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Galaxy (story46~50)

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Galaxy (story46~50) 


著者 パウス


~story46~ ―稽古― 


ソノオタウンを出て今日で三日目。ソノオタウンから東へ出ると205番があり、そこはそれ程複雑ではないので一日で抜けることが出来た。
205番道路を抜けると森があり、そこはハクタイの森と呼ばれている。
これが中々複雑な森で、ここで迷ってしまう人も少なくはない。勿論、私たちは言うまでもなく―――

「畜生!どこだここはっ!!」
「ご主人……あの岩、さっきも見たよ………」
ガーネットは溜まるストレスを発散させるようにブンブンと縦横無尽に飛び回り、メノウはご主人の上着を前足で引っ張る。
「パールさん……」
「ご主人、ちょっと疲れたよ……」
アメシストと私は体力が底をつき始め、とくに戦闘能力に乏しいアメシストの息は荒い。
メノウも同じく疲れており、息が上がってないのはガーネットだけだった。
「情けねぇ……。アメシストは良いとしても、なんでお前らまで息上がってんだよ。」
ガーネットは、まだ自分が疲れていないことを見せ付けるようにメノウの上を飛び回り、続いて私の頭の上擦れ擦れを飛ぶ。
「うっさいわね!あんたは飛べるから疲れないだけじゃないのよ!」
「そういう技術があるからこそ、俺はお前より勝率が高いんだなぁ。」
「この前私に二連敗した分際で調子こいてんじゃねぇわよ!ていうか羽音が五月蝿いのよ!蝿かあんたは!」
「うるせぇ!この前は風向きがずっと向かい風だったんだよ!!」
「何その言い訳!せめてもっとマシな言い訳なかったわけ!?」
別に意識はしてないのだが、私とガーネットのこういうやりとりは、まるで漫才のように見えるらしい。いつもご主人達の笑いの的となっている。

そういえばガーネットはいつもやかましいが、比較的大人しいメノウと喧嘩したことは、まだ一度もないかもしれない。
というか、最近何故か近寄りがたいオーラが出ているような気がするのは私だけだろうか。
無邪気に旅の出立を喜んでいたと思えば急に暗くなり、いつも何か考え事をしていた。それなのに今日は嘘のように元気になっている。
共に暮らし始めておよそ三年ほどだが、今まででこんなメノウは初めてだった。

「せっかく周りには誰も居ないことだし、喧嘩するほど気力があるならバトルの特訓でもしようぜ?」
アメシストの背中から顔を突き出したのはクォーツ。今度はちゃんと周囲を確かめてから出てきたらしい。
ご主人はかばんから一枚の地図を取り出し、手ごろな岩の上に広げて置いた。
「そうだな……この森を抜けたら町があるんだが…」
ご主人は地図の左側、『ハクタイの森』と書かれているところを指差し、そのまま指を右に滑らせて『ハクタイシティ』と書かれた場所を指す。
「ここには二つ目のジムがあるらしい。そこに挑戦するつもりなら、今ここで稽古をつけてもらった方が良いかもな。」
クォーツが魂で出てきたことを皮切りに、カーネリア、リチア、コーラルは次々と外の草を踏んだ。
稽古をつけてもらう、というのは彼女達に指導してもらう、ということだろう。

残念なことに、魂の状態では全てすり抜けてしまって相手をしてもらえないので、私とガーネット、それにオニキスで実戦形式の特訓することとなった。
その中で気になったことや直すべき点などをコーラル達に指摘してもらうという訳だ。
何故メノウが加わらないのかというと、コーラル達五匹は一匹のみ身体を使うことが出来るので、とりあえずメノウはカーネリアと戦うことになったのだ。
「うふふふふふふっ、たっぷり扱いてあげるからね。」
カーネリアは嬉しそうに、不気味に笑い、メノウは額に冷や汗を滲ませながら離れた場所まで移動していった。

「よっしゃ、まずは俺とジェオードだな。」
「あんたには無様に三連敗してもらおうかしらね。」
距離をとって対立する私とガーネット。もしかしたら、本当に視線と視線の合わさるところで火花が散るんじゃないか、と思ってしまうほどお互いに睨みを効かせていた。
その中でメノウとカーネリアの居るあたりが妙に静かになったことを、私もご主人も誰も気が付かなかった。


~story47~ ―波乱への入口― 


メノウの特訓の担当となった私は、やはり実戦が一番だろうと、実戦形式の特訓を提案した。
メノウは一瞬顔をしかめた後、渋々それに乗ってくれた。彼が顔をしかめた理由としては、何日か前にも同じような特訓をした時、私が彼を弄り倒しすぎたからだろう。

私とメノウは数メートルの距離をとって対峙し、メノウは体勢を低く保ったまま目を鋭くした。だが目を鋭くしたと言っても、元々が迫力の無い容姿をしているのであまり効果は無い。
全く、その顔じゃあ可愛いだけで、迫力がないじゃないの。
「んじゃ、いくよーーっ?」
今までメノウの動きを見てきた限り、正直私のほうが実力は上だと思った。筋は良いのだが決め手に欠ける。
メノウは相手の動きをある程度予測し、タイミングを計ってカウンターを相手に叩き込む戦闘が主なのだが―――

「………うわぁ!!」
私が右に動くと見せかけて左に跳ぶという、基本的なフェイントを入れただけで、メノウは反応出来なくなってしまうのだ。
いつも相手が猪突猛進してくるとは勿論限らないので、ここはメノウになおして欲しいところである。
「だからぁ、前も言ったでしょ?いつも相手が正面から突っ込んでくる訳じゃないんだからさ。カウンターを狙うのは良い戦術だけど、自分からも攻めてかないと…」
軽く弾き飛ばしただけなのでメノウはすぐに立ち上がり、「分かった」とにこやかに微笑む。
改めて戦闘体勢に入ると、じりじりと足を前にすり動かして言った。距離を少しでも詰め、一気に攻撃を仕掛けるつもりだろう。―――が、
「隙だらけよ?」
私は、本気でやるわけにはいかないので、軽傷で済む程度の規模の電気を身体から放った。
淡い黄色の光に包まれた細い白閃が、メノウに向かって不規則にくねりながら突進していく。
予想外の攻撃をされてしまったメノウは、慌てて右斜め上に跳んだ。そこを私は逃さない。
私は勢いよく地面を蹴り、空中で身動きの取れなくなってしまったメノウの上まで跳躍する。
メノウは何かの気配に上を見上げ、驚く間もなく私に身体を押さえつけられて、私もろとも地面に落下した。
勿論落下した時はメノウの身体が下にあるわけで、地面に叩きつけられてダメージを負うのはメノウだけ。

「大丈夫?メノウ」
メノウが跳んだ高さがそれ程でもなかったので、叩きつけられても大したダメージはないはず。
「……っ………ぅうん………」
だがメノウは顔を歪め、時折苦しそうに咳き込んだ。四肢を押さえ込んでいるこの手を離してくれ、とでも言わんばかりの表情で見上げてくる。
そんな顔されちゃあ、ますます退くわけにはいかなくなるのよねぇ。
「最近戦ってなかったから、身体鈍っちゃった?前にも同じようなことした時はあまり痛がってなかったよねぇ?」
「……うん…………大丈夫……」
と言うメノウの表情は相変わらず変わらないままだ。どう見ても大丈夫ではない。
だがここで甘やかしてはいけないと、私はメノウを休めるなどとは考えもしていなかった。
休めるつもりなら、とっくに私はメノウの上から退いている。
―――その考えが、私たちをさらなる波乱へと導くことになった。

私がメノウの上から退かないのは、メノウがこの不利な状況をどうやって覆すのかが知りたかったからだ。
だがメノウはまだ痛がっていて、抵抗するどころか大して動きもしなかった。一体、いつからこんなに弱々しくなったのだろう。
「ほらっ、しっかりしなよ!」
私がメノウの胸を軽く叩いた――――その時。
「えっ………………!?」
私は思わず前足を引っ込めた。理由は、本来雄のメノウにあるはずの無い感触が、彼の胸の辺りでにあったからだ。
気のせいかと思ってもう一度、今度は触れるようにそっと胸に前足を当てても、やはりその感触は変わらない。少し足を滑らせれば、その感触は足の裏にくっついてくる。
―――まさか、そんなはずは………

「……ちょっとごめんね。」
こんな誰もが信じられない状況に私は、恥ずかしげもなくメノウの股間へと足を運ぶ。
そっと触れてみると、今度は雄にはあるはずの感触が無かった。
これで私は確信する。こいつは雌のブースター、メノウじゃない!!

私は瞬時に彼の――否、彼女の上から退き、またいつでも攻撃できるように構えた。
「あんた………誰?」
一方の雌のブースターは、さっきまで痛がっていたのが嘘のように、ぴょんと跳ねるように起き上がり、困った顔で立ちつくす。
「あっちゃー…………ばれちゃったかぁ…」
余裕を見せ付けるように頭を掻くブースターの前で、私は戦闘態勢をくずさなかった。
結局、さっきの不利な状況は、こんなかたちで抜け出されてしまった。


~story48~ ―唯一の情報保持者― 


『うらぁ!死ね!』
『えっ……痛ぁ!?ちょっとあんた!今本気でやったでしょ!』
『あっ、すまん。何かつい………ノリで。』
『傷付けといて何がノリよ!!』

「向こうは賑やかだねぇ。どう?こっちもあんな風に賑やかに―――」
冗談のつもりで言いかけたのに、カーネリアは憎悪を露にして僕の目の前まで、まるで瞬間移動の如くの速度で移動する。
身体を電気で刺激し、全身の毛を逆立て、僕の身体に突きつけてきた。
たかが体毛といっても侮ることは出来ない。その一本一本が鋭利な針のようになっており、少しでも触れれば容易に皮膚を貫くだろう。
「今はそんな状況じゃないってことぐらい、解るよねぇ。メノウはどこ?私は気が短いから、怪我する前に吐いたほうがいいわよ?」
こうやって話している間も、どんどんカーネリアの身体は近づいてくる。スピードでは彼女の方が速いだろうし、そもそも僕は戦いは苦手だ。

―――でも、誰かをからかうのは大好きなんだよね。

「……さぁ?………どこだろう。」
この言葉がカーネリアにとっての刀となり、カーネリアの堪忍袋の緒を断ち切ったようだ。
みるみるうちに顔を怒の赤に染め、身体はわなわなと震えている。出会ってまだ数日しか経っていない仲間が連れ去られただけにしては、反応が面白過ぎる。
仕方ないよねぇ。君、メノウ君のことが大好きだもんねぇ…。
「言わないとぶっ殺すわよ!!」
全く、予想以上の反応をしてくれる。これが堪らなく面白い。
「君に僕が殺せるかなぁ?」
「冗談だとでも思ってるわけ?そんな淡い希望は捨てることね。……これが最後のチャンスよ。メノウは………どこなの?」
僕がこんな余裕なのが相当癇に障るのか、カーネリアの口調は冷静だが顔がまるで能面のように引きつっていた。
顔もさっきより血が昇り、顔の紅潮具合と身体の振るえ具合を見ると、そろそろ我慢の限界だということは明らかだった。

何故僕がこんなに余裕なのかと言うと、僕にはカーネリアには絶対に破れない、絶対的な盾が二つもあるからだ。
まず一つ目は―――
「僕を殺したら、君達はどうやってメノウ君を見つけるつもりなのかな?少なくとも、この近くでメノウ君の行方を知ってるのは僕だけだと思うけど……」
この大きな盾を前に、カーネリアは何も反応出来ずに黙りこくっているだけだった。
カーネリアは、メノウ君を見つけるためだったらどんな手でも使おうとするだろう。さっきなかなか吐かなかった僕を殺そうとしたのがその証拠だ。
だから、少なくともカーネリアは敵と認識している僕に聞こうとする事だって充分に考えられる。

二つ目の盾―――これは敢えて口には出さないが、僕はメノウと全く同じ顔と声をしている。
身体は雌には変わりないが、見た目はメノウと殆ど変わらない。
メノウを愛するカーネリアにとって、これは第一番目の盾よりも強固な盾だろう。

暫く何も話さず、動きもしなかったカーネリアは、全身の体毛を逆立てることを止めた。
そして一歩後ろに引くと、顔を上げずに俯いたまま口を開いた。
「その顔……その声……………ありえない……」
そう微かに呟くと、カーネリアは勢いよく顔を上げ、汚いものでも見るかのような目で僕の事を見てくる。
「その顔も、声も……それはメノウのもの。あんたなんかに使われて欲しくない!!」
「だからなんなのさ?君の感情なんか僕には関係ない。それとも僕を半殺しにでもするかい?君にメノウ君の顔が傷つけられるかな?」
カーネリアの反応をまた楽しもうと、自分でも言われたら殺したくなるような皮肉を放ったが、以外にもカーネリアに大きな反応は無い。
暫くして、ようやく反応を見せたが、それは僕の期待したものではなかった。
「……ふっ………ふふふふふふ…」
「……どうしたの?ついに頭がおかしくな――――――」
カーネリアが怪しく笑ったかと思った瞬間―――背中に衝撃が走った。
まるで硬い何かがぶつかって来たような衝撃に、不意打ちともあって僕の身体はカーネリアの頭上を超えるほど強く飛ばされる。
カーネリアの後ろ数センチのところを僕の身体が転がった。

カーネリアとの実戦特訓で打ち付けられたところがまだ圧痛点となって残っていて、さらにそこにぶつかったのだから痛みは半端ではない。
激痛で動けない身体を寝かせながら顔を上げると、僕に〝体当たり″を繰り出したのはジェオードだと分かった。
突然のことに呆気にとられていると、今度は上空から耳障りな音が降り注いできた。
その音に僕が気付くと同時に、何者かがロープのようなものを持って僕の周りを一回、二回、三回……と何度も何度も回り、気が付けば僕の身体はロープに締め付けられていた。
ロープをもっていた何者か―――ガーネットはしっかりロープが僕の身体に絡みついたことを確認すると、一直線に僕の頭の先に飛んでいく。
そこには彼らのご主人、パールがシリアスな表情で立ちすくんでいた。

「あんたは優越感に浸ってて気付かなかったでしょうけど、実はパールは聞いてたのよ。……ずっとね。」
パールは流石にメノウとカーネリアから目を離すわけには行かないと、ずっとこっちも見ていたらしい。
それに気付かなかったことは、僕の最大の失態だ。
「さぁて、これからゆっくり、あんたから情報を搾り取っていこうかしらね……」
仲間達と一緒にいるカーネリアからは想像もつかないほど、僕を見下す彼女の目には狂気が秘められていた。

捕まってしまったわけだけど、まぁいいか。
どうせ彼女達は、唯一メノウ君の情報を持っている僕を殺したりはしないだろうし………ね。


~story49~ ―メタモる― 


「とりあえず、いつ入れ替わったのか、教えてもらおうか。」
カーネリアに乱雑に引きずられ、縛られた状態でブースターが木の下に座らせられたところに、クォーツが口を開いた。
「えっと………一…二……」
縛り付けられて、追い詰められた状態でもなお余裕を見せ付けるブースターは、空を仰ぎながら何やら数字を数え始める。
「………三日前の夜だね。まさかこんなに早く気付かれるとは思ってもなかったけど。」
三日前と聞き、私の中で何かがほっと息をついた。
もしかしたら、私達が旅立つ前から入れ替わってたのではないかと密かに危惧していた。だが良く考えると、そんなことがあるわけが無い。
もっと良く考えると、一つだけ、だが重大な疑問点が生まれた。

何故メノウがさらわれるのかが分からない。
メノウに特別な力があるとは思えないし、特別に強いわけでもなかったはず。
強いて言えば、この辺でイーブイの進化系は珍しいからとかいう理由もあるが、ならこの入れ替わったブースターはなんなんだ。

「三日前?……メノウが散歩に出て行ったのを追いかけていった時は、まだメノウだったはずだけど……?」
三日前の夜といえば、カーネリアの言うとおりメノウが散歩に行ったところをカーネリアが追いかけていった日。
メノウが外に出てからカーネリアが外に出るまでには30分もの時間があったが、それでもまだメノウとこの雌のブースターは入れ替わっていなかったとカーネリアは言う。
「それは僕がまだ雄だったからでしょ?僕の身体が雌じゃなくて雄だったら、きっと今もまだばれてなかったもんねぇ。」
「雄だっただぁ?何法螺吹いてんだてめぇ、自分の立場ってもんが解ってねぇのか?」
カーネリアに並んでクォーツは口を開き、今にも飛び掛りそうな体勢でブースターを脅す。
だが、魂の状態のクォーツがいくら脅そうと、なんら効果はなかった。
「本当だよ。僕は確かにあの時は雄だった。別に法螺じゃないさ。」
相変わらず余裕なブースターは、クォーツを一瞥して馬鹿にしたようにクスリと笑う。
カーネリアよりも熱くなりやすい赤の暴君が、今完全にスイッチを入れられてしまった。
「雄だった奴が急に雌に変わるなんて、そんなことがあるわきゃねぇだろうが!!カーネリア、ちょい身体貸せ!こいつぶっ殺す!!」

カーネリアとクォーツが馬鹿争いしている光景を前に、ブースターは更に心に余裕を持ち始めた。
そして大きく笑ってクォーツとカーネリアの動きを止めると、ニヤニヤと笑いながら口を開けた。
「そうかぁ、とっくに気付いてるもんかと思ってたんだけど。そうじゃなかったみたいだね。」
「あん!?てめぇ、何言って…………………っ!!」
クォーツが振り返ったのをスイッチに、ブースターの身体が光り出した。
すぐに消えたその光の中で、ブースターの赤い身体と首周りや額などの白い毛は、なんと薄紫に変わっていくではないか。

光が消えると、ブースターの身体は完全に薄紫に変化し終わっていた。目や、口までもが全て薄紫で、この瞬間に皆がこいつが何者かを悟っていた。
ブースターの形が崩れていき、やがて半流動体の薄紫の塊と化していく。
そのせいで紐は解け、ブースターだったそれは容易に紐から抜け出した。
「これが僕の正体さ。」
よく見るとその身体の一部分に、ペンで点を付けただけのような目と、一本の横線のような口があり、最早完全にブースターではなくなった。

彼?彼女?そんなのどっちかは分からない。何故ならこいつには性別というものがないからだ。
細胞の一つ一つを自由に組み替え、どんな姿にでも、どんな顔にでも、声でもにおいでも何でも変えることが出来てしまうポケモン―――私たちはそのポケモン達をメタモンと呼ぶ。
「メタモン…だと?」
「そう。これでさっきの話もつじつまが合うでしょ?あの顔も、声も偽者さ。」
ブースター―――否、メタモンは声をメノウと同じ声にして笑ってみせた。
こいつがメタモンだったというならば、誰もこいつとメノウが入れ替わっていたことに気付かなかったというのも頷ける。
恐らく、本当に全くメノウと同じ体だったのなら、言われるまで永遠に気付かなかっただろう。
要するに似ているのではない。同じ顔と声だったのだから。

となると、一つの疑問が生まれる。
何故メタモンはわざわざ雌の身体なんかに変身したのだろうか。
皆そのことに気付いているはずなのだが、あまりに衝撃なこと続きで頭が付いていっておらず、ただただ唖然とするばかりだった。


~story50~ ―雷撃の制裁― 


皆唖然とする中、メタモンの時だけは動いていた。一本の線のような口の端を吊り上げ、この場の空気を唖然とさせた快感を堪能している。
「いやー、何度経験してもいいもんだね。この正体を明かす瞬間ってのはさ。」
声もメノウではなくなった。雄とも雌とも取れる中性的な声。
メタモンには性別が無く、一般的には雌でも雄でもないと言われている。ただ、〝変身″によって雌にも雄にもなれるのだ。

そろそろ皆が自我を取り戻してきた頃、メタモンの身体がまた形を変え始めた。
形が出来上がり、光って色と顔が作り出され―――さっきと逆の過程で作り出された姿は、またもやブースターであった。
「ブースターの姿、気に入っちゃったなぁ。動きやすいよこの姿。」
気まずいからか、それとも趣味か、またもや雌のブースターとなったが、今度は顔も声もメノウとは全くの別物。
そのことは、私達の心の荒みを少しだけ和らげてくれる。敵に仲間の―――いや、家族の姿が使われているなど、少なくとも良い気分はしない。

メタモンがブースターとなった瞬間、完全に我を取り戻したご主人は素早くバッグのチャックを走らせた。
中に手を突っ込み、ゴソゴソと中から取り出したのは一本の長いロープ。何故こんな物を持ってきているのかは謎だが、これでメタモンの動きを封じることは出来る。
ぎょっと目を見開き、優越色から恐怖色に塗り直されたメタモンは素早く地面を蹴ったが、その速度はカーネリアには及ばない。
あっさりとカーネリアに捕らえられ、そこにパールが急いで駆け寄っていく。
半流動体から完全な固体となったため、パールは余計に紐を縛り付けやすくなった。
人間の特徴でもあるその器用さで、さっきよりもきつく、二度と解けないように強固に結わえていく。
「あっ、ちょっと待ってよ。これきつ過ぎない?ちょ、痛い!痛いって!!クォーツくぅん、助けてぇーー!」
完全な雌になった事をいいことに、自分を弱々しく大袈裟にアピールし始めた。誘うようにクォーツに助けを求めるが、クォーツもそこまで馬鹿ではない。
でもやはり雌が目の前で縛られるのを見ていられないのか、クォーツはメタモンから視線を逸らし、地面を見た。
流石にもう一度縛られるのが嫌だったのか、メタモンはジタバタと暴れるが、それもカーネリアとご主人とロープに抑えられた。
余裕だったメタモンの初めての焦りに、皆少しずつ自我を取り戻していく。
自我を取り戻したことで、さっきまで考えていたことが頭に思い浮かんだ。
「あんた、何でメノウに化けるのが役目だったはずなのに……雄じゃなくて雌に化けてたの?」
これはいくら考えても解らない、最大級の疑問である。
考えうる限り、このメタモンの役目は足止めだろう。故にこの疑問は大きい。

『僕の身体が雌じゃなくて雄だったら、きっと今もまだばれてなかったもんねぇ。』

メタモンは確かにそう言った。ということは、雌に変身してしまったことによってバレてしまったことも解っているはず。
「んー……、別に言っても良いんだけどさ、言っちゃうと困る奴がここに居るからね。」
そう言って目を向けた方向には、目を皿のように丸くしたカーネリアが居た。
「わ、私がなんだっていうのよ。」
何のことか解らず焦るカーネリアに、メタモンはさらに続ける。
「三日前の夜っていったら、君がメノウ君を追いかけていった、ソノオタウンで過ごした夜だってことは解るよね。………その時、君がメノウ君に何しようとしたか覚えてる?」
この会話は、恐らくカーネリアにしか通じない内容だろう。
確かにあの日はカーネリアが、いつもより散歩を長く続けたメノウを迎えにいった。だからその時に何が起こったのかは、私もコーラルもガーネットも、皆知らないことだ。

気になってカーネリアを見ると、カーネリアは暫く目をつぶった後に、一瞬で顔を真っ赤にした。
「ワタシも信じられなかったよ。もうカーネリアとメノウ君はそこまで―――――――」
そこまで言いかけたところで、慌ててカーネリアはメタモンの口を塞いだ。
だがすでに遅し。メタモンが言わずとも、カーネリアの反応で大体のことは予測出来た。出来てしまった。
「………?何だ?皆どうしたってんだ?」
皆が顔を真っ赤にしてカーネリアから目をそらしている中、クォーツだけは状況が理解出来ていなかった。
その事に半ば呆れながら、リチアがクォーツの傍に近寄り――
「鈍感な奴だな貴様は……。つまり………だな……」
リチアがクォーツの耳に口を寄せようとした時、突然彼女の体が硬直した。そしてカーネリアの方を恐る恐る見ると、更に体を硬直させる。
カーネリアは、普通とは思えない形相と殺気でリチアを射抜いていた。
「やっ……やっぱり何でもない。」
「何だよ………………………っあ、成程なぁ……」
あまりの迫力にリチアは口を噤んだが、カーネリアの反応とリチアの反応から、クォーツはリチアが何を言おうとしたか理解出来てしまったようだ。
「そりゃぁ……なぁ………。カーネリアも言われたくはねぇだろ―――――」
「何で!?何で私が必死に隠そうとしたことをあんたは理解すんのよ!!」
「ぐふっっ!やめ……っ、放せ……カーネリ………アッ…………!」
カーネリアは更に顔を真っ赤に染め、クォーツに跳びかかって首を絞め、ガクガクと前後にクォーツの頭を振った。
クォーツは顔を真っ青にしてカーネリアの前足を解こうとするが、凄まじい羞恥心パワーに力持ちのクォーツも成すすべがない。
「ちょっと!止めなさいカーネリア!!」
必死に止めようとするコーラルだったが、カーネリアと交代してアメシストの体に入っており、カーネリアの体に触れることが出来ない。

最早当然の如く、メタモンは声を殺して笑っていた。そのことに敏感に気づいたカーネリアは、メタモンに顔を向ける。
カーネリアと視線が合うと、まるで挑発するかの様にメタモンはその無邪気な笑いを、徐々に
薄ら笑いへと変えていった。
ようやく首から前足を解かれたクォーツは、地面を転がって素早く酸素を体内に取り込んだ。
カーネリアはその様子を見向きもせず、じっとメタモンの方を見る。
その表情は、いつもの優しくも無邪気で、活発な彼女のそれとはまったくの別物―――そう、まるで死神のような冷静かつ残酷な表情。
カーネリアはゆっくりとメタモンの方に歩を進めながら、体内に溜まった電気を放出していく。
そのエネルギーは大きさと威力を増していき、まるで歩く雷のように周りを青白く染め、弾けるような音は何よりも大きい。

「まさか……っ!カーネリア、落ち着いて!!そんなものくらわせたらそいつは死んで―――」
コーラルの叫びも、電気の凄まじい音にかき消され、カーネリアの耳には届かなかった。
「これが正真正銘、最後のチャンスよ……。メノウは今………どこ?」
ここまで脅されれば、流石のメタモンも口を割るだろう―――と思いきや。


「残念、やっぱり教えられないね。」


この言葉で、私の頭の中は真っ白になった。
カーネリアは怒りに目を見開くと、地面を蹴って空高く跳躍した。
そこで一気にエネルギーを解放し、私たちをも飲み込んでしまうほどの大きさの光がカーネリアの体を中心として広がり、上空から光を注ぐ。
それはカーネリアは降下し始めると同時に集約され、一筋の雷となって彼女と同時に降り注いだ。
シンプルな技ほど威力も高い、ということだろうか。最上級電撃技――その技は名前もシンプルに、〝雷″と名付けられた。
「莫迦野郎!!何考えてんだてめぇは!!」
「止めろカーネリア!!」
「カーネリアぁぁぁぁ!!」
今更私たちがどう叫んでも明らかに遅かった。不規則に曲がりながら落ちる薄黄色の閃光に包まれたカーネリアの耳には、最早何も届かない。

止める術もあるはずがない。カーネリアも止めようとするはずもない。
その凄まじい電撃の一閃は、縛られて身動きの取れないメタモンを一瞬にして貫き、その体を包み込んだ。


オニキス「………………」
ガーネット「ミスチョイス!!ここは代わりに俺が…」
ジェオード「感想など、ありましたら遠慮なくどうぞ~」
ガーネット「あっ、てめっ!このやろ!」


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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