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A特化ダイマエース型ルカリオは伝説幻無制限環境でもっと肩身が狭い

/A特化ダイマエース型ルカリオは伝説幻無制限環境でもっと肩身が狭い
本作は♂同士の恋愛・性的描写、並びに多大な解釈違いを含みます。お楽しみください。

 前作【ようき最速ASルカリオは禁伝環境で肩身が狭い
 



 ダイジェットでは追いつけない「世界」がある!!
 先発はミュウだった。後続のサポートと敵の妨害に特化した先発要員。このミュウがどこまで役割を遂行できるかに、我々の勝利がかかっていた。
 幻のポケモンや伝説のポケモンまで、あらゆるポケモンが無制限に参加できる特別レギュレーション。当然、バトル環境は激変した。しかしそのような激動の流れにも食らいつく優秀なポケモンたちはいる。ミュウは、そのようなポケモンの相手をこそ得意とした。
 相手が先発として繰り出してきたカバルドンなどは、その筆頭である。敵の手持ちにカバルドンが見えた瞬間から、おれたちのトレーナーはこの対面をほぼ確信していた。
 ――「ふういん」。
 迷うことなくミュウに飛んだ指示。現在の環境、カバルドンは間違いなく先発で起点を作りにくる。ミュウを見ての先発カバルドン。おそらく警戒も対策していない相手だった。初手の行動は「ステルスロック」と思われた。こちらのパーティを見ても「ステルスロック」は設置しておきたいはず。次点で、ミュウの動きを抑制する「あくび」。ほとんど考えられないのが後続との交代、あるいは「じしん」での攻撃。ミュウは幻のポケモンながら、単純な火力においてはカバルドンを脅かすほどではない。生半可な攻撃を耐えきる耐久力でこそ、カバルドンはこのレギュレーションでも最前線で戦い続けている。ここは強引な場作りを狙うはず。
 結果、ミュウの「ふういん」によってカバルドンの「ステルスロック」は不発に終わった。ミュウは「ステルスロック」と「でんじは」を覚えていた。こちらは起点作りをしながら、相手の起点作りを妨害する。場合によっては、起点作りにとどまらず後続にまで負荷をかけられる。じめんタイプが相手では「でんじは」が通じないため、場作りはステルスロックだけで終わるところだが、今回の相手はカバルドン。これを利用しない手はない。
 互いの行動が終了し、カバルドンの巻き起こした砂嵐によってミュウの体力が削られる。ミュウのもちものは「きあいのタスキ」。行動保証は失われたが、むしろ好都合。今回の敵の場合、ミュウはむしろ早期退場が望ましい。
 ――「へんしん」。
 二手、ミュウがカバルドンの姿かたち、能力、覚えている技をコピーした。これによって、ミュウが放った「ふういん」はカバルドンの技すべてに及んだ。「ステルスロック」が不発したカバルドンは、続く「あくび」も封じられ、残る「じしん」と「ふきとばし」も同様だ。カバルドンは完全に機能停止だった。
 敵は慌ててポケモンを交代した。繰り出されたのは、カイオーガ。もちろんそうするだろう。カバルドンに「へんしん」したミュウへのタイプ相性はもちろん、「しおふき」が後続へも一貫している。我々のパーティはそのように組まれていた。パーティ単位による()()()()
 ホウエンからやってきた伝説のポケモン、カイオーガ。現環境、パーティ採用率第2位。ポケモントレーナーは、誰もがこのポケモンのことを見ているのだ。考えているのだ。対策しているのだ。
 カイオーガの特性「あめふらし」によって天候が書き換わる。次のミュウへの指示も「あくび」であった。交代際のカイオーガがこれを受け、互いに三回目の行動を終える。以降、ミュウは「あくび」を撃ち続けるだけでいい。
 ここはカイオーガの行動が先手を取る。もちものが「こだわりスカーフ」で確定した。雨天候下で威力の上がった「しおふき」がミュウに襲いかかった。砂嵐のダメージを一度受けたミュウは弱点でこれを受け、一撃で(たお)された。
 圧倒的なカイオーガの攻撃に、スタジアムが湧いた。しかしここまですべてが狙い通りだった。完璧に役割を果たしたミュウは、笑みを見せながらモンスターボールに戻された。あとは任せた。
「ゆけっ! ルカリオ!」
 そして今、おれの出番である。
 トレーナーがモンスターボールを投げ、おれが繰り出される。ミュウを倒したカイオーガは「あくび」に誘われた眠気でぐうぐう眠り始める。
「こうそくいどう!」
 トレーナーの指示。敵は交代を選択。ルカリオといえば豊富な自己強化技。眠っているカイオーガを起点にされまいと繰り出されたのは、イベルタルだった。
 イベルタル。カロス地方の伝説のポケモン。採用率第3位。このバトルでイベルタルが選出されるかどうかは微妙なところだったが、ますます好都合だ。カイオーガに居座られた場合のほうがよほど厄介だっただろう。敵の選出は割れた。目の前のイベルタルをおれが落としてしまえば、このバトル、もらったも同然!
「こうそくいどう」――スピードを大きく上昇させる変化技。ダイジェット使いたちの速さを上回るための訓練を積んだおれに、もはやイベルタルは追いつけない。
「いくぞぉ、ルカリオ!」
 ――ダイマックス。
 トレーナーがモンスターボールにおれを戻した。ダイマックスバンドが輝き、巨大化したモンスターボールをスローインのポーズで放り投げる。
 敵も同時にダイマックスを切った。「こうそくいどう」でスピードの上がったおれを放置できないと判断したらしい。ここでがっぷり四つの戦いとなった。
 勝負だ。
 ダイジェットでは追いつけない「世界」がある!!
「ダイナックル!」
 このバトルを勝つためには、スピードが上がっただけでは足りない。イベルタルを倒すのはもちろん、後続のカバルドンかカイオーガ、少なくともどちらか一匹を倒し切るための攻撃力が要る。「ダイスチル」よりも威力は劣るものの、「ダイナックル」のパワーアップは必須だった。
 勝負だ、イベルタル!
 拳のかたちに凝固させた波導をぶちかます。が、手応えは浅い。なんの補正もなく、威力も低い「ダイナックル」である。それほど防御の訓練をしていなくとも、伝説のポケモンの耐久力なら余裕で耐えられる。重要なのはここからだ。
 敵の技は……「ダイバーン」だ。なるほど、カイオーガの起こした雨によってほのおタイプの技の威力は半減している。しかしルカリオ程度の攻撃力ならば、「ダイナックル」のパワーアップを含めても二発を耐え、二度目の晴れ天候下ダイバーンで切り返せると踏んだのだろう。
 計算通りだ!
()()()()()()()()」。
「いけえー!」
 ひこうタイプへの「ステルスロック」と「ダイナックル」。攻撃力が大幅に上昇した今、「ダイスチル」を使うまでもない。二度目の「ダイナックル」で、イベルタルを――突破!
 スタジアムは割れんばかりの大歓声だ。ミュウの起点作りに、まず警戒されないルカリオの「じゃくてんほけん」。これだけのパワーアップがあれば、残るカバルドンとカイオーガではどうしようもない。
 続いて、ダイマックス枯らしに出てきたカバルドンを「ダイスチル」で突破(防御に特化していても問題なく倒せる)。ここでダイマックスパワーを使い果たすが、残るは眠ったままのカイオーガだけ。仮にカイオーガが目を覚ましていても、「こだわりスカーフ」を持っていても、上から「インファイト」で一撃だ!
 ――()()()!!
 カイオーガが力尽きると同時、おれはトレーナーと共に勝利を咆哮した。




 念のために申し添えておくならば、おれの3タテなどというのは所詮、運次第でしかないということである。
 例えばカバルドン。現環境でも一定数は存在するとはいえ、強力な起点作り役といったら他にグラードンやザマゼンタがいる。運よく敵のカバルドンの「あくび」をミュウが利用できたから、おれが「こうそくいどう」を使うだけの隙をもらえた。そうでないなら、伝説のポケモンを前にルカリオが変化技などという悠長をやっていられるはずがない。また、「じゃくてんほけん」が発動できるかどうかも相手の行動に依存する(おれの弱点タイプは比較的メジャーな部類ではあるが)。安定した活躍などとうてい見込めない。
 それくらいの自覚があるんだ、おれには。
 エンジンシティからほど近いキバ湖のほとりにテントが設置されている。トレーナーはそこで夕飯のカレー作りだ。仲間たちがそれを手伝っている。
 おれはキバ湖で水浴びをさせてもらっていた。別段きれい好きだとも思わないが、バトルの汚れをそのままにして寝るのが気持ちよくない。おれも夕飯の支度をひと通り手伝うはずのところを、今日はいつもより遅くまでバトルしていたので、手伝いは仲間に任せて水浴びしている。
 毛並みだけでなく、地肌に指を立てるようにマッサージしながら洗い流す。満足するところで水からあがり、全身を震わせて雫を飛ばしていると、いっしょに水浴びにきていた仲間が水中から顔を出した。
 ヤツがそうするのを初めて見たとき、おれは訳もわからずに、ただ混乱してしまったのをよく覚えている。まばたきの仕方を忘れたのでなければ、あるいはまぶたが切り取られたのだと思った。瞳に押しこまれるヤツの上半身は、砂浜に乗りあげた……そう、ぬらぬらとした、冬のミロカロスのようだった。湖から這いあがったヤツの、水にひたした両の翼……それに沿って落下する色のないしずく糸……羽ばたくためにひときわ発達した左右の胸筋、そのあいだを滑り落ちる水の流れ……
「あーっ、冷たくて気持ちええわあ! 今がいちばんええ季節やでなあ」
 ホウオウ。
 七色に輝く翼を震わせ、月明かりを受けてきらきらする水の粒を振りまくその姿を見て、おれは思わず凝視してしまったのだ。陸にあがったホウオウは翼をたたみ、おれの視線に気づくと、小首を傾げてこう言った。
 ――どうしたん?
 素朴なその言葉に、おれは我に返った。目に見えない透明なバチュルが急に羞恥を産卵し、すぐさま孵化して、幼虫が顔の内側で踊った。
 おれはこんなふうに曖昧に謝罪を言った。
 ――ご、ごめん! ちょっと、ちょっと、ビックリして……
 ――なんや、なんで謝るん? 変なやっちゃな。
 おれの態度がうまく飲みこめていないのか、無垢なリオルのように、くすくすと笑ったのだった。
 どうしてって……
 あのとき、おれは言いよどむしかなかった。それはかなり説明のしがたい、またしたくもない感傷だった。見た側が、見られた側に罪悪感を白状するなんて、まるで拷問じゃないか。望んで視姦したわけでもないのに、なぜ罪の釘を刺しこまれなければならないのだろう……ホウオウの肢体を美しいと思ってしまったからなのか……拝観に金を取るなまぐさい教会の御神像をこっそりと覗きこんだら、こんな戒めを感じるに違いない。
「あんた、本当に水浴びが好きだよな」おれは呼びかけながら、今も首を横に向けてしまっている。「ほのおタイプなのに変わってる」
「熱々の体やから、冷たいのが気持ちええんやで」
「そういうもんかな」
 羞恥心がすこしでもあれば、その肢体を美しいと感じている者の熱っぽい視線など、いやな顔のひとつでもするものだ。それとも、案外この態度が視姦に対する復讐なんだろうか?
 人間たちが神聖視するほどには、伝説のポケモンは高尚な精神性など持たない。仲間の絆が生まれれば、そこにいるのは一匹のポケモン。はるか東のジョウト地方からやってきたというホウオウは、ポケモンなのに話し方に独特の訛りがあった。人間でなくとも、その地に生まれれば方言でものを考え、話すようになるのだ。言葉もそうだし、そもそもホウオウというヤツは最初からこんなふうだったから、伝説という肩書きはおろか、その姿の美しさのことなんて、一度も意識の表層に立ちのぼってはこなかった。初めていっしょにバトルを戦った日に、二匹で水浴びをしにくるまでは。
 好奇心に駆られて、ちらりと横目でホウオウを眺める。ホウオウはついに、湖から抜け出し、地面に立ちあがった。
 首から胸へ、胸から腹へ、腹から脚へ、すべての水が、翼や毛並みに吸着されずに滑り落ちてゆく。まるでなにかの塗装が剥がれてゆくようだった。
 おれが最初におぼえたミロカロスの連想は、的外れでもなかったようなのだ。鱗のように水を弾き、誘導する羽毛……鳥の姿をしたポケモンは、みんなこのような羽毛をしているのだろうか? 今までパーティを組んできたひこうタイプたちは、さほど水浴びをしたがらなかった。比べる方法など、無論ない……
「ほな、乾かそか」
「うん。頼むよ」
 羽毛のことなど、かまいはしない。目を奪われてしまうのは、ホウオウそれ自体である。伝説などと呼ばれているくせに、性格はそれと不相応な、朗らかで懐っこいもので、太い隈取りのされた目はいつのときも柔和な眼差しをたたえている。
 ホウオウが翼を羽ばたくと、秋晴れの陽射しのように暖かく心地よい風が吹きつける。それはまったくホウオウの持つ優しさだった。素敵な生き物だと思うよ。本当に。その体におれと同じ血が流れているなんて信じられないくらい。というか、ホウオウにも血は流れているのだろうか……そして赤いだろうか……赤いに決まっている。種族が違うおれたちの、姿かたちが違っても浮きあがる唯一の体色……
「よし、ふかふかになったな。男前が上がったで」
 実際、自然乾燥に任せるよりもずっと膨らみのある毛になる。
「いやだな、世辞なんて」
「世辞やあらへん。きれいやで、ほんまに」
 おれは、ホウオウの言葉がからかいでないことなどわかっていた。人間じゃあるまいし、だれかを褒めるために自分を偽るなんて、そんなやり方はとらない。それでもホウオウの称賛を受け入れがたいのは、おまえのほうがもっとずっときれいだ、と思うからだ。摩擦の少ない体には、水だって残らないくらい。神秘の元に生まれたポケモンは強くて、姿まできれいだ。
 虹の根元にはホウオウが棲むという伝承がある。ありもしない虹の根元の実在を信じる必要など、もとよりありはしない。実在と信心にいかなる繋がりを期待したところで、所詮は願望を糊に使って固定した、簡単にたわむ糸にすぎない。神が姿を現せば、かえって失望させられるに違いない。だから人間は、糸を刺激しないように気を配る。あえて(めくら)の真似をして、半信半疑で手を伸ばすのだ。すべてが明らかになり、失望させられて、心が竦みあがってしまわぬように……
 だのに、実存の美はそんな口実も許さない。
 おれは……身を委ねてしまいたいと思う。丸一日続いたバトルの晴れ晴れとした倦怠を言い訳にして、ホウオウに甘えてしまいたい。ホウオウの優しさは、そんなおれのみっともなささえ包みこんで癒やしてしまいそうなのだ。死すらも癒やし、生命の灯火を復活させるのだ。おれごときを満たすくらい、訳もないだろう。
 ――おれを抱いてほしい。
 そんなことを言えはしない。ただホウオウに惚れただけなら、それもよかった。しかしおれは自己肯定の追及から逃れたいだけだ。そんなものが、おれが足を動かす口実になり、生きる口実になるだろうか? 性交のあとには、バトルの倦怠とは違う、終わらぬ雨の倦怠があるだけと知っているのに……
 死の傍にまで追いかけてくる気がしてならない。いつになれば、突き立てられた罪の塔は見えなくなってくれるのだろう?
 3タテを決めた日は、おれだって「やってやったぜ」という自己肯定の一粒でも理解できる。しかし神秘の元に生まれた命を前にすれば、そんな気はたちどころに削がれてしまう。
 現実には、欺瞞の皮を反転させ、仲間の愛情を啜って、さもしい快楽を貪っているおれがいるだけだ。都合の悪いことは隠せない。そして乞食に甘んじることに、おれはなんの抵抗もない。どうやら拒絶される者だけが、汚らしさに無頓着でいられるようなのだ。
 たしかに、おれは仲間といっしょにバトルで戦っているかもしれない。でも観念ではどうだ? 観念とは、「経験したそれまでを頭の中で考えられること」らしい。そう、おれは仲間を性交に利用していることを忘れはしないし、そう望んだって忘れられやしないのだ。過去でいまだに息をする、事実としての観念だ。だから、どれだけ仲間のような顔をしても、みんなの絆に紛れこめない。取り繕っただけの、畑も耕さない片輪(かたわ)のよう。それでも最初のうちは、「負けるもんか」と思っていた。鍬を持ってこい、百でも千でも耕してやると。崖から転落することが転落なのではなく、転落したあとに登ろうとしないことこそ、転落と呼ばれているんだ。しかし、いったいだれがおれに鍬を与えてくれるというのだろう? 小作人を絶望させるには、刹那があれば事足りる。畑に火を放ってやればよい。瓦解は、油断した隙に訪れる。
 おれはいつだって叫びだしてしまいたい。踏みにじられた生活を求めて泣きわめく。こんな環境で、仲間の活躍を踏み台にしながら、おれはいったい、いつまで……一生をめちゃくちゃにされて……簡単すぎる……簡単に終わりすぎる!
 



「やあ、きみたち。先にいただいてるよ」
 細く長い尻尾を揺らめかせながら、ミュウがウッドテーブルでゆでたまごカレーを食べていた。()()()()だなんて、子どもっぽい声と小さい体の割に気どっていると聞こえるが、ミュウというのも幻と呼ばれるほどのポケモンだ。長命であるかもしれない。そしていま食べているカレーも、トレーナーとまったく同じ量が皿に盛られているが、食べたものすべてはミュウの小さい体のどこかに吸収されているのではなく、虚空にでも消えているかもしれない。ゴーストタイプのポケモンが食べたものだって、出てきたことなんかないのだ。その程度の奇天烈があっても今さら驚きもしない。
「お、今日はゆでたまごかあ」ゆうらりと地面に降りて、ホウオウが鍋を覗きこんでいた。「切ってもろてええ?」
「うん。おれがやるよ」
 ホウオウのくちばしは咀嚼ができない。ひと抱えもあるタマゴは丸飲みしやすく切る。
 幻といえば、ミュウの向かい側にいるトレーナーの、その隣にも幻がいる。ゼラオラである。以前おれが使っていた「こだわりスカーフ」はゼラオラに渡された。圧倒的なスピードを得たぶん、でんきタイプとしては珍しい多彩なサブウェポンを駆使し、物理・特殊のどちらも火力を出せるうえに「ボルトチェンジ」での対面操作も可能という、心強い味方だ。カイオーガやイベルタルにタイプ有利を取れることで採用されている。鋭い目つきは荒っぽい気性を現しているようで、今にもなにかをしでかしそうだが、とりあえず危害を受けたことはない。
「悪いな。晩飯の用意、おれたちだけサボっちゃって」
 まな板でゆでたまごを輪切りにしながら、ゼラオラに声をかけた。刺すような厳つい目がこちらを向き、なにも言わずにカレーに戻っていった。その往復の途中に舌打ちでも差し込まれそうな眼差しだった。
 あまり口をきかないヤツだ。これまで、おれは仲間と関係が険悪になったことはなかったが、ひょっとするとこのゼラオラには嫌われているのかもしれないと思う。むしろ、そうであった方がかえって自然に思えるくらいだ。パーティのお荷物。「相棒枠」としてのおれ。不動のポジションを労せず獲得している相手を嫌うなというのは無理がある。これまで仲間たちと良好だったことがむしろ幸運だったのだ。
 いや、お荷物でうざがられているなら、まだしもいい。おれが本当に怯えているのは、欺瞞を見破られることだ。おれの行いを一度でも観察すれば、欺瞞の皮などたちまち気づき、それは簡単に剥ぎとれてしまうだろう。察知されれば、おれはべろべろになった皮をぶらさげながら、逃げだすしかないわけだ。そしてさらには、皮の方でも自ら剥がれだす。欺瞞をいやがり、それはおれの表面で、同情を引くために叫ぶのだ。おれはこれでも、おれにできる限りのことをやっているのだと。
 しかしそれでも、察知される要因としては、いささか根拠に欠けている……性交は、気づかれぬように気を払っていたはずだ……それに気づいていて嫌気が差すならば、もっと露骨に嫌うはずだろう。当然だ。淫売に譲歩する必要がどこにある。そんなことをすれば、たちまち爛れた肉体関係の黙認と受け取られてしまうのだ。だが今のところ、おれの嫌われ方はそこまでではなかった。
 だからこそ、おれはパーティの定着を許されるために隠さねばならない。認めたくないとみんなが本気で思ってしまえば、おれなんてひとたまりもないのだから……
 たまごを切ってカレーの上に盛りつけているところで、後ろから肩を押された。ザシアンが頭を擦り寄せている。口には空になった皿を咥えていたので、それでお代わりの要求だとわかった。
 お代わり用のゆでたまごまではなかったので、カレーだけを皿に盛って地面に置いてやる。ザシアンは勇ましい吠え声をひとつ、頭を下げて旨そうにお代わりを食べ始めた。伝説のポケモンに、こんなふうに地べたで飯を食わせることに申し訳なさもあるが、元より捕らえた獲物は地べたで食うものだ。要らぬ気遣いだ。当のザシアンもそんなことで偉ぶらない。食べるために低くなった頭をおれが撫でても、機嫌よく尻尾を振るだけでいやがりもしない。
 それにしても、伝説だの幻だの、おれたちのトレーナーはポケモンホーム(ってなに?)からありとあらゆるポケモンを次から次へと引き連れてくる。いずれも個体数が異常に少なく、かつとても強力なポケモンたちだ。そんなポケモンを網羅的に捕獲しているのだから、よく知らないが、本当はこの人間は世界有数の腕前を持っているのではないだろうか?
「お疲れさん。今日もカッコよかったぜ」
 最後に自分の分の飯を用意して、鍋のところで食っていたバンギラスの隣に座る。レギュレーションに合わせてひっきりなしに入れ替わる仲間たちとは違い、このバンギラスだけは見せかけでない絆を結んだ相手だった。
「ありがとう。3タテなんて、まぐれみたいなモンだけど……でもなんだろうと、たまにはいいところを見せないとな。本当に……」
 3タテの達成感というのは、簡単に萎えてしまう。おれが活躍できるバトルなど、一日中スタジアムで戦っても、多くて三回……その中間には、そもそも選出されないバトルがあり、選出されてもたいして役に立たないバトルがある。おれだってまだまだやれるという気概はすぐに消えてしまい、また活躍すると燃えあがり、そしてまた冷めてゆく……だれが仕掛けた罠なのか、なんとも丁度な回数だ。自己肯定が麻痺するには、完璧な頻度だ。
 そしてやはり、相棒枠などというのはおれだけの範疇にとどまらぬ場合も多い。無論、おれも仲間に迷惑を与えたくない。しかし相棒枠と呼ばれる観念は、自立して周りを巻きこむ性質さえあるらしいのだ。それがなにより厄介なところだった。おれの不始末は、トレーナーと仲間の不始末。伝説や幻が四匹も五匹もパーティにいれば、おれ一匹程度の足手まといはいくらでもフォローが利くだろうが、おれはみんなの名誉に泥を塗っているかもしれないといつも思う。
「3タテ祝いに、ブルストの一本でもお裾分けしてやりたかったんだがな。ゆでたまごじゃあな」
「そんなことは気にしなくていいよ。最後までおまえが食べればいい」
「そうだな」バンギラスの尻尾が、撫でるようにして腰のあたりを這いあがってきて、抱きしめる。「おまえには、もっとほかのお祝いの方がいいよなあ?」
 口に押しこもうとしたスプーンが止まってしまう。答えが空回り、肺のところで呻いていた。体を引き裂き、飛び散ろうと足掻いている。おれは、おれの求めるところを的確に察知しているバンギラスのことが嬉しかった。性交に対しての羞恥もはや不感だったが、バンギラスの言い当てを喜んでしまう自分への羞恥、それまでには不感でいられなかった。
「なんだ、恥ずかしがるなよ。なんならほかの連中にも声かけてやろうか? ほら、どいつが好みなんだよ。ん?」
 慌てて尻尾を掴んで引き止める。「や、やめてくれよ、そんなの……恥ずかしいに決まってるじゃないか」
「でも嬉しそうじゃねえか。本当は、そんなふうにできたらって思うだろ?」
「だって、だって……お、お、おまえにはわからないよ! 生まれつき強いポケモンに、おれみたいな半端者の気持ちなんか……」
 スプーンを握る 手に力がこもる。
「おれだって、ただみんなみたいに、戦いたいって思ってた。みんなのおかげでおれは生きていられる。だからみんなのために、 まだ戦っていたいって思うんだ。なのに、みんなに抱かれていると……もう他になにもいらないって思う」
 いま自分がかろうじて戦えているのは、仲間のおかげだ。パーティを組む以上、それは当たり前のことだ。しかしおれの場合、度が過ぎていた。おれとは別な、ほかのポケモンの活躍と引き換えにしてまで、パーティにいるほどの価値があるかどうか?
 それでも、どんな理由だろうとパーティにいるならば、戦いたいに決まっている。命にあふれている者ほど死にたがり、死に近い者ほど生きようと必死になる心境に似ている。しょせん感情など、ベロバーやギモーの親戚なんだ……
 感謝の気持ちはキルスクの山々よりも高い。だけど後ろめたさを覚えているのも事実なのだ。おれのようなヤツを仲間と思い、愛情を感じてくれることが、本当に嬉しい。その愛情が、たとえ都合のいい姓処理道具に対しての気持ちだってかまわない。だけどできることなら、性交などというやり方ではなくて、バトルで感謝を返せたらもっとよかった。おれの力を、みんなの役に立てられたなら……
「でもよ、しかたねえだろ? 俺たちだって、おまえを好きだって思うから、交尾もしたくなるんだ」
「わ……」
 バンギラスは前屈みになり、おれの顔をワンパチのように舐めはじめた。
「みんなのためにいつも一生懸命なのを知ってる。だから大事なんだ。おまえが倒せない敵なんか、みんな倒してやる。抱かれてえなら抱いてやる。みんな、おまえが好きなんだ。だからそんなふうに落ちこむなよ」
 なんて一途さなんだろう。これが、おれがたぶらかした者の持てるまごころなのだろうか? まあ、そんなことも、あるのかもしれない……画策と好意には、なんの繋がりもないのだから……卑怯な手段でも、好意それ自体に罪はない。
 おれはなにやら、非常な感動をおぼえていた。今ばかりは、申し訳なさも忘れ、バンギラスの慈愛に深い親しみを抱いていた。
 トレーナーが火の始末をしてテントに引っこむと、バンギラスはおれの皿を取りあげ、それを地面に置いて、抱き寄せ、いきなりキッスをしてきた。みんなの目も気にせずに……
 おれは、最初こそ驚いて、抵抗してみせた。もちろんバンギラスの力に抵抗できる訳もないのだが、抵抗の意思だけは表明してみせた。しかし分厚い舌をねじこまれると、うっとりとまぶたがふやけてしまう。カレーを食べた直後どころか、食べている最中の唾液はねばねばとした感触だった。
 長らく続き、息が詰まりきったところで口が離れた。
 みんなが、愕然といったようにおれたちを見つめていた。
 ゼラオラは目が点になっている。ミュウは瞳が大きいぶん、とくにまん丸だった。ザシアンは口まで開きっぱなしで、食べていた口の中身がぽろりと溢れた。ホウオウだけは、驚愕の中に好奇の混じった笑いがあった。




 キャンプ近くの雑木林に騒乱が生まれた。
 ミュウに、バンギラスに、ホウオウに、ゼラオラに、ザシアンである。こんな連中が徒党を組んで、剥き出しの敵意で行進していれば、命の惜しいヤツは必ず逃げてゆく。縄張りを荒らそうとしているのはどこのどいつだと、威勢のいいのが踊りだしてきたりもしたが、こちらの顔ぶれを見れば泡を食って退散するのだ。ちょっと笑ってしまったな。そして申し訳ないとも少し思う。おれがみんなをけしかけているようなものだったから。
 バンギラスは、おれとのキッスを見せつけてからみんなに言った。
 ――俺はこれからこいつと()()する。ヤりまくりって訳だ。おまえらもどうだァ?
 バンギラスの連想を呼ぶ言葉に、胸の内が朱色に染まった。皮膚だけでなく、内側までも侵食するどもりの指先……なぜって、だって、みんなとだなんて……想像するだけでおれはうろたえてしまうのに……なぜだかみんな、意外と気が乗るのだ。
 おれたちが一斉に姿を消してしまうと、トレーナーを心配させる。寝静まるまで待った。そのあいだじゅう、おれはみんなに擦り寄られた。これからこいつを抱くのだという期待だった。
 ――いいのか、みんな。おれみたいなのとするなんて……
 念押ししながら、おれは充足を覚えてもいた。いつもバトルで活躍する強力なポケモンたちに愛玩されることが、おれはもちろん嬉しい。しかし性交の終幕には、どんなかたちであれ脱力と悔恨が息をひそめて待っている。そしてみんなに抱かれれば、悔恨に裏づけされた自分の至らなさが、膨れあがらねばならないのだ。本当に手に入れたいものに手が届かないばかりに、おれは性の虜囚になりさがる……
 ――別に、交尾くらいするだろう。幻なんて言われてもね、長く生きていたら性の観念なんてあやふやなものだよ。いやなに、だれでもいいって訳じゃないよ。だけど、ねえ。オスとオスだって、いくらでもできるさ。
 おれの膝に乗りながら、ミュウがそんなふうに言った。可愛らしい見た目でカジュアルに性を語るのは、とてつもない違和感だ。ミュウの性交する姿なんて想像もできない。
 ――そう言ったって、ボクも生き物だからね。体を持て余して()()()()()たい時もあるよ。いい具合にバトルで勝った日なんて、とくにさ。
 勝利の興奮を性欲に結びつけて盛りたいと思うのは、ミュウも同じということらしい。おれが気概を削がれてしまうところを、いつまでもその気で続いていられるのも、強者ゆえだろうなと思う。
 ――せやけど自分、もっとビビらへんか? 伝説相手にこんな迫られ方。
 バンギラスに背を預けている傍らから、ホウオウが顔を覗きこんできた。
 ――いや、ビビってるよ。おれなんかにはもったいないみたいで……
 ――そうなん? どっちかってゆーと、嬉しそうに見えるんやけどなあ。
 無論おれは、否認しようと鷹揚な微笑みに目を向けた。しかし急に、遠方からの問いかけが、頭を通りすぎた。
 いまさら、なにを隠す必要がある……みんなに抱かれることに特別な悲観などありはしない……それに性の情熱がいっときでも苦悩をやわらげてくれるなら、別に抵抗することもないはずだ……あとで後悔することなどわかりきっている。それでも悦楽が短いあいだ悩みと取引をしてくれるなら、それも悪くないだろう?……
 ――嬉しいに決まってるよなァ? こいつのよがりっぷりときたら、そりゃもうすげえんだぞ! 前のときなんてよ……
 急いでバンギラスを黙らせようとしたら、ザシアンがしきりにおれの顔を舐めてきて、おれのほうが黙らせられてしまった。それからはもう、みんなおれに不埒な目を向けるのを隠さないのだから、たまらなかった。それでもおれは、羞恥とともにささやかな満足を味わってもいた。ホウオウの言葉は、とくに悪意もなさそうだったが、案外こたえる言葉だった。おれの性癖がまざまざと証明されたようだった。だけど、そうだ。おれの体くらい、好きなだけ与えてやりたいと思う。代わりにおれは、みんなの愛情を享受する。これは、そういう契約なんだ……
 それで今、こうしている。雑木林から野生がすっかり消えて、喧騒が静寂をつくった。
 思い思いの立ち位置から、みんながおれを向く。準備が整ったという訳だった。おれが吐く息は擦り切れそうだった。複数のまなざしとの摩擦に魂が弾けるように思われた。
 しかし……わからないのはゼラオラのことだった。キャンプにいた時から、ゼラオラはずっと渋面のままでいる。身内で淫らを働いていたことがバレて、軽蔑されただろうし、おれとの盛りあいなんて絶対に参加しないと思っていた。
 なにを考えているんだろう? 仲間として受け入れることはできずとも、弱者を甚振り、鬱憤晴らしに穴を使うだけという狙いだろうか? 伝説や幻も溜まるものは溜まるというし……
 顔をあわせようとしないゼラオラを見ていると、バンギラスに抱きすくめられた。両腕にしっかりと固定され、体同士を擦りあわせているうちに、ふつふつと体温が昂る。がむしゃらに肌を重ねていると、体が蕩けてゆくように思う。
 おれのそのような機微に、仲間たちは敏感だった。ミュウが頬を寄せてきて、顔の反対側にはザシアンも。ホウオウは鼻先にくちばしをするすると擦りつけていた。ゼラオラだけが輪から外れておれたちをじっと見据えている。構うものか、と段々そういう気になってきていた。この期に及んで嫌々でもあるまい。参加したい時に参加すればいい。
「その気になってきたか?」
 バンギラスの声は真上からだ。みんなの性の雰囲気を察知すると、おれのペニスはたちまち勃起を始めてしまっていた。これだけ密着していたらすぐにそれと知れる。
「ほら、みんなに見せてやれよ」
「え……」
 両足を開くように抱えあげられる。いくら性交が前提といっても、それはあまりに恥ずかしすぎる。股間を両手で覆うが、引き剥がされた。ゼラオラだった。視線の棘は抜けないまま、鼻息だけを荒くさせていた。単純な腕力でいえば、おれもそこそこに強いはずだが、ゼラオラの方がいくらか上回った。壁のようなバンギラスの体に腕を釘づけにされる。
「こっ……こんなの……」
 せめて尻尾で隠そうとするが、ちっとも隠せてはいなかった。
「嬉しいんとちゃうん? ちんぽビンビンになってるで」
 しげしげとペニスを観察して、ホウオウが楽しげに言う。ザシアンもぐるぐると喉を鳴らしながらしきりににおいを嗅いでいた。水浴びの直後だから、いやなにおいはしないはずだけど……恥部の露出を強制され、一斉に仲間に見つめられるのは、それ自体がもう快楽だった。浅ましい体……おれの嗜好の捻くれた厄介さ……それをみんな少しも嫌がらないようなのだ。興奮はひとりでに増長した。
「素直になればいいのに」ミュウにもその手の鋭さはあるらしい。エスパータイプに感得できるものがあるのかもしれない。「よし。ボクが代わりになってあげようか。きみがどんなふうにされるのがいいか……」
 そう言うと、ミュウの体じゅうが輝いた。それはちょうど進化の光のようで、輝きの中であやふやなシルエットがみるみる形を変えてゆく。「へんしん」だ。小さな体が膨れあがり、手足が伸び、宙に浮くのをやめて地に足をつけていた。頭からは天に向かって長い耳が伸び、後頭部には特徴的な房が垂れさがる……
 ()()だった。ミュウの「へんしん」は、ただルカリオの姿かたちを模倣するのではなく、今ここにいる()()を対象とした。
「あ、あ……」
「ふふ、なるほど。そういう気分か」ミュウが、おれの体を使って言った。「波導というのも面白いものだね。そう、きみが思うとおりだよ。ここからはなにもかも()()()にしてあげる。きみはもうなにも言わなくていい。むしろ、言葉なんかよりずっと直接的だろう?」
 ヒュウ、とバンギラスが口から高音の息を吹いた。「エグいことするじゃねえか」
 波導といっても心を詳細に読めるわけではない。喩えるなら色だ。快と不快のグラデーション。おれがなにかされたとき、それを悦んでいるかどうかくらいはわかる。今のおれは、バンギラスとゼラオラの拘束を、おおむね悦んでいた……
「お、濡れてきたやん」
 完全勃起に留まらず、尿道に我慢汁の玉が浮かんだ。それを躊躇なくミュウが舐め取った。お、お、おれの姿でそんなこと! 股間へうずくまり、顔を寄せ、尿道口をくすぐるように舌先をくりくりと押し当ててくる。
「あふっ……はあ、あぁ……!」
「イイ声でてきたじゃねえか」
 バンギラスが顎をしゃくり、ホウオウとザシアンもけしかける。
「どこがエエんや?」
 ホウオウの問いかけは、おれにするのと同時にミュウへも尋ねていた。おれの体を持ったミュウは、もちろん性感帯だって知り尽くしているらしい。答えはすぐさまだった。
「ここ」
 ペニスの根本のあたりが指さされる。ザシアンがマズルを寄せて、包皮の舌を滑りこませた。瘤のあたりに被ったまま、ねっとりと内側を舐めてくる。ホウオウもそれに加わった。
「あっ、あっ、あっ!」
 感じやすいところを三匹がかりで舐められていると、いくらも耐えられそうになかった。こんな、()()なんて本格的なことをなにされてないうちから……
 おれは、自分で考えている以上にこの状況に興奮しているようなのだ。
「んあっ……?」
 ずい、とゼラオラの顔が近づく。近づき、そのまま近づき続けて、キッスをされた。ぴったりと口を塞いで、舌を絡めるやつだった。
 あまりに驚いて、目を閉じるのも忘れてしまっていた。ゼラオラはふすふすと荒い息のままだ。至近から見るその表情は、鼻面のところに皺を寄せた獰猛さで、上下のまぶたをきつく結び、なんともひたむきに見えた。
 おれはそれにぐっときてしまったのだ。おれを甚振って弄びたいだけなら、あるいは溜まったものを発散したいだけなら、必要のないキッスだからだ。そしておれとバンギラスがキッスするのを見られてもいる。こんな性交を繰り返してきた、けっして清らかではないことのひけらかしだ。そんなおれであっても、少なくとも今、ゼラオラは求めてくれているように感じられた。そこにあるのは錯覚だけかもしれない。だけど、ときめかないはずがなかった。魂が熱くなった。だから、そう思いたかった。
「ふんんっ、んん――っ!」
 口吻どうしを噛み合わせていると、ゼラオラの口内がとても熱いことに気づく。次から次へと溢れる唾液にほかほかと湿っていた。手首を掴んで縫い留めるようだった拘束は形だけになった。それはもう、この場から――みんなから与えられる快楽から逃れられはしないという興奮にしかならなかった。
「んひゃっ! んっ、あっ!」
 ゼラオラのキッスを味わっていると、肛門になにか触れてきた。明らかに指や舌のような感触ではなかったが、今は見えない。つるつるとした感じは、おそらくバンギラスの尻尾のようだった。先細りの先端でアナルを犯そうというのだった。
「尻の穴、きれいにしてきたんやろ?」
 ホウオウが言う。それもまた、おれへの問いでありながら、みんなへの促しでもあった。水浴びのときに尻を洗浄していたところを見られていたのか。おれは、そう……今日の交尾を予感してはいた。3タテを決めた高揚のまま、バンギラスを誘うかもしれないと考えていたのだ。それは無論、こんなふうに仲間たち全員でなんて思ってもみなかったが……ともかく準備だけは済んでいた。それを答えたいが、しかしゼラオラのキッスを振りほどきたくない。
 口が塞がったまま、ん、ん、と中途半端返事をすると、即座にあたたかく湿ったものが尻の中心を這った。舌の感触だ。ミュウか、ザシアンか。わからない……しかし視界が不自由であるという、だれになにをされるかわからないことが、心臓をひたすらやかましく騒がせてくる。
「ははあ、なるほど。いいだろう。もっと不自由になってみようか」
 股のあたりから聞き慣れない声……それはおれの声であり、すなわちミュウの声だ。おれの声ってこんな感じなのかと思っていると、ふっ、とおれの体からなにかが失われた感じがした。
「ふういん」だった。おれに「へんしん」したミュウによって、波導の操作を封じられたのだ。
「知ることは興が削がれることでもあるからね。きみは少し、自信がなさすぎる。波導になんか頼らずに済むように、理解させてあげないとね、今日は……」
 ミュウが今やっているように、おれはやろうと思えば他者の心境を波導によって大雑把に把握できる。たとえばこんなふうに交尾しているとき、交わっている相手の波導を読み取ることで、求愛の強さを確かめ、満足を深めるのだ。それは確かに、無粋な行いかもしれない。肌を重ねながらアイラブユーを囁かれたとき、その気持ちは本当か、性交のテンションが口走らせているだけではないかと、いちいち疑ってかかるようなものだ。おれはそうすることで幸福を感じられるが、だからといって四六時中だれかの心を覗いているわけではない。今、そんなことを気にしていられる余裕もなかった。しかし、生まれながらの連れあいが唐突に姿を消した喪失感は、なによりも激しい不自由だった。みんなの気持ちがわからない……そんな当たり前のことが、理不尽に不安だった……
「ひっ……んっ……! んふ、うぅぅ……!」
 唾液を塗りたくるようだった舌に割りこむようにして、バンギラスの尻尾(おそらく)がいよいよ肛門をほじくりはじめた。それがあらかじめ決められていた合図だったかのように、みんなが勢いづく。包皮を根元まで完全に剥かれ、丸出しになった亀頭球を咥えられる。睾丸を柔く(は){食};まれ、吸引される。チンポの先っぽのところを執拗に舐め転がされる。唾液に濡れたアナルをつるつるしたものが浅く出入りを繰り返す。
「んうっ! んっ! んっ、んっ!」
 いくつもの性感帯を同時に攻撃されるのは、鮮烈だった。こんなの、気持ちよすぎる……
 これまでの性交は、相手が複数であっても、おれが奉仕している部分が大きかった。バトルで役に立てないぶん、ほかのことでなにかしたいという思いが強かった。だけど今は、おれが奉仕されていた。仲間たち全員、おれをよがらせることにしか関心がないような責めだった。
「ひっ、ぐ……! ひぐ、い、ぎゅうぅ!」
 息が詰まり、体が強張る。それを察知してか、ゼラオラがおれの舌をきつく吸う。口の中の水分をすべて啜り出そうというように、湿った部分を求めて舌を伸ばし、探りまわられた。それは舌のつけ根のようなところまでに至る、深く結合したキッスだった。いつの間にか、手首を掴むようだった拘束が、指と指で互いの手のひらをぴったりと握りあう格好になっていた。
「ん――っ!! んうぅ――ッ!!」
 ビュッ、と音がしてもおかしくないくらい、溜まりに溜まった熱が弾けたのを感じた。ビュッ、ビュッ、と何度も何度も、快感がチンポの中をくぐり抜けてゆく。耳の先から爪先まで、体じゅうにすさまじい力が入った激しい痙攣があり、おれを抱えたバンギラスはその一切を受け止めた。駆け抜けた快感が飛沫となって吹きあがり、ぼたっ、と体に落ちてくるまでにかなりのタイムラグがあった。興奮のおびただしい射精だった。こんなふうに射精したら、みんなに顔射してしまったかもしれない。それでもまだ、おれは責めらた。おれが精子を吐き出し終わるまで止まらないのだ。種族柄ずいぶん長い射精のあいだじゅう、おれはチンポを、金玉を、ケツ穴を悦ばせられた。イかされながら責められる強烈な快感に、身悶えしそうになるのを、キッスしたゼラオラの顔がねじ伏せていた。
 どうして、みんなこんなことをしてくれるんだろう?
 おれをいくらよがらせたところで、みんな少しも気持ちよくなんかないはずなのだ。ただ性欲を吐き出したいだけなら、ここまでする必要はない訳だ。
 だから、それが……たまらない被愛なんじゃないか。波導を封じられてしまっては、本当のところはわからないのだが、しかしそうとしか思えないだろう? おれは今、こんなふうに甘やかされて、愛されている……
 いい加減、おれは、そのことを認めてもいいんじゃないだろうか? バトルの貢献はそれほどできなくとも、みんなはおれに……おれ自体に価値を感じてくれているって、おれはもう少し、信じるべきだ……それは思いこみにすぎないのかもしれない。だけど真実が闇の中にしかないのなら、思いこむことの、なにがいけない? だれも彼も、相手の気持ちという不明瞭なしがらみの中でさえ、まったく闇の中でない生き方ができるのだ。我々は知らず知らず、それくらいアクティブかつ大胆に生きている。
 だからおれは、今日、みんなとたくさんエッチしようと思うのだ。いっぱい……いぃ~っぱいエッチしようって、今、そう決めた。




「んぶっ、お゛ッ……! ふうっ、ふーッ! んふぅぅ……!」
「ほら、入っちゃうよ。どんどん奥に……入れちゃおうね」
「ん゛ッ……! ん゛ーッ!!」
「すごいね。おちんちん、ガチガチに硬くなってるよ。自分のアナルとセックスするの、興奮しちゃうのかな? 変態だなあ。だめなんだよ、そんなことしちゃあ……」
 ミュウが、おれの姿でおれに騎乗位している。おれは、時々は相手が求めるままオスのアナルを犯すこともあった。まったくの童貞というのでもない。だけど自分の尻のの具合がどうなのかなんて知る訳がない。ただ、おれがオスの中出しをねだり、誘うためにしてきたあらゆる努力……それと同じことを、おれに「へんしん」したミュウはすべてできてしまう……それっていったいどんな感じがするのだろう? そういう好奇心は、ある。でもそんなことを楽しむ悠長は、許されなかった。
「ゲロ吐いても怒らねえぞ。苦しくてもやめねえからな、我慢しねえで吐けよォ?」
 仰向けで頭を仰け反らせてまっすぐに伸びた口と喉に、バンギラスのチンポをぎちぎちに詰めこまれている。ほとんど顔に跨るようにして、ゆっくりとした前後の腰振りで、呼吸を奪いながらじっくりと太いものを抜き差しするのだ。口の奥の、入ってはいけないような喉の中にまで突っ込んで、それでもぜんぶは入りきらないチンポを、ぐうっ、ときつく捩じこみ、しばらく止まって、ずるずると抜けてゆく。それはもう、チンポをよくしたいというより、おれの窒息と嘔吐だけが目的のようなイラマチオで、動きとしては穏やかながら、激しかった。おれは涙も鼻水も吹き零し、呼吸のためのわずかなインターバルでチンポが抜かれると、唾液だけでないねばねばとした粘液をも吐いてしまい、顔じゅうぐちゃぐちゃになってしまった。
 しかも、おれに跨るミュウの背後では、ゼラオラにアナルを犯されていた。硬く硬く勃起した棘付きチンポが、尻の中をズリズリと引っ掻く。なんとも丁度の痒みを尻の穴に誘発されて、それでもっと掻いてほしいと思うところを何度も何度もズリズリ掻かれると、性感とはまったく別種の、身震いするような快感があった。しかも、おれのアナルを犯しながらも、ゼラオラはおれの足裏や指の股を舐め回したり、キンタマを揉んだりして、少しでもおれに刺激を加えようといろいろしてくるのだ。ミュウにチンポを犯され切る前から、おれは甘イキしっぱなしだった。
「お゛あ゛ッ、あ゛ッ、あ゛――ッ!! お゛ッ……お゛……あ゛んっ! んぶッ……」
「あんっ、だってよ。かーわい」
「またイったね。もう何回目かな。でもいちばんすごいの、まだきてないだろう。どんどんよくなろうね」
 ミュウの浅い出し入れの最中にも、おれは何度も少量の精子を漏らしていた。見なくてもわかるくらい、びゅる、と我慢汁でないものが尿道を通り、絞り出された感覚があった。チンポを扱かれた射精ではないから本気でイッたのではないが、だからといって快感が生易しい訳ではない。むしろ、ゼラオラがおれの尻の下に太ももを敷き、角度をつけてチンポの奥の辺りをコツコツ小突き続けるせいで、体の痙攣が止まらないほどずっと気持ちがいい。こんな状態で窒息しようが、喉をほじくられようが、オーガズムの味が豊かになるだけだ。
「ひゅ、ぐっ……!! ぶフッ……ん゛ッ!! ん゛――ッ!!」
「お、すげえ痙攣。おまえなにした?」
 ゼラオラが、尻尾の内側の毛の柔らかいところを指でくすぐるのだ。足を舐め尽くされたときもくすぐったかったが、尻尾の、とくに根元の近くをくすぐられるのは、はっきりと快感なのだ。もうこれ以上、気持ちいいのを追加されたら頭がどうにかなってしまう! 足でもがいて抵抗したくとも、体を折り畳んだ上にミュウが跨っているので、両足ともミュウに掴まれて自由が利かない。ただでさえこちらは「ふういん」で弱体化しているのだ……
「気持ちよさそうだ。それ、いっぱいしてやれ」
「ん゛ぎゅッ……ん゛~ッ! ん゛ん゛ん゛ッ!!」
「上も下も、おちんちんおいしいね。そろそろボクも食べちゃおうかなあ……」
「は゛っ……ぶあっ、お゛、え……はーっ、はーッ! だつ……だめ、も、いくっ! ずっといってるのに!」
「オラ、くっちゃべってる暇ねえぞお?」
「まっ……ん、ん゛~~ッ!!」
「ちんぽイきたいだろう? お漏らしばっかりで切ないね。出しなよ、ほら……ほ~ら……」
 具合を確かめるように慎重だったミュウの体が、いきなり深く落ちてくる。瘤のあたりまでチンポでアナルを貫かせると、ぎゅうぎゅうにキツく穴を狭めながら抜けてゆき、先端まで戻るとまた一息に貫かせる。オスを甚振り、悦ばせるこんなやり方、おれは知らない。やったこともない。ミュウの仕業だ。おれの知識じゃない。オスの嬉しがる交尾のやり方をミュウが知っているんだ!
「ッ――!!」
 喉が塞がれて声も出ない。しかしみんなはおれの絶頂をわかっていた。ミュウがぐりぐりと尻を擦り寄せて亀頭球をアナルで飲みこみ、ゼラオラが腰を跳ねあげるみたいにして激しく前立腺を小突きあげ、バンギラスのチンポが喉に詰めこまれたまま動かなくなった。
 どこもかしこも、気持ちいい。生きながらにして体の内側を燃やされているような、それでいてグズグズに甘く濡れて腐ってゆくような、尋常ならざるオーガズムがきた。
 力のこめられる場所のすべてが暴れようとした。ミュウが、バンギラスが、ゼラオラがそれを抑えつけていた。
「おお~、すげえ。イッてるイッてる。エロッ」
「ふふ……中ですごいよ。ずうっと暴れて、ビシャビシャしてる」
「はー、やべえ。そんなん聞いたら俺もイく」
 喉からチンポが抜けて、先端だけが口に留まった。
「お口に出してやるからなァ。すぐに飲むなよ。ちゃんとモグモグして、味わってからだ」
 強すぎるオーガズムで頭の中がとんでもないことになっていても、まるで無関係みたいに残った冷静な部分が、バンギラスの言葉を理解した。適度に吸って催促すると、少しだけ口に抜き差しされて、たっぷりのザーメンが注ぎこまれた。とぐろを巻くジガルデよりも雄弁にのたうつバンギラスの巨根を、吸引して受け止めながら、頬まで膨らませて精子を頬張る。
「ルカリオ」
 そう何度も聞かなかった声が、切羽詰まったようすだったのでだれだかわからなかった。
「出すぞ。中に、出すからな。タマゴ、産んでくれ……オレと、おまえの!」
 ゼラオラだった。おれはその声に感動を味わった。なぜって、おれはおまえに嫌われていると思っていたから。でも、そうか。ゼラオラはおれをそんなふうに思ってくれるのか。おまえのそんなところ、おれは全然、知らなかったよ……おまえが望んでくれるなら、おれはタマゴだろうがなんだろうが産みたいと思う……
 おれは青臭いオスの体液を吐き出してしまわないように必死だった。これだけはひとしずくも零してなるものかと思うのだ。きっちり三度、ゼラオラの腰が打ちつけられて、おれは気の利いた喘ぎ声もあげられなかったけれど、心はいくらでも打ち震えた。ゼラオラが、ぶるん、と体を跳ねさせながら、おれの尻の中を精子でビチャビチャに濡らしてゆくのが、たまらなく気持ちいい。体だけでなく、心が、快感なのだ。
「零すなよ?」
 釘を刺しておいて、パンギラスが顔の上から退いた。おれはぴったりと口を閉じて頑張った。とろとろに溶け崩れた視界の中で、バンギラスの顔を見上げながら、口の中のザーメンを舌で転がし、水っぽい部分と、濃くて固形に近い部分とを区別して、硬いところを噛んで解しながら、何回かに分けて飲みこんだ。ちゃんと、ぐび、って音が鳴るようにだ。
「口、開けな」
 言うとおりにした。久しぶりの口呼吸で思い切り空気を出し入れすると、自分の息がとてもザーメンくさかった。バンギラスは頭の代わりに、喉や顎を撫でた。
「まだいける?」
 横から首を伸ばすような格好で、ホウオウが覗きこんできた。少し休憩するかと訊かれたのだ。
「ま、まだまだ……こんなくらい、余裕だって……」
 今日のおれは、底なしだった。一晩じゅうみんなに犯されまくってやるのだというガッツがちっとも失せない。それでも窒息させられながら強烈に昇り詰めた余韻のさなかだったから、息も絶え絶えの強がりみたいにしかならなかったのは、けっこう不細工だと思った。
「甲斐性あるやん」
 若いってええな、というようなことを言うホウホウの傍には、ザシアンもおすわりで待っている。股のところにはおれとよく似た形の、でも比にならないサイズの真っ赤なペニスが、元気よく天を衝いていた。極太のブルストみたいで、すごくおいしそうだ。彼らの番をお預けにはできない。いくらなんでも、そんなのはもったいなさすぎる。
「どうだった?」
 ミュウがいくらか苦労しながら、チンポを尻から排泄して、おれの上から退いた。
「すごかった……って、なんか自画自賛みたいだ」
「すればいいんだよ。自画自賛。あとでボクも試させてもらう」
 今度は自分に犯されるのだ……おれはもうじゅうぶん以上に結構な嗜好をしていると思っていたが、さらによく分からないフェティッシュを開拓してしまうかもしれない……
 どさくさに紛れるみたいにして、ゼラオラも黙って離れていた。だいぶ満足がいったらしい、尻から抜けてゆくときにはすでにそこそこ脱力していた。ずいぶん熱烈なキッスやエッチをしたのに、ゼラオラはもう、たいして面白くもなさそうないつもの顔だった。
 錯覚は、おしまいなんだろうか。おれは認めたくなかった。だから、声をかけた。
「まだ、やれるだろ?」
 ゼラオラはわずかに迷ったあと、ヘンな顔で言う。
「ちょっと休憩したらな」
 おれは笑った。笑いかけることができたのだ。もう嫌われているなんて露ほども思わなかった。
 起こした体をホウオウに預ける。何度となく見惚れたホウオウの美しさに。
「お、珍しいやん。今日は(丶){甘};(丶){え};(丶){た};の気分なんかな?」
 ふっくらとして見える体に、力強く濃密に凝縮した筋肉があるのがわかった。きらびやかな翼に包まれるのと、おっとりと注がれる視線は、どちらもホウオウの優しさだ。死者に命を与えることすら可能な、聖なるポケモンの包容力……そんなものに身を委ねてしまいたくなるのは、当然の誘惑だと思う……
「百回目がきたら、思ったままにしてみようと考えてた」
「なにが?」
「あんたの性格の具合のよさと、自分のだらしなさの封殺について」
「だいぶかわいい気分になってきたみたいやなあ」
「うん……」
「ワシらはな、十割、好意でおまえを抱いてるんやで。せやから、おまえも十割でやらなあかん」
「悪意でも?」
「おまえが半端に好意でやったら、一割も得せえへんやろなあ」
 予言のように、ホウオウはそう言った。
 半ばホウオウの体に寝そべっている背後に、ザシアンが寄ってきた。舌を出して熱い息を吐き、湿った鼻がぴすぴすと音をたてている。
 おれは尻を持ちあげてみせた。ゼラオラに中出しされて濡れたまま、じゅうぶんほぐれている。ザシアンのペニスは……かなり太そうだが……バンギラスだって相当だし、なんとかなるだろう。
 ホウオウが翼を開くと、ザシアンが前足をおれの肩に乗せて、勃起した先端を尻に擦りつけた。ぐりぐりと探って狙いを定め、ゆっくりと入りこんでくる。
「くは……あ……」
「ええ声や。たっぷり聞かせてや」
 まったくみんな、おれが鳴くだけで称えてくる。これはもう、淫らに落ちる許可を与えられているようなものじゃないか。おれはあんたたちの体を慰めるために自分を犠牲にしているかもしれないが、それによって得られる満足のためにあんたたちを利用してもいる。それなのに、なんだかまるで……
 いや、違う。十割だ。おれはみんなとのセックスを、十割、楽しまなければいけないのだ。そしてどうせなら、十割の悪意よりも、十割の好意でセックスがしたい。みんなを愛することだけに命を燃やしていたい。
「あ、はっ……す、ごい……どんどん奥まで……」
 異物が尻の中を逆流してくる排泄欲求と息苦しさに、体は強ばるのに、内側からじわじわと伝わるザシアンの熱に、体内が溶かされてゆくように思う。背骨の芯がぐにゃぐにゃにまとまりを失くして、しなだれかかるようになるのをホウオウが抱き止めてくれていた。
 おれのアナルを気に入ったか、ザシアンはちょうど真上からマズルを寄せてくる。きゅうきゅうと鼻を鳴らして甘えるので、おれも頭を持ちあげて頬ずりした。舌を出して、奇抜な体勢のべろちゅーをしてみたりもした。ザシアンの舌が分厚いが滑らかで、舌どうしを唾液で擦りあわせるのは気持ちよかった。どのような忖度も抜きに、したいと思ったことをやってしまえる今が、とても楽しい。
「ああっ、あ……んっ……あ、きもちいい……それ、いいよお……」
 ほどほどに挿入したところで、ザシアンの腰が前後に動きはじめる。おれを気遣っているのだろう、急いた動きではなかった。しかし太くて長いペニスのストロークは、どんなにゆっくり動かされようと快感でしかなかった。
「だいぶ元気になってきたなあ」
 ホウオウと密着していた体のあいだで、おれのペニスは再び性交が可能なだけのポテンシャルをすぐさま取り戻していた。元より気分がひとつも萎えていなかった。直接の快感が少しでもあれば、勃起はすぐだった。
「ワシのココに入れてええんやで」
 両足を開き、生殖器を見せつけてくる。メスの持つヴァギナにも似た、ホウオウの内性器……総排泄腔……おれの五感の中でもっとも鋭い嗅覚で、充満するオスのフェロモンを探ろうと思って探れば、ホウオウのソコもすでにしっかりと濡れていることはすぐにわかった。おれは、ホウオウがどの時点から濡れていたのかとても気になった。チンポを舐めていた時からか、それとも手荒く侵されているのを見ていてか、あるいはキャンプを抜け出す際にはもうその気だったのか……
「あんたのおまんこ……使って、いいのか?」
「ええよ」ホウオウの目が、隈取りにすっかり隠れるほどに細くなった。「好きにしていいんやで」
 バックから挿入されながらで、ぎこちない動きながら、指でチンポを摘んで宛てがう。ホウオウのアソコは待ち構えていたようにぬるりと先端を飲みこんだ。
「あっ……く……きもちいい……ほかほかして、あったかい……」
 ほのおタイプの体温だった。体の外側を抱きしめるだけでなく、性器と性器でひとつになることによって感じられる、隠された内側の体温だ。
「ぜんぶ入れてまえ。根っこの瘤のとこ、いちばん好きやろ?」
 前からも後ろからも気持ちよくされて、蕩けるばかりのおれと違い、余裕がたっぷりの声だ。ものを入れるようにはできていない場所のはずだが、痛みを感じるようすさえなく、なんとも経験豊富らしい。
 ザシアンが肩から前足をおろし、おれごとホウオウを組み敷く格好になった。体重で体を押され、挿入を促されるまま、たいした苦労もなく、つるりと亀頭球まで入ってしまう。
 息が震えた。ホウオウのナカはとろとろに熟れていて、あっさり挿入できてしまったのに吸引がまったくない訳でもない。ホウオウのコントロールによって窄まったり緩んだりを繰り返して、とくに出し入れなどせずとも達してしまえそうだった。
 見れば、ホウオウもまぶたを落として呼吸を長くさせていた。おれよりずいぶん体の大きいこのポケモンが、オーガズムを迎えたとき、どんなイき方をするのだろう? 非常に好奇心をそそられる表情だった。
「うあっ、あっ……あっ! いいっ、これきもちいっ……すきぃ……!」
 ザシアンが体重でほどよい圧迫をかけ、ホウオウとサンドイッチにされながら、ずるずるとアナルをほじくられた。太いチンポがおれの気持ちいい部分を常に押し潰す。前に後ろに摩擦されると、快感がじっくりと育てられて、いつまでも気持ちいい。緩急を繰り返しながら少しずつ、どんどんよくなってゆく。
「んやぁあっ! いくっ、これっ……いくぅ! いッ……イッ――! んんッ……!! あっ、はあっ! はーっ、はーっ……」
 射精の伴わない、絶頂手前の甘イキ。じわじわと広がるように緩やかな感覚が、急激に強まって尻の奥のキュンキュンする疼きに変わる。やってくる快感は過ぎ去っても余韻が引き切らず、波が寄せては返してゆくように断続的に訪れるのだ。
 メスの快楽……オスの体は、これほどの快感を生むようにできているのだ。それも生殖とはまったく無関係に、快感を得るためだけのセックスの仕組み……オスの尻の中にこんな弱点を用意して、神とやらはいったいなにを考えているのだろう? こんなものを知ってしまったら、オスがメスを抱こうという気にもならなくなるじゃないか……
 体重でおれを抱きしめるように、ザシアンは背中にのしかかり続ける。これも、拘束といえばそうだった。おれをメスイキの繰り返しから逃さぬための檻だ。ゆったりと性急さのない腰振りは、自分が気持ちよくなることよりもセックスを楽しむための仕草で間違いなかった。自分とホウオウの体に包まれながら、為す術なくドライで何度もイかされるおれを、愛玩しているのだ。
「かわいいイき方するなあ」ホウオウの声もずいぶんと湿っぽさが増してきた。「見てるだけでイけそうやで?」
「あっ……い、いって……おれで、いくとこ……みっ、みたい……」
「欲張りさんやなあ」
 ちろりと、細い舌がくちばしを舐めるのが見えた。途端、濡れた総排泄腔がチンポに絡みついてくる。
「ふあっ! あっ……!」
「イイやろ。ワシも気持ちいいで。いっしょによくなろな……」
「あふ……んっ、んん……! ちんちん、気持ちいいっ……!」
 尻を掘られながらなのに、オスの気分がむらむらとこみあげてしまう。腰を振りたかった。締めたり緩めたり、実に自由自在なホウオウの穴に、亀頭球をずぽずぽとピストンしてしまいたい。しかしアナルには長大なザシアンのチンポがぶっ刺さっているし、加減しているとはいえ全身でのしかかられているから、思うようには身動きが取れない。腰振りというよりは、腰をもじもじさせる不格好なおねだりのようにしかならなかった。
「んあっ! あっあっあっ! ああっ!」
 唐突に、ザシアンが律動を小刻みに移した。もっと気持ちよくなりたいのだと誤解させてしまったのだろうか? もうじゅうぶん気持ちいいのに、それでさえどんどん快感が深く長くなってゆくのに、開発されたアナルが嬉しがる的確さで、おれのいいところばかりをゴリゴリ擦りたてる。
「んやああっ! いくいくいくッ! ザシアンっ! ザシアンのちんちん、きもちい――ッ!!」
 チンポを内側から扱かれているような、前立腺イキ特有のオーガズムの形。あまりにもほじくられて肛門がぎゅうぎゅうに締まるのが自分でもどうしようもない。締めれば余計に気持ちいいだけなのに、物理的に反射するのは不可抗力だ。目に見えて、わかってもいるのに抗えない。
「イくうぅう! おまんこ、イくっっ!!」
 ギシ、と骨の軋むのが聞こえるくらい、全身で仰け反った。頭に、肩に、背中に、腰に、ザシアンのふさふさした毛並みを感じる。ガクガクわななく口が閉じられない。猛々しい唸り声が真上にある。
「おお……暴れる暴れる。気持ちよさそうやなあ。ほら、おまんこぎゅーってしたろな……もっとええやろ?」
 射精、してしまっただろうか? あまりわからない。チンポがギンギンに張り詰めて、ザシアンに犯されるのを悦んでいることはわかる。それをホウホウの肉壺が諌めるようにきつく抱きしめていて、前も後ろも、どうしようもなく快感だ。
 それでもザシアンは止まらなかった。追加でおれをイかせようとでもいうのか、荒々しい突きこみで奥へ奥へと掘り進もうとするのだ。おれはもうホウオウの腹に顔を押しつけて泣き喚くことしかできなかった。いつまで気持ちよければ許してもらえるのか、「ぼうふう」で全身をあちらこちらへ引っ張り回されるように、頭がグラグラ、視界がぐるぐるして、白い火花が散るのも見えた。
 そうしていたら、顔のあたりにトゲチンが差し出された。胸のトゲがホウオウに刺さらないよう、半端に横向きになっているところに、ちょうど横から伸びてきたのだ。
 ゼラオラである。おれが鳴かされるのを見て復活したのかもしれない。だけどどうでもよかった。というより、おれはそれがゼラオラであるかも認識してはいなかった。目の前におちんぽを差し出されたら、しゃぶれということだから、しゃぶりつく以外にやりようがなかった。乾ききっていないザーメンの残る、とてもエロい味のチンポだった。ゼラオラはおれの後頭部を抑えこんで、丸ごと飲みこませながら腰を揺さぶっていたし、おれもゼラオラの腰に腕を回し、尻を鷲掴みにして抱き寄せた。これの口で射精するまで絶対に離れてほしくなかった。
 セックスがもたらす前後不覚の浮遊感の中、感覚だけがどこまでも研ぎ澄まされて、自分で自分の体に性的拷問を強いているのに、それとはキッチリ区分けでもされているように、ひどく落ち着いた考えの自分も、頭のどこかに存在した。目に映るのは、ほとんどゼラオラのくびれた腹だが、視界の片隅にはどうしたことか、バンギラスに犯されているおれの姿が見えた。ミュウである。バンギラスの巨体から本気の種付けプレスを喰らってアンアン鳴いていた。「へんしん」したおれの体に欲情でもしたのだろうか? いかに老獪なミュウであっても、オスの味を覚えきったおれの体で、バンギラスのマジなセックスを受けたら抵抗などできないはずだ。今この瞬間、おれはザシアンとホウオウによがらされている最中だというのに、バンギラスに犯されているミュウを見て、「いいなあ、気持ちよさそうだなあ」と羨ましくもなったりした。だけどこっちもこっちですげえんだ。ミュウさ、せっかくそんな体してるんだ。あとでこっちも試してみろよ。
 おれは、犯されている。犯している。あるいは奉仕し、あるいは愛玩され、あるいは利用し、あるいは慰める。
 しかし、いくら言葉をすり替えたところで意味はない。つまりそれが、結局は仲間との睦みあいの比喩になってくれるなら、なんと言ってもよい。
 比喩と言ってしまえば、以前にいっしょに戦ったランドロスなどは「なんだ、また迂遠な比喩を繰り返すのか」、そんなふうにからかうだろう。
 今はそんなこと、思い違いも甚だしい。逆に問いたい。この世になにかの比喩でないポケモンなど、ただの一匹もあるだろうか? もし世の一部にでも、比喩でないポケモンが存在していれば、すべての観念は詰問に耐えられなくなる。抵抗力を失ってしまうのだ。我々自身が知るところの、真実の視線に、四六時中でも怯える日々が続くだろう。
 それゆえに、ポケモンの世界観というのは十割まで比喩で建築されている。人間の言語に括られた現象的生物。だが、そうは言っても、それを虚構だと自問して、後ろめたく思う必要などないのだ。真実でさえも、我々の比喩が産み落とした抗体にすぎない。
 ただ、どんな比喩でもいいとしても、おれは「交尾」というこの行為に、特別な執着と至福を抱えずにいられないらしいのだ。
 おれに限った話ではない。オスはいつのときも交尾に執着して頭を悩ませ、メスは交尾を神聖視して自身に逆説的な価値を付与する。あらゆる生物はとかく交尾に感慨を抱えている。それこそ古来から続けられた系譜なのだ。
 もちろん、交尾の相手は選ぶべきで、その精神は尊ばれるべきだ。観念、責任、都合、果ては裁きと罪に至るまで、おれがいくら比喩から逃れようとした形容を埋めたてたところで、やはりなにもかもが単純に巡ってくれる訳ではないらしい。現におれは、一時的な満足では納得できずにもがいていたし、自分自身の価値を認められず、苦しめられた。
 おれには、すべての砂漠を土地として掘り進めるしかないのだ。鍬が折れても、新たな鍬を作り直して……
 そんな姿が仲間にどう映るのか、波導をもってしてもわかりはしない。抽象界を言語にデコードする機能は、波導にもない。ただ、そのようなおれにひと欠片でも愛情を感じてくれるなら、おれは、愛してる、と言いたかった。おれもおまえを愛してるんだと。その表現方法がエッチというのは行きすぎな感があるとしても、正直なおれの想いである以上、しょうがない。
 ああ、ヤりたいな、と。
 それが、おれができる最効率の、みんなへの恩返しなのだ。
「お゛ッ……え゛……!」
 ザシアンの亀頭球が捩じこまれ、尻というよりも腹に、猛烈な勢いで種付けされる。ゼラオラのイラマチオも相まって、なにをどうしようとこみあげるのは吐き気だった。どれだけ快感に頭がおかしくなっていても、そこは誤魔化されてはくれなかった。おれは目でゼラオラに訴えかけ、かぶりも振った。しかしゼラオラもかぶりを振るのだ。吐いてもやめないと、バンギラスと同じことをゼラオラを実行するつもりらしい。そしておれはちょうど、腰を揺さぶるホウオウによって、亀頭球ばかりを総排泄腔で扱きたてられているところだった。もう気持ちいいやら気持ち悪いやら、訳がわからない。
「ひッ、ぎゅッ……!! お゛ぶッ……!!」
 じゅぼじゅぼと感じやすいポイントだけをおまんこされまくって射精させられながら、せぐりあげてひくつく喉をトゲチンでこじ開けられると、もう耐えられない。
 おれは吐いた。
「ふふ、イきながら吐いてもうたか。器用なやっちゃ。かわいそうに、苦しいな。けど、かわいいで」
 吐いても褒められるのか、おれは。ホウオウは頭がおかしいのかもしれない。いや、伝説や幻の連中なんか、大抵のことではドン引きなんかしないのかもしれない。しかしおれはバンギラスのデカマラをディープスロートさせられても、ゲロなんか吐いたことはなかった。とはいえS字越えとイラマチオを同時に受けたのは、さすがに初めてだった。吐いてしまうと、もうだめだ。腹の中にどぷどぷ注がれるザーメンの逆流も堪えきれない。
「ら゛、めえ……も、も゛れッ……! うんひ、れちゃっ……!」
 なんとか振りほどこうにも、下半身を汚物に汚しながらゼラオラが離してくれない。ぐぎゅうう、と腹が嫌な音をたて、性感と錯覚しようもない強烈な便意になって、亀頭球が栓をしたアナルから、ぶちゅ、ぶぴ、と汚らしくなんらかを排泄してしまった。その恥ずかしさといったら! 一生のお願いだから、中出しされた精子が溢れただけであってほしい……
「イくぞ」
 ヤヤコマがさえずるような端的さで、ゼラオラが呟く。せめてと思い、一滴も零さぬよう吸いついた。
「ワシもイくで」
 射精するちんぽを絞り尽くすようにキツく狭まった総排泄腔に、どろりと熱い精子が溢れ出てくる。ああ、ザーメンまみれのおまんこを犯したらとても気持ちいいのだろうなあと思いながら、喉から口へ広がってくる青臭さを、トゲチンごと必死に嚥下した。
 向こう側では、どうやらイッた後のミュウのチンポをバンギラスが握りこんでいじめていた。潮吹きさせられているらしい。あっちもあっちで失禁しているのか。おれたちは本当に、通常のプレイで満足できなくなるんじゃないだろうか……しかもそれをだれも、少しも厭う素振りを見せないのだ。
 どうかしていると思うよ。実際さ……
 ここから第三ラウンドを始めるかどうか以前に、さすがに休憩は必要だった。なによりまずは、ゼラオラに水浴びをさせなければいけなかった。どんなバイアス越しであろうと、吐瀉物のにおいは悪臭に違いなかったので。




 ダイジェットでは追いつけない「世界」がある!!
 実を言えばそれは、どこかの名のあるトレーナーがバトル中に口走った言葉だそうだ。しかし現実、そんなものはおれの心のよりどころにもならない。稀に、運命が気まぐれを起こしたような3タテを演じることがあったとて、現実、基本的にポケモンバトルの神様はすでにルカリオに興味がない。
 現環境に対するおれは、いつのときも貧弱なヨワシの心境だった。脆弱な生き物の命は海が握っている。波が漁船やサメハダーが運ばれてくれば、たった一匹のヨワシはそれだけで死んでしまうしかない。
 おれは、伝説のポケモンや幻のポケモンたちの、絶望的な支配力と断絶力を常に感じとっていた。それは無論、仲間たちに対してもそうだった。
 ホウオウにザシアン。ミュウにゼラオラ。ヨワシなりに、感じとることはある。それはヨワシがサメハダーに感じる格の違いというやつだ。
 だから、気軽に声なんかかけてしまっていいのかと、今でも少しは思う。
「ゼラオラ」
 ――ある日の夜。
 ゼラオラは、一匹でこっそりとキャンプから離れて煙草を吸っていた。トレーナーに買い与えられた訳でもあるまいに、いったいどこでそんなものを手に入れたのだろう?
 おれに見つかって、ゼラオラは苦い顔をした。
「煙が見えたから……来たんだけど」
「オレだとは思わなかったか?」
「いつからなんだ」
「遊びだよ。頻繁に吸っちゃいない」
「やるならやるで、見つからないようにな」
「おう」
 おれは規律みたいなものには甘い。それを気にするのは、トレーナーの世間体が関わる時だけだ。
 隣に座ると、ゼラオラは煙草とライターを渡してきた。おれは、とりあえず煙草を咥え、ライターで火を点けると煙を肺に吸いこんだ。
「おえ……」
 おれのようすを、ゼラオラは笑った。含むところの無い、ただのご機嫌な顔だった。
 おまえには嫌われているかと思ってたよと、言おうかと思って、結局やめた。以前の態度の理由が気になりはしたが、わざわざ明かされずとも想像はできた。
 ゼラオラなりに、気を遣っていたのだと思う。幻のポケモンといっしょだと、おれはいつも、ヘタクソな擬態しかできないウソッキーのざまだったから。優しくしてやるべきか、素っ気なく扱うべきか。その上手い塩梅が測れなかっただけなのだ。
 あの交尾のあとで、ミュウが言った。
 ――いや、楽しかったじゃないか。種族だの性別だの、お構いなしに盛りあがってさ。だから、きみね、もう少し気をつけなよ。自虐も行き過ぎると滑稽だ。
 月は明るい。満月だった。ゼラオラというのは、なかなかに月の夜が似合うポケモンだった。
 しかしおれが夢想するところでは、どれだけ明るくとも捕らえようとすれば月は逃げ出してしまうだろう。
 本当はわかっている。
 相棒枠としてパーティにいられるだけでも、ルカリオが手にするには過ぎた幸運である。だからこそ、おれは選出されたバトルで、常に敗北してはならない。トレーナーを、仲間たちを、勝利させなければならない。いや、負けることで得られるなにかも、それはあるだろう。だけど、そんな理想を通すほどの超越なんて、おれには手の浸しようがない。おれはもっと即物的だ。俗っぽく勝利だって欲しいのだ。
 秋の夜は寒かった。寒暖を繰り返しながら、季節は徐々に変わってゆく。今は前者が幅を利かせはじめる気配があった。終わりの季節の足音が、おれたちの毛先に触れていた。
「また、やりたいか?」
「……なにが」
 おれはとぼけた。
 しかし、ゼラオラがなにを言っているのかは明白だ。ゼラオラはにたりと笑っている。以前は見られなかった狡猾さだ。
 これだから、幻のポケモンってやつは。その白々しさと、自分のとぼけ方がいやになった。
 もっとも、その駆け引きに侮蔑と猜疑はない。ゼラオラの信頼の証だった。これまではそういうふうに振る舞わなかったのだから。それを、信じることだ。十割の解釈で。生き物というやつは、心を皮膚の下に隠しているので、簡単にそれを暴いたりはできないものだ。
「また、やろうな」
 なぜ、体に情熱を覚えるのかといったら、おれがヨワシだからだ。サメハダーの力強さを、脆弱だからこそ憧れで見ることができる。あるいは単に、非力への当てつけなのかもしれないが。それがポケモンバトルの神様の嫌がらせなのだ。
 それでも、ポケモンバトルがなければ、おれたちは出会うことさえなかっただろう。
「うん」
 ゼラオラの肩に、頭を載せてみる。心は、波導で読むんじゃない。皮膚から直接、感じとらなければならない。
 砂漠といわず、すべての土地を掘り進め、同じことを繰り返す……そうして鍬にした菩提樹の梢が悲鳴を発するまで、なにかなどというものは決して見つかりはしないのだ。
 ゼラオラの腕が、頭を抱いた。
 おれはようやく、砂漠になにかを見つけだすことができたのかもしれない。少なくともおれは、そのことを信じた方がいいのだと思う。


  お前今日
  けつあな確定
  ご褒美に
 (季語なし)

  禁伝幻にファックされるルカリオを書いてよいという免罪符のようなレギュレーションだったので、SV発売前に書いていたものです。
  いじっぱりA252S調整余りH。選出率は、まあ、はい。
  
  てか前作の5Pでもキツかったのに6Pとかマジ無理(諦め)

 



 

 


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Last-modified: 2022-12-14 (水) 16:44:13
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