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真夜中のシークレット・スイッチ

/真夜中のシークレット・スイッチ

この作品は第一回ポケモン小説wiki交流企画に投稿された作品です。


※注意
 ・本館は18歳未満入館禁止です。
 ・人♂×ポケ♀の獣姦的プレイの他、マットプレイ泡踊りなどをお楽しみいただけます。
 ・なお、設定のみで直接的な描写はありませんが、食用ポケモンの事情について触れています。
 それでは、良いひと時を。




 幹線道路に沿って都会の喧騒を離れ、忙しなく行き交う車の流れから逸れると、一面に広がるのは豊かな田園風景。
 田畑を切り分ける畦道を進み用水路を跨ぐ橋を渡ると、突然そこだけ次元の違う異様がそびえ立っている。
 煌びやかなネオンの看板で瀟洒な外壁を彩った、どこか妖しげな雰囲気を漂わせる5階立て程の壮麗な建物だ。
 その奥深く、古めかしい調度品で飾られた一室に、カタカタと硬質な音色が小さく響いていた。
「ここで働きたいんだって?」
 音の鳴る方へ艶っぽい雌の声を向けたのは、蒼い痩身を直立させた獣、ルカリオ。顔に走る黒いラインの上で、紅い瞳がじっと相手を見定める。
 岩の首輪を打ち鳴らし、砂色の体毛を震わせている小さなイワンコを。
「……はい。私のトレーナーが病気で……手術にお金がいるんです。借金で工面できるんですが、その担保に持ちポケモンが働いて保証する必要があって……」
 辿々しく応えたイワンコに、ルカリオは神妙な面持ちで頷く。
「トレーナーさんに万一のことがあった場合、後で返す宛がなくなっちまうからねぇ。ポケモンが保証してやるしかないってわけだね。よくある話だ」
「はい……パーティの仲間は他のトレーナーさんに雇ってもらって稼ぎに出ていますけど、私はまだポケモンバトルで稼げるレベルじゃないから……だから、私でもできることをしなきゃって、それで…………」
「なるほどねぇ。トレーナーさんの為に身体を張ろうってわけかい。それは立派なもんだけどさ」
 紅の双眸に、すっと厳しさが射す。
「あんたにもできるっていうけど、ちゃんと理解してるかい? ここがナニをする場所なのかって」
 たちまち羞恥の滲んだ頬を背け、イワンコは声を上擦らせた。
「雄ポケモンの身体を洗って、そして……え、エッチをさせてあげるところ……です」
「まぁ、解ってなきゃそこまでガチガチに緊張もしてないか。大丈夫なのかいあんた。これまでエッチをした経験は?」
「だ、大丈夫です。パーティの仲間に教わって、ひと通りはもう……」
「お嬢ちゃん」
 瞬間、迸った波導がイワンコの身体を奥まで見通すように射抜き、ビクンッ! と小さな身体を竦ませる。
「もう一度訊くよ。正直にお言い。あんたの股座のディグダ穴に、雄のディグダを迎えたことはあるのかい?」
「……ありません。処女です」
 空色の瞳を潤ませて絞り出された応えに、ルカリオは蒼い頭を抱える。
「あ、あのっ……経験とかしてないと、ダメなんですか?」
「う~ん、これが人間の売春だったら、素人娘の方が高値がつくってもんだろうけどねぇ……あたしら〝泡姫〟の仕事は処女からだとキツいよ? ゼロから仕込んでやってもいいけどさぁ、無理して壊しちまったら取り返しは効かないからねぇ……」
 腕を組んで溜息を吐いた後、ルカリオはイワンコの顔を覗き込んだ。
「いいかい。泡姫ってもんはね、客に本物の恋を売る仕事だ。ただの夜遊びではなかなかできない最高の快楽を味わっていただくために、本番は避妊なしの生ハメで遠慮なく中出ししてもらうことになってる。当然、できるモンはできちまうわけだが……そのことは解ってたかい?」
 声もなく、イワンコはただ頷いた。
「それじゃあ、産んだタマゴの行く末については?」
「……取り上げられて、自分では育てられない、と。そう、ここを紹介して頂いた方に教わりました」
「取り上げられた先でどうなるかは、聞いていないのかい?」
「知らない方がいい。そう、言われてます……」
「知っといた方がいい」
 ゆっくりと、ルカリオはかぶりを振る。
「知って、それでビビるぐらいなら余所を当たりな。稼ぎはここより悪いかも知れないが、あんたの小さな身体でもできる仕事は他にあるはずだ」
 一瞬、たじろいだイワンコが、しかし真剣に表情を引き締めるのを見届けて、ルカリオは続けた。
「あんた、トレーナーさんから、肉を食わせてもらったことは?」
「え……はい。よく頂いてましたけど……?」
「じゃあ、その肉が何の肉かは知ってたかい?」
「何の、って……狩猟が認められている野生のポケモンか、ポケモン以外の動物のお肉……じゃ、ないんですか?」
「いや、合ってるよ。確かに、その答えで正しい」
 頷いた後、ルカリオは怪訝そうなイワンコに向けて言った。

「そして、トレーナー付きのポケモンが、トレーナーの許しもなく勝手に産んだ私生児は、野生のポケモン、もしくはポケモンではない動物と同等に扱われる」

 かけられた言葉を、状況と吟味すること数瞬。
 ぞわっ! と、イワンコの体毛が逆立った。
「そ、それじゃあ、ここであなたたちが……私が産むことになるタマゴ、も……!?」
「そういうことさ。ひょっとしたらあんたやあんたのトレーナーさんがこれまで食ってきた肉の中に、あたしが産んだタマゴから孵ったリオルがいたかも知れないねぇ」
「そ……そんな、そんな…………!?」
 ガタタタタタタッと首輪を戦慄でけたたましく打ち鳴らすイワンコに、ルカリオは研ぎ澄ませた声音で言い放つ。
「蔑むのはよしとくれよ? あんたやあたしらみたいな肉食のポケモンは特に、知る知らないに関わらず泡姫が産み落としたタマゴの恩恵を少なからず受けてきたはずだ。言わば性欲と食欲の両方から、この社会を支えているのがあたしら泡姫なんだよ。誰に恥じることなどあるもんかね。それに、ミルクなり木の実なり、自分の身体で採れたもんを売って生活しているポケモンなんていくらでもいる。何の違いがあるってんだい?」
「だからって、そんな……自分の仔供ですよ? そんな簡単に、割り切れるものなんですか!?」
「簡単なもんか」
 言い捨てたルカリオの口調は決して激しいものではなくむしろ穏やかだったが、込められた重苦しい憂いにイワンコは押しつぶされそうになる。
「簡単なんかじゃ、なかったよ。あたしも最初にタマゴを供した時は、初めて客を取った時より辛かった。殻の奥から感じた鼓動が胸に残って、涙が溢れて眠れなくなったりもしたもんさ。それが身体を売るっていうことだ。文字通り我が身を切り売りするに等しい痛みを伴う。あんたみたいなオボコには、とてもじゃないが薦められやしないよ」
 挑もうとしていた道の想像を超えた苛酷さに、身を硬直させて竦み上がるイワンコ。やはり諦めさせるのがこの娘のためか、とルカリオは口を開いた。
「トレーナーさんは何て言ってんだい? あんたが泡姫になること」
「言ってません! 言えるわけがありません!!」
 慌てた素振りで猛然と首を振り、ハッと口ごもってイワンコは言い直す。
「い、いえ、このお店で働くことは伝えましたが、内容までは……知られたら、きっと反対されます……」
「だろうね。だったら私も――」
「反対なんかされてる時間はないんです!!」
 退けようとしたルカリオの言葉を、勢いを増した不屈の心が跳ね返した。
「コキオさんは……私のトレーナーは、もう明日をも知れない身体なんです。発症してから酷い発作ばかりでその度に投薬で抑えてるんですけど、病巣から取り除かないと保たせるのにも限界があるって……! 一刻も早く手術費用を借りられる当てをつけないと、取り返しのつかないことになるかもしれません。そうならないためなら、それこそこの身体を切り売りしたって惜しくなんかない!!」
「お嬢ちゃん、あんた……」
 激しい、壮絶な剣幕に秘められた真意をルカリオは見抜いた。けれど、その秘めた想いをイワンコは決死の形相で噛み殺す。
「言わないでください。コキオさんは何も知りません。私が……諦めちゃえば、それで済む話なんです。彼さえ助けられれば、私の想いなんか……っ! だからお願いします!! どうか、私に身体を売らせて……」
 最後の方はもう、言葉になっていなかった。
 それでもその小さな岩犬が放った気迫の訴えは、鋼のルカリオを圧倒した。
 この娘は、本当に本物の恋を売りにきたのだ。
 どれほど辛い道かを知った上で、ただ愛する者を救うために、すべてを(なげう)つ覚悟で。
「分かった。あんたの想い、預からせてもらうよ」
「それじゃ……!?」
「信頼のできる、当たりのいい雄を指導役につけてやる。泡姫としてヤるべきこと、しっかり学んどくれ」
 受け入れられたと知って、張り詰めていた四肢から力が抜ける。
 愛する男が救われる安堵と、その代償の重みとでへたりそうな砂色の身体を、蒼い双腕が抱き止めた。
「〝水田橋ジム・泡姫倶楽部〟へようこそ。あたしはルカリオの(ワリアイ)。そしてお嬢ちゃん、あんたは今から(クテン)とお名乗り。トレーナーさんのためにもあんた自身のためにも、今は名前と共に彼への想いに句切りをつけて、その愛をお客に注いでやるんだ。できるね?」
 与えられた源氏名に、自らがもう苦界の住人だと覚らされ、こみ上げてくる涙と嗚咽をそれでもなお耐え抜いて、(クテン)(ワリアイ)の胸で頷いた。

 ☆

(クテン)、ご指名だよ」
 控え室で身繕い中に(ワリアイ)からの連絡を受け、(クテン)は2本の脚で立ち上がる。
 鏡に写るのは、血色に染まる痩身を直立させた姿。顔の前まで垂れ下がる長いタテガミの奥で、瞳から白目まで深紅の輝きを帯びた双眸が爛々と揺れていた。
 彼女――(クテン)は、もうイワンコではなかった。
 流れた月日と流してきた血と汗と涙が、彼女を真夜中の姿のルガルガンへと進化させていた。
 毛並みを整えながら前の客の爪痕が身体に残っていないか念入りに確かめると、くたびれた足腰をしゃんと立たせて待合室へ。
「やぁ、(クテン)ちゃん。今晩もお世話になりにきたよ」
 ソファーにくつろぎながら親しげに話しかけてきたのは、夜ルガルガンの毛並みと同じ血色のタテガミをフサフサと逆立てた漆黒の長身。紅く隈取りが入った眼の奥で、蒼い瞳が妖しく笑っている。
「私こそ、いつもお世話になってます。今夜もお願いしますね、ゾロアークさん」
 気の知れた馴染みの客が相手と知って、紅い眼光が安らぎに和らぐ。気軽に挨拶を交わした後、(クテン)はゾロアークを浴室へと誘った。似たような体格のゾロアークと夜ルガルガンだが、実際には人間の成人ほどの身長があるゾロアークに対し夜ルガルガンは子供並みの背丈しかなく、連れ立って歩くとまるで父娘連れのようである。実際の年齢差にも相応ではあるが。
「聞いたよ。トレーナーさん、退院したんだって?」
 廊下を歩く道すがら込み入った話題を振られ、(クテン)は努めて朗らかに対応する。
「はい。おかげさまで手術も無事成功して、もういつでも旅に出られるぐらい健康になってるそうです」
「そうかそうか。良かったなぁ! (クテン)ちゃんが身体張った甲斐もあったってもんだ。そうなると(クテン)ちゃんもいよいよ引退だな。ちっと寂しいが、まぁめでたしめでたしだ!」
「……辞めませんよ、私」
 浴室の前まできて、(クテン)は扉に視線を逃がしながら言った。
「今更、帰れるわけないじゃないですか。だって……」
 苦笑いに感情を紛れさせつつ、背後のゾロアークへと振り向く。
 けれど、そこにゾロアークの姿はなかった。
「……きたよ、ヘリオラ」
 封じたはずの本名で(クテン)を呼ぶのは、栗毛色の髪を長く伸ばした、一糸まとわぬ細身の人間。
 突然現れた裸の男に、けれど(クテン)は驚くことなく、紅い瞳を熱く潤ませて彼へと手を伸ばす。
「コキオ……」
 愛おしげにトレーナーの名を呼びかけ、男にしては厚みのない胸に首を擦り寄せる。
 強く擦り付けすぎないように。腰を抱く腕も、爪で柔肌を傷つけないようにそっと。この幻が壊れてしまわないように。
 そう、もちろんこのコキオは、ゾロアークが扮した幻影。彼は泡姫たちの望みを訊いて、好みの姿でサービスさせてくれる客なのだった。
 夜毎客のために自分を殺し続けている泡姫たちにとって、彼の見せてくれる夢のひと時がどれほど救いであることか。(クテン)もゾロアークにだけ特別にと本名や経緯を打ち明けてコキオの姿に化けてもらい、現実には結ばれ得ぬ相手との恋路に浸ってきた。そうしていなければ、いくら最愛の男を救うためとて、好きでもない雄たちとまぐわいタマゴを産んでは食料にされると知って納め続ける苦役の中、とうに心を壊していただろう。
「行こ、コキオ」
 繋ぎ合った腕を引いて、(クテン)はコキオに扮したゾロアークを浴室へと誘った。
 まるで初々しい恋人同士のように。

 ☆

 防水加工を施されたツルツルのマットに客を俯せに寝かせ、桶の取っ手に爪をかけてお湯を湯船から汲み取り肩からかけて洗い流す。柄杓を口に咥えていた進化前と比べると格段に作業がやりやすくなった。
 自らの脇や首筋、胸元に石鹸を塗りたくり、(クテン)は湯気を立たせる湿った背中を抱いて擦り寄せた。
 岩タイプの硬い剛毛がまるでブラシのように身体を磨き、垢を落としていく。決して客の身体を傷つけないように――せっかくのコキオの幻影を壊さないように、毛先には丁寧にロックカットがかけられていた。
「気持ちいい? コキオ」
「うん……極楽気分だよ。上手だね、ヘリオラ」
 コキオの声が、陶酔の艶を帯びて返される。ゾロアークは声真似も巧い。最初の頃は注文通りに似せる程度だったが、通う度に違和感が少なくなってきて、今夜など本当に本物のコキオに囁かれているとしか思えないほどだ。もっとも、コキオが睦言に喘ぐ声なんて実際には聞いたことがないため、ゾロアークの声が基本になっているだけかもしれないが。
「フフ、私もたくさん練習させてもらったもんね……さ、次は前だよ」
 こんもり立った泡を湯で濯ぎ落とし、(クテン)は客に裏がえるよう促す。
 言われるままコキオの姿が仰向けになり、つるりと奇麗な腹を見せる。XLサイズのディグダが、弓なりに身を反り返らせていた。
 繊細な腹側を磨くのには、ブラシも柔らかなものが必要になる。
 (クテン)はその柔らかな場所に石鹸を塗りたくった。具体的には、太股の内股に、臀部の下の方に、そして恥丘に。
「じゃあ、失礼して、と」
 コキオの上体を、夜ルガルガンのボリュームに富んだ太股が跨ぐ。胸板に尻を乗せて、首元に股間を押しつける格好。幻影とはいえコキオの姿をしている相手の顔前へと曝した痴態に甘い興奮を感じて、(クテン)の頬が灼熱に火照った。
 その姿勢で腰をリズミカルにくねらせ、秘部の産毛で客を磨き出す。
「あっ、あっ、あぁ……」
「くっ、くふぅうぅぅ……ん」
 雄を悦ばせるために存在する弾力を巧みに駆使したブラッシング。擦れ合い、白い泡が立つ度、互いの口から官能の喘ぎが漏れる。
 そのまま(クテン)は徐々に尻の位置を退かせ、首元から胸板、腹へと恥丘を擦り付けていく。下に敷いた身体から昂る鼓動が突き上げて、(クテン)の心臓を激しく揺さぶり立てる。
 後退を続けていると、いきり勃ったディグダに尻を鞭打たれた。
 後ろ手にそれを相手の腹に押し付け、(クテン)は持ち上げた腰をディグダの上に降ろす。
「あっ、ヘリオラ、あぁ……っ」
 雄の欲求をそれが求める対象の下敷きにされ、コキオの声が切なげに跳ね上がる。そのまま腰をスライドさせ、勃起した陰核で裏筋から睾丸までを掻き回すと、恥丘と尻とで挟み込んだディグダがたちまち燃え上がりビクビクと痙攣を始めた。
「ヘリオラ、ヘリオラ! 俺、もう……」
「どうしたの? 限界早くない? いつもはもっと堪えられるのに」
「だ、だってそれは、ヘリオラが凄く上手だから、気持ち良すぎて……」
「我慢しなくていいよ。本番前に一回抜いておこうね」
 身体を離し、瀕死に陥っているディグダを立たせると、(クテン)は身体を反転させ、コキオに背を向けて腹の上に座る。仰け反ったディグダを今度は峰側から再度恥丘で包み、2足で立つために発達した夜ルガルガンの力強い太股でむっちりと締め上げた。
「動いて、コキオ」
「う、うん……あ、あぁぁぁぁあぁっ!!」
 尻下で雄の腰が弾む。いち往復と保たず、股に挟み込まれたディグダが咆哮して熱い飛沫を吹き上げた。
 乱れた息が落ち着くのを待たず、身体に降りかかった精液を即座に洗い流す。嗅覚をシャボンの匂いに傾けて、決して精液の臭いに向けないようにしながら。嗅げば、ゾロアークの臭いしかしないと気付いてしまうから。
「いっぱい出したね。そんなに気持ちよかった?」
「うん。ほんと、最高……」
「もっともっと最高にしてあげるよ。元気になったら、タマゴができることしようね」
 背後のコキオと声を交わすと、脚の間で縮こまっているディグダに湯をかけて、シャボンと精液の白を洗い流す。
 さっぱりと磨かれたディグダを肉球で優しく愛撫していると、背後から伸びた雄の指が尻尾に触れた。
「ひゃんっ!? もう、コキオったら……」
「短くなっちゃったね、尻尾。イワンコの時よりも……」
「…………」
 触れられたくない場所に触れられ、短い尻尾がしゅんと垂れる。
「うん……ごめんね、コキオ。真昼の姿に進化するはずだったのに…………」
 仕方がなかった。夜毎性の経験を積んでいたら自然とこの姿になった。それに、雄たちを洗うのには手を使える真夜中の姿の方が都合が良かったためでもある。
「謝ることなんて何もないよ、ヘリオラ。短い尻尾も可愛いじゃないか。それにお陰で、この大きくなったお尻も見やすいしね」
 冗談めかした言葉と共に、コキオの手が血色の尻を撫でさする。くすぐったさに身を捩りつつ、やはり憂いだ表情で(クテン)は言った。
「でも……ヘリオラって名前だって、日長石(ヘリオライト)が由来なんでしょう? そんな名前をくれたのに、望んでいた姿になれなかったのが申し訳なくって……」
 進化して以来、逢瀬を重ねる度に何度か交わした会話。気にしなくっていい。真夜中の姿も俺は好きだ。ゾロアークはコキオの声でいつもそう言ってくれる。本当のコキオがどう言うかは分からないけれど、ゾロアークがそう思わせてくれるだけで望まぬ姿になった痛みが多少は和らぐのだった。
「……日長石(ヘリオライト)って、どんな色をしているか知ってる?」
 けれど今夜の言葉は、少し違っていた。尻から背筋へと撫で上げながら、コキオの声が続く。
「こんな色、だよ。暗めの紅い石。予定とは違っちゃったけど、その姿もヘリオラって名前には充分似合っているんだ」
 わざわざ日長石(ヘリオライト)について調べてきてくれたらしい。なんて親切なゾロアークだろう。
「帰っておいで、ヘリオラ。どんな姿に変わっても、お前は俺のヘリオラだよ」
 心底私のことを想って、背中を押してくれている。その温もりを痛感しながらも、しかし(クテン)はかぶりを振った。
「変わっちゃったのは、姿だけじゃないんだよ……見て」
 尻尾を立てて尻を持ち上げ、背後の顔に向けて突き出す。まだイワンコだった頃、指示を受けながらコキオに見せていた格好。
「イワンコだった頃の私のここ、ピンク色のが小さく飛び出てるだけだったのに、今じゃこんなだよ……? シワクチャの襞が大きく飛び出しちゃって、色だって縁の方は黒ずみだして……」
「大丈夫だよ。綺麗な薔薇色をしてるよ」
「染めてるからよ。石鹸で擦ったぐらいじゃ落ちない染料でね。専用の薬で洗ったら、汚い色してるの。たくさんの雄の身体をここで擦って、ディグダ穴にディグダをお迎えしたもの。散々荒らされて、汚されて……タマゴもたくさん、たくさん産んで、お肉にするために差し出してきたの。今日だって、あなたの前にふたりも洗ってるんだよ。ドロバンコさんは身体の割にはちきれそうなディグダしてて、ニャヒートさんのは熱くてトゲトゲが痛くて……ふたりともいっぱい出してたから、きっとまたタマゴを産んじゃうよ。こんな汚れきった身体、コキオにだけは見せたくないよぉ……」
 だから、退院したコキオとの面会を断り、帰還を拒否していた。
 それでも今後ろにいるコキオにディグダ穴を見せられるのは、結局幻影だと解っていればこそ。一方で、娼館での仕事の辛さを当事者である客にこぼせるのは、相手がコキオの幻影だから。矛盾した理屈も構わず受け入れてくれるゾロアークが、しみじみありがたかった。
「帰らなかったらどうするつもりなんだよ。そんな大変な仕事なら尚更のこと、いつまでも続けられるものじゃないだろ?」
 本気で心遣ってくれている声に、(クテン)は涙混じりの笑顔で振り返る。
「いよいよ身体が使い物にならなくなったら……野生に帰って、どこか穴の奥でひとりで暮らそうかなって。それでどうなったって、私はもういいの。コキオが助かったんだから、私なんて……」
「そんなの、ダメだ」
 雄の強い声が、鋭く叱咤する。
「俺を救うためにそれこそこんなになるまで身を削って頑張ってくれたお前を、俺が見捨てられるわけなんてあるか。お前は俺を、そんな薄情なトレーナーにする気なのか!?」
「コキオ……」
 本物なら、きっとそう言うだろうと思われる言葉。本当にコキオに言われているように想えて胸が熱くなる。
 だけど、同情やトレーナーとしての義務感だけで戻されて救われるほど、(クテン)が抱く傷は浅くなかった。
 応えに詰まり逡巡する(クテン)にコキオの指が伸び、ディグダ穴を縁取る肉襞をつっと撫でる。
「あ……っ」
「痛む、か?」
「うん……でも、痛いのにはもう慣れたよ。興奮したお客様に乱暴に突かれるのも、タマゴを産むのももう平気。だけど……だけどそれでもやっぱり辛いの! だって私……」
 涙声を振り絞って、(クテン)は想いのすべてを吐露する。
「あなたにあげたかったんだよ、コキオ。コキオだけに捧げたかった! タマゴを作れない関係でもいい。悦びを重ね合う恋びと同士になりたいって、ずっとずっと夢見てたんだから……っ!!」
 遂に大粒の滴が紅い眼から溢れ出し、洗い立てのコキオの鼠蹊部を濡らす。
 叶わぬ夢をコキオのために捨てたことに後悔などない。けれど、捨ててしまった夢の残骸と向き合う勇気が、(クテン)には……ヘリオラには、持てずにいたのだった。
「じゃあ、今くれよ」
 幻でしかあり得ない言葉が、灰色のタテガミを撫でる。
「汚れてるなんて思わない……いや、汚れてたって構わない。俺は今、ヘリオラが欲しいんだ」
「……ほんと?」
「見て判らないのか?」
 恥ずかしげな苦笑いの混じった声に、ふと(クテン)は自分の手元を見る。
 さっきまでくったりと萎れていたディグダが、首をもたげて反り返っていた。
 頬を拭って、肉球でそれを包む。幻ではあり得ない確かな硬さと熱が、疑う余地もなく(クテン)を求めていた。
「アハ、ほんとだ……」
 綻んだ笑顔をディグダの胴に擦り寄せ、舌をペロリと這わせる。舐め転がす度にディグダの張りと熱が増し、たちまちの内に臨戦態勢が整った。
 それを確かめた(クテン)はコキオの腹の上から降り、湯船の縁に手をかけて再度尻を突き出す。
「いいよ。きて、コキオ」 
 直立歩行できる真夜中の姿なら、どんな体位でもまぐわうことが可能だが、(クテン)は客から望まれない限り後ろからのプレイを求めた。
 理由はいくつかある。イワンコで泡姫となり初体験から後背位だったゆえの習慣。
 本来は真昼の姿に進化することを望んでいた彼女の、四つ足への憧れ。
 そして、客の顔を見ないことで、自分は愛する男に、コキオに身を捧げているのだという想いに浸りながら抱かれるため。
 しかしコキオの姿に変じたゾロアークが相手でも尻を差し出すのには、また別の理由があった。以前対面して抱き合いながら番ったところ、興奮のあまり彼の背中に爪を立て、幻影を引き裂いてしまったのである。上客であり泡姫によくしてくれるゾロアークを傷つけてしまわないため、少しでも長くコキオの幻想に浸るため、(クテン)は敢えて愛しい姿に背中を向けるのだった。
 延びてきた手が血色の尻を開き、露わにされた肉襞を掻き分けて、ディグダ穴に指をねじ入れる。
「あぁ……っ」
「すごいよ、ヘリオラのここ……トロットロの襞がこんなにたくさん、指に絡みついて、それに熱くて……!」
 指の硬い感触が、使い込まれたディグダ穴の内壁を弄り、感触を味わう。もちろん本当はそれはゾロアークの爪先なのだが、彼の爪も泡姫の身体を傷つけることのないよう丁寧に丸められており、不慣れっぽく装った演技の巧みさもあって人間の指との感触的な違和感は感じ取れなかった。もっとも、実際に人間の指でそこを弄られたことなど(クテン)にはなかったのだが。
「コキオ、早く、ちょうだい……」
「あぁ、ヘリオラ……っ!」
 陶酔した声に誘われ、幻影のコキオは獣の牙を剥いて(クテン)の背中に覆い被さる。
 いつものようにぎこちない振りで谷間を彷徨う猛ったディグダを、(クテン)の手が捕らえて巣穴の入り口に導いた。
「ここよ。さぁ、挿入(はい)って……!」
「う、うん。今、挿入()れるよ……あぁっ!!」
 熱い塊が、(クテン)の秘所を押し開く。
 既に滾々と潤っていた経路をヌルリと滑り、ひと息の内にディグダは巣穴の最奥部にまで達した。
「あぁ、凄いよ……俺、ヘリオラと繋がってるんだ……!」
「もう、すんなり挿入っちゃうね。コキオの大っきいのなんて、初めは挿入れるの大変だったのに……」
 現実には無垢なままである本物のコキオに合わせるため毎回初体験の演技をしてくれているゾロアークと、何度も幻影のコキオと身を重ねてきた(クテン)とでは会話にズレが生じる。何度でもコキオの童貞を味わえるのだと思えば、(クテン)にとってそんな矛盾など些細な問題だった。
「コキオの、もうビクビクしてるね……イきそう?」
「まだ、平気だよ。さっき抜いてもらったばかりだから……ヘリオラ、動くぞ」
「うん……突いて、お願い…………!」
 大きな尻を掌で鷲掴みにして、荒々しい律動が始まる。
 腹の中に潜り込んだディグダが、効果抜群の大地震を打ち鳴らした。
「ぁあっ、あっ、んあっはぁあぁぁぁぁ……」
 巻き起こる快感に、喘ぎが溢れて顎を伝い落ちる。
 やはりゾロアークの幻影は見事なものだ。回を重ねる毎に、本物のコキオに貫かれているとしか思えなくなる。
 胎内に抱き包んだ想い人のディグダは、ドロバンコのより大きく、ニャヒートのより熱く刺激的で、ワルビルのより硬く、それでいてチラーミィのより甘美で、オコリザルやケンタロスのより激しく、その他これまで(クテン)が迎えてきた雄たちののどれよりも、比べ物になどならないほど最高に素敵で心地よかった。
 あぁ、でも、それはすべてコキオのだと思えばこその幻想。
 絶頂を越え、昂りが鎮まれば、萎えていくディグダの付け根で硬く膨らんだままの肉瘤が、ディグダ穴の入り口を縫い留めていると気付かされる。
 どうしたって人間のものでは有り得ないその感触で、幻は儚く消える。幻と交わした愛の言葉と一緒に。
 そうして正体を現したゾロアークと繋がったまま入浴し、夢の記憶を噛み締めたり慰められたり励まされたりしながら、肉瘤まで萎えきったディグダが外れるまで残りの時間を過ごすのが、毎度お決まりのオチだった。
 そうだと解っていても、幻に縋るのを止められない。コキオへの想いから逃れられない。
 どうせ儚い夢なら、せめてその夢の間だけと、(クテン)は束の間の幸せに浸り続ける。
「ヘリオラ……この仕事が終わったら、一緒に帰ろう。これを最後の仕事にしてくれ」
 熱に浮かされたようなコキオの声が、耳元に注がれる。
「野生になんて帰さない。二度と他の雄には抱かせない。ずっと側にいてくれ。一生、大切にするから……」
 何だか今夜のゾロアークは、やたらといつもより踏み込んでくる。
 どうせ幻なのに。本物のコキオが、ヘリオラにそこまでの愛を向けてくれるはずもないのに。
 いい。どうせ今どんな約束を交わそうが、幻と共に泡と散る運命。
 幻は幻。本物でもなければ、ゾロアークとの約束にもならないのだと予めゾロアークとは言い交わしてある。 
 どの道叶わぬ約束なら、素直に想いのままに応えたってかまいやすまい……!
「うん……帰るよ。そしたら、コキオのお嫁さんにして、ね……?」
「あぁ……!」
 血色の身体を人の腕が包み込むように掻き抱き、上気した(クテン)の頬にコキオが顔を寄せて口付ける。
「嬉しいよ……愛してる、愛してるヘリオラ……!!」
 ディグダが奥の奥まで突き破らんばかりに潜り込み、激震が熱と激しさを増す。目眩く快楽の向こうに、夢の終わりが近いのだと覚った。
「あぁ、私の膣内でイくのね、コキオ……出して。たくさん出して。私にコキオのタマゴ、産ませてよぉ……っ!!」
「ヘリオラ、ヘリオラぁぁっ! ぁああぁぁぁぁぁぁあぁ~~っ!!」
 どくっ! どくっ!
 戦慄くディグダが脈を打ち、胎内がコキオの幻で満たされる。
 もちろんそれは本当はゾロアークの精で、この後肉瘤の栓で閉じられることにより、最近取った他の客よりも高い確率でタマゴを成すことだろう。
 そうなればいい。食べられるために産む仔であっても、やっぱり雌としては良くしてくれた客との仔供を産んであげたい。
 誰よりも欲しい相手との仔供なんて、初めから望めやしないのだから。
 すべてを吐き尽くしたディグダが、巣穴の中で萎えていく。
 去り行く夢に追い縋ろうとばかりに、(クテン)は強く強く締め付けた。
 それがゾロアークのだと明確になる最後の刹那まで、コキオのであると想い続けられるように。

 結果、膣圧に押し出されて、ディグダはいともあっさりとディグダ穴から抜け落ちた。

「……え?」
 一緒に精液も絞り出され、内股をダラリと熱く滴り落ちる。
 何故かいつもと違うゾロアークの様子に、(クテン)は怪訝な視線を背後へと向けた。
「ヘリオラ……」
 幻は、消えていなかった。
 コキオの声が、コキオの顔が、コキオの姿が変わらぬままにそこにあった。
 否。
 ただひとつだけ、その身体にはさっきまではなかったものが。
 鳩尾からヘソの辺りまで縦一文字に走る盛り上がった赤黒い筋。そこで身体を切り裂いて縫い合わせたような、それは傷痕だった。
 こんな傷は知らない。(クテン)の記憶にあるコキオの身体に、こんな傷は絶対なかった。
 あぁ、けれど、この傷は本物のコキオなら確かにあるはずの傷。
 (クテン)の、ヘリオラの犠牲で成し得た、彼の命を救った手術の後。
 だけど何で今になって、こんなディティールを追加したのだろう。 
 そしてどうして、あれほど激しくまぐわい合った後なのに、結合して幻が解けてしまわないのだろう。
 まるで、これではまるで。
 幻が解けた結果が、これであるかのような……?
 脳がそこまで行き着いた瞬間、思わず小さく息を飲む。
 鼻孔に吸い込んだ香りが、これまで嗅ぐのを避けてきた臭いが、覆しようのない真実を告げた。
「う、そ…………っ!?」
「嘘じゃない」
 硬直した身体を抱き寄せ、具現化した幻が(クテン)に囁いた。
「本物の俺だよ、ヘリオラ。お前を迎えにきたんだ」
 その言葉が。その笑顔が。
 完全に意味を結ぶまで、数呼吸の間を置き、そして。

「きっ……きゃああああああああああああああぁぁ~~っ!?」

 岩の毛皮が、全身に渡りポンッ! と音を立てて破裂した。
 握り締めた肉球に滲んだ汗が、一瞬にして沸騰し湯煙に散る。
「いやぁ!? なんで、なんでなのよぉ!? どうしてぇぇ!?」
 驚愕と羞恥と混乱の極みに達した頭で(クテン)は――ヘリオラは激しく自問する。
 さっきまで自分は、いったいナニをしていた!?
 片想いを秘めていた相手が……その本人がきていたというのに、それを幻影だと信じ込んで、抱きついて擦り寄り、曝した性器を擦り付け、逸物を股に挟み込んで漏らさせ、そこを舐めて再起させて、尻を差し出し好き放題触らせて、とどのつまりに生挿入中出し交尾……いやいやそんな行為とか以前に、隠していた想いを全部、具体的な要望まで込みで、あからさまに赤裸々に明け透けに身も蓋もなく淫らにふしだらにぶちまけてしまった。
 何これ酷い。有り得ない。こんなのってない。恥ずかしさが居たたまれなさを通り越して痛い。致命傷レベルの激痛だ。喉笛から迸るのは悲鳴と言うより最早断末魔。
 逃げなければ。この場から。この世から。身を投げるなら屋上に登るか、側を流れている用水に落ちるか。どっちだっていい。とにかく今すぐ立たないと。太いので散々中心を穿たれた直後でまともに言うことを聞かない腰を必死に持ち上げて逃れようと足掻く。
 けれど。
「逃げるな!」
 コキオの腕が、間違いなく本物のコキオの腕が、ヘリオラの身体をがっちりと抱き止めて離さなかった。
「答えは全部出しただろ!? 怯えなくたっていい。お前が俺のためにしてくれたこと、全部受け止めてやれるから!!」
「ダメぇ! 離してぇ! ああああっ!?」
 腕の中でもがきながら身体を捻り、コキオと向き合う体制になったヘリオラは、彼の胸を拳で叩き、爪を立てて掻き毟る。泡姫の嗜みで丁寧に丸めた爪では、朱い痕を肌につけるのが精々だったが。
「ありがとうヘリオラ。よく頑張った! 帰ろう。そして、一緒になろう」
 どう足掻いても、どんなに叩き引き裂いても、それはそこに有り続ける現実だと、ようやく理解して。
「う……うわああああああああぁぁぁぁぁぁ~~ん!!」
 コキオの腕の中で泣きじゃくりながら、ヘリオラは何度も何度も頷いていた。

 ☆

「ったく(クテン)ったら取り乱しちまいやがって。相手が誰であれ客として迎えた以上、泡姫なら最後まで愛想良くもてなせってんだ」
「いや仕方ねぇだろ俺だと思ってたんだから!? 可哀想に、あんなに泡姫としての自分をトレーナーさんに見られるの嫌がってたのに、よりにもよって本人を客にだなんてよぅ」
「こらこら、傍観者みたいにお言いでないよ? コキオさんが本物であるとバレないよう、本物に偽物の幻影をかけてたのはアンタだろうに」
「いつまでも恥ずかしがってる限り、家に帰れねぇからな。ゴマかしとかねぇと、トレーナーの坊やも童貞面丸出しですぐバレちまうし」
 モニターに映し出された監視カメラの映像を眺めながら、ルカリオの(ワリアイ)とゾロアークは口々に語り合う。
「これで良かったんだよ。あの娘が本心では帰りたくないわけなんてあるもんか。ただコキオさんに嫌われちまうんじゃないかって不安がってただけさ。だったら当人が客になって、その身体を以て誠意を証明するのが一番手っ取り早いってもんだ」
「だな。実際(クテン)ちゃんもちょっと神経質拗らせすぎだったし。ディグダ穴の襞が伸びたり黒ずんだりするのなんて成長すりゃ自然にそうなるもんであって、交尾や産卵の経験とか関係ねぇだろ。コキオさんもそこんとこフォローしてやりゃいいのによ」
「それこそ童貞に無理言うんじゃないよ。遊び慣れてるアンタじゃないんだから。トレーナーとして、雄として、言うべきことをあの坊やはちゃんと伝えた。あの娘も充分納得できただろ」
「お、再開するみたいだぞ。今度は前からか。知ってるか? (クテン)ちゃんって、本当は前からする方がずっと燃えるんだぜ」
「そうかい。あの娘もようやく、好きな相手と好きな交尾ができるんだねぇ……」
「へへ、見物してたら、俺のディグダも盛り上がってきちまった。(ワリアイ)さん、そろそろ頼むわ」
「あいよ。今回は特に世話になったからねぇ、たっぷりサービスしたげるよ」
 睦合う人とルガルガンの姿を背景に、ルカリオの蒼い笑顔がゾロアークの黒い腹へと沈んだ。

 ☆

「お疲れさん。やれやれ、客とそこまでデキちまったんじゃ泡姫として置いておくわけにはいかないねぇ。今夜で上がっておくれ。二度とうちの敷居を跨ぐんじゃないよ」
 手を繋いで寄り添いながら浴室を出てきたコキオとヘリオラに、(ワリアイ)は椅子の上で胡座を掻いたまましれっと言い放つ。
「はい。お世話になりました。……あの、ゾロアークさんは?」
「とっくに帰ったよ。あたしが相手しといたから気にしないでいい。瓦割りのひとつでもカましたいってんなら勘弁してやっとくれ。椅子が軋むからね」
 ヘリオラが見た覚えのない赤と黒の椅子にもたれながら(ワリアイ)は苦笑した。つまりは現在、椅子から腰を上げられない状態なのであろう。
「そんな、怒ってなんて……むしろ感謝しかありません。(ワリアイ)さんも、本当に何から何までありがとうございました」
 コキオとふたりで、ヘリオラは(ワリアイ)と椅子に深々と頭を下げた。
「さて、と。今日までの仕事でできちまうタマゴが、まだアンタの腹には宿ってるかもしれない。本来なら上がった泡姫が間を置かずに産んだタマゴは、店で引き取って業者に供するルールになってんだが……」
 コホン、と咳払いし、(ワリアイ)は悪戯な笑みを含ませて言った。
「餞別だ、アンタらに任せるよ。好きにするがいいさ。煮るなり焼くなり……孵して育てるなり、ね。構いやしないだろ? アンタらが愛し合ったから産まれてくる、ふたりのタマゴなんだからさ」



 狸吉作(オレさんリクエスト)
『からたち島の恋のうた』豊穣編
 ~真夜中のシークレット・スイッチ~☆完☆


ノベルチェッカー結果 

【原稿用紙(20×20行)】 46.9(枚)
【総文字数】 15094(字)
【行数】 351(行)
【台詞:地の文】 41:58(%)|6243:8851(字)
【漢字:かな:カナ:他】 32:54:9:2(%)|4952:8289:1495:358(字)


あとがき 

 まずはお待たせしてしまい、大変すみませんでした。また、規定文字数を5000字ほどオーバーした件もご容赦を。
 今回オレさんからリクエストいただいたのは『夜ルガルガン♀』ヒロインの作品であることと、ヒロインを過度に傷つけないことのみで後は全部自由にしていいとのことでしたので、改訂予定である『泡姫倶楽部』の新設定案を流用した作品とさせてもらいました。『真夜中の姿』から、単純に夜のお仕事を連想しましたので。

泡姫倶楽部からの設定変更について。 

 見ての通り、第九回仮面小説大会時点での泡姫倶楽部は避妊具完備の健全な風俗でしたが、本作の泡姫倶楽部はNSOK孕ませ上等という過激なものとなっています。
 タマゴの始末をどうするかが思いつかなかったため避妊具OKだったわけですが、他の作品でフリーセックスをヤりまくってるのにわざわざ金を払ってまでその程度のサービスでいいのか、という思いは当時からありました。
 同大会でのオレさんの作品『求めし者の灯』は大きなヒントになりましたよ。っていうか、大会後のwikiチャットで僕自身が言った「種付けシーンも見たかった」で連鎖的に閃きました。種付けしてタマゴができたなら、食用にしてしまえばいいんだ、と。同時に作中内の食肉事情も説明できるので一石二鳥です。ゲームでも、育て屋や預け屋で産まれたタマゴの受け取りを拒否すると店の引き取りになるので、そういうことなのかもしれませんねw
 いずれ泡姫倶楽部本編も、この設定で改訂する予定です。

(クテン)(ヘリオラ) 

 ルガルガンでエロを描くなら、ルガルガンらしいプレイを。僕のポリシーですw
 実際のソープランドで行われているプレイを調べたら、〝泡踊り〟という、ソープ嬢の胸や陰部で客の身体を拭うプレイがありまして、これをルガルガンにさせてみたら、生きた軽石タワシによる垢擦りプレイとなりましたw
 こんなサービスなら受けてみたい、と思わせるぐらいのプレイに仕上げたつもりです。
 源氏名の(クテン)は、犬を意味する〝狗〟という字から、〝句〟点を連想したものです。

コキオ 

 コキオの名前は、アローラ人らしくハイビスカスのハワイ原産種からつけました。
 人名が植物由来なのは本家ポケモンの定番ですので、そのうち本家のキャラにも〝コキオ〟が現れたりしてw
 ちなみに、同じくハワイのハイビスカスには、〝マオ・ハウ・ヘレ〟というハワイ州の州花があります。マオとハウって、同じ花が由来だったんですね。

ゾロアーク(椅子) [#4zev8QT] 

 対戦で相手のパーティにゾロアークがいた場合、最も恐ろしいのは『ゾロアークの幻影と見せかけて本物だった場合』です。
 僕がBW時代、ゾロアークの影覇(エイハ)(カゲフミさんからの頂き物でした)を連れていた頃、先発にオノノクスのラブリュスを出して、相手がラティオスだったことがありまして。
 普通なら絶望的な状況の中、ダメ元でメロメロを仕掛けたら、何故かラティオスはゴウカザルに交代したんです。ゴウカザルも♂だったので、メロメロから竜舞して三タテ食らわしました。
 要するに相手は、型破りや緊張感の表示がないラブリュスを、影覇だと勘違いしてしまったのです。まさか闘争心メロメロオノノクスなんて変態型だとは、想像もしなかったのでしょうw
 そんな思い出から、本作のメイントリックは産まれました。

(ワリアイ) 

 交流企画のチャットで、オレさんがリクエストしたのはふたつ。
 夜ルガルガン♀と、ルカリオ♀の2案です。
 泡姫倶楽部のママ役を決めるに当たり、オレさんのもうひと案から拾わせて頂きました。
 源氏名は格闘タイプらしく、チョップで物を叩き割るイメージからです。

水田橋ジム 

 『泡姫倶楽部』のふれあい山道同様、水田橋ジムも実在するジムがモデルです。
 北名古屋市にある〝巨大なライオン〟というジムなのですが、例によって風俗ではありません。ファッションホテルです。……って、要するにラブホじゃんw
 本物のジム名の由来であるライオン像も描こうかと思ったのですが、冗長になるので自重しました。

タイトル 

 シークレット・スイッチは、ポケモン技〝すりかえ〟の直訳です。メイントリックそのものを表しています。
 すりかえの英語名は〝スイッチャルー〟ですが、秘密(シークレット)という響きが本作に似合っていたので訳名を採用しました。


コメント帳 

・椅子「ルカリオって、54kgもあるんだよな……」
(ワリアイ)「雌にそれは禁句だよ」

最新の10件を表示しています。 コメントページを参照

  • 自らに"かけていた"幻が解ける瞬間の、一気に取り乱すヘリオラさんの様子が愛おしいです。
    一体どこから本物のコキオさんだったのか……きっと最初に姿が出てきた時点で、傷を隠している以外は本物だったのですよね、と、そう思いながら読み返すと、なるほど、これは大変に恥ずかしいですね!!
    鬱屈した感情の中で、空虚だからこそ言い放てたことなのに、と。ヘリオラさんがコキオさんに思い焦がれれていたその重みを感じつつ、しかし作品としては軽く進む素敵な作品でした。いいですぞ! --
  • しつこいほどの幻影表現、読者にわざと気付かせるような書き方と、それを回収してからのルガルガンの取り乱しぶりですよ。息をつかせぬあの羞恥の心理描写が読めただけでとても満足いたしました。登場キャラの内面が的確に言動として表れていて、馴染みのない設定ながら分かりやすく共感が容易でした。
     ゾロアークの役得感すごい。このケースのように、長期にわたって初心な演技を続けワケありの泡姫を慰める心意気があるなら、引く手あまたでしょう。もしかしたら店側が泡姫のカウンセラーとして雇うことになるのかも……なんて考えてもオイシイものですねえ。 -- 水のミドリ
  • 色々と拾って組み立てる狸吉さんの構成力には改めて感じ入りました。自分のリクエストに対して自分の作品から構想を拾われるとは。とはいえこの作品の「生まれた子供を肉として差し出すための風俗」という着想は無かったですがね。
    最初に読んだときは「相手が幻影だってわかっているからこそか」と切ないものを感じていたら、最後にその幻影が解かれて「やられた」ってなりました。そして今改めて読み返すと実は本物だったと気づかせるものがさり気なく並んでいたのににやけてしまいました。以前も「セレナちゃん」と称したテールナーと云々する作品で読み返しをさせられましたが、このだまし絵ならぬだまし文章は狸吉さんの一つのスタイルだと感じました。 -- オレ
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Last-modified: 2018-04-15 (日) 23:29:43
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