この作品は育て屋さんの裏稼業の続編です。
前作同様、端々にアウチな表現が含まれますのでご注意ください。
店主イブキより
「いらっしゃいませ! イブキの育て屋へようこそ! 申し訳ありませんが近々改装工事を行いますのでご了承ください」
受付に立つアンナはいつもとは少し違う受け答えをしていた。
改装工事、そのことに関する一言はアンナだけではなく、ゼロやイブキも行なっていた。
少しばかり時を遡る。
◇
以前*1の日から数日、この日もいつものように育て屋は営業していた。
「ありがとうございました。午前の受付は終了いたします。午後の受付にお越し下さい」
その日の午前の営業も終わり、アンナが丁寧に断っていた。
そのままアンナは誰もいなくなった受付や入り口などを丁寧に掃除し、午後からの営業に備えていた。
それが終われば一度部屋に戻ってゆっくりくつろぐ。
大体アンナの休憩時間はこんなものだ。
だが、今日はまだ掃き掃除をしている間にイブキがひょっこりと受付に顔を出した。
「アンナ、後で話があるから部屋に行っておいてくれないか?」
何気ないイブキの一言だったのだが、アンナからすれば心臓が飛び出しそうになるほどの衝撃だった。
逸る気持ちを抑えながら
「は……話ってなんでしょうか?」
必死に期待を込めた言葉を送ったが
「あぁ。大した事じゃないよ。他のみんなにも言わないといけないから先に待っといてくれ」
そんな言葉で淡い希望は砕かれた。
そのままイブキはすぐに何処かへ行ってしまった。
あれから*2というもの、特に何かしろの変化があったわけではなく、寧ろ何事もなかったかのように日常が流れていた。
アンナとしては一世一代の賭けに勝ったようなそんな気持ちだったのだが……。
「イブキのバカ……」
そんな言葉が自然と漏れるようなぞんざいな扱いを受けている。
そう言っても過言ではないだろう。
イブキからすればひと時の気の迷いだったと思っているのだが、アンナからすれば恋人になれたと思っていたからだ。
そんなやりきれない気持ちが溢れて今にも泣きそうな表情のまま掃除をしていた。
◇
「はい! ビューティー!!」
「ブレねぇな……。ホムラ、部屋に先に戻っててくれないか? みんなに話すことがあるから」
今日も変わりなく、不思議な掛け声と共にストレッチなのかヨガなのか分からない動きをしているホムラたちに声を掛けた。
彼女が元々キュウコンであるためなのかは知らないが、全体的に柔らかな体の動きが多い。
彼女もイブキの存在に気付き、ようやく休憩を入れる。
大体みんなに共通していることだが、イブキが見回りにやってくることを指標にしている節がある。
もしもイブキが見回りに来なかったら一体どうなっているのか不思議でたまらないが、イブキの性格上それはない。
そのままリンの所、リューの所も周り、二人にも声を掛け、部屋に戻るように言っておいた。
『さてと……あとはリョクを見つければ終わりだな』
そう思ったものの、これが一番難しい。
リョクは基本的に一箇所にとどまらないので探し回る必要がある。
残りのゼロは恐らく部屋に戻っている。
ユキはいつものように情報をまとめているので彼女が一番移動していないだろう。
そのためひとまず広大な敷地のど真ん中にやってきた。
吹き抜ける風によって草がさざめき、これ以上ないほどの心地よさを与えてくれる。
この土地も実を言うとイブキが買い取った土地ではなかった。
当たり前だ。
広大な土地を買うことができるようなお金の余裕があるトレーナーなどこの世には存在しないだろう。
ならば彼はどうやって土地を手に入れたのか。
勝手に使っているのであればなにかしろの問題が発生する。
その答えは簡単。
ここは頂き物なのだ。
勿論、悪い意味ではない。
ここは以前、老夫婦が経営していた育て屋だった。
山から降りてきたイブキは最初に目にとまったその育て屋に休憩目的でふらりと立ち寄ったのだった。
そこでポケモンと楽しそうに会話していたイブキを見て育て屋夫婦は声を掛けたそうだ。
「ここで働いてみないか?」と……。
のちのち分かるのだが、既に老夫婦は歳で店を畳もうかとしていたそうだ。
そんな所にやってきた、ポケモンが好きそうな青年を見つけ彼が望むのなら継いでもらいたいと思ったと。
その日からイブキは必死に育て屋の仕事を覚えていった。
ポケモンごとに異なる世話のしかたや餌の与え方。
さらに育て屋が利用される最大の理由であるポケモン同士のいい繁殖環境などを整えることも覚えた。
そんなイブキの頑張りがあってかものの数ヶ月で基本的なことは全て覚えることができた。
彼が一人前になったのを見て、老夫婦はそのまま引退を決意。
そうしてその育て屋はイブキが継ぐこととなった。
既にイブキが育て屋を自分で経営しだして数年が経つ。
そのため彼も様々なことに慣れ、彼なりの独自の経営スタイルを確立していったのだ。
今では人が人を噂が噂を呼び、彼の育て屋はとても有名な育て屋となっていた。
「お、みんな集まってたか」
部屋に戻ると既に全員集まっており、イブキのそんな言葉に対し、みんなの文句が飛び出すほどだった。
自分が集まるように言っておいたのだ。
文句を言われても仕方がない。
「ところでイブキさん。話って何ですか?」
アンナが早速、イブキにそう質問した。
するとイブキは
「あーいや。そんな大事なことでもないんだけどな……」
そんな風にもったいぶって話してみせた。
しかしみんな気付いている。
イブキが本当にどうせもいいことで全員を呼んだりはしないだろうと。
「実はポケモンが増え過ぎて財政が圧迫されだしただけだ」
「増え過ぎたって……どのくらい? 5、60?」
ホムラが質問すると
「256匹」
「圧迫されだしただけ……? それで済まされるような状況じゃないだろ!」
イブキの言葉にゼロが鋭く突っ込んだ。
有名になることはとてもいいことだが、それによって一つ、弊害が生まれた。
予想以上にトレーナーが利用しに来るようになってしまったのだ。
そうなればいずれは育て屋のキャパシティを超える。
それが遅かれ早かれ訪れたということだ。
「分かってる分かってる! だからお前らを呼んだんだよ」
そう言い、怒り気味のゼロを宥めながら全員にそう言った。
とはいえこのままでは現状と彼らを呼んだ意味とが噛み合わない。
「どう言う意味なのかしら?」
間に割って入るようにリンが質問した。
待ってましたと言わんばかりにイブキは
「育て屋自体にはまだ使ってない土地がかなり余ってる。だからお前らの意見で新事業でも始めてみようかと思ってるんだよ」
そう提案した。
「それじゃ何の解決にもならないだろ……」
呆れた様子でリョクがそう言ったが
「いやいや、今の育て屋本体も強化するし、働いてない奴らにも働いてもらう。そう言った意味でもお前たちポケモン側の視点からこういうサービスが欲しいっていうのを提案して欲しいんだよ」
イブキが追加でそう補足した。
簡単な話、収入が増えればポケモンが増えても問題ないということだ。
というよりも実はイブキが行っている様々な裏稼業がなければ既に破産している。
とはいえイブキの性格上ポケモンを追い出すことはしたくないのだ。
彼にとってみればこの育て屋にいるポケモンは全て彼の家族なのだから。
「まあ、とりあえず、一人ずつ意見を出してみてくれ」
イブキがそう言うとやはり皆悩みだした。
急に意見を出してくれと言われて出てくるものではない。
およそ五分ほど経っただろうか。
そこでイブキは全員にとりあえず意見を言ってもらった。
「そうですね……私はポケモンとトレーナーが一緒に泊まれる宿泊施設なんかがいいと思います」
まずはアンナの意見。
彼女の意見はとても的を得ていた。
最近、トレーナーが増えたため、ポケモンと泊まれる宿泊施設はかなり増えてきているが、育て屋であればそのポケモンが自由に遊びまわっても文句を言う人はいない。
普通の宿泊施設ではポケモンが暴れまわるのは御法度だ。
周りの客の中にはポケモンが苦手な人や仕事に集中したい人、そういった様々な人間も泊まりに来るからだ。
その点、育て屋であれば通常はポケモンは泊まる施設。
そこに人が一緒に泊まれるのであれば、ポケモン嫌いな人は泊まりに来ることはまずないだろう。
「ポケモン用のヘルスでも作ったらどう? 今度は裏じゃなくて表にして盛大に」
これはリンの碌でもない意見。
と言いたいところだが、今は藁でもすがりたい状態だ。
ポケモンのヘルス……つまり性欲処理は裏稼業で行っていた時もかなり有効だった。
値段がかなり張っていたのにも関わらず、日に多くの客が利用していた。
つまりそれだけのニーズがあったが、それを知らない人がかなり多かったということだ。
「しかしなぁ……。確かにそれならうちのポケモンもかなり働けるけど……。やっぱりなぁ……」
イブキとしては本人の意思がないのに無理矢理そういうことをさせるのは気が引ける。
それは裏稼業全体でも言えること。
イブキは今まで入ってきた沢山の依頼の大体2~3割はポケモンの意志を尊重し、キャンセルしてきている。
「そこの点については大丈夫よ。オスもメスもここのポケモンだけでも欲求不満になってる仔がいっぱいいるから。きちんと本人に確認して働いてもらうわよ」
イブキの不安を全て解決してくれたが、これでは既に建てることが決まっているような言い方だ。
「私はできれば美容施設が欲しいわ。ポケモンだって綺麗になりたい仔はいっぱいいるのよ?」
次はホムラの意見。
彼女らしい分かり易い意見だ。
イブキはホムラのことを一度たりともコンテストに出場させたことはない。
だが、彼女は天性なのか自らの美しさを磨き上げることに力を入れていた。
恐らく、そう言ったポケモンは少なくはないだろう。
それにコンテストを目指しているブリーダーがいれば間違いなく利用してくれるだろうし、この施設は確実に客を寄せるだろう。
「それなら美容だけじゃなくて大型のジムみたいにするぞ。そうすれば他のコンテストに出場するようなポケモンも寄ってくるしな」
そうイブキが提案すると、ホムラは快く承諾した。
「私は……新しいトレーナーとの出会いの場を設けた方がいいと思います」
ユキの意見。
確かに彼女が言っていることは正しい。
だが、イブキはそれが一番嫌だった。
もしそのトレーナーにまたひどい扱いを受けたら。
もしそのポケモンが物のように捨てられたら。
そう考えるとイブキは自分が守ってきたポケモンを他の人に譲りたくなくなっていた。
「却下だ」
「勿論、ポケモンとトレーナーの意志が一致したらです。ポケモンだって馬鹿じゃないですし、トレーナーもイブキさんが説得してくれるでしょう?」
イブキの否定を無視してユキは説明を続けた。
だが依然としてイブキは顔を顰めていた。
「ならそのトレーナーがその時だけ嘘を付いていたら? この世に笑って人を黙せるような人間がどれだけいると思ってる!」
「ならポケモン達の意志はどうなるんですか! 広い世界を見て回りたいって言ってる仔も沢山いるんです!」
お互いに一歩も引かない。
いや、イブキは引きたくないだけだ。
本当は知っていた。
育て屋で生まれて、ここしか知らないポケモン達が広い世界を見て回りたいと言っているのを……。
新しいトレーナーとの出会いが欲しいということを……。
彼らも……人間が好きな事を……。
「だったら勝手にしろ。俺はそれに関しては関与しないから」
結局、イブキはこの言葉を最後にこの議題については論争するのをやめた。
ユキもそれでひとまず納得したようだ。
「俺はひとまず、人員を増やした方がいいと思う。このままじゃ俺とイブキとアンナ意外がカウンターに出られないからな」
「それも却下だ」
ここでイブキは一蹴した。
イブキは寧ろ人嫌いになっているのかもしれない。
だが、
「勿論分かってる。呼ぶのは俺が知ってるゾロアーク達だ。それなら文句無いだろう?」
ゼロがそう言うとイブキはそれでも結局、なくなく首を縦に振った。
ユキだけならまだしも、ゼロの意見にさえこれほどの反発を見せるのは流石におかしい。
だが、今それを聞くことも問いただすこともできないだろう。
「俺も同じかなー。そろそろ従業員増やさないと俺の身が持たない」
賛同するようにリョクの意見。
これに関しては議論する必要もない。
単に従業員を増やすだけの問題だ。
「僕はお昼寝できる所が欲しいなー」
リューの意見はすごく分かり易いが……。
「えーっと……リュー。別にお前がしたいことをいうわけじゃないからな?」
「え? そうなの?」
一応聞き直したが、案の定リューは自分の願望を言っていただけだった。
残念ながらこれは却下になるだろう。
単に昼寝だけしたいポケモンというのは彼のようなおっとりしたポケモンだけだ。
というよりもどうすればいいのか分からない。
「ま、まあ……とりあえず全員の意見を参考にさせてもらうよ。一つずつ施設を増やしていこう」
そう言い、今日の昼は終わっていった。
そのまま残りの時間をみんなで休憩し、一応のどんな施設が必要かや、どんなサービスが必要かなどを思い思いに話していた。
「いらっしゃいませ! ……」
また午後にはあっという間に忙しくなり、イブキもアンナたちも他の事を考えている暇はなくなるほどだった。
いつもの事ではあるが、新たな事業を展開しないとそろそろこの育て屋の経営も危うい状況なのでどちらのことも考えたくて仕方がなかったイブキだったが
「イブキさーん! ちょっと聞いてます?」
「え? ああ、すみません! タマゴでしたっけ?」
仕事にも集中しきれず、いい考えもまとまらないというあまりよろしくない状況が続いていた。
そのためイブキは一旦考えるのをやめたが
「イブキさん疲れてるんじゃないの?」
お客さんであるトレーナーにクスクスと笑われてしまった。
その後からは何とかいつも通りの仕事はできたが、それでも数人の人には迷惑を掛けてしまっただろう。
漸くその日一日の営業も終わり、全員がやっと何も考えずに休むことができる時間が訪れていた。
が、今回のイブキの一言があったためか終わった後、全員部屋に集合し、何かを話し合っているようだった。
イブキの方は寧ろこれからが一番の仕事だろう。またいつものように納屋を周ってビデオを撮りに行かなければならない。
『流石に……これもそろそろ潮時かな? やっぱり一応盗撮になるし、続けるにしてもやっぱり許可を取るか』
なんだかんだこのポケモン同士の交尾動画も数年ほど撮り続けていたが、元々の性格も相まって罪悪感を感じていた。
それに、イブキ以外の人間も自分のポケモン同士の交尾の動画をネット上に上げるようになり、さらには自分のポケモンと交わる強者まで現れてしまった。
更に言えば彼らはほぼ無料でその動画を公開。これでは多少質が悪かろうとイブキの動画の方へ流れてくる者が若干少なくなってきていた。
主な収入源だったこの仕事も既に秘密裏にやっていてどうにかなるほど効率が良くなくなっていたのも今回のイブキがこう思い立ったことに繋がる切欠になったことでもある。
そうしていつも通り撮影を終え、イブキも漸く部屋へと帰っていった。
「ただいまー。……ってあれ?ゾロアークが多くないか?」
イブキが部屋に戻るといつものメンバーに加え、アンナとゼロ以外のゾロアークが両手で数え切れないほど集まっていた。
イブキは大体この育て屋に居るポケモンは全て名前や容姿を覚えている。
そのためそこに集まったゾロアークの中には知っている顔以外がいたのがイブキにとっては更に不思議だった。
「ああ。とりあえずアンナが育て屋内のゾロアークを集めてくれたんだ。俺は野良やってた時の知り合いを集めた。とりあえずこれだけいればすぐに教え始めれば店員が増やせるだろ?」
そう言われイブキも漸く状況が理解できた。きょろきょろと周りを見回していたりするゾロアーク達は人の居る環境すら新鮮なのだろう。
「まあここに来てくれてる時点で聞く必要はないだろうけど、いいのか?仕事を頼んでも」
皆が頷いたのを確認し、イブキはにっこりと笑って喋り始めた。
「まあ、知ってる奴もいるとは思うが、俺がイブキだ。教えてくれるのはこっちのアンナとゼロになるけどな。それと……」
そのまま喋り続けていたイブキは急に倒れこんだ。いや、彼に襲い掛かる黒い影があった。
それは連れてきたゾロアークの中の一人、そいつがイブキの喉元に喰らい付き、イブキの上に馬乗りになっていた。
「てめぇ!!」
その中の誰かが動くよりも早く、ゼロがそのゾロアークを殴り飛ばしていた。
急なことで何が起きたのか分からずにただ呆然とする者、慌てふためく者、そんな中でアンナはすぐにイブキの元へ駆け寄り、ゼロはそのままそのゾロアークを押さえ付けていた。
「イブキさん!! しっかりして!!」
喉元からは鮮血が止めどなく溢れ、イブキが危ない状態なのは誰がどう見てもはっきりと分かる状態だった。
「落ち着いてアンナ! リョク! ポケモンセンターまでイブキを急いで連れて行って!」
慌ててはいたが、この状況を処理できていたユキは冷静にみんなに指示を出していた。
◇
「ご退院、おめでとうございます。これからは気をつけてくださいね?」
その日から2週間後、そこには一応元気な姿のイブキがいた。
ユキの冷静な判断とリョクのおかげでなんとかイブキは一命を取り留めることができた。
が、当たり前ではあるがイブキがポケモンセンターで療養を受けている間は育て屋の方は臨時休業になっていた。
アンナやゼロが育て屋にはいたが、アンナは放心状態だったため店を営業できる状態ではなかった。
状況が状況だったためイブキも一人退院し、育て屋への帰路を帰っていった。
「ただいまー。悪いな心配掛けて……って……どぅわ!?」
イブキが自分の家でもある育て屋へ戻ってきてドアを開けると殆ど同時にみんなが飛び掛ってきた。
「イ゛フ゛キ゛さ゛ん゛ーー!!」
殆どみんな目を泣き腫らしており、イブキの無事が心の底から嬉しかったのだろう。我先にとイブキに抱きつき、思いをぶちまけていた。
感情が昂ぶり過ぎてなんと言ってるのかよく分からなかったが、それでもイブキの無事を喜んでくれているその気持ちだけをイブキはそっと受け取っていた。
イブキが戻ってくると同時に育て屋にはいつもの雰囲気が戻っていた。
聞いたところによるとイブキがいない間、育て屋は火が消えたように静かだったそうだ。
それもそうなるだろう。彼らは全員イブキと共に生活していたのだ。
言ってしまえば心の拠り所。そんな人が死んでしまうかもしれないなんてなってしまえば誰でも抜け殻のようになるだろう。
そのため今日は珍しく育て屋に居るポケモンたちが全てイブキの元へ集まっていた。
イブキのメインメンバーである7匹を除き、他のポケモンたちは大体育て屋でイブキから依頼されない限りは自由に生活している。
イブキに感謝していないわけではないが、自由に暮らせるためにそのままのんびりと過ごしている者が多いのだ。
そんな者たちも今回の騒ぎは聞いているのでみな心配してイブキの無事の到着を一目見たかったのだ。
そうやってみんな一言二言喜びの言葉を掛けて帰っていった。
とはいっても256匹も居るのだ。帰ってきてみんなに挨拶をしていればあっという間に昼を過ぎてしまった。
「おーいゼロ」
漸く全員との会話を終えて、自由になったイブキは一息入れてからゼロに声を掛けていた。
「どうした?」
「あの時、俺に噛み付いてきたゾロアークは今何処に居るか分かるか?」
イブキがそう質問した時点でゼロはあからさまに嫌そうな顔をした。
「イブキ! お前まさかあいつとまた会うなんて言い出さないだろうな!?」
「言い出すに決まってるだろ。俺からすりゃあいつも放ってはおけないんだよ」
平然とそう言い切ったイブキにゼロは流石に呆れていたが、それでもイブキは会わせて欲しいとお願いした。
当たり前だがあの後、ゼロはイブキに喰らい付いたあのゾロアークを追い出していた。
本来ならばゼロはそいつを殺したいほど憎かったが、それをすればイブキが必ず悲しい顔をするのが分かっていたためそれができなかった。
そんな相手を例えイブキが呼んで欲しいと言っても呼びたくないのが本心だ。
「呼んでどうする気だ? 働いてくれって頭下げるつもりか? それともまだ償いたいとか思ってんのか!?」
「落ち着けゼロ。そんなつもりで俺が呼ぶはずないってお前ももう分かってるだろ?」
イブキの落ち着いた口調とその言葉を聞いて落ち着いたのか、ゼロは深くため息を吐いた後
「分かってても嫌なんだよ。多分、近くに入ると思うから呼んでくるが……無茶だけはしないでくれよ?」
そう言って部屋を後にした。
ゼロがそう言って出ていく時のイブキの顔は何故か優しく、微笑んでいるようにも見えた。
それからさほど時間も経たない内に、ゼロは例のゾロアークを連れて戻ってきた。
ゼロの言った通りすぐ近くにいたようだ。
「じゃ、分かってると思うけど俺とこいつ二人きりにさせてくれ」
「やっぱりかよ……。もう俺は何があっても知らないからな!」
そんなやり取りをしてゼロは部屋を出て行った。
今部屋に居るのはイブキと喉元を噛み切ろうとしたそのゾロアークのみ。
普通に考えれば最悪の状況だがイブキは至っていつも通りだった。
「さてと……まあ、もう分かってると思うが俺がイブキだ。お前も名前とかあるんだろ? 話しにくいし教えてくれ」
イブキの問いかけに対してそのゾロアークは眉一つ動かさずにただイブキを睨み付けていた。
出会ってまず最初に殺そうとしてきたのだ。確実にイブキに対して相当な恨みのある相手だというのは考えなくても分かる。
「話せないわけじゃないだろうし……ただ俺と話したくないだけなんだろ? そうだとしても俺は話しかけるけどな」
笑いながらそういうイブキに対してそのゾロアークは嘲笑して見せた。
「名前なんか無いのぐらいお前なら知ってるだろう? いや、それすらも忘れて今までのうのうと生きてきた筈だ」
そのゾロアークの初めて口にした言葉は、そんな皮肉混じりの言葉だった。
だがイブキは微笑んだまま一度目を閉じ、深呼吸をした後
「確かにな。それと今ので確信した。彼女の……アンナが入る前のパーティーメンバーだったゾロアークだろ?」
イブキが確認するようにそう聞くと、またそのゾロアークは軽く鼻で笑って見せた。
「お前に分かるか? イブキ。信じていたお前に捨てられて、生まれた子供の顔すら見せてもらえなかった俺のこの怒りを! 恨みを!!」
言うが早いか、そのゾロアークはイブキの頬をかすめるようにその鋭い爪を振り抜いていた。
頬からは新たに出来た傷からスゥと赤い線が伝ったが、イブキはそんな危機的な状況に陥っても神妙な表情をしただけだった。
「なら、殺せばいい。簡単な事だ。ただし、お前が本当に望んでいるならな」
顔色一つ変えずにイブキはそう淡々と喋った。
ゾロアークの顔にはまさに怒りの感情が浮き彫りになったかのような剥き出しの牙がギラギラと輝いていた。
「俺がお前を殺す事を望んでないとか思ってるのか? 俺は今日という日が来るのが狂いそうになるほど待ち遠しかったんだぞ?」
「なら何故、最初に喰らいついた時点で殺さなかった? 人間はお前らみたいに頑丈にはできてない。手加減でもしない限りはお前らの本気の噛み付きなんてもらえば首が胴とサヨナラする羽目になるぞ?」
イブキのその質問は的確だったのか、ゾロアークはその言葉に対して何も言い返さなかった。
ただ沈黙の時が流れ、長い睨み合いだけが続いていた。
「その眼が……むかつくんだよ……」
そんな重苦しい空気を先に崩したのはゾロアークの方だった。
それだけ言うとゾロアークはイブキに背を向けて部屋から出ようとした。
しかしイブキは何も言わずにただにっこりと微笑むだけだった。
「イブキ、お前の事は認めたわけじゃない。今は……な」
そう言い、扉を開けて出て行こうとした時
「ちょっと待った。名前はどうする?」
そう声を掛けた。
少しの間の後、そのゾロアークは振り返り、少しだけ笑みを見せながら
「リヴェンだ。忘れるなよ?」
そう言い彼、リヴェンは出て行った。
◇
「おい、イブキに何もしてないだろうな?」
出てきたリヴェンにすぐ傍にいたゼロが声を掛けていた。
「フッ……。少しちょっかいを出したぐらいだ」
軽く鼻で笑い、リヴェンはそう言うとそのまま何処かへと歩いて行こうとしていたが
「ありがとうな。今のイブキを認めてくれて」
そうゼロに声を掛けられ、歩みを止めた。
「なんでだろうな……。イブキとアンナ……だったか? あいつらの馬鹿みたいに眩しい笑顔を見てたらな、俺も変わっていかないと……と思っただけだ」
その後、彼らの間に会話はなかった。
しかし、何か彼らの中で理解しあえたものがあったのか、彼らは微笑みを浮かべていた。
「イブキ……さん……」
部屋で漸くゆっくりしていたイブキの元に今度はアンナがやってきた。
やってきた、というよりは戻ってきたの方が正しいのだろう。本来この部屋はイブキを含め彼と最も親密な関係にあるポケモンたちが寝泊まりしている部屋だからだ。
そのためイブキも入ってきたアンナにどうした? とだけ声を掛けて彼の日課であるその日一日の日記と彼の中にある様々なアイデアを忘れぬうちに書き留める作業をしていた。
振り返りすらせずに口から出たその言葉にアンナは心底嫌気がさしていた。
しかし、それはイブキの態度に対するものではなく、自分自身にだった。
イブキは殆どいつもと変わりのない態度、しかしアンナ自身はそんないつもと変わらないイブキの態度にもまるで自分がイブキにとってどうでもいい存在なのではないのだろうか? そう思ってしまう。
自分でも分かっていたがそれでもこの気持ちを変えることも隠す事もできなかった。
アンナは間違いなくイブキに恋をしていた。
以前、超えてはいけない主従の関係を超えてしまったのも自分の抑えられない恋の衝動からくるものだ。
イブキは常に対等な存在だと言い続けてくれる。それは物心がついた頃からイブキと終始を共にしていた、ポケモントレーナーとそのポケモンという柵さえもなくしてくれるこの上ない言葉だった。
あまりにも近すぎて長く気が付かなかったアンナのその気持ちはイブキがトレーナーをやめてしまった時から少しずつ成長していた。
そのため言いたくても言えなかった。『私だけを見て欲しい』なんてことを。
アンナにとって大切な人はイブキ一人しかいないが、イブキにとって大切な人はアンナを含め、彼の周りにいる全てのポケモンたちだ。
そこにあるのは与えるだけの家族愛と、独り占めにしてしまいたいと思う恋愛感情の温度差だった。
イブキの皆に与える平等な愛すら歯痒くて仕方がなかった。
もっと自分だけを……そんな思いは日に日に増していくが言い出せば今の彼を取り巻く全ての環境が変わってしまうことなどアンナにも分かっていた。
優しいイブキだからこそ全員との時間かアンナの本心かどちらも選べずに悩んでしまうだろう。
そうなるのを避けるためにそうなってしまっても構わないと思っていたはずの自分の本心を隠し続けていた。
しかし、今回のこの事件でアンナの中にあった感情はもう止めようのないものになっていた。
気が付けばアンナは困惑するイブキを目から大粒の涙を流しながらしっかりと抱きしめていた。
死んで欲しくない。イブキのいない世界なんて考えられなかった。
例え今の関係、大事な他の仲間たちを敵に回したとしてもこの気持ちだけは伝えたかった。
「本当に……本当に心配したんだから!! だから……イブキ……一つだけ言わせて……」
アンナがずっと心に秘めていた想いをただ静かに話し出すまで待ってくれているイブキにたった一言。
私だけを愛して。そう言いたかった。でも無頓着なイブキでは気付いてくれないだろう。
だから少しだけ考えてからアンナは耳元でゆっくりと言った。
「私をイブキの奥さんにして。死ぬまで私だけはイブキの傍に居させて」
夜の静寂だけが二人を包み、静かな時間を生み出していた。
普段ならイブキも様々な反応を見せてくれるのだが、この時だけはただ静かにアンナの素直な本心を受け止めてくれた。
作業を止めてアンナの方へ向き直し、今度はイブキからしっかりとアンナを抱きしめて
「いいのか? 俺なんかで。今までさんざん迷惑かけてきたし、心配もさせてきた。そして多分、これからも変わらない。
自分でも馬鹿なんじゃないかって思えるぐらい俺はお人好しだ。
それは多分、今までしてきた俺の罪への贖罪のためだとみんなは言うかもしれないけど、違うんだ。俺自身お前達のことが大好きだし大事だ。
だから二度と同じ思いをしてもらいたくない。俺が変われたようにそんなポケモン達にも狭い世界しか、裏切りや悲しみしか知らない世界で死んで欲しくない。
だから……この先もリヴェンのような奴が来ても俺は真っ向からそいつの全てを受け止めるだろう。
アンナを常に傍に居させることはできるけど、常に構ってはやれない。それでも本当にいいか?
この先、お前の事を愛してくれるポケモンが現れるかもしれないぞ?」
アンナが素直に自分の気持ちを話した分、イブキも胸の内にある自分の思いを全て話した。
それは心配性の言葉とは違い、明らかに母の、家族の愛に近いものだった。
しかし、それでもイブキはその全てを受け止めたからこそアンナに選んでもらいたかったんだろう。
「馬鹿ね……。私はイブキのそんなところも全部ひっくるめて好きなのに。こんなことならもっと早く言っておけばよかった」
答えは決まっていた。
抱き合った二人は少しだけその腕を解き、ゆっくりと唇を重ねた。
そのままイブキとアンナは自然に舌を絡めていた。
その行為に抵抗があるはずがなく、ゆっくりじっくりと二人の愛を確かめあっていた。
数十秒ほどそのディープキスをしたあと、ゆっくりと唇も離し、今度はお互いの目をしっかりと見つめて
「で、アンナ。どうせシたいんだろ?」
イブキがそう聞くと、もちろん! とアンナは嬉しそうに答えた。
もうちょっと恥じらいとかそういう倫理観を言いたいところだが、いかんせんそこはポケモンと人間で違う部分があるので言ってもあまり意味がないだろう。
それとイブキとしては以前の経験があるので体力的に勝っている彼女たちとの行為は次の日も仕事がある時は控えたかった。
少しの間イブキは頭を抱えて悩み、悩み抜いた結果、一度だけでいいなら。という答えを出した。
前にも話した通り、彼、彼女等ポケモンは人間に比べてとても野性的で逞しく、情熱的で感情もとても豊かだ。
ポケモンと人間とでは言葉が通じないため分からない部分が沢山あるが、その言葉が分かればポケモンと人間の差などほとんど無いに等しいものだ。
しかし、ポケモンたちは人間に比べてとても強靭な肉体を持ち、性欲もかなり強い。
恐らく一回では満足はしてくれないだろう。そう思って半ば諦めでそう提案したが、アンナは快く受け入れてくれた。
愛があるならそれでいい。と……。
◇
みんなが眠るために用意された沢山のベッドは寮やキャンプ場を思わせる。そんな中の一番端のベッドにアンナとイブキは居た。
本来今二人が座っているベッドはイブキがいつも使っているベッドだ。だが、今だけはそのシングルベッドに、イブキとアンナの二人が濃厚に舌を絡め合わせながらゆっくりとベッドに倒れこんでいった。
今までと同じならイブキが下で主導権はアンナにあっただろうが、今だけはアンナがイブキのペースに乗せられていた。
イブキから積極的に舌を絡ませ、アンナの胸を優しく揉んでゆく。いつものイブキならそんな事をしそうにないのでアンナは余計恥ずかしくなっていた。
というのも基本的にイブキは何事もアンナや他のポケモンたちに判断を委ねているのでイブキが色々な事に対して自分から積極的に行動を行う事は最近では滅多になかった。
以前も殆ど好きにすれば良いという投げっぱなしだったのに対し、今回のイブキはアンナの恥ずかしさから来るあまり力の篭っていない拒否を今だ胸を揉むイブキの腕に掛けたが、一向に止める気配がなかった。
ポケモン同士での行為は互いの愛情を確かめ合い、種を残すことが目的であるため直結すること以外での嗜みは少ない。
そのため胸を揉まれた経験などないアンナにとってみればただのこそばゆい行為でしかなかったが、いかんせんその相手がイブキということもありそういう知識のないアンナでも自然と興奮していた。『一種の愛情表現なのだろう』と捉えればそういうものになる。
事実、愛情表現の一つではあるがポケモンとは違い、人間は夜の営みを永く、お互いに楽しめるように尽くす。そのために行う試行錯誤は恐らく天下一品だろう。
ある程度、アンナが胸を揉まれて恥らいながらも少しずつ感じ出したのにアンナ本人は気が付いていなくてもイブキは気が付いていた。
胸を優しく揉みしだいていたイブキの腕はスルリと胸を離れ、左手を長く柔らかな髪にもよく似た毛の裏、アンナの頭の後ろへと回し、右手はアンナの大事な所へと伸ばしていった。
明らかにイブキが挿れてきたのとは違う感覚を感じ、一瞬アンナは体をこわばらせたが、痛みはなく、寧ろ若干の痺れにも似た快感が訪れ、今度は違う意味で体をこわばらせていた。
甘い声を漏らしたくなるが、残念なことに口はイブキによって封じられていた。
ここまで積極的なイブキはアンナの経験上、一度もなかったので*3次第に彼女も興奮し始め、息遣いも明らかに荒くなっていた。
それでもイブキはお構いなしに舌を絡めるが、アンナがそれほど興奮して息が荒くなっているのにイブキがそうなっていないわけがない。同じく息は苦しいはずだがそれよりもアンナと交わる時間の方が大事だった。
陰部の方にも初めてそういった前戯というものを体験しているアンナのために、イブキは気を遣ってとてもゆっくりと刺激を与えていた。
ねっとりと絡みつくようなキスを漸く終えるとアンナは荒い息のまま酷く恥ずかしそうな顔で
「もう! さっきから私に何してるんですか!」
そう言ったが、イブキはいつもとは違う調子で少し息を整えた後、嫌に意地悪な笑顔と二人のディープキス同様にねっとりとアンナの愛液の絡まった指を見せながら
「何って……アンナのためにナニしてあげてるんだよ」
と答えた。
指を入れられていたとは想像していなかったらしく、アンナは驚いた後顔を真っ赤にして必死に顔を隠していた。
「ご、ごめん! 痛くするつもりはなかったんだけど……」
恥ずかしさで顔からフレアドライブでも繰り出せそうなほど熱くなったことを隠したいために両手で覆っていたのだが、イブキは自分の行為が原因で泣いているものだと勘違いしたようだった。
アンナは顔を必死に左右に振ってそういう意味ではないことをイブキに伝えたら、イブキはホッとした表情を見せた。
心配するぐらいならそんなことしなければいいのに。とアンナは顔を両手で覆ったまま怒ったが、イブキとしてはそうはいかなかった。
今回、流れでアンナと寝るわけではなく、彼女の真摯な意思に自分自身が答えたいと思ったから現在に至っているのだ。恐らく。彼女にも積もり積もって抑えきれなくなった感情から今回ついに言いだしたのだろうから、アンナの素直な気持ちにイブキも自分が今まで『伝えようかどうか悩んでいた気持ち』を素直に伝えようと思ったのだった。
ならば何故、イブキは一切喋らず行為を続けているのかというと、それはいわば彼なりの最大限の愛情だからだ。
実の所、イブキも自分の中にあるアンナへの小さな恋心には薄々気が付いていた。
しかし、それを素直に言い出すには人間とポケモンという垣根を置いておいても、トレーナーとそのポケモンという家族にも等しい存在であるアンナに思いを伝えるわけには行かなくなっていた。
時が経てば自分の思い過ごしだっただろう。と答えを出せる。そういう思いから悶々とした日々を意識しないように過ごしていた。
だが、今は状況が違う。アンナが本当の意味で家族になるのであれば、一番大事な人であるアンナにはイブキとしては全力で悦んでもらいたかった。
そんなちょっとした意地の悪い愛情表現をイブキは、アンナの無事が確認出来た時点で再開していた。
あまりにも急だったためアンナのかなり間の抜けた悲鳴が聞こえたが、恥ずかしさからすぐにその声を押し殺していた。
十分に液が溢れ、滑りの良くなった膣へと人差し指を奥までなぞるように入れ、敏感に反応した場所を徹底的に責めあげた。
そんなことをすれば普通よりも激しい快感にアンナはすぐに耐え切れなくなり、艶のある嬌声と共に体を大きく反らせて達した。
ぐったりと脱力して荒い息遣いだけを聞こえさせるアンナにイブキは先程とは違い、ニッコリと優しい笑顔を見せて、気持ちよかったかい? と聞いた。
その様子を見れば聞くまでもなかったことは一目瞭然だが、この言葉が原因でアンナの方にもスイッチが入った。
ぐったりとしていたはずのアンナはすぐにイブキに飛び掛り、あっという間に上下を逆転させた。
「もう我慢できない……。挿れてもいいよね?」
「それって普通、俺のセリフじゃない?」
結局はいつものようにイブキの上にアンナが跨がり、アンナのペースで推し進められそうになっているが、獲物を狙うただの野生のゾロアークのような鋭い眼光でイブキを艶めかしく見つめるアンナにイブキにはそんな突っ込みが精一杯だった。
有無も言わさずアンナは腰を落として、元気に勃っているイブキのモノを先程までの恥じらいはどこへやら、一気に飲み込んでいった。
一応、イブキも必死の抵抗をしたが、流石にそこはポケモン。更には相手の方が上からのしかかっている状態となれば力負けする。
漸く味わえたイブキのイチモツ。待ち望んでいた挿入感にアンナは思わず顔を惚けさせていた。
そのまま激しく腰を上下させ、アンナはひたすらに一番望んでいたイブキとの行為を全力で堪能していた。
しかし、そこでいつもよりも*4深い挿入感を感じ、そこから来る強い快感によって少しだけアンナの動きは鈍くなっていた。
それもそのはず。イブキも負けずに下からアンナを突き上げていた。
「どうしたの? 今日はとても積極的じゃない」
お互い振る腰の動きは止めずに鼻と鼻とが付きそうなほどの距離で見つめ合い、
「そりゃあアンナは俺の恋人(?)になるんだから俺だって負けてられないよ」
こんな乱れた状況でようやく二人は相思相愛であることを確信した。
そのまま上も下も濃厚に、そして激しく絡み合わせて全力の愛を育んでいた。
荒いという言葉では表せないほど激しい息遣いに呼応するようにベッドの軋む音も大きくなっていた。
ギシギシッ! と激しい音を立てるベッドの上にはその大きな音にも負けないほどに快感に蕩けた顔を覗かせたアンナが嬌声を上げていた。
「出るっ! アンナ! 出るぞ!!」
聞こえたかどうかは知らないが、そんなイブキよりも一足早くアンナは今日二度目の絶頂を迎えていた。
キュウッと閉まるアンナの膣内は今から放たれるイブキの精液の一滴さえも逃さずに中へと搾り取ろうとしているかのようにイブキのモノに絡み付き、締め上げていた。
それに応えるようにイブキのモノも脈を打ち、えもいわれぬ放出感と脱力感の中、その全ての快感をアンナの中へ流し込み、ぐったりとしたまま心地よい疲労感を二人で味わっていた。
「はぁ……どう? 気持ち良かった?」
イブキの体に抱き付いて、少しだけ頬ずりをしているアンナにそう聞くと、頬ずりとは違う大きな縦の動きが一度だけあった。
そのままイブキは子猫のように甘えるアンナの頭を優しく撫でていたが、バタン! という勢いよく扉を開ける大きな音ですぐにその余韻を楽しむ暇もなくなった。
「何よ。アンナまたあんた一人だけ抜け駆けしてたの? 私も混ぜなさい」
そんなことを言いながら入ってきたのはリン。声の調子や雰囲気などはいつもと差がなかったが、明らかに目だけは獲物を狙う目になっていた。
そんな様子のリンを見て明らかにアンナはしどろもどろになっていた。
リンから見ればどうせいつものようにアンナが我慢しきれず襲っただけのように見えるが、当の本人たちにとってはそうではない。
いつもならはっきりと喋るアンナもその一言が言えずにいた。
「悪いなリン。今日からはそういう感じじゃないんだ。……なんていうかみんなには悪いかもしれないけどアンナは俺にとって一番大事な人になったから……。そういうのは無しだ」
見かねてかイブキがアンナの言いたかったことを代弁していた。いや、それはイブキも思っていたことだろう。
リンの様子は慌てるでも驚くでもなく、まるで分かりきっていたかのような顔をしていた。そして、小さくため息を吐いた後、微笑みを浮かべて
「なーんだ。やっと言ったんだ。なら、私はお邪魔虫ね。あ、みんなにも部屋には入らないように言っておくから、それではごゆるりと」
そう言ってそのままくるりとUターンして出ていった。
思っていたものと反応が違い、一番驚いていたのはイブキだった。
今まで全員を家族同様に愛し、みんな大事にしていたが、いきなり一人だけを格別に扱うといったその行為をリンはすんなりと受け入れたからだ。
他の物がどういう反応をするのかは今はまだ分からないが、それでも一人は彼女たちの恋人同士の関係を許してくれたのだ。アンナとしてはそれだけでも嬉しかったはずだが、彼女はただ顔を赤くして背けるだけだった。
「みんなに告白したいとか言ってた感じ?」
そう聞くとアンナからの返答は一切無く、完全に撃沈していた。どうやら話していなかった上にみんなには彼女の気持ちがバレていたようだ。
「ま、明日みんなに話そう。もう今日は寝るぞ? 明日も早いし」
ポフッとアンナの後ろ髪に手を置き、ワシャワシャと犬でも撫でるように撫でながらそう言い、アンナを離そうとしたが、アンナはギュッとイブキの体を捕まえ
「もう一回だけダメ?」
顔を見られないように俯けたままそう聞いたが、初めから一回だけの約束だったのでイブキにはっきりと断られて少しだけ残念そうに離れた。
◇
翌日、結局たったの一度だったのにも関わらず、激しく交わったのが原因かイブキには疲労の色が見えていた。
それに対してアンナはまるで何事もなかったかのように元気だった。
「そういうことで! イブキの奥さんになりました!」
そう元気にみんなの前で言う彼女はいつも通りというよりはいつも以上に元気になっていた。
イブキの腕を掴み、ひたすら甘える姿はまさに新婚カップルだが、全員の反応はまるで分かりきっていたかのようにごく普通の反応だった。
反応も薄く、朝の業務の時間が近かったためかそのまま何事もなかったかのように全員が持ち場につき、準備を始めていたが、唯一一人だけ快く思っていない者がいた。
「なんでテメェが俺の可愛い可愛いアンナとつがいになってんだよ……? お?」
受付を出てすぐ裏手の所でイブキはリヴェンに捕まり、不良のカツアゲのような圧迫を受けていた。
「うるせぇ親バカ! 言っとくけどな! 『アンナ』って名前付けたのも俺だからな?」
イブキはわざとにやけながらリヴェンを小馬鹿にしながらそう言ってみせると、流石に彼もキレた。
「やっぱ殺す! 一瞬でもいい奴になったとか思ったのがアホだった!」
そう言い本気で殺気立っているリヴェンにイブキも流石に危機を感じたのか素直に謝っていたが、素直に悔しいのかそれとも怒りをどこにぶつけていいのか分からなくなっていただけなのか、全力でイブキの体を揺すった。
「何してるんですかリヴェンさん!? イブキに乱暴しないでくださいよ!」
ついにそんな二人のやり取りがアンナに見つかり、さらにはアンナは何も知らないがイブキとリヴェンは彼女がどういう立場なのか知っているので自分だけ敬称が付いていたことによって止めを刺されていた。
諦めがついたのか、ただ単に真っ白な灰になったのかは知らないが魂が抜けたようにそこに立ち尽くしていた。
イブキとしてもその一言にどんな破壊力があるかは知っているが、当の本人に悪気があるわけではないので同情してやりたくもなるが、それが追い討ちになることも知っているのでイブキはただ、今から仕事があるから……。とだけ言い、その場を去るしかなかった。
イブキとアンナがついにくっ付き、新たに哀愁漂うリヴェンも加わり、これからさらにイブキの育て屋は楽しくなっていくのですがそれはまた別の機会に。
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