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PSB:夜の散歩

/PSB:夜の散歩

Pokemon Survival Battle:夜の散歩


 そこらじゅうで、無意味に波導を使われている。悪の波導、龍の波導、それにこれは癒しの波導……傷ついたポケモンがいるわけでも無いのに、なぜだ!?
 ルカリオは憤っていた。せっかく波導で周囲のポケモンの気配を探っていたのに、周囲で波導の技を使われたら、気配がそれに紛れてしまって右も左もわからない。焦って目をつむりながら周囲を探ってみても、あまりに色濃く残った波導の残り香が、周囲の敵の気配を隠している。
「おい、ルカリオ! 目を開けろ! 目視と耳で周囲を確認」
 ヘッドセットからトレーナーの声が聞こえてくるが……『どうすればいい、どうすればいい?』と慌てていたせいか、ルカリオはトレーナーの指示は聞こえていなかった。
 目をつむったまま波導を感知することもできずに慌てていると、いつの間にか、頭上に迫っていたバシャーモが火炎放射を放っていた。ルカリオは鋼の体を溶かしにかかる炎を浴びて、苦しみあえぐ。すぐさま味方のラムパルドがバシャーモを攻撃しようと迫るも、その攻撃はオクタン砲によって横やりを入れられ、ラムパルドは視界不良のせいで目標を見失ってしまう。
 ルカリオを火炎放射で攻撃したバシャーモの影に、矢羽が突き刺さると、バシャーモは一瞬痛そうに顔をしかめたかと思うと、正体であるゾロアークの姿をさらす。正体を晒してしまったゾロアークはいったん物陰に隠れて、『スナイパー』に狙われない位置へと向かうと、地面で墨を拭っているラムパルドへナイトバーストを放ち、さらなる視界不良とダメージを見舞う。
 そうこうしているうちに、本物のバシャーモが現れて、ルカリオに飛び膝蹴りを放ってノックアウト。ルカリオも抵抗しようとはしたが、火傷でうまく動かなくなった体は満足に防御すらできなかった。
 ラムパルドは痛みと視界不良に苦しみながらも、に諸刃の頭突きを放とうとするが、全力の突進を草結びで転ばされて、彼もまたノックアウト。以降ブルーナイツのメンバーは、『サーチャー』と『クラッシャー』を同時に失い、圧倒的不利な戦いを強いられることになる。
 ゾロアークとバシャーモは悠々とハイタッチをすると、今度はゾロアークがハッサムの姿になって戦場を駆け抜けた。

 トワイライツの『サーチャー』であるタブンネは健在で、敵はブルーナイツのポケモンの居場所が手に取るようにわかっている。孤立した味方から集団で叩かれ、次々と戦線離脱。気づけば、『アタッカー』のラティオスを残して全員がやられてしまったが、そのラティオスもリザードンとラティアスの二人に囲まれ、オクタンの援護射撃の前に容易に沈んでしまう。
 戦闘が始まったらまずサーチャーから潰すのが定石ではあるが、そうならないようにサーチャーは慎重かつ敵にやられない立ち回りが重要となる。そんな立ち回りが出来なければ、待っているのはチームの崩壊であった。


 ブルーナイツ、トワイライツが行っていた対戦は、世界中で行われている一対一から三対三までの形式で行われるポケモンバトルではなく、最近になって急速に競技のルール整備が進みつつある、ポケモンサバイバルバトルと呼ばれる戦いだ。広大なフィールドに六体までのポケモンを繰り出し、六匹もしくは後続含む一二匹のチームが全滅するか、それとも拠点を破壊されるかで勝敗がつく形式のバトルである。
 トレーナーはポケモンに取り付けたヘッドセットで情報を得て、遠隔からポケモンに指示を下し、時にはポケモンに取り付けられたカメラでポケモンすら気づいていない情報を一緒に探してあげるのが仕事だ。
 特に、このヘッドセットは非常に高性能だ。例えば、ヘッドセットには顔認識機能が付いており、茂みに隠れた草タイプのポケモンやカクレオンなどを比較的簡単に見つけることもできるし、影の位置などからゾロアークの擬態を見破ったりなど、ポケモンだけでは対応できない出来事に気づくことも多い。
 そしてこのヘッドセットの目玉機能は、自分たちが目視や聴覚、波導、感情、振動や空気の流れで敵の位置を認識すると、味方にも敵の位置が表示されるようになるという事だ。人間はそうやって得られた敵の位置を共有することで、ポケモンたちに指示を下すし、レーダーの見かたを心得ているような賢いポケモンならば、トレーナーの指示がなくともレーダーを見て動くことが出来る。
 元はポケモンレンジャーの装備として開発されたものだが、マジックルーム下でも使用できるとか、一〇キロメートル離れた場所でも使用できるとか、その他いくつかの軍事機密情報を含む機能をオミットし、民間でも遊べるように大幅に価格を下げた代物であった。

 味方が感知した敵の位置を味方全員と共有できるという性質から、このポケモンサバイバルバトルには、ルカリオやタブンネ、サーナイトやレントラーといった、他者の位置を感知することに優れたポケモンをチームに加えるのが定番となっている……今回はそのルカリオが、『サーチャー潰し』という戦略により真っ先にやられてしまったというわけだ。
 今回の練習試合の相手であるトワイライツは、全国大会にも名を残す文句なしの強豪チームであった。対する我らがブルーナイツは、ポケモンリーグではバッジを八つ持ったような強豪トレーナーが集まってサバイバルバトルに転向したチームであり、一対一での戦いならばそれなりに自信がある。しかし、このサバイバルバトルはどこから自分が狙われるかわからず、また一対一で戦えるとも限らない。むしろ、個々のポケモンが少しくらい弱くとも、的確に多数対少数の状況を作り続ければ容易に勝ててしまう。そういうバトルであった。

 そういうわけで、個々の力は全く劣っていないにもかかわらずチームが惨敗という結果に終わり、反省会の雰囲気は重い物だった。とはいっても原因は明白で、今回の場合は、ルカリオが序盤に、あっさりとやられてしまった事であった。では、原因の原因は何か? ということに重点を置いて話し合うことになる。今までこんなことは一切なかったため、ルカリオを責めているわけではないのだが、議題に上がる当の本人は非常に居心地の悪さを感じている。
 ルカリオのトレーナーは、ルカリオがやられる前は目をつむって周囲の波導に気を配っていたが、突然近くで波導技を使われたおかげで、探知が出来なくなったと語る。その原因をどういうことかと議論してみると、一人情報端末をいじっていた、ダリルというメンバーが、興味深い書き込みを発見した。
 ルカリオは、周囲で波導を用いた攻撃……悪の波導、龍の波導、水の波導、癒しの波導、波導弾を使われることで、彼らの探知能力が一時的に阻害されてしまう。通常のポケモンバトルでは目視で周囲を確認しているために波導に頼らずとも良いのだが、このサバイバルバトルでは波導を頼りに敵を探すため、その一時的に、どこから攻められるかわからない状況となってしまう。
 これは『サーチャー潰し』と呼ばれる戦法であり、前身となるポケモンレンジャーにはすでに常識とされている知識であり、ルカリオを使う上で弱点でもあった。
 あの時、ルカリオが三体のポケモンに襲われたあの瞬間、オクタンがルカリオを目視していた。おそらくはオクタンのトレーナーが仲間に指示をして、周囲にいた仲間に波導を用いた技を使わせてルカリオを攪乱させ、バシャーモとゾロアークに同時攻撃を指示したのだろう。何もないところで技を放つというのは敵に自分の位置を知らせてしまう悪手だが、今回のように場合によっては良い目くらましだ。
 同様の作戦に、タブンネの近くでハイパーボイスやバークアウトなどを使う。サーナイト相手に奮い立てるや怒りで感情を高ぶらせたり、逆に研ぎ澄ますやド忘れで心を無にするという戦法でサーチャーの探知を阻害する方法がいくつかあるという記載されており、これもいずれなにかに使える知識になるだろう。

 とにかく、原因の原因は理解できた。あとは、そうやって波導をそこかしこで使われたときににどんな対処をとるかが重要だ練習試合の次の日から、ルカリオはトレーナーのもう一匹の手持ちであるグラエナと一緒に毎日特訓。土日はラティオスの龍の波導やゲッコウガも加わって波導攻撃対策というメニューを組まされることになる。
 そのトレーニングの初日となる翌日……
「くっそ、どこからくる……後ろ? 前?」
 ルカリオはポケモンリーグ上がりで、これまでは目視で敵を確認できる状況でしか戦ったことがなかった。しかし、彼はその感知能力を買われてポケモンサバイバルでは外されることのないレギュラーメンバーとして活躍してきたが、ここにきて暗礁に乗り上げてしまう。波導の感知もできない、目視での確認もできない。今まで勇猛果敢に戦ってきた彼も、この状況では冷静でいられずに戸惑ってしまう。
 この特訓には、三匹いる手持ちの中のもう一匹、パチリスも加わり、悪の波導に気配を隠して二か所からルカリオを攻撃する。練習が夜間に集中するため、黒い体のグラエナが有利になるというのもあるが、相性的に圧倒的に有利なグラエナに、いいようにされるがままに不意打ちを許してしまう彼は、普段の冷静さからすると考えられない醜態である。普段は波導で敵の一を感知するため、遠くから攻撃してくるスナイパーでもなければ、彼が不意打ちを食らうようなことはまずないのだが……
「大丈夫、貴方?」
「ほんと、ボロボロだねぇ」
 押し倒され、やられるのを待つだけの体制になったルカリオの顔を覗き込み、グラエナとパチリスは心配そうな顔をしていた。
「まったく、貴方今までどういう風に生きてたのよ……気配を探るすべがダメダメじゃない」
「そんなの野生だったらすぐに食べられてしまうのだ」
 ちなみに、グラエナとパチリスは雌なのだが、どちらも言うことが厳しい。そもそも、野生ではルカリオは捕食者なので狙われる立場ではないし、こんな風に戦略的に悪の波導やらなんやらといった技を使われることはないので、無関係な話であるが、それでもルカリオは二人の言葉が胸に刺さったようだ。
「しょうがないだろ……俺、目と波導以外で敵を感知することが出来ないんだ」
「うーん、それはちょっと問題ねぇ。どうにか、気配だけで周囲のものを確認する方法を考えないと」
「波導以外は本当にダメダメなのだ」
「だから鍛えているんじゃないか……俺だって、波導を使わずに敵の場所がわかるようになりたいよ」
 ルカリオは上半身を起き上がらせ、悔し気に地面を叩く。
「でも、耳で敵の場所を知るのって難しいし」
「じゃ、足の裏とか肌で感じるのは?」
 グラエナに問われると、ルカリオは首を横に振る。
「……難しいわねぇ」
「今まで波導以外で索敵をしなかったツケなのだ」
 二匹の雌にダメ出しされて、グラエナはううんと唸る。
「何回かやってみないと、難しいかしらね」
 グラエナは、悪の波導を撃って波導による感知を難しくして、ルカリオがかく乱されている間に襲い掛かる。単純すぎる戦法だが、ルカリオにはあまりにも効果が抜群で、グラエナはまるで赤子を相手にしている分であった。しかし、それで気持ち良くなるかといえばそうではなく、むしろどんどん心配になってくる、ルカリオは自信を無くしていっているのがわかる。言葉は理解できずとも、ルカリオに元気がなくなっていくのがトレーナーも理解できたのだろう、今宵の不意打ち対策トレーニングは終了して、一対一でのシンプルな戦いの強さを鍛えることとなった。

 その深夜、自信喪失したルカリオは眠れない夜を過ごしていた。トレーナーが寝静まった横で、ゴロゴロと寝返りを繰り返しながら天井を見上げたりしている。ふと、彼の顔にグラエナの前足が触れる。ビクンと体が跳ね、とっさに臨戦態勢をとったルカリオが見たのは、呆れかえったグラエナであった。
「どうしたの、二人とも?」
 その物音でトレーナーのクロニカも起きてしまったのか、寝ぼけた声で尋ねるが、相手はよく見知ったグラエナだ。どうしたと言われてもどうもしていないので、何でもないよという意思表示に、ルカリオはトレーナーの頬を舐める。
「ふふっ、くすぐったいわ。もう寝なさい……」
 トレーナーはルカリオの頭を優しくなでて、そのまま目を閉じる。しばらくトレーナーが寝たのを確認するまで黙っていたが、もう大丈夫そうだと感じるまで、二匹はずっと黙っていた。
「それで、何の用?」
「……貴方が悩んでいるようだったから、少しお話しようと思ってたの。だけれど、暗闇で貴方のそばに近寄っただけであんなにびっくりするとは思わなかったわ。貴方、暗闇だと本当に何も見えないのね……情けない」
「ごめん……」
「それでさ、思ったんだけれど……一緒に、外に出てみないかしら?」
「外? どうして?」
「んー……そうだねぇ。私は、昔っから散歩の時はこう、周囲に何があるかを目を光らせてみていたから……でも、あなたの場合はその頭の後ろについたやつで周囲を感じているんでしょう? もしかしたら、リラックスして私と同じ方法で周囲に気を配ることを覚えれば、貴方もつかめると思うの……その、目と波導以外で周囲を感知する技術? それもつかめるんじゃないかって思う」
「そんなもんかな……」
「そんなもんだよ。どうせ、ご主人が仕事に行っている間は暇になるし、夜更かしして一緒にお散歩するのもいいんじゃない?」
 グラエナに諭されて、ルカリオは少しだけ考えるが、やがて意を決して立ち上がる。
「よし、行こう……今までと同じ方法じゃ通じない相手もいるってわかったことだし。ご主人と一緒にバトルに勝ちたいしね」
「そう、なら忍び足で出かけましょ? ねぇ、パチリス、起きてるんでしょ?」
「うん、起きてるのだ」
「私たちが留守の間、マスターを守るのを頼んだわ」
「うん、命がけでこの指に止まらせるのだ」
 ルカリオとグラエナ、二人はパチリスに主人の番を任せると、そっと忍び足で主人の部屋を抜け出して、夜の街に繰り出した。主人の家の住宅街を抜け、すこし道路を歩いていくと、ローカル線の線路が見えてくる。そこを横切ると、あたりの光景は一気に田舎になり、田んぼや畑が次の駅にのそばまで続いている。駅の近くだけは街だけれど、駅から離れれば立派な田舎といえる風景だ。
 田んぼにはニョロモやオタマロといったポケモンがいたり、コアルヒーやアメタマも我が物顔で闊歩している。ジグザグマが横切り、ヤミカラスも目を光らせているが、ルカリオはそれらを波導によって感知することしか知らない。
「ほら、あそこ」
 風が出て来て、草が揺れる音にポケモンたちの生活音は少しずつかき消される。それにニョロトノがぐわぐわと五月蠅いせいで、もはや音によって気配を探るのは不可能だ。
 だというのに、グラエナは夜目が効くのか、それとも目でも耳でもない別の感覚で見つけているのか、的確に見つけてはルカリオに教えてくれる。確かに、目を凝らしてみれば彼女が指示した場所にポケモンがいる。
「どうやって見つけてるのかな……」
「落ち着いて見ればいいと思うよ。何も考えずに、どこかにポケモンがいるかもしれないなーって感じで見ていれば、そのうち貴方にも見つかるようになるよ。私は、おいしそうなポケモンいるかなーって感じで、なんとなく見ていると、わかるようになったの。
 と、言ってもポチエナのころからやってたからなぁ……急にって言うと難しいかもしれないけれど。貴方なりの方法を考えるといいかも」
「俺なりの方法、かぁ」
「そうだね……今、貴方の波導を感知するあれ、封印しちゃったけれど……だけれど、ちょっと使ってみよう」
「いいの?」
「使ってみて、そしたら使わないで探してみて、それを繰り返してみるとかさ。そしたら、何か掴めるかもしれないよ
「うん……やってみる」
 そうして、ルカリオは波導を使って周囲にいるポケモンの波導を探り、今度は波導を探ることなくその場所に注意を向けてみる。それで得られたものは、その日は無かったが、そんなことを何回か繰り返してみると、ルカリオは少しずつ、なんとなくだけれど掴み始めてきた。
「……あそこに」
 ルカリオがそれを発見するのは、グラエナと比べても時間がかかったが、散歩も三日目になるころには、ルカリオは大分感覚をつかみ始める。
「何か掴み始めたようだけれど、どういう感じかしら?」
「そうだな……グラエナの視線を見てみたら、なんというか……そう、俺は今までただ何となく波導を感じて、それだけでよかったけれど……でも、そうじゃないというかなんというか……グラエナは、獲物が潜んでいそうな場所を優先的に見ていたんだ。俺は、その『いそうな場所』を……徹底的に考えてみたんだ」
「へぇ、そりゃすごい」
「ただ、まだそれを考えるのも時間がかかるし、簡単じゃあない。見当外ればっかりだ……しかも、これは潜んでいる相手を見つけるだけで、向かってくる相手がどこから来るかっていうのは、また別の問題で……そうなると、襲ってきそうな場所っていう風に考えなきゃいけないのか……うーん、応用はできるのかなぁ?」
「まぁ、難しいでしょうけれど、まずは第一歩は踏み出せたってことね」
「うん……夜の散歩、結構いいかもしれない」
 そうして、ルカリオとグラエナは毎日のように夜な夜な二人きりで夜の散歩に繰り出した。途中でトレーナーにバレて心配されたりもしたけれど、『貴方たちなら危険でもないか』と、鍵の施錠の仕方を教えてもらい、きちんと戸締りをしてから散歩に出かけることになった。そうして迎えた週末、サバイバルバトル仲間と集まった際には、一週間前にはできなかった不意打ちへの備えが、十回に二回くらいはできるようになっていた。まだまだ成功率は低いが、それでもかまわないのである。
 なぜなら、敵も波導を用いてかく乱する際は、派手な音がすることもあって敵……つまるところルカリオの味方にもその居場所がわかってしまうし、ルカリオが狙われてしまうという事もバレてしまう。今はかく乱されてからの不意打ちに備える訓練として、ルカリオ単独で対抗する練習だが、試合となれば味方がカバーに入るため、より反撃は簡単になる。ルカリオ画布k数から同時に狙われても、きちんと備え、仲間もカバーに入れるようになれば、返り討ちにするのもそう難しいことではないはずだ。
 ルカリオ等のサーチャーをかく乱して一斉攻撃するということは戦略の要であるサーチャーを潰すには有効な手段ではあるが、逆に多くの兵隊を失いかねない諸刃の剣でもある。それを失敗する確率を、わずかでもあげることが出来るのならば、それでいい。
 まだ、この程度ではトワイライツには通用しないだろう。トワイライツもサーチャー潰しは手探りのようなぎこちない印象はあったが、次会う時には完成させてくるはずだ。ルカリオは、この程度では満足せずにさらにトレーニングを続けることを誓った。


 頑張りやなルカリオが、ある程度の成長では満足せずに、さらなる高みを目指して夜の散歩に繰り出そうとすると、一人でも大丈夫だというのに、グラエナは毎回彼に付き合ってあげた。まだ主人がバッジを集め、リオルとポチエナだったころから一緒だった二人だが、最近はパチリスを育成するようになってしまったため、二人きりの時間は貴重だった。
 彼女にとっては、この夜の散歩はルカリオと一緒に行動するための最高の言い訳だ。最近は毎日のようにデートをしている気分で、彼女も少し浮かれている。
「あそこ……あと、あそこにも」
 サーチャーつぶし対策も一か月を過ぎると、ルカリオも随分となれたもので、暗闇の中に潜むポケモンを的確に発見しては、その方向を指さすようになっていた。
「随分と見つけるの早くなったね」
 ルカリオの成長速度にはグラエナも喜び、思わず笑顔が綻ぶ。
「まぁ、月が一度生まれ変わってるくらいは頑張ったからね。それにしても、あー……こう、この季節は見ちゃいけないものまで見ちゃうね」
 ルカリオとグラエナが見つけたのは、交尾の真っ最中のポケモンたちであった。男女で歩いているときにそんなものを見つけてしまうと、どうにも気まずくなって、ルカリオは目を合わせづらい。
 二匹のテッカニンはこちらの存在に気付いているのだろうか、こちらの様子をちらちらとうかがっている。たとえルカリオたちがその気になったとしても、あらゆるポケモンの中でもトップクラスの素早さを持つポケモンだ、そう簡単には捕まらないだろう。
「で、貴方も我慢できないわけだ」
 嫌でも目についてしまうその愛の営みを見物していたら、ルカリオの下半身はいきり立っていた。
「面目ない……」
「そう気にする必要はないよ。生きていれば必ずそうなるものなんだから」
 言い終えると、グラエナはルカリオの前に立ち、赤黒く存在感を主張するそれを何のためらいもなくぺろりと舐める。
「ふにゃっ!?」
 間抜けな声を上げて驚くルカリオを見て、グラエナは妖艶に笑う。
「な、な、な、なに!?」
 彼女の意味深な笑みを見て、ルカリオはしりもちをついて、股を閉じて股間を隠す。
「何よ、取って食うわけじゃないのに、隠さなくってもいいじゃない?」
「いやだって、味見するかのような……」
「気持ちよくしてあげたつもりなんだけれど、そう思われたのはショックだなぁ……」
「気持ちよくって……?」 
 グラエナの不穏な言動に、ルカリオは思わず波導を感知する。波導を感知すれば相手の思考はある程度うかがい知ることも可能だが、これは恋慕、性欲……そんな感じだ。
「ねぇ、貴方言ったよね? 野生のポケモンにとっては最も幸福な瞬間だとかどうとか。私たち人に飼われてるポケモンにだって、あれは幸福なことなんじゃあないの? 思えば、私達ずっと一緒に居たのに、いっつマスターの目やパチリスの目が有ったでしょ? 今は、誰の目も気にすることはない……野生のポケモンに交じって、幸せになっちゃわない?」
「え、突然言われても……」
「煮え切らない男は愛想つかされるよ? ま、貴方がそのつもりなら私はいいけれどねー。見てごらんよ、あのテッカニンの気持ちよさそうな表情を。貴方もああなるチャンスがあるのに、それをみすみす逃しちゃうだなんてもったいないと思わない?」
「それは、もったいないけれどさ……突然、どうしたの?」
「私が、サバイバルバトルに勝つためだけにこうして夜の散歩に付き合ってるとでも思った? 貴方と、一緒に居たいからよ……突然といえば突然かもしれないけれど。でも、私は大真面目よ? ずーっとそばにいて、お互い自分の能力を高め合うために何度も戦った仲じゃない? 特に最近は、ずっと貴方の事を押し倒したりしていたからね。貴方を……もっと強く押し倒して、私のものにしたいだなんて、そんなことを考えたりもしたのよ?
 どうも貴方とは温度差があるみたいだけれど……私は、魅力的じゃないのかな?」
「いや、そんなことはないよ……びっくりしただけ」
「そう」
 グラエナはゆっくりと瞬きをしながら、ふらりと歩き出す。閉じられたグラエナの股を鼻でこじ開けると、立ち上がったペニスまで強引に首を突っ込んで見せた。
「じゃあ、もうあなたは覚悟を決めて貰わないとね」
 ルカリオはもう股を閉じようとはしなかった、グラエナの舌を受け入れ、下から上にぺろりと舐める刺激を、無防備に受け付ける。
「ふふ、覚悟を決めたようね。それとも、体の声に従ったのかな?」
「後者かな」
 ルカリオは苦笑する。欲望のままに動いたら嫌われてしまうんじゃないかと、今まで我慢して耐え忍んでいたが、相手がその気ならば遠慮の必要もないだろう。
「で、いいの? やっちゃっても」
 その気になったルカリオは気が早かった。立ち上がると、もういきり立ったペニスを隠そうともせず、尻尾をぶんぶん振りながら彼女の顔を見下ろし、わくわくとした顔で返事を待ちわびている。
「焦りすぎ。貴方、私の体が普通の女と違うのは知ってるでしょ? 私の気配を前にして襲い掛かってくるポケモンはいないと思う*1けれど、一応安全確認もしなきゃいけないし、目立たないところに隠れなきゃだし……」
「分かった……あそこなんてよさそうじゃない? 人間が手入れしてるから草も少ないし、けれど身は隠せるし……」
「いいじゃない」
 二人は、田畑の中にポツンと存在する神社へと足を踏み入れる。人はいないようで、二人は底に無遠慮に入り込む。作法も何もあったものではなく、管理するポケモンがいれば大目玉を食らいそうな行為をすることになるが、ポケモンである二人にはそんなことはお構いなしだ。

 二人は手水舎に湛えられた水を飲むと、仕切り直しとばかりに口づけし合う。
「んー……いい匂い」
 ルカリオの匂いを存分に堪能したグラエナは、笑顔でごろりと横たわり腹を見せる。先ほど口にした『彼女の体が普通の女性と違う』というのは、彼女の腹には男性器と見まがうばかりの、巨大なクリトリスと、睾丸と見まがうばかりの脂肪の塊。まぁ、匂いを嗅げばわかるのだが、一見するだけでは男にしか見えない見た目をしている。
「確かに普通の女性とは違うけれど、これはその、どうやればいいのかな?」
「うーん、これ、ある程度自由に動くから、貴方を受け入れる気分になったら後ろにグイっとまげて貴方の立派なものを入れればいいだけだけれど……少しくらいはrディーをいたわってくれないかしら?」
「それは具体的にどうすれば……」
「あなたがいつもやっているあれ……ちょっと、体験してみたいのよね。ほら、私の手じゃできないから……。ほら、そのちんちんをつかんで、上下にこう……」
 グラエナはそう言って前足を上げた。誰よりも強く大地を踏みしめ、使い込まれた肉球。彼女が言っているアレ、というのはもちろん自慰のことで、ルカリオはたまにふらりと姿を消したかと思うと、雄の匂いをぷんぷんさせながら戻ってくる。一応手や下半身は洗っているようなので鼻が悪い人間にはバレていないようだが、こっちは気づいていないふりをするのは大変だった。
 そんな風に彼も隠れてやっていることだが、夢中になると周囲の気配への警戒がおろそかになってしまうせいか、何度かその行為を見られていたのだ。グラエナの言動からたまにそれをやっているのがばれていると知って、ルカリオは耳を赤くした。
「見てたの……」
「見てたよ」
 恥ずかしそうにするルカリオに、グラエナは満面の笑みで答える。
「まぁ、いいじゃない? 恥ずかしいことなんて、これからいくらでも見せるんだから」
「う、うん……じゃあ、やるよ」
 ルカリオはごくりとつばを飲み込んだ。同じ屋根の下で暮らし、戦いのために汗も血も流し合った仲だ。相手の体に触れたことなんてとてもじゃないが数えきれないがこんなデリケートな場所を触るのは初めてだ。自分のペニスとそう変わらないという、巨大なクリトリス。ルカリオは彼女の横に膝立ちになると、彼女の背中に左手を置いて、右手で彼女のクリトリスを握り締める。力は、自分がやる時よりも弱めにした。もしも痛がってしまったら、せっかく誘ってもらったのに台無しだ。
「どう? 力は弱めにしたけれど、大丈夫?」
「大丈夫。そのまま前後に動かしてみて」
 ルカリオは言われるがまま、彼女のクリトリスを握り締めて前後に動かす。
「へぇ、これ……結構気持ちいいのね」
 ルカリオにそれを握られると、グラエナはすぐに足の位置を変える。本能的に、交尾がしやすい姿勢は気持ち良くなりやすい姿勢。そういう姿勢になるために、グラエナは前足と後ろ脚の間隔を狭めた。
「何よ、貴方……こんなに気持ちいことを毎日のようにやってたの……うらやま……しい」
「大丈夫?」
「気持ちよくて……ん、あんまり言葉が……上手く、言えないの……これ、貴方……ん……」
 グラエナはもう、言葉を紡ごうとするのを諦めた。そんなことに意識を割くよりも、今はこの気持ちよさに浸っていたい。
「もっと強く、速く……痛かったら言うから……」
「分かった」
 グラエナに言われるまま、ルカリオはもっと速く、もっと強く彼女のクリトリスを握り締める。実はグラエナ、まだ彼女は快感を感じるのが上手くないルカリオと違って、自慰の経験は希薄なため、どうすれば気持ちがよいのか、そういうのがまだよくわかっていなかった。
 だが、彼の稚拙な愛撫でも、初めてでも、その快感はなかなかに衝撃的だ。快感の感じ方を良くわかっていないのと同時に快感その者にも慣れていない。彼女はこれからの人生でもっと気持ちがよいことを知るチャンスはいくらでもあるが、初めてのルカリオの愛撫は、『こんなに気持ちよいことがこの世界に合ったのか』と、衝撃に満ちていた。
 それはルカリオも通った道だ。雄の射精の快感など、たかが知れているもので、今の彼にとってはもうマンネリな快感だ。けれど、初めての時はルカリオだって、今のグラエナと同じ気持ちだった。
 だが、やはりルカリオの技術は少し稚拙だし、グラエナもどんなふうに快感を感じればいいのかまだ分かっていないこともあり、快感のその先には到達できなかった。しかし、それは仕方ない、これから徐々に高めていくしかないのだ。
「はぁ、へぁ……ほぁ……はふぅぅぅぅ……いいじゃない、ルカリオ。あなたがいつもやっていたことって、こんなに気持ちいいのね」
 ルカリオが腕が疲れ、手を離したところで、呼吸を整えてグラエナは笑みを浮かべる。
「気に入ってくれて何よりだよ」
「そうね。あー……こんなに気持ちいいのなら、もっと前からやってもらえばよかったなぁ」
「そうだね……俺も、君が気持ちよさそうにしているのを見て……なんだか、俺まで幸せになってくる」
「そうね、私もあなたが気持ちよさそうにしているのを見るのは好きだったし」
「こっそり見ないでよ……」
 グラエナの満面の笑みに、ルカリオはこの場から逃げたいくらいの恥ずかしさを覚えた。
「いいじゃない、これから私が気持ち良くなるところを存分に見られるのよ?」
「分かってて見せるのとみられるのは違うでしょ……んもう」
 ルカリオは不満げにつぶやき、もう一度彼女のクリトリスを掴む。
「あら、またやってくれるの?」
「うん……そんなことよりこれ、本当に俺のを入れても大丈夫なの?」
 グラエナのクリトリスを前後にこすりながら、ルカリオが問う。
「ん……そうなのよね……公園であった年上のグラエナは、最初死ぬかと思たって……ん、あ……貴方のは、それなりの大きさだし……少し慣らせば平気かと思う……けれど……」
「じゃあちょっと細めの棒で慣らしてみるよ……」
「ん……いいけれど、そんな細めの棒なんてどこに……」
 グラエナはルカリオの愛撫を受けて、甘い吐息交じりに問う。
「ないなら作るよ」
 ルカリオはボーンラッシュ用の骨を手のひらに作り出す。なるほど、とグラエナは苦笑した。ルカリオは。そうして作り出したなめらかな曲線の骨を、すでにじっとりと滑り気を帯びた彼女のクリトリスに埋め込んだ。クリトリスと膣が一体化しているグラエナのそれは、まるで尿道に異物を突っ込んでいるような見た目なので、ルカリオは思わず身震いするが、当の本人は割と気持ちよさそうだ。
 優しい手つきでゆっくりと前後に動かすと、内側からも外側からも同時に刺激を貰っているグラエナは鋭い牙の並んだ口をだらりと開けて、はしたなくヨダレを流している。
「これは、この、これ……すごい……」
 もうまともな言葉で今の状況を表すことは難しいのか、実況もままならないようだ。
「もっと、おねがい……」
 はあはあと、息が荒くなる。まるで今までの快感がお遊びであったかのような快感に翻弄されて、グラエナは頭がくらくらしている。余計なことを考えるのも難しくて、この快感に浸っていたいのか、続けるうちに彼女は意味のある言葉を吐くことが出来なくなっていた。
 そんな状況でも、ルカリオはゆっくりじっくりと彼女の中を慣らした。一度骨を引き抜くと、今度はちょっとだけ太めの骨を作り出して、もう一度それを突っ込んだ。少しだけ圧迫感が強まって、グラエナも最初はウッと苦しそうな声を上げる。ルカリオはそんな彼女をいたわるように、ゆっくりゆっくりと彼女の体を慣らす。匂いと喘ぎ声と、そして伝わってくる淫靡な波導のおかげで、それにあてられたルカリオはギンギンに張り詰めたペニスを抱えることになるがまだ急いてはいけないと、必死で理性で押さえつける。いくらルカリオが癒しの波導を使えるからと言って、傷つけて痛い思いをすれば今後こういう風に誘ってくれなくなるかもしれないから、慎重になければならない。
 気づけばルカリオまで呼吸が少し荒くなり、目も血走っているのだが、そんなこと気にしてる余裕もないようだ。彼女を無理させれば、これで終わりになるかもしれない。けれど、早いところこの欲求不満を解消したい。
 時間をかけて慣らした彼女の膣は、太めの骨も次第に受け入れるようになっていた。ほぐされることで柔軟に伸びた彼女の膣は、いまならばルカリオのペニスも受け入れられるだろう。
 ルカリオが慣らすのに使っていた骨を引き抜くと、とろりと粘液が滴り、月明りを反射している。ルカリオは骨を霧散させると、グラエナの脇腹あたりを掴み、そこを撫でる。
「もういいよね」
「胸の棘には気を付けてね?」
 ルカリオの質問には答えていないが、グラエナは笑顔でそういった。意を決して、ルカリオは彼女のクリトリスを後ろから掴み、ペニスをその中へと沈めていく。暖かい、そしてぎゅうぎゅうと締め付けてくる。手でやるのとは全く違う、圧倒的な密着感。ペニスの全体を覆うから、上下左右、あらゆる角度を隙間なく刺激されmそのうえ外気に触れないおかげで余計な刺激は一切ない。
 早くも射精しそうになるその圧倒的な快感にもまれて、ルカリオの意思に拠ることなくペニスがびくびくと跳ねる。落ち着いて深呼吸、このまますぐに果ててしまったら、格好悪いことこの上ないと、ルカリオは我慢した。一方、グラエナはルカリオが動いていないにもかかわらず彼がもたらす圧迫感と、脈動だけで頭が沸騰しそうな快感に酔わされている。
 ちょっと痛みもあるけれど、軽く動かすだけでも強烈に圧迫される部位が動くため、刺激は大きい。しかもルカリオは、相変わらず外側からも彼女のクリトリスを掴み、二重の刺激でグラエナを快感の沼にいざなっている。
 尿道にも見えるような彼女の女性器だからこその芸当の恩恵は、快感を受け取る側のみならず、与える側のルカリオもそうだ。女性器というのは産道も兼ねており、精液を搾り取るだけのものではない。だからこそ、力の調節というのは当然理想とはかみ合わないものだけれど、外側から掴むことで、理想に近づけることは可能だ。
 ルカリオは軽く手を添えて、より気持ちい具合を模索しただけだったが、そうして与えられる予想外の刺激は、グラエナにも良い影響を与えた。
「ん、ん、うん……」
 鼻にかかった上ずった声を上げて、グラエナは快感のその先、オーガズムを迎えた。それに合わせて彼女の膣はルカリオから精液を搾り取ろうと、痙攣して彼のペニスを締め付ける。彼女の反撃はそれはもう強烈で、ルカリオが道連れに射精へと至るのは、予定調和のようなものだった。
 彼もまた、勢いよく射精する。それに合わせて、彼のペニスの根元は大きく膨れ上がって、こぶが形成される。それは雌の膣に蓋をして、長い射精の間に精液が漏れないようにするもので、それに大きく押し広げられた彼女の入り口近くは、大きく引き伸ばされて痛みを伴った。
 しかし、その痛みも強烈な快感のおかげで、少し気になる程度と言ったところ。グラエナは彼の射精に伴うペニスの痙攣を受け止めながら、幸せな快感に脳を溶かしていた。
 一足先に冷静になったルカリオは、目をつむり周囲の波導を確かめる。無防備な交尾中を狙って襲撃しようなどと考える不届き物はいないようなので、ルカリオは安心して彼女の体に意識を向けた。淡い桃色の波導、快感を感じている証拠だろう。暖かく、息遣いも激しい。まだ少し意識は乱されているようだが、彼女もまた少しずつ冷静さを取り戻しつつあるようだ。
「……初めての相手があなたで良かったわ」
「そう言ってくれて嬉しいよ」
 冷静になったグラエナの最初の一言で、ルカリオはほっと胸をなでおろす。
「これからも、夜の散歩で貴方の波導に頼らない敵の位置予測を鍛えましょう。それが出来るようになれば、貴方はもっと強くなる」
「夜の散歩を続けたいのは俺に強くなってほしいからだけ?」
「ふふ、そんなわけないでしょ?」
 グラエナは笑みを浮かべ、ずらりと鋭い牙を見せつける。
「子供の頃から、ご主人の元でずっと貴方のそばにいたのよ。こういうチャンスを狙っていたし、これからも……気分が乗ればね」
 いまだ小刻みな射精が終わらずつながったままなので、彼女の表情はうかがい知れなかったが、グラエナが笑みを浮かべているであろうことをルカリオは感じる。
「……でも子供が出来たらどうしよう?」
「そうね、育てましょ? 私達で賞金を稼いでさ。勝てばいいものが買えるってご主人言っていたし、勝てば子供の食事も買える。そういうものでしょ? 戦いも楽しいけれど、やっぱりこれが生きているってことだしさ」
「そうなると、俺も頑張らなきゃなぁ……」
 こうして交尾をしてしまった以上、必然的に付き纏う問題だ。いつ子供が生まれてもいいように、バトルに勝たなければいけない。ルカリオは自分の背中に責任がのしかかるのを感じるが、それは存外悪いものではないと感じた。

 ◇

「そこらじゅうで波導の技が使われている……何だよ、このチームもサーチャー潰しか! 近くにいる奴はルカリオの援護に入ってくれ」
 高低差の多い山のフィールド、空を飛行するバルジーナにルカリオを発見されたのだろう、悪の波導や水の波導で気配をかく乱されて、ルカリオの波導による感知が役立たなくなる。ブルーナイツの中でも、サバイバルゲーム上がりでポケモンの育成に関しては素人で、いわゆる指示専だが周りを把握する力は誰よりも長けているメンバー、ダリルがその場にいる全員に告げる。
 近くにいるポケモンを指揮しているトレーナーたちは、口々にルカリオがいる場所を指定し、そこへ向かわせた。
 ルカリオはサーチャー潰しの兆候を感じ取ると、即座に居場所を変えて敵を迎撃しやすい場所に陣取る。グラエナと暑い夜を過ごしたあの日からさらに鍛錬をつづけた彼は、敵が攻撃してくる場所を予測するというのも大事だが、予測しやすくするというのも大事という事を自然と理解し、それを実行するようになっていた。
 敵チームが砂嵐を起こしたのだろう、周囲の視界が悪くなる中、ルカリオは守りを固め、ジュナイパーは彼の援護を最優先にして構え、ルカリオの援護にグラエナも回る。
「てめえら! ウチの仲間に手ぇ出すとはいい度胸じゃねえか!」
 ルカリオが襲ってきた相手を迎撃している間に、グラエナの大声が響き渡る。
「噛み殺されてぇ奴からかかってこいや!」
 彼女の強烈な威嚇と強烈なバークアウト。威嚇で腰が引け、バークアウトで集中力が乱され、敵たちは自然と委縮する。
「ちょ、グラエナ。俺にもバークアウト当たってる!」
 耳が痛み、頭痛までするような大声にさらされ、ルカリオは戦いながらも抗議するが……
「当ててんのよ!」
 グラエナの返答は無慈悲であった。そうして委縮した敵に、ジュナイパーの足爪が礫となってギガイアスに突き刺さり*2、首周りの葉っぱがガマゲロゲに投げナイフのごとく突き刺さり、グラエナのバークアウトで強力になったルカリオの打撃がエレザードを滅多打ちにする。
 ガマゲロゲとエレザードは一撃で始末され、ギガイアスはジュナイパーの一撃では倒れなかったが、グラエナの援護とルカリオのバレットパンチで、叩き伏せられていった。
「ふぅ……何とか撃退できたね」
 喉を酷使したグラエナは、のどの痛みに顔をしかめながらほっと息をつく。
「あぁ、まだ耳がキンキンする……」
 無傷とはいかないが、今までのように慌てることもなく、味方もルカリオも迷いない動きが出来るようになって、非常に軽微な損害で三匹の敵を返り討ちにした。見れば、上空でもバルジーナがガブリアスと戦いを繰り広げており、ルカリオに注視してガブリアスの不意打ちを食らったバルジーナは、砂嵐の圏外であったが一方的にやられてしまった。
 ルカリオは援護してくれたガブリアスとジュナイパーにハンドサインを送り、グラエナにはハイタッチをする。敵もサーチャー潰しを失敗した以上は、もはや後はないだろう、消化試合といって差し支えなくなったその試合を、ブルーナイツの面々は敵の殲滅に向けて走り出した。

 つづく……PSB:砂嵐の二人

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*1 威嚇の特性の効果で、レベルの低いポケモンとは遭遇しにくくなる
*2 遠隔のローキックである

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Last-modified: 2019-06-22 (土) 13:48:27
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