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第五話 初めての戦い、繋がり合う心

/第五話 初めての戦い、繋がり合う心

writer is 双牙連刃

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 日の光の届かない暗い場所……牢屋、だろうか? そこに男女一組が入れられている。
拘束はされてないが、両者共に眠っているようだ。動き出す様子がない。
かと思ったが、どうやら男性が目を覚ましたようだ。
「ここは……何処だ? ! マナミ! しっかりしろ!」
「うっ……コウジ、さん? あれ、ここは?」
 状況が分からないのは仕方ない。この二人はアツシの両親。つまり、さらわれたあの二人です。
「私達、家に居て……そうだ! 変な二人が家に来て私は通報を……駄目、そこまでしか思い出せない……」
「君はその後、あいつ等に眠らされたからね」
「……アツシは!? あの子はどうしたの!?」
 この牢の中にアツシの姿はもちろん無い。捕まってないし。
事実を知ってるコウジの顔が曇った……事実、つまりはアツシに何が起こったのかを説明しなければいけないからね。
真剣な面持ちになって、自分の妻を正面に見据える。様子の変化を察したマナミは夫の言葉を待っているみたいだ。
「……君に伝えなきゃいけない事があるんだ。とても、とても大事な事」
「大事な事? ……まさか、アツシの事……」
 言う前に分かるとは……勘が良い人のようだ。
一息ついてコウジが頷く。予想を裏切ってほしかったのか、マナミの顔が一気に悲しげになった。
「アツシが……ポケモンの姿になった。あの二人はアツシを捕獲しに来たんだよ」
「そんな! じゃあアツシは!?」
「大丈夫。俺が逃がしたよ。言葉はちゃんと通じたし、声も性格もそのままのアツシだった」
「そうなの? 良かった……」
 安心したのも束の間。焦りを浮かべた顔がまたコウジへと向けられる。
「でも、あの子は今……人の姿じゃなくなってるのよね? どうしましょう、きっと混乱してるわ」
「だろうね……くそっ! 俺に力が無かったからアツシを逃がす事しか出来なかった! 本来なら今こそ傍に居てやらなきゃならないのに!」
 後悔の念が篭った拳が床へと叩きつけられる。それは、自分の息子を守れなかった事への後悔にほかならないだろう。
そんな夫の肩にそっと手を置いて、マナミはなだめるように言葉を紡ぎだす。
「……あの子は、きっと大丈夫。あなたは逃がす事が出来たんでしょ? そんなに自分を責めないで……」
「こんな事になるのなら……もっと早く、アツシに本当の事を話しておけば良かった! 分かってた筈なんだ! アツシが『普通のポケモン』じゃない事は!」
「そうよ……あの子は『私達の子供』。でしょ? 落ち着いて、あなた」
「……ごめん、取り乱して……」
 静かに、ただただ静かに夫をなだめる妻。肝心な時に冷静になれる者は、強い。
それでもアツシの事を心配していない訳ではない。内心はコウジ以上に心苦しく思っているだろう。
深く深呼吸をして、コウジも落ち着いたようだ。壁を背に、床へと座り込む。
「謝らないとな、アツシに。今までずっと、内緒にしてた事」
「そうね。その為には此処から出ないと。……でも、此処はいったい何処なのかしら?」
「窓一つ無い牢屋、か……。あれから何時間経ってるんだろう……アツシ、無事で居てくれ……」
 自分の子を想う両親に、一つの影が、近付いてきている……。



 ところは変わって、コトブキシティ。上を見上げりゃ並び立つビル。はっきり言って、都会だ。
そんな中に一際目立つ集団……とまでは言わない団体が居た。言わずもがな、アツシ達である。
「うわぁ~。コトブキシティってこんななんだ。僕、始めてきたよ」
「いつ来ても凄いよな~。俺も母さん無しで来たのは初めて!」
「人間がいっぱいだ~。凄いすご~い」
 皆それぞれに思う事はあるだろうけど、道端でビルを見上げてるのはいかがなものか? 田舎者じゃないんだから……。
まぁ、人を滅多にお目にかからないブイゼルのルゼがキョロキョロしてるのは分からなくはない。そもそも野生のポケモンが普通に市街に居るのはおかしいし。
それを言ったら現在ゾロアークであるアツシもおかしくなるし……あまりこの事には触れないでおこう。
さて、無事にコトブキシティ入りを果たしたのだから、目指すシンジ湖への障害になりそうなこの町は早々に抜けたいところ。でも、そうは問屋が卸さない。
見た事無いポケモンが居ればトレーナーの目を惹く。それがブイゼルなんかを抱っこしていれば余計に、だ。
タクアツコンビは気付いていないようだが、すでに一人、短パンを穿いた少年がアツシに気付き近付いてきている。
それにいち早く気付いたのは……。
「アツシお兄ちゃん。あの人間、こっちに近付いてきてない?」
「え?」
 まさかのルゼ。そのルゼの一言でアツシも気付いた。が、もう遅い。
「おい、そこの奴! そのポケモンお前のか!」
「……誰?」
「俺もトレーナーだ! なぁ、勝負しようぜ! そいつ強そうだし!」
 強そうだから勝負を仕掛けるとは……なかなか勇気はあるようだ。
どうするタクミ。トレーナーとしては一度申し込まれた勝負は断れないが……。
「勝負はしてもいいけどさ。アツ……こいつは、俺のポケモンじゃないからバトルには出さないよ?」
 言っちゃったよ。それはアツシが捕獲可能なポケモンだって言ってるようなものなんじゃないかタクミ君?
「え……だ、だって一緒に居るじゃないか! お前のポケモンじゃなかったらなんなんだよ!」
「友達。一緒に旅してる」
「……それは、お前のポケモン、って事じゃないの?」
「だーかーらー。アツは俺の手持ちじゃなくて友達!」
「え、だからさ? ……」
「もう、何回言わせるんだよ! アツは……」
 ……終わらない。このままじゃ終わらないぞこの会話。タクミの言おうとしてる事は分かる。アツシはタクミの友達であって、手持ちではない。事実だ。
でもそれは常識では通らない。基本、連れて歩くのは自分が捕まえたポケモンだから。モンスターボールの登録をしていないポケモンが暴れずにこんな所に居る筈が無いのが常識。
まぁ、アツシが常識の範疇外の特殊なポケモンだから起こる意見の相違だな。
「あの……こうなったら僕が説明するね」
「うわ! ポケモンが喋った!」
 はい、ますます混乱が深まっていきます。とりあえずアツシが相手の短パン小僧を落ち着かせる所からスタート!


~黒狐 説明中~  しばらくお待ちください……。


「っという訳で、僕は喋れるし、タクミのポケモンじゃないわけ。分かってもらえたかな?」
「うっそだぁ~。人間がポケモンになる~? 絶対に嘘だろ~」
「なんで信じないのかな? ウチの母さんやシロナさんは信じてくれたのに」
「シロナさんには説明、してないけどね……」
「あ、そうだっけ」
 そもそもタクミやタクミの母さんが特殊なんであり、この短パン小僧の反応こそ世間一般の反応であると取るべきだな。
「言っちゃえばさ、すっげー頭が良くて、人の言葉も喋れるポケモンなんでしょ? で、誰もトレーナーになってない」
「言ってみればそうだけど……」
 これは……不味いのでは? 何やら短パン小僧君、やる気になってますよ? 
ポケットから取り出されるのは……モンスターボール! トレーナーなら当然か……。
でもってアツシを捕まえようとするのも当然。だが、アツシは捕獲される訳にはいかない。
「そんなら、俺がトレーナーになっても良いって事だよな! いけっ! モンスターボール!」
「うわっ! とと……ルゼ大丈夫?」
「ビックリした~! お兄ちゃんって足速いんだね!」
 あっさりとボールを避けました。普通は弱らせないとポケモンの捕獲なんて無理なのは知ってるでしょうに……。
「あっれ~? 不意打ちでボール投げたから捕まえれると思ったのに……なんで避けんだよ~」
「それは避けるよ……僕にはやらなきゃいけない事があるし、君と一緒には居られないんだよ。危ないから」
「なんだよそれ? いいや。それなら……出て来い! ビッパ!」
 別のモンスターボールを取り出し、空中に放る。そのボールから光が飛び出し、やがてそれはポケモンの姿形作る。
短パン小僧のビッパ。つまりこれは……。
「やっぱり弱らせてから捕まえるしかないよな。ビッパ! 体当たり!」
「いくぞ~!」
 アツシを本気で捕獲しようとしてるな。強制的にバトルになっちゃったけどアツシは……。
「うわわ! る、ルゼ下ろすよ! タク! 僕の荷物持ってて!」
「わぁ! アツシお兄ちゃん!?」
「荷物持っててって……アツは戦えないんじゃないの!?」
 そう、基本的に人間として過ごしてきたアツシは技の出し方を知りません。そもそも自分がどんな技を習得してるかも知らないのだ。
とりあえず重りになってた物が無くなったおかげでアツシの動きは数段早くなりました。が、攻撃が出来ない。避け続ければ負けは無いかもしれないが、バトルに終わりも来ない。
「攻撃してこないポケモンなんて始めてみた。そのままだったらいずれ疲れて弱るよな。そんなら俺の勝ちだね」
「ど、どうしよう……」
「無理だってアツ! 俺がそいつを……!」
「何する気だよ! 今は勝負じゃないだろ! お前だってトレーナーなら捕獲の邪魔すんなよな!」
「うっ……」
 やっぱりそうなるか……。トレーナーが野生のポケモンを助けてはいけないなんてルールは無いけど、自分が捕まえたいポケモンを狙ってる時に横槍を入れられたくないのはタクミも同じ。
ましてやこれは強奪や乱獲なんかじゃない。短パン小僧からしてみれば邪魔される筋合いは無いか。

 だが、もし他の野生のポケモンがこの場に乱入してくるとどうなるのか? 答えは、もうすぐ……。
「てやぁ!」
「んぎゃあ!」
「な、なんだぁ!? ビッパ!?」
「えっ……ルゼ?」
 水を纏っての体当たり……アクアジェットがビッパにヒット! 不幸にも、急所を捉えたようでそのままダウンしたようだ。
「な、なんなんだよ! お前! 邪魔すんなよ!」
「いや、そのブイゼルはアツについて来ただけだから……俺のポケモンじゃない」
「それって……こいつも野生のポケモンて事か!?」
 正解。だからタクミの命令は聞かないし、人間のルールなんか知ったこっちゃ無い。この場で唯一アツシを助けられる存在に早代わりというわけ。
アクアジェット後、そのままアツシのところにルゼは戻る。その顔は誇らしげだ。
「アツシお兄ちゃん苛めてた奴やっつけたよ! 私えらい!」
「ルゼ……助かったよ。ありがとう」
 ニコニコしながらまたアツシに抱きついていった。よっぽど好かれたようだな……。
「お兄ちゃん強そうなんだから自分でやっちゃえばいいのに。なんで戦わないの?」
「えっと、僕は……技の出し方が分からないんだ。どんな技使えるのかも……」
「へぇ~……じゃあ戦えないんだ……」
 じぃ~っとルゼがアツシの顔を見上げている。何を思っているのでしょう?
今度はピョンとアツシから離れ、短パン小僧の方を見る。
「それなら……私がアツシお兄ちゃんを助ける~! アツシお兄ちゃんは私を助けてくれたから、それのお返し!」
「なんだこいつ!?お、俺を狙ってんの!?」
 短パン小僧ビビッた~。ビッパを回収し終わってるから逃げるなら今のうちだと思うが……。
「待ってルゼ! 助けてくれるのは嬉しいけど、人は攻撃しちゃ駄目!」
 構えているルゼにアツシの声が届いた。下手に小僧本人を攻撃なんかしたら大変な事になるからな。
で、アツシの前で行動停止。一応すぐに攻撃できるように警戒はしてるみたいだけど。
「いい? 相手がポケモンを出してきたら、そのポケモンだけを狙って。人の方はポケモンが戦えなくなったらそれ以上はこっちに手を出せなくなるから」
「そうなの? 分かった~」
 納得したようだ。素直な性格なのが幸いしたな。
一方で、焦ったのは短パン小僧。アツシは攻撃してこなかった為優位に進めていた捕獲バトルが、二体に増えてしまった。それも手持ちのビッパが一撃でやられている。焦らざるを得ない状況になったのだ。
それを察したアツシが、動く。
「これ以上の戦いは必要無いでしょ? 僕は戦えないから捕まえても戦力にはならないし、このブイゼル、ルゼは君じゃ倒せない。今諦めてくれるならもう僕達は君に攻撃したりはしないよ?」
 トレーナーとして、ポケモンにこんな事を言われるのは悔しいかもしれない。現に短パン小僧は悔しそうにしている。
懲りずにまたポケモンを出す事にしたようだ。腰のボールに手が伸び、また光がポケモンの形を取る。
「まだ……やるんだね」
「こうなったら意地でも捕まえてやるー! 行け! ムクバード!」
 今度は……ムックルを一段階進化させたムクバードか。さっきのビッパよりは強いな。
……ん? ルゼの様子が少しおかしい。怯えているような?
「ルゼ、どうしたの?」
「や、やだ……鳥……怖い……」
 鳥が……怖い? 相当に怖がってる……何か原因があるのか?
何にしてもこのままじゃ戦えない。向こうもトレーナーの端くれ、どうやら怯えてるのが見抜かれたみたいだな。
「なんかそのブイゼル怯えてんじゃん。チャンス! ムクバード、つばさでうつだ!」
 指示を受けたムクバードが真っ直ぐにルゼに狙いを定めた。迫ってくるムクバードに完全に怯んでしまっているルゼには避けようが……無い。
「あ、ぅあ……」
「ルゼ! ……間に合って!」
 攻撃が当たる瞬間、僅かに早く、影が滑り込んだ。
そのまま……本来ルゼが受ける筈だった技が影の方に当たる。弾かれた影の腕の中、来るであろう痛みを耐えるために目を瞑ったルゼの姿があった。
影の正体はもちろん……アツシ。
「くっ、ポケモンの技って……結構痛いんだね……」
「お、お兄ちゃん……なんで?」
「アツ! 大丈夫!?」
「えー? 今度はそっちがブイゼル助けるのかよー? ブイゼルの方倒しちゃえば終わりだと思ったのにー」
 不満をこぼしながらもムクバードを自分の方に戻して、再度攻撃する準備に入るようだ。
アツシ側は、少し涙目になったルゼを地面に下ろしたアツシが、ルゼに怪我が無いか確認をしていた。
「痛いところは無い? 平気?」
「私は大丈夫だけどお兄ちゃんが……」
 心配そうなルゼを、アツシは微笑みながら撫でてやる。ゆっくりと、落ち着かせるように。
「僕なら平気。ついて来ただけのルゼには痛い思いはさせられないから、ね」
「で、でも……それじゃお兄ちゃんは……」
 痛い思いをする、とでも言おうとしていたであろうルゼの口をアツシは塞いだ。そして、首を横に振って……。
「僕の為に誰かが痛い思いをするなら、僕はそれを止めたい。それで……僕が痛い思いをしてもね」
 そうルゼに言った後、今度は短パン小僧の方を向き直す。
でも……その間に短パン小僧から次の指示を受けていたムクバードがもう向かってきていた。
今度の狙いはアツシのようだ。加速を付けた体当たり、電光石火がまともにアツシを捉えていた。
「うあ! いったぁ……」
「アツなんで避けないのさ! さっきまでは避けれてたじゃん!」
 避けれないんじゃない、避けないんだ。今のアツシの後ろにはルゼが居る。避けてしまえばムクバードの攻撃がルゼに当たってしまうのだ。
だから、動かない。アツシの中で、まだ両親の事は大きな影を落としてるようだな。だから余計に誰かが傷つく事を恐れているのだろう。
「お兄ちゃん駄目だよ! そんな事したら!」
「……ねぇルゼ。どんな攻撃でも僕が受けてあげる。だから……僕に力を貸してくれない?」
「え?」
 不思議そうに首をかしげるルゼを軽く振り向きながらアツシは続ける。
「ルゼ、攻撃を受けないって分かってても、やっぱりまだ怖い?」
「怖、い……だって鳥は……私の事苛めるもん……」
「そっか……なら僕が、ルゼを苛めさせない。守るから、ルゼは攻撃に集中して。それでもまだ駄目?」
「お兄ちゃんが、守ってくれるの?」
「うん、必ず!」
「……なら、頑張る!」
 涙目になってたルゼの瞳が、目に見えて強い輝きを宿す。頑張るの一言に嘘偽りはなさそうだ。
それを確認してアツシも前を向く。相手はムクバードただ一羽。それでも、初めて戦うアツシには少し荷が重い。
でも、二匹でなら……。
「ルゼ! 僕の声をよく聞いて! そして、相手を怖がらないでよく見て!」
「うん!」
「な、なんだよ! 二匹で来るなんて卑怯だぞ!」
「今更言うなよ! 今まで散々アツの事攻撃してたくせに!」
 そうそう。言うのならルゼが割り込んで来た時に言うべきだ。それをしなかったのは黙認したも同じ事。タクミの言うとおり今更だ。
「くっそー! こうなったら両方倒してゲットしてやる! ムクバードやっちゃえ!」
 やけくそになってムクバードをけしかけて来るとは……冷静さを欠いた指示は戦況を不利にするだけなのに。
具体的な指示が無かったムクバードが選んだ攻撃は、至ってシンプルな体当たりだった。もちろんそれは、アツシを倒すには至らない。
真正面からぶつかっていったムクバードは、アツシにぶつかったまでは良かったものの、逆にその衝撃に耐え切れずその場でフラフラとしてしまっている。
「ルゼ! 今!」
「たぁぁぁぁ!」
 アツシの後ろから飛び出したルゼはふらつくムクバードにアクアジェットを仕掛ける。
打ち上げるようにしてムクバードが宙で弾かた。そのまま地面にぶつかるも、まだ起き上がろうとしている。
「最後だよルゼ! もう一回!」
「行っくよぉぉぉ!」
「わー! ちょっと待って! タイム! ストップ!」
「もう遅いって! ブイゼル決めちゃえー!」
 大きく息を吸い込むように溜めた力を一気に解放する。溜めた力は水流となりルゼの口から放出された。
水鉄砲はムクバードに更なるダメージを与える事に成功。水圧によってまた弾かれたムクバードは着地地点で目を回したようだ。
「ま……負けた……攻撃出来ないポケモンと臆病なポケモンに……」
「ふぅ……これで終わりだよね? それとも、まだポケモンを出してくる?」
「くっそーーーーー! 覚えてろよーー!」
 お決まりのセリフを残して短パン小僧は逃げていく。アツシ達の勝ちが完全に確定した瞬間である。
「や……やったぁ! 鳥倒したよ!」
「うん! ……ルゼ、頑張ってくれたからね。ありがとう」
 共に戦った二匹のポケモンに周りから拍手が巻き起こる……ん? 巻き起こる?
「あ~……アツ? 勝って嬉しいのは分るんだけどさ? 早くここから移動しようよ。めっちゃ……目立ってるよ俺ら」
「へ? ……」
 道端であんなバトルをしていれば当然だといえる。野次馬に囲まれるのも。
次のチャレンジャーが出る前に早々と移動すべきだな。
「うわぁ! た、タク! ルゼ! 行こう!」
「ひゃあ! 急に抱っこしないでよお兄ちゃん!」
「だぁ! アツ脚早っ! 待ってって!」
 一目散に町の外を目指して駆けていくアツシを二人分の荷物を背負って……ないタクミが追いかける。アツシの分はメットを出して持ってもらったようだ。
主役達が居なくなったので野次馬の集団も散りじりになった。幸いな事に、あまり大騒ぎにはならずに済んだようだ。



 コトブキシティを一気に抜け、マサゴタウンとの境にある202番道路。そこでやっとアツシは止まった。
「こ、ここまで追いかけて来る人なんて居ないよね? ……あ、あれ? タク?」
 アツシは気付いてなかった。自分の身体能力が人であった時より遥かに高まっている事に。比較対象も居なかったし、色々あったし。
今まではタクミがリードして動いていたから問題無かったその事実が今、浮き彫りになったのである。
「あ、アツ……待って……よ~」
 ヘトヘトになったタクミがやっとアツシに追いついてきた。後ろからメットに支えられている。
そのまま地面にへたり込んでしまった。やはりポケモン……ゾロアークと人間とではスタミナもスピードも違うようだ。
「はぁ……はぁ……早過ぎるってアツ……そんなに早く走れるの? ポケモンって?」
「え、あ……とにかく急ごうとしか思ってなかったから……ごめんタク」
 片手にルゼを抱えながらもう一方の手でタクミの背中をさすっている。そんな様子のアツシに一匹のポケモンが近付いていく。
「ちょっと! あなたは何? 私のご主人と知り合いみたいですけど」
「え? あ、メット。ごめんね僕の荷物持ってもらって」
「へ? なんで私の知らないポケモンが私の名前知っているんです?」
「あ、僕ちゃんとメットの言葉も分かる。タク~! メットと話せそうだよ~!」
「マジで!? やった~!」
「ちょっと! 質問に答えなさい!」
 話が噛み合わない。アツシは船での約束を覚えていたからタクミにいち早く喋れた事を伝えたかったんだろう。
でも、自分の質問に返事をされなかったメットは不服そうだ。当たり前だな。
慌てた様子でアツシがメットに返事をして……案の定メットは疑いの視線をアツシに送る。また説明タイムに入るしかないようだ……。

~少年一同移動中~

 出ていたメットに、ボールの中に居たショックも加わり、現在一人と四匹はシンジ湖への道を歩みながら話をしていた。
「おでれぇたな。まさかこのポケモンがいつも遊んでくれてるアツシだなんてよぉ」
「にわかには信じられませんね」
「すぐに信じてもらうのはやっぱり難しいか……そうだ! これだったら信じてくれるかな?」
 立ち止まり、リュックの中からサッカーボールを取り出す。軽くリフティングをした後……。
「ほらショック。行くよ」
「お!? うぉっとと……」
「あぁ、確かにサッカーならアツだって分かるかもね。俺もそうだったし」
 パスされたボールは緩やかにショックの足元に届いた。急だったから少し慌てた様子でショックはボールを受け取る。
「この感じは……いつものアツシのボールの感じだ。おいらが蹴りやすい感じの」
 パスされたボールをアツシに戻しながらショックは呟く。戻されたボールを今度はメットへと蹴り出された。
次第に皆楽しくなってきたのか、いつもと同じように笑顔でサッカーを始めていた。コートなんか無くても、そこにメンバーが居て、楽しければそれで良いのだろう。
よく分かってないルゼも参加して、しばしの楽しい時間が流れていく……。

 しばらくしてアツシがひょいとボールを拾い上げた。そもそもまた道端でこんな事を始めていたら目立ってしまう。
「えー? 終わりかよー? もっと遊ぼうぜアツシー」
「そうですよー。折角楽しくなってきたのにー」
「ショックもメットも、僕がアツシだって信じてくれたみたいだね」
 笑顔を二匹に向ける。自分達が目の前のポケモンの事をアツシと呼んだ事に気付いたのか、二匹はお互いの顔を同時に見合わせていた。
その様子に笑いを堪えている現二匹のトレーナー。内心はほっとしたのかもしれない。二匹が自分の友達の事を認めたであろうこの状況を。
一匹、いまいち状況の分かってないルゼがアツシの手を軽く引っ張る。
「ねぇお兄ちゃん。このポケモン達はだぁれ?」
「ん? えっとね、あのタクのポケモンで……僕の友達!」
 友達と呼ばれた二匹が少し照れた反応を見せた。面と向かって言われるのはやっぱり照れが出るものなんだろう。友達というのは。
その隣でアツシとルゼが会話してるのを羨ましそうにタクミは見ていた。きっと「自分もポケモンになれればなー」なんて思ってるところなんだろう。
お、何か閃いたのか、目を輝かせながらアツシに近付いていく。
「そうだアツ! 約束約束! ショック達の言葉通訳してよ!」
 それを思い出したのか。コトブキシティに入る前にやろうと言っていた事が、ずいぶんとずれてしまったからな。
「分かってるよ。歩きながらでも良いよね?」
「あったりまえじゃん! 目指すはシンジ湖! でもショック達と話すのも楽しみー!」
 ポケモン四匹に囲まれながら一人の少年が歩いていく……端からみればおかしな状況かもしれないが、本人達は至って楽しげだ。
もうすぐマサゴタウン。目指すシンジ湖にかなり近付いてきている。
「そういえばさ、さっきのアツとそのブイゼル……ルゼだっけ? 凄かったよなー。一緒に戦ってたけど、トレーナーとパートナーみたいだった!」
「そうかな。……トレーナー、か」
 腕の中のルゼを見る。視線に気付いたのか、ルゼもアツシの方を向いた。
目と目が合って、お互いに笑顔になる。もしかしたらアツシは……とても大事な出会いをしたのかもしれない。
心が通じ合う……自分のパートナーとの出会い。それは、ほんの小さな出来事から始まる事もある。
この二匹がそのパートナーになれるかはこれからの二匹が紡いでいく時間に寄るかもしれない。
でも、今此処には、他人でも感じられる繋がりが芽生え始めているようだ。
繋がり……それはポケモンになってしまったアツシを確かに支えている。だって……また笑えるように、なったのだから。
お喋りと笑顔を引き連れて、少年達は歩んでいく……。



お詫び?
しばらくぶりに第五話が出来ました! お待ち頂いてくれていた方々が居るかは分かりませんが……。
さて、お詫びと言いますのは第四話の事でございます。読み返して相当に散らかった出来に自分でorzな気分になりました。自分バカス。
あれは酷いと思いまして、今回から少し自己内ではまとめた感じにしてみたつもりです。(何処が変わった? と怒られそうですが……)
もしこれで読み難い等の不満がありましたら↓のコメント欄にお願いします。(反映されるのは次話からになりますが……)

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 待ってました!!
    と、後書きにコメントする自分。

    技が出せない時は、悪あがきとかだせそうですけど…
    やっぱり痛そうですね(笑)

    ところで、ゾロアークの足でサッカーしたら
    ボールが割れそうな気がします…
    (昨日、ゾロアークフィギュアで服の隅っこを破いてしもうた…)

    乱文失礼しました。
    次回もマターリ待ってます。執筆がんばってください!
    ――チャボ 2010-08-30 (月) 17:44:31
  • お、待っていました! やっぱり、いいですねぇ。続き待っています!          自分は、AQUARIUSと名乗っていたものです。   
    ――くろのす@ ? 2010-08-30 (月) 20:55:13
  • 早速のコメントありがとうございます!

    >>チャボさん
    悪あがきは痛そうですよねw
    因みに、技が出せないと言ってはいますが、PP切れな訳ではないので悪あがきは使えないって想定で書いてます。説明してませんが……。

    サッカーも爪先では絶対に蹴れませんw おっしゃる通りボールが割れてしまうと思いますw

    >>くろのす@さん
    お待ち頂けるとは……なるべく早く次の話を仕上げれるよう頑張ります!
    あ、改名されたのですね。了解です!
    ――双牙連刃 2010-08-31 (火) 15:32:21
  • おお、続き楽しみにしてましたよー
    これからも期待してます!
    ――SFS ? 2010-08-31 (火) 19:08:09
  • >>SFSさん
    返事が遅れました! 申し訳ない!
    続きはぼちぼち書いてますー。そう遠くならないうちにUP出来るといいなぁ……。
    ――双牙連刃 2010-09-07 (火) 18:08:24
  • 幻影少年… 読み返すとここまでの展開が面白いだけにもったいないですね…。
    スルーしてもらっても構いませんが黒歴史スパイ作品を誰かに代わりに執筆してもらうというのはどうでしょうか。双牙連刃さんにもメリットがあるし代理で執筆して下さった作者さんにもメリットがあると思うのですが…。
    どうか御検討宜しく御願いします。
    ――妄想人間 ? 2013-02-04 (月) 01:53:30
  • >>妄想人間さん
    確かに私も勿体無く思ってはいたんですよね。プロットも大分固まっていましたし…。
    私の黒歴史作を代わりに…ふむ、面白そうですね。自分の生んだキャラクターを他の方がどう表現してくれるかと言うのは、前から興味もあったりしましたし。
    ただ、その場合は代わりで執筆というより、キャラクターや世界設定なんかは使いたいだけお譲りします。その方が申し出てくれた方も書き易いだろうし、私もその新しい世界を見てみたいですからね。もちろんキャラや設定の変更は自由で。
    うーん…こういうのってどこで募集というか告知すればいいんでしょうね? とにかく、面白いアイディアをありがとうございます!
    ――双牙連刃 2013-02-05 (火) 19:19:06
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Last-modified: 2010-08-30 (月) 00:00:00
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