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ZAFFIRO DEL MESE RUBINO SOLE Ⅱ

/ZAFFIRO DEL MESE RUBINO SOLE Ⅱ

桜花

前話・ZAFFIRO DEL MESE RUBINO SOLE Ⅰ

「…?」
 気が付くとブラッキーのヨハンは、自分の自室で朝を迎えていた。
「夢…?」
 ヨハンは昨夜の事は夢かと考えていた。その時…
「ヨハン、起きている?」
と、其処に双子の弟のシャワーズのミシェルが、部屋に入ってきた。
「ん、ああ…今起きた所…」
「そう。朝ごはん出来てるから、食べよう」
「ああ…」
 とりあえず考えるのは後回しにして、ミシェルの作った朝食を食べる事にした。因みに夕食の担当はヨハンである。

※             ※

 朝食を食べ終えた二人は、兵士養成学校であるガーディア・ナイトの教室に向かった。
「おはよう」
 ヨハンが教室に入ると、ルカリオのルイズ、グラエナのガイル、ジュカインのディル、レントラーのギリルが出迎えた。
「ヨハン、昨日来てたんじゃないか?」
 机に鞄を置いていると、ルイズがヨハンに話しかけてきた。
「へっ? 何処に?」
「何処にって、昨日お呼ばれしたパーティーだよ。ただ僕が見つけた時には、ヨハンは眠っていたけどね」
「眠っていた?」
「連れてきたコジョンドの牝性の話では、屋敷の中を迷っている内に、うたた寝してしまったらしいけど」
 そう笑顔で言うルイズであったが、その目は笑っていなかった。
「……」
 ヨハンはルイズのその様子を気にしながらも、前夜の事を思い出していた。
『あれは夢じゃない? 僕は王女様と会っていたのか…』
 そんな事を考えている内に、始業のベルが鳴り、ヨハン達は席に着いた。


※            ※

「ハムッ!」
 ヨハンはガーディア・ナイトの敷地内のベンチで、一匹購買部で購入したサンドイッチ頬張っていた。何時もならミシェルが一緒に居て食べるのだが、ミシェルには『戦術で考えたい事があるから、一匹にして欲しい』と頼み込み、今はヨハン一匹で居るのであった。勿論それは嘘であり、本当に考えていたのは、前日の夜の事であった。
「何で王女様はあんな事したんだ…しかも稼ぎ場所まで失ってしまったし…」
 そう呟いたときだった。
『あーたーらしーい あーさがきた きーぼーうの あーさーだ』
 別に星人を倒しに行く訳でもないのに、聞き覚えのある音楽が流れた。
「ん? メール? ミシェルからかな?」
 ヨハンはそう思い携帯を取り出して、メールを確認してみた。それは…
「お、王女様から…?」
 それはヴェネイル王国の王女・エリアからのメールだった。
『御機嫌ようヨハンさん。
 昨日は突然気絶してしまったので、驚きました。
 ご友人のルカリオの方にお願いして、運んでいただきました。
 今夜、昨日ヒルダと遭遇した場所にて、ヒルダを向かわせますので、どうぞいらして下さい』
 それがエリアからのメールであった。
「王女様からのお誘い…受けるべきだよな…受けなきゃ昨日みたいに、強引に拉致される可能性もあるし…でも、僕みたいな一般人が王族と親しくして良いのか…?」
 そう小さく呟いている時であった。
「ヨハン」
 突然声を掛けられ顔を上げると、其処にはルイズが居た。
「ルイズ…」
「ヨハン…ちょっと良いか?」
「…うん」
 ヨハンが承諾すると、ルイズはヨハンの隣に座った。
「ヨハン、実は昨日の事なんだが…」
 ルイズが切り出してきた。
「昨日、ヨハンがコジョンドに連れられているのを見て尾行したんだが、ヨハンが連れ込まれたと思わしき部屋の近くで、そのコジョンドに捕まってしまったんだ。その後個室に軟禁されたんだが、暫くするとコジョンドが眠っているヨハンを連れてきて、今朝皆に話した事を話せと言われたんだ…」
「……」
「ヨハン。一体何が起きてたんだ? 僕で良ければ相談に乗るが…」
 どうやらルイズは、コジョンド‐ヒルダ‐に攫われた事が、何か重要な事ではないかと心配している様であった。実際に起きている事は大変な言葉なのだが、ヨハンはルイズを心配させない様に言った。
「いや、ただ単にパーティーに参加しなかったから、強引に連れてこられただけだよ。其処でパーティーの主催者である王女様と会っていたんだ」
「王女様と!?」
 冷静なルイズが驚いた表情を見せた。
「それで話している内に、眠くなってしまって、眠ってしまったんだ」
 半分は真実、半分は嘘の話をルイズにした。ルイズは何処か納得いかない様な顔をしていたが、ヨハンはこの話を切り上げる事にした。
「兎に角、ルイズが心配する様な事は何もないから。じゃあ僕は教室に戻るね」
「お、おいヨハン」
 ルイズの止める声も聴かずに、ヨハンはその場から去っていった。ヨハンは二つの事を考えていたのであった。一つは今夜会うエリアとの事。もう一つは自分の学費の新たな稼ぎ所を見つける事であった。

 ※           ※

 一方その頃大学の敷地内に居るエーフィのエリアは、キュウコンの左京から渡された、ヨハンに関する資料を読んでいた。
『ヨハン・ミネベア 一六歳 牡性 天空歴・一九九四年生まれ、七月十二日生まれ、同日双子の弟のミシェル・ミネベアも誕生する。
 両親は、ヴェネイル王国の首都から少し離れた街で暮らしており、ヨハンはミシェルと共にガーディア・ナイトの寮に住んでいる。』
 短く纏められている資料に目を通すと、次はコジョンドのヒルダが集めた資料を見てみる。
『学業の成績は優秀であり、クラス委員を受け持っているが、やや素行不良な所もある。
 ガーディア・ナイトに入学する際、入学試験を全て首席でクリアしており、学校側からは期待されている。
 学生生活では数名の友人等に恵まれており、特に弟との関係は良好である。かなりのゲーム好きであり、様々なテーブルゲームにおいて勝利を収めており、一部の情報では戦闘ですらゲーム感覚で行っているという。
 現在は表向きはミシェルと共に、喫茶店でアルバイト兼客とのゲーム勝負を行っているが、裏では賭博を行っているBARに夜な夜な通っていた。これに関しては私の方でどうにかしましたが、また新たな危険な行為を行う可能性が有り』
「……」
 エリアは無言で資料を傍らにあった鞄にしまうと、携帯を取り出し何処かへと電話をし始めた。
「…ヒルダ? 少し頼みたい事があるの」
 エリアは電話越しに、ヒルダにある指示を出した。

※           ※

「…ハン君…ヨハン君」
「あっ…」
「君の番だよ」
 チェスの対戦相手のヨルノゾクの老人が、ヨハンに自分のターンである事を促してきた。
「すみません。ちょっと考え事をしていて」
 そう言いながらヨハンは、コマを進める。
「考え事をしていても、君の強さはなかなかだね」
「そう簡単に僕は倒せませんよ…チェックメイトです」
 そう言いながらヨハンは、相手のキングのコマの前に自身のコマを置いた。
「今回も負けか…やはり君は強いね…」
「ヨハン。ゲーム終わったなら、こっち手伝って!」
 カウンターに居るミシェルがそう叫んだ。
「分かったよ」
 ヨハンは老人に一礼すると、コマを片付けてからカウンターに向かった。その時、入り口のベルが鳴って、一人の客が入ってきた。
「いらっしゃい…ませ…」
 ヨハンはその人物を見て、言葉を止めかけた。何故ならその人物はヒルダであったからだ。
「ねぇヨハン。あの人って…」
 どうやらミシェルにもヒルダが分かるようであった。
「…僕が接客するよ」
 そう言ってヨハンは、ヒルダの腰を掛けた椅子の場所へと向かった。
「ご注文は何でしょうか?」
 何事もなかったの様にヨハンは、ヒルダに注文を求める。
「…ブラックを一つ」
「畏まりました」
 ヨハンが注文を受けてその場から離れようとした時、ヒルダは一枚の紙を差し出してきた。ヨハンはそれを無言で受け取った。
 カウンターに戻ると、ヨハンはその紙を見た。
『今日の十一時頃、昨日の場所に迎えに行きます』
 そう紙には書かれていた。ヨハンはその紙を着けている四足用のエプロンにしまうと、注文されたブラックコーヒーを伝える為に、マスターに向かった。

 ※           ※

 その夜、ミシェルが寝静まったのを確認するとヨハンは、パソコンを操作して何時もの様に監視カメラにダミーの映像を流すと、素早く寮を抜け出し、塀を飛び越えて、夜の街へと消えていった。
 やがてあのBARの近くまで来ると、辺りを見回しながら、念の為に赤いコンタクトを着けて、サファイアブルーの瞳を通常の紅い瞳に偽装した。その間ヒルダが居ないか見ていたが、どうやらまだ来ていない様であった。
 前日エリアから渡された懐中時計を見てみると、僅かに時間が早かった様である。ヒルダが来るまでの間、ヨハンは新しい夜の仕事を考えていた。
(賭博場は手が回っていそうだし…やっぱり娼館しかないかな…前に街を歩いていたら、娼館の名刺を貰ったし…そういえば、前に見たアニメか漫画でこんなのがあったな…)

※                ※

『ルルル~ル ルルルルル~ ペッティングまでならいいんじゃない』

※                ※

(どんな店だぁぁぁ!!! ただの風俗店のチラシじゃねぇか…ってツッコミもあったけど、まあペッティングくらいなら僕でも構わないけど…ホントは体売るなんて嫌だけどさ…)
「何をお考えなのですか?」
 色々考えている時、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると其処には、何時の間にかヒルダが立っていた。
「…誰かさんの性で、パァになったので、次の稼ぎ場所を考えていたんです」
 嫌味を込めながら、ヨハンはヒルダに言った。ヒルダはそんな事を気にした様子を見せずに、お辞儀をした。
「お待たせしましたヨハン様。これからエリア様の所にお運びします」
「…いや自分の肢で歩くから良いですし、子供じゃないんで」
 そう言ってヨハンは、エリアが居る屋敷の方角へ歩こうとした。しかし…
「どうしても拒否しますなら…昨日と同じ手段でも構わないと、エリア様からお窺っています」
「……」
 それは即ち、強制的に気絶させて運ぶという事であるとヨハンは察する事が出来た。勿論昨日と違って不意打ちを受けている訳ではないので、ヨハンでも交戦を行う事は出来る。しかし此処で騒ぎを起こせば間違いなく騒動になり、最悪ガーディア・ナイトに知れ渡ってしまう事になってしまう。更にはヒルダの実力がどれ位か分からないという問題もあった。
(王女様の侍女をやっているくらいだから、相当の実力は兼ね備えていると考えた方が良いな…)
「分かりました。僕を運んで下さい」
 ヨハンにはヒルダと戦っても勝てる可能性もあったが、余計な戦闘を行うのは愚策と考え、大人しく従う事にした。
「ありがとうございます。では」
「きゃあ!?」
 目にも止まらぬ速さでヨハンを抱きかかえたヒルダ。それによりヨハンは牝性の様な声を上げてしまった。
「では行きますので、しっかりとお掴まり下さい」
 ヒルダは淡々とした声で述べると、自身の身軽さを活用して、建物を屋根を乗り越えて屋敷へと向かったのであった。

※            ※

 十数分間ヒルダに抱えられながら夜の街を飛び回っていると、やがて大きな屋敷が見えてきた。
「あれが、エリア様が居る屋敷…昨日僕が連れてこられた屋敷ですか?」
「そうです」
 ヒルダは淡々とした口調で返した。やがてヒルダは屋敷にある広大な庭に着地すると、其処で漸くヨハンを解放したのであった。其処には待っていた人物が居た。左京である。
「ようこそ、ヨハン様」
「どうも。左京さんがエリア様の所に案内してくれるのですか?」
「ええそうですよ。ささっ、此方へどうぞ」
 此処まで運んできたヒルダとは対照的に、左京は明るい雰囲気を出していた。
「いかがでしたか? ヒルダの移動方法は?」
「少し気持ち悪くなりました…昔、オカンにジャイアントスイングを食らった時よりはマシですが…」
と、少し体調が悪そうな様子を見せるヨハン。
「そうですか…でもエリア様とお会いすればきっと良くなる筈ですよ」
 事実上他人事なので、左京は気楽な口調で言う。
「それでは、ご案内します」
 そう言うと左京は、九つの尾を振りながら屋敷へと向かっていく。その時ヨハンは、何時の間にかヒルダの姿が無い事に気づいた。
(…姿は見えないけど、気配は微かに感じるな…何処かで僕を見張っているのか…)
「どうしました?」
 来ない事に不審に思ったのか、左京が声を掛けてきた。
「いえ、何でもありません」
 そう言うとヨハンは、左京の後に付いて行った。



まだ続きます。コメントあればどうぞ




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Last-modified: 2020-07-18 (土) 01:38:40
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