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漸近季節話~桜の枝~

/漸近季節話~桜の枝~

この作品は同作者作品の漸近シリーズの内容を含む作品となっています。ご存じなくても平気かと思われますがお時間があればぜひそちらからをお勧めします

作者:ユキザサ


 どこかの地方の書物に書かれていた。人もポケモンも変わらないと。では神と人ではどうか?このような問、他の神からしてみれば鼻で笑われるようなくだらない問なのかもしれない。それでも、私はあの時の選択が間違いだったとは思わない。現に私の胸に残ったこの一点はとても鮮やかで、悠久のような私の時間の中で一番の幸福だった。
 だからこそここに記そう。四季の彩りと共に過ごした私たちの不変の絆を。
 いつの日か。そう私が消え去ったいつの日か、この絆が次の世代に受け継がれ、また新たな物語が生まれるのであれば、それもまた、一興である。



「花見がしたい」
 いつも通り朝食を食べ終え、皿洗いをはじめとする後片付けをしている最中横に居たルギアが突然そんな事を言い始めた。こいつと出会って丸一年くらいになるがこういった突然何かを言い出すことにも慣れ始めている自分がいる。
「また突然どうした」
「いや、去年はそんな事できなかっただろ?」
「あぁ、確かに」
 ほぼほぼ一年前こいつが突然この家に押しかけて来た頃にはもう世間の並木は葉桜になっていた。いやまぁ、そもそもとしてこいつが押しかけてきた事の驚きでお花見どころじゃなかったしな。いや、でもそもそもこいつの日中いるところこそ花見し放題だろ。
「したいなら、日中し放題だろ……ってそういう事じゃないか」
 言いかけた途中でルギアのブスッとした顔を見て言葉を中断する。その顔で代替言いたいことは分かる。二人で花見したいってことだろう。がしかし、それこそ日中にしようものなら季節柄そういった所には人が集まっているだろうし俺にとっては日常でも、コイツの存在は一般人にとってはやっぱり非日常な訳で、それこそバレでもしたらこいつのやりたい花見なんてできやしない。
 でも、まぁ。そんなに残念そうな顔されたらなぁ。俺だって、別にやりたくないって言ってるわけじゃないし。はぁ、仕方ない。
「分かったよ。出来る限り努力はするから、お前は気にせず神社に行って、いつも通り帰ってこい。話はそれからだ」
 拭き終わった皿でルギアを指すと今までの顔が嘘のようにパァっと嬉しそうな表情に変わった。
「そ、奏者!」
「努力するとは言っても恐らくお前がしたい花見ほどじゃないと思うから余り期待するなよ」
「あぁ!では、行ってくる!」
 あぁあぁ、尻尾まで振って本当に楽しそうにしちゃって。そう言えばいつもの事で気にしてなかったが、それこそ我が家の庭から飛んでいく時なんかこそ噂になってそうなもんだが、そこらへんはアイツも気を付けてるってことか。さて、俺もそろそろ行く準備をしないとな。

「ここに置けば大丈夫か?」
「大丈夫!わざわざすまんな。急に外せない用事が出来て取り行けなくて」
「良いって。それに俺も用あったし」
 よっこいせと口に出しながら白いユリと榊の花が入ったバケツを社務所の脇に置いた。神事に使ったり、最近ではお供え用のなんかもあったりで、この神社以外にも用意している所も多いらしい。
「用?」
「ほんの少しアレ分けて欲しくてさ。落ちてるのだったり折れちゃったりしてるのとかで大丈夫なんだけど」
「あれ?」
 神職の友人にそう言いながら俺は桜の木を指で指す。そう言えばここアイツの神社だから下手したら見られてるのか?実際バレて困ることじゃないし良いか。
「何だ、それくらいなら良いよ。裏に折れたのとか置いてあるしそんな数はないけど好きなだけ手間賃替わりに持ってってくれ。」
「サンキュ」
 持つべきものは神職の友というところだろうか。丁寧にバケツに入れられている桜の枝を何本か貰っていく。うん、花がついたままの奴もあるし十分だろ。
「そんなのわざわざ折れたの選ばなくてもお前の店にありそうなもんだけどな」
「時期的になくなるんだよ」
「なるほどな。あっ、そういえばその内また飲みに行こうぜ。お前の料理でも良いけど」
「そういえば前回は俺が奢ったんだっけ」
「げっ、余計なこと思い出しやがった」
 そんな話をしていると友人は社務所から呼び出しをくらった。最近昇進という言い方が神職にも使えるのか分からんが、昇進したらしく忙しそうにしている。さて、俺もそこまで長い出来る訳じゃないしそろそろ店に戻るか。
「はい。今戻ります!それじゃ、さっきの話はまたいずれ」
「おう」
 社務所に戻った友人を見送り、俺はさっき貰った桜の枝を持ってきたバケツに入れて参道を後にした。

「店長これ売り物にするんですか?」
「ん?いや、ちょっと私用でね。貰って来たんだ」
 閉店間際、帰り支度を始めていたアルバイトの女の子が頭に緑色のポケモンを乗せったまま物珍しそうにバケツに入れられた桜の枝を見ながらそう質問してきた配達途中でもあれたのは本当に幸いだった。もしダメだったら早めに店を切り上げて他の花屋をはしごする羽目になる所だった。
「このお店のはすぐになくなっちゃいましたもんね。もしかして、また奥さんですか?」
「あぁ、うんその通りだよ」
「本当に仲良いよね」
 突然彼女の頭の上に乗っていた緑色のポケモンが喋り始めた。世間は狭いというか何と言うかあいつに次いで二匹目の喋るポケモン。名前はシェイミというらしく、彼女がこんな普通の花屋でアルバイトをするきっかけになったらしい。あいつと違うところはしっかり彼女のもっているモンスターボールに入っているらしく、一度紹介されてからはこうして彼女の頭にのって過ごしている。
「そういえば店長の奥さんって何されてるんですか?専業主婦じゃないんですよね?」
「あぁ……神職?」
 彼女の言う奥さんというのはもちろんアイツの事な訳だが、咄嗟に言ってしまって以来俺に奥さんがいると思っている。いや、関係的には間違いじゃないがそれが正しいのかと言われると首を傾けてしまう。
「巫女さんですか?」
「あ、うん。そんな感じ」
 実際はリアル神様な訳なんだが。僅かに目線を逸らすとシェイミが俺の事をじっと見ていた。恐らく、ファーストコンタクトの時から若干気づかれてるような雰囲気を感じているが、追及はしてこないのでそのままにしているし助かっている。
「さて、そろそろ閉めようか」
「あっ、そういえば!」
 視線に耐えきれなくなり強引にそう言いだすと彼女が店の奥に戻って、紙袋を持って再びこっちに戻ってきた。
「これ大学で作ったんですけど、良ければ奥さんとお二人で食べてください。初めてだったんで少し自信はないですけど」
「あぁ、わざわざありがとうね」
 受け取った紙袋の中を覗くと中には保冷容器に入った桜餅が入っていた。季節感もぴったりだ。料理の大学に通っているらしく時々こうして実習で作ったお菓子なんかを貰う。もちろん腕は文句も出ないほどで最近はアイツも俺も少し楽しみにしている。
「店長の事なんで心配はないと思いますけど、出来るだけ早めに召し上がってくださいね」
「うん。今日の夜にでも二人でいただくよ」
「それじゃ、お先に失礼します」
「うん。お疲れ」
 一足先に店を出た彼女を見送り桜の枝が入ったバケツの中を見つめる。朝にも期待するなとは言っておいたが実際俺に出来ることはこれくらいだ。後凝るとしたら料理くらいか。デザートはさっき貰ったので良いとして、花見っぽい料理……

「帰ったぞ!」
「うわっ!びっくりした!」
 よっぽど楽しみにしてたのか何とも元気な帰宅を知らせる挨拶が飛んできた。いや、本当にそこまで期待されてると不安になるんだが。
「妾はどうすれば良い!?」
「わ、分かった分かった!まずは落ち着け」
 どうどうと両手で落ち着かせながら深呼吸するようにルギアに促す。スーハ―と小さく呼吸音がして幾分か落ち着いた様子になったのを確認する。
「落ち着いたか?」
「す、すまない楽しみ過ぎて急いで戻ってきてしまった」
 本当にこいつ神社の良き帰りで誰かに見られてるんじゃないだろうな?若干心配になるぞ。
「で、妾になにか手伝えることはあるか?」
「うーん。いや、今の所は大丈夫だな。調理もある程度終わってるし。風呂入って汗流してこい。察してはいると思うが今回の花見は家でするから」
「ん。すまないな、何から何まで用意して貰いっぱなしで」
「気にするな」
 そういうとルギアは急ぎ足で風呂場に向かっていった。台所に置いてある作り終わった食材を皿に盛ろうと思って食器棚を見るといつ買ったかも分からないバスケットがおあつらえ向きに置いてあった。
「せっかくだしこれに入れるか」

「待たせたな」
「ん。風呂に入ってもう少し落ち着いたか」
「う、うむ」
 少し恥ずかしそうにしている所を見るにこいつ自身さっきのテンションの自覚はあるらしい。まぁ今日くらいよしとするか。俺も結局テンション上がってこんなに用意しちゃった訳だし。
「ほら。いつまでたってんだよ」
 ポンポンと隣に敷いてある少し大きめの座布団を叩いて、ルギアに隣に来るように促すとすぐに横に座ってきた。
「まぁ、あれだけ楽しみにしてくれていた奴に満足してもらえるか分からないけどな。折れてた奴でも良さそうなの選んできた。許してくれ神様」
 そう言って桜の枝が入った花瓶をベランダに置くと、柔らかな羽毛の感触に包まれた。もちろんルギアが抱きついて来た事によるものだという事は横目で見てすぐに分かった。
「我儘を言ってすまなかった。大満足だ」
「お、おい」
 僅かにルギアが抱きしめてくる力が強くなってからルギアは俺を解放した。
「本当は奏者と一緒に何かして過ごしたかっただけなんだ。今更言っても遅いが」
 少し恥ずかしそうにルギアは翼で頬を掻いてベランダから外を眺めた。
「お前もしかしたら俺が乗り気じゃないって勘違いしてるかもしれないけどな」
 ポカンとしているルギアに軽くデコピンをする。
「俺だって出来ることならお前と花見したいけど、お前を危険にさらしてまでしたくないってことだよ。こういったのでお前が満足してくれるならこれから先、百回でも千回でもいくらでも付き合ってやる」
 言い終わってから少しクサかったかと恥ずかしくなるが実際の所本心なのには変わりないわけで……あぁ、もう。
「俺だって浮かれてたって事だよ。だからあんまり我儘言ったとかそういうの気にするな」
「そ、奏者ぁ」
「あぁ、もう、ほら離れろ。折角飯もそれっぽい感じで作ったんだから」
 後ろからさっきのバスケットを出す。中に入れたのはサンドウィッチや卵焼きみたいなお花見に持っていくお弁当に入っているようなものがほとんどだが、雰囲気味わえるしこれはこれでいいだろ。
「いつもの食事も大変美味で楽しいが、こういった特別な食事はより格別なものだな」
 一つサンドウィッチを頬張りルギアはそう言って来た。楽しんでくれているならここまで準備した甲斐がある。
「それなら良かった。あっ、そうだ一応まだまだ沢山あるから足りなくなったら言えよ」
「その言い方だとまるで妾が花より団子であると言われてるようなのだが」
 実際そうじゃないか?と思ったのは口に出さずに気のせいじゃないかとその言葉には返して、俺もバスケットに入っているタコサンウインナーを口に入れる。
「それは奏者が形を作ったのか?」
「そうだけど?」
「いや、なかなか可愛い形をしていると思ってな」
 隣のルギアは次は何にしようかと品定めしているようでさっきの花より団子が余計に現実味を帯びてきているぞとはやはり口には出せなかった。
「そういえば妾もこのために一つ用意した物があるんだ」
 そういうとルギアの後ろから一升瓶が突然出てきてバスケットの横に置かれた。ラベルを見ると大吟醸の文字が少し控えめに書いてある。いや、待て。
「お前それどっから持ってきた」
「ん?奉納されていた物を一つ持ってきただけだぞ?」
「さ、さいでっか」
 実際こいつがどっかから買ってくるなんてことはありえないだろうとは思ったが、奉納物から持ってくるとは思わなかった。まぁ、コイツに奉納されている物だし良いか。何時の間にか御猪口まで用意されてるし。
「ほら御猪口を持て」
「はいはい」
 ため息交じりにそう言って、出された御猪口を持つと一升瓶がひとりでに浮きとくとくと日本酒が注がれた。俺の御猪口に入ったのを確認してから浮いていた瓶を受け取ると、今度はもう一つの御猪口が宙に浮き、それに俺が日本酒を注いだ。
 正直俺は日本酒の良し悪しなんて専門的に分かるほど詳しくはないが、鼻に入ってくる僅かな芳香だけでこの日本酒が良いものであることが分かる。流石神社に奉納さえている物なんだと実感しながら、適量入ったと瓶の傾きを戻して床に置く。
「乾杯」
「ん」
 故陳と良い音を鳴らしてから、お互いに中に入っている液体を口に含む。飲み込んでから、やっぱりいい物なんだと再実感する。
「そういえばお前酒飲めるんだな」
「こういうときくらいはな」
 僅かにポワポワしているルギアをみて若干心配するが、ここは家だし平気だろともう一度御猪口を傾けて飲み干すと、突然肩に重みが来た。
「どうした?」
「こんな風情があるんだ少しくらい甘えても良いだろう?」
「好きにしろ」
「うん。好きにする」
 若干あの時の感じがするが現状はまだ理性もありそうだけど、今後は酒にも気を付けとくか。
「なぁ奏者?」
「今度は何だ?」
「また来年もこうしてできるか?」
「まぁ、明日の事も分からないからな約束は出来ないけど」
 少し不安そうに肩に乗る力が強くなる。
「今度は大きな桜で花見が出来ると良いな」
「あぁ、そうだな」
 ルギアの頭を撫でながら花瓶を見るとベランダ越しに差し込む月の光が小さな桜の花を優しく照らしていた。



<ここから先は作者がただやりたかっただけのおまけコーナーです>







『教えて!ルギア先生!』 [#4hDZPgi] 


「何だこれ」
「ここは実際の神話や神道に関わる話を妾が分かりやすく教えると言ったコーナーだ!」
 どこから持って来てどうやってかけているのかも分からない眼鏡をかけなおしながら海神は胸を張った。
「それでは初回の議題だ」
 ババンというSEと一緒にどこからともなくホワイトボードが現れた。
「奏者よ」
「はい」
「ツッコんだら負けだぞ」
「あっ。はい」
「それではまずはここを読むのだ!」
 そう言ってルギアはまたどこから取り出したのかも分からない棒でホワイトボードに大きく書いてある文字を指差した。
「なになに。大社と神宮の違いについて?」
「うむ!ありがとう。それでは説明していくぞ!」

※作者はある程度齧ってはいますがド素人なのは否めないのでそこの所は許してください※

「神社とは文字通り神の社形式は色々あるがまぁ単純に神様を祀っている所だと思ってくれればいい。その中でも今回は神宮と大社という二つに絞って説明していこう」
「ウッス」
「まず、神宮についてザックリと説明していこう。先ほども言ったが神社は基本的に髪を祀っている。その中でも皇祖神や天皇を祀る神社の事を神宮という。有名なのは伊勢神宮だな祀られているのも認知度トップクラスの天照大神だから知っている人も多いと思う」
「先生ちょっと待って欲しいです。それリアルの話なんじゃ」
「ツッコミは受け付けないぞ!」
「あっはい」
「次は大社についてだな。実際の所こっちは文字通りと言ったろ頃だな。分かりやすく言うと神社の本家と言った所か」
「本家?」
「あぁ、神社は多くあるが祀っている神が同じ神社も多くある。そう言った各地にある神社の本家のようなものが大社と呼ばれるのだ。代表として出雲大社を出そうかここに祀られているのは大国主大神だ」
「なるほどね。あんまり気にして無かったけどそんな違いがあったんだな」
「うむ!これでまた一つ賢くなったな奏者」
 またクイッとどうかけているのか分からない眼鏡を直しながらルギアはどうだすごいだろうと言わんばかりに胸を張った。
「では今回の『教えて!ルギア先生は』ここまでだ!また次回の開講をお楽しみに!」
「続くのか……」
「多分な……」



後書き 

 おい何か月かかってんだよ。リアルが忙しかったんやッ!(言い訳はいいわけ)冗談はさておき今後一か月に一回くらいのペースでこの一人と一柱の季節の物語をこのくらいの分量でサクッと書いていきたいと考えています(予定は未定で確定じゃないYO)現実世界の巷では色々あってお花見どころではございませんが少しでもお花見の気分を感じていただければ幸いです。



感想等何かございましたら [#227tQMN] 

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Last-modified: 2020-04-04 (土) 23:23:48
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