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育て屋さんの裏稼業

/育て屋さんの裏稼業

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諸注意! 


この作品には人♂×ポケモン♀の描写やポケモンに襲われる(雄受け)の描写が含まれます。
又、ポケモン内に登場する人物の性格などの改変若干の血の表現があります。
苦手な方はお帰り頂くか、それでも読みたい方はお進みください。*1



育て屋さんの裏稼業 


それではごゆっくりとお楽しみください。

                         店主イブキより

育て屋さんの裏稼業 1 


「いらっしゃいませ! イブキの育て屋へようこそ! 本日はどのコースでしょうか?」
 今日も活気のある声がまだ朝靄のかかる早朝から元気よく響いていた。
 ここはとある町外れにあるポケモン育て屋。
 ここの育て屋では他とは違うサービスが受けられるということで評判だった。
 今朝もまだオープンしたばかりからチラホラと人がやってきていた。
 ある人はポケモンを預け……。
 ある人はポケモンを返してもらい……。
 そんな忙しなく動き回っている育て屋はかなり珍しいものだ。
 育て屋の中に入ると中にはポケモンセンターのように受付の人物が三名立っている。
 その中でも一際目立つのが中央でポケモンを受け取っている女性だ。
「すくすくコースですね? かしこまりました。ではお預けになるポケモンを……」
 その女性は人一倍明るく、こちらまで元気にしてくれるような素晴らしい笑顔で接客をしていた。
 その両脇には男性が二人。
「いらっしゃいませ! イブキの育て屋へようこそ! お預けになったポケモンのお名前とお客様のお名前を教えていただいてもよろしいですか?」
 片方はひたすら訪れたトレーナー達のポケモンを返却しており、もう片方はまばらにしか接客をおこなっていない。
 では、ここの店主であろうイブキという人物は誰であろうか。
 答えは勿論、中央の女性。
 ではなく、横のまばらな接客をおこなっている男性だ。
 中央の女性はアンナ。
 横のもう一人の男性はゼロ。
 二人共ただの従業員だ。
「いらっしゃいませ! イブキの育て屋へようこそ! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
 彼だけは他二人とは若干受け答えが違った。
 ここの育て屋は他の育て屋とは一線を引いた差があった。
 通常、育て屋というものはポケモンを預かり、ただ育てるだけなので値段も安く、何の気兼ねも無く利用できる施設だ。
 しかし、この育て屋は料金の違う様々なコースを用意しており、ポケモンの宿泊施設なるものまで用意している。
 コースの内容も通常のコースから
 しっかりと数日でポケモンを鍛え上げるビルドアップコースや、
 産まれたてのポケモンなどの初期成長を促す、すくすくコースや、
 ポケモンのプロポーションを磨き上げるビューティーコースなどがある。
 こういった様々な用途に応じたコースや設備があるためか、遠出でポケモンを連れて行けない等の時に利用する人が後を絶たないのだ。
 しかし、このポケモン育て屋がここまで繁盛している理由は他にもあった。
 そしてソレこそがこの育て屋にしか来ない客がいる理由でもあった。
「強いポケモンが欲しいんですけど」
 イブキが対応しているお客さんがそう言った途端にイブキは目の色を変えた。
「そうですか……。それでは詳しいお話を伺いますのでこちらへそうぞ……」
 そう言うとイブキはその客と一緒にカウンターよりも奥にある部屋の方へ案内した。
 彼が招き入れた部屋は決してこじんまりとしているわけではないが、広いとも言えない事務室のような場所だった。
「それではそちらの席にお掛けください」
 そう言い、彼は部屋に入って左側の席へと客を誘導し、イブキ自身は机を挟んだもう一つの椅子に座った。
 そしてイブキは座ると同時に横にある棚から資料などを纏める分厚いファイルを取り出して机に置いた。
「それでは改めて……。今回、お客様はどのようなポケモンを預けようと思われていますか?」
「えっと……こいつです。」
 そう言い彼はモンスターボールを一つ取り出し、中にいるポケモンをただでさえ広くない部屋の隅に投げた。
 中から閃光を放ち出てきたのは一匹のガブリアスだった。
「コイツは牝なんですけど、できれば牡のガブリアスが欲しいんです。あとできるだけ強いのをイブキさんに……」
 ボールから出てきたガブリアスは何処か不安そうな目で辺りを見回し、落ち着きをなくしていた。
 無理もないだろう。
 こんな狭い、しかも知らない場所に出されたのであれば人間でもそうなる。
 イブキは話している客の話を聞かずに立ち上がり、不安がるガブリアスの喉元を優しく撫で、
「大丈夫……。怖がらなくていいよ……」
 そう声を掛けてあげた。
「キュワー……」
 寂しそうな鳴き声を出すガブリアスにさらに優しく撫でながら
「大丈夫だよ。ここは育て屋さん。絶対に乱暴なことはさせないから」
 そう声を掛けてあげた。
 するとイブキの言葉が通じたのかようやく不安そうな目のままではあったが、落ち着きは取り戻した。
 それを確認したイブキはようやく席に戻り
「つまり……この仔に遺伝子を残したまま牡が欲しい……と」
 まるで何事もなかったかのように話を続けだした。
「え、えぇ……」
 客の男はその対応に呆れたのか、落ち着いたガブリアスに驚いたのかキョトンとした顔のまま会話を続けていた。
 その後は何事も無く預けるポケモンと預けたポケモンに何をするのかというコースの選択で話を終わらせた。
 が、最後にイブキが一言付け加えた。
「お預かりしたガブリアスはこちらにある先程選んでいただいたポケモンと交尾をさせますのでそちらの卵を差し上げます。そこでなんですが……」
 資料を片付けながらイブキはさらに続けて
「もし差し支えなければお預かりするこのガブリアスをうちで引き取りますがどうされますか?」
 そう訊ねた。
「本当ですか! ぜひお願いします! よかったこれで逃がす手間が省けた!」
 男はそれを聞くなりとても喜んでいた。
 それを聞くとイブキも含み笑いをし、最後に一枚の紙を出してきた。
「それでは最後にこちらにサインをお願いします。もしも卵が出来なかった場合は料金とポケモンはお返ししますので」
 その紙はどうやら今までのコースやら何やらの契約書のようだった。
 契約書には分かりやすい大きな文字でこう添えてあった。

 このシステムではお客様のポケモンにより高品質な卵を提供することを誓います。
 しかし、同様にポケモンの自主性を尊重するために極稀にポケモン同士の相性が悪く、卵が出来ない場合があります。
 その場合、ポケモンと選んだコースの料金をお返ししますが何卒、ご理解とご協力をお願いします。

 そう、ポケモンを二匹預ければそのポケモン同士が交尾をし、卵を作るのは既にポケモントレーナーにおいて常識的なことだった。
 イブキがおこなっている裏家業、それがこの選別システムだった。
 一体しか優良な遺伝子を持ったポケモンを持っていないトレーナーや、確実に良い卵が欲しいトレーナーが今も後を絶たずにこのサービスを使っているのだ。
 そしてその時にトレーナーは確実に以前のポケモンが不要になる。
 その時に不要になったポケモンをトレーナーは確実に逃がす。
 その逃がす手間を省き、さらにカタログを充実させる目的があるのだが、決してトレーナーは知る必要は無い。
 誰かがここを利用すれば、さらに商売の口が広がることなど……。
 ポケモンを預けた男が笑顔で部屋を出て行った。
 当たり前だ、彼にとって願ったり叶ったりのことをしてもらえるのだから。
 だが、イブキの本当の目的は違った。
「お前も……可哀想にな……」
 そう言い、横で鰭を寝かせて悲しそうな表情を浮かべるガブリアスの細くも逞しい腕を撫でてやった。
 鮫肌が僅かにチクチクとするがイブキにとってはそのくらいどうでもいいことだった。
「キュー……」
「もうあいつはご主人なんかじゃないんだ。それにお前は俺が守る」
「キュ!?」
 寂しげな声を漏らしたガブリアスの泣き声にイブキがそう返した時にガブリアスは心底驚いていた。
「もしかして……私の声が聞こえてるんですか……?」
 それはか細い女性の声。
「当たり前だ。そうでなきゃこんな商売できるか」
 その声にイブキは当然のように返した。
 未だに驚きあたふたしているその女性にイブキは
「そういえばまだ名前を聞いてなかったな。君の名前を教えてもらってもいいかな? 『ガブリアス』」
 そう声をかけた。
 そう、彼はポケモンの声が聞こえる数少ない人間の内の一人だった。
「え……っと……。名前は貰ってないです。いつもガブリアスとしか……」
「じゃあ俺が命名する。お前はそうだな……ガブリアがいいかな?」
 慣れた手つきとでも言わんばかりにその名も無かったガブリアスに名前を付けてやると
「ガブリア……ガブリアですか! 嬉しいです!」
 ここに来て初めての笑顔を漏らしていた。
 彼の本当の目的はこれだった。
 一匹でも多くのポケモンを心無いトレーナーから救ってあげたい……。
 それだけだった。


  ◇


 預かったガブリアス……ガブリアをとある納屋に連れて行った。
 あくまで彼女はまだ彼の所有物である。
 そのため彼女は彼女の仕事をこなさなければならない。
「ハヤテ。入るぞ」
 納屋の入り口を強めにトントンと叩いて入ることを事前に知らせ、戸を開けた。
 中にはスヤスヤと眠るガブリアスが一人いた。
 流石にまだ朝早い。
 『一仕事』終えたばかりの彼には早起きは少々辛いものがあったようだ。
 納屋を開けた瞬間に彼女は戸惑っていた。
 締め切っていたためか中には独特の匂いが立ち込めていた。
 中にいたポケモンは一人だけではなく、もう一人いた。
 そちらも疲れ果てて眠っていはいたが手元には大事そうに抱える卵が一つあった。
 そこにいたもう一人のポケモンは以前の預けられたポケモンだった。
 彼女も強い卵を産むために預けられ、昨晩を彼……ハヤテと一夜を共にしたのだ。
 イブキには既に見慣れた光景でなんとも思わなかったが、彼女にとっては驚きの光景だ。
 立ち込める臭気は二人の愛液。
 ガブリアにすればさながら催淫薬のようなものだ。
 既に状況と匂いから顔を隠してはいるが真っ赤になっていた。
 顔を赤らめたガブリアをその場に残し、先にイブキは納屋に入り二人を起こした。
「おはよう。そしてお疲れ様」
 先にそこで眠っていた女性の方を起こし、優しく声をかけた。
 彼女はまだ甘い夢の中にいたのだろうか、目を覚ましてもうっとりとした目で何処か遠くの彼方を見つめていた。
「恐らく、もうすぐトレーナーの人が迎えに来るだろうから先に行って待っててもらえるかい?」
 そう言うとその女性はフラフラとした足取りで立ち上がり、卵を大事に抱えて歩き出した。
「ほらほら! ハヤテも起きた! 次のお客さんだよ!」
 一方こちらは先程とは打って変わり、バシバシと背中を叩いて起こした。
「もう少しだけ眠らせてくれよイブキ~。こう毎日だと流石に身が持たないんだよ」
 起きたのは起きたようだがまだ眠いとぐずり、敷きつめてある寝藁を抱き寄せていた。
「仕方が無いなぁ……起きたら自分から彼女に自己紹介するんだぞ!」
 困った顔をしたものの、何処か彼の言い分も理解したような顔でイブキはそう彼に言った。
 そのまま彼は納屋の外の方で待たせていたガブリアに向き直し、
「ひとまずお待たせ。彼が君のお相手のハヤテ。悪い奴ではないけどちょっと口が悪いから気にしないように」
 そう彼女に笑いながら話した。
「は、はい! 分かりました!」
 一方のガブリアは何故か妙に恐縮し、小さく丸まっているハヤテをチラチラと覗き込んではモジモジしていた。
「別に彼の事が気に入らなければ交尾はしなくてもいい。トレーナーの人ともそう契約してるから文句は言われないよ。……って言っても、どうやら君は彼の事気に入ってるみたいだけどね」
 お決まりの文句を言った後、彼はわざとらしくニヤニヤと笑いながら彼女にそう言った。
 イブキの言葉通りなのか匂いに当てられただけなのか知らないが、ガブリアは今まで見せた表情の中で最も嬉しそうに微笑んでいた。
「それじゃ俺は次の仕事があるんで! お二人さんとも仲良く。じゃ!」
 そう言い、イブキはビシッと右手を挙げて足早にその場を去っていった。
 彼女たちの事を気遣ってではない。
 本当に次の仕事がまだ目一杯残っていて忙しいからだ。
 彼の担当の人間が少ないのにはこういった理由もあった。
 一人一人、頼む内容も違う。
 一番目が先程の強い卵の依頼。
 二番目が一人旅などのポケモンの性欲処理。
 三番目が扱いきれなくなったポケモンの買い取り。
 など、普通の育て屋などでは行えないようなまさに『裏』の仕事を彼は中心に行い、逆に客もそれに対応した合言葉で彼にお願いするのだ。
 イブキのところに来る客への依頼の料金は普通の育て屋に預けるよりもかなり割高になるが、ポケモンが確実に懐いたり、言う事を聞くためにそう言った困り種の客も仕方なく使っていたりするのだ。
 そしてそういった人間がいることを知っているためイブキの一日の接客数が少なくてもイブキ自身が一番稼いでいる。
 が、流石にこれほどまでに賑わっている育て屋だ。
 年がら年中無休で開いていれば従業員の身が持たない。
 まず基本的に土日祝は休み。
 営業は午前と午後の二回に別れ、午前は早朝5時~9時。
 その後休憩を挟み、午後が1時~17時である。
 それ以外の時間での利用は可能だが、先に電話で予約を入れておかなければならない。
 勿論、予約数に限りがある。
 そうしなければひっきりなしに電話が鳴り響いて、一日も休めなくなる。
 そうこうしているうちに時間というものはあっという間に過ぎていくもので……
「申し訳ありません。こちらのお客様までで午前のご利用を終了させていただきます」
 アンナがそう言うと当たり前のように文句が飛んできた。
「申し訳ありませんがそれ以降の方は午後の受付に回っていただきます」
 流石のアンナさんでもそこは苦笑いをしながらいつものように頭を下げて帰ってもらっていた。
 ようやく電話予約のお客まで捌ききった頃にはいつも10時になっているのが当たり前の光景だった。
「アンナ。ゼロ。お疲れ様。部屋で休んできていいよ」
 イブキが二人にニッコリと笑ってそう言うと
「お疲れじゃねぇよ! 毎日毎日ひっきりなしに……。本っ当に疲れるぜ……」
 首をバキバキと鳴らしながらゼロはいかにも疲れた顔を見せた。
「オープンしてもう結構経つけれど……やっぱりマナーを守ってくれないお客さんが多いですね……ご主人」
 アンナも同様にはぁ……と深い溜息をつき、営業中は見せないような辛そうな表情を見せた。
「アンナ! また『ご主人』って言った!」
 そうイブキに指摘され、驚いた表情を見せ
「そうは言われても……やっぱり癖はなかなか抜けないものですよ。イブキさん」
 そう言いながらしょんぼりとそう言った。
「まぁしょうがないか……今日も人が多かったしね。早く変身も解いていいよ」
 イブキがそう言うと二人とも嬉しそうな表情を見せた。
 次の瞬間、二人とも不思議な光に包まれ、あっという間に二匹のゾロアークになってしまった。
 いや、『戻った』の方が正しい。
 不思議な光の正体はイリュージョン。
 ゾロアークが持つ不思議な能力で彼らがばけぎつねポケモンと呼ばれる理由だ。
「そんじゃ先に戻って休ませてもらうよ」
「失礼します」
 先程まで店先で笑顔を振りまいていた二人はイブキとは逆の方にある扉から出て行った。
 驚くことに彼らまでもがポケモンだったのだ。
 それどころか彼らは人間の言葉を流暢に話すことまでできるため、恐らく客の中に彼らがポケモンであることを知っている者はいないだろう。
 では彼……イブキは果たしてどうなのだろうか。
 ここまでくれば下手をすれば彼までポケモンだと言い出してもおかしくはない。
 が、先程アンナが間違えていたように間違いなく彼は人間で、彼らのトレーナー『だった』人間だ。

育て屋さんの裏稼業 2 


 少し時間を遡ろう。
 何故彼が今のこれほどまでの大規模なポケモン育て屋をおこなうようになったのか。
 それには勿論理由がある。
 初めから彼はこういった大きな育て屋の経営が夢だったわけではない。
 彼にも昔、今とは違う大きな夢があった。
 『最強のポケモントレーナーになる。』
 ただし、それは決して褒められるようなものではなかった……。


  ◇


「いけ! ゾロアーク! ナイトバースト!!」
 その掛け声と共にゾロアークは両手に黒い波動を溜め始めた。
「まずい! 奴の動きを止めろ!」
 相手のトレーナーも気付いたようだがもう遅かった。
 溜まりきった力を地面に叩きつけると一気に爆風のようなものが広がりなすすべもなく相手のムーランドは吹き飛んでいった。
「また俺の勝ちだな。そろそろ俺よりも強いトレーナーは現れないものかね……」
 ムーランドが最後の手持ちだった相手はがっくりと気を落としていたが、彼は一切声も掛けずに歩き去っていった。
「あんた強いな。名前を教えてくれないか?」
 先程まで落ち込んでいた相手のトレーナーがそう彼に聞いたが振り返りも、返答もせずにそのままその場から離れた。
 『どいつもこいつも平凡だねぇ……もっと熱い戦いはできないものかねぇ……そうしなきゃ俺の秘密兵器すら出せないじゃねぇか。』
 そんな事を考えながら彼はほくそ笑んでいた。
 そう、彼こそがイブキ。
 今の彼とは似ても似つかぬ性格の持ち主だった。
 強さを求め日々戦い、強さのためなら平気でポケモンすらも道具のように扱っていた。
 そして事実、彼は強かった。
 自分の強さに自惚れるほどに……。
 それからもイブキはひたすらに出会ったトレーナー全てと戦い続けた。
 それでも飽き足りなかった彼はポケモンリーグに臨み、これまたあっという間に優勝してしまった。
 だが、それでも彼は足りなかった。
 チャンピオンの称号を得ても満足すらしなかった。
 俺よりも強い奴に会いたい……と。
 そんなある日、彼はとある会話を耳にする。
「なあ聞いたか? なんでもシロガネ山の山頂にばかみたいに強いトレーナーがいるらしいぞ」
「あー聞いた聞いた。恐ろしい強さなんだってな。確か今までにそいつに勝った奴いないだろ?」
 その会話にイブキは勿論食いついた。
「お前ら。今の話本当か?」
「あ、ああ。噂話だけど。確かに対戦したって奴がいるから間違いないよ」
 話をしていた二人はイブキが話しかけると少し驚きながら返事をした。
 それを聞くとイブキは不気味に微笑み、その場を離れた。
 勿論、彼の目標はそのトレーナーになった。
「シロガネ山か……ここからだとかなり距離があるな。カイリュー! そらをとぶ!」
 モンスターボールを投げると同時にそう言い、カイリューが飛ぶ体勢になったのを確認するとすぐに乗り、目的地であるシロガネ山付近へと飛び立っていった。
 山頂付近は年中ほぼ吹雪いているため空から近寄るのは危険過ぎた。
 麓から山頂までの登山。
 彼はその間飛び出してきた野生のポケモンには目もくれず、ただひたすらに山頂へと登っていった。
 イブキの中は既にそいつと戦いたいという思いでいっぱいだった。
 徐々に険しくなっていく山道をものともせず登り、そしてついに山頂へと辿りついた。
「おや? ここ最近はよくトレーナーが来るね」
 ピカチュウの頭を撫でているトレーナーが登りきったイブキに気付き、そう言った。
「あんたが最強のトレーナーだってな。俺と勝負しろ」
 挨拶もせずにイブキは言い放った。
 だが
「悪いけどさっき戦ったばかりだから少しだけ待ってくれ。こいつらを休ませてあげないと」
 そう言い、はっきりと断られた。
 イブキはただ無言でその場を離れ、近くにあった岩場に腰掛けた。
 『何が休ませる…だ。そんなもん薬を使えばすぐに治るだろ!イライラさせやがって。』
 そんな事を思いながら数十分は待っていた。
「おい! まだ終わらんのか!」
 イライラが募ったイブキはついに大声でそう彼に言った。
「分かったよ。待たせてゴメン。俺はレッド。よろしく頼むよ」
 そう言い、レッドは手を差し出したが
「準備が出来てんならすぐに戦うぞ。どれだけ待ったと思ってるんだ!」
 そう言い、その手を無視して広い中央へと歩き出した。
「行くぞ! ピカチュウ!」
「行け! ゾロアーク!」
 掛け声もなしにすぐに始まったその戦いはこれまたすぐに終わった。
 イブキの敗北で……。
「負けた……? まさか!? もう一度だ! もう一度勝負しろ!」
 そうイブキが言い放つといままでニコニコとしていたレッドが表情を変えた。
「何回来ても君は俺には勝てないよ。君には決定的に足りない物がある」
 そうイブキに向かって言い放った。
「ふざけるな! 俺が勝てば証明されるんだ! 俺が最強だと!!」
 薬を使い、手持ちのポケモンを無理やり回復させたが当たり前のように先ほどよりもポテンシャルが落ちていた。
 そんな状態で挑んだところで勝てるはずもなく、二度目の敗北を味わわされた。
 『なんでだ!! こいつらは最強だ! 俺が最強のパーティーを作り上げたんだ! 負けるはずが……ない!!』
 それでもイブキはやめなかった。
 三度、四度……。
 そしてついに……。
「お前らふざけるな!さっさと立ち上がれ!」
 そう言い、薬ではもう立ち上がれないほどのダメージを負っているポケモン達を無理やり立たせたイブキは間髪入れずにレッドから殴り飛ばされた。
「まだ分からないのか!! それがキミの弱さだ! 君はトレーナーとして失格だ。俺はもう君とは戦わないよ」
 仰向けに倒れたイブキはレッドの吐き捨てたその言葉と去ってゆく足音をしっかりと聞いていた。
 しかし、それよりももっと大きな音が響いていた。
 心の中で何かがもっと大きな音を立てて崩れていた。
 立ち上がりもせず、ただ沈みゆく夕日をただ眺めていた。
 自分の強さを信じて疑わなかった。
 間違いなくトレーナーとして最強へ上り詰めていると信じていた。
 そして出会った本当の最強のトレーナーにトレーナー失格とまで言われた彼は挫折していた。
 自分の今まで生きてきた人生そのものを否定されたような気分だった。
 日が沈み、雪が降り出しても決してそこから動かなかった。
 もう、そこで死んでも構わない。
 全てを失った彼はそう思い込んでいた。
 だが、肩や頭に積もった雪を誰かがそっと払い落とした。
 落とされた雪が足に落ちた時、ようやく誰かが自分の雪を払い落としていることにイブキは気が付いた。
「なんだよ。トレーナー失格とか言っておいて俺を助けに来たのか?」
 イブキはそう言い放った。
 恐らく、心配してレッドが来たのだろう、と……。
 返事がなかったため振り返るとそこにいたのはゾロアークだった。
「!? 何やってるんだよお前……」
 そのゾロアークは彼の手持ち……その時は名前などなかったが今はイブキの横で働いているアンナだった。
 そして冷静になれたからかようやく重大なことに気が付いた。
「お前……傷だらけじゃないか……。俺の事構ってる場合じゃないだろ……」
 そこらじゅうに無数の切り傷や擦り傷、時間が経って固まった血が黒い毛の至る所に赤黒く塊を作っていた。
 そんな状態でも自分のことよりもトレーナーに降り積もった雪を払うことだけを一生懸命におこなっていた。
 こんな状態に追い込んだトレーナーのために……。
 その時、イブキは初めて泣いた。
 自分の愚かさに。
 ポケモン達の優しさに……。
 すぐに彼は立ち上がり、寒空の下に放り出したままだったポケモン達をボールに戻して急いで山を下っていった。
「すみません! 今すぐ治療を!」
 ポケモンセンターに駆け込んだイブキは大声でそう叫んだ。
 その場にいた数名の一般人とジョーイさんが驚いていた。
「分かりました! 今すぐ彼の治療を…!」
 駆け込んだ彼は血まみれだった。
 視界の悪い山道を駆け下りたのだ。
 登山に慣れたものでも夜の山は避ける。
 危険すぎるからだ。
 何度も山道を転がり落ちたため全身に怪我を負っていた。
「違います! 俺の事はどうでもいい……。早くポケモン達の治療を!!」
 そう言い手持ちのボールを駆け寄ってきたジョーイさんに全て渡した。
「わ……分かりました! けど、あなたも早く治療を……」
 言葉を遮り、急いでポケモンを治療させるようにお願いし、ようやくポケモン達が引き取られて行くのを確認して彼も治療を受けた。
「お待たせしました。預かったポケモン達はみんな元気ですよ」
 そう言われ自分のポケモンが入ったモンスターボールを横にそっと置いてもらった。
 彼自身、傷だらけだったためすぐに治療され、腕にも包帯を巻かれていたため受け取れなかったからだった。
 そのまま彼はポケモンセンターの治療室の横のベッドでその日一日を過ごした。
「ダメですよ! もう少し安静にしていないと!」
 ジョーイさん達が次の日になった時点で出ていこうとしていたイブキを必死に止めていた。
 それからさらに数日、ようやく彼も問題なく動けるようになり、ポケモンセンターを後にした。
 彼はそのまま近くにあった森へと歩いていき、手持ちのポケモンを全てそこに出した。
「悪かったな今まで……。自由にしてくれ……。どこぞへ行くなり……殺すなり……」
 そう言い、全てのボールを叩き割った。
 その行為にポケモン達は皆驚いていた。
 が、そこを動く者は一人もいなかった。
「どうしたんだ? もうボールはない。お前らが自由にしていいんだぞ?」
 イブキがそう言うと彼らは互いを見ていたが、特に何をするわけでもなかった。
 たとえここで彼らに報復されてもイブキはなんら問題なかった。
 自分が今までしてきたことを十二分に分かっていたからだ。
 殺されたとしても文句の言いようなどなかったが、まさか何処かに行くことすらしないとは思っていなかった。
「どうしたんだよお前ら……。どっか行けよ! もう俺に付いてこなくていいんだぞ!」
 そう言い追い払おうとするが決してその場を離れなかった。
 『そうか……俺がこいつらを縛りすぎたのか……』
 イブキは離れないポケモン達の心境をそう解釈した。
 今まで道具のように使われていたのだ。
 支配されても無理はないだろう。
 それがイブキの至った答えだ。
 ならばどうするか。
 既にボールはない。
 実質彼らを縛っているものはその忠誠心だけだった。
 ならば……
「お前らが自分で何処にも行かないなら……俺がお前らが離れられるようになるまで面倒を見るよ……」
 そう言い、ポケモン達を連れて森の奥深くへと入っていった。
 その日からは彼らと終始を共に生活をした。
 勿論、人の暮らしではなく、ポケモン達の暮らしに合わせて。
 そのまま森の中で1年過ごしたある日。
「さぁ、もう結構経ったし、俺もお前らを縛る気がないのが分かっただろ? もう俺に付いてくる必要はないよ」
 そう言い、彼らの背中を押して森の出口へと連れて行き、イブキは彼らとは反対の方向へと歩いて行ったが……
「付いてくる必要ないって言っただろ……」
 みんな付いて来ていた。
 イブキが反対の方向へ歩いて行ったわけは決して彼らと別れたかったからではない。
 彼にはまだ成さねばならない事があったからだ。

 今までに自分が捨てていったポケモン達にせめてもの罪滅ぼしがしたかった。

 もちろん今のパーティーが最初からいたわけではない。
 長い間強いポケモンを捕まえ、交配し、産まれたポケモンの中から強いものだけを選んで残りを捨てていた。
 『逃がした』という言葉で逃げたくなかった。
 ポケモンの強さを自分の強さと履き違え、強くなれなかったポケモンをゴミの様に扱った。
 だからこそ今の彼らは強いが、今までに捨ててきたポケモン達は弱く、恐らく捨てられたことを恨んでいるだろう。
 ここから先は自分の自己満足だったため彼らを巻き込みたくなかった。
 だが……。
 彼らはイブキに擦り寄った。
「お前ら……こんな扱いしてきた俺を……俺なんかを許してくれるのか……」
 初めてポケモン達を一人ずつ抱きしめていた。
 涙を流して……。
 結局、一緒に旅をすることになった。
 しかし、イブキはボールを買い直すことはしなかった。
 そこまで自分を慕ってくれるポケモン達の気持ちがなんとかしりたくて、ポケモン達の言葉を理解したくて……。
 そのために一秒でも多く、彼らと接していたかった。
 イブキも出来る限り彼らに話しかけ、同様にイブキも必死に彼らの言葉に耳を傾けた。
 通じているかは別として……。
 努力というものは必ず報われるというものではない。
 まして、それが自分が今まで犯してきた罪の贖罪となればなおさらだ。
 イブキは今までに彼がシロガネ山に至るまでに訪れた道をひたすら戻っていった。
 だが、自分が捨てていったポケモン達の姿は何処にもなかった。
 当たり前と言えば当たり前。
 ポケモンの世界も野生となれば弱肉強食のルールがある。
 そんな中に生まれたばかりの子供を放り出してきたのだ。
 生きているはずがなかった。
 そんな旅を始めておよそ数日経っただろうか。
 イブキ達の歩く少し前の森に眩しい光が降り立っていくのが見えた。
 『太陽……なわけないよな。見に行ってみよう』
 少し気になり森の中へ少し道をそれると、そこには煌々と輝く白い竜が一匹、青年と一緒に立っていた。
 次第に輝きが消えていくとその竜は白く燃え上がる焔のような美しい竜であることが見て分かった。
 だが、その美しい竜よりも彼の目に止まったのは……足元にいた小さな命とその青年だった。
「す、すみません……。そのロコンは?」
 イブキは真っ先にロコンを撫でる青年に声をかけた。
 緑髪の青年はただロコンを優しく撫でながら
「この子はたった今亡くなったよ。最後まで必死に生きようとしてた……。トレー……」
 彼が何かを言うよりも先にイブキは膝を地面に落として泣いた。
 ようやく出会えた自分の捨ててきたポケモンが目の前で死んでしまったのだ。
 驚く彼をよそにイブキは気持ちが落ち着くまでひたすら声を上げて泣いていた。
 ようやく泣き終わった頃にその青年は話しだした。
「この子は……幸せだったかもしれないね……。これほどまでに思ってくれるトレーナーがいるんだから」
 そう言いながら腕の中で温もりを失ったロコンを撫でていた。
「そんなはずない!」
 イブキは声を荒げて彼の言ったことに反論した。
 驚いた表情をしてみせたが
「どうして君はそう思うんだい? この子は必死に最後までトレーナーに会いたかったと言っていた。恐らく君のことなんだろう?」
「俺は……いままでそういったポケモン達を捨ててきたんだ。それなのに……!」
 地面を強く叩きつけ、言葉にならない感情が溢れてきた。
「でも君は帰ってきた。それでいいじゃないか。帰ってこない人もいるんだ。今からでも僕は君と友達になれると思うよ」
 その言葉は何処か暖かく、自分を包み込んでくれるような気がした。
 今まで責任や罪という言葉で雁字搦めにされていた自分の心さえも……。
「あんたの名前は……?」
「N……。ぼくはNだ。君は?」
 青年……Nは自分の名前を答えると逆にイブキに名前を聞いてきた。
「イブキだ……」
 これが初めて人に名乗った名前かもしれない。
 名乗る必要もないそんなことを今まで考えて生きてきた。
 自分より弱い奴に名乗ったところで何の利点もないと。
 そんな彼が初めての敗北を味わって数年、彼は確かに変わっていた。
「そうだね……もう行こうか」
 横にいた竜の声を聞き、彼はそう返していた。
「待ってくれ! 最後に……最後にひとつだけ!」
 ようやく冷静になれた彼はNのとあることに気が付いた。
「どうやったらポケモンと話せるようになるのか……それだけ教えて欲しい!」
 次第に離れていく竜とNからただ一言だけ聞こえた。
「僕は生まれた時からポケモン達と育ったから分からない。ただ、君が本当にトモダチのことが大事なら、きっと聞こえると信じているよ」
 そう言うと彼は来た時と同じように眩い光に包まれて彼方へと消えていった。
 それを見届けるとイブキは冷たくなったロコンを近くの木の根元に埋めてやった。
 それと同時に彼の考えも変わった。
 『罪滅しじゃない。救える命を救いたい……』
 そう心の中で呟き
「俺は……お前らと同じ立場になりたい。主従の関係やポケモンと人間じゃなく、同じ生き物として……。だから協力して欲しい」
 彼らが何と言ったかは分からなかったが、皆の声は自分に賛同してくれているように聞こえた。
 その日からイブキは今までよりも力を入れて言葉を聞く努力を続けた。
 そんな旅も半年ほど経った頃、ようやく、彼の運命を変える最後の出会いがあった。
 街から離れた違う森の中で一匹のゾロアークと出会った。
 そして……そのゾロアークは間違いなくイブキを憎悪の籠った目で見ていた。
「見つけた……。ようやく復讐できる時が……来た!」
 驚くことにそのゾロアークは人の言葉を喋った。
 だが、それよりも彼は驚いた。
 自分が捨てていったポケモンが生き残っていたことに……。
「許してくれなんて言うつもりはない。許されるとも思っていない。殺せ」
 イブキは表情一つ変えずにそうゾロアークに言った。
 ゾロアークにとっては願ってもないことだったが、彼は戸惑っていた。
「何故だ? お前は……お前らは俺たちのことなんかどうとも思ってないんだろ?」
 出会ったイブキは自分が覚えているイブキとは似ても似つかなかったからだった。
 自分を嘲笑いながら捨てていった記憶が今も脳裏に焼き付いて離れないのに……。
「実際そうだった。だからこそ今後悔している。そして、お前の気が済むなら俺の命ぐらい安い。だから俺が最初で最後にしてくれ」
 今目の前に立っているイブキはあの時の非道なものは一切感じられなかった。
 あの時、生き残ってから生きる糧となっていたのは人間への復讐だった。
 だからこそ悔しかった。
 感情のままに飛びかかり鋭い歯が肉に深く刺さり込んだのがよく分かる。
 歯を伝わって感じる血の味……。
 ゾロアークはイブキの喉元に噛み付いたまま上に乗っていた。
 あとひと噛みすれば下にいる復讐の対象は死ぬ。
 しかし、止めど無く涙が溢れ出た。
 引き抜かれた牙の痕からは赤い筋が流れ落ち、イブキの胸元にはゾロアークの涙がボタボタと流れ落ちていた。
「どうした……。俺はお前たちみたいに頑丈じゃない……。もうちょっとで死ぬぞ……」
 少し力なく呟くイブキの言葉。
「どうして……! どうしてあんたは変わったんだ!! あんたに復讐することだけが生きがいだったのに……! 俺は…俺はこれからどう生きていけばいいんだ!!」
 心の何処かで残っていた迷いが復讐の気持ちを和らげた。
 いや、取り除いた。
「なら……。俺に協力して欲しい」
 彼が後にイブキの横で働いていたゾロアークとなるゼロだ。


  ◇


 次の日からそのゾロアークとイブキの二人は互いの言葉を理解するために意味を教えあった。
 数年の月日がかかったがついにその成果が実った。
「ご主人……。私の言葉が分かりますか?」
「分かる……。分かるぞ! やった!!」
 手持ちの方のゾロアークに話してもらい、ようやく言葉が繋がった。
 そして話が通じるようになり、一つ気になることが現れた。
「なぁ。お前たちに一つだけ言いたいんだけど……」
 みんなを集め、イブキが切り出したのは
「俺の事、ご主人って呼ぶのやめてもらえないかな?」
 そんなことだった。
 イブキがそう言うとみんな笑い
「いいですよ。その代わり、私たちも種族名で呼ぶのはやめてください」
 そう言って怒られた。
 彼がトレーナーだった頃はポケモンに思い入れなんてものはなかった。
 そのためポケモン達に自分の名前を教えたこともなかったし、逆に名前で呼んだこともなかった。
「それじゃあ……。みんなの名前を教えてくれ。俺はイブキだ。今更改めて言うのもおかしな話だけどな」
「私たちは名前はまだ貰ってないですよ?」
 過去の過ちも今ならみんなで笑い飛ばせた。
「そうだな……。じゃあゾロアークはアンナとゼロ」
「俺がゼロでいいんだよな?」
「アンナですか! 嬉しい!」
 二人とももらった名前に色んな反応をしていたがやはり嬉しそうだった。
「キュウコンがホムラ。コジョンドがリン」
「ホムラ…かっこいい名前ね。もうちょっと女の子らしくして欲しかったけど」
「リンねぇ……。私はもうちょっとかっこよくして欲しかったわ……」
 折角付けてもらった名前があまり似合わなくても嫌だとは言わなかった。
「エンペルトがユキ。ジュカインがリョク。カイリューがリュー。これでいいかな?」
「……嬉しいです」
「ん? 俺がリョク? 安直じゃね?」
「短くなったー」
 素直にお互い、名前で呼び合えるのが嬉しかったから。
 大事な人に付けてもらった名前だったから……。
 そしてこの頃からイブキはとあることを考えていた。
 人が変わるのは難しい。
 なら自分が捨てられたポケモン達を受け入れられる人間になればいいんじゃないか。
 そして、次の誰かに暖かく迎え入れてもらえればいいんじゃないか……と。
 その日から数ヵ月後にはイブキは育て屋をオープンしていた。
 アンナはゼロから言葉を教えて貰い、初日から人に化けて二人ともイブキの横で働いていた。
 まだ初々しくも夢に向かって必死に動いているみんなの姿がそこにはあった。

育て屋さんの裏稼業 3 


 ここでようやく時間を戻そう。
 今はちょうどお昼休み。
 イブキが最も動き回らなければいけない時間帯でもある。
 まずは様々なコースごとに別れている内のビルドアップコースへ足を運んだ。
 ビルドアップコースは大きめの体育館のような場所で行っている。
「ハイ! 1、2! 1、2!」
 そこではそんな掛け声と共に一斉に動く大きな音が響いていた。
「今日も精が出るなぁ……。リンあんまりしごくとポケモンが疲れ果てるからすぐにバトルに使えないって苦情が来てたぞ」
 そこで監督を務めているのがリン。
 元々イブキが鍛えていたためもあってかなり厳しいがかなり強くなる。
「あら? イブキ。ってことはもうそんな時間なのね。ハイ! 休憩! みんな身体を休めておいてね」
 『忘れてたのか……。時計まで置いてるのに……。』
 ある意味その熱の入れ方には脱帽ものだが、ここまでしごかれる方はたまったものじゃないだろう。
 みんなフラフラと水飲み場の方へと歩いていくのが彼女の掛け声のあとの日常風景だ。
「というか君は休まなくていいのか?」
「そりゃあそうよ。私がこの程度で休んでたら示しがつかないもの。」
 数時間、彼女自身も軍隊ばりのトレーニングをこなしていたはずなのにも関わらず、いたって涼しい顔をしていた。
 確かに鍛えたのはイブキだが本人も引く程に驚いていた。
「お前は強いかもしれないが、他のみんなはそこまで強いわけじゃないんだ。もうちょっと労わってやってくれ」
「それじゃあ鍛える意味がないでしょう?」
 ごもっともな意見を言われ、流石にイブキも反論ができなくなってしまった。
 そもそも一応見回っているがここは基本的に心配する必要がない。
 疲れ果てているため基本的に終わったらみんなすぐに寝てしまうからだ。
 イブキは基本的に昼と夜で見回りをしている。
 一応、ポケモンと喋れるため彼の育て屋で暮らしているポケモンは預けられたポケモンの世話をしてくれているが万一があってはいけないのでイブキ自身も確認して回っているのだ。
 次に回ったのがすくすくコース。
 ここは出来る限り日当たりの良い場所を選び囲いも安全に作られている。
 走り回るにも十分な広さを確保しているため環境としてはかなりいい場所を提供している。
「リュー。みんな元気か?」
 ここの管理がリュー。
「うん。みんな元気いっぱいで大変だよ。」
 『わらわら張り付いてる……。』
 元々彼はのほほんとしているので子供にも好かれやすいのか基本的に彼のどこかに子供が張り付いている。
 カイリューのため体はかなり大きいが本人も日向ぼっこと子供が大好きなため基本的に気付かずに怪我をさせるということはないようだ。
 笑顔いっぱいで走り回っている色んなポケモンの子供たちを見ているととても心が安らぐ……。
 が、いつまでも見ていられるほど暇はない。
 『いかんいかん! リューといるとついこっちまでのんびりしてしまう……』
 そう思いその場を離れようとするが、
「お兄ちゃんこれあげる!」
 気が付けばポケモン達に囲まれてしまうのが定番だった。
 喋ることができる人間のうえ、ポケモン達に優しく接するので子供から恐ろしい程懐かれるのだ。
 当たり前だがイブキが断れるわけがない。
「じゃ、後は任せたぞ!リュー!」
 子供たちに気付かれないように少し足早にそこを去っていくイブキはいつも様々なガラクタや虫などを沢山手に持って出ていくのが日課となっていた。
 『捨てるに捨てられない……』
 いつもそんな感じでそっと『子供達の宝物箱』にしまわれていく物が増えていくのであった。
 最後にビューティーコースを見に行く。
 ここはエステサロンのような環境とフィットネスのできるスペースの確保された総合的な館になっている。
「はい! あともう少し! ビューティー!」
 ここの担当がホムラ。
 『いっつも思うが……この掛け声は何なんだ?』
 彼女の声に合わせて全員が一斉に
「ビューティー!」
 そう叫ぶのだ。
 一見すればただポケモン達が一斉に鳴いているだけだが、イブキからすると異様な光景だ。
「あら? イブキ! はい! それじゃエステに移動~! 美しさは中からよ~!」
 ここは基本的には牝のポケモンが預けられているが、中にはそんな女性たちよりも美しい牡もいる。
 基本的にコンテストに出されるようなポケモンのスタイルアップや毛並みの整えなど美しくなりたいポケモン達がここに預けられているためさながらコンテスト会場状態だ。
「あら? あんたまたここに来てたの? あんたじゃこれ以上綺麗になれないって!」
「残念ねぇ……弱い犬ほどよく吼えるのよねぇ」
 たまにライバル同士のポケモンが鉢合わせたりもしているようで、ここが一番危なっかしかったりする。
「はいはい! そこの二人! 喧嘩はここではしないでくれ!」
 基本的にホムラは自分が綺麗になりたくてここを受け持った節があってかなりこういったいざこざは気にしない。
 おかげでここのいざこざは基本的にイブキが解決している。
 流石にサロン内部で何かが起こることはない。
 サロンには専属スタッフがいるうえ、個室になっている。
 『よし……とりあえず見回りは終わりかな?』
 普通のコースの方はひとまず回りきった。
 リョクは持ち前の足の速さを活かして返却するポケモンを連れて行くのが仕事。
 そしてユキはタグによる預かっているポケモンのデータ管理が仕事だ。
 二人は基本的に仕事しながら休んでいるので問題無い。
 納屋の方は恐らく『御仕事』中と思われるので流石に近寄らない。
 そしてイブキ自身もイブキとみんなが使っている部屋に戻って休憩する。
 大体これが昼休みのイブキだ。
 そして昼休みが終われば今度は午後の営業。
 ここは朝よりもさらに客が来るためはっきり言ってイブキはしっかり休める時間は閉店後と休日だけだ。


  ◇


「イブキさんありがとうございます! これで確実にリーグ優勝してみせます!」
「期待してますよ。これからもご贔屓に」
 心にもないことを言い、卵を欲しがっていた客に卵『だけ』を渡した。
 口には出していなかったが横にいたガブリアはやはり悲しそうだった。
 『というか……何気にこいつも情熱的だな……』
 彼女がトレーナーと別れる理由は卵が出来たからだ。
 つまり預けられて昼休みが終わるまでの間に疲れ果てていたはずのハヤテを無理やり襲ったのだろう。
「まあ、あいつもお前の事が好きだったわけじゃなくてお前の強さが好きだっただけだったんだよ」
 そう横にいたガブリアを慰めてはみたが、恐らく時間が少しかかるだろう。
 トレーナーからしたポケモンは自分の道具かパートナー程度だがポケモンからすれば親や信頼できる数少ない存在だ。
 狭い世界で生きてきたからこそ知っている者が去っていくのは本当に辛いものだ。
「ひとまずここを出たところにある納屋に行ってくれ。多分そこにいるタブンネが君の寝床を教えてくれるから」
 そう言い、ひとまずガブリアを事務室から出し、自分も次の仕事についた。
 イブキが一日にこなす仕事量ははっきり言って少ない。
 仕事量だけなら恐らくアンナとゼロの方が数十倍はこなしているだろう。
 しかし、一回の接客が凄まじく時間を食うのだ。
 数が減っても質はある。
 そしてイブキが最も行いたい仕事でもあった。
 自分の過去のようなトレーナーたちを見て、最初の頃は色々と言っていた。
 だが、基本的に聞く耳を持つ者はいなかった。
 過去の自分もそうだったが基本的に自分の事以外は見えていない。
 だからせめてポケモンだけは助けたかった。
 自分が今まで捨ててきたポケモンは救うにはもう遅すぎた。
 ならせめて他の今捨てられそうな命を助けたかった。
 最初こそただ引き取っていたが、ポケモンの数が増えれば増えるほど維持費が増えてゆく。
 そうなればさらに稼がなければならない。
 その為、ポケモン達に許可を取り卵を産ませている。
 残念な事にその卵を喜んで受け取り、前のポケモンを捨てる人が多すぎるのだ。
 残念なことではあるが分かっていたことでもある。
 それでも形は変われどお互いに満足しているのだ。
 今はそれでいいだろう。
 そしてようやくその日の営業も終わり、ようやく心の休まる時間が訪れた。
「二人共お疲れ様! 俺はもう少し仕事があるから先に戻って寝てていいよ」
 イブキは二人にそう言い、先に部屋へと戻らせていた。
 実を言うとイブキの仕事はもう一つある。
 それが最も稼げるのだが、あまり彼らには言えない。
 それは……
「あっ……! うぅん! いい! そこもっと突いてぇ!!」
 夜の納屋に媚声とクチュリクチュリと卑猥な音が響いていた。
「お望み通り……もっと激しくしてやるよ!!」
 より一層卑猥な水音が大きな音を立てて二人が体をよがらせていた。
 中の二人にバレないよう、納屋の裏手にある小さな戸を開けて中の様子をカメラで撮影していた。
 これがもう一つのイブキのお仕事。
 ポケモン同士の交尾を撮り、裏モノのビデオにして流している。
『しっかし……俺には聞こえるが……コレを見てよく興奮できるな……』
 撮っている本人はあまり興味がないため撮影に集中できるが、流石に声だけは分かるのでそれだけはどうしても気になってしまう。
 最近一番驚いたことがポケモン達も出来る限り性交に快楽を求めていたことだ。
 実際卵を作るだけなら一度だけでいい。
 だが、ポケモン達は個体差はあるもののやはり数回交尾を繰り返すものが多い。
 『もうすぐ終わりそうだな……。バレる前に離れよう』
 そうやって預けられたポケモン達の交尾を撮影して流しているが預けたトレーナーは基本的に興味はないので知るはずもない。
 当のポケモン達に至っては知る機会すらない。
 ある意味、金のなる木だ。
 『さて……次の納屋に行くか……』
 そう心の中で呟き、次の納屋に移動した。
 ここで一つ、みんなが気になっていることがあると思う。
 本当にイブキは興奮していないのか。
 ではここでイブキのフィルターを切ってみよう。
 次の納屋に移動しそっと裏手の小窓を開けて撮影を始めた。
「キュオォォン…! オォン! キュオォ…」
「グルゥ…! ガァ…!!」
 はっきり言って分からない。
 勿論、イブキもバレないようにするため手に持ったカメラをギリギリ二人が撮影できる程度でしか入れていない。
 イブキ自身が見えるわけがない。
 そしてイブキは最後にこの撮影したビデオを編集して寝る。
 それがイブキの一日の最後の仕事だ。
 そして編集も済み、部屋へと帰っていった。
「あっ! イブキさんお疲れ様!」
「おう! ……というか先に寝てて良かったんだぞ?」
 部屋に戻るとアンナが出迎えてくれた。
 この部屋はイブキとアンナやゼロ、他のイブキが最後に連れていた一番大事なポケモン達も一緒に寝ている部屋だ。
 大体みんな仕事が終わるとすぐにここに戻ってきてぐっすりと眠っているが……
「そういや……他のみんなはどうしたんだ?」
 そう聞かれ、アンナが一瞬耳をピクンと動かした気がしたが
「みんな用事があるって言って何処かに行きましたけど……」
 アンナはすぐにそう答えた。
 『用事……?』
 イブキはそんな事を考えながら首を傾げたが、今までも消えていた事はしばしばあったので別段気にしているわけではなかった。
 そして大体聞いても教えてくれない。
「そうか。それじゃ俺は先に寝るぞ」
 そう言い、ベッドに潜り込もうとした時、
「イブキさん……!」
 急に大きな声を出されてイブキはびっくりして振り返ったが、特に何もなかった。
「ど、どうした……? いきなり大きな声出して……」
 一つ変わっていたことといえばアンナがそわそわしながらイブキに目を合わせないようにしていたことぐらいだ。
「いえ、その……。私の事……好きですか……?」
 今にも消え入りそうなか細い声でアンナはそうイブキに聞いた。
 するとイブキはニッコリと笑い
「当たり前だ。俺はみんなに助けられたようなものだからな。もちろん大好きだよ」
 そう言い、アンナの横顔を優しく撫でてあげた。
 イブキの手が触れると一瞬ビクンと跳ね、驚いたことによって真っ直ぐ向き、アンナとイブキの目線が綺麗に合った。
「俺の大事な……大事な家族だ……」
 そう言い、イブキはそっとアンナを抱き寄せ、ギュッと強く抱きしめた。
「イ、イブキさん……!!」
 その途端にアンナはワタワタと慌て、半分パニックのような状態になっていた。
 そして
「ごめんなさい!! やっぱり私、もう我慢できないです!」
 そう言い返事を聞くよりも早くそのままベッドに倒れ込んだ。
 バスンという大きな毛布に飛び込んだ音が聞こえ、静かにギシギシとバネの軋む音が聞こえた。
「どうした!? 大丈夫か!」
 イブキはアンナが急に倒れ込んできたものだから驚いてアンナの身を案じたが
「大丈夫じゃないですよ……イブキさんの馬鹿!」
 そう言い口を塞いだ。
 急な事でイブキには最初何が起こったのか分からなかった。
 ようやく冷静になって今何が起こっているのか気付き、もう一度冷静さを失った。
 アンナがおもむろにイブキにキスをしていたのだ。
 今度暴れたのはイブキ。
 それはそうだ。
 急にキスをしてくるなんて思ってもいなかった。
 それどころか驚いて口を開けた隙に彼女は舌まで滑り込ませてきたのだ。
 彼女の長い舌がイブキの中でイブキを求め暴れるようにうねっていた。
 二人の荒い息遣いだけが広い部屋に微かに聞こえていた。
 最初はイブキは拒絶していたが、彼女が本気なのを感じ取りイブキもようやくアンナの舌に自分の舌を絡めた。
 するとどうだろう。
 今まで暴れていたものはまるで自分に溶け合ったかのように互いを求めてうねり始めた。
 うねっていた舌がようやく動きを止めるとアンナはゆっくりと顔を離していった。
「……え、ええっと……その。アンナさん?」
 既にイブキの上に馬乗りになったアンナは恍惚とした表情を浮かべていた。
 流石のイブキもこの状況になれば男としての本能は覚醒する。
 だが、だからこそ戸惑っていた。
 ポケモンが自ら人間との関係を持とうとすることに。
「いいですよね? イブキさん……。私と一つになってくれても」
 アンナの方は大分本気のようで表情から察するに既に準備もできているだろう。
 ポケモンは感情豊かで色々考える知性的な面も多いが同様に野性的でもある。
 その内の一つが彼ら、又は彼女たちは非常に情熱的であること。
 好きはすぐに愛になり、愛になればあとはその人と子供を作りたいという考えにエスカレーター式に進んでゆくのだ。
「いやいやいやいや!! 流石にそれはマズイ! ポケモンと人間が……その……交わるっていうのは!」
「でもコッチは準備できてるみたいですよ? 私も早くイブキさんと一つになりたいです」
 世の中には色んな人間がいる。
 ポケモンの交尾を見て興奮する人たち。
 それに飽き足らずポケモンと交尾しちゃう人たち。
 だが、イブキにとってそれは微笑ましいことではないと思っていた。
 無理やり襲って心を傷つけていると思っていた。
 だが、現在のイブキの状況から考えると恐らく、イブキのようにその世界へ歩みだした者も少なくはないのだろう。
 待ったの声も通用せず、体格も相手がいいため逃れられないまま右足で器用にズボンを降ろされてしまった。
 露わになったイブキのモノはギンギンに勃っており、太い血管が浮き出て見えていた。
 そのままアンナは何のためらいもなく自らの秘部にイブキのモノを押し当てた。
「!?」
 イブキが声にならない悲鳴を上げたのにアンナは敏感に反応した。
「ほら……私もイブキさんが欲しくてたまらないんです。今すぐにでも欲しくて溢れてしまってるんです……」
 秘部にモノが擦りつけられる度に柔らかな毛のくすぐったい感覚と湿った毛の感覚……そして柔らかく熱く湿った今までのどの感覚とも違う柔らかい場所に敏感に反応していた。
「待ってくれ!! 本っ当に待ってくれ!!」
 イブキの必死の訴えが通じたのかアンナは少し嫌そうにイブキの顔を見つめた。
「どうしてですか……?」
 少し悲しげなアンナの表情はそんな言葉と一緒に僅かに瞳に涙が溜まっていた。
「い、いやさ……。アンナだって好きなポケモンができるだろ? だから……俺はそういう人との方がいいんじゃないかなって……俺なんかよりも、な?」
 僅かに秘部に触れたモノが滑らかに割れ目の間に滑り込んだ時、そのままイブキのモノは一気に奥まで飲み込まれていった。
「!!?」
「……ンッ!!」
 もう一度声無き悲鳴と甘い声が響いた。
「ハァ……ハァ……。私は……私はイブキさんが一番好きなんです!! もう絶対に待ちません!!」
 返事の不要な完全な言い切った言葉だった。
 そこでようやくアンナはイブキの腕を押さえつけていた手を離し、しっかりとイブキに抱きついた。
 そして一番奥まで届いていたモノをゆっくりと引き抜き、
「……愛してます」
 その言葉と共に深く飲み込んだ。
 そのままアンナは感情の赴くままに腰を上下させ、必死にイブキを自分の中に感じていた。
 長いかも短いかも分からないほど必死に腰を振り、互いが腰を打ち付ける音と荒い息と甘い媚声だけが広い部屋に響いてた。
 快楽を求めて腰を必死に降るうちに次第にその反復の動きも大きくなり、早くなっていった。
 それに伴うようにギシギシとベッドが軋み、イブキもようやく快楽の声を漏らしていた。
「アンナ! もう出る……!流石にそれはマズイ……!せめて外にッ!」
「嫌です! イブキさんの全て……私の中に注いでください!」
 体が快楽によじり、だんだん力がうまく入らなくなってきたアンナはもっと力を込めてイブキに抱きついた。
 離れたくなくて、もっと一緒になりたくて……。
「イク……イク……! イクゥ!!」
 今までよりもさらに加速し、そのままアンナは絶頂に達した。
 至極の快楽に身悶えしながらアンナは大きく体を反らせていた。
「で、出るぅ!!」
 そしてそれを追いかけるかのようにアンナの中が熱いもので満たされていった。
 さらに続いた快楽に声も失いただ溺れていた。
 口からも目からも制御の効かない体は様々な液を溢れださせていた。
 涙と涎でグチャグチャになったアンナの顔はそれはもう極楽を見てきたような表情だった。
「だ、出しちゃったよ……。流石に……卵はできなよな……?」
 荒い息のまま一番気になっていたことだけはアンナに確認した。
 すると
「どう……でしょうね……。私は産みたいです……」
 やけに憎たらしい表情でそう返した。
 全力を捧げた二人は繋がったまま疲れ果てていた。
 しかし、時間というものは非道に去ってゆくものだ。
 ガチャリという扉の開く音に驚いた時には既に遅かった。
「ごめんねー! 遅れたわー! って……」
 最初に勢いよく飛び込んできたホムラがそのまま二人を見て固まった。
「ア、アアアアンナ!! あんた何してるのよ!!」
「い、いや! その……」
 先程までの疲れは何処へやら、飛び退いたアンナは必死に弁解しようとしていたがもう弁解しようがない。
 まだ濡れた秘部とそこから僅かに垂れる白濁液を見てホムラは怒りに震えていた。
「あんたイブキと寝たんでしょ!! 羨ましい!!」
 わけではなかった。
「羨ましい!?」
 イブキが首だけ起こしてそちらを見ると既にホムラにもスイッチが入っていた。
「大体抜けがけはいけないわよ! 私だってイブキと交尾したいんだから! メチャクチャにされたいんだから!!」
 鼻息を荒げてホムラはそう熱弁していた。
「それは女性が使う言葉じゃないと思う……」
 力のないツッコミが入ったが誰も聞いてはいなかった。
「替わりなさい! 次は私よ!」
「え……、えっ!?」
 流石にアンナも驚いていた。
「ンンー!!」
 既にイブキがリンに襲われていたことに。
 いつの間にかリンはイブキの上に乗り、ディープキスを交わしていた。
「ちょっと!!」
 気付いたホムラが起こって近寄るとリンは口を離し、
「馬鹿ねぇ……あなた達。自分から襲ってどうするの。ここはイブキさんに襲ってもらうべきでしょ?」
 そうみんなに言った。
「そういう問題じゃねぇ……」
 イブキの答えは却下され、リンの提案に一同が納得していた。
 このまま襲われたのではイブキは身が持たない。
 そう思い、必死に上に乗っているリンをどかそうとしたが
「イブキさん無駄よー。私格闘タイプよ? しかもあなたが鍛えてくれた」
 全力で押さえつけられれば僅かに動くことさえ許されなかった。
「分かった分かった! 降参だ! 煮るなり焼くなり好きにしろ! ああもう……明日どうなっても知らないぞ!」
 そう言うとリンは力を緩めてくれた。
「煮るなり焼くなり好きにするのはイブキよ……。どうぞお好きに……」
 そう言い、イブキから降りて誘うようにお尻を突き出してきた。
「ユキー!せっかくの機会だしあなたもイブキの愛を注いでもらいなさい!」
 既に上機嫌になっているホムラはわざわざ壁越しにモジモジしていたユキまで連れ出した。
「あ、あの……。私も……大丈夫ですか?」
 壁から僅かに顔を出したユキはすごく申し訳なさそうに言った。
 それを見てイブキは一つ、深い溜息をつき
「みんな……。こんな俺でも愛してくれて嬉しいよ。今夜はみんな満足させてやるけど、これからは考えてくれよ。」
 そう言い、苦笑した。
 だが、その笑顔は今までのイブキの笑顔の中でとても心がこもっていたような気がした。
 『こういうサービス……作ったら喜ぶ人が多分いるんだろうな……』
 そんな皮肉混じりなことを考えながら……


  ◇


 一方、男衆はというと……
「全く……イブキも女どもももう少し気を使ってくれないもんかな……」
「ま、まあ……俺も確かにイブキのことは好きだけど、まさかあそこまでとは……」
「でも久し振りにみんなでイブキに恩返しがしたいって集まって話してたけど……これでいいかもね」
 みんなが使っている部屋の外でそれぞれ自慢のイチモツをギンギンに滾らせて、涼しい会話をしていた。
「仕方がない。一発ヤらないと静まりそうにねぇな……女のとこ行ってくるわ」
「俺も行く」
「というかこの場を離れないと気まずいでしょ」
 そんな会話をしながらイブキの他のポケモン達が眠っている納屋へとゆっくり歩いて行ったのだった。
 勿論、次の日はイブキの育て屋には臨時休業の立札が立っていたがその話はまたどこかで…。


あとがき 

どうも自分です。
COMという者です。
今回の作品準優勝という素晴らしい評価をいただきました。
そこで一つ…。
実はこの作品、続き物の第一話です。
やっちゃいます…というかやっちゃいました…。
今までのように遅い更新をし続けるので生暖かい目で見守ってください。

以下、大会でいただいた感想への返信をば…

読んでる途中に妄想が爆発しそうでした(笑) (2013/04/01(月) 04:26)

>>それはありがたいお言葉を…。
お好きに妄想してやってくださいw


とてつもなく面白かったです! (2013/04/01(月) 11:52)

>>ありがとうございます。


内容が好みでした (2013/04/01(月) 22:32)

>>気に入って頂けましたか!
続きも書く予定なのでご期待下さい。


最後まで楽しく読ませていただきました。
こういう育て屋さんがいるといいですね。
(2013/04/06(土) 01:43)

>>本当ですね~。
実はイメージとしてはBW2の育て屋みたいな感じです。
クリア後しか使えないので。


泣きそうになっていたのですが最後のほうのエロシーンで涙も何もかも吹き飛んでしまいました(笑)
こういう作品を見るたびに厳選をするのがつらくなりますね
まあそれでも厳選はするんですけどね(笑)
二人(二匹)のゾロアークが欲しいです くだs(殴 (2013/04/06(土) 02:02)

>>シリアスとシュールこれはいつも紙一重!(キリッ)
自分は厳選しないのでポケモン弱いですが、愛があれば関係ないよね!
厳選して生まれた要らない子は逃がさずにイブキさんの所に連れて行ってあげてくださいね?


これは貴方ですね(笑)


イブキ君大人気じゃないですかww
大変キャラの気持ちが伝わって来ました。 (2013/04/06(土) 03:06)

>>バレましたか~w
バレますよね~ww
大人気ですがその気はありませんw
今後どうなるかは知りませんが…。


かなり感動させられる作品でした。
エロも軽いタッチで書かれていたように感じたので、どちらかと言うと心に響く作品を目指していたのでしょうか。
なんにせよ、素晴らしい。
私の心に残ったこの作品に、一票! (2013/04/07(日) 01:32)

>>言うなれば序章なので確かに全体的に世界観を伝えることに重点を置きましたね。
だがまだだ…まだ終わらんよ!!


一番いいと思いました (2013/04/07(日) 10:03)

>>一番だなんてとんでもない…。
しかし、その一票は確かに無駄ではありませんでした。
投票ありがとうございます。


現実のゲームの状況を訴えてきつつも、エロさを忘れない・・・。一票入れるしかないっ (2013/04/07(日) 23:24)

>>貴様、この作品読み込んでいるなッ…!
ありがとうございます。


とても読みやすく、話もまとまっていて読んでいて楽しかったです。 (2013/04/14(日) 20:59)

>>ありがとうございます。

以上コメント返しでした。


コメント 

お名前:
  • 続きですかー
    楽しみに待ってたかいがあります。
    執筆頑張って下さいね!多分みんな期待しています!
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-04-30 (火) 16:38:32
  • >>通りすがりの傍観者さん

    感動していただけましたか!
    でしたら私は嬉しい限りです。
    続きは最近また忙しくなってきたのでいつも通り遅くなります。

    >>ピカチュウ大好き人間さん
    ありがとうございます。
    というか投票していただいたことはわざわざボソッと言われなくても嬉しいですよw
    ――COM 2013-04-19 (金) 00:25:56
  • COMさん貴方でしたか!!いや~物凄く面白かったですよ♪
    ボソ(1票入れさせていただきましたよ)
    ――ピカチュウ大好き人間 2013-04-18 (木) 18:56:45
  • COMさん、まずは大会で第二位、おめでとうございます♪

    実に面白い作品でした。自分のやって来た所業を悔い改め、罪?を償おうとするイブキ。
    そして、そのイブキに逃がされながらもイブキのもとに残る事を変えなかったポケモンたち。
    そのシーンではめっちゃ感動しました。ポケモンとの絆の強さがひしひしと伝わってきました。

    続きがあるそうですね。頑張って下さい!!
    ――通りすがりの傍観者 ? 2013-04-15 (月) 07:37:19
  • やはりこの作品を書いたのはCOMさんでしたか。プラグインの使い方から簡単に見抜くことができました(笑)。この作品を読み終えたとき「これは上位に入るな」と私は確信しました。とても素晴らしい作品です。イブキ君、これからも育て屋と裏の仕事、どちらも頑張ってくださいね。


    続きがあるのですか、それは楽しみです。
    大会お疲れ様でした。
    もう少し文才があればましなコメントができるのですが…本当にごめんなさい。
    ――フィッチ 2013-04-15 (月) 01:35:26

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*1 好奇心は猫を殺す

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Last-modified: 2013-04-14 (日) 00:00:00
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