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Lost Mine ~共に歩む者~

/Lost Mine ~共に歩む者~

また半年ほど掛かって三話目でございます。多分こんな作品があった事を覚えている人は居ないと思いますが…。
かなり鈍足ではありますがゆっくり進んでいきます。お読み頂けば幸いです。
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「うむ、やはりお前の操縦が1番良い。こうして寛げるこの機も悪くない」
「だからって足伸ばして乗らないでよ。しばらくぶりだからって全然変わらないんだから」

 青空を横切りながら順調な航空を続ける貨物機、そのコックピットでは二人の女性によって話が花を咲かせていた。
一人はパイロットであるフウロと呼ばれる女性。もう一人の名は……アイシャ・ベルナデット。

「にしても、なんであの子は貨物庫の方に入れたの? ボール持ってるわよね?」
「あれはちょっと特殊でな。ボールに入れられないのだ」
「ボールに入れられないポケモン? 何よそれ?」
「あれは元人間だからな」

 フウロが思い切り操縦桿に頭をぶつけた。突然とんでもない事を言われたのだから分からなくもない反応だ。

「ひ、人だった!? 何よそれ!?」
「少々手違いがあってな。それを治す為にイッシュのバーンド教授に情報提供をしてもらうつもりで帰るのだ」
「手違いって、何がどうやったら人がポケモンになるのよ!?」
「こら、前を見て操縦しないか。仮にもお前は鳥ポケモン使いであろう?」
「へ? わぁぁ!?」

 貨物機にぶつかりそうになったキャモメを慌てて避けて、すぐに姿勢を戻す。こんな事が出来る辺り、パイロットとしての腕は間違い無く一流だろう。
が、やはりこれだけ無理をすると心拍数は上がるのだろう。明らかに顔が引きつっている。

「も、もうちょっと早く教えてよ……それにあたしポケモンジムのジムリーダー! 仮にもって言わないで!」
「そうだったのか? 出世したものだな」
「あそっか、なったのってアイシャが旅に出てからか。何年だっけ?」
「五年……八年だったか? かなり久しく帰ってなかったな」

 遠くを見るような目をした後、その目は閉じられる。被った帽子を更に深く被り、その表情は見えなくなった。

「八年、か……」
「あ……ご、ごめん」
「気にするな。理由はどうであれ、いずれ帰ってくる事にはなったんだ。その時が来たに過ぎんよ」

 自分が座る席に体重を預け、手を前に組む。その様子をフウロは横目に見て、それ以上の言葉を交わす事はしなかった。
静かになったコックピット内を、静かに時が流れていく。空は、以前として青く広がっていた……。



 貨物機が発着場に到着した時、辺りには夜の帷が降りていた。
穏やかな風が吹き渡るこの町の名はフキヨセ。イッシュポケモンリーグ公認ジムの一つがあり、名物はこの発着場とそこから飛び行く航空機達である。

「……久しいな、この空気」
「そりゃそうでしょう。久々の里帰りなんだから」
「確かにな。さて、奴は無事か」
「……本当に喋るの? さっき普通に元人なんて言われたけど、ポケモンが喋るなんてそもそも信じられないんだけど」
「百聞は一見に如かずと言うだろ。実際話せば分かるさ」

 貨物庫への扉が開くと、フラフラとした足取りでウインディが出てきた。始めて乗った飛行機で貨物庫に詰め込まれればどうなるかは分かりきった事だろう。

「おぉ、大丈夫か?」
「り、リバースしないようにするのが限界です……」
「嘘ぉ、本当に喋ったわ」

 フウロの声を聞いてばっと口を押さえた。ちらりとアイシャの方を見ると、『何をしている?』とでも言いたげな顔をしていた。
その様子に口を押さえるのを止めて溜め息を一つ。

「……博士、俺が喋れるのって知られると不味いんじゃないんですか?」
「ふむ、まぁ一般人にならな。だが、こいつなら問題は無い。そもそも全て話したしな」
「うっわぁ、本当にウインディなのにちゃんと喋れるんだね、君。じゃあ、やっぱり人だったの?」
「あー、今日の昼頃までは、はい。あっと、自己紹介しないといけませんね。今はこんなですけど、奥村ハジメって言います」
「あ、ありがとう。私はフウロ、アイシャの子供の頃からの友達だよ」

 ウインディがぺこりとお辞儀をするのを見てフウロも返す。丁寧さに意表を突かれたのか、少し慌てた様子だ。
一先ず立ち話もなんだと言う事で一行はこの町にあるフウロの家に行く事になった。時刻が夜になっているのだから無難な対応だろう。
歩きながらウインディは不意にフウロの方を向く。そして、至極当然な疑問をぶつけてみた。

「あの、随分俺に普通に接してくれてますけど、妙だとは思わないんですか?」
「ん? まぁ~ちょっとは変な感じがするけど、話し方も丁寧だし、アイシャから何があったかは聞いたしね。アイシャが嘘つかないのは昔からだから」
「は、はぁ……」
「と言う訳でフウロには話した訳だ。事情を理解している協力者というのは多い方がいいからな。フウロならば信頼に足る」
「そう言ってくれるのは嬉しいけどね。唐突に連絡されるのは困るよ? 流石に」
「うむ、次回からは多少気にしよう」

 アイシャの様子にウインディとフウロが溜め息をつく。悪気が無いのが余計に手が負えないのがアイシャの悪いところだろうか。
そのように話しながら、一行はフウロの案内で一件の家の中に入っていく。

「え~っと、とりあえず父さんも居ないからハジメ……君? でいいんだよね? 自由に寛いでよ」
「ありがとうございます。あ、俺の呼び方は名前じゃなくてウインディでもいいですよ。今はそうですから」
「そう? 名前があるならそっちで呼んだ方がいいかなーって思うんだけど」
「フウロの好きな方で呼べばいいだろう。町中で名を呼ばれるのは具合が悪いがな」
「ふんふん、分かった、そうする。あ、ちょっと着替えてくるからアイシャも適当に寛いでて」
「そうさせてもらおう」

 自室なのであろう部屋にフウロが消えるまでを見て、ウインディはアイシャの方へ振り返った。

「良い人そうですね、フウロさん」
「でなければ君の事は話さんさ。子供の時分からの付き合いだからな、気心を多少分かるのだ」
「へぇ……」

 被っていた帽子と、羽織っていたコートを外してアイシャはラフな格好になる。と言っても、ネグリジェ姿を見ているウインディにはそれよりも数段にまともな格好に見えるだろうが。
置いてあるソファーに座り込むアイシャの横に移動して、伏せる。どうやらこれが1番楽な姿勢なようだ。

「そうだ博士、ここってもうイッシュなんですよね? ここはイッシュの何処なんですか?」
「フキヨセという町だ。目的のヒウンまでは途中に町が二つ程あるから……着くのは三日後になるだろうな」
「結構掛かるんですね……まぁ、もう開き直ってしばらくこのままで居る覚悟は出来ましたけどね」
「しかし、そこから今回失敗した原因を探り出して、更には君の元の遺伝子情報を与えた培養体を作らねばならない。なるべく早期に戻してやりたいが、そうそう失敗もしてられないから万全を期さねばならん」

 すっとアイシャがズボンのポケットから取り出したものは、小さなビニールの袋だった。その中には、数本の髪の毛が入っている。
奥村ハジメという人物の、現在では唯一の遺伝子データとなる物だろう。もし紛失する事があれば、二度とハジメという人物が地面を歩く事は無くなる。

「これも貴重品だ。君が人だった事を証明する数少ない物の一つだからな」
「無くさないでくださいよ? もう出そうと思っても出せませんから」
「分かっているさ。それにしても、大分その体にも慣れたようじゃないか。まだ一日も経ってないのに」
「初日から散々走り回ったりしましたからねぇ。あ、でもポケモンになったって事は俺も技を使えるんですかね?」
「ん? そういえばそうだな。ふむ……よし」

 腰に巻いたベルトからボールを一つ取り、投げる。そこから出てきた姿はサーナイトだ。

「君達も気心が知れた仲だろう。講師には打って付けじゃないか」
『ん、ここは……どこなんですか、博士』
「イッシュの私の知人の家さ。今日はここに泊まる事になるだろう」
『なるほど。それなら、あの子達も出してあげたらどうですか? それに、どうやら挨拶しないとならない相手もニ匹ほど居るようですし』
「それもそうだな。あいつはこの家の中では少々きついだろうが、奴なら平気だろう」

 サーナイトに続いて、一つを残した全てのボールが放たれる。その数は三つ、中からはそれぞれのポケモンが姿を現す。
ブラッキー、ブースター、それとゴーリキー。ゴーリキー以外は見慣れない場所にキョロキョロとしてるが、ゴーリキーはアイシャに軽く会釈した後、その横まで来て正座をしている。

「おぉ? なんだ?」
「……主の傍に控え、有事に備えるのが某の役目だ、だそうです」
「なんと? お前もしかして、他の人間と共にあった事があるのか?」
「御意に、ですって」
「ほう、なるほど……まぁ、詳しい話は追々聞いていく事にするか。それよりも、サーナイトを出した要件を言わねばな」

 ブラッキーとブースターに状況を説明していたサーナイトが、その言葉を聞いて振り返った。

『あ、そういえば。どうなさったんですか?』
「いや、用があるのは俺って事になるのかな?」
『ハジメが? どういう事?』
「知っての通り、こいつは元々ポケモンな訳じゃない。だからポケモンとして使えるであろうものへの知識も無い、と。こう言えば分かるか?」
『そういう事ですか。確かに、技が使えないのはポケモンとして自衛の力が無いって事だしね……』
「って訳で、教えてほしいんだけど、いいか?」

 腕を組んで、顎の辺りに指を当てながらサーナイトは少し考え込んだ。その間に、何故かブラッキーとブースターはウインディによじ登ってご機嫌になっている。

「何か問題があるのか、サーナイト」
『えぇ、まぁ……なんとかなるとは思うんですけどね。ただ……』
「ただ?」
『実際に技を使える場所に移動しないとなりません。ハジメが何を使えるかが分かってませんから』
「あ、そっか。俺ってボールに入ってる訳じゃないからステータスとかも確認出来ないのか」
「そうか、失念していたな。ふむ……」
「お待た……って、な、なにこれ!? 皆アイシャのポケモン!?」

 話をしている間にフウロが私服になって戻ってきたようだ。
水色のキャミソールと白のストレッチパンツのその姿は、動きやすさと容姿の美麗さを良く表現していると言えるだろう。
その姿に、ウインディは見蕩れていた。アイシャとは違ってやはりかなり女性的なカジュアルなファッションだ。

『ハ~ジ~メ~? どこ見てるのかしら?』
「ん? あれ、私の格好変だったかな?」
「え!? あ、いや、サーナ睨むなって! し、しょうがないだろ、だってフウロさん、その……す、素敵なんだから」
「おぉ、なかなか健全な青少年らしい反応じゃないか。それだけ人間性が残っていれば、その辺りの心配は無いな」

 ウインディの発言にフウロは多少恥ずかしそうにしている。その様子を見ながらアイシャは顔に僅かに笑みを湛えている。
が、このままでは話が進まない。初めに口を開いたのはフウロだった。

「あ、ありがとハジメ君。それはいいとして、どうなのアイシャ」
「あぁ、全員私と旅を共にする面々だ。出したら問題だったか?」
「うーん……まぁ、どの子も問題起こすような感じじゃないからいいわ。私も出しちゃおっと」

 そう言うと、フウロもまたボールを取り出して投げる。その数は、三つ。
それらはウインディの前で元の姿に戻っていく。二匹はそれぞれに鳥、もう一匹は蝙蝠のような翼を持ったポケモン達だった。

「うわぁ、どれも見た事無いポケモンだ。って、そっか、イッシュに生息するポケモンだから当たり前か」
「うん。左からスワンナ、ケンホロウ、ココロモリよ。仲良くしてあげてね」
「ここのジムリーダーのポケモンだ、どれも実力は折り紙つきだろうな」
「え!? フウロさんってジムリーダーなんですか!? すっげぇ!」
「そ、そんなに驚かれると照れちゃうよー。あそっか、ハジメ君もトレーナーだったんだっけ」
「はい! まさかジムリーダーと知り合えるなんて……あ、握手! は出来ないか、あー勿体無いなー」
「まぁ落ち着け、フウロとはいつでも話せるんだ。それよりも、今は解決すべき問題があるだろ?」

 アイシャが指差す相手をウインディが見ると、明らかな程に頬を膨らませてサーナイトがそっぽを向いた。完全にヤキモチだ。

「ご、ごめんサーナ! 機嫌直してくれよー」
『もう、知らない!』
「あらら……あのサーナイトって、もしかしてハジメ君の?」
「あぁ、今は私が預かってるがな。それとあのブラッキーもだ」

 必死に謝るウインディの上でブラッキーとブースターは楽しそうに笑っている。どうやらそっぽは向いているが、サーナイトも少しだけ笑っているようだ。
その様子を見て二人もつられて笑う。トレーナーと言うより、なんだか家族のような印象を受ける、そんな一時が流れていく。



「さて、この時間なら普通に表で練習しても大丈夫だって言われたから出てきたけど……」
「町中でそんなに派手に練習は出来ない。分かってるって」

 辺りはすっかり夜中となり、各家庭の窓からは明かりが漏れる。そんな時間となっていた。
サーナイトと対面するような状態でウインディは座る体制を取っている。その周りには、退屈だからついて来たであろうブラッキー達の姿もあった。

「それじゃあ、博士達は晩御飯を作ってるみたいだからとりあえず私達だけで始めましょう」
「あぁ、よろしく頼む」
「主からの言いつけにより、微力ながら俺も助成しよう」
「サンキュ、ゴーリキー」
「しかし、貴殿が元々は人間であったというのは誠の話なのか? どう見てもウインディにしか見えないが……」
「証明する方法もなぁ……人の言葉しか話せないし、その辺りで納得してくれないか?」
「……己の力の振るい方を知らぬポケモンというのも聞いた事が無いところであるし、そうしておくとしよう」

 話してみると、妙に堅い喋り方をするゴーリキーだった。態度も姿勢も堅実といった様子だ。
だが、話は分かるようでサーナイトとウインディも安堵したと言ったところ。後ろでじゃれあっているニ匹よりはあてになるだろう。

「それと、あなた達も力を貸してくれるってことでいいのかしら? えっと……」
「スワンナよ。ま、フウロから言われてるからね。よろしく」
「ケンホロウ。……よろしく」
「ココロモリだよ~。僕はどっちかと言うとあっちの子達と遊びたいな~」
「あぁ、じゃあココロモリはあっちを頼むよ。遊び相手が増えた方があいつ等も喜ぶし」
「いいの!? は~い!」

 三者三様ではあるが、こちらも友好的だ。トレーナーであるフウロもそうだったからかは定かではないが。
顔見せも一通り終わり、早速ウインディへの技講義が開始される。ポケモンとして生まれた訳ではないウインディには大仕事だ。

「そうね……まず、技って言うのが私達ではどういう物として扱われているかを説明しようかしら」
「何を使ってくれとかの指示はしてたけど、確かにそこから知らないと自分では使えないか」
「技とは、己の力を発露する術。我等が持つ力は一定の形を与えぬと他を凌駕する物にはならない」
「だから、ポケモンによって使える技は変わるのよ。種族ではある程度同じだけどね」

 そう言った後、スワンナは空を仰いだ後に口から無数の泡を放った。
放たれた泡はどれも素早く飛んでいき、一定の距離まで飛んだ後は弾けていく。

「今のは……バブル光線か」
「ご名答。これは私の力をまず水に変えて、それからそれを泡状にして放っているって事よ」
「力に属性と方向性を与えて放つ、一般的には特殊技ってカテゴリーになってるわね」
「なるほど……じゃあ、物理技は?」
「自らの力をその身に纏い、相手にぶつけるのだ」

 説明をしたゴーリキーはすっと構え、チョップで空を切って見せた。所謂、空手チョップという技だ。

「見た目こそ変わらぬが、ただの当て身の数段威力は上がる。身体に力を通しているため、その力による反動も無い」
「へ~、実際のポケモンじゃないとその辺りの違いは分からないよなぁ。説明されると物理技もただ動いてるんじゃないって分かるよ」
「人の目から見たら、属性が表に出ない物理技はそう見えるかもね。とりあえず攻撃用の技についてはこんなところかしら」
「後は、変化技か? あれはどうなってるんだ?」
「基本的には自身の力を変化させて出すって点は同じね。ただ、その力に属性よりも特殊な効果を乗せて発現させるって感じかしら」

 サーナイトが暴走したゴーリキーを相手にした時のようにリフレクターを展開する。うっすらと光る透明な壁が、他者からの力を遮る技だ。

「こうすれば、守り。鳴き声や睨みつけるのに力を乗せれば、強制的に相手の心理に影響を与えて攻撃力や身の守りなんかを下げたりも出来る。っと、ハジメはトレーナーだったんだから技の効果は大体分かるわよね」
「それはな。うん、結構奥深いもんだなぁ技って」

 概ね今までの話は理解出来たようだ。基礎知識は人、トレーナーで居た時にすでにあるのだから、この程度なら問題無かったようだ。
さて、技がどういった物か分かれば知識としての準備は十分だろう。次は実際にはどうやってその技を放つかだ。

「で、どうやったらそれは出せるんだ?」
「問題はそれなのよね……」
「基本、技は親が使ってるのを見たりして自然と出来るようになるものなんだけど……」
「異邦者とも言える貴殿では、ウインディになるまでの過程が違い過ぎる。そもそも如何なる技が使えるかも分からぬとなると……」
「正直お手上げ、なのよね……」
「えぇ!? そ、そんなぁ」
「だからこれは最終手段的な方法よ。ハジメが元人間であるって事を利用した、ね」

 サーナイトの一言に三匹が首を傾げた。……先ほどから一言も発してはいないが、ケンホロウはずっと皆の様子を見ているだけだ。

「ハジメ、ウインディについてはどれくらい知ってる?」
「え? うーん炎タイプで攻撃、特功どっちも高くスピードも高め。でも反面防御や耐久は低いから相手が調子付く前に倒した方がいいとか……こっちが戦うの前提にならある程度知ってるかな?」
「なら、使う技については?」
「メジャーなところは覚えてるかなぁ」

 ウインディの答えに頷くと、サーナイトは更に続ける。

「なら、それを使ってるところをイメージしてみるの。もちろん、自分がね」
「俺が……ウインディの使う技を?」
「なるほど。現にあなたは今ウインディなんだもの、思い描く技を使える可能性はあるわ」
「しかし、何を使えるかに当たるまでには相当な時間を要しそうだな」
「これしか方法が無いからね、やるしかないわ」
「そ、そうだな。イメージ、イメージか……」

 ウインディが目を閉じると、夜の静けさの中に風の音が吹き渡る。
その静けさに、サーナイトは息を飲む。スワンナやゴーリキーも目を離さずに見守り続けている。
その内に、ウインディに変化が起こった。その身の回りにパチパチと火の粉が舞う。辺りの空気が、それまでよりも暖かく、熱を帯びていく。
そして……カッとウインディが目を見開くと、その身を炎が包む。赤く、激しく。

「おぉ!? これは!?」
「な、なんて熱量!? ここまで強い炎、見た事無いわよ!?」
「ん? うぉぉぉ!? なんじゃこりゃあ!?」
「は、ハジメ!? 一体なんの技をイメージしたのよ!?」
「い、いや、ウインディと言えば……フレアドライブかなって。えーっと、ストップストップ!」

 ウインディの声に答えるように、何も無かったように炎は消えた。が、辺りには焦げたような匂いだけは残っている。

「はー、ビックリしたー」
「ビックリしたのはこっちよ。まさか、ハジメがあんなに強い炎を生み出す力を持ってるなんて……」
「エリートトレーナーが丹念に育てたポケモンだってあんな火力を出せるかどうか……あなた、本当に人間だったの?」
「だ、だが、使える技の一つはフレアドライブで間違いないようだな」

 辺りの様子を伺うと、とりあえずさっきのが騒ぎになるような事は無かったようだ。下手に人に見られていたら大事になっていただろう。
とりあえず全員が一つ深呼吸をし、場は落ち着いた。そして、改めて先ほどの炎を思い出す。

「ま、まず一つ技が分かったのと、ハジメの力が未知数に高いって事は分かったわね」
「お、おぅ」
「次に技をイメージする時は、心の中でセーブするようにイメージした方が良さそうね……下手をしたら火事になっちゃうわ。私が消せるけど」
「わ、分かった、やってみる」

 再びウインディが目を閉じたのを確認して、全員が一歩後退する。
再び訪れた静寂に、皆が固唾を呑む。今度は何が起こるのかと。
ウインディの目が見開き、大きく息を吸い込んだ。そして……空を仰ぎ口が開かれた時、そこには真っ赤に燃える炎の柱が出来た。

「えぇぇ!?」
「い、今のは!?」
「わーお……火炎放射って定番だよなーって……」
「あ、あれが火炎放射……大文字だと言われれば誰もが納得するような代物だったが……」
「うん、出した自分が1番びっくりしてる……加減したつもりだったんだけどなぁ……」

 最後の一言を聞いてサーナイト達の口が塞がらなくなった。このウインディ、どれだけの火力を秘めているのだろうか。
そして各々顔を見合わせて一つの結論に行き着く。これ以上の訓練は今は危険だと。

「ハジメ……今日はこれくらいにしておきましょう」
「え? あと二つは?」
「はっきり言って、町の真ん中で練習するにはあなたの力が強過ぎるのよ……火力を安定させられるようになるまでは、こういった場所で技を使うのは控えた方がいいでしょうね……」
「確かに、なぁ……」
「使いこなせるようになれば、自衛など赤子の手を捻るよりも楽な事となるだろう。力を行使出来ると分かったのだから今日は十分だろう」
「それもそうだ。よし、今日はお仕舞いだ。皆、俺に付き合ってもらって悪かった、ありがとう」

 笑うウインディの顔を見て、三匹の顔も緩む。強い力を持っていると知っても、彼は彼のままだった。優しい、奥村ハジメという者のまま。

「にしても凄かったなー。ウインディって凄いわ」
「ウインディが凄いと言うか……まぁいいわ。お腹も空いてきたし、戻りましょ」
「……見られてなかったのが救いね」
「確かに……あれでまだ力を秘めているのだから驚きだ」

 遊んでいたブラッキー達三匹に声を掛け、それらに遊ばれている様子を見ると、先ほど目を見張る程の力を見せつけた者と同一の存在なのかと疑いたくなる。
だが、それが奥村ハジメという人物がウインディという存在と重なった者なのかもしれない。
その考えは、今はたった一匹のポケモンの中に。『彼』という存在を見続けてきた者の中に静かに芽生えていた。



 遅めの夕食を食べながら、サーナイトとウインディはあった事を報告する。その場には、窮屈そうにしながらもギャラドスも加わり現在のメンバーが全て揃っていた。

「なんと、そんなにも強力な炎を?」
「自分でもびっくりしましたよ。あんなの出せるなんて」
『普通のポケモンが受ければ火傷で済むとは思えませんね。よっぽどの事が無ければ全力では使えないでしょう』
「スワンナも頷いてるって事は、よっぽどみたいね。ちょっとバトルしてみたいかも……」

 フウロの一言に全力でスワンナは首を横に振った。水タイプを有しているスワンナにここまで拒否されるという事は、よっぽどだろう。
スワンナの様子に苦笑いしながら、置いてもらった食事に口を運ぶ。慣れない所為か、かなり食べ難いようだ。
アイシャはその様子を見る。

「やはり食べ難いか?」
「ですね。それにやっぱりこう、犬食いってマナー的にも悪いでしょ?」
「……こういうの聞くと、やっぱりハジメ君って人なんだなーって思うね」
「ま、その辺りは我慢してくれ。なるべく食べ易いように考慮はする」
「うーん、サーナみたいにエスパーの力でも使えたら違うんだろうけどなぁ」
『無い物ねだりしても仕方ないでしょ。なんなら食べさせてあげようか?』
「遠慮しとく。飯くらい自力で食べないとな」

 サーナイトが少々残念そうにしてるのにも気付かずに、目の前の食事に向かう。まだまだ不慣れながらも、なんとかウインディの体に慣れようとしているのだろう。
先に食事を終えたアイシャは天井を少しの間眺め、それから明日からの予定を話しだした。

「明日はとりあえずホドモエまでは行く。出来ればライモンまで行きたいが……それは時間次第だな」
「電気岩の洞穴もあるし、そこからも結構距離あるんだよ? 無茶じゃない?」
「洞穴? そんなところ通るんですか?」
「あ、うん。一応中に道はあるから大丈夫だよ。ポケモン出るけど」
「出るんですか……」
『まぁ、これだけの面子が居れば問題は無いでしょう』
「戦闘はそれほど問題ではない。やはり1番面倒なのは距離だな」
「そりゃあ、アイシャだもんね」

 フウロの一言に、何故か妙に納得出来るニ匹だった。空港での様子を見れば、誰でもそう思うだろう。

「あのな、私の事を何か勘違いしていないか? 私は科学者だぞ?」
「そう言われても……」
『あれを見てしまうと……』
「ねぇ?」
「むぅ、まぁ、多少無茶は効くがな。全て任されるのは流石に無理だからな?」

 本来はそもそもトレーナーは自分でポケモンと戦うと言う事をしないが、アイシャの前にそのような常識は無いのだろう。
どうやら明日の目的地はホドモエシティで決まりのようだ。この土地に慣れていない者が殆どである事を考えても無難な選択だろう。

「うん! 明日はいっぱい歩かないとならないだろうし、早く休んでおかないとね」
「そうだな。……ん?」
「フウロさんは別に歩かないんじゃないですか?」
「え? 私ついて行くけど?」
「「なぁぁ!?」」
「最近ジムの方も暇だし、配送は私じゃなくても出来るしね。ってことで、私も行くからよろしくね!」

 そんなフウロの言葉を聞いて、ウインディもアイシャもあんぐりと口を開いて固まった。
どうやらもう本人の中では行く事で決定しているらしい。ライモンもヒウンも久々だと口数は更に増していく。
ウインディがアイシャを見上げる。表情で、諦めろと言ってるのが嫌でも分かる。
……こうして、イッシュでの一日は幕を下ろす。激動の一日を過ごしたウインディとアイシャはソファーとそのすぐ傍で寝息を立てるのにそんなに時間は掛からなかった。
そんな彼らの周りでは、それぞれのポケモン達が各々の楽な姿勢で休息に入っている。流石にギャラドスはボールに戻ったようだが。
一行は、新たにフキヨセジムリーダーのフウロとその手持ちのポケモン達を旅のメンバーに加えて、イッシュの地を歩み始める。
果たしてその道中に何が待っているのか……この時の彼らに、それを知る術は……無い。


後書きです
時間が掛かれば掛かるだけ内容が混乱していく……それにこの作品、BW2が出る前の設定でやってるので記憶の劣化が激しいです。む、難しい…。
かなりゆっくりとしたペースでしか執筆出来ませんが、これからもゆっくりと進めていければと思います。では、また皆様のお目に掛かれることを信じて……失礼致します。

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Last-modified: 2013-03-24 (日) 00:00:00
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