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Galaxy (story51~55)

/Galaxy (story51~55)

Galaxy (story51~55) 


著者パウス


~story51~ ―接触― 


せっかく『A・G団』基地の付近まで来たというのに、シェルの命令で今、またパール一行のもとへ逆戻りしていた。
スイクンは俺やルべライト、パイロープを背中にのせ、風を切るように三日間ほどぶっ通しで走り続けている。
だが、疲れた様子ひとつ見せないのは流石だ。

パール一行がいると思われる『ハクタイの森』。この森はソノオタウンの北の方に位置し、広さも中々の森だ。
通り抜けるには数日かかると言われている。まだ俺たちがパール達のもとから離れて三日間ほどしか経っていない。故にまだこの森の中にいると俺は予想した。
だが、さっきも言ったようにこの森はなかなかの広さで、見つけることなど不可能のように思われた―――その時。

「うおっ!?」
眩しい閃光が瞬間的に俺達の目をつぶし、少し遅れて凄まじい轟音が耳を貫き、パイロープはスイクンの背中から転げ落ちそうになった。
「な、何だ何だぁ!?」
「雷だ。今、向こうの方で大きな雷が落ちたのが見えた。」
ルべライトは冷静だったが、よく考えると冷静でいられない。
今、空には疎らな雲があちこちに点在しており、天気は晴れに分類されるだろう。雷が落ちるような環境は整っていなかった。
自然で起こりえないのなら、誰かが意図的に落としたと考えるのが普通だろう。
それにしても、さっきの〝雷″は凄まじい威力だった。衝撃は空気を震わせ、大地を揺らす。並大抵の者では、こんな威力を出すなんて難しいだろう。
まさかエバトイル?―――違う。行く理由もないというのに、奴がこんなところにいるわけがない。
それ以外でこんな威力が出せる者といったら―――俺は頭を抱え、二十年余りの人生で蓄えられた記憶の中を必死に探しまわる。
そして、その答えは意外にも簡単に見つかった。こんな威力が出せるのは、最早奴しかいない
――――第二進化融合体、カーネリア!

「……あそこだ、あそこに奴らがいる!スイクン、雷が落ちた辺りに走ってくれ!」
「承知した!」
スイクンの背中に改めてつかまり、ルべライトとパイロープがそれに続く。と同時に、スイクンは勢いよく地面を蹴り、前にそびえ立つ草むらを飛び越えた。
素早いフットワークで木々の間を抜けていく。全く躊躇がなく、確実に雷が落ちた場所へと近づいて行った。

奴らと戦うつもりは最初っからないが、一応接触をしておかなかれば『A・G団』本拠地へと帰ることは出来ない。
というのも、奴らのにおいを俺達のうち、一匹にでもつけておかなければ、本拠地にいる大量のポケモン達にはにおいで分かってしまうからだ。
「…っ!もうすぐそこにいるぞ!このまま突っ込むか!?」
こっちを振り返らず、前を見たままスイクンは口を開いた。
まだパール達の気配は感じないが、スイクンの速度ならばすぐ近くと言えるのだろう。

このまま突っ込むのはまずい、と俺の中の何かが囁いた。
『恐怖』か、はたまた『不安』といえるだろうか。何故だか胸騒ぎがしてしょうがない。あんな容赦なしの〝雷″をこんな森の中で放つなんて、穏やかな状況であるとは思えない。
「だめだ!一旦隠れろ!」
言われた瞬間に横に跳んだスイクンは、一番草の密集している場所に飛び込み、身を屈めた。
パイロープもルべライトもスイクンの背中から降り、床に伏せるようにして身を屈める。俺もまたそれに続き、草と草の僅かな隙間を見つけて目を凝らして見ると――――いたっ!奴らだ!
何やら騒々しい空気となっているようだった。

「何で…何で殺したんだ!今、メノウの居場所を知ってるかもしれない、唯一の手がかりはあのメタモンだけだったんだぞ!」
ガーネットがカーネリアにつかみかかり、ガクガクと前後にゆする。カーネリアはいたって冷静な瞳をガーネットに向けただけで、何も答えなかった。
カーネリアの足元には紐状に並んだ灰の塊が、徐々に風によって吹き飛ばされていった。
しかし、それよりも気になるのが、さっき言ったガーネットの台詞―――「あのメタモン」?……「殺した」?

「………………っ!!」
状況を理解するのに、そう時間は要らなかった。
『瑪瑙の居場所を知って』いて、なおかつ種族が『メタモン』とすれば、パール一行のもとに潜入させていたメタモン―――セルロースしかいない。
「なんつぅことを……」
いつの間にか俺の隣で草陰から覗いていたパイロープは愕然とし、拳を握りしめながら力強く立ち上がった。
「パイロープ。………落ち着けよ。」
パイロープが今にも飛び出していきそうでハラハラしたが、ルべライトがうまく宥めてくれたおかげで何とかそれは免れたようだ。
今のこの状況、しかも怒り任せに飛び出せば、カーネリアの電撃の絶好の的となっていただろう。
そんな最悪の状況にはならずに、ホッと一息ついた―――その時。
「……まだ…何か居るわね」
その言葉を耳でキャッチし、脳に伝わり、どこから聞こえたか、誰の声かを理解する、その一瞬の直後だった。
ズドンッ!!という轟音と閃光が走り、近くの大木がこっち側に倒れてきながら勢いよく発火した。
すかさずスイクンが立ち上がり、口から勢いよく水流を噴き出す。大木に纏わりついた火は瞬時に鎮火され、そのまま水流の勢いで反対側に倒れていった。
―――スイクンがいなければ、俺達は死んでいた。

「あぁ……あんた達………」
その声に振り返ると、いつの間にかカーネリアとの距離は目と鼻の先になっていた。
俺達の顔を見たとたん、問答無用でカーネリアは電撃を身から放つ。
だがそれは、俺達のもとに届く前に、スイクンの前足による薙ぎ払いによってかき消された。
「こっちの戦意も探らず、いきなり攻撃をしかけるなど不条理だと思わないか?」
「こっちは気が立ってんのよ。メノウを奪われて、その手がかりも失っちゃってねぇ。」
スイクンとカーネリアのにらみ合いが始まる。スイクンの睨みは、たいていの奴ならば足がすくむほどの迫力だが、カーネリアも負けてはいなかった。
殺気に似た感情を織り交ぜ、まるで殺人鬼のような目つきをしている。どう見ても普通の状態ではなかった。

「手がかりを失くした…だと?やはり貴様、メタモンを………」
「えぇ、殺したわ。あまりにムカついたもんで、ついねぇ………」
カーネリアは徐々に体制を低くしていく。
だが、完全な戦闘隊形に入る前に、何かに気がついたようだ。
「……あんたたち、あのメタモンのこと知ってるみたいね。あんたたちの仲間だったのかしら?
………ということは……あんたたちから情報を絞りとればいいってことじゃないの。」
「……ふふふ、勝手に殺されちゃあ困るなぁ。」
カーネリアの言葉直後に、またカーネリアの声が重なった。
もちろん、後の方の声はカーネリア自身が出した声ではない。実際、彼女自身も目を見開いて驚いている。
声のした方を探し、その場所を見ると―――――――そこには

「残念。ワタシはまだこの通り、ピンピンしてるよ。」
カーネリアと全く同じ姿、そして声をしたサンダース―――否、メタモンのセルロースが立っていた。


~story52~ ―否定出来ない真実― 


カーネリアの姿をしたメタモン。彼女は、その体を見せつけるようにその場でくるりと回って見せた。
だが問題はその姿ではない。あれほど強烈な〝雷″をくらったにも係わらず、体に傷一つついていないということが信じられない。
一体どれほど鍛えられたのか―――――――――いやっ、違う。
「……外した?随分運がいいわね。………でも次はないわっ!!」
カーネリアは眉ひとつ動かさず、運のせいだと決めつけてもう一度体に力を込めると、真横に空気を切り裂く雷の如く青白い雷光閃が空気中を波打っていく。
避けなかったのか避けれなかったのか、メタモンはその場から全く動かずにその〝10万ボルト″に打ち拉がれた。
弾けるというよりも爆発音に近い轟音が、俺達の耳を劈かんと鳴り響いた。

土煙が舞い上がり、やがてそれは晴れていく。その中に一つの影を映し、メタモンは平然と立っていた。
これには流石にカーネリアも驚いた。
「な…何で…………!?」
それに対し、メタモンはニヤリと笑う。
「ワタシが何であんたと同じ、サンダースに変身したのか解ってないようね。あんたは自分の特性も知らないわけ?」
口調までもがカーネリアと全く同じでとにかく憎々しい。だが、「特性」という言葉が、皆を嫌々ながら納得させた。
カーネリアの種族であるサンダースの特性―――『蓄電』
相手の『電撃』を『蓄え』、瞬時にそのエネルギーを利用して体を癒す。つまり、電気を吸収して自分の体力を回復させる、便利な能力なのだ。
その特性を持つカーネリア自身がそのことを忘れてしまうほど、心は怒りに支配されていたらしい。
―――メノウが奪われてここまで怒るとは、もしかしてカーネリアはメノウのことを……?

「さっきの〝雷″は凄かったねぇ。電気は吸収出来たけど、衝撃が凄くて向こうに吹き飛ばされちゃってさぁ……」
と言いつつメタモンは、自分がさっき出てきた方向を前足で指した。
今思えば、メタモンのあの余裕は『挑発』だったのかもしれない。カーネリアを怒らせ、自分を攻撃させる。電気で攻撃されれば、当然メタモンを縛っていた紐は灰となる。
カーネリアは物理的な攻撃よりも電撃の方を好むことを、メタモンは見抜いていたのだ。
そして電気を叩き込まれる前に自分はサンダースへと変身し、自分は無傷で紐から脱出出来るというわけだ。
ブースターとサンダース―――メノウとカーネリアはそれほど体格差がないために、縛られていても変身が可能だということも計算していたということになる。
あのメタモン、見かけによらずなかなか頭が切れるようだ。

「何だセルロース!お前、無事だったのか!」
「ふふふ、ワタシを舐めちゃいけないよ。」
メタモンはまた体を光らせ、細胞の一つ一つを変化させ、組み替えていく。そして、お気に入りだと言っていた雌ブースターの姿になった。
「そのメタモンはあんたらの仲間だったのか…。ならメノウの居場所も知ってるだろ?メノウはどこだ。」
今まで腕を組んで難しい顔をしていたパールが前へ出た。奴らも、流石に人間にいきなり攻撃したりはしない。
「教えると思うか?それに知ってどうする。あいつはもう覚悟を決めているぜ?今あいつに何言っても無駄だと思うけどな。」
「覚悟……?どういうことだ?…………お前、メノウに何しようとしている!?」
パールはジェードの胸ぐらを掴み、怒声を浴びせた。だがジェードは答えを言おうとしない。帰ってくるのは焦りの色一つない、冷静な声だけ。
「あいつから望んだことだ。それに、俺はあいつに何かしようとなんか思っちゃいねぇよ。」
「『あいつから望んだ』……だと?メノウは自分の意志で、お前らのところに行ったって言うのか!!」
いつもは冷静なパールからは考えられない乱暴さ。余程メノウを取り返したいに違いない。それは勿論、俺達だって一緒だ。

ふと、ジェードが最早何も答えなくなった時、カタカタっと何かが小刻みに揺れるような音がした。
耳を澄ましてよく聞いてみれば、それはジェード腰のベルトの辺りから――俺達ポケモンを持ち歩くためのモンスターボールの一つが震えていた。
ジェードはパールに胸ぐらを掴まれたまま、腰のベルトへと手を伸ばす。そして、その震えているボールを手に取った。
それを自分の顔の前に近づけ、眉間にしわをよせる。一体、その中には何が入っているのか。
「………そうか。……分かった。」
一度ジェードは頷くと、そのボールを今度はパールの顔の近くに寄せて見せた。
ボールの上半分は透けた赤色になっていて、そこから中が見えるらしい。中を覗いたパールは、みるみるうちに目を見開いて行く。
「お望みのものだぜ。パールさんよぉ!」
ジェードはそのボールを上へ放り投げた。ボールは空中にきれいな弧を描き、やがて地面に着地する。
その振動で、ついにボールが開いた。

「…………なっ!?」
「……嘘………でしょ?」
「お前………」
ボールから光の塊が吐き出され、それが姿を整えていく。光がある形になったところで、一気にその輝きが剥がれた。
その中から現れたのは――――――――
「………………………………!!」
オレンジに近い赤色の体毛を全身に纏い、頭、首回り、尻尾の部分には黄色の混ざった白の毛を生やす。
大きな耳、大きな漆黒に輝く目、そして柔らかく結ばれた口―――――
そう、それは誰がどう見ようと、否定のしようがない真実。ボールの中から飛び出してきたのはまぎれもない――――――今まで一緒に旅してきた、あのメノウだった。


~story53~ ―理由― 


信じられない光景を目の前にし、パールのジェードの胸ぐらを掴んだ手の力が自然と緩まった。ジェードがその隙に手を外そうとしたことに対して全く抵抗せず、その手はパールの体の横に力なく垂れ下がる。
その時だった。パールの後ろから、凄まじい速さで黄色い閃光が飛んできたのだ。それはメノウの前、パールの横に止まり、土煙を舞いあげる。
「…………カーネリア……」
土煙が晴れると同時に、悲しげにメノウは呟いた。その瞳に映るのは、今にも泣き出してしまいそうなカーネリア。
そのカーネリアにつき添うように、後ろからジェオードとガーネットが駆けてきた―――が、
「お前らの相手は、俺達だぜ!」
同時に、パイロープとルべライトも動き始めた。
強く地面を蹴り、勢いよく跳躍したパイロープは、拳を前に突き出して一直線にガーネットに突っ込んだ。
それと同時にルべライトも、両腕の鋭い白刃を後ろに突き出し、空気の抵抗を最小限に抑えながらジェオードに突撃した。
――――――ジェオードもガーネットも、同時に駆けてきた方向に吹き飛んだ。

「くそっ!オニキス!!ジェオードとガーネットの援護を頼む!!」
そう叫びながら、パールは腰のベルトからボールを一つ掴んで天高く突き上げる。するとボールの開閉のスイッチが作動し、二つに割れるようにして開いた。
その中から抜け殻ポケモン、霊虫オニキスが飛び出し、二対二で対峙していたパイロープに音もなく近づいて行く。
そして、ノーガードだったその背中に、強烈なタックルをお見舞いした。

それから二対三の構図となったが、それでもやはり力の差は歴然としていて、そう時間も掛からずに徐々に劣勢になっていく。
パイロープ達など一掃出来るであろう肝心のカーネリアは、まだメノウと向き合って固まっていた。目の前の現実を受け入れられず、暫く動き出しそうにない。
――――このままでは、まずい!
戦いは嫌い、などと言っている場合ではない。無理矢理にでもカーネリアと交替しなければジェオード達が危ない。
ジェオード達を助けようと、カーネリアのもとへ足を走らせた時、大声が鼓膜を震わせた。
「俺達のことはいい、コーラル!今、メノウと話し合えるのは、カーネリアとご主人だけなんだ!!」
まるで体を押さえられたかのように、動き出そうとした足がぴたりと止まった。ガーネットの叫びは、ジェオード、オニキスの叫びでもあるだろう。
自分よりも、まず仲間を―――メノウを助けたい、という気持ちが、ひしひしと伝わってきた。
私はぐっとこらえた。今にも動き出しそうな体を、力尽くで抑えつけた。
私だけではない。クォーツ、リチア、アメシスト、皆動き出しそうな足を、懸命に踏ん張らせていた。

「どうして……?」
カーネリアの声は震えていた。その瞳はメノウの瞳を捉えていたが、メノウをその視線から目を逸らし、地面に逃がす。
「…ごめん…………僕は………ジェード達と行動することに決めたんだ……」
パールもカーネリアも、目を大きく開いて息を呑んだ。メノウがジェードのボールから出てきた時点で既に解っていたであろうが、メノウ自身の口からはっきり言われると、心に突き刺さるような事実だった。
パールは、その呑んだ息を一気に吐き出すように大声で怒鳴った。
「お前……『A・G団』なんかに加担するっていうのかっ!」
「違うっ!!」
メノウはパールを見上げながら、更に大きな声で怒鳴り返す。今まで聞いたことないメノウの怒声に、パールは思わず気圧されてしまった。
メノウはゆっくり目を閉じ、一呼吸置いた後、ゆっくりと目を開きつつ口を開いた。
「……ジェードは『A・G団』なんかじゃない。そのフリをしてるだけなんだ………。」
「フリ……?」
メノウはゆっくり頷く。それは、私達全員を驚愕させた。
私達融合体がパールと共に行動するようになって、初めて襲ってきたのがジェード。ガーネットを難なく跳ね除けた、赤髪の暴君だった。
そんなジェードが、今更『A・G団』でないと言われたところで、疑われるのは当然の結果だった。
「そんなの、信じられるわけないじゃない!!メノウ、あなた騙されてんのよ!!」
「違うよ!僕は騙されてなんかない!」
「何を根拠に、そんなことが言えるわけ!?」
「………それは……………」
メノウの視線が、また地面に逃げた。カーネリアは眉間にしわを寄せ、メノウの顔を覗き込もうとした時、勢いよくメノウの顔が上がった。
「僕が………元銀河団だから。」
その意を決した発言に、カーネリア、パール、そして戦っている最中であったオニキス、ジェオード、ガーネットさえも動きが止まった。当然、私達も。
『A・G団』がロケット団残党、マグマ団残党、そして銀河団が全て手を組んで出来上がった組織だということは、この場にいる誰もが知っている。
故に、このメノウの発言は信じ難く、誰もが受け入れられなかった。
「解るんだ………本当に組織に加担しているのか、逃げ出す機会を伺ってるのか、仲間のために潜入してるのか……。そういうの………いっぱい見てきたから……」
メノウの顔は、どこか悲しげだった。奴らは逆らう者には容赦しない。恐らく、メノウが見てきたというその者達の何名かは、尊い命を奪われてしまったのだろう。

「………だとしても、何でお前はジェード達と一緒に行動する必要がある?そんなのは過去のことだ、また俺達と一緒に旅を続けよう。な?」
「そうよ。そんなの関係ないわ。……ね?」
メノウに失望する様子もなく、パールはメノウに手を差し伸べた。カーネリアもメノウに微笑みかける。
だが、メノウがその手を取ることはなかった。
「僕がご主人達から離れた理由はそれだけじゃない。」
メノウのさっきまでとは様子が違っていた。おどおどとした雰囲気ではなく。ただ冷静沈着とした雰囲気。
「……僕自身が、奴らに追われてるんだよ。……だから…………」
「……何………だと?」
パールは取られなかった手をさみしげに引っ込め、代わりにまた驚愕を受け止めさせられた。
「ど、どうしてよ。別にメノウが追いかけられる理由なんて……。あんなにポケモンの数がいるんだもん。メノウたった一匹が抜け出したところで、追われる理由になんかなりゃしないわ!」
「それは僕にも分からない。何で追われてるのか………奴らが何で僕を必要としてるのか……」
メノウは首を横に振り、ふぅ、と息を吐いた。
その息に吹かれた様に草木が揺れ、ざわざわと音を立てる。その音が鳴りやんだところで、メノウは更に続けた。
「でも僕が追われてる以上、君達と一緒に行動出来ない。カーネリア、君なら解るでしょ?奴らがどれだけ恐ろしいか………」
カーネリアは何も答えなかったが、私達は『A・G団』の恐ろしさは十分すぎるほど体に叩き込まれた。
当然カーネリアもその恐ろしさは身に染みている。故に何も言い返せなかったのだろうか。
「僕と一緒にいると巻き込まれる危険性が高い。……君達を危険な目に合わせたくない。これが僕がジェードと一緒に行動する理由だよ。………解ってよ、ご主人、カーネリア……」
途中から、メノウの声も震え始めていた。この決断は、メノウ自身が一番苦しい決断だろう。大切な者を危険から守るために自分が消える。―――それは、自分が愛する者に会えなくなってしまうということでもあるからだ。

「……………………解ったわ……」
カーネリアは顔を上げないまま、そう返事をかえした。メノウは安心した表情でカーネリアを見る。
ゆっくりと上がってくるカーネリアの顔――――その顔は納得した顔ではなく、寧ろ不満いっぱいの顔だった。
「だったらなおさら、あなたを離すわけにはいかない。あなたがジェードと一緒に行動したいっていうのならそれでもいい。………でも、もしそうなら……私は………」
メノウと同じように、カーネリアも意を決した表情でメノウを睨む。
殺気丸出しの、敵と戦う時と同じカーネリアの迫力に、メノウは思わず後ろに退いてしまった。
「力尽くでも、メノウ、あなたを連れ戻すわ!!」
カーネリアとメノウの間で、電撃が弾けた。同時に、バトルの時と同じようにカーネリアはメノウとの距離をとる。
メノウとカーネリアの戦いが、まさかこんなところで、こんな殺気丸出しの状態で行われようとは、私達は勿論のこと、ジェード達も予想だにしていなかった。


story54 ―狂わされた運命 慨然の戦い メノウVSカーネリア― 


カーネリアの体内で、電気が弾ける。体は薄ら青白く光り、やがて大きくなる弾けるような音と共に体外に溢れた電気の閃光が、空気中を泳ぎ始めた。
「やめてカーネリア!僕は君と戦いたくない!!」
「………私だって戦いたくない……。でも、あなたが目の前で火の海に飛び込んでいくのを、私は見てられないのよっ!!」
一瞬悲しそうな顔を見せ、ついにカーネリアはその地面を蹴った。
完全に戦闘モードになったカーネリアの速度は、並のポケモンでは目で追うのすら難しい。気がつけばあっという間に、メノウとカーネリアの距離はゼロになっていた。
だが驚いたことに、カーネリアが前足でなぎ払ったのを、メノウは瞬時に後ろに跳んで回避したのだ。
しかし、もっと驚くべきことに、後ろに退かれたことを瞬時に感じたカーネリアが、一瞬でメノウの後ろに回り込んだのだ。まだメノウが地面に着地する前である。
「前も言ったよね。無闇矢鱈地面から離れるのは、自分の首を絞めるだけだって!!」
メノウが後ろに振り向いた時には、カーネリアの体から雷の音が鳴り始めてからだった。
「はあぁぁぁぁっっ!!」
カーネリアから、勢いよく電撃が繰り出された。それはメノウの体を包み込み、そのまま地面へと一直線に向かっていく。
それが地面に激突した時、激しい爆発音と共に、おびただしい量の土煙を舞いあげた。

「メノウ!!」
パイロープとルべライトはガーネット達を払い飛ばし、舞い上がった土煙の中に飛び込んで行こうとした。だが飛び込む前に、突然目の前に現れたスイクンに止められてしまう。
「何やってんだスイクン!!メノウをカーネリアとなんか戦わせたら、あいつ死んじまうぞ!!」
そう訴えても、スイクンはそこからどかなかった。見限ってスイクンの横から通り抜けようとしたが、前に前足を出されて遮られてしまった。
「心配するな。カーネリアはメノウが死なない程度に加減している。それに―――」
パイロープとルべライトがスイクンを見上げると、スイクンは後ろを向き、パイロープ達に背中を向ける。
「これはメノウ自身がけりをつけなければならないことだ。あいつの実力がどれ程なのか、あいつの覚悟はどれ程なのか……私達は見届ける必要がある。」
スイクンの言葉に、パイロープも上がりかけた拳を下げた。改めて見ると、スイクンの背中はでかいな、とパイロープは笑う。
しかし、パイロープもルべライトも、自分も戦いの最中だということを忘れていた。死に物狂いでメノウを取り戻そうとする、メノウの仲間との。
「まだ俺達は負けちゃいねぇぜ!!」
「そんなによそ見したいなら、私達を倒してからにしなさいよ!!」
ガーネット、ジェオード、オニキスが攻撃の牙を剥かせ、パイロープ達に跳びかかった。

土煙が晴れるまでの数秒間。カーネリアは息を荒げながらそれを見据えていた。
メノウが居なくなってしまうという焦りと悲しみが、明らかにカーネリアの体力と精神力を削っていっている。あのカーネリアが、たった少し動いただけで息が上がるなんてありえない。
完全に土煙が晴れ、すっかり上がりきった太陽が煙に覆われた雑草を照らし出した。―――だが、そこにメノウの姿はなかった。
「……………っ!!」
次にカーネリアがメノウの気配を感じたのは、なんと自分の後ろであった。
カーネリアの電気が身体に触れる一瞬前、メノウは空中で更にもう一回跳ねたのだ。正確に言うと、カーネリアの電気の威力を利用し、少しだけ触れることによって自分から跳ね飛ばされたのだが。
そんなことがあの一瞬で考えついて、さらに行動に移せるなんて、並ではない。
「なんだありゃ………。あれが本当に……メノウか…?」
離れたところからよく見ていたら、メノウの動きが今までとは全然違うのがよく解った。驚きで目を丸くしていると、リチアも続けて口を開いた。
「今まで、自分の実力を隠していたというのか……?カーネリアも流石に加減はしているようだが、それでもあの威力を避けたというのは信じられない。」
こんなのんきに観察している場合ではない。それは十分解っているのだが、体がなければどうしようもない。
何も出来ない自分達に、喋れば喋るほど腹が立ってきた。

「止めようよカーネリア。………こんなことしても意味がないよ。」
「意味がない……?あなたを引き留めようとすることに、意味がないって言うの…?」
言い終えた直後に、カーネリアは振り向きざまに前足でなぎ払った。だがその軌道にすでにメノウは居なく、ただただ空を切る。
「違う。ただ…………こんなことをしても、お互いに……傷つくだけだよ…」
メノウは一向に反撃する気配を見せなかった。カーネリアと戦いたくない。その気持ちに偽りはないらしい。だが、それはあまりにも自分勝手な気持ちだ。
「仲間を傷つけたくないから自分は出ていく……?でも……戦うつもりはない?
……さっきから聞いてれば、随分勝手な意見ばかり述べるじゃないの。自分だけの勝手な判断で今まで一緒に行動してきた仲間のもとから離れる……これは一種の裏切りよっ!!」
全身を自らの電流で刺激し、体毛を逆立たせ、狙った場所に更に強い電流で弾き飛ばした。逆立った毛は鋭い針となり、対象を襲う。
カーネリアの無数の〝ミサイル針″が、メノウの皮膚に突き刺さらんと一直線に飛んだ。
今回の〝ミサイル針″は「倒す」というよりも「当てる」ことを重視され、カーネリアの前方視界内を全て自らの針で埋め尽くした。
近距離からの広範囲攻撃に、流石のメノウもよけきれず、横に跳ぶ際に後ろ脚と前足に数本、針が皮膚を貫いた。
メノウは一瞬足の関節を折ったが、すぐに立て直し、カーネリアの方を向く。
「………裏切りでもいい。それで君が幸せになれるなら…………」
メノウは悲しそうに、カーネリアから目を逸らした。

「だから!!勝手なことばかり言ってんじゃないわよ!!」
カーネリアが叫ぶ。メノウははっと顔を上げると、カーネリアは既に地面から離れた後だった。
一筋縄ではいかないと、カーネリアは加減していた分の力を全て解放し、それは全て電気のエネルギーに変わっていく。
カーネリアを包む電気は最早閃光ではなく、まるで爆弾が爆発したかのように強大なものとなった。
その電気が、全てカーネリアの体内に潜り込むように消えた――――次の瞬間

「例え片思いだったとしても、大切な者が目の前から消えることの!どこが幸せだっていうのよ!!」
この一心の叫びを引き金に、まるで太いレーザーのように集約された電撃が、空中からメノウもろとも地面に襲いかかった。
この凄まじい威力の〝チャージビーム″は、全てを明るく染め、そしてその轟音はすべての音を吹き飛ばした。
そして、あまりのスピードに避ける間もなく、メノウの体は今度こそ、その電気に全て飲み込まれた。
―――――――――――――だが、その刹那

強大且つ巨大な火柱が、メノウの足元からメノウを包みこむように上がった。それはカーネリアの〝チャージビーム″とぶつかり合い、拮抗状態にまで持ち込んでいく。
激しい轟音と衝撃の中、相殺し続ける二つのエネルギーはやがて薄れ合っていき、大きな爆発で全てを終えた。

もうもうとまた土煙が上がり、やがてそれは晴れる。
そこには、信じられない事実に驚きとショックを隠しきれないカーネリアと、さっきまでとは目つきが違うメノウが、お互いにお互いを見合っていた。
「………君が納得出来ないなら、それでもいい………でも……」
メノウはゆっくりとカーネリアに近寄っていく。明らかに雰囲気の変わったメノウに、カーネリアは最早恐怖までも感じながら、じりじりと後ろに下がっていった。
「これ以上僕を止めようとするなら…………………」
カーネリアとの距離を僅かに詰めたところで、メノウは進むのを止めた。
そして、今まで温存していた力を、炎という形で体外に放出する。炎に包みこまれたメノウから発せられた言葉は、カーネリアの体を鋭く貫いた。





「……僕は君を……………敵として処理するっっ!!」


~Story55~ ―理由― 


A・G団の裏庭の壁にびっしりと並ぶ個室のドア。その入口から5番目に近い右側にある部屋からは、常に何かの声が聞こえるような気がした。
この部屋は私、ベリルの部屋――というか、私以外誰も使おうとしない部屋――になっていて、欲を抑えきれない私は、いつも誰かをここに引き込んでいた。

今日の「生贄」は私と同じ、4年前に融合イーブイを担当したニャルマー――クライス。今日は私が連れ込んだわけではなく、クライスからの要望だった。こんなにたくさんのポケモン達がいるこの基地では、隠れて処理も出来ない。とクライスは言う。
「………気持ちいい?」
目の前で私の前足に握られ、扱かれているのは独特のにおいを放つ雄の象徴。私はクライスの後足の間に座り、何度も何度も前足を上下に往復させていた。
「うっ………!…君は相変わらず上手いね……」
「ふふっ……ありがとう。」
これは私のことを変態だと言っているのか、それとも純粋な褒め言葉なのかは謎だが、それでクライスは満足しているようだった。

ふと、頭の中に頭領の言っていた「メノウ」という言葉がよぎる。実を言うと私はもともと『銀河団』に居たわけではなく、カントーという違う地方で暴れていた『ロケット団』という組織にいた。
いまや『A・G団』となった『銀河団』は、『ロケット団』やホウエンという地方の『マグマ団』とが手を取り合って出来た組織。私もその時にここに来たのだ。

クライスのモノを扱いていた前足の動きを止めた。悦に浸っていたクライスの顔が、みるみる不満顔に変わっていく。
「………どうしたの?」
「……ちょっと…気になることがあって……」
「気になること……?」
変わらず不満顔のまま、クライスは首を傾げた。
「えぇ……。この前、頭領が『メノウの捜索の場をシンオウに切り替える』っていってたわよね?それって、そいつはシンオウにいたわけじゃないってことなのかしら?」
私は前足を少しだけ動かしてモノを刺激し、クライスをじらす。そうしたほうが早くやってほしいと、クライスが早く口を割るかと思ったからだ。
クライスはじらされていることさえも快感に感じるらしく、だがやはりやるならやってほしいという気持ちもあるらしい。私の思惑通り、クライスはすぐに口を開いた。
「僕ももと『マグマ団』だからね。その辺はよく知らないんだ。………でも…」
「でも…………?」
別にクライスに黙っている理由もないだろうが、もしここで黙られたら困るので、私はモノにふっと息をかけた。
クライスは一瞬目を瞑って敏感に反応すると、また唇をはじいた。
「もともと銀河団にいた奴に聞いたんだけどね、メノウって子は当時まだ世間的には幼い子供と呼ばれる年齢だったみたいだよ。
銀河団が3年ほど前、僕たち『マグマ団』の残党と接触するためにホウエン地方に来た時に逃げ出したらしいんだ。」
ここ「A・G団」には、子供も大人も関係なく放り込まれることがよくある。なのでメノウが当時幼かったというのは別に驚くことでもないが―――――
ひとつ気になるのは、3年ほど前にはすでに「中庭」が作られていたらしいのに、何故メノウをわざわざ連れてホウエンまで行ったのだろうか。
相当のつわものなのか、それとも―――――別の理由があるのだろうか。

「あの………そのメノウって子は、相当強かったのかしら?」
クライスがマゾヒストで助かった。ここまでじらされれば、普通の者ならば襲いかかってくる危険性もなくはない。
今やクライスは私の掌で転がされているようなものだったが、それもクライスは快感に感じるのだろうか。
「そこまでは知らない。けど、あそこまでして探すからには、何か理由があるんだろうね。………もういいでしょ?早くもっとせめてよぉ………」
ようやくじらされることに限界を感じてきたらしい。これ以上じらすのも可哀そうだし、表情から見て本当に知らなさそうだったので、私はここで話すことをあきらめた。
「ごめんなさいね。…………それじゃあ……もっと激しくしてあげるわ……」
クライスの顔が明らかに明るくなった。私はクライスのモノにゆっくりと顔を近づけ、舌を伸ばして先端でくすぐった。

―――――――何か理由があるんだろうね。
その言葉がやけに頭に残った。やはり、メノウが追われるには、それ相応の理由があるのだろう。
凄まじく気になるのだが、それを聞くのは後回しにしよう。
今は、思いっきり――――――――クライスを弄り倒すことを楽しむとしましょうか。


セルロース(メタモン)「僕とワタシ、どっちのほうがいいと思う?」
パイロープ「………(俺的には………僕?)」


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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