ウインディの尾がキュウコンの尾に紛れる。
 「びっくりはしたけどな。お前があんな風になるなんて」
 「父さんも乗り気だったじゃない」
 キュウコンの物言いは不穏だった。ウインディは体を固くした。
 「娘を襲う父親なんて、あるわけないだろ」
 ウインディのその言葉は、言い聞かせるようだった。あの時と同じ過ちを繰り返すまいとする決意のあらわれだった。
 「ねえ」
 キュウコンがウインディの体をさすった。
 「私全然眠れないの」
 ウインディは何も答えなかった。キュウコンはそれを良いことに、さする手を下へ下へと動かしている。その手が脇腹にさしかかった時にウインディがその手を払い除けた。
 「やめなさい」
 「どうして」
 キュウコンが問い(ただ)す。暗さが故にウインディの陰棒がまた硬度を取り戻し始めていることに、彼女は気づけなかった。
 「どうしてもこうしてもない」
 自身の浅ましい欲望を嫌というほど自覚させられているウインディが、頑としてキュウコンを拒んだ。
 「俺をクズ野郎にしてくれるな」
 「クズ野郎って何よ」
 キュウコンが拳をウインディの背中に打ち付けた。
 「私はクズに育てられたっていいたいの」
 「そんなことは言ってないだろ」
 ウインディの言い方は刺々しかった。キュウコンは言葉を詰まらせた。ウインディは雰囲気が強張ったので、声をもとに戻した。
 「筋が、通らないだろう。こんなこと」
 「筋って何よ」
 キュウコンの声が揺らぎつつあった。キュウコンがウインディの体に体重を預けるようにもたれかかった。
 「ねえ、やっぱり私のことが嫌いになっちゃったの。だから何だかんだ理由をつけてるの」
 「違う」
 ウインディは即答した。
 「じゃあどうして」
 キュウコンの涙声は隠しきれないものになっていた。キュウコンはなんとか気持ちを落ち着かせようとしているのか、深く息を吸ったり、吐いたりしていた。
 「お前のことが何より大切だよ」
 ウインディは起き上がった。もたれかかっていたキュウコンも同じように起き上がらざるを得なかった。二人とも目が暗闇に慣れてきていたので、お互いの輪郭をうっすら認識することができた。
 「だから、だからこそお前の頼みは聞いてやれないんだ」
 ウインディがキュウコンを抱き寄せた。キュウコンはウインディの胸に額をうずめた。
 「ちゃんと、納得できるように話してよ」
 キュウコンがウインディの股間にまたしても手を伸ばそうとするので、ウインディはその手を抑える必要があった。
 「一人で盛り上がってバカみたいじゃない」
 ウインディは言葉を返さなかった。震えるキュウコンの体をさすった。キュウコンはそれで気が済むわけではなかった。
 「キスも、してくれないの。さっきしてくれたでしょ」
 キュウコンが「最大限の譲歩だ」と言うように言った。ウインディは少し考えて、彼も最大限の譲歩で返した。
 「……それで気が済むなら」
 それを聞いたキュウコンは、何も行動を起こさなかった。「その程度で気は済まない」ということである。交渉決裂だった。
 「キュウコン、頼むよ」
 ウインディは困り果てて言った。相変わらずキュウコンは泣きそうなほどにウインディを求める上、「キスではおさまらない」と宣言されてしまったのだ。どうしても娘を汚したくないウインディだったが、彼女の昂ぶりを(しず)める方法は失われた。
 「どうして父さんなんだ。よりにもよって」
 ウインディは(もっと)もな疑問を投げかけた。
 血もつながっていないロコンを、男手一つで育て、何度も死地に飛び込む彼女を助け、とうとうキュウコンになるまでに育て上げたのは、その扇情的な女体を貪るためではないのだ。
 キュウコンの要求を受け入れてしまうと、それが嘘になってしまうので、ウインディはどうしても彼女の願いを聞き入れることができなかった。
 「いい雄なら他にもいるだろう。同じ年頃の、俺とは違う素敵な彼氏を見つけて――」
 「そんなこと言わないでよ!」
 キュウコンがウインディに噛み付いた。痛みはほぼなかったが、ウインディは驚いて飛び上がってしまった。意表をつかれたウインディをキュウコンが押し倒した。
 仰向けになったウインディに、キュウコンが馬乗りなった。
 キュウコンは濡れ、ウインディは猛っていた。彼女がただ腰を下ろすだけで、二人は繋がるだろう。
 「キュウコン!」
 ウインディの制止にキュウコンは応じない。キュウコンはまくしたてた。
 「なんで父さんなのかなんて私だって知るわけないじゃない」
 キュウコンのしとどに濡れた秘部は、ウインディに雫を垂らすほど愛液を分泌していた。
 「でもあなたなの」
 キュウコンは自分の気持ちを赤裸々に吐露するのに躊躇しなくなっていた。
 「他の雄なんか見つけてどうしろって言うのよ!」
 キュウコンの真っ赤な瞳がウインディだけを見つめていた。
 「おい」
 ウインディは、錯乱したキュウコンに呼びかけるが、効果はなかった。
 「いい加減に――」
 「わたし我慢できない」
 キュウコンは腰を下ろした――。
 ――狙いが悪く挿入に至らなかった。
 ウインディの陰茎が、二人の間で圧迫された。ウインディが咆哮をあげた。
 「やめろ!」
 ウインディがキュウコンを突き飛ばした。キュウコンの体重は軽く、ウインディの力は強かった。キュウコンは簡単に弾き飛ばされて地面に転がった。キュウコンはそのまま動かなくなってしまった。
 ウインディは、夢中だったとは言え自分のしでかしたことに青ざめた。彼が意図してキュウコンに危害を加えたことは、今まで一度たりともなかった。
 「キュウコン」
 倒れ伏すキュウコンに触れる。
 「すまん」
 「どうしても駄目なの……」
 キュウコンがしゃくり上げた。涕涙しているのは、突き飛ばされた痛みのためでは、勿論ない。キュウコンがさめざめと涙を流しているその様子を見ても、ウインディは何もかけてやる言葉がなかった。
 「あんなに硬くしてるくせに」
 「すまん」
 「謝ってどうするの」
 キュウコンは動こうとしなかった。気力が尽きたようだった。返す言葉がないウインディは、まったく的外れな分析を始めた。
 「発情期だからだろう」
 ウインディはキュウコンの奔放な行動の原因を外因性のものだと言った。
 「それでお前はコントロールがきかなくなっているんだ」
 キュウコンは何も言わない。ウインディの言っていることは、端的に言えば「生化学上の変化に伴う特殊な状態にお前は陥っている」という意味になる。
 卵から孵ったヒナが、一番最初に見たものを親だと思うのと同じように、初めて発情したメスが、一番最初に見たものをつがいだと思うようなものだと。
 そう言っているのだった。
 発情期さえ来なければ、キュウコンはこんな風にならないのだと言っているのだった。
 「この時期だけのことだ」
 ウインディはキュウコンの腰に手を当てた。キュウコンはなおも動かない。
 「手と口だけでいいなら。眠れないんだろ」
 ウインディは、自身の考える、最適な対処を提案していた。
 「もういいわ」
 キュウコンはまだ泣き止んでいなかったが、その声は淡々としていた。ウインディは眉を釣りあげた。
 「……いいのか。あれだけ必死だったのに」
 「いいから。ほんと」
 キュウコンはのっぺりとした声色で返した。
 「父さん以外に雄なんていくらでもいるから」
 「そんな言い方があるか」
 「父さんが言ったことでしょ」
 ウインディの弱々しい叱責はあっさり打ち返されてしまった。ウインディにとっても、キュウコンを(はずかし)める必要がないならば、それが一番望ましい。ウインディはすごすご引き下がって、キュウコンに体が触れないように、眠りについた。彼の巨根が、あらゆる意味で安眠の妨げになっていたが、どうにもならなかった。
 ウインディは、自分に触れるものがあることに気づいた。キュウコンが起き上がってウインディに触れていたのだった。
 「どうした」
 今更何を、という調子で(たず)ねると、キュウコンは愛想なく言った。
 「眠れないのは父さんの方でしょ」
 「あ……?」
 ウインディはキュウコンの言わんとするところが理解できず、気の抜けた声をあげた。キュウコンは、ウインディのまたぐらに目を向けていたが、暗がりの中でウインディはそのことに気がつけなかった。
 「手と口だけならセーフなんでしょ?」
 ウインディはそれでキュウコンが何をしようとしているのかようやく把握したのだ。
 「あれはそういう意味じゃなくて」
 「くだらない言い訳」
 ウインディは筋の通らないことが嫌いな男だった。「手と口だけなら良い」というようなことを示したのは彼自身だった。
 ウインディは短く甘い声を上げた。キュウコンが、その手では握れないほどの太さがある父の男根を、きつく踏みつけたのだ。
 「どうして」
 いよいよ娘との性交渉に及びそうなウインディであったが、今回は言葉だけの抗議で留まった。さきほどキュウコンを突き飛ばしたことが彼を慎重にしていた。
 「父さんをクズ野郎にしたいの」
 「そんな……」
 ウインディの言葉は続かなかった。キュウコンが手を肉茎の上で軽く滑らせるだけでウインディは体を固くしてその刺激に耐えるのだった。彼自身もよほどキュウコンに欲情していたのだった。
 「こんなに先走り垂らしてるくせに自分はクズじゃないみたいなこと言って。恥ずかしくないの?」
 キュウコンは両の前脚で父そのものを摩り始めた。父の出した粘液を絡めて、わざとらしく、ぬたぬたした音を出していた。
 「どこで覚えたんだそんな言葉……」
 「知らずに生きるほうが難しいわよ」
 キュウコンは、ウインディの種族に特徴的な亀頭球を両手で挟んで圧迫した。ウインディの尿道から透明な液体があふれてくる。
 「世の中父さんみたいな変態しかいないもの」
 「やめてくれ! そんな言い方……」
 「事実でしょ」
 キュウコンはこれ以上無駄口を叩きたくないとばかりに、ウインディの陰茎を口に含んだ。ウインディが息を呑んだ。ウインディのそれが巨大すぎるがあまり、キュウコンはそのほとんどを加え込めていなかった。
 「キュウコン、うぅ……」
 キュウコンは処女らしからぬ性技を持っていた。前脚で竿をしごきながら、舌を父のモノに巻き付けていた。ウインディは娘の卓越した施しを甘んじて受け入れるしかなかった。クズだ変態だと罵られたにも関わらず、彼の獣性はそれを楽しんでいるようだった。
 「大きすぎでしょ……」
 キュウコンは舌での愛撫を中断した。また大気に晒されたペニスは、キュウコンの熱を求めて脈を打っていた。ウインディの体液は彼の睾丸を濡らすまでに分泌されていた。
 「私の母さんはこんなの飲み込んで私を産んだってわけ」
 「母さんのことを悪く言うな」
 キュウコンが、会ったことのない母を引き合いに出すと、流石にウインディは怒った。
 キュウコンとウインディは血が繋がっていない。ウインディとキュウコンの母も、必然赤の他人であるということになる。性的な関係もない。
 それでもウインディは、彼にとっては面識のある母に対する悪口を少しも許さなかった。
 「なあ、俺は母さんを裏切りたくない」
 「手と口ならいいんじゃなかったの」
 「屁理屈を……」
 キュウコンがウインディのソレを咥えると、ウインディは歯噛みしながら黙った。彼がよがっているのは事実だった。キュウコンは、えづくような青臭さの肉塊を、その華奢なマズルに精一杯頬張っている。美味いわけでもないのに、舌でソレの味を堪能し、根本の膨らんだ亀頭球を手でしきりに握って射精を促している。首を前後に動かして自分の口を膣の代わりにしている。ウインディは、寝転がっているだけで快感を得ていた。
 「あぁ……」
 ウインディは気持ちよさそうに息を漏らした。キュウコンをことごとく拒んだ彼であったが、いざ押し切られて良い想いをすると、抗えないのだった。避けようのない、オスの宿命だった。
 「父さんもやっぱり好きなんじゃない」
 「キュウコン……」
 真実すぎてウインディは言い返せない。欲や汚れが滞って澱む穢れの股の間で、キュウコンが清廉な顔をうずめて堕落していく様子だけでも、至福の光景だ。まして、陰茎を丹念に愛されて、くすぐったい快楽を与えられているとなれば、どれだけこの行為に背徳を見出していたとしても、のがれることはできないものだ。
 ウインディは、口淫に励むキュウコンの左耳に手を当てた。キュウコンは一瞬だけ動きを止めるが、また父への奉仕を再開した。ウインディはキュウコンをいたわるように撫でた。彼が彼女にしてやれるのはこれだけだった。今の彼女にとっては、これでも十分な報いだった。
 キュウコンは撫でられたことで自分のやっていることが許されたのだと判断したのだろう。彼女は大胆になっていった。彼女の手に余る大きさの物の先から、横へマズルを移し、棒を齧るような体制になる。歯だけは立てないようにしながら口を上下に動かす。彼女は淫らに舌をのぞかせて、ナメクジのようにそれを這わせていた。ウインディは、よさそうに鳴いてみせた。
 キュウコンは竿の下にある果実のような膨らみに食らいついた。ウインディの亀頭球は巨大すぎて、口を使ってもそれを覆い隠すことはできなかった。彼女はくれぐれも歯を立てないように細心の注意を払って顎の圧を強めた。ウインディが呻く。彼らの亀頭球は性感帯として敏感だ。キュウコンは亀頭球を含んだまま、陰茎を抜き取るように引っ張った。ウインディが笑えるほど情けない声を上げる。根本ごと引っ張られると、彼は面白いほどよがるのだ。キュウコンは未経験のメスでありながら、そのことを元々知っていたかのように、的確に父のボルテージを高めていった。
 「キュウコン、もう十分だ」
 キュウコンは上手く、ウインディは溜まっていた。ウインディの絶頂が近づいていた。娘の口の中に直接射精するわけにはいかない。ウインディは最後の最後だけは自慰で処理しようと考えた。
 「なにが」
 キュウコンが愛撫を止める。
 「最後までやることはない」
 「黙ってくれる?」
 キュウコンは取り合わなかった。彼女はまた父の先端を含むと、舌と手の力をじわりと強め、精液を迎え入れる膣の動きを模倣してみせたのだった。「よこせ」と言わんばかりに。ウインディは切なく啼いた。
 「で、出るぞ、本当にいいのか」
 ウインディが念を押す。キュウコンは耳を貸さない。彼女は搾乳するかのように亀頭球を引っ張り上げ父のペニスに吸い付いていた。彼女は尿道を責めるのが好きなようだった。一秒でも早く飲みたいと言わんばかりに舌を鈴口の付近に這わせる。ウインディの体はその要求に負けるように、精巣と精嚢と前立腺を包む平滑筋を収縮させた。
 「う……ぐぅッ!」
 久方ぶりの射精だった。ただでさえ父の陰茎で満ち満ちていたキュウコンの口内に、苦味のあるスペルマが押し寄せてくる。キュウコンは強烈な臭気と熱さと粘りに耐えかねて瞼をぎゅっと絞った。彼女は殊勝にも、父のそれを体に取り込もうとして喉を鳴らした。しつこくべたつく白濁液が彼女の口蓋に、食道に、胃にまとわりつく。彼女はその喉越しと味がお気に召さなかったようだった。
 彼女は嘔吐感に思わず父のモノから口を外した。ウインディの射精はまだ最初のごく数発が吐かれただけだった。下を向く彼女の額に精液が吐き出される。生暖かい感触でキュウコンが顔をあげたところでまだ精液の塊が吐出され、今度は下顎が汚される。彼女は汚辱を嫌って顔を背けたが、そのせいで彼女の耳と頬まで汚された。ウインディは絶倫だった。ただ一度の射精でキュウコンの顔のほぼ全面に授精できるほどだった。
 「はあ……」
 ウインディのオーガズムは止まった。近親の禁忌がどうの今は亡き母がどうのと御託を並べていた彼も、この瞬間だけは身を包む性感に満足げな表情をしていた。しかしその余韻も長くは楽しめなかった。彼がはっとなってキュウコンに目をやると、自分の体液を浴びて陰い目をしているキュウコンが見えた。ウインディの心と陰根は急速に萎んでいった。
 「顔がべっとべと……」
 キュウコンは、普段顔を洗う時と同じように、前脚で額の汚れを拭った。彼女の顔面に作られた精液溜まりの筋が、その手によって薄く引き伸ばされて余計汚れていく。しかも手に精液がついたまま他の場所も洗おうとするため、彼女の顔がウインディの精でどんどん汚れていってしまった。それを見るウインディの瞳が濁っていった。
 「取れないん、だけど」
 キュウコンは笑った。乾いた笑いだった。彼女の手に、取り除こうとした精液が集まって、重力に引かれて下へ長く引き伸ばされていた。ウインディの精液は大量かつ濃厚だった。
 「すまん、キュウコン、すまん……」
 ウインディは慚愧(ざんき)の念に堪えなかった。キュウコンは自分の手と顔に粘りつく精液を父の背中になすりつけた。
 「ばかみたい」
 ある程度精をなすりつけるので妥協したのか、キュウコンは父に背中を向けて寝転がった。
 「おやすみなさい」
 「キュウコン」
 ウインディがすがるように呼びかけた。キュウコンは後脚で父を蹴った。脚はまだ萎えきっていないペニスにヒットした。「あ゛っ」などと潰れた声をあげて、ウインディは下腹部をかばって辛苦を耐え忍んだ。キュウコンはそれ以上何もせず、わざとらしい寝息を立て始めた。
 急所の痛みで冷たい汗をかいているウインディは、その汗も痛みも引かないうちに呻きながらキュウコンから離れて目を閉じた。キュウコンの惜しみない愛情を味わった直後にも関わらず、ウインディはみじめだった。


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Last-modified: 2019-07-10 (水) 23:30:34
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