ポケモン小説wiki
Galaxy (story21~25)

/Galaxy (story21~25)

Galaxy (story21~25) 


著者 パウス


~story21~ ―エネコロロの謎― 


「・・・僕の負けだ」
ヒョウタは俺に握手を求めてきたので、応じて一礼した。

そしてヒョウタから、ジムリーダーに勝った証のバッチを受け取った。
観客やトレーナーたちからの盛大な拍手を受けたが、それよりもジェオードのことが心配だ。
まとわり付くような拍手の音を振り払いながら急いでジムを後にした。

ジムから出てポケモンの病院のような施設――ポケモンセンターに向かう途中、突然メノウが叫びだす。
「ご主人!あれ!!」
メノウの前足の指した先には、大きな耳をしたエネコロロを連れた一人の男性がこっちを見て立っている。
青い短髪で、目の色も青く、なにやら冷静な表情でこっちを見ている。
「あの人がどうしたんだ?」
「・・・気づかないの?あいつの服・・・よく見てよ。」
いつの間にかアメシストはカーネリアに変わっていて、コーラルは体から抜けた魂の状態になっている。
あいつの・・・・服?
目を凝らしてよく見てみると服の胸のあたりに「A」と書いてある。
俺は何のマークだか分からなかったが、メノウが重々しく口を開いた。
「僕、カーネリアから聞いたんだけど・・・あの「A」って・・・「アンドロメダ銀河団」のマークなんだって・・・。」

「・・・なんだって?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。
「アンドロメダ銀河団」・・・呼びにくいから「A・G団」と呼ぼうか・・。
あの恐ろしく強かったジェードの言葉が頭をよぎる。
『「アンドロメダ銀河団」だよ俺らは。本当、ネーミングセンスねぇよな。』

ジェードの属する「A・G団」
あいつをコーラルたちが負かしたことは奴らもとうに知っているはず・・・。
ということはもっと強い奴をよこしてきたに違いない。

「そのサンダースとシャワーズ・・・。お前が・・・そうか・・・。」
じりじりとこっちに歩み寄ってくる姿に恐怖すら覚えた。
「あぁもう!勝負すんならさっさとそっちのポケモン出しなよ!
 私が即効で倒してあげるからさぁ!」
カーネリアが俺と男の間に割って入り、戦闘態勢をとった。
エネコロロを睨みつけ、今にも襲い掛かりそうだ。
威嚇としては充分だと思うがエネコロロは平然としている。
「・・・そうか、ならば・・・いけ。」
「はい。」
さっきから男の横にいたエネコロロがカーネリアと対峙する。
声を聞く限りでは恐らく雄だろう。

「待て、ここじゃあ人目が気になる。
 あそこの206番道路の草むらのところで・・。」
「・・・・いいだろう。」
男は腕を組んだままゆっくり頷いた。
その姿に余裕すら思わせられ、場所替えに応じてくれたのはいいのだがあまりいい気分にはなれない・・・。

こうして俺たちは仕切り直した。
ここならあまり人目につかない。
またカーネリアとエネコロロは距離をとって向き合う。
「さぁ~て、戦(や)ろうかしら?」
その言葉を発した瞬間、カーネリアはすごいスピードでエネコロロに向かっていく。
そしてそのまま〝体当たり”した。
エネコロロは数メートル後ろに吹き飛ばされ、受身すらも取れなかった。

「あらぁ?やる気無いんじゃない?これじゃ勝負にならないわよ?」
カーネリアは男に向かってにやりと笑いながら言う。
だが男は立ちすくしたまま焦りの色の一つも浮かべない。
エネコロロはゆらりと立ち上がった。・・・だがカーネリアはその後ろに回り込んで後足で思いっきり蹴飛ばした。
吹っ飛んで地面を転がり、しばらく倒れていたがエネコロロはまたもや立ち上がった。
口から垂れている少量の血を片前足で拭い取ると、カーネリアに向かって走り出す。
そのスピードはカーネリアには遠く及ばない速さだった。それどころかメノウたちよりも遅い。
こんな奴で何故に勝負など挑んできたのだろうか?
「しつこいね、これで終わらせ・・・」
カーネリアは体制を低くして構える。今度こそとどめになるはずだったが、その動きが突然止まった。
その隙にエネコロロの〝体当たり″が直撃する。
カーネリアは後ろに飛ばされたが、ちゃんと受身をとっていた。

それからカーネリアはエネコロロをじっと見たまま動かない。・・・一体何があったんだ?
男とエネコロロは小さな笑みをこぼしていた。


~story22~ ―三匹目の融合体― 


「ぐっ・・・・」
エネコロロの〝体当たり″がまたカーネリアに直撃した。
徐々に蓄積するダメージでカーネリアは受身をとることも難しくなっていた。
「何でカーネリアは反撃しないんだよ!?」
ご主人に答えを求めた。だがご主人は何も答えない。
「雄の・・エネコロロ・・・・・・・・カーネリアは・・・・雌・・・。」
何かさっきからぶつぶつ言ってるし・・・、このままじゃ本当にやばいぞ。

「ぐはっ・・・!」
また〝体当たり″が直撃する。ダメージがどんどん効いてきたのか受身をとれていない。
体からはとうとう血まで滲み始めた。
「そうか・・・。」
はっとご主人は頭を上げる。続けてコーラルも口を開いた。
「今、カーネリアは『メロメロ』の状態になってるわね・・・・きっと。」
「『メロメロ』状態?どうやって?」
メノウが首を捻った。つられて俺も首を捻る。
メロメロ状態というのは文字通り相手に虜になり、見とれてしまって身動きがままならなく状態だ。
「エネコロロは戦闘の時だけ、体に触れた異性のポケモンを『メロメロ』状態にする〝メロメロボディ″と呼ばれる体を持っているんだ。」
「そう・・・それにあなたたちは同性だから感じないでしょうけど、さっきからエネコロロから変なオーラみたいなものを感じるの。
 多分エネコロロはこの辺一帯に〝メロメロ″っていう技を放ってるんでしょうね。
 私は彼から遠い位置にいるからいいけど、近くにいるカーネリアは・・・。」
「・・・・まんまと引っかかったってわけだ。
 おかしいと思ってたんだよ。あんなひ弱そうなエネコロロを連れてくるなんてな・・・。
 俺たちを倒すことが目的じゃないな。コーラルたちの魂とアメシストの体を奪うつもりだろう。」
次々とご主人たちは話すのでよく分からなかったが、とにかくやばいという事なのか。

でもそれが分かったからって今のこの状況を変えることなど出来やしない。
「じゃあ俺がカーネリアと交代するよ、ご主人。」
だがご主人は首を縦には振らなかった。
「・・・見ろ。」
ご主人が指差した先にはカーネリア・・・・体が光っていた。
この光はアメシストがカーネリアやコーラルに変わる時発せられる光と同じものだとすぐに分かった。
コーラルは体から抜けた状態で俺の横にいるし戦闘能力の低いアメシストに変わるなんてことはしないはず・・・。
ということは・・・・。

光が徐々に弱まっていき、カーネリアの黄色い体は赤く変化している。
さっきまでそこにエネコロロを見つめて立っていたカーネリアの姿は無くなり、そのかわりメノウと同じ種族――ブースターが立っていた。
魂は幾つかあってももともとはアメシストの体に集まって融合させられたので、体は一つだ。
だからカーネリアについていた傷はそのまま同じ場所にブースターの体にも現れていた。
でもあまり苦にはしていない様子。・・・つまりあれだけ攻撃をくらってもダメージはあまり受けていない。

「何だお前は?・・・報告ではサンダースとシャワーズしか目覚めてないはず。・・・やはり変な刺激をあたえないほうがよかったようだな・・・。」
男はため息をついた。
「でも君にこれが耐えられるかい?」
エネコロロは片方の前足を前に突き出す。
そこから淡いピンク色のような色をした怪しげな光を放った。
ブースターはその光をもろに浴びたが、何の変化も無い。
「まったくよぉ・・・カーネリアの奴、俺が代わるっつったのに無理しやがって。
 さっさと代わればこんなに傷が付くことも無かったのによ。」

へ・・・俺?
今・・・・・俺って言った?

「なぜ・・・僕の〝メロメロ″が効かない?」
エネコロロは何度もその怪しげな光を発するが、やはり何の変化も無い。
「『なぜ』だと?〝メロメロ″が効かないっつったら理由は一つだろ?」
「ま・・・まさか?」
エネコロロは動揺を隠しきれない。
さっきまでの平然とした顔は焦りに満ちていた。

ブースターは前足で自分を指し、動揺するエネコロロにとどめの一言を口にした。
「俺は雄なんだよ。」


~stor23~ ―アクアの優しさ― 


「ねぇ、あなたを連れないでシェルはどこに行ったのかな?」
マリンは不思議に思う反面、かなり嬉しそうな顔をしている。
もちろん、僕だって嬉しい。
少しでも長く一緒にいられたし。
でも僕じゃなくてあのエネコロロを連れて出て行ったのは確かにおかしかった。
「さぁ?ご主人様は何考えてるかよくわかんないし。でもエネコロロを連れて行ったからにはやっぱり例のイーブイを・・・ん?」
今、僕がいる「中庭」の入り口が鈍い音をたててゆっくりと開いた。
偶然その近くにいた僕と彼女はそこに駆け寄る。

まず入ってきた・・・・いや、投げ飛ばされてきたのはご主人様に連れて行かれたエネコロロだった。
全身に傷が付いていて、ぐったりと地面に倒れてたまま動かない。死んではいないものの、瀕死の状態だった。
次に顔を覗かせたのはご主人様だった。
「・・・・・やはり所詮は下級団員が使う「中庭」のポケモンか・・・アクア、行くぞ。」
「え?あ、はい。」
ご主人は「中庭」を出た。
それにしても・・・酷い、ご主人様にはポケモンに対する愛情とかないのか?
マリンは倒れているエネコロロを見て震えている。
無理も無い、戦闘能力の低い彼女は実戦を殆どやったことが無い。
それにこんなに酷く扱われるところどころか血さえもあまり見た事ないのだ。

エネコロロの周りにたくさん他のポケモンたちが集まってきた。
「・・・ひどいな・・。」
「は、早く傷の手当てをしなきゃ。」
「でも薬も何にもないぞ!?」
何かしてやりたいのは山々だろうが何も出来ないようだった。
仕方が無いので僕は懐から一個のオレンの実を取り出す。・・・ご主人様が持たせてくれたものだ。
オレンの実は食べるだけで体の傷を癒す。いわば自然界の治療薬だ。
僕が野次馬を退けてエネコロロに近寄ると、それだけで周りは静まる。
「中庭」のポケモンと幹部クラスの人間が使う「裏庭」のポケモンとじゃあ一応上下関係が成り立っているかららしい。

「大丈夫かい?これを食べなよ。」
エネコロロは薄っすらと目を開けた。
そして今にも消え入りそうな声で必死に口を動かす。
「あ・・・ありが・・とうござい・・・ます。」
「・・・喋らない方がいい、・・・ほら。」
僕はエネコロロの口の中に小さく砕いたオレンの実を入れてあげた。

「おい、アクア。・・・さっさと来い!」
入り口の外からご主人様の声が聞こえた。僕は思わず体をぴくりと動かした。
「あ~~はい、今行きまーす。皆、後は彼をどこかの個室で寝かせておいてあげれば明日には元気になるよ。
 じゃあ!」
僕は「中庭」を後にした。

「何してたんだ?」
「いや、マリンと別れのあいさつしてたんですよ。」
ご主人は目線を動かし、不気味に笑って言った。
「・・・・オレンの実を使ってか?」
「え?・・・いや・・・・あの・・」
予想してなかった返答に思わず動揺してしまった。
勝手に「中庭」のポケモンに使っちゃったからなぁ・・・・怒られるだろう・・・。
「・・まぁいい。今回は許そう。」
この言葉に僕はホッと胸をなで下ろした。

僕とご主人様が入ったのは「裏庭」。
幹部クラスの人間が使うポケモンたちがいる。
内装は「中庭」と殆ど変わりは無い。
「・・・・あいつは・・・また個室の中か?」
ご主人様は入り口から5番目に近い右側にある個室に目を向けた。

「ちょ・・・やめてくだ・・・・・うひゃあああぁああぁあぁああ!?」
中から悲鳴にも似た雄ポケモンの声が聞こえた。
渋面を浮かべながらご主人様はその部屋の扉を開ける。
中は思わず顔を赤らめて目を覆ってしまうような光景だった
気を失っている雄のドンメルと、彼の股間にある雄特有のモノを握って座り込んでいる綺麗な顔と白い毛並みの雌のペルシアン。
彼女らの乗っている薄っすら青い布団には白い粘り気のある液体が飛び散っており、彼女の胸にも同じものが付いていた。
ここから予想されるこれまで彼女がやっていた行為は一つ・・・。
「あら、覗き見なんて失礼しちゃうわぁ。」
彼女はこっちを向いて笑った。


~story24~ ―異常妖女、ベリル― 


「すいません・・まさかシェル様だとは思わなくて・・。」
さっき僕たちがこの部屋に入った時とペルシアン―――ベリルの態度は一変した。
でもさっきのが彼女の本性・・・。もうすでに皆知っている。
「また連れ込んだのか・・・。ほどほどにしておけと言ったはずだ。」
「いいえ、私結構我慢したほうだと思っています。だいたい・・・一週間くらいです。」
ご主人様は額に手を当てて首を振りながらため息をついた。

ベリルはA・G団・・・いや、銀河団の最初の実験体となったポケモン。
なんでも潜在能力を引き出す実験だったとか。
しかし実験は失敗に終わり、その結果彼女にある副作用的なものが出てしまった。
その副作用とは・・・・・・そう、彼女のこの性格。
つまり異常性欲だ。
なんと彼女は意識が戻ったとたん、目の前にいた一人の研究員を襲ったというくらいだ。

「アクア、このドンメルを戻して来い。俺はこいつに話がある。」
「・・・・・はい。」
僕は渋々気を失ってるドンメルに近づくと、そこに彼女が立ちふさがった。
「嫌ですよ。まだ私は満足してないんです。」
そう言うと不気味な笑みを浮かべ、ドンメルの頬を一舐めした。

「そういうお前だからこそ話す内容なんだ。」
その言葉に過敏に反応した彼女は早々とご主人様に駆け寄る。
本当に変態だな・・・、正直あまり好きじゃない。
ふん、マリンとは大違いだ・・・。

ドンメルを背負って「中庭」へと向かう。
中に入ったとたん、皆の視線が僕に集まった。
いや、性格には僕の背中で気を失っているドンメルに・・。
「おい、どうしたんだドンメル!」
皆の視線が少しずつに僕へと降りてきた。
僕に視線が集まりきったところでそれの意味に気付いた。

―――誤解されてる・・・?

「い、いやいやいや、僕じゃないから!断じて僕がやったわけじゃないからね!?本当だよ!?」
「分かってますって、誰もあなたのことは疑ってませんよ。
 どうせベリル様でしょう?」
皆一斉に笑い出す。
だが僕は笑えるような心境ではなかった。あぁ、僕は信頼されていてよかった。
危うくベリル以上の変態扱いされるとこだった・・・。
マリンがいるのにそんなことするわけないじゃないか。
いや、例えマリンがいなかったとしてもそんなことしないけど・・・。

もう一度さっきのベリルのところに着いた時には、話は終わっていた。
「あはは、もちろんやらせてもらいますよ?」
「・・・・あぁ、ほどほどにな・・・。」
ご主人様はさっきまで話していた話の内容についてあまり乗り気でない様子。
その話の内容は分からないが、何か不吉な予感がした。
その部屋にはベリルの笑い声しか響かなかった。

「裏庭」から出ると、ご主人様は真剣な表情になる。
「・・・それとあいつを見つけなければな・・・・・。
 あの全地方を支配しかねない能力を持ったあいつを・・・。」
あいつか・・・・あいつがここを脱走してからもう二年、いや三年くらいか?
僕の一番の・・・・親友。

「どうだ?ベリルは・・・承諾したか?」
僕らがちょうど階段を上ろうとした時、上から音程の低い声男性の声が上から降ってきた。
階段を下ってきたのは40~50代くらいの堂々とした態度の男性だった。
「はい、頭領」
ご主人の言葉に一瞬驚いた
この人が頭領・・・・。
A・G団を束ねる者・・・・、世界征服という巨大で、凶悪な野望を抱く第一人者・・。
「だがやはりあいつも連れ戻さねばな・・。・・逃げられると思ったら大間違いだ・・。」
その野望を抱いた第一人者はにやりと笑った。

その笑みは・・・まさに悪の統率者にふさわしい悪魔のような笑みだった・・・。


~story25~ ―沸き立つ心― 


僕はすでに気付いている。
奴らが何者なのか、その目的は何なのか。
僕はすでに知っている。
自分が・・・何者なのか。
僕はあまりにも罪深い・・・それは償うことが出来るのだろうか。


203番道路のほぼど真ん中。
僕らのテントは笑い声に包まれていた。
「まったく、ご主人。わざわざ逆戻りするなんて・・。」
ジェオードは自分に巻きついている包帯を見ながら立腹しているようだ。
「悪かったって。まさか206番道路を通るのに自転車が必要だったなんて知らなかったんだよ。」
そう、あのエネコロロを倒した後、ジェオードを治療し、次の町へと移動するべく206番道路に向かった。
でもそこは自転車でしか通行出来ない、「サイクリングロード」のようなところだったので、自転車を持っていない僕たちはさんざん悩んだあげく、またコトブキシティに戻って204番道路から遠回りしていくことにした。
そして途中の203番道路で日が暮れてしまい、今に至る。  

「まぁいいじゃないの、こうやって三匹目のポケモンの目を覚ましてくれたんだし。」
ガーネットがジェオードをなだめる。
「おぅ、よろしくな皆!!」
アメシストに融合させられた七匹のうちの一匹のブースター―――クォーツは笑った。
口はちょっと悪いけど、結構おもしろいポケモンだ。
でもなぜかいつもより盛り上がらない気がする。
そう思う理由は一つ、ムードメーカーのカーネリアがいないからだとすぐに気付いた。

目立たないようにアメシストたちが外に出るときはなるべく体に入ってもらっている
だからコーラルとクォーツとアメシストは魂でここにいるのにカーネリアがいないってことは体に入って外に出ているに違いない。
「ちょっとカーネリア呼んでくるよ。」
「気をつけて下さいね、外は暗いですから。」
アメシストが少し心配そうな顔をして僕を見た。
その隣ではあの人間嫌いのオニキスが静かに空中に浮かんでいた。
「大丈夫だって、じゃ。」
アメシストは心優しいな・・・。

外は寒くもなく暑くもない。
ただ涼しい風に草が擦れる音しかしない静かな暗闇が広がっていた。
草の擦れる音はとても心地よく聞こえて・・・心が洗われるような、そんな夜だった。
しばらく探していてテントから数十メートル離れたところに、人間が余裕で三人くらい隠れられるくらいの大きな岩がその存在を見せていた。
周りには暗闇に支配された短い草が踊るように動いていた。
その岩の陰に黄色い体がちらりと見えた。間違いない、彼女だ。
僕はそっと彼女に近寄り、肩に前足を乗せた。
「ひわぁあ!?」
体をピクンとはねらせて彼女は驚きの叫びをあげた。
その驚きようが可笑しくて・・・・思わず吹いてしまった。
「ぷっ、あはははは!僕だよ、メノウだよ!!」
「何よ・・・・・・驚かさないでよ。」
彼女は顔を真っ赤にして僕を見た。
でもすぐに前を向くと、夜空を見上げて悲しそうな顔をする。
「どうしたの?」
「ん?いや・・・今日の戦いを振り返るとね、情けない戦い方だったなぁ・・・って思ってたのよ。」
さっきのエネコロロとの戦いのことか。
相当落ち込んでるんだな・・・・。

草の音が何も言えない僕をあざ笑うかのように大きな音をたてて揺れた。
「い、いや、仕方ないよ。実力ではカーネリアの方が全然上だったんだしさ。
 今度から気をつければいいって、・・・・ね?」
焦り半分で言ったからか随分と早口になってしまった気がする。
それでも彼女は笑ってくれた。
「ありがとう・・・・・・・やさしいね、メノウは。」
何だかいつもと様子が違う気がした。
顔も声も今までに無い色っぽさを含んでいる気がする。

「ねぇメノウ、せっかく雄と雌が一匹ずついるんだしさ、する事といったら・・・一つよね?」
「・・・・・・・え?」
突然の一言に思わず目を丸くした。
「する事・・・・・って、何・・」
「もう、本当は分かってるんじゃないの?」
彼女は僕の股間の辺りを前足で指した。
そこには反応して少し大きくなった僕の雄特有のモノがあった。
「わぁぁ!?違うよ、これは・・・」
「今更言い訳なんてしても遅いわよその反応・・・・OKってことかしら?」
おかしい、いつものカーネリアじゃない。
積極的なのは変わらないけど・・・・積極的すぎる。

なぜ様子が変なのかはすぐに分かった。
「で、でもそういうのは遊びでやるものじゃないんじゃあ・・・。」
「遊び・・?いいえ遊びじゃないわ。
 確かに子供を作るつもりじゃないけど立派な愛情表現じゃない?」
え・・・?それって・・・。
「私、メノウと始めて会った時から何かの感情が沸いていたことに気付いたの。
 それは何なんだろうって思ってたけど・・・さっきあなたに慰めてもらった時に分かったの。
 それは・・・恋だったんだって・・・。」
突然の告白に僕の頭は混乱した。彼女は何を言っているのだろう。
矛盾しているが、理解出来ているのに理解できなかった。
「あなたは私の事・・どう思ってる?」

初めてカーネリアと会ったのはバトルの真っ最中だった。
その時から彼女の事は「強いポケモン」としか見ていなかった気がする。
でも今、目の前にいるのは「一匹の雌」としての彼女だ。
少なくとも僕の目にはそう映っている。
たしかに今、僕の中に何かの感情が沸いてきているのがわかる。
でも、それがはたして「恋」なのかどうかはまだ分からない。
返答が・・・・出来ない。

どう答えていいか分からず悩む僕を見かねてか彼女は質問を変えてきた。
「じゃあさ、好きか嫌いかじゃなくて・・・・・したいかしたくないか答えてよ。」
雄としての本能がくすぐられる一言だった。
「そりゃあしたくないと言えば嘘になるけど・・・・・あっ!!」
頭に浮かんだことがそのまま口に出てしまった。
慌てて口を塞いだけどもうすでに遅い。
カーネリアはくすっと笑った。
「やっぱり本能には逆らえないのね。じゃあ・・・しようか。」
彼女の無邪気な笑みは、いつの間にか雄を魅了する艶やかな笑みに変わっていった。



トップページ   編集 凍結 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.