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防人、アオ:第四話:鏖【みなごろし】

/防人、アオ:第四話:鏖【みなごろし】

作者……リング
まとめページ……防人、アオ

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33:回復 


 アオ達防人は森に紛れ、ひたすら逃げた。アオは途中まで歩いていたが、徐々に腹の激痛が無視出来ないものになると、非常に高い熱を出してばたりと倒れてしまう。ちょうどそのころに、あらかじめ待機させておいたゴルーグをレードが呼んできたので、アオは一足先に湿原へ。
 湿原についたと同時にアオの治療が始まり、まずは突き刺さった矢を引き抜くところから。一足先にタブンネの癒しの波導をその身に受ける。途中からふらふらながらも自力で歩けるまで回復したミドリが遅れてたどり着いてからは、アオともどもタブンネの癒しの波導で治療を受ける。
 矢を受けた肩の傷はそれほど大きくもなく、レンガが舐め続け、タブンネが癒しの波導を送り続ける事で何とか治りそうだが、腹の子供にとってはもうどうにもならなかった。
 胎盤が破れ、今まで感じた事もないような激痛の中、痛みで硬直した彼女の腹はまさしく鋼のように固い。痛くない、痛くないと自己暗示をして何とか痛みを和らげようと頑張っているが、それもどれほどの効果があるかはわからない。
 倒れたときの強い衝撃でボロボロになった子宮からは血がとめどなくあふれ、血塊と胎盤と胎児がグロテスクに混ざり合った物体は直視に堪えない。
 胎児はコバルオンであったが、前触れもなく外の世界へ放り出されたその体は、どんなに泣かせようとタブンネが尽力しても、ついに声一つ上げる事なくその命の灯を消してしまう。そのうち、アオは失血により意識を失ったとほぼ同時に出血がやむ。
 死んでこそいなかったが、放っておけば間違いなく死ぬこの状況。癒しの波導をまだまだかけ続けてあげたいところだが、回復にエネルギーを使いすぎれば、アオはそのまま燃え尽きてしまいかねない危うい状況だ。
 無理矢理にでも食べさせなければと、爆発の怪我から回復したレンガとミドリのみならず、森中の超獣達がオレンやオボン、フィラといった木の実を集め、それは大げさなほど(うずたか)く積まれている。その山にある物をひとまず口にして、半分ほど消化されたものを反芻して、熱にうなされるアオへ口移しにするのが、満月の日から三日の間レンガとミドリの日課になってしまった。

 三日後、ぼんやりと目を開けたアオは、『ここは?』とだけ聞いて、『安全な場所だから安心しろ』とレンガに言われると再び眠る。ようやく意識が戻った事に安堵を覚えつつも、口移しでの献身的な介護は忘れない。
 二日経って起きたときは、ぼんやりとしながらも自分から食事を食べ、ゆっくりと流れる雲を見ながらずっと立ち尽くす。レンガとミドリがそれを遠巻きに見守っていると、アオは不意に声をかける。
「なぁ……二人とも……そこにいるんだろ?」
 何を話されるのだろうかと思うと、二人の体は震えた。自分の腹がすっかりしぼんで、乳も垂れ下がってしまったアオの体は、つまるところ最悪の形で流産を迎えてしまったわけだ。その顛末の事を尋ねられると思うと、なんと声をかけてよいのかもわからず二人の気分は重い。
「なんだ?」
 茂みの影かから立ち上がって、二人はほとんど同時にアオに尋ねる。
「迷惑をかけた事をまず謝っておこうと思ってな……次にお前らが『気にするな』というのはわかっている。だから、ありがとうとも付け加えておく」
 先に言いたい事を言われてしまって、二人は口が止まってしまう。本当に二人が『気にするな』と言おうとしていた事を可笑しく思いながら、アオは続ける。
「元気になってばっかりで少し悪いが、私はあの村の人間を、子供と老人だけ残して全滅させようと思ってる」
 殺意なんて全く感じさせないような穏やかな口調でアオは言う。
「なぜ……、なぜ、子供と老人だけ?」
 純粋に疑問で、レンガが尋ねる。
「皆殺しにするのもなんだしな。皆殺しにしても、新たに人間が住みつけば同じ事の繰り返しだろ? しかし子供を残せば、強い恐怖を植え付けてもらってくれる。そうして一生恐怖を伝えてくれるだろうからな……後世にも、ずっとずっと。だから子供だけ残すと言いたいところだけれど、子供だけじゃきっと生き残れない……育てる者が必要だ。
 だけれど、若い者が多いとまたすぐに子供を産んでしまう……老い先短い奴らに最後に一花咲かせてやって、あとは死んでもらえるくらいの年齢が望ましい。
 殺して、やれば、人間達も森を荒らそうとは思わないはずだ……」
「それどころか、今後狩りに森に入る事すら難しくなりそうだな。怖すぎて」
「人間が狩りに来るくらいなら問題ないさ……この森は肉食の超獣が少ないから、少しはメブキジカを間引いてもらわないと食料が滞るからな……でも、もうわかったんだ。人間が私達に対する畏敬の念を忘れたなら、恐怖で縛るしかないんだ。
 枯草を刈るように、(みなごろし)にしてやればいい。(アオ)という言葉は、『必死で戦う』事の他に、『皆殺し』という意味もあるんだ……それが私の名前に込められた願いであるのならば……親の願いに従ってみるのも悪くはなかろう」
「アオ……お前、正気なのかよ?」
 ミドリが尋ねるその問いに、アオはゆっくりと頷く。
「無論だよ。だって、これは人間からの宣戦布告じゃないか……何をされても、文句は言えないはずよ。人間の真意は知らないけれど……やったら、やり返される覚悟はいかなる生物にもすべからくあってしかるべき思考さ。そうじゃないと、虐げられた私達はどうやって抗えばいいというの?
 縄張りを越えたのはあっち。私達が縄張りを越えて田畑を荒らせば、彼らはメブキジカもバッフロンも狩り殺すし、だからこそ人間が縄張りを越えて狩りに来る事も許した。木の実を持ち帰る事も許した……私達は、対等であろうと思っていたというのに、恩を仇で返すのはあまりに仁義にかけているんじゃなくて?」
 どれだけの心境の変化があったのか、アオの中ではさも当然のように話が進んでいる。
「子供の事があったから、人間を恨みたくなるのもわかるが……でも、それはあんまりにも……」
「子供……?」
 アオが首を傾げる。
「何を言っているの、ミドリ? 確かに人間に邪魔されて発情期なのにまともに交尾出来なかったけれど……それで人間を恨んだりなんかしないわよ。人間の交尾を邪魔してやりたくはあるけれど、また今度子供を作ればいい話じゃないの……」
 そう言ってから、アオはミドリと口付けを交わす。驚いて目を見開き、とっさに後ずさったミドリを見てアオは妖艶な笑みを浮かべる。
「むしろミドリは今年こそ交尾が出来るかもって、ワクワクするべきじゃない? まぁ、今年発情期が来るかどうかはわからないけれど……でも、今度の発情期では頑張りなさいよ」
 コツン、と角を叩き合わせてアオはミドリを激励する。ミドリは角を叩き返す事も出来ずに呆然と、今の状況を理解しようとして無理だった。レンガと顔を見合わせても彼も首を振ってわからないと答えるばかり。アオはむしろ、そうやって戸惑う二人を見て困惑するばかりである。
「何? 私が寝ている間に男同士で何かあったのかしら?」
 その様子に不審を抱いて、アオは二人に尋ねる。
「そ、そういうわけではない。我は……その、意外に元気そうで何よりだと思っただけだ……」
 アオの問いに、レンガは戸惑いながら答える。
「それは、貴方達とタブンネのみんなのおかげでしょ? それと、木の実を集めてくれたみんなの……もうしなびてるものもあったけれど、あそこまで美味しいと思って木の実を食べたのは久しぶりだったわ」
 そう言って、アオは二度蹴りやアイアンヘッドのシャドーをする。どうも体に力が入らないらしく自身の体の自由の利かなさに首を捻る。やがて、少々悩みながらも二人の方をチラ見する。
「ずっと眠っていたせいか体が鈍っているわね……レンガ、ミドリ。軽く鍛錬に付き合ってくれないかしら?」

34:秋に 


「いいけれど、無理するなよ? まだ体に力が戻っていないんだろ?」
「わかってる。血が足りないっていうのが自分でもわかるから……」
 今すぐにも崩れ落ちそうな頼りない目つきで、首を揺らすように柔軟運動をするさまから覇気は感じられなかったが、戦いに臨むとなると彼女の威圧感は徐々に強くなる。実戦では、このスピードで心身を起き上がらせても、気合いを入れる前にやられてしまうが、今は練習試合だからとリラックスした彼女の振る舞いは優雅にさえ見える。
 やがて、気合いを研ぎ澄ませた彼女を例えるのならば、フランベルジュの大剣の様な、美しさと巨大さと禍々しさを併せ持った状態に。怪我をする前より明らかに弱まっているはずの彼女だが、威圧感だけは怪我する前と比べて遜色ない。
「お前、怪我する前よりも強くなっていないか?」
「そんな事あるわけないでしょ? 馬鹿な事言っていないで……構えなさい」
 アオは深くため息をついて、ミドリを睨むと。
「行くわよ」
 いつもは先手を譲るアオだが、今回ばかりは自分が先手で相手を攻める。いつもとは違うその変化に驚きはしたが、今日のアオの動きは本当に切れがない。
 スタートダッシュもいまいちとくれば、角を振り下ろすアイアンヘッドも、力に乏しい。いつもは押されっぱなしなミドリが余裕で受け切れる程度の膂力しかなく、ミドリはアオの角を上手く滑らせいなすと、肩口からの体当たりでアオを押し倒してしまった。
「あ……大丈夫、アオ?」
 やはり、強くなったように思えたのは気のせいだったのかと、落胆と安心を同時に感じつつ、ミドリは珍しくアオの事を心配する。
「大丈夫よ……これくらいいつもあなたに対してやっている事だ」
「はじめてアオに勝っちゃったけれど……これじゃあんまり嬉しくないなぁ……」
 気まずい顔をして、ミドリはアオを見下ろす。アオは微笑んでいた。
「まぁ、たまにはこんなのもアリだね」
 やはりまだ力が戻っていないのだと実感してアオは言う。
「ちょっと疲れた……また、飯を食ったら相手してくれないか?」
 アオはそう言って、倒れたままの体勢で眠りこけてしまう。アオが失った力を体が必死で取り戻そうとしているのを感じて安堵する反面、アオの言動がどうにも気になる事に二人は不安を拭えなかった。

 ◇

 月日が経ち、メブキジカの角の花が散って青々とした葉が茂る季節を過ぎ、角には美しく紅葉した葉が垂れ下がっている。
 あれから、人間に対する不穏な言動もすっかりと鳴りをひそめたアオは、すっかり力を取り戻したその体で相も変わらずミドリとレンガを圧倒していおり、今は人間の方にもこれといった動きもなく平和そのものである。
 アオの不穏な言動を心配していた二人も、最近はなりを潜めてきたので安心しきっていた。
「なぁ、ミドリ、レンガ」
 そんなある日、唐突にアオは二人へ声をかける。
「お、どうしたんだアオ? おいしいキノコでも見つけたか?」
「そんなわけないだろ? 真面目な話なんだからよく聞いてくれ」
 第一声で茶化された事は若干不満そうだが、気を取り直してアオは続ける。
「もうそろそろ人間は収穫の季節だ……」
「そうだな。遠くから覗いていると最近は慌ただしく感じる……冬に備えての狩りも罠も、そろそろ活発になってくる事だろう」
 アオの言葉を受けてレンガが考察すると、アオは状況を理解してもらえる事を好ましく思いながら続ける。
「だから、春先に話していたあの話なんだが、そろそろ実行に移すべきなんじゃないかと思ってな」
「あの話?」
 と、ミドリが首を傾げた。
「あぁ、すまんな。たぶん本気にしていなかったと思うんだけれど……あの村の人間達を殺すっていうお話だ」
「あの、話か……子供と老人だけを残して殺すという」
 レンガの言葉にアオは頷く。
「私達を裏切ったのはあちらだし、こちらとしても報復を行わないと、あちらが付け入る隙を与えてしまう……人間は敵ではないが、奴らは敵だし、敵は敵なのだ。人間ではなく、敵に成り下がったあいつらと……共存する意味はないし、よしんば共存するとしても、敵ではなく対等な立場に戻ってもらわなくてはいけない。
 そうは思わないか? だってやつら、沢山殺したんだぞ……私達三人を殺すために、沢山」
「……誰を殺したっていうんだ?」
 殺されたものなんて誰もいなかったはずなのに、と困惑しながらミドリは尋ねる。
「誰って、沢山さ。名前なんて覚えらてられないからな……みんなみんな、あの村の人間が殺したんだ……木の上にいる超獣達を、焼き払って……殺したよな?
 私が爆発で気を失っている間、確かにそうしていたはずだぞ? 熱くて、痛くて……私も死ぬかと思って……」
「そ、そうだな……だが、奴らはもう我らの恐怖を十分に味わっている。お前はよく覚えていないかもしれないが、我らは逃げるときに何人か踏みつぶしたりひき殺したりもしたから……もう充分じゃないのか?」
 レンガはアオの言う事が何かおかしいとわかったうえで、それを否定する事なくアオの行動を止めようとする。
「生温いだろ? 第一、奴らだって数さえ減ればそれなりに活動範囲だって狭くっても問題ないはずだ……木を切るのをやめないのならば、その必要をなくせばいい。単純な話じゃないか」
 なんて事はないと、アオが難しく考えずにミドリを諭そうと言葉を紡ぐ。
「アオ、正気かよ!! そんな事をすれば、人間は怒って何をしでかすかわからないぞ!!」
 だが、ミドリはアオの言葉へ真っ向から反論する。
「何をしでかそうとも、何も出来ないさ。数が減れば、私達に手出しなんて出来るわけがない……まだ奴らが、こちらに勝てると思っているなら、そのふざけた幻想を叩き潰してやればいい。防人にはどうやっても勝てないって……わからせてやればいいのさ」
 ミドリがものすごい剣幕で睨みつけていたが、アオはそれを意に介さずに素面で続ける。
「大丈夫。不意さえ突かれなければ私達が負ける相手ではないだろう? それに、今はちょうど収穫の季節だ……今このとき食料の取り分を増やしておけば生きる力に乏しい老人と子供達でも死なないはずだ。
 この季節こそが最も好機だと……そうは思わないか?」
 アオはまだ、当たり前のように話していた。その時のアオの表情が、迷いないどころか自分のしている事は全面的に正しいと考えているように見えるのがミドリには癪に障る。

35:記憶の嘘 

「勝手にしろ!! 私は協力しないからな」
「な、何を言っているんだ……ミドリ? 我らは防人だぞ? 敵意をむき出しにしている者の牙を折らないでどうするんだ? このまま人間を放置しておけば必ず奴らも次の手段を講じてくるぞ?」
 アオは全く意味がわからないと言った様子で、ミドリに尋ね返す。
「牙は折っても、また生えてくる!! 牙を収めさせる事が重要だろうに……レンガが言ったとおり、もう奴らの牙は収まっているんだ。それをさらに刺激してお前は何がしたいというんだ!!
 大体、お前の言っている事はおかしいぞ!!」
「やめろ、二人とも!!」
 ミドリもアオも興奮して声を荒げている。これはまずいと感じたレンガは二人の間に割って入り、その巨体で二人の視線を遮る。
「喧嘩してどうする? もっと冷静に話し合え……」
 さすがにそこは年長者の貫禄といった所か。実力的にはアオより下になってしまったレンガだが、こういったときにまとめる役はまだ消えていない。
「ミドリ、ちょっと来い……アオは待っていてくれ」
「レ、レンガ……」
 ものすごい剣幕と野太い声で凄んだせいで、アオまで少々怖気づきながら声をかける。怖気づいたという事を、すなわち落ち着いたのと同義であると判断したレンガは、良いから任せろと微笑んでミドリを連れてゆく。
 すごすごと小さくなってレンガについてゆくミドリを見送って、アオは何か煮え切らないものを感じたが、その正体はわからなかった。


「ミドリ……アオの事だが、あの口ぶり……」
 わかっていると、ミドリは顎をしゃくりあげる。
「本気で、アオは何か勘違いしているような気がする……殺されたのは自分の子供じゃない。森の仲間達が死んだと思い込んでいるようだ……」
 自分の推測が間違っていない事を問いかけるように、尋ねるようにミドリは言う。
「あぁ、そうだよミドリ」
 レンガは深くため息をついた。
「子供を失った事が相当悲しかったんだろうな……無意識に、思い出さないようにしているらしい。だけれど、アオは本当は心のどこかで覚えている……以前、我が『子供の事があるからって……』といったとき、アオすぐに自分の子供の事だと察して『私に子供はいない』と言ってのけていた。
 どこかで覚えているけれど……認めたくないから最初からなかった事にしたんだ。おそらくはアオの自己暗示……あれが、悪い方向に使われてしまったようだ。
 だから、アオの記憶は色々すり替わっている……その中でも、彼女の口ぶりから察するに一番性質が悪いすり替わりは、人間が森の仲間を無差別に殺したという事だ。
 火事なんてないのに、燃えた木なんて一つもなかったのに……あいつは、かたくなにそれを信じている……傷を治すときの高熱で悪夢を見たのかもしれない……焼き殺したというのが、熱にうなされた挙句の幻覚か何かだったのかもしれないし、それはわからないが……」
「嘘の記憶があるとして、それがどうしたんだ、レンガ? そろそろ真実を教えてやるべきじゃないのか?」
「本当の記憶を教え込んでどうなるか、だな。思い出したくないからアオは記憶を捻じ曲げたんだろう? なら、そっとしてやった方がいいんじゃないかと、私は思うんだ。
 無理に思い出させようとしてアオが、アオでなくなってしまったらと思うと、我は怖い……」
「だが、今のアオはすでに……俺達が知っているアオじゃない……」
「わかってる。だから、お前が熱くなりすぎるのは良くない。アオが今、どういう状態なのだか理解してやらなければならない……そうだろう?」
「むぅ……わかったよ、レンガ」
 正論の上に、レンガより弱いミドリは彼に逆らう事も出来ず、気力も萎える。
「レンガ。アオと……話をしてやってくれ。俺には出来そうにない……」
「あぁ、任せておけとは言えないが……悪くはしないように頑張らせてもらうよ」
 ミドリを尻目に、レンガは待たせているアオの元へ。

「またせたな……アオ」
「あぁ、ミドリとの話はもういいのか?」
 アオはゆったりと星を見ながら待っており、きちんと頭を冷やしていた。
「なぁ、聞いてくれレンガ。私はさっき流れ星を見かけたんだ」
「お、そりゃすごい。我は流星群の時でしか流れ星なんて見た事ないからなぁ……そういう観察力が、強さにつながるのだろうなぁ」
「そんなものが強さの秘訣になるのか?」
「お前は、力も身のこなしもコバルオンの身の丈を越えていないように見えるのに、やたらと強いから……目が違うのだとずっと思っている。攻撃も、防御も良く見ているからこそお前は強いのだって」
「コバルオン同士で戦ってみなければ、私が強いのかどうかなんてわかりはしないさ……そういえば、私の父親は今もどこかを旅をしているのだろうな……防人の跡継ぎを三種全て残した防人は、以後旅に身を(やつ)して生涯を終える……そうして、今もどこかにいる父親と、一度でいいから手合わせをしてみたいものだな」
「だが、跡継ぎを残していないうちは、防人はおいそれと持ち場を離れるものでもないさ」
「だが、防人が来るまで防人なしでも何とかやって行けた森だってあるのだぞ?」
「まぁ、そうだが……」
 レンガは苦笑する。
「そうだな……疎遠になった親とも、一度会って今の状況をどうすればいいか話し合いたいが……」
「行方は知れずだからな……本当に、どこで何をしているのやら」
 頼もしい笑顔でレンガのささやかな願いをかなえようとアオは言うが、レンガはダメだと首を振る。
「それを実行するとしても……今はまだ駄目だ。人間達の動向が気になる……」
「だな、今は油断が一切出来ない状況だし……」
「だからこそ」
 と、レンガが前置きをする。
「お前の言う事も一理あると思うのだ。人間に恐怖を植え付けるというのは有効な手段ではある……だが、恐怖によって縛り付けるという事は、それ以上の恐怖か、もしくはそれ以上の勇気があれば人間は立ち上がってしまう」
「……恐怖で抑圧された分、勢いも良くなるだろうな」
「それをわかっていてなお、やるのか……?」
 レンガに問いかけられて、アオは目を伏せる。
「私も、怖いんだ……ずっと、酷い悪夢を見ているんだ……私が妊娠して、ずっと幸せだったのに、人間の矢を受けて……転んだ私が流産してしまう夢を。赤い世界で、私の中から肉塊が出てきて、私の大切な場所に人間の手が伸びて、子供を引きずり出して殺す夢を……生々しくて、痛くって、起きてみると安心出来る現実だけれど……いつか現実になりそうな気がして、私、怖いんだ。もしかしたら、私は人間に対して同じ事をしようとしているのかもしれないと思う事もある……けれど」
 アオが一瞬身震いする。

36:決意 


「けど、やったのはあっちだ!! ミドリが助けた恩を仇で返したのはあっちだ!! こんな悪夢を見るのも奴らのせいだ!! 私が辛いのも、怖いのも……きっとあいつら人間も同じように怖がっているだろうけれど、それだって自業自得だし……人間は専守防衛じゃないのに私達は専守防衛じゃないといけないのか? そんなの不公平じゃないか!!
 人間に生活を脅かされる私達は、どうすればいいんだ!? 打って出ないミドリは、間違っているんじゃないのか?」
 アオはヒステリックに金切声をあげる。必死な形相と必死な声。駄々をこねるようなアオの声は、今までただの一度も見せた事がない彼女の顔。
「そんな風に思っちゃう私が……自分勝手だってのはわかってる。けれど、けれど……私の赤ちゃんが……」
「大丈夫。それは夢、悪い夢だ」
 自分が酷い経緯で流産をしてしまった事実をいまだ受け入れられない今のアオを、レンガは優しく受けいれる。自分が嘘をついている事に対する罪悪感もあったが、やはりアオに真実を伝えるのはしばらくは不可能だろうと、短時間ながらレンガが判断した結論である。
「その夢のようにならないようにするために、出した結論がお前の言う……子供を残して他は全員殺すという事なのか?」
「さっきも言ったように……恐怖で縛りつけると、それを上回る勇気か恐怖が必要だ……逆に言えば、抗いようのない、拭いようのない恐怖さえあれば……奴らは一生手を出せなくなるはずだ……」
「理論上はな。だが、恐怖というのは薄れるものだ……さらに、世代が変われば言い伝えというものの信憑性もなくなってゆき、いつかはまた命知らずが挑みに来る。今回の件もそうではないか。かつての我らの言い伝えを忘れ、侮った結果の……」
「一時凌ぎにはなるはずだ……一時凌ぎも、何度もやれば問題ない。百回やれば百時は凌げる」
「まぁ、そうだが……」
 アオの言葉に肯定するが、アオの言わんとしている事には肯定せずにレンガは続ける。
「人間とは完全に敵対する。それでも、構わないというんだな?」
「わかってる。私に反対したミドリが言いたい事もわかる……むやみに誰かを殺すべきじゃないし。恐怖だけでどうのこうのっていうのはいけないと思う……けれど、人間を滅ぼすとか、私達が滅びるとか、そんなのよりもきっと、良い道だと思うんだ。たった一つの村が滅ぶだけで人間と対立しないで済むならば、それに越した事は無い」
「清濁併せのむか……」
「うん……水清くして魚住まずともいう。澄めば澄むほど住めなくなる……防人はもう、誇り高くあるべきではないのかもしれない」
「汚れてでも、軽蔑されてでも森を守るか……」
「森のみんなは、軽蔑もしないし、汚れただなんて思ないけれどな……たぶん、私達が人間と一緒に祭りに参加していた時の名残なんだと思う。綺麗に生きるべきだなんて考えはな。もう、良いんだ……人間が田畑を荒らす動物を狩り殺すなら、私達も森を荒らす輩を狩り殺そうとも……それが間違いであるはずが無い」
 アオは目を伏せる。
「宣戦布告に対する意趣返しだな……やったらやり返される……自然の摂理ではある。人間に、それを教えるのであればいい機会かもしれない……」
「じゃあレンガは……私のやる事を止めないのか?」
「どうだろうな? ミドリには一度、わがままを聞いてやったのだから、今度はお前のわがままを聞いてやる事も必要かなと思っている。お前が本当に、正しいと思う事ならば……それをやってみればいい。
 だからアオ……後悔はするなよ? 出来る限り、ミドリと話し合えよ? 納得出来る道を探して、皆が幸せになれる道を探すんだ……」
「わかってる……わかってるから、だからレンガ……」
 アオはレンガにぴったりと寄り添い、首を預ける。
「私に、甘えさせて……私がどんなふうになっても、受け入れてくれる誰かがいるって、レンガが感じさせて……」
「子供じゃあるまいし」
「子供の時、モエギおじさんにもっと甘えたかったけれど、死んじゃったし、レンガも大変そうだったから……甘えられなかったし。でも、たまにはこうして……おっきな体に、その身を預けてみたいの。私が、とんでもない事を言ってもレンガは話を聞いてくれるし……おっきな体と大きな包容力で……私を包み込んでほしいな」
 アオが目を瞑って頬ずりをする。発情期を迎えているわけでもない今、そうされてもアオの背中に乗ってやりたいような欲求こそ起きないが、気恥ずかしさと照れからかレンガの顔は熱い。体毛もざわざわと脈打っているような感覚が全身に伝わって、見つめられているわけでもないのに目をそらす。
 流れ星を見つけようだとか、そんな目的があるわけでもなく、とにかく恥ずかしくて気をそらしたくてレンガは星を見る。ちらりと傍らで肩を寄せているアオに目をやれば、目を閉じたまま気持ちよさそうに頬ずりをするばかり。いきなりヒステリックになったかと思えば赤ん坊のように甘える、少々不安定な精神状態が少々心配だが、今まで自分一人でバンバン進んでゆくようなアオにこうして頼られるのも悪くない。
 それでも、慣れない事だから恥ずかしくて、慣れない事はするもんじゃないとレンガの心は複雑だ。やがて、空を見上げてどれほどの時間がたったのか。流れ星を見つける事は叶わなかったが、アオはいつの間にか立ったまま眠っていた。
 レンガはようやく彼女の顔をまともに見られるようになり、体を預けた彼女を起こさないよう、ゆっくりと彼女の体ごと自分の体を下ろす。レンガに体を預けていたアオは、眠ったまま立った体勢から座った体勢へと器用に移り、夜をすごした。

37:説得 


「モエギ父さんが……生きていてくれればなぁ」
 もっとアオに色んな教育もいろんな経験もさせられたし、自分自身もいろんな経験が出来ただろうなとレンガは愚痴を漏らす。
 自分はこれまでしっかりやれてきたのだろうか? アオとミドリをきっちり教育出来たであろうか?
(モエギ父さんがいてくれれば、アオが今と同じ状態でも父親のせいだと逃げられたのに……そんな事を考えるのは卑怯だってわかっていても、父さんが死んでしまった事は本当に悔やまれてばかりだ)
 アオの耳をぺろりと舐めて、レンガは星を見る。輝く星は、いつまでも輝いているばかりで、消える事も現れる事もせずに自分達を見下ろしている。
「我らはこんなにも忙しいというのになぁ……星は暢気なものだよ」
 アオの寝息を聞きながらレンガはつぶやく。話がまとまらなかったらどうしようなどと、アオがするべき心配を抱えながら、今日くらいは安心させて眠らせてやろうとレンガは寝ずの番でアオを守った。

 ◇

 翌日。
「ミドリ、ちょっと話……いいか?」
 冬に備えて太ろうと、草を食んでいたミドリの元へ赴いて、アオは改まった態度をとる。アオの存在を認めたミドリは草を引きちぎり、口の端からはみ出ていた草を放り込み、すりつぶし、飲み下す。
「昨夜は、レンガと長い時間話し込んでいたようだな……」
 口の周りについた葉っぱのカスを舐めとりながらミドリは言う。
「あぁ、重要な話をした。これからの話を……」
「人間を殺すのか……?」
「ストレートに言えばそうだな」
 いきなり核心を突いた質問をされて、アオは答えに詰まりつつも絞り出すように答える。
「お前の言っている事もわかる。人間は武器を作る能力があって、その能力で……我らを蹂躙する事もあるかもしれない。だが、それをする気力すら起きないくらい徹底的にやれば……どうなんだ?」
 アオが説得する間、ミドリは全く表情を変えていない。
「……アオ。お前は、大切な者を殺されて、悲しんだ事があったはずだ」
「モエギさんとか、な……森のみんなが心配するから顔には出さなかったけれど、悲しかったな」
 アオがミドリの言葉を肯定すると、ミドリは話を続ける。
「それを、人間達に味あわせるのか?」
「シキジカなら、レパルダスとかに狩られたりしてしょっちゅう味わっている……人間だけ、狩られる悲しみを味わいたくないなどと甘えた事なんて言わせない……」
「あぁ言えばこういうだな……」
 苦虫をかみつぶしたようにミドリが言うが、アオは意に返す事なかった。
「ミドリ、お前は、誰かを生かしたいと思いすぎている……思い出せよ。目の前で救える命があったとして、我らはむやみに助けたか? 子供を襲おうとしたレパルダスを我らが退けた事はあったか?」
「あぁ、なかったな」
 と、ミドリは肯定する。
「だが、腹を空かせたレパルダスのために、我らがシキジカを狩る事もまたなかったではないか……お前がやろうとしている事はそれとは違うのか?」
「人間をシキジカと一緒にするのか。それは何とも乱暴なたとえだな」
 アオの説得を試みようとミドリがいった言葉は、アオの自信満々な言い草にかき消される。
「人間は、もはや我々超獣とは道を(たが)いすぎた……いまや、個々の力が比較的弱いだけで、あらゆる知恵を駆使しては伝説の超獣よりもはるかに強い力でこの世界に君臨している。超獣使いの一族以外が扱える種の数は限られるが、超獣を手先として扱う力も得ている……道具を生み出し戦いに生かす技術……そして、高度な巣を作り身を守る技術……
 それを持つのはいい、大いに結構だし否定はしない……奴らが殺しあうのも、縄張り争いも別にいい……好きにやってくれと言いたい。だが、あいつらの縄張り争いがいかなるものか、ミドリはわかっていないはずはないだろう? クラボの実や木の幹が火薬の原料になるからと、木を切り倒された数は何度だって……やれ防壁だ、やれ船だと、何かを作るたびにクラボ以外の木も伐り倒して、多くの超獣の住処も食料も奪っていく……
 あいつらの縄張り争いの勝手な事よ……その人間を、シキジカに例えるのか? 今人間のせいで飢えている者達をレパルダスに例えられるというのか? 冗談じゃない……あんな凶悪なシキジカがいてたまるかというのだ。
 人間に比べればサザンドラでもその欲は可愛いくらいだ、人間は強欲なだけでなく、傲慢で狡猾だ。サザンドラのより強欲で、ゾロアークよりも狡猾で、ワルビアルよりも傲慢で、大抵が一人じゃミルホッグほどの強さしかない癖に、道具と数で超獣を圧倒する……」
 言い終えたアオは、黙ってミドリの反応を待つ。

38:決裂 


「今回の件は私も(はらわた)が煮えくり返る思いだ……だが、その怒りに任せて何か危害を加えていいものなのだろうか? 復讐は不毛だとは思わないのか?」
 しかし、そこにいたってもまだミドリは綺麗事ばかりを口ずさむ。耳に心地よい、復讐なんてやめようと言う手垢の付いた言葉。
「お前は綺麗事ばかりだ……澄んだ水には魚は住めないよ」
 アオはかぶりを振ってミドリを否定する。
「復讐とは何のためにあるのだ?」
 質問に質問で返すのは良くない事だと知りつつも、アオはあえてそれをする。
「憂さ晴らしのためか? それとも、抑止力のためか? 罰とは何のためにあるのだ? 罪を贖うためか? それとも抑止力のためか? どうなのだ?」
「アオ……お前は、抑止力のための復讐なのだと言いたいわけだ」
「あぁ。それでもお前は、止めるのか……ミドリ?」
「私は、むやみに誰かを殺すのは……」
「わかった。むやみに殺す事はしないよ……」
 言いかけたミドリの言葉に、アオは驚くほど簡単にうなずく。
「死体は全部、肉食の超獣達に片付けさせる……それでいいんだな。食料としてすべて胃袋に収まるのならば、むやみに殺すわけじゃないよな? そうさせてもらうよ」
「そ、そういう意味で言ったんじゃ……」
「聞こえないよ!! あんたのそんな言葉は、耳に届くわけがないじゃないか……私が聞きたいのは泣き言じゃないんだよ。私が人間を殺すというのなら、その前に私を殺すっていうぐらいの気概見せて向かて来いや!! お前が守りたいものはなんだ? 自己満足を守りたいだけなら、そこら辺のませたバオッキーみたいに自慰にでもふけっていればいいじゃないか!!
 そこまで復讐と呼ぶのが嫌ならば、これは復讐じゃない。制裁という名の正義だ!! これで満足だろ!?」
「そんなものが正義であるわけが」
「黙れ!!」
 アオはミドリに尻を向けた。
「決めた……私は、誰が何と言おうと、人間を殺す。……止めたいなら、力付くで止めてみろ!!」
「お、おい……」
 と、近寄るミドリの腹に狙いを定め、アオは後ろ蹴り。腹に走る衝撃で目が飛び出るような苦痛が突き抜けたミドリは、ぐふぅと苦しげな声を漏らしたっきりその場にうずくまった。


 アオは逃げるように足早にその場を立ち去り、森の仲間にレンガの居場所を聞いて彼の居場所を突き止め、見回り中のレンガを見つけてアオは一言。
「すまん、例の皆殺し作戦の話だが、準備のために一日開ける……実行は明日か明後日になるから、肉食の超獣達には今日は喰うのを我慢しておけと伝えておいてくれ……明後日までには、餌を用意してやると付け加えてな」
「ミドリとの話は……」
 そこまで言いかけてレンガはアオの顔を覗くが、聞くまでもない事だと悟る。
「話はついてなさそうだな。良いのか、それで?」
「ダメだと思うのならば、私を止めてみればいいと言っておいた……だが、私は誰に何と言われようとも、止まるつもりはないという事は伝えておいた……なんといわれようとも、な」
「実力行使で止めろと言いたいわけか……やれやれ、お前は好戦的な女だな」
「……ミドリは、自分の意見があっても、それを強く主張する事がないから駄目だ。喧嘩に負けてばっかりだからって卑屈になりやがって、防人の風上におけない。
 追いかけてきたら、私が向かっている場所を教えてやれ……アリ塚の岩場に行って来るから」
「アリ塚の岩場*1? それって、まさかお前……」
「あの村の人口は200人ちょっと……半分以上を殺すからな。ミドリに『むやみに殺すのはいけない』って言われたからその通りだと思ったまでだ……あぁ、ミドリの言う事は正しいよ。
 だから、私は……カーニバルを開くのさ。私を強くしてくれる、悪タイプのみんなとカーニバルをね……人間に、我らの怒りがもたらす災厄を見せてやるんだ……そしてそれが、冷夏よりも疫病よりも洪水よりも、干ばつよりも、山火事よりも恐ろしいものであるという事を……教えてやるのさ。
 それで理解するだろうよ……この森に手を出していい事は何一つないって。それを理解出来ないのならば……上等だ。こっちも全力で受けて立つ……(みなごろし)だ」
「わかった。とりあえず私はお前がいない間、この森を守っているから……だから、なんだ? 無茶はするなよ……疲れが残ったまま人間に攻撃して返り討ちなんて事になったら笑えないぞ?」
「それくらいわかってるさ。大丈夫、上手くやるさ、レンガ……お前とまた、やりたい事もあるしな」
 そう言って、アオはレンガの角に自分の角を叩き合わせる。そうしてレンガに微笑んだアオは、不意打ちで口付けをした後無邪気に笑って駆け出してゆく。レンガは口付けの感触の余韻に浸りながら、アオの後ろ姿に声をかける事が出来ずにその場に立ち尽くしてしまう。

「まいったなぁ……アオの奴、我に惚れているのか?」
 嬉しいのだが、参った問題である。この調子じゃ、ミドリはメブキジカの雌としか子孫が残せないんじゃないだろうかと、まだまだいつになるかもわからない発情期の問題にレンガは思いを馳せているのだから暢気なものである。
「というか、こんな事を考えている場合じゃないんだがなぁ……」
 そして暢気な事も、レンガは自覚済みのようだ。

39:準備 


 森を抜けて、湿原を渡り、草原を駆けて、岩場を登り、蟻塚に潜る。そこで出会った数頭のサザンドラは、縄張りを侵したアオを排除しようと対面すると、例外なくアオに反撃され、敵うわけがないと判断して服従する。服従した後は、アオの語る『美味しい話』とやらをうさん臭く思いながらも、断ると何をされるかわからないためにしぶしぶ従う。
 そして、帰り道の途中ではモエギの埋葬の時にお世話になったバルジーナの群れを呼ぶ。鳥系のポケモンのごたぶんに漏れず、バルジーナは胃袋が小さいためどれほど死体を消費してくれるかはわからないが、悪の波導を使えるものも多いから大丈夫だろうとアオは利用を決める。
 アオの事を覚えていたバルジーナは久しぶりの再会を喜びつつも、アオのやろうとしているぶっ飛んだ計画にはかなり驚いていた。しかし、自分達の役目がおこぼれにあずかるだけでよいのだと言われ、危険に身を晒す必要がない事がわかればバルジーナも警戒する事なくアオについてゆく。
 その光景に噂が噂を呼んだのか、膨れ上がったアオの率いる群れに集う超獣は大小合わせて100をゆうに超える。特にアオが嬉しかったのが、蜘蛛の巣を張れるデンチュラが数匹ほどついてきてくれた事。
 いつもは自分よりも小さな虫を食べて満足しているが、人間の肉も食べてみたいと、素直な好奇心を前面に押し出してくれたというのは本当にありがたい事だ。夜、こいつらにエレキネットを使ってもらい、逃げ道を塞いでもらってから決行と行こう。

「で、この状況か……」
 森のレパルダスやムーランドも続々と集まり、わいわいがやがやとうるさい黄昏時のこの状況に思わずレンガはため息をつく。アオとレンガは二人で話をしたいと言って連れ歩いた集団には声も聞こえない場所にいるが、あちらの声は嫌でも聞こえてしまう。
 あまりに広い縄張りを持っているがためになかなか個体同士が出会う事の無いサザンドラは、これを機に社交界に興じているらしく、その声のやかましさと話す内容の、頭痛がするようないやらしさと言えば聞くに堪えない。
 カーニバルが始まるまでは寝るなりなんなりして休んでいろと言ったのに、サザンドラ達は雌雄揃って元気な事である。
「どうだ、素敵だろう? あれだけいれば悪タイプの攻撃に困らん」
 しかし、アオは平然としていて、しれっとした表情と声色でそんな事を言う。
「正義の心の特性ってこういう使い方をする特性だったか、疑いたくなってしまうよ、まったく……」
 言うなり、レンガは周りを見る。
「ミドリは、来ないな」
「私とすれ違いになって探しているなんて馬鹿な事はしていないだろうが……」
「逃げたというか、むくれて一人引きこもっているのかもな。あいつは……気に入らない事があるといつもそうだ……」
「全くな、それだからミドリは強くなれないんだ」
 アオとレンガは一緒にため息をつく。
「で、レンガ……お前はどうするんだ?」
「私は見ている……危なくなったら助けるが、それとも私を連れて行きたいか? 私はどちらでも構わんから、好きな方を選べ」
「いや、見ていてくれればいい。これは人間は簡単に倒せるとか、そういう傲慢じゃない……ミドリの言う事にも一理あるとは思うんだ。むやみに命を奪うべきじゃないってさ……死体は残さず片付けるから問題ないって言うためにこんだけの人数を集めたというのも馬鹿な話だし。
 だからレンガ、殺したくないなら構わない。私を見捨てたほうがいいと思うのならば、無理して私を助ける必要もない……だがまぁ、せめて私が死んだら悲しんでくれると嬉しいな」
 そう言って自嘲気味に笑うアオの表情を見て、レンガは笑う。
「うらやましいな……」
「なにがだ?」
 不思議そうに首を傾げるアオの目をじっと見つめて
「私はな。防人は森を守るのが使命だと教えたし、教えられた……でも、具体的にどうすればいいのか、わからなくって……お前やミドリのように何か意見を出す事すら出来なくなっていたんだ。現状維持ばっかりを考えてな」
「現状維持か……それも大事な事だ。悪くなるくらいなら良くも悪くもならないほうがいい……もちろん、良くなった方がいいけれど。でも、レンガは改革を望んでいるし、その協力なら惜しまないから……だから、好きだよ。レンガの事」
 アオは微笑み、レンガに口付けを交わす。
「そういうレンガのいいところ、もっと伸ばして行けたらいいな……」
 アオはレンガの角と自身の角を叩き合わせる。その時のコツン、という音を聞いて満足したようにアオは微笑み、ご機嫌な顔で目を閉じる。
「待機させている奴に休んでいろと言っておいて、自分が休まないのでは示しがつかない……私は眠るから、その間レンガは私とみんなを守ってくれ」
「かしこまった。良く眠れよ、アオ」
 目を瞑ったまま座り込んだアオの頭を顎で撫でて、レンガは笑う。すぐに眠りについたアオの傍らで、レンガは星を見上げる。
「人間は死ぬと星になるというものがいるが……今日は、無意味に星が増えるのかな」
 レンガはそう考えて、少し心が痛んだ。けれど、自分の子供も無意味に星になったのだ。コバルオンとしてこの世に生を受けるはずだったあの子は、死体が腐る前に例によって例のごとくバルジーナに食わせたが、遺骨を渡すタイミングを見失い続けている。自分とアオの間に出来た子供だというのに、母親であるアオがその存在を認知出来ていないと言うのは、とても悲しい事であった。
「復讐は、抑止力のため……ミドリはそんな事をアオに言われたそうだが……アオ。抑止力であるという認識を逸脱しないでくれよ」
 アオはまた悪夢を見ているような、うなされるというほどではないが、良い顔をしていない。そのアオの危うさが、いつか彼女が壊れてしまいそうでレンガは胸が痛んだ。

40:カーニバル 


 アオは、夜が白んでくる明け方に、麓の村へと攻め込んだ。彼女はすでに全身から血を滴らせているが、そのどれもが致命傷とは程遠い、傷ついても問題の無い場所だ。その傷をつけたのはもちろん、引き連れている超獣達である。
 悪タイプの攻撃を自身の膂力に変える力、正義の心を最大限利用した彼女は、角を軽く振るだけで壁を焼き菓子のように軽く切り裂く。何事かと、起きたときには最早遅い。ベッドから起きだそうとしたときには、彼女のアイアンクローがベッドごと男を肉塊に変え、隣で悲鳴を上げる女性を踏みつぶす。
 生まれてからこの方、誰かを殺めた経験なんてなかったが、前足や頭で味わった人間の体はひどく生暖かい。正義の心の特性のおかげで攻撃力が無尽蔵に上がっている影響もあるのだろうが、まるで木の実を潰すか枯枝を叩き折るように手ごたえがない。
 人間というのはこれほどまでに弱いのかとも思うし、こんな相手でも自身を弱らせるような攻撃方法を編み出すのだから侮れないと同時に感じる。無慈悲に肉塊に変わる瞬間、胸には重く鈍く、衝撃が通り抜けるような錯覚が。何か変な事をされた覚えはないのに、胸が重い。誰かを殺すのが苦しい。

 三人子供がいたので、それは生かそうと思ったが一番年上と思われる女性は初潮を迎える年齢くらいにはなっていそうなので、角で貫いて殺す。命乞いの声が聞こえた、『助けて』、『嫌だ』と悲痛な声で。
 何を言っているんだ、先に仕掛けてきたのはそっちなんだから、その責任くらいとれ。そんなに死ぬのが嫌ならば、祭りに乗じて私達を殺す計画なんて反対すればよかったんだ。すでにして(はらわた)と血の匂いがこびりついたアオの体は、赤とも黒ともつかない色に染まって、闇に紛れる。物音に気付いた人間達が次々と窓を開けるが、それをして多くの者が絶望する。

 アオの姿を見たとたんに、悲鳴を上げて逃げようとするもの。殺した。
 私達防人を殺そうとする計画に反対しなかったお前らも同罪だ。そうだ、子供は仕方がないが、大人は全員同罪だ、死ね、死ぬべきだ。お前らが悪いんだから子供のためにも死ぬべきじゃないか、死ね。
 あんな事は間違いだったと、後世に伝える格好の材料になるんだ、そうだ私のやってる事は正義だ。だから殺したって罪じゃない、森のみんなを守れるんだ、だから罪じゃない。だって、私達が反撃しないと、人間は復讐なんてされないと思い込んで、付け上がって、こっちを殺しに来る、防人を殺しに来る、私は死にたくないし殺されたくないし、これから生む予定の私の赤ちゃんにだって絶対に死んでほしくないし、だからこいつらを殺して森の安全を手にしなきゃダメなんだ、殺す!!
 声も上げずに、こっそりと逃げようとするものは、村を囲っていた超獣達に発見される、森の外で待機していた超獣達はきっちり言いつけを守って、老人と子供を生かし、それ以外は殺された。逃げようとした子供達と老人達は、殺しこそしないが蜘蛛の糸で縛り上げ、動けないように拘束されて終わらない殺戮の光景を見せられる。目を瞑っても、聞こえる断末魔と悲鳴の声。

 家の中に隠れた者は。探し出して殺した。どれが子供でどれが大人であるのかを判別しているうちに、命乞いの声が聞こえる。そんな声なんて知らない、知らない、知らない……こっちは恩を仇で返されたのに。こっちは恩を売ったというのに、どうして殺されかけたんだ。そんな奴らに慈悲をかける必要もない、殺す。
 とにかく殺した。怯えて動けなくなった者も殺したし、命乞いするものも殺したし、立ち向かってくる奴は問答無用で殺した。
 妊娠していた女性だけはどうしても殺せなかったが、とりあえずデンチュラに縛ってもらえば間違いもなかろう。

 あらかた殺し終わったときは、アオのコバルトブルーの体はどこにもなかった。血を血で洗うとはよく言ったものだが、全身に浴びた返り血と臓物は子供が度の過ぎた泥遊びをした後のよう。漂う死臭は肉食のサザンドラの体臭さえかすむほどになり、いつも村に漂っていた草の匂いなど影も形もない。
 鉄の匂いだけはいつもより強くなって、アオは死体と血だまりの中ですべてを殺し終えた余韻に浸っていた。
 アオの胸に去来したのは、達成感というよりかは虚無感といったほうが適切だ。自分のやっていた事を正義だと言い聞かせ、出所のわからない憎しみに任せて、殺して殺して殺しまくって、思えばむごい死体の山を作ったものだ。
 周囲の超獣はすでにカーニバルへと突入しており、その光景を見る事をかたくなに拒む子供、じっと見つめたまま硬直している子供、気がふれたのか、笑っているのか泣いているのかもわからないくらい意味不明にわめき散らしている子供。
 生かす対象である子供の反応は様々だが、これで恐怖を覚えてくれたはずである。サザンドラが豪快に小腸を引きずり出し、ミミズを食む小鳥のように食べる光景も、バルジーナが上品についばむ光景も、ムーランドが親子で仲良く死体を漁っている光景も、デンチュラが無表情に死体を漁る様も。
 全部、全部恐怖だ。怖くて怖くて怖くて怖くて、防人達に手を出したら自分達もこうなるのだと、骨の髄まで理解させてやる。何が起こったかもわからずに殺されていく恐怖を、目の前で親しいものが殺される恐怖を。
 全部理解すれば、きっともう、防人をどうこうしようなんて発想は二度と起きない。そうだろう?

 地獄絵図の宴は、昼まで続いた。むやみに獲物を苦しめるような行為をする悪趣味な者は人間と違って少ないが、チョロネコに狩りの練習をさせているレパルダスの母親なんかもいて、その時獲物になった精通を迎えるころの年齢の少年にはつらい思いをさせた。
 それが甚振られ続けて死んだころには、もうすでに大半の超獣が住処に帰っており、喰いきれなかった死体はなんだかんだで様子をうかがっていた森の虫型超獣達がぞろぞろやってきては食べている。
 レパルダスの方も満腹になってからはその残りをすべて譲り、夜を迎えたころにはすべての死体が骨だけになっていた。

 アオは捕食者のすべてが各々の住処に帰るまで血まみれの体のまま村を監視し、監視を終えるとデンチュラに手伝わせつつ蜘蛛の糸を切って開放する。解放されても、多くの者が動けなかった。
 それほど寒くもないのだから動こうと思えば動けるはずなのだが、今このときに動こうと思える気概があるほうが異常である。親兄弟か、それとも息子か娘か、目の前で殺されて白骨化。バルジーナがその一部を持って帰ってしまったせいもあって、もうどれがどの死体なのかもわからない。
 縄を解かれても座ったまま動こうとしない奴の中に混じって、殴りかかろうとして来る者もいたが問題なく蹴り殺す。また一つ死体が増えて、もうだれも逆らおうとする気概なんてなくなってしまった。
 恐怖のあまり何も行動を起こそうとしない人間達を見て、アオは当初の目的を果たしたと満足し、ため息交じりに森へ戻る。これで、もうバカな事を考えないでくれれば楽なのだがと、アオは祈りつつ、何か大事な事を忘れている気がして胸騒ぎを覚える。
「あぁ、そういえば……」
 収穫が終わった今の季節。若い大人は砦の建設や堀の作成などで出稼ぎに行っている奴もいるのだった。
 と、気づいたが後悔はしなかった。ただ、気を付けて準備しておくに越した事はないと、アオはその旨をレンガに伝えるだけ伝え、自身が出来るだけの対策を習慣づけた。

41:超獣狩り 


 盛大なカーニバルが終わってから一冬越し、森は麗らかな陽気に包まれる春の季節に。
 あの村の住民には十分すぎるくらいの食糧があったはずだが、彼らは無事に冬を越せたのだろうかなどと、最近はたまに考える。
 アオは通り雨の降り仕切る中、新しく芽吹いた草を食んでいた。まだ柔らかな若葉の味に舌つづみを打ちながら、ゆっくりと森の見回りをしていると、視界の端にはミドリがうつる。
「よう、ミドリ。今日は光合成も出来なくって憂鬱だな」
 なんて軽い口調で話しかけながら、アオはミドリに近づいた。ミドリは黙って微笑むと、アオと同じく話が出来る距離まで近づく。
「おはよう、ミドリ。死ね」
 そしてアオは、肉食獣と人間の匂いがするミドリを攻撃する。首を捻って横なぎに捻じれた角を叩きつけた途端、ミドリの体が引き裂かれたかと思うと、その体は歪み、霧散して正体を現した。
「やっぱりゾロアークか……さっきのエモンガとアイアントの二人組の報告どおり……」
 一瞬にして左腕を叩き折られたゾロアークの匂いを嗅ぐと、色濃く漂ってくる人間の匂い。おそらく飼われている超獣だろう。
「なぁ、お前何しにこの森に来たんだ? どうやら人間の匂いがするようだが……元の姿で来るのならばいざ知らず、化けた姿で現れるって事はあれだな。私を殺しに来たんだろう? だからまぁ、なんというべきか……」
 思わず萎縮してしまいそうな鋭い目つきで見下ろしつつ、アオはゾロアークの胸に足を押し付ける。
「お前、進化したてのようだし、こんなところで苦しんで死にたくなかろう? 少しずつ体を破壊されながらゆっくり苦しんで死にたくないなら、教えるといい。お前は何をしに来たのか、仲間はいるのか、そいつは敵かどうかを、洗いざらいな」
 言うなり、アオはゾロアークを踏んでいた前足に体重をかける。まだ苦しくなるくらいで全く命に別状はないが、自身の殺気だけは伝わってくれていると信じたい。そして、自分がこいつの主人を殺して余りある力量の持ち主だという事も合わせて伝わってくれれば御の字である。

 ゾロアークはアオと主人の圧倒的な力量を悟ったのか、苦しそうに呻きながら、自分が来た方向を指し示して言う。
「あっちに、剣と吹き矢を持っている男がいる……そいつが私の主人だ……お前を殺しに来てる……」
「報告ありがとう。長生きするよ、お前」
 と、言い残してアオは死なない程度にゾロアークの顎を蹴り飛ばして気絶させると、リフレクターを張りながらその男の居場所に向かう。まずは咆哮を上げるところから始めて、アオは森中に危機を知らせる。位置によっては届かない事もあるが、森にすむ鳥達の誰かがその危機をレンガに伝えてくれる。ミドリは役に立たなそうだが、来たければ来てくれればいいか。

 アオはまず、罠を仕掛けられている事を警戒して、地面を歩かずに木の幹を蹴りながらジグザグと三角蹴りで間合いを詰める。アオが予想外の移動方法で、落とし穴も投網も関係なしに華麗にスルーしたのを見て、筋骨の隆々としたいかにも逞しい強力無比な体格の男は、望遠鏡とクロスボウを排して刀身の短い曲刀を構えた。
 先手を取って跳びあがったアオが放ったストーンエッジは、男が木の影に隠れる事で避ける。
「スター、援護しろ」
 アオが攻撃を外した直後、二人は向き合ったところで男はどこを見るでもなくそう命令する。命令を下した次の瞬間、樹幹に待機していたシンボラーが躍り出て、そのサイコキネシスで木々の間を跳んでいたアオの体が浮き上がる。たったそれだけだが、攻撃を避ける事も防御の体勢を整える事も出来ないこの状況はまずい。
 だが、敵のシンボラーのレベルがそれほど高くない個体だったがために、アオが気合いでサイコキネシスを振り払うのもそう難しくはない。浮いている間に人間は持っていた剣を投げつけており、投げられた曲刀は船の上での乱戦や、閉所での戦闘に適した剣。
 短い分、重量を増しても腕に負担がかかりにくく、その分肉厚にされたその剣はまともに当れば致命傷や戦闘に支障をきたす怪我を負いかねない。武器を避けられないと確信したアオは、まずメタルバーストで相手の体の破壊を狙う。
 正確に首筋、喉仏を狙ったその刀剣の威力たるや恐ろしいもので、リフレクターがなければ頸動脈まで達していたかもしれない。なんせ、分厚い毛皮と針金のような硬い体毛が威力を半減させてもパッと血が飛び散るほど。
 回転と失速しながらアオの背後に飛んで行った剣は、シンボラーが手元に引き寄せて回収する。その回収の合間に、アオの体から銀色の光が放たれ、人間の男はメタルバーストのダメージを返されて右上腕に傷を負った。手傷を負いながらも、人間の男は新しく手斧を構える。地面に降り立ったアオはボルトチェンジでシンボラーに攻撃すると、電気を纏ったまま、矢のような速さで木の幹を蹴って人間の背後に回る。シンボラーは体勢を崩して、手元に戻そうとした曲刀が胸を切り裂いてしまった。
 振り向きざま、人間は斧を振るうが、アオはそれを角で真っ向から受け止める。人間の腕は女性の太ももよりも太く逞しかったが、それを赤子扱いしていると思えるほどの膂力を以ってしてアオを押し返している。
(怪我をしているというのにすごい力じゃないか……だが、所詮は人間だ)

 シンボラーは曲刀を回収する際に攻撃され、手元に戻そうとした際に大きな胴体を傷つけられた分の怒りを込め、アオに向かってその曲刀をサイコキネシスで投げつける。
 と、そこでアオはにやりと笑うと、体を沈み込ませると同時に男の懐に潜り込み、鼻づらと角で男を持ち上げ、男をシンボラーが念力で投げた曲刀の盾にする。男は丈夫そうなバッフロンの毛皮の服を着ていたが、重く鋭い曲刀による一撃である。
 アオの毛皮の防衛網さえ軽々と切り裂いた曲刀だ。それは見事なまでに男の背中に深く刺さって、大きなダメージを与える。先ほどこの剣は傷つけるたびに別の誰かの血を吸っている。忙しいものだなとアオは笑い、持ち上げられた人間に角を掴まれる前に放り捨てた。
 そこからはもう一方的な物である。アオは再度のストーンエッジでシンボラーにとどめを刺しつつ、一度距離をとって隠れる。男は斧を持ったままいつ相手が仕掛けてくるのか気が気でない様子で、酷く恐れているのが丸わかりだ。背中の出血だから止血も出来やしない。
 おそらくはゾロアークによるだまし討ちや落とし穴などの罠で弱らせて勝つ算段だったのであろうが、そのどちらも回避された時点ですでに男は負けを確定していたようなものである。逆に言えば、どちらか一つでも成功していればアオも負けていたとも言える状況なのはある意味恐ろしい。

 そして、それでも悪あがきをやめなかった人間が、空を飛んで逃げられるシンボラーを失った今、アオは人間を追いかけようと思えば余裕で追いかけられるし、人間から逃げようと思えば余裕で逃げられる。アオは意地悪くレンガが来るまで待ち呆ける事だって容易だから、咆哮を聞いてレンガがたどり着いてからは無残ななぶり殺しである。

42:愚か者には愚か者を 



 まずはアオが腕を攻撃して抵抗出来なくなったところで、アオはデンチュラを呼ぶようにレンガに頼み、蜘蛛の糸で拘束して彼を背負いあげると、尋問にかけてその人間がふもとの村から金で雇われた超獣使いの一族にして超獣ハンターである事を聞き出して、村へと連れて行く。
 尋問の間に、アオはここら辺では見かけないゾロアークやシンボラーを何かに利用出来そうだからと、レンガに頼んでタブンネを呼んでもらい、治療を頼んでおいた。
「それで、あの男が村から雇われた事を知ってどうするつもりだ?」
「……もちろん、見せしめだ。奴ら人間も、私達が縄張りを侵したら殺すのだ……我らが縄張りを荒らされて殺す事の何が悪い? こう言うと傲慢かもしれないが、私達防人をピンポイントで狙うという事はつまり、この森の秩序を破壊させるという事だぞ? ……メブキジカを狩る事は見逃しているではないか。
 防人を狙うという事は、これからいくらでも木を伐れるようにする……そのための行為以外の何物でもあるまい。だったら、木を伐る必要もないようにしてやればいい。(みなごろし)が最も確実な手段だ……そうは思わぬか?」
「もう、否定するには……我らと人間との仲を違えすぎたのかもしれんなぁ……どうするべきか」
「あぁ、その事なんだがな、レンガ。すまないが……ちょっと付き合ってくれないか?」
 と、アオはレンガに頼む。村に行く事になぜか付き合わされたレンガは背中にデンチュラを乗せて村へと向かう。それの意図するところがわからないレンガは少々困惑気味だ。
 ロゼと名乗ったゾロアークの世話はそのままミドリとタブンネに任せておいた。看取り(ミドリ)と名付けられるくらい慈悲深い彼だ。人を傷つける事はめっぽう苦手でも、こういう事なら適任だろう。
「なぁ、レンガ……」
 駆け足で村へと向かう途中、アオは改まった口調でレンガに声をかける。
「なんだ?」
「地図から一つ、地名を消そう」
 アオはしれっと言い放った。
「皆殺しと聞いたが、本当に村を滅ぼすのか? それはさすがに感心しないぞ……?」
「何を言っているのか……奴らは……家畜に毛が生えた程度の超獣では勝てぬと踏んだのだろう。あらゆる超獣を従えるという噂の、超獣使いの一族を放った。それはつまり私達防人を全力で追い出しに……いや、殺しにかかってきているのだぞ?」
 と、首をしゃくりあげてアオは背中の男を指し示す。
「こいつはおそらく、人が少なくなって余った穀物や貨幣をつぎ込んで雇ったのだろうが……こういう手段も辞さないという事は、次こそ本当にどんな手段を講じてくるかわかったものじゃない。もっと強い超獣使いを呼ぶか、傭兵を繰り出す事もあるんじゃないのか?
 ならもう、あの村は必要ない。共存しようだなんて夢を見ていたミドリに恭順した自分が馬鹿だったんだ……」
「誰かが、滅ぼす以外の……別の手段を考えるまでは意見を変えてくれなさそうだな」
「よくわかっているじゃないか、レンガ。別の手段があるならばいっしょに、実現可能性を考えるぞ?」
 アオも、おそらくは村を生かす手段を考えていたはず。そう思ってレンガが口に出した言葉を、アオは肯定して前を見る。前を見ているアオの表情は心ここにあらずといったいった様子で、前にある障害物の事よりも他の者を脳裏に浮かべてみているような。
 その移ろう視線が非常に危うく感じ、アオの事ばっかりを見ているものだから逆にレンガが前方不注意で危ないくらいだ。
「しかし、解せない事がある。厳しい冬を無事越せたのに……なんでまぁ、奴らは私達防人を亡き者にしようとしたのか?」
 アオの疑問を聞いて、レンガは考える。
「聞いた話じゃ……人間にはこの世界が狭いらしいのだ」
 と、レンガは言うが、急な話の転換について行けずにアオは首を傾げた。
「広すぎるくらい広いと感じるこの世界も、縄張り意識が強ければ、そして同族にあふれかえっていれば狭くなる……」
 そう言って、レンガは走りながらだというのにのんきにため息をついた。
「サメハダーという超獣は、腹の中で卵が孵化して、進化前のキバニアは体内で殺しあってから生まれるらしい……奴らは、それなのだ。狭い場所で敵がカチあえば、殺しあうしかない。
 逃げるという選択肢が作れなければ、そうするしかないんだ……世界は母親の胎内ほど狭くはないというのに、そうして奴らは無駄に求め、求めるがゆえに無駄な争いを産む。奪う事を考え、荒地を耕す事も肥やす事もしようとしない」
 レンガは言いきってから小さくため息をついた。
「そして、無駄に求めた結果がああして我らの縄張りを侵した上での木の伐採か? 我らとて人間の縄張りを侵す事はあるが、その時はきちんとそれなりのリスクを負うというのに……常に奪う立場でいようなんて思っていると、いつか手痛いしっぺ返しを食らうという事すらわからないのか、奴らは。
 行き過ぎた縄張りの主張は身を滅ぼすぞ……身を滅ぼさないために、食いわけ、棲み分け、そうして我々生物は進化・分化してきたというのに……何でも食べて、どこにでも住みつく……シザリガーですら生温いレベルでそれをする人間は、何を目指しておるのやら。
 奴らが生き物としての理を大きく外れた存在であるのならば、もはや共存など考える必要もないのか。人間が……自分達がこの広い世界に閉じ込められていると思っているのならば、閉じ込めてしまえばいい。我らの、森の縄張りに二度と踏み入れられないくらい完膚なきまでに殺して、殺す」
 乱暴な発言をするアオの思想がさすがにまずい気がして、レンガは顔をしかめた。
「だが、あの村の奴らも被害者だ」
「私も被害者だ」
 レンガが言った被害者という言葉に、アオは真っ向から跳ね返す。
「たぶん、お前が考えている意味の被害者とは違うよ」
 だが、レンガはそうじゃないという風に苦笑する。
「我が言いたいのは、人間がお前の被害にあったという事ではなくてな……奴らは、職業軍人だけでは兵隊が足りないからと言って、戦争のために働き盛りの男を徴兵されて出兵させないといけなかったり……その上家畜として飼っているバッフロンやイワパレスまで駆り出される事もあるのだ。
 そうして働き口が減ってしまえば、そりゃ食料不足で飢えて、木を切って外貨を稼ぎたくなるのもわかる……戦争があるから、クラボの木も需要が高まっている分いい値がつくしな。もう、首都近くではクラボの木は幼木しか残っていないそうだよ」
「それでは、村ではなく徴兵をするようなこの国のお偉いさんを殺せばこの不毛な殺し合いも終わるのか?」
「どうだろうな。お偉いさんが何人いるのかも検討がつかないのに、その方法は現実的ではないと思う」
「じゃあ、敵兵を皆殺しにすれば、戦争は終わるのか?」
「そうかもな。だが、無茶すぎて現実的じゃない……」
「なら、もうそれでいい!!」
 そうやって、否定ばかりで代替案も出さないレンガの態度の苛立ったのかアオは声を荒げてレンガに吼える。
「目先の欲に囚われる愚かな人間が相手なら、私も同じになればいい……こっちも目先の欲に囚われてやるさ。正真正銘の皆殺しで、戦争なんて物を終わらせてやればいいのさ」
 思いつめた表情で宣言したアオを、妙に冷めた目でレンガが見る。

43:三位一体 


「本気で人間を相手に戦争を仕掛ける気ならば、出来ない事はないぞ」
 口ずさむように軽く呟いたレンガの言葉にアオは驚いて思わず横を向く。
「本当に出来るのか?」
「使う機会がなさ過ぎたからな……まぁ、なんだ。本来我々の角、(つるぎ)は三つとも役割が違うから、状況によって使い分けなければ宝の持ち腐れなのだ。たとえば人間も、状況によって武器を使い分けている。
 前方には長い槍などポールウェポンを持った歩兵。後方にはマスケット銃や弓を持った兵隊……敵陣を乱す騎兵などなど。我々の体は、人間がそれを編み出すよりもはるかに昔から、そういう風に出来ているのだ……要は、そのすべての剣を効果的に使えば……そして、悪タイプの技とうまく組み合わせれば、それだけで万の軍勢を相手に出来るとすら言われている」
「だが、ミドリが頼りなさすぎないか?」
「……あいつは、角の形状が一対一で戦うのには向いていない」
 そう言ってからレンガは苦笑する。
「ま、それを差し引いてもあいつは確かに弱いと思うが……」
「酷い言い草だな……まぁ事実だが」
 つられたアオも苦笑してから、レンガは話を続ける。
「我のつるぎ……テラキオンのつるぎは、敵の隊列を崩し、恐れおののかせるためのつるぎ。人間が槍を並べて立ちはだかろうと、地震と岩雪崩と突進を上手く使い合わせて蹴散らすためのつるぎだ。人間の兵器で言うところの、投石器(カタパルト)のようなものだ。
 そして、ビリジオンのつるぎは、受け流し、守るためのつるぎ。あいつのつるぎは、いうなれば盾と弓矢だ。矢も、剣も防ぐための盾。リフレクターと光の壁で味方を攻撃から守り、草結びという名の弓で搦め手を行うためのつるぎ。
 ビリジオンはテラキオンが乱した戦列に割って入り、すれ違いざまに切り刻み、腕などを切って無力化させるか、首などを切って死体の山を作るかはお好みだ」
 最後にレンガはアオを見る。
「コバルオンの剣は、ビリジオンが処理しきれない強力な相手を殺すための一騎打ちの剣と鎚鉾(メイス)のつるぎ。お前が使うメタルバーストなんかは、一騎打ちに際して非常に有効だからな……そうして強敵を倒した後はボルトチェンジでまたテラキオンに繋ぐ。こうしてサイクルが完成して……我らは縦横無尽に戦場を駈け抜けるのだ。
 まぁ、机上の空論ではあるが……もしもそれが現実となるのであれば、お前の言う鏖も可能さ。もちろん、人間を相手にする事が前提で、超獣の相手を想定した戦法ではないのだがな。だが、伝承ではこれで万の兵隊を叩き潰したとさえも言われている」
「それが本当ならば……鏖も……可能、か」
 目からうろこが落ちた様子のアオの言葉に、レンガは頷く。
「だが、それをするにはまず、ミドリに乗り気になってもらうしかないわけだが……」
「だが、あいつは戦うのが嫌い……か」
「お前がいじめすぎたんだよ」
 ジョークのつもりでレンガは言ったが、思いのほか笑えない。自分も含めて、全く笑えなかった。

「私は、何年かかってでもミドリを説得してみせるよ」
「アオ、それがとても難しい事だとわかっていてもか?」
「それがなんだというのだ? ミドリがいなきゃもっと難しい話だろうに」
「あのなぁ、お前……そういう事じゃないんだがな」
 レンガは苦笑してアオを見る。
「お前は、森を見捨てるという楽な道をとろうとしない……お前は暴力的なところもあって、危ない奴ではあるけれど、本当にお人よしな奴だなって思う」
「そっか……」
 お人よし、と言われて褒められたような気がして、アオはかわいらしくはにかんで見せる。
「お前が大変な道を歩もうとしているのならば、我はそれを全力でサポートする。そう約束する……だからまぁ、なんだ。あまり協力したくはないが、地名を一つ消す作業……手伝おう。我も、人間に森へ手を出さないようにするには……拭いきれない恐怖しかないと、そう思えるようになってしまったよ」
「ありがとう、レンガ」
 微笑んでから角を叩き合わせたり、キスの一つでもしたかったが、今は走っている最中なので自重する。結局微笑むだけで終わったアオのお礼に、レンガは笑顔で応えて疾走する。

44:拷問 


 そうして、ふもとの村まで二人はたどり着く。
 失敗した超獣使いの無残な姿を見て、生き残った者達は泡食ってバチュルを散らしたように散り散りに逃げようとするが、それら有象無象の羽虫以下の輩など、アオが睨みつけるだけでそのほとんどが体を硬直させて動けない。逃げる事は無駄だと悟らせ、それでも逃げようとする者は足を叩き潰して逃げられなくした。
 あんな姿になるくらいなら――と、皆が大人しく地面に座ったところでアオは顎をしゃくりあげて全員に一か所に集まるように指示をする。テレパシーが使えるというのに一切言葉を発しないままだが、案外身振り手振りでも通じるものである。

 そうして一か所に集めたところで、アオはしばりつけたハンターの男を、デンチュラと協力して椅子に括り付けた。そこから先は、阿鼻叫喚の責め苦である。
 アオは、ハンターの靴を脱がすと、不衛生なその足を意に介す事もなく舌を這わせる。最初はくすぐったいとかこそばゆいとかそんな感触だった足の裏。しかして、アオの舌の表面はザラザラで、鋼タイプ故かその気になれば野菜をすりおろせるくらいの固さにはなる。
 延々と舐め続けるうちに、皮膚は破け、血管が裂け、肉が抉られ、やがて日が落ち骨が削れても、ハンターがどれだけ苦悶の声を上げても、泡を吹いても、命乞いをしても、死ぬまでアオは舐めるのをやめない。
 やがて、冷たくなってしまったハンターの死体をぼーっと見ている成人女性を睨む。『ひっ』と力ない悲鳴を上げたその女性は去年の秋に気まぐれで助けた妊婦で、今は泣き疲れて眠っている赤ん坊を抱いている。
 その女を無造作に背中に乗せると、そのままアオが軽やかな足取りで家の屋根まで駆け上った。
『よく見ておけ……我らの住む森に、今後狩り以外で手を出そうというのなら……たとえば、木を伐り倒そうとしたり、我ら防人、三つのつるぎを殺そうとした場合は……ああなる』
 テレパシーで話しかける。背中に乗せている女性は理解したのか理解していないのか、アオは返答を待たなかった。


アオはレンガに合図をしてから地震を起こさせた。
 一か所に集められたまま、座っている子供や老人が急に繰り出されたそれを避けられるはずもなく。出稼ぎで難を逃れていた成人男性もまた、座ったままの大勢から避ける事も出来ず――赤ん坊を抱いていた女性は、自分以外のすべてが肉片に変わる瞬間を見届けた。全部、目に焼き付けてしまった。

「さてと……色々付き合ってくれてありがとう、デンチュラ。約束通り、新鮮な餌だ」
 何事もなかったかのような素面で屋根から降り立ったアオは、人間の事などお構いなしに、まずはデンチュラにお礼と言い張って人間の死体を差し出した。
「さすがに……むごい光景ですね」
「気にするな。自業自得だ」
 と、アオは適当にデンチュラにお礼を言ってから背中の女性を下す。
『よかったな。火事場泥棒をすればそれなりの現金も手に入るだろうし、高額な家畜も売り放題だぞ? これでしばらくは赤ん坊を抱えていようとも金に困る事もあるまい』
 皮肉たっぷりに、アオはテレパシーでそう伝えた。
『あとはもう好きにしろ。私に挑んでも構わんぞ? ハンターのような目に会うのがオチだがな……まぁ、そうなりたくなかったら……もう私達の森には二度と足を踏み入れるんじゃない。
 生き残れただけ運がよかったと解釈して……我らを罠に嵌めようとした事、我らに刺客を放った事。その二つを後悔しながら、無様に生き永らえろ。森の守り神、防人たる我ら三つのつるぎを、未来永劫折ろうなどと考えるのはやめておくのだな』
 最後にそれだけ捨て台詞を残して、アオは踵を返して自分達の暮らす山間の森へと帰るのであった。レンガは律儀にデンチュラが食べ終わるまで待って、アオに遅れる事数分の間――立ち尽くしていた女性は言葉すら発する事もないまま人形のようだったとアオに伝える。
 そうして、今宵の事件をきっかけに、地図上の村の名前には『(跡地)』と付け加えられるようになった。

 この一年半後、アオは自己暗示による発情期を迎え、その時生まれた亀裂からミドリと殺し合いを繰り広げる事を、彼女はまだ知らない。






コメント 




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感想 

お名前:
  • >ナナシさん
    感想&誤字の指摘ありがとうございました。

    >>無理ゲー通り越してイジメですね………。
    騎士道を重んじようとか、そういう発想はないに等しい状態ですので、それくらいのことは躊躇なくやってしまうと思います。相手をする戦士たちには気の毒と言うほかありませんね。
    >>二人の考えや、変わったアオの姿や思考が非常に印象深いです。
    形はどうあれ、皆が皆成長していくものです。頑固なように見えて、聖剣士もまた生き物なのです。

    >>リングさんによるvsアーロンがちょっと気になったり(
    素の状態なら十中八九アーロンが勝ちます

    >>神の制裁が街にくだり、壊滅状態になってしまいます。
    本当に、ここら辺は踏んだり蹴ったりです。ゼクロム軍の人間もそんな感じなのですが、触れられてすらいないのが可哀想なくらいです。
    ゼクロムが街を長追った理由に関しては、公式では再び戦争をはいメタ人間に対する怒りとされています。この物語では、防人たちを巻き込む火事を人為的に起こしたことがきっかけになっています。


    >>完結後の後書にも書いていらっしゃいましたが
    物語のテーマでもありました。アオ達が正義の行いをして完全に悪を挫くだけでしたと言えるのは、トルネロスを倒したときくらい。しかし、それも成功と言っても副作用が起きなかったというだけで、モエギが死んでいるから成功とは言いがたい状況と言うものです。
    正義を善に近づけるのが、どれだけ難しいことかと言うことですね。

    >>三度アオとロゼの二人きりシーン。
    近親相姦を防ぐためにですね……ゴニョゴニョ

    >>しかも出来るまで何回もヤってたようでなんかフクザツデシタ(棒
    一杯食べて太ろうと努力してましたので……ゴニョゴニョ

    コメントありがとうございました
    ――リング 2013-04-27 (土) 18:35:32
  • 71:悪いのは誰? より
    「アオ“たち”防人はゼクロムが街を襲ったあの夜まっすぐ“家”に帰り」「“分か”った。じゃあレンガに頼んだぞ」「連れてきた意味というのも“分か”るというものだ」「レンガ達が来るまでこの体“制”をされていてもばつが悪い」「まだ数分も“た”っていないというのに」「当のベルセリオスはミズキの“事”が珍しい」「話が出たのも、その時の“事”である」

    72:戦争は終わる より
    「“防止”をはずして無防備な体勢でアーロンが言う」「そういった心がけのないこの地“王”では」「悪を“くじく”わけではないから善ではない」

    73:必要悪 より
    「つままれた“ち”ョロネコのようにおとなしくなった」「肉食動物に怯えながら生きる“事”」「そういう事実を鑑みてもわかる“事”さ」「きっと神でも“でき”やしない」

    74:つるぎあわせ より
    「救世主に近づこうと努力“出来”るじゃないか」「何か“でき”ることをやるべきだとは思わないかな?」「私は貴方の“事”を応援するから」「角を突きだして突進の前準備となる体“制”をとる」「ケンホロウ達“にに”会釈をして」

    75:人助け より
    「物を“堀”り返すのに適した角の形状で」「家族そろって生存“出来”た者達は」「恩を売っておくという大義名分もある“事”なので」「レシラムが街を焦土にしていた“事”から」「人間”たち”はアオさんのことを男だと思っていたみたいです」「この森の“事”を考えれば、こっちだって」

    76:子供達の時代 より
    「だから今回の“事”はお前達が決めろ」「アオは目を合わせることすら“でき”ず」「レンガが言えば、アオは『まあな』と肩を竦める“」”」「修羅のような地獄絵図である“、”。」

    77:プロポーズ より
    「論破されるか、強引に“事”に及ぶまでは……」「相手の気持ちを“分か”った上で説得すればいい」「“でき”ればその時は来て欲しくないと思いつつも」「アオは確認するように“を”口にする」「声もなく頷いて新しい“つがい”の誕生に」

    78:正義の心 より
    「次々と殺して“言”った姿に対して」「ただ目障りだから“憂さは裸子”をした」「私“たち”を相手に使うのであれば無駄ではないだろう」「私“たち”を殺すためだけに全力を尽くすような作戦を行う“事”も」「そうしてしばらく“た”つと、お互い出せる言葉もなくなってゆく」

    79:親密 より
    「それをすごい“事”のように言われては」「お前以外の他の誰とも“でき”ない」

    80:指揮官のつるぎ より
    「双方に利益のある“事”だけで良いのではないでしょうか?」「悪いから助けるくらいの“事”はしてやっただけ」「まだ1歳に“満たない満たない”はずのミソギは」「まだ火事から1ヶ月も“た”っていないのに」「人間から“もら”った食料で補っても」「そこら辺の“事”を話し合いが始まって」「自分の“事”を久しぶりに母さんなどと」「何もしない。何も“でき”ない」「“事”の解決に当たります。何かしましょう」

    81:辻斬り より
    「毛“づくろ”いをしてもらう最中に改まった表情で口を開く」「発情期になってしまおうという“の”自己暗示の末」「果実のように濃厚な“メス”の匂いを放って」「毛“づくろ”いを再開させて、ため息をついた」「新しい“街”が見つかればいいのではなく」「嬉しいならば抱き“つ”け。死ぬまで一緒に居たいなら抱き“付”け」「混ざるいつもの匂いの中、確かな“メス”の匂い」

    82:前戯 より
    「ロゼはアオを座らせ、彼女の毛“づくろ”いを始める」「アオが興奮していることは“分か”ってしまう。お互いに興奮していることが“分か”れば隙を見せられないし」「一つになりたい<と>思うのは双方の願いだが」「とにもかくにも毛“づくろ”いをして」「やがて、“体の”毛“づくろ”いが終わる」

    83:季節の終わり より
    「快感をそらすことを続けるしか“でき”なかったのである」

    間違いと、統一をば。

    ゼクロムとレシラム、二柱による主要都市の襲撃で戦争は実質続けることが不可能となり、アオ達の森は暫く安泰になる。しかし、失ったものはとてつもなく大きなもので………やるせないです。ベルセリオスの謀で森を焼かれ、当の本人はすでに死去。当たるものがなくなったところに齎された二つの報。実感のないままにアオとアーロンの正義についてが語られました。
    完結後の後書にも書いていらっしゃいましたが、やはり正義とは勝手なもので、立場や環境、時代によって変わる、触り心地の良い言葉でしかないのか。深く考えさせられるものがありました。
    ですが、その後のアーロンの頑張り続ける姿勢こそが大事という言葉には、心打たれました。
    瓦礫の撤去及び人助けを挟みつつ、三度アオとロゼの二人きりシーン。シリアス回かと思いきや、あれよあれよという間に二人がまぐわってるじゃないですかー。ドSなアオの攻めと焦らしに、熟年なロゼが可哀そうで…(突っ込んでからはアオがヒィヒィ言ってましたが(二度蹴り
    しかも出来るまで何回もヤってたようでなんかフクザツデシタ(棒
    ――ナナシ ? 2013-04-15 (月) 16:45:04
  • 62:火事 より
    「そしてミソギといった次の世代に“兵”あの森を」「乾燥した風の吹く冬の日の“事”」「ヒヤッキー達と共にその道“導”となる倒木を燃えないよう」

    63:覚悟の姿 より
    「普通のポケモン“たち”が行う進化の現象にも似ていた」「そして“でき”れば、限界までワシに手助けをして」「人“口”の雨のみならず森の煙が雨の核となって」「母親の死を理解“出来”ずに、ミソギは」「山が崩れそうなほどの振動を伴う“の”大声を発しても」「防人“たち”の気配が消えたその後ろで」

    64:殲滅 より
    「アオのリフレクターと“ミドリ”の光の壁を受けて」「“ミドリ”はレンガに手助けを送る。“ミドリ”から受け取った力も加わり」

    65:大きな誤解 より
    「アオが“サラ”に角を強く押し付ける」「今となっては、過去視の“でき”る超獣でもいなければ」「ミドリのように相手の“事”を気遣いすぎるような」

    66:帰還報告 より
    「油断していなくとも見破る“事”なんざ」「ロゼ……火事の“事”で飛んできたのだろうが」「内容を後回しにしようとアオは別の“事”を考え」「思っているのに口に“でき”ない」

    67:赦す より
    「私が赦しますよ。アオさんはいっぱい“がんば”って」「人間みたいに“むずか”しいことに悩んじゃってまぁ」「貴方の“事”を軽蔑する人もいるでしょうが」

    68:ロゼの励まし より
    「でも私は、カイジさん“たち”ケンホロウ」「超獣たる私“たち”を無碍には扱いませんが、大抵の人間“たち”は私“たち”のことなんて」「そういうやつですら被害者である“事”もあるんです」「メブキジカ“たち”は、木の上に生えた枝葉なんて食べられないから、そういった作業はアオ“たち”がやるしかない」「来年もまた食料に“でき”ますように」

    69:黒陰 より
    「黒い龍“の”を中心に渦巻き」「レンガ……私達、何も“でき”ないの……?」「比べてしまうと自分“たち”は非力なものだ」「言葉で会話しているので諦めるのは“速”かった」

    70:反撃 より
    「森を守るのはあなた“たち”でしょう?」「貴方“たち”は何度も言っていたじゃないですか」「“セッカ”の人間には“気外”を加えないようにとアピールするさ」「体の“そこ”から熱い力が“わきあ”がって来るのを感じ」「精神が強くなければ正面に立つことすら“でき”ないほどの」

    間違いがありました。

    同時多発山火事によって、いっきに住処と食糧を奪われたアオ達と森の超獣達。ミズキの決死の尽力もあり、さらに被害が拡大することは何とか防げましたが……力を使い切りミズキは死去。他の超獣も炎にのまれ、命を落としました。人間への恨み辛みが募る中見つけたぜクロム軍の旗。そこで防人達は鬼神と化し、ゼクロム軍に所属するものは誰であれ容赦なく殺戮する狂気へと駆られてしまいましたね。後続からそれは仕組まれた罠である可能性が非常に高いことが分かり、冷静さを失う3匹にはかなり感じるものがありました。兵士のみならず市民達まで無差別に虐殺しまくった罪悪感に苛まれいたたまれなくなり帰還し、ロゼとの対話シーンへと移りますが、ここでのロゼの漢前なこと…前回に引き続き格好良いアオの心の支え役ですね。やってしまったことは仕方がない。これからすることによって理由を付けて良いことにしようという、前向きな論は素晴らしいものです。
    だがしかし、これから立ち直っていこう、そう思った矢先、神の制裁が街にくだり、壊滅状態になってしまいます。しかも撃退しようとしたら人間達からは遅いだなんだと難癖を付けられ、今迄の評価はガタ落ち。踏んだり蹴ったりの災難で…。ゼクロムが街を焦土へと変えた理由とはなんなのか、非常に気になったところです。
    この回はアオとロゼの会話シーンが一番印象に残りました。
    ――ナナシ ? 2013-04-11 (木) 16:14:15
  • 52:戦う理由 より
    「悪タイプの技を使える“物”を集めて」「“に分か”には信じがたい話」「ヒスイさん“をを”なるべく危険には」「今日この場所でメブキジカが“収”集される」「耳を貸さなかったというミドリの“事”を」「また何も“でき”なかった自分が悔しくて」

    53:戦支度 より
    「今心配するべきはミドリの“事”ではなく、目の前の戦いの“事”なのだ」「顰めたが、それも一瞬の“事”」

    54:偶蹄の悪魔 より
    「ロゼの優れた幻影。“、”索敵に特化した」「悪タイプの力を伴うその大声は防人の力を増<大/幅>させる」「二人はレンガがカバー“でき”ない死角」「壁<を>張りなおしたりという仕事に終始した」「血まみれの体毛をなめて毛“づくろ”いしながら」「情報を聞きつけたこ“と”には街の閉鎖が手早く」

    55:勝利の余韻 より
    「まだミドリ<さん>の“事”を気にしているのですか?」「うっと“お”しいロゼの到来を」「アオの隣に座り、話を聞く体“制”を整えた」「メブキジカがさんざん見た目の“事”は褒めている」「眠れるような伏せた体“制”に移る」

    56:悩み事 より
    「ところで、ミドリさんの“事”」「人間の“事”、知れば知るほど私は羨ましくなってしまうな」「え、っと……確かあれですよ。ミドリさんの“事”……」「 一定“しないせず”に移ろう目線を“負”いながら、“セグ”は彼女の苦悩する表情に嘆息する」

    57:戦う理由 より
    「流産した“あ”たしはあまりのショックで」「人間を殺すことに協力してくれないミドリの“事”を」「その“灘”を目の当たりにして」「絶対に理解“出来”ないかも知れませんが」「私達は“攻”めてレンガが成人になるまで」「出来る“事”なら遠い昔のように」「同じものを飲み食い“でき”るような世界がよかったさ」

    58:戦い続ける決意 より
    「私もレンガ<さん>も貴方に何も言わずに」「そんな風に、間違ったら“俺ら”が正しますよ」「街じゃあなたの“事”を英雄だなんだと」「一つの“戦争が戦争が”勝利で終わったのだ」「人間を虐殺し“つ”てしまった自分が幸せになる」「せめて、“ミドリ”を。私の子供だけでも導いて欲しい」

    59:留学生アーロン より
    「アオ“たち”は、もはやいるだけで」「私“たち”に似た超獣だと……?」「こちら“事”を警戒もしなければ」「私“たち”防人でも危ないんじゃないだろうか……?」

    60:最後のつるぎ、ケルディオ より
    「その“事”なんだけれどね」「火事にさせる“事”さ。要するに火で攻める“事”。人間の場合は街を焼くことが一般的だけれ“と”」「一度燃え上がれば止めることすら“でき”ないものの」

    「あなた」「貴方」が混ざっているようです。また、52節、57節は同じなのですね。

    アオ達が戦争を終わらせるために、本格的に横やり。突然、陣内部から湧いた不意打ちですが、もうやめたげてよおと言わんばかりな、一方的な戦闘でした。攻撃力4倍upな防人達を寝起きに仕留めろとか、無理ゲー通り越してイジメですね………。メブキジカ達も独自の戦闘スタイルでもって逃げる兵達を屠っているようですし、ゼクロム軍から悪魔と呼ばれても仕方がないですかね。
    その後は場面が変わり、森の中でのアオとロゼの会話シーン。アオの心情が事細やかに描かれつつ、それに相槌、意見を交わすロゼ。とても深い内容であり、二人の考えや、変わったアオの姿や思考が非常に印象深いです。
    そして、ホウエンよりの留学生アーロンがケルディオと共に現れ、物語は更ならなる展開へと進むわけで。映画でも高い地位にいたようですし(姫から直接命を受けたり)、アオがあれほどの感じ方をするあたり、やはり強者なのでしょうね。リングさんによるvsアーロンがちょっと気になったり(

    完結後こんな後にコメしてしまい…orz
    ――ナナシ ? 2013-04-09 (火) 19:05:19
  • >ナナシさん
    コメントありがとうございます

    ロゼは嫌われてもいいからそばにいたいというくらいの気持ちでアタックしていますが、それが逆にアオにとっては新鮮だったのでしょう。そのため彼女はロゼに親しみを覚えるようになってしまい、知らず知らずのうちに受け入れてしまったようです。
    そのなれなれしさは同じ防人同士でもありえないものだったので、ロゼの態度にはどうにも慣れないようですがね。
    そのおかげか、2人はやがて互いに信頼しあうようになり、今回のようにアオは取り乱しても何とかなるくらいにはお互いを想えるようになったのでしょう。
    誤字報告も含めてありがとうございました。
    ――リング 2013-01-05 (土) 14:57:57

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