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謎との決戦3

/謎との決戦3

赤いツバメ ?です。

謎との決戦2の続編です。

では、

4 跡命の傷・後(記憶) 


・・・・・とても薄いが意識が少しずつ戻ってきた。ぼやけて見える辺りを顰めて見回すと徐々に意識がしっかりとしてきて視界もはっきりと見えるようになってきた。

「(ここは・・・・病室??)」
今まで俺は未開の荒野を調査していたはずだが…見回すと確かに病室としか思えない部屋のベッドの上に居た。
「(確か俺は白銀のヘルガーに殺されて・・・・いなかったようだな)」

それにしても何故・・・何故自分は生きている?
何故生きている、ていうのはおかしいか・・・。
それにしても俺と闘った狼はどうなったのだろうか。ついさっきまでのことだと思う交戦時の記憶が脳裏にぼやけているような感じがした。
此処に俺が居るということはその戦闘があったことをもう誰か知っている訳か・・・。

そういえば不思議と体の痛みを少しも感じないが・・・
少なくとも致命傷の傷は負ったはずだ。
俺は自分のまったく痛まない体を疑い探ってみる。すると背中には体毛に隠れて見えにくいが確かに酷く深い傷が刻まれていた。
・・・それは肉が縦に生々しく夥しい傷で普通は見ていると感情的な痛みがしてくるほどらしいが、もう俺たちのようなポケモン同士の死闘を何度か経験している奴にとっては
「(醜い・・・)」
そういう感情しか思わなかった。

自分の傷から目をそらした。
ふと横を見ると今まで気付かなかったが、すぐ側で同じベッドの毛布の上でうつ伏せになって寝ているシュルが視界に入った。
「シュル?」
「・・・くー・・・zz」
俺はシュルを揺さぶり、起こそうとする。


「・・・あっ、ヤバいかも、シュルだった。」
俺は大事なことをすっかり忘れてた。何故だろう?
シュルが体をゆっくりと動かし唸り体を起こす。頭の顎はベッドを体よりも沈ませて相変わらずかなり重そうに見える。

「ぅ・・ん?」
まずい、ここは一応受身の態勢をしておかないと・・・。
生存を確認した瞬間にある意味死んでしまう。

「・・・・・・よ・・」
目が合ったままシュルが動かず何も言わないので俺は苦笑いをしながら短く声をかけた。
シュルの茶色く透き通った眼から涙が出てきてるような・・・
「アルゥ!!」

「・・・おお!?」
いきなり泣き出しがら飛び込んできたシュルに驚きつつ俺はそのままシュルを抱くように受けとめていた。
「良かったよ~~アルゥ~。」
「あ、ああ心配かけたみたいだな・・・」
「心配って・・・もうどうなるかと思ったよぉ~!」
「ゴメン。正直あのとき死を覚悟したんだが・・・何があったのか知らないが助かったらしい・・・な」

シュルは俺の胸元でしばらく静かに泣いていた。

・・・そうだった。心配してくれる仲間が何時もすぐ側にいてくれている。その仲間が思いもしない突然の死にあったらどうだろう?
悲しいという言葉の感情だけで済むはずがない。
そもそも「悲しい」とは具体的にどんな意味を持っているのか、「哀しい」という意味もあり
俺はまだその意味を理解しきっていないと思っている。
とにかく自分なら仲間の死を受け入れるのはとても辛く心が痛むことで人や場合によっては
現実から目をそむけその現実を拒絶してしまい兼ねないかもしれない
・・・その思いを上手く言葉に表すことは難しいものだ。
言葉にできる程度なら逆にそれに対しての思いや感情などはそれほど深くは無いだろう。

探検隊の仕事は常に危険で俺達のような上級な奴達は死と隣り合わせの仕事が多く何時かはこんなことが起きるであろうと最初はそう思っていた。
「そ、それより何で俺のベッドで寝てたんだよ・・・」
それを聞いたシュルは少し戸惑った表情で目を逸らす。

「それは・・・ず~っとアルの側にいたから眠くなって寝ちゃったの!」
シュルはベッドから降りて、押せば開くドアの前で立ち止まり顔を脹れさせてた。
「フェリが来るまでそこで待ってなさーい!」
何故か怒った感じで病室から出て行った。もしドアが普通の柄のあるドアだったら閉める際に結構な凄い音でもしただろう。
「何か悪いこと言ったかよ俺・・・・。」


静けさだけがある病室に一人になった
「(・・・・白銀のヘルガー。何故・・・何故俺を襲った・・・わからない。あそこが縄張りだったわけでもなさそうだったし・・・・)」

今思い出すとあの時ヤツは俺を殺せていたのに止どめを刺さなかったのか。いや、もう俺が死んだと思って立ち去ったのか?。
・・・そんな事普通ありえないか。
ヘルガーとの戦闘のとき最後に擦違い時に繰り出しあった一撃。それは相討ちではあったが俺はあまり手ごたえを感じなかった。
どう考えてもあれくらいならやはりその後俺、に止どめを刺すことはできていたのじゃないか。
何故あんな場所にヘルガーなどいたのか。
とにかく今までに感じたことの無いような威圧があるヤツだった・・・。

調査はどの位まで進んだのか・・・、まあ何ににしろ俺が失敗だ。
「調査依頼」というのは最後まで抜かりが無いように調べなければならないので
今回のような調査中の霧などが依頼の天敵である。今回はかなり霧が濃かったので見落としていた場所もあったのかもしれない。
(再度調査か・・・・。)
もう大体は調査済みだと思うが依頼を失敗したことには変わらない。
そう思うと溜息が出た。


そんな事などについて色々考え込んでいたら
「アルったら!」
隣で不意にフェリの声がしてハッと我に帰る
「大丈夫?アル」
「え?ああ。」
「そっか。でもあまり無理しちゃ駄目だって先生が言ってたよ・・・。」

優しく俺に話し始めたフェリ・・・・つい前まで喧嘩ムードだったのに少し戸惑ってしまう。
「で、でも何故かあまり痛みとか感じないんだけど何があったんだ?確かに大きな傷はあるけど痛みを感じないってどういうk」
「復活の種。」
俺が言い終わる直前にフェリが呟いた。

「復活の種って・・・たしかーシェイミ?」
「そう。」
フェリはまた短く答えた。
復活の種とは「シェイミの里」にある巨大な神木に生った実の種のことだ。
「シェイミの里の神木が・・・・なんだっけ?」

大分前にシェイミ達から探検隊が招待されてそのときにとても大きな木の前でそのことについて何か話していたような・・・。
何しろそのときシェイミの話を俺は真面目に聞いていなかったのでほとんど知らない
シェイミ達が復活の種に関して話していたときに神木がどうのこうの・・・
「(う・・・)」」
「忘れたの?」
「・・・・う、ん」
話を聞いていなかったなんていったら呆れられるであろうから・・・あえて忘れたようにしておこうか。
「あのときのフルーメさんの話、聞いてなかったんじゃないの・・・?」
(ギクッ!!)
「アルと会ったときから思ってたんだけどあなたって結構感情が顔に出るのよね~。」

顎を少し引いて不適に笑うフェリ。鋭い!!
・・・もう何も言えなかった。

「もう、・・・じゃあ簡単に説明するね。
 シェイミの里の神木には不思議な実が生るのは知ってるよね。
 それはシェイミ達が神木をず~っと昔から森の守り神として祀ってきたら突然、木の実にしてはしては大きめの金色の実ができて
 最初はその実を採ることを少しばかりためらいがあったけどシェイミ達が話し合った結果それを神からの授け物として神木から採って調べることにしたんだったて。
 結果分かったことはその神木だけに生る実で、数百年に一度ひとつだけ実るとても貴重な実ということ。
 もうひとつはその中の種にはどんな状態でも体を癒せる効果があるの。でもシェイミ達はそのひとつだけ調べるのにつかってそれ以来
 神木の守り神の所持するものとしてひとつも採らずに祀っているんだって。」

フェリが簡単と言った割には結構詳しく説明してくれた。もはや里の案内人になれるくらいかも・・・。

「初耳でしょ?どおせ」
「い、いやぁそんなことは!たしかにそんな話は聞いてたけど・・・。」
そんなに貴重な物だったとは俺は正直驚いた。 

「・・・・それと採らなくなった理由はもうひとつあるらしくてね・・・。
 これは私にフルーメさんが教えてくれた事なんだ。『その実を採ってから丁度その時期に森に災害があって妙に気味が悪くなったから採らなくなった。』って先祖が言ってたらしいのよ。
 ・・・まあ、関係ないと思うってフルーメさんはそう言ってたけど、でも原因はそれだったんじゃないかっていわれ続けてるんだけどね。」
 
シェイミの里は「空の頂」という雲の上まである高さの山のふもとにある名前のとおりシェイミ達だけがひっそりと暮らしている所だ。
約百年くらい誰も行ってなかったのでほぼ未開の地だった空の頂を「プロジェクトP」の中で活動する
「探検隊・フロンティア」によっての山道の開通に成功した記念に、近くの探検隊を多数募集して登山を決行したのだった。
そのとき夏の大三角形と登山を同行したシェイミが「フルーメ」というシェイミだった。

「シェイミ達がね、復活の種を譲ってくれたのよ・・・。」
「俺なんかにそんなに大事なものを使っていいのかよ!」
「だってアルの状態かなり深刻なもので」

「でも物が違うだろ!そんな貴重なもn」
「しかたないじゃない!!アルの生きる方法はそれしかなかったんだから!!!」

彼女に怒鳴られ沈黙が漂う。

「・・・・・そこまで・・酷かったのか・・・?」
俯きながら呟くようにそんな言葉が出た
「・・・ゴメン。怒鳴っちゃって。でも分かってよ・・・。」

その言葉はなんとなく理解できた。
「【自分の死は自分だけの事じゃない】って事か・・・分かってるさ・・・。」

それは彼女の口癖。

彼女は静かに頷く。その際に彼女の一滴の涙が床に零れ落ちた。
そしてまた、シュルがそうだったように彼女も俺に飛び込んできた。それを俺も同じように受けとめる。

こんな抱きしめ合う光景は普段は考えられなかったものだが、これは今の二人の喜びの表現だった

「泣いてるの?アル」
涙を流しながら彼女は聞いた。まったく自分が泣いてるくせに・・・

「安心してるだけさ・・・、こうして今も感情というものがありお前と今までどおりの生活を送れる。
そんな当たり前のことが絶たられなくてこれほどの安心は無いさ・・・そういう自分が泣いてる訳はなんだ?」

「(グスッ)・・・アルの意地悪」
反対方向に向かって会話をする二人の顔には透き通った綺麗な涙が一筋流れていたのだった。
嬉しくて、安心して、それだけの思いを感じていただけでしばらくの時間が経っても二人は離れなかった。

流石にこんなに長くこんな感じになっていると照れくささも出てきて俺の方から離れるようにする
「5日ぶりのアルの元気な顔・・・ちょっと待ちくたびれたかな」
「い、5日ぶりって何!?」
「うん、あの日からもう5日経ってるのよ」

い・つ・か・・・?
最後に覚えていることが瀕死の状態の薄れ行く光景で、そこから目が覚めるまでの記憶が無い訳で
その次の光景がこの病室。だから時間など一瞬のことに感じるしかなかった。

「さてと・・・」
俺のすぐ目の前に座っていた彼女は残っていた涙を前足で拭いてこのベッドから立ち上がった。
「アルは今日安静にね。」
「え、もう全然大丈夫なんだけど」
「ダメ。目を覚ましてから一日は安静にしてないと」
「でもホントに全然」
「復活の種が劇薬の場合もあるって先生言ってたんだからちゃんとしてなさい」

「劇薬って・・・」
確かにあれだけ酷かった痛みもないし傷も減ってるしこんな効果は劇薬・・・いや、それ以上の効き目だろうな・・・多分。

「それとあなたを襲ったヘルガーなんだけどつい最近のおたずねものだったらしくて全土にわたって
 指名手配中だからアイツも下手な真似はできないでしょうね」

俺がちょっとボヤッとしてたらしく
安心したような表情のフェリをじっと見ていたら彼女がまた座り、にっこりと笑って前足で軽く顔を押さえられた
「な、なんだよ。もういいよ・・・・(!!)」

そのとき突然・・・唇にやわらかい感触がした。
「(な!!?)」
俺は完全にはその状況を理解できなくて動かなかった。たとえ動こうとしても顔は押さえられていた。
今分かっているのは、ほぼゼロ距離に視界に映る彼女の頬。そして塞がれている唇に感じるやわらかい触感が何かだけ・・・。

もうそのことだけで十分理解できていたと気付いた時には、もの凄い心臓の脈打ちが激しくなっていて気がおかしくなりそうだった。


一方のベイリーフは目を閉じて眠っているかの様に落ち着いた表情をしている。
もう一方のマグマラシは目を見開き顔を真っ赤にさせて遠くを見つめるように何も考えられずにいた。その二人の唇はついさっきと同様に
離れるには時間がかかった。


5 メルクディヒ大陸 




「おーい?」
気付いたら目の前にシュルの顔が
「どあぁ!・・・ど、どうした?」
「どうしたってこっちのセリフよ。もう皆外に着いてるよ。」
もうこんな時間か・・・。
「ほら、何してるの?」
今回の依頼。どちらにしても気を抜けないか・・・そうなるとVsの奴らが心配になってくるけど。
シュルに引っ張られて玄関を出ると、そこにはフェリとVs全員がそろっていた。
「アル、準備万端よ。・・・じゃあ今から行きましょうか。」
今から港に向かうのだったら、のんびり向かっても依頼の標準指定時間には間に合うでしょう、どうせ明後日なんだし。

俺たちはいつも通りに依頼をこなすため出発した。唯一いつもと違うのは、夜道の中にしては少々賑やかというところだ。
勿論、共同作戦の依頼は何度も受けてこなしてきたがどの探検隊とも出発からこんな雰囲気になることはなかった。
まあ・・・依頼は先のことだし、たまにはいいか。でも・・・この調子だと先が思いやられるな。まるでピクニック・・・・・・っおっと!。
「アル君!」
「な、何だよ・・・。冷たいって。」
俺の腕にくっついてきた冷たいシェネー。俺もその冷たさに合わせたかのように冷たい態度をとった。
「もう、冷たいなぁ。」
一番冷たいお前が何を言う。
はっきり言ってこいつといると疲れる。本人には悪いけど、うん。
「もう、・・・拗ねちゃうよ?一時的に・・・。」
「そうか。」
・・・一時的に・・・ね。大丈夫か?こんなので今回の依頼・・・。
こいつらの実力はダイヤモンドランクということが証明してくれると思うが・・・。
「ねぇフェリさん~、アル君が冷たいよう。」
「そ、そう・・・」
「姉さんいい加減にしたらどうですか。さっきからアルさんにベタベタと。」
珍しくフィスが強気になった。できれば俺と何の関係のない事で強気になってほしかったな。
さて今度はシェネーが何を言い返すのやら・・・。
「じゃあアル君あげる。」
・・・・・・シェネーさんそれはどういう意味で?
「な・・・何を言うんですか姉さん///」
いやフィスもどういう反応!?俺にはまったく理解できないのですが・・・あ、何気にシュル笑ってるし!
ここは無視だ。・・・無視したら話を終わらせられるかと言うと結局NOな連中だ。
「じゃあいいじゃないアル君とい居たって。」
うお、また来た。お前は今拗ねてるんじゃないのか?・・・ってひんやりしすぎでしょ。
「お前達いい加減にしろよ。」
とモーントの一言。この一言がどれだけこいつらに有効なことか・・・。
シェネーはモーントにそっぽを向いて俺から離れ、フィスはまだ不満な表情でいるが黙した。
それでも気まずい雰囲気を一瞬で粉砕する二人がいた。
「ちょ、顎!顎で挟まないで痛いから!」
「♪・・・じゃあ・・・」
相変わらずガキですかあの二人は・・・。
ライアの目の前でシュルは「バッ!!」と大顎を開けてみせる。それには思いもしなかったライアは驚いて一瞬ひるんだ。
「し・・・心臓に悪いからね・・・。」
その言葉にシュルの表情に笑顔が消えた。

「ふーん。精神意外とそんなものなの?」
「え?」
俺にはシュルが何を言いたいか直ぐに分かった。
ライアは突然のシュルの切り替えに動揺して理解してないらしい。
「アルのライバルならもうちょっと強くなきゃ・・・。精神が少しでも乱れると戦闘で危ないし・・・。」
「・・・う、うん。」
差し詰めライアはシュルの一瞬の変わりように動揺しているところか。

あのフェリが先程から少し離れた後方でずっと黙している。俺はそのことがずっと気になっていたんだけどな・・・。
少し声掛けてみるかな。
「・・・フェリ。」
「ん?ぁぁアル・・・。」
「どうしたんださっきからずっと黙って・・・。らしくないぞ
 賑やかなのはこんなときくらいしか滅多に無いんだからさ・・・って言うのはフェリの方からじゃなかったのか?」

「うん。・・・あのさ。」
「なんだ?」
「机の上の手紙・・・アルが空けたの?」
ああ、ズィルバーの事か・・・それが気掛かりで悩んでいたのか?
あまり今はその話したくないなぁ。でも・・・
「ああ・・・。」
「・・・・・・そう。」

沈黙が辺りを・・・包まない。奴らが賑やか過ぎて沈黙なんてこの空気から逃げるか。
しかしフェリだけはずっと黙していて、落ち込んでいるかのようにも思えた。
「・・・ズィルバー・・・か。」
「・・・・。」
フェリは何も答えない。

あのとき、フェリがもう少しでも遅れていたら俺は・・・。
「あのさフェリ、俺・・・いや、なんでもない・・・。」
「・・・・。」
二人だけの沈黙が流れる。やっぱり今回のあの手紙についてフェリは不安なんだろう・・・。
気まずい空気を感じた俺は楽しく話しながら歩く前にいる連中を見てまたも口を開いた。
「シュルはあの手紙見てないのか?」
「・・・シュルと私は同じものをモーント君から見せてもらったの。あの手紙は今日の夕方と遅れて届いたものだったのよ。
 普通の封筒だったから・・・私てっきり最近しょっちゅう来るいつものニュースの手紙かと思ってそのときは読まなかったの・・・。」

それで封が切っていなかったのか・・・。
面倒なときとか直ぐ読まないもんな俺達。
「モーント君・・・凄く悪そうにしてた。まさかあんな情報が遅れて入ってくるなんて思っていなかったから・・・。
 調査以来の契約した後に来る情報が・・・まさかあんな内容だなんて・・・。」

「大丈夫だって。都合よく出くわしたりなんて殆どありえないだろ?」
「そうだけど・・・。」

そのとき、実は俺が誰よりも一番不安になっていたのかもしれない・・・。



港まで来ると流石に辺りは暗く、空には無数の星が輝いていた。
俺とモーントが船長のフローゼルと手続きをしていると皆はまだ外で待っていた。潮風が気持ち良いからだろう。
「うわあ、思っていたより大きいね。」
「結構大型の室内ボートかしら?かなり広いけど・・・。」
「そういえばお姉ちゃん船酔い凄いもんね・・・水タイプなのに・・・。」
「・・・う、うん。まあね。」

フルスは船が苦手・・・。そのシェネーとの会話をフェリとシュルが聞いていた。
「(フルスさんって船酔いするの!?)」
「(み・・・みたいだね・・・。)」
「(えっと、不思議って言うか・・・水タイプなら船酔いしないとか・・・関係ないものかな?)」
「(さぁ、分かんないけど・・・)」

見ているとライアとエミーが何か一番楽しそうに話してる・・・あの二人、正直何を話しているかさっぱり予想も付かない。
あの二人に共通するものなんてあるのか・・・?
意外と俺達が知らないだけで、一番仲がいい兄弟だったりして。
「アル?ほらお前のサイン。」
「おっと・・・これで終わりだなっと。」

「おーい終ったぞ、皆の乗れー。」
モーント一声呼ぶと、流石は長男という事だけあって「Vs」の奴らはあっという間に乗り込んでいった。
フェリも少し遅れて来て・・・。
「ちょっと待って、シュルがトイレに行くって・・・。」
「・・・じゃ、じゃあ先に乗ってるか?アルもさ。」
じゃあまあその通りにさせて頂きますか・・・。

中の様子は・・・、まだ旅行気分のヤツが3人程か・・・。
「あーーっ、姉さんずるい!一人だけ1つしかない小部屋なんて!」
「うるさいフィス!早い者勝ち!」

・・・・・・・・・。



シュルは少し遠い手洗い所に行った帰りだった。
船の明かりが少しばかり小さく見える程の距離のところに彼女は歩いている。
「ウー、風が気持ちい・・・」(ん、誰かいるな・・・) 
彼女は殺気を感じ歩みを止めた。
(後ろか!・・・来てる)
そして思いっきり振り向きざまに大顎を思い切り振り回すと何か鈍い感覚があった。
生き物に当たったと確信していいだろう。
(前にもう一人!)
一瞬目の前に見えた影を紙一重で避け・・・同時に大顎で捕らえた。
姿を見ればガバイトと分かった。
明らかに誰だってチンピラと分かる姿をしている。鼻にピアスにイアリング・・・イレズミねぇ。変な化粧は濃すぎとでも踏んでおこうか。
「・・・クソ・・・なかなかできるじゃねぇか・・・よ。」
「ふん!どうせ『俺達と遊ばな~い?』でしょ?場所はなかなかセンスあるけど
 場所より自分の顔を考えたらどう?・・・・・じゃあね、私急いでるの。」
そう吐き捨て彼女はガバイトを地面に投げつけた。
そこにはさっき殴り飛ばした動かなくなってるまだ分からない生き物・・・いやもうポケモンだろう。そいつの上に叩き落としてやった。
シュルはこういうような経験が何度かあった。毎度今回のようにすぐ片付くが・・・。
そんな彼女に、昼とは一味違う心地よい風がシュルの気持ちを和らげ緩ませた。
(さて、急がなくちゃ。)


船の近くまで行くと
モーントが外で待っていてくれていた。
「皆~お待たせー!」
「・・・!!シュル!後ろ!!」

迂闊だった。先程襲われた場所とはずいぶん明るく、街灯の明かりと仲間のいる明かりに気をとられていて油断していた。
「ちぃ!」
襲って来た奴の姿はシュルには見えない。それでも直感でバック転で攻撃を避け相手の真上を通り着地した。
そのときには既に、もう一人の後ろにいた何者かが攻撃の体制に入っていた事を目視できた。
「カブトプス!早い・・・避けきれないか」
シュルの頬をカブトプスの鎌のような腕が掠った。と同時に・・・
「あれ?、そんな単純な動きでいいのか?」
背後に隙があったカブトプスは大顎に噛み砕かれていた。まさか背後から攻撃している自分自身がその背後から狙われるとは思ってもいなかったらしい。急所に大顎の刃が食い込んでおり直ぐにカブトプスは力なく倒れた。
そして彼女は素早くもう一人の方向に向き直りながら再びバック転で一旦距離を取る。
「ク、クソッ!!」
先程のガバイトが目の前から逃げていく。
「え?逃げるの?わぁ、あっけな~い!」
シュルは逃げていくチンピラガバイトにはもう目もくれず
今自分が倒したカブトプスが生きていることを確認してからモーントに手を振った。
「お~い。今行くよ~。」

無邪気に走って来る彼女にモーントは少し引き気味になっていた。
前にアルから聞いた話では、シュルは戦いなると人が変わるとは聞いていた事を彼は思い出してた。
「ああ、シュル!頬の傷、血が垂れてるって」
「えーー!ホント!?・・・・・・まあいいや。」
「いやいや、良くないって。早く乗って傷の手当しなきゃ・・・。」
「分かった分かったよぅ。」
これで全員が船に乗ったことを確認した船長は船を出した。



それから俺たちはのんびりと・・・というか力なく寛いでる。やることがまったく無い。暇だ。
そう感じたのはシェネーやライア達の嵐が去って、それからのことずっとだ。
メルクヴュルディヒ大陸については少しは分かる。詳しくはフェリとモーントが調べてあるらしいから後で聞いても問題ないだろう・・・。
辺りを見回してみるとシュルとライアはもう寝てるし、シェネーは一人用の小部屋、いいなぁ。

皆が同じ部屋で一緒に過ごしているこの部屋。
部屋の中心にあるテーブルを囲むような配置で3、4台の大きなソファーがあり
また壁掛けにも一回り小さなソファーが2台ある。奥の方には更にキッチンまである。
しかしそれでも広いと感じられる部屋・・・だいたい見回すと30畳くらいの部屋かな。
気になることにフルスは壁掛けの方のソファーの上で何故かずっと大の字でうつ伏せになっている。あのいつも上品なフルスが意外だ。
皆のんきだな・・・て俺もか。

そんな思考が半分吹っ飛んでいる俺の視界に、ふと窓越しの外で立ちっぱなしの船長さんが何気なく入った。
おや?・・・船長さんの立っているすぐ傍の床が動いてる・・・。
不思議に思った俺はその床を見入ってしまう。不意にその場所の床が取れて・・・ブイゼルの頭が見えた。
何やら船長と話していて・・・・え?あ、こっちに来る・・・。

*1
ドアをノックするにしては小さな音がドアの方からした。
「はい、どうぞ。」
と言おうと思った時には、既にエミーがそう返事をしていた時だった。
そういえば船に乗ってからずっとエミーの体制が変わっていないような気がしてきた。姿勢良くフルスの隣で座っている。

「申し送れました。私この船の船長の息子、整備の仕事で父の手伝いをさせてもらっていますラミルと申します。
 えー、皆様の目的地のメルクディヒ大陸、0683海岸ポイントには明後日の早朝4時に到着の予定です。今から28時間30分ほどの長旅になります。
 何かありましたら船長か私、ラミルになんなりとお申し付け下さい。」

挨拶に来たのか、皆軽く会釈を返す。寝落ち脱落者除いて・・・。
それにしても28時間も暇だー。もう出発して2時間あたり経っているのに。
「あのー・・・早速で申し訳ないのですけど、宵止めの薬ってありますでしょうか?」
エミー?・・・酔ったのかな?いや、だったら今でもあんな体制でじっとなんてしていられないでしょ。船酔いなんてしたら・・・こう
そう、フルスみたいにグダってるだろ。丁度あんな感じみたいに・・・・・・あれ、まさか。
「畏まりました。直ぐにお持ち致します。」

「えと・・・フルス?」
「・・・・・・・・・」
返事が無い、ただの屍のようだ。

「お待たせいたしました、酔い止めの御薬です。」
「わざわざすみません・・・。」
「では・・・一旦失礼いたします。他に何かありましたらお申し付けください。」
そう言い軽く会釈をするとラミルさんは部屋から出て行った。
その向かう先はやはり下へのはしご・・・整備の仕事って行ったから・・・そのはしごの下はボイラー設備室とかの部屋かな。
下の方に位置する部屋なら多分そうだろう。
「えっと・・・ア・・・ルさん・・・姉さんを部屋の外に、手伝ってもらっても・・・い、いですか?」
エミーの声のする方向、というかエミーのいる方向なんてずっと変わる分けないか。見れば必死にフルスを背負おうとしている。
細い非力な体で・・・。
「あ?ああ、分かった。」
言葉よりも実際目で見てみる方が何を頼んでいるのかに理解は早かった。
「あぅ・・・有難うございます。」
俺はすっかりダウンしているフルスをエミーから背負い、ドアを開けてくれた彼女の後に続き外のデッキに出た。
すると外の海夜風は少し荒いものの、冷たくも暖かくも無く只心地よく気持ち良いものであった。
「ふぁ~・・・いい風ですね。」
「まったく最近はこういう風全然浴びてなかったからな。」

遠くを見ようとするが遠くは真っ暗で何も見えない。まあそれもそうか。
「姉さんったら船酔いが凄いんです。しかも今日に限って酔い止め来るときに落としちゃうんですよ、まったく。」
「そう、じゃあ早めに薬飲んでゆっくり休んでもらおうか。・・・よいしょっと。」
「あ、すみませんアルさん。・・・姉さん、姉さん!」
細い手で軽くフルスの顔を叩くエミーの少しばかりか苦悩している表情が可愛らしく思えた。
おっと、俺ったら何思ってるんだよまったく。
こんな気持ちいの良いよい海風の中なのに何故か落ち着けない・・・。
「姉さん、立ってよ。」
「ぅぅ~~~・・・エミー・・・。」
ま、まだ立ち上がれないのかフルス・・・。
「寝るなら酔い止め飲んでからにして下さい。」
「・・・ぁぁ、ありがと・・・。」(ガクッ)
「ええ!?いや、飲んでからにして下さい。口開けてー。開けてくださーいー・・・んんん~~よいしょ!」
エミー・・・フルスに無理矢理飲み込ませるなんてやるなぁ。全面的に「Vs」の中で一番しっかりしてるんじゃないか?

「ぅぅ、・・・私、戻るわ。」
「大丈夫?フラフラしてますよ。」
それからゆっくりと立ち上がったフルスは酔っ払いのような足取りで部屋に戻っていった。無事に何かにぶつからなければいいが・・・。

《ガシャン!》
『ひゃー!!、大丈夫フルスさん!』
《ガッシャーン!》
『うわっ!何事!?』
何か嫌な音とフェリの叫び声が・・・モーントの声!?。これはマズい事でも起きたのでは?
「あっ、アルさん。これから少し・・・時間頂けますか?」
中で何が起きているのにもかかわらずエミーは一段と落ち着いて囁くように俺に何かを言った。
俺にはエミーの声が小さい上、中のフェリたちが騒がしくてでよく聞こえなかったが・・・。
「え?いや、それより何!?今の音!早く行かなきゃ・・・。」
「・・・アルさん・・・来てください・・・。」
「え!・・・ちょっと!?」
訳も分からないうちに俺は彼女に手を引っ張られて、デッキの端っこの角に連れて行かれた。
そこでは中での騒ぎは耳に入って来ない。船の僅かなエンジン音と海の波の音。・・・って、いや、何でここに来たの?

「アルさん・・・私は貴方とあった時・・・。」
「ちょっとエミー?いきなり何引っ張ってきたのさ!」

「貴方に、アルさんに一目惚れしていました・・・ので、す。」
「フルスがケガしたかもしれな・・・・・・な?」

・・・?
・・・・・・??
今なんて、周りの音での空耳にしては凄くリアルに何か聞こえたけど・・・?
しかも何でエミー真っ赤になってんの!?
・・・え!?
「今までずっと・・・貴方を見ていました。」
「ちょっと!えみー!?目が、目が怖いよ・・・落ち、落ち着いて!」
「アルさん、好きです・・・。」

彼女の目と耳が力無く垂れていて段々と近づいてくる・・・普通のエミーじゃない・・・何がなんだか分かんないけど・・・ま、まずは逃げなきゃ!
いきなりの彼女の告白(?)に動揺しきって焦りまくってしまっている自分。
それもそうだ!とにかく今の状況を・・・・・っあれ!?体が動かな・・・!?
再度彼女を見ると彼女の両目と額の宝石が怪しく輝いている。
(しまった!金縛り!)

そう、もう何もかも遅かった・・・。
「逃がしません・・・アルさん。」
とてもお互いの顔が近い、殆どゼロ距離になって・・・。
「落ち着けエミー!何を考えて・・・・・っ!?!?」
口元に何か柔らかいものが触れた。必死に離れようと試みるが体全身が自分の意思では動かせない・・・。
やがてその何かは俺の唇を覆うように密着していた・・・。
「や・・・め・・・え、みー・・・」
「・・・・・・・ふ・・ん・・・」
時間が止まったかのような長い長い一方的な口付けの後・・・。二人の口は離れ・・・。
「はぁ・・・、はぁ・・・何してるんだよ、エミー・・・。」
少し怒り交じりの声で彼女をしかりつけたが、もう彼女に声は届かないらしい。
「おい・・・エミ・・むぅ!?」
アルの喋っていた口が彼女の口によって再び塞がれたる。
今度は唇とは違う感触の柔らかいものが彼の口の中に侵入してきた。それが彼女の舌と彼が悟るまで僅かばかりの時間が掛かった。

そして彼女は彼の口内を激しいほどまで舐めつくし、しまいに舌を見付けると舌同士を絡め合わせて来た。
とっさに彼の舌は逃げようとするが彼の意思ではもはや自分の体は動かせない。
クチャクチャと唾液の音が二人の耳に響きわたる・・・。
「ぅ・・・ふぁ・・・。」
「・・・・・・ん・・ん・・・。」
・・・彼は彼女の行動に身を任せるしかできなかった。

そして。
「うう・・・。はぁ、はぁ、はぁ・・・。」
「・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・ハァ・・・」
(バタッ)
「!!」
エミーが突然倒れたのだ。
「おい!・・・エミー!?・・・はぁ、はぁ・・・」
・・・酸欠で倒れたのか・・・。
流石に俺でさえここまで息が荒くなるんだ。体力の無いエーフィのエミーが・・・そのうえサイコパワーを使った状態でここまで息が持つ訳無かったんだよ。
でも、どうしてこんなことを・・・。

はぁ・・・今倒れたエミーを部屋の中に運んでも、マズイだろうな・・・。
暫く目を覚ますのをここで待つか・・・。
・・・エミー・・・どうして・・・。


流石のアルもまだ少し息が荒い。



「フェリさんごめんなさい。依頼前にこんな騒がせてしまって・・・。」
「いいのいいの、フィス君はゆっくり休んでて。」
「僕だけそういうわけにもいきませんよ。」
そう、実は先程の騒ぎで寝ていた者は全員飛び起きたのだ。二人は会話しながら部屋を慎重に掃除している。
その床にはガラスの破片が部屋中にキラキラと散乱していた。

「申し訳ないですラミルさん。見っとも無いところを・・・。あの、弁償しますので・・・。」
「良いのですよ、対暴風のため予備ガラスなんていくらでもあるのですから。お気になさらずに・・・。」
「しかし・・・。」
「それより妹さんにケガが無くてホント良かったですねぇ。」
ラミルが相変わらずダウンしているフルスの方を向く。それに合わせてモーントもフルスに心配そうな目をやった。
フルスのことを心配しているのかほかの事なのかどうかは本人にしか分からないが・・・モーントの表情がより一層曇った。

「はぁ・・・。しかし、私達の責任ですから後のことは・・・私達に」
「いいえお客様にそんなとんでもない、どうぞ寛いで下さって構わないのですよ。それに依頼の前じゃないですか。」
「いいえ・・・ではせめて手伝わせてください。お願いします。」
真面目な顔をして熱心に頼んでくるモーントの熱意にラミルは負けた。
「ええ、宜しいのですか?・・・分かりました。手伝って下さるならとても助かります。」
「私達の責任ですから・・・。」

話が終わると二人は窓用の板ガラスを運んできた。
丁度その時はシュルとライア、それにシェネーが窓に割れ残ったガラス部分を綺麗に落とし終わってたところだった。
「おや、シュル様・・・で宜しかったでしょうか。その傷はまさか・・・。」
ラミルがシュルの頬の傷が気になったようだ。
「え?ああ、この傷ですか?・・・いえ、船に乗る前に不良にちょっと・・・ですw。」
「そう・・・でしたか。先程の事の際ではなかったのですね。」
「はい。全然心配要らないですよ。」
そんな感じにラミルは徐々にこのメンバーに馴染んできていたように思えた。

そこに外のデッキからドアを開けて入って来た者がいる。
「あ、ミィ姉さん何処に行ってたんですか?そういえばアルさんも見ませんが・・・。」
「・・・アルさんは、・・・知らないわ。」
「そうですか。うーん何処に行ったんだろ・・・って、あーー!ミィ姉さんそこ小部屋!ずるい~。シェー姉さんの次を狙っていたのにぃ。」
フィスは余程小部屋に執着していたのかエミーが入って行った後を追う。
そこには既にベッドの上にいるエミー。
「ミィ姉さんもずるいです!」
「ぁぁ、フィス・・・。お願い。一人に、少だけでいいの。・・・一人にさせて・・・。」
その声は、普段以上に小さく・・・涙声だった。
「ね、姉さん?・・・どうしたんですか!?」
「・・・お願い。」
フィスはエミーに何かあったのか感ずいたのか・・・それ以上は何も言わずに、不安に思いながらも小部屋から出てドアを静かに閉めた。
「(ど、どうしたんだろう、姉さん・・・。一応皆に・・・いや、クロ兄さんにだけ言っておこうかな・・・。」

この事をフィスがモーントに相談した後。

そろそろ、いいだろうか。
デッキから部屋に入って来た者がまたもいた。
「・・・・・・。」
「あ!アル!何処に行ってたの!?」
「フェリ・・・暫く外の風に当たっていただけだが?」
俺の返答に躊躇いは無いように感じられただろうか、それが心配だ・・・。
「・・・え?じゃあ騒ぎが聞こえなかったっていうの!?」
「・・・な、何のことだ?・・・大体皆何で起きているんだ?」
思いっきり聞こえました。
しかし全員が起きているということについては素直な疑問だった。
「・・・もういいよ、分かったわアル。」
彼女はそう言って振り返り皆、もとい。フルス以外の集まっている窓際に移動した。
な、なんか怒られたような呆れられたような・・・両方のような・・・。
皆何かやっていると思ったら・・・窓の張替えらしい。やはりあの音は窓を割ったのか・・・フルス。

「ああ、俺も手伝おうか・・・?」
「たった今終わった。」
無愛想にシュルが言い放った。こいつ・・・眠いからか?
「そうか。・・・ああ、そういえばエミーを見かけないけど・・・。」
「そうねぇ、そう言われてみればエミーちゃん何処に行ったのかしら・・・?」
フェリ、今まで気付かなかったのかよ・・・。
しかも俺にならあんなに怒るのにな・・・。Vsの奴らにはホント良い顔してるよなぁ。

「・・・エミーは小部屋で寝てる。皆起こすなよ。」
モーントが呟く。
「ええ!?私の部屋~!!」
「お前の部屋じゃないだろまったく。お前が自分勝手に使っていただけじゃないか。交代だ交代。」
「えー!?」
「もうお前あの部屋立ち入り禁止。」
「えぇーー!?!?」
「分かったなら大人しくしてくれ。お前の声いちいち大きいんだよ・・・エミーが起きるぞ。」

・・・俺、もういいよね。皆ももう寝る体制だし・・・。この短時間でいろいろ起こってしまって・・・俺も寝ようか。
先程まで寛いでいたソファーに座り寝る体制を・・・。
何か周りがうるさい・・・。

「酷いっ!!そこまで言わなくてもいいじゃん!私だって言ってくれれば退くのに!」
「本当のことだ。静かにしてくれ。」
「なにさ、こんな小さな事で・・・そこまで・・・」
「小さなことにも関わらずにお前が毎度いちいちうるさいっていってるの。」
「・・・もおぉ!!兄さんのバカァ!!もういいっ!」

モーントの勝利。
何でもいいケドもう静かにしてくれ。俺はともかく皆眠そうにしてるぞ・・・。
フェリも昼寝したらしいが、ライアとか眠そう・・・・ってもう寝てるし!
「兄さんなんて・・・もう。・・・あ、アル君一緒に寝ていい?」
・・・マジねぇよ・・・。
「ええ!?いや、勘弁してくれぇ。」
一瞬その言葉が今後のトラウマになりそうな予感がした。
睡眠を取ったはずの日に疲労が消えなくて・・・。先程までのいくら退屈でもゆっくり静かに過ごしたい時に変な騒ぎがあって・・・
その上、騒ぎの最中に非現実的な信じがたいことを体感して・・・しかもそれが現実らしいから・・・あぁもういいや。

無理矢理おやすみ。

「ああ!アル君が電気消した・・・。」
流石のシェネーも前のこともあってか諦めてくれたようだ・・・。
・・・・おやすみ・・・zz。



数時間後。
辺りはまだまだ真っ暗く、時計の針も3時を指していた。
もはや冷たいくらいの海風が吹くデッキに一匹のポケモンが何も動かず佇んでいる。
「・・・・・・。」
暗闇に包まれているため、そのポケモンの表情は見えないが
どこか悲しそうな感じのする鳴き声が、小さく小波の音に混じり、辺りに零れていた・・・。





眩しい・・・。ということは朝・・・かな?
朝だということを確信して体を起こす。
「・・・んん・・・ふぅ。」
目を擦り視界をハッキリさせて部屋を見渡す。皆起きて・・・ない。
なら、やることも無いから二度寝に入りますか。
「アル、・・・アル。」

モーント?起きてたのか・・・何処にいるんだ?
声のする方へ歩いていくと、丁度角に隠れている具合にある洗面所に黒い彼がいた。

「おはよー。」
「ああおはよう、あのさアル・・・聞きたいことがあるんだけど・・・。」
「な、何?・・・どうした?」
「エミー、・・・の事なんだけど。」

・・・予想もしない彼の言葉を聞いて俺の体に一瞬何・・・何かが・・・走って。
「エミー・・・が?」
拙い、嫌な予感が・・・。まさか・・・

「エミーが風邪引いた。」
「はぁ?」
思わず結構な声が出てしまった。いや・・・だって。
「うーん。朝早く起きて外の空気吸おうとして部屋でたらさ、エミーがデッキに倒れてて・・・
 慌てて起こしたんだけどかなり熱くなっててさ・・・。」
「でっ、今は?エミーは何処にいるんだ!?」
「そこの小部屋。シェネーをそこに運んでエミーが今寝てる。・・・でもエミー魘されてて起きないんだよ。
 まぁ・・・起こさないほうがいいと思うけど・・・。」

アルの予想は大きく外れたが、これはこれで一大事だ、彼もかなり動揺しているようだ。
「参ったな・・・。こんなときに・・・非情に参ったぞ。」
「・・・ああ。」
一人抜きの探索調査・・・か。
まだ今回の依頼の細かい行動は決めておらず、明日考えることにしていた。いわば会議?
8人か・・・エミーはこの調子じゃ無理だよな。

「・・・・・さて、アルの腕前もう一度振舞ってもらうぞっ・・・」
「大丈夫なのか?エミーは・・・。」
そんな彼の言葉を聞こえていなかったのか、モーントは寝ている皆を起こしに行く。
そしてモーントの言葉の「振舞ってもらう」の意味は残念ながら彼は理解できてしまった。

「まったく、・・・分かりました。」
洗面所で顔を洗った後に、俺はキッチンに向かう。

《キー・・・バタン》
キッチンのドアを開けて中に入ると見慣れた大きなバッグが置いてあった。
こういう形のバッグは長旅時に食料などを入れるものだ。
「さてと・・・。食材は何があるんだ?フェリとフルスが持ってきたんだよな~。」
「そうよ。」
「っ・・・!!?」
不意に聞き覚えのある声がし、その方向を向く。
そこに立っていたのは、なんとフルスだった。最後に見た彼女の姿はダウンしている姿・・・。
しかも彼女は今朝食を作っている真っ最中らしい。
「おはようアル。手伝いに来てくれたんでしょ?」
「え・・・ああ、まぁ。」
少し予想外だったが結果一人じゃ手間が掛かって仕方ないところだ。フルスが先にいて丁度良かったかな。
「じゃ、それ。」
これまた無愛想に・・・。
「ああ、分かったけど・・・。えーとフルスもう大丈夫なのか?かなり昨夜はかなり大変そうだったけど。」
「ええ。今回は昨日でもう慣れたわ。あと昨夜私、知らないうちに騒ぎ起こしてちゃったらしいわね。
 迷惑かけちゃってごめんなさいね。」
彼女は大人数の朝食は慣れているらしく、その豪快さに目を見張る程だ。
それにもかかわらず彼女は無表情で会話をしてくる。
「ああ、俺は色々ありすぎて・・・ね。何がなんだか・・・。」
「色々?」
「うん。俺はね。」


時間が経つにつれて良い匂いが漂ってくる。ふと時計に目をやれば・・・まだ朝食まで時間はあるが
気になることに早起きのフェリが起きていて来ない。こんなときは必ず手伝ってくれる気の利く奴なんだが・・・
「ねぇアル。エミーについて何か知らない?」
エ・・・エミーか。
「風邪引いて熱が出て・・・」
「ううん。違う。そうじゃなくて・・・あの子夜中、小部屋の中で何故か泣いてたのよ。」
「え・・・!?」
泣いていたって・・・エミーが!?



一旦切ります。何かあればお気軽にどうぞ。






*1 コンコン・・・

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Last-modified: 2010-09-13 (月) 00:00:00
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