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研究レポートの束その1

/研究レポートの束その1

大会は終了しました。このプラグインは外して下さって構いません。
ご参加ありがとうございました。


夢の個人研究 


今作はオムニバス形式の短編集のような物になっています。
人によって好きなシチュエーションやポケモンに差があると思うので、嫌な話は読み飛ばしてもらっても話の前後の繋がりは基本的にございません。
もちろん、全部を通しで読んでもらえれば少しずつ話は進んでいっているのでどちらでも構わないような作りになっています。
若干のネタバレを含むため、話の初めに登場するポケモンと人を選ぶシチュエーションを反転で記入します。
好みのある方は確認してから進んでください。

全ての話がポケモン×人間♀となっています。


レポート01:たまごタイプ りくじょう 


登場ポケモンゾロアーク

シチュエーション破瓜

 どれほどの間、目の前のパソコンの画面と睨めっこを続けていただろうか。
 長い間光の刺激を受け続けて、目が疲労し過ぎてまともに画面を見続けることができなくなり始めても、その白衣を身に纏った人はカタカタとキーボードを打ち続けていた。
「グァウ」
 そんな無理を続けているその研究員の耳元に、不意にそんな鳴き声が聞こえた。
 その研究員はようやく我を取り戻したかのように、その声の主が居る方へ何時間か振りに正面に固定されていた顔を動かした。
「おや、蒸しタオルとは気が利くじゃないか。流石は私の唯一の助手だ」
 顔を向けた先には漆黒の体毛と、そこから伸びる真紅の爪の上にホカホカとまだ湯気を立てるくるくると巻かれたタオルがあった。
 研究員の唯一の助手と呼ばれたそのポケモンはゾロアークというばけぎつねポケモンだ。
 周囲の人に幻影を見せ、群れを守るとされるゾロアークはその研究員の最初の研究対象だった。
 元々、データを取るためにこの研究機関が集めたポケモンの内の一匹だったのだが、この研究員と気が合ったのか、全体を通した大きな研究が終わり、解放された後もこのゾロアークは研究員の元に留まり続けた。
 そしてその後も研究員の元で様々な研究の手伝いや、ゾロアークを対象とした実験の被検体になってもらったりしていた。
 そして今もこのゾロアークはほんの少し前までこの研究員の指示の元、様々な条件や指示通りに幻影を出し、その能力の範囲や影響力などの詳しいデータを取っていた。
 この研究員が今パソコンに向かってずっと何かを打ち込んでいるのも、先程取ったそのデータの値を入力して、レポートとして提出するための纏めをしている最中だった。
 そしてこの研究員はゾロアークにお礼を言ったのにも拘らず、爪の上にちょこんと乗っているタオルを受け取ったかと思うと、それを机の隅の方に置き直し、またカタカタとキーボードを叩き始めた。
 ゾロアークの気遣いを無碍にし、作業を続けるそんな様子の研究員にゾロアークは特に落胆するでもなく、いつもの事と分かりきったかのようにガウと返事をし少しだけ嬉しそうな表情を見せてそのままその研究員の横に座り込んだ。
「よし……。これで問題はほぼ無いだろう。有難く使わせてもらうぞ」
 既に蒸しタオルからは湯気すら立ち昇らなくなるほど時間が経ってから、漸く研究員はその作業を中断することなく終え、蒸しタオルだったものを手に取って広げた。
 その声を待ちわびていたかのように、座っている間に終わらなかったため、丸くなっていたゾロアークはスッと立ち上がった。
 研究員はそのタオルを顔に乗せ、背もたれに体を預けたが、ほんの一分もしない内に
「ふむ……。冷やしタオルでも同等の効果が出るかと思ったが、やはり期待外れか。もう一度作ってくれ」
 そう言って、顔の上の冷え切ったタオルをゾロアークに渡した。
「グァウ」
 分かりきっていたかのようにゾロアークは返事をし、そのタオルを受け取って、これまたすぐに替えの蒸しタオルを持ってきて渡した。





     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇





 翌日、夜遅くまで作業をしていたのにも関わらず、研究員は健康的な人間と同じような時間に起きた。
 しかし、実際の所は不健康な睡眠時間であるため、見事なまでに下目蓋を腫らし、うっすらと隈を浮かべた目のまま無理矢理散らかった研究室をさらに散らかしていた。
 研究員がそうするのを分かっていたかのように、あらかじめ寝溜めていたのか元気なゾロアークは、新たに床へとばら撒かれていく紙の山や複雑そうな道具をを素早く拾い、元の位置へ戻していく。
「何処だ……? 流石に昨日無理をし過ぎたせいで頭が回らん……」
 ブツブツと独り言を漏らしながら研究員は後ろで必死に綺麗にしてくれているゾロアークの事など意も介さず、次々と荷物の山をひっくり返していた。
「あった! ……よし! 道具一式纏めたままだな。これですぐにでも旅立てる!」
 荷物の山から周りの荷物を雪崩のように崩しながら、大きな登山用バッグを引っ張り出して研究員は嬉しそうに叫んだ。
 それにつられてゾロアークも嬉しそうな笑顔を見せた。
「朝から騒々しいなアカリ研究員。何をしているんだい?」
 物の山から誇らしげに大きな鞄を掲げるアカリと呼ばれた研究員とそれを嬉しそうに見つめるゾロアークの元に、そんな事を笑いながら言い、一人の男性が入ってきた。
 その男性もアカリと同じように眼鏡を掛け、白衣に身を包み、少し細身の彼に似合わない無精髭を蓄えた様子から分かるように、彼もここの研究員だ。
「私の事をそう呼ぶのはやめたまえ。君もワタル研究員と呼ばれるのはいい気はしないだろう?」
 アカリは荷物を降ろしてワタルと呼ばれたその研究員に顔を向け、別段嫌そうな顔はせず、というよりもあまり感情の読み取れないような喜とも怒ともとれない表情でそう答えた。
 するとワタルもごく普通の笑顔で大きく笑った。
「確かにその通りだね。ただ、君はそう呼んでも不自然ではないくらい研究に没頭するからね」
 ワタルは部屋をぐるりと見回すようなジェスチャーも交えてそう言った。
「これは散らかっているのではない。必要な物をいつでも使えるように置いている。事実、私は何処に何があるのかをきちんと把握しているし、積まれている道具は全て前後30日以内に使用する代物だけだ。例えば、君から見て左手奥のその道具は……」
 アカリはまた表情のないまま、しかし決して相手を不快にしない僅かに上がった口角のまま長々と説明を始めた。
 その様子を見てもワタルは苦笑もせず、普通に笑っているところを見ると、アカリのこの調子もいつもの事なのだろう。
 一通りアカリの記憶力の凄さを見せ付けられた後、ワタルは本来聞きたかった事を聞くことにした。
 正直な所、長々と続く説明を聞くよりも、途中で遮る方が色々と面倒だったので止めなかっただけだ。
「ご高説有難う。ところでさっき君が持っていた山男が背負っていそうなバッグは一体何に使うんだい?」
 そう言われ、アカリは石のように固まった。
 彼に説明するのに夢中になり過ぎて、ようやくの思いで見つけ出した鞄をもう一度道具の山の中の何処かへ仕舞い込んでしまったからだ。
「ゾロアーク! そっちの山から探せ! 多分、初めの方に触ったからその辺りにあるはずだ!」
 アカリは慌ててゾロアークにも指示を出して、道具の山から鞄を捜索させた。
「何処に何があるか把握してるんじゃなかったのかい?」
 ワタルは意地悪そうな笑顔で笑いを堪えながらそう言った。
「あれは別だ! というか今すぐ必要だというのに!!」
 そう言って慌てて山をひっくり返しているアカリを見て、ついにワタルは笑いを堪えきれなくなり、大声で腹を抱えて笑った。
「酷いじゃないか君! 人が困っているというのに!」
 あからさまに焦った表情を見せるアカリは、一つ山をひっくり返し終わり、二つ目の山に取り掛かる途中でワタルにそう言った。
 ひとしきり笑った後、ワタルは笑い過ぎて溜まった涙を拭いながらはいはい。と軽い返事をして鞄の捜索を手伝った。
 散らかった部屋をさらに散らかすこと5分。ようやくお目当ての鞄が見つかり、アカリは何処かの緑色の勇者のように誇らしげに掲げた。
「ようやく見つかったみたいですね。ところで、その荷物は何なんですか?」
 僅かに額に汗を浮かべたワタルはその汗を拭いながらアカリにそう聞いた。
 すると、アカリは鼻息を荒くし、目をキラキラと輝かせてワタルの方へ向き直し
「よくぞ聞いてくれた! これこそ私が叶えるべき『夢』だ!」



          レポート01:たまごタイプ りくじょう



 世の中には俗に『天才』と呼ばれる人間がいる。
 この人、アカリも天才と呼ばれるに相応しい人間だった。
 ただ、残念なまでに天才と呼ばれる人間はある一つの分野に飛び抜けているが、性格に難があったり、それ以外の事が一切できなかったりする。
 前述したように、アカリは天才である。
 若干18歳でポケモンに関する研究施設にスカウトされるほどの飛び抜けた知識と貪欲なまでの探求心があったが、部屋の惨状然り、アカリも他がとにかく酷かった。
 分かりやすく言うとモラルが非常に欠けているのである。
 アカリの部屋も他人から見れば強盗が入った後のような状態だが、アカリにとってみれば必要な物が必要な場所にまとめて置いてある『まとまった状態』なのだそうだ。
 これらのことを踏まえた上で、アカリの言う夢について説明しよう。
 元々、アカリはポケモンに関する関心が非常に高かった。
 とても多種多様に進化、分化していった生物であるポケモンは、大きく容姿の違う者同士でも意思の疎通ができる。
 それどころか世界で初めてポケモンに関する詳しい研究を始めたオーキド博士によるミュウの存在とその不思議な遺伝子によって僅かにポケモンという生き物の世界が紐解かれた。
 それからは西部開拓時代の如く、次々と世界中の権威あるポケモン研究者達が未だ謎の多いポケモンの生態を明らかにしていった。
 幼い頃から様々なポケモンとよく触れ合っていたアカリはそこで一つの疑問を抱いた。

 『何故、ポケモン同士は互いに会話ができるのに、人間とポケモンは会話ができないのか』

 その疑問はアカリが12歳になる時に読んだ本によって解決した。
 『シンオウ神話』に載っていた文章は、アカリにとっては衝撃的であり、同時に夢が決まった瞬間だった。
 本来、近しい存在だった人間とポケモンは恐らく、会話も可能だったのだろう。
 しかし、長い時間をかけて、人間とポケモンというとても大きな差を持った進化を遂げ、代わりに意思の疎通を困難にした。
 もし、この定説が間違っていないのなら、人間はもう一度、ポケモンの言葉を理解することが可能なはずだ。
 そして、イッシュ地方で起きた大きな事件とそこに深く関わっていたとされるNという『ポケモンの言葉を理解する』青年の存在が、アカリの定説を確信に変えた。
 アカリはその確信をすぐに実行に移したが、あまりにも無茶苦茶だと言われ、否定された。
 というのも『人間の自然進化、又はポケモンの自然進化、及びその双方の自然進化の可能性』という論文を提出したからだ。
 提出しただけならば『前衛的な見解だ』とか『とても興味深い』という曖昧な言葉で研究者達は興味を惹かれたような振りをするだろう。
 しかし、アカリは既に、その研究に協力してくれる人達の公募を行なっていた。
 その研究内容とは、第一条件として人間がポケモンの遺伝子を受け取ることができるか、第二条件としてポケモンが人間の遺伝子を受け取ることができるか。というものだ。
 アカリも研究者であるため、小難しい言い回しが好きなのだが、要約すると人とポケモンが淫らな行為をして子供が生まれるかということである。
 もう一度言うが、アカリにはモラルが足りない。というよりもモラルがないのかもしれない。
 多くの研究者が集まる場でアカリは恥ずかしげもなく、堂々と自らの論文を発表した。
 結果は当然、非難囂囂。
 倫理観も道徳心も無いと散々に言われて、それに対するアカリの猛反論も虚しく、同じ研究所の仲間達から会場外へなんとか引っ張り出してその場は済んだ。
 研究者への発表は散々。ならば研究成果で見返せばいい。
 そう思い、公募の結果を見てみれば、これまた予想通り、ただの一人も応募した者がいない。
 アカリは憤慨した。
 それが人類とポケモンたちのさらなる共存繁栄であるというのにも関わらず、そんな歴史的研究に自ら名を刻もうという者が唯の一人もいないという事に。
 ここまでがアカリの主張だが、勿論、そこに『成功すれば』歴史的研究ではあるが、失敗すればそれはただのポケモンと交尾したいという変態が集まっただけというレッテルをはられるだけだということはアカリには分かるはずがなかった。
 しかしアカリは腐っても研究者。たかだかそんなことで挫けるような心は持ち合わせていない。
 決して一気に一度で終わらせる必要はない。長い時間をかければ、一人でもその実験を行うことも可能だ。
「で、君は旅に出る……と?」
 アカリの夢は日頃からよく聞かされていたワタルは、鞄と夢というキーワードですぐにアカリが何をしようとしているのか気が付いた。
 そこまでは笑顔を絶やさずに話を聞いていたワタルだが、アカリが満面の笑みで首を縦に振ったのを見て、眉間に皺を寄せ、深い溜息を吐いた。
「僕は確かに君を研究者として尊敬しているし、君の研究の成そうとしている事の凄さも分かる。だけど、今から!? もうすぐ研究の発表会があるんだ。そこで今回は君からの発表が無しとなれば他の研究者達は確実にこの研究所を馬鹿にする。忘れちゃならないが君はここにとって重要な人間なんだよ?」
 顔を下に向けたまま、首を横に2回振ったあと、ワタルは少し怒り気味にアカリの方を見て言った。
 凄むワタルとは裏腹にアカリは涼しい顔のまま鞄をその場に置いて、唯一散らかっていない机の前まで歩き、そこに山積みにされた紙の山をバンと叩き
「問題ない。ここにこの先、半年分の学会に発表するための研究記録がある。私が不在の間はこれを君が代役で使ってくれ」
 と言ってみせた。
 少しの間、アカリが何を言っているのか理解できなかったのか、ワタルはポカンとしていたが、一呼吸置いて質問した。
「半年分? いや……不在の間の事を考えて先に纏めていてくれたのは助かるけど、半年分? 悪いけど本当だとしても言ってる意味が分からない。終わらせたの!?」
「一応、計画では全てのタマゴタイプでひとまず一種類ずつ被検体を自ら探して検証するつもりだ。半年も掛からないだろう」
 驚きの表情が隠せないワタルに対し、アカリは微妙に的を得ていない返答をした。
 もう一度言うがアカリは天才だ。
「その半年分の研究成果物は一体、どれだけの期間で?」
 もう一度ワタルが質問をすると、アカリはゾロアークの方を指差して
「あのゾロアークに関する研究レポートを精密なデータまでとって細かく研究テーマ別に分けた物を一週間程で全て纏めた。お陰でこの数日間は寝不足だが、それもこの研究の為と思えば苦ではない」
 そう言ってのけた。
 当たり前だが、ワタルはそれを聞いて唖然としていた。
 普通の人間は半年分の研究成果を一週間で纏めたりはできない。
 それだけで恐ろしい才能なのだが、アカリ曰く『既に分かっていることを更に理解することに殆ど意味はない。必要なのは開拓だ』とのことだ。
 誰も調べたことのない、その先を見た事がないことを研究するのが科学者の本質だとアカリは語るが、誰しもがそう易々できることではないことを平然と言ってのけ、更に実行してしまう辺りが天才と呼ばれる人達の所以なのだろう。
「……そこまでしてくれたのならもう何も言わないよ……。けど、ポケモンを集めてくるのかい? それなら研究所の経費で落とした方がいいだろう?」
 ワタルが半ば諦めたのか、溜息混じりにそう言った。
 確かに、研究所に所属しているのならその方が時間もかからず手っ取り早い。
「いや、一度この研究所の成果物として論文を発表して拒否された以上、迷惑は掛けられない。きちんと正か否か結果が出てからその実験結果を論文としてまとめてからでないと私の主義に反する」
 だが、アカリはそう言ってワタルの申し出を断った。
 すると、ワタルはとても言いにくそうに難しい表情を浮かべて
「いやでも……。一応君も女性だろう? 全部自分一人でやるってことは……その……」
 そう言った。
 そう、ワタルが一番心配していたのはアカリが女性であるということだ。
「問題ないだろう? 誰にも迷惑をかけないし、寧ろ私ならば、その結果が出るまでポケモンを監視したり連れてまわる必要もないし、必要な荷物はレポートをまとめる紙と旅の荷物ぐらいだ」
 そういった研究所に迷惑をかけないような気は回るのだが、アカリに羞恥心はない。
 というのも、彼女としてはそもそも誰も協力者がいないから最終的にはこうなるだろうという打算の上での行動だった。
 そのため、彼女は自らのこの研究を『個人研究』と名打っていた。
 ワタルはいつもアカリのこの突拍子もない発想に振り回されているが、研究者として尊敬しているため特に強く言うこともなく、ひとつ溜息を吐いて
「ならそのゾロアークを連れて行けばいいじゃないか。君によく懐いているし、戦闘になった際には助けてもらえるだろう。というか、その子とは……。その……、試さないのか?」
 と、最後の方をしどろもどろになりながら言った。
 すると、アカリは頭の上に電球でも見つかりそうな程に驚いた顔を見せ
「そういえばそうじゃないか! 君もオスだったな! 無理強いはしないがどうする?」
 そう言いながらゾロアークの方へ振り返った。





     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇





 正直な所、彼、ゾロアークは諦めていた。
 何が……とは言うまでもないだろうが、彼はアカリに少なからず好意を持っていた。
 研究所に連れてこられるようなポケモンは基本的に研究対象でしかないため、道具とまではいかなくてもぞんざいな扱いを受ける。
 指示通りに技を出してデータを取り、何かよく分からない道具を持たされて技を出したり、既に臨床実験まで終わったとはいえ、よく分からない薬を投薬されたり……。
 それが終われば他の研究施設に移動したり、放されたり……と、まさに作業的に扱われるのだ。
 別にそれ自体は苦ではないが、過去にトレーナーと旅をした経験のあったこのゾロアークは出来ることなら、また誰かと触れ合ったり、感情の共有をしたいと思っていた。
 しかし、それなりに個体として優秀で、その能力も注目視されているゾロアークは今まさに研究所からすれば引っ張りだこの状態だったため、色んな研究施設を転々としていた。
 そんな日々の中でゾロアークが思ったのは、『研究者という人間は、決して彼らに対し酷い扱いもしないし、関心が無いわけでもないが、彼らの心には関心がないのだ』という結論だった。
 別に研究には無理矢理参加させられていなかったため、彼が意思表示をすれば自由の身にもなれたが、かといって自由になった所ですることもなかった。
 前のトレーナーは、彼を捨てたのではなく、引退してしまったため、別段トレーナーという人間に嫌悪感も抱いていなかったし、十分な愛情を受けていた彼はこれもまた運命、と半分今の状況でも満足していた。
 高望みをするなら、誰かともう一度だけ作業的ではない日々を過ごしたい。と思う程度だった。
 そんなある日、彼にとっては運命的な出会いをする。
 そう、この研究所に引き取られ、データを取る際に、指揮を執っていたアカリと出会ったのだ。
 彼女は恐らく、周りの人間から見れば変人だろう。
 事実、彼女は一点特化した才能の裏側にある、一般常識とはかけ離れた一挙一動が原因で、他の彼女の事をよく知らない研究機関の人間からは奇才だの変人だのと呼ばれていた。
「どうした? 疲れてるのか?」
 だが、ポケモンである彼からすればアカリは『普通の人』だった。
 アカリがゾロアークに対してそんな声を掛けたのは、彼がこの研究施設に来て、初めての実験の日。
 データを取るために様々な技を何回も使っていたため、ゾロアークはかなり疲れていた。
 だが、研究者という人間を知っていたので、『終われば休めるから』という考えの元、ゾロアークは今まで何度もそうしてきたように訴えることはなかった。
 そのため、久し振りにそんな言葉を聞いてゾロアークはかなり驚いた。
 研究者という人間が、自分に気を遣うというその行為に、だ。
「い、いや……。気にしなくていいよ」
 そう口に出したが、勿論アカリに言葉の意味は伝わっていない。
 しかし、アカリは少し微笑んで見せたあと、いつかトレーナーと一緒に旅をしていた頃のように
「よし! 現在でのデータ分析を先に行ってくれ! このゾロアークを一旦休ませる」
 アカリは伝わっていないはずのその言葉の意味を汲み取ってくれたような気がした。
 彼にとってトレーナーという人間が普遍的に『普通の人』であり、研究者という人間は『変な人』なのだ。
 事実、ゾロアークを休ませて、その日一日の全体の動きに遅れが出た行動は、皆から不思議がられたが、ゾロアークにとってはものすごく嬉しかった。
 数日後、ゾロアークはここでの簡単な実験が終わり、次の研究所へと移動する日が来たが、初めて自らの意思で断った。
 その一回だけだったらまだしも、その数日間、いつでも彼女は変わることなく、ゾロアークに気を遣ってくれたり、話しかけてくれたり……久し振りに頭を撫でてもらった。
 彼にとってとても望んでいたことをしてくれた彼女は、彼にとってもう離れがたいものだった。
「変わった奴だな。言っておくが、ここに留まるなら容赦はしないぞ? それとも私にこき使われたいのか?」
 そう言って頭を撫でてくれる人間は、今のところ前のトレーナーとアカリだけだったからだ。
「アカリが望むなら喜んで!」
 そう、自虐も含んだ返事をしたが、やはり言葉の意味自体は伝わっていないのだろう。アカリはその後、彼を助手としてアカリ自身が引き取ったが、言葉とは裏腹にただ大事に彼を扱った。
 初めの内こそ、ゾロアークは何とか久し振りにパートナーだと思える人間に出会えたため、色々と手伝おうとしたが、ポケモントレーナーと研究者では勝手が違い、何もすることができなかった。
「こらこら! そこの道具は明日使うんだ。そこに置いておいてくれ」
 よくわからない機械を片付けようとしたゾロアークはそう言ってその道具を取り上げられて、また頭を撫でられた。
 そこでゾロアークは気が付いた。
 彼女にとって自分は、パートナーではなく、ただの大きい猫のようなものなのだと。
 自分にとっては久し振りのパートナーと思っていたゾロアークは悔しくなり、初めて彼も研究者という人間をしっかりと観察し始めた。
 それから大分経ち、ようやくアカリが何をしたいと思っているのか、いつ何が必要なのかが分かるようになり、それなりに彼女のために動けるようになりだした頃、不意にゾロアークはアカリから声をかけられた。
「なんだ? お前、此処が気に入ったから残ったんじゃなかったのか?」
 アカリは彼が今から実験で使おうと思っていた道具を持ってきてくれたのを見て、その道具を受け取りながらそう彼に聞いた。
「俺は別に何処でもいいよ。アカリの傍に居たい」
 そう答えるとアカリはフッと笑い
「よく分からんが、私にこき使われたいとはお前もなかなかの変わり者のようだな。なら、望み通りこき使ってやるから覚悟しろよ?」
 そう言った。
 言葉の真意はやはり伝わっていないだろう。
 そして、ゾロアークの心も……。
 以前のトレーナーが不思議なほどに彼の心を汲み取ってくれる人だったからこそ、アカリとの微妙な意思の疎通のズレは彼にとってとてももどかしかった。
 その頃には既に彼は自分の気持ちに気が付いていた。
 そのもどかしさは、決して前のパートナーと比較して、アカリと心が通じないからではなく、いつの間にか意外と気が利いて誰にでも優しいそのアカリの本当の姿に恋していたのだと。
 彼女の事を変人と呼ぶ人が大勢いる事の意味が、最も身近で彼女の優しさを受けた彼からすれば全く意味が分からなかった。
 なんとか彼女に自分のその感情を伝えたい。そう思いながらゾロアークは毎日、彼女に引き取られた日の如く、文字通り助手として彼女の手伝いをし続けた。
 ここで話はゾロアークの心情の最初まで戻る。
 諦めていたのは、その自分の思いをアカリに伝えようとする事だった。
 彼もオスであった。なのにアカリは自分の個人研究を彼に夢のように語るだけで、彼と行為に至ろうとする素振りはなかった。
 何度も心が跳ね、その度に淡い期待をしたが、彼女の中に彼は異性として存在はしていなかった。
 『当たり前だ……。ポケモンと人間なんだ。アカリの言うように遠く離れた存在なのだろう』
 彼女の中で彼の存在は変わらず、ペットのままなのだろう。
 そう気が付いた時には、ただ研究者の中では珍しく優しかったアカリにただ忘れていた願望が強く反応してしまい、惹かれてしまっただけなのだ……そう思わなければ、そうでなければ彼はもうここに居る意味がなかった。
 そしてついに彼女は、個人研究を実行に移した。が、そこに彼が同伴するようなことは彼女の中ではなかった。
 このままアカリが此処を離れ、何処かへ行ってしまったのなら、彼もこの研究所を離れ、何処かへ行こうと心に決めていた。
 その途端にコレだ。
 あまりにも急すぎる展開に、彼は思わず慌てふためいた。
 ずっと望んでいた一言だったはずなのに、諦めた頃に急に言われると心の準備ができない。
 しかし、このまま答えなければようやく来たチャンスは無駄になる。
 それが分かっていたのにも関わらず、彼が答えを出しあぐねている理由はもう一つあった。
 『それは……俺を好きだということでは……ないんだよな……』
 恐らく、彼女にとってみればワタルによって気付かされた一番近くて費用もかからない『楽な実験体』といった所だろう。
 真意は彼女しか分かりかねるが、今の彼にはそう読み取れた。
 だが、悲しきかな彼も(おとこ)、頭でそう分かっていても、本能では彼女が久し振りに見せる満面の笑みは色々と興奮するものがあった。
「問題なさそうだな? ほら! ワタル、君はさっさと何処かへ行きたまえ!」
 挙動不審な動きを見せるゾロアークの心情をこういう時だけはまるで心眼でも使ったかのように読み取り、ワタルを部屋から追い出していた。
 決まればすぐに行動に移すのがアカリの鉄則。ゾロアークもまだ心が揺れているのにも関わらず彼もまたワタルと同じように背中をドンドンと押されて強制的に移動させられた。
 そこはこの荷物が山積みになり、本来はカビゴンが横になっても余裕のある程の広さのこの部屋が恐ろしく狭く感じるほどの散らかった部屋の中で、唯一片付いているベッドだった。
 そこまで横綱の如く寄り切り、ベッドへとそのままバスンと押し出したアカリは、そのまま自分もベッドへと移動はせず、ドアの方に耳を傾けていた。
 一応、ワタルがそこにいないか確認しているのだろう。
 ベッドとはいえ、アカリが使用している物は女性らしさもない保健室にあるようなとても質素な物だ。
 よくよく考えればアカリが普段から身に付けている物や、周りに置いてある物も含め、女性らしさというものは垣間見えない。
「よし! いないようだな。ならすぐにでも始めよう、一応、私は性経験はないが、前情報は集めているからお前の好きなようにしていいぞ」
 雰囲気もへったくれもない台詞を放ちながらアカリは手際良く常に纏っている白衣を脱ぎ、なかなかお披露目しない白衣同様真っ白な下着を全て脱ぎ捨てた。
 『うん……分かっちゃいた……。分かっちゃいたけど、それはないよアカリ……』
 ゾロアークは若干、アカリに幻滅もしたが、お陰で心に余裕も生まれた。
 元々そういう気質だと分かっていればこの程度なら問題ない。
 衣服を全て脱ぎ捨て、アカリも彼の横に腰掛け、そのまま上体をベッドに預けた。
 そしてそのまま言った通り、何をするわけでもなくゾロアークが好きにするのを待っていた。
 好きな人が全て自分にまかせて待っている状態は彼にとってみれば最高の褒美だ。
 自然と彼のモノにも興奮が伝わり、黒い毛並から真っ直ぐに伸びていた。
 彼はベッドから降り、アカリの秘部に顔を近づけた。
 案の定、アカリの秘部は濡れておらず、このままもし彼が言葉通り好きにしていたらアカリは激痛を味わうことになっていただろう。
 そしてそれを見ると同時にゾロアークは後悔した。
 『所詮、自分はペットの域は抜けきれない』そう直感した。
 言葉は確かに伝わらない。ただ一方的に理解することができるだけだ。
 しかし、言葉は伝わらなくてもその言葉の意味は相手に伝わるとゾロアークは信じていた。
 だが所詮それは理想論であり、前のトレーナーがポケモントレーナーとして優れていただけなのだ。
 そう思えば今の状況がとてももどかしく、そして虚しかった。
 彼がどれだけ望んでも、彼がどれだけ愛しても、その思いは空回るだけだ。
 『なら……それでもいいか……。どちらにしろこれが最後だ……』
 そう心の中で諦めの言葉を唱えながら、長い鼻が邪魔にならないようにゆっくりと顔を近づけていき、ゆっくりと長い舌で彼女の秘部を舐めた。
 もう何度か外を、中をかき出すように舐め、彼女の反応を見たが、嬌声すらないどころか反応すらなかった。
 その後も秘部が十分に濡れるまで舐め続けたが、最後まで彼女は反応を見せなかった。
 もうゾロアークも考えることを止めていた。
 本能に任せて、望むままに彼の欲望を叶えるため、まだ穢れを知らない彼女の秘部を無理矢理押し広げるように自らのモノを挿入した。
「んっ!」
 そこで初めてアカリから言葉が漏れた。
 顔を覘くと明らかにそれは痛みに耐えている顔だった。
 初めてのアカリの膣内は非常にきつく、明らかに彼のモノを受け入れる準備ができていなかった。
 そこでついに思考することを停止していたはずの頭は考えてしまった。
 『こんな事をしてなんになるのか……』と。
 無論、答えは分かっている。分かっているからこそ、今の状況も、自分のやっていることも全てが虚しかった。
「どうした……? そんな浮かない顔して。私なら大丈夫だぞ? 想像していたよりは痛くはなかったからな。もしも私に気を遣っているのなら気にする必要はないぞ?」
 行為の途中でそのままじっと考え込んでいたゾロアークにアカリは声をかけた。
 そして、ついに彼はそのまま自らのモノを彼女の膣内から抜いた。
 鮮血が彼のモノと彼女の秘部を伝い、白いシーツに紅い花を点々と咲かせていく。
 そのまま彼はアカリの横に腰掛けて深く溜息を吐いた。
 『アカリの処女だけ奪って……結局アカリの実験の手伝いもしなくて……。最低だな……俺……。』
 つくづく彼は自分が嫌になった。
 事に至れば少しは自分の思いに気付いてくれるのではないかなどと思っていた自分の浅はかさが、そして彼女をどんな形であれ傷つけただけの自分自身が……。
 少しの沈黙。そしてアカリはすぐに起き上がり、ゾロアークの背中に抱き付いた。
 そのまましばらくの間、アカリはゾロアークに抱き付いたままじっとしていた。
 彼にはその行為の意味は分からなかった。
「全く……。やっぱり君も私と同じ変な奴だ……」
 漸く口を開いたアカリはそう彼に呟いた。
 『そりゃそうだ』と言いたかったが、ゾロアークはその言葉を口に出しはしなかった。
 彼には自分自身が彼女の優しさに惹かれて好きになってしまった上に、それが叶わず、ただ離れることもできずに本能のままに彼女を傷つけようとし、結局彼女を思う気持ちの方が優先されるという何もできない半端者のように思えた。
「好きなんだろう? 私なんかの事が……。私が君を好きになってしまっていたように……」
「えっ」
 思わず口に出てしまう程にゾロアークは驚いていた。
 夢なのだろうとも思った。
 だが、彼女はそれが夢でないことを証明するかのようにそのまま語り始めた。

 ――私はな……。研究者を志したその時から、女であることを捨てたんだ……。
 女だからと言って舐められたくなかったし、逆に女だからと贔屓されるのも嫌だった。
 愛だの恋だのという話もせず、寝ても覚めても研究することだけを考えていた。
 そんな日々を続けていたら、いつの間にかどんなことを言うのが、どんなことをするのが女らしい事なのかも忘れてしまっていた。
 自分から進んで研究者の道を歩む女性は少ない。単に、感情的に動く人が多いだけなのかもしれないが、それでも実際に研究者の女性は全体的に見れば少ない。
 だからこそ私にとって女性らしさは邪魔な物だったんだ。ただ研究の妨げになる物……そう決めつけていた。
 そのせいで君の思いも、そして私の思いも伝えることができなかった。いや、どうすれば伝えられるのか忘れていた。
 君たちポケモンは、人間と同じか、それ以上に多感だ。だから君には本当に辛い思いをさせたと思う。
 しかし、私のこの癖は残念な事にもう治らないだろう。
 だからこそこのままでもいいと思ったが……先程の君を見て考えが変わった。
 私はお前の事が好きだ。いや、そういった感情はもう超えているな。愛している。
 これはあくまで私が勝手にそう思い込んだだけだ。もし、違うのなら去ってくれても構わない。
 ただ、私の事を君も愛してくれているというのなら一つだけ覚悟する事だ。
 私はこの愛の表現方法を知らない。そして女らしいこともできない。
 そんな私でも――

 彼女の言葉はそこで遮られた。
 ゾロアークはすぐに振り返り、彼女の唇をそのまますぐに奪った。
 確かにアカリは女らしいことは知識として持っていないため、華やかに着飾ったり、可愛らしい仕草をしたりなどは出来ないだろう。
 しかし、雌として本能で好きな相手が何を求めているのかは分かった。
 拒むこともなく、そのまま彼女の口の中へ侵入してきた彼の舌を受け入れ、ぎこちないながらに舌を絡め合わせた。
 一匹と一人の荒い鼻息だけが聞こえる部屋に、不意にドサリという大きな音が響いた。
 求めるままに彼はアカリを押し倒し、なおも深く深く舌を交わらせ続けた。
 一度は諦め、その元気さを失っていた彼のモノも、その反動からか自らの腹に当たる程に反り返り、そそり立っていた。
 しばらくそのまま激しく彼女を求め続けていたが、ようやく彼女の唇から自らの唇を離した。
 少しだけ二人の息遣いが聞こえ、先にアカリが話し始めた。
「こんな私の愛してくれたのも……私が誰かを愛したいと思ったのも……。君が初めてだ。だからこれだけは言わせてもらうぞ?」
 そう聞くと、ゾロアークは少しの間を置いて頷いた。
「恐らく、旅に付いて行くことを君は望んでいるだろう。だが、私はこの先数多くのポケモンと交尾を行う。ついて来れば確実に君は傷つくはずだ。だがこれだけは約束しよう……。愛しているのは君だけだ……と」
 いつものようにハキハキとした口調でそう言った。
 だが、今の彼になら間違いなく彼女の思いが分かる。
「傷つかない。自分の信じた道を突き進むのがアカリだからな。俺はいつまでもアカリの傍にいるだけだ。俺も愛してる」
 だからこそ、そう答えた。
 アカリの耳にはその言葉の真意は届いていない。
 だが、アカリはただ、そうか。とだけ答えて、静かに目を瞑って彼を待った。
 それに応えるように彼も目を瞑り、今度は唇を重ね合わせるだけのキスをした。
「さあ、愛し合うのもいいが、このままでは日が暮れてしまう。出来る限り努力をするから、君の好きなようにしてくれ」
 アカリは彼の頭を左右から押さえ、真っ直ぐに目と目を合わせてそう彼に言った。
 彼は今度こそ、彼女の言葉の真意を受け取り、モノの先端を膣へと滑り込ませた。
 努力する。の言葉通りなのか僅かにんっという苦しみとも、しかし嬌声にも聞こえる声が聞こえた。
 そして彼はそのまま滑らかな膣内へ自らのモノを滑り込ませ、一番奥を叩いた。
 今度こそ彼のモノを全て受け止めて、アカリは艶のある声を聞かせた。
「アカリ! アカリ!! 愛してるよ!!」
 そう叫びながら彼は無我夢中で腰を打ち付ける。
 その度にパンッ! という叩きつけるような音と、僅かな水音が聞こえた。
 彼女の無骨な愛に応えるためか、愛しい思いを楽しむというよりは、それこそ種を残すために全力の愛を捧げるように休む間もなく腰を打ち付け続けた。
「!?」
 彼自身も交尾をしたことは初めてだったため、ほとんど余裕はなく、そのまま言葉にならないような快感を味わいながら彼女の中に自らの精液を放った。
 全身を襲う心地良い刺激に、今までの激しい動きが嘘だったかのように彼は一番奥にモノを入れたままピタリと動かなくなった。
 モノ全体が大きく脈打ちながら止めど無く精液が流れ込んでいった。
 それもようやく治まってきた頃、荒い息のまま彼はアカリの方へ目をやった。
「上出来だな……。それでこそ私の助手だ……」
 彼女はいつもと変わらない調子でそう言っていたが、そこには確かに雌の表情が浮かんでいた。
 それが嬉しくて堪らず、彼はギュッとアカリを抱きしめ、頬を一度舐めてから彼女との繋がりをゆっくりと抜いた。
 そのまま彼は彼女の横に寝転がり、今度は自分の思いをただ伝えようとしたのだが、これまでの疲れもあったせいか、既に寝息を立てていた。
 『何処までもついて行くよアカリ……。大好きだ』
 心の中でそう思った彼もそのまま彼女の横で丸くなった。
 そんな彼の思いを知ってか知らずか、眠る彼女の表情は何処か幸せそうな表情を浮かべていた。


 余談だが、結局アカリたちはその後寝続け、元々寝不足だったアカリが丸一日眠っていたせいもあり、出発はその日から二日後となった。

レポート02:たまごタイプ ひとがた 


登場ポケモンルカリオ

「ふむ……。どうするべきか……。」
 とある森の中でアカリは少し悩んでいた。
「ガ、ガウ!!」
 彼女の後ろから少し焦りを含んだ鳴き声が聞こえた。
 そのポケモンはゾロアーク。彼女がこの旅に出る際に、研究所から借りてきた……否、彼女のパートナーとなったポケモンだ。
 その声を聞き、振り返ったアカリは目を丸くした。
 そこには野生のヤヤコマがいたのだ。
「でかしたぞ! さあ今度こそだ! 行け! モンスターボール!」
 そう言い、鞄からモンスターボールを取り出し、ヤヤコマめがけて投げつけた。……はずのボールはそのままヤヤコマの上を大きく逸れて茂みの中へ消えていった。
 ヤヤコマもその大声と、大きく外れてはいるが、投げつけられたボールに驚き、何処かへ逃げてしまった。
 ボールを投げた姿勢のままアカリは少しの間、呆然とし
「マズイな……。ボールがポケモンに向かって飛んでいかない……」
 そう冷静さを保ったまま呟いた。
 実の所、今現在彼女は50個のボールを投げて、全てボールが命中していない。
 捕まえる捕まえない以前に全てのボールが森の中へと消えていってしまっているのだ。
「トレーナーとしての才能が無いとかそれ以前の問題だな……。君! 是非練習相手になってくれ」
 そう言い、後ろの方で少し呆れていたゾロアークに声を掛けた。
 ゾロアークはガウ! と返事をし、ひとまず捕まえるよりも先にアカリのコントロールのなさを改善することにした。

 ――それから数分後、彼女は眉間に皺を寄せて悩んでいた。
「これは重大な問題だ……。どうするべきか……。否、もう一度だ! ゆくぞ!」
 そう言い、アカリはモンスターボールを振りかぶってゾロアークに向かって投げつけた。
 勿論、ゾロアークは動かない。
 しかし、微動だにしないゾロアークに対し、空間でも歪んでいるのかと錯覚するほどにアカリは見当違いな方向へ向かって投げてみせた。
 流石のこのコントロールの無さにはゾロアークも絶句していた。
 それに対しアカリはこちらが不思議になるほど冷静に問題を解決しようとしていた。
 そしてアカリは閃いたのか、手をポンと叩き
「そうだ! 何もモンスターボールで必ず捕まえなければならないわけではないではないか!」
 そう言った。
 ある意味では問題解決だが、アカリはとある噂を思い出した。
 世界にはモンスターボールで捕獲していないポケモンと旅を共にするトレーナーが少なからずいるらしいということだ。
 そこでこのゾロアークのことを思い出す。
 このゾロアークも元は研究用に借りてきたため、正確なトレーナーという者はいない。
 そのため彼女に付いてきているが、このゾロアークはまだモンスターボールで捕獲はされていない状態だ。
 今の彼女とこのゾロアークの関係はまさに先程の噂のトレーナーたちと同じ状況だ。
 そこで彼女が考えついたのは捕獲ではなく、交渉だった。
 そもそもこの度は、通常のポケモントレーナーとしての旅ではない。
 彼女は自らの体を実験台として、人間がポケモンとの子供を産む事ができるのかを調査しているからだ。
 そのためポケモンを捕獲したとしても彼女の考えをポケモンが受け入れないのであればそのまま別れ、受け入れたとしても、事が終われば自由の身のため、捕獲すること自体にそこまで意味はないからだった。
 そうと決まれば決断が早いのも彼女の特徴。
 すぐに行動に移すため、ゾロアークにも指示を出した。
「よし! 君も……うーむ。流石にいつまで経っても『君』と呼ぶのは失礼だな。名前を付けよう」
 が、その前にゾロアークに名前を付けることにした。
 この旅が始まってからすでに一週間が経過している。
 更に言えば、研究所にいた頃まで含めると既に1ヶ月以上もの月日を共に過ごしていたのにも関わらず、彼女はゾロアークに名前すら付けていなかった。
 そのため、この申し出はゾロアークにとってはとても嬉しいものだったのか、今まで一度も見せたことのないような満面の笑みを浮かべていた。
「そうだな……君が私のパートナーとして初めてのパートナーだからファーストでどうだ?」
 嬉しそうにしていたゾロアークもこれには流石に笑顔が凍りついた。
 その後、顔を全力で左右に振り、その名前が嫌だということを猛烈にアピールした。
「嫌か、ならスカーブラックは?」
 横に振る首も若干弱くなったが、ゾロアークは心の中で思った。
 『この人にはネーミングセンスがない』と……。
 その後も中二病満載な名前が何度も口から飛び出し、それを全て拒否していった。
「これも嫌なのか!? そうなるともうゾロとかそういうありきたりなのしか思いつかないのだが……」
 ここで初めてゾロアークは首を縦に振った。
 正直な所、名前を付けられる側は別に奇抜な名前は望んでいない。
 普通の名前でも好きな人に呼んでもらえるのが嬉しいのだ。
 そのため、今まで君としか呼ばれていなかったゾロアークは自分に名前が無いことに対して不満ではなかったのだった。
「そうか……。ならこれからもよろしく頼むぞ、ゾロ」
 彼女の方がもう少しひねった名前を付けたかったのか、小さくため息を吐いて改めてそのゾロと名を付けたゾロアークに声を掛けた。
 すると、ゾロも嬉しそうにガゥ! と返事をした。
「では改めて……。ゾロ、私の研究に協力してくれるポケモンを探してきてくれ。君はあっちを頼む」
 ゾロがその名前を気に入ったのを確認するとアカリは指示を出し、ポケモン捜索に戻った。



          レポート02:たまごタイプ ひとがた



 思っていた以上にモンスターボールを使用しないポケモン捜索は大変だった。
 ゾロを別行動させたためアカリ一人でポケモンを探しているのだが、これが案外見つけたとしても逃げられてしまうのだ。
 ポケモンは習性的にポケモントレーナーの前にはよく姿を現してくれるのだが、そうでない者の前にはなかなか姿を現さない。
 そういった意味ではアカリは前者だが、現在アカリはポケモンを持っていないので後者にも当てはまる。
 そのため姿は表してくれるが、交渉しようとすると大抵のポケモンが彼女の話を聞く前に去ってしまう。
 なんとか話を聞いてくれたポケモンもやはり人間という別種族との交尾は嫌なのか、なかなか協力してくれるポケモンはいなかった。
 もう一つ加筆するならば、アカリが若干ポケモンの選り好みをしているせいもあった。
 『全てのタイプのポケモンで検証を行う』と言ったものの、彼女にだって好き嫌いはある。
 ましてや、自らが実験台になるのだ。生理的に嫌いなポケモンを避けたくなる気持ちは分からなくもない。
 理由としてはそれ以外に、体格差の事を考慮していることもあった。
 あまりにアカリよりも大きなポケモンであればアカリ自身に非常に肉体的負担が掛かる。
 逆にアカリよりも極端に小さなポケモンだった場合、行為を行ったとしてもその精液の量がそもそも少ないため実験結果が確認しにくい恐れがあると判断したためだ。
 そんなこともあり、既に何時間も歩き回っているが成果は無く、もうそろそろ諦めて一旦ゾロと合流しようかと考えていた。
 すると不意に茂みがガサガサと音を立てて揺れた。
 ポケモンが出てくる予兆は有り難いが、正直な所期待はしていなかった。
「ワゥ!」
 そんな鳴き声をあげながら出てきたのははどうポケモンのルカリオ。
 様々な生き物の波動と呼ばれるオーラを感じることで相手が何を考えているのかはもちろん、相手の健康状態などまで分かるポケモンだ。
「やあそこの君、是非とも私の実験に協力してくれないだろうか?」
 アカリの先制攻撃。
 ルカリオは不意を突かれて少し不思議そうな顔をしていた。
 大体草むらから飛び出してくるポケモンはそのままトレーナーと戦闘になることを想定して飛び出してくる。
 そのためアカリのように戦闘を行わずにいきなり話しかけてくるトレーナーはポケモンからしても特殊な存在だ。
 だが、そういった場合でも困ったトレーナーを放っておけないようなポケモンは野生でも多く存在する。
 このルカリオもとりあえずアカリの話を聞く気になったようだ。
 ポケモンは非常に感情が豊かだ。
 人間と同じか、それ以上によく笑いよく泣き、よく怒る。
「私と交尾してほしい」
 それと同じぐらい全力で引く。
 明らかにルカリオは『何だこの変態?』みたいな顔でアカリを見ていた。
 それに対しアカリは普通の人間以上に鈍い感性のため、自分の誘い方が原因で多くのポケモンを逃していることに気が付いていなかった。
 苦虫を噛み潰したような顔をしてはいるが、ルカリオは波動の力で彼女がただの変態ではなく、何かしろ困っているということには気が付いていたため話だけでも聞くことにした。
 ここでアカリは初めて野生のポケモンに対して自分の実験の説明をしたため、ルカリオも彼女の言葉の真意を理解した。
 彼女が決してポケモンと交尾をしたいだけの変態ではなく、ポケモンと人間のこの先を考えた非常に意義のある研究をしているということを理解してから、ルカリオは少し悩んだ。
 ルカリオも決して変態ではない。
 そのため彼女に対して下心があるわけではない。
 だが、残念なまでにこのルカリオは根がクソ真面目だった。
 正直な所、人間と交尾したいとはこのルカリオは思っていない。
 しかし、彼女が他のポケモンにも一切相手にされず、未だに収穫が無かったという話を聞いてはこのまま見過ごしていいとは思えなかった。
「別に無理強いはしないぞ? 嫌なら嫌だとはっきり言っていい。別に急ぐ旅でもないしな」
 いつもの調子でアカリはルカリオに声をかけ、頭を撫でてやった。
 それで決心が付いたのか、ルカリオはもう一つワゥ! と大きな声で返事をした。
「ん? 付いてくるのか?」
 言葉が通じないのでアカリは念のためにルカリオに確認を取ったが、彼はゆっくりと首を縦に振った。
 それに対してアカリは少しだけ微笑み、ルカリオの頭をもう一度撫でてから、ゾロと別れた地点へと戻り始めた。

 一方、ゾロの方はあまり乗り気ではなかった。
 それもそうだろう。もし、彼がポケモンを見つけてくれば、彼女はそのポケモンと交尾をするのだ。
 アカリのためとはいえ、ようやくアカリの公認の彼氏となれたゾロからすれば『気にしない』とは言ったものの、いい気分ではない。
 そのためあまり全力でポケモンを探してはいなかった。
 というよりは最近研究所の実験用ポケモンとして働いていたこともあり、日頃から外に出る機会が非常に少なかったのでほとんど散歩状態だった。
 ゾロとしてもこの森は心地の良いもので、十分な日光と適度な木陰のおかげで暑すぎず寒すぎずという絶好の散歩コースだった。
 そのためのんびりと林道を歩いたり、途中で見つけた川で少し水浴びをしたりなどごく普通の旅としては満喫していた。
 その途中でたまに森に住む野生のポケモンたちと遭遇し、何度か会話したりもしたが、肝心の実験に協力してくれるポケモン探しは行っていなかった。
 『アカリには悪いけど……もう少しはアカリとの何も考えない旅を楽しみたいなぁ』
 なんてことを考えながら、ゾロは木の実を齧りつつ、集合地点でのんびりと待っていた。
 それから1時間ほど待っていたが、帰ってくる気配も無いのでそこでそのまま昼寝をすることにした。

「戻ったぞ。ようやく収穫あり……だ? なんだ、寝てるのか」
 戻ってきたアカリは木の根元で気持ちよさそうに眠っていた。
 普通なら少しぐらい叱りそうなものだが、決して怒ることもなく、ルカリオと同じようにゾロの頭も優しく撫でてやった。
 それでようやく目が覚めたようだ。
 優しく撫でられて起きたゾロは嬉しそうにゆっくりと起き上がったが、彼女の後ろにいたポケモンを見て夢心地から一瞬で彼の最も望んでいなかった展開になったことを理解した。
「今回協力してくれるポケモンのルカリオだ。データとしてはひとがたタイプのたまごで調査する予定だ。今後も二種類のたまごタイプを持つポケモンが出てくるだろうが、その際もどちらか片方のタイプとして扱って、後から見つかったたまごタイプのポケモンと別々に人タイプずつで調べていくからな?」
 それを聞いてゾロはさらに落胆した。
 たまごタイプを二つ持つポケモンは数多くいる。そのためそういったポケモンを多く勧誘すればすぐにでもこの調査は終わるだろうと思っていた矢先に、彼女からの無慈悲な宣告だったからだ。
 アカリは非常に周りの人を気遣うことのできる優しさがあるが、自分の研究のこととなるとかなり周囲の目などに無頓着になる。
 そのためゾロが少しだけ不機嫌になっていたのだが、それもあまり気が付いていなかった。
「さあテントを張るぞゾロ! 君もすぐに終わって開放されるほうがいいだろう? 是非とも手伝ってくれ」
 まだ日は傾いているどころか、ようやく天辺まで昇りきった頃だったが、嫌な意味で彼女はやる気満々のようだ。
 彼女は変人とは呼ばれているが、決して……恐らく変態ではない。
 結局、嫌々ながらもゾロもそのテントを張るのを手伝い、ルカリオも何もしないのは性に合わなかったのか彼女たちを手伝った。
 そのためあまり時間もかからずにテントを建て終わり、アカリはすぐに準備を始めようとした。
「ワゥ!?」
 アカリはナックラーのようにテントができるなりすぐにルカリオを中へ連れ込もうとしていたが、流石にルカリオも心の準備ができていないのかとりあえず必死に抵抗した。
 流石にこの行動にはゾロも引き、若干涙目になっていたルカリオに同情していた。




     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




 ゾロは決してアカリのことが嫌いではない。
 もちろん、彼女と本当の意味でのパートナーとなったため寧ろ今までよりも更に愛しくなっていた。
 恋は盲目だが、結婚をすると目が良くなるというように実際に付き合いだすと相手の悪い面がよく見えてくるようにもなる。
 アカリはまず、誰にでも優しく接することができる。
 そのためアカリに対して好意を抱く人はとても多い。
 事実、研究所の面々はアカリの性格の事を知っているので、彼女のことは若干常識の欠けた良い人だという認識だ。
 そして彼女のことをよく知らない他の研究者連は彼女の事をただのずば抜けた才能を持つ変人だと思っている。
 つまり、どうあがいても彼女が変人だという事実は変わらない。
 理由としては、一つ目にモラルが欠けている。
 今もそうだったが、今ようやくここに来たばかりのルカリオを早速テントに連れ込んでしまおうとしたほどにルカリオの心境のことは考えていない。
 二つ目に研究に関すること意外は無頓着。
 彼女は研究者になるために女を捨てて寝ても覚めても研究に没頭した。と言っていたが、正直な所例えそうであったとしてもそれから差し引きで考えても彼女は常識という感覚が大分ずれていた。
 そうでもしなければ研究のためとはいえ白昼堂々と見つけたポケモンを自分の恋人がいる前でテントの中へ連れ込もうとはしないだろう。
 三つ目に研究のこととなるとかなり強引になる。
 彼女が旅を行う前に、学会で論文として提出したが見事に玉砕した。
 なのにも関わらず、彼女は誰にも今回の旅のことを話さずに、勝手に計画し、そして現在に至る。
 後々旅を行っている途中で彼女に電話が掛かってきたが、電話に対する返答はしたものの、帰ってきてほしいという願出は完全に拒否した。
 彼女曰く、最高でも半年はこの旅を続けられる準備をしていたので研究結果が纏まるまでは戻る気はないそうだ。
 とこのように悪い面の方がやたらと多いので嫌でも悪い面がすぐに顔を出す。
「悪いな……アカリはこんなんだけど悪い奴じゃないんだ」
 ゾロはとりあえず気持ちを落ち着かせているルカリオにそう声をかけた。
 彼が声をかけてくるのは予想外だったのかルカリオは少しだけ不思議そうな顔をした。
「それは分かってる。私は波動で相手を読み取ることができるからな。それよりも、私こそすまない。君とあのトレーナーはパートナーなのだろう? なのに私がその間に割って入るようなことをして……」
 生真面目なルカリオは申し訳なさそうにゾロに謝った。
 それを聞いてゾロも笑った。
 彼の生真面目さにではなく、自分の愚かしさにだった。
「いいよ気にしなくて……。はぁ~……お前にアカリが盗られるかもとか思った俺が馬鹿みたいだよ……」
 思わずゾロは本音が口から飛び出した。
 それほどにゾロはあまりにも速かったルカリオの勧誘が不服だったのだ。
 心の中ではアカリがすぐに見つけてきたルカリオに対する嫉妬心は物凄かった。
 だが、それに対するアカリからのメンタルケアは分かってはいたがやはりなく、彼女の愛は不変だと言ってくれたが、それでもやはりまだ不安は多いのが事実だ。
 そのためゾロもこの旅についてきたのは少し失敗だったと思ったが、それでも一人で彼女の帰りを待ち続けるよりは気が楽だと思い、行動したのだった。
 とはいっても彼の行動や心理ははっきり言って普通の事だ。
 寧ろ、二人が愛し合う関係になったというのにも拘らず、その関係が変わっただけで対応が一切変わらないアカリの方がやはり色々な意味でおかしいのだ。
「まあ、アカリは変な奴だけど優しいんだ。だから無理強いもしないはずだから、心の準備ができたら……まだ昼過ぎだけど行ってやってくれ」
 そう言ってルカリオの肩をポンと叩いたゾロは、その場にいるのが一応気まずかったのかまた散歩へと出かけていった。
 そこに残されたルカリオは色々な事に対して葛藤していた。
 このルカリオは生まれてすぐにトレーナーから捨てられたポケモンだった。
 そのため、最初こそ人間を恨んでいたが、長い月日が経ち、心と体の成長と共にリオルからルカリオへと進化を遂げた。
 リオルはまだその波動の能力も幼いため、まだ自分の周りにいるポケモンや人間の心を読み取ることができなかった。
 そのため、何時の日か自分を捨てたトレーナーに復讐するために日々体を鍛えていた。
 そしてルカリオへと進化したとき、今まで心の内に秘めていた復讐心を爆発させようとしたのだが……そこで彼の復讐心を波動の力が邪魔をした。
 周りにいる様々な人間やポケモンたちの心の状況や、どんなことを考えているのかを読み取れるようになり、復讐のためにそのトレーナーが自分を捨てた場所まで向かった。
 トレーナーがその付近に住んでいて、あまり旅などをしない人間であることは彼自身がよく知っていた。
 何時の日か復讐するために調べ尽くしたからだ。
 そして彼の家に忍び込もうとした時に、そのトレーナーの心を読み取ってしまったのだ。
 『今まで捨ててきてしまったポケモンは元気にしているだろうか……。もしも死んでいるのなら自分のせいだ……』
 それはルカリオが捨てられてから何年も経っていたにも拘らず、未だ自責の念に駆られていたトレーナーの心の声だった。
 そこで初めてそのトレーナーがどんな思いだったのか、自分以外の心境を初めて考えた。
 結局、その日は何もせず、その日からは彼の周囲にばれないように尾行し、心の声や周りのポケモンの心の声に耳を傾けた。
 そして分かったのが、本当に悪いのはトレーナーではなく、彼の忠告も聞かずに子供を勝手に生んだ彼のポケモン達の方だったという事実だった。
 そのトレーナーはかなり貧乏な暮らしをしていたが、それでも二匹のポケモンを昔から大事にしていたという理由で今でも大事にしていた。
 二匹を養うので精一杯だったトレーナーはその二匹が愛し合っていることも知っていたので、『決してタマゴを作らないこと』と二匹に忠告していた。
 なのにも拘らず、トレーナーがたまたま一人で外出した時を見計らい、行為に及んだのだった。
 トレーナーは二匹を酷く叱りつけた。
 『二人の勝手は自由だ! でもうちではもう飼えないと言った筈だ! 折角生まれたこの子供も生きていくためには捨てなければならないんだぞ!?』と……。
 真相を知ってしまったルカリオは酷く後悔した。
 溢れる涙はとめどなく流れ、今までの復讐心を洗い流した。
 しかし、だからといってルカリオを捨てた事実は変わらない。だが、悪いのはそのトレーナーではない。
 かといって身勝手とはいえ、愛し合っていた同士一度も行為を許されなかった彼らの心もその時のルカリオになら分からなくもなかった。
 責められる者などいなかった。
 強いて言うのなら、環境が、運が悪かったのだ……。そういうしかなかった。
 ルカリオは最後にそのトレーナーに会い、ただ涙を流す彼を許し、そして去っていった。
 それからの彼というものは絵に描いたように生真面目になっていった。
 人の心を理解できるからこそ、できる限りのポケモンや人間を不幸にしないような生き方はできないかと自らの経験を反面教師にして更に大きく心の成長を遂げた。
 そして現在、彼女に求められているとはいえ、彼氏持ちの人間相手になんと安請け合いをしたのかとかなり後悔していた。
 かといって一度ひきうけた以上、ここで断れば彼女が傷つくことになるとルカリオが勝手に思い込んでいるため、今現在なんとか覚悟を決めようとしている所だった。
 テントの前で何度も深呼吸をし、心を落ち着かせていた。
 『大丈夫だ……彼もああ言っていたし交尾をしても問題ない……。決して……決して! 私がどうやって交尾すればいいのか知らずにリードできなくてこんな所で未だ悶々としているわけでは決して無い!!』
 つまりこのルカリオは生真面目すぎるせいもあり、未だ童貞だった。
 自分の出生の事もあり、交尾する事に、特にタマゴを作るということに対して多大な責任を感じていたからだ。
 野生でそこまで深く考える必要は無いのだが、性格がそうなってしまった以上、野生で彼がパートナーを見つけるのは非常に面倒臭く、好きな人が現れてもそのまま愛想を尽かされて去っていくのが落ちだった。
 故にクソ真面目な自分の性格と絶好の機会を逃したくないという本能が鬩ぎ合い、彼を地面にのた打ち回らせるほどに悩ませていた。
「何をしているんだ? 協力してくれるのなら早く協力してくれ」
 テントの前でバタバタと暴れていたら、ついに中からアカリが顔を出してそんなことを言った。
 ピタリと転げまわるのを止めたルカリオはアカリの顔をまじまじと見つめた。
 正直、彼女はかなりの美形だ。
 肩まで伸びた美しい栗色の髪の毛が彼女の白衣と相反していてとても綺麗だ。
 そしてとても整った顔立ちとはきはきとした彼女の性格が現れたような線のしっかりした、しかし丸みを帯びた瞳で、可愛いと美しいで分類するのならば美しいに入る方の綺麗さだった。
 彼女の性格さえなければ簡単に恋人ぐらいできそうなほど美しい彼女は所謂、残念な美人である。
 そしてルカリオたちポケモンの目から見てもやはりとても美しいらしく、ルカリオもテントからひょっこりと顔を出して不思議そうな顔を見せる彼女に思わず心がドキンッと跳ねた。
 そして、それまで悩んでいたのが嘘のようにすっと立ち上がり、そのままテントへと入っていった。
 中はテントであったはずなのにも関わらず、何処から出てきたのか布団が敷かれていた。
 一応簡易的なランプで中が照らされていたが、そもそも外が明るいためあまり効果は無く、どちらかというと雰囲気を作り出しているだけの物になっていた。
 そこでルカリオが入ってきたのを確認すると、ルカリオに入り口を閉めるように言い、彼女もすぐに衣服を脱ぎだした。
 そんな以外と雰囲気の出ている空間に思わずルカリオはそそられたのかルカリオのモノは無意識の内に伸びてきていた。
 全ての衣服を脱ぎ捨て、アカリは布団に仰向けに寝た。
「それじゃあよろしく頼む。私は経験がないので君の好きなようにしてくれて構わない」
 こう言われて困ったのはルカリオだ。
 好きにしていいと言われた事でさらにモノは硬くなったが、同種の雌でさえ相手にしたことが無いルカリオがいきなり何をすればいいのかよく分からなかった。
 本能的に交尾自体は分かるが、ポケモンはただの動物ではないため、相手がその性行為で喜んでくれる方も大事なのだ。
 ルカリオはとりあえず、ビンビンに勃起したままのモノや自分の本能を抑えつつ、一先ず彼女の足元に座った。
 ドキドキと高鳴る胸を押さえながら深呼吸をし、ゆっくりと自らの手をアカリのお腹へ伸ばしていった。
 お腹にルカリオの手が触れた瞬間少しだけピクッと反応し、それでルカリオも少し手を引っ込めたが、そのままゆっくりとお腹を撫でた。
 柔らかな肌に思わずうっとりするが、同時に性的な興奮も増していた。
 そのままルカリオは両手を使って優しくアカリのお腹を撫でていた。
 が、そこで不意に彼女の胸に目が行った。
 彼女の胸は巨乳と呼ばれるほど豊満ではないが、貧乳と呼ばれるほど無いわけでもない、所謂程よい大きさの胸だ。
 ポケモンには基本的に乳首はあったとしても、乳が大きく発達することは少ない。
 そのためかルカリオは本能的に興味を惹かれていた。
 気が付けばお腹を撫でていた腕は胸へ伸び、足元に座り込んでいたはずの上体は、彼女に覆い被さるようになっていた。
 お腹とは違う、不思議な柔らかさを持った感覚にルカリオは思わず感心してしまった。
 女性はおろか、雌の体もよく知らないルカリオはその柔らかな肌を優しく撫で回し、味わっていた。
「ふふふ……あまり撫で回し続けてくれるな。君の毛がこそばゆくて笑いを堪えるのに必死なんだ」
 ここで初めてアカリはルカリオの手を掴んで笑っていた。
 どうやら言葉のままのようで、こそばゆくて仕方がなかったようだ。
「す、すみません……! あまりに気持ちが良かったので……」
 ルカリオは正直にそう答えたが、アカリは子犬でもあやすように頭を撫でて
「それに、撫でるのが好きなのは分かったからそろそろ行為の方をお願いしたい。君に撫でてもらいたくてここにいるわけではないからな。終わったら好きなだけ撫でていいから」
 ルカリオにそう言った。
 そういう経験がなかったルカリオからすればアカリのお腹を撫でていただけで十分に興奮していたが、アカリは別にその性行為に興奮は求めていない。
 既に興奮自体は最高潮まで達しているルカリオのモノは既に非常に硬くなっていた。
 そして今ルカリオがいる位置は人間で言う所の正常位であるため、そのまますぐに挿入することも可能な位置だった。
 ようやく望んでいたはずの性行為だったが、いざするとなるとルカリオは自然と生唾を飲んでいた。
 アカリの腰に手を当て、ゆっくりと自らのモノを彼女の秘部に宛がった。
 まだ入れてさえもいないのに鼓動はどんどん早くなり、息も荒くなっていた。
 腰に当てた手に少し力を入れ、グッと体全体を前にずらす。
 先走りで滑りの良くなったモノがヌルリと彼女の秘部を反れて入り口を擦り付けた。
 まだ入ってもいないのにルカリオはそのモノの擦れる感覚に驚いた。
 彼が想像していた以上のその快感は電流のようにモノから全身へと流れてゆく。
 『やばい……! 交尾ってこんなに気持ちが良いのか!』
 心の中でそう思い、さらにもう一つ考えた。
 今回は入らずに擦れただけだが、もし擦れただけでこの刺激なら入れたら一体どれほど気持ち良いのだろうか……と。
 その興奮と期待からルカリオはすぐに腰を引き、もう一度モノの先端を宛がい、今度は彼女の腰も引き付けるようにしながらグッと腰に力を入れた。
 これまた焦りからか中へは入らず、グッと秘部を押したものの、そのまま勢いよくヌルンッと滑った。
 先程よりも勢いが良かったためかルカリオが感じた快感も大きく、より一層中に入れた際の期待が高まった。
 何度も期待から焦りが生まれ、擦りつけ続けたが、それから4,5回ほど表面を擦り合わせ続けた後、先端からついにヌルッと中へ滑り込んだ。
 中は溶けそうなほどに熱く感じ、急に滑り込んできたルカリオのモノに驚いたかのようにキュッと締め付けたように感じた。
 想像以上の快感がルカリオを襲い、思わず動きがそこで止まってしまった。
 ルカリオは快感の稲妻に打ち抜かれ、頭の中まで真っ白になっていた。
「こらこら! まだ入れただけだろう! そこで息絶えるんじゃない!」
 恐らく、アカリに目を覚まさしてもらえなければそのまま気絶していただろう。
 夢から覚めて未だ夢の中にいるのでは? と錯覚するほどの快感を味わいながら、ルカリオはゆっくりと腰に力を入れた。
 力を加えるたびにモノ全体がどんどん彼女の膣内へと飲み込まれていき、それに比例して快感も増していった。
 そしてついにそれ以上押し込める場所がないほど彼のモノはアカリの中にずっぷりと埋まっていた。
 そこから抜くのが躊躇われるほど気持ちが良いため、ルカリオは少しの間そのままにしていたが、やはりアカリに動くように促された。
 ゆっくりと引き抜くと、それでも同じように快感がルカリオの体中を走り回っていた。
 既にルカリオの限界は近かったが、本人は全く気が付いておらず、先程の経験からゆっくりよりも早くした方が気持ちがいい事を思い出した。
 半分ほど引き抜いた時点で今度は一気に奥まで滑り込ませる。
 体中に響いていた痺れがだんだんとモノの先端へと集まっていく。
 それでも今度は一気に引き抜く。
 ルカリオの予想通り、非常に高い快感が得られた。
 そこから先、ルカリオは考えることを止め、ただ激しくピストン運動を行った。
 身体中を快感が巡り、先端に集まっている痺れがだんだんと熱くなっていていた。
 が、それでもお構いなしに腰を振っていたのでそれからまもなく最高の刺激と共に射精を迎えた。
「~~!?」
 あっという間に訪れた身動きできないほどの会館にルカリオはモノが脈打つ感覚だけをはっきりと感じることができた。
 そのまま体に力が入らず、ゆっくりとアカリの上にに倒れこんだ。
 そのすさまじい快感と達成感から、身動きができないのにも拘らず、ルカリオは体が中に浮かんでいるようにも感じていた。
「すまないが……終わったのならどいてくれないだろうか? 君のトゲが刺さって地味に痛いんだ」
 アカリにそう声をかけられたが、全身が脱力している今のルカリオには無理な話だった。




     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇




 その後、ルカリオは猛烈に落ち込んでいた。
 初めてだったのだから我慢できずにすぐに行為が終わってしまったのは仕方がないが、相手がこのアカリだったため、ヤリなおしは効かなかった。
 おかげでルカリオは存分に楽しむこともできず、アカリを悦ばせることもできず、全てにおいて中途半端なままお役御免となってしまった。
 既にいつもの服装に着替え、昼食の準備をしているアカリの後ろのテントの隅の方でルカリオは体操座りで小さくなっていた。
「おお、戻ってきたな。もう少しで昼食ができるからテントで待っているといい」
 散歩から帰ってきたゾロを見て、アカリはそう言った。
「ガウ」
 結構歩き回っていてお腹が空いていたのか、嬉しそうな顔をしてゾロはそう答えると、アカリに言われるままにテントの中へ入っていった。
 そこで彼が見たのは本当に二人が行為をしたのか心配になるほど異様な光景だった。
 そこまでの経緯を知らないゾロにとっては、既に布団も片付けられただのテントとなった隅の方で小さくなったルカリオがいるだけという状況だった。
 ゾロは思わず不安になってルカリオに声を掛けた。
「クゥ~ン……」
 寂しいルカリオの返答の内容にゾロは同情したのか、彼の横に座り、肩に手を置いて慰めていた。
 そこでゾロは思い出す。
 『この人が他のポケモンとか人間に盗られるわけがない人だった』ということを……。
 その後、ルカリオの酷い落ち込み様に気付いていたのか、少しだけ豪華な昼食を一人と二匹で食べた。
 こう見えてアカリは研究以外のこともそつなくこなせるので、性格を除けばとても素晴らしい女性だ。
「そういえば、やはり結果は失敗だったよ。人型だから少し期待していたが、やはり人間の形をしたポケモンというだけのようだな」
 何時の間に結果を確認したのかは知らないが、ようやく少しずつ元気を取り戻していたルカリオにアカリは追い討ちをかけた。
 これさえなければ本当に美人で良い人なのだが、基本的に非常に色々な事が無頓着だ。
 またあからさまに落ち込んだルカリオを見て、アカリは少し笑った後
「まあ、実験に失敗は付きものだ。それに……言い忘れていたが、射精直後の交尾は意味が無いので断ったが、君達ポケモンの繁殖力は高いんだ。何度も調査しないわけではないからな? 今日一日なら意味の相手をするからせめて自信を持って去るんだな」
 とルカリオに向かって言った。
「ガ、ガウ!?」
 それを聞いてゾロが焦る。
 当たり前だが、彼は最初の一日以来、彼女と交わったことは無い。
 名のにも拘らずルカリオは今日一日、間を置けば交尾をしていいということにようやく心の余裕ができていたゾロは石像のように固まってしまった。
 そこでルカリオは勝ち誇ったようにゾロに余裕の笑みを見せて追い討ちをした。
 二人の天国と地獄が入れ替わったためか、あからさまにルカリオは喜び、ゾロはそのまま魂が抜け落ちたような表情をしていた。
 そのまますぐさまルカリオはテントの中へ戻っていった。
 それを見て少しだけアカリが微笑む。
「ポケモンは本当に感情が豊かだ……。心理学をきちんと学んでいて良かったよ。あのルカリオはとりあえずあれで自信を取り戻すだろう」
 そんな独り言を呟いていたが、今のゾロにはそんな言葉も入ってこない。
 完全に放心状態のゾロを見て、アカリは一つ咳払いをし、彼の耳元で
「言っておくが、君は私の恋人だ。旅に支障が出ない程度なら君の好きな時に、何度でも相手をするぞ?」
 と囁いた。
 ゾロはその言葉で我に返ったのか、一瞬ハッとした表情を見せた後、彼の表情は溶けるように変な笑顔になった。
 そして、先程のお返しといわんばかりにルカリオが入っていったテントの方に向かって勝ち誇った表情を返して見せた。
 『とりあえず……人間でもポケモンでも恋やら愛に関することは男は単純だな……』
 と、アカリは心の中で思ったが、決して口には出さなかった。
 その後、日が暮れてもルカリオが行為を求めてきたのは言うまでもない。

レポート03:たまごタイプ ようせい 


登場ポケモンキノガッサ

シチュエーションおねショタ

 森の中に似つかわしくない純白の白衣に身を包んだ女性が一人、林道を離れて森の中へ分け入っていた。
 かなり大きな荷物を背負い、何か目的があるのか、かなり息切れをしているのにも拘らず、構わず森の奥へ奥へと進んでいた。
 そんな彼女の行く手にある背の低い茂みが不意に揺れた。
「見つけた! そこにいるポケモン! 是非私と交尾してみないか!?」
 開口一番に飛び出した言葉はその言葉とは裏腹に、飛び切りの爽やかな顔をしたその変人……もとい変態の口から飛び出した。
 どうやら茂みには確かにポケモンが居たようで、少しだけ顔を出していたが、彼女の言葉を聞くなり、なかなか見れないような表情を見せて茂みの中へ引っ込んでいった。
 それを見ると少しだけ悔しそうな表情を見せ、
「また駄目か……。なかなか協力的なポケモンが見つからないな……」
 そう言って、少しだけ顎に手を当て考え事を始めたようだった。
 彼女の名前はアカリ。
 彼女の威厳のために一応説明するが、決して彼女は変態ではない。
 彼女は研究者であり、現在彼女は自らが提唱した論文の結果を出すために世界中を旅していた。
 その提唱した論文というものが非常に素晴らしいもので、『ポケモンと人間は更に近い種族になれるのではないか。更に進化することができるのではないか』というものだった。
 それが実現すれば今のポケモン社会は更に発展することだろう素晴らしい研究なのだが、それを提唱した彼女に少しばかり問題があった。
 非常にモラルの欠けている彼女は、何を思ったのか人間とポケモンが交尾をして子供を生み、自然に進化することが可能なのでは? と思い付き、思い付くだけならまだしも、実行しようとした。
 案の定提案は否定され、彼女は学者連から変人の仇名を頂いた。
 それでも自身の夢となった研究をとりあえず結果を出したいと思い、まずは行動するべきと考えた彼女のとりあえず行動を起こす性格が元で、現在彼女はここに居る。
「グルァウ!!」
 考え込んでいる彼女の背後からそんな鳴き声が聞こえてきた。
 それに気付いた彼女は考え込むのを止め、その声のする方へ向き直した。
「ゾロ! どうだ? 協力してくれそうなポケモンはいたか?」
 茂みを飛び越えながら一匹のゾロアークが彼女の元へ駆け寄ってきた。
 そのゾロと呼ばれたゾロアークは彼女の質問に対し、首を横に振って答えた。
 結構期待していたのか、彼女は深く溜め息を吐いた。
「今日も研究の進展は無し……か。まさかここまで野生のポケモンが人間に対して協力的でないとはなぁ……」
 その日は既にかなり日も傾いていたせいもあってか、アカリはその場であまり深く悩まず、すぐにテントが張れそうな場所を探し始めた。
 それからそれほど時間も距離も離れていないほどの場所で良い場所が見つかり、アカリはゾロにテントを建たせ、その間に食事の準備を始めた。
 彼女に不釣合いなほど大きな鞄から、持ち運びに便利な小さな調理道具と食器が次々と現れ、何処に納まっていたのか不思議になる、少し大きめの科学技術の粋を集めた超コンパクト収納可能な机の上に並べていく。
 彼女は一見して旅慣れしていなさそうに見えたが、テントを建て終わったゾロに枝を集めるようにお願いし、その間に持ってきた携帯食料や途中で見つけた木の実などを手際良く包丁で刻んでいった。
 小さな鍋にそれらを移し、ペットボトルの水をそれに加え、ゾロの帰りを待っていた。
 ゾロが腕一杯に大小さまざまな枝を抱えて戻ってきたのを確認すると、彼女はすぐに火を起こし始めた。
「とりあえず……今日はマトマがあったから少し辛めのマトマスープだ」
 そう言い、すぐに起こした火に手際良く鍋をかけた。
 ゾロもお腹が空いているのかとてもワクワクして料理の完成を待っていた。
 その間に、アカリがゾロに質問をする。
「なあゾロ。なぜ私の研究に協力してくれるポケモンがなかなか現れないのか分かるだろうか?」
 かなり神妙な表情でアカリはそう自分の思いを話した。
 ここ最近は特に何の収穫もなく、ただただ時間だけが過ぎていたため、彼女なりの焦りが出てきていたのだろう。
 実を言うと、別行動をとってポケモンの勧誘を行っているのだが、昼間の間、ゾロは特に探しもせず、ぶらぶらとしているだけだ。
 真実を知らないアカリは本気で思い悩んでいるようで、これには流石に悪いと感じたのかゾロも彼女の悩みを一緒に本気で考えた。
 そこで、取り合えずアカリはいつもポケモンを見つけた時の勧誘時の台詞をゾロにも言ってみた。
 案の定、ゾロもドン引きである。
 しかし、彼の場合は慣れっこということもあり、遠い目と深い溜め息で済んだが、本当に事情を知らないポケモンからしたらただの恥女がいきなり自分を標的にしたとしか思えない。
 『ポケモンと人間の未来のために協力してくれないか?』などとぼかして説明すれば取り合えず聞いてくれるポケモンは増えるのではないかなーと心の中でゾロは考えたが、言葉が通じない以上それを伝える術は無い。
 彼女にはぼかしたり、ニュアンスを変えるような考えは無く、焦りのせいもありあまりにも単刀直入な言葉になってしまっていた。
「ふ~……。仕方ないとりあえずスープも完成したことだし、悩むのは後にしよう。さあ、食べてしまおう」
 そう言い、湯気を立てるスープを二人分に分けてよそい、鞄から別にパンを取り出した。
 その後、全部食べ終わったのを確認したアカリは、水を少量使って食器を全て綺麗に拭いて鞄へと直した。
 お腹も膨れ、一人と一匹は少しの間まったりと夕涼みをしていたが、
「ガ、ガウ……」
 不意にゾロがそんな声を出しながら、アカリの服を引っ張った。
 アカリがゾロの方を向くと少しだけもじもじとしていたのに気付き
「はいはい。君も好きだな……」
 そう言いながらゾロの頭を撫で、テントの中へと入っていった。
 それを追いかけるようにゾロもテントの中へと入っていった。
 すると、アカリはさっと布団を敷き、サッと自らの服を脱いで裸になり、布団の上へ移動した。
 その姿に既に興奮したのか、ゾロアークのモノは既に大きくなっていた。
 アカリとゾロはポケモンとそのトレーナーという関係だが、それ以前にこの二人は恋人同士でもあった。
 ごく普通の感性を持った人間からすればそれは異質な光景に見えたかもしれないが、遠い昔ではそれは普通の光景だったらしい。
 アカリもその文献を見て、今回の研究に至ったのだから、何処か常識外れしているのかもしれない。
 だが、二人の思いは異常なものではなく、ただ種族が違うだけであり、そこにあるのは純粋な恋心だ。
 すぐにゾロはアカリの上に覆い被さり、長い爪で彼女を傷つけないように気を付けながら、彼女の手を優しく握り、舌を絡め合わせる深い口付けを交わした。
 息が続かなくなるまで舌を交わらせ、息を荒くしながらゾロは口を離すと、そのまま完全に勃起したモノをスッと彼女の膣へと滑り込ませた。
 若さは力なのか、ここ最近は夜になるとゾロは大体夜の営みを求めていた。
 そのため交尾にもかなり慣れ、アカリにもゾロにも行為を愉しむ余裕ができていた。
 ゆっくりと自らのモノを彼女の置く深くまで挿入し、一番奥まで届いたら、そのままあまり奥から動かさずに、体全体をゆっくりと前後に動かした。
 するとアカリが少しだけ甘い声を漏らす。
 基本的にアカリは女性だが、女性らしさが微塵も無い。
 二人が行為を行っていた最初の頃は、アカリはマグロのように微動だにしなかった。
 しかし、最近はゾロがアカリの感じやすい部分を理解したのか、アカリが少しずつ女性らしくなっていってるのか、非常に感度が良くなっていた。
 おかげでようやくゾロも彼女の喘ぐ声を聞くことができて、嬉しくなったらしい。
 よりお互いが快感を求められるようにゾロも工夫して交尾を愉しんでいた。
 一番奥を弄り続け、ある程度アカリの息遣いが荒くなり、嬌声が出てくるようになった所で、今度はゾロ自身も快感を愉しむ。
 一気に引き抜き、同じ速度で一番奥まで突っ込む。
 すると今まで聞けなかったような快感に悦ぶアカリの声が聞こえ、小さくグチュッと水音が聞こえた。
「はあ……はあ……。最近やたら巧くなったみたいだな。非常に気持ちが良いぞ」
 行為の最中は基本的に何も喋らないアカリだが、今日はそれほど気持ちが良かったのか初めてゾロにそう声をかけた。
 これはゾロにとっても非常に嬉しかったのか、もう少しゆっくりとしたペースで愉しむつもりだったのだが、一気に腰を動かすスピードを上げた。
 快感が一気に高まり、何か喋ろうとしていたアカリはその言葉を言えなくなり、そのまま絶頂を迎えた。
 体を反らせながら小刻みに体を痙攣させるアカリに続くようにゾロも彼女の中へ全てを出した。
 そのまま少しの間、二人はじっと抱き合っていた。



          レポート03:たまごタイプ ようせい



 次の日の朝、アカリたちはまだ朝靄が掛かっているほどの朝早くにすぐ起き、朝食の準備を始めた。
 その間にゾロはテントの折り畳みと、枝集めをするという基本的な肉体労働を任されてた。
 ゾロ自身も研究所の研究用ポケモンとして常日頃あまり動いていなかったので、こういった体を動かす機会はとてもありがたかった。
 ポケモンといえど、長い間怠けていればすぐに体が衰える。
 本来は野山を駆け回っているようなのがポケモンなので、狭い研究所で技のデータを取るためだけに動いていたのでは運動量が足りなさ過ぎるのだ。
 そのためゾロはわざわざ全力疾走で駆け回り、手頃な枝を流れるように拾い集めていた。
 ある程度集まると、すぐにアカリの元へ戻る。
 大体その頃にはアカリが準備を終えて火を焚きたそうに待っているからだ。
 ゾロの思ったとおり、集めて戻るとアカリが既に下ごしらえを終わらせた料理を机に並べて待っていた。
 すぐに火を起こし、調理に取り掛かる。
 今日の朝食は一般的なソーセージとトーストの上に目玉焼きを乗せたものだった。
 朝はいつもこんな感じで簡易的なのだが、今日は木の実に余裕があったのか、剥いた状態のモモンの実もデザートとして置いてあった。
 そのまま少しの間食事を楽しみ、食事が終わるとアカリは荷物をまとめて、移動する準備を整えた。
 基本的に彼女の研究に協力してくれそうなポケモンがいなかった場合、アカリは場所を朝の内に大きく移動し、かなり離れたらまたそこで捜索するという感じでポケモンを探していた。
 今日も同じようにさらに森の奥へと進んでいき、景色がそれまでと変わるまで移動したところで、アカリは一旦立ち止まった。
「よし! ここを集合地点にしよう! 君はあっちを頼んだぞ! 今日こそ研究を進めてみせるぞ!」
 そう言い、意気込みも新たにアカリは元気な笑顔を見せた。
 ゾロもガウ! と返事をしたが、彼としてはまだこの二人旅を続けたいのであまり積極的に探すつもりは無かった。
 そしてそのままそこで二手に別れ、お互い歩いてきた林道を反れて森の中へ消えていった。
 アカリはいつもの調子で森の中へガンガン分け入り、見つけたポケモンに手当たり次第声を掛けていた。
「そこのポケモン! 是非私と交尾してくれないか!?」
 と性懲りも無く変態じみた誘い方で……。

 ――それに対し、ゾロは本当に楽しそうに山を駆け回っていた。
 元々はトレーナーと旅をしていたポケモンだったゾロにとって走り回るのはとても楽しいことだった。
 その頃はよくポケモンバトルをしていたため毎日のようにトレーニングをしたり、対戦をしたりして、ほぼ毎日のように動き回っていた。
 走り回ってスタミナをつけたり、トレーナーの他のポケモンと模擬戦を行ったりしていたので基本的には体を動かす方が大好きだった。
 しかし、アカリの元にやってきたことで今までの彼とは正反対に、指示されたとおりに技の威力を調節したり、アカリの実験の手伝いをしたりと頭脳労働の方が多くなっていた。
 そのため運動不足と慣れない頭脳労働であまり口や態度には出さないがストレスは結構溜まっていた。
 なので素直にアカリとの二人旅がもっと続いてほしいというのもあるが、単に日頃のストレス発散ということで好きなように走り回っているのもあった。
 そして案の定そんな風に目立つように走り回っているゾロは色々なポケモンに声を掛けられる。
「おーい! そんなに急いでどうしたのー?」
 ゾロに大きく手を振りながら話しかけてきたのはピカチュウだった。
 基本的に非協力的なゾロだが、彼も一応アカリの事は考えているので声を掛けてきたポケモンには一応研究のことを話している。
「よお。別に急いでるわけじゃないよ。日頃、運動不足だからただ走り回ってるだけだ」
 庭に離された犬の心境のような返答をし、ピカチュウからふ~んと一応の共感をもらったところで、本題を切り出してみた。
「なあ、もし時間あるなら俺のパートナーの研究に協力してくれないか?」
 そう聞くと、研究? と聞き直していた。
 ゾロとしてはありがたくないが、どうやらそのピカチュウには彼の話を聞く気があるようなので今回の旅の内容を話した。
 全て説明するとそのピカチュウは不思議そうな顔をして
「そのアカリって人、女性でしょ? 私もメスよ?」
 そう言った。
 ゾロはそう言われるまで確認してなかったが、彼女の尻尾を確認すると言った通り、ピカチュウのメスとして特徴的なハート型の割れ目が入っていた。
 そこでようやく気が付いたゾロはわざわざ説明までした自分が馬鹿馬鹿しくなり、頭に手を当てて溜め息を吐いた。
「そうだな……。悪かった、今の話は忘れてくれ。じゃ、俺はこの辺で」
 一応、時間を取らせたことをピカチュウに謝り、小さく敬礼してゾロはその場を去ろうとしたが、
「ちょっと待って!」
 既に走り出そうとしていたゾロの背中に大きな声で呼び掛けて、彼を引き止めた。
 ピカチュウに彼を引き止める理由が見つからなかったので、ゾロは自分が何故呼び止められたのか不思議に思いつつ、なんだ? と返事をして首だけで後ろを見た。
 するとそのピカチュウは先程までとは違い、その大きな瞳をキラキラと輝かせながら
「あなた、結構強いオスなんじゃないの? 顔も結構いいし、折角なら私とタマゴ作らない?」
 そう言ってきた。
 ポケモンは非常に繁殖能力が高い。それは同時に発情期の多さを意味する。
 というよりも、世界中、ほとんどどんな場所にでも生息している上に、ほぼ万年発情期のポケモン達は当たり前だが本能的に性欲が強く、なにかしろ優れている雄がいれば積極的に求めてくる。
 そういったところは非常に野性の動物に近いのがやはりポケモンの特徴でもある。
「いや、遠慮する」
 それに対し、真顔でそう答えるゾロのようにやたら人間じみている所もある。
 動物なら雌が許した時点で交尾するだろうが、非常に理性的な行動もするため、今回のような場合もある。
 ゾロにすれば交尾したい女性はアカリただ一人だ。
 だが、野性の彼女からすればそんな事は関係無い訳で、積極的にゾロに詰め寄っていく。
 しかし、ゾロも詰め寄られ始めた辺りから全力で逃走を開始した。
「あぁ~ん! もう! 久し振りにいいオスが見つかったと思ったのに!」
 遠く後ろの方でそんな声が聞こえたが、ゾロは止まる気はなかった。
 因みに、野生に放たれたポケモンの内、トレーナーによって大事に育てられたポケモンは今回のようによく異性に追い掛け回されることがある。
 この旅が始まってからゾロがこういった面倒事に巻き込まれたのはこれが初めてではない。
 というより、それほどの期間が経っていないが既に二桁ほど追い掛け回されていた。
 それだけアカリ一筋だというのにも拘らず、彼は未だ彼女の研究に協力する気はない。





     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇





「頼む! 少しでいいから話を聞いてくれ! というか私に協力してくれ! 悪い話ではないだろう!?」
 一方その頃、アカリは相変わらずポケモンを追い掛け回していた。
 そして追いかけられるポケモンは必死に、彼らからすれば野生の雌よりもタチの悪い恥女から逃げ回っていた。
 見つけたポケモンが、声を掛けるだけであからさまに引いた顔をして逃げていくのが、アカリとしても流石に苛立ちになり始めていたため、見つけたポケモンを見失うまでは追いかけるようになっていた。
 彼女の威厳のためにもう一度説明するが、彼女は決して変態ではない。
 自分と交尾するためのポケモンを血眼で追い掛け回し、彼女の恋人はゾロアークであるが、変態ではない。
「というよりも何故、女性の私がこれだけお願いしてみな避けていくんだ!? 野生のポケモンなら野生のポケモンらしく女性の誘いを断るな! 本能で生きてるのが野性として普通だろう!?」
 と、仕舞いには当たりようのない怒りを大きな独り言で叫んでいた。
 しかし、野生となったポケモンにも元はトレーナーと一緒に居たポケモンが非常に多い。
 そういったポケモン達は非常に理性的な上に、彼女が思っているほど野生のポケモンも本能だけで生きてはいない。
 そうでなければこんな変態……変人の前にわざわざ一度は姿を見せてくれたりなどはしないだろう。
 といったが、それは冗談で、実際、ポケモンは習性的に人間の前に姿を現す。
 人とポケモンはその記録がほとんど残っていない頃からパートナーとして寄り添っている。
 そのため野生のポケモンも人というものをあまり警戒しておらず、ポケモンも人といれば強くなれるため、積極的に人の前に姿を現す。
 現した後はその人間と、ポケモンのやり取りだが、アカリのこの性格ではソリの合うポケモンはそうそういない。
 そのためか、基本的にポケモンとそのトレーナーは非常に性格やライフスタイルが似ている者同士がパートナーになっているケースが多いと言われている。
 流石に色々な意味で疲れたのか、アカリは自らの背中に乗っている大きな鞄を下ろして、木の陰で一休みすることにした。
 鞄から一つタオルを取り出して額を伝う汗を拭い、ペットボトルを取り出して、一口飲んだ。
 『だんだん自分のやっていることが虚しくなってきた……。まさかここまでポケモンまでもが私の研究に非協力的だとは……』
 あまりにも成果が上がらずに、アカリは疲れのせいもあってかなり悲観的になっていた。
 そこでそのまま少しの間休みながら考え事をしていると、色々と悪い予想だけが頭を巡り始め、だんだんと自分の考えに否定的になり始めていた。
 所謂負の連鎖だが、こういったものは自分自身よりも他の誰かが助けてくれるだけですぐに元気になるのだが、その誰かは今彼女の近くにはいない。
 『結果を出すだけなら研究所の人達に助けてもらった方がいいのかもしれないな……』と、諦めかけていたその時、彼女の前に一匹のキノガッサが現れた。
 それに気付いたアカリはいつもの調子で……とはいかず、かなり落ち込んだ気持ちのままそのキノガッサに声を掛けた。
「やあ……。そこの君、私と交尾してみる気はないかい?」
 いつもよりもかなり声のトーンも低く、ゆっくりとした口調でそう言った。
 すると、そのキノガッサは今までのポケモン達と違い、あからさまに引いた顔をするわけでもなく、すぐにその場を立ち去ろうとするでもなく、ただジーッとアカリを見つめていた。
「どうした? 私の実験に協力してくれるのか?」
 その場を離れないため、ストレート過ぎる言葉の後に、本来最初に言った方がいい言葉を続けていった。
 するとキノガッサは少しだけ不思議そうな顔をした後
「コービってなんだ? トックンなのか?」
 と、彼女に聞き直した。
 その返事が彼女にはどう取れたのか分からないが、ひとまずその場から動かないそのキノガッサを見て久し振りにアカリは笑顔を取り戻した。
「どうやら興味あり……のようだな。君はなかなか見込みがありそうだ」
 アカリは勝手にそう判断したが、その実、このキノガッサが交尾のことすら理解できていない子供だということはまだ気が付いていない。
 ポケモンの成長は進化を見れば大体分かるのだが、個体によってはその潜在能力が非常に高く、あっという間に力を付けて進化してしまうような個体もいる。
 そういったポケモンは実際、まだ生まれてからそれほど長い月日を生きていない者が多いため、多くの場合非常に知識や経験が不足している。
 また逆に、ポケモン個体としての能力値は低いのだが、それのせいでなかなか進化ができていないだけの老練なポケモンが存在するのも事実だ。
 だからといってそういったポケモンが弱いかというと、そうではなく、その幼げ容姿と長い経験から逆に相手を油断させ、読み合いや駆け引きなどの部分で大きく利のある攻め方を行う事が出来る。
 年の功とはよく言ったもので、それを知っているのか、トレーナーの中にはわざと個体を進化させずに育てるトレーナーもいるほどだ。
 一通りアカリは自分の今の旅の内容と、彼女の掲げる壮大な夢をそのキノガッサにも語った。
「良く分かんないけど、あんたスゲーんだな! ならトックンしてくれよ!」
 まだ年端のいかないキノガッサには、あまりにもその大義ある研究の内容は案の定さっぱり理解できなかったようで、とりあえず久し振りに話を聞いてくれたポケモンが現れたことに元気を取り戻したアカリの力説に反応して、キノガッサは瞳をキラキラと光らせながらそう答えた。
 ピョコピョコと小さく飛び跳ね、屈託のない期待の笑顔を見せるキノガッサのその様子を見て、アカリは完全に勘違いし、
「よし! やっと協力者が現れてくれた! いや……協力ポケモンか? まあいいか。さあ! 急いで開けた場所を探そう!」
 そう彼に告げた。
 そして彼の短い腕の爪を握って意気揚々と歩き始めた。
「トックンだ! トックンだ! もっと強くなるぞ!」
 勘違い同士のペアは楽しそうに移動を始めたが、これの形が人間同士なら完全なる誘拐である。
 その上、アカリもようやく協力してくれるポケモンが見つかったのが嬉しすぎて集合場所に戻るのも勿体なく感じていた。
 そのため、それからほとんど時間も掛からずに見つかった森の中にあった開けた空間にサッとテントを張り、愛の巣を完成させた。
 野生のポケモンでもこれほど手早く幼子を誘拐して、自らのテリトリーに引きずり込んだりできないだろう。
 テントに入るとアカリはいつもの調子で手際良く敷布団を用意し、あっという間に服を全て脱ぎ捨てた。
 最後にもう一度だけ説明するがアカリは決して変態ではない……と思われる。
「さあ! 私もある程度交尾には慣れてきたからな! 君の好きにしていいぞ?」
 胸を張って堂々と言う事ではないが、アカリはずっと不思議そうな顔のまま突っ立っていたキノガッサにそう声明した。
 しかし、そう言われてもその交尾という行為自体が分かっていないキノガッサは困った子猫のように小首を傾げるだけだった。
「なんでハダカになったんだ? それにコービって人間と一緒にトックンすることなのか?」
 小首を傾げたまま疑問を投げかけるだけのキノガッサを見て、アカリは遠慮しているのだろうと仮定した。
 そのため、少し微笑むとアカリはキノガッサに抱き付き、アカリが下になるようにそのまま一緒にゆっくりと布団に倒れ込んだ。
 交尾の事を特訓だと解釈しているキノガッサは何をしていいのか分からず、ひたすら戸惑っていた。
 しかし、その戸惑いは傍から見れば恥ずかしがっているようにしか見えず、アカリは優しくキノガッサの股間の辺りを撫でてやった。
 今までの経験と、旅の前に一応得ていた知識からある程度、雄が興奮する部分を理解していたアカリはキノガッサの興奮を促そうと試みた。
 一説によると、人間の汗というものは異性を惹きつけるフェロモンのような効果があると言われている。
 そのためかは知らないが、アカリの優しくも大胆な手つきで、本能的に興奮したのかゆっくりとキノガッサの又の間から彼のモノが伸びてきた。
 しかし、キノガッサは体こそ既に立派な大人だが、まだ心は幼いため、そういった感情も知識もないため自分の体に何が起きているのか理解が出来ず、更に戸惑っていた。
「な、……何コレ!? なんか気持ちいいけど……これがコービなの?」
 不思議な刺激に頭が少し混乱したが、幼子ほど自らの感じた事には素直に動くものだ。
 それまで少しバタバタと暴れていたが、気持ち良い刺激が与えられ始めてからは、本能に従い大人しくなった。
 それに気付いたアカリは少しキノガッサの体を持ち上げて、
「さあ、後は君の好きにしていいぞ」
 そう彼に言った。
 好きにしていいと言われても彼にはよく分かっていなかった。
 だが、そこは生物としての本能なのか、またアカリに胸の上に戻されて、丁度、彼のモノがアカリの秘部に当たったのをキノガッサは感じた。
 そして本能的に『ここに入れるべきなんだ』と悟った。
 このキノガッサは戦闘に関するセンスがずば抜けて高かった。
 戦いにおいて大事なのは『相手が嫌がることを相手が一番されたくないタイミングですること』である。
 交尾の場合は全てが逆になるが、このキノガッサは勘違いしているのにも関わらず、アカリがして欲しいことをするのが正しいと理解していた。
 そしてキノガッサはその本能に誘われるままに自らのモノをアカリの膣へ押し込む。
 加減を知らないキノガッサの一突きは腰と腰がぶつかり合い、パンッと音が聞こえるまで最初の挿入で深く突いた。
「んっ!? さ、流石にもう少しお手柔らかに頼む」
 まだ受け入れる準備のできていなかったアカリは少し苦しそうな表情を見せて、彼にそう言ったが、当の本人はそれどころではなかった。
 まだ滑りのよくない膣内に自分のモノが挟まれ、圧迫されると今まで感じたこともない刺激が体を襲っていた。
「な……なにコレェ!? オチンチンから……体が痺れる……!!」
 体中が脱力しそうなほどの、まだ彼には早すぎる快感に思わず腰が引けた。
 しかし、引き抜こうとしたモノにも刺激が走る。
 そこでキノガッサは動きを止めるが、動きを止めても圧迫されて刺激が訪れる。
 アカリの体もその少し乱暴な行為で膣内が傷つかないようにするために愛液が溢れ始めていた。
 しかし、あかりの痺れの連続にキノガッサは半分混乱状態だった。
「そ……そうか! 痺れてる時にも動けるようにするトックンがコービなのか!」
 そこで彼が思い付いたのは突拍子もない辻褄合わせだった。
 確かに、戦闘において麻痺状態は非常に厄介な状態だ。
 そこで麻痺をもろともせずに動けるのなら素晴らしいことだが、今の状況が戦闘で役に立つことはないだろう。
 そんなことは露知らず、キノガッサは心地よい痺れに対抗しながらゆっくりと腰を引いていく。
 早く動かすよりは僅かに刺激が弱いが、初めての彼にとってすればそれは僅かな差だ。
 ゆっくりと先端の付近まで引き抜くが、それ以上は抜かず、またゆっくりと中へ入れた。
 今度は先程よりも膣内が濡れているため、すんなりと中に入っていく。
 動きが滑らかになった分、刺激もただの痺れではないことにキノガッサも気が付き始めた。
 感覚は痺れに似ているが、その中に間違いなく気持ち良さがあることを頭ではなく、本能で気が付いた。
 少しずつ動きを早くしていきながらその快感を味わう。
 その度に僅かに水音が聞こえ、彼の本能を刺激していく。
 だんだんとその刺激から快感を覚え、動きを早めていくピストン運動に次第に息も上がり始めた。
 それに比例して増していく射精感はまだ彼の知らない感覚だったためか、動かす度に体が痺れて動きにくくなっているように感じた。
 未だその性行為を特訓だと勘違いしている彼は、負けじと腰の動きを早くしていく。
 しかし、そんな彼の考えは全くの正反対で、パンッ! パンッ! と大きな音が響くまでに勢いよく動かせば動かすほどにその痺れは強さを増していった。
「ハァ……ハァア……! 出ちゃう……何かが出ちゃうぅ!!」
 そしてついに耐え切れなくなったキノガッサは大きく体を痙攣させながら精液を彼女の中へ放った。
 それに連れて、初めての射精からこの上ない痺れを全身で感じたキノガッサはついにその痺れに耐え切れなくなり、脱力して彼女にもたれかかったまま精液を送り続けていた。
 胸を大きく前後に動かし、交尾という大仕事を終えた体に酸素を送ろうと肺が全力で動き、熱い吐息をアカリに吐きかけた。
「終わったようだな……。お疲れ様……」
 アカリはその様子を見て彼の頭を優しく撫でてあげた。
 尚も彼のモノは大きく脈打ち、最後の一滴まで絞り出そうとしていた。
 だが、当の本人はまだ満足していなかった。
 性欲が満足していないはずはない。そもそもまだ彼には性欲という考えがない。
 彼が満足していないのはこの特訓に負けてしまったような気がした自分の闘争本能だった。
 脈動も収まり、モノも少しずつ縮み始めていたが、彼の中で『このまま負けたくない』という思いが強くなり、まだ体を苛む脱力感に抵抗しながら体を起こし、そして腰を動かした。
 先程よりも更に痛いほどの快感がモノから全身に伝わる。
「!? こら! 一度でいいんだ! これ以上はやっても意味がないんだぞ!?」
 不意に訪れた快感に、実は必死に声を出さないように耐えていたアカリはキノガッサを止めようとした。
 彼女も十分に性行為というものが快感であることをゾロとの行為で理解していた。
 しかし、今はゾロとの性行為ではない。
 そのためできる限り快感を求めようとはしなかった。
 そうでもしなければゾロが不貞腐れるだろうという彼女なりの配慮だった。
 しかし、そんな彼女の意志と反し、キノガッサは少しずつ腰の動きを早めていく。
 必死に快感を求めるわけでもなく、新たな種を宿そうとしているわけでもなく、その本来は快楽を味わうための痺れと戦っていた。
 完全に油断していてついに耐え切れなくなったアカリは甘い声を漏らしながら事が終わるのを待つしかなくなった。
 そんな様子で必死にイキそうなのを耐えているアカリを見て、ようやく勝っていると思えたのか、全力で腰を振った。
 そこで止めなかったのは、先程彼が達した際にアカリが彼を褒めたせいである。
 そのまま激しく腰を振りながらキノガッサは人生2度目の絶頂を迎えた。
 先程よりも激しい快楽と脱力の波と、痛いほどに脈動する自らのモノに、ついに闘魂精神逞しいこのキノガッサも動けなくなった。





     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇





「やあすまない。かなり待たせてしまったようだな」
 日は真上からかなりずれてしまった昼過ぎ頃、ようやくアカリは例のキノガッサを連れて集合場所に定めていた場所へ戻った。
「ガウ!」
 若干、怒っているようにも聞こえるような鳴き声でゾロは彼女を出迎えた。
 それもそのはず、彼は既にこの場所で2,3時間ほど待っていたからだ。
 しかし、彼の怒りの理由は待たされたことからではなく、『アカリが遅れた』ということにだった。
 彼女は基本的に約束事は決して破らない人間だ。
 そこでこの旅。もしかすると彼女の身に何かあったのではないか? という心配がゾロの中にはあった。
 かと思えば彼女はいつもと変わらない調子で戻ってきたため、その心労が取れて安心した反動で少し怒りがこみ上げただけだった。
 基本的にゾロは彼女の事を間違いなく愛しているのでその怒りもすぐに収まった。
 そこでゾロは横にいるアカリに手を引かれてやってきたキノガッサのことが気になり、身振りで彼女に聞いた。
「ん? 彼か。今回の実験に協力してくれたポケモンだ。妖精と植物の二種類のタマゴタイプを持っているからどちらかのレポートとして纏めよう」
 と、殆ど独り言のようにゾロに報告した。
 が、同じポケモン同士であるゾロには既に彼がまだ幼い子供であることがすぐに分かった。
 というよりもアカリでなければこの仔が幼子であることは一目瞭然だった。
 終始キョロキョロと辺りを見渡し、色々な物に興味津々なのにも関わらず、アカリと繋いだ手は決して離さずに従順に彼女について回っていた。
 そういった成長による落ち着きが一切見られなかったため、いくら元々やんちゃな性格のポケモンだったとしてもそのやんちゃさとは違う、まだ何も知らない好奇心の塊であることが彼女には分からなかったようだ。
 それに気が付いたゾロはなんとか身振り手振りで『この仔は流石に実験には向いていない』と伝えようと試みたが
「因みに実験結果は駄目だったようだ。まあ、これで何かの糸口が見つかるかもしれんから無駄ではなかっただろう」
 そう言われ絶句した。
 『既に襲っていた!?』
 と思わず心の中で叫んだが、確かに状況が分かるゾロからすれば構図はおねショタである。
 そこで思わずそのキノガッサに変な性癖がつかないか心配になり『大丈夫か!?』と聞いてしまった。
 すると彼も屈託のない澄んだ瞳で『このお姉ちゃんとコービっていうトックンしたよ!』と答えた。
 交尾のことが何のことなのか理解すらしていないその少年を見事丸め込んで、アカリのテント(ありじごく)へ連れ込んだのだから彼の将来が危ぶまれてゾロはそのキノガッサに心底同情した。
 それと同時に、あまりにもモラルの欠けたアカリの犯罪者予備軍ともとれる行動にゾロは、『自分がしっかりしなければならない!』と決心した。
「それでは、今晩のテントを張る場所を改めて探すとするか。テントを張り終わったら君にはいつものように外で待っていてもらうぞ?」
「ガウ!?」
 彼女曰く、一度で失敗だと見切りをつけるのは良くないということで、今日一日はこのキノガッサが実験の協力対象なのだ。
 だが、もしもこんな人間に今日一日無垢な少年が振り回されれば確実にまともな道は歩めなくなってしまうだろう。性的な意味で。
 『それ以上いけない』と流石に思ったゾロは、なんとかアカリを止めようとするが、アカリの目にはそこだけは恋人を取られたくなくて焦っている恋人の図に見えたのだろう。
「大丈夫だ! 愛しているのは君だけだ!」
 とうまい具合にゾロの心配を跳ね除けてみせた。
 『もうここまでか……!』とアカリが犯罪者予備軍から犯罪者に格上げされるのを止められないと諦めかけていたその時、遠くから別の人間の声が聞こえてきた。
「すみませ~ん!! そのキノガッサ、うちの子なんで~す!!」

 ――走ってきたその女性はエリートポケモントレーナーだった。
「いや~助かりました! キノちゃんはかなり見込みがあるから優先的に特訓してるんですけど……。まだまだやんちゃで目を離すとフラ~ッと何処かに行っちゃうんですよ。これで他のトレーナーさんに迷惑をかけたのは何度目の事か……」
 そう言い、頭を抱えていた。
 このキノガッサの名前はキノ。彼女が名付けた名前だ。
 この子の親に当たるポケモンがもうそろそろ一軍として戦うにはピークを過ぎてきていたため、子供を産んで引退したのが全ての始まりだった。
 エリートトレーナーと呼ばれるにふさわしい彼女は、様々な大会に出場しては優勝したり、入賞したりなどしてその賞金だけでポケモン6匹もの数を育てている本物のベテランだった。
 そんな彼女も手を焼くほどの潜在能力を秘めていたこのキノは、生まれてからすぐにその頭角を現した。
 親となったポケモン2匹もとても優秀だったのだが、生まれてから一体何年間がキノココだったのだろうか? と不思議になるほどあっという間に成長してしまったのだという。
 そのため優秀ではあるが、トレーナーである彼女の言葉もあまり理解していないキノはよく暴走するのだそうだ。
 その度に、きつく言いつけ、その後優しく慰めるということをトレーナーであるはずの彼女が行わなければならない羽目になっていた。
 既に慣れっこなのだそうだが、それでも秘められた能力に強く惹かれている彼女は、是非とも彼女の言うことを聞けるほど大きくなるまでに強く鍛え上げ、最初から前線で活躍できるようにしたいためこの子の育成に手間を惜しまないそうだ。
 やたら強いのに未だ幼いこの子が今までどうやって生きてきたのかという一番の謎がようやく紐解かれた所でアカリは重大な事実に気が付いた。
 『人のポケモンとったらどろぼう』である。
 正確には捕ってはいないが、寝取ってはいる。
「イエイエ、これも同じ一トレーナーとして当たり前の行為デス」
 基本的に感情の揺らぎが少ないアカリだが、これには流石に動揺したのか明らかに喋り方がおかしかった。
 その後、アカリに何度も頭を下げてお礼を言った後、彼女たちは町の方へ帰っていった。
「とりあえず、今日はもう特訓は無し! キノちゃんも疲れただろうから今日はお風呂に入って寝ようね?」
 彼女たちが今後、どうなったのかは言うまでもないだろう。

 そしてその場に立ち尽くしたアカリとゾロは彼女たちの姿が見えなくなった後で冷や汗をかいた。
「とりあえず……すまなかった。これからは私の独断で実験は決して行わない。……私も犯罪者にはなりたくないからな」
「グァウ」
 彼女たちの中ではとりあえず今回の件は丸く収まったのでようやくホッと胸をなでおろすことができた。
 ゾロとしても今回の件は『アカリにとっても彼女がどれだけモラルが足りていないのか理解するいい機会だろう』と解釈することにした。
 その後一人と一匹は少しだけ考え事をした後、お互いに顔を見て少しだけ微笑んだ。
「さあ、今晩を過ごせる場所を探そう。それと……今夜は私からお願いしたい」
 そう言った。
 キノに勢いで襲われた時、ギリギリ絶頂に達することができなかったせいで、少し満足しきれていなかったアカリはこの旅が始まってから初めてゾロを自分から誘った。
 それがとても嬉しかったのか、ゾロは耳をピンと立ててから彼女の顔を見て、満面の笑みでガウ! とだけ返事をした。



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Last-modified: 2014-10-27 (月) 17:59:39
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