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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです(2)

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かわいい娘のロコンが進化したらえっちすぎたので僕の息子も進化しそうです 

(2)捜査 


 「あ、あぁ」
 簡単な(とばり)で仕切られただけの空間でコジョンドが喘いでいた。仰向けにされた彼女は、良い体格の男に腕を押さえつけられて横たわっていた。
 コジョンドを犯しているのは、リザードンだった。
 「もっと声出せよ。どうせ周りだって同じようなことやってんだ」
 コジョンドを組み伏せているリザードンが舌なめずりしていた。つい先刻まで体を覆っていた荷鞍(にぐら)を全て外して、生まれたままの姿になっている。彼は自分のいきり立ったものをコジョンドの中に突っ込んでいた。コジョンドはリザードンから顔を()らして、頬を赤らめる。
 「でも、恥ずかしいです」
 「そうかよ。じゃあ無理矢理にでも声を出させてやるぜ」
 リザードンはじんわりと腰を動かした。コジョンドがあでやかに啼いた。リザードンがコジョンドと交わるのはもう五度目のことだった。どこを責めれば彼女が(よろこ)ぶかはおおよそわかっていた。
 リザードンは、コジョンドの首に牙を立てた。
 「あっ、いや」
 コジョンドが身をよじるが、リザードンの下にあっては足を動かす以上のことはできなかった。冷たい唾液と熱い吐息が敏感な首に痺れるような刺激を与えている。リザードンは一定のリズムで前後している。
 「いい女だな、お前は」
 リザードンは牙を少しづつ彼女の毛皮に沈めていく。被食されるものと錯覚した彼女の精神が、哀れな声をあげさせた。リザードンは自らの手で弄ばれるコジョンドの姿を見てニタリと笑みを浮かべた。
 リザードンの嗜虐心は人一倍強かった。



 ウインディはむすっとした表情で荷物の番をしていた。傍らではキュウコンが退屈そうにオボンの実を転がして遊んでいた。二人が野営に使っている天幕(テント)の中は、リザードンの荷鞍(にぐら)が詰め込まれたために窮屈なものになっていた。
 キュウコンが退屈のあまりリザードンの荷鞍(にぐら)の一つに鼻を突っ込んで物色を始めた。
 「何やってる、キュウコン」
 「何が入ってるのかと思って」
 「やめなさい」
 二人はリザードンに荷物を見るように頼まれていた。炎の石の代価としてリザードンがそれを請求したのだ。「金はいいのか」とウインディが確認してもリザードンは頷くだけだったので、ウインディは怪しんだものだった。
 キュウコンが進化した後、リザードンが「遊郭に行きたい」だのと言い初めてウインディはようやくリザードンの真意を理解したのだった。
 「あいつの運ぶ荷物、高いんだぞ。炎の石なんか安物の方だ」
 「えっ」
 炎の石だって決してありふれたものではない。キュウコンは賢明にも荷鞍(にぐら)をそっと元の位置に戻した。
 仕事中のリザードンは、寝ている時でさえ荷鞍(にぐら)を外さないほど厳重に荷物を取り扱った。そうするだけの価値があるものばかりを運んでいるのだ。彼の仕事は信用が命綱だ。荷鞍(にぐら)からどうしても目を離さなければならない場合は、信頼できてしかも実力のあるものに託すぐらいしか方法がない。
 その「信頼できて実力のあるもの」というのがウインディとロコンであった。そして「荷鞍(にぐら)からどうしても目を離さなければならない場合」というのが、
 「女遊びのために俺たちを使うなよな……」
 というわけである。
 春。「りくじょう」グループにとっては今が最も盛んな時期だ。発情期のあるタマゴグループにとって、その時期は思考や行動がそればかりに支配されるほど影響力がある。何しろ、その時期を逃せば一年は卵を残せないのだ。この時期の異性の恋しさは尋常ではなかった。
 若いメスが夜出歩けばまず間違いなくオスに言い寄られるし、むしろそれを期待して夜にうろつくメスもいるほどだ。発情期に会うかそうでないかで、同じ相手の印象が全く変わるというのも茶飯事(さはんじ)であった。
 リザードンはそんな時期を狙って、陸上グループのメスと一晩の楽しみに興じているのだった。
 リザードンの女狂いに呆れているウインディではあったが、彼も発情期の当事者には違いない。それでも彼は「ロコンに隠れてこそこそいやらしいことをしたくない」という一心で、これまでこの時期をやり過ごしてきた。
 ウインディは遠くから漂ってくるメスのニオイを嗅ぎ取っていた。甘ったるさの裏に汗のツンと()みるニオイがわずかに混じっている。毎年毎年嗅いできたニオイだ。
 鼠径部(そけいぶ)のあたりに溜まるジワリとした嫌な感触をやり過ごすことに、彼は慣れつつあった。気をそらすためにイメージトレーニングを始めようとしたが、キュウコンに阻まれた。
 「ねー撫でてー」
 声のもとを見やると、キュウコンは後脚を投げ出して腹部を無防備に天に向け、あられもない姿になっていた。なんのことはない。ロコンの時から続けている、いつもの甘えたい時の格好だ。
 しかしロコンの時とは訳が違った。進化を経た彼女の体すっかり大人びていて、適度な量の筋肉と脂肪を蓄えた胴は成熟したメスの物に違いなかった。ロコンの頃は寸胴で可愛らしいものだったが、今やそれは想像もできない。ウインディは見るまいとしたが、どうしても股間に視線がいった。恥部の周囲の毛は多少薄くなっていて素肌が顕になっている。血色によって僅かに朱色を発していた。
 何より悩ましいのは、ぷっくりと膨らんで熟れた陰部だった。キュウコン自身も、あたりに何百といる「メス」と同じ様になっていたのだ。ウインディは今更になって気がついた。外から漂っていると思っていたメスのニオイが、他ならぬ娘自身のものであることを。
 ウインディは生唾を飲み込んだ。今からこの生娘を撫でなければならないのだ。見ただけで催してしまう程(たお)やかなこの女狐に触れなければならないのだ。自身が卑しい感情を抱いていることに気づかれないようにしながら。
 果たしてそんなことが可能だろうか。
 「はやくー」
 キュウコンが前脚で催促した。ウインディに逃げ場はなかった。深呼吸して、そっと彼女の胸部に手を当てると、吸い寄せられるように手が沈んだ。
 「お……」
 極上の触感だった。ウインディは彼女の胸の上で手を泳がせてみた。和毛(にこげ)の間を掻き分けると柔らかい感触に包まれ、手が彼女の一部になってしまったかのように思われた。ロコンも抜群の撫で心地であったが、その比ではなかった。キュウコンは喉を鳴らし、ウインディは伏せた。自分自身が勃ち上がりつつあることに気づいたのだった。
 ご機嫌な声とともにリザードンが天幕の入り口を開いて戻ってきた。
 「戻ったぜー」
 キュウコンはすぐに開かれた後脚を揃えて横たわる格好になった。後脚を開くことに羞恥してはいるようだ。
 「もうちょっとマシなことで俺たちを使えよ」
 これ幸いとウインディはリザードンに声をかけた。
 「いやー」
 リザードンは表情は緩みきっていた。
 「こんなこと頼めるやつそんなにいねーからさ」
 「リザードンさんは何をしてきたの?」
 「知らなくていいんだ」
 キュウコンの好奇心をウインディは制した。
 「んーそれはどうだろうな? ロコンも、」
 「キュウコンよ」
 「キュウコンもいい歳だろ? 教えるだけ教えた方が」
 リザードンは本気だか冗談だかわからない調子で言った。
 「必要ない」
 ウインディはぴしゃりと言った。任務が終わったので、いつもなら「とっとと荷物をまとめろ」などとリザードンに素っ気なくあたるところだったが、今日の彼は事情が違った。
 「……リザードン」
 「ん?」
 「ちょっと……外で話さないか?」
 「んー?」
 リザードンは首を傾げた。
 「なあ、いいだろ?」
 「……まあ構わんけども」
 「助かる」
 リザードンは天幕を出た。ウインディは、不自然にならない程度に腰を低くして後に付いた。
 「何の話?」
 去り際に(たず)ねたキュウコンに答えず、ウインディは一方的に命じた。
 「見張りを頼むぞ」
 二人が出ていった。一人天幕に残されたキュウコンはひとりごちた。
 「……変なの」
 キュウコンは撫でられ損なった胸部を自分の後脚で掻いた。二人が気になるキュウコンは天幕から顔だけ出してみる。ウインディとリザードンが何か話している。「……を買いたい!?」「声がでかい!」と言う部分だけが聞き取れた。何か高価なものを買う算段でも立てているのだろうか。
 リザードンは商談をまとめてきたのだと、キュウコンは推測した。リザードンの来た元に目をやる。窮屈そうに立ち並ぶ小屋の間から、灯籠の光が差している。満月の夜にあってもその光は不気味なほど爛々と明らんでいた。
 その光に吸い寄せれる人影があることにキュウコンは気づいた。大きい影と、それよりもう少し大きい影と、少し離れて小さな影。小さい影は歩き方が妙だった。大きい影に付き従ってはいるものの、何度か止まっては小走りして追いつくような歩き方だったのだ。「気が進まないが、逆らうのは恐ろしい」とでも言うかのようだった。
 小さな影が立ち止まっていると、大きな影がそれを抱きかかえて、連れ去っていくのを見た。影は小屋の間に消えていった。
 キュウコンは息を飲んだ。無理矢理ポケモンが連れて行かれる場所。高価な買い物の商談をまとめる場所。その二つの要素から、彼女は一つの結論に辿り着いた。
 「奴隷……!?」
 キュウコンはリザードンとウインディを一瞥(いちべつ)した。この推測が正しければ自分の父が奴隷を買おうとしていることになるし、リザードンは奴隷商という顔を持っていたことになる。荒唐無稽なことだったが、だからと言って確認しないつもりは、キュウコンにはなかった。悔いは残さないというのが、彼女の信条だった。
 父に呼びかけようとして、キュウコンは思い直した。奴隷を買おうとしているかもしれない父が、あの小さな影を助けるのに手を貸すだろうか? むしろ引き止められる可能性すらある。キュウコンは単独行動を決意し、忍び出ることにした。
 キュウコンはリザードンの荷鞍(にぐら)の数々をちらと見た。盗難されるかもしれない。キュウコンはあの影を助けられないことと、盗難されることの蓋然性(がいぜんせい)を天秤にかけて、影を助ける方を選んだ。身を低くして、音もなく天幕を抜け出し、三つの影を追った。
 父らが本当に奴隷売買に関わっているのかどうかを、その目でどうしても確かめたいのだった。



 「女を買いたい!?」
 「声がでかい!」
 ウインディはリザードンをはたいた。ウインディは、天幕にキュウコンを一人残して、自分こそが「女遊び」をする相談をリザードンに持ちかけていたのだった。
 「お前そんなやつだったか」
 リザードンはまだウインディの言葉を疑っているようだった。リザードンの知るウインディは淫事に手を染めることなく、ただロコンと仕事のことだけを考えて生きる存在だった。女とは一切の縁もなく、硬派を絵に描いたような存在だった。
 「いや、その……」
 ウインディの周囲の空気がじわりと熱くなった。赤面した時の反応だ。何か言い訳を考えているのか、何度も口ごもり、しかし妥当な説明が思い浮かばないようで、結局天幕でキュウコンに感じたものを率直に吐露することを選んだのだった。
 「キュウコンが……」
 「キュウコンが何だよ」
 「……エ」
 「『エ』?」
 ウインディは文字通り顔から火を噴きそうであった。
 「エッチで……」
 顎が外れそうなほど、リザードンはあんぐりと口を開いた。直後、その開かれた口のまま大笑いをあげた。
 「お前らどっちも『りくじょう』グループだもんな! それはしょうがねぇわ!」
 リザードンは堅物のウインディが「エッチ」などと言ったことが余程気に入ったらしく、ウインディを肩を何度も何度も叩いている。
 「それでムラムラしたから発散したいってか! いいぜいいぜ上物紹介やるよ!」
 「最低だよ俺は」
 (はや)し立てるリザードンにウインディは一切の反論をしなかった。リザードンがウインディを叩く手を止める。ウインディはその場に腹をつけ、突っ伏して、頭を抱えた。
 「よりによって娘に欲情する父なんているか?」
 「そんな噂いくらでも聞くぞ」
 仕事柄、各地の事情や風説を見聞きすることが多いのだろう。リザードンはまだ面白そうな顔をしていたが、ウインディをからかおうとする空気はなかった。
 「一番ひどいのだと……そうだな、実の娘のラルトスとその母親のサーナイト――つまり実の妻子だよな。その妻子を一度に犯して親子丼だーって喜んでたオーロットがいたとか聞いたことあるぜ。タマゴも二人合わせて十個ぐらい産ませてたとか」
 「二人合わせて?」
 ウインディが嫌悪感たっぷりに聞いた。
 「ラルトスも産んでたと?」
 「いくつかは分かんねぇけどな」
 「ラルトスってことは、キルリアに進化もしないような年齢で?」
 「とんだロリコンだよな」
 「サーナイトも知ってる前で?」
 「そういうことになるな」
 吐き気をこらえるように、ウインディは自身の頭をがりがりと引っ掻いた。
 「なんだよそいつ……イカれてるのか……?」
 「まあソイツはクズだとは思うけどよ」
 リザードンは皮膚を破いてしまいそうなほど頭を掻いている彼の前脚を抑えた。
 「お前がキュウコンの色香にやられるのはしょうがなんじゃないかなぁ」
 「しょうがないも何もないだろ」
 「事情が大違いだろ」
 (かたく)なに自分を責めるウインディをリザードンは根気よく宥めていた。
 リザードンは念の為、周囲を見回して誰もいないことを確認した上で、一段と声を落として言った。
 「だって、血繋がってないだろ、お前たち」
 ウインディは突っ伏したまま顔をあげなかった。しかし自傷行為じみた引っ掻きは止まり、声色も多少平静を取り戻したようだった。
 「関係あるか? それ」
 「いや、ニオイからして変わるだろ」
 リザードンは自分とは異なるタマゴグループの性行動に異様に詳しかった。
 「年頃の娘は大体父親を嫌うもんだが、それは実の父親のニオイを嫌うようにできてるかららしいぞ」
 そういえばキュウコンはお前にべったりだよな、というのもリザードンは付言した。
 「だからまぁ、そんなに自分を責めることないんじゃねーの。娘であって娘じゃないようなもんなんだから」
 「ロコンは俺の娘だ」
 ウインディは顔を伏せたまま平坦に言ったが、その言葉には力がこもっていた。
 「キュウコンになったってそれは変わらない」
 「……ま、まあ言葉尻に突っかかるなよ」
 リザードンはバツが悪そうに顔を()らした。余計にウインディを(かたく)なにしてしまったために、投げかける言葉に困っていた。
 「……でも勃つんだ」
 リザードンを困らせたからか、ウインディはまた自責の念に駆られてしまった。
 「なんとかしてくれ」
 切実なウインディの懇願に、リザードンは苦笑した。
 「わかったわかった。キュウコン以上に激エロなやつに惚れ込めばなんとかなるんじゃないか」
 リザードンはつい先刻まで「お楽しみ」だった遊郭を指さした。寄り添って設られたあばら屋の数々が、灯火によってぼんやりと照らし出されている。夜の(とばり)の中で、寄せ集められた欲望が命を燃やしているかのようだった。
 「行こうぜ。あそこならいくらでも候補がいる」
 「……ありがとう」
 「いいって」
 ただしコジョンドだけは勘弁な、とリザードンは付け足した。自分の荷鞍(にぐら)を一旦回収しようとして天幕を見やり、違和感に気づいた。
 「……お前、入り口閉めたよな」
 ()かれたウインディも天幕を見た。単に幕を重ねただけの出入り口が、夜風に吹かれてたなびいていた。
 ウインディが天幕を出た後は、入り口を抑えるための石を置いていたはずだった。
 「キュウコン?」
 「俺の荷物!」
 二人はそれぞれの不安を抱いて天幕に駆け寄る。ウインディが頭だけ天幕の中に突っ込むと、そこにキュウコンの姿はなかった。リザードンの荷鞍(にぐら)だけが安置されたまま、キュウコンだけが忽然と姿を消していた。争った痕跡は一切なかった。
 「あいつッ……!」
 ウインディは歯噛みしてすぐに天幕を出た。後から来たリザードンは、天幕の中の荷物がひとまず無事であることに安堵のため息をついていた。
 「どこに行ったんだ!」
 ウインディは恐慌していた。行くべき場所が分からないのに焦りばかりが脚を急かして地団駄を踏んでいた。リザードンはひとまず自分の荷物を確認できたので、見かねて冷静に言った。
 「自分でここを離れたんだろ」
 戦闘の跡がない以上、それが自然である。
 「騒ぎがあったら流石に気づくだろ」
 この状況だと行く場所は一つしかない。
 「……なんだってあんなところに行くんだ!」
 ウインディは風のように走り始めた。向かう先は数々の小屋が立ち並ぶ遊郭だ。この夜遅くに女が一人で遊郭を歩き回れば、誰しも身売りの娼婦であるとしか思えないだろう。そんな娼婦がどんな扱いを受けるかは、相場が決まっている。
 凡百の男にやられるようなキュウコンではないが、場所が場所だ。何があってもおかしくはない。
 「ウインディ!」
 リザードンは咄嗟にウインディに続こうとして、急ブレーキをかけた。今リザードンが天幕を離れれば、彼の荷鞍(にぐら)を守る者は誰もいなくなる。
 「荷物!」
 リザードンは慌ただしく天幕に体を押し込めると、二十もあろうかという荷鞍(にぐら)を一つ一つ装着し始めた。彼の、リザードンらしい丸々とした胴体は、狭い天幕の中で荷物を拾い上げるには不向きであった。
 「あぁクッソ、これ時間かかるんだぞ」
 リザードンは人一倍不器用であった。



 「僕こんなことしたくないですよ」
 「実際ヤッたことがないからそんなことが言えるんだ」
 ブーピッグがワルビアルに半ばひきづられるようにして連れ回されていた。彼らは今しがた遊郭に来たところで、よいメスを物色しているところだった。ワルビアルの方は興奮している様子だったが、一方のブーピッグの方は嫌々連れられているのが明らかだった。
 「進化してもずっと童貞とか俺の方が恥ずかしくなるんだよ。ここで卒業しろ」
 「すなおじゃないなぁ」
 彼らに遅れて従っているのはリングマだ。ワルビアル以上に巨大な体は、狭い路地を通るのに苦労しているだった。丁寧に歩むことでなんとか体を建物に擦らずに移動しているようだったが、速度は出ていなかった。
 大きい影二つと小さな影一つが、灯籠によって地面に作られていた。
 「バネブーがブーピッグになった時に言ってたじゃん。進化を祝って――」
 「お前それ以上言ッたらブッ殺してやるからな!」
 ワルビアルが鋭い爪をリングマの喉元に突き立てた。リングマはそれを見ても微動だにせず、平常心を揺さぶられることすらないようだった。この乱暴な振る舞いに恐怖したのは、むしろブーピッグの方だった。
 「二人ともやめて……」
 蚊の鳴くように言ったかと思うとブーピッグの大きな瞳が潤んで、瞼に涙が溜められた。ワルビアルは、しまったと爪を収めた。
 「あーあ」
 リングマが額に手のひらを当てた。ブーピッグは声もあげずに涙を流し始めた。ワルビアルはあたふた狼狽(うろた)えているが、彼は他人を泣き止ませる術を知らなかった。
 「何でお前が泣くんだよ! 俺が悪いみたいだろ!」
 「すみません……」
 ブーピッグは謝ったがリングマは正論を言った。
 「まあきみが悪いよね」
 「お前ホント黙っててくんねェかな!?」
 粗暴な振る舞いがブーピッグを泣かせたのをもう忘れたのか、ワルビアルは爪でリングマを引き裂こうとした。リングマは顔色一つ変えずにその腕を掴み、ワルビアルの技の勢いを更に加速させるように引っ張った。ワルビアルは引っ張られるまま独楽(こま)のようにくるりとその場で回転して、前後不覚になって転倒した。
 「てめェ何しやが――」
 「あなたたち!」
 立ち上がりかけたワルビアルを、良く通る高音が制した。今しがた来た方向からだ。振り返ると、丁字路の中央に、三人を睨みつけるキュウコンが立っていた。彼女はちょうど、行燈(あんどん)と建屋の稜線が作る一点透視図の消失点上に立っていた。
 彼女は消失点から静かに歩を進めて、ワルビアルたちに立ちはだかった。彼女は泣いているブーピッグを一瞥(いちべつ)して、険しい視線をワルビアルに向けた。
 ワルビアルの表情は、先程までリングマに乱暴を働いていたにも関わらず、すっかり卑俗な欲望に満たされていた。
 「こんな所で何をやっているの」
 キュウコンが(たず)ねると、ワルビアルは鼻を鳴らした。
 「決まってんだろ」
 ワルビアルはキュウコンにそっと近づいた。彼女は後ずさりする。ワルビアルは彼女に(たず)ねた。
 「いくらだ? アンタ」
 その言葉は彼女の勘違いを確信に至らしめるに十分な語弊があった。キュウコンは一瞬ふらついたが、地面を踏みしめて持ち直した。
 「なんのことよ」
 彼女は辛うじて気丈さを失わなかった。
 「わざわざ『売り』に来てくれたんだろ? アンタなら買うぜ、いや……是非買わせて欲しいなァ」
 ワルビアルは醜い含み笑いを浮かべてキュウコンに手を伸ばした。キュウコンは後退してそれを空振りさせた。ワルビアルは、はやる気持ちを落ち着けるかのように長く息を吐いた。
 「()らすねェ。それだけエロいニオイを振り撒かれたら、我慢できなくなッちまう」
 「ニオイ……?」
 キュウコンはオウム返しに聞いた。彼女の知る限り、奴隷と言えば、働き手として買われていくというのが最もよく見られる事例だった。性処理をさせるために買われる場合もなくはないだろうが、奴隷を買ったその場で「使う」ようなものだろうか。
 「こう見えてテクには自信あるんだぜ。金もらってしかもイき狂えるんだ。悪くない話だろ」
 キュウコンはその言葉で自分の考えが誤っていたことに気がついたようだった。彼女はほっと息をついた。
 「奴隷を買うつもりじゃなかったの……」
 キュウコンの独り言のような言葉に、今度はワルビアルが誤解する番だった。ワルビアルは実に嬉しそうに言った。
 「とんだドマゾだな! いいぜ! 俺たち三人で肉便器にしてやる!」
 キュウコンは、自分の失言に気がついて、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 「おいブーピッグ!」
 「ひえっ」
 「一発目お前がやれよ!」
 ワルビアルが一人で盛り上がっている内に涙が引っ込んだブーピッグは、突然種馬になることを命じられて縮み上がった。彼にその大役が務まるようには思われなかった。
 「僕は、いいです」
 ブーピッグはそういうとリングマに駆け寄って背中に体を隠した。リングマは何もしなかった。ワルビアルもこの不甲斐ない姿を見せられては、メスをあてがうつもりも失せたようだった。
 「……この意気地なしが」
 ワルビアルがリングマをチラリと見た。リングマは事もなげに言った。
 「裂けちゃうからなぁ」
 「……羨ましいヤローめ」
 ワルビアルもその言葉には罵倒もできないようだった。「良いもんでもないよ」とリングマが答えたが聞いていない。
 「……じゃ、じゃあ独り占めさせてもらうぜ」
 勢いが削がれたワルビアルは両の掌を強く打ち付けた。キレのある良い音がした。多少は戦闘の心得があるらしいことが、その音から伺えた。
 キュウコンは逡巡した。強引に断ることもできなくはないが、得策かどうかは疑わしかった。
 ワルビアル。ワルビルの中でも指折りの実力者だけが進化できる、最上位の進化系だ。如何にもマヌケな風体を晒してはいるものの、その実力を軽く見積もるのは賢くなさそうだった。ましてや、地面タイプである。炎タイプのキュウコンなら、多少の実力差はひっくり返されてしまうだろう。ワルビアルの振る舞いは身勝手だった。激昂させてしまえば何をしでかすかわかったものではない。
 キュウコンは、少し考えて、一芝居打つことにした。
 「い、いいわよ」
 ハブネークにも動じなかった彼女の声がうわずっていた。ワルビアルは散々揉めながらようやく承諾の言葉が引き出せて口角を引き上げた。
 「ケッ、最初からそう言っときゃよかッたんだ」
 「でもね」
 ワルビアルに触れられる前に言った。
 「私『先約』がいるの」
 「先約~?」
 ワルビアルが眉間に皺を寄せた。
 「そう。だからその人の相手をしてからね」
 「良いわけねェだろそんなもん!」
 ワルビアルが怒号を上げる。キュウコンは表情こそ変えないものの、いざという時に備えて体の底で炎を練り始めていた。
 「他の男がザーメンぶちまけた後のマンコなんか使えるかッてんだよ!」
 「でもブーピッグに一発目行けっていってなかった?」
 リングマが矛盾を突く。
 「てメーらは別だ!」
 何事にも例外はあるものだ。
 「第一、その『先約』はどこにいるんだよ。お前一人でほッつき歩いてたろうが」
 「それは……用を足したいって言い出して」
 「ションベンだァ?」
 ワルビアルは意地汚い笑みを浮かべた。
 「そんなもんお前が飲んでやれば良かったんじゃねェのか」
 「えっ……」
 キュウコンは、そうした趣向がこの世に存在することを知らなかった。ワルビアルはキュウコンの表情を見て下衆な笑い声をあげた。
 「汚いなぁワルビアル」
 リングマが至極まっとうな諫言をした。
 「うるせェ」
 ワルビアルが尻尾でリングマを攻撃しようとしたが、リングマはあっさり腕でそれを防御した。
 「てめェ!」
 軽くあしらわれたことが気に入らなかったのか、ワルビアルはリングマに食って掛かった。
 「順番は守った方がいいとおもうよ」
 頭に血が昇っているワルビアルに対してリングマは飽くまで沈着だった。
 「こんな良い女だぞ! 他の奴らなんかに食わせてたまるかッてんだよ!」
 ワルビアルが完全にリングマに目を向けていた。キュウコンは彼の注意が自分から()れた瞬間を見逃さなかった。
 「でも本人が後でって言ってるんだししょうがないんじゃない?」
 「何を言ッて――」
 ワルビアルはそれ以上続けられなかった。キュウコンはワルビアルを台座代わりにして、そのゴツゴツした体を駆け上がった。彼女が踏み切るとワルビアルはつんのめって地面に倒れた。キュウコンは踏み切った勢いをそのままに、リングマの顔面を蹴り上げ、三角跳びの要領で空中に身を躍らせた。
 月光が彼女の体を照らして宝石のように微細な輝きを与えた。着地すると、彼女は脱兎のごとく駆け出した。顔面をまともに蹴られたリングマは、さすがに体勢を崩して尻餅をついた。ズシン、と巨木が倒れたかのような音が周囲に響いた。
 ブーピッグはリングマの下敷きになった。
 「ぐえっ」
 それ以上声も出なかった。
 「痛ッてェ……」
 ワルビアルは体の砂を払いながら立ち上がった。
 「ぼく何か悪いことした?」
 さしものリングマも顔面を蹴られたことは流せないようだった。ワルビアルはリングマの質問を無視した。
 「追うぞ! こうなったら意地でもぶち犯してやる」
 「いってらっしゃい」
 「お前も来るんだよ!」
 ワルビアルがリングマの腕を引っ張って立たせようとしたが、リングマの体重は彼の腕力で持ち上げられるようなものではなかった。リングマは自力でのっそり立ち上がった。それを確認したワルビアルが「行くぞ!」と言い出して脚を交互に繰り出して走っていった。リングマはすぐにはついていかなかった。
 「ん」
 リングマは自分の座っていた場所に目をやった。目を回して伸びているブーピッグが潰れていた。
 「ごめんよブーピッグ」
 「うげ……」
 リングマはブーピッグの頬をつついてみた。ぷにぷにするだけで反応がにぶい。やれやれとばかりにリングマはブーピッグを担ぎ上げ、ワルビアルの後を追うのだった。


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Last-modified: 2019-07-10 (水) 23:28:53
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