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Galaxy (story56~60)

/Galaxy (story56~60)

著者パウス


~story56~ ―虐げ― 


赤く、膨れ上がったクライスの雄は、衰えることなく快楽を望み続けた。私の口に吸われ、甘噛みされ、舌に蹂躙されてもすべては快感に変わる。
クライスは大の男とは思えないほど弱弱しく喘いでは、反射的に動こうとする手足を意思で抑えつけた。
私はモノを前足で抑えつけ、上から舌をこすりつけて前後に動かしながら、クライスの反応を存分に楽しんでいた。
「ほら……気持ちいい?」
「う…ん……すごく………いいよ…」
口から絞り出すようにして漏れたその声は、私を十分に興奮させてくれた。そしてもっと攻め、もっと弄り、もっと玩びたくなってくる。
性欲というものに底がないのは、なにも実験台にされた私だけではないはずだ。

私はモノを口から離すと、もう一度大きくなめあげた。クライスの体は一瞬反り、快楽の波を体全体で受け止める。
次は耳を弄ろうと顔を動かした時、ふとクライスの目が視界に入った。とろんとしていて虚ろで、何も考えていないような、完全に快楽に飲み込まれた者の目であった。
「クライス………この程度でそんなになってるようじゃ、この先耐えられないわよ?」
この挑発するような言葉を投げかけたのも、私がより楽しむためだった。我を取り戻した男の不安そうになる表情が、私はたまらなく好きなのだ。
「………ん……大丈夫だ……。」
私は基本的に攻められるのは好きではない。だから思わぬ「反撃」に合わないよう、クライスの足や尻尾の位置には注意している。

だが、この攻められるのが好きではないというのは、「自分から攻めた方が興奮するから」というわけではなかったりする。
確かに攻めた方が興奮するのだが、それよりももっと深刻な意識が私のなかにあるようだ。
何故自分の体を触られたくないのか、何故無意識のうちに攻め手に回ってしまうのか―――
―――それは私自身にもよく解っていない。

しかし今はどうでもいい。とにかくクライスも私もお互いに性的欲求を満たすのが先決だった。
私はクライスの背中に回り込むと、前足を彼の肩に置き、耳にふっと息を吹きかけた。そのあとにクライスの片方の肩に顎を乗せて頬と頬が擦れ合うと、反対の頬に前足を回す。そしてあまったもう片方の前足で、クライスのモノを掴んだ。
そしてそのまま容赦なく上下に動かした。
「うあっ……!!………っっ!」
クライスの頬にねっとりとした熱風の如く吐息を吐きかけ――というか荒い息使いで勝手に吹きかかり――モノを奉仕する前足をさらに勢いに乗せていく。
クライスの顔を固定しているもう片方の前足に更に力を込め、クライスの吐息の音をまじかで聞き、さらに興奮した。
その上頬を大きく舐めてやると、悶絶するようにクライスの体が後ろに反った。

「ベリル……っ!……もう…………そろそろ……出る………!!」
クライスの息が一段と荒くなってきた。モノは限界まで張り、小刻みに痙攣を始める。
私は急いでクライスの前に座り、背中を屈ませて舌でモノを突っついた。すでに限界が近いクライスは全身の力が抜け、座っていられずに仰向けになった。
私は貪るようにモノを咥えこみ、顔を上下させると、モノの震えは更に大きくなり、ついにクライスは限界を超えた。
「うあっっ!!んああああぁぁっっ……!!」
モノの震えは真白の精を吐き出すとともに欲求不満を私の口に吐き出し、徐々にしぼんでいく。モノを解放しようと開いた口からは、同時に多量の精が垂れた。
口の中に残った精は全て飲み込む。正直いい味ではないが、これを出させたという勝利の余韻の味として堪能させてもらった。
「………たくさん出したわね。」
のどに突き刺さらんばかりの勢いで飛び出した精はほぼ全て私に飲み込まれ、同時にクライスの体内から多量の精が私に絞りだされたことになる。
そう思うと優越感を覚えた。
「うん、しばらく自慰もしてなかったからね。おかげですっきりしたよ。」
そう言ってにやりと笑うクライス。
彼もまた、私に攻め抜かれて快楽を得ているのだ。なにせ彼もまた、物のマゾヒストなのだから。

「……ところでベリル?」
「…………?」
部屋から出て『裏庭』を二つに割る、真ん中を流れた人工的な川で体を洗っていると、先に洗い終えたクライスが川辺に上がって座りながら口を開いた。
私は川の水を含み、口の中にわずかに残った精を洗い流してからクライスの方を見た。
「何日か前にさ、ベリルとシェル様が何か話してたってアクアが言ってたんだけど………」
「………あぁ、あれね」
何日か前というのは、私が雄を部屋に連れ込んで楽しんでいた途中にシェルとアクアが入ってきたあの日のことだ。
「そんな大したことじゃないわよ。あれ。」
「へぇ……どんな話だったの?」
私も川辺に上がってクライスの隣に座った。さらさらと流れる人口川の流れを見ながら、小さくあくびをした。
「今捜索してる……メノウって子がもし捕まった時、組織を逃げ出した罰を何か与えることになったらしくてね、何匹かで実行するらしいんだけど、それを引き受けただけよ。」
「………なるほど、君の罰はだいたい想像がつく。体力を削るにはもってこいだからね。………実際僕もさっきものすごく疲れたし。」
そう、シェルは罰をさらに過酷にするために、まず私に体力を削らせようと考えたのだ。
その後なにをするかは知らないが、その時は思う存分に楽しませてもらおう。

体を乾かし終えたクライスは立ち上がってどこかへ行ってしまった。
私はその場にあおむけになり、天井のライトに目を細める。まだ残る快楽と優越感の余韻と―――また自分の欲を抑えきれなかった情けなさをちょっぴり感じながら。


~story57~ ―怒りの炎 悲しみの炎― 


メノウを、まるで彼自身さえも焼き尽くしてしまいそうな激しい業火は、メノウがカーネリアに一歩近付くと同時に消えた。
だが、覚悟を決めたメノウの闘気は未だ消えることなくカーネリアの体毛をざわつかせる。
一歩、また一歩と、意図的とも思えるゆっくりさで近寄ってくるメノウの姿に、カーネリアは初めて恐怖という感情を覚えた。
メノウが近づいてくる度にカーネリアもまた、じりじりと下がっていった。
やがてメノウの足が止まると、それに合わせて一定の距離を保ったままカーネリアも止まる。
とうに戦意など失くし、恐怖に怯えるカーネリアの目は一心にメノウを見つめていた。だが、その目から目を逸らして踵を返すメノウ。
――――もはやカーネリアに、その背中を追いかける気力はなかった。

カーネリアの瞳から、一粒の涙がこぼれ落ちた。それは彼女の頬を伝い、一筋の跡を残して地面に落ちていく。
状況があまりにも信じ難く、唐突すぎて涙さえもろくに流れない。ただ一粒のみ、何にも勝る美しさと儚さ、そして悲しみを持った宝石が流れ落ちた。
そのことにはメノウも気が付いているだろうか。だからもう振り返ることなく、ジェードの下まで歩いて行ったのだろうか。
そうであると願いたい。涙を見てしまってはつらくなるから、カーネリアのところから振り返らずに離れていくのだと思いたい。
その真実を知っているのは、その状況に立たされているメノウのみであった。
メノウがジェードのところまでたどり着いたとき、カーネリアは初めてもう一粒の、大粒の涙をこぼした。それを皮切りに、次々と涙があふれ出した。
メノウを止めたくても止められず、言葉さえかけられない。まるで別者のように変わってしまった、想いを寄せる雄の後ろ姿をただ眺めて、また更に光の粒を生み出すだけだった。
まだ、ジェオードとガーネット、そしてオニキスの三匹は必死に抵抗していた。
自分より強い相手に、仲間を連れ戻したいという想いだけが、彼らをここまで戦わせていた。

「てめぇ…!待ちやがれっ!!」
クォーツが、正確にはクォーツの魂が、今はカーネリアとなっているアメシストの体に飛び込んだ。それと同時に、カーネリアの姿は光につつまれてクォーツに代わる。
代わって早々、クォーツはメノウに向かって走り出した。
ジェードを背中から下ろし、すぐさまメノウとクォーツの間に飛び込もうとスイクンは膝を曲げた。
そして、まるで瞬間移動したかのように、クォーツの目の前にスイクンが現れた。
「貴様らはまだメノウを止めようとするのか?」
「ったりめぇだろうが!!メノウは俺達の仲間だ!そんな仲間が、たった一匹で地雷だらけの荒野に乗り込んでいくところを、ただ指をくわえて見てろっつうのか!!」
クォーツはスイクンの真正面から跳びかかった。だがそのあまりにも無謀すぎる攻撃は、スイクンのところに届くはずがない。
スイクンの六角形の角が虹色に光ると同時に、クォーツの体が気泡に包まれる。
その気泡はスイクンが前足を前に伸ばした瞬間弾け、クォーツの体が大きな放物線を描いて後ろに飛んだ。
「がっ…………!!」
なす術もなく背中から叩きつけられたクォーツだったが、なんとかそこから立ち上がる。
―――その時、彼の目の前に三つの影が飛び込んできた。
「なっ……!!」
そう、それはさっきまでパイロープとルべライト相手に必死に抵抗してきた、ガーネット、ジェオード、そしてオニキスの三匹であった。
「ガーネット!!ジェオード!!オニキス!!」
大切なポケモン――いや、家族達がボロボロに傷つき、パールは居てもたってもいられずに駆け寄った。
体を動かさず、返事もせずにただ唸るだけの三匹の傍で座り込み、パールは「よく頑張ったな」と声をかけて三匹をボールの中に戻した。
赤い光となってボールに吸い込まれていく三匹の仲間を見て、クォーツは前足を握りしめる。怒りを露わに、その拳は震えていた。
その眼を更に殺気立たせ、スイクンを、そしてその後ろにいるメノウを睨む。今にもとびかかりそうなクォーツに、私は叫んだ。
「駄目よクォーツ!勝てる相手じゃない!あいてはスイクンなのよ!?」
私の叫びが通じたのか、クォーツは耳をピクッと動かすと、その拳を下げた。

「何故メノウの気持ちを解ってやれない。メノウは貴様らを危険な目に合わせたくないと、苦しみ抜いて選んだ選択なのだぞ?
裏切りだのふざけるなだの喚く前に、もっとメノウのことを解ってやれないのか?」
冷たい目で、スイクンはクォーツを見下ろし、パールを見上げる。
ほぼ同時に、ジェオード達を倒したパイロープとルべライトがスイクンの横に並んだ。
「メノウは俺達について行く、と言っている。それはこいつ自身が選んだことだ。それを変える権利は、俺にもてめぇらにもないはずだぜ。」
最後に、ブースターに変身したセルロースを連れてジェードがスイクンの前に立った。
「黙れっ!!」
今まで冷静を装っていたパールにも、ついに限界が訪れた。今までにない焦りと怒りの色を顔に浮かびあがらせ、躊躇なくジェードに殴りかかった。
だが、その拳はパイロープでもルべライトでもスイクンでもなく、ジェードに掴まれて止められてしまう。
「殴り合いならてめぇに勝ち目はねぇぜ。」
ジェードはパールの拳を掴んだまま、パールの腹に強烈なひざ蹴りを加えた。
パールは声も出せず、腹を抱えてその場に膝をつき、そのまま地面に倒れこんだ。
「安心しろ。メノウは一匹ではない。確かに、一匹だけで奴らのところに飛び込むのは無謀といえるだろう。
だがお前達の代わりに私達がメノウと共に行動し、奴らと戦おうというのだ。貴様らがどう思おうと、それもメノウが望んだことだ。」
スイクンが薄らと笑みを浮かべた。それは彼女にとっては安堵させるための笑みであったとしても、私達には勝ち誇った笑みに見える。
ここから立ち去ろうと、ジェードはパイロープ、ルべライトをボールの中にしまいこんでスイクンの背中に乗り込んだ。
次にセルロース、最後にメノウをボールの中にしまおうとジェードがボールと取り出した途端、怒りを抑えていたクォーツが口を動かした。
「………伝説のポケモンっつってもよぉ、所詮は俺達と同じポケモン、同じ動物だ。
俺達と同じように意思を持ち、自分で考え、自分の心に従って行動する……。」
スイクンは眉間にしわを寄せた。ジェードは気にせずセルロースを、ボールの中にしまいこんだ。
「俺達と同じように自分の意思を持ってるってんならよ、やっぱ余計信用出来ねぇよな。」
「……貴様、何が言いたい……?」
「つまりな……伝説のポケモンだかなんだか知らねぇが……皆正しいとは限らねぇだろ…?中には悪に染まるやつだっているはずだろうがよ……」
こう言った瞬間、クォーツの体から炎が上がった。全身の体温を極限まで上げ、空中に舞う落ち葉や木の枝に火がついて燃え上がったのだ。
「それが信用出来ねぇっつってんだよ!伝説のポケモンも、それを連れてる野郎もな!!」
クォーツが地面を蹴った。また真正面からスイクンに向かっていく。
だが今度はあまりにも凄まじい熱で、スイクンでさえ触るのは危険であった。
スイクンが避けようと、前足で地面を弾こうとした途端、クォーツの視界の上に何かが映った。
その影は炎に包まれていようと構わずにクォーツの頭を押さえつけ、その場に止める。
――――その影は、同じブースターであるメノウであった。
「て、てめぇ……!!」
メノウは止まったクォーツの頭を静かに離すと、何かクォーツの耳元で囁いてから、また後ろを向いた。
今度こそジェードはメノウをボールの中にしまいこみ、スイクンは踵を返す。
ジェオードもガーネットもオニキスも―――パールさえもその場に倒され、スイクンはジェードを乗せて一瞬のうちに消えて居なくなった。

「クォーツ…………」
私はパールをさみしげに見下ろすクォーツのもとに駆け寄った。そして横に並んで、一緒にパールを見下ろした。
「……最後にあいつ…何かお前に囁いてただろ?」
リチアが後ろから声をかけると、クォーツは無言のまま頷いた。
「なんて……言ってたんですか………?」
アメシストもまた、クォーツと向かい合うかたちでパールを見下ろした。
「………あの野郎………………」
クォーツは、最後にメノウが囁いた言葉を、まるでパールに話しているように、パールを見下ろしながら言う。


『……ごめんね、今までありがとう。………………さようなら。』


~story58~ ―特訓と涙― 


日は沈みかけ、光と闇の境目の橙が地上を寂しげに照らす。風は止み、雲は橙の太陽を欠けさせた。
目覚めたのだろうか、ところどころから夜行性のポケモン達の方向が森の葉の屋根を突き破り、飛び交っていた。

密集する木々の合間をかいくぐり、すり抜けるように水色の閃光が風のごとく走り抜けていった。
「スイクン、ちょいとここらで止まってくれ。」
水色の閃光――スイクンは背中に乗せたジェードに従い、足を止める。そして彼を背中から降ろした。
「どうした?基地までまだ随分距離があるが……」
ルべライトもスイクンの背中から飛び降り、続いてパイロープとセルロース、そして最後に僕――メノウも降りた。
ジェードは一度深呼吸し、森の清々しい空気を十分に吸い込んだあと、明るい口調でこう言った。
「今日はここまでにしようぜ。もうそろそろ暗くなってきたし、いろいろと疲れたろ、皆。」
幾重にも重なる葉に日を遮られ、僕達の周りは既に夜の暗さに準ずるほど。まずは明かりが必要である。
ジェードはすぐ近くに平らで大きな岩を見つけると、落ちていた枝を大量に拾ってそこに乗せた。
「悪い、メノウ。ちょいとこいつに火を点けてくれ。少しは明かりも欲しいしな。」
僕は無言で足元の落ち葉を加えて岩に飛び乗り、その落ち葉を一瞬にして発火させた。
その火種を無数の枝の塊の上に置くと、たちまち燃え移って丁度いい具合の焚き火が出来上がった。
無駄に炎を吐いて辺りに燃え移らないように、僕なりに工夫してみたのだ。
「おぉ!お前頭いいな。」
そうジェードは言ったが、その言葉に反応せず、無言のまま僕は岩から降りて座り込んだ。その視線は地面を地面から離れない。
―――今は誰とも話したくない。誰の顔も見たくない。
そんな捻くれた感情が、心にベットリと粘りついて離れない。
ご主人や皆にひどい事をした。傷つけてしまった。
そしてカーネリアには―――「敵」だと言い切ってしまった。
あんなこと何で言ってしまったのだろう、と後悔の念も容赦なく僕を責め立てる。

ふと、スイクンが「成程」と小さく呟いて、パイロープの肩に前足を乗せた。
「それじゃあパイロープ、ルべライト、貴様らは私と特訓だ。」
この一言で、彼らの表情が凍りついた。
「な、何で……さっき俺らはパールの手持ちの奴らと戦ったばっかなんだぞ!?少しくらい休憩を―――」
「貴様の言うその戦いを見ていて、無数とも言える数の貴様らの弱点が見つかった。まずはそれを失くさなければな。
それ疲労がたまっている状態での実践方式の訓練も、なかなかためになるぞ。」
スイクンはその妖艶な口元を曲げ、にやりと笑みを浮かべると、必死に抵抗しようとするパイロープを引きずりながら暗闇の中に消えていった。
ルべライトも渋々そのあとを追う。
「何でセルロースの奴は指導を受けねぇんだよ!!」とパイロープの苦し紛れの叫びがあとから聞こえたが、「私は戦闘要員じゃないからぁーっ!」とセルロースが返したことで静かになった。
「………ありゃいつものことだ、気にすんなメノウ。」
とジェードは苦笑する。だが僕は見てもないし、聞いてもいなかった。
今はそれどころじゃない。強大な罪悪感と背徳感、そしてご主人達と過ごした数々の思い出を忘れられない自分の不甲斐なさ、容赦なく僕の心を握りつぶそうとする。
僕のしたことは本当に正しかったのか、間違っていなかったのだろうか。
「…セルロース」
「ん……」
セルロースと頷き合い、ジェードは僕の頭を軽く一撫でしてスイクンの向かった方向に消えていった。
一方、雌のブースターに変身したままのセルロースは僕にゆっくり近寄ると―――――
僕の右頬に、暖かくて柔らかな感触がぶつかった。
「―――――っ!!」
すぐ近くまで迫ったセルロースの顔は、またすぐに離れる。そして恥ずかしそうに「えへへっ」と笑うと、僕の左肩を前足で軽く叩いた。
「………私達は、メノウ……君の味方だからね。」
そう耳元に囁くと、踵を返してジェードの後を追って行った。

たった一匹にされて、ようやく皆の気遣いに気がついた。
――――ありがとう、皆。
目を瞑り、そう思った瞬間、今まで押し留められていた感情が、涙となって溢れ出した。
もう後戻りは出来ない。ジェードが僕の正体を知った時から覚悟していたはずなのに、今まで押しつぶされそうなくらい苦しかった。
その事をジェードは理解してくれていたのだろう。
何日間も隠し続けてきた悲しみを、涙に代えて流していく。
それは止めようと思っても止められず、止めようとも思わなかった。
―――泣けないことがこんなにも苦しい事だとは思わなかった。

―――ごめん、皆。
僕の行動が皆を怒らせたのか悲しませたのか、それとも別の感情を与えたのかは分らない。
いずれにしても、届かないと解っていても、僕は心の中で謝ることしか出来なかった。
そして今、一番心に深く食い込んでいること、それは―――

例え片思いだったとしても、大切な者が目の前から消えることの!どこが幸せだっていうのよ!!

カーネリアのあの言葉が、今でも心に響いている。
そういえば彼女に告白されたが、まだ返事も返していなかった。

ごめんねカーネリア。
実は僕も君の事が――――大好きだったんだ―――


~story59~ ―協力と決心― 


「……そうか………メノウを……止められなかったか………」
全ての状況を伝えることは難しかったので、簡易的な説明で済ませたものの、やはりショックは大きいらしい。
パールはがっくりと頭を垂らした。
「………すまん……」
リチアは耳を垂らし、目線を下に傾ける。その後に近づいてきたパールの手にビクッと反応したが、その手は彼女の頭を優しく撫でるだけだった。
「いや、リチアが謝ることじゃない。………俺がもっとしっかりしていれば……こんなことには…………」
パールは両手を後頭部で組み、自分の頭を抱えてもう一度首を垂らした。
「……実はメノウは………何年か前に、何かの目的でホウエンにいた親父から家に送られてきたポケモンだったんだ。」
今度はパールは夜空を仰ぐ。冷たい風が帽子を取った彼の黒髪を揺らし、クォーツの点火した焚き火に照らされて全身がほんのり夕焼け色に染まった。
「俺の家に来てから、あいつは毎日のように夜になると散歩に出かけてたよ。この旅でもそうだっただろ?
今まで、ただ単純に夜風が好きだとか、夜空を見上げるのが好きなのかと思ってた……。
でも、もしかしたら苦しかったのかもな……。自分が元『銀河団』の一員だったってことを
隠すことが…………。
正直に話すべきかどうか………悩んでたのかもな……。」
パールは苦し紛れに笑ってみせる。しかし、それはこぼれ落ちそうな涙を必死に隠しているように見えた。

暫く静かに座っていたクォーツは立ち上がってパールに背を向けると、すぐ横に立っていた大木を前足で思いっきり殴った。
殴られた木は大きく揺れ、葉を振り落とす。それは全てむなしく地面に落ちて風に飛ばされていた。
「…あの野郎……最後に俺に『さようなら』って言いやがった………!最後の最後に…何で俺に別れを言いやがるんだ……!一番世話になったのは………てめぇの主人のパールだろうがっ!!」
もうここにいないメノウに対して怒鳴りながら、クォーツはもう一発殴る。そして暫く拳を突き出したまま体を震わせ、発散しきれない苛立ちを残したままもう一度その場に座った。
その様子を、皆は悲痛の表情で見ていた。
「………これからどうするの……?」
一番聞きたかったことであり、聞きたくなかったことでもある質問を、私は皆に投げかけた。
メノウが居なくなって、ここでくよくよしていても意味がない。そんなことは皆解っている。しかし、メノウを連れ戻すか連れ戻さないかということは、きっと意見が分かれるだろう。
私のこの問いかけによって意見が真っ二つに分かれてしまえば、この場の空気は更に悪くなる。
だが私が言わなければ誰も切り出さない。後悔を少し感じながら、私は皆の返事を待った。
「………………………」
誰からも返事は返ってこない。私の声の余韻がなかなか消えなかった。
小さく溜息をついて、もう一度下を向いた――――その時
「……ご主人………」
風の音にかき消されてしまいそうなほど小さな声が、私の余韻を消した。
聞こえたのはパールの後ろの方向、テントを張ったところからである。驚いてパールは振り向くと、そこには包帯で何とも痛ましい姿になったジェオードだった。
「ジェオード!お前大丈夫なのか!?」
「………大丈夫……とは言えないけど……メノウが居なくなったって時に…のんきに寝てなんていられないわよ……!」
喋り終えると同時に、ジェオードは傷を抑えて座り込んだ。彼女の表情からは、その傷がどれだけ深いものかが読み取れる。

「私ね……小さい頃に両親を亡くしてるんだ……」
いきなりの言いだしの言葉にクォーツも私も皆驚いたが、パールだけが驚かないのは聞いたことがあるからだろう。
今にも涙をこぼしそうな目で地面に生える小さな雑草を見ながら、ジェオードは続けた。
「それに私には姉と兄がいたの……。ある時事件があって、三匹とも離れ離れになったわ………。」
そこまで言うと大きく息を吸って吐きながら、ゆっくりと立ち上がる。そしてふらふらな足取りでパールの横まで行くと、パールの肩にすがりついた。
「私はもう、嫌というほど大切な者が私から離れていくのを体験したの……。もう二度と体験したくない悲しみを二度も体験してるのよ………。今回で三度目………一体何回こんな思いをすればいいの?ねぇ、ご主人……!」
私達は何も言わなかった―――否、何も言えなかった。その悲しみは、彼女自身にしかわからな
い。下手な慰めは気休めにもならないだろう。
それに、誰かを慰められるほど、私達の気持ちは軽くはない。
だが、パールだけはジェオードの目を見た。
「ジェオード……お前のその悲しみ…それは離れ離れになった者ともう会えないと思っているから、より悲しく感じるんじゃないか……?」
涙目ながら、ジェオードもパールと目線を合わせた。しかしパールの言葉に返答はしない。
「……もしそうなのだとしたら、もうお前がこの悲しみを二度と体験したくないというのなら……俺達のやることは一つだろ?」
パールはジェオードの頭に優しく手を乗せ、頭をなでる。ジェオードは目を細め、ゆっくりと頷いた。
「うん……そうよね…。ただ悲しむだけじゃあ、何も変わらないもんね。」
ジェオードは最高の笑みをパールに返した。

パールとジェオードのやり取りを見ていて、一つだけはっきりしたことがある。
私達融合体は、人間の愛情というものを知らずにここまで生きてきた。人間は、ポケモンを利用することしか頭にないのかと思っていた。
―――しかし、実際はそうじゃない。確かに『A・G団』のように愛情も何もない連中もいる。だが、純粋にポケモンを大事にする者もこの世に存在することを、今確信した。
少なくとも、今私の目の前にいるパールは愛情にあふれている。
そんなことを考えているうちに、ふとリチア、アメシストと目が合った。その瞬間、彼女達の考えていることが頭に流れてくるようだった。
この二匹も私と同じことを思っている。私とリチアとアメシストは、お互いに頷き合った。
「ねぇパール。あなたの言う『俺達のやること』って、もちろんメノウを連れ戻すことよね?」
ジェオードに抱きつかれ、顔をなめられたパールは顔を拭きながら頷いた。
「……今まで一緒に行動してきて、私は思ったわ。メノウにはあなたのような、愛情にあふれた人が必要なの。元『銀河団』だっていうならなおさらだわ。
だから……ね?リチア」
「あぁ……オレ達も協力しよう。なぁ、アメシスト?」
「ハイ、私に出来ることは少ないと思いますが、私も協力します。パールさん。」
アメシストもパールに笑顔を投げかけた。しかし、パールとジェオードは目を丸くする。
「えっ?……奴らの恐ろしさは、お前達がよく解ってるだろ?それなのに………俺達に手を貸してくれるのか?」
「恐ろしさが解ってるからこそ手伝うんだ。あんなところに貴様らだけ行かせるのは不安でしょうがないからな。」
「それに……ふふっ、やられっぱなしっていうのも癪だしね。ね、クォーツ?」
話のノリでクォーツに話を振ったが、クォーツは何も言わなかった。その代わりに、こっちに背を向けて立ち上がる。
そして夜空を仰ぎ、大きく息を吸い込むと――――
「ぬあああああああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーっっ!!」
大気が震え、風が吹き荒れるような叫び声を響かせた。私達はとっさに耳をふさぐ。まともに聞いていたならば、鼓膜が破れてしまいそうなほど大きな声である。
それがクォーツの心にかかった霧を吹き飛ばし、クォーツはすっきりした表情でパールと目を合わせた。
「あの野郎、もし連れ戻したら一発ぶん殴ってやるっ!!」
その言葉はパールに協力することをを意味していた。

「……ありがとう。きっとガーネットもオニキスも俺達と同じ意思だと思う。なら皆で、メノウを連れ戻そう!」
「あっ……ちょっと待って!まだ………ケリのついてないのもいるわよ……」
彼女はここから少し離れたところに、こっちに背を向け、木によりかかって座り込んでいた。誰とも眼を合わせようとしない。誰とも口をきこうとしない彼女は、恐らくこの中で最も悲しみが大きいだろう。
皆の目線は彼女がよりかかっている木に向いた。ここからでは彼女の姿は見えない。
彼女―――カーネリアは、暗闇を照らす炎の明かりをも拒否するように、暗闇の中で動かなかった。


~story60~ ―爆発― 


――――誰かに名前を呼ばれたような気がした。
私が目を覚ましたのは、見渡す限り一つの曇りもない真っ白な空間の中だった。この空間が無限に続いているのか、それとも途中に壁があるのかさえわからない。
「………ここ…どこ……?」
私は確かにハクタイの森の中で寝ていた。パールがキャンプを張った少し離れたところで、木に寄りかかりながら寝ていた。
立ち上がって前足で目をこすり、もう一度しっかりと辺りを見渡してみる。しかし、やはりどこも真っ白だった。まるでメノウに別れを告げられた時の、私の頭の中のように。
しかし、よく見ると一点だけ真っ白ではない部分があった。私はそれに目を細めた。
ぼんやりと見えるオレンジ色の体毛、首回りや尻尾を包み込むクリームのように柔らかそうな白い毛、そしてその輪郭―――そう、ブースターである。
「……っ!メノウ!?」
私は一目散にそのブースターに向かって駆け出した。向こうはまだ私に気づいていないのか、前を向いたまま私の背を向けている。
近づいて行くにつれて、徐々にその姿がはっきりとしてきた。
おそらく、いや絶対、あれはメノウだ。
彼に触れられる距離まで、あとわずか――――その時
「メノ………痛っ!!」
メノウに触れる前に、何かに頭からぶつかってしまう。驚いて顔をあげても、メノウと私を遮るものは何もない。―――否、ないのではなく、見えないだけだった。
そっと前足を前に伸ばしてみる。すると何もないところで、何かに触れた。それはまるで目に映らない魔法の壁のようだった。
「え……何?これ………」
何度繰り返し足を延ばしてみても結果は変わらず、メノウまでこの前足が届くことはなかった。
「こんなもん………ぶっこわせばいいのよっ!!」
全身に力を込め、体内に存在する電気を増加させる。それらを一気に放出し〝10万ボルト″を見えない壁に向かって撃ち出した。鋭い音と光に包まれて、何度もくねるように動きながら電撃は宙を泳ぐ。
私の体から帯のように撃ち出されるこの電撃に、壁はどの程度まで耐えられるのだろうか。破壊した後に間違ってメノウに当てないようにしなければいけない。などと考えていたが―――
現実は甘くはなかった。
見えない壁に当たったとたん、〝10万ボルト″はまるで何事もなかったかのように消えてなくなってしまう。少しセーブしすぎたのかと、全力で撃ち出しても同じことだった。

結局壁は壊せなかった。だがそれよりも不思議なことは、メノウが一度たりともこっちを振り向かないことだった。
「メノウ!ねぇ聞こえる!?メノウ!!」
壁を叩いてもメノウは振り返らない。確かにそこにいるのに、壁さえなければ、手の届くところにいるのに。
やがてタイムリミットが過ぎたかのように、メノウはそのまま走り出す。どんどん遠ざかるメノウ後ろ姿を、私は必死に呼び止めようと叫んだ。
そんな時、私は足もとに違和感を覚える。見ると、私自身の影がまるで生きているようにうねうねと歪み始めた。
それと同時に、私の後足が影の中に引きずり込まれ始めた。
「何よこれ…っ!?」
うねうねと歪む影はやがて私の形を維持しなくなり、円状になって広がり始めた。黒い底なし沼のように、それは私の後足を全て飲み込むと、更に今度は前足をも沈ませ始める。
「…………ねぇ待って!……お願い、助けてメノウ!!」
最早自分の力ではどうすることも出来ず、メノウに頼るしかなかった。
―――しかし顔を上げた時には、すでにメノウの姿は見えなくなっていた。
その絶望感と共に、私の体は一気に私自身の影の中に引きずりこまれた。

さっきの真っ白な空間とは一転、視界の全てが黒く染め上げられる。地に足がついておらず、ただふわふわと浮かんでいた。
どうすればいいのかも解らない。―――もう、何も考えられない。
そんな時、どこからともなく声が聞こえた。それは繰り返し聞こえる度に、大きく、はっきりと聞こえてくる。
―――――――ア………………ネリア……………………カーネリア……………




「カーネリアっ!!」
「はっっ!!」
気がつけば、森の密集する木々の草の隙間から覗く日の光が私を包み込んでいた。アメシスト、コーラル、リチア、クォーツが心配そうに私の顔を覗き込んでいる。
どうやらあれは夢だったようだ。深い闇の中に沈んでいく私の意識を、現実に呼び戻したあの声はリチアのものだったらしい。
「大丈夫か…?お前、随分うなされてたぞ……。」
「えぇ……うわ、すごい汗よカーネリア。少し水浴びしてきたら?パール達には私が言っとくから。」
「…………うん………そうする…………」
この辺りに川や湖があるかどうかはわからないが、探せばきっと見つかるだろう。私はゆっくり起き上がり、パールのテントから離れた。

いくら歩いても、あの夢のことが頭から離れなかった。枝が引っ掛かろうが、草につまずこうが、顔を上げることが出来ない。
あれはまさに悪夢と呼ぶにふさわしい。私自身の沈んだ気持ちが、きっとあの夢を見せたのだろう。
昨日はテントから少し離れたところで一晩中泣いていた。思いっきり泣けば、少しは気分が晴れると思った。でも、実際はそんなことはなかった。
4年間も地獄を『A・G団』に見せられて、どうして今私達が普通に暮らせいるか、それは信頼できる仲間が出来たからだと思う。
でもそれ以上に、私には恋する者が出来たことが生きる気力を与えてくれた。メノウと触れあうことで、それが実感出来た。
そんなメノウが、急に私のもとから去って行ってしまった。こんなことが起こって、気持ちが晴れるわけがない。
更にあの悪夢―――もう私は気がくるってしまいそうだ。

そんなことを考えながら暫く歩いていて、私は何かにぶつかった。それは木のように硬くはなかったのでちらりと前を見ると、黒い毛の塊のようなものだった。
否、正確には塊ではなく生物―――グラエナの胸の辺りにぶつかったようだ。
「おいねぇちゃん、ちゃんと前見て歩きな!」
グラエナに乱雑に頭を押されて、私は数歩後ろに下がった。それと同時に、なんだか無性に苛立ってくる。どす黒いもやもやした感情が、私の心に侵入してきた。
「…………邪魔、さっさとどきな。」
苛立つ気持ちを抑えたが、抑えきれなかった部分が声になって外に漏れてしまう。そして強行突破しようとした時、今度は後ろから男の声がした。
「お、お前いい女見つけたじゃねぇか。今日の獲物、そいつにしようぜ。」
後ろにいるのは同じく黒い毛と、まるで骨のような大きな角が特徴のヘルガーである。
「獲物ぉ?お前、さっき食ったばっかりじゃねぇかよ。」
「違う違う、そういう意味じゃなくてさ………まだ朝だけど、お前もたまにはヤって見ろよ。」
「………なるほどなぁ……」
グラエナとヘルガーの考えが一致したようで、お互いに下劣な笑いをしてみせた。
私はこの二匹の前に顔をあげられなかった。恐れではない、顔を見てしまっては何かが一気に爆発してしまいそうだったからだ。
「まぁ、そういうことだねぇちゃん。恨むんなら、そんなかよわい体で一匹で散歩してた自分を恨みな。」
グラエナは更に乱暴に私の肩を掴んだ。―――――その瞬間、私の中の何かが切れた。


どす黒くもやもやした感情が一気に爆発し、私は今、現世に降り立つ悪魔と化した。


何かあればどうぞ by作者


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Last-modified: 2009-12-08 (火) 00:00:00
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