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PHOENIX 1 ‐出会い‐

/PHOENIX 1 ‐出会い‐

PHOENIX
作者 SKYLINE

1話 出会い

空を見上げると灰色一色に染まっており、そこから生まれる真冬の桜は舞い散る様にゆっくりと降下している。
真冬の桜……即ち雪の結晶は私の額に落ちると溶けて液体へと変貌した。
一つ、また一つそれは私の上に落ちては溶解を繰り返す。吐く息は白く、通りを行き交う人々の数はいつもに比べると少ない。
私はどこに行くなどといった目的も無く通りを歩いていた……
私の名前はチルタリス。けれどこれは種族名であって本当の名前は知らない。
ちなみに性別は雌で恋人募集中だけれど先ずそんな者など現れない事は十分……撤回、十二分に分かっている。
私が丁度物心付いて来た頃に両親は揃って事故で他界し、たった一人居た友達も私の両親が他界して間もなく私の前から姿を消した。
それからはずっと孤独。一人寂しく生きてきた。日雇いの仕事で僅かな給料を貰い、お金が無い時は野性の不味い木の実を食べて何とか凌ぐ。
一般市民は一日三食を家族と談笑しながら楽しく温かい食事を取っているが、私の場合は談笑する相手も居なければ冷めた食事を一日一回食べる程度である。
一日一食ならぶくぶくと太る事も無いし会話なんてしても何の為にもならないと前向きに考えている。
けれどもやはりお腹は悲鳴を上げるのだ。つい先程も空っぽのお腹から響く音が自分が空腹だという事を激しく訴えていた。
すれ違う子供が手に持っている安いお菓子も私から見れば高級食品。とてもおいしそうである。

(はぁ、お腹空いた……)

私が歩いている理由は何かお金になる物が落ちていないか探している為。しかしながら昔から持っている茶色いバックの中は今現在空気のみ。
積もる雪はまるで私に対して嫌がらせでもするかの様に路上に堕ちている換金出来そうな物を隠蔽する。
これでは何も見つからない。ただ時間だけが過ぎて行き、地に付く足は悴む。
時計を持っていなくても太陽の位置で時間が分かるが今日の空はあいにく分厚い灰色の雲に支配され、
太陽を全くといって目に映す事が出来ないが周囲は暗くなりつつあった。それにタイプが影響して寒さは大の苦手。天候までもが私に敵対する。
最近になって薄々だけれども感じていた。私がこの世に存在する価値など全く無いのではないのかと。
もはや私の存在、名前を知る者はおそらく、いや、確実に誰も居ない……
私はそんなくだらない事を考えながら歩いていたが、いつの間にか町から少し離れた場所にある住居の代わりとして使っている小さな横穴の入り口まで辿り着いていた。
振り向くとそこには町に向かって続く私の足跡が残っている。
本能的にここに帰って来たのだろうか。

「ただいま……」

私はおかえりと言ってくれる者など居ない事は百も承知だがただなんとなく小さく呟く。
無音だった小さな横穴に僅かに私の声は木霊した。舗装された道とは天と地程も違うごつごつとした岩の床の上で転ばない様に脚を動かして横穴の奥に向かう。
奥に辿り着いた瞬間に私は極度の脱力感に襲われ、その場に崩れるように座り込んだ。
そして、以前集めておいた薪代わりの木の枝に口から軽く炎を出して火を付ける。
こうでもしないと眠った後に目が覚める事は無いであろう。私は地に伏せ、真っ白な翼を体に纏わせると蹲る。
今の空模様の様に灰色の岩の床に腹部が着いた瞬間、全身に冷たい感覚が迸った。
だがこれは最初だけ。少し我慢すれば体温で地面は温まる。
私はそのままじっと動かずに鼻の穴から白い息を出しながら何時しか深い眠りに就いてしまった。
そんな中、横穴の外に群生する葉っぱという物を失った骨の様な木の陰に隠れながら眠っている私を眺める者が居た。当然眠りに就いてしまっている私は気が付く訳も無い。
その者はしばらく綿毛の様な自身の翼を纏わせて蹲りながら眠っている私を降りしきる雪と似た冷たい目付きで眺めた後に姿を消した。








翌朝。昨日まで降っていた雪は止み、空の色は見る者を魅了してしまう美しく鮮やかなスカイブルー。
そしてそこを純白の雲は小川の流れの様にゆっくりと流れている。
横穴の入り口から入り込む温かい日差しは私の体半分を照らし、その明るさで私は目を覚ました。
重い瞼を上げると飛び込んできたのは陽光を反射して燦々と輝く降り積もった雪。
寝起きの目には少し眩しすぎるが、昨日の嫌がらせでもしている様であった憎い雪とは一転してそれはまるで敷き詰められた白い真珠の大海原。

(綺麗……)

私は思わず見とれてしまい心の中で呟いた。薪として使っていた木の枝に付いた火は勢いを失い今は小さく揺れている。
どうやら眠ってから数時間経った様子だ。私はゆっくりと起き上がり横穴から顔を出してみる。
天に座す太陽の位置から推測して大体今は午前九時と言った所か。町の方からは賑やかな声が響き、私の鼓膜を僅かに振動させる。
私は完全に横穴から出ると降り積もった雪が輝く白銀の大地の上を歩き出した。
だが、そんな私の後ろには木の陰に隠れる黒い影。木の陰に隠れている者は私に気付かれない様にしながら、
耳に着けた小型の無線機で誰かと小さな声で会話していた。

「目標を確認。捕獲します」

「市民には気付かれるなよ」

「分かっています」

そんな事は見ず知らず、私は木の茶色と雪の白の二色の世界に歩いた痕跡を残しながら前進していた。
だが私はふと気が付いた。
今は寒さが苦手な私を温めてくれる優しい太陽を背にして歩いている。
視線を足元に移すとそこには背後から伸びる木とは違う形をした影が見えているのだ。それも徐々に黒い影は私の前方に向かって伸びていく。
考えられる事は一つ。

(誰かに尾行されてる?)

こんな場所には私以外の誰も居ない筈なのだが確かに後ろに誰か居る。
私は急に怖くなり、足を速めようとした。
だが、その瞬間。
私の綿毛の様な右翼は突然掴まれる。掴まれた右翼から底知れぬ恐怖が込み上げ、まるで私は地震に揺らされる針葉樹。
私はぶるぶると体を震わせながらゆっくりと振り向いた。

「よう。待ちなって」

振り向いた私の視界には逆光で見えにくいが明らかに自分より体格が良く、
胸元に軍のバッジをつけた青い体、そして強靭な顎を持ったポケモン。オーダイルの姿が飛び込んできた。
さらに腰には迷彩柄のポーチをぶら下げ、明らかに戦地に赴く格好。耳に入るのはそのオーダイルの太く低い声。
彼の目は鋭く、睨む様に私を見下ろしていた。
いや、様と言う言葉は合致しない。完全に睨んでいる。
私の恐怖は絶頂を向かえ、もう震えが止まらない。声を上げようにもその威圧感の前に口が脳からの指令を受け付けない。
私の右翼を掴んでいる軍人らしきオーダイルは私を見下ろしたまま口を開いた。

「お前……家族も友達も居ないクズだろ?世の中のお荷物って奴だ。どうせこのまま生きててもしょうがない。
軍の実験材料にならないか?」

「ぐ、軍の実験?」

私は声を震わせながら聞き返した。オーダイルは私の腕を掴んだまま人を見る目ではなく物を見る目で私を睨む。
それは明らかに私に対して圧力を掛けていた。
私の内心では材料になる気などさらさら無いが断ったらどうなるかと言う想像が渦巻いていた。
だが、やはりここは逃げろと本能が警邏を鳴らしている。
私は体が震える中、やっとの思いで尾羽を動かして自らの翼と同じ色の雪を弾き、オーダイルの顔面にそれをぶつける。

「うっ!!」

純白の雪を顔面に浴びせられたオーダイルは一瞬だが怯み、私はその隙に彼の手を振り解くと、必死に足を動かして雪上に足跡を残しながら走った。

(このまま助走を付けて飛べば!)

私は真っ白な両翼を羽ばたかせ、澄んだ青色の空に飛び立つ、足に触れていた雪の感触が消え、体が宙に浮く。
飛び上がった瞬間に安心感を覚えた。オーダイルと言う種族は飛行出来ない。飛び上がってしまえばこちらも物だからだ。
だが、その安心感は一瞬にして雪崩の様に崩壊する。
オーダイルは私の尾羽の先端をギリギリのタイミングで掴むと意図も簡単に私を雪の積もった地面に叩きつけた。
雪と言う名のクッションが在るとは言え、痛点を介して痛みが全身に迸った。

「ったく。孤児の分際が世話焼かせやがって」

「うぅ……そんな」

私はうつ伏せに倒れた状態で振り向くとそこにはオーダイルが腕を組んで仁王立ちしている。立ち上がろうにも痛みで中々力が入らずに立ち上がる事が出来ない。
私の額からは季節外れの汗が垂れ、額に付着している雪を溶かすと一緒になって頬を伝う。
自分でも焦っているというのが理解出来た。
このままではあのオーダイルが言っていた軍の実験などと言う物の材料にされてしまう。必死にもがいていた私であったが、ふと気付くと目の前にはあのオーダイルの巨体。
そして指の骨をかかって来いとでも言うかの如く鳴らしている。

(もう駄目だ……)

私はその光景を見た瞬間に死を覚悟した。幼い頃に苦しい生活に嫌気がさして自殺してしまおうと考えた事はあるが、まさか死の恐怖がこんなにも恐ろしいと言う事を始めて感じた。
頬を伝い下嘴から垂れた雪解け水が混じった汗は雪上に落ち、周りの雪に染み込む。
その直後に私は頭に激痛を感じ、さらには意識が朦朧としてきて両の目に映るオーダイルの足は霞んでくる。
そして私はそのまま気を失ってしまった。








あれからどれだけの時間が経ったのだろう。私は氷点下の外界とは違う温かい部屋で目が覚めた。
目を開けると最初に飛び込んできたのは眩しい蛍光灯の発光。壁は明るい……それも白に近い灰色。
私はベッドと言うよりは台と言った方が正しい所に仰向けになっていた。
耳に入ってくる音は私の心臓の鼓動に合わせて鳴る電子音。
私の両翼両足、そして尾羽と首は鉄製の金具で固定され、動かす事が出来ない。体の至る所には何かのコードが繋がれている。
それに加え、口にはテープが貼られて声を出す事も出来ない状態であった。背中から伝わる感触は硬い金属。これから生き地獄でも体験するのだろうか。
そんな恐怖心から目からは自然と涙が流れ始める。拭おうにも両翼は固定されている為にただただ涙腺からは涙が溢れては頬を伝う。
私がしばらくもがいていると、部屋に一つしかない扉が密閉していた容器を開けた時の独特の音に近い音を発しながらゆっくりと開く。
私はそこに視線を移した。部屋に入って来たのは私を襲ったあの忌々しいオーダイル。
よく見れば、その後ろにも誰かが居る様だ。

「ん?目が覚めてますね。暴れない様に麻酔でも打ちますか?」

オーダイルが振り向き際にそう呟く。すると彼の後ろに隠れていた者がその姿を私の前に曝け出した。
黄色い体で細い腕と足、そして特徴的な長い二本の髭がある。とても知能が高い事で有名なフーディンと言う種族だ。
彼はオーダイルの横に立つと涙を流す私を見ながらしばし黙り込む。
その間に私は必死に声にならない叫びを出していた。

「ん!んん!!(お願いです!助けてください!!)」

だが私の悲痛な叫びは向こうからすればただの呻き声にしか聞えていない。
フーディンが堅そうな口をようやく開き、言葉を発するがそれは私を更なる深い深い絶望の谷底へと突き落とす。

「……所詮ただの試験材料。麻酔を使うだけ無駄だ」

「了解。ではこのまま実行させます」

フーディンがそう言い、それにオーダイルが答える。私はその光景に絶望を感じながらも必死に翼や足を動かそうとしていた。
だが、鉄製の金具で固定されているので微として動じない。私の頬には汗が流れ、焦りが表情に否応無しに姿を現す。
この絶望的な状況を改善する方法は何か無いのだろうか。
私は脳をフルに活動させるが幾分焦っている為に何一つ名案は出てこない。

「私とジャウは別の用事がある。実験が終了しだい報告しろ」

「はっ!」

フーディンは冷静な口調で配下の兵士……と、言うよりは研究員とでも言った方が良さそうな者にそう告げると、ジャウと呼んだオーダイルに扉を開けてもらい、部屋の外に出て行く。
オーダイルのジャウはフーディンが外に出ると自らも外に出て扉を閉めた。
外から鍵を掛けた音が私の耳に飛び込む。
二人が出た後、部屋はまた静寂と化し、単調な電子音だけが響く。
私はもがく事を止め、今一度周囲を見回す。部屋は窓が無く。息苦しい雰囲気。そして壁の上部には換気扇がクルクルと回転していた。
ここがどこだかは全く理解出来ない。
数分経つと先程の様にまた扉が開き、研究員と思われる者が二人部屋の中に入ってきた。
そしてその内の一人が持つ銀色に輝くトレーの上にはピンポン球程の大きさをした黒光りする丸い塊が居座っている。
私はその不気味過ぎる球体を見た瞬間に益々恐怖を感じた。
でも、これ以上は抵抗した所でどうにもならないと悟り、その黒光りする丸い塊をじっと見つめる。
恐怖はあるが未練は無い。
もうこの世には私を失って悲しみを覚える者も居なければ町から居なくなっても影響は微塵も無い。
自分の名前、年齢すら分からないが今まで良く生きたと思う。
人生の終止符が打たれる場所がこんな息苦しい場所なのは少々気に食わないがいまさら足掻いてもしょうがない。
私は最後に産んでくれた母親に心の中で感謝の意を唱えた。

(ありがとう)

と、一言……
私の両側に立った研究員は黒光りする塊を手に持ち、それを私に見せびらかす様にしながらにやけた表情で私に話し掛けてきた。

「中々可愛い顔してんのに残念だったな。だが喜べ。お前は軍が極秘に開発したこのフェニックスの最初の実験体だ」

(フェニックス?)

フェニックス……不死鳥と言う意味の言葉があの黒い塊の名称らしいがそんな事は私にはどうでもよい。
もうさっさと殺してくれという心境に陥っているからだ。
研究員はそんな私の思考を読み取れる筈は無い。そもそも有ったとしても読み取ろうとはしないであろう。
研究員は長々とした説明をし始めた。

「このフェニックスは口から体内に入れる。入れられたポケモンは、
角ドリルで体に風穴が開こうが、火炎放射で焼かれようが、切り裂くで首を飛ばされようが、
フェニックス自体を破壊されない限り死亡しなくなるんだぜ。……多分な。
どうだ?すごいだろ。正に不死身って奴だ。
そしてそれと同時にポケモンの神経回路に作用し、命令を聞くだけの道具に変化させる。
最終的には一般国民共にこれを入れ、不死身の軍隊を持って隣国を全て侵略すんだよ!」

「おい、機密情報を話すな。情報が漏れたらどうする気だ」

「なぁに、どうせコイツは道具に成る。漏れる訳ねぇって」

得意げに話すその研究員にもう一人がストップを掛ける。けれど、語っていた研究員は反省の色を示す訳でもなくへらへらとしていた。
そんな忌々しい二人の会話を聞いていた私はふとある事に気が付いた。
なんと口を塞いでいたテープが半分程剥がれているのだ。
その瞬間、一気に死を覚悟して沈んでいた気分が消え失せた。これなら龍の息吹や火炎放射と言った技を使う事が出来る。
私は今まで世の中の役に立った事は無いが一度位は役に立とうと思い、この軍の恐ろしい計画を露にして阻止しようと言う気持ちが心の奥底から勢いの良い間欠泉の如く沸いてきた。
運良く剥がれたテープに研究員は気が付いていない。
私は一度目を瞑り、意を決して研究員が背を向けた瞬間に火炎放射を放った。

「うわ!馬鹿な!?」

私の口から勢い良く放たれた紅蓮の炎は天井にぶつかり、四散する。四散した炎は火や煙に過剰反応する屋内の雨雲を刺激して室内に土砂降りの雨を降らせ始めた。
その光景に驚いた研究員は仰け反り、ボタンが並んだ機械に背中をぶつける。
その刹那。
体の自由を奪っていた鉄製の金具が外れ、私は開放された。
驚き、慌てふためいている研究員を尻目にし、私は体に繋がっている管を引き抜くとスプリンクラーの水を浴びながら換気扇のファンを破壊してその中に潜りこんだ。
銀色一色で狭く迷路の様に入り組んだ通気孔を外から伝わる新鮮な空気の流れを頼りにしてひたすらに這い蹲りながら私は突き進む。
耳からは喧しい警報の音と兵士達の慌てた声が伝わってくる。

「どうなっている!?縛っていたんじゃないのか!?」

「そんな事どうでもいい!今は脱走者を探せ!絶対に外部に情報は漏らすな!」

私は一心不乱に突き進み、ようやく日の光りが視界に飛び込んできた。
外と通気孔を隔てる金網を再び火炎放射で破壊し、そこから勢い外界に体を曝け出す。
私はここまで案内してくれた新鮮な外の空気に感謝していたが下を見た瞬間に足元にある筈の地面が無い事に気が付いた。
足元に広がっていたのは地面とは遠くかけ離れた流れの速い川。私は純白の翼を羽ばたかせる間も無くその川へと落下する。
私の青い体は水面にぶつかり、水飛沫が舞い上がるとそれは陽光に反射して輝く。
私はこの時期の冷たい川に飲まれてしまったのだ。
ずっと昔から冷たい物が嫌いだった私は水も例外なく嫌いで泳ぐことが出来ない。
必死に足や翼を動かすがバシャバシャとした音と水飛沫を産むだけでどうにも成らない。
それに綿毛の様な翼は水分を吸い込み、重量を増してしまう。私は顔を水面に出すのが背一杯な状況だった。
冷たい水は私の体力を容赦無く奪い取って行く。
ジャウと言う軍人に叩かれた時が再生される様にまた私の意識は朦朧としてきた。
水の中でバタつく手足の動きも鈍くなっていく。とうとう視界が漆黒に染まると私の意識は蝋燭の火が掻き消される様に失われた。








一方軍は大騒ぎ。
体を鍛え、戦闘訓練を受けた兵士達が敷地内を走り回り、隈なく捜索している。
そんな者達の声が響いてくるフーディンの部屋では……

「どうだ?見つかったのか?」

「申し訳ありません。逃がしてしまいました」

背もたれの付いた黒い椅子に座すフーディンはこの状況下でも冷静な表情でオーダイルのジャウに状況を聞いていた。
逃がしたと言う報告を受けた瞬間、一瞬僅かに目を見開いたが直ぐに何時もの永久凍土を思わせる冷静な表情へ戻るとジャウに支持を出す。

「迅速に対処し、特に隣国には絶対に漏らさせない様にしろ。敵は小娘一匹だが油断はするな」

「了解」

ジャウが深く頭を下げて部屋を出た後にフーディンは窓から見える外の景色を瞳に映しながら腕を組み、
そしてゆっくりと目を瞑った。








私が目を覚ました場所は全く見た事が無い川原。もしかしたら私は既に息絶えており、ここは三途の川の川原なのかも知れない。
私は目だけを動かしながら周囲の様子を伺う。川原の泥が付着した感覚はある。どうやら命だけは助かった様だ。
天にはまだ太陽が居座っているので時間は昼間らしい。
今は疲れ果てているので正確な時間などどうでもよかった。とりあえず昼間か夜かが分かれば満足。
背中を照らす陽光は暖かいが腰から下は水に浸かっておりとても冷たい。相対する二つの感覚を同時に感じながら私はただその場に横たわり続けた。
軍から逃げ出すまでは成功であったがその後は失敗か。
軍の恐ろしい計画を阻止したい気持ちはあるが体が動いてくれない。
しばらく私はその場でじっと死体の様に動かずにして体力の回復を図る。十分……二十分と時は流れ、その時の流れに乗る太陽は位置をずらしていく。
結局私が体を動かす事が出来たのは体内時計で計って約一時間経ってからだった。
だが、立ち上がった瞬間に左足と右翼に激痛が走る。
痛みを感じた患部を見てみると酷く腫れ上がっていた。さらに、動かす度に痛みが神経を貫く。
直感的に分かったがおそらく捻挫している。
多分流されている時に岩などにぶつかって関節が変な方向に曲がってしまったのだろう。
私は痛みを堪え、冷たい水は大嫌いだが体に付いた泥を歯を食いしばって我慢しながら洗い流す。

「冷たい!!」

我慢するも何度か思わず声が出てしまったが泥は綺麗さっぱり無くなり、とりあえず街中に居てもおかしくない状態になった。
ようやく落ち着きを取り戻した私は周囲を見回してみる。
私が居た都会とは違ってここは喉かな田舎町と言った感じの場所。家はポツリポツリとしかなく、電柱に至ってはまだ木である。
道路も舗装された場所は少なく砂利道が大半を占めていた。

「随分流されたみたい……」

私はかなりの距離を流されたと実感すると小さく呟いた。
一度は家が点在している方に向かおうとしたが考えを改めた。人が居る所に行けば軍に見つかるかも知れないと思い、家が無い山の方に向かう事にした。
横穴や洞窟を見つける事が出来ればそこで夜を越す事も可能だ。
私は歳を取っている訳ではないけれど、重い腰を上げて痛む足を気遣いながら歩き始めた。
季節が冬なので数は少ないが道端には枯れる寸前の植物が幾らか生えている。
それに所々土の茶色が混ざった残雪もあった。私はそんな舗装されていない道を歩き続けた。
途中運良く食べられる上に冬でも実が生る木を見つけると枝に付いている実を摘み取って口へと運ぶ。
決して味は良くないのだが。
だが木の実を頬張る私の背後から今までの人生で聞いた事も無い声が聞こえてきた。

「こんな所で何してる?」

「え!?」

私は声に驚き、素早く振り返る。振り返った私の両の目に飛び込んできた光景は想像していた一般人では無かった。
瞳に映るのは青い体に赤い翼を持ち、あのオーダイルと同じく軍のバッジを身に着け、胸の辺りには迷彩柄のポーチを着けているボーマンダ。
逃亡して最初に出会ったのが最も出会いたくなかった軍人である。
つくづく運が悪い。
おそらく厳しい戦闘訓練を積み、私が戦っても敵う筈の無い強そうな軍人が私の目の前に四本の足をしっかりと地に付けて立っているのだ。
緊張と恐怖、さらには絶望感が引き金となり体中から汗腺が破裂してしまったかの様に汗が噴き出すと、
それは太陽の光りを反射させながら私の体のラインに沿って地を目指しながら流れていく。

(終わった……)

私は最悪の出会いに目を震わせ、全身から力が抜けてしまうと崩れる様に落ち葉が群れで横たわる地面に跪いた。








二話に続きます。


PHOENIX 2 ‐名前‐


つまらない駄文を読んで頂きありがとうございました。
出来れば感想を頂きたいです。


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Last-modified: 2009-12-08 (火) 00:00:00
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