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You/I 5

/You/I 5

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         「You/I 5」
                  作者かまぼこ

ホウオウ 

「久しぶりだな。ルギアよ」
 そういって、目の前の七色のポケモン、ホウオウは屋根に降り立った。
「久しぶりという程でもないだろう。五ヶ月前、お前が渦巻き島に訪れた時に、会ったではないか」
「ああ。そうだったな、悪い悪い」
「しっかりしろ全く……」
 ホウオウは苦笑して、軽く謝罪すると、ルギアは嘆息して言った。
「そういえば、あの3頭はどうした?姿が見えないようだが……」
 ルギアは頭をめぐらせた。ホウオウには、その昔命を落としかけていた
3匹のポケモンをホウオウが蘇生させて以来、ホウオウに忠誠を誓って、
このジョウトを守っている3頭の使いがいる。
 その3頭はルギアの知る限り、いつもホウオウのそばに居て、行動を共にしているのだが、
今は姿が見えず、ルギアは怪訝に思って、尋ねた。
「あいつらなら、今は各地の見回りに出ているよ。もっとも最近は大した事件もなく、
平和そのものだが。私も、あの小五月蝿いバカ共がいなければ、もっと平和なのだがな」
「おいおい……」
そんな言い方あるか…と続けようとしたが、ケラケラと笑うホウオウの背後に
1頭の水色をした4つ足のポケモンが物凄い殺気を放ちつつ佇んでいることにルギアは気付く。
「……」
 それをホウオウに言うべきかどうか迷ったが、批難された彼らの事も思い、
ルギアは言わないでおくことにした。
 ホウオウの背後に立つポケモンはすう……と息を吸い込んでから――
「……ハイドロポンプ!!!!」
 超高圧の水流が、ホウオウを襲った!
「ぐぎゃぁぁぁぁあああああああああああ!!」
 効果は抜群だ! ホウオウは悲鳴をあげて倒れこんだ。
「いょっしゃあ!! やったぜスイクン!!」
「やれやれ……ジョウトのためを思って、俺たちは日夜頑張っているというのに……」
 そのポケモンのハイドロポンプに続いて、黄色と赤色の2頭のポケモンが、屋根の上に姿を現した。
「お……おまえ……ら……」
 大ダメージを負わされ、痙攣しているホウオウが、息も絶え絶えに声を出すと、
「誰が『バカ』ですって?ホウオウ様」
「アンタこそ、俺らの事バカなんて言えねーじゃねぇッスか。
普段から仕事ほっぽって遊びまわってるクセしてよく言うぜ」
「いつも俺達に任せっぱなしで…少しは俺達の苦労をわかって貰いたいですな」
 不満を言う彼らに、ルギアは冷や汗を流し絶句していたが、
気を取り直して、3頭に挨拶をした。
「や、やぁ『スイクン』、『ライコウ』、『エンテイ』……元気そうだな」
「ああ、ルギア殿、お久しぶりです」
 赤い顔面に、茶色の毛並みが勇猛さを醸し出す、炎タイプの『エンテイ』が
礼儀正しく首を下げてお辞儀をした。
「ようルギさん。アンタもお変わりなく」
 背中に雨雲をもち、電撃を降らせる雷の化身、電気タイプの『ライコウ』が、
片前足をあげてルギアに親しげに話しかけた。
「今日はこのバ……いえ、ホウオウ様に会いにいらっしゃったのですか?」
 水色の美しい体躯をした北風の化身、『スイクン』が倒れているホウオウを
ぐりぐりと踏みにじりつつ、笑顔で言った。
「ま、まあな」
 動揺を隠せず、ルギアはどもった。
「ホウオウ様ってば、ヒデーんすよ?最近は旅に出られないからって『フエン煎餅買ってこい』
とか言って、俺らをどーでもいい用事でパシリにするんスから」
「……最近は大した出来事もなくてつまらないからと、『何か面白いことしろ』とか
無意味な命令を下されたりもしました。そして恥ずかしながらも、頑張って考えた渾身の
一発ギャグを下らんと即座に一蹴し、散々罵倒する…し…」
そんな態度はないだろう……と言わんばかりに、エンテイが背中を震わせた。
「私達がいないスキを見て、ふらっとどこかへ行こうともするし……
それがあまりにも酷くて、ある日注意をしたら『五月蝿いバカ黙ってろ』
とか言われたりするし……こっちは善意で言っているというのに……」
 スイクンに至っては、落涙しているではないか。
口々に3頭は不満と、これまでにさせられた極めてどうでもいい命令の数々を、ルギアに打ち明ける。
「お前……普段からそんなことばかりさせているのか…」
 じろり……と半眼でルギアは倒れているホウオウを睨みやると、
痛みがまだ引かないのか、涙目で悶絶しつつも、ホウオウはがばっと身を起こして言った。
「だって……平和なのはいいが、退屈なんだよ!それにジョウトから
離れることも出来ないから、ストレスだって溜まるんだ!」
「まぁ気持ちは分からんでもないが、お前も上に立つ者なら、部下の事を考えろ!
それにお前はジョウトの守り神だ。最高責任者だという自覚をしっかりと持て!」
 ぶんぶんと、駄々っ子のようにホウオウは両の翼を羽ばたかせるホウオウに、ルギアは説教した。
ルギアも、海の守り神という役目があり、そのために、幾つかの部下を従えてもいるし、
部下達に命令を下して、ことの解決に当たることもある。
「うう……ルギア様……あなたが主であれば、どれほどよかったか…」
 ルギアの出来た発言に、スイクンは滂沱している。よっぽど酷かったのだろう。
「そ、それよりルギアよ……なにか、用事があって来たのではないのか?」
 ホウオウは気まずい話題を変えようとして、まだ聞いていなかった目的を尋ねた。
まったく。上手く話をすり替えおって――ルギアは胸中で毒づきつつも、続けた。
「……ああ、話すのが遅れて済まなんだ。実はだな……」
 ルギアは、ここへ来た目的――自分が保護したあの兄妹と、それに関係した事件の事を
ホウオウたちに、話し始めた。

「なるほどな……そんなことがあったのか……」
 ダメージからある程度回復したらしいホウオウは、翼を組んで頷いた。
「私も昔、イッシュを旅したことがある。元は1頭だったドラゴンが、
レシラムとゼクロムという2頭に分裂し、互いに戦いあい、一度はその地方を滅ぼしたとも
言われている、アレだな? 向こうを旅しているときに、何度も耳にしたよ」
「で、その保護した兄弟が、そのドラゴンが変化した2つの石を守っていたと?」
 スイクンも口を挟んだ。
「おかしいですな……イッシュにあるはずのそれが、どうして関係なさそうな
小島に住んでいた兄妹が持っているのですか?」
 エンテイが、尋ねる。
「そのあたりもよく分からんのだ。その島には人間の老人が一人住んでいて、その兄妹は
その老人に育てられたという話だったが…」
 すると、ライコウが言った。
「黒服軍団……そーいやぁ、最近ジョウトやカントーのあちこちで、ポケモン保護だ何だって、
街頭演説やってる黒服の連中を時々見るぜ?まぁ関係あるかどうかは知らんけど」
 その報告に、スイクンも思い出したように口を開く。
「ああ、言われてみれば……私もこの間、コガネシティで、そんな連中が募金活動をしているのを
見ました。確かにそいつらは全員黒服でしたし……何かその話に出てくる連中と、似てるような気はしますな。
もっとも、保護を謳う連中が、ポケモン達に害を与えるようなことをするとは思えませんが……」
「黒服……保護団体………」
 ルギアは、呟きながら考え込んだ。
まだ決定的な手がかりではないものの、何か関係があるような感じがした。
「お前達……すまないが、少し力を貸してはくれまいか。その保護団体の事をもう少し
探ってみて欲しい。もしかしたら、ジョウトの平和を脅かす問題になるやもしれんのだ。頼む」
 そういって、ルギアは深々と頭を下げる。
「確かに、それは由々しき問題だな。平和を脅かすこととなれば、このままにしておくわけにも
イカンだろう。わかった。ここは同じジョウトの守り神として、協力しようではないか」
そのホウオウの反応に、3頭はおお……と感嘆の声をあげ、
「あの、サボタージュ魔なホウオウ様が…」
「……面倒になって途中で投げ出すんじゃねーぞ?」
「言ったからには最後までやってもらいますよ?」
 と口々に言うと、ホウオウは凄絶なまなざしを3頭に向けて言った。
「お前ら、私は守り神だぞ!幾ら何でもジョウトが危機に瀕しているような
時くらいは動くさ。バカにするな!」
「ああ、やっとやる気を出していただけたのですね?ホウオウ様!」
 またしても、スイクンは滂沱した。
「当たり前だ。何を言ってる」
とホウオウは胸を張ったが、
「普段から信用できねーんだよ」
「全くだ」
 とエンテイとライコウは相変わらずきつい物言いをした。
なおも口論をしているホウオウと3頭を見やりながら、ルギアは、
心強い味方を得られて、安堵し微笑んだ。

問題点 

「ヘラクロス戦闘不能!!挑戦者の勝利です」
 ジムの審判員から判定が下されると、ジムスは、目の前で氷漬けになって動きを止めている
ヘラクロスを見やりながら、白煙がのぼる尻尾をフッと一吹きした。
その姿は、硝煙たなびく拳銃に息を吹きかけるガンマンのそれに見えた。
「よくやったジムス!」
 トレーナー用スタンドに立つアズサは、そういって笑顔で左手でガッツポーズを作ると、
ジムスは、それに親指を立てて返す。
 アズサの傍らでは、リエラとルーミが唖然としていた。
相手の3匹全てをジムス一匹で倒してしまったことに、驚いているようだった。

「頑張ったな。ありがとうジムス……でも最後くらい、ルーミに代わってもよかったのに」
 ジム戦を終えて、コガネシティの駅から乗り込んだリニアの車内で、アズサはジムスに尋ねた。
「まぁ、僕より足の遅い相手なら、確実に先手は取れて動きを封じられるし、あのヘラクロスも
たしかに相性は悪かったけど、逃げ回ればどうにかなったし、狙いを定めればこっちのモンさ。
それにあの子は……虫タイプに有効な技が無いし、交代してたらボクの時よりも苦戦しただろうしさ」
ジムスは、どうということはない…というふうに答えた。
「でも……お前はどうしても近寄られると対応し辛いみたいだな」
「ああ……そうなんだよな……」
 アズサは神妙な面持ちで言うと、先程とはうってかわってジムスは俯く。
先程のジムバトルは、ジムスが相手の3匹全てを倒し、どうにか勝利を収めたものの、
幾つかの「弱点」が露呈した。
 ジムスの戦闘スタイルは、“キノコの胞子”で相手の動きを封じ、その隙に“ロックオン”で狙いを定め、
必殺の“絶対零度”を撃って止めを刺す――という、いわゆる「遠距離狙撃型」だった。
「はぁ…近寄られた場合の対策が無いんだよなぁ…“バレットパンチ”じゃ大した威力無いし」
 嘆息して、ジムスは言う。
 一応接近戦に使える技として、この技があるのだが、あまり威力のある技ではなく、
本当に『豆鉄砲』程度のもので、トドメか、牽制攻撃程度にしか使えそうもなかった。
それに加え、ドーブル種族は耐久力がほとんどなく、当たれば即撃墜は必至だった。
その結果として、相手から逃げ回りつつ、ロックオンをして、狙い撃つというパターンで、
最初の2匹を撃破したが、最後のヘラクロスだけは、そうも行かなかった。
 ヘラクロスは、ジムスよりも素早い動きで接近し、瓦割りやメガホーンといった
近接攻撃を次々と繰り出してきた。ジムスは動きを封じる時間も、狙いを定めている
時間も与えられず、逃げ回ってもすぐに追いつかれてしまい、かなりの苦戦を強いられた。
攻撃を喰らわないようにするのが精いっぱいだった。
(スナイパーは接近されると弱いって何かで読んだけど…本当なんだな……)
 幸い、バトルフィールドが森林地帯を再現したものであったために、木や草叢といった、
隠れる場所が多かったことで、先日ニドキング一味と戦った時のように、地形を上手く活用して、
草叢に身を潜めつつ狙撃したことで、どうにか勝利を掴むことができたのだった。
 しかし、由々しき問題が山積みだった。
近接戦時の対応策と、耐久力のなさ。この2つに関しては早急に解決せねばならない。
「耐久力の問題も何とかしたいけど…良い策は無いもんかなぁ」
 ジムスは呟く。
「うーん、まあ耐久面に関しては、無いことも無いぞ?」
「え?あんの?」
アズサがそういうと、ジムスはぱっと顔を上げる。
「最初のジムリーダーがやってた事なんだけど…」
「ふんふん……」
ジムスは目を輝かせて、アズサの言う策に聞き入った。

芽生え 

 親しげに話すアズサとジムスをみていたリエラは、つい嬉しくなった。
(あの文句ばかり言っていたジムスとこんなに打ち解けるなんて)
 少し前までは信じられなかった光景だった。
アズサ自身も日に日に頼もしくなっていき、出会った頃に比べて凛々しく感じられた。
「ジム戦中のご主人、格好良かったですよ。この調子で頑張りましょうね?」
「そ、そぅお? ありがとうリエラ」
リエラの賞賛の言葉にアズサは少しだけ照れたらしく、人差し指で軽く頬を掻いた。
その可愛らしい動作に、リエラは顔を赤らめて微笑んだ。
(格好良かったと思えば、可愛くなったりして……とても――)
 そう思うと、胸が締め付けられて、力が抜けていくような感じがして、
自然と体が熱を帯びていくのがわかった。
「ん?どうしたリエラ……顔が赤いぞ?」
「え!?」
アズサが心配そうに声をかけると、リエラは体をビクつかせた。
「大丈夫か……?リエラ、ちょっとこっち向いてごらん?」
そういってアズサは手を伸ばしてリエラの額に触れようとした。
「あ!いえ……大丈夫です……はは」
ごまかそうとかぶりを振って苦笑いした時、ジムスがにやにやと笑いながら、
「何?この人に惚れでもしたの?」
 と、からかったものだから、次の瞬間リエラは一枚の葉っぱカッターをジムスに見舞っていた。

「冗談なのに……全くもう」
 アズサに、葉っぱが命中した頭に傷薬を吹き付けられながら、不機嫌面でジムスはぼやく。
「バカなこと言わないでよ!私は立場くらい考えてるわよ!!まったく!」
 そうジムスに怒鳴ると、途端に笑顔を作ってアズサに向き直り、
「そんなことはありませんから、安心してくださいねご主人様…」
「わかってるよ…でもリエラ、車内で暴れるなよな?」
 苦笑しつつアズサは答えたが、一拍置いて厳しい顔で付け加えた。
「はい……ごめんなさい。もうしません」
 謝罪するリエラ。乗客たちが何事かとこちらに目を向けていた。
だが注意を受けても尚、リエラの顔は赤いままだった。
それに、迂闊なことで暴れないと前に約束したのに、それを破ってしまった
不甲斐なさと、それによって注目を浴びてしまった恥ずかしさも加わり、益々リエラは顔を熱くした。
(もう……なんで収まらないのよぉ……)
 心の中で毒づいたものの、当分収まりそうな気配はなかった。
ジムスが小声で
「ムキになる所が何か怪しいな……」
と呟いたが、今のリエラには聞こえなかった。しかし、横に座るルーミが、
安堵した表情をしているのが、少し気になった。


 その日の夕方、アズサは次回以降のジムバトルに備えて、対策を練るため、
キャンパス内にある図書館を訪れていた。
 図書館内部は、静かにさせることを条件にポケモンを出すことを許可されて
いるので、アズサは入館前に、五月蝿くしないよう3匹に念を押しておいた。
 アズサは、バトルに関する書籍が纏められた書架を探して、数冊の戦術指導の本を取り出すと、
貸し出し手続きのためカウンターへ行こうとしたが、ジムスの姿が見えなかった。
(何処いったんだ、あいつは…?)
 そう思って、リエラとルーミを連れて探し回ると、彼は裏側の書架の前で、
一冊の本を読みふけっていた。アズサは小声で呼びかける。
「行くぞ、ジムス」
「ちょっとまって……あのさ、これも借りていいかな?」
 そういってジムスは持っていた本をアズサに渡した。その本の表紙は、
青と灰色の歪な模様で塗られた戦闘機が空を飛んでいる写真で、
タイトルは『迷彩の全て』とあった。
「め…迷彩?」
 アズサはうろたえた声を漏らした。ポケモンがこんなものに興味を示すとは…。
そして、ぱらぱらと本を開いてみる。幾何学模様の飛行機や船の写真と、
緑と茶色と黒のまだら模様の車や砂色(サンドブラウン)に塗られた車が
周囲の森や砂漠、荒野の風景に溶け込んでいる写真が、解説と共に載っていた。
中には、色変化ポケモン『カクレオン』の写真もある。
「これってさ、バトルに使えないかなぁ?」
「んー……どうかな……状況によると思うけど…」
 苦笑しつつ、アズサは答える。
良く考えれば、ドーブルは絵描きポケモン。尻尾で色々なマークを描いて縄張りを
主張することが特徴であり、絵や模様には特にこだわる種族だ。こうした奇抜かつ
実用的な色彩に興味を示すのも不思議ではないと思える。
 今朝のヒワダジムのように、ジムによってはバトルフィールドが特殊な所もあり、
森林のフィールドだったり、荒地や砂地だったりする所もある。そうした場所であれば、
こうした迷彩は確かに有効だろう。だが――
「ドーブルの尻尾の塗料って、個体ごとに色が決まってるんだろう?
お前のは明るい緑みたいだし、グレーとか茶色とかもっと多くの色が出せないと、
こういうのは難しいんじゃないかなぁ……」
「うーん……」
 言われてジムスは、顎に手を当てて自分の「筆先」を眺めつつ呻いた。

 なにやらまだ時間がかかりそうなので、リエラは近くの棚に目をやった。
どうやら児童書の棚らしく、カラフルな表紙の本が多かった。
『はじめまして、ポケモンちゃん』『ゾロアのぼうけん』――
棚を一通り見回していると、一冊の本が目に留まる。
「……?」
 蔓を伸ばしてそれを引っ張りだしてみる。かわいらしい絵が描かれていて、
タイトルには、『シンオウむかしばなし』とある。
 リエラは何気なしに、適当にページを捲って読んで見た。
すると、とあるページに目が釘付けになる。
(……え?)
 そのページには、大昔、人とポケモンが種族の区別なく結ばれていたらしい事と、
それが普通の事であったという内容の文章と共に、デフォルメされた人間とポケモンが、
大きなハートマークで包まれているイラストが描かれていた。
(……まぁ、昔の話よね)
 あくまで昔の話だ。それに、主人に対して、特別な想いは抱いてはいないし、
そこはちゃんと「主人」として接している。そう思いつつ、本を棚に戻してから、
未だにジムスとボソボソと小声で話しているアズサを見やった。
(確かに売れ残りの私を引き取ってくれて、やさしくて、
最近は格好良くて、時々だけど可愛い部分もあって……)
そう考えていると、急に胸がドキリとした。
(え……?これって……)
 自分は、おかしくなってしまったのだろうか?と思えた。

先輩 

 ジムスと話し込んでいたら、いつの間にか時計は午後6時をさしており、
外は暗くなりはじめていた。アズサは貸し出し手続きを済ませて図書館から出て、
帰宅のため通学バス乗り場へと行こうとしたとき、背後から声がかかった。
「あれ?アズサ君?」
 肩くらいまである長めの髪が目立つ青年だ。その傍らには2匹のポケモンがいる。
頭に笠を被ったような緑色の二足歩行のポケモン『キノガッサ』と、もう一匹、
白い体の所々に赤い模様が走ったポケモン『ザングース』。
どちらもホウエン地方に数多く生息しているポケモンだ。
「う゛………」
 途端に、アズサは顔を顰める。
「やあアズサ君、久しぶり」
「こんにちはアズサ……あら?ポケモン持ったのね?」
 男とキノガッサはアズサに近づき各々声をかけると、キノガッサはリエラたちを見やる。
「……お、久しぶりですタクヤ先輩。ホウエンリーグの実習は、どうでしたか?」
アズサはうろたえつつ男――タクヤに声をかける。
「ああ。色々あったけど全部済んだよ。これで俺も卒業したら、リーグ公認の指導員だ」
「よかったですね……おめでとうございます」
 アズサが祝いの言葉をかけると、ジムスが近寄り「誰なの?」と尋ねてきた。
「ああ、僕の先輩のタクヤさんだよ。ホウエンリーグで殿堂入りしたこともある、凄い人なんだよ」
「そ……そんなに?」
 アズサの解説に、リエラは思わず声が高くなった。
「こんばんは。私は『ララ』よ」
「アタイは『ミリィ』、宜しくな!」
 キノガッサに続き、ザングースも、リエラ達に自己紹介をした。
「私達は故郷のホウエンに帰っていたの。マスターはホウエンリーグで指導員になる
ことが決まっているから、その実習に行ってたのよ」
「へぇ…凄い。誰かとは大違いだね」
 ジムスが、感心した声を上げると、半眼でアズサを見つめた。
「し、仕方ないだろ!先輩は昔からずっとバトルやってた、凄腕のトレーナーなんだから!」
声を荒げると、タクヤは苦笑した。
「確かに昔からバトルばっかやってたけど……凄腕って程じゃないよ。
俺以上に強いトレーナーなんて、ゴマンといるさ。伝説の“シロガネの赤い炎”
に比べれば、俺なんてまだまださ」
 笑顔を崩さず、タクヤは言う。
「アズサさん、シロガネの何とかって……何です?」
ルーミが興味深そうに尋ねた。
「ああ……噂でしか聞いたこと無いけど、40年以上前にそんな異名を持つ凄いトレーナーがいたんだって」
 それは40年前にカントーリーグで殿堂入りを果たした伝説のトレーナーの名前で、当時カントーで
悪事を働いていた犯罪組織“ロケット団”を壊滅に至らしめたのも、彼の活躍によるものだと言われていた。
「へぇ……ベイリーフにモココにドーブルか。かわいいポケモンじゃないか」
タ クヤは、リエラたちを見やると、そんな感想を言った。すると――
「あぁらマスター……なぁに?心変わり?」
と、傍らのララが、笑顔で言い寄った。頭に筋を浮かべて。
「ちょ……まっ違ッ……いへへ! いはい!!(いてて! 痛い!!)」
タクヤの言い訳も聞かずに、ララは赤い爪で、タクヤの頬をぎゅうと引っ張った。
「そ、そーじゃねーって!ただ単に見た目がかわいらしいってだけで……!」
「……ふぅん。ならよかったわ」
 ララは、タクヤの頬から手を離してから半眼になって言うと、
「ふふ…もちろん可愛いのはお前達だよララ、ミリィ……」
 そういって、両腕で2匹を抱くようにして、その背中を愛撫する。
2匹は嬉しそうに目を閉じて、愛撫に身をゆだねている。
「マスタぁ……」
「ん……タクぅ……」
 その姿はまるで、恋人同士のようだった。
そして、タクヤは、ララに顔を近づけると、おもむろに――
「うわ……」
 アズサがげんなりとした声を上げ、リエラたちは、凍りついた。
リエラ達には目の前で起きている出来事が、俄かには信じがたいものだった。
タクヤが、ララ、ミリィと、交互に濃厚な口付けを交わしているではないか。
「ん……ん」
「あふ……」
 人とポケモンが恋愛をすること自体、非常に異質で奇妙なことだ。
しかし、そうであっても、彼女いない歴=年齢のアズサにとっては、
 非常に不快であった。相手が異種族だとしても、やはり見ていて気持ちのいいものではない。
こんな調子で、タクヤたちはアズサと顔を合わせるたびにこうしたラヴッぷりを
見せ付けていくために、正直、アズサはタクヤが苦手であった。
「先輩……何度も言いますが、そうやって見せ付けるのは止めて下さい…嫌がらせですか」
「はっきり言うなぁ……」
 少々怒気を帯びた声で、アズサが静かに言うと、タクヤは不満顔。
実を言えば、アズサは昔から友達づきあいが下手な部分もあった。
こうしたはっきりと物を言う性格がアズサの欠点でもあった。
「昔は人とポケモンは結婚してたって言うだろ。ならこうして俺が
手持ちのポケモン達と恋してても、不思議じゃないだろ?」
 落ち着き払ってタクヤが言うと、リエラとルーミがピクンと体を震わせた。
「そうじゃなくて……!何でいつも僕の前だけそういうことするんですか!」
 声を荒げてアズサは問う。
「だって……なぁ」
「ねぇ」
「うん」
 タクヤとその2匹は顔を見合わせて、口々に声を出す。
「こういう事できるのは、キミの前だけだし」
「何で僕なんです!?」
「だって~アズサはなんとなく、そのうちタクとアタイ達みたいな関係になりそうな気がするし」
 体をくねくねさせてミリィが言う。
「な、何を根拠に!」
 自分に根拠の無いシンパシーを抱いている彼女らに対し、アズサは
顔を真っ赤にして反論すると、ララとミリィが口々に言った。
「だって……前からよくマスターに言ってたじゃない……ポケモン好きなんでしょお?
それに、手持ちにこんなステキな牝が2匹もいるって言うのに恋の1つや2つしないなんて、
勿体無いわねぇ。人生損しているわよ?」
 そういって、ララはびっとリエラとルーミを指した。
「そりゃ確かにリエラとルーミは……いい子達で……か、可愛いと思うよ?でも……」
 と、どもりながら言ったアズサの言葉を遮り、ララとミリィは意地悪そう笑みを
浮かべると、わざとらしく手の甲を頬に当てて、
「あらま、聞きましたか奥様!?」
「聞いたわぁ~、んまぁやらしい~やっぱりアズサも牡なのね~ほほほ」
「だーーもぉ!!」
 からかわれたアズサは叫ぶ。

「ね、ね!あなたたちは、アズサのことどー思ってんの?」
 そんなアズサをよそに、ミリィはリエラ達に近寄り尋ねる。
「わ、私は……その……」
「アズサさんは……その……あの……」
 当然、リエラとルーミは困惑し、赤面してしどろもどろになる。
「「どうなの?」」
 ララとミリィが言い寄る。
リエラもルーミも、アズサに対してそれらしい感情を抱きつつあるが、
正直そんなこと…いえるわけが無い――。

「こらこら、それ以上踏み込んで困らせるなよララ、ミリィ」
 タクヤが、ララたちを制して上手く話をお流れにしてくれたので、
リエラ達は、ほっと胸を撫で下ろした。
「まぁともかく、アズサ君もとうとうポケモン持ったのかぁ…じゃあ、ジム戦も?」
感慨深げに言ってから、タクヤは尋ねた。
「……はい」
 不機嫌声になりつつも、アズサはバッヂケースをタクヤに渡した。
 その中には、以前のウイングバッヂと、今朝入手したヒワダジムの
インセクトバッヂが輝いている。
「そっか…次はコガネジムだね」
 バッヂケースをアズサに返すと、するとタクヤは、急に顔を引き締めて言った。
先程までの軽薄そうな雰囲気は感じられず、トレーナーらしい、実力者らしい顔つきだった。
「まぁマジメな話、人間であれポケモンであれ、誰かと一緒にいる……
一緒にいてくれるヤツがいるって言うのは、いいもんだぜ?
俺は……このララ達がいてくれたから、“自分の存在の大切さ”ってやつに、
気付くことが出来たんだ……」
 そう告げるタクヤは、なんとなく悲しげに見えた。
「……そう、ですね」
 タクヤのいう事は、わかる。自分も、昔ポケモンを失い、これまでの人生に
ずっと影を落としてきた。そこを支えてくれたのは、母と、父親代わりの
ジュウロウの存在だ。この二人がいてくれたから、今の自分があるとも言える。
「だから、君も、ポケモンと素敵な時間を過ごせ。大事な大事な、
かけがえのない仲間……トモダチとね……」
タクヤは微笑んだ。優しい顔だった。
「……はい」
 今まで、タクヤのこんな表情は見たことがなかったので、アズサは戸惑った。
ただのポケモンラブな軽薄な男だと思っていたが、意外な一面を見た気がした。
「そうそう、コガネジムはノーマルタイプのジムらしいな。特に、
最後に出てくるミルタンクが一番手ごわいって話らしい」
 タクヤは話を切り替える。そこには、いつもの軽薄さがあった。
「ミルタンク……ですか」
「ああ、一見鈍重そうな外見だが、ああ見えて素早さは結構高いんだ。気をつけてな」
「は……はい」
 そのギャップにうろたえつつも、しっかりとアドバイスを胸に留める。
「俺はレポート出しに行かなきゃ行けないから、そろそろ行くよ。じや、ジム戦頑張ってな」
そう言って、タクヤ達は去っていく。

「あ……あの人たちって一体…」
 タクヤ達が見えなくなると、おもむろにジムスが口を開いた。
「なんていうか、すごい人なんだよな、色々な意味で……」
「……そうみたい……だね」
 呆れたような、尊敬しているような、どちらともつかない
声を出しているアズサとジムスの横で、リエラとルーミは、
赤い顔でアズサを見つめた。
 頭の中で、タクヤの言った『ポケモン達と恋をしてても、不思議じゃない』という
言葉を反芻しながら。

応用技 

 コガネシティの駅でリニアを下車し、ワカバタウンに帰るために、
アズサ達は駅前のバスターミナルでバスを待っているときだった。
急にジムスが、アズサの服の袖を引っ張った。
「どうした?ジムス」
「あれあれ」
 そういって、ジムスはバスターミナルの向かいのビルに設けられている
3D大型ビジョンを指差した。見ると、新作映画のコマーシャルが流されていた。
「ん…?『公開まであと3日!…コスモ・ダスターズep10』…?」
 それは、ポケウッドで製作されているシリーズ作品の続編映画で、
アズサも、子供の頃に何作か見たことがあるSF作品だった。主人公が相棒の
ポケモンと共に、光る剣を振るって戦う姿が子供心に格好いいと思ったものだ。
(……あの映画、まだ続いてたんだ)
 今流れているCMでも、新しい主人公らしき人間が、赤く光る剣を振るって
敵を次々になぎ倒しているシーンだった。
「あれさぁ……絶対零度で出来ないかなぁ?」
「へ?」
 思いもよらない言葉に、アズサは声を出した。
「絶対零度をこーいう剣の形にして、接近戦に対応できないかなって思ったんだけど」
「うーん……でも……そううまくいくかなぁ」
 アズサは半信半疑だった。試してみないことには分からないが、
ポケモンの技はそんなに都合よく応用が利くものだろうか…と思った。
「よし……ならちょっと試してみる……」
「お、おい……こんな所で技なんか出したら――」
 こんな所で技を出したら、周りの人やポケモンにも迷惑になる。
アズサは制止しようとしたが、ジムスはぱっと右手で尻尾を掴んで技を試そうとした。
「むぅ……」
 尻尾を握って、目を閉じ、ぐっと力をこめる。
すると――
 びしゅぅぅぅん!!
 ジムスの筆尻尾の先端から、水色の冷気が迸り、それが棒状に収束されて、
あの映画のCMにあったような、光る冷気の刃が出来上がった。
「あ、出来た」
「……ええぇ!??」
 ジムスが、あっさりとした声で言うと、アズサは予想外の結果に驚き目を剥いた。
まさか本当に出来てしまうとは……。
だが、しかし――
「うわぁぁああ!?」
 突然ジムスが悲鳴をあげた。尻尾を握る右腕が、ぶるぶると振り回されている。
上手く制御が出来ないのか、腕ごと尻尾が暴れまわる!!
 絶対零度は一撃で相手を戦闘不能にする技だ。出力もかなり大きく、
撃ち出すにしても、狙いをつけねば上手く命中させられないくらいだ。
そんな膨大な冷気エネルギーを収束させて制御する事は、難しいのだろう。
「ジムス!?」
 バスに乗るために並んでいた他の人やポケモンも、驚いて悲鳴をあげた。
「パワーが大き過ぎるんだ!!ジムス!とりあえず止めろ!」
アズサは叫んで、ジムスに技を中止するように命じた。

「まったく!あんな人の多い所で技を使うんじゃない!」
 バス乗り場を少し離れた所にある、有名な地下モールの中で、アズサは憤然とジムスをしかりつけた。
そこは人通りの多い地下街だったが、バス乗り場に比べて人が密集してはおらず、
トレーナー同士が軽くバトルをするくらいスペースに余裕があった。
幸い、バス乗り場で並んでいたほかのお客に被害はなかったものの、
ちょっとした騒ぎを起こし、並んでい辛くなってしまい、乗ろうとしていたバスは諦めざるを得なかった。
「ごめん……」
ジムスはしょんぼりと頭を下げる。
「それにな。出来るのはわかったけど、制御できないんじゃ使いようが…」
「あ、それなんだけどさ…」
 アズサの言葉を遮って、ジムスは再び尻尾から冷気を発振し、「光の剣」を作った。
相変わらず腕が振り回されているが、今度は両手でしっかりと尻尾を握った。
片手のみだった先程と比べて震えはかなり抑えられてマシになったが、
それでも時折腕をビクつかせていて、安定しているとは言いがたい状態だった。
「こうすれば……」
 するとジムスは、近くに落ちていたサイコソーダの空き缶にロックオンをかけて、
尻尾を振りかぶり、冷気の刃を空き缶に振り下ろした。
刹那、びしり!と空き缶は氷漬けになる。
「どう!?うまくやれば……使えない?」
 冷気の刃を消して、ジムスは凍った空き缶を指差しアズサに向き直った。
「……確かに、接近戦時には使えるだろうけど……こうも安定しないのは不安だな……」
ムスッとした表情のまま、アズサは言う。
「でも、ロックオンすればうまく当てられるし、それに今朝話してくれた
あの対策…あれがあれば、この『零度剣』使えると思うんだけど」
「うーん…まぁ…そうだけど」
 アズサは今朝リニアの車内で話したことを思い出した。
確かにその対策とこの絶対零度の応用技を組み合わせれば、接近戦は不可能ではない。
考えてみれば、ドーブルはあらゆる技を覚えられるポケモン。応用の形だって、
いくらでもある。この絶対零度の剣も、ある意味、ドーブルらしいものだと思えた。
「でもなぁ…空き缶に試しただけじゃ…バトルして試してみないと」
 一回、それも動かない目標に対してやってみたのでは、有用性が実証されたとは
いえない。実戦で試してみなければ、まだわからない。
「それなら、うってつけの場所があるじゃないか…ほら」
 そういって、ジムスはアズサの背後を指差した。
「ん?」
 促されて、アズサが振り向くと、そこにはコガネジムへの案内看板が光り輝いていた。

コガネジム 

 喧騒が絶えることのない、カントーのヤマブキシティと肩を並べる大都会、コガネシティ。
そのオフィスビルやデパートが多く存在するビル街の中で、モンスターボールを象った
看板のある建物が一際異彩を放っていた。
 そこの待合室でアズサは、リエラとルーミをボールから出して、ジムバトルを行う旨を告げた。
「というわけなんだ。やってくれるか二人とも?」
「私は構いませんよ?私も自分の力がどこまで通用するか試してみたかったんです。
今朝のジムは、ジムスが全部倒しちゃって、私の活躍する機会が全然なかったですし」
 ルーミがニッコリと答える。
「わ、私も…!」
 リエラも同意してくれた。特にリエラは、仲間になってからというもの、
苦手なジムばかりで、ここ一番というときに活躍する機会はほとんどなかった。
しかし、今回はノーマルタイプのジム。草タイプのリエラに苦手な要素は特に無い。
力を最大限に発揮させることも出来るだろう。
「ありがとうみんな。頑張ろうな?」
『ハイ!』
 異口同音に2匹が返事をした時に、待合室に設けられている内線電話が鳴り、
アズサの番が回ってきたことが告げられた。
「早く行こう!早く!」
 早く技を試してみたいのか、ジムスが急かした。
「わかったわかった。落ち着けよ…」
 そんなジムスを制して、アズサ達はバトルフィールドへと向かった。

 フィールドは、通常のバトルコートと違い、障害物である岩が数多く並べられている。
見回していると、フィールドの反対側に居たジムリーダーから声がかかった。
「ようきたなぁ!アタシがここのジムリーダーや!使用ポケモンは3:3!お互い全力でバトルしようや!」
 ジムリーダーはなんとも快活そうな女性だった。
彼女はボールを腰から取り出し、フィールドに向かって投げると、中のポケモンが姿を現す。
ピンク色のずんぐりとした体の背には小さな羽根がついており、つぶらな瞳が愛らしい、
ノーマルタイプ『ピッピ』の進化系『ピクシー』だった。
女性なだけあって、やはり可愛いポケモンを使ってくるのか――
そう思いつつ、アズサもポケモンを繰り出す。
「頼むぞリエラ!!」
「はい!!やってみせます!」
 リエラの返事を聞くと、アズサはポケギアのアプリの1つである、
バイタルアプリを立ち上げる。体力や状態異常といったポケモンの健康状態を
確認するためのもので、手持ちのポケモンを常にモニタリングしており、バトルでも役立つ機能だ。
「ほおお、元気そうなポケモンやな……いくで!!“往復ビンタ”や!!」
 闘志あふれるリエラを見たジムリーダーは、早速ピクシーに攻撃を指示した。
「リエラ!リフレクター!!」
「はい!」
 リエラもアズサの指示を聞き、行動に移す。透明な1枚板が出現し、ピクシーの攻撃に備える。
「ぐ!ぬっ…が!」
 連続のビンタが顔面に見舞われ、激痛が走る。リエラは後退して、ピクシーの攻撃範囲から
離れようとした。そのおかげで、最後の一撃をどうにか免れる。
「いいぞ!移動しながら葉っぱカッターを撃て!!」
「はい!」
 こちらも攻撃に出るべく、移動しながらの攻撃を指示する。こうすれば、
一箇所に留まって技の撃ち合いをするよりも、攻撃を受ける確立は少なくなる。
リエラは走りつつ岩と岩の間から、ピクシーの姿を見つけては、正確に葉っぱカッターを放つ。
「近寄ってきたら、後退しながら撃て!」
 一方のピクシーは、至近距離の技しか無いのか、攻撃を加えようと毎回コチラに接近を試みるが、
そのたびに、リエラを後退させつつ、葉っぱカッターで応戦した。
リエラも何発か攻撃を受けたが、リフレクターのおかげで大ダメージにならずに済んでいる。
度重なる攻撃で体力を奪われて、段々とピクシーの動きが鈍り始めると、
 アズサは畳み掛けるため、覚えたばかりの技を使うよう指示した。
「いまだ! 一気に接近して――“恩返し”!!」
 リエラは走ってピクシーに接近し、2本足で立ちあがると、前足で全力をもって殴りかかる。
この技は、懐いていればいるほど威力が上がる技であり、これまで攻撃手段が
葉っぱカッターと体当たりしかなかったリエラには、大きな力となった。
全力攻撃を受けたピクシーは目を回して沈黙した。
「ピクシー戦闘不能!」
審判員の判定に、ジムリーダーの女性は悔しそうに歯噛みする。
「くう……やんなぁ……ならツギや!!」
 叫んで2つ目のボールを放る。
閃光と共に現れたのは、長い舌と大きな胴体が目を引く、
ベロリンガの進化系『ベロベルト』であった。
アズサはリエラをボールに戻し、ルーミに交代させた。
「よし、離れた所から10万ボルトを撃て。近寄って来たら瓦割りだ」
「はい!」
言うが早いか、ルーミは駆け出すと、10万ボルトを繰り出した。
先日大学で戦ったベロリンガ同様、動きは鈍重で、ルーミは難なく技をベロベルトに命中させた。
ベロベルトは、片膝をつく。
「はぁ!!」
ルーミは、その隙を見計らい、“瓦割り”を叩き込もうとベロベルトに接近する。
右手を振りかぶり、顔面に手刀を叩きこもうとしたが、
突如目の前のベロベルトが、右に流れた。
「……!?」
何が起きたか分からないまま、ルーミは地面に叩きつけられた。
「ルーミ!」
「……痛! く……」
ルーミはどうにか起き上がろうとしたが、いきなり足を払われて転倒した。
「ぐぅ!!」
今度は倒れた状態のまま足を確認すると、何やらピンク色のものが足首に巻きついている。
ベロベルトの舌だった。
「このぉ!……きゃあ!!」
再度立ち上がろうとしたが、今度は空中に振り上げられた。
「ええで! このまま“叩きつける”を決めたれぇや!!」
 ジムリーダーの命令どおり、ベロベルトは振り上げた舌を一気に地面に叩き付けた。
どごぉぉん!! 轟音と共に、土煙が舞った。
「ルーミぃ!!」
 土煙が晴れると、地面に出来た小さなクレーターの中心に、ルーミは倒れている。
「う…」
 ルーミは呻く。アズサはポケギアに目をやると、ルーミの欄に『CAUTION!』表示が
出ていた。とにかく、ベロベルトの舌から逃れなければ――
「ルーミ!10万ボルト!舌を引き剥がすぞ」
「は……はい!」
 指示通り、ルーミは10万ボルトを放つ。その電撃は巻きつけていた舌を経由し、
ベロベルト本体に伝わる。
 たまらず、ベロベルトはルーミの足から舌を離した。そこで、次の指示。
「ルーミ!高速移動だ!!」
ル ーミが一瞬消えたように見えたが、違う。一気に加速をかけたのだ。
「瓦割り!」
 ルーミは接近すると、瓦割りを打ち下ろす。今度は攻撃を決めることが出来た。
効果は抜群だ!
「くそ~ほなら“ジャイロボール”や!」
その指示に、ベロベルトの体が突如高速回転を始める。
「アッ……!?」
 回転するベロベルトに弾き飛ばされて、ルーミは地面を数回バウンドした。
アプリのサインが赤色になって、喧しい警報をがなり立てる。
「ルーミ!大丈夫か!?」
とは聞いたものの、大丈夫でないことは、アプリを見れば一目瞭然だった。
ルーミの右腕に赤く×サインが出ており、負傷しているのが分かった。
「だい……じょうぶ…やれます……!!」
 しかし、そんな状態になりながらも、ルーミはなおも立ち上がった。


(ここで…負けるわけにはいかないわ!)
ここで負けたら、愛するアズサを悲しませてしまう。それだけは絶対にさせたくは無い。
(私だって…強くなっているんだから。高速移動は…正直あまり使いたくないけど…
それでも…アズサさんのためなら…私は、いくらでも頑張れる!!)
絶対に負けるものか――
そう思ったときだった。
「……!!?」
ばちり!という放電音のような音がしたかと思うと、ルーミの体は、光に包まれた。
「……まさか!?」
 アズサも、思わず声を上げた。進化が始まったのだ。
光の中で、ルーミの肉体はめきめきと変貌を遂げていく。
 体の綿が全て吹き飛び、体が一回りほど大きくなったかと思うと、
首が僅かに延長し、腕の形も変化して、額に球体が出来上がる。
更に体の色が徐々に桃色から、明るい黄色へと変化すると、その光は収まった。
同時にアプリの画面に、『CONGRATULATIONS!』の表示が出る。
「ルーミが……デンリュウに進化した!!?」
 その様子を見ていたジムリーダーが、感心したように言った。
「ほぉぉ~バトル中に進化かいな……久しぶりに見たわこんなん……
でも、容赦はせぇへんで!!トドメのジャイロボールや!!」
 ベロベルトが、再度体を回転させて攻撃を加えようと突っ込んでくる。
アズサは冷静に対応した。
「もう一度高速移動。それから…距離をとって10万ボルトだ!」
「はい!」
 ルーミが残像を残して消える。2度めの高速移動でかなり素早くなったルーミは、
素早く距離をとると、渾身の10万ボルトを、ベロベルトに見舞った。
進化を遂げたルーミの電撃は、進化前――モココだった
時よりも格段に威力が上がっていた。
閃光と共に技が命中し、黒こげになったベロベルトが地面を転がった。
「ベロベルト戦闘不能!!」
 審判の声に、ルーミは小さな手で笑顔になったガッツポーズを作った。
「すごいぞルーミ!よくやった、戻れ!」
アズサはルーミをボールに戻そうとしたが、
「大丈夫です!いまの私ならまだやれます!きっと…次の相手も倒して見せます!」
 そういって交代を拒んだ。しかし、いくら進化を遂げたといっても、
これまでの戦いのダメージはそのままで、相変わらずポケギアのアラートは鳴り響いている。
あと一撃でも喰らえば、ダウンは確実だった。
しかし、ここは彼女の要求に応えてあげるべきだ…と、アズサは思った。
「よし、わかった!次の相手も任せるぞ!?」
「はい!」
 返事をしたルーミは、意気込んで相手の方に向き直った。
「ふふ…なら、ウチの最終兵器の登場やな!!」
 ジムリーダーは、そういって、最後のモンスターボールを放り、ポケモンを繰り出した。
ピンク色の体に黒いブチ模様と、短い2本角、そして何よりも目を引くのが、
腹にある、栄養満点のミルクを出す4つの豊満な乳房。乳牛ポケモン『ミルタンク』だ。
「ミルタンク…確か先輩は、意外と素早いから気をつけろって言ってたな…」
 タクヤの忠告を思い出す。
(でも、ルーミは2回も高速移動をやって、素早さはかなり上がっているんだ…)
 先手は、確実に取れるはずだ。そう思って、アズサは指示を飛ばす。
「ルーミ! 10万ボルトだ!」
 ルーミは、だっと一気に駆けてミルタンクに10万ボルトを放った。
「ちぃ! “丸くなる”や!」
 ジムリーダーの言葉に、ミルタンクはごろりとその場で丸くなる。
その場から動かないミルタンクはもろにルーミの電撃を喰らったが、
ミルタンクは立ち上がった。
「防御力を上げるつもりか…続いて瓦割り!」
 独りごちて、次の指示を飛ばす。格闘技ならば、大ダメージを与えられる。
防御力を強化される前に畳み掛けなくてはいけない。
指示を受けたルーミが、ミルタンクに接近しようとした時だった。
「“転がる”やぁ!」
 突如ミルタンクが高速回転を始め、ルーミ目掛けて転がってくる。
回避もままならず、それをもろに喰らい、吹き飛ばされたルーミは、力尽き倒れた。
ピー……と、アラートが単調なものとなって、ポケギアの画面に『DOWN』の
文字が浮かび、戦闘不能を示した。
「デンリュウ戦闘不能」
 審判が、非情に告げた。
「く……ルーミ」
 急いでルーミをボールに回収すると、アズサは次のボールを手に取った。
青いスーパーボール……ジムスの入ったボールだ。
「まだ色々と不安な所はあるけど、頼むぜ?ジムス!」
 呟いてから、ボールを放り、ジムスを繰り出す。
「わかってる!」
ジムスは、ミルタンクと対峙した。
「ふぅん……でもドーブルは、耐久力0やん! 一気にトドメさしたる! “転がる”!!」
ミルタンクは、ジムス目掛けて転がり始めた。


(そう、対策は出来る限りやった。あとは試してみるだけだ――)
 そう思いながらジムスは、左手で渡されたものを弄ぶと、
物凄い速さでこちらへ転がってくるミルタンクをやりすごすために跳躍し、
近くに置かれている岩の上へ着地した。その直後、それまでジムスが
立っていた場所をミルタンクが通過する。
「チッ!チョロチョロと! “圧し掛かり”や!」
 ジムリーダーは舌打ちして、次の指示を飛ばすと、ミルタンクも跳躍し、
ジムス目掛けて高速落下してくる。
(やっぱり狙撃じゃ間に合わないな…)
そう思ってジムスは岩を蹴って跳び、近くの別の岩へと移動した直後、
ズガン!と、ジムスがいた岩がミルタンクの圧し掛かり攻撃を受け破砕された。
砕けた岩の細かい破片が、ジムスの体を叩く。
「攻撃力も高い……」
 呟いて、ジムスは八艘跳びで岩から岩へと跳び移って距離をとると、
手ごろな大きさの岩を見つけ、その影に身を潜めた。
(今朝のヘラクロスより難しいなこりゃ…どうする…?)
しばし思案に暮れていたとき――ジムスは思い出した。
「そうか……あれなら!」
そう呟いて、尻尾を手に取った。

「おいジムス何を!?」
 アズサが困惑した声を上げる。相手のミルタンクはジムスに接近しているのに、
 ジムスは、岩の影で何かをしていたからだ。
何やら手早く、筆尻尾で緑色の縞模様を己の体のあちこちに
描いている。横線、縦線、斜線、くの字、等々――。
 その様子を見たアズサは、はっとした。これはさっき、大学の図書館でジムスが興味を示した、
本に書いてあった、迷彩の柄によく似ていた。
「体に迷彩を施してる…?」
 簡単に目を通しただけで、詳しくは分からなかったが。間違いない。

「よし……!」
あらかた塗り終え、縞模様になったジムスが岩の影から躍り出ると、またミルタンクが、
圧し掛かり攻撃で、その岩を踏み砕いた。
「ふ……あはははは!な、なんやぁ!?その柄ぁ!ゼブライカにでもなったつもりなん!?」
 ジムリーダーが、指をさして笑った。
「何でンな事したかはわからへんが……もう終いや!圧し掛かり!」
 ミルタンクが跳びかかる。だが――
 どすん!ミルタンクは、ジムスの少し手前に落下し、攻撃は空振りした。
「な……なんやて!?当たらん?どうしたんや!?」
 ジムリーダーが驚愕の声をあげ、ミルタンクに呼びかける。
ミルタンクも困惑していた。
あの本に書いてあったとおりだ――。ジムスは笑みを浮かべた。
『ダズル迷彩』
 一見妙な縞柄で、迷彩というには目立ちすぎるものだが、この迷彩は、
風景に溶け込ませるカモフラージュのためのものではない。
妙なストライプ模様にすることによって、目の錯覚を引き起こし、
目測を誤らせるためのものなのである。同じような原理で、
形を判別しにくくする迷彩も存在する。
 ジムスはその隙に、ロックオンをかけて、必中状態となる。
「小賢しい!! 今度こそ外さへんよ! 圧し掛かりや!!」
再攻撃を命じられて、ミルタンクは跳躍した。
「ジムス!!」
 アズサが叫ぶ。
「任せとけって!!」
 頼もしい返事をしてから、ジムスは筆尻尾の先端に、あの冷気の刀身を生成する。
尻尾を両手で、しっかりと握り、構えて――
(出来る――!)
 眼前に、ミルタンクの足が迫り――
刹那、フィールド上に轟音と乾いた破裂音がして、またしても土煙が上がった。
「ジムス…」
 不安そうな声を上げつつ、アズサは、土煙が晴れるのを待った。
徐々に、土煙が晴れていく。
 どうなった――?アズサは、凝視した。
 やがてフィールド上に姿を現したのは、座り込んでいるミルタンクの姿だけだった。
ジムスは、見事にミルタンクの下敷きになっていた。
「これで、アタシの勝ちやな」
 不敵に、ジムリーダーが告げたときだった。
 びしり……びしり……
 ミルタンクが、徐々に氷に包まれていき…やがてその体は完全に包み込まれると、
ジムリーダーが驚愕の声を上げた。
「なんやてぇ!!?」
「あ……!」
 よく見ると、ミルタンクの足元から尻尾を握ったジムスの腕が伸びていて、
尻尾の冷気刃が、ミルタンクの額に突き立てられていた。
「ぐ……痛たたた……」
 ミルタンクの氷塊の下から、顔を顰めつつジムスが、這い出てきた。
胸に、僅かに焦げ目が付いていたが、ギリギリ耐え切れたようだった。
「ミルタンク戦闘不能!挑戦者の勝利です!」
 ジムスが立ち上がったことを確認した審判員は、アズサの勝利を告げた。
「んな…どうなっとんのや!?ドーブルの耐久力は…」
 皆無に等しい……といいたかったのだろう。そんなジムリーダーにジムスは、
装備していた、千切れた布切れをすっと見せ付けた。
「『気合いのタスキ』…?アイテムもっとったんか…くぅーー!悔しいーー!」
相当悔しかったのだろう。叫んで、ジムリーダーの女性は、はらはらと落涙した。
「ジムス!よくやった!勝てたぞ!」
 トレーナースタンドから降りて、アズサはジムスを迎える。
「へへ……コレのおかげで上手くいったよ……痛かったけどね…零度剣もうまく……いったし」
 体が痛むのか、引きつった笑みを浮かべて、ジムスは言った。
そしてポケギアに目をやると、ジムスの体力は極僅かで、ギリギリの状態だった。
 気合いのタスキは、一撃で倒れそうになった場合にのみ、体力をぎりぎり残して
耐え切る道具だ。アズサも、最初のジム戦のときにムクバードがこれを用いた
戦法をやっていたのを見て、使える時が来ると思って幾つか購入しておいたのだ。
「ありがとう……ゆっくり安めよ」
 労いの言葉をかけて、ジムスをボールに回収してから、ジムリーダーに向き直ると、
ジムリーダーは泣きながらつかつかとアズサに近寄り、バッヂを渡した。
「く…悔しいねんけど……ウチの負けや……グスッ」
「ありがとうございます……」
 アズサは礼を言って一礼してから、ジムを後にした。
早くポケモン達を…特に傷の深いジムスとルーミを回復させなければならない。
勝利の満足感に浸りつつ、アズサはポケモンセンターへ急いだ。


「た……頼む!許してくれぇ!勝つためには、どうしたって必要だったんだ!」
 深夜の路地裏で、一匹の生まれたばかりらしいズルッグを腕に抱えたその男は、
腰を抜かした。そんな男の前に、一人の女が立っている。
「あなたは……ポケモンを持つ資格なんか無いわ……」
 女は非情に告げた。女の年齢は、30代後半から40代前半といったところだろうか。
白と黒の服――『仲直り団』の制服に身を包んでいる女の肩には、
黄色と黒の小さなポケモン――エモンガが乗っていた。
「頼む!許して――」
「……エレキボール」
 許しを請う男に向けて、女は肩のエモンガに攻撃を指示した。
刹那、球体をした電撃が、男を襲った。
「ぐぁ……!」
 男は感電し、体を小刻みに震わせて昏倒した。
腕に抱えられていたズルッグは、何が起きたのか分からないのか、男をぺたぺたと触っている。
すると女は、エモンガにロープを持たせて男を拘束するように命じると、
男に抱えられていたズルッグを抱き上げた。
「かわいそうに……能力の高い個体を求めるために、生ませるだけ産ませて捨てるなんて…」
呟いて、ズルッグの背を撫でた。気持ちが良いのか、ズルッグは目を閉じている。
その時、女のポケギアの着信音が鳴った。
 女は片手で通話ボタンを押し、テレビ電話に出る。画面には、赤い髪の女が映った。
仲直り団のボス、ヤクモの秘書の女だった。秘書は、女の顔を見ると、露骨に顔をゆがめた。
ああ、嫌われているな……と女は思った。
「もしもし……」
『Y・Kですね?ボスがお呼びです。至急、5の島の基地まで来るようにとのことです』
「了解、新しい指令ですか?」
『そんなところです。兎に角、5の島基地へ戻って下さい。以上です』
 ぷつり…と画面が消えて。通話アプリが自動終了すると女は嘆息した。
そして、縛り上げられた男に張り紙をすると、踵を返してその場を後にした。
                                 ――続く――


ううん…ペースを上げてるつもりなのですが、やっぱり時間がかかってしまいますね…orz
主人公勢もある程度強くなったので次回から新展開(?)に突入予定です。

まだまだ長編執筆に関して分からない部分が多いので、
よい作品作りのために感想や指摘、アドバイスをいただけると嬉しいです↓


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Last-modified: 2013-04-05 (金) 00:00:00
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