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貴方は今、大切な人でいますか?

/貴方は今、大切な人でいますか?

赤いツバメ ?です。

この作品は貴方は今、大切な人がいますか?の続編です。


『・・・さて、そろそろお話の続きをしましょうか。
 リフィニーさんの、後に呟いた「サヨナラ、ワタシ」の意味は何だったのでしょうか・・・フフ。では・・・目を閉じてください。」

またも、目の前にいたムウマージは私達に波動を送り「スッ」と消えていったのだった。
そして再び私達は目を閉じ、真っ暗な視界に映ってきたその光景は・・・先程の話の続きであった。


一人の黒いポケモンが亡き愛人に逢いに行く。
自分の想いを伝えに行く。



僕の予想は見事に外れた・・・。
道中とても激しい雨・・・。
しかし空を見上げれば少しばかり見え始めていた青空も徐々に広くなっている。昼にしてみれば薄暗かった辺りも明るくなり、それに太陽が雲の間から顔を覗かせていて眩しい・・・。
でもこの雨は酷い。
だから悪天候と言うのか言わないのか・・・妬けに今日はおかしな気分になるな・・・。

彼女の居る場所までの道中、雨が激しくなってきたので今僕は閉店している大きな店の入り口で少し雨宿りをしている。
真っ黒の体毛の芯まで雨が滲みこんでいた。その僕が体を激しく振った証拠に地面に斑点状の模様ができている。
それは僕の足場をを中心に広がっていて僕から距離があればある程、その水滴の斑点模様は細かくなっていた。
僕が立っているこの店はもう既に潰れている。だいたい1年くらい前からかな?

ここはファミレスだった場所。・・・よく小学生のときに来た店だ。なぜならその頃、高校生だった兄はここの店のバイトをしていたのだから。
七、八年か過去のいつの日かの夜、稀にとても暇なときに兄が働いているこの店に来て
そして兄から奢ってもらっていたこともしばしばあったな・・・僕もまだイーブイだった頃の思い出。
プレリーとも一度だけここに来たことがある。その日のことも最近に思えるな・・・。

「・・・プレリー。僕と此処で何時か、遊びの帰りに昼食とったの覚えてるよね?甘いものの好きな君に僕は・・・」

聞こえる雨の音が大きくなってきた。
じっとしていても止みそうも無いな・・・早く行こう!君のところへ。
彼女に思いを伝えるのに雨くらいで歩む足を止まらせてはいけないだろう。
天気はどんなに冷たくても眩しくなってきている。多分今から快晴になるんだ。
僕はゆっくりと再び歩きは始める。急ぐ理由なわけでも無いので着実に歩く。

(バシャ!)「(う、ちぇ・・・)」
後方から来た自動車に泥を掛けられた。ついてないな・・・。
また体を激しく振って真っ黒の体についている泥を払い、僕は何事も無かったように再び歩き出す。


僕の体は冷えきっていた。果たして心の方はどうであろう?
今日の自分のキモチは確かな変化を実感できているがそれは温かみなのか、それとも・・・過去の自分の一部を掴みかけているだけなのか・・・
どちらにせよ嬉しかった。
僕の視界は滲んでいるが、決してそれは涙ではなく雨の水によるものなのだ。

「ぅぅ寒っ!何でこんなに太陽も出てるのに・・・異常気象じゃん。」
僕の手は氷のように冷たくなっている。いや、体の全体がビショビショで冷たくなっているだろう。

そういえば、あの人の手も氷のように冷たかったな・・・あんなにストーブの近くで暖まっていたのに何故だろう?
リフィニーさんの事をふと思い出した。
「(・・・とにかく寒い!)」
寒さによる身震いで一瞬にして考えていたことが真っさらになってしまった・・・
こんな明るいのにカゼ、引いちゃうなんて御免だ・・・。

・・・そんなことを思いながら小さな僕はこの道をゆっくり歩き続ける。




周りは雨の音。君の音、どのくらい僕は聞いていない?
一年くらいかな。
僕が君の音を聞こえなくなってから・・・長かったと思えばこの一年は凄く長かったよ?・・・でも、長く感じたけど・・・今は考えると短く思えてるのかもしれない。
どっちなのかって?
それは今まで一人で君の事を毎日忘れずにいたのは僕だけ。それを死ぬまで思い続けなければならないと思って・・・
先を考えると長く、長く・・・そう思えてね。
でも僕だけじゃなかったんだよ?君を忘れないで思っているのは勿論、君の家族だってそうさ。

他にも君と僕の事を思ってくれた人がいたんだ。
リフィニーっていう人で僕よりひとつ年上のベイリーフ。
君は知らないよね、僕も知らない人だったよ・・・。
不思議なことに僕のことも君のことも知っていた人で・・・驚いたよ。僕が詳しく話さなくても彼女には物事が見えるらしくて僕と君の間にあったことも全て見えたんだって。

その人と話しているときに、この一年は意外と短かったと感じたんだ。
だって一生、僕は一人で君の事を思いながら生きていくと思っていたのに・・・
こんなにも早く君と僕の関係をあんなにも深く知ってくれた人がいたんだもん。一生探してもそんな人は滅多にいないよ。
本当に不思議な人だった・・・僕はあの人と逢えて嬉しかったよ。・・・君はどう?


僕の立っているここは今日の午前中にも来た場所で、変わらず雨で地面が柔らかくなっている。
空はまた、一時は青くなったけど段々と灰色に染まってきている。雨は相変わらずだ。
目の前にはプレリーの眠っている場所。
僕は彼女を忘れた日は無いが、この場所に彼女が入ってから僕は年に一度くらいのお墓参りくらいしか訪れてない。・・・できれば訪れたくなかった。
理由なんて僕の性格を知っている人なら分かるよね。僕を知っている人自体少ないと思うけど・・・。

ゴメン・・・僕のせいで君は気が楽になれないんだよね。でも・・・忘れられないよ。
やっぱりプレリーの前に来ると胸が痛くなる・・・よ。
今日ほど感情が悲しくなった日は無いだろう。久々に嬉しさや楽しさも感じたけれど・・・それ以上に悲しいよ。
ぅぅ、もう涙なんて流し尽くしちゃったのかな?一滴も出ないよ。

これからも君の事は絶対に忘れられない気がする。
だって今の僕は・・・弱いんだもん。強い意思なんてもう、君への想いくらいしかないんだ。
だから・・・せめてでも君に伝えておきたい。あの日からの想いの全てを君の前にいる今、ここで・・・


君に伝えたいことは・・・
「もう一度、君に逢いたい
 ・・・そうだよ、逢いたいよ。
 君に・・・
 戻ろうよ・・・
 楽しかった1年前にさ・・・
 戻れない?
 戻ってきてよ・・・
 ねぇ・・・
 僕もまた、あの日以前の僕に戻りたいんだよ・・・
 戻ってくれよ・・・」

正直にこれを・・・これを今伝えたかったんだ。
僕は瞼を閉じた。

そこは何も見えない真っ暗な世界。
生きているものは誰だって闇は怖い。不安なんだ。
君はずっとこんな世界にいるの?
違うよね・・・こんなところに君を居させたくないよ。

暗いな、本当に何も無い真っ黒なところだ。
生き物の最大の恐怖は闇なんだよね。闇は生き物に死後のイメージを思わせるのだから・・・

周りは雨の音。君の音、どのくらい僕は聞いていない?
一年くらいかな?・・・そう。一年。やっぱり一年は長かったかもしれない。
君の音。またいつか聞かせてね・・・。

今僕は自分の本当の感情に触れたかったからしばらくは此処で瞼を閉じたままでいたい。プレリーの前で・・・

周りは雨の音。その音ですら死後は聞こえないはず。
何もかもが「無」になるのだ。
いや、違う。・・・残るものがある。それは『想い』なんだ。
僕が君に伝えたこと全てが君自身なんだよ。
生き物は死んだ後でも無になんてなれないんだ。

残された者の気持ちはどうなるの?・・・忘れる。生き物はどんなことでも忘れることで生きていけるんだ。
でも残された者が僕みたいに弱い奴だったら・・・

「(く・・・ぅ)」
もう考えるのはやめようか、もう今は十分だよね。これ以上深く触れると気持ちがおかしくなりそう。
自分の本当の内にある本当の心なんて誰だって知ることはできないよ。
・・・・恐ろしいからかな。

「じゃあそろそろ僕行くよプレリー。また今度ね。」

僕は彼女に別れを告げ、僕の帰る場所へと歩き出す。
今は頑張り続けなければいけないんだよね。明日は休日だ・・・ゆっくり休んでまた明後日から頑張ろう。

地面は「グチョッ」っとしていて少し不快な感触が歩くたびに4つの足の肉球に伝わってくる。
しかし午前中に感じた感触とは少しどこかが違うかな。

悲しいけど涙が出ない。それは何時ものことなんだけれど
今日の午後からはもの凄い量の涙を流してしまったから、もう流し尽くしてしまったんだ。
余ってるならとっくにここの地面に落ちてるよ・・・。
今日はもう疲れた。帰ってシャワーを浴びて寝ようか・・・。
君の事は・・・

「オルクン!!!危ない!!」
(!!!うわぁ!!)

背後からの誰かの叫び声と同時に車の排気音のような音が耳に入ってきた。
下を向いていた僕は周りの状況が全て見えていなかったらしい。その排気音のような音がするほうを向いてみると自分より何倍も大きい中型車が自分の直ぐ側まで迫っている。
それはとても大きい!そして近い!
距離で言うと数メートル・・・

何故・・・
僕は・・・どうして・・・

僕はその状況に一瞬で理解できても、その状況に呆気に取られていたせいか動きも一瞬だけ遅れてしっていた。
下を向いていただけで気付かなかったのか?
それならどうして排気音まで聞こえなかったんだろうか・・・考え事で頭がそこまで回らなかった?そんなバカな・・・
・・・それに今の声は?・・・

この一瞬で今の僕の思考回路は瞬時に働いていた。体はもう全力で前へと・・・
く、間に・・・合うか!?

「・・・・ぁ」


・・・・・それはほんの一瞬の出来事




僕は硬い地面の上で青い空を仰いでいた。また晴れたんだね。
今度ばかりは雨も降っていない気持ちの良い綺麗な青い空。あれ、なんで僕は仰向けになっているのだろう?
ここは舗装された道路の上?

気持良いと思えたのはそこまで・・・

体を起こそうとして横を向こうとしたら動かない・・・
そして次の瞬間に僕は気が吹っ飛ぶくらいの激痛に襲われていた・・・
(!!)
僕は気を失っていたらしく、今の状況が理解できた時には恐怖と焦りに心が潰されそうになった。
「(な・・・何これ!?)」

激痛に耐えながらも首を横に動かして見えた僕の体は悲惨な姿になっていた。
右前足が変な方向に曲がっている。決して自分では動かせない方向に・・・
そして他の足が全て動かない。折れているらしい・・・。
体の骨も何本か折れているのかな・・・。
自分の体のあたりには紅い液体が水溜りを作っていた。僕を中心にして・・・
遠くにもその紅い水滴が・・・
そして気付いた。左眼が開いていないことを・・・

感じる痛みと目の前の惨劇に一瞬で血の気が引いた。
なにより今は血なんてもう少ないと思うけど・・・

「(僕死ぬの?死にたく・・・ない。死にたくないよ)」
生きているうちに誰か僕を助けてよ・・・。
早く何とかしないと本当に僕死んじゃう・・・。

静かだ・・・。こんなところ誰も通らないからだ。
寒い。とてつもなく寒い。足から体から血が少しずつ流れていく。・・・寒い。
一瞬でこんなことになるなんて・・・一瞬で・・・こんなことに。
口の中が苦い。おそらく咳き込めば吐血するだろう・・・。

やっぱり僕、死ぬのかな?
くそ、こんな僅かな時間で全てが奪われるなんて・・・どうして?

・・・そうだプレリー、死んだら・・・死んだら君に逢えるの?
だったら・・・僕・・・君のところへと行きたいな・・・

意識が無くなっていく・・・そろそろみたいだ。僕の天命は早くもここで尽きるらしい・・・
御免なさい兄さん。僕は馬鹿だよ、こんなところで・・・
・・・すみません、リフィニーさん・・・僕・・・

そのとき全身の感覚と共に力が完全に抜けた。
そのとき最期に見た幻覚は見覚えのある一匹のリーフィアの姿・・・。

・・・・・・・・・・・・




・・・驚いた。人は死ぬと本当に天に昇るんだ。
僕が見ている光景、それは真上は真っ白。真下は・・・僕が住んでいた町なのかな?。
空から見下ろすと町ってこんなだったんだね。
地上にある物全てが何もかも小さく見える。町も森も河も自分より小さい。
・・・もしこれが最期の光景だったなら・・・もっと見ていたいな・・・。

そんな意思とは裏腹に、その背景は徐々により小さいものになっていく。・・・もう何も見えないな。視界は真っ白だ。

・・・
・・・・・・これから僕はどうなるんだろう?
消えたくない。まだ早いよ・・・
そういえば明日は・・・休日だった。何しようかまだ考えてなかったな・・・
明日、つまり休日は僕のいつまでたっても苦手な早起きをしなくて良い日・・・
一日の中で僕が一番嫌な時間帯、それが朝に目を覚まして起きるときなのだ。

でも・・・、もう早起きなんてしなくても良いんだよね?。

・・・そんなの嫌だ。

ん、何か見える。
何も無い真っ白で不安な光景でもあるここで見えているものは・・・人影?
その影がだんだんこちらに近づいてきてきた。何だ?

僕の直ぐ目の前にまで来た影に、ある形と色がついた。
・・・それは信じられない光景で僕はうろたえる。・・・見覚えのある形と色。しかもそれは自分の記憶には真新しいものだった。
出そうとする声が出ない。アタリマエか・・・僕は死んでしまって・・・

・・・!?
その僕の目の前にいる記憶に刻まれたばかりのそのものから眩い光りが出た・・・

何か聞こえる・・・聞こえる・・・

『貴方は今、大切な人でいますか?』

・・・それは優しみのある声・・・僕に聞いてるの?
あれ、・・・また意識が消えて・・・今度こそ・・・僕は無になるのかな?もう眠いよ。

・・・おやすみ・・・。


・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・もう何も感じない。







・・・もう、何も・・・感じ・・・あれ?
これは感情というものじゃないか。意思があっての感情だから・・・僕は生きている?
まさか。そんな・・・ね。
でも・・・確かにこれは自分の意思・・・ん?
これは暖かい?僕は暖かいと感じている。なんなんだ・・・これも夢?
僕は死んだんだ、夢も何も無いだろう。
でも・・・。

『クン。・・・を・・・まし・・・・・い!』

また何か聞こえる。何だ?
もう僕、何も覚えてないよ。
誰かの声が聞こえるとなると、じゃあやっぱり僕は生きているのか?
生きているなら目を覚まさなきゃ。

『オルクン・・を開け・・・クン!』

聞こえる。懐かしく思える声が聞こえる。この声の主は確か・・・
光が見えてきた。意思もある。
それにさっきまで感じていなかった感触までもが感じられた。

・・・確信した。僕は生きていると。
死んでなんかいない。この光の向こう側は・・・

「(僕の部屋!?・・・何で?)」
驚きのあまり、勢い良く僕は横になっていた自分のベッドから起き上がった。
・・・そのことで再び驚いた。
「(僕・・・動けてる・・・)」
そう、僕は動けている。自分の体に目をやると
ところどころに黄色い輪の模様をした真っ黒い体には、傷ひとつとして付いてなかった。
・・・何故!?

「あ、良かった~気が付いた!。オルクン?」
(・・・!!?)

聞き覚えのある声が僕の耳に響いてくる。暖かいと感じているのに寒気がした。僕のことを『オルクン』と呼ぶ人なんて一人しかいない・・・。
その声のする方を見ると・・・更に、いや、こればかりはどうだろう?これほどの驚きが世の中あるであろうか・・・。
「・・・プレ・・・!?」
驚きのあまり声が出ないとはこの事らしい。声が出ない。
「どうしたの、オルクン大丈夫?」

何だ、この感覚は・・・この感情が驚きなのは確かだ。これは寧ろ恐怖なのだろうか?
今の僕の状況。
ずっと、ずっと僕が願っていた叶うはずの無い願い。
・・・いや、信じられない。これこそが夢?

直ぐ目の前に死んだはずのプレリーが立っているなんて僕は信じない・・・
「どうしてあんなところに倒れてたの?」

動揺の動揺している心の中で必死に落ち着いて考える。
・・・夢ではないのなら・・・僕は今、何をすれば良いのだろう?
そうだ。もう一度、もう一度あの場所へ行けば!

「オルクン?」
チラッと僕は・・・プレリー・・・とは信じたくない。一匹のリーフィアの方を向き、時計を見ると針は四時半あたりを指していた。
そして部屋の窓から外を見れば、空は雲は晴れて薄暗くなりつつあった。

「行く」
「え?・・・何処へ」

僕が今、とるべく行動を決め立ち上がりベッドから降りる。
それにこのリーフィアからは一刻も早く離れたかった・・・どうしても。
体に痛みのカケラもない・・・それが何なのかは今はどうでも良い。
「ちょっとオr(バタン)」
そのリーフィアの言葉を最後まで聞かず部屋を出て、家を出る。

僕は、この意味不明の感情と意味不明の状況を理解できていない。心がおかしく歪んでいるのが自分でも分かる。
あの場所に行けば必ず分かる・・・今、自分の命がある理由をはっきりと理解していない僕はあの場所にいかなければ・・・行けば必ず何か分かるはず。
「(・・・何故僕は生きてる?。・・・今のリーフィアは本当に)」
見上げた空は、僕が最後に見た空より晴れているが暗くなり始めている。
僕は一つの溜息をついたあと顔を戻し脚に力を入れる。

何事も無かったかのような真っ黒い体は全速力で走りあの場所へと向かっている。
そのときの僕の心は変な感情で埋め尽くされていたんだ・・・何故僕がこうして走れているのかわからない・・・。
自分の体ではないような気もしてきた・・・。自分自身のことがわからないから僕は妙に落ち着かず焦っている。
・・・走りながら。



「ハァ、ハァ、ハァ・・・な、なれない事するもんじゃないな・・・」
例の墓地が見えてきたから僕は走るのを止め荒くなっている呼吸を整えながら歩き出した。
墓地が直ぐそこまで近くなってきた為か際立って強い雨上がりの匂いが僕の中に入ってくる。
何ともいえないこの匂いは、妙に騒ぐ僕の心を落ち着かせた。

自分は何をするために今日何度もここに訪れるのか・・・。これで三度目だ。
・・・しかしその三度とも自分の感情が全く違っている。
今ばかりは自分の記憶に大きな穴が開いているようで・・・そう、空白の記憶だ。
僕はここの近くで・・・死んだはず。
どのあたりだったかな・・・。自分の死んだと思う場所を探す者ってまずいないよね。

そうだ。このあたりだったような・・・
この道をキョロキョロと見渡していると妙に黒ずんでいるところがあった。
それは僕の体より一回り大きい程の丸い影だった。
僕は恐る恐るその黒ずんだ影のところへ行き顔を近づけ匂いを嗅ぐ。
その黒ずんだ丸い影は僕の予想したとおりの匂いを微妙に放っていた・・・。
今これで確信した事があった。

「・・・僕は何故。」

少し考えるのを止めて顔を上げ空を見上げる。
暗くなりつつある空は水色から薄紫色に変わり始め、その太陽が沈む地平線の方はオレンジ色に滲んでいて綺麗だ。
それを眺めていると午前中の曇天は嘘のように思える。

『オルクさん・・・。』

誰かに呼ばれた気がする・・・じゃなくて確かに後ろから僕に話しかけてきてる人がいる。
聞き覚えのある声に振り向くと、その声の主に僕は驚いた。
「あっ、これはリフィニーさん!。どうしてここに!?」

今日、知り合ったリフィニーさんがそこに立っていた。・・・隣町のアームシティに帰ったはずじゃ・・・。

「えっと・・・あ、まずはこれをお返しします。有難うございました。」
そういってリフィニーさんが僕の体の色のような真っ黒い傘を差し出して来た。
こんな真っ黒い傘はベイリーフが差すような色じゃないよな。でも無いよりはましでしょ?
「わざわざこれを届けに来た訳・・・じゃないですよね?」
僕はそれを受け取りながらそう尋ねる。もしそんなことだったら・・・いや、そんなわけ無いか。
「はい。最期に貴方に伝えたいことがあって・・・」
本当に不思議な人だ。最期って・・・また別の日にこの傘を返しにきた時にでも話しなんて
できそうなんだから今わざわざ来なくても・・・。
「最期に伝えたいこと?」
あえて僕は思ったことを口にしない。

「こうなることは正直予想していませんでした。プレリーさんは貴方を助けられなかったのですね?」
「?・・・?プレリーが僕を」
って流石に話が唐突でしょ・・・プレリーが僕を助けられなかった?何のことか。
「・・・貴方の最期の時ですよ・・・。」
えっと、この人は何を・・・。

・・・あのときか!
僕が最期に聞こえた声、それはやっぱり・・・あいつの・・・。

「あの・・・僕はさっきここで・・・何と言うか・・・あ、まさかリフィニーさん僕の言いたいこと知ってますか?」
「・・・ええ、あなたの言いたいことは分かっています・・・その事も後にお話いたしますので私のお話を少しの間だけ聞いていただけませんか?」
「は、はい。分かりました。」 

「貴方の天命は今日に尽きる。私が変えようとしても変えきれなかった・・・。結局運命というものは変えきれないもので貴方は不自然な事故で貴方は命を落としてしまった。
 そしてあなたを助けたのは私・・・ですけどプレリーさんをこの世に戻したのは貴方の想いの強さ。」
「・・・??」

何がなんだか話がやっぱり唐突過ぎて・・・この人は話を妙に繋げすぎだよ。
僕を助けてくれたのはリフィニーさん?今日僕は死ぬことが決まっていたの?まさかね。
プレリーって・・・まさかあのリーフィア・・・!?
僕は唐突に話されたことに思考をフル回転させてそれを整理した。
・・・結果よく分からない。

「信じがたい話だと思いますが、私は既に生きている者ではありません・・・。」
「・・・えっ?」

僕を助けたとはどういう意味なのか、いきなり告げられた自分が死ぬ運命の事などプレリーの話を聞こうとしたが・・・今の彼女の言葉は僕の気を完全に引ききった。
生きている者じゃない?じゃあ死んでいる者・・・そんな訳ないじゃないか。
「あの・・・生きている者じゃないってどういう」

「私は死にました。随分前の昔に心臓の病気で・・・でも成仏できなかった・・・。そして私は地上にもいれず天にも昇りきれず・・・
 それで魂が迷い込んだ先が冥界とこの世を繋ぐ空間。そこには冥界の番人というものがいて・・・。」

「ちょ、待ってください!話が良くわかりませんよ。冥界?死後の世界ですか?」
「すみません。どうも私は話が唐突のようで・説明も下手でして・・・。冥界は死者の住民が住む世界です。私はそこへは行っていないんで良くわかりませんけど・・・」
「・・・・・・」
待て待て信じられる話なのか?いや、普通は信じられないだろう。
死んでいるって?じゃあリフィニーさんは生き返ったのか?そんな事は有り得ないでしょ。
「死んだってそんな・・・それであなたは生き返ったのですか・・・。」
「いいえ生き返ってなんかいません。私も霊のような存在ですから・・・今の私は貴方にしか見えていませんし・・・」

僕にしか見えていない?そ・・・そうなのか。リフィニーさんは霊だったの?
えっと・・・これは信じて良いものなのか?もう僕の頭の上はまたまた疑問符がいっぱい・・・。

「・・・え、あの・・・その話はじゃあどうしてリフィニーさんはどうしてここに戻ってきたのですか?」
僕は半信半疑というか本当は半分も信じていないんだけど・・・疑り深く聞いているといった方が合ってるかな。

「ギラティナ。」
「・・・ギラティナ?」
「ギラティナという冥界とこの世の狭間にしかいないポケモンがいます。
 そのポケモン・・・いえ、番人が私に元の肉体を与えこの世界に戻したのです。私のような存在を『魂の使者』と言います」

「それまた何故?」
「稀に世界には私のような成仏できなかった魂が元の姿になって戻ってくることがあります。」
「じゃあ・・・何のために戻ってくるんですか?」
「貴方のような者を幸せにするため・・・それは極僅かな人々ですけどね。それが私たち成仏を仕切れなかった者の最期の役目です。
 人に幸せを与えたとき、その魂は天へと消え去ることができる・・・。」

・・・えっと、話をまとめると
リフィニーさんはもう既に死んでいて成仏を仕切れなかった。そして冥界の番人から成仏するために再びこの世界へと戻させられた。
その成仏できなかった人は、人を幸せにすると成仏できる・・・?

「・・・分かりかねないと思いますがこれは私の正体なのです。」

・・・正直、信じ切れていない自分がいる。
けど、僕が此処にこうして生きているのも不思議だ・・・どう考えても助からない程の状態だったはずだ。僕は死ぬしかなかったはず・・・。
そこで彼女が僕を助けてくれた・・・どうやって?

「あなたが僕を助けたって・・・どうやって僕を?絶対助からない状態だったはず・・・」
「そうです。貴方は明日の朝日を拝めない運命でした。今日の今のような時間帯に自分で命を絶ってしまいます。」

「・・・え!?」

「私が貴方に今日接したことによって貴方の彼女への想いが少しだけ貴方にとって良いものになりました。
 一人で悩むことは自分自身を苦しませる一方です。その思いが彼女の霊に痛いほど届いていたものが今日、貴方が午前中この場所に来てプレリーさんの
 お墓の前に立ったことで、プレリーさんの体自身と貴方自身が近くなりすぎたことにより・・・
 今日の今頃、貴方を誘いに貴方の目の前に現れる事になりかねませんでした。」

「プレリーが僕の前に?」
「はい。貴方が自分で命を絶つというより彼女が貴方を誘いに来たということは・・・もうお分かりですよね。
 あの世に貴方を導きに来るところだったんですよ。今日、貴方と彼女が近づいて彼女の魂の想いが強くなりすぎて・・・ついには貴方を」

「本当なの・・・ですか?」
僕の言葉に彼女は「信じてもらえない」とでも思ったのか悲しそうな表情を浮かべた。でもイキナリそんなこと言われたら誰だって・・・。

「・・・・人の心は強いもので弱いものなんです。
どんなに強い想いも一つのことを望むならば、その望むものが果たして良いものなのか悪いものか判断できないもの・・・。
そこが強ければ強いほど弱くなる思考。想いとは天秤のようなもので両立してこその判断が想いの強さによって
片方に傾き、反比例してしまう法則なのです」

・・・確かに僕のプレリーの想いは意識しなくても強くなる一方だったんだ。それが良いか悪いかなんて考えもしなかったよ。
でも僕はもし今日どちらにせよ死ぬ運命で・・・さっき事故にあった僕をどうやってリフィニーさんは僕を助けたのだろう?
全く覚えてない・・・。

「貴方は最期にプレリーさんが見えましたか?見えましたよね?」

そういえば・・・そうだ。たしか声も聞こえたような・・・でもアレは幻覚・・・

「その後、真っ白な空間の中で私が居ませんでしたか?あるいは私の形をした影が現れたはずです。」
「・・・・・・良く覚えていません・・・。」
「貴方が天に・・・いえ、自分が空から地上を見下ろした事とかは覚えていますか?」

たしか・・・小さい緑・・・細長い青・・・そうだ!僕は今日、町を見下ろしたんだ。
「はい。・・・そのことは思い出しました。」
「その意味はわかりますか?」

・・・空から地上を見下ろした僕・・・空なんて勿論飛べない僕が空から地上を見下ろした・・・ということは
やっぱり僕は・・・
「僕は死んだのですね・・・?」
「はい。」

衝撃的なことだとは思う。当然だ。
でも僕は今の今まで此処に来る前までは僕の身に起こったこの事実を薄々予想していたのかもしれないらしく
このときはあまり驚きはしなかった。
複雑な感じだ・・・自分の思いが理解できていない。

「僕自身が此処にいるということはその・・・僕もリフィニーさんのような存在になったのでしょうか?」

「いいえ違います。貴方は死んだことにはなっていません。その出来事は私自身が消去した・・・とでも言いましょうか。」
「消去した?」
「私達のような『魂の使者』は人を選びます。最も自分が幸せにさせたいと思える人を。
 そして選ばれた悲しみに浸る人の運命を変えることもできます。例えば・・・死せる運命をも今話したとおり・・・。」
「(!・・・。)」
そうか。僕は死んだことになっていたけど、彼女が僕の死という出来事をなかったことにしたのか・・・。
本当なら凄いことだ、歴史をも変えてしまうなんて・・・いや、歴史自体なかったことになるから影響はないか?
最も・・・僕みたいな存在が無くなったって影響なんてそんなにないか。
でもプレリーのことはまださっぱり説明されてない。あれは本当に・・・プレリーなのか?

「あの、プレリーが僕を助けられなかったってどういうことですか?というより・・・プレリーって・・・」

僕の質問について帰ってきた答えは彼女の微笑み・・・それってどういう・・・?
「フフ。もう貴方の彼女が幸せになることが証明されかけているようですね。
 貴方は彼女に起こった出来事も大体は今のことで理解しきっている。・・・二人とも幸せになってくださいね。
 最期に質問・・・なのですけど」
「(二人とも?・・・ってまた質問・・・)」

「貴方は今、大切な人でいますか?」

「・・・・・・」


僕は言葉に詰まる。
・・・この不思議な感覚は・・・確か今日一度だけこの人に質問されたときに感じた感覚。そのときの質問は・・・同じような言葉だった。
ん?・・・!!リフィニーさんの足が消えかかっている。これはどういう・・・。
「リフィニーさん!?体・・・」
「ホントですね。そろそろ・・・幸せになることが証明されますね。そのときは私の存在がやっとなくなれる時・・・。
 しかし、最期に聞きいた質問の答えが返ってきてませんよ?」

たしかに・・・これはなんて答えれば・・・ん!彼女の色が薄くなってきた・・・。

「最期に貴方の口から聞かせてください。」

「僕は・・・大切な人がいます。そしてその人は・・・僕を大切に思っています。」

「その言葉を最期に聞けて私は・・・」
「リフィニーさん!?」

彼女は今でも消えてしまいそうだ・・・
消えなくても良いのではないか?いかないでほしいんだ。
もう僕の目の前で人が消えるのは嫌だ・・・。
友達が増えたと思ったのに・・・そうだ。

「友達ですよね?僕たち。」
「はい。これからずっと友達ですよ・・・。プレリーさんにもよろしく伝えておいてください。」
「リフィニーさん!」

「いいえ・・・私の名前は『リネィ』・・・さよならオルクさん、貴方が好きです。」(サヨナラ、ワタシ)
「え・・・それは!?」



・・・・消えた。一匹のベイリーフが消えた・・・違う、友達が消えた。
最後に見たあの人の顔はとても嬉しそうな笑顔だった。
たとえ消えたとしてもずっと友達。あの人とは。
だから友達が増えて僕は嬉しい。
もう大分暗いね。道も薄暗くなってきたよ。
リネィさんだったんだ。僕に感情を気付かせてくれた恩人は・・・。
僕の命を助けてくれた。そして彼女の命までも本当はあの人が直してくれたんだよね?
「命を直す」・・・その言葉の意味って・・・。

・・・帰ろうか。



もう外は暗くなっちゃったよ。夜空の星も月も出始めて僕の体の模様も光り始めた頃に僕は帰宅した。
僕の家の玄関は一年中ずっとひんやりしていて冷たい空気が漂っている。真夏では涼しく、今のような時期では少しだけ肌寒く感じるくらいの気温かな。

ここの玄関までは毎日と同じ。ただ、今の家の雰囲気が何時もの寂しい空気を僕に感じさせなかった。
僕は何時もどおり静かな足音を立てて自分の部屋に向かう。
不思議なことにその部屋のドアから暖かみを感じさせる明かりが漏れているのが見えた。
僕の部屋の隣にある、既に使っていない兄の部屋は何時もどおりに明かりなど無く只暗い。

何かの音がする・・・音楽?部屋のテレビがついているのかな・・・。
「(ぅぅ、分かっているよ。何かは分かっているけど・・・)」
胸が痛い。これは苦しいことではない。これは心が嬉しいと感じているからなのか?僕は何をそんなに嬉しがる?
普通は嬉しいと感じたならば胸が高鳴るはずだろう。
・・・でも確かにこの感情は嬉しさだ。
そうか、今の僕の心は弱くなりきっているからそんな心にはこの感情が・・・

(ガチャリ)
僕は静かにドアを開ける。


そこに見えた光景、それはここ一年間のなかであまりにも冷たくなりきった僕の心を温めるのに
時間というものは必要なかった。
先程外へ飛び出す前の部屋の光景とあまり変わらないものだったが、僕の心からの見え方は全く違うものだった。
まるで心のの靄が晴れたかのような気分。それは自分に起こったこと全てを今理解できているからだ。

ソファーの上で先ほどのリーフィアが丸くなって眠っている。
その姿を見ていると一年前から見れなくなった彼女の透き通った栗色の瞳が今の僕の脳裏に浮かんでくる。
「(これが夢でなければ僕は・・・)」

しばらくその場所から動けなくなった。
今の状況が信じきれないと思える自分もまだ心の何処かにいて・・・
だって今のこの光景は、ずっと思っていた僕の叶うハズのない望みと同じ光景なのだから・・・
そのビジョンが今、僕の視界を優しく包んでいるのだから・・・
ただそれは普通に考えれば絶対・・・・もういいや、たとえ普通じゃなくても今は目の前に映ることを信じたい。

僕のソファーの上で眠っている様子からしてまさしく・・・。
このリーフィアはとても静かに眠るな・・・まるで彼女みたいだ。
彼女は寝息一つたてないほど静かに眠るやつだった。だからあいつは息を引き取った後でも・・・何時ものように眠っているように見えたんだ。
あの時の記憶を妙にリアルに思い出してしまう。
「(やめてくれ・・・死ぬな・・・)」
急にあの時のような強い不安感が僕を襲ってきた。
「く・・・プレリー!」

不安のあまり思いもよらず声が出てしまった・・・「ハッ」と僕は我に返る。
僕が声を出してしまったせいかソファーの上で丸くなって眠っていたリーフィアがゆっくりと動き出し・・・。
「ぅぅ・・・ん~、オルクンお帰り・・・」
眠そうな目を片足でこすり起き上がったリーフィアは顔を顰め小声で僕にそう言った。
その声を聞いて僕はそのリーフィアと目をあわせられなくなった。何故かって・・・僕が今どんな表情をしているか分からないから・・・。
「テレビ、オルクンが点けた?」
まだ寝起きの声で僕に聞くこのリーフィア・・・。
「い、いや」
「じゃあボクが切らないで寝ちゃったのか・・・」
今度は欠伸交じりの声で呟くこのリーフィア・・・。
「・・・プレリー?」
「ん?なぁに?」

嗚呼・・・僕はやっと、もう一度感じたかった無くしていた気持を見つけることができた・・・そして君にまた逢えた・・・。
「ねぇ・・・あのさ・・・」
「どうしたの?」
「・・・待った?」

僕が聞いているのは僕が先程ここを飛び出してから戻ってきたまでのことじゃない。
意思はなくして想いだけがある魂に、ここ一年間のことを僕は心の中で彼女に伝えたかった・・・。
そんなこと届くまいと分かっている上で。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・うん、ずっと。」

「え・・・!?」

時間が一瞬止まったように思えた。時間が進んでいると確信できるのはテレビから流れる音楽が聞こえてくるから。
「ずっとあなたを待っていたの・・・」
もしやと思い、いやまさかねとも思い・・・。
「ど・・・のくらい?」

「一年間ずっと・・・」

これはどういう・・・プレリーの霊には意思がなかったんじゃ・・・それ以前に彼女は死んでいなかったことになっているハズでは・・・。

「気付いてくれるの待ってたんだよ?ずっと・・・ね」
僕と話している彼女のその笑顔は・・・誰よりも温かみのある優しい笑顔・・・もう確実にプレリーでしかない・・・。
「そんな・・・えっ、だって」
「あのリネィっていう人はボクたちを選んでくれたんだよね・・・。ボクはずっとあなたの側にいたの。あれからずっと・・・。」

「え!?リネィさんって・・・知って・・・!?」
「オルクンと同じようにボクも今日あの人と逢ったの・・・」
「どうやって・・・?」
「・・・・心での会話っていう感じかな?
 リネィさんは今日オルクンと逢ってボクのことが見えていたんだよ。だってあの人も生きてはいなかった人だから・・・。」

そうか!リネィさんはプレリーと会話をしておいて僕に「彼女の魂に意思はない」と言っていたのは偽りだったのか。
・・・確かに良く考えれば魂に意思がないのはありえないことだ。でも彼女の言ったことだったから・・・妙に納得してしまった訳だ。

「ボクはただオルクンに気付いて欲しかった。
 あなたが何かの気配を感じてボクのいる方を振り向いてくれたときが何度かあったけれど・・・ボクは貴方を見ることができても、あなたはボクを見ることができなかった。
 たとえ視線が合ったあのときの瞬間でさえ・・・」

「プレリー・・・」
彼女は僕への想いをやっと伝えられて彼女の眼からは大粒の涙が流れてきた。まるで今日の僕のように・・・
いや、僕とは違く綺麗だ・・・。彼女の眼は透き通った美しい栗色、僕は自分の眼の色が酷く嫌いだ。そこから流れる涙なんて彼女とは・・・。 

「大丈夫だよ、今は僕の紅い瞳のなかにもしっかりと君はいるから」

さっきまで笑顔だった彼女は今にも泣き崩れそうだ。そんな顔しないでよ・・・。
「ゴメンね・・・オルクンをおいていってしまって・・・。もう最近はガマンの限界だったの。あなたに、本当にあなたに気付いてもらいたくて・・・」

そうか、この事だったんだ・・・・彼女が迎えに来るって。何にせよ僕は今日が命日だったんだよね、本当にそうだとしても変な感じだけど。
僕の目の前にいる彼女と一緒になるなら・・・どうせならこの世界でまた二人で暮らしたいよね?今みたいに・・・。
そう、今みたいに・・・。

「ボクは何時もオルクンの側にこの姿を現して気付かせることができたんだけど・・・。
 あなたもボクも、そこでお互いに二度と離れたくなくなってしまいかねないのは、もう知れていたし・・・
 そうなってしまうとボクはオルクンを・・・オルクンはボクを・・・
 それがとても怖くて・・・」

「もう言うなよ!」
彼女は僕がいきなり怒鳴ったことに少し驚いたようだ。

「・・・僕もすべて知っている。今日が僕の命日だったっていうこともリネィさんから聞いてるよ。
 そんな話・・・もういいよ。しなくていい。
 だって今は、今は僕も君もここで生きてるじゃないか。もう・・・悲しむことなんかこれっぽっちもないさ。
 
 リネィさんは言ってた。僕達が命を落とした事実は存在しないんだ。このことを知っているのは僕と君だけ。
 兄さんだって・・・君の家族だって・・・今日までの一年間、君は命を落としてなんかいないことになっているんだよ?」

そうだよ。君は死んだことになんかなっていないんだ。そして今日、僕もそう。

「オルクン・・・」
彼女が僕の肩に抱きついてきた・・・それを僕はしっかりと受け止める。
・・・軟らかいなプレリーは・・・。そういえばこの感触は忘れていたな・・・。

「ずっと・・・ずっと一緒かな?」
「絶対に戻ってきてくれた君を僕は二度と放しはしないさ・・・。」
「ボクの姿もあなたの側から・・・もう二度と・・・」

反対方向に向かって会話をする二人の顔には透き通った綺麗な涙が一筋流れていたのだった。

明日は休日。
晴れたらいいな・・・


『フフフ、またまたこのお話を途中保存です~。もう少し続きますよ。
 もう私からは何も言わなくてもオルクさんの心、貴方様たちに伝わったでしょうか?
 フフフ、再びここまでのお話の感想などを頂けたら私、嬉しく存じます。フフ。』







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Last-modified: 2010-02-22 (月) 00:00:00
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