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花束の夜空 ―心のお日様―

/花束の夜空 ―心のお日様―

こんにちは、赤いツバメ ?です。

この作品は花束の夜空の2話目です。


―とある野原―

『フィ、大丈夫?もう少しだから、あとちょっとの辛抱だよ?』
『わ、分かった・・・グスっ』

何処かとても見慣れた風景。記憶の端に映されたのは、田舎を連想させる寂れた町。
そのときフィと呼ばれている私は泣きながら、水色の冷たい彼の背中におぶられていた。温かくも冷たい彼に。
ここは砂利道らしく、彼が歩くたびにザッザッという音が耳に響いてくる。
私は右後脚がに酷い怪我をしていた・・・ただ転んだだけということしか覚えが無いのに。しかし、先ほどまで酷く痛んでいたその怪我は今は不思議と痛まない。
黙り込んで彼の背中に揺られながら薄れ行く意識の中、ただ彼の冷たい体の温もりを感じていた。



「さぁ、これでよしと。後は・・・」
ここは・・・クレス君の・・・家?
あれ、記憶が飛んでる。
「えーと、まず冷却スプレはー・・・。」
すぐそこに置いてある救急箱の中を、彼は相変わらずといった様子でガサガサと乱雑に物を探していた。
不思議と私は声を出さない。しかし私自身は何故声を出さないか理解している。おそらく出せないのであろう。
「う~ん、無いなぁ。どうしようか。」

「あ、そうだね、フィの言うとおりだ。ははは」
彼はどうしてか一人でしゃべっている。私がまるで何か言ったかのように。おそらく現に私は何か彼に言ったのだ。
この出来事を全て覚えている。私は「クレス君の吐息で冷やせば良いじゃないですか。」と、こう言ったのだ。
そう、これは全て私の記憶。私は夢を見ているらしい。
傷の痛みも、クレス君の吐息の冷たさも感じない。

少しおかしい。先ほどまでは彼の温もりだけは感じていたのだが、今では彼の冷たく温かい温もりさえも何も感じない・・・。
しかし私は夢と分かっていて、目覚めようとしない。もっと見たいと思っているから・・・。

「僕も君ともっと一緒に居たかったのに・・・。」
え・・・え?
彼の表情が突然悲しみに歪んだ。
「どうして、どうして行っちゃうの?もっと一緒にいようよ。」
更に彼の表情が悲しみに染まって涙までポロポロと出てきた。これは記憶じゃない。
今見ているものは夢。私の不安な心次第などで『夢』というものなんてすぐに悪夢にも変わる。
「酷い・・・酷いよフィ・・・。」
違う。もう目の前のクレス君はクレス君じゃない。
引越しの当日、あんなに笑顔で見送ってくれたじゃない。なのに・・・。
「君は酷いよ。僕は君がずっと好きだったのに君は・・・。」
そんな怖い顔しないで・・・私のこと・・・憎いの?

覚めろ・・・夢なのだから覚めろ!早く覚めろ!私はこんな苦しそうな彼のところにいたくない!早く・・・。



「はぁ、はぁ、はぁ・・・はぁ。」
私は今、薄暗い部屋の中にいますね・・・。部屋が見渡せるくらいの明かりがあるのは町の夜明かりが窓から差し込んでいるから。
気づいたら私、凄い汗掻いちゃってますね。もうぐっしょりです・・・。
涙まで出ているのは何故でしょう・・・かね?
今の夢・・・私は・・・。

私の隣には、ご主人。
結局私は、ご主人と一緒に寝る前から寝ちゃっていたので、ご主人と久々に同じベッドに居れてとても嬉しいです。
少しばかりシャワーを浴びてきましょう。ご主人を起こさないように・・・そっと。
痛っ。そういえばケガが・・・。いえ、このくらいの痛みは我慢しなければいけません。少しずつ階段を下りて・・・お風呂場で少しでもシャワーを浴びないと。


リーフィアはなんとか自分の手で風呂場のシャワーを開けることができた。最初に出てくる冷たい水をもろ被ってしまったのは彼女らしいおちょこちょいといったところか。
彼女はシャワーを浴びながら何か遠いものでも見ているような様子で呆然としていた。

・・・どうして、今になって私はクレス君を忘れずに思っているんでしょう。あんなにも決心したのに・・・。違う。決して人を忘れることなんて誰にもできない。
でも私は、辛いほど彼のことを思い出してしまっているの。・・・まったく、いつまでも甘えん坊の私自身を自分で笑ってしまいます。
クレス君に会いたいかと聞かれれば、多分・・・いえ、会いたいでしょう。しかしこの町への引越しはご主人の都合だったとはいえ、今の生活は私も気に入っています。
それに、彼は私が居なくても、こんな私みたいに弱くはないですから今もしっかりしているのでしょう。
《シャーー……》
さて、気持ちも落ち着いたことですし早く身体いて寝ましょう。
私は体毛に溜まった水滴をある程度身体を振って飛ばしてからお風呂場を後にしました。洗面所でタオルに包まり身体をしっかり拭いて、ご主人のいる元へ。
明日体調が悪くならないように・・・もう寝ましょう。


―翌朝―

彼女は毎朝のとおり相変わらず、眠そうな瞳をこすりながら顔をむっくりと起こした。
同時にあくびまで出てしまうのは、朝に弱い彼女の相変わらずといった様子だろうか。

顰めた瞼で辺りを見回すと、外からの光が朝にしてはとても暗く、部屋も結構薄暗いです・・・。曇天といったところでしょうか。
雨音は聞こえませんがもしかしたら雨も降っているのでしょうか?

彼女はゆっくりとした動きでベランダの窓のカーテンを前足でサッと開けてみると、彼女の予想通り、しとしとと細かい小雨が静かに降っていた。

今の時刻は・・・9時ですか。毎日毎日同じ時間に起きますね、私って。
ましてや今日は真夜中に起きてしまって二度寝したのですが・・・。
ふぁー。。。ん・・・やっぱり少し眠いですね。しかし、せっかく起きたのですからまた眠るわけにも・・・。
お店のお手伝いをするといっても、このケガですし・・・はぁ。

ふと彼女が窓の外を眺めていたら視線があるところに止まった。例の向かいの家の二階の窓に見えるのは・・・。

あれは・・・ブースターさんの尻尾・・・ですか?
あの尻尾・・・。触るともふもふしていそうな感じですね。何かとっても気持ちよさそうな触り心地というか。
見ているだけで一度でも触ってみたくなるような気にもなり・・・あっ何を考えているのでしょう私ったら・・・。
しかし、あのブースターさんも進化する前までは私も同じだったように「イーブイ」の姿だったのですよね。少し親近感を感じますね。
私もイーブイだった頃は体の体毛はもふもふとまでには柔らかくなく、わさわさというかもう少し滑らかさがあって・・・もふもふと比べると若干触り心地が劣りますけどね。
・・・って、ああまた私変なことを・・・もぉぉ~~
「・・・あ・・・。」
気付かないうちにブースターさんがこっちを見てる・・・てことはさっきの私の行動も・・・。

彼女は一人で照れを無くそうと顔を手でわしゃわしゃしたところを見られていたと思い赤面した。彼女は咄嗟に窓の下に隠れずにはいられなかった。
その様子を向かいのブースターはどのように思って眺めていたは分からない。
リーフィアは落ち着きを取り戻し、チラッと、再び顔をのぞかせた。

「(あ、ブースターさんまだこっち見てる。・・・どうしよう。)」
しかし彼女には不思議と不安な気持ちはない。寧ろ何か期待に似たような気分で楽しんでいるようだ。表情もまだ赤みが残っている。

そこで彼女は少しブースターに興味がわいてきたので笑顔を見せた。
それを彼は僅かに尻尾を振り、表情も少しばかり和らいだようにも見える微笑を返してきた。
リーフィアの表情の消えかけた赤みが再び赤くなったようだ。
「ミィ・・・。」
ここからでは、彼には聞こえないと分かっていても彼を呼び掛けたかった。
ところが彼はそれを理解してくれたかのように、今度は確実に笑って前足を軽く彼女に振ってくれた。
彼に会って話がしたい・・・そんな彼女の思いが強まった瞬間だった。

『リーフィアー、起きたー?』
毎日9時に起きる私をご主人は知っていて、9時を少し回った時間に朝食を用意して階段の下から私を呼んでくれるのです。
「んにゃぁ」
『台所に置いておくよー。ミルクが冷めないうちにねー。』
そして私が再び向かいの家の窓に目をやったときには、そこにブースターさんの姿はありませんでした・・・。
・・・・・・さて、・・・ご飯ですね。

台所に着くと、やはりご主人はお店に出ているようで、テーブルの下にポケモンフード、ホットミルク、野菜サラダが並べてありました。
野菜サラダはお皿が冷たく冷蔵庫から取り出したようで、昨日の夕食の余りものらしいです。
しかしご主人の作った私の大好物です。美味しさも何も変わりません。
いただきます・・・。

ん、雨の音が大きくなってきましたね・・・。
静けさのある食卓で、ただ雨の音が一段と大きく耳に響いてきます。・・・いえ、このような空気は慣れきっています。
今日の朝食も、聞こえる音は私が食事を進める音だけです・・・。


―部屋―

「よいしょっと・・・。」
え、私が今何をしているかですか?あぁ、押し花ですよ・・・。
ご主人がこのお店を営業してから、とても沢山の種類のお花がお店に並ぶようになりました。
そこで私は最近、ご主人に進められて押し花というものをはじめました。
やってみると結構奥が深くて楽しいものですよ。とは言っても私もまだやりたてなのですが。
・・・これからも毎日の退屈凌ぎにやっていこうと思ってます。
よいしょっ・・・。
花とはどんなに良い肥料や、豊富にお水を与えたとしても、それだけでは元気に咲き誇ることはできません。
もうひとつ欠かせない大切なものはお日様の光。その下にてお日様を見上げながらその温もりを感じ、それでこそ本当の幸せを感じて咲き誇れるのです。
しかし私は、お日様を無くしました。いえ、本当の太陽さんはお空にありますが・・・。
少し前まで私の心の中の太陽は二つありましたが、そのうちのひとつを無くしてしまったのです。
理由は私がそこを離れてしまったから。最初の頃はとても辛く悲しかったのですが、それも今ではこの通り立ち直れました。
それから私は心に複数のお日様がなくとも元気にいられることが分かりました。
本当の太陽さんのように温かいご主人という心のお日様です。
ご主人に愛されているということは、私にとって何よりの幸せのはずです。

しかし・・・この不思議な感覚は何でしょう。
寂しさ?寂しく思っている方といえば、・・・やはりあの方のことなのでしょうか。
その少し前まで私の隣には彼のまぶしいほどの笑顔。無くしたもうひとつの心のお日様。。。
寧ろあの頃はそのことが当たり前のように思っていたのかもしれませんね。

少し、私の過去のお話でもしましょうか・・・。



数ヶ月前のある日のことです。
ご主人の口から、近いうちにご主人と私で、遠くの街へ引っ越すことを話されました。
最初に聞いたころは、まだまだ先のことの話で曖昧な感じな事だと思っていましたが、それは私の予想とは裏腹に
あまりにも早く「引越し」というものが決まってしまうものでした。

その事の大きさに気付いた私は真っ先に「クレス君と会えなくなってしまう」と。そのような思考が私を一気に不安にさせました。
日常が・・・とまでは言いませんが、私の生活の一部が崩れる、という程のことでしたから。
しかし、私もどうしても街に引っ越さなければならない理由を理解していなかったわけでもありません。仕方の無いことなのだと。
私とご主人は離れられなかったのです。
ご主人の両親も仕事の都合でなかなか家に帰ってこれないので、ご主人に付いていかないと私がひとりぼっちになってしまうのです。
勿論、最初からご主人は私の考えている事を察してくれました。でも、これはどうしようもできないことだと。私だって分かっていましたが・・・。

彼と会ったのもこの日の翌日を最後に、体調が悪いと言ってそれからでした。
いつも昔から一緒で大好きだった彼と離れてしまわなければならないと思うと何もする気になれなかったのです。
私はいつしか本当に体調を崩してしまう程、精神的に病んでしまい数日間落ち込んだままでした。

「彼になんて話せば良いんだろう・・・?」
・・・話せません。今の私では・・・。このような脳内会議が何度となく繰り返され、それが私を悩ませ苦しめました。
彼が聞いたらどのような返事が来るのかと想像をすると、話さなければいけないことと分かっていても、その答えが怖くてどうしても話す気になれなかったのです。
彼に伝えられないまま数日が経ち、私の心境に追い討ちをかけるかのように引越しの日にちも決まりした。
私はとても焦りました。そこでもまた自分の予想なんて、遥かにずっと後のことだと思っていましたからね。
そう、ただ思いが焦るだけ。普通はその事が背中押しになるのでしょう。しかしそのときの私には行動を起こすだけの決心がいまだ着いておらず今までどおり
彼に顔を合わせられずにまた幾日か過ごしたのです。

ついに引越しの日が明後日までに迫った日、私は彼と前のように遊びに出かけました。
勿論、私から彼を誘ったわけではありません。・・・その逆です。
ここ数日彼が家を訪ねてきても、ご主人になんとか頼んで彼と会わないようにしていました。・・・彼には悪いと思っていても。
しかしこの日は、私が外でお昼寝をしようと少し出かけたときに、彼と出会ったのです。このときの私の体調なんてとっくに良くなっていました。
私は大きな罪悪感を感じ、最初は目をあわせられませんでした。しかし彼は変わらぬ優しい態度で話してきたので私も戸惑いながらも、その場は笑顔で彼と向き合える事ができたのです。
今思うと、おそらく気まずい雰囲気にならないよう彼が気遣ってくれたのでしょう。

いつしか何時もどおりに、私はまるでここ数日間の彼との間など無かったのように彼を感じながら楽しく遊んでいました。
しかし、ある時。ここ数日間まったく運動していなかった私は遊んでいる際の走っているとき思いっきり転んでしまいましい脚に怪我をしてしました。
久々すぎる痛い思い・・・不覚にも私は堪えきれずに泣いてしまったのです。その涙にはいろんな溜めていた意味がありました。痛みのほかに、あることを一言で言うとそれは彼を想う気持ち。その中に色々な感情がありました。
自分でその事に気付くと、思いっきり泣いてしまったのです。気付いてしまった事が余計に悲しくてしばらく泣き続けていました。

その後、彼は泣きじゃくる私をを背負い、自分の家まで私を運んでくれたようです。家の人に私のケガの治療をしてもらいに。
しかし、やっと着いたというところで・・・家は留守だったのです。
仕方なく裏口の鍵を開けて中に入り、クレス君が私の怪我の治療をしてくれました。
そのとき、私はやっと例の事を彼に打ち明ける勇気が出てきて・・・いえ、それはもう話す機会なんてもうないのです。
私は彼に今までずっと言わなければならないけど言えなかった事を話しました。
彼は言葉を失い・・・暫く俯いたままでした。
驚いてる、怒ってる、悲しんでいる・・・。
やっと、やっとこの日になって打ち明けた事を後悔しました。しかしもう今を逃してしまえば二度と話し出せない気がして
それで彼に伝えられないまま離れてしまうなんて、それこそ悔やんでも悔やみきれません。彼を裏切る事になります・・・。
本当に、もっと早くから話せていれば・・・今より彼に伝えやすかった・・・そして彼も理解しやすかったと思います。
しかし、暫く黙って俯いていた彼からは、思いもしない返事が返ってきたのです。
「・・・じゃあ、明日は思いっきり遊べるね。」

・・・あのときの彼のの笑顔は、とても悲しそうに見えました。
しかし、その悲しそうな笑顔は、とても優しく温かいもので・・・それからずっとその日は彼に寄り添っていました。

その翌日、彼との最後の散歩を楽しみました。それはいつもよりずっと長い散歩・・・そして今までにないくらい彼が愛しくて・・・それが少し辛くて・・・なにより楽しかったです。
あの日の彼はひんやりしていたり、温かかったり。その日は今までで最高に楽しかった一日でもあり、少し悲しい一日でいた。
日が暮れて、彼と別れるのが惜しいのはいつもの事。しかしこの日は特別にいつにも増して別れる事が惜しかった。なぜならこれが彼との最後の・・・。
泣きそうだったけれど、最後は笑っていたくて、でも実は涙を零していて、そのことに気付いたら尚更悲しくなってきて
そうなってしまうと私は堪え切れません。彼の胸に飛び込んでいつまでも泣きじゃくっていました。それはいつまでも彼を感じていたかったから。
それは彼にとっても同じ気持ち・・・そのことは声にして言わなくとも分かっています。その証拠に強く抱きしめてくれていましたから。
彼の頬にも涙が見えたのは私の気のせいだったのでしょうか・・・。

いつまでも抱き合っていました。
もう感じれなくなる、温かくて冷たい彼をずっと感じていたくて。そんな長い時間の末、彼は突然私に自分のしていた赤いマフラーを巻き始めて・・・
「・・・クレス君・・・?」
そして私の気持ちに応えるかのようなことを口にしました。
「良ければ、その君の黄緑色のマフラーを僕に巻いて欲しいな・・・交換ってやつだよ。」
そう言ったクレス君の温かい笑みが、今でも強く印象に残っています。まるで写真を見ているかのように・・・。
そしたのは彼のその笑顔を忘れたくない一心で、そう願った私なのかもしれません。



翌朝、この時間帯の外は、まだ冷え込んでおり僅かばかりか白いと息が流れている。
まだ七時にもなっていない早朝にカナが引越しの最後の準備として小物を整理して車に積み込んでいるとき、リーフィアはその車の上に座っていた。
彼女はそのとき何を思っていたのか・・・。その表情から見れば不安は感じていないように思える。
「リーフィア、そろそろ出発するよ?降りてきなさい。・・・あら?」
カナの声が聞こえなかったのか、リーフィアが降りて来る気配がない。それほど彼女は自分の首に巻いてある赤色のマフラーの温もりに夢中だったのか・・・。その様子から単に色が変わった訳ではなさそうだ。
それに声を掛けた本人すら何処かへ行ってしまった。
「あれ、クレス君じゃない・・・!」
ずっと車の上でじっとしていたリーフィアを動かしたのは、そのカナの声であった・・・。


その最後の引越しの日以来、彼とは一度も会っていません。そういえば最近彼からの手紙も来ていませんね。ちょっと寂しいです。
やっぱり、会えるものならば・・・会いたいですよ。
えっと・・・それで、今日は彼の温もりを感じてお昼寝したいです。・・・たまには・・・いいですよね?

リーフィアはベッドの横にある可愛らしい小さな棚の中から、きれいにたたんであった赤いマフラーを取り出した。棚を開ける際にベッドから落ちてしまいそうだったが・・・。
彼女にとってそのマフラーは彼自身でもあり、不器用ながらも一番大切にしまっているものであった。彼女がこのマフラーを取り出すことはあまりない。稀に冷え込んだ日に、首に巻いたり、抱き込んだり。
それは決してお出かけ用には使用しないほど、大事なものなのである。
彼女はそれを抱えながらベッドの上で彼の少しばかりでも残る温もりを感じながら、いつしか静かに寝息を立てていた。
外の様子もいつしか段々と雲をかき分けてお日様が顔を出してきていた。その暖かい日差しに照らされるその寝顔は、いつにも増してあどけないものであった。
たまに浮かべる笑みは、よい夢でも見ているのだろうか・・・。


―数時間後―
「リーフィアー。いるー?」
仕事の合間にカナが階段を上がってきた。天気も晴れてきたことだしリーフィアが何をしているか様子を見に来たらしい。もしかするとお日様が顔を出したなどといって出かけているかもしれない、などと思いながら。
そんな彼女の予想とは裏腹に、部屋のドアを開けてみると、リーフィアはベッドの上で静かに丸まっていた。
それを見て安心したカナは部屋を後にしようとしたが、その時リーフィアの何かに気づいた。
「リーフィアったら・・・たまにクレス君のマフラー出すんだから・・・。」
カナは少しの間、気持ちよさそうに眠っているリーフィアの頭をそっと撫でていた。時々リーフィアの耳がピクピク反応したが、撫でる方も撫でられる方も慣れているのか、彼女を起こすことはなかった。
「またあとでね」とカナは心の中でリーフィアにそう告げ、部屋を後にした。

カナも勿論リーフィアの仲良しだったグレイシアのクレスの事は知っている。寧ろ知っているどころかクレスの飼い主の都合でクレスを預かってくれと頼まれたこともあった。
ご近所さんの頼みだという事もあって、承知して何日間か預かったくらいだ。
一見とても物静かでクールな男の子という印象を持ったカナだったが。根はとても甘えん坊でカナにもすぐに心をを許した。お陰でカナ自身も安心して面倒を見れたのだった。
段々と日を重ねるごとに彼の性格など個性が分かってきて、何よりリーフィアととても仲良しだったという。
毎日出かけて遊んでた相手もクレス君だったとか・・・。

それからリーフィアが起きたのは間もなく、カナが降りていく際の音で目を覚ました。
「にゅ・・・。」
彼女は目を前足で擦り、立ち上がる。その様子からすると朝の目覚めと比べると、大分良いものであるとみられる。そうだとしても相変わらず眠そうな目をしているのには変わらないが。
そして可愛らしい小さな欠伸をした後、抱いていた赤いマフラーを丁寧に畳んで棚にしまった。
時間は5時を過ぎており、外もそろそろ暗くなる頃になっていた。


ふぁ、起きたばかりの私は、窓のカーテンを少しめくって中に入り、それから窓を開けてベランダにでました。
雨は既に止んでおり、気温も少し温かくなったみたいですね。風が気持ち良いです。
おや、雨上がりの匂いがしますね・・・。私はこの匂いを感じると何故だか懐かしい気持ちになります。どうしてでしょうね?
ところで、・・・向かいのブースターさんの二階の窓は・・・今は何も見えませんね。
「みぃ・・・。」
さて、ご主人のそばにいたくなったので戻りますか。


夜になり、私とご主人は現在夕食中なのです。でも・・・今は、あまり食欲がありません。
何せ私はお昼から睡眠をとってばかりでしたから。「寝る仔は育つ」とは言いますが、これは少々寝すぎですね。とはいうものの私には一日という時間がとても長くて・・・。
ポケモントレーナーと一緒に暮らしているポケモンは、人との関係を持たない野性とは違い明日を心配せずに自由に、そして人に愛されて暮らせます。
ましてや私のようなポケモンバトルをしない上に一人暮らしのご主人に買われているポケモンは、特に自由すぎて時間を余してしまうわけです。
「リーフィア?聞こえてる?」
「み。・・・にゅぅ?」
すみません、ご主人。まったく聞いていませんでした。
「聞いてなかったみたいね・・・。どこまで聞いていたか分からないけど、もう一度言うよ?」
ぅぅ、ごめんなさい。
「みぃにゅう・・・。」
「まったく、可愛い声出しちゃって。で、さっきの話だけど、怪我した脚は大丈夫?」
「みゃ。」
私は包帯が巻かれている方の脚をご主人に向けました。そしてご主人はその包帯をゆっくりと解き始めました。
ポケモンの傷などの回復力は、人間とは比べ物にならないほど早く、強く、一生残る傷も滅多にないのです。・・・と、前にご主人がそう言ってました。
ですから、この脚の傷も大分良くなっていると思います。こうして階段の上り下りもできるようになりましたし、痛みも殆ど感じなくなって不便も
もう無いと思いますが・・・。
「あら、もう大分浅くなってるじゃない。凄いよねーポケモンの回復力は。でも明日のRolksには行かないほうがいいかな~。」
Rolks・・・出かけるのですか?なら私もいきたいです・・・。
ご主人にこの思いを必死に、眼差しで訴えると
「う~ん。やっぱりリーフィアもRolksへ行きがってたよね。でもまだ傷は完治してないよ?」
私は尚も「もう大丈夫なのです、連れて行ってください!」という眼差しをご主人に向け・・・。
「まぁ、大丈夫か。・・・じゃあ明日の午後から出かけるよ。」
「にゅぅ♪」
やったぁ。明日はご主人とお出かけ。
この街には少しずつ慣れてはきていますが、街外れに行くことは滅多になかったので楽しみです。
なにより、明日ご主人と出かける「Rolks」のようなとても大きなデパートには行ったことがないので、凄く楽しみです。
では、ご馳走様なのです・・・。
さて部屋に戻って・・・
「待ちなさいリーフィア。」
・・・・・・。
「このカボチャ、どうするの?」
「・・・にゅ・・・。」
「やっぱりカボチャ嫌いだったのね。リーフィアなのに野菜に好き嫌いがあるなんていけないと思うよ。それにこの前、野菜は全部大好きだ、って頷いたよね。」
ごめんなさい、カボチャだけは・・・。ぅぅ、どうして滅多に出さないカボチャの入った料理を今日は・・・。
・・・絶対無理です。カボチャなんて。一度食べた事を思い出したら・・・。
「・・・・・・ふぃー!」
「あ、こら待ちなさいリーフィアっ。野菜に好き嫌いがあったなんて今まで気付かなかったのがショックよ。」

「ふにゅー!」
私は階段を上ろうとしたところでご主人に抱き上げられました・・・。脚のケガがなかったらこんなことには・・・いえ、どちらにせよ逃げられないのかもしれません。
「はい、あ~ん。」
(パクッ)
えと、口の中が・・・。
「・・・にゅぁぁ!」
じたばたともがく私をものとしないなんて・・・。私の力ってそんなに貧弱だったのですね・・・ぅぅ。
「よしよし、いい仔だね。」
私の頭を撫でて下さるのは気持ち良いですが、口の中はあぅあぅでいっぱいなのです。
私はそっぽを向いて二階へ駆け上がって行きました。
別にご主人から逃げたのではなく、口の中にあるあぅあぅを無くすため、二階の洗面器で口を濯ぎたいのです。
・・・え?あぅあぅとは何かって?
あ//・・・あぅあぅはあぅあぅなのです!ああもう、早く濯ぎたいのです!

リーフィアが食卓から去った後、カナは少し、リーフィアに少し無理をさせたと分かっていただけに、少し苦い顔をしていた。
たしかに強引だったかもしれないが、草タイプの野菜嫌いといえば余計に心配になってしまうカナであった。
とはいえ、リーフィアのあの暴れ様を目の当たりにしてしまっては、彼女はリーフィア可愛そうで仕方なかった。
カナは彼女に、今度は先ほどのような無理はさせまいと思い、短く溜息を漏らした。
その後、台所場では、カナが食器を洗う音が響くだけであった。



この街は夜になっても活気に満ちており、しかし昼間とは違い賑やか過ぎでもないので、夜の街中というものはとても綺麗だ。

薄暗い暗闇の部屋、その窓越しに、見るからに柔らかそうな体毛を持つポケモンが外を眺めていた。ブースターだ。
ブースターの視線の先は昨晩と同じく、あるポケモンを捉えていた。捉えていた・・・というよりも、やはり眺めていたというべきか。
そのポケモンはベランダ越しで夜風を浴びている。勿論、夜の上に部屋が真っ暗のせいかこちらには気付いていない。
その時間は永遠に続くかとも思えたが、ふと彼の背後で声がした。
「ブースター!電気も点けずに何してるのさ・・・ん、何か見えるの?」
小さな男の子が明かりを点け部屋に入ってきた。そしてブースターのところに寄り窓の外を眺める。
「あ、昨日のあのリーフィアじゃん。そうか、向かいはあのお花屋さんだったっけ。・・・あれ、どこいくのブースター、待ってよ?」
ブースターは男の子が明かりを点けてしまったからか、その場を立ち去り、部屋から出て行ってしまった。

一方リーフィアは気になっていた部屋の明かりが点いて、何気なく窓に目をやったが、そこには誰も見えなかった。
「にゃぁ~・・・♪」
この季節の温かくも涼しい夜風は、リーフィアを優しく包むものであった。彼女はそれが故郷とまったく変わりがない感じがするという。
その事もあってなのか、毎晩毎晩、彼女のふわふわした体毛は夜風に気持ちよさそうに靡かれている。

彼女はベランダから部屋に戻って小さな欠伸をする。あれだけ眠っても眠くなるのだろうか。
ベッドの上に飛び乗って布団の中にもぞもぞと入り込んだかと思ったら、いつもすぐに消えてしまいそうな薄い栗色の瞳は、既に閉じられていた。
リーフィアとは何とも寝就きの早いポケモンらしい。いや、彼女だからこそなのかもしれない・・・。そうに違いないのであろう。


―翌朝―

晴天。空を見上げれば雲ひとつない青い空。気温も20℃前後のお出掛け日和の天気になった。
その天気と、動く街の風景に浮かれているのか、リーフィアはカナの運転する車の後部座席から顔を出していた。
「リーフィア、顔出すと危ないよ~。」
風の音のためなのか、それともただ浮かれているだけなのか、彼女はカナの声が届いてないらしい。
カナがバックミラーにふと目をやると、そこには風で毛がくしゃくしゃにったリーフィアの満面の笑みが写っていた。その様子を見てカナも自然と笑みを浮かべてしまう。バックミラーから視線を戻しカナの車が信号を右に曲がる。決して荒い運転ではないのだが、リーフィアはバランスを崩し車内をころころと回って、しまいには窓に頭を打ってしまう。

「はみにゅぅぁぁ・・・~!」
「ほーら言ったじゃない。大人しくしてなさい。」
リーフィアは頭を撫でながら、後部座席にちょこんと静かに丸まった。
しかしそれではリーフィアにとって些細なことながら問題があった。外の景色が見えないのだ。
彼女はこの街に来てそれほど月日がたっていないので当然、外の景色に興味があるわけである。そぉ~と先ほどのように二足で立ち上がりドアに前脚を掛けて・・・
「リーフィア。」
「・・・きゅっ」
大人しく座り、丸まった。


「ついたよリーフィア、降りてきなさい。」
リーフィアがふっと、カナの開けたドアの中から静かに飛び降りる。
そこは街外れの大きなデパート「Rorks」の駐車場であった。リーフィアの目にまず入ったのは、とても大きなデパート・・・。
ではなく、何故か駐車場の交通整備員である。彼女にとってその人は、片手に初めて見るような変わった赤い棒を持って、おかしな踊りでも踊っているかのように見えた。
「リーフィア、何してるの、行くよ?」
彼女はカナの声に応じて、とことことカナの隣に並んで歩いていく。
このように今ではリーフィアの地面に落ちているものはゴミでもつつく癖が直ってからこそ、カナは安心して連れて行けるようになったのだ。
そんなイーブイの頃と言えば、バッグの中で顔だけをひょっこり出してお出掛けしていたものだった。


さて、自動ドアを通って・・・う、涼しい。お店の中はひんやりしていて快適なのです。
周りを見渡すとはポケモン連れの客も疎らに少なくはなく、中には六匹くらい大勢連れている客もいますね・・・。
っとと、ご主人にしっかりとついていかなければですね。とても広いですから逸れたら大変です。
最初は、食品売り場ですね。何処のお店でも野菜などお魚のおいてある場所は特に涼しいですよね。
「リーフィア、今日はシチューにするね。」

シチュー、久々ですね。
ご主人の作ってくれる料理なら何でも美味しいですから、どんな料理でも楽しみなのです。
昨日はカボチャが苦手だということがバレてしまったので少々不安なところですが・・・。
あ、カボチャ!・・・のところを素通り、ふぅ・・・良かったです。

その後もご主人の買い物にぴったりとくっついていった私は、大きなデパートなだけあって色々発見がありました。
エレベーターやエスカレーターも初めて、ご主人のバッグの中ではなくて普通に地面いついて乗りましたしね。
そのエスカレーターの乗っている途中で、
「そうだ、リーフィアおしゃれしてみない?」
「?」
「アクセサリーとかさぁ、ちょっとしたものでも。」

むー、あまりおしゃれとかは考えたことないですね。しかし、せっかくご主人が言ってくれてるのです。
一応そういうお店も見てみたいですね。
私はエスカレーターの終わりをぴょんっと飛び越えながら、ご主人に返事をしました。
「うん、じゃあ行って見ようか。」
そしてまた、ご主人の後ろをピッタリとくっついていきました。

そこはとてもいい香りがするところでした。看板を見ると・・・。「THE・TORAOM」と書いてあります。
アクセサリーショップなどは・・・勿論初めてで、思っていたよりお店も気品のあるようなおしゃれでした。
「そうねぇ・・・リーフィアみたいなポケモンだと、つけられる物って幅広いわよね。あ、なにこれ~。えいっ」

いきなりご主人は私に何か被せてきたので声が出てしまいました。帽子?・・・麦藁帽子。
「あっ、結構似合う・・・。ほら、鏡みようよ。」
麦藁帽子の私は鏡のほうまで抱いて持っていかれ・・・あ。

・・・。
これって似合っているのですか?赤いラインの入った麦藁帽子を被った私は、いつもの自分じゃないような。
この麦藁帽子、両耳の穴の位置が少し端にずれていて、片方は穴が小さくなっていて、わざと傾かせるデザインなのですか。

「じゃあこういうのはどう?」
麦藁帽子を取って、今度は耳リボンですか・・・わたしには似合わないような。

「あ、大分合ってるじゃない。もう少し小さめの物を両耳につけるとか?」
あぅあぅ、何かご主人がノリノリになってきたのです・・・。
結局私は小さなおしゃれということでリボンの中で一番最初に選んだ少しばかり大きめの感じがする、赤い方耳リボンにしました。
早速店員さんが右耳の付け根に付けてくれてました。何かちょっと・・・照れくさいですけど。
「やっぱり似合ってるよリーフィア。」

あ・・・ありがとうございますご主人。大切にしますです。
「よし、もう用事も済んだし、帰ろっか。」
頷いてお店の時計を見れば、もう夕方ですね。お腹もすいて来ました。
ご主人とお店を出ると・・・

「あらあら、アオイさんじゃないですか。」
「あら、こんにちは、エダナミさんもブースターちゃんとお買い物ですかー。」

あの、ブースターさんがいたのです・・・。えっと・・・挨拶くらいしなければいけませんね。

「あの、この間は本当にありがとうございました・・・。」
そこから、私は言葉が出てきませんでした。感謝の気持ちでいっぱいなのですが、この一言で終わっちゃってしまったのです。
隣のご主人とエダナミさんはおしゃべりに夢中です。
「・・・・・・気にしないで下さい。」
無口な方なのか、この間は声すらも聞けなかったので、初めてブースターさんの声を聞きました。
いえ、どこか聞き覚えのある声のような・・・。
「あ、でも、本当に助かりました。お強いんですね。」
「・・・・・・。」
あら、本当に無口なのですか?それとも気に障っちゃった事言っちゃったのかな・・・。
「・・・・・・俺のご主人、トレーナー。ご主人はこの方の息子だけど。」
「・・・そうだったんですか。どおりでお強いわけですね。」
「そんなに強くないですよ。」
彼は、少し照れくさそうな表情で俯いた。そして
「・・・傷、大丈夫ですか?」
私の傷を心配してくれているようです。このひとはとても良い人なんですね。改めて感じました。
あ、良い人だなんて当然ですよね、見ず知らずの人を助けちゃうんですから。
私だったら・・・そんなことできそうにもないです。
「・・・ねぇ?」
気付くと彼が不思議そうな表情をしていました。ん、その覗き込むような表情には見覚えがあるような・・・。
そんなふとした考えは私自身の声がかき消してしまいました。
「は、はい、大丈夫です。お陰で殆ど治ったようなものですから。」
「・・・そう、良かった。」
彼は少し安堵の表情を漏らし、頷きました。
・・・そういえば、昨朝、起きて間もないころに、窓越しにブースターさんと会っていましたっけ。
ぅぅ、あのときのことは話題としてちょっぴり恥ずかしいので言わないでおきましょう。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

私たちの会話が途絶えると、ご主人たちの世間話が先ほどより大きく聞こえて・・・。
「あ、あの・・・ブースターさん。お名前は聞いていいですか?あの時は、急にいなくなられて聞けませんでしたし。」
「・・・イグニス。」
「イグニスさん、ですね。かっこいいお名前ですね。」
ブースターさん、ちょっと照れてます?おっと、イグニスさんですね。
そもそも、ご主人に名前を付けられることって、どんな感じなんでしょうね・・・。

「・・・君は?」
「私の名前ですか・・・。うーん、リーフィアとしか呼ばれてないです。」
「・・・そうなんですか?」
イグニスさん、そんなに名前を付けられていないのが意外でしたのか、きょとんとしてますね・・・。
主人に名前を付けられないポケモンは少なくはないと思いますが。

「えっと・・・リーフィアさん。」
「はい。」
「その・・・たまに、顔を出しに行ってもいいですか?家も正面だし・・・暇だし。」
「え?あ、もちろん良いですよ。私もこの街に来て、友達がまだいないので。じゃあイグニスさんは最初の友達ですね。」
「・・・え、ええ。」

やっぱりイグニスさんは照れ屋なのでしょうか、顔が真っ赤です。そんなことを思っていると、どうやらご主人たちの
立ち話も終わったようです。
「じゃあアオイさん、これで失礼しますね~。」
「はいどうも~、・・・待たせてごめんねリーフィア。帰ろっか。」
「みゃぁ。」

「あ、あのリーフィアさん。」
ご主人に擦り寄ろうとしたらイグニスさんに声を掛けられました。あぅ。

「なんですか?」
「えっと、リボン、似合ってますよ。」
「え・・・リボン・・・。」

自分がリボンをしていたことをすっかり忘れていた私は、エダナミさんにくっついていくイグニスさんをじっと見詰めているだけでした。

「・・・・・・。」
「・・・ん、どうしたのリーフィア、いくよ?」

その後、私はというと、度々リボンを気にしながらもとことこと、ご主人についていきました。



その夜、私はいつも通りに屋根に上って、いつも通りにご主人に呼ばれて、今の私は眠るだけなのです。
ご主人はいつも遅くまでお仕事をしていますが、今日はお休みなので私の隣で片手にお茶を、もう片方の手で私を撫でながらTVを見ています。

今日はとっても良い日でした。ご主人とお出かけして、可愛いリボンを買ってもらって
なにより、この街に来て初めての友達ができました。
その友達はとっても良い人で、助けてもらった恩人でもあり、えっと・・・ちょっぴりかっこいい人だったのです。
不思議なことにどことなく、あの人に雰囲気が似ていた気もしました。
色んなことを思っていると隣から、ご主人の大きな欠伸が聞こえてきました。
そんなご主人の視線の先のTVではポケモン用のボディーソープのCMが流れています。そこには私より全然綺麗なリーフィアがいますね。
あれを使えば、私もあんなふうに美しくなれるのでしょうか・・・。そんなはずないですよね。

あ・・・、そういえば今日のデパートの駐車場での、おかしな赤い棒を思い出しました。
この前やってた映画の中で、鬼のような顔の人が持っていたような。それで斬り合いをするのです・・・とてもおっかないのです。
確か同じ物でしたよね?違うかな・・・
「さ~て、もう寝ようか。リーフィアも眠いよね。」

私はご主人に大きく頷きます。そう言われると余計に眠くなってくるものです。
ご主人はTVの電源と部屋の灯りを消し、横になりながら私を抱き込みました。
ご主人の胸の中はとてもあったかいのです。私もご主人に擦り寄りると、それに答えてくれ今度は優しく私の背中をなでてくれます。
明日からまたご主人は夜遅くまでお仕事ですから、こうやって夜遅くまで一緒にいれる時間がなくなってしまうので・・・
今日は、ご主人のベッドで一緒に寝たいので・・・す。
「ふふ、相変わらずちっちゃな欠伸ね、おやすみリーフィア。」

おやすみなさい・・・なのです。



次の朝、いつもと変わらない朝を、いつもと変わらない様子で起きる。
そして最初に耳にするのは私を呼ぶご主人の声。
「リーフィア、ご飯よー」

そんな毎日を私は過ごしています。こんな生活ができるのも恵まれたポケモンだからですよね。
それはもちろん、偉い人とかお金持ちに飼われているお嬢様ポケモンなどはもっと恵まれていると思いますが
私の生活と比べても、あまり羨ましいとは思いませんね。
「リーフィアー?」

ご主人に大きな返事をしつつ、ベッドから飛び降りました。
そして階段を駆下っていきご主人の元まで行くと、そこにはいつものテーブルの下に私の朝食が置かれていました。どうやらご主人はお仕事に行ったようですね。では、いただきますなのです。

そのとき、お店の方から《カランカラン》とまたまた出入り口の戸の開いた音が響いてきました。



途中保存です。更新が長引いてしまったことを深くお詫び申し上げます。
作者が鬱状態に限りなく近いです。





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Last-modified: 2012-01-08 (日) 00:00:00
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