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逃亡者story16~

/逃亡者story16~

逃亡者story11~

著者パウス


逃亡者 ~story16~ ―恐怖のペルシアン― 


私は、何年も前からガレナに想いを寄せていた。あんな生意気で鈍感なチビのどこが好きなのか、と聞かれると答えることが出来ない。
だけど、私は彼のことがたまらなく好きなのだ。
だから私は叫んだ。相手が大きな悪だとしても、そいつを殺めるようなことはしてほしくなかった。
私を助ける時にガレナが放った炎によって、リビアルは瀕死の重傷を負っている。だが死には至っていないと知った時は安心した。
まだガレナはその手で他者を殺めるようなことはしていない。だからこそ、その殺意任せて今度こそ他者を殺めてしまいそうで、怖かった。
そんなことがないように願って、私はただ必死に――――――

気がつけば、ガレナはグランスに攻撃するどころか、辿り着いてすらいなかった。
ガレナは頭を押さえつけられ、地面に顎を押し付けられることによって、炎を吐く口が開かない。
頭や腰から出す炎も、踏みつけられている苦痛で出すことが出来ないでいた。
ガレナを抑える前足は白い毛で覆われていて、とても細くて華奢に見えるが相当な力がこめられていた。
その前足は、私がガレナに連れて行かれた時に、グランスと共に居たペルシアンのものであった。
「ふぅ………まったく、私が助けに入ることになるなんてね……」
ペルシアンは横を向き、流し眼で後ろで唖然としているグランスを見た。グランスはようやく我を取り戻し、その眼をペルシアンに向ける。
「貴様!今までどこで何をしていたっ!!」
助けられたという事が恥ずかしいのだろうか悔しいのだろうか、お礼を言わず、いつものような強気な態度でペルシアンを怒鳴りつける。
ペルシアンはもう一度ガレナを見下ろし、更に前足に力を込めた。
「……………っ!」
口が開けず、苦痛の声を洩らすこともままならない。私と、フォレトスを中心とした森のポケモン達は、ペルシアンの異様な気から、その場に縛り付けられるように動けないでいた。
「あんたは自分でそこのキュウコンを持っていったでしょ?私はこのマグマラシで遊んでから、その辺の崖から見てただけよ。」
「見てた…だと?貴様ぁ!!」
「だぁってぇ、あんたがここまで押されるとは思ってなかったし。」
ペルシアンにはっきりそう言われて、グランスは言葉に詰まった。確かに押されていたことは事実だ。

「し、しかたないだろう!?そいつが思ったよりやる小僧だったんだから………!」
グランスの言葉が、少々勢いをなくした。ペルシアンに痛いところを次々に突かれ、確実に動揺している。
――――そのせいか、グランスが苦し紛れに強気な態度でペルシアンを怒鳴るたびに、ペルシアンの殺気が大きくなっていくことに、彼は気づいていなかった。
「それにもっと貴様が早く助けに入っていれば、こんなことには―――――」
「…………ねぇ、あんた」
ペルシアンの殺気が、限りなく増殖した。顔だけでなく体全体をグランスの方に向け、ゆっくり歩み寄る。
そのおかげで、ガレナは苦痛から解放されて後ろに跳び、ペルシアンから距離をとると共に体制を低くした。
だが、ペルシアンのあまりの殺気は、ガレナまでもそこに縛り付ける。
一番危険な状況にあるのは、ペルシアンの殺気にまじかでさらされている、仲間であるはずのグランスであった。
さきほどグランスの言葉にナイフを入れたペルシアンの言葉は、一瞬にして彼女がグランスの足元まで移動してから続けられた。
「……いつから私にそんな口がきけるほど、偉くなったのかしら?」

次の瞬間、グランスの体は宙に浮いていた。ペルシアンが特別な力を使っているわけではない。ただ顎に尻尾を下から振り上げただけで、あの巨体が上に吹き飛んだのだ。
そしてペルシアンは地面を勢いよく蹴り、グランスが落ちてきたところに、その腹に痛烈な〝体当たり″をくらわせた。
森全体に聞こえるのではないのか、というほど大きな打撃音を立て、グランスは勢いよく吹き飛ばされていく。
それは巨大な木の幹にぶつかり、口から大量の血を吐くまで勢いをなくさなかった。
グランスはそのままその木の根元に座り込み、死なないまでも完全に気を失った。
「ちょっと大きな仕事任されたからって、自分の立場を見誤らないでほしいわね。」
吹き飛んだグランスに近寄り、ペルシアンは彼の顎を持ち上げる。
「…もう聞こえてない……か。」
ペルシアンが顎を離すと、グランスの頭はだらんと垂れさがった。一見死んでるように見えてもおかしくないほど、見事に気絶していた。
ペルシアンはグランスに背を向け、顔だけグランスに向けて何かを呟く。
「あんたの仕置きは、帰ってから私がすることになりそうね。フフフ……」
最後に怪しい笑みを投げかけて、今度はガレナに近寄って行った。
「仕置き………貴様、グランスは仲間じゃないのか?奴に何をするつもりだ!」
ガレナは精一杯相手を威嚇するように声を張り上げる。だが、ガレナはすでに戦える状態ではなかった。
それに気づいているのだろうか、ペルシアンはガレナに飛びかかろうとはせず、ただ歩いて近づいてから口を開いた。
「仲間?……ふん、こんな奴が仲間なわけないでしょ。ただの部下よ部下。」
「………貴様、何者だ?」
「『何者だ?』ねぇ………。それはあんたが一番よく解ってんじゃないの?」
私達にとっては意味不明な答えを出して、ペルシアンはもう一度グランスのところに歩いていった。

その瞬間、今までペルシアンの答えの意味が分からず眉間に皺を寄せていたガレナの目が見開いた。
「ガ、ガレナ……?」
ガレナの体は震え、額から汗が滲み出る。そこに今までの強気なガレナは居なく、明らかに恐怖に囚われた彼しか居なかった。
その様子を見てペルシアンは怪しげに笑むと、グランスの100キロ以上はあるであろう巨体を背中に乗せ、更に同じくらい思いであろうリビアルも背中に乗せた。
普通なら自分より大きくて重いものを二つも背中に乗せては動けない。だが、ペルシアンは少し重そうにしながらも余裕でジャンプして、崖を駆け上がってみせた。
「ガレナ、面白いもの見せてもらったお礼に、あんたに追手を差し向けるのは止めといてあげるわ。
だけど、これから一生私達に歯向かおうなんて気は起こさないことね。少しでも私達に害を及ぼすようなことした………その時は、あんたの命は無いと思いなさい。」
そう言い残して、ペルシアンは崖下の私達に背を向けた。

「……ネフェリンちゃん。」
突然私の後ろから、フォレトスの声がした。振り向くと、さっきの数倍もの森の住民達が集まっていた。
この騒ぎを聞きつけ、集まってきてくれた者達だ。
「これだけいれば、あんな小さなペルシアンなんて一捻りだ。俺達の森を汚したあいつらを、生かしてここから出すものか!」
「止めろっ!!」
すぐにペルシアンの後を追おうとした住民達の集団の前に、ガレナが立つ。
「な、何でだよ!これだけいればあんな奴――――」
「いいから俺の言うことを聞け!!」
ガレナの叫びようは普通じゃなかった。それに強気で言っているわけじゃない。まだ足が震えているのだ。
「あいつは俺達が手を出しちゃいけない。………次元が違いすぎるんだ。あれだけ束になってもグランスに敵わなかった貴様らがいくら集まろうと……一瞬で全滅だ。」
息を荒げてそこまで必死なガレナのおかげで、住民達は沸き立った気を抑えつける。
グランスという悪魔を倒してくれた英雄に、逆らうことなど誰にもできなかった。
「………解った。あんたは英雄だ。言うことに従おう……。」
熱気が一気に冷め、皆が振り上げた拳を下ろした。
――――その瞬間だった。

ガレナの体に、異変が起こった。先ほどの震えとは違い、足もとがおぼつかなくなっていた。
目に生気が感じられなく、荒い息が更に荒くなり、そして――――――
「……………ぐっ………」
かすかに聞こえる苦痛の声を残し、ガレナは―――極限まで戦い抜いた英雄は、遂にその場に倒れてしまった。


~Story17~ -絶望- 


―――静かになった。風もピタリと止み、何も動くものがない。そう、まるで時が止まっているかのようだ。
深緑の葉の天井の隙間から、まるでカーテンのような日の光が強く、鋭く差し込む。それはガレナを照らし、これで天使でも降りてきようものならば、完全に天へと召される瞬間だろう。
そんな事を想像したら、ようやく私の歯車がギシギシと動いた。
「……………ガレナ……?」
まだ本調子でない歯車が動いただけでは、彼の名前を呼ぶのが精一杯だった。だが、その直後に私は身を震わせる。
これでもし返事が返ってこなかったらどうしよう、そう思うと恐ろしくてたまらなかった。―――が、その思いは的中してしまう。
この後何度もガレナの名を呼ぶが、一つとして返事は返ってこなかった。
「ちょっと……嘘でしょ?倒れた振りして、皆を驚かしたいだけだよね…?」
真面目なガレナがそんなことをするはずがないということは、私が一番よく知っている。だけど今は、今だけはただのおふざけであってほしかった。ただの演技だと思いたかった。
「ねぇ…ねぇ……!………起きてよ!!」
私はガレナに近寄って二、三度揺すった。その体は驚くほど冷たい。それでも反応がないのが信じられなくて、彼の体を仰向けにしてみた。
―――ガレナの前足が、力なく地面に落ちた。

「ネフェリンちゃん!動かしちゃだめだ!!」
そう言ったのはフォレトスである。フォレトスは素早く私とガレナの間に入ると、ガレナの顔を覗き込んでからこう叫んだ。
「この辺りにあるオレンの実をありったけ集めるんだ!彼を絶対に死なせてはいけない!なんとしても助けるんだ!!」
すると集まっていたポケモン達は、一斉に散らばって行った。
「俺も行ってくるから、ネフェリンちゃんはここにいて彼を看ていてくれ!」
私は頭を小さく前に傾けた。フォレトスが行ってから、私はガレナがこれ以上冷たくならないように、体と尻尾を使って彼を包み込むように抱きしめる。
涙で視界を歪ませながら、何度も何度も彼の名を呼び続けた。
暫くすると、次々とオレンの実が運ばれてきた。食糧であり、天然の治療薬でもあるこの実を、私はまず自分の口の中に放り込む。
ちゃんと噛み砕いてから、私の口をガレナの口に押しつけてそれを流し込むように移した。
必然的に口づけをしてしまうことになるが、それは今までのように下心や、ふざけた気持ちがあってのことではない。
純粋に、ガレナに生きて欲しかった。例えこの怪我が原因で重い障害を抱えて、私が一生面倒を看ることになったとしてもいい。
奇跡のような再会を果たした、今まで生きてきた中の、最初で最後の私が好きになった彼を失いたくなかった。
一つ口移しし終えれば、すぐに次の実を噛み砕いてまた口移しする。少しでも治る可能性を高めるために、その一連の動作をなるべく早く、正確にこなしていった。
ところが逆に、ガレナの自分で飲み込もうとする力が徐々に弱くなっていく。暫くガレナが飲み込むのを待っていたが、一向に減っている気配がしない。
―――やがて、ガレナの動きが止まってしまった。

「…そん……な………」
ガレナが動かなくなったのが、口移しをしていた私にはすぐに分かった。まだ他の者達は気付いていないらしく、慌ただしくオレンの実を運んでくる。
「……?どうしたネフェリンちゃ……っ!!」
異変に気がついて近寄ってきたフォレトスは、固まった私の目線を辿るように自分の視線を滑らせる。そして、ガレナの状態にすぐ気がついた。
「そんな……そんな馬鹿な……!………嘘…だろ…………?」
フォレトスはガックリと顔を伏せた。
その様子に気づいたポケモン達は、次々にその足を止める。そして、止まった者は皆ガレナの様子に気がついた。
重苦しい視線が集まる中、私はガレナの頬をそっと撫でた。冷め切っていない温もりが、まだそこに残っている。
「……………ガレナ………」
私は、今度は彼の名を小さく呟いた。もう何度も何度も、しつこいくらい呼んでいるというのに、呼べば帰ってくるかもしれない、まだそう思っていた。そう思いたかった。
これからずっと一緒に暮らせるかもしれない。そんな望みを込めて、また何度も何度も彼の名を呼ぶ。
―――結局、その声がガレナに届くことはなかった。
「…嫌……嫌だよ………ねぇ、起きてよ……!……ねぇ………ねぇってば…!!」
私はそれが信じられなくて、ガレナの頬を叩く、それでも彼は何の反応もしない。だらんと垂れさがった前足が、力を込めようとしない。
涙が溢れても、それが変わることはない。時間が経てば経つほど、目の前のガレナの姿を信じるしかなくなっていった。
「嫌……だよぉ………」
―――せっかく長い時を経て再会できたというのに、この森を守るために必死に戦ったというのに、どうしてガレナが死ななければいけないの?
誰も知るはずがない答えを、誰か答えてほしかった。もしこれが運命なのだとしたら、運命って
なんて残酷なのだろうか。

私はガレナをゆっくり地面の上に寝かせた。溢れた涙が頬を伝わり、下に流れ落ちる。それがガレナの頬に落ち、続けて落ちた涙も、彼の頬にぶつかった。
―――その時だった。
「……………うっ………」
一瞬だけ、声が聞こえた。それは後ろからでもなく、横からでもなく、私の前から。
私の前にはガレナ以外いない。
「んぐ……っ!」
今度はさっきよりも大きく、確実に聞こえた。
涙を前足で拭いて、恐る恐るガレナの方を見降ろすと―――
「……っ………ぷはぁ!!……ごほっ!げほっ!」
信じられないことに、ガレナの体が自分で横を向いた。そして口を押さえて何かを飲み込むような動作をした後、せき込みながらゆっくり体を起こす。
「ぐほっ!ごほっ!…げほっ!!………ふぅ…」
私は目の前で起こっている事が理解できなかった。ガレナは確かに、しかも私の目の前で呼吸が止まったはず。
しかし今、確実にガレナが起き上がっているのだ。
「オレンの実を使うのはいいが…詰め込みすぎだ馬鹿野郎…!……俺を殺す気か!!」
呼吸を整えてから、ガレナはこっちを睨んだ。
―――その瞬間、私の目から止まっていた涙が急に溢れだした。
「……うっ…………うぅ………………っ!」
「お、おい!そんな泣くほど強く言ってないだろ!?」
私が泣いているのは、そんな理由じゃない。本当に死んだものだと思った。あれだけ長い間動きが止まっていれば、もう奇跡なんて起こらないと思っていた。
もう二度と話をすることも、笑い合うことも出来ないものだと、本気でそう思っていた。
そんな私にとって、今この状況がどれだけ嬉しいものだろうか。―――鈍感なガレナには分からないだろうけれど!
「ガレナぁぁぁぁぁーーーーーーっ!!」
「うわっ!?い、いきなり何をす…いててててててっっ!!」
森のポケモン達の歓声に囲まれながら、この感動と喜びを抑えきれなくて、私はもう一度、今度は思いっ切りガレナに抱きついた。


~Story18~ -理解- 

 
深緑の草の天井から澄んだ青空が顔をのぞかせる様を、これまた澄んだ川の水が映し出す。
俺はそんな水にそっと口をつけて飲み込んだ。いくら炎タイプと言えど、水分は必要不可欠である。口につけて飲むくらいならばどうってことない。
顔を上げ、口元から滴る水を軽く拭う。それから一欠伸して、俺は川に背を向けて歩き出した。
川の綺麗なせせらぎの音が小さくなり、やがて聞こえなくなるころにはもう俺の――元々はネフェリンの――住処に辿りついていた。
中に入ると薄暗く、奥の方で小さな炎が灯りを灯していた。その炎のそばにいた影は、俺が入ってきたと気づくや否やすぐに立ち上がる。そして、凄まじい勢いでこっちに走ってきた。
「おかえりーっ!」
そう、ネフェリンである。未だ変わりないこの子どものような無邪気さを剥き出しにして、俺に飛びかかるように抱きついてきた。
「がふっ!…お前はいい加減体格差を考えてくれ……!」
キュウコンである彼女のほうが、マグマラシである俺よりも一回り以上体が大きい。それに猛烈な勢いで抱きつかれるのだからたまったものではない。
「細かいことは気にしない気にしない。ほら、早く食べよ?」
ネフェリンが俺から離れて洞窟の中に入っていった。その後ろに付いて行くと、ピンポン球程の赤い実が炎のそばにいくつも積まれていた。
俺はその内の一つを取って口に放り込んだ。

「………もう一週間も経つんだね……」
あのグランスと戦った日から今日で1週間程経っていた。ネフェリンの看病のおかげで俺の傷もほぼ完治に近い。彼女に抱きつかれても傷が痛まないのがその証拠である。
「あぁ、時間というものは思ったより早く、あっけなく過ぎていくものなんだな…」
「うん、あの時は本当にガレナが死んじゃうんじゃないかって思っちゃった…」
「大袈裟な…。あれくらいで死ぬわけないだろ!」
軽くツッコミを入れながら、俺はこののんびりとした時間を満喫していた。思えば、お互いに何の気兼ねもなくゆっくり話すことなど本当に久し振りである。
子供の頃に俺が彼女を肉体的にも精神的にも傷つけてしまったが、彼女はそのことを全然気にしていないという。心優しいのは昔から全然変わっていない。
「……でも、ホントに怖かったんだよ。今でも思い出したら涙が出て………うぅ…」
そういうと、本当にネフェリンの瞳から光るものがこぼれ落ちた。彼女はそれを拭い、鼻をすすって笑顔を見せる。
「……でもよかった、本当に………」
「だから大袈裟だって言ってるだろ。まったく、お前はいつも心配しすぎだ。…勝手に殺すなよな。」
何気なくそう返して、俺はまた木の実を口に放り込んだ。それを噛み砕いて飲み込んでから彼女の顔を見ると、彼女はまた目に涙をためていた。―――怒ったような表情で。
「もうっ!ガレナの馬鹿ぁ!!私の気持ちもしらないで、勝手なこと言わないでよ!!」
突然凄い剣幕で怒鳴られて、一瞬体が硬直した。彼女の性格からしてここまで激怒することは非常に稀なのだ。
ネフェリンが怒ってることは明らかだが、肝心なその原因を俺は分からなかった。何も言い返せないでいると、彼女は更にこう続ける。
「どうしてガレナはひとの気持ちを考えないの!?昔っからそうだよね!?いっつも自分の事ばかり見て、私の事なんか考えてくれたことある!?私がどれだけ……どれだけ心配で不安だったか分かる!?今回の事でガレナのそういうところ、直ったと思ってた私が馬鹿だったよ!!」
怒声の余韻に、彼女の荒くなった息使いが混ざり合っていた。それが全てを支配するほど静かで気まずい空気に溢れ、彼女は顔を伏せた。そして、そこから涙がこぼれ落ちていた。
先程の不安のそれとは違う、完全な悲しみの涙である。それを前足で拭って、これ以上涙が出ないよう体を震わせて耐える姿には哀愁が漂っていた。

――いっつも自分の事ばかり見て、私の事なんか考えてくれたことある!?

この言葉が俺の胸にはきつく突き刺さっていた。
昔からそうなのだ、俺があまりに淡い感情を見せてしまうのは。ネフェリンがどれだけ俺に親しんでくれても、俺はそれを受け流すように淡々と返すだけ。
実を言うと、俺は昔からネフェリンと以外に遊んだ記憶がほとんどない。彼女以外に友達と呼べる存在がいなかったのだ。こんな冷たい態度しか取れない俺に、誰が好んで近寄ってくるものか。
そう考えると、疑問に思えることがあった。それは何故ネフェリンは俺とこんなにも親しくしてくれるのだろうか、ということである。
俺が今も傷跡が残るような傷を負わせてしまったことが原因で会わなくなったというのに、彼女はまるでそんなことが無かったかのように平然としている。
何故だろう。何故だ。何故―――――――
その時、俺が初めてこのネフェリンの洞窟で目覚めた日の夜のやりとりが思い浮かんだ。

―――私・・・ガレナの事が・・
―――あぁ、俺も好きだぞ?何今更言ってるんだ?昔から言ってたじゃないか、十年前に。
―――ち、違・・・

そして、なんだそういうことか、と俺は小さく笑った。いくら鈍感でも、ここまでピースがそろっていればもう理解できる。ネフェリンが怒っている理由も何となく分かってきた。
それと同時に、今までひとのことなど考えていなかった俺がどうして命をかけてまで彼女を守ろうとしたのか、それも痛いほど分かった。
俺は未だに顔を伏せているネフェリンの前足にそっと自分の前足を乗せた。
「済まない、確かに今までお前の気持ちを考えた事なんて無かったかもしれない…。お前がそんなに気にしてたなんて思ってもみなかった。
……でもお前が怒ってくれたおかげで、ひとの気持ちを理解するってことが分かったような気がする。お前の気持ちを、今ようやく理解できたよ……」
彼女が驚いて顔を上げた隙に、俺は不器用ながら精一杯笑顔を作った。
そして俺は言った。初めて彼女の気持ちを自分なりに理解して―――

「………俺もお前のことが好きだ。何年も前からずっと、俺もお前の事が好きだったんだ……」


~Story19~ ―お願い― 


―――もう何十秒経っただろうか、ネフェリンはポカンと口をあけたまま標本のように固まっていた。
最初の数秒はその様子を可笑しく思っていたが、時が経つにつれて徐々に恥ずかしさが込み上げてくる。あんな告白を、何故俺はさらりと言えてしまったのだろうか。
「………ント?」
俺が恥ずかしがってうつむきかけた時、かすれた彼女の声が耳に届いた。
「……何だ?」
恥ずかしさも相まって少々無愛想に聞き返すと、ネフェリンは唇を震わせながらもう一度口を開いた。
「それ…ホントに言ってるの……?」
今にも泣きそうな目元以外はもの凄く真面目な表情だった。俺は下手な言い回しはせず、心に思ったことをそのまま口にした。
「ホントに決まってるだろ!俺もお前のことが好きなんだよ…!」
「…友達としてじゃなく?」
「当たり前だろ!」
「ホントにホントにホント?」
「しつこいな、ホントだ!」
最後に俺が強めに言い放つと、またシンと静まりかえってしまった。そして彼女は今度は固まるのではなく、ポロポロと涙をこぼし始めた。
「えっ…!?いや、そんな強く言ってないだろ……!?」
彼女の涙の意味が分からなくてオロオロしていると、不意に目の前が暗くなった。なにが起こったのか、と考える間もなく突然ネフェリンがのしかかるように抱きついてきた。
「違うよ!嬉しいんだよ……!私の想いがやっとガレナに届いてくれて嬉しいんだよ…!
ホントガレナは鈍感で、このまま一生届かなかったらどうしようってずっと思ってた。こうやってすぐあなたに抱きついたりするのも、この想いを届かせたい一心で……。
あっ、でも最近は普通に癖になっちゃったかもしれな―――」
「いいからどけっ!!」
キュウコンとマグマラシでは体格差があると何度言えばいいのだろうか。渾身の力を振り絞って彼女の下で暴れると、彼女は嬉し涙で濡れた顔を笑顔に変えながらどいてくれた。
―――その時だった
「……ガレナ、なんか光ってるよ?」
「はっ?」
ネフェリンが目を丸くしているので前足を顔の前まで持ち上げてみると、確かに俺の体が淡い光に包まれていた。しかしそれは不思議と不気味に感じるものではなく、むしろ待ち望んでいたような、そんな優しい光―――
その光がゆっくり点滅すると、一気に真白な光となって俺を飲み込んだ。その輝きに俺もネフェリンも思わず目を閉じていた。

次に目を開けた時、そこにかつての俺の姿―――マグマラシの姿はなかった。ネフェリンの体がさっきよりもぐんと小さく見える。
―――否、彼女が小さくなったのではなく、俺が大幅に大きくなっていたのだ。先程と同じように自分の前足を顔の前まで持ち上げてみると、そこには強靭そうな前足があった。
そう、俺はマグマラシが更に進化を遂げた形態―――バクフーンの姿に変貌していたのだ。
「うわぁ……凄い、おめでとう!ガレナ!!」
未だ涙の跡が消えないが、満面の笑みを浮かべるネフェリン。俺自身も嬉しさに心が躍り、冷静さを保つのが難しかった。
俺はどうして今まで進化してこれなかったのだろう。自分で言うのもなんだが、俺は結構な力をつけていたはずだし、歳だってそれほど幼い訳ではない。
もうすぐにでも進化していいはずだ、もう心身共に進化するレベルにまで到達している、と俺はずっと思っていた。
だが、今思えば一番近くで一番俺のことを想ってくれていたネフェリンの気持ちに気付かず、何が「心身共に進化するレベルに到達している」だろうか。
例え力は強くても、心まで成長しならなければ話にならない。俺は大人な振りをして、ただ幼い心を覆い隠していただけなのだ。なんとも恥ずかしいことだろう。
「もう一瞬で私の大きさ抜かしちゃったんじゃない?うん、男らしくなったなった!カッコいいよ!」
俺よりもはしゃぐこの大人の皮を被った幼児が反省する間すらも与えてくれないようだ。だがそれも悪くない。自分が好きな者にこれだけよろこんで貰えるなんて悪くない。

しかし、ネフェリンがはしゃいでいたのはほんの数秒だけだった。その後は目線を少し下に下げ、熱を計るように自分の頬を何度も何度も触っていた。
「おい、どうした?熱でもあるのか?」
「えっ!?い、いやいやいや、何でもない何でもない!」
そう言って首をブンブン横に振るが、また視線を落としてしまう。よく見れば彼女の頬がほんのり赤く染まっていた。
「……具合悪そうだな」
「いや、だから違うの!……………あの…ね……?」
彼女は前足で俺の下半身を指した。俺は自分で自分の股の方を覗き込んでみると、そこには体毛に埋もれて少しだけ赤くとがったものがはみ出ている。
それが見えた瞬間俺も熟れたリンゴのように耳まで真っ赤になってしまった。そう、それは雄の象徴の先端部分であった。どうやら進化する過程でここまで大きくなってしまったらしい。
「見るつもりはなかったんだけど……ガレナ、バクフーンになって二足で立てるようになってるから、ちょっと下向いたら……。ご、ごめんね?」
「あ、あぁ………き、気にするな。」
―――さっきまでの歓喜の空気が一変し、気まずい空気が漂い始めた。お互いに話す言葉が無くなってから、お通夜のように静かで冷たかった。
そんなとき、ネフェリンの口から小さく空気が漏れた。
「あの、ガレナぁ……」
振り向くと、彼女は何故か身体をモジモジとさせながら、上目遣いでこっちを見上げた。そしてギリギリ聞きとれるような声でこう言った。
「……お願いがあるんだけど………いいかな…?」


~Story20~ ―交わる炎― 


熱い吐息、鼓動、そして揺れ動く金色の体毛に包まれた身体―――それらがすべて俺の下半身に触れていた。軽く開いた股間に、ネフェリンが顔をうずめている。そこにある雄の象徴を彼女は物珍しそうに眺めながら撫でていた。
「へぇぇ…男の子のこれってもっとグロテスクなものかと思ってたけど、結構キレイっていうか…可愛いね」
これだけ凝視され、触られては、勿論モノはどんどん大きさと硬さを増していく。その様子もネフェリンは珍しそうに見ていた。
「……くっ………!」
なるべく声は抑えていたのだが、これほど刺激を与えられてはどうしても漏れてしまう。ネフェリンは耳をピクッと動かして、申し訳なさそうに上目遣いでこっちを見上げた。
「ごめんねガレナ、いきなりこんなことお願いして……」
「あ、あぁ…」
ネフェリンが俺に何をお願いしたのかというと、それは「ガレナのおちんちんをもっとよく見せて」というぶっ飛んだものであった。その前に、事故とは言え俺が彼女にモノを見せてしまったせいで変な意識をさせてしまったのだろう。
元々彼女には突然抱きついてきたり、キスを迫ってきたりと変態なところはあったが、さすがにこれには驚いた。―――承諾してしまっている俺もひとのことは言えないが
それで、今こんな状況になっているわけである。だが、好きなメスに触られるのは悪い気はしないし、大きな快楽にもなっていた。
「…でも、これが大きくなってるってことは、気持ちいいってことなんだよね?」
そう言ってにこりと笑うネフェリン。彼女に悪気はないのだろうが、ハッキリとそんなことを言われると無性に恥ずかしかった。
さりげなく目をそらすと、突然彼女の荒くなった息がモノにかかり出した。そして直後、暖かくてぬるぬるとしたものにモノが包み込まれた。
「っあ……つぅ!」
それは一瞬別世界に意識をとばしてしまうほどの凄まじい快感を俺に与えてきた。何が起こったのかと思えば、ネフェリンがモノを咥えているではないか。
モノを見るのも初めてだというのに、許可もなくいきなり咥えるとは、なかなかの強者である。
動きはどこかぎこちないが、歯を立てずにゆっくり、優しく、愛でるように舌で舐めながら口からモノを出し入れし、俺と目が合うとにこっと笑いかけてくる。
―――こいつ、こんなに可愛かったか?快楽の刺激にさらされているせいもあってか彼女が――元々可愛い方なのだが――更に可愛く見えた。
「んっ……んぅ…………ふぅ…」
口から数多の快感を叩きこんで、ようやくネフェリンは口を離した。彼女によって完全に何かのスイッチを入れられてしまった俺は、その僅かな隙に一気に彼女を押し倒した。
「きゃあ!?」
突然体位を逆転されたネフェリンは短い悲鳴をあげ、その後はキョトンとした表情で俺を見上げた。そこで、俺は無防備だった彼女の唇に自分の唇を重ねた。
彼女は一瞬驚いたように目を見開いて、僅かに前足で俺を押し戻そうとしたが、すぐに受け入れてくれた。それから徐々にお互いの舌がお互いの口内に入り込み始め、気が付いたらお互いに口の中を舐めまわすような、唾液をからめるような深いものとなっていた。
暫く求めあって、口を離すと二匹の舌をつなぐように唾液の透明な線ができていた。ネフェリンはそれをぬぐって、頬を赤らめる。
「……もうっ、いきなり何するの…」
「お前だっていつもいきなりだろ?」
「うぅ…でも、こんな激しいのしたことないよぉ…」
恥ずかしさ故か、ネフェリンは目をそらした。俺は前足を彼女の上半身から徐々に下に向かって這わせ、片方でふさふさとした黄金の毛に包まれた胸を軽く揉んだ。
「あ……っ!」
ネフェリンの体がピクッと反応した。彼女の胸はほどよい大きさと柔らかさを併せ持っていて、触っていてとても気持ちいい。
初めて触られたのか、俺が触れば触るほど彼女は頬を真っ赤に染めて、息を荒げていった。
俺は更にあまったもう片方の前足を、下半身の方へと滑らせていく。腹部から太股、内股、そして股間へと―――そこまで行ったところで、ネフェリンが気がついて焦り始めた。
「やっ、ガレナ!?そ、そこは……!!」
「お前も俺のを触ったんだ。これでおあいこだろ…?」
俺は彼女の股間にある、メスの秘部の割れ目をゆっくりなぞった。
「ひっ!!…な、何これぇ……」
そこは触られたことがなかったらしく、激しく反応した。胸を触られるのとは違う、電撃のような快感に頭は戸惑いながらも、身体は正直なものである。
俺はもっと彼女の反応が見たくて、負担をかけないように注意しながらそこを擦ったり、広げてみたり、中に少しだけ指を入れてみたりと、とにかく刺激を与え続けた。
「ひぅ…っ!あんっ!やっ……あぁ…!!」
トロトロとした愛液が秘部を濡らし、ネフェリンの嬌声にもどんどん甘みが増してくる。それに比例して俺の興奮度も増してきて、我慢できずに彼女の股間に顔をうずめて、直接秘部を舐め始めた。
「あっ、ダメぇ…!そんなとこ舐めちゃあぁ…っ!」
どうやら相当感じるらしい。彼女の声は甘みだけではなく、大きさまでも増していった。これ以上声が出ないようにと、彼女は自分の口を前足で押さえていた。
だがそれでも隙間から喘ぎ声が漏れていて、それでも必死に耐える様が最高に可愛かった。
俺はその様子をしばらく堪能した後、そこを刺激するのを止めた。彼女の眼はとろんとしていて、ボーっと上を見上げている。ハァハァと息を荒げて、それに合わせて胸が上下に動いていた。
俺は彼女に覆いかぶさるような体勢を取り、彼女の頬を軽く叩いた。
「おいっ、ネフェリン」
「……えっ?」
「大丈夫か…?」
「………うん」
ネフェリンはニコッと笑って、俺に抱きついてきた。そして俺の耳元に口を寄せ、囁くようにこう言った。
「私……もう我慢できない。せっかくここまで来たんだから、最後まで……ね?」
それはまるで俺を洗脳するかのようだった。雄の本能を呼び起こすような甘く甘く、妖艶な声。俺は小さく頷いて、もう一度改めてネフェリンを地面に寝かせた。
そしてモノを秘部に宛がった。一瞬彼女はビクッと身体を硬直させたが、すぐにまた笑顔に戻った。
「それじゃあ………行くぞ?」
「……うん」
俺はゆっくり、下半身に力を込め始めた。


~Story Final~ ―この幸せを胸に…― 


モノの先端が秘部の割れ目をこじ開け、その中へと入り込んでいく。先端部分が収まったころ、ネフェリンは口元を強張らせた。
おそらく彼女はこんなことは初めてである。痛みがあるのだろうが、それを表情に出すまいとしている様子が見て取れた。しかし痛覚を感じた様子が、口元に出てしまっていた。
「……辛かったら、我慢しないで言えよ?」
「…っ!?……うん、大丈夫…」
隠していたつもりだろうが、バレバレである。
「そうか…、じゃあゆっくり行くからな」
俺は彼女に負担をかけないよう、まるでカタツムリの動きの如くゆっくりと腰を前に動かしていった。それでも痛みは免れないらしく、モノが奥へと入り込んでいく度に彼女の表情が強張っていく。
「っう……んっ!」
明らかに痛みを含んだ声が漏れていた。俺は心配になりながらも、ゆっくり、ゆっくりと腰を沈めていく。
―――そして、ようやく俺と彼女は一つになれた。
「くっ…!全部入ったぞ、ネフェリン」
「うん、やっと一つになれたね……ガレナ」
まだ痛みはあるだろうが、ネフェリンは満面の笑みを見せてくれた。俺のことをどれだけ愛してくれているのか、この態度を見ていればよくわかる。
俺は今、素晴らしく幸せな状態にあるのだ。幸せすぎて、怖くなるほど。本当にこんなに幸せでいいのかと思ってしまう。
だがよく考えてみれば、俺達はいくつもの障壁を乗り越えて、ようやくここまでたどり着くことができたのだ。今は余計なことは考えず、思いっきり甘えることにしよう。

「私は大丈夫だから、ガレナ……動いて」
モノが完全に秘部に入ってからしばらく経って、多少ネフェリンの体がモノに慣れたらしい。俺はゆっくり腰を引いて、またゆっくり前に突き出した。
「あぅ…っ!」
今度は痛みだけでなく、若干快感を含んだ声に変わっていた。その後も俺に突かれるたびに、苦痛よりも快感の比率が上がっていっているのが聞きとれる。
「………っ!くぅ……っ」
「あんっ!ハァア………ぁ!」
もちろん腰を動かすということは俺にも強烈な快感が来るということで、我慢が出来ずに声を漏らしてしまったころには、ネフェリンの声からは痛みの感覚は消えていた。それは彼女の気持ちよさそうな表情からも見て取れた。
そうとわかった途端、俺は自分の身体の制御が効かなくなっていた。ただひたすら快感を求めるために、激しく無我夢中で腰を振るのみ。
「ひゃぁ!あぁっ!」
「あっ……つぅ……ぅ!」
激しく突かれるたびに、ネフェリンの喘ぐ声は甘みと色気を増していった。それがまた俺を興奮させる材料となり、より一層交尾に激しさをもたらす。
彼女の秘部は俺のモノを強く締めつけて凄まじい快楽を叩きこんでくるが、あふれる愛液という潤滑油のおかげでスムーズにモノの出し入れが可能となっている。雄をやみつきにさせるのに十分な要素をすべてそろえた名器であった。
その名器を相手にしているというのに、いつまでも耐えられるわけがなかった。時間が経てば経つほど、秘部を突けば突くほど倍加していく快楽が、俺の許容量の限界に達しようとしていた。
「くぁぁ…っ!ネフェリン……もう………っ!!」
腰がガクガクと悲鳴を上げ、これ以上は無理だと反射的に判断して、一気に腰を引いてモノを抜いた。
「んあぁぁぁっ!!」
「くあぁぁぁぁぁっ!!」
モノが秘部の中から引き抜かれる時の摩擦で、ネフェリンがガクガクと痙攣しながら大きな嬌声を上げた。少し遅れて、俺も絶頂へと達する。危うく中へと出してしまいそうだったが、精が飛び散ったのは彼女の腹であった。
「ハァ……ハァ……ハァ…………ッ!」
絶頂に達してから何とも言えない恍惚感と倦怠感に襲われた。俺は自分の精子で汚れているのも構わず、力尽きてネフェリンの身体に重なるように倒れ、そのまま横に転がって彼女の横で仰向けになった。
「ハァ…ハァ……すっごく気持ちよかったよ、ガレナ…!」
「……あぁ、俺もだ」
俺とネフェリンはお互いに見つめあい、最後にもう一度抱き合って口づけを交わした。

炎が身体を包み込み、熱を与え、陽炎で士会が揺れる。その熱気は洞窟内にこもり、炎タイプでなければ耐えられないほどまでに温度が上がっていた。
炎タイプという体質上水に入ることのできない俺達には、このように少し大きめのたき火のような炎の中に入ることが、水浴びの代わりである。
最初にネフェリンと会った時、炎タイプでなければ適さないと言ったのはこのためであろう。彼女だって身体を洗わなければならないので、このような火を熾さない訳にはいかないし、身体の大きい彼女を包めるような大きな炎を、草木に囲まれた外で熾すわけにもいかない。加えて、洞窟内で火を熾せば当然熱気がこもる。
しかし、彼女は俺が炎タイプだからではなく、一目見てすぐ俺だと分かったからここに連れてきたらしいが。
俺と彼女はこの炎で、水浴びならぬ火浴びをしていた。さすがに長時間居ることはできないが、炎は瞬時にして身体の汚れを取ってくれるので問題ない。
暫くして俺とネフェリンは火浴びを終えた後、洞窟の外で木の根元に隣り合って座っていた。外はもう完全に日が落ちていて暗く、僅かな月明かりのおかげでようやくお互いの姿が見えるほどである。
「なぁ、ネフェリン」
「…ん?なぁに?」
満天の星が空で輝く中、俺はネフェリンの肩を抱き寄せた。彼女の体温を感じながら目をつむり、こう続けた。
「小さい頃、こう約束したこと覚えてるか?」
「……『大きくなっても、ずっと一緒にいようね』…だったっけ?」
「あぁ…あの時は約束を守れなかったけど、今度こそ……」
ぐいっとネフェリンを引き寄せ、強く抱きしめた。いつも彼女がしていた行為を、今度は俺がしている。もう二度と、彼女を離さないように―――
「今度こそ、もうお前と離れたくない!こんな俺と、ずっと一緒にいてくれ……ネフェリン!」
「………うんっ!」
ネフェリンはそっと抱き返してくれた。息が震えているところを聞くと、涙しているのだろうか。しかし、それは俺も同じであった。

―――幼き頃からの運命によって結ばれた二匹が、星空の祝福を受けながら、目いっぱいの幸せを感じあっていた。



エピローグ 


朝の静かな森の中では、風に揺られて草木達が奏でる緑のコーラスと、元気に飛び回る鳥ポケモンたちの囀りがよく耳を通って行く。そよそよと頬を撫でるその風は、心地よい涼しさを分けてくれた。
この森の住民たちは至極仲が良い。弱肉強食の理こそあれど、みんな笑いあいながら生活している。そして今回の一件の影響か、自ら身体を鍛える者も増えてきているようだ。その心と絆があれば、この先どんな困難にも立ち向かっていけそうだ。
これからは自分の身は自分で守っていかなければならない。本来、自然の中に暮らすということはそういうことなのだ。
「ガレナーっ!」
―――ただ、全ての者がみな自分で身を守っていけるわけではない。それぞれ別々の役割を持ってこの世界に生まれてきている。
それは運命に基づいているとでも言うべきだろうか、生まれながらにしてきっと変わることはないのだと思う。
「おはよっ、ガレナ!」
きっと俺も彼女も、運命に従って結ばれたのだろう。彼女は俺に優しさや癒しを振りまいてくれる代わりに、俺は彼女を守り抜く、そういうさだめが生まれた時から備わっていたのかもしれない。
「あぁ、おはよう、ネフェリン」
闘うもの、癒すもの、守るもの―――それぞれすべきことは違えど、お互いに支えあって生きていくことには間違いない。

俺は一生彼女を守り抜く。この先どんな運命が待っていようと、絶対に離れたりはしない。
―――私も、一生あなたを支えていくからね。これからずっと、ずっと一緒だよ。
俺と彼女は、お互いに向き合って満面の笑みをうかべた。一生そばにいたいという気持ちを、もう一度確かめあうように―――
                            
―Fin―


何かございましたら、どうぞ

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  • ↑↑↑の付け足し
    他の小説も頑張って下さい。
    ――G・Y ? 2011-02-26 (土) 22:15:29
  • >G・Yさん
    いつもいつも応援の言葉をありがとうございます。
    他の小説も執筆しなければいけませんね・・・。僕が無計画過ぎたせいで大変な思いをしています(苦笑
    これからも頑張っていきますね
    ――パウス 2011-03-18 (金) 16:18:48
  • パウスさんの言葉拝見しました。
    ――G・Y ? 2011-03-18 (金) 22:31:29
  • ついにガレナとネフェリンのエr
    かなり長い間待ちました。とにかくネフェリン良かった! ガレナはニブチンだなぁ~
    ――ナナシ ? 2011-04-12 (火) 12:57:16
  • これからネフェリンとガレナの話が見れるんですね
    頑張って下さい
    ――G・Y ? 2011-04-12 (火) 23:31:40
  • コメント返しが遅れてごめんなさい;

    >ナナシさん
    長い間待たせてごめんなさい。ガレナはニブチンなのですw ですがネフェリンと両想いになったことで徐々に変わりつつある・・・と思いますw

    >G・Yさん
    僕としても、ようやくこの2匹の話が書けます。頑張って書きますね!
    ――パウス 2011-06-12 (日) 23:12:57
  • はい!頑張ってください!ガレナとネフェリンの話楽しみにしてたので!
    ――G・Y ? 2011-06-15 (水) 00:43:27
  • >G・Yさん
    ようやくこの話を書き終えることができました。期待にこたえることはできたでしょうか?
    いつも応援をありがとうございます。凄く励みになります。これからも、よろしくお願いしますね
    ――パウス 2011-06-23 (木) 00:44:51
  • 楽しい話しでした!けれど外に出したという事はガレナは子供が欲しかったわけではなかったのかな?
    どちらにせよとても良い話でした!
    完結できて本当に良かったです!とても楽しい話でした!ありがとうございました!
    ――G・Y ? 2011-07-02 (土) 23:55:48
  • >G・Yさん
    話の終わらせ方がまだよくわからなかったのですが、満足していただけたのなら嬉しいです。
    まだガレナもネフェリンもまだ想いが伝わりあったばかりですからね、とりあえずは二匹っきりの時間がほしかったのではないでしょかw
    僕としても、無事完結させることができてよかったです。そして、応援ありがとうございました。よかったら、是非他の作品も楽しんでいってくださいね
    ――パウス 2011-07-03 (日) 03:41:28
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Last-modified: 2011-06-19 (日) 00:00:00
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