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ouroboros

/ouroboros

Writer:Lem


この小説は一般的に置ける人道の価値観を破壊する恐れ、流血表現を多量に含みます。
又、現実と非現実の区別に自信の無い方は、大会の有無を問わずこの作品を閉じた方が宜しいかもしれません。
それ等を踏まえた上で覚悟が出来た者のみ、どうぞ先へ御進み下さい。


ouroboros 


 今では忘れ去られた存在。
 それを覚えているのは当事者のみ。
 嘘の様で本当に在った一つの語物。
 しかしその歴史は正しく継承される事はなく。
 僕の記憶の中で静かに息を引き取ろうとしていた。
 
 
Introduction.

――ちゃん――
 何処と無く声が聞こえる。
 遠い昔、誰かをそう呼んでいた様な気がする。記憶の片隅で揺れ動く偶像。曲がりに曲がった猫背を僕に向けている為か、表情は分からない。
 唯、只管に、その姿が懐かしく。それへ呼び掛けようと腹に力を込め、言葉を吐き出そうとするものの上手くいかない。
 再び声が辺りに響く。それが自分への呼び声であると認識し始めたのは、激しく揺らされる揺り篭の如き感覚を覚えての事だ。
「爺ちゃん! やっと起きたのかよ!」
 微睡む陽光に当てられていたからか、何時の間にか眠ってしまっていたらしい。眠気の残る糸目で周囲を見渡す。ぼんやりとした意識が徐々に明確になるにつれ、膝下ではずっと覚醒を待ち望んでいたのだろう、まだ幼さの残る少年の姿を見つけるとその頭を撫でながら手を置いた。
「おお、今日も元気だなぁ」
「そりゃ暇だからな。あんまりにも退屈だったから爺ちゃんで暇潰ししようと思ったのに、爺ちゃん寝てるんだもんな」
 不貞腐れたのか少年の頬がぷくっと膨らむ。
「ひゃっひゃっひゃ。あんまりにもええ天気だったのでなぁ、爺ちゃん歳だから押し入る睡魔に勝てなんだわ」
「えー。まだお休みの時間には早いだろー」
「そうじゃなぁ。確かに坊の言うとおりじゃなぁ」
「それよりもさ爺ちゃん。オイラ暇なんだよー。遊んでくれよー」
 駄々っ子に揺らされてか揺り椅子がキィキィと軽い音を鳴らし、座主の視界を上下に揺さぶっていく。
「これこれ、爺ちゃん目が回ってしまうじゃろ。あんまり悪戯をするとドラゴン様が食べに来るぞ」
「えっ。ドラゴン様?」
 新たな興味に惹かれてか少年は直様にその手を止め、矢継早にそれらの質問を投げる勢いで問い掛ける。その瞳に宿る色は食べられるという恐怖を写しながらも、好奇心には勝てぬという実に分かりやすい表情だ。
「うむ。悪い子はなぁ、村中の皆にとっ捕まってな。ぐるぐる巻きに縛られてはドラゴン様が御座す祭壇に置き去りにされてしまうんじゃ」
「ええっ……嘘だぁ。オイラ今まで母ちゃんと父ちゃんに怒られた事何度もあるけど、そんな事された覚えないぜ」
「ひゃっひゃっひゃ。そりゃあのぅ。ドラゴン様は山奥に住まう神様でな、爺ちゃんは昔そこの近くで暮らしてたんじゃよ」
「へぇ。それでそれで? 本当にドラゴン様が食べに来るのか?」
「そうじゃよ。木々からは風が木の葉を揺らし、鳥がホウホウと鳴き、悪い子は泣きさざめく声に、そうして夜が深まる頃じゃ……あれだけ聞こえていた鳥の声も、風の音も、何時の間にか聞こえなくなっておった」
 調子の良さに身を任せていた少年に揺らぎの色が生じる。好奇心が恐怖心に押されてか瞳の色もやや曇り、後一押しで泣き出してしまうだろうと、想像を働かせながらも煽るように語り続ける。
「ずるぅり……ずるぅり……、何処からともなく聞こえてくる、不気味な音。何の音かと思って周囲を見回すも、辺り一面は真っ暗闇。月明かりは雲や木々に遮られて何も見えない。それでも迫ってくる、不気味な音……ずるぅり、ずるぅり、段々と近くなる這いずり音……すると横からはガサガサ、草薮の揺れる音……思わずそちらを見ると……」
 怯える少年の両肩をそっと掴み、次に備えて目を閉じる。クライマックスはもう間近。目裏には少年の恐怖に歪んだ表情がありありと映る。
「闇の中に浮かぶ二つの光が、ぎろり、とこちらを見ておった。蛇に睨まれた蛙の様に、そいつは瞬きを繰り返しながら……こちらを見ておった……」
 怖ろしさからか声も出ない。そう、目前の少年の様に。
「そう、ドラゴン様は巨大な大蛇。悪い子は生贄として食べられてしまう。こんな風に……」

――シャアーーーッ!


 ……
 …………
 ………………


「もう、お祖父ちゃん! 一体何やったのよ!」
「ひゃっひゃっひゃ、いやぁちょっとばかし驚かしただけなんじゃがのぅ」
「ちょっとどころじゃないでしょ! 後で宥めるの誰だと思ってるのよ!」
「ひゃっひゃっひゃ。すまんすまん」
 そういって反省の色も見られないやり取りに呆れ出したのか、全く仕方ないんだからと諦めの嘆息を吐く愛孫。
「でも懐かしいわね。お祖父ちゃんのドラゴン様のお話。私も小さい頃、お祖父ちゃんにそう言われてよく泣き出してたっけ」
「そうじゃなぁ。今でも覚えちょるぞ、あの頃の泣き顔をな」
「やめてよね、私にとっては黒歴史なんだから……まさか代々までそのお話続けるつもりじゃないわよね?」
「ひゃっひゃっひゃ、それもええかもなぁ」
 お祖父ちゃん、と叱咤する声に定例の笑声。しばらくすると少年、もとい曾孫が柱の影からこちらを覗き見ているのに気付く。片手で合掌を作り、もう片方はおいでおいでと手招きのジェスチャーサイン。直ぐにはといかないものの、ようやく警戒を解いた少年は泣き潰れた顔を隠しながらも老父の傍まで歩んでいく。そのまま頭の上に手を置いてぽんぽんと優しく撫でると、少年はそれが気に入らなかったのか又は照れ隠しだったのか。
「爺ちゃんのバカヤロー、爺ちゃんなんてキライだっ!」
「こらっ! なんてこと言うのっ」
 悪態を吐き捨てて逃げる少年。それを追うは母親となった(かつ)ての少女。取り残されるは老いを重ねた一人の翁。
 気にした風もなく、むしろそれをいと可笑しく感じてか。誰も見ていない空間で、誰も聞いていない空間で、誰も居ない空間で。
 椅子に深く背凭れながら。柔らかな陽射しを浴びながら。
 揺り椅子は笑みを崩さない一人の老父を、ゆっくりと、ゆったりと、緩やかに流れては落ちる、時間(とき)の中へ、誘うようにその身を揺らしていた。


1.

 少年は激しく後悔していた。事実だとは思っていなかったからだ。
 父母も、御近所も、それらを束ねる長老も、皆が子供に聞かせる語物であると思っていた。
 だがそうではなかった。恐らく自分と同年代の子供たちも、今の自分と同じ心情にあるかも知れない。あの語物は嘘ではなかったのだ、と。
 今頃家の中で怯えつつ、これからの事についてどう振舞わねばならないか等、次は自分達の番じゃないか等、あらゆる畏れに身を震わせている事だろう。
 尤も屋内ではなく、屋外で、かつ雁字搦めに縛られた状態で、木製の檻の中に投獄されている自分がそんな事を言えた義理ではなく、滑稽以外の何物でもなかった。
 自分に非があるといえば大いにその通りなのだが、何分納得がいかない。
 自分は唯のガキ大将で、他人を困らせる事が大好きなだけだというのに。あれしきの悪戯で堪忍袋の尾が切れる等、少し忍耐力が足りないのではないのだろうか。
 時刻は夕刻がもうじき暮れ落ちる頃か。山中は山麓と比べて日暮れが早い為、まだ平気だと思っているとあっという間に暗闇の世界へと成り変る。だからこそ、お仕置きとはいえ丸一日中そこへ放りっ放しにするつもりでもなければ、ここいらで助けの一つは来るものだと思っていた。
 その望みも絶たれた現状、少年の心中では焦りによる懸念で埋め尽くされ、次第に色濃くなる恐怖感は夜が訪れる度に翳りを増していく。
 それでも冷静で居られたのは、泣き喚かずに居られたのは、唯只管に「ドラゴン様なんて居ない」と否定し続けているからこそだ。 置き去りにされる際、一緒に運んできた壺の中身を頭から全身にぶちまけられた為、身体中が酒臭いというのもある。濡れた衣服が乾かずこのまま夜に突入すれば凍えてしまう不安もあったが、幸いな事に今は夏至。まだ少し湿ってはいるが、何、直ぐ乾く。
 それにこの行為も、拘束も、牢獄も、少年の頭の中では供物の準備ではなく、別の意味にあることを見出していた。これは生贄ではなく、獣避けとしての準備である。飽くまでも童子に反省の心を叩き込む一つの折檻であると思っていた。
 だがそこに確たる自信はない。それでも、そう思わねば、思い込まねば、自らの恐怖心に押し潰されるだろう事は少年の頭でも解り切っている事だ。言わばそれは少年なりの精一杯の抵抗でもあった。
 宵の口はまだ木々のざわめきや、獣達の遠吠え、野鳥や蟲の鳴き声、己の独り言等、そうした雑音が少年の気落ちを免れさせていたが、それすらも掻き消えると等々己の呼吸音までもが聞き取れる位に静かになっていた。元々夜は静かなものだと知ってはいても、この静けさは異常過ぎた。
 まるで――自分は既に死んでいるのではないかと。自分は既にドラゴン様に食べられているのではないかと。
 そう思ってしまってもおかしくない程に静かだった――が。
 微かに。ほんの微かにだが静寂を破る音がした。研ぎ澄まされた感覚が捉えるは異質の雑音。もしや――と思うも直様にその不安を頭ごと振り払う。気のせいだと。自分がびくびくと怖がってるからそんな幻聴が聞こえただけだと。憐れなまでに、頑なに、少年はその存在を否定する。しかし。

――ガサリ――

 ならば何故物音がするのか。解る事はこれが幻聴ではない事。確かにそこに何かが居り、何かがここにやってくる。断片的に続く音は徐々にだがその勢いを増している。
 嫌だ。食べられたくない。死にたくない。
 そう思うのも仕方のない事だった。誰だって死は怖い。それが理不尽な死なら兎も角、自分が蒔いた種であるとしてもこんな死に方は望んでいない。望みたくもない。誰も望まないだろう。
 音が迫ってくる。直ぐそこに居る。何時藪の中から飛び出してきてもおかしくはなかった。
 自然に体が身を引いた。拘束されはしても位置をずらす事だけならできる。しかしそれだけだ。直ぐに少年の背へ無常な壁が立ち塞がると、何処にも逃げられはしないと背中越しの感触が現実を物語る。
 音が藪から飛び出すのと、少年の絶叫が重なる。訳の分からない恐怖に押し潰される感覚は血反吐を吐き出す様でもあった、が。
 その眼が捉える光景は俄には信じがたいものだった。
「う、兎……? な、何だよ……脅かすなよな」
 寧ろそれはこちらの台詞だと言わんばかりの様子で兎は首を傾げる。直ぐに何処かへ行くだろうと思いきや、好奇心が芽生えたか兎は少年との距離を詰め始めた。
「何だ? 悪いけど食い物なんて持ってねーし、俺は食べられねーぞ? っと、ひとつだけあったな。この縄やるから解いてくんねーかな。なんて無理だよなぁ……」
 そう一人ごちていると兎は方向を変え、壺の上へ飛び上がるとあろうことかそのまま壺の蓋を器用にもずらしていくではないか。
「お、おいおい。マジかよ……お前、ちょっとこっちの縄何とかできねーか? 頼むよ後で何でもしてやっからよ」
 少年がそう懇願するものの、しかし兎は何処と無くといった態度。痺れを切らした少年が兎への距離を縮めようと身を引き摺るが、後一歩の所でバランスを崩して地面に顔面を打ち付ける。鼻っ柱からまともにいった為か苦鳴を漏らして蹲り、そんな事をしている内に兎は壺から身を降ろして何処かへと消えてしまった。
「あっ! おいっ、待てよ、待ってくれよ!」
 一縷の希望が見えたと思いきや、つまらぬミスでそれを逃した事に後悔の念を隠せない。何をやっているんだろうかと自嘲の呼気を漏らす。
 起き上がる気力も失せ、何もかもが絶望的で諦めの気持で一杯になる。このまま目を瞑って何もかもから逃げ出そうかとも考えるが、結局起き上がる事にした。先程のダメージが今頃効いてきたのか鼻血が出ている事に気付き、寝転んでいると呼吸が苦しく、最悪窒息死しかねない。
 ずりずりと身を起こしては引き寄せ、壁に背凭れた所で何もない前方をぼうっと見つめる。さっきの兎が消えた方向はこっちだろうか等、もう一度こないだろうか等、鼻の痛みを紛らわそうと思考に更けていると、雲間に隠れた月光が地上を照らした。
 そういえば月には兎が住むという話を聞いた事がある。彼らはそこで餅を突き、地上を見下ろしているのだとか何とか。ならばあの兎は肴を探しに降りてきたのか、もしくは肴以前に酒が無かったのか。
 それ以前に月に兎が住むのを誰が確かめたというのか。馬鹿馬鹿しいし迷信で子供だましでしかないと思考を隅に追いやった。自分もその子供ではないかと言う話は兎も角も。
 先程の兎の所為ではないと言い訳を他所に少年は揺らいでいた。何が何でもこの現状を打破し、脱出しなければ命の危機だとそれしか頭に無い。恐怖心が引き金となり、少年の中にあった冷静さは砕氷する間際であった。今尚も(ひび)が走り続けるそれを食い止めんと目を瞑り、必至に打開策を考える。必死に死とは真逆の想像を創り上げる。
 そうしている内は恐怖心も僅かではあるが緩和されていく。しかし完全に拭い去る事が出来ないのも又事実。現実から目を背けた所で事態が好転する事は無い。寧ろその変化を目に出来ない分、見開いた先の光景の過程に驚きを隠す事は不可能に近い。故に、恐怖心が増幅する事も又、大いに有り得る事だった。
 その変化が、今。
 少年の目前に訪れていようとは、降り掛かっていようとは、思いもしなかっただろう。
 目裏越しに貫く月の明るさがその変化の兆しを齎した。不意に落ちた翳りを、月が雲間に隠れただけだろうと少年は思い込むが、本当にそうだろうか。
 少年はそれを確認していない。己の眼でそれを見ていない。
 心が、思考が、暗雲に覆われる。罅割れの鼓動が早まっていく。寒気で身の震えが止まらない。全てを――否定出来ない。
「ドラゴン様なんて居ない……居る訳が無い……」
 己の耳にも聞き取れぬ程に低い声で、少年はおまじないの様にそれを繰り返す。呪いの様に繰り返す。必至に、必死に繰り返す。呪詛の如き妄信を以て。
 風の音が聞こえない。鳥の音が聞こえない。獣も何もかも音が聞こえない。
 在るのは己の鼓動のみ。張り裂けそうに爆発する心音は恐怖が織り成す化物へ位置を知らしめかねない程に鳴動を続けている。
 最早我慢の限界だと、少年は瞼を見開いた。己の眼で空を見た。
 そこにあるのは月だった。丸い、丸い月だった。
 丸い、丸い、二つの月が。
 金色(こんじき)に輝く双眸が。
 
 月をも隠す巨大な大蛇は地上を飲み込まんばかりの様相を以て。
 現実と対峙した少年は地上から姿を消した。
 幸か不幸か。
 少年の記憶にその一瞬が刻まれる事は無く。
 何処までも昏い深淵の中へ飲み込まれていった。
 
 
2.

 何処と無く声が聞こえる。
 誰を呼んでいるのか。その声は頻りに目覚めを促す様に呼び掛ける。
 その対象が自分であると気付くのに数分を要した所で、ようやく少年は重い瞼を開く。
「おお、気が付いたか坊主」
 やけに薄暗い中、壮年の男が少年の傍で一人喜んでいる一方、少年はここは何処なのかと周囲を見回したりと現状把握に忙しい。
「アンタ、誰だ? ついでにここは何処なんだ?」
「おや、人に名前を尋ねる時は自分からと、親から教わらなかったかね?」
「見ず知らずの他人を迂闊に信用しちゃいけないんだぜ、おっさん」
「……はっはっは。こりゃ一本取られたなぁ」
 本当は親から教わってはいたが、何分見た目がぼろぼろの服装に加えて不潔感を漂わせる容相と据えた体臭を撒き散らしている。こんな怪しい浮浪者紛いの男を初対面で信じる方がどうかしていた。それを指摘しなかったのは少年が礼節を慮ったからではなく、浮浪者の腰元の存在に気付いての事である。
「確かに坊主の言うとおりだ。だがここではそういう考えは捨てた方がいい。生き延びたけりゃあ、な」
「どういう意味だよ?」
「ん、お前さん覚えとらんのか? 自分が何故ここに居るのか、何をしたのかを」
 考え事をする際、誰しもが何かしらの癖を持っている。例えばこの少年は腕を組む癖があり、それが出来ない少年は己の身に置かれた状況を思い出す。
「……アレは夢じゃなかったってのかよ」
「そういう事だな」
「つーかよ、おっさん。何でこの縄解いてくれなかったんだよ」
「おや、迂闊に他人を信じちゃいけなかったんじゃないのかね?」
「……さっきその考えは捨てた方がいいとか言ってなかったか? おっさん」
「はっはっは」
 笑いながら冗談を垂れる浮浪者と笑えない冗談に気を悪くする少年。腰元の切れ物を手に取る浮浪者の姿は少年から見てぞっとする光景だが、不安が的中する事はなく無事に拘束が解かれる。一応礼は述べ、その場で屈伸をしては凝り固まった体を解していく。
「しかしアレが夢じゃないってんならよ、俺死んじまったのか?」
「ワシが幽霊に見えるかね? 一応両足ともあるつもりだがね」
 浮浪者がおどけた仕草で二本の脚を上げ下げすると「何ならこのまま回ってもいいんじゃぞ?」と追加する。いらないと即答するも聞く耳持たずと言った感じで、浮浪者は回るだけでは飽き足りないのか口笛も流し始めた。一体何が楽しいのだろうか。
「おっさんが幽霊じゃないのは分かったよ。とりあえず俺も一応生きているとして……じゃあ、ココは何処なんだ?」
「わざわざそんな質問をする必要があるのかね? まぁ聞かれたからには答えるがね。ここは……監獄じゃよ」
「……監獄? ドラゴン様の体内じゃなく?」
「おっと、少しばかり抽象的だったかね。まぁ気にしないでくれ。ワシがそう呼んでいるだけだからな」
 意味深な言葉だが決して不可解という訳でもない。それ以前に少年が聞いた御伽噺(おとぎばなし)は、罪人はドラゴン様に食べられるというもの。ならば生きている間はここはそういう場所でもあるのだろう。
 (いや)、御伽噺ではないか。何せ実在しているのだから。
「さて、こんな所で話すのも辛気臭いじゃろ。ほれ、そこの壺を持て。ワシのアットホームに案内してやるぞ」
「……おっさん、こんな所に住んでるのかよ。物好きだな……」
 物好きという言葉も適切ではないと思うが。
「住めば都と言うじゃろ? はっはっは」
 生物の体内を都と評するのも如何かと思うが、事の成行の整頓や今後について考える時間が必要だと判断し、少年は大人しく指示に従う事にした。然うしている内に浮浪者は手馴れた手付きで壺を持って奥へ進んでいく。直ぐに自分も残る壺を持って後を追おうとするが、どうみても目前に映るそれは壺ではない。
「おい、ちょっと待てよおっさん」
「おや、どうしたかね?」
「どうしたもこうもねーよ、おっさん。アンタこんなでかい壺……もとい(かめ)(わっぱ)が運べると思ってんのか?」
「ふむ……。確かに無理じゃな」
 試しに持ち上げてみようとするが予想通りの反応で精々引き摺る程度が一杯だ。それだけならまだしも生物の体内という事もあって足場が非常に安定しない。踏み込む度にぐにゅり、と靴裏からでも分かる程に不快な感触を通してくる。
 しかし役割交代を望んだ所で少年が転ばずに担ぎきれるかどうかも怪しかった。どうしたものかと腕を組み、何か使える物は無いかと周囲を見渡す。ばらばらに砕かれた檻の残骸。先程まで少年が拘束されていた縄。それらを見て少年にある一案が閃く。
「おっさん。ちょっとその切れ物、貸してくんねーか」
「ふむ? それは構わんが何に使うつもりなのかね?」
「まぁ見てなって」
 思案している間に引き返してきた浮浪者は壺を降ろすと、腰元のそれを鞘ごと外して少年に手渡す。それを受け取ると少年は散らばった木片を一箇所に纏め、一つ一つの角を削り取っていく。ある程度丸みを帯びると次の木片を手に取っては同じ作業を繰り返し、全ての木片を削り終えるとそれら一つ一つを縄で括り付けていく。浮浪者が少年の作業を黙って見ている内にそれは完成した。
「ほう、器用なもんじゃな。まさかこんな所で(そり)が見れるとは思わなんだぞ」
「簡易的だから乱暴に扱ったら壊れるかもしれねーけどな。それでもまぁこれで少しは運びやすくはなるだろ?」
「うむ、見事なものだ。坊主は賢いのう」
「よせやい。ほら、これ持ち上げるの手伝ってくれよ」
 照れ隠しか、切れ物の柄で甕をコツコツと叩く。道具を持ち主に返し、二人がかりで甕を橇の上へと移動させると残りの壺も空いたスペースの上に纏めていく。後は引き綱を誰が勤めるかだが、どちらかが指摘する事もなく浮浪者がそれを握る。効率の損得から考えてもその方が自然であるのだが、少年は未だに浮浪者の一挙一同を訝しんでいた。
「おや、どうしたね? 案内すると言った手前、ワシが先頭を勤めるのは当然じゃろ?」
「……ああ、そうだな。よろしく頼むよ、おっさん」
 自分をどうにかするチャンスは幾らでもあった。それを反故にして節介を焼くばかりか、護身の道具にもなるそれを容易く手放したりと、少なくとも向こうに敵意は無いと判断する。
 最初から最後まで言葉に虚や偽りはないのだろう。恐らくは。
 道案内が口実であるのは目に見えていたが、とりあえず少年は浮浪者の言葉を信じてやる事にし、揺れ動く壺と甕を抑えながら、竜の顎門の奥へ歩を進めていく。
 その判断が安心感によって齎された結果である等と思わなかったのは、少年也の抵抗か、無意識か。
 事態は徐々にされど急激に。木から落ちる果実の如く、物語は加速する。
 しかしながらそれを知る者は神以外の何者も居ない。


3.

 気球。
 それは航空機の一つで、人間が飛行する為のひとつの道具らしい。仕組み云々を浮浪者が語ってくれたが、どれもこれも聞き馴染みのない言葉ばかりで少年はずっと腕組みをしたまま情報を整理している。しかし段々と面倒になってきたのか、最後には要するにこれは飛ぶ為の道具という事で片をつけてしまった。
「じゃあおっさんはその気球に乗って、事故でドラゴン様に食べられたって事でいいのか?」
「うむ、そうなるな」
「じゃあそれに乗って脱出したらいいんじゃないのか?」
「残念じゃが是はそう簡単に飛ぶ代物じゃなくてなぁ。ほれ、そこのビニールを見てみぃ。所々裂けてしもうとるじゃろ」
 確かに浮浪者の言うとおりあちこちに裂傷が見受けられ、どのような事故であったか安易に想像がつく。仕組み云々の匙を投げた少年の頭でもこれでは飛べない位の事は理解できた。脱出の駒になるかと期待を抱かせた少年だったが、それも叶いそうにないと知るや深く溜息を吐いて項垂れる。
「さて、坊主。次はお前さんの番じゃが、どういう経緯があってここに来た?」
「好きで来たんじゃねーんだけどな……」
 鬱々とした態度で少年は浮浪者からの問いに答えていく。少年の村、家族、村人、伝承、そしてドラゴン様。
 先程までは少年が浮浪者の語りに頭を悩ませていたのに対し、今度は浮浪者が少年の語りに頭を悩ませるかと思えば、実に興味深いといった態度で、真剣味を帯び過ぎてか浮浪者の双眸が限界まで見開いている。目玉すら飛び出しかねないその食いつきに、少年が本音を漏らしたならば「キモい」の一言に尽きた。
「ほっほぅ……そうなると坊主は罪人としてドラゴン様の生贄にされたと言う事か」
「けっ、何とでも言えよ」
 こちらとしては面白く無い大事件であったのに、童子の様に目を輝かせる浮浪者は最早どちらが童か分からない。
「しかし坊主の村人には悪いがの、ちょっとやりすぎじゃあせんかのぅ」
「……っだろ! そう思うよなおっさん! 何だよ話が分かるじゃねーかおっさん!」
「全くじゃ。子供というものは多少悪戯をする程度であれば良い。仮にそれが過ぎるようならば叱れば良い。しかし坊主が受ける仕打ちとしてはちと理不尽でしかないのぅ」
 理不尽。そう、理不尽。
 実質少年が犯した罪とは様々な悪戯こそあれど、どれもが死罪に値するものではない。少年の自白は浮浪者から見ても、恐らくは誰から見ても年頃の可愛いものでしかないと判決を下すだろう。それなのにこの体たらく。これを理不尽と言わずして何と言うのか。
 或いは。村人は何らかの、別の思惑を少年に乗せたのか。何れにせよ少年がその考えに至るにはもうしばらくの冷却が必要であった。
「全く、何だってんだろーな。俺が散々悪い事してきたのは認めるけどよ、それでもこんな仕打ちはねーよなぁ」
 やり場の無い怒りに震える身を掃うべく少年はその身を仰向ける。歩いている時は不快そのものの地面だったが、横になればなかなか如何した事か悪くはない肉感だ。硬い寝床の味しか知らない少年にとってその感触は極上の極みに尽き、疲労が蓄積していたのも相俟ってか微睡む様な睡魔に襲われる。
 浮浪者を前にしてこの無防備は自殺行為だと分かってはいるのだが、揉み込む様な肉厚の感触には抵抗できず、浮浪者の声も次第に擦れて聞こえ、少年の意識が闇に呑まれる頃には穏やかな寝息を立てていた。
 浮浪者もその姿を確認すると気球の籠から毛布を取り出し、少年の上にそれを被せては元居た所に戻る。
 何を思うのか。一人ごちる事も無く、浮浪者は瞼を閉じた侭、一人思考の海に旅立っていった。
 
 
 それから如何程の時間が経ったのか、或いは経過していないのか。
 少年は夢を見ていた。それは喜びも怒りも哀しみも楽しみもどれもが該当しない夢だった。
 少年の双眸に焼きつく二つの月。それは直ぐ間近に迫り、呼気の度に露出する舌の熱気が少年の肌を撫ぜている。瞼を閉ざそうにも身体の自由が利かず、月に睨まれる少年はこれから訪れる終焉を夢想した。絶対的な恐怖感が否定の選択肢を排除する。
 右を選んでも左を選んでもあるのは濁った色の連峰。鋭利の先に輝く光沢は少年が(からだ)を寸断される姿を描かせるばかりか、あらゆる物が(ばら)されても不思議ではない。
 二つの月が雲間に隠れ、何処までも昏い深淵が口を覗かせる。月も連峰も通り過ぎ、あらゆる物が黒に染まる。
 檻も。縄も。
 足首。太股。股。胴。肩。首。頭。
 存在までもが。
 
 
 悲鳴は出なかった。色濃い恐怖は、見えない恐怖は、時として恐ろしさよりも畏敬の念に摩り替わる。
 恐怖から発する悲鳴とは恐れの対象となるものへ向ける、たった一つの残された最後の手段。
 それは哀願で。それは懇願で。それは切願で。それは嘆願で。
 情願を以て救い求めるなけなしの言葉である。
 故に少年が悪夢から目覚め、一声の代わりに発したのは息詰まる呼気であった。
 眼前に映る、黒い二つの月が無ければだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 悲鳴。何処までも静寂を突き破る轟きが雷鳴の如く少年の口から発され、その場に居た者全てが突然の異常事態に跳ね起きた。
 少年は考えるが先に浮浪者の姿を探し、浮浪者は背に隠れた少年に裾を掴まれ、少年が指差す方向へ二人の視線が重なり合う。
「お、お、お、おおおおおっさん! ドラゴン様がおおおお俺を食べに来た!」
「む、うむ、むう。坊主、落ち着くのだ。む、うむ、むぅ、坊主……落ち、着く、のだ……ワシの首が……むぎゅう」
 擦れ擦れになる浮浪者の声に疑念を感じた少年は、己が手が浮浪者の首を絞めている事に気付き、慌てて裾から手を離す。危うく彼岸の向こうへと渡りかけた浮浪者が呼気を求めて咳き込むと、少年はその背を撫で擦りながらも視線は浮浪者ともう一方を交互に見定める。
「……ふぅ、危うく逝く所じゃったぞ坊主。一体何が如何したというんじゃ」
「如何したもこうもおっさん、目の前見ろよ! ドラゴン様が居るんだよ!」
「……のう、坊主や。坊主を喰ったのはそこに居るドラゴン様なのかね? ワシの目には坊主を丸呑みする程大きくは見えぬがなぁ」
 浮浪者に宥めらている間、少年が冷静を取り戻すまで数分を有した所で、頭の中に残る疑問を言葉に乗せていく。
「……じゃあ、あれは何だよ。確かに俺を襲った奴とは違うけど、人間でもないじゃないか」
「ふむ。先に紹介しなかったワシにも非が無くは無いかのぅ。あれはリザードン。ポケモンという生物の一種でワシの知合いじゃよ」
「……おっさんあんなのと知合いなのか? 友達、いねえのか?」
「はっはっは。何分ここを訪れた人間は坊主が始めてなもんでなぁ」
 そういう意味じゃないんだけどなぁと零す少年。おどける浮浪者を捨て置いて、リザードンだかポケモンだか聞き慣れない単語で呼ばれた生物を凝視する。
 三叉の爪牙に長い首、頭頂から伸びる二対の角。柑橘類より少し赤みを帯びた体に腹回りから尾の内側は白みを帯び、背から生えた翼は新緑なのか藍色なのかよく分からない。光も射さぬ空間をゆらゆらと照らす尾先の灯火が本来の色を歪ませているからだ。一度外に出ればその全貌をもっと詳しく見定めれるだろうが、害意が無い生物とは言い切れない以上近寄る気にはなれなかった。
 何よりも見た目こそ違えど、その姿は少年が想像していたドラゴン様の偶像に近いものがあり、故に浮浪者以上の警戒心を抱くのも無理からぬ事。それを察してか否か、浮浪者は少年に知合いの紹介文を連ねていく。
「まぁそう怯えんでいい。奴は見た目こそ怖いが根っこはいい奴じゃぞ。ほれリザードン、こっちゃ来い」
 少年に構わず浮浪者が赤竜を手招くが、肝心の相手は少年に対する興味が失せたのか欠伸をかくとその場に座り込み、長い首と顔を自らの胸に包めて眠りについてしまう。やれやれと浮浪者が頭を掻くと頭垢がぱらぱらと落ち、催す不快感に少年はその場を後退る。
「すまんな。どうもあっちは気分が乗らんそうだ」
「いや、別に構わねーよ。俺もそんな気分じゃねーしな」
「ふむ。彼奴が怖いか?」
「そ、そんなんじゃねーよ」
 図星を突かれてか強情を張る少年へ浮浪者は特に気にした風もなく接するが、表情だけは普段の戯けた様子を一片たりとも含まず、厳たる忠告を翳して問う。
「坊主、恐怖とは生きる事において尤も重要だ。それを感じる事は恥ではない。だが覚えておくのだ。獣も、彼奴も、人間も、同じ気持が在るという事をな。坊主が恐れ(おのの)けば戦く程、向こうも同じ分の恐怖を担わせる。大切なのは恐怖心を乗り越えて歩み寄る事だ。互いを知る心。そして知りし後に何を選択するか」
「お、おっさん……?」
「勿論ドラゴン様とてそれは例外ではない」
 鬼気迫る口調に圧されてか少年は浮浪者の一言一句を聞き流す事も、視線を逸らす事も出来ぬ侭じっとしている。否、聞かなければならぬと少年は感じていた。この状況下において自分が生存出来る未来が確定しない現状、先人の言葉が甚く心を打つ理由は語るまでも無い。それだけ自分等に置かれている状況は底が見えない。光遍く天すらも。
「……なーんちゃってのぅ」
「おい」
 突然素面に戻るな。おっさんの事を少しばかりでも見直したと思った感動を返せ。そんな少年のジト目も浮浪者にはてんで堪えておらず、あろうことか「ワシ眠いから寝るもんね」と言い出すが先に自分の毛布に包まって眠りの世界へ旅立とうとする。
 最早突っ込む気力が失せた少年もそれ以上は諦め、自分も寝直そうとして思い止まる。
 状況を整理しよう。
 Q1.夏至であるにも関わらず冷え込むこの気温(体温?)で、毛布も被らずに眠りにつけばどうなるか。そんな問題は答えるまでも無く解りきっている事だ。
 Q2.毛布は二枚でその内の一枚は浮浪者が使用中。そうなればもう一枚を使用するだけの解答だが、その一枚が問題だった。浮浪者が少年に被せたであろう毛布が、赤き巨体の枕として絶賛活躍中。
 Q3.どちらの毛布を奪う方が安全か。A.どちらも死亡フラグ。
 別に完全に打開策が無いという訳でも無い。浮浪者を叩き起こして毛布を取って来て貰う方法もある。だが浮浪者とあの赤竜は先の短いやりとりからしてあまり仲が宜しい様には見えないし、何より少年にもプライドというものがあり、これ以上の失態を晒すつもりは無かった。
 かといって浮浪者と枕を並べるかといえばそれも失態というより誰が得するのか。間違っても少年にそんな気は無いし何より汚臭の根源の傍で眠りにつけるかどうかも怪しい。元より試す気等更々無いが。
 よって結果的に少年が選ぶ解は人外の下へ歩み寄る事であった。一体何がどうしてこうなってしまったのだろうと少年は己の不運を呪いながら、重い足取りで距離を詰めていく。
 残り十歩を切った所でこちらの気配に気付いたのか、長い鎌首をもたげた赤竜は訝る視線を少年に投げかけ、その気迫に少年の足が止まる。
 怖い。見られているだけで怖い。見るだけでも怖い。存在そのものが怖ろしい。何よりも――少年の眼前に焼きついた二つの月が、金色に輝く双眸が、何処までも少年を睨みつけては逃さない。
 凍て付く背筋に両脚が震える。温かい家に帰りたいと胸の内が幾度も戸を叩く。視界の端から端までが歪んで何も見えなくなるが、構わずに少年は一度停止した足を前に出す。緩慢で、小さな歩幅で、それでも確実に、ゆっくりと。
 赤竜は少年の動作に動じる事も無く一部始終を黙して見つめる。そうして目と鼻の先まで接近を許した所で、少年は赤竜との視線を逸らさずにゆっくりと毛布に手を掛け、引きの手を見せた所で赤竜が動いた。
 何か動きを見せれば即後退るつもりであった少年だが、恐怖心が限界を超してか少年の両脚を麻痺させていた。訪れる命の刹那に眼を閉じると、直様に激痛が走り、痛覚に悶え苦しむ姿を想像した。
 しかし訪れたのは激痛でも無ければ凍て付く寒気さでも無く、毛布に包まれた時の温かさ、否、それ以上の温みを全身に感じていた。
 恐る恐ると瞼を開いた少年の眼前には、毛布ごと自分を包む赤竜の姿と、暗闇を照らす灯火が視界を埋め尽くしていた。
 未だに何が起きたか解らず、鼓動は恐怖心で早鐘を打ち続けているが、肌越しに伝わる体温と規則的な鼓動が少年の不安を忘れさせ、少年の鼓動が平常に鳴る頃には一人と一匹の静かな寝息が重なり合っていた。
「ふむ」
 静けさを破る事もない呟きを吐く浮浪者は各々の姿を見届けると「取り越し苦労であったかの」とこれまた小さく呟き、灯火から背を向けて寝返る。
 その輝きは老いた瞼を通り越し、朝夕も判らぬ時間の中で強く燃え続けていた。


4.

 少年が神隠しに遭ってから半年程の月日が流れた。
 失踪した少年を噂する者は最早居らず、少年の存在を知る者も居ない。
 両親ですら少年の安否を思う事も無く。
 悪戯に時間が流れていく。
 風と共に、古びた村を。
 
 
 
 
「悪い、おっさん。今日も収穫取れなかった」
 何処までも深淵が続く竜の体内を紅蓮に染める灯火と共に少年が闇から這い出してくる。少年の報告を浮浪者は咎める事も無く、無言の侭沈黙が流れる。
 少年の働きに呆れている訳ではない。静かな憤慨を立てている訳でもない。文字通り浮浪者は沈黙せざるを得ない程病に伏せていた。倒れたのが何時かは覚えていない。数える事を止めてしまった少年に出来る事は今日明日の飢えを凌ぐ為の食扶持(くいぶち)を探す事だけだ。
 彼是数年をこの地で過ごした先人曰く、竜は冬眠の時期に入りて眠りについたのだと教えてくれた。何でも呑みこむ程の悪食なのか竜は定期的に体内へ異物を招き入れる。それがぷっつりと途絶え、加えていつもより冷え込む気温からも時季は冬を迎えているのだろう事を少年は悟る。
 壺や甕の中身は当の昔に枯れ果てていた。それでも何か無いかと少年は手を底の隅々まで探るが、手応えを感じて掴んだ物は何かの弾みで紛れた小石。掌を見つめる少年は飢餓感の苛立ちからか、力の限りにそれを打ん投げたい衝動に駆られるも、それを抑えて掌を返す。無駄な体力を浪費する余裕も残っていなかった。
「坊主……ワシの事は……気にするな……」
「何言ってんだよ。何時かここを脱出するって決めただろ? おっさんも、それに賛同してくれたじゃないか」
 最早擦れ擦れで傍に居ねば聞き取れない浮浪者へ少年は不安の眼差しを零し、何時離れてしまうか分からぬ浮浪者の手を強く握る。
「そう、じゃったなぁ……ワシとした事が、軽はずみな賛同じゃったなぁ」
「軽はずみだろうが何だろうが、賛同は賛同だろ」
「すまんな坊主、ワシはのぅ……元々ここを出る気は、無かったんじゃよ」
「……どういう、事だよ?」
 虚ろな眼は何処を見ているのか、少年でなく正面の天を見据えている。飢餓の影響は深刻で浮浪者の双眸は既に光を失い、恐らく灯火の揺らめきすらも視認出来ないだろう。
「何時ぞやに、坊主がここは何処だと……質問に返した言葉を、覚えておるか」
「……監獄。で、でもよ。そんなの脱出すれば――!」
「そうではない。その言葉は正しいのだ。ワシにとって、ここは監獄でしか無いのだ」
「分からねーよ、おっさん。おっさんは事故でここに来たんだろ? それがどうして監獄になるんだよ。むしろ監獄なのは俺の方だろ」
 怒気によってか少年は普段よりも冷静ではなかった。焦りが少年を乱し、恐れが少年を蝕んでいく。
「分からなくとも良い。坊主、生きたければ……躊躇う……な」
「おっさん! しっかりしろよ、おっさん!」
「坊主、彼奴を宜しく頼む……」
「ふざけるなよおっさん! 目ぇ開けろ! 開けろって!」

――すまんな坊主。
――×××、後を頼む。

 擦れた言葉は残る二言を風に乗せる事無く。
 少年は浮浪者の胸上で静かに泣き、虚空見つ赤竜は逝きし者の遺沢を聞き届け、()ぞ彼へ向けて、己が木霊を悠久へ熨せる。



 涙は涸れ果てた。声は萎み、身の力も風前の灯。一秒が流れていくにつれ、少年も同じ道を辿り帰る。
 されど少年の眼は未だ死してはいない。何時か帰るべき場所へと帰る為に。生きる事だけを意思として。
 だが如何程気力を糧にしようとも、過ぎ行く時間の呪縛は少年と赤竜の命を確実に削り取っていく。

 一時でも飢餓を忘れる為に少年は眠る事にした。もうこの土地に食物は無い以上、体力の消耗を少しでも抑えようとしての案だ。
 しかし肌を突き刺す寒気は少年に眠る事を許さなかった。震える少年を赤竜が抱き抱え、少年もその身を寄せ合って暖を取る。

 一秒。十秒。一分。十分。一時間。十時間。一日。十日。
 どれ程の時間が過ぎたのか。
 霞む視界。目下には巨大な隈。頬肉は空洞が出来る程に削げ落ち、骨には皮が張り付いただけの様相。赤竜が少年の頭を撫でると頭髪が指に絡んで抜け落ちた。
 もう――限界だった。
 はらりはらりと落ちる頭髪は、少年の命そのものを表していた。命が剥がれるその刹那はもう直ぐそこまで来ている。


 赤竜は待っていた。
 亡き友が託した(めい)を、少年が実行する事を。
 だが少年は動かない。どれ程見つめようとも、どれ程語りかけようとも、どれ程身を寄せ合おうとも。
 少年はその言葉の真意に気付かない――。
 故に赤竜は覚悟を決めた。


 不意に寒気が少年の身を突き刺した。幻が掻き消える感覚に少年はうっすらと瞼を開ける。
 霞む視線の先に赤竜の姿は無い。何処へ消えたのかと視界を巡らすと少し離れた所を歩いている姿を見つけ、呼びかけようとして涸れた声をあげるも赤竜が振り向く様子は無い。元より声等無く、自分が声を出していると思い込んでいるだけかもしれなかった。
 呼び続ける事にも疲れ、座した侭沈黙を以て赤竜の背中を見つめる。尾先の灯火は以前よりも小さく映り、少年と同じく消えかけようとしていた。
 何をしているのかと少年は唯唯考える。零から一に進むまでの距離は果てしなく遠く、少年が解に辿り着くまでにどれ程の時間が掛かるだろうか。永劫に終らぬ自問自答へ少年が意識を手放そうとする矢先の事。
 異変は起きた。異変が生じた。異常が形を成し、産声が少年の耳を裂く。
 何が起きているのか、直ぐには分からなかった。第二の産声で少年はその正体を掴み取る。

 これは――肉を裂く音だ――。



 赤竜は考えた。
 こうならない事の他の方法を。
 何度も幾度も考えた。
 狂いが生じたのは赤竜の持つ身体能力であった。
 人間はとても――脆い事を。
 自分が死するよりも早く少年に死が訪れるだろう事を。
 自分が思う以上に少年は長く生きていない事を。
 如何な修羅場を潜れど――胸に抱いた少年は未だ幼子でしかない事を。
 故に赤竜は覚悟を決めた。
 自分も少年も生の時間を延ばす為の方法を。
 亡き友を喰らう事を。


 少年は恐れた。
 背中越しとはいえ、赤竜が喰らっているそれは間違い無く、間違い様が有るはずが無く、嘗て時間を共にした一人の男である。
 何故だ。浮浪者は赤竜にとって主従を結んだ間柄では無かったのか。
 死して尚続く絆が双方にはあったはずだ。それすらも少年の勘違いであったというのか。
 死せば――全て幻想と成り果てるのか。
 懐疑心。不信感。嫌悪感。激しく込上げる流動が逆流を起こし、少年は目前の現実に酔い痴れて嘔吐(えず)き出す。吐瀉する物すら無いというのに身体は必死に胸から湧き出す何かを追い出そうとする。胃液でも溶かせぬそれは如何程に禍々しいというのか。
 一頻り嘔吐いてようやく落ち着きを見せる頃、食事を終えたのか、視界の端に映る赤竜の姿を、食い入る様にじっと見つめる。
 可能ならば少年は振り返りたくは無かった。赤竜の顔を見たくは無かった。今の彼は恐らく、あの竜と同じ目をしているだろうから。唯、そこに確信は無かった。
 少年の記憶には決して傍を離れる事無く、常に自分を危機から遠ざけてくれる一匹の赤竜の姿が在った。それが容易く崩れ落ちる程、少年と赤竜の間は浅くは無いつもりだ。
 だからこそ少年は恐る恐るながらも顔をあげる事が出来たのかも知れない。目裏に焼き付く金色の双眸と対峙する事が出来るまでに。
 元より赤い赤竜の口許は血に塗れてか、薄暗さも相俟ってその体色をより一層闇に染めている。だが瞳に宿るその色は依然と変わり無い優しさをたたえている。何処までも雄々しく、眩い輝きを以て、少年の全容を貫き通す。
 赤竜が狂った訳では無い事を少年は理解するものの、赤竜の行動については俄然として不可解だった。
 赤竜が人語を解せたならばこの様な擦れ違いは生まれなかったかも知れない。だが言葉にする事の方がより擦れ違う事も大いに有り得る事実であり、それを思えば少年は恵まれていた。どちらの意味であったとしても。
 赤竜が少年を抱き抱えんと血塗れの腕を伸ばす。少年は抵抗するでもなく赤竜の胸元へ抱き止められ、何処へ向かうのか少年を抱えてその身を揺らす。
 緩やかな振動に何処と知れぬ感覚を覚え、少年は胎内へ回帰して逝く錯覚を見た。もし後数歩程歩いていたならば、少年の意識は手放されていたかも知れない。或いはその方が少年の為でもあったのだろうか。
 地に降ろされた少年は初めにその臭いが分からなかった。嗅覚が弱りきっていた事もあるし、視覚による事前の情報が無かった事もある。
 赤竜が見下ろす視線の先が少年では無い事に気づき、少年もそれに釣られて視線を下ろす。見下ろして、直ぐに逸らした。
 思い出したのだ。漂うこの悪臭こそ血の香りだと。嘗ての浮浪者は最早生前の姿を留めて居らず、無残に腹を食い荒らされていた。それを実行したのは、死体から目を背けた視線の先に映る、返り血に染まった赤竜だ。
 不可解だった。何故優しき赤竜が浮浪者を喰うのかを。
 だが、本当は解ってはいた。少年は唯、認めたく無かったのだ。
 少年の口許に赤竜が口を重ねる。咽ぶ血臭と死臭、混入される異物へ、少年は何処にその様な力を隠していたか、赤竜の顔を跳ね除け、それを吐き出した。
 解ってはいた。しかし頭で幾ら理解していようとも、少年はその選択肢を頑なに拒んだ。人が人を喰らう悪夢を。
 生きる為ならば仕方の無い事だと誰が咎められようか。人を創り上げた神ですらこの場に置いて咎を落とせるものか。
 人だけではない。生ある者全てが罪深い。生きる為には他者の命を喰らわねばならない事を。
 浮浪者が少年に残した遺言とは、そういう意味なのだ。それを見越した上で己を食べよと告げたのだ。
 そんな(カルマ)を背負える程、少年は人が出来ていない。否、時間が、出来ていない。
 だからこそ遅れた。だからこそ迷った。己が生の執着に。
 そして。タイムリミットが訪れても尚未だ迷う少年を、赤竜は手を引き、眼で告げた。

――生きろ、と。

 赤竜の手が少年の顔を正面に寄せ、再び口許を重ねていく。
 涎と、血と、肉片を、口許から零しながら。
 死色の糸を、幾重にも折り重なねながら。
 命は、紡がれていく。
 限りある命が。


5.

 一陣の風が吹いた。
 風の中に含まれる季節の香りから少年は冬が終る事を悟る。同時に、それは竜の目覚めが近い事をも指していた。
 少年の風貌は酷い有様で、痩せた身はそのままに衣服を含めて全身が赤黒く染まっている。しかしながら少年を手元に抱く赤竜の体色に紛れてか、一人と一匹の姿は何処と無く、元より一つだったのでは無いか。
 懐かしむ様に風の匂いを胸一杯に吸い込み、深呼吸を吐く。もう一度、更に一度と繰り返した所で、少年は擦れた声で赤竜に語りかける。
「なぁリザードン、この風の匂い、どう思う」
 少年の問いに赤竜が喉を鳴らして肯定すると、少年もそれに続いて不適に笑い、風が吹く方向に向けて小さく鳴く。
「行こう。俺達が待ち望んだ、外に――」
 赤竜が頷くのを確認すると、最後に気球の下へ立ち寄る。バスケットの中の白骨化した骸を確認してから、少年は悲しくも涙は見せまいと表情に力を入れる。
「おっさん、色々世話になったな。正直言うとさ、もう駄目かなーって思ってたんだけどよ。案外しぶとく生き残ってるぜ。こいつが無理矢理俺を生かしたもんだからよぉ……」
 直ぐ傍で長首を覗かせる赤竜の頭を少年は乱暴に撫でた。
「本当はもっと色々話したい事あるんだけどさ。悪いな、折角の脱出のチャンスが何時無くなるか分かんねーんだ。だからもう行かなきゃ」
 眼前の髑髏はじっとこちらを見据えた侭何も語らない。けれど少年にはその骸が「気にせんでええ」と笑みを向けている気がした。それが少年の気休めであったとしても、少年は唯唯信じたかった。一人の男が授けてくれた残りの生命の声を。
 別れの言葉を告げようとする所で、ふと赤竜が何かを探している様子に気付いて声を掛けると、古びたバックパックを口に咥え、それを少年の前に突きつける。
 赤竜の行動の意図は分からないが、形見代わりに持っていけとでも言う事なのだろうと解釈してそれを受け取ると、中身を見ろと催促するように鳴き続ける。言われる通りにバックパックの蓋を開けて見ると、やけに大きな白い塊が頭を覗かせていた。
 そして未だ疑問であった浮浪者の言葉の意味をようやく理解する。何故浮浪者が頑なに脱出を拒み、監獄に留まっていたのかを。
 事故に遭ったのは一人と一匹では無く、二人と一匹だった。その一人がどういう経緯で他界したか、それを知るのは赤竜しか居ない。唯、分かる事が一つだけある。赤竜は執拗にそれに対して鳴いていた。主従を結んでいたのは浮浪者では無く、亡き一人の方であったのだ。赤竜が浮浪者に懐かなかったのは、赤竜がそう望んだのか、浮浪者がそう望んだのか。託された少年にはその解を知る手立ても無い。
 少年はバックパックから頭蓋骨を取り出すと、それをバスケットの骸の横に置く。
「これでいいんだよな、リザードン」
 その答えは問うまでも無い。互いに黙祷を済まし、今度こそ少年は別れの言葉を告げた。
「それじゃあな、おっさん、さよなら……おやすみなさい」
 やや軽くなったバックパックを背負い、赤竜に合図を告げる。風の勢いがやや弱まっている感じからも、残り時間は少ないだろう。ちんたらと走っていては間に合わないし、それ以前に走れる程の筋力も奪われている。その為の合図だった。
 赤竜が身をやや屈めた姿勢へ少年はゆっくりと背中に乗る。飛翔の際に羽ばたく翼の邪魔にならぬ様、赤竜の長首に手を回して位置を固定した所で、第二の合図を赤竜に伝えた。
 赤竜の全身に膂力が走り、不安定な足場にも拘らず地を蹴って飛翔すると、自慢の翼を以て風を裂いた。
 早い。予想していた以上に赤竜の滑空は速かった。振り返りはしないけど、きっともう気球の影すら見えないだろう。
 全身を叩き付ける風の抵抗を少しでも受け流すべく、身を伏せて耐えていると光が見えた。疑うまでも無く太陽の陽射しだ。
 連なる連峰を潜り抜け、そして少年と赤竜は竜の口を飛び出した。全身に降り掛かる陽の光が酷く懐かしく、温かかった。
 だが脱出してそれで終わりでは無かった。竜の眠りは醒めていた。
 背中を突き刺す強烈な視線に少年は首だけを背後に向けると、古今と変わらぬ金色の双眸がそこにある。
 対峙する少年は恐れるでも無く、あろう事か赤竜に地面に降りる様命令を下す。
 地に足が着き、改めて少年が天を仰ぎ見ると竜は太陽を隠して二つの月を輝かせていたが、少年も赤竜も黙した侭その場から動かない。その眼に宿る揺らめきは炎の様で太陽でもあり、畏れの欠片は何処にも見られなかった。
 それを凝視する竜は突如に唸る咆哮をあげ、最後に一瞥を返してから天へと昇り、雲間に隠れて見えなくなった。
「――さよなら、ドラゴン様」
 そう述べた少年は遮るものの無くなった太陽の輝きに、手を翳して影を作り、竜が消えた切れ切れの雲間を何時までも見上げていた。


6.

 山や川に囲まれ、人の足もそれ程多くない地にて一つの村があった。
 そこは昔から神隠しの風習があった。
 ある時は罪人を公正する為に。
 ある時は感謝の念を捧げる為に。
 ある時は危機より守りたまう為に。



 雲一つ無い大空を翔る様に滑空する一匹の赤竜とその手元に抱かれる一人の少年が居た。
 赤竜と少年は酷く痩せこけており、どちらも空の旅を優雅に楽しめる容態とはいえない。特に少年の方は何があったのか、意識は無くぐったりとしている。
 通常空の旅を行う場合、多くのポケモンは主を背に乗せて飛び、行動の自由を阻害する事は無い。身体の造形によってはやれなくもないだろうが、危険性を伴う以上リスクは避けるのがセオリーである。
 ならば今空を滑空するこの赤竜は、何の理由があってリスクを背負っているのだろうか。
 事のあらましは数時間程前に遡る。


 竜の口から脱出した少年は赤竜と共に村の入口まで訪れていた。
 生きて帰ってこれた事と、久々に逢う村人や家族の顔が楽しみであった少年は入口から一声を叫んだ。しかし声に反応する者の姿は無く、もう一度呼びかけてみるが結果は同じだった。仕方なく赤竜を引き連れて村の中を捜索するも村人の姿はおろか生物の気配が一つもしなかった。
 嫌な予感に駆られ、少年は嘗て自分が暮らしていた家を目指して両親の姿を探す。外も、他所の家も、自分の家も、何処にも両親の姿は無い。どういう事なのか分からない侭、少年は赤竜に凭れる様に身を預ける。
 きっと皆村の外へ出かけているだけだろう。夕刻を過ぎれば帰ってくるはずだと、当ても根拠も無い理由を作って少年は待ち続けた。
 一夜が過ぎ二夜が過ぎて三度目の朝を迎えても、村人は誰一人も戻らなかった。まるで神隠しにあったかの様に全てが消息を絶っている。或いは少年の神隠しはまだ終っていないのか。
 もう一夜だけ待ってみようかどうか、少年は赤竜に反応を仰ぎ見る。赤竜は首を横に振るだけで決して縦に頷く事は無かった。少年も赤竜も、言葉にせずとも理解していたのだろう。
 この村に残っているのは死のみであると。
「リザードン、俺どうしたらいい? (てて)(かか)も村の皆も誰も居ない。帰る場所すら無いなんて、俺何の為に外に出てきたのか分かんねぇよ……」
 それが少年の残した最後の言葉だった。
 少年が業を背負ってまで生に執着したのは、何時か帰る場所へと帰る為にだ。
 その望みが根絶から絶たれた今、少年を支えていた気力は糸が切れたかの様に力を失い、考える事すらも止まってしまっていた。
 唯一匹、赤竜だけはそうではない。
 赤竜が望む未来は脱出しても尚変わらないものだった。
 主従を結んだ本来の主から、浮浪者から、託された命を頑なに守り続ける。
 自らの命が尽き果てるまで、灯火が掻き消えるまで。
 赤竜は少年を生かし続ける。
 妄信的なまでの愛を以て。




 一つは吉報を。一つは凶報を。
 数年間何の報せも無い侭、行方知れずとなった主の情報を背負ってその少年は訪れた。
 少年が何故それを持っていたのかは分からないし、何故主しか知らないはずのノックを知っていたのかも分からない。
 時刻は逢魔が時。不在の主を待ち続ける老執事の耳に、懐かしきその音は戸を鳴らしてやってきた。
 扉の鍵を外し、不在の主を招き入れんと戸を開く。だがそこに立つ姿は無く、不審に感じた老執事が扉を潜ると、扉の陰に一人の少年が倒れている。
 尋常ならざる様相に加え、少年が背負うは見慣れた背嚢。それが見間違いであるかないかは背嚢の止め具の紋章で判別が付く。
 一体何が起きているのか、老執事には全容を汲み切れない。視察を済ませ、残りの思考を後回しにして老執事は少年を館の中へ運び入れる。
 至急で係りつけの医師を呼び、少年の容態が極度の飢餓状態による栄養失調と診断。点滴療法を施した後は日を改めて又来診するという事で一先ずの処置は済んだ。ゆっくりと時間をかけて体力を取り戻していけば命に別状は無い事からも、老執事は若い命が散る運命を見ずに済んだ事に胸を撫で下ろす。唯、心の方は少年が目覚めない限りどうにもならず、気が付き次第追って連絡を入れる様にと付け加えた。
 まだ安心という訳ではないが、とりあえずは一つの吉報をここに報告する。
 残る凶報は少年が運んできた背嚢の持ち主、詰まる所ここの主人はもうこの世に居られないという事実の旨が手帳に記されていた。

 気球の事故後、行方の分からない旦那様と娘様は巨大な生物に飲み込まれ、その体内で娘様に不運が降りかかった。死の間際に娘様から一頭のポケモンを託されるも、旦那様は直ぐには脱出する事が出来ないトラブルに見舞われた。
 記録にはその生物は冬眠をするとあり、生物が目覚めるまで旦那様は閉じ込められ、飢えを凌ぐ為に娘を食べた……という。
 その際を目撃したポケモンは旦那様を敵視し、幾ら飢えていようとも決して娘様の死肉を口にしなかった。
 そして第三の悲劇が起きた。飢えに狂った×××は旦那様を飲み込んだ生物の、体内の肉壁を齧り出した。それを口にした×××に異変が訪れたのはその後だ。
 突如に苦しみ出し、理性を失っているのか狂った様に暴れ出した。その様子たるや凄惨なもので周囲には焼け焦げた臭気、血の匂い等、地獄図を絵に写す有様だった。
 旦那様を喰らった生物に何らかの毒があったのかは不明。不憫に感じた旦那様は×××をモンスターボールに収納後、凍える時間に耐え忍んで脱出の機会を待った。


 あまりの凄惨さからか老執事は次のページを捲ろうとして、震える指に呼吸を重ねる。冷や汗が背を濡らしてか、度々身震いまでもが走り続ける。
 ……次のページからは日数を飛ばしたのか、記載できぬ程に時間が流れたのか。明確な日時は記されておらず、事態の一様だけが書き殴られていた。


 胸糞が悪くなる程の悪臭が充満した体内に一陣の風が吹いた。空気に含まれる清涼感からも生物が目覚めの時を迎え、外に出るならば今しか無いと旦那様は閉じ込め続けていた×××の拘束を解く。解放された×××は暴れはしなかったが、旦那様を見る目つきの鋭さは一段を増し、殺意の気すらも見て取れた。
 それを気に掛けながらも旦那様は×××にここを脱出するよう命じ、己はここに留まって一生を終える覚悟を決めた。

――もしも×××が私の館を訪れる事があるならば、Eよ。後の事を頼む――


 そこだけが力強い筆跡で書かれていた。それが主人が老執事の名を呼ぶ最後の言葉だった。
 主人の約束は果たされた。しかし、それならばあの少年は何者であるのか。そして×××は何処へ消えたというのか。
 未だに残る疑問を隅に老執事はページを捲る。
 白紙、白紙、白紙、白紙、白紙、白紙、白紙、白紙、白紙、白紙――
 これ以上の残る手掛かりは得られそうも無いと老執事は手帳を閉じ掛け、何かに気付いてか再びそれを開いて白紙の面を凝視する。
 微かにだが筆圧の際に生じる凹凸が白紙の面に残っている。もしやと思い、次のページを捲ると旦那様の物と思しき筆跡で続きが書かれていた。


 残念な報せとも言えるだろうか。ここを脱出する様命じた×××がその(めい)を破り、旦那様の下に戻ってきた。
 何故戻ってきたのかは分からない。旦那様を見つめる×××の眼差しは依然変わらず、殺意を剥き出しにしたような目つきだった。その原因の根本は娘様を喰らった事にあるといっても差し支えなく、ならば×××が戻ってきた理由は、私怨による復讐だったのだろうか。
 それならばそれで良いと旦那様は運命を受け入れようとした。しかし×××が旦那様を襲う事は一度の限りも無く、幾度の脱出の機会が訪れても傍を離れなかった。
 ×××が何を考えているのか、最後まで分からなかった。故に旦那様は×××へ好きに生きろとその命令を最後に、残る時間を監獄の下で嚥下した。
 
 ……。
 …………。
 ………………。

 もう月日すらも忘れたある日、一人の来客が監獄を訪れた。
 その来客は驚く事に年端もいかぬ少年で、檻と思しき残骸の中に縄で身を拘束されていた事から、旦那様とは別の遇因でこの地に送られたと思われる。
 少年は好戦的な態度で、直接的に口にする事はないものの、常に敵意を旦那様に向けていた。その態度がかのポケモンの姿と重なってか、他人とは思えぬ何かを少年に感じたという。
 如何程に少年が敵意を向けようとも、旦那様は気にする事無く、少年を安全な場所まで誘導するとここでの生活の知識を少年に授けた。
 しかしあまり長くこの地に留まらせる訳にもいかない。脱出の機会があれば直様にでも少年を地上へと帰してやるべきだろう。その為にはあのポケモンと手を取り合わなければならないが、少年ならば可能だろうと信じて疑わなかった。上手くやれば少年も×××も各々が故郷へと帰る事が出来る。
 失敗は許されない。必要あらば嘘をも演じよう。全てが偽りになろうとも、少年と×××を生かす為ならば己が犠牲になる事を厭わない。
 少年から聞いた話では罪人はドラゴン様なるものに食べられるという。恐らく少年は人の足もまばらな山村の出身で、山の神に纏わる土着信仰が残っているのだろう。唯、話を聞く限りでは奇妙な点も幾つか見受けられる。
 罪人と称すからにはそれなりの悪事を働いてきたかと思えば、少年が重ねた罪は贔屓目に見ても子供の悪戯程度でしかない。その村だけに伝わる独自の戒律でも無ければ、由々しき事態が村内に起きたという可能性も在り得る。
 念の為に少年から事件の当日を聞き出し、ここに記しておく。****/**/**
 少年の出身也、山村の安否也、何らかの手掛かりになれば良いが、何事も起こらなければそれが一番だ。


 どうやら嫌な勘が当たってしまったらしい。
 何時かは少年や×××より先に死ぬだろうとは覚悟していたが、このような結末を迎える事になるとは神も酷な処罰を与えたものだ。
 冬が訪れるまでに少年を外へ出してやりたかったが、その予定はしばしの間断念せざるを得ない。
 もしこの勘が正しければ今頃山村は病原菌によって埋め尽くされ、大半の村人は病人か最悪全滅している可能性がある。そんな死の世界へ少年を帰す訳にはいかない。
 冬季になり山村は白銀に包まれるだろう。その間に病原菌が死滅する事を祈らんばかりだが、不安なのは我々の方だ。
 病魔に冒されたこの身では確実にこの冬を乗り越える事は出来ない。幸い少年と×××にその兆候は見受けられないが、次の脱出となるチャンスは春。竜が目覚める時期まで少年が持てるかどうかが分からない上、このままでの可能性は限りなく零に近い。少しでも生存率を高めるべく、最悪の場面を想定して下準備を詰めておく。
 ×××も少年にはとてもよく懐いている。後は彼らの選択に委ねよう。
 もし、少年が死命を制し、ここから脱出し、帰るべき場所が潰えたならば。

――Eよ、少年を我が帰郷へと迎えてやってくれ――




Epilogue.

――天に在す我らの父よ――

 黒い喪服に身を包む人々。経典を手に祷りの言を唱える司祭。十字架の墓石。棺の中で眠る祖父の遺体。それを見守る孫娘とその子息。
 空はやや曇りであるものの陽光を地上に振り撒いている。にも拘らず地上は数多くの人が祖父の死を悼み、雨を降らせている。
「母ちゃん、爺ちゃん何で寝たきりなんだ?」
 一人、少年だけがその死を理解出来ず、隣で祖父の遺影を抱える母親の顔を見る。しかし母親は少年に一瞥するとそれきりに黙したまま祖父の棺をじっと見ていた。
 とても悲しそうな表情をする母親、周りには嗚咽を漏らす黒い人達。どれもが全て悲しみに包まれていて。
 少年もそれに釣られて泣き出しそうであるものの、涙も見せず気丈に振舞う母親の手を強く握り締めてそれを堪え、死とはどういうものかをその心に刻み付ける。
 淡々と司祭の祷りが続く。祷りの言も終りの間近を迎え、棺の蓋が閉じられんと係りの者が準備を始める。その作業が中断されたのは巨大な黒い影が棺の上に舞い降りた時の事だった。
 その場に居た者全てが天を仰ぎ見ると、一際大きい竜が天から降りてくる。影と共に大きくなるその姿に、少年はある一つの語りを思い出した。
 悪い事をするとドラゴン様が食べに来るお話を。
「母ちゃん、あれって……ドラゴン様なのか? 爺ちゃん食べられちゃうのか?」
 喪服を着た人々がパニックを起こしてざわめき始め、司祭が既に棺の傍から距離を置いている中、母親だけがその姿を冷静に見つめていた。
「違うわ……あれはね、昔お祖父ちゃんと共に過ごしていた、家族よ――」
 色褪せた橙色の赤竜が地上に舞い降りた。そのまま直ぐ傍にある棺の上へ、赤竜は顔を伸ばすと祖父の顔に口付けをして嘶いた。何処までも響くその鳴声は如何な心が篭められているのか。その鳴声に聞き入っていた少年と母親は止め処無く溢れ出る感情に、等々涙を零して咽び泣く。涙も声も、全てが涸れ果てるまで。
 何時から止まっていたのだろうか。嘶きを止めた赤竜は長い首をその身体ごと棺の上へ、祖父の上へ乗せて静かに眠っている。尾先の灯火を消した侭、静かに静かに眠っている。
 その表情は祖父の死に顔と合せてとても穏やかで。
 母親が少年と共に、一人と一匹に別れの言葉を告げた。



――おやすみなさい。お祖父ちゃん。ミスラ――

ouroboros  Fin.

後書

 最初にひとつ謝っておきます。冒頭であんな大々的な注意書きをしてありましたが、すまん。ありゃ嘘だ。
 そう書いたのはその方が人目に触れないだろうからという思惑と、後程詳しく記載しますが勝負に興味が無かったからです。
 大会が発表されたのがクリスマス終了後。その時はどちらの部門もエントリーしたいなぁと思ってわざわざ意見箱にそれ等の質問をしたり、許可が下りたのを確認後は両方の部門に併せた作品を用意してありました。
 しかしながらエントリー受付が開催された途端急にやる気が無くなり、受付締切日までずるずると引き延ばしにしていて、やっと気付くのです。
 そもそも勝ち負けに興味の無い私が、勝負に拘る事にらしくない、と。
 しかし一作者として大会に一回くらいは参加せざるを得ないという(個人的な)義務感もありましたので、ならばと思って一つの案を思いつきました。

――大会の主旨と趣旨の範囲内で且つ、真逆の事をやる――

 その為の虚言が冒頭のアレです。ぶっちゃけて言えば投票されずに最下位を狙い、且つ最下位とは思えぬクォリティを描く。
 それが私の魂胆でした。魂胆でした。
 ……くそっ! やられたっ!(実際に某漫画風になりました)

 いえ、投票されるのが嫌だと言うつもりではないのです。ただ今回に限ってはその目論見が失敗して非常に残念だってだけのお話。
 ちゃんちゃん。

 エントリーしたのが締切日のラスト1分前で、勿論それまで用意してた作品は完成してたにも拘らず没にした為、全て一からのスタートです。否、作品名に習えば零かしら。
 当然仕事もありますので1週間の猶予があるとはいえ、実質的に執筆活動をしていた総合時間は2,3日位のものでした。
 それだけの時間でもあれだけの量を描けたのは頭の中でゴールが既に見えていたからかもしれません。作品名もラスト1分前なのに全く悩まずパッと思いつきで登録。
 人間死ぬ気で頑張れば不可能等そんなに無い、って奴でしょうかね。終ってしまった後となってはそれも記憶の彼方ですけれど。
 設定に関して言えば元々はポケモン用でなくオリジナルとしてのネタでした。キャラクター選出もそれに近いものを公式サイトのポケモン一覧から探してみたり。
 筆者はポケモンのゲームプレイ経験が全くからっきしなので、知識もそういう所から引用する必要があった訳ですが……改めてポケモンキャラの汎用性の高さに驚くばかり。
 ぴったりとは言わずともそれに近い働きを作品内で見せてくれただろうとは思います。
 さて、前置きは是くらいにして以下は解説コーナーと唯一の憎き(褒め言葉)投票者の意見に答えるコーナーです。
 本当は省こうかなぁと思ってましたが、中毒症状が抜けきらない侭もやもやする人が続出されてもアレなので、処方箋的なものです。伏字にしてありますので気になる方はマウスドラッグして下さい。ドラッグなだけに。


 少年(冒頭と末尾の老父)
 世俗から切り離された山中にある村の出身で村一番のガキ大将。
 当然ポケモンの事は少年含めて村人全てが知らないので、彼らからすれば全て獣。
 村の外れにて隔離していた病人の事態の深刻さから、村長は子供達だけでも隔離すべきと苦渋の判断を強いるが、その先で待つ過酷さに耐えられる強さを持つのは少年一人しか居なかった(少年はこの事実を末尾まで知らされていなかった)
 脱出後、浮浪者の計らいで養子もとい新たな主人として老執事から教育を受け、命受け継ぐ子孫を残して大往生の人生を送る。


 浮浪者
 気球に乗って愛娘と二人旅の所を事故によりレックウザの体内にて世俗から隔離されていた。
 気球に関する豪族の一人でその地位と顔は広く、行方が分からない侭数十年が経過。
 その過程で少年が運んできた数奇な運命に巻き込まれ、逝き場の無い己の道を見出すと少年に全てを託してその身を犠牲に捧げる。
 作中においては彼こそ尤も罪深く、尤も業を背負い、背負わせた者であるかもしれない。


 リザードン(赤竜、ミスラ)
 浮浪者の愛娘と主従を結んでいたポケモン。
 飢えから逃れる為に主を食った浮浪者を一時期敵視していたものの、亡き主から託された命「父を守る事」を胸に秘め、浮浪者と行動を供にしていた。
 主を食う事を尤も拒み、レックウザの血肉を糧とした為、人間と変わらない寿命の枷を外される呪いをその身に宿す。
 本来ならば弱肉強食の世界に置いてありえぬケースのレアケース。伝説上に生きるポケモンは神にも近しい悠久の流れを生きる為、その身に宿した物を食す事は毒をも食す行為に等しい。
 完全な不老不死では無いにせよ、容易く死ねず、容易く生きれず、容易く逝けない境遇に置かれたからこそ、彼は頑なに、主の命を病的なまでに執着する。病魔に浸されたその身故に。
 脱出後は少年を棲家へ送り、そのまま姿を空の彼方へと眩ませた。
 その間何をしていたのか、今はまだ語られる事は無い。

 尚、ミスラとはイラン神話に登場する英雄神の名で「契約」「盟友」の意味を持つ。


 ドラゴン様(レックウザ)
 ある時は砂漠の空。ある時は氷雪の空。ある時は大海原の空。自由気ままに空を翔け、ある時季にその身を地上に降ろす。
 冬眠の為、とぐろを巻く様に山々の全てを喰らい尽くし、それは円を描き、最終的に自分の尾先を咥えて眠りにつき、山に擬態する。
 作品名の「ouroboros」とはそんな彼自身の生き様を指している。
 地上に降りはするもののその場所が決まっている訳では無く、山であれば何処でも擬態する。
 少年がその山に居た事も、喰われた事も、彼にとっては何の興味も無く、唯の運命の悪戯でしか無い。
 冬眠の時季が終わり、春を迎えると再びその身を天へと昇らせて還っていく。
 それが天空の冠を持つポケモンの帰郷であるが故に。



 投票コメントが返信して欲しそうにこちらを見つめている…。返信してあげますか?

 >はい。
  Yes! Yes! Yes!

 そういう経験があるのかという下りについて、答えを言わせて頂くなら全部「No」です。
 何を感じたのか知りませんが筆者は至って普通の人生を送っています。現在進行形で。
 恐らくそう感じたのは、上記にも書きましたが死に物狂いで作品を手掛けていたからではないでしょうか。その覇気が少なからずとも影響した、としか私には他に言い様が無いです。
 予想に反したつまらぬ人生で実に申し訳無い。単に筆者が相当な天邪鬼で変わり者ってだけなので、御気になさらず又読み返して下さると嬉しいです。

 さて、長くなりましたが、後書きにしては長すぎるかと思いますが、是にて幕引きとさせて頂きます。
 読者方々、参加者達、大会管理人とその協力者達へ。
 惜しみない賞賛と謝礼を以て、ありがとうございました。

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 少々遅れてしまいましたが、お疲れ様でした。

    文章力には驚かされましたが、重く難しい話だったので理解できず……期間中はあまり良さが分かっていませんでした。申しわけございません。
    そして、大会が終わってから分かった作者様の意図……正直驚きました。
    しかし、後書きをよんでようやく話をつかむことが出来ました。

    これからも頑張ってください。では。
    ――コミカル 2010-04-11 (日) 19:13:10
  • 28×1氏だとずーっと思っていましたorz
    ねもう。神。
    文章力が神掛かっているかと……後、投票するか否か物凄く悩んだ一作の一つでもありました。
    ポケモン臭が薄かったのは後付けだったからですか、いやしかしそれでこのクオリティ。
    注釈等をうまく使えば票ももっと、って望まれていないんでしたっけねw

    取りあえず神としか言いようの無い文章力に圧巻です。
    嫉妬すらもできないレベル。
    しかし一票入れていないという現実(殴

    この感想で一票分チャラにしてください><
    次作も大いに密かに期待しています。
    お疲れ様でした。
    ―― 2010-04-05 (月) 23:40:24
  • 個人的にこう言うのもありです。やっぱりLemさんでしたか。

    何というか、とにかく言葉にはし辛いんですが。悲しいとかそんな気持ちではなく、なるほど……って気持ちに。
    後書き読んでさらになるほど、でしたが、ドラゴン様はレックウザだったんですね。
    人を食らうこと。慕い続けること。罪を背負うこと。重たい内容でしたがドロドロと残るわけでもなく。
    文章力は言うまでもなかったです。うーん流石。
    ただ感想送るのと文章の奥を読むのが苦手な自分にとっては後書きが大いに助かりました(

    ともかく執筆お疲れ様でした。これからも頑張ってくださいね。
    ――&fervor 2010-04-05 (月) 21:19:32
  • 先ず最初に皆様に謝っておきます。コメント返すのが非常に遅くてごめんなさい。
    そしてご感想ありがとうございます。

    >コミカルさん
     天邪鬼で本当ごめんなさいね。どうも私という人物はこういう競走を真面目に頑張らない事が多くて困ります。
     自分で言ってしまうのもアレですが。

    >名無しさん
     私としましてはこんな読みにくい文言を最後まで読んでくれる人がいるかどうか毎回冷や冷やものだったりします。
     最後まで読みきれたとしても一度では絶対に分からない様に仕組んであるのが又いやらしいかも……。

    >&fervorさん
     やっぱり私でした。流石に私の文言の癖もそろそろ分かってきたかもしれませんな。
     これからも頑張らない程度に頑張りますん。
    ――Lem 2010-10-01 (金) 04:01:59
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Last-modified: 2010-03-21 (日) 00:00:00
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