ポケモン小説wiki
Galaxy (story31~35)

/Galaxy (story31~35)

Galaxy (story31~35) 


著者 パウス


~story 31~ ―最悪の転機― 


「メノウさんはまだ寝ないんですか?」
テントの入り口を片前足で開けながらアメシストは言った。
「え?・・・あ、いや、これだけいるとテントの中は結構狭いからね。
 外で寝ようと思ってたんだけど・・。」
ご主人のテントはそんなに大きくなく、僕達全員が寝るには結構狭い。
とにかく息苦しいのだ。
「そうですか。じゃ、おやすみなさい。」
アメシストは優しく笑うと、テントの中に入っていった。
その瞬間、ゴリッという鈍い音と共にジェオードが大きな声を出した。
「痛ぁ!?」
「きゃぁ!?す、すいません!!」
アメシストは必死に頭を下げて謝り、ジェオードは「大丈夫大丈夫」と言っているものの、痛み耐えかねているのか声が震えていた。
テントに薄く写っている影でどういう状況か分かった僕は思わず吹き出してしまう。
このせいで一度は皆起きてしまったものの、すぐにまた寝息をたて始めた。

風も弱くなり、周りが静かな暗闇に包み込まれた。
夜空に浮かぶ金色の月と星達の発する光で完全に暗くなることはないものの、周りは殆ど見えない。
何の変哲も無い木が影になり、大きな怪物に見えてしまったり、たった数メートル先の灰色をしていたはずの岩殆ど見えなかった。
夜行性のポケモンもいるというのに外で寝るのは不思議と怖くない。
それは長年野生として暮らしていたことがあるからなのか、それとも・・・・・
もう流石に瞼が重くなってきたので、テントから少し離れた草場に座り込んで目をつぶり、微かに吹く風に揺らぐ草の音を聞きながら眠りに身を任せた。

それから暫くすると、額の前のあたりに何か違和感を感じた。
まだ完全に眠り込んでいなかった僕は無理矢理重い瞼を持ち上げ、薄目で前を見た。
「・・・・・何か変だなぁ・・。」
暫く前を見ていたが、何も起こらない。
相変わらず木の影が怪物に見えたりしただけだ。
この辺りに野生のポケモンの気配は無く、僕を狙っているものなどいない。
ポケモンの気配が感じられないのに人間なんているわけがなかった。
やっぱり気のせいか・・・。勘違いとはいえ、僕を起こした違和感に少し腹を立てながらまた目を瞑った。

「・・・もう、何だよ?」
暫く経つと、今度は確かな違和感を覚えた。
いや、違和感というより何かの気配のような。すぐそこに誰かがいるようなそんな感覚だった。
僕はうつ伏せの状態のまま薄目を開けて前を見た。もしかしてすぐそこに誰かが立っているのかもしれない。
しかし、前どころか僕の周りには誰もいない。今度は確かな感覚だったのに誰もいないというのは変だが自分の目なのだから嘘のつきようがない。
周りを見回した後まだ感じる気配のする方向を探し、そこが自分の前だと分かった僕はそこを凝視した、その時だった。
「え・・・な、何?」
目の前の空間が突然歪み始めたのだ。
これが瞬間移動する技―――〝テレポート″だと分かった瞬間、そこからいくつもの影が飛び出してきた。
そして影は僕の前に着地した。闇夜で姿こそよく見えないものの、その目は確かに僕を見下ろしている。
「誰・・ムグッ!」
叫ぼうとすると一つの影から伸びてきた白いリボンのような物が僕の口を瞬時に塞いだ。
このリボンのような物には見覚えがあった。
脳裏にあの日の状況が展開された。
アメシストが覚醒したあの日。そしてジェードとの戦い。そしてこの白いものは・・・。

「大声を出さないでくれ。テントの中にいる奴らに聞かれると少々厄介なんでな。」
そう、スイクンの背中から伸びている白いリボンだった。
そして他に歪みから出てきたのはジェード、パイロープ、ルベライト、そして見知らぬ黄色い体に片手にスプーンを持っているユンゲラーだった。
何されるか分かったもんじゃないこの状況で『大声を出すな』と言われても無理がある。
声を出せないので、思いっきり抵抗してみた・・・が、スイクンの凄まじい力の前では無力だった。
「安心しろ、別にお前達を始末しようってわけじゃないさ。例えしようとしても失敗するだろうしな。」
赤い髪を揺らし、ジェードは声を抑えて笑った。
しかしすぐに真剣な表情に切り替わると、彼の後ろ数メートルの位置にある大きな岩を親指で指した。
「ここじゃあテントの中の奴らに聞かれるだろうな。あの岩の裏がいい。
 今日はお前に用があるんだ。・・・いや、本当は前の時もお前に用があったんだけどな。」
……?どういうことだろうか?
この前、こいつは「A・G団」の刺客として、アメシストを奪いにきたのではないのだろうか。

―――僕に用って・・・・・・・・まさか・・・ね。

スイクンの掲げられたまま、テントから数メートル離れた岩の裏に移動させられた。
そこで下ろされると、ようやく拘束を解かれた。
「僕に用って・・・何?」
内からこみ上げてくる不安を表に出さないように、適当な言葉を選択したつもりだった。
下手に動揺すれば疑われるし、だからといって冷静すぎるのもかえって怪しまれる。
僕の想像している状況は絶対になって欲しくない状況なのだ。

「・・・お前の過去のことなんだけどよ・・・・」
ジェードは口の端を曲げて笑い、僕を追い詰めるように視線を向けていた。
「さ、さぁ?何のこと?」
もう動揺を隠すことが出来なくなってしまった。彼と目線を合わせることが出来ずに俯き、さっきまで気にしていなかったスイクン達の目線が鋭く僕を捕らえていた。
ジェードは複雑そうな表情で僕を見下ろしていた。

そして一瞬、時が止まったように感じた。
僕の想像した最悪の状況・・・・このジェードの言葉がそれの入り口だった。
「成程・・・本当だったんだな・・。なぁ・・元『銀河団』所属、メノウさんよぉ!」
その言葉は何にも勝る鋭利な矢となり、僕の体に突き刺さった。


~story32~ ―数日前の味方は今日の敵― 


旅を始めて四日目の朝。私達は朝早く起床し、また歩き始める。
無論ご主人は寝坊したので、今度はカーネリアに極力弱い電気を流してもらった。
「毎朝こんなのになったら体がもたんな・・。」とご主人は言っていたけれど旅の前に寝坊癖を直しておかないのが悪い。

今日はあまり天気が良くない。
雨は降りそうに無いけど太陽の光を薄い雲が何層にもなって遮り、冷たい風が頬を撫でた。
それほど強い風じゃない分、冷たさが皮膚に染み渡って余計に寒く感じた。
昨日アメシストに踏まれた後足が若干痛いけど、わざとじゃないんだからそれほど気にしてはいない。
勿論わざとだったらぶっ飛ばすけどね。容赦なく。

今、アメシストはリチアに入れ替わっている。
朝起きたらいつの間にか4匹目がいて、驚いたのは言うまでもない。
今までずっとアメシストの心の中で眠りに付いていたらしく、外の空気にもっと触れたいという理由でアメシストと入れ替わった。
人前で姿を変えなければ別に問題ではないので、そのままにしておくことにした。

「ふぅ・・・・折角目が覚めたというのに、何だこの微妙な天気は。」
と、少々今日の天気に不満なようだ。
確かに昨日目覚めたというのなら、目覚めて初めて感じる朝が曇りだったなんて不満だろう。
今までずっとA・G団に捉えられていたのだ。存分に朝日も浴びたいはず。
思わずため息が漏れたリチアにガーネットが近寄った。
「まぁいいじゃないの。明日も明後日も明々後日もお前は自由なわけだし、朝日が拝める日なんていくらでもあるさ。」
『自由』という言葉に反応し、リチアは優しい表情を見せた。
次は安堵のため息をついてガーネットの方を向いた。
「・・・そうだな。」

ガーネットはブラッキーという種族を見るのは初めてなのか、リチアの体を見回している。
リチアはその行為が鬱陶しいのか顔をしかめた。
「おい、あまりじろじろオレの体を見回すな。」
予想外に強く反抗されたガーネットは少し身を引いて言った。
「何で?別にいいじゃん。」
この言葉を引き金に、さらにリチアは鬱陶しそうな顔をした。
暫くリチアはガーネットを睨んだ後、ハッと何か思い出したように目を見開いた。
「あぁ、そういえばあんた等には言って無かったな。」
言って無かったとはどういうことなのだろうか。
何か重要なことを隠していたということなのだろうか。
でも重要なことなら何でこの場面で思い出すのだろうか。

それらの答えは次の言葉で全て解決した。
「オレは・・・・雌だ。」
「・・・・えぇ!?」
これにはガーネットも私も、ご主人さえも驚いた。
メノウだけ驚かなかったのは、昨日彼女と話したか、彼女に言われたからだろう。
リチアは愉快そうに小さく笑った。
それにしても驚いた・・・。完全に雄だと思い込んでたわ・・。

ガーネットとメノウとご主人――ご主人は人間だが――を後ろに向かせ、私は彼女の体をよく見た。
確かに膨らんでいるところは膨らんでいるし、雄にあるはずの・・・・アレが無かった。
「本当だぁ、雌だぁ。」
こんな雄らしい雌はいるのだろうかと私は密かに関心する。
「あのな・・・言葉だけで充分だろ。態々観察する必要は・・無いんじゃないか?」
リチアは顔を赤らめた。
同性とはいえ、体をじろじろ見回されるのは恥ずかしかったのだろう。
確かに私だってじろじろと見られるのはあまり気分が良くない。
自分が嫌な事を他者にしてしまったと思うと、少々大袈裟だが反省した。

203番道路からようやく出られてコトブキシティを素通りし、204番道路に入った。
ここまで来ると、私たちの住んでいたフタバタウンの出口に広がるシンジ湖の辺のように自然に囲まれた道では無く、人工的に均された道や草むらが広がっている。
木々が少ないから日光は直接当たり風は体にぶつかって行く。
私やガーネット、メノウは自然に囲まれて育ってきたのであまり良い光景には見えなかったけど、リチアは感動して見回しているようだ。
すると突然リチアの腰のところから半透明な何かが覗いた。
赤い頭に黄色い頭、言うまでも無くクォーツとカーネリアだ。
リチアと、続いてご主人はぎょっと目を見開いた。
「ば、莫迦野郎!こんなとこで顔出す奴があるか!!」
周りの人たちに気付かれないよう、なるべく小声で怒鳴った。
こんなところで人間にこの光景が見られたら何されるか分かったもんじゃない。
「いいじゃんかよ。別に今は誰も見てるわけじゃねぇし、お前だけ感動すんのはずりぃぞ。」
クォーツの言葉でリチアは更に目を剥いた。
「貴様等はもう既に久々の外の世界を堪能してきたんだろうが!引っ込んでろ!!」
小さく怒鳴るリチアを見てカーネリアはなるべくコケティッシュに笑った。
「いいじゃないのよぉ、堅いこと言わないでさぁ。」
語尾にハートマークでも付きそうなカーネリアの声音をかき消すようにリチアがまた小さく怒鳴った。
「オレに対してそういう声音は使うもんじゃない!」
「あぁそうだったわね。あんたもこういう事出来んのかしら。気になるわぁ。」
「さぁ、どうだかな・・・・って話を逸らすな!!」
口論を聞いていた私たちは一斉に吹き出した。

ようやく口論も終わり、カーネリアとクォーツは少々不満げに顔を引っ込めた。
するとさらなる問題が発生した。あまりこの辺のことに詳しくないご主人はここに入って早々道が分からなくなってしまったのだ。
人工的に均されたといってもそれは道の入り口だけで、暫く進むと自然に囲まれた入り組んだ道になっていた。
人間が野生のポケモンの住処を壊さないようにしてくれたらしいこの道だが、野生では無い者には少々困る。
まぁ、でもこういう欲があるからこそ、人間は自然を破壊していくのだろう。
多少ながらも鬱陶しく感じた自分を内心で怒鳴った。

ガーネットは空高く飛び上がって道を探し始めた。
「ガーネットぉ、空からでも分かんないか?」
ご主人の問いかけの答えはNOだった。
「木に覆われてて上からじゃわかんねぇ。」
がっくりと項垂れるご主人だったが、そこに一人の男を発見した。
地図も無い、上空からも分からない、・・といったら人に聞くしかないでしょ、やっぱり。
ということでご主人はその人に聞くことにした。
その人はご主人と同じくらいの歳で、黄色い髪の左右の端が逆立っている。
っあ、あいつは!っとガーネットと私は顔を見合わせた。
「あの~、すいません。道に迷ってしま・・・」
ご主人が言い終える前にそいつは振り向いた。
そいつはご主人の幼馴染で、ご主人より数分早く旅に出て、いつもお互いに競い合っていたライバルでもある。
振り向いてきた顔を見てご主人は一歩後ろに下がった。
「お前・・・・ミラン!?」
振り向いたあいつ―――ミランも一歩後ろに下がった。
「パール!?」
この二人が偶然出会うことによって、私たちに戦闘の予感をさせるのだった。


~story33~ ―携わりし三匹― 


目が覚めると、いつもと変わらぬ風景。
広くて開放感だけでも持たせようとしているのだろうが、そんなの何の意味も成さない。野生の頃は自由で気楽だったのに、と内心ため息をついた。
一番最初に目に入ったのは『裏庭』の天井。外のように、青々とした空が広がっている訳でもない。
最近やけに外が恋しくなってきたのは多分、”あいつ”と会いたくなってきたからだろう。”あいつ”が逃げてからもう三年になる。
僕がここで心を許したのはマリンと”あいつ”を含めた数匹。数えられるほどしかいない。
総勢数十匹、いや、もしかしたら数百匹いるかもしれないポケモン達の中の数匹というのはあまりにも少なく、つまり殆ど警戒心は保ったまま生活していることになる。

特にこの「裏庭」の連中には警戒心を隠せない。
相変わらず血の気の多そうな奴が勝手気ままに生活していて「中庭」より雰囲気が悪いからだ。
「おぅ、起きたか、アクア。」
不意に後ろから声を掛けてきたのは一匹のボーマンダ―――ネルピスだった。
ネルピスは飛行も出来て戦闘能力も高いということで重宝されている。更に四年前の融合イーブイの特訓に携わっていたといことからも彼の能力の高さが窺える。
「………お早うございます。」
ぶっきらぼうにそう言うと、ネルピスは苦笑する。
「お早うってなぁ……もう昼だぞ?よくそんなに寝れるな。お前。」
ここにいること自体が楽しくないというのに、早起きなんかする必要がなかった。
あんたみたいに気楽に生きてないんだよ、と言ったらどうなるかと思ったが、やはり怖いので内心毒づくだけに留めておく。

「『裏庭』に所属するようになってからそう時間が経ってないからまだ慣れないんだよな。アクア。」
雄の割には高い口調に振り返ると、突然頭が長い尻尾によって軽く叩かれた。その尻尾を辿りながら視線を向けると、一匹のライチュウの下へと辿り着く。
ライチュウ――エバトイルはふんっ、と鼻を鳴らした。
「まぁ、この俺はすぐにこんな環境は慣れたけどな。大体ここにいる奴もあんまり大したことねぇし。ま、俺には才能があったからこそ―――」
「うるせぇな。そんなに自分を過大評価したいかこのナルシストめ。」
エバトイルの話を聞いてイラッときたらしい。ネルピスは自らの言葉でエバトイルの話をぶった切った。エバトイルは見る間に不快を露にし、顔を顰める。
「はっ、自分たちの強さに自惚れて超古代ポケモンを覚醒させて自爆した元『マグマ団』には言われたくないね。」
エバトイルは皮肉含みの笑みで考えられる最大級の毒を放った。
エバトイルもまた、ネルピスと同じように四年前の特訓に携わっている。
……今考えると、あれは特訓というより限りなく虐待に近かった。しかも融合させた理由が好奇心だったらしい。これほど哀れで不幸な道を歩む者などこの世にはそうそういないだろう。

僕の中で、どうしても腑に落ちないことがあった。
融合させるにも限度があり、その固体になにかを融合させようとするとどうしても作りの近い進化形か退化系に絞られるらしい。今回のあのイーブイだって七匹と融合したとはいえ、全てその進化系だ。
僕が心を許した存在である”あいつ”もイーブイだった。しかも融合させられた七匹よりも先に『銀河団』に所属していたはず。なのに何故”あいつ”は融合素材に選ばれなかったのだろうか…。
『銀河団』――今では『A・G団』となったこの組織は、”あいつ”に何らかの思入れがあったのだろうか。
違う、そんな訳が無い。こんな僕達ポケモンを利用することばかり考えている奴らに限って。

「……大して侵略も出来ずに散った元『ロケット団』には言われたくねぇんだよ。」
ネルピスもまた、考えうる最大の毒を放ったようだった。ミミズが這ってるんじゃないかと錯覚してしまうほどエバトイルの額に血管が浮き出始める。
「ざっけんじゃねぇぇ!」
「やるか糞がぁ!!」
我を失って二匹はほぼ同時に怒声を放ち、「裏庭」全体に響き渡る。
ネルピスはその大きな翼を広げ、エバトイルは頬の電気袋にバチバチと電気を溜め、突撃していった。
エバトイルは凄まじい電撃を電気袋から放出し、一直線にネルピスを捉える。ネルピスがそれを翼で受け止め、一払いすると電撃は火花となって散っていった。
簡単に払われてしまったのがまた癇に障ったのか、エバトイルは今度は体で突進する。
ネルピスはそれを頭で受け止めるが、勢いに乗っていたエバトイルを受け止められるはずも無く弾き飛ばされる。
素早く体制を立て直したネルピスの表情はさっきよりも怒りに満ち溢れていて、並のポケモンならこの圧倒的迫力で潰されてしまうだろう。身体が大きいのもあるかもしれない。
二匹の周りには野次馬達が集まり始めた。
流石『裏庭』だけあって流れ弾に当たるようなドジを踏む者はいないようだ。
二匹のお互いの怒声で最早何を言っているのか分からなくなってきた時。

「はいは~い、そろそろ終わり終わり。野次馬も散った散った。」
いつの間にか僕の背後に立っていたニャルマーが前足を振り、野次馬を退ける。野次馬も渋々散っていった。
エバトイルとネルピスはニャルマーの声でようやく動きを止める。
「いつも喧嘩ばっかしでお疲れだね。」
ニャルマーはばねの様にくるくると巻いてある尻尾を、順番にエバトイルとネルピスの頭の上にポンッと乗せ、クスリと小さく笑う。
このニャルマーもまた、四年前の特訓に携わった者の一匹。その中でもエバトイルとネルピスの喧嘩を止められるのは独特の世界を持ったこのニャルマー――クライスぐらいだ。

まだ呼吸も整わないままネルピスはじろりとクライスを睨んだ。
「お前には関係ないだろ。」
だがクライスはまた笑う。
「何言ってるんだよ。君たちが大暴れしたらここが崩壊しかねないじゃないか。」
「そんなこと知るか。こんくらいで崩壊するもんだったら最初っから建てなきゃいいんだよ。」
ネルピスに負けない形相でクライスを睨みつけたのはエバトイルだ。
二匹の怒りの矛先が何故かクライスへと向いてしまった。あんなに睨みつけられたら、僕なら絶対に潰れる。しかも二匹共だったら絶命する勢いだ。

―――だが

「ふふ・・・やめてよ。そんなにそそる形相で睨まないでよぉ・・。」
クライスは潰れるどころか興奮していた。思わず目を逸らしたくなるほどのマゾが彼なのだ。
ネルピスとエバトイルは怒りも忘れて完全に引いていた。完全に散りきっていなかった野次馬も一匹残らず引いている。
どうやら皆クライスワールドに引き込まれてしまったらしい。
場が嘘のように静まり返った時、クライスの表情がようやく真剣になった。
「そういえばさ、『中庭』に集合が掛かってるよ。」
「何?」
今度は完全に皆が聞き入った。
「何か重要な話でもあるんじゃない?」
団員全員に言うような重要な話は『裏庭』の連中は皆『中庭』へと移動する。(『中庭』はポケモンの数が多いため一気に移動させられないからだ。)
勿論、ポケモンと人間は別れているが・・・。

『中庭』集合・・・・胸が弾み、表情は自然と明るくなる。
またマリンと会えると思うと嬉しくて仕様が無かった。
「クライスって・・・あいつもも元『マグマ団』だっけか。シンオウ出身で唯一の・・・」
喜びに浸る中、ふとそんな声が聞こえた。

エバトイルは元『ロケット団』、ネルピスとクライスは元『マグマ団』。
何故このような者がここにいるのか。
答えは簡単。『A・G団』とは、『銀河団』が『ロケット団』と『マグマ団』の残党と手を組んで結成された組織だからだ。


~story34~  ―小柄な好敵手 トルマリン― 


「しっかし、何でお前ここに居るんだよ。」
ミランは腕を組み、ご主人に視線を向ける。ご主人は返答を躊躇って俯いた。
躊躇った理由はよく分かる。何故なら―――
「・・・・・道に・・・迷った・・・・。」
ご主人がまだ躊躇いがちに呟くと、ミランはむせるほど勢い良く吹き出した。
「はっははははは!!迷った!?マジで!?だっせぇぇーー!!」
ここが屋内なら転げまわっていただろうと思わせるほど激しく笑うミランを前にして、ご主人は背中のリュックの中に手をまわす。
―――そして

凄まじい音と共にミランの無防備な頭に叩きつけられたのは白い画用紙で作ったお手製のハリセンだ。
「痛ってぇぇぇええ!!?」
予想外の攻撃にミランは頭を抱えて痛がった。このご主人の必殺技がどれほど強烈だったかはミランを見ればよく分かる。
「てめぇ・・・どっからそんなもんを。」
「・・・・こんなこともあろうかとリュックに忍ばせておいた。人の素を嘲笑いやがって・・・・」
「だってよぉ、迷っただなんてダサくねぇか?」
ご主人は天高くハリセンを持った方の腕を上げた。
「わーーーーー!分かった分かったごめん!謝るから許せぇ!!」

「・・・で、お前は何をしてたんだ?」
「あぁ、この辺の野生のポケモンを捕まえようとしてたんだけど・・・」
まだ不機嫌そうに言うご主人だが、ミランはもうすでに気にしていない様子だった。
まぁ、それもいつものことだ。ご主人は冷静だがミランの前だと何かと熱くなりやすくなる。
何故なのか分からないが、恐らくご主人なりに気を柔らかくしているのだろうと思う。
ご主人はそんなことは微塵にも思っていないかもしれないが、本当のことは分からないのでとりあえずプラスに考えてみる。
「トルマリンが逃げたポケモンを深追いしてどっか行っちまって探してたんだよ。」
トルマリンというのはミランといつも一緒にいるポケモンで、俺達との仲も深い。
ただ少し自分勝手なところがあり、それがミランを無視して深追いした理由だろう。
「ちょっと待ってろ。すぐに連れてくるから・・・。」
そう言ってミランは草むらの中に消えていった。

ミランが居なくなって一気に静かになった空気の中、現在表に出ているリチアがご主人を見上げた。
「なぁ・・・・あいつ誰だ?」
ご主人はリチアを見下ろした後、今更リチアに説明してなかった事を思い出した様に顔を上げた。
「あいつは俺の幼馴染で、ミランって言うんだ。」
「ふぅ~ん・・・」
リチアは納得した様に見えてまだ信用しきれていない様子だった。無理も無い、つい最近まで人間に利用されてきたのだから。
ご主人さえも信用しているのかどうか怪しいものだ。
「大丈夫大丈夫。ミランは良い奴だからさ、そんなに警戒しなくても良いって。」
ミランの信用を裏付けようとジェオードがリチアに微笑む。
リチアは「あぁ」と頷いたものの、まだどこかで警戒しているだろう。だがそれは仕方の無いことだと諦めた。

それから数分経ってようやくミランが戻ってきた。―――一匹のヨーギラスを連れて。
「よう。久しぶりだな。」
このヨーギラスこそさっきミランが言っていたトルマリン。ミランの膝くらいまでしかない小柄な体型の癖に俺やジェオードと同い年だ。
だがそれはヨーギラスという種族上、仕方の無いことだった。
「それじゃあ、久しぶりに・・・」
「やるか?」
ご主人とミランが向き合って頷き合う。そしてこっちに目を向けた。
この二人が“やる”ことと言ったら・・・やはりポケモンバトルだろう。
好戦的と自覚している俺とジェオードにとっては嬉しいことだ。
「誰がやるか?」
「はーい!私私!!」
ジェオードが超速で前足を上げてアピールするので、俺はそれを押しのけてアピールした。
「いやっ、ここは俺だろ!!」
「ちょっと!あんた何・・って羽根が当たって痛いんだけどぉ!?」
無理矢理押しのけている時に、高速で羽ばたかしている羽がジェオードの背中に叩きつけられていた。―――勿論わざとだ。
「・・・・なぁ、たまには俺にも選ばせろよ。」
そんな俺とジェオードの争いに呆れながら、トルマリンは冷静に言い放つ。
そういえばいつもトルマリンと戦う時には俺とジェオードの争いが必然的に起こっていた気がする。
トルマリンに選択権など与えていなかった。

仕方が無いのでお互い、アピールタイムを終了させるとトルマリンが視線を動かし始めた。
俺、ジェオード・・・・そしてメノウに視線が言ったところで口を開く。
「よし、じゃあメノウで。」
さっきからずっと上の空だったメノウはビクッと反応した。全く話を聞いていなかったらしい。
そういえばさっきから一回も発言していない。
ミランとトルマリンを見て、ようやく今の話題が解ったようだ。
「いや・・・・僕はいいや。何か気分じゃないし・・・。」
そう言って苦笑すると、また空を仰いだ。
メノウが断るのは意外だったがとりあえず今はどうでもいい。
不本意そうだったがトルマリンは食い下がらなかった。また視線を動かし始める。
そして今度はリチアを捉え、暫く見た後首をかしげた。
「あんた誰?」
内心どきっとした。誰と聞かれても本当の事を言う訳にもいかない。
「・・・・こいつは新しい仲間だよ。旅立ってすぐに出会ったんだ。」
余計なことは一切喋らずにご主人は“仲間”で片付けた。間違ってはいないのだが少し特別な仲間だ、ということはミランもトルマリンも知る由も無い。
案外今の説明で納得したらしく、トルマリンは「成程」と頷いた。
「じゃあ、実力の程をしるためにも・・・今日はあんたとバトルだ。」
びしっと指差されたリチアはにやりと笑った。
「いいだろう、オレも少し運動したかったんだ。」
こうなってしまっては口を挟めない。リチアとトルマリンの戦いに決定してしまった。
だがリチアの戦いはまだ見たことが無かったため、これはこれでわくわくする。

俺達はお互いに距離をとり、リチアとトルマリンはそれぞれ前に立った。
二匹が対峙し、構えたのを確認すると、審判役のご主人(何故かいつも審判役を押し付けられる)が腕を勢い良く上げた。
「それじゃあ・・・・戦闘開始!!」


~story35~ ―脅威― 


場は一瞬にして静まり返った。
微かに吹き通る風が落ち葉を踊らせ、まだ落ちていない葉を揺らし、私の体毛も揺らす。
風が吹く音さえも耳に入ってくるほどの静かさで場の緊張感が倍増し、思わずごくりと唾を飲んだ。
ご主人は腕を組んでしっかりと仁王立ちしたまま動かず、ガーネットはご主人の肩に止まっている。
ガーネットの羽音は結構響くため、今羽を動かしてはならないということはちゃんと分かっているようだ。

先に動き出したのはトルマリンだった。
丁度近くに突き出ていた岩を思いっきり殴って砕き、更に転がっていた幾つもの大きな石を、両腕を広げて浮かび上がらせる。
それらを一箇所にまとめ、トルマリンが跳躍しながらそれらをリチアの方向に殴り飛ばすと、無数の岩石となって彼女を捉えた。
これは〝岩雪崩れ″と呼ばれる技で、トルマリンが得意とする技の一つ。放たれた〝岩雪崩れ″は真っ直ぐに斜め上からリチアを襲う

だが四年間もの地獄を見たリチアに、こんな技など埃を舞い上げる程度だった。
〝岩雪崩れ″がリチアに届く前に彼女は下を潜り抜け、トルマリンの後ろへと一瞬にして辿り着く。
そこから容赦無い〝体当たり″がトルマリンの背中に直撃した。
「ぐぅっっ!!」
悲痛の含み声が口から漏れ、トルマリンは打っ飛ばされていく。その先に立っていた大木に腹から直撃して地面に倒れ込んだ。
だが彼も相当鍛えられたポケモン。流石にこれだけではやられなかった。トルマリンはすぐに立ち上がりリチアを睨む。
勝負は気迫で負けたら終わりだ。これはトルマリンが言っていたことだが。
「成程、やはりこの程度では倒れないか・・・・」
トルマリンの鋭い視線に目を合わせ、リチアは余裕のある笑みで返した。

トルマリンはすうっと息を吸い込み、めいっぱい口を開けると、口の前にやや黄色の掛かった白い光が収束し始めた。
収束し終わるのに対して時間が掛からず、その光の玉は光の線となってリチアに放たれる。
さらにその線は放たれたと同時に太さを増していき、リチアに近づいた頃にはかなりのものとなっていた。
一方、リチアもいつの間にか口を開け、黒く光る玉を作っていた。トルマリンの〝破壊光線″が目前に迫っているにも係わらず、極めて冷静に、そして凄い速度で収束されていく。
彼女の顔程の大きさになるまで収束され、放たれた。
放たれた黒光球は八方向に拡散する漆黒の波動に変化し、トルマリンが放った〝破壊光線″をかき消した。
〝破壊光線″をかき消してなお勢いの変わらない波動は周囲全ての物を吹き飛ばす。勿論トルマリンも。

吹き飛ばされて地面に叩きつけられたトルマリンは負けまいと必死に立ち上がったが、どうやら限界のようでその場に力なく座り込み、開いた口が塞がらないまま目を丸くしていた。
「・・・・マジかよ・・?」
あっけに取られるのも良く解る。こっちから見ても凄まじい光景だった。
本来〝破壊光線″は途轍もなく強力な技で、その名の通り全ての物を破壊する。その威力は撃った本体でさえ反動で暫く動くのもままならなく程のものだ。
一方リチアが放った〝悪の波動″はといえば、それ程特徴の無い技。そこそこ威力はあるが〝破壊光線″には遠く及ばないはずだった。
―――だが今のは・・・

ぜいぜいと息絶え絶えのトルマリンに対し、リチアは平然としていた。
何て凄い者達なのだろう。コーラルとカーネリアはジェードを圧倒的に下し、クォーツは先日のエネコロロを一瞬で倒し、リチアはトルマリンを圧倒した。

脱走し、仲間となってくれたからこそ頼もしいのであって、もし邪心が芽生えて悪に貢献していたらと思うと、何だか怖く感じる程だった。


コメント等、大歓迎です




トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.