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逃亡者story6~10

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逃亡者 story6~10



著者 パウス




~story6~ ―ネフェリンの危機― 



いくら考えても一向に良い言い訳など思いつかなかった。
相手は私を助けてくれた命の恩人。それなのにあのこと以外で逃げ出す理由などどこにあろうか。
彼の・・・・いや、彼等の企てを知らなかったならば一生あそこで過ごしただろう。




私は焦りでパニック状態になりつつあった。
一方、グランスの視線はさらに鋭く突き刺さり淡かった怒気は徐々に濃くなり辺りを覆った。
元々乱暴なことを殆どしたことの無い私にとって彼との戦闘は御法度だ。
四年前にガレナと喧嘩したけれどあれは所詮子供の喧嘩。少し間違えれば殺されるなんてことはなかった。
でも今回はそれとは違う。他の者から敬われるその地位は彼が時間をかけて作り上げてきたものだがそれは偽り。偽の守護者である彼の本性は卑劣極まりないものだ。
そのことを知っているのはこの森に住む者で彼を除くただ一匹、私しかいないのだ。
そのことがばれてしまったならば捕まえられて監禁されるか、最悪の場合口封じのために殺されるかもしれない。




時間が経つと共に焦りは恐怖へと変わり始めた。
彼と視線を合わせられずに泳ぎ回り、冷や汗が頬を伝って地面に流れ落ちた。
そんな私の姿を流石に不信に思ったのか、彼はもう一度質疑した。
「何で逃げたりしたんだと聞いてるんだが?」
より一層冷たさと怒りを含んだ声に体が硬直した。
冷たい風が私の頬を撫で、彼の背後に聳え立つ木々がざわめき始め、私の恐怖心を扇ぎ立てた。
いつもは美しい草の音も今は彼の質疑に対する返答を促しているようだった。
「あ・・・う、うん。それは・・・」
焦って返答しようとするも、ここまで言いかけて口ごもった。どうしても良い言い訳が思いつかない。
やはり恩人から一週間も逃げ続けたという時点で許されるものではないのだろうか。




はっきりと返答できずに黙っていると、木々のざわめきの中に何者かの声が聞こえた。
「そいつはねぇ・・・・。」
媚びと嫌味を混合したようなその声は彼の背後に立っている白い体毛を持つ者から聞こえた。
美しい容姿と体毛に、瞳には赤みがかかっている。額には宝石のような玉が月光を赤く反射していた。
それはペルシアンと言うポケモンの種類だった。
「あ・・・いたんですか?」
彼は突き刺さるような視線をペルシアンに向けた。
ぶっきらぼうでも敬語を使っているということは、彼女は少なからず上の立場なのだろうか。
ペルシアンは小さく「ついさっきね」と言い、彼の横に並んで座り込むととんでもないことを彼に告げた。
「そいつ、あんたが人間と手を組んでやっていることを知っちゃったのよ。」
一瞬視界と頭の中が真っ白になった。
ここまではっきりと言われてしまうともはや言い訳のしようがない。
「何とかすれば・・・切り抜けられるかもしれない」という淡い希望は濃い絶望の色に塗り替えられ、これから何をされるか分からない恐怖が何倍にもなった。
「成程・・・そういうことか。」
彼は口の片端を上げて小さく笑ったが目は笑ってはいなかった。
もうばれてしまったのだから仕方が無い。
私は死をも覚悟で言った。
「・・・そうだよ。一週間前、あんたが人間と話してるところを聞いたんだよ。
 悲しかった。・・・・・こんな奴が命の恩人だなんてね・・。」
目に留まりきらないほどの涙が溢れ、目の前が歪んだ。
もしもこの場にいるのが私一匹だけだったら声を上げて泣いていたかもしれない。
昔の親友と再会出来てからまだ数日しか経っていないというのに思わぬ不幸が待ち受けていたのだ。




「ふ~ん、じゃあ殺せば?」
ペルシアンは冷酷にも彼にこう言った。
予想はしていたことだが、死というものはやはり怖いものだ。
だが彼は首を縦には振らなかった。
「いえ、出来れば殺したくない・・・。」
彼が思いもよらぬことを言ったので、涙が止まった。
「こいつは俺がもらいますよ。」
『もらう』・・・・・私はもはや物扱いなのだろうか。
殺されるよりかはいくらかマシだが物扱いというのも酷いものだ。
ペルシアンは冷たくこうはき捨てた。
「愛ってやつ?くだらなぁい。」
私はこの言葉にかなりの怒りを覚えた。
―――愛がくだらない?私のガレナに対するこの感情もくだらないって言うの!?
だがもっと怒りを覚えたのは次の彼の言葉だった。
「いや、愛なんかじゃないですよ。ただ誰かにこのことを言われたら困るからです。
 それに………いろいろと使えそうですしね。」
私は無意識のうちに口から小さい〝火の粉″を吐き出していた。
ガレナとは比べ物にならないほど弱い〝火の粉″。そんなものが効くわけないと分かっていてもこの怒りをぶつけずにはいられなかった。
彼はそれを片手で払いのけ、何事もなかったかのようにペルシアンと話を続けていた。
何度放っても全く効いている様子は無い。
私はたった数発撃っただけで息が上がってしまった。この時ほど自分の無力さを痛感した時は無いだろう。
このままでは森の皆が支配されてしまう。・・・・・・ガレナも・・・・。




「・・・・お前、まだ何か隠してるだろ。」
私の心情を表すかのように木々のざわめきが大きくなった。
まだ隠していること―――彼の・・・ガレナの存在。
ガレナに危害が加わることは絶対に避けたかった。
「な・・何言ってるの?」
あたかも隠し事など何もないという風に振る舞ったが彼は全てお見通しだった。
「ほう、まだ中に誰かいるな?寝息が聞こえるぞ?」
確かに私の住処である洞窟の中からは風が通り抜けているような澄んだ寝息が聞こえた。
微かな音であるが彼の耳には入ったらしい。
彼は私を押しのけ、洞窟へと足を踏み入れた。
「ちょっ!待って!!」
必死に拒んだがそれは全く意味を成さなかった。
彼は私を無視し、洞窟の奥へと進んでいく。
死に物狂いで拒む私を鬱陶しく思ったのかその強靭な拳を振り上げ、私の腰を思いっきり殴りつけてきた。
全身に激痛が走り、足が全く機能しなくなって私はその場に倒れこんだ。
僅かに残る意識だったが、その後の彼らの会話は微かに聞き取れた。
「あら、割と可愛いマグマラシじゃない。」
「どうします?こいつ。明日目を覚ましてネフェリンがいないとなったらきっと探し回りますよ。」
「そうねぇ・・・じゃあ私の好きにするわ。」
ここまで聞き取れた瞬間、プツリと糸が切れたように視界が暗闇に移り変わり、何も聞こえなくなった。意識ははるか彼方まで投げ飛ばされてしまった・・・。






逃亡者 ~story7~ ―嬌笑― 



昨日を変わらない暖かさを感じる。見えてないまでも、太陽の暖かな光が洞窟の奥まで入り込んで俺の体を照らしていることが分かった。時は既に朝だ。
まだ寝ぼけている目を開け、掛け布団の様に使っている幾重にも重なった草を退ける。その瞬間に眩しい朝の日差しが目を直撃して一瞬怯んでしまうほど良い天気だった。




寝ぼけていた目と頭がすっきりしてきたところで、周りの異変に気が付いた。
―――ネフェリンが居ない。
いつもならすぐ横に寝ているはずだった。幼き頃昼寝をしようとするといちいち添い寝をしようとしてきたことも覚えている。何故か今日は居ない。
外に出てみてもネフェリンは居なかった。朝食を採りに行った形跡も無い。そもそもネフェリンが横で寝ていた形跡すら見当たらないのだ。
自分が寝ていた寝床の横に前足を乗せてみる。そこにネフェリンの温もりは無かった。
「おいっ!ネフェリン!何処行った!?」
叫んでみても自分の声が騒がしく反響するだけで何の音も無い。――否、誰かの声が聞こえた。
「やっと起きたの?随分と遅い事ね。」
聞き覚えの無い声に振り向くと、入り口の所に一匹のペルシアンが立っていた。その白い毛に日光が反射してよく見えないが間違いない。
「誰だ貴様は!?」
自然と警戒心が沸き出始める。この怒鳴り声にくつくつと笑うペルシアンが異常に不気味に感じた。
彼女がゆっくりと歩み寄って来る姿にも多大な恐怖を感じてか、急にどっと汗が噴き出した。
何処の馬の骨かも分からない輩が近づいてくる時には、普通警戒心が強まるものだが今回は別だった。
警戒心よりも恐怖心の方が圧倒的に勝っているのは何故だろう。




「くっ……」
恐怖の色で染められつつある体を何とか動かし、禍々しいペルシアンに突撃していった。
どうだ、この速さについて来れまい、と勝手に思い込んだのがいけなかったのか。
ペルシアンはひらりと跳んで避け、降下しざまに俺を押さえつけた。
「ぐわ………!」
衝撃が凄まじいがそれ程痛みはない。それよりも自分の突撃をいとも容易く交わされたことの方が痛い。
自分の戦闘における絶対的な自信もペルシアンにとってはガラスの様に脆かったようだ。




「別にあんたに危害を加えるつもりはないわよ。ただちょぉっと付き合ってくれればいいだけ。」
ペルシアンは耳元で囁いた。
「何故貴様に付き合わなきゃいけないんだ!さっさと放せ!」
何とか抗ってみるが何の意味も成さなかった。ペルシアンの押さえつける足は途轍もなく硬い。
ペルシアンは余裕を見せ付けるように意地悪な笑みを浮かべた。
「あらぁ?あのキュウコンの居場所、知りたくないの?」
思わず目を丸くした。何故こいつがネフェリンの事を知っているのだろう。
その謎は直ぐに解けた。
「……貴様か、貴様がネフェリンを拉致したんだな!?何処だ!答えろ!」
じろりと睨むも、圧倒的に有利な立場にいるペルシアンは余計に嘲笑う。
「だから言ったでしょ?ちょぉっと付き合ってくれれば教えてあげるって。」
ペルシアンは俺を片方の前足で掴み、また洞窟の中へと放り込む。放り込まれて受身も取れずに転がった所は丁度さっきまで寝ていた寝床だった。
慌てて体制を立て直したところにペルシアンは飛び掛ってきた。
またさっきの様に俺が押さえつけられる形となる。少し違うのは俺とペルシアンが向かい合っているというところだった。
ペルシアンは俺の体を嘗め回すように見回し、次第に視線が一点に集中する。その一点に集中した部分を後足で軽く踏んだ。
「ひぃう…」
全身によく分からない衝撃が駆け回り、情けないほど弱々しい声を上げてしまった。何だこの声は、こんなの俺の声ではない。
ペルシアンが踏んでいる部分とは雄特有のモノが存在する部分だった。
これを弄るということはもうこの後何されるかは予想が付く。




「あんた声可愛いわよねぇ。……でも」
その口調がねぇ、と訳の分からないことをぼやきながらペルシアンは足を離し、俺の足元で座り込んだ。
今が好機と思い素早く体を起こしたが、ペルシアンは一つとして焦った様子も無くこう言った。
「下手に動くんじゃないわよ。あのキュウコンの居場所を知りたくなければ別だけどね。」
こんなの、選択肢は二つに見えて一つしかない。当たり前だ、ネフェリンは必ず助け出す。
だがそのためにはこの修羅場を乗り越えなくてはならない。
他者の弱みに付け込む卑劣な奴だが、どうにも対応のしようが無かった。




もう抵抗はしないという事を現すようにまた仰向けになると、認めたくは無いがペルシアンは嬌笑と呼べる笑みを浮かべた。
「そうそう、いい子ねぇ。」
ペルシアンは前足でモノを握っている。この瞬間から既に主導権も奴に握られており、もう逃げたくても逃げられないという事を悟った。
この変態野朗がっ、と内心毒づく。が、表に出したら機嫌を損ねるかもしれないと、当分口には出せなかった。
恐らくここまでの修羅場は初めてで頭が混乱しているのか、野郎ではなく女郎だったか等とどうでもいいことが頭に思い浮かんで離れなかった。






~story8~ ―望まぬ熱― 



成すがままにされている俺はただ喘いでいるだけだ。
「く・・・ぅう・・」
ペルシアンは顔の前で雄の象徴(言いにくいのでモノとでも言っておこう)を握り、そのまま上下に動かしていた。
興奮しているペルシアンの息が直にかかり、それがまた敏感に反応させる。
こいつは絶対やり慣れている。これまでも何度か襲ったのか、あるいは襲われたのか。
いや、後者は無い。さっきの動き・・・あれほどの力量の持ち主が押さえ込まれる何て事は無いだろう。




やがて快楽が増してきたモノからは透明な汁がジワリと滲み出るように放出され始めた。
それのせいか、ペルシアンが前足を動かすたびにピチャピチャと水音が洞窟内に反響する。
「あらあら・・・・・さっきまで嫌々だったのに随分気持ち良さそうじゃない。」
この嫌味ったらしい言葉ではっと我に返った。確かにさっきまで快に酔っていた。
相当恍惚とした表情をしていたのだろうか、ペルシアンにそのことをズバリ言い当てられたのだ。
恥ずかしさと悔しさで顔が更に赤くなり、泪まで滲んできた。
「そんなに気持ち良くなりたいんだったら・・・・・もっと気持ち良くしてあげるわ!」
「うあ゛っ・・・!?」
急に増幅した快楽に視線を下に向けると、ペルシアンはモノをしっかりと固定し、先端辺りを何度も何度も舐め回していた。
敏感なところを舌が這う、少々のくすぐったさと、それを圧倒的に上回る気持ち良さに喘ぐ声を抑えられずにはいられない。




そして遂にはペルシアンに咥えられてしまった。
彼女の舌が絡みつき、唾液が潤滑油となり、強く吸いながら顔ごと口を上下に動かす。~ 「やめっ・・・・あ・・ぅ・・・・・・・・んぁ・・・」
暫くそうやってモノを弄り回した後、俺の体を這うようにして顔が近づいてきた。
実はもう絶頂に達する寸前だったというのに、そのタイミングで口を離したのは偶然か・・・?
いや違う。奴は完全に見切っていた。やはりこいつはこういうことに慣れている。
ペルシアンの顔がずいっと近づいてきた。
「もっと気持ち良くさせることも出来るのよぉ・・。あっというまにイっちゃうかもねぇ。」
また這うように移動する彼女の興奮した息が顔にかかり、次に額にかかり、最後に耳にかかった。
俺の上で四つん這いになって何をするつもりなのだろうか、そう思った瞬間だった。




「なっ・・・・!!」
ペルシアンの尻尾が瞬時にモノに巻きつき、そして上下に動かし始めたことによってまたあの快楽が戻ってくる。
更には両前足を俺の胸の上に乗せ、擦るようにして動かし始めた。
下半身、上半身とくるこの快は1足す1が3にも4にもなるように、さっきよりも極めて大きい快となった。
そして更に―――
「っ!?や・・・めろぉぉ・・!!」
ペルシアンは俺の耳にまで舌を這わせ始めた。
ここはモノまでとはいかないがかなり敏感な場所で、ここを刺激されると弱い。
下半身に上半身に耳からまで伝わってくる快は7にも8にも9にも――もしかすれば10にもなっているかもしれない。




「や・・・め・・・・・・うぅ、あぁあああぁぁああぁあああーーーーーっ!!」
びくっと体を仰け反らせ、何倍もなった快のせいであっという間に絶頂にまでたどり着く。
勢い良くモノから放たれた白い精はペルシアンの尻尾にも飛び散った。その様子を見下ろしていたペルシアンはクスっと笑う。
「たくさん出たわね・・。どお?気持ち良かった?」
「くぅ・・・」
気持ち良くないと言えば嘘になる、が、こいつの思う壺になるのも相当癪なので何も言わずに目を逸らした。
大体、快楽が絶頂にまで達した時に精を放つのだから、気持ち良かった?などと聞くのも可笑しい気がする。と、これまたどうでも良い。
ペルシアンは妖しげに微笑みながら俺の頭に前足を乗せ、撫でた。
「可愛い子ね・・・。ふふっ、そんなに気持ち良かったなら・・・・もう一回やってあげようか?」
思わずぴくっと体が反応した。期待でではない、その逆でだ。
あんなにいっきにやられ、かなりの倦怠感が込み上げて来ている今の状態で、またやられたら壊れてしまいそうだからだ。
焦る俺見て、ペルシアンは馬鹿にしたように笑った。
「冗談よ。もう充分楽しめたしね。」
この一言で、少しだけ残っていた体中の精気が根こそぎ吸われてしまったような気がした。


~story9~ ―信頼と願い― 


遥か遠くから意識が戻ってきたのは、私が気絶してから一日経った昼ごろだった。
暗い、でも気が楽だった洞窟の天井ではなく、最初に目に入ってきたのは木の天井。
あぁそうか、私はグランスに連れ戻されたんだ。昨日の夜の出来事が悪夢のように脳裏に浮かび、いっそのこと本当に悪夢で終わらしたかった。
ガレナは大丈夫だろうか、と、自分もとんでもないことになっているのにそっちの方を先に考えてしまった。
今グランスは居るだろうか。居ないならばすぐにでも逃げ出して―――
そんな淡い希望は、体を起こしてすぐに打ち破られることになる。

「やっと起きたか。そんなに強く殴ったつもりはないんだがな。」
次々と木の実を口の中に放り込むグランスが、私の弱さを知っているくせに手加減したなどと嫌味を吹いた。
出来ることならその体に火をつけて散々暴れまわらせた挙句、川の中にでも蹴り飛ばしてやりたい。
だが落ち葉にも付かない程の私の弱い炎では到底叶うはずも無かった。昨日は自分の無力さを痛感し、今日は自分の無力さを呪う。
目の前に朝食である木の実が置いてあったが、グランスが採ってきたものなど口に入れたくない。
どうせならガレナに焼いてもらってから……、もうこんな妄想をしてしまうほどガレナが恋しい。
体は昔から私より小さかったが、根性やなかなか表に出さなかった優しさは誰よりも大きかった。
私が何か危ない時には、何だかんだ言っていつもガレナが助けてれていた。
だから今回もきっと、私を助けてくれる。この窮地から救ってくれる。
それが今私の中に、唯一つある希望だ。
他の森のポケモン達はグランスの本性、目的を知らない。だから守護者である彼に逆らうはずも無い。

十数個あったであろう木の実をぺろりとたいらげ、口周りを腕で拭きながらグランスは笑った。
「このことは誰にも言わない方がいいぞ。命が惜しいならな。もっとも、誰もお前の言う事なんか信じないだろうけどな。」
確かに、このことを誰かに言ったところで何を証拠に信じろというのだろう。
グランスは他のポケモン達には、森とそこに住む者達を守っていると完全に信じ込ませているのだ。
それが本当は芝居だったということは私しか知らない。
自分の事を守ってくれる者とただ何もしない者、どちらを信じるかなど考えるまでもないことだった。

一度絶望すると、他のこともマイナス的に考えてしまう。
ガレナを好きにする、と私が気絶する寸前に言っていたペルシアンのことを思い出した。
もしかしたらガレナも絶体絶命の窮地に陥れられているかもしれない。
私の唯一の希望が、どす黒い絶望の色へと徐々に染められていく気がして、胸騒ぎが抑えられなかった。
「お前の罰はまた後で実行する。すぐにやってしまっては楽しみがなくなるからな。今のうちに覚悟しておけ。」
どうやらグランスは秘密を知って逃げ出した私に、何か罰を与えるつもりらしい。

どうして私はこんな目に遭っているのだろうか。
ただ普通に暮らしていて、仲の良い友と喧嘩して、人間に捕まって、捨てられて……
もう嫌だ、私は何も悪いことなんかした覚えが無いのに。
もう疲れてきた。いっそのこと自分の手で命を絶とうか、と一瞬頭を過ぎった私は莫迦だ。ガレナだって苦しんでいるのに私だけ逃げようだなんて。
今、私に出来ることは彼を信じること。

私は絶望なんかに支配されない。
ガレナを信じながら、心の中で強く、強く願った。
―――ガレナ…………お願い、無事でいて……。


逃亡者 ~story10~ ―森の住民達― 


まだ若干の疲労は残っているが、そんなことは行っていられない。
ネフェリンとグランスとかいうリングマの関係はあのペルシアンから聞いた。
グランスが行なっている陳腐で稚拙な行為も、ネフェリンが奴に拾われたことも、今ネフェリンが捕まっている理由も場所も全て。
ネフェリンが捕まっているのはグランスの住んでいる木の中。親切なことに、ペルシアンはその順路まで教えてくれたのだ。

ここを出て森の中を真っ直ぐ行くと、すぐに背の低い草しか生えてない、広場のようなところに着くわ。
そこに着いたら右折して、ずっと行くと崖に当たるはず。ここの辺は崖に囲まれた低い土地だからね。
そして反時計回りに崖に沿ってずっと行って、回りの崖よりも数倍高い崖の下に辿り着いたら、そこから一本の太い木が見えると思う。それがグランスの住処、あなたの目的地。

ペルシアンの言った事を頭の中で忘れないよう何度も繰り返す。鮮明に思い出し過ぎて口調もそのままだが。
何故奴はこんな情報を俺に教えたのだろう。あいつはグランスの仲間ではないのか?

だってぇ、こうした方が楽しいじゃない?

不審に思って聞いてみても、ペルシアンは媚びたような声でこう返すだけだった。
何がしたいんだあいつは。そもそも何者なんだ?
いろんな疑問が浮かび上がってくるが、そんなことはどうでもいい。ただその中で今、意味のある疑問は「この順路は本当に正しいのか」だ。
もし嘘だったら相当な時間稼ぎにもなる。その間にネフェリンを連れて逃げることも不可能ではない。
そうなってしまっては最悪だ。―――だがこれ以外に頼るべき情報は無い。
あまり広い森ではないらしいから、いざとなったら一日中探し回るのも手だ。


さっきから走っていておかしいのは、ここに住んでいるポケモン達の姿が全く見当たらないということだ。
何故だ?ここはあまり住民が住まない場所なのか?考えてみても、新たな疑問が次々と生まれるだけ。
そんな中、ようやくペルシアンの言っていた広場に辿り着いた。
次はここを右折、真っ直ぐ行くと崖に当たるはず。踵を90度動かし、真っ直ぐ森の中へ突っ込んだ。
木々が凄いスピードで横を通り過ぎていく光景を横目で見ながら、無意識のうちに住民が本当に居ないのか確認しながら走っていた。
別に知ったことではないのだが、妙な胸騒ぎがするの何故だろう。

結局誰も見つからないまま、ペルシアンの言っていた崖に当たってしまった。次はこの崖を反時計回りに沿って走る。
ネフェリンの顔を思い出しながら、グランスの種族であるリングマの輪郭を想像していた。
どんな奴かは分からないが、ペルシアンの話を聞く限りではまともな奴ではなさそうだった。自分のことしか考えない、下劣な野郎だという勝手な想像が頭から離れない。
ネフェリンを大変な目に遭わせていないだろうか。彼女に変なことしていないだろうか。
もしネフェリンを傷つけるようなことをしているとしたなら―――貴様の命はそこまでだ。

ネフェリンの洞窟から出発して15分弱。またもやペルシアンの言う通りだった。
いきなりぐんっ、と背を伸ばした崖。下から見上げると、まるで点を支える柱のようだった。一体どのようにしてこんな崖が出来たのだろうか。
もしかして本当の順路なのか?希望のにおいを匂わせ、崖は堂々とその存在を見せ付ける。
ここから周りを見回して……。必死に頭にペルシアンの情報を浮かばせ続けながら後ろを振り返ると、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「なっ…………!?」
行く道を塞ぐように5匹6匹7匹―――そこには10匹ほどのポケモン達が並び立っていた。
彼らの後ろには一本太い木がその姿を現している。周りとは違った雰囲気のその木は間違いなくグランスの住処だろう。
「グランスさんから頼まれてね、見かけないマグマラシがこっちに向かって来ているのを見たら、力ずくでも止めてくれって。」
恐らくこいつらはこの崖に囲まれた森のポケモン達。その中のフォレトスが言ったことはあまりにも衝撃的だった。
―――俺に戦えというのか?こいつらと?
グランスの影響力はここまで大きいものらしい。こいつらはグランスに騙されているだけであって何も悪くは無いのだ。
自分を信じてくれているが故に何も知らない者を巻き込むなど、とてもじゃないが守護者とは言えない。
だがそんなことを知る由も無い彼らの眼は純粋そのものだった。
俺の敵は今やグランスのみだ。ペルシアンは邪魔する気はないようだし、何よりネフェリンを連れ去った実行犯は奴なのだ。

だが、どうやら俺に選択肢はないようだった。彼らの漂わせている殺気が、穏便にことを運ぶことは出来ないということを物語っている。
「悪いが、あんたを通す訳にはいかないんだよ!!」
フォレトスの掛け声と共に一斉にポケモン達が唸り、真剣な視線があらゆる方向から俺を射抜く。
完全に俺を敵だと認識した目だった。やはり、戦わなければいけないようだ。

ならば戦おう。俺だって進まない訳にはいかない。ネフェリンを助けるためには―――――
――――ここで止まってる訳にはいかない!!


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Last-modified: 2009-12-01 (火) 00:00:00
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