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My Name is……

/My Name is……

writer is 双牙連刃
短編小説第一弾!
名前って大事だよなぁと思えるように書いた……つもりです。
文章力が追いついていないかもしれませんが……。


……障害対象の行動不能を確認、身体の損傷皆無、戦闘終了。
コラッタ三匹程度に傷を負うような身体ではないし、当然か。
他の生命体にはない特徴、タイプ鋼……。
これで動物だと言うのだから笑えてくる。
何故私が属するこのポケモンという種族にはこんなタイプが存在しているのだろうか。
考えたところで何も変わることは無い。
自身の身体がその鋼で出来ていることも、毎日ただ戦闘が続くこの生活も……。
人間が定めた種族名コイル、自分がそういう存在であるということもまた……。
馬鹿馬鹿しい……考える必要など無い。生きること自体が私の存在理由なのだからな。
生きるのに私がどんな存在なのかは関係無い。必要なのは戦闘に勝つ力、ただそれだけ。
今までも、これからも……。
ん?
前方数メートル先に動体有り、形状から想定、ポケモンである模様。
またか……邪魔してくるなら蹴散らすのみ。いや、様子がおかしい。
こちらに近づいてこない?
対象の様子不明、確認の為には接近する必要有り。
無視してもいいが……どうせする事など無い。たまには他のポケモンの観察でもしてみるか。

「う……」

観察対象確認、種族名ポッポと断定、右翼に軽度の傷害有り。
ポッポ? この辺りでは見掛けた事が無いな。
怪我、か。これは他のポケモンに襲われたら身の守りようが無さそうだな。
私には関係無い。気が付く前に……。

「ん……あれ? ここは……」

この場を離れるつもりだったんだが遅かったか。
どちらにしろこの場を離れることに変わりはない。

「うぅ……皆とはぐれちゃったよぉ……ぐすっ」

……対象が群れとはぐれた事が判明、接触の必要性に変更無し、移動再開。
このポッポが群れとはぐれた事に私は関与していない。
ゆえに、この判断は間違っていない。

「えぇん……あ!」

対象が何かを発見した模様、足音接近。
何かの正体は……どうやら私か……。

「うっ、ぐすっ、すいません、ここどこですか?」

対象よりのコンタクト、応対の必要有り。
やれやれ……。

「此処が何処かは私も知らない」
「え? 此処の人じゃ無いんですか?」
「此処で生活している」
「じゃあ、此処が何処だか教えてくれてもいいじゃないですか」
「そうだな、此処は私が生活してる場所だ。これでいいか」
「それじゃ分からないです……」

これ以上の情報を私は持ち合わせていない。
生きるのに、この場所がなんと呼ばれてるかなんて情報は必要無い。
必要な情報が有るとすれば、この辺りに生息しているポケモンの種族名くらいだ。

「じゃあ、僕以外のポッポを見掛けませんでしたか?」
「私が来た時点で君は一人だった」
「そうですか……誰も探してくれてないんだ……うぅっ」

対象の目に涙を確認。
泣かれても私にはどうしようもない。
他に話す事も無い。

「質問はもういいな? 失礼する」
「あぁ、行っちゃうんですか? で、出来ればもう少し居てくれませんか?」

……理解不能、現地に停滞する必要無し。

「迷惑なのは分かるんですけど、僕、心細いんです。お願い出来ませんか?」

対象よりの要望有り、自身に要望受諾理由無し。
長く一つの場に留まるのは嫌いだ。
百害あっても一利が有ったことが無い。

「こんな場所に長く居るのは危険だ。仲間が居るなら早く帰るがいい」
「仲間に置いてきぼりにされて帰り道が分からないんです……」
「君は飛行タイプだ。飛んで帰れば……」

言いかけて止めた。
右翼のせいでおそらくは飛べない事を思い出した。
本人も分かっているのだろう。暗い顔をしている。

「すまない。怪我をしていたのだな」
「いいんです。これも僕が落ちちゃったのが原因ですし」
「落ちた?」
「はい。僕、群れの中で一番弱いんです。体力も無いからそれで疲れて落ちちゃって」
「そうだったか」

事情は分かった。私はこんなにも人付き合いがいい奴だったのか。
まだ話を聞いてやってるとは……。
だが、こんな草むらの中で長居してはいけないのを忘れていた。
ガサリっ、と横の草むらが音を立てて揺れる。
右横方向より接近する反応有り、警戒態勢に移行する。

「急に怖い顔してどうしたんですか?」
「私の後ろへ、早く」
「は、はい」

会話対象の保護理由無し。
無いが……気付いた時には既に彼は私の後ろに居た。
何故、あんな事を言ったのか自分でも理解出来ない……。
考えるのは後だ。今は警戒をすればいい。

「……来る」

前方に一匹のコラッタを確認、興奮状態にある模様、戦闘の必要有り。
先ほど三匹を倒したばかりだというのに……面倒だ。

「キイイイイィィィィ!」

この威嚇も毎度聞いてるから慣れてしまった。
こちらから仕掛ける必要は無い。
相手はノーマル、こちらは鋼。
この関係である以上、無駄な労力になるだけだ。
障害対象が加速、技名『電光石火』の発動を確認。

「無駄だ」
「ギィ!?」

鋼の身体に体当たりなど無意味。たとえ加速していても、だ
それをコラッタは理解していないのか? 攻撃を続けても傷付いていくのは自身の身体だというのに……。

「もう、止めろ」

右パーツに電力集中、放電開始、電気ショック発動。
悲鳴を上げる暇すら必要無いだろう。殺傷させるほどの電撃を当てる気もこちらには無い。

「眠れ」
「キッ……」

最後まで戦おうとする姿勢は見事だと思っておこう。
首筋に電気ショックを食らって一鳴き出来るとは……こちらも予想外だった。
対象の気絶を確認、戦闘終了。

「す、凄い! 一撃で倒しちゃった!」

急に後ろから声がして思わず攻撃するところだった……。
ポッポを保護しているのを忘れていた。

「力の差は明らかだった。せめて、一撃で終わらせるのが慈悲だろう」
「カッコいいです! いいなぁ、僕もそれ位強ければなぁ」

ポッポより感心されている模様、自身に僅かな紅潮有り。
感心された事など一度も無いのでしょうがない。
これが照れくさいと言うことだろうか?

「こ、この程度のことならある程度戦闘経験を積めば誰でも出来るようになる」
「僕でも出来るようになりますか!?」
「あ、あぁ」

さっきからどうも自分の調子がおかしい。
このポッポと話していると自分のペースが乱される。
どうしたというんだ?

「あ、そうだ! お礼言ってなかったですね。助けてくれてありがとうございます」
「あ……うむ……」

戦闘の前に確かに私は彼を保護しようとした。
何故だ? 必要は無かった。出会ったばかりだし、助けてくれと頼まれた訳でもない。
自身の行動理解不能……。
だが、あの時何故か助けなければいけない気がした。
それだけは覚えている。

「はぁ……これから僕、どうしたらいいのかな……」

そうだった。彼は群れからはぐれ、半ば遭難しているようなものだった。
気付けばもう日も沈みかけている。右翼に傷の残る彼を一人にして良いのだろうか?
そういえば、彼から一緒に居てほしいと頼まれていたな。

「今日はもう遅い。何をするにしても明日にした方が良いと思うが?」
「でも、僕一人じゃあっという間に他のポケモンに襲われちゃうし……」
「……私が護衛してやろう」
「へ? 良いんですか? お急ぎだったんじゃ?」
「別にすることなど無い。それに居てほしいと言ったのはそっちからだが?」
「そうでした……、お願いしても良いですか?」
「承知した」

ポッポよりの依頼承諾、護衛開始。
本当にどうかしてしまったようだ。生きる為には全く必要無い事を引き受けるとは……。
だが、何故だか悪い気はしない。
彼と話して……少しだけ楽しいと感じているのかもしれない。

日もすっかり落ちた。
この時間に私が誰かと行動を共にしていることはまず無かったことだ。
この暗がりで戦闘など、何の利益も無かったからな。
だが今日は……。

「うわぁ、真っ暗だ。何だか怖いですね」

このポッポの護衛のため、一人ではない。
しかも、襲ってくる輩がいれば護衛をしている以上、戦闘もしなければならない。
厄介極まりないな。よく引き受けたものだと自分でも思う。

「そういえば、僕まだ名前言ってませんね。僕の名前、エアって言います」
「そうか、エアだな。覚えておこう」

しばしの沈黙……エアと名乗ったポッポがこっちを見ている。

「あの……コイルさんの名前も教えてくれませんか?」

沈黙を破ったのはエアだった。
護衛対象エアからの要望有り、自身に回答無し。

「私には名が無い」
「え? えぇー!? 名前が無いんですが!? どうしてです!?」
「どうしてと言われても……生きていくだけならば必要無いだろう」

そう、私の存在理由は生きること自体。
生きているのならば誰からなんと呼ばれようとかまいはしない。

「そんな……寂しくないんですか?」
「寂しい?」
「だって……コイルは、沢山居るコイル皆の名前ですよ? でも、ここに居るあなたはあなたじゃないですか。名前が無いなんて……寂しいです……」

……そんな風に考えた事は無かったな。
コイルという存在として生まれた。
だから、その通りに生きればいい。
そうとしか考えた事がなかった。

「僕、弱いけど……ちゃんと自分として生きたいです。だから、自分のエアって名前、凄く大事です」
「自分として生きる……」
「名前無かったら僕、ただの弱いポッポです。そんなの……悲しいです……」

エアの目に少量の涙を確認。
自分だと明確に確認できる物があるから生きていける……。
私は、どうなのだ?
ただ戦い、勝利し、その日を生きる……。
ずっと悩み続けていた。本当にそれで良いのか。
いつもならそれ以外の道は無いと言い聞かせていた。
今は……、

「エア、今日はもう遅い。眠るといい」
「は、あ、そう、ですね。変なこと話しちゃってすいませんでした」
「いや、いい」
「じゃあ、お休みなさい……」

……護衛対象の就寝を確認、周囲の警戒強化。
エアが、安心して眠れるように……。

朝日が昇っていく……今日は快晴か。

「お早うございます!」
「もう起きたのか? もう少し休んでていいのだぞ?」
「僕早起きなんです。いつもこの位に起きてるんで気にしないでください」
「そうか」

夜が明け始めたばかりなんだが……本人が言っているなら良いだろう。

「寝ずの番してくれたんですよね? ありがとうございます」
「気付いていたのか?」
「実は、考え事してたからあの後もちょっと起きてたんです」
「……気付かなかったな」

エアの演技力に脱帽だな。寝息まで聞こえてきていたはずだったんだが。

「僕の演技、凄かったです? 弱い分死んだふりなんかが旨くなったんですよ」

演技力上昇理由理解。
なるほど、環境が生んだ才能か。

「ところで、何を考えていたのだ?」
「えへへ、コイルさんの名前です!」
「!?」
「助けてもらったお礼に考えてたんです。駄目、ですか?」
「私の名を?」
「はい!」

名前、か……。
自分がコイルではなく自分である証明……。

「……聞かせてくれないか? その名を」
「ハ、ハイ! 他の仲間が前に話しているの聞いて思いついたんですけど、僕達捕まえて鍛えてる人間ていますよね?」
「あぁ、私も何度か見掛けたことはあるな」
「その人間て、電気の事を色んな呼び方してるんですって!」
「ほう?」
「で、コイルさんの電気の技凄く強いじゃないですか。だから、その呼び方の一つを名前にしたらどうかなって!」
「確かにある程度の力はある自信はあるな……で、その名前とは?」
「はい! ボルト、って言うんですけど……どうですか!?」
「ボルト……悪くない」
「やった! じゃあボルトさんって呼んで良いですよね!」
「あぁ」

エアより自己の名前受諾。
ボルト……コイルではない私に与えられた名前。
私が私である証明。
エアが嬉しそうにするんでいつも通り振舞ったが、誰も居なければ歓喜の声を挙げていたかもしれん。
私も自分のしたい事を見つけた折だったからな。

「よかったぁ、気に入ってくれて。また考え直さなきゃいけなくなってたら伝えられなくなる所でしたし」
「ん? どうしてだ?」
「だって、もう夜も明けちゃったし、ボルトさん、行っちゃうんですよね」
「その事なんだが、エア、これから君はどうするんだ?」
「え? えっと、群れを追いたいんですけど、まだ飛べそうもないし、とりあえず歩いて行ってみようと思います」
「そうか、ならば護衛がまだ必要じゃないか?」
「え? それって……」
「私に君の護衛を続けさせてくれないか?」
「い、良いんですか!? 本当はこっちから頼む気だったんですよ!」

昨日一晩考えた結果だ。
何故私がエアを守ろうとしたか、その答えは分からなかった。
だが、話をしていて、もっとエアと一緒に居たいと思う気持ちが出来た。
もちろん性別が無い以上、深い気持ちがある訳ではない。
だが、誰かと話す喜びを教えてくれた……。
自分として生きていく事を教えてくれたエアを守りたい。
それが、今まで生きる事しか出来なかった私に出来たやりたい事だ。

「じゃ、じゃあこれからお願いします! ボルトさん!」
「ああ、行こうエア」

私の名はボルト。
名付け親にして護衛対象であるエアを護る者。
朝日受けし道に並び、私達の旅は始まる。


後書き
とりあえず短編第一作目完結です。
なんちゃって名前の由来なんかを紹介させてもらいます。
まずはポッポのエア。
これはそのまま空気から取りました。仲間から文字通り『空気』扱いを受けて探されもしてないですし……。
次はコイルのボルト。
これは電圧……でしたっけ? の単位であるボルトと、ネジのボルトから。
ネジの方は頭なんかに付いてるネジからです。
なんとなく続く感じで終わりましたが続きは考えてません!


感想、次回作のリクエスト等あればこちらまで!

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • おお、新しい小説ですか。期待させていただきます。

    恋愛もの、ではなさそうな感じだし……。
    戦闘ものも違う……。
    コイルってよく分からないですね。まだ先が予想できないです。

    続きを期待してます。頑張って下さい。
    ――コミカル 2009-10-30 (金) 07:57:33
  • コミカルさん、コメントありがとうございます。

    実は自分でもコイルの扱い方が分からず、機械的思考を持ったような感じで書いています。
    鋼タイプって、どう動かせばいいか戸惑いますね。
    小説に出てくるのが少ない気がするのは、その辺が理由なのかもしれないなと書いてて思いました。
    あまり期待に沿える物になるか分かりませんが、頑張ってみます。
    ――双牙連刃 2009-10-30 (金) 15:56:32
  • 第一作目完結、おめでとうございます。
    これからも陰ながら応援しています。
    ―― 2009-11-04 (水) 02:44:27
  • >名無しさん
    コメへの返事が遅くなりすいませんでした。
    応援ありがとうございます。これからも頑張らせて頂きます。
    ――双牙連刃 2009-11-07 (土) 14:46:45
  • コイル視点いいよ!
    他の作品でも思うけど、コイルとかポリゴンとか電脳・無機質系って見方考え方の描写にパソコン用語使ったりとかして皆知恵絞ってるよね!
    ―― 2009-11-17 (火) 19:50:37
  • >名無しさん
    無い知恵搾り出して書いた作品だから、その言葉、とてもありがたいです。
    無機質感を出すための工夫が、文章だとかなり難しかったんです。
    ――双牙連刃 2009-11-18 (水) 04:10:02
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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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